...

知っていますか? 子供のお薬の話

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

知っていますか? 子供のお薬の話
千葉科学大学図書館公開講座
知っていますか?
子供のお薬の話
~子供は大人のミニチュアではありません~
平成23年2月26日(土)
千葉科学大学 薬学部
堀本 政夫
1
今日は、病院などの医療機関で
子供に使われている薬の、意外と
知られていない話をしたいと思い
ます。
2
医薬品の種類
医療用医薬品
医師もしくは歯科医師によって使用され、または
これらの者の処方せんもしくは指示によって使用
されることを目的として供給される医薬品のこと
一般用医薬品
医療用医薬品として取扱われる医薬品以外の医
薬品のこと。一般の人が薬局等で購入し、自らの
判断で使用する医薬品で、通常、安全性が確保
できる成分によるものが多い
3
新しい医薬品の研究開発プロセス
医薬品医療機器総合機構
申請
臨床治験届
スクリーニング
化合物
リード化合物
創薬段階
開発候補
化合物
探索段階
細胞・動物を用いて
有効性と安全性を
評価(非臨床試験)
スクリーニング試験
・多数の化学物質を
作り、性状や構造を
調べる
・簡単な動物実験で、
薬になりそうな化学物
質をふるい分ける
前臨床試験
・ヒトに投与する
前に必要な動物
を用いた試験など
臨床開発化合物
(臨床)開発段階
臨床試験(治験)
承認
新医薬品
審
査
市販段階
市販後調査
第Ⅳ相試験
第Ⅰ相
試験
第Ⅱ相
試験
第Ⅲ相
試験
薬効・副作用
情報収集
(第Ⅳ相)
非臨床試験
・薬事法等で規定されてい
る動物実験など
4
非臨床試験の主な種類
単回投与毒性試験
物理化学的試験
一般毒性試験
安定性試験
反復投与毒性試験
遺伝毒性試験
生殖発生毒性試験
薬物動態試験
がん原性試験
非臨床試験
局所刺激性試験
薬理試験
(薬効薬理試験、安全性薬
理試験、一般薬理試験)
特殊毒性試験
依存性試験
抗原性試験
皮膚感作性試験
安全性試験
(毒性試験)
皮膚光感作性試験
その他の毒性試験
5
(ヒト)臨床試験の分類
試験の種類
内 容
第Ⅰ相
(臨床薬理試験)
第Ⅱ相
(探索的試験)
第Ⅲ相
(検証的試験)
同意を得た少数の健常人で、安全性のテ
ストを行う
同意を得た少数の患者で、有効性と安全
性を確認し、用量設定を行う
同意を得た多数の患者で、二重盲検試験
などの対象試験により新薬の有効性と安
全性を確認する
申請 → 審査 → 承認 → 市販
第Ⅳ相
(治療的使用)
臨床試験ではわからなかった効果・副作
用を調べる
実地医療での最適な使い方を調べる
6
新しい医薬品の研究開発プロセス
臨床治験届
スクリーニング
化合物
リード化合物
創薬段階
開発候補
化合物
探索段階
申請
臨床開発化合物
(臨床)開発段階
細胞・動物を用いて
有効性と安全性を
評価(非臨床試験)
臨床試験(治験)
新医薬品
審
査
市販段階
市販後調査
第Ⅳ相試験
スクリーニング試験
・多数の化学物質を作り、
前臨床試験
・ヒトに投与する前に
第Ⅰ相
試験
性状や構造を調べる
・簡単な動物実験で、薬
になりそうな化学物質を
ふるい分ける
必要な動物を用いた
試験など
非臨床試験
2~3年
承認
第Ⅱ相
試験
第Ⅲ相
試験
薬効・副作用情
報収集
(第Ⅳ相)
・薬事法等で規定されている動
物実験など
3~5年
5~10年
12~20年
(50~500億円)
6年
(3~50億円)
7
すなわち、
新しい医薬品は、その薬の有効
性と安全性について、膨大な労
力と時間と莫大なお金をかけて、
慎重の上にも慎重に評価した結
果、生まれてくるものです。
8
では、
子供が病気になった時に使われる
薬の有効性と安全性についてはど
のように評価されているのでしょう
か?
9
小児の成長(発育区分)
「標準小児科学、医学書院」より
胎生期
(0~出生まで)
新生児期
(生後4週間)
乳児期
幼児期
(満1歳まで)
(1~6歳)
学童期
(6~12歳)
思春期
(12歳~16または18歳)
10
これらの小児に対する薬の安全性
はどうなっているのかな?
そこで、
薬に添付されている説明書(添付
文書)で調べてみると・・・・・
11
12
13
14
添付文書での小児の安全性に関する記載(例)
低体重児、新生児、乳児、幼児、小児に対する安
全性は確立されていない(使用経験が少ない)
小児等に対する安全性は確立していないので、投
与しないこと(動物実験(幼若イヌ、幼若ラット)で関
節部の軟骨障害が認められている)
モキシフロキサシン(ニューキノロン系抗菌剤)
低体重児、新生児、乳児及び4歳未満の幼児に対
する安全性は確立されていない(使用経験がない)
プラルモレリン(成長ホルモン分泌不全症診断薬)
15
小児に対する薬物治療上の注意点
小児に対する薬物治療においては、
① 小児における最適薬量に関する情報が少な
い
② 小児に適した剤形(錠剤やカプセルなど薬の形)
が少ない
③ 小児に適した含量の薬剤が少ない
などの状況を把握した上で、
小児における用法・用量の決定、小児の特性に
応じた薬剤選択、小児の特有の生理機能に基
づく薬剤適用上の問題などを考慮しなければ
ならない
薬剤師国家試験対策参考書より引用
16
小児薬用量の決定
小児に対する薬用量の決定にあたっては、
まずは添付文書の記載が重要な根拠になる。
添付文書=薬の説明書のこと
薬剤師国家試験対策参考書より引用
17
小児薬用量の決定
小児に対する薬用量の決定にあたっては、
まずは添付文書の記載が重要な根拠になる。
しかし、添付文書に小児薬用量が記載されて
いる例は極めて限られている。
小児薬用量=子供に対する1回分の薬の量
薬剤師国家試験対策参考書より引用
18
小児薬用量の決定
小児に対する薬用量の決定にあたっては、
まずは添付文書の記載が重要な根拠になる。
しかし、添付文書に小児薬用量が記載されて
いる例は極めて限られている。
そこで、ほとんどの医薬品では成人に対する
常用量から小児薬用量を概算することになる。
薬剤師国家試験対策参考書より引用
19
添付文書に小児用量が書かれていない時は・・・・
成人用量から体重等から換算して、用量を決定
用法(使用方法)は成人と同じ
このように、小児用として開発されていない薬
を小児に使うことを「適応外使用」といいます
わが国で小児に処方される医薬品の半数以
上は、この適応外使用といわれています
但し、これらは違法ではありません
20
では、実際に現場のお医者さん達
(小児科医)は、どのように思ってい
るのでしょうか?
21
小児用医薬品開発の現状および小児治験に
対する医師の認識
-アンケートの結果からー
2008年7月に全国126の大学付属病院、33の小児専門
医療機関で小児医療に従事する医師を対象に行った
アンケート調査(790名から回答)
回答した医師の臨床経験年数の内訳
5年未満
45
5~10年未満
193
10年~15年未満 155
15年~20年未満 130
20年~25年未満
25年~30年未満
30年以上
無回答
114
83
59
3
中川ら、日本小児臨床薬理学会雑誌、Vol .22(1), 2009
22
小児に使用できる医薬品の現状に関する質問
全くそう思
わない
小児用として承認された
薬剤が稀少である
他国で小児用に承認さ
れている薬剤の国内承
認を進める必要がある
適応外使用問題を解決
することが望ましい
未承認でも必要とする患
者がいるため使用せざ
るを得ない
0
0
0
0
そう思わ
ない
4.5%
1.8%
1.7%
2.3%
非常にそう
思う
そう思う
48.2%
47.3%
95.5%
47.6%
50.6%
98.2%
51.0%
47.3%
98.3%
47.3%
50.4%
97.7%
中川ら、日本小児臨床薬理学会雑誌、Vol .22(1), 2009
23
小児治験(小児による臨床試験)の課題は何か?
全くそう思
わない
専門性の高い小児治験
コーディネータを育成す
る必要がある
小児治験に精通した医
師を養成する必要があ
る
行政的な小児治験支援
システムが構築される必
要がある
--%
--%
- -%
そう思わ
ない
--%
--%
--%
非常にそう
思う
そう思う
58.2%
38.6%
96.8%
62.9%
27.8%
90.7%
60.3%
35.7%
96.0%
この他、「治験の必要性の啓発」、「有害事象発生時の支援体制の整備」、
「心理社会的問題解決」、「医師と患者家族との信頼関係の構築」 が必要と
回答
中川ら、日本小児臨床薬理学会雑誌、Vol .22(1), 2009
24
小児医療に従事する医師を対象とした
アンケート結果から
① 「小児に使用できる医薬品が少ない」、「成人
用に開発された薬を小児に使用せざるを得な
い」現実がある
② 小児用医薬品の開発と小児治験の必要性を
認識している
③ 小児治験を推進させるためには、
① 専門家(コーディネータや医師)の養成
② 治験実施のための環境整備
が必要と考えていた
25
小児用として開発されていな
い薬を小児に使うことの何が
問題なの?
26
小児用として開発されていない薬を小児に使う
ことの(適応外使用)の問題点
科学的根拠がない
有効性・安全性を担保した情報がないまま
処方されている
医師の裁量権で処方(処方責任は医師)
副作用救済の対象外
小児用製剤がなく院内調剤で処方され
る(不正確な薬の量になる)
27
小児の薬を取り扱う上で注意すべき
「小児と成人の違い」
体重の変化が大きい(特に乳幼児期の体重増加)
生体機能が成長過程で大きく変化(薬物動態に違
いがある):吸収、分布、代謝、排泄
生活リズム(食事、睡眠)に違いがある(新生児や
乳児は1日3回の食事とは限らない)
薬の使用経験が少ない(初めて使用する薬が多い)
使用できない剤形がある(錠剤やカプセルの服用は学
童期くらいから可能)
28
なぜ、小児に対する適応外使用が
多いのでしょうか?
その解決策は?
29
小児に対して適応外使用が多い理由
製薬業界は小児用医薬品の開発の重要性は
十分理解しているが、小児の治験に積極的に
取り組んでこなかったため
その理由は
小児治験の実施が非常に難しい
小児治験を実施する環境が不十分
小児用医薬品の市場規模が小さい
企業経営に対する大きな負担(開発コスト、製剤
開発など)
残念ながら、この状況は欧米でも同様
30
小児治験の問題点
被験者の確保が困難
 同意取得が困難(親の同意)
 対象患者が少ない
治験実施体制の不備
 第Ⅰ相臨床試験施設・小児治験に精通した施設、医師、
CRC不足
小児治験の方法論に関する問題点
 成人の方法を小児にあてはめることの難しさ
 複数の年齢区分(新生児・低出生体重児、乳幼児期、
学童期、思春期)があって非常に複雑
 小児からの採血(量や採血手法など)の難しさ(倫理面
を含む)
など
31
その解決策として
欧米では、すでに小児医薬品の開発の推進
策が法令化して、開発が進んでいる
日本でも、小児で使用されることが予測され
る医薬品については、成人の臨床試験段階
で小児治験も行うように提唱され、小児治験
が推進されるようになってきた
質の高い小児治験を推進するために、国立
成育医療センターを中核病院として、小児治
験ネットワークの構築が進行中である
32
子供の特長をまとめると
組織・器官が未完成で、発達途上である
脳・神経、生殖器、骨格、呼吸器、免疫
薬物動態が異なる
吸収、分布、代謝、排泄
ステージ特異性がある
早産児、新生児、乳幼児、児童、青少年
33
子供は大人のミニチュアではない
大人(成人)
子供(小児)
体重 15kg
1/4 ?
体重 60kg
34
小児を使った臨床試験(小児治験)
を実施する前に、動物で安全性を
確認しなくていいの?
その場合の動物は、子供の動物を
使う必要があるの?
35
日本における小児適応医薬品の
非臨床試験の実施状況(申請資料調査)
平成11年9月~17年4月に小児適応で承認
取得した医薬品(31品目)を対象として、公表
されている資料に基づいて調査を実施
調査目的
幼若動物を用いた非臨床試験の実施状況
永山ら、医薬品研究 Vol39(3) 127-133, 2008
36
日本における小児適応医薬品の非臨床試験の
実施状況 のまとめ(H11~17)
小児適応の取得に際して、幼若動物試験を実施
している薬剤は58%
実施されていた幼若動物試験の投与開始の時
期や投与期間などは多種多様
幼若動物試験を実施していたすべての薬剤で毒
性試験を実施
動物種は主としてラットが用いられ、イヌも多く使
用されていた
37
日本における小児適応医薬品の非臨床試験の
実施状況のまとめ
幼若動物と成熟動物の毒性発現は一定の傾向はな
く、幼若動物の方が成熟より強いケース、また、その
逆もみられた
幼若と成熟動物での毒性の比較(57試験中)
幼若動物>成熟動物
幼若動物=成熟動物
幼若動物<成熟動物
記載なしまたは成熟動物非実施
9 試験
17 試験
9 試験
22 試験
以上より
成熟動物試験データの外挿のみでは明らかにできな
い面があり、幼若動物毒性試験の意義は大きく、適
切な幼若動物試験の利用が期待される
38
実験用白色ネズミ(ラット)の親子
39
子供の動物(幼若動物)を使った試験
を実施する上での問題点
動物種の選択
ラット、マウス、イヌ、サル
動物とヒトの成長速度の違い
ラットは生まれて3週間で離乳、寿命は2年~2年半
臓器の発達速度がヒトと大きく異なる
動物を取り扱う上での難しさ(手技面)
母親の影響(遺伝的要因、食殺など)
小さいので、薬を飲ませるのが難しい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・など
40
まとめ
小児用に開発された薬は少ない
実際には、小児用として開発されていない多く
の薬が小児に「適応外使用」されている
適応外使用は、有効性・安全性を担保した情
報が乏しい、小児に適した製剤がないなど、多
くの問題点を抱えている
小児への適応外使用時は、成人の使用方法
や薬用量を基に処方されている
小児と成人の間にはいろんな面で大きな違い
がある
41
まとめ(つづき)
小児といっても、発達段階(新生児・乳児期、幼児期、学童期、
思春期など)によって生体機能が大きく変化する
小児に対する有効性・安全性を検証するための
小児治験は、倫理面、試験実施体制の不備、方
法論の難しさなどの問題を抱えている
小児に対する薬の安全性の評価には、幼若動
物を用いた試験の実施の検討も必要である
幼若動物を用いた試験の実施にも、動物種の
選択、動物とヒトの成長速度の違い、動物を取
り扱う上での難しさ(手技面)などの問題がある
42
子供は大人のミニチュアではない
大人(成人)
子供(小児)
43
ご清聴ありがとうございました
44
Fly UP