...

非正規雇用 をめぐる動き

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

非正規雇用 をめぐる動き
時 の 話 題 ~平成25年度 第14号(H25.8.30調査情報課)~
非正規雇用
をめぐる動き
厳しい雇用情勢の中、パートや派遣など、非正規で働く人
は2千万人を超え、労働者全体の約4割を占める状態となっ
ている。こうした中、国は、規制改革の中で、正規雇用と非
正規雇用の二極化構造の是正を掲げている。
非正規雇用をめぐる最近の動きをまとめる。
1 現状
(1)非正規雇用とは
厚生労働省では、「正規雇用」を①労働契約の期間の定めがない(無期限雇用)、②フル
タイム労働、③直接雇用、の3つをすべて満たすものとし、それ以外の雇用形態を「非正
規雇用」としている。
就業形態としては、パートタイム、アルバイト、契約社員、嘱託社員、派遣社員などが
ある。
非正規雇用は、正規雇用と違い転勤や時間外労働がなく、自分の都合の良い時間に働け
るなどのメリットがある。しかし、①雇用期間に定めがあり雇用が不安定である、②正規
雇用と勤務内容が同じにもかかわらず正規雇用に比べ賃金が低い、③教育訓練機会が少な
い、④雇用保険など社会保障制度への適用状況が低いなどのデメリットが指摘されている。
図1 雇用者に占める非正規職員等の割合の推移
(2)男女別雇用者に占める非正
規の職員・従業員の割合の推移
(%)
総数
男性
女性
総務省の就業構造基本調査に
70
57.5
55.2
60
52.9
よると、平成 24 年の雇用者(役
44.0
50
39.1
38.2
35.5
員を除く)は 5,353 万8千人で、
31.9
40
24.6
22.1
30
21.7
19.9
正規雇用者が 3,311 万人、非正規
16.3
20
11.1
9.9
雇用者が 2,042 万8千人であっ
10
0
た。
H4
9
14
19
24年
雇用者に占める非正規の職
図2
雇用形態別割合(平成 24 年)
員・従業員の割合は 38.2%で、男
性 22.1%、女性 57.5%であった。
その他
派遣社員
嘱託社員
2.2%
2.2%
2.2%
非正規雇用の割合は上昇傾向が
契約社員
続いている(図1)。
5.4%
平成 24 年の非正規雇用を雇用
アルバイ
ト
形態別にみると、パートタイムが
8.2%
正規雇用
17.9%(956 万1千人)、アルバイ
61.8%
パートタイ
トが 8.2%(439 万2千人)、契約
ム
17.9%
社員が 5.4%(290 万9千人)、嘱
託社員 2.2%(119 万3千人)、派
遣社員 2.2%(118 万7千人)と
図1・図2 出典:総務省 平成 25 年7月 12 日「平成 24 年就業構
造基本調査」より作成
なっている(図2)。
- 1 -
(3)非正規の雇用形態についた
主な理由
総務省の労働力調査による
と、非正規の職員・従業員につ
いた主な理由として、男性は「正
規の職員・従業員の仕事がない
から」とした者が 30.7%で最も
多く、女性では、
「家計の補助・
学費等を得たいから」とした者
が 27.5%で最も多くなっている
(図3)。
図3
非正規雇用についた主な理由
20.3
自分の都合の良い時間に働きたいから
11.9
家計の補助・学費等を得たいから
0.9
家事・育児・介護等と両立しやすいから
25.0
27.5
男
女
15.9
2.7
3.7
通勤時間が短いから
専門的な技能等をいかせるから
12.4
5.3
正規の職員・従業員の仕事がないから
30.7
14.5
その他
21.0
8.2
0
20
(%)
40
出典:総務省 平成 25 年8月 13 日「労働力調査(詳細集計)平成 25
年4~6月期平均(速報)より作成
2 国の取組
(1)労働契約法の改正
国は、パートや派遣労働などの非正規雇用で働く人の多くが、有期労働契約を繰り返し
更新している状態にあることから、有期契約労働者の雇用の安定や公正な処遇を確保する
ため、労働契約法の一部を改正した。
平成 24 年8月 10 日に公布され、一部は平成 25 年4月1日施行された。
労働契約法の3つの改正点
Ⅰ 無期労働契約への転換(平成 25 年4月1日施行)
有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない
労働契約(無期労働契約)に転換させるルールの創設
Ⅱ 「雇止め法理」の法定化(平成 24 年8月 10 日施行)
最高裁が労働者保護の観点から「雇止め無効」とした判例上のルール(雇止め法理)の条文化
※雇止めに合理的な理由、社会通念上の相当性がなければその雇止めは無効となる
Ⅲ 不合理な労働条件の禁止(平成 25 年4月1日施行)
有期契約労働者と無期契約労働者との間で、有期契約であることを理由に賃金や労働条件を不合理
に相違させることを禁止する
図4 Ⅰ
無期労働契約への転換の例
①契約期間の初日から末日までの間に、無期転換の申込みをすることができる
②無期転換の申込みをすると、使用者が申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約がその時点で成
立する。無期に転換されるのは、申込み時の有期労働契約が終了する翌日からとなる
③無期労働契約の労働条件は別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となる
④無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄
させることはできない
出典:厚生労働省
「労働契約法改正のポイント」
- 2 -
(2)非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会
厚生労働省は、非正規雇用者が正規雇用者に比べて職業開発機会が乏しい状況にあるこ
とから、非正規雇用者を「人財」として社会全体で育成し、処遇の改善につなげるため、
平成 24 年9月に「非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会」を設置した。平
成 24 年 12 月にその検討結果をとりまとめた報告書を公表した。
《非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会報告書の概要(抜粋)》
<施策の方向性>
1 フリーター等不本意非正規の増加の防止
2 複線的なキャリアアップの道の確保、労働者の選択に応じた能力開発機会の確保
◆正規雇用への転換 ◆企業内でのキャリアアップ ◆企業の枠を超えたキャリアアップ
3 労働者の能力が労働市場で適切に評価され、相応の処遇が確保されるための環境整備
(3)非正規雇用のキャリアアップ
厚生労働省は、労働契約法の改正や上記検討会の報告等を踏まえ、有期契約労働者等の
正規雇用への転換、人材育成、処遇改善等、企業内でのキャリアアップを促進するため、
包括的な助成制度を平成 25 年度に創設した。
<主な支援策の内容>
施策名
対象
取組内容
支援(助成金)
非正規雇用労働者
(年齢不問)の企業
キャリアアップ助成金 内でのキャリアアッ
プを行う事業主(業
種不問)
人材育成を含むより包括的な企業内での
キャリアアップに向けた取組を実施
①正規雇用・無期雇用転換コース
②人材育成コース
③処遇改善コース など6コース
(コースにより異なる)
①1人当たり15万円~
②訓練1h当たり700円~
③1人当たり7,500円 など
35歳未満の非正規
雇用の若者を雇い
(若者者人材育成・定着
入れる事業主(紹介
支援奨励金)
予定派遣も可)
自社内に正社員として雇用することを前 ◆訓練奨励金:
提に、自社内での実習と座学を組み合わ 1人月額15万円
◆正社員雇用奨励金:
せた訓練を実施
若者チャレンジ奨励金
*有期実習型訓練の拡充版
1人50万円
出典:厚生労働省HPより作成
(4)限定正社員の雇用ルールの整備
内閣府の規制改革会議は、平成 25 年6月5日、「規制改革に関する答申~経済再生への
突破口~」を公表した。この中の雇用分野において、正規・非正規雇用の二極化を是正す
る正社員改革の第一歩として、限定正社員に関する雇用ルールの整備を規制改革項目の1
つに掲げた。限定正社員の労働契約や就業規則における内容の明確化、正規雇用との間の
均衡処遇、人事処遇全般の在り方に関するルールの確認などを行う必要があるとされた。
【限定正社員とは】
限定正社員とは、①職務が限定されている、②勤務地が限定されている、③労働時間が限定されている
(フルタイムであるが時間外労働なし、フルタイムでなく短時間)、のいずれか又は複数の要素を限定した
上で、企業と無期雇用契約を結ぶ働き方のことである。別名「ジョブ型正社員」「多様な正社員」とも呼ばれ
ている。
限定正社員の普及・促進によって、労働市場の流動化が進むほか、非正規社員から正規社員への足
がかりや家庭生活と両立しやすい働き方が増えると期待されている。
6月 14 日には、この答申を踏まえた「規制改革実施計画」が閣議決定され、限定正社員
の雇用ルールの整備が盛り込まれた。
《規制改革実施計画の個別措置事項(抜粋)》
事項名
限定正社員の
雇用ルールの
整備
規制改革の内容
職務等に着目した「多様な正社員」モデルの普及・
促進を図るため、労働条件の明示等、雇用管理上
の留意点について取りまとめ、周知を図る
- 3 -
実施時期
平成 25 年度:検討開始
平成 26 年度:法整備
所管省庁
厚生労働省
限定正社員 本当に労働者に役立つか
仕事の内容や勤務地、労働時間などを限った「限定正社員」制度の普及が安倍晋三政権の成長戦略に盛
り込まれた。2014 年度中に賃金体系や人事評価のあり方など雇用ルールを整備するという。
日本の労働法や判例で企業は、合理的な理由がない限り正社員を解雇できない。企業社会で正社員は、
この雇用保障と引き換えに転勤や残業などに従っている。このため解雇が難しい正社員の採用は絞り込まれ
がちだ。パートや派遣社員など非正規労働者が全就業者の 35%まで増え、待遇格差が広がっている。
限定正社員は、従来の「正社員」か「非正規」かという二者択一の就業コースの、いわば中間的な雇用形態
になる。すでに流通業界などでは、正社員でも転勤の有無などで職務を区分する「コース別人事」を実施して
いる企業が少なくない。転勤や長時間勤務がない代わりに賃金水準は少し低くする運用が多い。限定正社員
は、こうしたコース別や職務限定型の人事制度を政府がルール化するものだ。労働者側にはメリットもあれば
デメリットも考えられる。
利点は、正社員に比べて多様で柔軟な働き方を後押しすることだ。子育てや介護との両立もしやすくなる
可能性がある。非正規労働者が限定正社員に移行すれば、社会保険に加入するなど、より安定した処遇を
得られることにもなる。しかし、短所やリスクも見逃せない。例えば地方の工場や事業所が縮小・閉鎖される
場合だ。正社員に対して企業は、配置転換などで新たな仕事を確保しなければならない。だが、限定正社員
であれば、企業はより簡単に解雇や一時帰休を実施できると想定される。
確かに規制改革会議は、本人の同意がなければ正社員が限定正社員とされないよう提言している。当然の
措置だが、その「同意」が企業による押し付けとならない歯止めが必要だ。
(平成 25 年6月 15 日付 西日本新聞 より抜粋)
3
都の取組
都は、これまでも、非正規労働者の雇用環境の整備を図るため、東京都労働相談情報セ
ンターにおいて、労働相談会やセミナーなどを実施している。このほか、以下の事業を実
施している。
(1)紹介予定派遣制度を活用した若年者向け就業支援プログラム
平成 23 年度から、若年求職者を対象に、「紹介予定派遣制度」を活用し、研修と企業
での就労体験を組み合わせた就業支援プログラムを実施している。
【若年者緊急就職サポート事業】
29 歳以下で既卒の若年求職者を対象に、3ヶ月間で研修と中小企業での就労体験を行
い、正規雇用化に向けた支援を行っている。
【重点産業分野就業支援プログラム】
重点産業分野(*)の企業への就職を希望する 29 歳以下で既卒の若年求職者を対象に、
5ヶ月間で研修と中小企業での就業体験を行い、正規雇用化に向けた支援を行っている。
*重点産業分野:平成 24 年3月に策定した「東京都産業振興基本戦略」において、今後成長が期待され
る産業を重点産業として位置づけている。健康関連、環境・エネルギー、危機管理など。
(2)非正規労働者向け委託訓練
非正規労働者(派遣・パート・アルバイト等)として長期間にわたり働いてきた又は現
在非正規労働者として就業中の人を対象に、短期間に知識や技術を身につけて安定した雇
用を目指すため、座学訓練と民間委託訓練を組み合わせた就職支援を行っている。
4
今後の課題
非正規雇用の増加は、人口減少社会の中では持続的な経済成長や社会保障制度の維持に
深刻な影響を及ぼす。そのため、より安定した雇用を確保することが重要である。
国が打ち出している限定正社員の普及・促進は、非正規雇用から正規雇用への足がかり
となることが期待される。しかし、そのためには、限定正社員という働き方が多くの労働
者にとって望ましい選択肢となるよう、雇用ルールが整備されなければならない。
都は今後も、引き続き非正規雇用で働く者の雇用環境整備に取り組むとともに、様々な
形での正規雇用への移行、能力開発機会の確保等の施策に取り組む必要がある。
- 4 -
Fly UP