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(59)コーポレート・ガバナンスの システムとメカニズム

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(59)コーポレート・ガバナンスの システムとメカニズム
【経営学論集第 86 集】自由論題
(59)コーポレート・ガバナンスの
システムとメカニズム
(1)
――日本版スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを巡って――
東海学園大学
市 古
勲
【キーワード】コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance),日本版スチュワードシップ・コード(Japan’s
Stewardship Code),コーポレートガバナンス・コード(Japanese Corporate Governance Code),コーポレート・ガ
バナンスのシステム(System of Corporate Governance),コーポレート・ガバナンスのメカニズム(Mechanism of
Corporate Governance)
【要約】2014 年 2 月に「日本版スチュワードシップ・コード」
,2015 年 3 月に「コーポレートガバナンス・コード
原案」が金融庁より公表され,現在,日本のコーポレート・ガバナンスの制度改革が進められている。本稿では「コ
ーポレート・ガバナンスのシステム」と「コーポレート・ガバナンスのメカニズム」という 2 つの概念を設定し,
この制度の機能状況について説明を試みた。これらの概念を適用すると,現行の(2 コード設定前の)コーポレー
ト・ガバナンス関連の法制度の機能状況は「制度の誤作用」の状況にあると解され,今回の 2 コードは,この「制
度の誤作用」の状況を「制度の正作用」の状況に矯正する役割を担うものと捉えられる。すなわち,2 コードはそ
れぞれ単独で制度目標を達成するものではなく,連動しながらもともとの法制度の機能状況を修正するものである
と理解される。また,この 2 コードが有効に機能するには,各企業・機関投資家のモチベーション・モラールと制
度目標達成によりもたらされる成果(インセンティブ)とが整合する必要がある。
1.問 題 設 定
2013 年に首相官邸から「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」が,次いで 2014 年にはその改訂版「日
本再興戦略―未来への挑戦―」
,そして現在,2015 年版の骨子が発表されていることは周知の通りである。
その中では,日本企業の「コーポレート・ガバナンス」の強化が謳われており,これに伴って,日本版ス
チュワードシップ・コードが 2014 年 2 月に公表され,次いで改正会社法が 2014 年 6 月に成立し,そし
てコーポレートガバナンス・コード原案が 2015 年 3 月に公表され,いずれも 2015 年 6 月時点で施行さ
れている。
以上のような制度改革によって,日本企業のコーポレート・ガバナンスは,どのように展開されるので
あろうか。本稿では,上記の新制度のうち,特に日本版スチュワードシップ・コードとコーポレートガバ
ナンス・コードに注目し,これらの概要およびそれぞれの関連を提示した上で,制度の(期待される)機
能の状況を「可能な限りシンプル」な概念を用いて説明しようと試みる。これによって,今後の日本のコ
ーポレート・ガバナンスの機能状況を鳥瞰的に観察できるようになり,その結果,今後のコーポレート・
ガバナンスの制度の改革・改善の方向を探ることが容易になることを期待している。
なお,本稿執筆の(あるいは本研究を行う)モチベーションとして,2006 年に「会社法」が施行され,次
いで 2007 年には「金融商品取引法(財務報告に係る内部統制制度)」が制定(2008 年 4 月からの事業年度に適
(59)-1
用)され,そして 2009 年には「コーポレートガバナンス報告書(東証)」の提出および公開義務化がなさ
れたにもかかわらず,日本企業のコーポレート・ガバナンスに対して,「実態として」大きな変化があっ
たとは言い難い(市古・津田 2010;2012;黒瀬 2015)状況であることが挙げられる(2)。このような状況の下,
今回の施策によってどのような結果がもたらされるのであろうか,非常に興味深い問題である。
2.日本版スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード
2-1.日本版スチュワードシップコード(SS コード)の概要
日本版 SS コード(以下,SS コードと略記)におけるスチュワードシップ責任の定義は,
「機関投資家が,
投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な『目的を持った対話』
(エンゲージメント)
などを通じて,当該企業の企業価値向上や持続的成長を促すことにより,「顧客・受益者」の中長期的な
投資リターンの拡大を図る責任を意味する」というものであり(3),日本企業のコーポレート・ガバナンス
強化に資するべく,7 つの原則が設けられている(表1)。
表1 日本版スチュワードシップ・コード(英国との比較)
(出所)金融庁(2012;2014)および北川(2015),p.87「図表 4-2」を基に,筆者修正・加筆。
日本版 SS コードの基になっているのは英国版 SS コードである。違いは,英国版 SS コードの原則 5
が日本版では採用されていないこと,および,日本版 SS コードに独自の原則 7 が追加されていることで
ある。これらは,日英の市場・企業経営状況の違いを考慮してなされたものであろう(4)。
さて,この原則の特徴として,次の 2 点が挙げられる。
第一の特徴は,
「プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)」であるが,これは厳格な定義を置かず,
抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)だけを規定して政策目的を達成しようとする規制手法である。すな
わち,結果を達成する手法・プロセスを機関投資家に委ねる「結果志向の手法」といえよう。これにより,
機関投資家は結果責任を負うが,反面,経営の自由裁量度は高いものとなる。
第二の特徴が,
「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」である。これは機関投資家
に対して,当該コードにある原則を実施するか(遵守か),実施しない場合はその理由の説明を求める(説
明か),という規制手法で,法的拘束力を有さないことが最大の特徴である。
(59)-2
以上のような,明確な罰則規定のない非拘束的な規制の仕方は「ソフト・ロー (Soft law)」と呼ばれ,
これまでの日本における規制のやり方としては馴染みの薄いものであるが,一般的に個別性が強く事前に
詳細を定めることが困難な事項に対して規制をかけるには適した方法であるとされる(5)。
なお,日本版 SS コードの対象は,基本的に日本の上場株式に投資する「機関投資家」および「機関投
資家から業務の委託を受ける議決権行使助言会社等」であり,2015 年 9 月時点で,このコードの受け入
れ表明機関投資家数は,197 機関を数えるに至っている(表2)。
表2
現在のコード受け入れ表明機関投資家の状況(2015 年 9 月現在)
(出所)金融庁資料,北川(2015),p.84「表 4-1」を基に筆者修正・加筆。
2-2.コーポレートガバナンス・コード(CG コード)の概要
コーポレートガバナンス・コード(以下,CG コードと略記)におけるコーポレート・ガバナンスの定義
は,「会社が,株主をはじめ,顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で,透明・公正かつ迅速・
果断な意思決定を行うための仕組み」とされており,CG コードは「実効的なコーポレートガバナンスの
実現に資する主要な原則を取りまとめたもの」と位置付けられている。そして,これらが適切に実践され
ることには「それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が
図られることを通じて,会社,投資家,ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられ
る」という期待が込められている(6)。これを従来のコーポレート・ガバナンスの議論と比較したものが,
図1である。
「企業価値向上」および「対話」が象徴的である。
図1
CG コードの目的
(出所)吉川(2015),p.6「図表4」。
さて,CG コードは,表3のように 5 つの章から構成され,表4に示すようにおのおのの章において基
本原則(5 項目)
・原則(30 項目)
・補充原則(38 項目)が含まれている。そして,上場会社(新興市場を除く)
は,東京証券取引所等の上場規則により,各コード(基本原則・原則・補充原則)について「コンプライ(コ
ードの実施)」or「エクスプレイン(コードを実施しない場合の理由の説明)が求められる。
(59)-3
表3 CG コードの各章および基本原則で求められる主な事項
(出所)吉川(2015),p.2「図表1」。
表4
CG コードの原則および補充原則,ならびに各原則等の一覧
(出所)吉川(2015),p.3「図表2」。
表4において特徴的なのは,第 4 章の項目が多いことと,第 5 章の原則数が多いことである。第 4 章に
おいては,企業における意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる原則・補充原則が
多く含まれ,取締役会等に関する内容の充実が求められている。これは「攻めのガバナンス」に対応した
ものであると考えられる。次いで,第 5 章においては,日本版 SS コードが機関投資家に対して「目的を
持った対話」,すなわち「エンゲージメント」を求めた点を強く意識して種々の原則が設定されている。
ここからは,定量的な数値情報だけでなく,経営戦略・経営課題,リスクやガバナンスに関わる具体的な
情報提供にも,企業は主体的に取り組むことが求められていることを読み取れる。
なお,CG コードにおいても,前項で概説した SS コード同様,
「プリンシプルベース・アプローチ」,
「コンプライ・オア・エクスプレイン」といった「ソフト・ロー」的規制方法が採用されている。
(59)-4
2-3.日本版 SS コードと CG コードの関係
日本版 SS コードの「目的 4」において「企業側のこうした責務と本コードに定める機関投資家の責務
とは,いわば〈車の両輪〉であり,両者が適切に相まって質の高い企業統治が実現され,企業の持続的な
成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの確保が図られていくことが期待される」と記述されてお
り,また,CG コードの「目的 8」において「本コード(原案)とスチュワードシップ・コードとは,いわ
ば〈車の両輪〉であり,両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されることが期待
される」と記述されていることから,日本版 SS コードと CG コードの関係は,下図2のように「車の両
輪」となり,中長期での企業の資本生産性を向上させ,グローバル競争に打ち勝つ強い企業経営力を取り
戻し,その強い収益力を背景として,雇用機会の拡大,賃金の上昇,配当の増加等を通じて,好循環を実
現させるものと捉えられる。
そして,欧州各国における各コードの位置づけはそれぞれ異なるものの,下図3に示すように,日本企
業においては,その ROE の相対的な低さから,会社の資本生産性向上の必要性に対する意識づけ,動機
づけの改革が必要とされており,この必要性に応えるべく日本版 SS コードと CG コードが連動し,日本
企業の平均 ROE を向上させることが期待されている。すなわち,ここにおいて CG は,リスクを低減さ
せる「ブレーキ」としてのみならず,適切にリスクを管理しつつ会社の資本効率性を向上させる「アクセ
ル」として役立つものでなければならない,とされているのである(7)。
図2
SS コードと CG コードの関係
図3
SS コードと CG コードの連動とその狙い
(出所)『山を動かす』研究会(2014),p.128「図表 4-9」(=図2),p.112「図表 4-2」(=図3)。
3.コーポレート・ガバナンスのシステムとメカニズム
3-1.定
義
経営学をはじめとする社会科学の研究において「システム」および「メカニズム」は頻出タームである
が,統一的な定義がなされているものではない。そこで,本稿では,日本における従来のコーポレート・
ガバナンスの状況と新たに導入された 2 つのコードによってもたらされると予想されるコーポレート・ガ
バナンスの状況をシステマティックに描くべく,
「コーポレート・ガバナンスのシステム」と「コーポレ
ート・ガバナンスのメカニズム」について,以下のように定義して議論を進めることにする。
まず,システムについてであるが,辞書的には「複数の要素によって体系的に構成され,相互に影響し
ながら,全体として一定の機能を果たす何物かのこと」を意味するものとされている。これに T.パーソン
ズの「社会システム」の概念(8)を援用し,本稿における「コーポレート・ガバナンスのシステム」を「相
互依存関係を持つ複数の要素によって形成される,境界を有する一連のループであり,何がしかの安定し
た秩序(作用)を生み出すもの」と定義する。また,これがより固定的・強制的になったものを「法制度
(institution)」とする。
続いてメカニズムについてであるが,辞書的な意味としては「仕組み,体系,からくり,無意識の行為」
などとなっている。ただ,これでは一般的過ぎるので,もう少し本稿の目的に適合するものとすべく,沼
上(2000)における法則定立的アプローチにおける「メカニズム解明モデル」の考え方を援用し(9),本稿
(59)-5
における「コーポレート・ガバナンスのメカニズム」を「結果を生み出すパス・経路の連鎖であり,過去・
現在・未来の時間軸では非連続的なもの」と定義する。
以上の定義を基にしてコーポレート・ガバナンスのシステムとメカニズムの状況を図示すると,図4の
ようになる。なお,図を描くにあたり,社会システムの中に企業(会社)システムとコーポレート・ガバ
ナンス・システムが内包されており,それらに対して法定ガバナンス・システムが影響を及ぼす,と想定
している。
図4
CG のシステムとメカニズム
さて,図4における「慣習・非公式なシステムの状態」は,緩やかに「インプット・原因」と「アウト
プット・結果」が結びついている状態を表しており,その間を繋いでいる矢印が「メカニズム」を表して
いる(10)。
「公式システムの状態」は,「インプット・原因」と「アウトプット・結果」の関係を制度として明文
化し,そして固定的なものにし,さらに「メカニズム」がある一定の範囲に収まるよう調整させたもの,
と解される(11)。システムに乗ることのできる主体ならば(すなわち「インプット・原因」の固定化を意味する),
誰でも利用可能で,同一の「アウトプット・結果」を再現できる(すなわち「アウトプット・結果」の固定化
を意味する)
。また,
「システム」と「メカニズム」の性質であるが,
「システム」には変数的なインセンテ
ィブが備わっており,システムが実際に稼働するかどうかは,このインセンティブに対するシステムを利
用する主体(乗らざるを得ない主体)のモチベーション(モラール)の反応度合いに掛かっている。すなわち,
「メカニズム」はシステムの有するインセンティブに対するモチベーション (モラール)の関数という想
定である。そして,この「メカニズム」の反応度合は,以下に示す 4 つの状態として生起するものと想定
される。
① 正作用…システム(制度)の目標・目的に沿った結果が生じる状態
② 誤作用…システム(制度)の目標・目的とは異なった結果が生じる状態
③ 反作用…システム(制度)によって不正・不祥事が引き起こされる状態
④ 無反応…結果につながるような動き(メカニズム)が起こらない状態
3-2.日本版 SS コードと CG コードの解釈
コーポレート・ガバナンスのシステムとメカニズムの定義および上掲の図4の考え方を,現状の CG お
よび日本版 SS コード,CG コードに適用したのが下図5である。
(59)-6
図5
CG のシステムとメカニズム:現状への適用
現状認識として,会社法,金商法による法定コーポレート・ガバナンス制度は,制度の目標,すなわち
「制度に対応して CG 体制を構築すれば,会社の透明性・公正性・効率性は担保される=(グッド・ガバナ
ンス)」通りには機能していないものと推察される。ただし,ほとんどの日本企業は,内部統制報告書・
コーポレート・ガバナンス報告書等の報告制度にはきちんと対応している。これは,コンプライアンスの
証明書・免罪符的機能の発現,すなわち「システムの誤作用(=形式的対応)」であると解しうる(12)。
この状況を調整すべく日本版 SS コード・CG コードを導入し,コードが実効性を持って機能すること
により,種々のメカニズムが矯正され,システムの正作用がもたらされることになる。すなわち,日本版
SS コード・CG コードは,システムとして状況を固定化する役割を果たすのではなく,ハードな制度に
メカニズムがきちんと沿うように調整する役割を果たすものなのである。しかし,現状において会社側の
制度に対するインセンティブ,制度対応に対するモチベーション・モラールは不明であるので,政策目的
通りに事が運ぶかどうかは今後の経過を観察する他ないが,動向としては,表2のように,現在のコード
受け入れ表明機関投資家の状況が 197 機関に達しており,また, 改正会社法における監査等委員会設置
会社移行会社数が 189 社(2015 年 6 月 26 日現在)に至っているところを見るに(13),日本版 SS コード・CG
コード共に機能する兆しはあると判断して良いのではないかと思われる。
4.今後の展望
本稿(本研究)の着想は,郷原(2007)の「法律が定める制度は,内容が社会の実情に適合し,個人や
企業の側に法律を順守する意識が定着していれば,その機能が十分に発揮される」に依っている(14)。こ
の「内容が社会の実情に適合し」の部分が,上掲図4における「インセンティブの整合」に対応し,
「個
人や企業の側に法律を順守する意識が定着していれば」の部分が,同図の「モチベーション・モラールの
発現」に対応している。そして,
「法律が十分に機能していないという現実とその背景となっている構造
的要因をどのようにして是正するか」(15)が,本稿(本研究)のもともとのリサーチ・クエスチョンとなって
いる。一言でいえば,
「制度と実態の乖離問題」の解決である。
本稿第1節で,日本における先の CG 改革は,実態として大きな変化があったとは言い難いと言及した。
そもそも,2007 年の金商法における「財務報告に係る内部統制制度」
,俗にいう「J-SOX 法」は,米国
の制度を参考に構築されたものであった。判例法の国であり,かつ,違反行為に対して懲罰的なペナルテ
ィを課すアメリカの制度を,アジャストしたとはいえ成文法の国の日本に適用するのは,少々無理があっ
たのかもしれない。そして,今回の日本版 SS コードおよび CG コードにおける「ソフト・ロー」による
規制方法も,判例法の国であり,自主規制の権威がきわめて高い英国のものを参考にしている。日本の社
会的状況・環境にうまく適合させるには,かなりの工夫が必要になるものと思われる。
それを見越してか,日本版 SS コードにおいては「おおむね 3 年毎を目途として,本コードの定期的な
(59)-7
見直しを検討するなど,適切な対応をとることを期待する」としており,また,CG コードにおいても「不
変のものではない」
「本コード(原案)が定期的に見直しの検討に付されることを期待する」としている(16)。
近い将来,現実的な見直し・改善が必要になってくるだろう。
郷原(2007)によれば,制度改善に「必要なことは,これまでのシステムがもともといかなる社会的・
経済的機能を果たしてきたものなのかを明らかにし,それが,社会経済情勢の変化に伴ってどのように実
情に合わなくなり,弊害が生じているかを確かめた上で,
(中略)日本のシステムのあるべき姿を再検討す
る」こととしており(17),また,「『法令』がいかに実態と乖離していたかを再認識し,(中略)システム全
体を見直していかなければ,根本的な問題解決にはならない」と指摘している(18)。ここにある「いかな
る社会的・経済的機能」を「メカニズム」と解釈すれば,今後の日本の CG 関連制度の改善には,本稿で
示したようなコーポレート・ガバナンスの「システム」と「メカニズム」,そしてその全体像を描写する
モデルが必要となるのである。
( 1)本稿において「コーポレート・ガバナンス」と「コーポレートガバナンス」の表記が混在しているが,前者は
学術専門用語として,後者は原典に従ったものとして,あえて混在した形式で表記している。
( 2)市古・津田(2010;2012)においては,会社法や内部統制報告制度に対する企業の反応を探るべく,任意の 26
社(うち,分析に対して十分な情報を得られた上場会社は 8 社)
に対してインタビュー調査を行った。その結果,
構築されたモデルが図6に示される「反応モデル」である。
図6
法制度に対する企業の「反応モデル」
法制度の施行によって企業はその対応を迫られるが,それぞれの企業の固有の情況により,各企業は 3 通りの
適用パターンを軸に,対外的反応を示す。なお,インタビューの結果は,「積極的適応」に対応する企業は検出
されず,「批判的反応」が 8 社中 3 社(いずれも自社を「中堅」と評価),「消極的対応」が 8 社中 4 社であっ
た。残り 1 社については本件に関する回答が得られなかった。なお,詳細については,当該文献を参照された
い。
次に,黒瀬(2015)はレポートの中で,日本のコーポレート・ガバナンスに関する法制度は,先の改革で欧米
に並ぶものとなったが,実態としては大きな変化があったとは言い難い状況だった,と回顧している(p.1)。
( 3)金融庁(2014),p.2 の「目的 4」を参照。
( 4)詳細は,西川・羽瀨(2014)の p.7 を参照。
( 5)( 4)同掲 p.6 による。
( 6)コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(2015),p.1 参照。
( 7)経済産業省(2014),いわゆる「伊藤レポート」においても同様のことが指摘されている。
( 8)社会システムとは,多数の行為要素が相互依存しあって,一つの社会的全体として統合されている状態のこと
を意味する。なお,本稿においては,T. パーソンズのサーベイとして溝部(2011)を参照した。
( 9)ここでは,メカニズムを「必然的な因果関係の連鎖」としている。時間軸上の非連続性については沼上(2000)
p.17,メカニズムについては pp.78-83.を参照。
(10)これは,高橋(2010)の「競争的同型化」の状態を想定している。
(11)これは,高橋(2010)の「制度的同型化」における「強制的同型化」の状態を想定している。
(12)これは,高橋(2010)の「制度的同型化」における「模倣的同型化」に類似した状態であると考えられる。
(13)大和総研レポート「監査等委員会設置会社の現況」
(http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/commercial/20150729_009972.pdf)参照。
(14)郷原(2007),p.4 参照。
(59)-8
(15)(14)同掲,p.5 参照。
(16)これを受けて,金融庁において「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォロ
ーアップ会議」が設置された。今後の動向に注目したい。
(17)(14)同掲,pp.29-30 を参照。なお,本文においては,原典の文脈から離れないよう留意しつつ,一部修正を施
している。もちろん,誤りがあるとすれば,それは全て筆者の責任である。
(18)(14)同掲,pp.84-85 を参照。なお,引用部分は「建築基準法」に関する叙述の中にあったものだが,
「建築基準
法」を「CG 関連法制」と読み替えても原典の根本的な意図から離れないと判断したため,本文においては一部
修正を施し引用している。もちろん,誤りがあるとすれば,それは全て筆者の責任である。
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森・濱田松本法律事務所編(2015)『変わるコーポレートガバナンス』日本経済新聞出版社。
『山を動かす』研究会編(2014)『ROE 最貧国日本を変える』日本経済新聞出版社。
横山淳(2015)「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う東証上場基準等の改正」大和総研レポート。
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