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テーマパークにおける従業員の勤務シフトおよび勤務配置の

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テーマパークにおける従業員の勤務シフトおよび勤務配置の
テーマパークにおける従業員の勤務シフトおよび勤務配置のスケジューリング
08D8104028I 森内 啓太
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2012 年 3 月
あらまし:本研究では,実際に存在するテーマパーク
を対象として,勤務シフト表と勤務配置表の作成を行
う.現実に運営可能な勤務シフト表と勤務配置表を求
める問題を数理計画問題として定式化し,ソフトウエ
アを用いて解くことで,作成者の負担の緩和を目指す.
キーワード:シフトスケジューリング,整数計画問題
はじめに
昨今のテーマパークを取りまく環境では「安・近・
短」の都市密接型のリゾートを好む傾向が顕在化しつ
つある.一方,地方のテーマパークの多くは何年も赤
字を積み重ね,撤退を余儀なくされており,レジャー
業界では二極化が進行している.一般的に安定した収
益をあげているレジャー施設の特徴の一つに,顧客の
高いリピーター率が挙げられる.リピーター率の向上
に大きく関わるのが,現場で実際に顧客と接する従業
員である.従って,従業員が顧客に対して良いパフォ
ーマンスを行うことが重要であり,それを期待するな
らば,安全面からも従業員の健康状態を適切に保ち,
サービスの維持・向上が不可欠である.
現在,勤務シフト表および勤務配置表の作成は社員
が手作業で作成している.勤務シフト表は半月ごとに
作られ,平均 8 から 10 時間の作成時間がかかる.勤務
配置表は毎日,前日に作られ,平均 1,2 時間の作成時
間がかかる.勤務シフト表および勤務配置表の作成に
数理計画問題として定式化し,ソフトウエアを用いて
作成時間の短縮を目指す.シフトスケジューリング問
題は様々な分野で研究されている [1].
1.
テーマパークについて
今回扱うテーマパークは,企業が運営する複合レジ
ャー施設の中の一つである.他の複合レジャー施設の
中には,野球場,ショッピングセンター,フードコー
ト,ホテルなどがあり,顧客の多様なニーズに対応し
ている.さらに,テーマパークの入園料は無料であり,
顧客は抵抗なく他のレジャー施設へ足を運べる.また,
他の多くのテーマパークと異なり,都心に位置し,3
駅 5 路線のアクセスの良さを誇る.
本研究ではテーマパーク内のあるゾーンの従業員88
名,アトラクション 6 機種の勤務シフト表および勤務
配置表の作成を研究対象とする.
2.
勤務シフト表の作成
テーマパークでは,最短 3 時間から最長 11 時間とい
う 18 種類の勤務パターンがある.勤務希望表とは,従
業員が希望する日時の表である.勤務希望表内で,勤
務パターンごとの必要人数をもとに勤務シフト表を作
成する.本研究では,2011 年 11 月前半の勤務希望表
と勤務パターンごとの必要人数のデータを用いる.
3.1. 定式化
制約条件を強い順に Hard 制約と Semihard 制約と
3.
Soft 制約に分類する.
Hard 制約(禁止事項)
 従業員は希望日,希望時間のみ働くことができる.
 連続勤務は 6 日までという規定を守る.
 年末調整のため,個別に勤務日数を制限する.
Semihard 制約(必要人数に関する制約)
 勤務パターンごとに人数の上限と下限を満たす.
Soft 制約(従業員の負担緩和のための制約)
 勤務形態ごとに,勤務日数と時間に上限と下限を設
定する.
 スキルレベルに応じて必要な人数に上限と下限を
設定する.
 遅番の翌日に早番を避ける.
 ある勤務シフトを従業員に適切に割当てる.
 連続勤務は 5 日までとする.
以下の制約を満たす勤務シフト表を求める問題を 0-1
整数計画問題として定式化し,計算実験を行う.目的関
数は設置せず,制約条件の強い順に制約を満たすように
する.
3.2. 計算結果と考察
整数変数は 26752 個,制約式は 5147 個である.ソ
フトウエアは株式会社数理システムの数理計画法パッ
ケージ:NUOPT version 13.1.5 [2] を用いる.また計
算機環境は Intel (R) Core (TM) i5,CPU: 2.67GHz,
4.00 GB RAM である.Hard 制約はすべて満たしてい
るが,Semihard 制約の必要人数の上限と下限を 20 個
満たさず,追加募集が 20 人必要となる.現状の追加募
集が 31 人だったので,11 人削減に成功した.計算時
間は 19.65 秒と現状の作成時間と比べて格段に速く解
けており,計算時間の面で実用化が可能である.
現状の追加募集は短時間シフトが多いが,実験では
長時間シフトが増えた.これは両シフトの重みが等し
いためだと考えられる.また,必要人数を Semihard
制約とし,従業員の負担緩和を Soft 制約としたが,現
状では場合によって追加募集を増やしても従業員を休
ませることがあり,制約条件の強弱の逆転があり得る
ので,制約の重みづけの調整が必要となる.
勤務配置表の作成
今回扱うゾーンには 6 種類のアトラクションがあり,
各アトラクションには複数の勤務配置がある.本節で
は,3 節で求めた勤務シフト表に基づき,各従業員の
勤務配置を決定する.ここでは,2011 年 8 月 2 日の出
勤者と勤務配置ごとの必要人数のデータを用いる.
4.1. 定式化
シフトスケジューリング問題を勤務場所と勤務配置
の2段階に分割する.
第1段階で勤務場所を求めた後,
その結果を用いて第 2 段階で勤務配置を決定する.こ
れは,一度に解くと,制約条件が複雑になり計算時間
が長くなることが予想されるからである.
4.
1
4.1.1. 第 1 段階:勤務場所の決定
第 1 段階の定式化を以下で行う.
記法
𝑆 = *1, … , 𝑠+:出勤者の集合
𝑃ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:{ 𝑖| 𝑖 ∈ 𝑆の 8 種の勤務パターン}
𝐷 = *1, … ,16+:時間帯の集合
通常は 10 時から 20 時までを 1 時間刻みで時間帯を分割する
が,30 分待機と 20 分待機を考慮するため,16 時台を 30 分
刻み,18 時,19 時台を 20 分刻みにする.
𝑊1 :アトラクションの集合
𝑊2 :他,待機,休憩,勤務前後の集合
𝑊 = 𝑊1 ∪ 𝑊2 = *1, … , 𝑤+:勤務場所の集合
𝑡𝑗 :時間帯 𝑗 ∈ 𝐷 の時間
𝑁𝑗𝑘 , 𝑛𝑗𝑘 :時間帯 𝑗 ∈ 𝐷 の勤務場所 𝑘 ∈ 𝑊 に必要な人数の上
限,下限
𝑡𝑗 :時間帯 𝑗 ∈ 𝐷 の時間
𝑄ℎ , 𝑞ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:𝑃ℎ の休憩の数の上限,下限
𝑟ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:𝑃ℎ の待機の数
𝐴ℎ , 𝑎ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:𝑃ℎ の休憩可能時間の終了,開始時間
𝐵ℎ , 𝑏ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:𝑃ℎ の待機可能時間の終了,開始時間
𝐸ℎ , 𝑒ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+:𝑃ℎ の連続勤務場所の終了,開始時間
𝑙ℎ , 𝐿ℎ , ℎ ∈ *1, … ,8+: 𝑃ℎ の異なる勤務場所の終了,開始時間
変数
𝑥𝑖𝑗𝑘 :従業員 𝑖 の時間帯 𝑗 の勤務場所を 𝑘 にするとき値 1 を
とり,そうでないとき値 0 をとる 0-1 変数
定式化
2
∑ {∑(𝑥𝑖𝑗𝑘 ・𝑡𝑗 )}
𝑖∈ ,𝑘∈
𝑗∈
𝑥𝑖𝑗𝑘 ∈ * ,1+
𝑥𝑖𝑗𝑘 =
𝑛𝑗𝑘
∑ 𝑥𝑖𝑗𝑘
𝑁𝑗𝑘
𝑖 ∈ 𝑆, 𝑗 ∈ 𝐷, 𝑘 ∈ 𝑊,
(𝑖, 𝑗, 𝑘) ∈ 𝐹 ,
𝑗 ∈ 𝐷, 𝑘 ∈ 𝑊,
𝑖∈
𝑞ℎ
∑ 𝑥𝑖𝑗𝑘
𝑄ℎ
𝑗∈
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑘 = 待機 ,
∑ 𝑥𝑖𝑗𝑘 = 𝑟ℎ
𝑗∈
𝑞ℎ
∑ 𝑥𝑖𝑗𝑘
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑘 = 休憩 ,
𝑄ℎ
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑘 = 休憩 ,
𝑗
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑘 = 待機 ,
∑ 𝑥𝑖𝑗𝑘 = 𝑟ℎ
𝑗
𝑥𝑖𝑗𝑘 = 𝑥𝑖𝑗
1𝑘
𝑥𝑖𝑗𝑘
1𝑘
𝑥𝑖𝑗
𝑘
𝑥𝑖𝑗
𝑥𝑖𝑗
𝑘
1
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑒ℎ 𝑗 𝐸ℎ , 𝑘 ∈ 𝑊1 ,
𝑖 ∈ 𝑃ℎ , ℎ = *1, … ,8+,
𝑙ℎ 𝑗 𝐿ℎ , 𝑘 ∈ 𝑊1 ,
𝑖=𝑃,
𝑗1 = 16 時 , 𝑗2 = 18 時 ,
𝑘1 = 休憩 , 𝑘2 = 待機 .
従業員のモチベーションを維持するために,すべて
の従業員がなるべく異なる勤務場所で勤務することを
目指す.目的関数を,各従業員が各勤務場所で勤務す
る時間をそれぞれ 2 乗し,従業員と勤務場所に対する
総和として,最小化する.
4.1.2. 第 2 段階:勤務配置の決定
第 1 段階と同様に勤務配置に対する目的関数と制約
条件を作る.さらに制約条件に「勤務配置のレジのみ 2
時間連続配置」を追加する.
4.2. 計算結果と考察
表 1 をみると,第 1 段階,第 2 段階ともに制約をす
べて満たしている.このため必要人数を満たした状態
で運営可能な勤務配置表が作成されている.連続勤務
に関して,3 時間重複は 1 名 1 ヶ所と変化しなかった
が,2 時間重複は 2 回重複の場合は 21 名 27 ヶ所から
9 名 10 ヶ所へと削減できた.これは,それぞれの仕事
の重みを等しくしているからであると考えられる.し
かし,実際は外の配置は中の配置よりも負担が大きい.
従って,外の配置の重複を避けるようにして勤務配置
を作成する必要がある.また,計算には約 8 分を要し
たが,現状の作成時間よりも速く,計算時間の面で実
用化が可能である.
表 1 勤務配置表の計算結果
整数変数の数
制約式の数
目的関数最良値
満たしていない制約の数
経過時間(秒)
第 1 段階
7040
17615
31575
0
343.55
第 2 段階
19712
20627
10435
0
51.24
4.3. 勤務配置表の改善
前節で作成した勤務配置表について,会社の担当者
から「基本的にはよくできているが,真夏の日中に 4
時間の外の配置は厳しい」という評価を得た.従って,
外の配置を減らすため,10 時から 16 時までの日中 6
時間に外 4 時間の勤務を禁止した.これに伴い 12 時と
14時の勤務配置の交代に中と外の行き来を可能にした.
その結果,計算時間は約 1 分に短縮された.その際
勤務配置の重複は,3 時間重複がなく,2 時間重複が 7
名 7 ヶ所まで削減に成功した.
結論
勤務シフト表および勤務配置表を求める問題を 0-1
整数計画問題として定式化し,ソフトウエアを用いて
解いた.計算時間については,実際の作成時間と比べ
て,どちらの問題も速く解くことができた.
今後の課題として,勤務シフト表では,追加募集の
長時間シフトを短時間シフトへ移行することと,制約
の重みづけを調整することで,必要人数と従業員の負
担緩和のバランスを改善していきたい.また,人件費
も考慮に入れた勤務シフト表が望ましい.勤務配置表
に関しては,勤務配置ごとに従業員の負担の集中を避
ける.さらに勤務配置を空にしないように,同一アト
ラクション内のみで交代せず,アトラクション外から
交代者が来て,交代が済んだ後,アトラクション内か
ら他の勤務場所へ向かう交代者が出るように,交代の
しやすさを考慮していきたい.
5.
6. 参考文献
[1] 池上敦子,丹羽明,大倉元宏,我が国におけるナ
ース・スケジューリング問題,オペレーションズ・
リサーチ,41 巻,pp.436-442,1996.
[2] 株式会社数理システム,NUOPT / SIMPLE マニ
ュアル,2009.
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