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GERMANY ドイツの技術開発支援機関
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
GERMANY
ドイツの技術開発支援機関
〈ジェトロ・デュッセルドルフ・センター〉
2004/3, No.456
目次
ドイツの技術開発政策については、これまでいろ
いろな形で報告されてきた。しかし、技術開発を支
援する関連機関とその実態については、機関毎に報
1.欧州レベルの機関.........................1
1.1
技術移転支援機関...................2
告されているものはあるものの、それを総括的にま
1.2
情報提供、情報交換機関.............3
とめたり、その実態についてまとめたものはあまり
1.3
インキュベータ.....................4
作成されていない。
そこで本リポートでは、ドイツの技術開発を支援
2.連邦(国)レベルの機関...................4
2.1
技術開発支援機関...................5
する機関を欧州レベルの機関、連邦政府(国)レベ
2.2
情報提供機関.......................6
ルの機関、州レベルの機関などに分類して整理して
2.3
非営利研究開発機関内の技術開発関
みることにした。欧州レベルの機関を盛り込んだの
連機関.............................7
は、連邦政府(国)レベルや州レベルの技術開発支
その他政府事業の枠内で活動する技
援機関がネットワーク化されていかに横の繋がりを
術関連機関、マネージメント機関.....9
強化しているかを明らかにするためである。
2.4
なお、ここでいう技術開発支援関連機関とは、研
3.州レベルの機関..........................12
3.1
技術開発支援機関、技術移転機関....12
究所などの研究開発機関を除く、技術移転機関や技
3.2
大学..............................13
術情報機関、インキュベータ、技術能力開発機関、
技術開発マネージメント機関などのことをいう。
4.その他の機関............................14
4.1
インキュベータ....................14
4.2
専門能力開発センター..............15
1.欧州レベルの機関
5.まとめ..................................16
欧州では、欧州委員会の主導によって5年間単位
で実施されるフレームワーク事業が展開されている。
事業は大学や研究開発機関、企業が参加する産学共
同技術開発プロジェクトを支援する形で行われ、欧
州圏での技術開発力をネットワーク化して欧州研究
開発圏(ERA)を構築することを目指している。事
業では最先端技術の開発ばかりでなく、中小企業の
技術力アップや中小企業間の提携強化によって中小
企業を支援することも重要な課題となっている。事
業は現在、第6次事業(2002年−2006年)
が進行している。
ここでは特に、ドイツの技術開発支援機関が欧州
の技術開発支援ネットワークに組み込まれて、欧州
域内での横の繋がりが強化されていることが明らか
となる。
1
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
1.1
る。IRC支部は連邦政府の技術支援・移転機関や州
技術移転支援機関
欧州委員会は研究開発や技術移転、技術革新を振
レベルの技術支援・移転機関が請け負い、その下で
興するためのネットワークとして、フレームワーク
州レベルの技術支援・移転機関や自治体レベルの技
事 業 の 枠 内 で 各 加 盟 国 内 の 問 い 合 わ せ 先 NCP
術支援・移転機関、大学などが提携パートナーとな
(National Contact Points)と IRC(Innovation
ってIRCの活動を支援している。なおこれらの機関
Relay Centres)を組織した。NCP は EU 関連プロ
は非営利機関で、機関の選定に際してはこれまでの
ジェクトに関する情報を提供する最初の窓口となり、
技術移転、技術革新振興での経験とノウハウの蓄積、
IRC は技術移転を目指す企業や研究開発機関を仲介
地域振興上の重要性などが重要なポイントとなる。
する組織のネットワークとなっている。
2)IRC の予算
2つのネットワークは、各国にすでにある技術開
発支援関連機関を技術移転や技術革新、中小企業支
現在、IRC ネットワークの運用に必要なコストの
援を目的にネットワーク化したものである。なお、
半分は欧州委員会によって補助されている。残りの
ドイツでは IRC が NCP の役割を兼務している。
半分は IRC 支部が地方政府や国の補助、民間からの
資金援助などで賄っている。しかし、ドイツの場合
は連邦政府からの補助はなく、州政府からの補助だ
1)IRC の組織と機構
IRC(Innovation Relay Centres)ネットワーク
けとなっている。欧州委側は当初、IRC のコスト全
は1995年に欧州委員会によって設立された 1 。現
体を負担していたが、ネットワークの運用が地域振
在、ネットワークはEU加盟国ばかりでなく、バル
興につながり、地元の繁栄に貢献していることから、
ト三国、東欧諸国の準加盟国の他、アイスランド、
欧州委側は補助額を徐々に軽減させていった。なお、
イスラエル、ノルウェー、スイスにまで拡大してお
必要コストをカバーできる、できないにかかわらず、
り、全体で30カ国、200超の機関が参加してい
欧州委は IRC 支部が集めた資金と同額しか補助し
る。
ないことになっている。
IRC 支部への資金援助は第4次フレームワーク事
ネットワークは、各国の地域毎に配置されている
IRC支部 2 と各支部の提携パートナーで構成される。
業以降一層厳しくなっており、各支部の成績に応じ
IRC支部は管轄地域内における調整機関で、欧州委
た成績重視型の資金援助体制が取り入れられるよう
員会への窓口ともなる。管轄地域全体におけるIRC
になってきた。そのため、欧州委は IRC のサービス
の技術支援活動を管理、支援するとともに、地域向
利用者にアンケート調査を行ったりして、各支部の
けのウェブサイトなどを利用して広報活動を行って
業績を評価している。
いる。なお、IRCネットワークには本部はなく、欧
3)IRC の活動内容
州委員会がネットワークの運用を管理するとともに、
ネットワークは IRC 支部と支部下の提携パート
参加機関との契約上の問題を処理している。
ドイツでは現在、IRCネットワークは8つの地域
ナーが縦の構造をなし、管轄地域内の企業を対象に
に分割され 3 、8つのIRC支部と全体で17の提携パ
技術開発のためのパートナー探しなど、技術移転サ
ートナーによって技術開発支援活動が実施されてい
ービスを行う。技術移転に関してニーズやシーズを
管轄地域以外で探さなければならない場合は、IRC
のネットワーク機能を利用して他の IRC 支部に問
1
実際には、VRC(Value Relay Centre)の後継組織
ととして。
2 基本的には、
これがIRCに参加している機関のこと
になる。ただ、ネットワークの機構を理解しやすく
するために支部ということばを付記した。
3 1)北ドイツ(ベルリン、ブランデンブルク、ブ
レーメン、ハンブルク、メクレンブルク・フォアポ
ムメルン、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン)、2)
ザクセン、3)バイエルン、4)南ドイツ(バーデ
ン・ヴュルテンベルク、テューリンゲン)、5)ザー
ルラント/トリーア、6)ヘッセン、ラインラント・
プファルツ、7)ノルトライン・ヴェストファーレ
ン、8)ニーダーザクセン、ザクセン・アンハルト
の8地域。
い合わせることになる。つまり、IRC 支部が欧州全
域でネットワークの横の構造を形成している。
IRC の活動では、ネットワーク内で管理されてい
る企業や研究開発機関に関するデータバンクが重要
なベースとなる。データは照会に訪れた企業や機関
に所定の用紙に技術に関する情報を記入してもらい、
それを IRC データバンクに入力することで蓄積さ
れる。新登録されたデータは他の IRC 支部に自動的
に電子メールされることになっている。なお、IRC
のデータバンクは一般公開されていない。
2
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
IRC ネットワークの本来の目的は、これまでに技
なる 5。支部の提携パートナーは7機関あるが、いず
術移転や技術革新の支援と述べてきたが、中小企業
れも州政府によって設立された技術移転機関である。
が持つ問題を解決するためのサポートを行うことも
IRC 北ドイツ支部のウェブサイトの運用、IRC ニ
重要な課題となっている。IRC ネットワークで仲介
ュースの発行、データベースの管理のほか、パート
されるのは企業と企業が中心で、BtoB の仲介が全
ナー機関と協力して見本市で企業や大学、研究開発
体の60%という。
機関を引き合わせる催し物や EU 事業に参加するた
IRC 支部やその提携パートナーは、地元地域では
めの説明会、ライセンス契約などの締結に向けた契
技術移転機関としてすでに長年定着した地位を確立
約交渉の仕方や契約文書の作成に関するセミナーな
している。そのため、広報活動はウェブサイトの設
ども行う。
置や EU 事業に関するパンフレットの作成などが中
心となる。また、業種毎に技術のニーズとシーズに
関する情報を定期的に電子メールで送信するサービ
1.2
スを展開しているところもある。
1)TII
情報提供、情報交換機関
IRC 支部は技術開発傾向や先端技術に関するワー
ここでは、技術移転や技術革新の分野に従事する
クショップやセミナーを定期的に開催して、技術革
機関、組織、専門家などの欧州団体ネットワークで
新の最新情報を提供している。同時にこれらの催し
あるTII(Technology Innovation Information)を
物は、技術開発に関心のある企業に関する情報収集
挙げておく。TIIは1984年に欧州委員会の支援で
するとともに、職員が新しい技術傾向を把握する研
設置された。事務局はルクセンブルクとブリュッセ
修の機会ともなっている。
ルにある。ただ、TIIとしての情報提供機能はウェブ
サイトが担っている(www.tii.org)。
TII に参加しているのは、技術移転機関、インキ
4)IRC の事例
・VDI/VDE 情報工学テクノロジーセンター
ュベータ、大学、研究所のほか、関連省庁、商工会
1978年にドイツ技術者協会(VDI)によって
議所、投資銀行、個人などで、参加者の構成は民間
設立された。1986年に現在の社名に変更され、
の技術コンサルタント(全体の3分の1)、大学やイ
ドイツ技術者協会(VDI)とドイツ電気技師協会
ンキュベータなどの技術関連機関(全体の3分の1)、
(VDE)の所有となる。ただし、両協会から独立し
公的な技術移転機関(全体の3分の1)となってい
た非営利の民間法人で、現在100人超の職員を抱
る。ネットワークは EU 加盟国ばかりでなく、バル
える。
ト三国や東欧諸国の準加盟国の他、スイス、サウジ
同センターの目的は情報工学の分野における技術
アラビア、米国にまで拡大しており、全体で30カ
開発、技術移転の振興で、連邦教育研究省(BMBF)
国、300超の機関が加盟している。
や連邦経済省、EU、ベルリン市の振興事業の窓口
TII は加盟者間の協力関係や情報交換を促進する
となっている。情報工学以外の分野についても支援
とともに、技術移転問題の解決をサポートするほか、
活動を行っており、その場合は同センターの提携機
技術移転やインキュベーションに関わる人材を育成
関と共同で技術移転が支援される。
するためのセミナーやワークショップを定期的に開
センターの主な業務は、連邦政府の研究開発振興
催している。
プログラムに関する政策と内容上の目標設定、研究
さらに、TII のサイト内に設置された JB-Engine
開発プログラムに関する広報活動、プロジェクト申
は技術移転や関連技術の市場状況に関する情報を提
請書などの作成のサポート、プロジェクト申請者に
供するほか、技術のニーズとシーズを引き合わせる
対する技術コンサルティング、新しい技術を有する
先端技術仲介ネットともなっている。
ベンチャー企業の育成など 4 。これまでに6,000
ドイツでは26の機関、個人がTIIに参加している。
ヘルムホルツ協会に属する大規模研究開発機関 6 の
以上の技術開発プロジェクトを実現させたほか、
500件以上の起業が支援された。
1993年1月から前述したIRC北ドイツ支部と
5
ただし、前述したように当時はVRC。
ユーリヒ研究センター、カールスルーヘ研究セン
ター、GKSSゲースタハト研究センターの3機関。
6
4
2.1項のプロジェクト振興機関でもある。
3
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
ほか、専門単科大学、大学のTLO 7 、特許流通機関
進している。本部はブリュッセル。
(フラウンホーファー協会の特許部 8 )、公的技術移
ドイツからは、インキュベータ団体 13 とBIC、そ
転機関 9 、民間の技術移転機関、インキュベータ団体
の他のテクノロジーセンターが加盟している。加盟
10 など。
者数は8機関、団体である。
2)TII の事例
2.連邦(国)レベルの機関
・ヘルムホルツ協会
全体で15の研究開発機関で構成される。大型研
究開発設備を有し、ドイツ研究界の中心的存在とな
ドイツの研究技術開発政策は大きく分けると、日
っている 11 。TTIでは、特にヘルムホルツ協会に属
本でいう国研など公的研究開発機関を対象とした機
する研究開発機関のデータバンクとしての機能が利
関支援型の施策と、産学による共同技術開発、中小
用される。ドイツでは、企業が研究開発を行なうた
企業支援を目的とする産業支援型の施策に分類する
めの世界の科学、技術に関する最新情報を提供する
ことができる。実用化や産業応用を目的とした技術
ために、ヘルムホルツ協会に属する研究開発機関な
開発政策は産学の共同技術開発が中心となる。ここ
どに専門情報センターが設置されているからである
では、機関支援型施策によって公的に補助されてい
12 。専門情報センターは専門情報に関するデータバ
る大学や公的研究開発機関が産学の共同技術開発に
ンクを確立して、技術情報サービスを展開する。現
参加して技術的にバックアップするというのが基本
在サービスはオンライン・サービスが中心で、有料
的な構図である。
ドイツの実用化や産業応用のための技術開発は、
となっている。
主に公的な資金補助によって支援される。その施策
を大きく分類すると、資金供給型支援策とプロジェ
1.3
クト型支援策に分類される。
インキュベータ
欧州委員会は地域振興政策の目的で、1984年
①
からベンチャー企業を育成する目的でテクノロジー
資金供給型支援策
センターBIC(Business & Innovation Centre)を
起業家や中小企業の自己資本不足や投資資金不
域内に設置した。現在、BIC は約150カ所に設置
足をカバーするため、技術開発用人件費や特許出
されているが、これら BIC と同種のテクノロジーセ
願費に対して公的補助が給付される。また、研究
ンターをネットワーク化する組織として同じく19
開発委託費や技術コンサルティング費などを対象
8 4 年 に EBN ( The European Business &
に有利な条件で融資も行われる。
Innovation Centres Network)が設置された。
②
プロジェクト型支援策
民間企業と研究開発機関で実施される技術開発
プロジェクトに公的補助が給付される。
1)EBN
EBN は欧州を中心としたテクノロジーセンター
③
地域集約型技術開発
技術開発支援事業をコンペの形で地域振興地区
などインキュベータの国際団体で、現在約240の
を選定して地域集約的に公的補助が給付される。
機関が加盟している。加盟者は欧州ばかりでなく、
④
エジプトやモナコ、コロンビア、日本、米国にまで
産業別共同技術開発事業
またがっている。BIC 間および BIC 内に立地する企
中小企業の技術不足を補うために、中小企業が
業間の情報交換と協力関係を強化するとともに、欧
業種単位で共同で実施する技術開発プロジェクト
州内の中小企業支援機関とのネットワーク造りも推
に公的補助が給付される。
7 Technology Licensing Organization。3.2.項
参照。
8 2.3項
2)参照。
9 前述のVDI/VDE情報工学テクノロジーセンターや
州、自治体の技術移転機関。
10 4.1項参照。
11 詳細は2.4項
1)参照。
12 2.2項
1)参照。
ドイツではこれらの施策に応じて、様々な技術開
発に関連する支援機関が設置されている。以下では、
これらの支援事業に関連する機関を支援の種類別に
まとめてみる。
13
4
4.1項参照。
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
2.1
・国際交流の推進、EUフレームワーク事業の問
技術開発支援機関
い合わせ先NCP 17
ドイツでは70年代になって、研究開発予算が増
大するとともに公的補助を給付する技術開発プロジ
技術開発プロジェクト事業の対象となる研究開発
ェクト数が増加してきたので、連邦政府の科学知識、
分野は、情報通信技術、自然・環境・エネルギー、
運用上の負担が大きくなった。同時に、技術開発プ
レーザー技術、ナノテクノロジーなどの新技術、バ
ロジェクトの振興に対する要求が多様化してきたこ
イオテクノロジーなどの生化学、交通・宇宙開発な
とから、これらの変化に対応するため、連邦研究技
どである。技術開発プロジェクトは分野毎に4、5
術省 14 が管轄する技術開発プロジェクト事業を政府
年単位で作成される重点項目プログラムの枠内でプ
外で実施することを決定し、プロジェクト・エージ
ロジェクト振興機関 PT によって公募され、採用さ
ェンシー(プロジェクト振興機関PT)が設置された。
れたプロジェクトには連邦教育研究省(BMBF)か
それによって、技術開発プロジェクトを振興するた
ら公的補助が給付される。プロジェクトでは、企業
めの事務の負担を軽減すると同時に、研究開発推進
側が必要とする予算の最高50%までが補助され、
が政府の官僚機構によって阻害されるのを防止する
非営利研究開発機関や大学の研究機関に対しては必
ほか、プロジェクトの申請者が申請を行うに際して
要となる予算の全額が補助される。
これらの産学共同プロジェクトに参加する主な研
無駄な時間と出費をしないで済むよう配慮した。
技術開発プロジェクトは産学共同プロジェクトと
究開発機関は、大型研究設備を有するヘルムホルツ
して実施されることから、プロジェクト振興機関PT
協会に属する研究開発機関、基礎研究が中心のマッ
は技術開発と産業を結び付ける重要な仲介役として
クス・プランク研究所、応用研究が中心のフラウン
機能している。現在、プロジェクト振興機関PTは1
ホーファー研究所、ライプニッツ協会下で管理され
1カ所に設置され、12機関となっている。設置さ
ているブルーリスト研究機関の公的研究機関で、こ
れているのは、主に前述したヘルムホルツ協会に属
れらの研究開発機関は連邦政府と立地州からの公的
する大規模研究開発機関内で、その他VDI/VDE情報
補助によって運営されている 18 。さらに、州管轄と
工学テクノロジーセンター 15 などの技術移転機関内
なっている大学の研究機関などである 19 。
に設置されているものもある。
プロジェクト振興機関PTは設置されている機関
1)カールスルーヘ研究センター内プロジェクト振
から完全に独立した機関で、管轄省である連邦教育
興機関 PT
研究省(BMBF)との契約をベースに、連邦教育研
カールスルーヘ研究センターはヘルムホルツ協会
究省(BMBF)が規定した一般方針と特別規定に基
20 に属する大規模研究開発機関で、研究開発分野は
づいて作業を行っている 16 。
①原子力を含むエネルギー、②健康、③地球、環境、
プロジェクト振興機関 PT の事務をまとめると、
④材料研究、⑤キーテクノロジーに分類される。同
センター内には、①製造技術に関する技術開発プロ
以下のように分類することができる。
・プロジェクト申請者向けコンサルティング
ジェクトを振興するPT-PFT 21 と②水処理や廃炉に
・プロジェクト申請の受領と審査
関する技術開発プロジェクトを振興するPTWT+E
・連邦教育研究省(BMBF)に対するプロジェク
の2つのプロジェクト振興機関PTが設置されてい
トの推薦
る。
PT-PFT は現在、ドイツの製造技術開発を促進す
・プロジェクト実施期間中の監督
・公的補助の用途の検査、プロジェクトの中間評
るための事業「明日の製造のための研究」の枠内で
価
技術開発プロジェクトを振興している。事業は先行
・プロジェクトの成果の最終評価と開示
・連邦教育研究省(BMBF)に対する技術開発振
17
1.1項参照。
機関助成制度によるもので、各研究開発機関の基
本予算は公的補助される。
19 ドイツの大学は基本的に州立である。
20 2.4項参照。
21 東部ドイツにおける地域振興型ネットワークプ
ロジェクトであるイノレギオ(InnoRegio)も管轄
している。イノレギオ(InnoRegio)については、
2.4項 2)も参照。
18
興プログラムの企画、分析、評価
・専門セミナーやワークショップの開催
14
15
16
当時の名称。現在は連邦教育研究省(BMBF)。
1.1項 4)参照。
2.1項 2)参照。
5
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
事業「製造2000」の枠内で作成されたスタディ
業はその成果から製品やプロセスを開発するために
「製造2000プラス」の内容が反映される形で実
独自に開発しなければならない。
施されている。スタディはドイツの産業界、労働界、
技術開発案は企業がまとめ、加盟する産業別研究
学術界、経済団体からの代表100人超が参加して
連合に提案される。産業別研究連合はその案が業界
作成された。10の専門部会に分かれて、製造技術
全体の利益になるかどうかを判断し、共同技術開発
の最新トレンドから企業の現場における問題などが
プロジェクト案としてまとめる。この段階で産業別
活発に議論され、ドイツの製造業が国際競争力を維
研究連合はプロジェクトを実施する機関を選定し、
持、拡大していくために必要な技術開発戦略がまと
所属の技術開発機関で実施できない場合は、技術開
められた。
発委託先としてフラウンホーファー研究所などの技
PT-PFT はこうして産学共同による技術開発プロ
術開発機関が選定される。さらに産業別研究連合は、
ジェクトの枠内で、トップダウン形式ではなく、産
技術開発プロジェクトを自己資金で実施するか、公
学共同で現状分析と将来の問題点と展望を審議させ
的補助で実施するかを判断し、公的補助で実施する
て、その結果を次ぎの連邦教育研究省(BMBF)技
場合、AiF に公的補助の申請を行う。
AiF は産業別研究連合から申請された技術開発プ
術開発戦略を立案する土台として活用している。
ロジェクト案を産業界や学術界の代表約150人に
よって審査させ、選定されたものを連邦経済労働省
2)産業別研究連合共同体(AiF)
プロジェクト振興機関PTは主に連邦教育研究省
に推薦して、実施許可を得る。技術開発プロジェク
(BMBF)管轄だが、1機関だけ連邦経済労働省 22
トは産業別研究連合の監督の下で実施され、その成
管轄のプロジェクト振興を行っている機関がある。
果は AiF によって開示される。なお公的補助を受け
それは、産業別共同研究開発を振興している産業別
る場合、公的補助によってプロジェクトに必要な資
研究連合共同体(AiF)で、技術開発における中小
金全体がカバーされる。
企業の資金不足と人材不足を補う目的で1954年
さらに、AiF は業界の枠を超えた技術開発を振興
に設立された。ドイツでは、業種団体毎に専属の技
するため、1999年夏から複数の産業別研究連合
術開発団体(産業別研究連合)が設置されているが、
によって企画された技術開発プロジェクトも振興し
AiFはその上部組織である。産業別研究連合は現在
ている(中小企業将来技術振興)。ここでは特に、新
106組織あり、業種毎に組織されて業界団体専属
材料研究、シミュレーション、ソフトウエア開発、
の技術開発団体として機能している。産業別研究連
マイクロシステム技術、半導体電子工学などが技術
合を支えるのは中小企業で、業種に関連した企業が
開発テーマとなっている。
会員として加盟している。産業別研究連合に参加す
なお、AiF は連邦教育研究省(BMBF)のプロジ
る企業数は全体で約5万社に上り、複数の産業別研
ェクト振興機関 PT として専門単科大学における実
究連合に属してもいい。産業別研究連合の中には独
用化研究開発プロジェクトの振興も行っている。
自に技術開発機関を所有するもののあり、その数は
2.2
全体で57に上る。
情報提供機関
この産業別研究連合が実施しているのは、当該業
技術開発には最新の技術革新や特許などに関する
界の中小企業の技術力を底上げしたり、業界の競争
情報が必要不可欠である。特に中小企業には、特許
力を強化するために必要な技術開発プロジェクトで
出願も含めてこれらの情報を収集するノウハウに欠
ある。具体的には直接の製品開発を目的とせずに、
けている場合が多い。そのため、技術開発を促進す
基礎研究と具体的な製品開発の中間に位置する技術
るため、専門情報センターや特許情報センターなど
開発プロジェクトで、特定企業だけに有利となるの
が設置された。
ではなく、業界全体の技術水準や国際競争力を高め
1)専門情報センター
るのに貢献する技術開発である。したがって、技術
専門情報センターは全国レベルの組織として研究
開発の成果は業界全体の財産として利用され、各企
開発や特許に関する専門データバンクの機能を果た
している。主な事務は①専門情報データバンクの確
22
これまでの経済技術省。2002年9月の連邦議
会選挙後の省庁再編で、これまでの経済技術省と労
働省が合併した。
立と管理、②専門情報サービスの提供、③データバ
ンクのオンライン・サービスに分類される。
6
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
専門情報センターは情報を必要とする者に科学技
いる。設置場所は特許庁、大学の図書館、商工会議
術に関する最新情報をできるだけ早く提供すること
所、州の技術移転機関などで、約半分は大学内にあ
を目指しており、連邦政府関連の機関やヘルムホル
る。なお、特許情報センター・ネットワークの本部
ツ協会に属する研究開発機関、ライプニッツ協会下
はハンブルク商工会議所内に設置されている。
で管理されているブルーリスト研究開発機関など公
的機関内に設置されている。技術開発に関連する主
3)INSTI ネットワーク
INSTI は連邦教育研究省(BMBF)からの公的補
な専門情報センターとしては、
・カールスルーヘ研究センター内科学技術情報協
助によって技術革新を刺激するための共同プロジェ
会 23
クトとして誕生した。INSTI に参加する機関は主に、
・ベルリン化学専門情報センター
発明や特許に関する分野で活動する機関で、たとえ
・化学専門情報センター
ば特許情報センターや情報仲介ブローカー、企業コ
・フランクフルト技術専門情報センター
ンサルタント、テクノロジーセンター、大学や研究
・ドイツ工業規格(DIN)内ドイツ技術規則情報
開発機関の技術移転機関(TLO)などである。現在、
34機関が参加している。
センター
INSTI に参加する機関はドイツ全国に散らばっ
・ドイツ医学図書情報研究所
・ハノーヴァー大学技術情報図書館
ているが、これらの機関をネットワーク化させるこ
・ドイツ中央医学図書館
とによって、中小企業などを対象にして INSTI に参
などを挙げることができる。
加するすべての機関の能力をひとつの機関であるか
さらに、情報収集などの経験のない中小企業やオ
のように提供して、技術開発の成果をできるだけ効
ンラインなどで専門的に検索できない中小企業など
率的に実現することを目指している。本部はケルン
を支援するため、情報収集や調査を専門とする情報
にあるドイツ経済研究所(IW)内に設置されている。
INSTI はさらに、中小企業向けに特許出願に関連
ブローカー機関として4機関が設置されている 24 。
する経費の補助や、発明を実用化してくれる提携パ
ートナーを探すための補助、技術移転講座などを開
2)特許情報センター
催するための補助なども提供している。
科学技術に関する特許出願状況を把握することは、
企業が技術開発を推進する上で貴重な情報源となる。
そのため、ドイツでは特許情報センターのネットワ
2.3
ークを確立して、主に中小企業を対象に特許情報へ
非営利研究開発機関内の技術開発関連機関
ここでは、基礎研究を行うマックス・プランク協
のアクセスを容易にしている。
特許情報センターは特許原簿へアクセスできよう
会と応用研究を行うフラウンホーファー協会が独自
にしているほか、企業が独自にリサーチする場合サ
に設立した技術開発関連機関について見ることにす
ポートもしてくれる。また、有料で原簿のコピーや
る。
リサーチを委託することも可能となっている。その
1)マックス・プランク協会
他、特許出願に関するコンサルティングも行ってい
る。特許情報センターによっては、特許法の改正に
マックス・プランク協会は1911年に創立され
よって特許出願を受理できるようになったセンター
たヴィルヘルム皇帝協会の後継機関として1948
もある 25 。
年に設立された。正式名称はマックス・プランク学
術振興協会。協会には現在、基礎研究を行う80の
現在、特許情報センターは28カ所に設置されて
研究所が所属している。マックス・プランク協会は
現在、881件の発明を所有し、15社に資本参加
23
オンライン・サービスとして、最新の科学技術デ
ータバンクSTN Internationalを利用して情報サー
ビスが行われている。
24 ドイツ図書協会、ドイツ情報仲介機関、統合情報
している。
マックス・プランク協会の技術移転機関としてマ
ックス・プランク研究所の研究開発成果を実用化す
公開システム研究所、GMD情報技術研究センター。
るととともに、研究所内からの起業を促進する組織
25
それまでは、特許庁でだけ特許出願が受理されて
いた。
7
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
として、ガルヒング・イノベーション社(GI) 26 が
された。電気通信技術の分野で関連研究所と協力
設置された。設立は1970年で、1993年から
しながら企業と共同ないし企業向けに製品化を実
現在の名称となった。
現する。
GI はマックス・プランク研究所の研究開発成果に
b)応用センター
関して、特許出願すべきかどうかについて研究所を
大学で実用化研究する研究者に対して、産業界
コンサルティングするほか、研究開発成果の情報を
向けの委託研究を共同実施する可能性を提供する
積極的に産業界に流して、特許権を売却したり、ラ
プラットフォームとなる。特に中小企業が中心の
イセンス契約を締結している。さらに、技術移転の
地場産業向けに考えられた組織。応用センターは
ノウハウを利用して、マックス・プランク研究所か
研究所単位で、化学・製薬におけるコンピュータ
らの起業相談や起業を支援するための資本参加など
グラフィック、製造技術における大型構造、物流
も行っている。1990年から2002年の間にマ
システムと情報システム、システム技術、包装技
ックス・プランク研究所から起業した件数は58件
術・包装材加工技術の分野で設置されている。
c)実証センター
に上り、起業件数は年々増加する傾向にある。
実証センターは、中小企業が独自に製品化を行
う場合にそのプロセスを加速さるのを支援するの
2)フラウンホーファー協会
フラウンホーファー協会は1949年に設立され
を目的にしている。そのため、実証センターは、
た技術の実用化を目指した応用研究開発を行う機関
実証器や実証プロセスのプレゼンテーション、企
で、正式名称はフラウンホーファー応用研究振興協
業内研修やトレーニング、技術コンサルティング、
会 27 。現在、全国に57の研究所があり、その他の
新製品やプロセスの応用と試験、セミナーやシン
研究開発施設を含めると約80の技術開発機関を有
ポジウムの開催などを行う。
する。同協会は研究所以外に特許部門やコンサルテ
これまで、電子商取引、合成樹脂加工用型、イ
ィング部門、情報センターなどを有している。これ
ンテリジェントハウス、接着技術、オフィス・イ
らの機関は特に中小企業向けに技術評価や技術の実
ノベーション、製品循環(特に、廃家電を対象と
現性と経済性、特許申請手続きに関してアドバイス
する)、最適化するための数値シミュレーション技
をするほか、技術関連セミナーも開催している。ま
術、プロセス統合型環境技術、成形加工工具と切
た、中小企業との共同研究や中小企業向けの委託研
削加工工具の分野で実証センターが設置されてい
究も行っており、委託研究全体の45%は中小企業
る。
向けとなっている。
最近の傾向としては、研究所を関連技術毎にネッ
さらに、フラウンホーファー協会は1999年に
トワーク化する傾向にある。たとえば、IT 技術、ラ
研究所からの起業を促進するための組織としてベン
イフサイエンス、マイクロエレクトロニクス、表面
チャーグループを設置した。
技術・光技術、材料技術、高性能セラミック、数値
d)ベンチャーグループ
シミュレーション、重合体表面、交通、電子政府、
ベンチャーグループは10人のチームで構成さ
光触媒、プロテインチップなどの分野で技術開発ノ
れ、研究所からの起業を促進するため、起業チャ
ウハウのネットワーク化を図って、産業界向けに技
ンスの分析、ビジネスプランの最適化、融資と融
術移転サービスをより効率的に展開できる構造を確
資に関する分析、資本参加の可能性、法的な問題
立した。
に関するコンサルティングなどを行う。
その他、イノベーションセンター、応用センター、
ベンチャーグループは研究所からの起業をサポ
実証センターを設置することで産業界向けの技術移
ートするため、ビジネスエンジェルや企業コンサ
転サービスをより拡大させている。
ルタント、起業支援機関、ベンチャーキャピタル、
a)イノベーションセンター
産業団体、企業、研究所とのネットワークを確立
しているほか、これらの機関と起業家をマッチン
電気通信技術イノベーションセンター社が設置
グさせるためのインターネット・ポータル
VentureCommunity を設置している。
26
有限会社の形態となっている。
27 公的補助と委託研究で運営されている。全体予算
に占める公的補助の割合は約40%。
e)特許部
さらに、フラウンホーファー協会の特許部は、
8
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
30 。
発明家に対して特許権取得までの手続きに関する
情報を提供したり、特許を出願したいとする発明
ヘルムホルツ協会の定款は研究開発分野として①
技術の評価を行って発明家が特許権を出願するの
エネルギー、②地球と環境、③医療、健康、④キー
を支援するとともに、発明技術の仲介も行ってい
テクノロジー、⑤素材構造)、⑥交通、宇宙の6つを
る。
規定している。協会は研究開発機関間の競争原理を
取り入れるため、これらの分野で毎年対象研究開発
テーマを選定して5年ほどの単位で各研究開発機関
2.4
その他政府事業の枠内で活動する技術関連
の研究開発計画が審査される。協会はその審査結果
機関、マネージメント機関
に基づいて各研究開発機関への予算半分を決定する。
連邦政府は技術開発をより加速させるとともに、
つまり、ヘルムホルツ協会の設置とともに、これま
技術開発の質を引き上げるため、技術開発に競争原
でのような各研究開発機関に対する個別予算割りや
理を取り入れるようになってきている。そのため、
個別管理が廃止され、研究開発機関の評価に応じた
研究開発機関間の競争を刺激するための施策や、コ
予算配分が開始される。なお、各研究開発機関はこ
ンペなどによって技術開発のクラスター化を促進す
れまで通り自主管理による独立行政法人である。
る施策を行ってきた。
2)地域振興型ネットワーク
1)ヘルムホルツ協会
ドイツではここ数年来、技術分野毎に地域集約型
現在、全体で15の研究開発機関で構成される。
で技術開発や人材育成を行うことを目的したネット
大型研究開発設備を有し、ドイツ研究界の中心的存
ワークが確立される傾向が顕著となっている。競争
在となっている。これらの研究開発機関の予算は連
力=提携という理念から、地域の大学、研究開発機
邦(国)と州で負担されるが 28 、国立研究所に相当
関、技術移転機関、大手企業、ベンチャー企業、地
するといっていいと思われる。
方政府、金融機関、経済団体がネットワーク化して、
これらの研究開発機関は50年代末に原子力研究
企業グループとは異なる新しいバーチャル・ネット
を目的に設置されたカールスルーヘ原子力研究セン
ワークやバーチャル企業のようなものが形成されて
ター 29 をはじめとして、70年代から80年代にか
いるというえよう。
これまで、バイオテクノロジーの分野(BioRegio)
けて大規模な研究開発機関が設置された。しかし現
在は、当時のように国家主導型のビッグプロジェク
と東部ドイツの振興(InnoRegio)、大学からの起業
トの時代が去り、研究技術開発は産学官がいかに効
(EXIST)を目的とした地域集約型事業が行われた。
率よく協力していくかが、技術開発を促進する上で
ここでは、特定の技術を有する企業、研究開発機関、
重要なポイントとなっている。これらの巨大組織に
技術移転機関、経済団体などがネットワーク化され、
は官僚的な体制がはびこり、時代の変化に対応でき
技術開発や特許出願、経営マネージメント、マーケ
ない体質が現われていたことから、90年代中頃に
ティング、融資などが共同で行われる。さらに、技
なると産業界などから大規模研究開発機関の構造改
術分野毎に地域の大学や研究開発機関、技術移転機
革を求める声が強くなった。こうした中、連邦(国)
関、大手企業、ベンチャー企業、地方政府、金融機
と州の顧問機関である学術評議会が1999年に大
関、経済団体などを地域単位でネットワーク化して
規模研究開発機関の評価を行うべきだと答申したこ
クラスターを確立する傾向も出てきている。これら
とから、2000年に各大規模研究機関は外部専門
のネットワークでは通常、ネットワーク毎にネット
家による評価を受けることになった。
ワークの管理とプレゼンテーションを行う事務局と
して非営利の登記法人 31が設立されている。
これらの過程において大規模研究開発機関を管理
する目的で2001年9月に設置されたのが、ヘル
ネットワークへの参加は自由意志によるもので、
ムホルツ協会である。正式名称はドイツ研究センタ
共通の法的基盤はネットワークを管理する事務局だ
ー・ヘルムホルツ協会で、非営利の登記法人である
けとなる(非営利登記法人の形態)。複数のネットワ
ークに参加している企業もあり、フレキシブルな提
28
29
30
連邦と州の負担は、全体で9:1の割合となる。
現在のカールスルーヘ研究センター。
31
9
日本の社団法人に相当。
日本の社団法人に相当。
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
携関係を維持しながら相乗効果を最大限に利用しよ
GSF研究センター 35、マックス・プランク研究所、
うという試みである。ネットワーク参加者は共通の
フランウンホーファー研究所など研究開発機関が
信頼関係の下に自らのノウハウと能力を提供して、
集中している。バイエルン州はこれら研究開発環
よりフレキシブルに、より高効率に、より低コスト
境を有効に利用するため、積極的に技術開発を振
に提携することで、それによってより競争力ある企
興してきたが、ミユンヒェンがバイオテクノロジ
業体になることを目指している。これは、IT 技術の
ー地域にまで成長した発端は、1995年にミュ
発展に伴う新しい形態だが、顧客にはひとつの企業
ンヒェン郊外に設置されたバイオテクノロジー技
体のように対応できるという利点がある。競争力=
術革新起業家センターである。センターは、バイ
提携というモットーが最も実現しやすい形態である。
オテクノロジー分野で基礎研究するマックス・プ
この種のネットワークは、コストとリスクの分配、
ランク研究所などのバイオテクノロジー研究開発
新ビジネス形態による新市場の開拓、共同調達、ノ
基盤のある地区に立地した。同センターを中心と
ウハウの交換、相互のベンチマーキングなどの効果
したバイオテクノロジー研究開発圏は急成長して
を生む可能性を持っているものと期待されている。
BioRegioコンペで優秀なバイオ地域のひとつに
この種の組織形態はほとんどの場合、信頼関係だ
選出されることになる。1997年には、バイオ
けを基盤にしており、特別の契約や法的基盤に依拠
テクノロジー分野において産学官の調整機能を果
したものではない。さらに、複数のネットワークに
たすBIO-M社がセンター内に設立された。同社は
参加することによって、提携関係がより複雑なもの
バイオテクノロジー分野の関連機関のネットワー
となって提携関係が悪用される心配もある。ネット
ク化を推進して起業家やベンチャー企業を支援す
ワーク内の参加者間の調整やネットワークとしての
るとともに、セミナーやワークショップを開催す
利益と損失の分配をどうするかなどの問題について
る。国際レベルの提携関係を確立することで、バ
十分対処されていない場合も多い。
イオテクノロジー研究開発のネットワーク造りに
今のところ、この種のネットワークは対顧客向け
努めている。また、同社は国際見本市に参加して
にひとつの企業体としてプレゼンテーション機能を
同地区のベンチャー企業が共同出展できる可能性
果たしている程度にすぎない。しかし、将来この種
を提供している。同社はすでに株式市場に上場し
の組織形態がどう進展しくか、相乗効果を生み出し
36 、株券の発行などで得られた資金を使ってバイ
てバーチャル企業として機能するまで成長するかは、
オテクノロジー分野のベンチャーキャピタルの機
今後の進展具合を観察していくしかないと思われる。
能も果たしている。
a)BioRegio(バイオテクノロジーのモデル地域化)
b)InnoRegio(東部ドイツにおける地域集約型技
バイオテクノロジーに関する知識の製品化、プ
術振興)
ロセス化、サービス産業利用を目指し、バイオ地
東部ドイツでは、東西ドイツ統一後地域産業が
域コンペの形で1996年11月に3地域がモデ
育たないという現象が顕著になったことから、地
ル地区 32 、1地域が特別地域 33 として選出され、
場産業を地域レベルでネットワーク化するととも
公的補助が給付された 34。これらの地区では技術、
に、技術力を養うための振興事業が実施された。
特許出願、融資、マネージメント、マーケティン
事業はコンペの形で1999年に開始された。全
グなどの組織、機関が地域毎にネットワーク化さ
体で444件の応募があり、2次予選までに25
れている。
カ所が選出された。2次予選を通過した地域には
ネットワーク計画をさらに具体化するための補助
選出された3つのバイオ地域のひとつバイエル
が給与され、最終的に23地域が選定された。
ン州の州都ミユンヒェンは、ドイツのバイオテク
たとえば、南部ザクセン州のフライベルクでは
ノロジー研究開発をリードするまでに成長した。
鉱山産業の伝統を生かす形で地域に技術革新力を
ミユンヒェン地区は、総合大学と工科大学のほか、
35
ヘルムホルツ協会に所属の大規模研究開発機関。
持ち株の比率は化学・製薬産業(32.5%)、
銀行(23.34%)、バイエルン州(22.5%)、
ベンチャーキャピタル(6.5%)、一般投資家(6.
37%)、機関投資家(4.97%)。
32
ラインラント、ミュンヒェン、ハイデルベルク。
イエーナ。
34 1次審査で17地域が選出された。この時点で、
ネットワーク化計画をさらに緻密にするための公的
補助が給与された。
36
33
10
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
与えて、産業構造改革を図ることを目的として材
活動できる基幹組織に育て上げるための「技術革
料循環地域技術革新ネットワークRISTが設立さ
新能力センター」事業が開始された。すでに、東
れた。RISTを実施、管理するのは、地元自治体や
部ドイツ地域全体で12の研究開発機関が技術革
地元に立地する工科大学、技術移転機関、経済振
新能力センターとして選出された 38 。12の研究
興機関、企業によって共同設立された登記法人イ
開発機関は外部専門家からのサポートを受けなが
ノレギオ・フライベルクである。ネットワークに
ら技術革新能力センターを確立するためのコンセ
は、約80の地元企業、研究開発機関が参加して
プトを作成し、それぞれ技術革新上の特色を確定
おり、新しい建設材料の開発、電子・半導体材料
させる。次に各センターは、それに基づいて若手
の開発、新材料の応用分野の拡大、材料リサイク
研究者を対象にした実用化技術開発プロジェクト
ル、人材の育成を共同実施し、最終的には「フラ
を国際的に公募して、選定されたプロジェクトを
イベルク・ソーラーハウス」という低エネルギー・
実施することになる予定である。
ハウスを開発して 37、共同販売する計画である。
c)EXIST 大学からの起業
このフライベルクからも推測できるように、地
方にいけばいくほどネットワークをまとめる機関
大学からの起業を支援する地域ネットワークを
(事務局)の役割が重要となり、将来的には地元
構築するために、1997年末に開始された。
産業の技術革新促進を調整、リードする重要な存
200超の大学から109の案が寄せられ、その
在に成長していくものと期待される。
中から5つの地区がモデル地区 39 として選出され
InnoRegio 事業は、自治体と地元経済界、学術
た。さらに、2002年には技術移転や情報交換
界が共同で地場産業の技術革新力を強化するとい
を主体とした10のネットワークが選出された 40 。
う新しい試みである。そのため、各地域ネットワ
また、これまでコンペに応募して最終予選まで
ークの成果を他の地域の参考にしたり、将来の地
残ったネットワークを EXIST パートナーとして、
域技術革新に役立てるために事業の効果を分析し
大学からの起業を促進する過程で蓄積された経験
て、将来の連邦政府の技術振興政策に有効利用す
や意見交換、ワークショップなどに参加できるよ
るため、3つの分析調査が行われている。
うにして、幅広く大学からの起業を促進するため
①
モジュール1:地域社会経済プロセスの一
の環境造りが行われている。
般理論分析(2001年5月まで)
②
ここでも、ネットワーク毎に事務局が設置され
マックス・プランク経済システム研究所(テ
ている。ネットワークによっては大学内に起業・
ューリンゲン州イエーナ)によって行われた。
経済発展講座や起業演習、通信大学事業家教育講
モジュール2:ネットワーク発展段階にお
座を開設しているものがある。さらに、地元企業
けるネットワーク形成動向調査とネットワー
の支援で起業評価や起業ワークショップなどが開
ク内での通信、協力関係調査(2000年1
催されている。また、EXIST ネットワークの形成
0月まで)
にさいして、地元に技術移転機関が設置されてい
経済空間発展研究所(ザクセン州ドレスデ
るケースもある。
ン)によって行われた。
③
モジュール3:社会経済基本条件調査と地
38
ザクセン・アンハルト州(2機関)、ブランデン
ブルク州(3機関)、メクレンブルク・フォアポムメ
ルン州(3機関)、ザクセン州(2機関)、テューリ
ンゲン州(2機関)。
39 1)ヴッパータール、ハーゲン、2)ドレスデン、
3)イルメナウ、イエーナ、シュマルカルデン、ワ
イマール、4)カールスルーヘ、プフォルツハイム、
5)シュツットガルト。
40 1)ポツダム、ブランデンブルク、2)ブレーメ
ン、3)トリーア、4)ドルトムント、5)東バイ
エルン、6)メクレンブルク・フォアポムメルン、
7)リューベック、キール、8)フランクフルト、
ヴィースバーデン、オッフェンバッハ、9)カッセ
ル、フルダ、マールブルク、ゲッティンゲン、10)
南西ザクセン。
域集約型技術革新プロセス振興効果調査
(2004年12月まで)
ベルリン・ドイツ経済研究所(DIW)によ
って主に、公的補助効果の測定、公的補助の
評価、公的補助効果を改善するための提案な
どが行われる。
さらにInnoRegio事業では、2002年に東部
ドイツの研究開発機関を技術革新分野で国際的に
37
この地区には、ドイツ最大の太陽電池用ウエハー
の製造工場が誕生している。
11
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
ただ、これまでの経験から大学からの起業を促
ットフォームとしてネット上でプレゼンテーショ
進する措置の多くは大学自体で講じるべきものが
ンすることによって地域への企業誘致を促進した
多いことのほか、企業の支援を受けてより実務的
り、ネットワークの輪を国際的に拡大して広域な
な措置を講じていかなければならないことが判明
提携関係を確立することを目的としている。
ネットワークには、主として地域の大学、研究
してきている。
EXIST 事業では、フラウンホーファー・システ
開発機関、大手企業、ベンチャー企業、地方政府、
ム技術技術革新研究所(ISI)によって学術的な追
銀行、技術移転機関、企業コンサルタントなどが
跡研究が実施されている。追跡研究は、事業の実
参加している。ネットワークが確立されている分
施に際して各ネットワークと管轄省庁である連邦
野は、教育、バイオ材料、バイオテクノロジー、
教育研究省(BMBF)をサポートするとともに、
エネルギー技術、ヒトゲノム研究、産業生産、情
経験や情報の交換を活発にすることを目的として
報工学、レーザー技術、材料研究、医学、医療技
いる。EXIST 事業のような新しい試みでは、事業
術、計測技術、マイクロシステム工学、ナノテク
関係者の相互学習を刺激することが重要で、その
ノロジー、光技術、通信、輸送・交通、環境技術
ため ISI は事業の観察者、相談する相手、討論す
などである。
ネットワークは通常、非営利の登記法人 42 とし
る相手の役割を果たすことになる。ISI の活動は
次の3つの点にまとめることができる。
①
②
て設立され、ネットワークを管理してプレゼンテ
モニタリング、追跡調査
ーションする事務局が設置されている。事務局は
先に選出された5つのネットワークでは、
関連技術に精通した大学教授や、ネットワーク化
ネットワークの持続性を維持するために重要
に尽力した関係者によって管理されて場合が多い
になるポイントが把握され、評価される。後
が、事務局がどの程度の技術マネージメント機能
で選出された10のネットワークでは、ネッ
を有するかは、事務局管理者次第であったり、ネ
トワーク形成状況が追跡される。
ットワークの成長度に依存している場合が多い。
経験の交換やノウハウ移転のためのサポー
ト
3.州レベルの機関
15のネットワークで得られた経験やノウ
ハウはその他の地域に移転するため、年に数
③
回ワークショップが開催される。ワークショ
ドイツの各州は独自の技術開発振興事業を展開し
ップの企画やテーマの選択は ISI によって行
ている。事業は州の関連管轄省庁 43 によって実施さ
われる。さらに、EXIST 事業に関する情報や
れているが、州からの公的補助は連邦(国)やEU
データバンクの管理が ISI によって行われる。
の事業による公的補助を補う形になっているものが
助言と詳細な分析
多い。企業によっては、EUと連邦(国)、州の3者
次の段階で、大学からの起業をさらに促進
から公的補助を受給しているものが結構多いと見ら
させるために必要な措置や起業家をサポート
れる。
するための措置などが系統的に分析され、蓄
積された経験が一般化される。さらに、将来
のために適切な成功例や教訓が選択される。
3.1
追跡調査の最終報告書は2005年末頃に
技術開発支援機関、技術移転機関
各州は独自の技術開発振興事業を展開するため、
作成される予定。
独自の技術開発支援機関を所有している。州の支援
機関の名称や形態は州によって異なっている。州立
d)専門能力ネットワーク
の公的金融機関(公的なベンチャーキャピタルを含
専門能力ネットワークは連邦教育研究省によっ
む)が公的補助を申請する窓口になっていたり、関
て開始された技術分野毎の地域ネットワーク・プ
連省庁が担当している場合もある。また、ヘルムホ
ロジェクトで 41 、選出されたネットワークをプラ
ルツ協会所属の大規模研究機関やインキュベータ、
41
42
ただし、地域外や国外の機関や企業が参加してい
るネットワークもある。
43
12
日本の社団法人に相当。
州によって異なる。
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
そのほか民間技術移転会社に委託されている場合も
た。IRC 支部であるシュタインバイス欧州センター
ある。
はシュタインバイス経済振興財団内に設置された独
多くの機関は州によって設立された独立行政法人
立機関であるが、財団がこれまでに蓄積した技術移
となっている場合が多いが、地元企業や経済団体と
転ノウハウをベースに独自の活動を実施している。
このように、シュタインバイスは長年蓄積したノ
共同で設立された機関もある。特にこれは、技術移
ウハウを土台にしながら傘下機関を各地域に配置に
転機関に多く見られる。
よって、技術移転を広域に展開している。
州の技術移転機関は、これまで見たようにEUの
IRC 44 や連邦の事業で設置されたネットワークの中
に組み込まれているのが普通で、州の事業ばかりで
3.2
なく提供されているほとんどの支援措置に精通し、
大学
ドイツの大学は州立で、州の管轄となっている。
情報を提供できるようになっている。
州内の技術開発支援機関はネットワーク化されて
ドイツの大学では、大なり小なりすでに特許情報を
おり、情報交換が活発に行われている。さらに、州
提供する機関や技術移転機関を設置しているものが
以外の技術開発支援機関との交流も盛んで、それに
ある。大学の持つ特許権などの知的財産権を企業に
よってノウハウの蓄積や提携・協力関係の拡大を図
移転するための橋渡しをする機関(TLO)を設置す
っている。
ることがはじめて試みられたのは、バーデン・ヴュ
その他、自治体も独自の技術支援機関を設立して
ルテンベルク州のカールスルーヘ大学である。バー
いるが、ここでは地元経済界と共同で技術マネージ
デン・ヴュルテンベルク州では、大学所有の知的財
メント機関や技術移転機関が設置されている場合が
産権を有効利用する重要性を早い段階で認識し、同
多い。
州科学省の指揮で1987年にカールスルーヘ大学
で技術移転を推進するパオロットプロジェクトが開
始された。当時、パイロットプロジェクトは大学所
1)シュタインバイス経済振興財団
有の知的財産権を専門的に管理するのは可能か、意
民法上の財団法人で、1971年に専門的な技術
味あることかを許可することを目的としていた。
移転機関として主にバーデン・ヴュルテンベルク州
が出資して設立された。非営利機関である。財団の
カールスルーヘ大学での試みが順調だったことか
母体は州政府だが、運営は地元の産業団体、経済団
ら、州側は1995年にカールスルーヘ大学のパイ
体、大学、研究機関、州政府、州議会、州銀行によ
ロットプロジェクトを発展させて技術移転機関
って管理、監督されている。財団は国内外に全体で
TLOとしてバーデン・ヴュルテンベルク州にあるす
500の関連組織や提携パートナーを有する。その
べての大学 45 の知的財産権を管理させることを決定。
中心は技術移転企業と技術移転センターで、国内外
さらに、カールスルーヘ大学のTLOは1998年8
の約290カ所に技術移転センターを有する。財団
月に有限会社として法人登録もされ 46 、企業化され
の活動の中心はバーデン・ヴュルテンベルグ州だが、
た。すでに欧州レベルのTII 47やドイツのINSTI 48 な
ドイツ統一後東部ドイツへの進出が顕著となってお
どのネットワークにも参加している。
これを契機として、大学の TLO は他の大学にも
り、地域レベルの技術移転に積極的に取り組んでい
る。
普及していった。たとえば、ケルン大学、ドルトム
技術移転センターは大学内に設置されている場合
ント大学、ビーレフェルト大学など。ただ、カール
が多く、大学の研究開発設備を共同利用している。
スルーヘ大学の TLO のように企業として技術移転
財団の職員の約6分の1は大学教授で、兼業の形で
活動を積極的に転換しているのはまれなケースで、
財団の業務に携わっている。これは、技術に精通し
学内の技術移転組織や知的財産権管理組織に担当者
ていなければ技術移転に関する事務を遂行できない
を配置するだけのケースが多くなっている。そのた
からである。
め、長年技術移転を専門としてきた機関などからは、
傘下のシュタインバイス欧州センターは企業向け
の EU プロジェクトの窓口として1990年に財団
45
総合大学ばかりでなく、専門単科大学も含まれる。
9つの総合大学と2つの専門単科大学が共同出
資した形になっている。
47 1.2項参照。
48 2.2項
3)参照。
46
内に設置され、1993年に IRC のメンバーとなっ
44
1.1項参照。
13
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
大学の TLO は技術開発に関する知識や技術移転ノ
ン・ヴェストファーレン州、ザールラント州、バー
ウハウを持っているわけではないので、大学内に官
デン・ヴュルテンベルク州。シュレスヴィヒ・ホル
僚的組織を拡大させるだけだとの批判も出ている。
シュタイン州では造船業が、ノルトライン・ヴェス
ある技術移転機関の担当者は、大学の研究者に所有
トファーレン州とザールラント州では鉱業と製鉄業
する技術を実用化させたいとの意欲さえあれば、技
が破綻している。これまで産業構造にそれほど変化
術移転パートナーを見つけるのはそれほど難しいこ
のないバイエルン州やヘッセン州ではテクノロジー
とではなく、大学の TLO は不要との見方をしてい
センターはあまり設置されていない。さらにドイツ
た。
統一後、東部ドイツでたくさんのテクノロジーセン
ターが誕生している。40年間の東西分割の間に産
業が破綻した東部ドイツでは、産業構造を再建する
4.その他の機関
ために企業誘致と新しい産業の育成に早急に取り組
まなければならなかった。そのひとつの手段がテク
4.1
ノロジーセンターの設置であった 50 。ハレ経済研究
インキュベータ
ドイツでは1984年に西ベルリンとアーヘンに
所(東部ドイツ、ザクセン・アンハルト州)による
テクノロジーセンターが設立されたのを皮切りに、
と、東部ドイツではテクノロジーセンターが地域経
インキュベータとしてテクノロジーセンターやテク
済振興になくてはならない経済インフラにまで成長
ノロジーパークが設置されてきた。現在、ドイツ全
している、という。
体で200超のテクノロジーセンター、テクノロジ
1)テクノロジーセンターに必要な立地条件
ーパークがあるものと推測される。ドイツのテクノ
地場産業の再建や新しい産業の育成、雇用の拡大、
ロジーセンターの業界団体であるドイツ・テクノロ
ジー起業家センター協会(ADT) 49 によると、現在
地元のイメージ・アップなど、テクノロジーセンタ
これらのインキュベータに入居している企業は約7
ーの効用を期待してテクノロジーセンターを設立し
500社である。傘下のテクノロジーセンターでは
たいとする自治体がたくさんある。しかし、どの地
これまでに約1万6000件の起業が記録されてお
域にでもテクノロジーセンターを設立していいとい
り、そのうちの90%超が企業として生き残ってい
うわけではない。テクノロジーセンターの立地条件
る。
としては、
・近くに大学や研究開発機関がある
テクノロジーセンターは、資本力がなく、経営ノ
ウハウにも疎い起業家や設立したばかりの中小企業
・地元に中小企業がある
に対して安い事務所や最新の技術設備、経営コンサ
・大企業が近くに進出している
・交通の便がいい
ルティングなどのサービスを提供することによって
企業経営、技術開発を支援するインキュベータであ
などが一般的な条件として挙げられる。さらに、テ
る。
クノロジーセンターでヒアリングしたとろころでは、
ドイツにおけるテクノロジーセンターやテクノロ
地元の条件に合ったセンター造りをしなければ失敗
ジーパークの分布を見ると、西部ドイツではノルト
する、という。そのため、テクノロジーセンターは
ライン・ヴェストファーレン州にテクノロジーセン
州政府や自治体政府、地元経済界などによって共同
ターが集中している。次に、バーデン・ヴュルテン
設置され、地元の状況に合わせて共同支援されてい
ベルク州が多くなっている。東部ドイツでは、ベル
る場合が多い。
リンとザクセン州に多いが、西部ドイツに比べると
2)テクノロジーセンターの活動
比較的全体に散らばっている。
テクノロジーセンターの分布状況を分析すると、
テクノロジーセンターは単に安いオフィスと技術
テクノロジーセンターが産業の崩壊した地域にたく
開発インフラを提供する機関ではなく、ドイツでは
さん誕生しているということである。西部ドイツで
起業を支援して企業を育成するサービス産業だと見
はシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、ノルトライ
50
東部ドイツにテクノロジーセンターを普及させ
るに当たっては、西部ドイツのテクノロジーセンタ
ーから人材を派遣するなどしてノウハウの移転が行
われた。
49
191のテクノロジーセンター、テクノロジーパ
ークが加盟している。
14
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
られている。そのためには、最新の技術開発状況に
入居した 51 。総面積は81ヘクタール。パーク内に
関する知識や技術移転に関するノウハウなどをセン
はその他、主として起業家を受け入れるためのテク
ターに蓄積していく必要がある。そのため、各テク
ノロジーセンターが2つ設置されている 52 。
ノロジーセンターは提携関係を密接しているほか、
WISTA の重点技術分野は
地元産業界とセンター内企業を引き合わせるための
・光学、レーザーなどの光技術
催し物や技術関連ワークショップなどを定期的に開
・環境工学
催している。これらの催し物は企業のためばかりで
・情報・通信工学
なく、センター職員にとっても産業界との交流を拡
・マイクロシステム、製造技術
大したり、技術開発に関する見聞を広げるいい機会
の4つに設定されている。
ともなっている。
主な施設として、
・高光沢シンクロトロン放射源 BESSY II(加速
さらに、公的補助に関する情報や技術開発関連す
るネットワークの情報、情報収集方法などに関して
器)
も企業をコンサルティングしているほか、企業の抱
・専門イノベーションセンター(光技術センター、
える問題を解消するためのサポートも行っている。
環境工学イノベーションセンター)
技術分野特有の最新の専門設備を有する。
・ビジネス・センター
3)テクノロジーセンターの事例
銀行、特許事務所、旅行代理店などサービス
・アドラースホーフ科学経済パーク(WISTA)
産業用
旧東ドイツの学術研究の中心、学術アカデミーが
・独仏事務所、独露事務所(国際交流)
1990年に閉鎖されたのに伴い、ベルリン市は連
が設置されている。
邦の学術評議会の勧告に基づき、1991年に東ベ
ルリン・アドラースホーフにある学術アカデミーの
WISTA では、研究開発機関と企業を同じ場所に
土地と建物をテクノロジーパークとして再開発する
集中させることによって生まれる相乗効果を誘発さ
ことを決定した。そのため、当該敷地の土地と建物
せる環境造りを促進することが主体になっており、
の所有者として土地と建物を管理するマネージメン
テクノロジーセンターのように企業をサポートする
ト会社 WISTA マネージメントが設立された。会社
ための特別なコンサルティング・サービスなどはあ
形態は有限会社で、ベルリン市(51%)とベルリ
まり行われていない。
ン市の独立行政法人となっているベルリン経済振興
公社(24.5%)、ベルリン商工業誘致公社(24.
5%)が資本を提供した。
4.2
専門能力開発センター
WISTA の特徴は、他のテクノロジーパークと異
中小企業に新しい技術を普及させて、技術の底上
なって、ベンチャー企業の育成ばかりでなく、研究
げをすることを目的として、中小企業の従業員の研
開発の振興にも重点を置いている点である。情報工
修や技術サポートなどを行う専門能力開発センター
学、マイクロエレクトロニクス、光学、レーザー技
が設置されている。専門能力開発センターは、各地
術、製造加工、環境などの分野で、中小企業の技術
の商工会議所や大学、研究開発機関、技術移転機関、
開発上のデミリットを軽減するため、WISTA は企
テクノロジーセンターなどに設置されている。
業と研究開発機関が密接に提携できる場を提供して、
これまで、電子商取引やレーザー技術、ナノテク
研究者と企業が共同で新しい製品を開発する環境を
ノロジーなどの分野で専門能力開発センターが設置
提供している。
された。
マネージメント会社の事務はインフラの整備、既
たとえばレーザー技術では、1996年からレー
設建物の解体・改造、新しい建物の建設、研究開発
ザー技術に関するノウハウを蓄積している全国の研
設備を備えるイノベーションセンターの建設・管理
究開発機関や技術移転機関、業界団体、経済団体、
など。
企業の約60機関を10の地域連合に分割してネッ
現在、12の大学に属さない研究開発機関と35
3の企業が入居している。さらに、2003年中頃ま
51
数学、情報工学、物理、化学、地理学、心理学。
IGZベルリン・アドラースホーフ技術革新起業家
センターと東西コーポレーション・センター(OWZ)。
でにフンボルト大学の自然科学関係の6つの学部が
52
15
Jetro technology bulletin-2004/3 №456
トワーク化し、それによってレーザー材料加工やレ
独立行政法人化され、スリムで小さな組織として多
ーザー医学、レーザー・バイオテクノロジー、レー
様な機関が設置され、より一層のプロフェッショナ
ザー測定技術、レーザーシステム技術等に関して中
ル化が要求されるようになってきている。と同時に、
小企業や手工業者を対象に技術試験やコンサルティ
活動をより効率的に、広範囲に行うため、各組織は
ングなどのサービスが提供されている。なおレーザ
いろいろな形でネットワーク化されており、いかに
ー技術の場合、この事業はプロジェクト振興機関PT
ネットワーク網を確立するかが、技術開発支援の一
が振興する産学共同プロジェクトとして継続されて
番のポイントになっているといってもいい。
いる 53。
ネットワークは緩いものだが、そのほうが柔軟性
に富み、技術開発の多様化に適応しやすい。ネット
ワークの利点はすべてをひとつの組織で実施するの
5.まとめ
ではなく、相互の長所を利用しながら共同サポート
できるという点である。さらに、ネットワークの交
流によって情報やノウハウの蓄積が促進されるほか、
ドイツの技術開発には、連邦政府(国)が主導す
るのではなく、産学が共同で技術開発戦略の基本立
それぞれの情報やノウハウを共用できるという強み
案を行うとともに、技術開発の評価も政府外で行わ
がある。技術開発支援ではこれらの蓄積が非常に重
れている。これは、技術開発が多様化するとともに
要なだけに、ネットワーク化は今後一層加速し、さ
その速度が加速化してきているため、国家主導型の
らにネットワークの高効率化が追求されていくもの
ビッグプロジェクトの時代が終わり、産学官がいか
と思われる。
に効率よく協力していくかが、技術開発を促進する
【ジェトロデュッセルドルフセンター
川原
上で重要なポイントとなっているからである。その
ため、技術開発支援関連機関も政府外に設置されて
53
2.1項参照。
16
誠】
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