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救急救命士の薬剤(エピネフリン)投与実施に 係る教育訓練実施体制

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救急救命士の薬剤(エピネフリン)投与実施に 係る教育訓練実施体制
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(8)
2006年(平成18年)1月5日
救急救命士の薬剤(エピネフリン)投与実施に
係る教育訓練実施体制について
病院前救護の質の担保を目的として平成15年に「広島県メディカルコントロール協議会(以下:
広島県MC協議会)が設立され、今年で3年目を迎えました。MC体制の整備に伴い、平成15年4
月1日から包括的指示による除細動の実施が可能となり、心室細動・無脈性心室頻拍例の予後の改
善が認められています。また、平成16年7月1日からは心肺停止例に対して認定を受けた救急救命
士による気管挿管が行われるようになりました。
そして、病院外心肺停止例の更なる救命率の向上を目指して、平成18年4月1日からは、救急救
命士による薬剤(エピネフリン)投与の実施が可能となります。
つきましては、その実施体制整備に向けて、広島県MC協議会では、本県における救急救命士の
静脈路確保および薬剤(エピネフリン)投与実施に係る教育訓練体制の整備に取り組んでいます。
この度、病院実習ガイドライン、認定要領等の策定が広島県MC協議会より示されましたので、
概要についてつぎの通りお知らせいたします。
今後、救急救命士による薬剤投与実施に際しては病院実習が重要な位置づけとなります。“助か
るべく命を救う”ことを目的とするメディカルコントロール体制の推進に向け、会員の皆さま方に
は一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。
担当事務局 広島県医師会 地域医療課
薬剤投与病院実習ガイドライン
実習内容を次のとおりとする。
1 実習は、救急救命士の行う薬剤投与の業務プロトコールに精通している医師が実習指導兼任者
となる。
2 実習派遣職員は、乙所属の実習生を直接指導する医師(以下「実習指導医」という。)の補助
者として、実習指導医の指導・監督下で、実習を行う。
3 実習の対象症例は、「点滴ラインの準備と末梢静脈路の確保」については、心臓機能停止患者
の他に、心臓機能停止患者以外の患者も対象とすることかできる。
「エピネフリンの投与とその後の観察」については、心臓機能停止患者を対象とする。
4 実習指導医は、実習承諾書を診療録とともに保存する。また、診療録に実習へのインフォーム
ドコンセントの取得を行った場合は、経過を記録し、保管する。
5 実習派遣職員は、実習指導医の指導、監督で次の医療行為を行う。
「点滴ラインの準備と末梢静脈路の確保」においては、末梢静脈路確保に必要な器材の準備
から末梢静脈路確保、静脈路確保後の器材の廃棄まで、到達すべき目標及び評価票A(別紙1)
に従い実習指導医の下で実施する。
「エピネフリンの投与とその後の観察」においては、静脈投与するエピネフリン製剤をアン
プルカット後シリンジへの充填も含めた準備から、プロトコールに基づいて三方活栓などを介
してのエピネフリン静脈内ボーラス投与、上肢の拳上(1
0∼20秒間)、静脈投与後の患者観察
(9)2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可
まで、到達すべき目標及び評価票B(別紙2)に従い実習指導医の下で実施する。
実習指導医の特別の指示がない限り、全ての手技はプロトコールに準じて実施する。
静脈路確保に9
0秒以上かかる場合や、3回以上の穿刺を必要とする場合、合併症の発生が予測
される場合においては、実習指導医の判断で静脈路確保の実施を中止する。
の実習が行うことができない場合などは、「病院実習における薬剤(エピネフリン以外)投
与の観察」においては、エピネフリン以外の薬剤が使用された場合に観察票C(別紙3)の各項
目について観察を行う。
6 病院実習修了証の交付基準は、別紙4のとおりとする。
7 薬剤投与実習後、診療録と実習経過を記録し、保管する。
8 実習指導責任者は、実習派遣職員に実習を行わせることが不適切と判断した場合、いつでも実習
を中止させることができる。
(別紙1)
点滴ラインの準備と末梢静脈路確保(評価票A)
配点
評 価
手 技
1
静脈穿刺を行う前に正しい感染予防処置(スタンダートプレコーション)を行えたか。
1
適正な穿刺部位(静脈)を選択できたか。
1
適正な太さの穿刺カテーテルが選択できたか。
1
適正な輸液製剤の準備ができたか。(食用期限、変色などの確認〉
1
静脈路チューブと輸液バックを正しく接合できたか。
1
静脈路チューブとチャンバー内のエア抜きが正しくできたか。
1
駆血帯、固定用テープの準備をしたか。
1
駆血帯の着用は正しくできたか。
1
穿刺部位を正しい方法で消毒できたか。
1
穿刺の最中、終始、無菌操作を心がけたか。
5
穿刺手技
・内外筒の一緒の穿刺を行えたか。
(一点)
・血液のフラッシュバックを確認したか。(一点)
・穿刺部位の未梢を指で閉塞し逆流を止めたか。(一点)
・内筒の適切な除去をしたか。(一点)
・輸液ルートを確実に接合できたか。(一点)
1
穿刺後ただちに駆血帯をゆるめたか。
1
輸液ルートを一時的に全開で滴下しルートの閉塞や輸液もれのないことを確認したか。
1
穿刺針テープ固定は正しくできたか。
1
適宜な速さに滴下速度を調整したか。
1
使用した機材、針を廃棄コンテナーへ捨てたか。
計 20点
点
手技処置の即刻中止(以下のいずれか1つが該当するときはその症例実習を即刻中止とする)
・静脈ルートの確保(穿刺から滴下開始まで)が90秒以内で行えない
・静脈穿刺の手技においてもスタンダードプレコーションなどの感染防止が出来ていない
・穿刺の手技の最中に穿刺部位が汚染された
・空気閉塞などの可能性のある準備や穿刺手技をおこなった
・3回以上穿刺を実施した
・穿刺後のカテーテルを適切に廃棄できなかった
・使用後の血腫、浮腫などの合併症を確認しなかった
・2度目の穿刺で同側の末梢からの静脈を穿刺した
指導者(評価者)最終コメント □合格 □不合格(17点未満不合格)
実習生氏名:
日付: 実習指導医サイン:
コメント欄
2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(10)
(別紙2)
エピネフリンの投与とその後の観察(評価票B)
1. スタンダードプレコーションと適応の確認
配点
1
2
評 価
手 技
薬剤投与を行う前に正しい感染予防処置を行えたか。
患者を観察し心臓機能停止の確認や薬剤投与の適応を再度確認したか。
コメント欄
2. (A又はBを選択)
A.アンプルからの薬剤投与準備
配点
1
評 価
2
1
1
手 技
適切な薬剤(エピネフリン:ボスミンなど)を選択できたか。
アンプルの確認 1)薬剤名、2)濃度、3)透明度、4)溶液の色調、 5)アンプル損傷の有無、6)使用期限をチェックしたか。
アンプルをカットし適切な薬剤量を吸引できたか。
回路側管(三方活栓など)への接合が清潔にできたか。
コメント欄
B.プレフィルドシリンジからの薬剤投与準備
配点
l
評 価
2
1
1
手 技
適切な薬剤(プレフィルドシリンジ)を選択できたか。
シリンジ製剤の確認 1)薬剤名、2)濃度、3)透明度、4)溶液の色調 5)シリンジ損傷の有無、6)使用期限をチェックしたか。
シリンジから保護キャップを取りエアを除去できたか。
回路側管(三方活栓など)への接合が清潔にできたか。
コメント欄
3. 薬剤の投与手技
配点
1
1
1
1
評 価
1
手 技
薬剤注入前に頚動脈の蝕知と心電図上の心臓機能停止の再確認をしたか。
回路側管(三方活栓など)への注入が適切にできたか。
正しい薬剤量と正しい薬剤の注入ができたか。
注入時に皮下への薬剤の漏れや膨張などを確認したか。
輸液回路内の薬剤を正しくフラッシュできたか。
(一時点滴回路を全開滴下またはシリンジ20で後押し、腕を挙上)。
コメント欄
4. 薬剤投与後の観察と処置
配点
1
1
1
1
計
評 価
17点
手 技
薬剤の効果をみるため患者や心電図モニターを観察したか。
薬剤による副作用や合併症の発生を確認したか。
シリンジや針を正しく廃棄できたか。
実習中、無菌操作を心がけたか。
点
手技処置の即刻中止(以下のいずれか1つが該当するときはその症例実習を即刻中止とする)
・薬剤投与の適応を正しく理解していない。
・無菌操作が手技の間、継続して実施されていない。あるいは汚染された使用器材を用いた。
・心臓機能停止の再確認を実施しなかった。
・薬剤注入操作や薬剤量を誤った。
指導者(評価者)最終コメント □合格 □不合格(14点未満不合格)
実習生氏名:
日付: 実習指導医サイン:
コメント欄
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可
(11)2006年(平成18年)1月5日
(別紙3)
病院実習における薬剤(エピネフリン以外)の投与の観察(観察票C)
チェック
手 技
コメント欄
薬剤の選択
アンプルの確認、薬剤名、濃度、透明度、色調、破損の有無、使用期限の確認。
アンプルをカットし、適切な量を吸引。
回路側管(三方活栓など)への清潔な接合。
回路側管(三方活栓など)への注入操作。
投与薬剤量。
注入時に皮下への薬液の漏れや膨張などを確認。
薬液による効果、副作用の発生を観察。
シリンジや針の破棄。
無菌操作。
投与された薬剤名 実習生氏名:
日付: 実習指導医サイン:
(別紙4)
実習病院における修了証交付基準
実習病院における病院実習評価票
○ A評価票「点滴ラインの準備と末梢静脈路確保」(20点満点)
○ B評価票「薬剤(エピネフリン)の投与とその後の観察」(17点満点)
○ C観察票「病院実習における薬剤(エピネフリン以外)投与の観察」
実習指導医からの評価票の必要枚数
評価票
合格基準
合格基準を満たした必要枚数
A
17点以上
3枚以上
B
14点以上
1枚以上
C
全項目のチェック
3枚以上
病院実習修了証を交付するに当たっての交付基準
病院実習における心肺停止症例
病院実習修了証交付基準
Bが14点以上
A(17点以上3枚以上)
+B(14点以上1枚以上)
Bが14点未満
A(17点以上3枚以上)
+C(3枚以上)
エピネフリン投与あり
エピネフリン投与なし
A(17点以上3枚以上)
+C(3枚以上)
チェック
チェック
枚数
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(12)
2006年(平成18年)1月5日
薬剤投与の適応と業務プロトコール
【対象者】
心臓機能停止の患者
【適 応】
8歳以上の心臓機能停止傷病者のうち、以下のいずれかに該当するもの
心電計モニター波形で心室細動/無脈性心室頻拍を呈する例(目撃者の有無は問わない)
心電計モニター波形で無脈性電気活動を呈する例(目撃者の有無は問わない)
心電計モニター波形で心静止を呈し、且つ目撃者のある例
【薬剤投与の業務プロトコール】
1.傷病者を観察し、心臓機能停止及び薬剤投与の適応について確認する。
2.薬剤投与を実施する場合、その都度直接医師の具体的指示を受ける。
【注1】 薬剤を再投与する場合、毎回使用前に直接医師の具体的指示を要請する。
【注2】 薬剤投与を行う場合、指示を出す医師と継続的に会話ができる状態を保持する。
【注3】
薬剤投与を行った事例は地域メディカルコントロール協議会において事後検証を受け
るものとする。
3.感染に対するスタンダードプレコーション及び針刺し事故対策に努める。
4.静脈路の確保方法は、特定行為としての静脈路確保方法に準ずる。
5.静脈路確保に要する時間は、1回90秒以内として、試行は原則1回とし、3回以上を禁ずる。
【注4】 静脈路確保に失敗した場合、それより末梢側での静脈路再確保を禁ずる。
6.薬剤はエピネフリンに限定する。
7.エピネフリンは1/1に調整したプレフィルドシリンジのものとし、エピネフリンの投与
は年齢、体重に関わらず1回1とする。
【注5】 エピネフリンの投与量は、本剤の添付文書で「蘇生などの緊急時には、エピネフリン
として、通常1回0.
25を超えない量」とあるが、最近の医学的知見を踏まえ、現行で
はl回1とする。
8.薬剤投与経路は経静脈とする。
【注6】
エピネフリンの気管投与については、有効性に関するエビデンスが存在しないこと及
びプロトコール化に関する安全性の確保が困難であることにより、投与経路は経静脈に
限る。
9.エピネフリンを投与する直前に、再度頸動脈で拍動が触れないことを確認する。
10.薬剤を静脈注射した際は、その都度乳酸リンゲル液2
0程度を一時全開で滴下もしくは後押し
で投与するなどし、さらに薬剤を投与した肢を10∼20秒挙上する。
11.薬剤を投与した際は、毎回静脈路を確保した血管を入念に観察し、薬液の漏れを意味する腫脹
などがないかどうかを確認する。
【注7】 薬剤を静脈注射した後、薬剤の漏れがあった場合は、静脈路の再確保を禁ずる。
【エピネプリンによる合併症】
1.自己心拍再開後の血圧上昇と心拍数増加が心筋酸素需要量増大を招き、心筋虚血、狭心症、急
性心筋梗塞を引き起こす可能性がある。
2.自己心拍再開後に、陽性変時作用による頻脈性不整脈を引き起こす可能性がある。
3.大量投与は蘇生後神経学的予後を改善せず、蘇生後心筋障害を引き起こす可能性がある。
(13)2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可
静脈路確保が不確実な場合、薬液が血管外に漏れると局所の壊死を引き起こす可能性がある。
【心臓機能停止における業務プロトコール】
本プロトコールは心臓機能停止に対する薬剤投与を含む総合的な処置の流れである。心室細動/
無脈性心室頻拍と心静止/無脈性電気活動に対する処置手順の一例を示す(図)。
1.心臓機能停止を確認した場合、速やかに心肺蘇生法を開始し、自動体外式除細動器の装着準備
を行う。全ての心臓機能停止の傷病者が心室細動/無脈性心室頻拍の可能性があるものとして
初期対応に努める。
2.心室細動/無脈性心室頻拍を確認した場合、包括的指示による除細動プロトコールを実施する。
包括的指示による除細動プロトコールを実施後、頸動脈で拍動が無いことを確認した場合、器
具を用いた気道確保又は薬剤投与について医師の具体的指示を要請する。
3.心静止/無脈性電気活動を確認した場合、器具を用いた気道確保又は薬剤投与について医師の
具体的指示を要請する。
4.器具を用いた気道確保の実施については、医師の具体的指示により気道確保のための器具(ラ
リンゲアルマスク、食道閉鎖式エアウェイ、気管内チューブ)を選択する。
【注1】気管挿管については、必要な講習及び実習を修了した救急救命士が、地域メディカル
コントロール協議会の定める気管挿管プロトコールに従って実施する。
【注2】気道確保のための器具を挿入した後、換気と酸素の投与が確実に実施されていること
を確認する。
【注3】器具を用いた気道確保に時間がかかる場合や効果が不十分な場合はバッグ・バルブ・
マスクによる換気を継続する。
5.薬剤投与の実施については、医師の具体的指示により静脈路確保及び薬剤投与を実施する。
【注4】 薬剤投与する場合、その都度医師の具体的指示を要請する。
【注5】 薬剤投与直前に頸動脈で拍動の有無を確認する。
6.薬対投与前に傷病者が心室細動/無脈性心室頻拍であった場合、薬剤投与30∼60秒後に除紬動
器により自動解析する。
除細動器の自動解析で心室細動/無脈性心室頻拍を確認し、頸動脈で拍動が触れないことを
確認した場合、必要に応じて連続3回まで通電してもよい。除細動後、再度頸動脈で拍動を確
認し速やかに搬送する。
7.薬剤投与前に傷病者が心静止/無脈性電気活動であった場合、薬剤投与後に搬送準備に入る。
8.傷病者家族に急変した時の様子や既往歴など心停止となりうる背景についての情報収集を行う。
また、外見や体表面の迅速全身観察により心停止の原因となりうる身体所見の有無を観察する。
9.救急車内においては数分おきに除細動モニターの波形および頸動脈で拍動を確認する。効果が
ない場合は薬剤投与を前回投与後から5分毎に病院到着まで繰り返してもよい。
心室細動/無脈性心室頻拍では、薬剤投与30∼60秒後に自動解析を行いながら頸動脈で拍
動を確認する。心室細動/無脈性心室頻拍が続く場合には必要に応じて除細動を行う。
心静止/無脈牲電気活動においては薬剤投与1分後に心電図の評価と頸動脈で拍動の確認
を行う。
【注6】 薬剤を再投与する場合はその都度医師の具体的指示を受ける。
【注7】 薬剤投与直前に頸動脈で拍動が触知しないことを確認する。
10.心電図変化が認められた場合には直ちに頸動脈で拍動の確認を行い、心拍再開が確認されたら
バイタルのチェックを行う。心電図が変化しても心拍再開がない場合はそれぞれのプロトコー
ルへ進む。特に心室細動/無脈性心室頻拍の初回出現時は最優先で除細動プロトコールを実施
する。
2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(14)
心臓機能停止
心肺蘇生法開始
除細動器モニター波形確認
心静止/無脈性電気活動
心室細動/無脈性心室頻拍
除細動プロトコール
心室細動/無脈性心室頻拍
医師による具体的指示
CPR + 器具を用いた気道確保プロトコール + 静脈路確保※
※それぞれのプロトコールに従う
除細動器モニター波形確認
医師による具体的指示
頸動脈で拍動なし
1回目エピネフリン投与
除細動
救急用自動車で速やかな搬送
情報収集と迅速全身観察
頸動脈で拍動なし
5分毎にエピネフリン反復投与。毎回医師による具体的指示を受ける
除細動
病 院 到 着
図 心臓機能停止における業務プロトコールの一例
(15)2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可
薬剤投与プロトコールにおける要点
救急救命士が行う特定行為プロトコールは、器具を用いた気道確保、換気の確認と気道確保器具
の固定、薬剤投与プロトコールと除細動、そして原因の検索など一連の観察・処置より構成される。
このように、救急救命士は様々な観察・処置を行わなければならないが、何よりも絶え間なく
CPRを行うことを最優先し、その中で一刻も早く心拍再開を得ることが、特定行為プロトコールの
目的であると考える。
つまり、救急救命士は、観察・処置の中で何が優先されるのかを迅速に判断しなければならない
し、気管挿管や薬剤を投与することのみが、最終目標となってはならない。
例えば、窒息が原因の心停止であれば、窒息の解除による気道確保が優先されるし、電気ショッ
ク抵抗性の心室細動では、薬剤投与後の除細動をターゲットにした、特定行為を実施する。いずれ
の場合も、効果的なCPRを行いながら、エピネフリン投与が速やかに行えるように心がける。
ここで言う効果的なCPRとは、確実な気動確保と中断することのない適切な深さの心臓マッサー
ジを意味する。
心停止状態では、CPRは脳や心臓などの主要臓器への血流の供給を行う唯一の手段である。一旦
心停止となった後には、極めて短時間のCPRの中断も傷病者の予後を悪化させうるということを忘
れてはならない。心臓マッサージは、浅すぎないように4∼5の深さで圧迫し、かつ圧迫解除時
は確実に行うように心がける。
気道確保器具は気道確保の一手段であるということも銘記しておく。
つまり、用手による気道確保と器具を使用した気道確保とのどちらを選択した方が、効果的な
CPRが行いながらも速やかな薬剤投与を実施できるのかという観点に立つことが重要である。
一方、エピネフリンは、強力な心循環系作用を持っており、薬剤投与に伴う合併症の予防に努め
なければならない。
このため、薬剤投与を行う救急救命士は、薬剤投与に関する十分な知識・技能を有しておくこと
は勿論のこと、実際の薬剤投与は、緊密なメディカルコントロールの下に実施されなければならな
い。
Ⅰ 薬剤投与プロトコール
1 適応
病院外心停止に対する救急救命士による薬剤投与の適応は、8歳以上の心臓機能停止(以下、心
停止)傷病者である。心停止とは、頸動脈で拍動が触れない場合を指す。
しかしながら、国際ガイドラインでも指摘されているように、頸動脈の拍動のみで循環停止を判
断することは難しい。
このため、救急救命士は頸動脈の拍動の有無を正確に判断できるように、修練しておくとともに、
他の循環のサイン(呼吸、咳反射、体動)を観察することにより、迅速かつ総合的に循環停止を判
断する必要がある。
心停止状態は初期対応における電気ショックの必要性から、心室細動/心室頻拍(以下、VF/VT)
とそれ以外(以下、Non VF/VT)に分類して対処する。
まず、VF/VT においてエピネフリン投与の適応となるのは、包括的指示下での電気的除細動に
もかかわらず、VF/VT が持続する場合である。
Non VF/VT は、無脈性電気活動(PEA)と心静止に分類される。PEA とは、循環のサインがな
い、つまり、頸動脈で拍動が触れず、かつ呼吸・咳反射・体動のない場合で、何らかの波形を認め
る場合である。PEA において注意すべき点は、モニター上の波形に惑わされるということである。
2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(16)
例えば、自己心拍のある状態から PEA へと悪化したのに気づかずに、CPR の開始が遅れること
がある。
逆に、PEA と判断し、CPR を行っている間に自己心拍が再開していることに気づかず、蘇生処
理を継続するということもあり得る。
従って、PEA においては、循環のサインの有無に特に注意を払う必要がある。
一方、機器の不良(パッドの接触不良やリードの接続不良など)がなく、かつ適切な感度、誘導
にもかかわらず、モニターで平坦波が確認される場合を心静止と呼ぶ。ここで、モニター上の平坦
波と心静止は、同義ではないことに注意する。
特に、モニター心電図を装着している傷病者においては、電極のはずれ、誘導と感度のチェック
を行う(フラットラインプロトコール)。心静止例の予後は不良であり、救急救命士による薬剤投
与では、目撃者のある例のみがその適応となる。
しかしながら、最初のモニター波形にて、心静止と判断された例でも、VF/VT や PEA など、
CPR 中に波形の出現が確認された場合は、救命の可能性があると期待されるため、エピネフリン投
与の適応となる。
2 スタンダードプレコーション
器具を用いた気道確保や薬剤投与プロトコールを実施する際に、傷病者の血液や分泌物による感
染に暴露される危険性が高い。
また、使用済みの静脈留置カニューラの金属製内筒針は、針刺し事故の最大の原因である。
従って、隊員全員に対して、感染に対するスタンダードプリコーションと針刺し事故予防を徹底
する。
しかしながら、一刻を争う緊迫した救急現場では、注意を払っていても針刺し事故が発生すること
がある。最近では、自動で金属製内筒針の先端が安全キャップされる静脈留置針が市販されている。
二重の安全を確保するためには、針刺し事故防止機能を持った静脈留置針を使用するべきである。
なお、地域MC協議会においては、感染予防における救急業務基準などのプロトコールを作成し
ておく。
3 メディカルコントロール
薬剤投与を含む業務では、これまで以上に、想定外の事象などプロトコールでは対応できない事
例が発生しうる。
従って、特に、エピネフリンを投与する前と、その薬剤の投与効果が期待される時間帯は、指導
医師とオンラインによりリアルタイムで緊密な連携をとる必要がある。
オンラインとは、電話、無線通信、または、現場において医師からの直接的な指示を受けること
ができる状態を意味し、双方向の会話が可能であることを条件とする。
オンライン指示医師との通信は、薬剤投与を実施する救急救命士が行い、薬剤投与実施中は、指
示医師と会話ができる状態を維持する。薬剤投与直前では、CPR を中断して頸動脈で拍動を確認す
るが、これは自己心拍のある状態でのエピネフリンの誤投与を予防するためである。
特に、PEA の時は注意が必要である。
ただし、頸動脈での拍動の確認時の CPR 中断は、必要最小限とし、行う場合も極力短時間に止
める。
指示要請では、傷病者の年齢、性別、心停止の状況(目撃者の有無を含む)
、包括的指示下によ
る除細動が功を奏さなかったことなどを簡潔に伝え、具体的指示を得る。
オンライン MC 医師は、傷病者の状態と救急救命士の技量および地域 MC 協議会プロトコールに
従って、器具を用いた気道確保および薬剤投与の適応について判断する。
(17)2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可
4 静脈路確保と薬剤投与
薬剤投与プロトコールにおいては、確実かつ迅速に静脈路を確保することが大前提である。マネ
キンを使用した実習や病院研修において、しっかりとした静脈路確保技能を身につけておくことが
肝要である。
上肢の静脈で最も太く、ルート確保が行いやすいのは、肘正中皮静脈である。
ただし、肘正中皮部は、その末梢側に比べて皮膚が若干厚くなっており、静脈を直接に視認でき
ないことがある。この場合は、触診にて、静脈の位置を確認する必要がある。
静脈を穿刺し、静脈留置針のチャンバー内に血液の逆流を確認したにもかかわらず、留置針の外筒
の留置に失敗することがある。その理由は、留置針の進め方が足りず、留置針外筒が静脈内に達して
いないか、逆に、留置針を進めすぎて、外筒が静脈を貫通してしまっているかのどちらかである。1
回の試みとしては、穿刺を開始してから静脈留置針の留置が成功するまで、90秒以内を目安とする。
初回穿刺で静脈を損傷した場合は、穿刺部より末梢側に再度穿刺を拭みることが禁じられている。肘
正中皮静脈を初回穿刺部として選び、失敗した場合は、他側の上肢を選択することになる。
静脈路が確保された時刻を記録しておく。静脈留置針の留置が成功したら、乳酸リンゲル液を一
時全開投与とし.輸液剤の滴下が良好であること、静脈ルート確保部位より中枢側に腫脹による漏
れのないことを確認する。
使用する薬剤は、プレフィルド式のエピネフリンに限られる。エピネフリンは、その強力な血管
収縮作用により心停止状態での脳・冠血流量を増加させる作用があり、すべての心停止状態に対し
て、使用される薬剤である。
薬剤投与を行う直前には、再度頸動脈で拍動が触れないことを確認する。エピネフリンは、非常
に強力な血管収縮作用、心収縮力増強作用そして心拍数増加作用を持っており、拍動が触れる状態
でエピネフリンが投与された場合には、重篤な不整脈や心筋虚血を起こすことがあるためである。
エピネフリンを投与する際は、薬剤シリンジ内のエアを除去し、三方活栓よりルート内へ投与す
る。薬剤投与時効について具体的に規定されていないが、ルート内へのエピネフリン投与を終了し
た時点が、記録としては最も客観的であろう。
薬剤静注後は、乳酸リンゲル液約20で後押しし、上肢を20秒挙上する。これは薬剤を中心循環
へ移動させるためである。乳酸リンゲル液約20を後押しするかわりに、輸液ルートのローラーク
ランプを開き、輸液全開としてもよい。
しかしながら、通常のドリップチャンバーでは、15滴で1程度であり、乳酸リンゲル液20に
よる後押しの方が、より急速に中心循環へ薬剤を移動させることができる。後押しする乳酸リンゲ
ル液は、三方活栓を介してシリンジで吸引してもよいが、吸引圧が低すぎるとドリップチャンバー
の液面が下がり、ルート内に空気が混入する危険性がある。
従って、20シリンジに18G針をつけ、直接に乳酸リンゲル液のボトルより輸液剤を吸引した方
が安全であり、かつスピーディーである。薬剤投与の前後で、静脈穿刺部位の中枢側に薬剤の漏れ
などによる腫脹のないことを確認しておく。
VF/VT の場合には、薬剤投与後に再度電気ショックを行わなければならない。薬剤投与プロトコールで
は、国際ガイドラインに従って薬剤投与後から次の除細勤までの時間として30∼60秒を目安としている。
Ⅱ 薬剤投与を含む心臓機能停止に対する業務プロトコール
本プロトコールは、心臓機能停止に対する薬剤投与を含む、総合的な処置の流れである。共通部
分は、心臓機能停止例に対する包括的除細動プロトコールであり、その後の対応において、電気
ショックが必要となるか否か、つまり、VF/VT かそれ以外(Non VF/VT)の2つのプロトコール
に分かれる。
2006年(平成18年)1月5日
広島県医師会速報(第1926号)昭和26年8月27日 第3種郵便物認可(18)
いずれのプロトコールにせよ、傷病者の心拍再開を得るために、気道確保を先に実施するべきな
のか、薬剤投与を優先すべきなのかを判断しなければならない。
まず、用手気道確保により換気が行えるかどうかを判断する。用手にて気道確保が容易に行え、
バッグ・バルブ・マスクによる換気が良好であり、また、隊員間の良好なチームワークや
連携などにより、効果的な CPR を継続できる場合は、薬剤投与が優先されるべきと考える。
一方、窒息例や用手による気道確保の維持が困難な場合は、異物除去や器具を用いた気道確保が
健先される。
また、用手気道確保のみでは、CPR がおろそかになるようであれば、素早く器具を用いた気道確
保を行った後に、薬剤投与プロトコールを実施すべきである。
1 VF/VTに対するプロトコールの要点
VF/VT に対するプロトコールの基本は、効果的かつ絶え間のない CPR、エピネフリン投与、そ
して電気的除細動である。何よりもVF/VT に対する唯一の治療法は、迅速な除細勤であるという
ことを忘れてはならない。
用手にて気道確保が行える場合は、特定行為としては薬剤投与を優先すべきと考える。PA 連携
などによりマンパワーがある場合は、薬剤投与が行える救急救命士が薬剤投与プロトコールに専念
することにより、薬剤投与とその後の除細動までの時間を短縮することができる。マンパワーに制
限がある場合も、例えば救急隊員1名が一人法にて CPR を実施しながら、救急救命士ともう一名
の隊員で薬剤投与プロトコールを実施する方法もある。
ただし、救急隊員は用手気道確保の手技を含めて、高いレベルの CPR 技能を修得しておく必要
があり、また、普段からチームとしての修練を行っておくことが求められる。
2 PEA/ 心静止に対するプロトコールの要点
病院外心停止における救命可能なPEA/ 心静止の中で、救急救命士が対応可能なものは低酸素症
である。この病態では、喉頭鏡を使用した異物除去や器具を用いた確実な気道確保が優先される。
低酸素症以外の原因に対して、現場で対応できるものは少ないが、気道が確保されている状況では、
エピネフリン投与により一時的にせよ心拍再開が期待できる場合がある。
ただし、その原因は除去されていないため、再び心停止へと進展する可能性が高い。
従って、特定行為実施後は速やかに医療機関への搬送準備に入る。その間に医療機関において迅
速な対応が出来るように全身観察と簡単な情報収集を行っておく。
3 その他
薬剤投与により心拍再開が得られた直後には、血圧や心拍数の急激な上昇や低下を認めたり、再
び心停止となるなど循環動態が極めて不安定であることが予想される。
また、薬剤に反応が認められなかった場合においても、移動中や搬送中に心拍が再開する場合も
ある。
従って、心電図変化や循環のサインには細心の注意を払っておく必要がある。
特に、自動心マッサージ器を使用していたり、無脈性電気活動例の経過中では、心拍再開を見過
ごすことがあるので注意する。
特定行為を実施するにあたり、傷病者の家族や関係者に説明し、理解を得ることが重要である。器
具を用いた気道確保や薬剤プロトコールを実施する場合には、現場滞在時間の延長は避けられない。
従って、家族に対しては、それらの行為の内容と期待される効果について、分かり易く、簡潔に
説明する必要がある。業務の高度化に伴って、家族への接遇の重要性は増しており、地域MC協議
会において接遇プロトコールを検討しておく。
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