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住宅地における健常高齢者の歩行環境評価 山岸真央 1. 研究の背景
住宅地における健常高齢者の歩行環境評価 山岸真央 1. 研究の背景・目的 近年,日本は出生率の減少,医療技術の発達に伴う平均寿命の上昇により, 少子高齢化が進行している.今後,高齢化社会における都市空間においては歩 行環境の重要性が増すと考えられる.そのため,高齢者の視点から歩行環境を 評価する必要がある.日常生活の移動手段として最も基本となる歩行をサポー トすることは,高齢者の社会的な孤立を防ぎ,地域社会の維持に繋がる.今後 の道路整備における高齢者の快適な歩行環境形成への示唆を図るものとして, 本研究では,健常高齢者を対象に日常の経路における歩行環境への意識及び評 価の視点について考察することを目的とする. 2. 研究方法 今後高齢者の人口増加が予測される横浜市内において,住宅地の街路状況の 異なり面積・人口がほぼ同一である計画的住宅地.泉区緑園地区・金沢区能見 台地区・都筑区牛久保地区の 3 地区の住宅地を対象とした.研究は主に3段階 に分け,最初に対象地区の住宅地設計の背景・人口・面積・高齢化の進行状況 図1 研究概要 等の基礎調査を行った.次に周辺住民の健常高齢者を対象とした,住宅地の歩 行環境に関するアンケート調査を実施した.最後にアンケート結果を基盤に高齢者が注目する歩行環境の評価 要因について現地調査により周辺環境状況を確認し,評価・考察を行った(図1) . アンケート調査は,地図 付の選択・記入式により対象地区の歩行環境に対する意識や評価を捉えるものとし,その地区で活動している 高齢者を対象とした交流センターや地区センターで活動する団体に協力を依頼した.アンケート調査の概要を 表1にまとめた.回収数は,緑園地区 16 票,能見 表1 アンケート調査概要 台地区 14 票,牛久保地区 66 票の計 96 票である. 3. 結果と考察 アンケート調査および,アンケート集計結果を 基にした選択経路周辺環境の現状確認より以下の ような考察を行った. ① 健常歩行者が注視する歩行環境 健常高齢者の歩行環境に対する意識調査では, 健常高齢者は経路選択の理由として『歩き易い』 51%, 『景色』24%, 『最短経路』16%, 『歩道の幅 員』14%という要因が多く挙げた(表2) .しかし, 『歩き易い』や『景色』は様々な内容を含み『歩 道の幅員』 , 『交通量』 , 『道路舗装』等の様々な要 因が考えられる.そこでこれらを現地調査によっ て確認した.現地調査では緑道にはイチョウなど の季節の樹木が植えられ,また野鳥なども観察で アンケート調査の調査内容 調査地区 調査期間 調査方法 調査内容 調査対象 配布 回収 男性 女性 60代 内訳 70代 80代 泉区 緑園地区 金沢区 能見台地区 都筑区 牛久保地区 2013年12月20日~2014年1月16日 手渡し・郵便回収 個人属性,外出状況,経路,歩行環境に対する意識,住宅地 に対する満足度 地区に住む高齢者60歳以上(健常者) 20 票 20 票 90 票 16 票(回収率80%) 14 票(回収率70%) 66 票(回収率73%) 4人 3人 6人 12人 11人 60人 5人 1人 14人 10人 8人 47人 1人 2人 5人 表2 歩行環境に対する注視項目 緑園地区 n=16 能見台地区 n=14 牛久保地区 n=66 3地区総合 n=96 歩き易い 景色 7 44% 6 43% 36 55% 49 51% 3 19% 3 21% 17 26% 23 24% 最短経路 歩道の幅員 6 38% 4 29% 5 8% 15 16% 5 31% 1 7% 7 11% 13 14% 交通量 街灯 歩行者専用道路 その他 2 13% 3 21% 6 9% 11 11% 2 13% 2 14% 6 9% 10 10% 1 6% 1 7% 6 9% 8 8% 1 6% 0 0% 1 2% 2 2% 全体に対する注目者数(人)及び割合(%) き, 豊かな歩行体験が得られる環境が充実していることを確認できた (写 真1) .アンケートでも四季折々の景色を楽しみに歩いているとの感想が 多くあった. ② 健常高齢者が感じる危険 日常の経路において歩行環境に対する評価・意見を集約し,牛久保地 区の対象範囲において評価意見が多かった経路 A~H に注目した(図2) . 経路 A~E が自転車及び歩行者専用道路(緑道・ペデストリアンデッキ) であるのに対し,経路 F~H は,歩行者と自転車の分離の無い一般道路 の歩道である.ここには,歩き易さや他の歩道利用 者に対し否定的評価・意見が集中した(表3) .特に 経路 F では, 『自転車の速度が怖い』 , 『自転車との 図2 牛久保地区対象範囲 表3 牛久保地区歩行環境評価 評価 街路 交通量 街灯 歩行者専用道路 ○ ○ ○ ― ○ ○ ○ ― ○ ○ ― ― E ○ ○ 現地調査では歩道の幅員が 90 ㎝で自転車と歩行 F ✕ G 者がすれ違う際に接触の危険性が有ることを確認し H 接触が怖い』 , 『自転車専用道路を設けてほしい』等 の意見が多かった. 場所 歩き易い 景色 最短距離 歩道の幅員 A ○ ○ ― B ○ ○ C ○ D その他 他の利用者 勾配 舗装 段差 ○ ○✕ ― ― ― ○ ○ ○✕ ― ― ― ○ ○ ○ ― ― ― ― ○ ○ ― ― ― ― ― ― ― ― ― ○ ○ ― ― ― ― ○ ○ ✕ ― ○ ― ✕ ― ― ― ― ― ― ✕ ○ ○ ― ✕ ― ― ― ✕ ― ― ― ✕ ✕ ○ ✕ ― ― ✕ ○:肯定的評価 ✕:否定的評価 -:該当なし た(写真2).牛久保地区では自転車に対する意見が 多く,子供の自転車の速度に対しての注意が見られ た.これは牛久保地区の年少人口の割合が高く,付 近に小中学校が多く点在していることに起因してい ると考えられる.また,3地区に共通して,坂や傾 斜,階段に対するもので,ベンチ等の休憩場所を設 置してほしいと感じている意見が見られた(表4) . 写真1 経路 A 地点 写真2 経路 F 地点 表4 歩行環境に対する感想・一部の意見 4. 結論 地区 性別 女性 健常高齢者の歩行環境への評価について以下のこ とを明らかにした. ① 経路選択の際には『歩き易い』を重視すること 緑 園 男性 が多いが,四季の移り変わり等の『景色』の楽 しめる歩行環境を重視する割合がそれに次ぐ. 女性 ② 歩行者向けに整備された歩行環境でも,道路空 間を共有する自転車・自動車交通に対して否定 男性 能 見 台 的評価が集中する.その為,自転車や自動車と 男性 女性 の接触の危険性のある幅員の狭い歩道,または 女性 歩道の無い経路を避け,歩行者専用道路や緑道 または歩道の広い歩行環境に興味を示し日常に 女性 よく使う経路として選択している. 牛 久 保 5. 今後の課題 健常高齢者の他に,ハンディキャップを持つ高齢 女性 女性 女性 者や車椅子・ベビーカーの利用者等の様々な歩行特 女性 性を持った集団を対象に調査を行い,それぞれの歩 女性 行環境評価について検討していくことが必要である. 年代 住宅地の歩行環境に対する感想 遊歩道なので車や自転車もなく、 とても歩き易い/地理上坂が多いの 70代 で歩くのが大変/緑が多いので楽し く歩いている サンステージ西の街・東の街の間 に道路があり、両脇には幅の広い 歩道が安心感がある/大きな樹木も 70代 夏は日陰となり涼しい/交差点ごと に信号があり、交通量も少なく歩 き易い/四季の道は歩き易く楽しく 歩ける 歩道が狭く危険なところがある/信 70代 号を付けてほしいところがあり申 請中 緑が整備されていて散歩が楽しい/ 70代 車との接触が少ない 意見 緑園は、土地柄坂が多いところなので 歩くのは大変ですが、道路・歩道が良 くできていいるので、信号に気を付け て安全に務めている 緑園都市は駅の方向に向けて傾斜に なっており、高齢者には階段が負担に なっているため、バリアフリーを進め てほしい 緑園は坂道が多いため、途中で休憩す るベンチがあったらよいと思う ベンチなど休む場所がほしい 能見台は駅の方向に向けて傾斜になっ 歩道があって環境が良い/住宅街な 70代 ており、高齢者には階段が負担になっ ので静か ている 公園が美しく整備され、緑が多 80代 街灯がほしい く、散歩していて気持ちが良い この町は港北ニュータウンの街づ くりのなかで特別に緑道が整備さ 緑道は夕方になると暗いところが多く 70代 れていて散歩がとのしいところで なる す/緑が多く車との接触もなく安心 して歩くことが出来る 歩道の場合、自転車とぶつかりそうに 散歩のときは緑道を利用するので 60代 なり怖くなった/自転車専用道路がある 安全で良い/歩き易い と良いと思う 車道と歩道のあるところでは歩道がも 遊歩道が整備されていて歩き易い/ 60代 う少し広かったら良いと思う/自転車道 車が通らない/街灯もある が出来たらよいと思う 人混みでも自転車を乗る人が多いこと/ 遊歩道などで歩き易い/緑が多いの 70代 遊歩道でも自転車の乗り入れが多く、 で夏でも歩ける 又子供の自転車のスピードが怖い 買い物に行くとき、車道と歩道の間に 住んでて良いところ、眺めが美し 70代 ある低木が植えてあるところで歩道が い 狭いところがある/信号が多い スピードを出している自転車やジョギ 道が狭い場所が多く、人との擦れ ングしている方がぶつかってくる/遊歩 60代 違いや自転車に恐怖を感じること 道が多くある分歩道を横に並んで歩く がある 人など、マナーの悪い方が多い 70代 遊歩道がある 周りの木々が四季折々の景色が楽しみ 赤字下線:否定的感想・意見