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JICA 事業評価ハンドブック(Ver.1)

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JICA 事業評価ハンドブック(Ver.1)
JICA 事業評価ハンドブック(Ver.1.1)
独立行政法人国際協力機構
評価部
2016 年 5 月
JICA 事業評価ハンドブックの目的
2008 年の新 JICA 発足後、技術協力・有償資金協力・無償資金協力の 3 つの援助手法を一元的
に実施することが可能となった。2015 年には開発協力大綱が策定され、ミレニアム開発目標(MDGs)
が達成期限を迎えるとともにその先の目標である持続可能な開発目標(SDGs)が採択されるなど、
包括的な開発目標の達成に向けて JICA が果たす役割が問われている。
新 JICA 発足後に評価部が設置され、ODA 事業実施機関に求められる説明責任の観点から、援助
手法の間で整合性の取れた事業評価を実施するための取組が行われてきた。
「JICA 事業評価ハンドブック(Ver.1.1)
」
(以下、ハンドブック)は、今日、事業評価が PDCA
サイクルを通じて有用な教訓を事業改善にフィードバックする意義がさらに高まっていること
を踏まえ、
「JICA 事業の質を高めるために役立つ事業評価」を主要テーマに、具体的な事業評価
に必要となる基礎知識や考え方などを含んだ実務者のための参照資料として編集された。
本ハンドブックでは、技術協力プロジェクト、有償資金協力、無償資金協力の 3 つの援助手法
を扱い、これらの援助手法に共通する項目はできるだけまとめて記載した。
本ハンドブックの対象者として、JICA 事業に関わる内外の関係者(JICA 職員等、事業の担い
手であるコンサルタントや専門家等、評価者として事業評価にかかわる実務者等)を想定してお
り、事業および評価の実施において広く参照いただきたい。
i
<JICA 事業評価ハンドブック
「第 1 章
構成と目次>
JICA の事業評価」では、事業評価に関する基礎知識や考え方などを記載している。
ついで、プロジェクト・レベルの評価に関し、
「第 2 章
事前評価―評価可能性を高めるために」
では、事業部門が案件形成の段階で行う事前評価の過程で留意すべきポイントを記載し、
「第 3
章 事後評価」では、評価部および事業部門(在外事務所等)が原則として案件完了 3 年後まで
に行う事後評価のポイントを説明した。
「第4章」は、その他の重要事項として JICA の協力を総合的に評価・分析するテーマ別評価
および事業評価の戦略性を高めるために試行的に行っているプログラム評価に関する最近の取
り組み、また、重要性を増しているインパクト評価に関する情報についても掲載した。
最後に、
「付属資料」には事業評価に関する用語集などを掲載した。
ii
目次
第1章
JICA の事業評価 ...................................................... 1
1-1 事業評価の目的 ...................................................... 2
1-2 事業評価の基本方針 .................................................. 2
1-3 事業評価の仕組み .................................................... 3
1-4 ODA 評価における JICA 事業評価の位置づけ .............................. 5
1-5 事業評価の視点(DAC 評価5項目) ..................................... 6
1-6 指標 ................................................................ 7
1-7 ロジック・モデル(アウトプット、アウトカム、インパクト) ........... 11
1-8 アウトカムの考え方 ................................................. 14
1-9 教訓・評価結果の活用 ............................................... 17
第2章 事前評価 ........................................................... 21
2-1 事前評価の概況 ..................................................... 22
2-2 事前評価の視点 ..................................................... 22
2-3 事前評価のプロセス ................................................. 32
2-4 スキーム別の特記事項 ............................................... 36
第3章 事後評価 ........................................................... 38
3-1 事後評価の概況 ..................................................... 39
3-2 JICA の事後評価の視点 ............................................... 39
3-3 事業の現状把握と分析:実績、実施プロセス、因果関係 ................. 46
3-4 事後評価のプロセス ................................................. 48
第4章 その他の重要事項 ................................................... 55
4-1 テーマ別評価 ....................................................... 56
4-2 JICA 協力プログラムの評価 ........................................... 56
4-3 インパクト評価 ..................................................... 65
iii
付属資料 ................................................................... 68
(1)評価関連用語集 ..................................................... 68
(2)事後評価レファレンス ............................................... 77
(3)参考資料一覧表 .................................................... 102
iv
第1章
JICA の事業評価
この章では、JICA の事業評価の全体像を把握するために、JICA の事業評価への取組みの
全般的な状況と、事業評価を実践するうえで必要となる基礎的な知識を解説する。
1
1-1 事業評価の目的
JICA 事業評価ガイドライン(第 2 版)において、JICA の事業評価の目的は、①PDCA サイ
クルを通じた事業のさらなる改善、②日本国民及び相手国を含むその他ステークホルダー
への説明責任(アカウンタビリティ)の確保の 2 点としている。
なお、経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC)が 1991 年に採択した「開発援助に
おける評価原則」
(通称「DAC 評価原則」
)でも、評価の目的として同様の 2 点、援助内容の
改善とアカウンタビリティが掲げられている。
1-2 事業評価の基本方針
(1)援助手法間で整合性のある事業評価制度
JICA の事業評価では、評価の客観性と透明性を確保するための取り組みを行っている。
事業実施の効果を客観的な視点で検証することが求められている事後評価については、
2009 年度以降、技術協力プロジェクト、無償資金協力、有償資金協力の 3 つの援助手法(ス
キーム)に共通して、大規模案件(10 億円以上)や重要な教訓を得られると考えらえる案
件については、事後評価を外部評価(JICA の調達手続きに則り選定されたコンサルタント
である外部評価者が行う)として行うことで、評価の中立性、透明性を高めている。
(2)事業評価結果の外部公表状況
JICA が実施した事業評価結果(個別案件の事業評価報告書、テーマ別評価報告書)は、
JICA ホームページで外部公開しており、個別案件に関する報告書は検索できるようになっ
ている。また、毎年、事業評価年次報告書を作成し、これも JICA ホームページに掲載して
いる。
(3)JICA 事業評価ガイドライン(第 2 版)
2008 年の新 JICA 発足後、2010 年に「新 JICA 事業評価ガイドライン(第1版)」を作成し JICA
の 3 スキームに共通する事業評価の考え方を示すものとして利用してきたが、第1版制定後、数
年が経過し、各種の事業評価制度の変更(事後評価における内部評価の導入等)をガイドライン
に反映する必要が生じたことから、2014 年に「JICA 事業評価ガイドライン(第 2 版)」を作成し、
JICA ホームページに公開した。
第2版は対外的な説明責任を果たすことを重視し、JICA の事業評価に関する重要な考え方を簡
潔に示している。
2
JICA 事業評価ガイドライン(第 2 版)のポイント
(1)JICA 事業評価の対象範囲、目的、基本原則及び事前・事後の評価における具体的な評価の考え
方を簡潔に取りまとめた。
(1)(2)事業評価の目的については、従来同様、①PDCA サイクルを通じた事業のさらなる改善、②アカ
(2) ウンタビリティ確保との 2 つとした。
(3)(3)基本原則としては、①評価の質の確保、②中立性と倫理意識、③オーナーシップとコミュニ
(4)ケーション、④説明責任、⑤事業マネジメントへの効果的なフィードバック、の 5 つを明記した。
(5) なお、JICA における事業評価の範囲を事前評価と事後評価に限定し、実施段階(モニタリング)
(6)については事業評価の定義から外している。
(7)JICA ホームページに掲載:http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/guideline/
1-3 事業評価の仕組み
(1)PDCA サイクルと事業評価
JICA では、事前評価から事後評価までの、事業進捗促進(モニタリング)を含む一連の
プロセスや事業評価結果から得られた教訓を、次の事業の案件形成や事業実施に結びつけ、
マネジメントツールとして活用し、効果的な事業の実施を目指している。
PDCA サイクルとは、Plan、Do、Check、Action(または Act)の 4 ステップからなる事業
活動の継続的改善を図るマネジメントサイクルである。
JICA の事業評価は、事業進捗促進(モニタリング)とともに、援助スキームにかかわら
ず、プロジェクトの PDCA サイクルと一体不可分の関係にある。
JICA では、技術協力プロジェクト、有償資金協力、無償資金協力の 3 つのスキームでプ
ロジェクトの事前の計画段階から、実施、事後、フィードバックの各段階で、事業進捗促
進(モニタリング)と事業評価が事業の PDCA サイクルに不可分のものとして組み込まれる
ことで、過去の事業から得られた教訓を新規案件に反映させ、事業実施の過程で事業の改
善に活用し、終了後は成果を測り、次の案件やスキームの改善に活かすように努めている。
プロジェクト開始前に作成される事業事前評価表において、3 スキーム共通で行われる事
後評価や技術協力プロジェクトの終了時に作成される事業完了報告書作成において効果測
定に用いられる指標が定められる。設定された指標のデータが事前評価(またはベースラ
イン調査)の際に測定されていることで、プロジェクトによって発現した効果を適切に評
価分析し、適切に事業改善の手段を提言することが可能になる。
3
図 1-1
PDCA サイクルとモニタリング・事業評価
(2)事業評価の実施主体と体制
2008 年 10 月、それまでの企画部門の一部であった評価部門を、事業部から独立した部と
して設置した。評価部は、事業評価に関する制度の改善に加えて、事業部門が行う事前評
価への助言や、事後評価における外部評価の実施や在外事務所等が行う内部評価への支援
を行う他、テーマ別評価等を行なっている。
加えて、事業評価外部有識者委員会を設置し、外部有識者の意見を取り入れて、評価の
アカウンタビリティの確保、評価の質の向上、フィードバックの強化等を図っている。
JICA における評価実施体制は、事業評価外部有識者委員会、評価部ならびに事業実施部
門(本部、在外事務所等)等から構成されている。それぞれの位置づけと主な役割につい
ては以下の通りである。
 事業評価外部有識者委員会
JICA 事業評価の質および評価結果の客観性の確保に資することを目的とした委員会で、
外部の第三者(国際協力や評価に関する知見・専門性を有する大学、国際機関、NGO、マス
コミ及び民間団体の関係者等)で構成される。本委員会は、JICA の事業評価の方針・評価
体制・制度全般等に関する助言を行う。
4
 評価部
評価部は、プロジェクト・レベルの評価1のうち、事後評価(外部評価)等の実施を担当
する。また、プログラム・レベルの評価2の実施のほか、評価手法の開発・改善、事業評価
にかかる情報提供、事業部が実施する事前評価等への支援、JICA 職員等に対する評価能力
強化のための研修、評価結果の事業へのフィードバック促進、評価結果の公表促進等を行
っている。
 事業実施部門(本部、在外事務所)
プロジェクト・レベルの評価のうち、事前評価と事後評価(内部評価)を実施する。各
評価の実施主体部署は、対象案件のスキーム・規模・内容等に基づき決定される。
図 1-2
JICA 事業評価の実施体制
事業評価外部
理事会
有識者委員会
新規案件付議
事業評価結果の報告
・評価の方針・実施に関する助言
・評価体制・制度全般に関する助言
評価部
関係事業部
在外事務所
・内部評価、評価の実施、結果活用
・内部評価、評価の実施、結果活用
1-4
・評価の質の監理
・評価ガイドライン作成
・フィードバック促進
・外部評価、テーマ別評価の実施
ODA 評価における JICA 事業評価の位置づけ
外務省と実施機関である JICA は、相互に連携しながら役割を分担して ODA 評価において
各レベルにおける評価(図 1-3)を実施している。外務省は、政策レベルとプログラム・レ
ベルの評価を、外交的視点も踏まえて実施している。JICA は個々のプロジェクトを対象と
したプロジェクト・レベルの評価を基本に、特定のテーマを設定し事業評価結果を横断的
に分析するようなテーマ別評価や JICA 協力プログラムの評価等のプログラム・レベルの評
1
DAC ではプロジェクト評価は「個々の開発インターベンションを対象とする評価であり、この開発インタ
ーベンションとは、特定の資源と実施期間内で、また、往々にして、より広範囲に及ぶプログラムの枠組
み内において、特定の目標を達成するために計画されたものである」と定義している。
2
プログラム・レベル評価の詳細な説明は、第 4 章参照。プログラム・レベル評価の一部を事業実施部門
が主管で実施し、評価部が支援する形をとることもある。
5
価も行っている。
図 1-3 ODA 評価の実施体制と評価対象
4
5
6
ウの
7
政策レベル
開発協力大綱・
課題別政策・
地域別政策・国別政策
重点課題別援助政策等
プログラム・レベル
スキーム別、セクター別
テーマ別、協力プログラム等
8
9
10
JICA による評価
プロジェクト・レベル
個別プロジェクト等
11
外務省による評価
「ODA 評価ガイドライン第 8 版」
(外務省)をもとに作成
1-5 事業評価の視点(DAC 評価5項目)
JICA のプロジェクト評価では、評価における価値判断の基準として、
「DAC 評価 5 項目」
を採用している。評価 5 項目とは 1991 年に経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC)
で提唱された開発援助の評価基準であり、国際的な基準となっている。以下の 5 つの項目
からなる。
表 1-1
DAC 評価 5 項目による評価の視点
妥当性
開発インターベンションの目標が、受益者の要望、対象国のニーズ、
(relevance)
地球規模の優先課題及びパートナーやドナーの政策と合致している
程度。
有効性
開発インターベンションの目標が実際に達成された、あるいはこれ
(effectiveness)
から達成されると見込まれる度合いのことであり、目標の相対的な
重要度も勘案しながら判断する。
効率性
資源及び(又は)インプット(投入)(資金、専門技術(知識)、
(efficiency)
時間など)がいかに経済的に結果を生み出したかを示す尺度。
インパクト
開発インターベンションによる貢献が期待されている、より高次の
(impact)
目標。
持続性
開発インターベンションの終了時における、開発インターベンショ
(sustainability) ンによる便益の持続性。
長期的便益が継続する見込み。時間の経過に伴う純益の流出という
リスクに対する回復力。
出典:評価と援助の有効性―評価および結果重視マネジメントにおける基本用語集(OECD/DAC Evalunet)
6
これらの DAC 評価 5 項目は、事業実施の価値を総合的な視点から評価する基準である。5
つの評価の視点は、評価の時期(事前、事後)や目的によって視点間の重点の置き方や、
現状・実績に基づき評価するか、あるいは予測・見込みに基づき行うかが異なる。また、
事業の特徴や抱える課題によっても検証作業の濃淡は異なる。
JICA の事後評価は DAC 評価 5 項目に準拠しているが、各項目への JICA の視点を 40-41
ページに記載した。
1-6 指標
(1)指標の定義
指標とは、OECD-DAC の「評価と援助の有効性 評価及び結果重視マネジメントにおける基
本用語集」3では、「量的又は質的な要素又は変数のことであり、インターベンションの達
成度の測定、協力によって生じた変化の明示、または開発関係者の実績(パフォーマンス)
の査定の手助けとなる簡潔かつ信頼できる手段を提供する」と定義されている。このよう
に、指標の設定により、プロジェクトやプログラムの成果として、目標の達成度を客観的
に示すことが可能となる。JICA の事業評価の目的は、①事業の改善、②説明責任の向上、
の 2 点に集約されるが、プロジェクトにおける指標の設定は、これらの事業評価の目的と
密接に関連している。
業績指標(Performance Indicator。パフォーマンス指標、パフォーマンス・モニタリン
グ指標とも呼ばれる)は公共政策や公共事業の目標達成度を評価するための基準である。
業績指標を計画段階(事前=Ex-ante)から完了後(事後=Ex-post)まで継続的に測定す
ることで、政策や事業の実績についての一貫した情報を収集することが可能になる。その
ような情報収集法と、収集情報を施策や業務の改善に活用することは、業績測定
(Performance Measurement)と呼ばれ4、米国他において行政管理ツールとして広く用いら
れている。
世界銀行が 1996 年に発行した「Performance Monitoring Indicators: A Handbook for
Task Managers」では、業績指標は「プロジェクトのインパクト、アウトカム、アウトプッ
ト、インプットを測定する基準で、プロジェクトの実施中に、目標達成に向けた進捗を判
定するためにモニタリングされるもの」と定義されている。例えば、アウトプットの測定
基準は「アウトプット指標」
、アウトカムの測定基準は「アウトカム指標」と呼ばれる。
3
“Evaluation and Aid Effectiveness No.6-Glossary of Key Terms in Evaluation and Results Based
Management”(OECD-DAC、2002)、日本語訳: ODA 評価ガイドライン第 9 版(外務省、2015)。
4
JICA は、独立行政法人として、業務の質及び効率性の向上、透明性の確保を図るため業績評価を行って
おり、各事業とともに事業評価もその対象に含まれている。
7
(2)指標の設定方法
開発援助プロジェクトにおける業績指標の使い方で、多くの援助機関に共通してみられ
る特徴として次のようなものがある。
1) インプット、活動、アウトプット、アウトカム、インパクト、という階層的な因果関
係が定義されている(ログフレーム5のロジック・モデルまたは縦の論理)。
2) 測定対象はインプット実施からアウトプット産出までの「プロジェクトは何をした
か?」のみでなく、「プロジェクトが行ったことの成果は何か?プロジェクトは受益者や
対象社会・経済に変化をもたらしたか?」に視点を広げている。
3) ベースライン・データがプロジェクト開始以前に定義・測定され、その後プロジェク
ト実施中から事後に至るまで一貫してデータ収集が継続されている。
JICA は、指標を活用して事前評価から事後評価の事業評価を行なっている。
技術協力プロジェクトについては、アウトカム指標についてキャパシティ・ディベロッ
プメントの観点から分野横断での包括的な類型化を行っている他6、資金協力による施設・
インフラの整備などでは、
「使われているかどうか(利用されているかどうか)」を測る運
用指標、
「受益者や対象地域でどのような効果があがっているのか」を見るための効果指標
の2種類の指標を活用している。
JICA 事業(3スキーム)では、事前評価が実施・公表されている。同評価の際に作成す
る事業事前評価表にて、運用・効果指標の審査時現在の実績値(ベースライン)
、目標値と
その達成時期を記載することになっており、JICA と実施機関は、計画時にこれらの指標の
設定について合意する。
運用・効果指標の定義(資金協力)
 運用指標:事業の運営状況を定量的に測る指標
 効果指標:事業の効果発現状況を定量的に測る指標
表 1-2 運用指標と効果指標の例
セクター名
灌漑
発電
治水
上水道
港湾
代表的な運用指標(単位)
代表的な効果指標(単位)
受益面積(ha)
主要農作物別の生産量(トン)
設備利用率(%)
送電端発電量(MWh)
治水基準点における年最高水位(m) 破堤または越流による年最大洪水氾
濫面積(km2)
給水量(m3/日)
水道普及率(%)
貨物量(トンまたは TEU 年)
平均待ち時間(分)
5
「ログフレーム(ロジカル・フレームワーク)
」とは、
「開発インターベンション」の計画を改善させる
ために用いられるマネジメントツール(DAC 評価基本用語集)である。
6
【類型Ⅰ】C/P(個人)の能力向上、
【類型Ⅱ】C/P 機関(組織)の能力向上、
【類型Ⅲ】サービス利用者
(受益者)の能力向上、
【類型Ⅳ】地域(社会システム)における能力向上、
【類型Ⅴ】地域における状況
改善・問題解決、の 5 類型。
8
セクター名
道路
代表的な運用指標(単位)
年平均日交通量(台/日)
代表的な効果指標(単位)
所要時間の短縮(時間/年)
注:港湾利用者にとって取り扱える貨物が増加するという意味で、重要な効果指標にもなる。
表 1-3 事業事前評価表における運用・効果指標の設定例
(フィリピン「幹線道路網整備事業(VII)」
)
指標名
道路名
[1] アレン~カルバヨグ間道路
運
交通量の増大(台/日)
用
[2] カルバヨグ~ガタンギット間道路
効
果
走行費用の低減
(百万ペソ/年)
走行時間の短縮(時間)
現状
完成後 2 年
(2001 年) (2009 年)
1,088
1,570
932
1,342
[1] アレン~カルバヨグ間道路
--
164.90
[2] カルバヨグ~ガタンギット間道路
--
125.63
1.6
1.03
1.17
0.75
[1] アレン~カルバヨグ間道路
[2] カルバヨグ~ガタンギット間道路
指標設定の際に参考となる基準
評価指標設定にあたって、必要な要素として、SMARTという頭字語がよく使われる。
 Specific (明確性)
 Measurable (計量性)
 Achievable (達成可能性)
 Result-oriented or Relevant (結果指向または関連性)
 Time-bound (期限)
(3)標準的指標例の作成による事業評価の改善
3つのスキームに応じて事業評価において協力の効果を客観的かつ定量的にわかりやす
く示すために、解決すべき開発課題や問題タイプに応じた標準的な指標例を、開発課題ご
とに整理した「開発課題別の指標・教訓レファレンス」を円借款事業、無償資金協力、技
術協力プロジェクトのそれぞれについて、順次整備している。完成したものはホームペー
ジ上で公開している。
本指標例の作成にあたっては、まず評価部にて過去案件で使用された指標を洗い出し、
各種評価におけるこれら指標の活用状況を確認したうえで、指標例案を作成、関係課題部
および国際協力専門員の技術的監修を経て作成した。公開することでコンサルタント等の
ODA 関係者も活用可能とし、英文化を進めることで在外事務所のナショナルスタッフ等の活
用も期待される。
9
図 1-4 開発課題別標準指標例と代表的教訓レファレンスの事例と開発課題体系図の関係
10
1-7 ロジック・モデル(アウトプット、アウトカム、インパクト)
〈プロジェクトに原因と結果の枠組みを与えるロジック・モデルの考え方〉
ロジック・モデルとは、評価対象となるプロジェクト(事業)の原因と結果の因果関係
の仮説を整理したものである。
「もし~の活動をしたら、~の効果があがるだろう」といっ
た仮説のもとに組み立てられている。たとえば、灌漑プロジェクトでは「もし灌漑施設を
整備すれば、米の生産があがるだろう」という仮説がたてられている。この原因と結果の
関係が成り立っていない場合、効果発現に繋がらない恐れがある。ロジック・モデルを用
いた評価は、計画と実際を比較する際に、プロジェクトがどのような仮説のもとに、どの
ような因果関係で組み立てられているかを調べ、それがうまく機能しているのか、仮説は
正しいのか、期待された効果はあがっているのかなどを見ていくことが重要な評価の視点
となる。
プロジェクトの投入(人的、物的、予算的)により活動がなされてアウトプット(プロ
ジェクトが生み出す資本財およびサービス)が産出されるが、それによって達成されるこ
とが見込まれる効果をプロジェクトのアウトカムと呼ぶ。
ロジック・モデルでは、プロジェクトの要約の 4 つのレベル(インパクト/上位目標、
アウトカム/プロジェクト目標、アウトプット、インプット/投入)を因果関係で整理し
ており、
「縦の論理」とも呼ばれる。これらの 4 つのレベルと「外部条件」との組み合わせ
によって、
「このプロジェクトは何のために実施されるのか?」と「目標の達成には何が必
要なのか?」が体系的に表される。
資金協力では、インパクト―アウトカム―アウトプットーインプットによりロジックが
成るが、技術協力プロジェクトでは、上位目標(インパクト)―プロジェクト目標(アウ
トカム)―アウトプット(成果)―投入(インプット)と表記することが多い。なお、「成
果」、「アウトプット」、
「アウトカム」の用語の使い方について留意すべき点は後述してい
る。
〈技術協力プロジェクトで用いられる「ログフレーム」/Project Design Matrix〉
「ロジック・モデル」の考え方のもとに、プロジェクトの内容を示す「ログフレーム(ロ
ジカル・フレームワーク)
」が作成される。ログフレームはプロジェクトの要約表であり、
プロジェクトの計画・実施・評価にログフレームを用いる手法は一般的に「ロジカル・フ
レームワーク・アプローチ」と呼ばれている。ログフレームの一般的な構成は表 1-4 のと
おりである。
技術協力プロジェクトの運営管理には、ログフレームの一種であるプロジェクト・デザ
イン・マトリックス(Project Design Matrix: PDM)が用いられる。原則全ての技術協力
11
プロジェクトにおいて PDM を作成している7。
有償資金協力事業、無償資金協力事業においては、事前評価段階ではログフレームは作
成せず、それ以降の評価においてもログフレームを直接的に使用しない。しかし、事前評
価の検討項目であり事業事前評価表として公表される「事業の目的」、「事業効果」、「外部
要因・リスク」等はログフレームの考え方に基づいたものである。
表 1-4
要約
上位目標
(インパクト)
長期的な開発効果
プロジェクト目標
(アウトカム)
プ ロジェ クト の直接的
な便益
アウトプット
プ ロジェ クト が生み出
す財とサービス
活動
ア ウトプ ット を生み出
す ための プロ ジェクト
の活動
図 1-5
ログフレームの一般的な構成
指標
上 位目標 の達 成度を測
る基準
指標入手手段
上位目標指標の情報源
プ ロジェ クト 目標の達
成度を測る基準
プ ロジ ェクト 目標 指標
の情報源
外部条件
プ ロジ ェクト によ る効
果 が持 続して いく ため
の条件
上 位目 標達成 に必 要な
外部条件
ア ウトプ ット の産出状
況を図る基準
ア ウト プット 指標 の情
報源
プ ロジ ェクト 目標 達成
に必要な外部条件
投入(インプット)
アウトプット産出のための活動に用いられる資源
ア ウト プット 産出 に必
要な外部条件
プ ロジ ェクト 実施 にあ
たる前提条件
ログフレームの縦の論理
もし前提条件が満たされれば活動が実施される。
もし活動が実施されその横の外部条件が満たされればアウト
プットが達成される。もしアウトプットが達成されその横の
外部条件が満たされればプロジェクト目標が達成される。も
し、プロジェクト目標が達成されその横の外部条件が満たさ
れれば上位目標が達成される。
7
技術協力については、より効果的かつ効率的な事業実施に資するため、事業管理・評価のあり方を見直し、
中間レビュー及び終了時評価に代わる事業モニタリングの手続き等を整備し、2014 年 3 月より新規に開始
する案件から導入した。
12
技術協力プロジェクトの PDM では、前述のとおり目標管理型の秩序だった論理構成が表
現されており、計画全体をその論理構成も含めて一目で概観できるため、PDM を活用するこ
とにより、多数の関係者間においてプロジェクトの枠組みに関する認識を共有することが
できる。なお、技術協力プロジェクトの場合、プロジェクトの進捗や状況の変化に応じて
当初の PDM の見直しや変更が必要となる場合もある8。
ただし、評価に際しては、PDM にはプロジェクトに関するすべての情報が記載されてい
るわけではないことに留意し、必要に応じて他の調査手法により補完を行うことが望まし
い。
〈事前評価とログフレーム〉
プロジェクトを計画する事前評価段階では、ログフレーム/PDM の論理的な整合性だけで
なく、設定したプロジェクト目標のレベルがプロジェクト期間や想定される投入量に照ら
し合わせて現実的であるかを検証する必要がある。また、当該プロジェクトの選択に至る
までの主要な議論の内容と議論の参加者、プロジェクト実施者の関係について詳細計画策
定調査報告書等に記録しておくとともに、プロジェクト進捗監理に必要な時系列上の活動
計画についても作成しておく必要もある。
〈事後評価とログフレーム〉
また、事後評価に際しては、ログフレーム/PDM から評価できる事項とログフレーム/PDM
からは判断できない事項(以下、囲み参照)を念頭におく。特に、妥当性、インパクト、
持続性の評価のためには、プロジェクトを取り巻く環境の変化を把握し、そうした変化と
プロジェクトの関係について DAC 評価 5 項目(表 1-1)により横断的視点で分析することで
包括的な評価を試みる。
ログフレーム/PDM と事業評価
ログフレーム/PDM に基づいて評価できる事項
 プロジェクトの結果(上位目標、プロジェクト目標、アウトプット、活動、投入の計画と実績を比較)
 計画と実績が異なる場合の理由(なぜ計画と実績の齟齬が生じたか)
 プロジェクトデザインの適切性(前提条件から上位目標までの縦の論理が正しかったか)
ログフレーム/PDM に基づいて判断できない事項
 計画策定プロセスの適切性(代替案は検討されたか。検討されたプロジェクトの範囲は適切であったか)
 プロジェクトの実施体制と実施プロセスの適切性(組織体制、活動実施上の工夫、モニタリング方法等)
 上位目標以外のインパクト(ログフレーム/PDM に記載された目標以外のインパクトは何か)
 持続性(相手国の組織体制、予算状況、外部環境等から判断して、プロジェクト終了後も効果が継続す
る可能性はいかほどか)
8
PDM 変更の管理については、
「事業マネジメントハンドブック初版」
(JICA, 2007)p.94-98 を参照のこ
と。
13
〈アウトカムとアウトプットの用語に注意〉
アウトカム、アウトプット、成果という用語について、しばしば言葉の定義が混乱を呼
ぶことがあり、注意が必要である。
一般的に、ロジック・モデルにおいて、アウトカムとは、インターベンション(プロジ
ェクトによる介入)のアウトプット(産出物)が用いられることによって達成される効果、
または達成された短期的、中期的、長期的な効果のことを指すことが多い。なお、組織に
よっては長期的な効果についてはインパクトと呼んでいるところもある。アウトプット(産
出物)とは、インターベンションの結果として生み出される生産物、資本財とサービスを
指す。インターベンションから生じた変化であって、アウトカム達成に関連する変化を含
むこともある(出所:DAC 援助評価作業部会「評価と援助の有効性:評価および結果重視マ
ネジメントにおける評価用語集」
(日本語版)
)
。
JICA の技術協力プロジェクトでは PDM を用いるが、PDM ではインプットの「投入」に対
して、アウトプットを指して「成果」という日本語を当てている。前述のとおり評価の用
語では「成果」とはアウトカムの訳語に用いられていることが多い。しばしばアウトプッ
トとアウトカムを混同されることがあるので、本ハンドブックでは、多義的な「成果」と
いう語はなるべく使用していない。アウトカムについては、そのまま用いるか、「効果」、
「変化」と表現している。
1-8 アウトカムの考え方
プロジェクトの実施にあたっては、途上国の人々や社会にどのような変化(アウトカム)
をもたらすのか、プロジェクトにより発現を目指すアウトカムおよび指標を適切に設定の
うえ、モニタリング・評価を通じてその達成度を測定・検証することが重要である。
プロジェクトは、分野が異なっても「誰/何の」(対象:個人・組織・社会)
「どのような変化」(内容:能力の向上・課題の解決)を目指すのかの観点で、開発課題
別の標準指標レファレンス等を参照しつつ、明確かつ適切なアウトカムレベルの目標と指
標の設定が必要となる。
指標を設定するにあたり、まず、目標の設定レベルと記述内容を明確にすることが重要
となる。そのうえで、候補となる指標をリストアップするが、「何をどうやって測るのか」
という観点から、目標の内容を更に明確化・具体化する作業となる。さらに、候補指標の
うち最も適切なものに絞り込み、最後に必要なものについてベースラインの把握と目標値
の設定を行う。各項目の要約を、以下に順次記載する。
14
(1)明確な目標の設定
①課題解決に当たってのプロジェクトの位置付けの確認
JICA のプロジェクトは、途上国における開発課題の解決を最終的な目標として、一定
の期間と投入を定めてインターベンションを行い、当該国の受益者・社会システムに変
化を及ぼそうとするものである。こうしたプロジェクトによってもたらされる変化(=
アウトカム)は、実際には様々なレベルで発現するため、一般に「直接アウトカム」「中
間アウトカム」「最終アウトカム」と分けて整理される(図1-6参照)。
図1-6
アウトプットとアウトカム
他方、例えば技術協力プロジェクトにおいては、JICA が用いるログフレーム(=PDM)
では、案件の開始時点で目指すべきアウトカムを「上位目標」と「プロジェクト目標」の
2つのレベルに分けて記載しており、それぞれ「間接的・長期的な効果、対象社会へのイ
ンパクト」「ターゲット・グループや対象社会への直接的な効果」と定義されるため、開
発課題の解決に当たっての「直接」「中間」「最終」のどこに対応するのかは、必ずしも
明らかではない。このため、類似の分野課題で類似の協力アプローチを採用するプロジェ
クトであっても、プロジェクト期間や投入規模によって、目標のレベルが異なっているの
が実情である。
しかし、上述したプロジェクトの本来の目的に立ち戻ると、目標設定の際には「最終的
にどういった開発課題の解決を目指しているのか」をまず明確にする必要がある。そのう
15
えで、期間・投入面での制約条件を勘案しつつ、「課題解決に至る道筋の中で当該プロジ
ェクトはどういった役割を果たすのか(=プログラムのロジック(インプット→アウトプ
ット→アウトカム(直接/中間アウトカム)→インパクト(=最終アウトカム))の中でプ
ロジェクトのロジックはどのように位置づけられるのか)」について検討・明確化する。
その過程において、相手国の国家開発計画やセクター戦略、JICA の国別分析ペーパーや課
題別指針など、既存の政策やプログラムレベルの大きな枠組みを確認し、ロジックの整合
性を確保する。
(2)変化が現れる対象(「誰(何)が」)の明確化
次に、プロジェクトの実施によって、具体的に相手国側の「誰(何)が」変化すること
を目指すのか(=変化が現れるターゲット)を明らかにする。この際、働きかける対象を
「個人」「組織」「社会システム」の三層に分類するキャパシティ・ディベロップメント
(CD)の枠組みを用いると、整理がしやすい。例えば、技術協力プロジェクトの基本的な
アプローチでは、プロジェクトの活動の核となるカウンターパート(CP)[個人]とカウ
ンターパート機関(CP機関)[組織]を選定し、技術移転を通したCPさらにはCP機関全体
の能力向上を通して、その機関が提供する公的なサービスを改善・強化し、さらに、その
サービスを利用する受益者(社会システムの一部)の能力向上によって、一定の面的な広
がりをもった地域における課題の解決を目指す。このように、「個人の能力向上→組織の
能力向上(→サービスの改善・強化)→社会システムの能力向上→開発課題の解決」とい
った大まかな流れを踏まえたうえで、プロジェクト目標と上位目標において、それぞれ「個
人」「組織(サービスを含む)」「社会システム」のどのレベルに変化が現れることを目
指すのかを確認し、具体的に変化が現れる対象を目標の記述において明らかにしておく必
要がある。
(3)変化の内容(「どのように変わる」)の明確化
変化が現れる対象レベルを設定すると同時に、具体的に「どのように変わる」ことを目
指すのかを明らかにする。すでに述べたとおり、開発課題の解決を目的とするプロジェク
トでは、変化の対象がどのレベルであれ、原則としてその「能力」が向上することを目指
すケースが多い。ただし、「組織」および「社会システム」の能力向上については、どう
いった切り口から「能力」を捉えるのかによって、いくつかの表現上のバリエーションが
存在する。たとえば、
1)「組織の能力向上」の場合には、「組織内でシステム/メカニズムが構築されること
や、「実施機関が提供するサービスが改善・強化される」などの表現が用いられるこ
ともある。
16
2)「社会システムの能力向上」の場合には、「対象地域において制度/システムが構築
される」や、「関係者が役割分担のもとに連携する」「サービス利用者(受益者)の
能力が向上する」など、対象地域において関連する個人・組織・制度が総体として課
題解決能力を高める趣旨の表現が用いられる。
※「アウトカムの変化のタイプ」
上に述べたような変化は、それぞれ「相対変化(Relative change)」、「絶対変化(Absolute
change)」、「維持・無変化(no change)」といったタイプに分類することができる。特
に「相対変化」を目標に設定するプロジェクトについては、達成度を確認するうえでベー
スライン値(基準値)の設定とエンドライン値(目標値)の設定が必要である。
表1-5
アウトカムの変化のタイプ
変化のタイプ
ベースライン
エンドライン
(基準値)
(目標値)
相対変化
能力の向上やサービスの強化・改善と
プロジェクト
プロジェクト
(Relative change)
いったプロジェクト開始前の状態と
介入前の値
完了後に変化
比較した場合の相対的な変化を見よ
が期待される
うとするもの
値
絶対変化
制度やシステムの確立、新規の施設・ 「なし」
「あり」
(Absolute change)
機材の導入による効果など、新たに何
(=0)
(=1)
かを創造する場合の絶対的な変化を
見ようとするもの
維持・無変化
何らかの状況の悪化を食い止める、ま
プロジェクト
プロジェクト
(No change)
たは健全な状態を維持するといった
介入前の値
介入前と同じ
場合の状態維持を見ようとするもの
値
留意点として、相対的変化にあるプロジェクトの前後を比較する方法は、簡便ではあるが、
プロジェクトの外的要因による変化を排除できないという限界がある(下記例参照)。
本ハンドブック4-3の「インパクト評価」はこのような指摘に対応するひとつの方策である。
(例)プロジェクト実施地域で農業生産が20%増加した場合であっても、当該年度の気
象(晴天日、雨量等)による生産性向上の寄与が5%とすると、プロジェクトの寄与分は20%
-5%=15%となる。
1-9 教訓・評価結果の活用
JICA の事業評価では、評価を実施するだけではなく、プロジェクトの各段階の評価結果
17
が PDCA サイクルの「Action(Act)」に繋がるようにフィードバック体制を強化している。
フィードバックは、当該プロジェクトの改善に関する提言、実施中あるいは将来の類似プ
ロジェクトに対する教訓に加え、今後は JICA の協力プログラムや国別分析ペーパー、課題
別指針等へのフィードバックをさらに強化していく必要がある。また、相手国政府への評
価結果のフィードバックや評価の合同実施は、評価結果が今後の JICA のプロジェクト、JICA
による相手国への協力プログラム、相手国政府の開発政策等の上位政策にも反映されるう
えで重要である。
図 1-7
①
評価結果の活用
JICA の基本的方針への反映
課題別指針、協力プログラム等の改善
②
プロジェクトへの反映
(事前評価等)
評価対象プロジェクトの改善、実施中あるい
は将来の類似プロジェクトの改善
③
Action
相手国政府の政策等への反映
相手国政府のプロジェクト、プログラム、開
発政策等に反映
<教訓の必要性>
評価結果
 提言
 教訓
<プロジェクトへの反映について>
教訓とは、
「経験を通じて得られるナレッジ」であり、それらを活用する最大の目的は、
「学習する組織(Learning Organization)」としてより良い事業の実施に繋げ、効果の最
大化を図ることにある。
評価結果から得られた教訓は、JICA の事業マネジメント上の重要なナレッジである。個
別プロジェクトの評価における教訓抽出の目的も、
「プロジェクトの効果及び持続性の向上」
のために活用するためのものと言える。事業の PDCA サイクルを通じて得られた失敗や成功
体験は、モニタリングや評価を通じて確実に記録し、リスク管理を徹底し同じ失敗の再発
を避け、成功体験を積極的に活用する、といった学習の機能が不可欠である。
また、個別プロジェクトの評価結果から得られるプロジェクトの PDCA の各段階上で浮か
び上がってくる類似性の高い教訓を集めて横断的に分析・加工を行い、より汎用性及び実
用性の高い教訓に「ナレッジ化」することにより、実際の事業の計画から実施や、各種ス
キームや制度の改善などにより具体的なフィードバックが可能となる。その改善に向けて、
18
いくつかの分野課題を対象に、ナレッジ化(ナレッジ教訓の抽出)の試みを行った。
<「個別プロジェクト教訓」と「ナレッジ教訓」の質の向上のために>
教訓が類似案件の形成や、各種制度改善などに具体的に活用・反映されるためには、教
訓情報自体の「質」の確保と向上が不可欠となる。教訓の「質」(実用性)の観点からは、
教訓抽出に当たって以下の 4 つの視点が重要である。
① 「情報の具体性」
(必要な情報が具体的に記載されているか)
② 「論理性」
(評価分析結果との整合性はあるか)
③ 「汎用性」
(類似案件への適用可能性はあるか)
④ 「実現可能性」
(実施可能で、具体的な解決対応策が示されているか)
前述のとおり、個別プロジェクトの評価を通じ、教訓の「質」を高めるためには、個別
プロジェクトからの教訓情報の質を高め、ナレッジ化(横断的に分析・加工)し、実用性、
汎用性の高いナレッジ教訓に変換するプロセスが必要となる。そのため、教訓を 2 つのカ
テゴリーに分類し、教訓として管理すべき対象を明確化している。
① 個別プロジェクトの評価等から得られた一次的な教訓情報→「個別プロジェクト教訓」
② 「個別プロジェクト教訓」を分析・加工した二次的な教訓→「ナレッジ教訓」
「個別プロジェクト教訓」
:
問題が発生(または成功)した原因とその対策;誰(組織・担当者等)がどの時点・段
階で(タイミング)
、どのような課題に対して、何をすべきであったか、が明確な個別の一
次的な教訓情報。
「時点」
、
「場所」
、
「対応者」
、「内容」、
「背景・理由」
、「やっておいてよか
ったこと/やっておくべきだった対応策」の各要件を含めることにより、個別プロジェクト
からの教訓の実用性が高まる。
「ナレッジ教訓」
:
国/地域、分野課題及び事業マネジメントの 3 領域で、複数の「個別プロジェクト教訓」
を横断的に分析・加工することにより、実用性及び汎用性が高く、頻出する失敗や成功体
験としての重要教訓を整理する。特にプロジェクトリスクマネジメントの観点から、過去
において頻出する課題やリスクが整理されることにもつながり、リスク管理にも活用され
ることが期待される。「適用条件」、
「想定されるリスク」、「時点」、「対応者」、「(想定され
る)対応策(アプローチ)
」
、
「期待される効果」の各要件を満たす必要がある。
<事業関係者へのフィードバックの仕組み>
① JICA 内部でのフィードバック
前述の「個別プロジェクト教訓」や「ナレッジ教訓」は、プロジェクトの PDCA サイクル
19
の各段階においての活用が重要である。特に案件立ち上げや形成段階における過去の重要
教訓の参照とリスク対応により、リスクの回避や軽減緩和が可能となるので、JICA 在外事
務所における案件形成、本部事業部門等における案件審査および採択後の計画段階におけ
る十分な活用を図る。
さらには、ナレッジ化された「ナレッジ教訓」については、JICA 課題別指針や、ポジシ
ョンペーパー、国別分析ペーパー等の事業方針や戦略関連文書に、留意事項として記載反
映することにより、これらナレッジ教訓の組織的な認識度が高まることも期待できる。
② JICA 外部へのフィードバック
JICA と相手国政府は、評価結果のフィードバックを通して、プロジェクトの効果を継続
あるいは向上させるためにどのような措置が必要かについて認識を共有する。相手国側は、
必要な措置を実行に移すための計画を、当該国における次のプロジェクトの策定に活用し、
実施することが期待される。
具体的には、合同評価の実施(主に技術協力プロジェクト)
、フィードバックセミナーの
開催、事後評価結果に対するコメント取り付け(3 スキーム共通)等がある。
<一般的なアカウンタビリティのための仕組み>
各案件の事業評価報告書の公開、JICA 事業評価年報や評価結果概要のホームページ掲載、
JICA 図書館を通じた報告書の公開等がある。
表 1-6 JICA における評価結果の活用の取り組み
評価結果の活用
対象
フィードバック
JICA
主な取り組み
教訓の蓄積
評価結果の横断分析
新規案件形成の際に、事業事前評価表への教訓
活用項目に記載
実施方針等に評価結果の教訓を反映
評価研修の実施
相手国政府
フィードバックセミナーの開催
事後評価結果に対するコメント取り付け
アカウンタビリティ
日本・相手国
の国民
報告書の配布
ホームページでの評価結果の公表
20
第2章
事前評価
事前評価の結果は計画内容の改善とプロジェクト実施の決定に活用される。事前評価は、
「結果に基づくマネジメント(Result-based Management: RBM)
」の考え方に基づき、プロ
ジェクト計画が適切か、プロジェクト期間内で想定されたプロジェクト目標の達成が可能
か、等を検討する。事前評価は、プロジェクトの目標を設定し今後のモニタリング・評価
計画を作成するものでもあり、プロジェクト・サイクルを通してプロジェクトを適切に運
営管理するために不可欠なステップである。
21
2-1 事前評価の概況
プロジェクトの事前段階で「事前評価」を実施する。事前評価は、事業実施前にその優
先度や必要性を確認し、協力内容や予想される協力効果の検証、協力効果を測定するため
の指標の設定などを行う。また、事前評価では、環境社会配慮に関する審査結果や過去の
事業の教訓が適切に反映されているか否かも確認する。
このような観点から行われる事前評価の結果は、その後のプロジェクトの実施・計画内
容についての意思決定に反映される。また、プロジェクト開始後は事前評価時に定められ
た評価計画や評価指標に基づき、モニタリングと評価に活用される。このように、事前評
価は、プロジェクトの目標を設定し今後の評価計画を作成するものでもあり、プロジェク
ト・サイクルを通してプロジェクトを適切に運営管理するために不可欠なステップである。
〈事前評価の目的と特徴〉
事前評価では、計画内容の DAC 評価 5 項目の観点からの検証と、その実施の必要性・妥
当性の判定が大きな目的になる。
事前評価の特徴のひとつは、実績や実施プロセスの過去のデータではなく予測・見込み
に基づき評価を行うことである。具体的には、この計画で実施すると本当に効果はあがる
か、その効果はきちんと把握・検証できるように計画されているか、等の視点から検証す
る9。
これらの検証結果を、計画立案作業に適宜フィードバックし適切な計画を立てることが、
効果的な事業運営につながっていく。
2-2 事前評価の視点
プロジェクトの計画案を踏まえて事前評価を行う際の視点は、表 2-1 のチェックリスト
のとおりである。
現地調査の前にこれらチェックリストを参照し、調査項目に漏れがないか確認し、調査
計画に反映させる。事前評価では計画の適切性を検討するため、計画の組み立てと実施プ
ロセスに関するチェック項目も挙げた。計画の組み立てと実施プロセスには、必ずしもロ
グフレームには記載されないが、事前評価で確認すべき事項を挙げている。なお、ここに
挙げたものは主な視点であるので、プロジェクトの内容に応じ、適宜、調査事項を取捨選
択・追加する10。
9
効果が検証・把握できるのかといった視点を盛り込んだ評価調査の方法論として、
「評価実施可能性調査
(Evaluability Assessment)
」がある。評価対象の事業が評価可能な最低限の条件を満たしているかどうか
を、事業の論理性、目的の明確さ、指標の設定状況に注目して定性的な調査を通して明らかにしようとし
th
たものである。
(詳しくは、Rossi, PH., Freeman H.E., Lipsey, M.W., Evaluation –A systematic approach, 6
ed, 1999, SAGE Publication, p157 を参照)
10
例えば、プロジェクトの実施体制が不明確な場合、カウンターパート候補機関の詳細な職務範囲や人
22
表 2-1
事前評価の主な視点
(1) 技術協力プロジェクトに関する事前評価の主な視点
項目
評価の視点
計画の内容
 上位目標、プロジェクト目標、アウトプットの内容は明確か?(内容を関
係者が明確に共有できるものか?)各指標はそれぞれの内容を的確に捉え
ているか?また、各指標の達成度は測定や確認が可能なものか?
 上位目標やプロジェクト目標のレベル、プロジェクトのスコープは、プロ
ジェクト期間と投入量に照らし適切であるか?
 各指標のデータの入手方法は客観性、再現性(繰り返し同じような結果が
得られる)が確保されているか?
 各指標のデータは容易に入手できるものか?入手するためのコスト・手間
計画の
がかかり過ぎないか?
組み立て  ターゲット・グループは明確かつ適切に設定されているか?上位目標レベ
ルの受益者が明確になっているか?
*下記評価
項目と一
部重複が
あるが、
事前評価
でまず確
認すべき
こととし
て 挙 げ
る。
 カウンターパート機関の選定は適切か?カウンターパート機関の役割や権
限に合致したプロジェクト内容が計画されているか?
 他スキームとの連携、他援助機関との協力が考慮されているか?
因果関係
 活動→アウトプット→プロジェクト目標→上位目標は、それぞれ手段→目
的の関係になっているか?
 アウトプットを産出するための前提条件、外部条件は適切に設定されてい
るか?(前提条件→活動の実施→外部条件の充足→アウトプットの産出、
のロジックは正しいか?)
 プロジェクト目標を達成するための外部条件は、適切に設定されている
か?(アウトプットの達成→外部条件の充足→プロジェクト目標の達成、
のロジックは正しいか?)
 上位目標を達成するための外部条件は、適切に設定されているか?(プロ
ジェクト目標の達成→外部条件の充足→上位目標の達成、のロジックは正
しいか?)
 パイロット/モデル事業を実施してその普及展開を目指すプロジェクトの
員・予算等に関する項目が多くなる。プロジェクト目標が明確に絞り込めていない場合、プロジェクト目
標設定に関する項目を洗い出す。プロジェクトが協力プログラムの一部として計画される場合、JICA の他
スキームとの連携や他援助機関との協力のしくみやその成果を考慮する。
23
場合、プロジェクト実施中及び協力終了後における普及のためのシナリオ
および具体的な支援の方策が検討されているか?パイロット・サイトから
他地域・全国への普及に至るロジックは適切か?
 フェーズ 2 の場合、フェーズ 1 で残された課題は何か?その課題に対応す
る計画となっているか?
 プロジェクトのマネジメント体制(モニタリングの仕組み、意思決定過程
等)に問題はないか?
 適切かつ十分なカウンターパートが配置されるか?
実施
プロセス
(予測)
 日本側・相手国側とも活動を計画どおりに行うための投入(専門家、カウ
ンターパート、予算等)は保証されているか?実施機関/カウンターパー
ト職員のプロジェクト内容に対する認識、理解は十分か?
 ターゲット・グループや関係組織のプロジェクトへの参加度やプロジェク
トに対する認識は高い、もしくは高まることが期待されるか?
 その他、プロジェクトの実施過程で留意しなければならない事柄や活動を
阻害する要因はあるか?発生しうるリスクへの対処は想定されているか?
《DAC 評価 5 項目》
開発政策との整合性
 相手国の開発政策及び開発計画との整合性はあるか?
開発ニーズとの整合性
 対象国・地域・社会のニーズに合致しているか?
 開発ニーズの高い対象地域が選定されているか?
 ターゲット・グループのニーズに合致しているか?
日本の援助政策との整合性
 日本の援助政策・外務省の国別援助方針との整合性はあるか?
妥当性
 JICA の国別分析ペーパーとの整合性はあるか?
手段としての適切性
 プロジェクトは相手国の対象分野・セクターの開発課題解決の手段として
適切か?(プロジェクトのアプローチは適切か、効果の普及展開の実施可
能性が十分に高いか、対象地域の選定は適切か、他援助機関の事業との相
乗効果があるか/重複は無いか、等)
 ターゲット・グループの選定は適切か?(対象、規模、男女比等)
 ターゲット・グループ以外への効果の波及性はあるか?
 日本が協力する優位性があるか?(日本に対象技術のノウハウが蓄積され
ているか、日本の経験を活用できるか、等)
24
プロジェクト目標の内容
 プロジェクト目標は明確に記述されているか?
 プロジェクト目標の指標は目標の内容を的確に捉えているか?指標の達成
度は測定や確認が可能なものか?
 プロジェクト目標の指標及び目標値は、ベースライン・データに照らし合
わせて妥当か?
 プロジェクト目標の指標入手手段は適切か?(必要な指標を測定している
か、コストがかかり過ぎないか、再現性があるか、モニタリングの手段と
して使えるか、等)
アウトプットの内容
 アウトプットは明確に記述されているか?
 アウトプットの指標は内容を的確に捉えているか?指標の達成度は測定や
確認が可能なものか?
 アウトプットの目標値は妥当か?
有効性
(予測)
 アウトプットの指標入手手段は適切か?(必要な指標を測定しているか、
コストがかかり過ぎないか、再現性はあるか、モニタリングの手段として
使えるか等)
因果関係
 プロジェクト目標は、プロジェクト終了までにプロジェクト実施の結果と
して達成されるものであるか?
 プロジェクト目標を達成するために必要なアウトプットが計画されている
か?
 設定された投入・期間で達成されるアウトプット/プロジェクト目標にな
っているか?
 アウトプットが産出されて、外部条件が満たされれば、プロジェクト目標
は達成されるか?それらは外部条件として設定されることが適切か?外部
条件は適切に認識されているか?
 活動からアウトプットに至るまでの外部条件は適切に認識されているか?
それらは外部条件として設定されることが適切か?
 外部条件以外にプロジェクト目標の達成を阻害する要因、リスクはある
か?
因果関係
効率性
(予測)
 アウトプットを産出するために必要な活動が計画されているか?
 活動を行うために過不足ない量・質の投入が計画されているか?
 他のスキームとの連携及び他援助機関との協力による相乗効果の発現を考
慮した投入計画となっているか?
25
期間、タイミング
 事業期間は事業計画に見合った設定となっているか(プロジェクト目標の
達成に必要な期間が設定されているか)?
 投入のタイミングは適切に計画されているか?
コスト
 事業費は事業計画に見合った設定となっているか(計画金額以内でプロジ
ェクト目標の達成、アウトプットの産出が可能か)?
 よりコストを抑えてアウトプットを産出する代替手段はないか?
上位目標の内容
 上位目標は明確に記述されているか?
 上位目標の指標は目標の内容を的確に捉えているか?
 上位目標の指標及び目標値は、ベースライン・データに照らし合わせて妥
当か?
 上位目標の指標入手手段は適切か?(必要な指標を測定しているか、指標
を入手するためのコストがかかり過ぎないか、再現性はあるか、モニタリ
ングの手段として使えるか、等)
因果関係
 上位目標は、プロジェクト実施の結果として発現が見込まれるか?
 プロジェクト目標が達成されて、外部条件が満たされれば、上位目標は達
成されるか?それらは外部条件として設定されることが適切か?外部条件
インパ
クト
は適切に認識されているか?
 外部条件以外に上位目標の達成を阻害する要因、リスクはあるか?
(予測)  上位目標と解決すべき開発課題の関連性は明確か?
 パイロット・サイトを対象とするプロジェクトでは、プロジェクト効果の
他地域への普及を支援する取り組みが担保されているか?
波及効果
 上位目標以外の効果・影響が想定されるか?
特にマイナスの影響につい
てはそれを軽減するための対策は取られているか?
【社会環境】
・政策の策定及び法律・制度・基準等の整備への影響
・対象社会、プロジェクト関係者、受益者等への経済的影響、等
・ジェンダー、人権、貧富等社会・文化的側面への影響
【自然環境】
・自然環境への影響
26
政策・制度面
 協力終了後も政策面からの支持は継続される見込みがあるか?
 法律、関連規制、制度は整備されているか? 整備される予定か?
体制面
 協力終了後も、効果を持続していくための活動を実施する組織能力を持ち
うる見込みはあるか?(人材配置、意思決定プロセス、実施機関の業務所
掌等)
持続性
(予測)
*持続性
(効果の
持続性)
の担保に
不可欠な
事柄(プ
ロジェク
ト内容に
より異な
る)を見
極めて調
査を行う
 プロジェクトを開始する前から、実施機関のプロジェクトに対するオーナ
ーシップは十分に確保されているか?
財務面
 プロジェクト実施に必要なカウンターパート予算は確保されるか?
 プロジェクト終了後の事業の継続や普及展開に必要となる実施機関の予算
確保の見込みはあるか?
 実施機関による予算確保に向けた措置は十分に講じられているか?
技術面
 プロジェクトで導入される技術を受容し、実施出来る技術力を実施機関は
有しているか、または、有する見込みがあるか?
 プロジェクトの対象地域以外へ技術を普及できる技術力と仕組みを実施機
関は有しているか、または、有する見込みがあるか?
 プロジェクトで導入予定の資機材の維持管理計画は妥当か?
社会・文化・環境面
 女性、貧困層、社会的弱者への配慮不足により効果の持続を妨げる可能性
はないか?
 環境への配慮不足により効果の持続を妨げる可能性はないか?
その他
 持続性を阻害するその他の要因、リスクはあるか?
27
(2) 資金協力(有償資金協力・無償資金協力共通)に関する事前評価の主な視
点
項目
評価の視点
計画の内容
 アウトプット、アウトカム、インパクトの内容は明確か?(内容を関係者
が明確に共有できるものか?)各指標はそれぞれの内容を的確に捉えてい
るか?各指標の達成度は測定や確認が可能なものか?
 アウトカムのレベル、事業のスコープは、プロジェクト期間と投入量に照
らし適切であるか?
 各指標のデータの入手方法は客観性、再現性(繰り返し同じような結果が
得られる)が確保されているか?
 各指標は容易に入手できるものか?入手するためのコスト・手間がかかり
過ぎないか?(当該事業の効果だけを測るために測定・収集しないといけ
ないような指標ではなく、運営・維持管理を担当する組織の通常オペレー
計画の
ションの中で当該セクターであれば常識的に収集すべきデータで且つ事業
組み立て
の効果も測定・確認できるようなものを指標として設定することが望まし
い。通常オペレーションの中でモニタリングしていないような指標を運
*下記評価
項目と一
部重複が
あるが、
事前評価
でまず確
認すべき
こととし
て挙げ
る。
用・効果指標として設定する場合には、事業の中にモニタリング・評価シ
ステムの構築等が含まれているか。
)
 事業の受益者は明確かつ適切に設定されているか?
 実施機関の選定は適切か?事業を実施する上で必要な権限、役割を有する
実施機関の関与があるか?
 他スキームとの連携、他援助機関との協力が考慮されているか?
因果関係
 アウトプット→アウトカム→インパクトは、それぞれ手段→目的の関係に
なっているか?
 アウトプットを産出するための前提条件、外部条件は適切に設定されてい
るか?(前提条件→インプット→外部条件の充足→アウトプットの産出、
のロジックは正しいか?)
 アウトカムを達成するための外部条件は、適切に設定されているか?(ア
ウトプットの産出→外部条件の充足→アウトカムの達成、のロジックは正
しいか?)
 インパクトを達成するための外部条件は、適切に設定されているか?(ア
ウトカムの達成→外部条件の充足→インパクトの達成、のロジックは正し
いか?)
28
 事業のマネジメント体制(モニタリングの仕組み、意思決定過程等)に問
題はないか?
 適切かつ十分なカウンターパートが配置されるか?
 日本側・相手国側の投入の分担は明確且つ適切か?
実施
プロセス
 日本側・相手国側とも活動を計画どおりに行うための投入(体制、予算、
負担事項等)は保証されているか?
(予測)  監督官庁、実施機関、整備される施設・設備・資機材等の運営・維持管理
を担当する組織の事業内容に対する認識、理解は十分か?
 その他、事業の実施過程で留意しなければならない事柄や活動を阻害する
要因、リスクはあるか?発生しうるリスクへの適切な対応策は想定されて
いるか?
《DAC 評価 5 項目》
開発政策との整合性
 相手国の開発政策及び開発計画との整合性はあるか?(国・地域・セクタ
ー等の各レベル)
開発ニーズとの整合性
 対象国・地域・社会のニーズに合致しているか?
 開発ニーズの高い対象地域が選定されているか?
 受益者のニーズに合致しているか?
日本の援助政策との整合性
 日本の援助政策・外務省の国別援助方針との整合性はあるか?
妥当性
 JICA の国別分析ペーパーとの整合性はあるか?
手段としての適切性
 事業内容は相手国の対象分野・セクターの開発課題に対する効果を上げる
戦略として適切か?(事業のアプローチが適切か、対象地域は適切か、他
援助機関の事業との相乗効果があるか/重複は無いか、等)
 受益者の選定は適正か?(対象、規模等)
 (該当する場合)計画時に想定された受益者以外へのアウトカムの波及性
はあるか?
 (該当する場合)日本の技術を用いる優位性はあるか?(日本に対象技術
のノウハウが蓄積されているか、日本の経験を活用できるか、等)
29
アウトカムの内容
 アウトカムは明確に記述されているか?
 アウトカムの指標は目標の内容を的確に捉えているか?指標の達成度は測
定や確認が可能なものか?
 アウトカムの指標及び目標値は、ベースライン・データに照らし合わせて
妥当か?
 アウトカムの指標に係るデータ入手手段は適切か?(必要な指標のデータ
有効性
(予測)
を測定しているか、データを定期的に入手するためのコストがかかり過ぎ
ないか、モニタリングの手段として使えるか、等)
因果関係
 アウトカムを達成するために必要なアウトプットが計画されているか?
 アウトプットからアウトカムに至るまでの条件は適切に認識されている
か?外部条件がある場合、それらは外部条件として設定されることが適切
か?
 前提条件、外部条件以外にアウトカムの達成を阻害する要因、リスクはあ
るか?
インプット、アウトプットの内容
 インプット、アウトプットは明確に記述されているか?
因果関係
 アウトプットを産出するために必要な量・質の投入が計画されているか?
 他のスキームとの連携及び他援助機関との協力による相乗効果の発現を考
慮した投入計画となっているか?
 インプットからアウトプットに至るまでの条件は適切に認識されている
か?外部条件がある場合、それらは外部条件として設定されることが適切
か?
効率性
期間、タイミング
(予測)  事業期間は事業計画に見合った設定となっているか?(事業の完了は、計
画以内となりうるか)
 前提条件、インプットのタイミング・方法(調達方法、施工方式等を含む)
は適切に計画されているか?
相手国側の投入、負担事項が適切なタイミ
ングで実施される見込みか。
コスト
 事業費は事業計画に見合った設定となっているか?(事業は計画金額以内
でアウトプットの産出が可能か)
品質
□アウトプットの品質管理体制・方法は適切か?
30
インパクトの内容
 インパクトは明確に記述されているか?
因果関係
 インパクトは、事業実施の結果として発現が見込まれるか?
 アウトカムからインパクトに至るまでの外部条件は適切に認識されている
か? 外部条件が満たされる可能性は高いか?
インパ
クト
 インパクト発現を阻害する要因はあるか?
 マイナスの影響についてはそれを軽減するための対策は取られているか?
(予測) 【社会環境】
・政策の策定及び法律・制度・基準等の整備への影響
・対象社会、プロジェクト関係者、受益者等への経済的影響(用地取得や
住民移転による影響含む)
・ジェンダー、人権、貧富等社会・文化的側面への影響
【自然環境】
・自然環境への影響
体制面
 事業完成後、事業効果を持続していくために、事業を構成する施設・設備・
資機材の運営・維持管理に係る責任・権限と役割(実施機関と運営・維持
管理機関が異なる場合には、設備・資機材の所有権や実施機関と運営・維
持管理機関の間の債権・債務関係の移転の方法等)は明確になっているか。
持続性
(予測)
 運営・維持管理を行う組織は、効果を持続していくための十分な組織能力
を有しているか?
あるいは持ちうる見込みはあるか?(人材配置、意思
決定プロセス、実施機関の業務所掌、等)
*持続性
(効果の
持続性)
の担保に
不可欠な
事柄(事
業内容に
より異な
る)を見
極めて調
査を行う
 事業を開始する前から、実施機関の事業に対するオーナーシップは十分に
確保されているか?
財務面
 経常経費を含む予算・資金の確保は行われているか?
当該国側の予算措
置は十分に講じられているか?
 受益者負担を伴う場合には、適切な料金水準が設定されているか?
ある
いはされる見込みはあるか?
技術面
 事業に伴い導入される技術は実施機関により受容され、継続的に実行され
うるものか?
 事業で導入予定の施設・設備・資機材の運営・維持管理計画は妥当か?
運営・維持管理状況
 事業によって建設された施設及び購入された機材について、適切な運営・
31
維持管理がなされる見込みか?
 スペアパーツが容易に調達できるか?
 メンテナンス契約が必要な場合、適切な締結先があるか。
社会・文化・環境面
 女性、貧困層、社会的弱者への配慮不足により持続的効果を妨げる可能性
はないか?
 環境への配慮不足により持続的効果を妨げる可能性はないか?
その他
 持続性を阻害するその他の要因、リスクはあるか?
2-3 事前評価のプロセス
(1)事前評価のデザイン
事前評価は、想定されたプロジェクトの計画案をもとに、そのプロジェクトの実施妥当
性を検討するための評価設問を組み立てる。必要に応じ評価グリッドを作成する11。
以下に、事前評価における評価のデザインのポイントを事例とともに挙げる。
〈評価設問を考えるときのポイント〉
事前評価では、
「プロジェクトを実施することが妥当か」が主要な評価設問になる。これ
を、計画の組み立て、実施プロセス、DAC 評価 5 項目の観点からさらに具体的に検討してい
くという視点で評価設問のブレークダウンを考える12。
<判断基準・方法を検討するときのポイント>
事前評価段階では、計画内容をログフレームに沿って見込みや予測に基づき評価を行う
ことが基本である。実施後に期待される変化、その変化がプロジェクトによるものかの因
果関係、等の検討を行う。また、実績については、見込みで予測するとともに、実績を検
証するための指標を設定する。指標の設定にあたっては、データの収集可能性や入手方法
を確認する。指標のベースライン値として、当該国の既存の政策文書や他援助機関による
11
評価グリッドを作成しない場合でも、どのような評価設問を設定し調査を行うかという意味での評価の
デザインは必要である。
12
例えば、計画内容は適切か、計画した投入でプロジェクト目標が達成されるか、投入-活動-アウトプ
ット-プロジェクト目標-上位目標のロジックは適切か、プロジェクトの各コンポーネントの構成は適切
か、実施機関のマンデートに沿ったアプローチの選択は適切か、プロジェクト実施による負の影響はない
か、指標設定は適切か、等の評価設問が考えられる。なお行政機構のマンデートや能力を見る視点は、
「行
政機構診断ハンドブック」
(JICA 公共政策部、2009)を参照。
32
報告書等を参考に設定することも一案である。既存データが無く、ベースライン調査が必
要な場合は、その調査方法、時期も具体的に検討しておく。
(2)事前評価からの情報の解釈とまとめ
事前評価からの情報の解釈の中心は、DAC 評価 5 項目の項目ごとの評価である。その結果
は「事業事前評価表」として取りまとめられる。
事前評価のプロセスで明らかになった阻害要因や制約要因は、プロジェクトの計画内容
へフィードバックし、できるだけそれら要因の影響を受けないよう対策を講じた上で、計
画内容を確定する。一方、プロジェクト開始後の留意点や、開始後のプロセスの中で見直
す必要性があると判断された事柄を記載する。これらの留意点は、プロジェクト開始後の
モニタリングの対象としても重要であり、プロジェクト目標やアウトプットの達成度のチ
ェックとあわせて、モニタリング対象項目として位置づける。
事前評価では、類似案件の報告書やナレッジ教訓等を活用し類似案件からの教訓を適切
に収集し、計画立案に活用する13。また、どのような案件のどういう点を具体的に活用した
か(活用する予定か)
、類似案件からの教訓に加え当該案件の現状に照らし新たにどのよう
な点を工夫したのか(工夫する予定か)、等がわかるよう、報告書等の記録に残しておく。
事業事前評価表は、公開されることを念頭に、誰が見てもわかりやすいよう、また事業
事前評価表だけで必要事項が網羅されているよう、記述する。
(3)プロジェクト目標とロジックの適切な組み立てを確認
明確な事業内容とロジックの適切な組み立てはプロジェクトの順調な実施から事後評価
に至るまで、重要なものであり、次のような点を確認しながら案件を計画する。
・目指す事業内容・レベルが適切に言語化されているか?
・評価可能性があり、現実的な内容、達成レベルとなっているか?
・関係者の合意は得られているか?
・解釈の余地なく明確に記載されているか?
・インプット―アウトプット―アウトカム―インパクトの間のロジックは適切か?
こうした視点をもって検討し、さらに次の「定型文」に当てはめてみる。
「本事業は、
(対象地域)において、
(アウトプット)することにより、
13
評価結果活用を通じた事業改善を促進するため、事業事前評価表に「過去の類似案件の教訓活用」欄が
設けられている。
33
(アウトカム/プロジェクト目標)を図り、
もって(インパクト/上位目標)に寄与するものである。」
これらの検討により、
「誰(何)がどう変化すれば目標達成か」が特定できる、達成度が
指標で測定可能で(指標が測定できるものである)、「どこで(対象地域)」「誰に(受益者
/ターゲット・グル―プ)
」が明確な事業計画となり、適切な案件監理も可能となる。
次に、アウトカムやアウトプットの指標の設定に関するよくある問題と改善案を紹介す
る。何度かログフレームの改訂を経たと考えられる事後評価の段階でも指標に問題のある
案件が散見され、適切な評価判断が困難となるケースが見られる。そのような事態を避け
るためにも事前評価における適切な指標の設定が重要である。
プロジェクト目標等の指標設定に関する「よくある問題」と改善案
1. ベースライン値が設定されていない
ベースライン・データ(現状値/基準値、または単にベースラインともいう)は、選定
された指標のプロジェクト開始前の状況を示す。ベースラインが把握されていないと、
プロジェクトにより引き起こされた変化の正確な評価が困難になるだけでなく目標値の
設定に際しても選定した指標の変化の程度を具体的に示すことができない。
ベースライン値の設定には、計画段階において、既存の文献資料調査、PCM ワークショ
ップ(技術協力の場合)、フォーカスグループ・ディスカッション、アンケート・インタ
ビュー調査等を通じてベースライン・データの収集・整理を行う。なお、既存の資料・
データ等で十分なベースライン・データの把握が困難な場合は、プロジェクト開始後な
るべく早い時期にベースライン・データを収集するためのベースライン調査を実施する。
2. ベースライン値に基づいた目標値が設定されていない
目標値とは、
「指標」がプロジェクト等によって、ある一定の期間において、量的ある
いは質的に改善される程度を示し評価の判断基準を提供する。しかし、JICA の技術協力
プロジェクトでは、指標はあってもベースライン値に基づいた目標値が設定されていな
い事例が少なくない。
目標値は、ターゲット・グループのニーズ、対象地域が属す大きな平均値(例:国や
県の平均等)
、類似プロジェクトの成功例、専門機関による目標値(例:WHO の水質基準
等)
、開発計画等で相手国が使っている目標値等を参考に検討する。
事前評価段階で適切な指標設定に必要なデータがない場合には、
「X%増加する」等と
記載することも可能だが、その場合はプロジェクト開始早々に目標値を設定することが
求められる。この場合の目標値設定のタイミングとしては、ベースライン調査終了時や
最初の合同調整員会(JCC)開催時、等が考えられる。詳細の目標値を改めて設定するこ
34
とが予定されている旨を事業事前評価表に記載しておく。
3. 指標の使用可能性に問題がある
指標の使用可能性とは指標が実際に使えるレベルまで具体化されているかをさす。例
えば、「成功した中堅技術者の数」という指標は、「成功した」とは具体的にどのような
ことを意味するのか明確にしなければ実際に測定はできない。そのため、
「職業訓練終了
後 1 年以内に就職できた人」や「給料が上がった人」等、
「成功」に対する定義が必要と
なる。
このような問題を避けるためには、計画段階で問題分析を十分に行い、プロジェクト
によって、具体的に何を測ることで達成度を評価するのかを明確にする。
4. 指標の直接性/的確性に問題がある
指標の直接性/的確性とは、プロジェクト目標等を、より直接的に表しているか否かを
さす。より直接的な指標は、目標をより的確に表すことになり分かりやすい。そのため、
プロジェクト目標等の指標としては、指標の測定方法の実用性を配慮した上で、より直
接性/的確性のある指標を選定することが望ましい。指標が目標を直接的に表していない
ケースとして、特に「○○システム(モデル、体制)の確立」等をプロジェクト目標と
して設定している案件が挙げられる。
「○○システム(モデル、体制)の確立」等をプロジェクト目標として設定する場合
には、計画段階において、何をもって「○○システム(モデル、体制)
」というのか、何
をもって「確立された」と判断するのか、関係者間で明確化した上で、指標を設定する。
5. 指標の過不足が指摘される
「指標の数」は、データ収集に当たっての測定コストともかかわってくることから、
あまり多すぎないことが望ましい。一方、指標が少なすぎれば、プロジェクトの達成度
を的確に反映するものでなく「直接性」が損なわれる恐れがある。目安としては、プロ
ジェクト目標ひとつあたり、2 つから 4 つの指標が望ましいと考えられる。
JICA の技術協力プロジェクトでは、指導員の育成がプロジェクト目標として設定され
ることが多いが、こうした場合には、研修コースを受講した指導員の「数」だけしか指
標が設定されないケースがよくみられる。このような場合には、指導員として習得すべ
き専門技術を「質」的観点からも表す指標を設定することが望ましい。なお、指導員の
「質」の向上を測る方法として、資格試験の結果等の客観的な数値を示すことが適当で
ある。しかし、そうした基準がない分野においては、例えば目標管理システムを導入し
て、各部門につき定期的に専門家、関係者等が個々のカウンターパート(C/P)の技術移
転の進捗を評価表(レーティング等)によりモニタリングすることを活動として盛り込
むことも一案である。
35
6. 指標やプロジェクト目標が、アウトプットの言い換えとなっている(因果関係のロジ
ックに問題がある)
JICA の技術協力プロジェクトでは、因果関係のロジックそのものに問題があるために、
適切な指標が設定されていないケースも見られる。例えば、指標やプロジェクト目標が
アウトプットの言い換えとなっている場合等がある。
指標やプロジェクト目標が、アウトプットの言い換えとなっているような問題を避け
るためには、アウトプットの効果としてプロジェクト目標が達成されるという因果関係
をロジックモデルで再整理した上で、双方の指標の重複を避ける。
また、指標は「達成された状態」が明確にわかるように具体的に記述する。指標を明
確に記述することで、アウトプット・プロジェクト目標・上位目標のそれぞれの意味す
るものがより明確になる場合がある。
2-4 スキーム別の特記事項
(1)技術協力プロジェクトに関する特記事項
技術協力プロジェクトの事前評価は、事前の調査(詳細計画策定調査14)の中で行われる。
詳細計画策定調査は、①事業計画の評価(事業事前評価表の作成に必要な事業計画の妥
当性、有効性等の確認)と、②事業の計画策定(PDM,PO 等)の 2 つの目的を伴う。詳細計
画策定調査の成果品は、
「ログフレーム(JICA の技術協力プロジェクトにおける PDM)と実
施計画(PO)
」及び「事業事前評価表」である15。
「技術協力プロジェクトの開発課題別の標準指標例及び代表的教訓レファレンス」を
2014 年度から整備していることから、案件形成時にこれを活用することが望まれる。
(2)有償資金協力のうち円借款事業に関する特記事項
事業効果に関し、
「運用・効果指標リファレンス」
(2000 年度作成、2014 年度改定)には、
主要セクターの運用指標および効果指標が列挙され、各指標の定義や使用上の留意点がま
とめられている。審査時には、JICA 職員が実施機関と協議の上で「リファレンス」を参照
し、適切な指標を設定する。指標の中には、運用指標なのか効果指標なのかを区別するの
が困難なものもあるが、その場合には個別の事業の文脈で柔軟に対応することが望ましい。
14
案件内容により協力準備調査を実施する場合がある。
総投入計画額が 2 億円未満の小規模技術協力プロジェクトでは、原則、調査団を派遣せずに簡易な形で
事前評価を実施し、事業事前評価表は作成しない。実施計画書に妥当性の観点を含めて記載し、プロジェ
クトの計画と予算を承認することになっている。その場合でも、ここに示す事前評価の考え方や評価の視
点に準じて行い、その結果を実施計画書に記載する。
15
36
次に、評価時点までの実施状況に関する情報として、実施プロセスで何が起こっている
のか、プロジェクトでの実績はあがっているか、等を把握する。これらの情報の把握に当
たっては、プログレス・レポート(進捗報告書)や事業完成報告書(PCR)、貸付実行記録
等が参考となる16。
(3)無償資金協力に関する特記事項
「無償資金協力事業の開発課題別の指標・教訓レファレンス」を 2013 年度から 2014 年
度にかけて整備したことから、案件形成時等に活用できる。
16
2004 年度以降に開始された事業の場合、プログレス・レポート(進捗報告書)、PCR は「プロジェク
ト・ステイタス・レポート(PSR)」という共通フォーマットに置き換えられている。
37
第3章
事後評価
JICA では、以下の目的のために事後評価を行い、評価結果を公表している。
① 事業のアウトカムを評価することにより、国民への説明責任を果たすこと。
② 評価結果を基に提言、教訓を導き出し、実施機関及び JICA 事業部へフィードバッ
クすることにより、相手国政府及び JICA による当該事業および将来事業における
改善を図ること。
また、JICA 事後評価では、原則、案件完了後 3 年目17までに DAC 評価 5 項目に沿った JICA
事後評価の視点を踏まえて当該事業の総合的な評価を行う。
JICA 事業評価ガイドライン(第 2 版)において事業評価の基本原則や事後評価の基本的
な考え方を記載しているため、本ハンドブックでは DAC 評価 5 項目を参照しつつ、同ガイ
ドラインにある事業評価の基本原則を踏まえて JICA の事後評価の視点及び実施プロセスに
ついて説明する。
なお、外部評価者による事後評価を実施する際には、巻末に付属資料(2)として参考
に添付する外部評価用「事後評価レファレンス」を、外部評価者と共有する参照資料とし
て用いている。
17
技術協力プロジェクト及び無償資金協力事業の事後評価は、原則事業終了 3 年後、また、有償資金協力
(円借款)事業については原則事業完成 2 年後までに行うとしている。
38
3-1 事後評価の概況
JICA は事業評価の透明性・客観性を確保するため、事業の規模に応じ、外部の第三者に
よる外部評価と JICA 在外事務所等が評価者になる内部評価により、事後評価を実施してい
る。外部評価を行う外部評価者には、第三者として責任ある評価の実施が求められ、事後
評価報告書は外部評価者の会社名と氏名が記載されたものが公開される。
表 3-1 事後評価の種類
外部評価
対象
内部評価
10 億円以上の全案件、および(2
2 億円以上 10 億円未満の案件
億円以上 10 億円未満であっても
選択的に)有効な教訓が得られる
可能性の高い案件
実施形態(実施
外部評価(外部評価者、すなわち
者)
評価部が契約したコンサルタント
内部評価(JICA 在外事務所等)
等)
レーティング
A~D の DAC5項目に関する総合評
レーティングは付与しない
価を行う
3-2
JICA の事後評価の視点
JICA の事後評価は、OECD/DAC で提唱された DAC 評価 5 項目(妥当性、有効性、効率性、
インパクト、持続性)
(P.6 参照)を参照しつつ、JICA 事業評価ガイドラインにある事業評
価の基本原則を踏まえて JICA の事後評価の視点に基づき行っている。
また、
外部評価では、
DAC 評価 5 項目のうち、妥当性、有効性(インパクトを含む)、効率性、持続性のそれぞれ
につき、評価結果を③②①(2009 年度以前は abc)の 3 段階でサブレーティングを行う。
さらにサブレーティングの結果をもとにフローチャートに従い総合評価(ABCD の 4 段階)
を行っている。表 3-2 に DAC 評価 5 項目に則した JICA の事後評価の主な視点、表 3-3、表
3-4 にスキームごとの視点、図 3-1 にスキーム間での違い、図 3-2 にレーティング・フロー
チャートを示す。JICA では、2009 年度より 3 スキーム(技術協力プロジェクト、有償資金
協力、無償資金協力)共通の評価手法を適用し、統一的な評価を行っている。
なお、レーティングは評価結果をわかりやすく表すだけでなく、事業を改善するための
施策・検討に活用できる手段である。ただし、レーティングは事業の成果等を測る指標と
しては有用だが、事業の難易度や成果発現に向けての JICA の貢献の度合いなどは対象に含
まれておらず、結果として、開発事業の全ての事柄を包含しているわけではない点に留意
すべきである。
39
表 3-2
DAC 評価 5 項目及び JICA の事後評価の主な視点
視点
妥当性
判断基準
DAC 評価 5 項目(注 1)
JICA の視点
開発インターベンションの目標が、
支援実施の正当性(当該国の開発政策(国家計画・セクター
受益者の要望、対象国のニーズ、地
計画・地域計画等)および日本の援助政策・JICA の援助方針
球規模の優先課題及びパートナーや
との整合性)、事業デザイン・アプローチの適切性
ドナーの政策と合致している程度。
(注 2)
③
十分に合致している
②
一部合致しない点がある
①
整合性に重大な問題がある
開発ニーズ(受益者層、対象地域、社会のニーズ)との整合
性
開発インターベンションの目標が実
一定程度達成されている
計画時に期待されたプロジェクト目標/事業目的(定量的・
際に達成された、あるいはこれから
40
概ね達成され、効果が実現
ものの、一部効果の実現
効果は限定的であり、効果が
している
に問題がある
実現していない
(目安:計画の 80%以上)
(目安:計画の 50%以上
(目安:計画の 50%未満)
定性的)、アウトプット、指標に対し、事後評価時における
有効性
達成されると見込まれる度合いのこ
達成の度合い
とであり、目標の相対的な重要度も
(施設、機材の活用を含む)
勘案しながら判断する。(注 3)
80%未満)
一定程度達成されている
概ね達成され、効果が実現
ものの、一部効果の実現
効果は限定的であり、効果が
している
に問題がある
実現していない
(目安:計画の 80%以上)
(目安:計画の 50%以上
(目安:計画の 50%未満)
事後評価時における上位目標の達成度、プロジェクト目標や
アウトプットの継続・活動の状況度合い(注 4)
開発インターベンションによる貢献
80%未満)
インパクト
が期待されている、より高次の目標。
正負の直接的効果(有効性で評価される事業効果以外のもの)
の実現状況
想定どおりの配慮・効果が
配慮・効果の実現に一部
配慮・効果の実現に問題があ
実現している/マイナスイ
問題がある/若干のマイ
る/深刻なマイナスインパ
ンパクトはない
ナスインパクトがある
クトがある
自然環境・社会環境(用地取得・住民移転を含む)への配慮
正負の間接的効果の実現状況
視点
DAC 評価 5 項目(注 1)
判断基準
JICA の視点
③
資源及び(又は)インプット(投入)
②
①
効率的とはいえない部分
(資金、専門技術(知識)、時間な
事業の投入計画や事業期間・事業費の計画と実績の比較等
効率的である
がある
ど)がいかに経済的に結果を生み出
(注 5)
(目安:計画の 100%以下) (目安:計画の 100%超
効率的ではない
効率性
したかを示す尺度。
開発インターベンションの終了時に
おける、開発インターベンションに
(目安:計画の 150%超)
150%以下)
事後評価時における事業によって発現した効果(運営・維持
管理体制、技術面、財務面)の継続見込み
よる便益の持続性。
一部問題があるが、改善
持続性
確保されている
41
長期的便益が継続する見込み。時間
事後評価時における政策・制度面での継続見込み(注 6)
の経過に伴う純益の流出というリス
事業によって建設された施設・購入された機材の現況や運
クに対する回復力。
営・維持管理状況(注 7)
不十分である
の見通しがある
※スキーム、案件の内容に応じて項目や視点は異なる。
(注 1)出典:評価と援助の有効性―評価および結果重視マネジメントにおける基本用語集(OECD/DAC Evalunet)
(注 2)過去においては、妥当性の問題は、インターベンションの目標あるいはその計画が、依然として適切なものであるかどうかという点が問題になることが多い。
(注 3)
「有効性」とは、活動の長所または価値を総合的に測る尺度(もしくは判断)としても用いられる。すなわち、当該インターベンションが、持続的な方法で、また、組織制度開
発上の発展にプラスのインパクトをもたらしながら、その主要な目標を効率的に達成したかという度合いのことである。
(注 4)技術協力プロジェクトのみ。
(注 5)円借款事業のみ内部収益率(IRR)を再計算し、参考値とする。
(注 6)技術協力プロジェクトの場合、プロジェクト完了時での相手国政府の政策・制度は妥当性、事後評価時での相手国政府の政策・制度は持続性で検証する。
(注 7)円借款・無償資金協力のみ。
表 3-3
技術協力プロジェクトに係る JICA の事後評価の視点
事前評価
事業完了報告書(注 2)
事後評価
実績の確認
―(注 1)
●(注 3)
●(注 3)
実施プロセスの把握
○
●(注 3)
●(注 3)
妥当性
(relevance)
●/○
●
●(注 4)
有効性
(effectiveness)
○
●
●(注 5)
○
●
●
インパクト
(impact)
○
●/○
●(注 6)
持続性
(sustainability)
○
―
●/○(注 7)
<DAC 評価 5 項目>
効率性
(efficiency)
●:現状・実績に基づいて検証作業を行う。
○:予測・見込みに基づいて検証作業を行う。
△:評価の必要性・可能性に応じて検証作業を行う。
―:本格的な検証作業は時期尚早である、もしくはその前の段階で終了している。
(注 1)事前評価の場合は、各種指標の設定がこれに相応する。
(注 2)2014 年 3 月以降に R/D 締結のプロジェクトは、事業完了報告書にて事業完了時の状況
を検証するため、事後評価時の妥当性・有効性・効率性の確認・判断は原則、事業完了
報告書の記載内容をもって行われる。
(注 3)評価項目ではないが、DAC 評価 5 項目に基づく評価判断のために確認・把握する。
(注 4)事前評価時とプロジェクト完了時における相手国政府の開発政策・開発ニーズ、事前評
価時の日本の援助政策を検証する。
(注 5)プロジェクト完了時でのプロジェクト目標の達成度を検証する。
(注 6)事後評価時での上位目標の達成度、プロジェクト目標・成果の継続・活動状況も検証す
る。
(注 7)事後評価時の相手国政府の政策・制度、実施機関の体制・技術・財務面を検証する。
42
表 3-4
円借款・無償資金協力に係る JICA の事後評価の視点
事前評価
事後評価
実績の確認
―(注 1)
●(注 2)
実施プロセスの把握
○
●(注 2)
妥当性
(relevance)
●/○
●
有効性
(effectiveness)
○
●
○
●
インパクト
(impact)
○
●
持続性
(sustainability)
○
●/○
<DAC 評価 5 項目>
効率性
(efficiency)
●:現状・実績に基づいて検証作業を行う。
○:予測・見込みに基づいて検証作業を行う。
△:評価の必要性・可能性に応じて検証作業を行う。
―:本格的な検証作業は時期尚早である、もしくはその前の段階で終了している。
(注 1)事前評価の場合は、各種指標の設定がこれに相応する。
(注 2)評価項目ではないが、DAC 評価 5 項目に基づく評価判断のために確認・把
握する。
43
図 3-1 技術協力プロジェクトと資金協力におけるアウトカムを評価する上での相違点
【補足説明】
技術協力プロジェクトはプロジェクト活動の過程でインプットから生れるアウトプット
とあわせて直接アウトカムまでを対象として事業を実施する。プロジェクト完了時点まで
の直接アウトカム(プロジェクト目標を含む)の達成度を「有効性」で検証する。事後評
価においては、上位目標の達成度を含む中間アウトカムを「インパクト」の項目で評価す
る。
資金協力(有償資金協力および無償資金協力)では、事業完了時にはアウトプットとし
てのインフラや施設等が整備されるが、完了時点ではアウトカムは発現していない。その
ため、プロジェクト完了後一定時間を経て行われる事後評価の際にはじめて直接アウトカ
ムを確認することが可能であり、それを「有効性」で捉える。「インパクト」の項目では、
直接アウトカム以外の中間・最終アウトカムレベルのものや、その他の正負のインパクト
を捉えることとなる。
各スキームの事後評価では大きな違いは無いものの、以上のように、技術協力プロジェ
クトと資金協力案件では、「有効性」及び「インパクト」で捉える内容、時点に差異があ
る。
44
図 3-2
③
妥当性
②
有効性・
インパクト
①
レーティング・フローチャート
③
②
③
効率性
①
効率性
有効性・
インパクト
③
②
持続性
A
②
非常に高い
①
①
③
③
②
持続性
①
②
③
②
①
①
B
高い
③
③
効率性
持続性
②
②
45
①
①
C
③
持続性
一部課題がある
②
①
D
JICA の事後評価(外部評価)では、各事業について、国際的基準(OECD-DAC5項目)に基づき、4 段階のレーティ
ングを行っています。レーティングは事業の成果等を測る指標としては有用ですが、事業の難易度や成果発現に向
けての JICA の貢献の度合などは対象に含まれておらず、結果として、開発事業の全ての事柄を包含しているもので
はありません。
低い
3-3 事業の現状把握と分析:実績、実施プロセス、因果関係
事後評価において、対象事業を取り巻く現状を把握・分析するためには、
「実績」、
「実施
プロセス」、「因果関係」についての検証が不可欠である。計画時の目標と事後評価時の実
績の比較分析と実施プロセスや因果関係の検証は対になっている。例えば、計画時の目標
に達成していない場合、評価者はどこにボトルネックがあったのかを検証することになる。
「実施プロセス」に問題があるとすると、その要因は事業の運営体制に帰する可能性があ
る。また、事業の論理的な組み立て(ログフレーム)に問題があるとすると、事業のデザ
インそのものに起因することが考えられる。
表 3-5 は、
3 つの検証項目について、
検証の視点と主な検証ポイントを纏めたものである。
表 3-5 事業の現状把握・検証のための視点とポイント
検証項目
実績
検証の視点
検証のポイント
事業実施の結果、何が達成
事業目的(アウトカムレベル)の達成度、
されたのか、それらは計画
資金協力ではアウトプットの稼働・運用状
どおりであるか。
況、技協ではアウトプットの発現状況を評
価時点で測定し、計画時に設定した目標値
との比較を行う。
実施プロセス
事業を実施する過程(プロ
資金協力では当初の計画どおりにインプ
セス)で何が起きているの
ットが投入されてアウトプットが実施さ
か、それらは事業目的(ア
れているか、技協では当初の計画どおりに
ウトカムレベル)の達成に
活動が実施されてアウトプットに結びつ
どのような影響を与えて
いているかを確認するとともに、実施プロ
いるか。
セスの何がアウトプットや事業目的(アウ
トカムレベル)の達成度に影響を与えてい
るかを検証する。実施プロセスの検証で得
られた情報は、効率性や有効性を検証する
際の根拠となる場合が多く、事業実施途中
の軌道修正や類似事業立案に活用される。
因果関係
事業目的(アウトカムレベ
事業目的(アウトカムレベル)が当初の計
ル)の達成が本当に事業実
画どおりに達成されたとしても、事業の実
施によってもたらされた
施とは別の要因が影響を及ぼしているこ
ものであるか、あるいはも
ともあり得る。そのため、事業と効果の因
たらされるものであるか。 果関係を検証するためには、同じ対象地域
の実施前・実施後の変化を比較する方法
や、事業対象地域と対象外地域との比較に
46
よって純効果を把握しようとする方法等、
実績把握や目標値との比較といった方法
とは異なる方法が必要となる。
なお、3 つの項目を適切に検証するためには、事業実施中のモニタリングや事業の完成
時・完了時における自己評価が非常に重要となる。モニタリングは事業の進捗状況をチェ
ックし、問題があれば適宜軌道修正を行うものであり、モニタリングによって、
「実績」の
データや「実施プロセス」を検証するために必要な情報も収集できる。自己評価は事業完
成時・終了時のデータを分析し、その結果として不足している部分があればフォローを行
うことが可能となる。事業実施中のモニタリングや自己評価が適切に行われていないと、
評価に必要な情報が不足する可能性が高く、ゆえに信頼性の高い的確な評価を行うことが
困難となる場合が多い。
47
3-4 事後評価のプロセス
事後評価は、①事業の現状把握・検証を行い、②それらを DAC 評価 5 項目(妥当性、有
効性、効率性、インパクト、持続性)に基づき評価判断し、③提言や教訓を導き出して実
施機関や JICA 事業部にフィードバックするという 3 つの枠組みから構成されている。以下
は①~③を実際にどのように実施していくかを示したものである。
図 3-3
事後評価の流れ
評価目的の確認
評価対象事業の全体像の確認
第 1 段階
(評価の計画)
評価のデザイン
評価方針の策定
質問票の作成・受益者調査の準備
データ・情報の収集・先方政府からの聞き取り
第 2 段階
(事後評価の
実施)
収集したデータ・情報の分析
分析結果の解釈
第 3 段階
(評価結果の取
りまとめ)
提言の策定・教訓の抽出
評価報告書案の作成
48
第 4 段階
(評価結果
の伝達・活用)
評価結果の実施機関へのフィードバック
JICA での報告書確認・報告書の外部公表
(1)評価対象事業の全体像の確認
評価対象事業の全体像に関する情報としては、計画内容に関するものと、実施状況に関
するものに分類することができる。
計画内容に関する情報としては、事業の背景と必要性、事業概要、事業効果、外部要因
(リスクを含む)が挙げられる。円借款事業及び無償資金協力の計画段階では、ログフレ
ームは評価ツールとして必ずしも活用されていないが、事前評価において公表される事業
事前評価表の項目のうち、
「事業目的」、
「事業効果」
、「外部条件・リスクコントロール」等
は、概ねログフレームの考え方に基づいたものであり、評価対象事業の全体像の確認をす
るために有効である。
事業効果の判断には運用指標及び効果指標が判断材料のひとつとなる。JICA では以下の
とおり、協力の効果を「客観的」且つ「定量的」にわかりやすく示すために、解決すべき
開発課題タイプに応じた標準的な指標及び代表的教訓を整理している。指標によっては運
用指標・効果指標どちらにもなり得るものもある。審査時に設定された指標に不足等があ
る場合には、事業内容に応じて下記のリファレンスにある指標やそれ以外の適切な指標を
追加指標として付す等することが望ましい。

円借款:
「運用・効果指標リファレンス」

無償資金協力:
「開発課題別の標準指標例」

技術協力プロジェクト:
「開発課題別の標準的指標例及び代表的教訓レファレンス」
次に、評価時点までの実施状況に関する情報として、実施プロセスで何が起こっている
のか、事業での実績はあがっているか、等を把握する。これらの情報の把握に当たっては、
既存の文献・報告書等(技術協力プロジェクト:協力準備調査報告書、事前評価報告書、
中間レビュー報告書、終了時評価報告書、プロジェクト完了報告書等、円借款:協力準備
調査報告書、事業事前評価表、審査調書、Project Completion Report (PCR)等、無償:協
力準備調査報告書、基本設計調査報告書等)が参考となる。
49
(2)評価方針の作成
評価作業が開始すると、評価者は評価計画のためのマトリックス(以下、
「評価方針」と
いう。
)を作成する。評価方針は、評価対象事業の概要、事業目的、DAC 評価 5 項目ごとに
データ収集作業前に把握されている情報(計画時・完了時・事後評価時)を整理し、事後
評価で確認するデータ・情報の収集方針、受益者実施方針、サイト視察方針(複数サイト
地で実施している事業等)
、評価工程・手順等を記載する。
評価方針(案)に対し、JICA 評価部による確認、及び、JICA 評価部を通じた関係部署か
らのコメント取り付けを行うこととなる。評価者は、必要であればコメントに基づき評価
方針(案)を修正し、評価方針を確定する。
(2-1)事業目的とログフレームのレビュー
事業目的には、ログフレームの記載事項である、異なるレベルの目標(インパクトレベ
ルの上位目標及びアウトカムレベルの事業目標)と、アウトプットの内容が含まれる。評
価時には、計画時に設定された事業目的を十分に確認し、DAC 評価 5 項目に沿って何を評価
するのかを把握する。より具体的には、事業目的を複数レベルの目標(インパクトレベル
及びアウトカムレベル18)とアウトプットに分け、それぞれのレベルで該当する評価基準に
関連づける作業を行う(図 3-4)19。
図 3-4
事業目的を複数レベルの目標に分解
DAC 評価 5 項目
インパクトレベル(上位目標)
との対応
ルーマニアの経済発展
インパクト
事業目的
黒海に面するルーマニア最大の貿易港
であるコンスタンツァ港において、南港
地区のコンテナターミナルおよび関連施
設を整備することにより、急増するコン
テナ取扱量への対応を図り、もって同国
の経済発展に寄与する。
アウトカムレベル(プロジェクト目標)
急増するコンテナ取扱量へ
の対応
有効性
アウトプットレベル
南港地区のコンテナターミナ
ルおよび関連施設の整備
18
効率性
事業内容によっては Intermediate Outcome を設定する場合もある。
「アウトカム」
、
「インパクト」等の名称や対象範囲は、各種援助機関やスキームにより相違があること
に留意する。なお、技術協力プロジェクトでは、アウトカムは PDM プロジェクト目標及び上位目標の達成
による効果を指す。
19
50
(2-2)調査前入手情報の確認
評価方針を作成するにあたり、評価者は JICA が保管する事業関連資料や JICA が提供す
るデータを参照し、入手した情報を基に「事前評価時(技協・無償)/審査時(円借款)」
および「事後評価前現状把握(終了時評価・完了報告書等)
(技協)/事後評価前現状把握
(完了届等)
(無償)/事後評価前現状把握(PCR 等)
(円借款)
」の欄に整理する20。情報源
は上記(1)を参照。また、JICA や他の援助機関が公開している過去の類似事業の事後評
価報告書も参考になる。
(2-3)評価設問の設定
評価設問(Evaluation Question)とは、評価方針の策定後、情報が不足している部分や
現地調査中に確認したい事項について、評価者が実施機関や事業関係者に投げかける質問
である。評価者は各評価設問に対する答えに基づき分析を行う。評価設問に対する答えは
評価判断の根拠ともなる。
評価設問を設定する際の視点は、表 3-2「DAC 評価 5 項目に則した JICA の事後評価の主
な視点」を参照されたい。
(3)データ・情報の収集
評価者は各評価設問に沿ってデータ・情報を収集する。代表的なデータ・情報の収集方
法は次のとおり。なお、現地調査は通常 2 回を想定している。

現地調査前に収集できる文書類:前述(1)を参照。当該国政府の情報公開・デー
タ整備状況にもよるが、インターネットでの情報収集も非常に役立つ。

実施機関、関係機関からの質問票回答:回答機関の主観的な意見やコメント、それ
らの機関が収集・測定した定量的データ(事業実施記録、運用・効果指標の実績、
財務情報等)
、定性的データ(公式な通知文書、地図、政策・プログラム文書等)
が想定される。

実施機関、関係機関、コンサルタント、JICA 内事業関係者他のキー・インフォー
マントからの聞き取り:評価者は聞き取り内容を記録しておくとともに、回答者が
話した内容を裏づけする情報も入手しておくとよい。
20
技術協力プロジェクトでは、事前評価や中間レビュー(モニタリング報告書)に加え、終了時評価(事
業完了報告書)および専門家報告書などを活用しつつ、他の情報ソースやインタビュー等による追加の検
証を経て、事後評価段階における事実確認、評価判断を行う。
51

評価者による観察・直接計測:事業で整備した施設・設備等や近隣地域の状態を観
察した結果や、事業が与えた影響の有無・内容(事業施設からの排水の水質等)を
測定した結果が含まれる。現地視察の際は、観察すべき点のチェックリストを作成
するとよい。

フォーマル・サーベイの結果(アンケート、聞き取り)
:質問形式は全対象者共通
で、回答は選択肢を選ぶだけとする等、結果を統計的に解析できるような調査を指
す。有効性やインパクトの定量的な分析に有用である。

インフォーマル・サーベイの結果(質問票、聞き取り)
:質問形式は対象者に合わ
せて調整し、回答の自由度を高めて詳しい情報を得るような調査を指す。効率性、
有効性、インパクト、持続性それぞれについて、背景となる要因の定性的な分析に
有用である。

その他:写真、新聞記事、パンフレット等。
データ収集方法は、現地調査補助員の知見を活用しつつ現地を訪問する前に決定してお
く。
(4)質問票とその他の調査票の作成
評価方針・評価設問の作成後、不足している情報や確認すべき事項についてどのような
手段で調査するのか(当該国・実施機関が公開している報告書・統計データ、インタビュ
ー、質問票、受益者調査等)を検討する。現地調査期間は限られているため、情報収集に
は現地調査補助員にも継続的に報告書・統計データの取得や質問票等のフォローを行って
もらう。
(5)分析結果の解釈
評価者は収集したデータ・情報を、評価方針に沿って事前段階(計画)と事後段階(実
績)の差異の有無や分析結果(含む根拠)を分析・検証し、事前事後比較表を作成する21。
また、評価結果に対する暫定レーティングも付与する。事前事後比較表は評価報告書の骨
子として活用することになる。
通常、第 1 次現地調査や受益者調査・現地調査補助員等を活用した追加の情報収集実施
後、事前事後比較表(案)をもとに、評価の概要及び評価結果について、JICA 評価部内の
評価結果検討会で報告する。評価者は、同検討会の結果を反映し、事前事後比較表を確定
21
評価方針と同じフォーマットを使用する。評価方針作成時に情報不足や追加確認が必要となっていた項
目について、収集した情報を記載し、事前評価段階、事後評価段階を対比して DAC 評価 5 項目それぞれに
ついて評価判断を行う。
52
する。なお、データ・情報の収集状況によっては、同検討会を最終現地調査の終了後に開
催することもある。
(6)提言の策定・教訓の抽出
〈提言〉
提言とは、評価の対象となった事業の今後の改善に役立てるための提案のことである。
評価者は評価結果に基づいて提言を提案する。提言の多くは事業成果の最大化を阻害する
要因(例えば事業目的の達成や持続性を阻害する要因等)をどのように取り除くかに関す
るものとなっている。
実施機関と JICA は提言を受け、指摘された状況を改善するための必要な措置を取る。し
たがって、具体的かつ現実的で、だれ/どの組織が何のために何をすべきかが明確な内容
とする。
〈教訓〉
教訓とは、評価の対象となった事業から得られる、将来または他の実施中の事業に参考
となり得る提案のことである。教訓は成功例、失敗例のどちらからも学べ、事業デザイン、
計画、実施監理、モニタリング、運営・維持管理といった広範囲にわたる事項を扱い得る。
評価結果を教訓として一般化するにあたっては、評価者は提案事項とその結果の因果関
係を十分見極める。
(7)評価結果の活用―フィードバック
事後評価結果に関し、JICA は評価実施後に相手国へのフィードバックと、教訓の活用の
ために JICA 内での結果の共有、説明責任のための対外公表などを行っている。
(7-1)相手国へのフィードバックの実施
事後評価で得られた教訓及び提言が十分活用されるようフィードバック時に相手国政府
及び実施機関と十分に協議・検討するとともに、事後評価以降も現状の把握、相手国側と
の協議、適時適切な助言等に取り組むことが必要である。
事後評価の実施後、JICA は相手国にてフィードバックセミナーを開催することがある。
通常、計画官庁、実施機関およびその他の当該事業関係機関を招待する。フィードバック
セミナーの目的は、実施機関および事業関係者に評価結果を伝えてコメントを得ることに
加え、相手国側における事業実施体制改善等の認識の共有を図ることである。
JICA と相手国は、事後評価のフィードバックセミナーや提言を通して、プロジェクトの成
53
果をさらに上げるためにどのような措置が必要かについて認識を共有する。これを受けて、
相手国側は、そのような措置を実行に移すための計画を、当該国のプロジェクト/プログ
ラム運営管理システムの中で策定・実施することが期待される。
(7-2)事前評価へのフィードバック(教訓の活用)
個別の事後評価から導き出された教訓は、案件形成や計画、実施において、職員により
確認され、関連する教訓を事業計画に反映される。事前評価の結果は「事業事前評価表」
として公表される。
54
第4章
その他の重要事項
「第4章」は、その他の重要事項として JICA の協力を総合的に評価・分析するテーマ別
評価および事業評価の戦略性を高めるための試行的に行っている JICA 協力プログラムの評
価に関する最近の取り組み、また、重要性を増しているインパクト評価に関する情報につ
いても掲載した。
テーマ別評価と JICA 協力プログラムの評価は、プログラム・レベルの評価22に位置付け
られ、複数のプロジェクトを取り上げて総合的かつ横断的に評価するものである。JICA で
は、ODA 事業の実施機関としてプロジェクト・レベルの評価への取り組みを基本としつつ、
プログラム・レベルの評価も一部実施している。
プログラム・レベルの評価は、プロジェクト・レベルの評価と比較すると、プログラム・
レベルの評価結果を通じて得られる教訓と提言は、より汎用性が高く、かつより上位の視
点からの情報となる。従って、より広範な事業改善や、上位の計画・指針等の改善に活用
される。
さらに、本章では、プロジェクトまたはプログラムのなかで、開発課題の改善・解決を
目指して行われる介入23がその介入対象に対して変化を生んだか否かを検証し、エビデンス
を得る「インパクト評価」の取組みについても紹介する。
22
DAC では、プログラム評価は「地球規模、地域別、国別、分野別等の開発目標を達成するために整理さ
れた一連のインターベンションの評価」と定義されている。
23
介入とは、社会や集団、個人が抱える課題の改善を意図して行われる行為のことで、政策、施策、事業、
プロジェクト、プログラム、活動など、様々な規模やレベルを取り得る。JICA 事業では、プロジェクト自
体、またはプロジェクト内で行われる活動や活動群をインパクト評価の対象となる「介入」とする場合が
多い。したがって、介入がプロジェクトやプログラムとは異なる場合、別途、評価対象介入の PDCA サイ
クルが想定されていることになる。したがって、インパクト評価は PDCA サイクルの「Do」の段階で実
施され、結果は「Action」の段階で当該案件や類似案件に活用される。
55
4-1 テーマ別評価
JICA は、地域、課題セクター、援助手法等、ある一定のテーマを設定し、そのテーマに
関連したプロジェクトについて、テーマごとに設定された評価基準を用いて行う、「テーマ
別評価」を実施している。評価結果を総合的に分析・検証することにより、テーマに関連
した提言・教訓を抽出する。さらに、評価手法の開発やナレッジ教訓の開発等を目的とし
た評価手法別の評価も実施している。
例えば、テーマ別評価の事例としては、2013 年度に実施した「プロジェクトの PDCA サイ
クルにおける教訓活用マネジメントの強化策の検討」や「開発効果の持続性確保のための
相手国政府による公共財政管理に向けての考察」などがある。
また次に説明するように、テーマ別評価の一環で、JICA が途上国の特定の中期的な開発
目標の達成を支援するための戦略的枠組みとして取り組んでいる「協力プログラム」を対
象とした評価の在り方についても検討を行っている。
4-2
JICA 協力プログラムの評価
限られたリソースでより高い事業効果を上げるためには、個別プロジェクトの枠組みを
超えて連携と相乗効果の創出に重点を置いた戦略的かつ効果的な援助を行う必要がある。
JICA はこうした考えに基づいてこれまで「プログラム・アプローチ」を推進し、協力対象
国の特定セクターに関するプロジェクトを「JICA 協力プログラム」
(以下、
「協力プログラ
ム」
)の枠組みを通じ運営・監理する取り組みを行ってきた。
協力プログラムに関し、JICA では終了時評価を試行的に導入して一定程度実施している
段階である。ここでは協力プログラムの評価について基本的な考え方を整理する。
(1)協力プログラムにおける評価の考え方
<協力プログラムの定義>
JICA は、協力プログラムを「途上国の特定の中長期的な開発目標の達成を支援するため
の戦略的枠組み(=協力目標とそれを達成するための適切な協力シナリオ)
」と定義してい
る。ここでいう「戦略的」とは次の要件を満たすものを指す。
協力プログラムの要件
(1) 途上国の特定の開発戦略や日本の援助戦略に沿った明確な協力目標を有すること。
(2) 協力目標を達成するための適切な協力シナリオ(目標を達成するための論理的な道筋)を有す
ること。
56
(3) 協力シナリオを具体化するにあたっての各種援助形態の最適な活用計画を有していること24。
<協力プログラムの事前評価>
協力プログラムの事前評価は、試行的実施段階においては、地域部が主体となって「協
力プログラム計画書」の決裁時に行うこととしている(別途、事業事前評価表を作成する
ことはしない)
。具体的には、当該協力プログラムを実施することの必要性、妥当性、目的、
内容、効果(有効性)
、外部要因・リスク等を整理し、事業計画や実施体制の適切性を総合
的に検証する。その際、指標・目標値の適切性、プログラム目標達成に向けたロジックに
ついて検証する。また、事前評価の段階で策定した評価指標は、協力プログラムの各段階
において協力の進捗状況と効果を測定する基準として活用する。なお、個別の案件よりも
高次の目標設定を行っている協力プログラムの評価では、開発課題に対する「援助効果」
すなわち最終的なアウトカムが特に問われることを意識する。
<「貢献の概念」に基づく完了時評価手法>
協力プログラムは長期間にわたるため、当該プログラムの協力目標・成果指標の達成状
況の確認や、協力シナリオの明確化・見直しを通じた戦略性の強化等を目的とした定期的
モニタリングが果たす役割が大きい。そのため、JICA はモニタリングを中心とした協力プ
ログラムの PDCA サイクルの確立を推進している。しかしながら、協力相手国の開発戦略実
現のためには、JICA の協力プログラムだけで対応できる範囲には限界があり、相手国、他
援助機関等、様々な開発パートナーとの協力が不可欠な場合が多い。従って、当該国や他
援助機関との協力を経て達成された成果に対し、JICA が一機関としてどのような役割を担
いどの部分について貢献を行ったのか、との視点から「貢献」
(Contribution)の概念によ
る間接的な評価を実施している。
「貢献」
(Contribution)の概念とは、援助対象国における特定の開発課題(例:バング
ラデシュ国における基礎教育の普及)の解決に向けた進展と、特定の組織が独自の事業を
通じ達成する成果を明示的に分けて認識した上で、
「開発課題の進展」と「特定組織が達成
した成果」の間にある因果関係がどの程度あるか、を間接的な手法で検証しようとする考
え方である25。
「因果関係の程度」は、ひとつには当該国の開発戦略の中で JICA の協力事業がどのような
位置づけを占めていたのか、重要で優先度の高い課題を選択し取り組んでいたのかという、
「開発戦略における位置づけ」によって確認を行う。またもうひとつの視点としては、目
24
必ず 3 スキーム全ての事業が組み合わされていなければならないということではなく、各国の状況を踏
まえ技術協力事業のみで構成される協力プログラムやボランティア事業等、国民参加型事業を含むものも
ある。
25
これに対し、
「帰属」とは、観察された状況の変化と特定の介入とを因果関係で結びつけること(DAC 定
義)である。
57
標達成に向けて有効な計画が策定されていたか(一貫した取り組みができていたか)
、成果
が想定どおり達成されたか、状況に応じ適切に計画・実施の変更ができていたか、といっ
た「協力プログラムの戦略性(計画・成果・プロセス)」によって確認を行う。本評価では、
これら「位置づけ」と「戦略性(計画・成果・プロセス)」の検証を分析のステップとしつ
つ、当該国政府の開発戦略の進展(他援助機関や当該国政府の実施する事業の総体として
の成果)を踏まえた上で、
「相手国側の開発戦略への貢献」についての評価を行う。従って、
当該国の開発戦略の中で優先的な課題に取り組み、その中で高い成果が上がっており、な
おかつ開発課題の改善も見られるのであれば、因果関係の可能性は高いとの結論を提示で
きる形になる。
<「評価可能性」に応じた評価手法の提案>
上述のとおり、協力プログラムは「貢献」の概念に基づいて評価を行うこととなってい
る。他方、具体的な効果測定と判断方法の想定が無い場合、評価結果が曖昧になりがちで、
厳密に成果を検証することは難しい。評価可能性の高い協力プログラムについては、事業
効果の検証(総括評価)が可能であり、対外発信の面からもより効果的で意義の高い評価
が可能となる。
評価部は 2014 年度に企画部を含む機構内の関連部署と協力の上、テーマ別評価「JICA 協
力プログラムの評価可能性向上に向けた分析」26を実施した。同評価では、協力プログラム
における「評価可能性向上のための要件」を示し、各協力プログラムの評価可能性の高さ
に応じた評価手法の選択を行うことを提言した。目標、シナリオ、指標が適切に設定され
ており十分なモニタリングが実施されている「評価可能性の高い」協力プログラムについ
ては、協力プログラムの結果を総括する評価を実施する一方、相手国政府や他ドナーと共
同で設定された目標に基づく共同評価が可能でありかつ協力プログラム単体では評価可能
性が低い協力プログラムについては合同評価のみ実施すること、現在は評価可能性が低い
ものの今後改善の見込みがあるものについては簡易なモニタリングのみを実施すること、
などを提案している。
(2) JICA 協力プログラムの評価可能性向上の取り組み
<協力プログラムの「評価可能性向上のための要件」>
協力プログラムの事業効果を適切に評価することは、①対象プログラムの改善や次期プ
ログラム形成に向けた教訓の抽出と、②取り組み結果の情報発信を行う上で重要である。
「評価可能性向上のための要件」(表 4-1~4-4 参照)は、上述のテーマ別評価「JICA 協
26
報告書については、JICA ホームページを参照。
http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/tech_ga/after/ku57pq00001oi2bn-att/201501_05.pdf
58
力プログラムの評価可能性向上に向けた分析」において、協力プログラムの目標や指標、
シナリオ、実施体制、政策との整合性等について協力プログラム形成時にその計画が満た
すべきポイントを纏めたチェックリストであり、JICA 事業関係者が協力プログラムの形成、
実施、モニタリング、評価の各段階で参照し協力プログラムの評価可能性を向上させると
ともに、更なる戦略性の向上をはかることを目的としている。
評価可能性(evaluability)は評価が実施できるか否かにかかわる要件というだけでは
なく、JICA 協力プログラムそのものに求められる要件、計画や実施も含めた方針にもかか
わる要件であることからも、
「評価可能性向上のための要件」リスト(表 4-1~4-4 参照)
を参照し協力プログラムの質の向上を図って行くことが重要である。
協力プログラム形成時の留意点
テーマ別評価「JICA協力プログラムの評価可能性向上に向けた分析」
(2014年)に
て、過去に形成された協力プログラム計画書を分析したところ、以下の共通課題が指
摘されている。こうした問題を予防する観点からも、協力プログラムの計画段階から
「評価可能性向上のための要件」を参照し協力プログラムのデザイン向上を図ること
が重要である。
①プログラム目標が曖昧(具体的でない)
②プログラム目標の設定レベルが高すぎる/低すぎる(期間内・対象地域内での達成が
不可能)
③プログラム目標と成果(*)の因果関係が薄い(目標達成に至るシナリオが不明確)
④指標が適切に設定されていない
⑤外部要因とリスクの分析及び予防と出口戦略の検討が不十分
⑥協力スコープの選択において測定可能な開発効果が設定されていない
⑦モニタリング体制や方法・時期・頻度が計画・共有されていない
(*)協力プログラムにおいては、その評価可能性が十分に高まったものから、プログラ
ム目標に到達するためのロジックが成り立つような「成果」が設定されることが期待
される。ここでいう「成果」は、技術協力プロジェクトの「プロジェクト目標」と「ア
ウトプット(成果)」の関係性と同様である。本章においては、プログラム目標を達
成するための構成要素を「成果」として記している。
59
評価可能性向上のための要件
表 4-1
項目
政策の整合
性
戦略
評価可能性向上のための要件(JICA 協力プログラムとしての要件)
要件
確認を要する点
選ばれた開発課題は、相
手国の開発計画上、重要
である
【位置づけ】
I-1.協力プログラムの、相手国のセクター開発計画などの開発
政策における位置づけが明確か、以下の視点から確認する。
①開発政策/計画との整合性
②開発政策/計画の立案時期とその有効期間
③ターゲット地域・グループの整合性
④相手国の開発政策/計画における JICA 当該協力プログラムの
位置づけと役割が明確に説明可能であり、また何らかの文書等
で明示されている。
I-2.協力プログラムは
①外務省の国別援助方針の重点分野に合致した内容となってい
る。
②JCAP の第 6 章「協力シナリオ」に合致した内容となっている。
選ばれた開発課題は、日
本政府の政策上重要な課
題と位置づけられている
【日本の協力の方向性と
の合致】
相手国政府の強いコミッ
トメントが確認できてい
る
【明確なシナリオの相手
国との共有】
協調する枠組みや、相手
国政府の政策・制度その
ものに働きかけができる
体制にある
【援助協調】
協力プログラムとして一
体的に実施することで
個々の構成案件を実施す
るよりも高い効果が期待
できる
【目標レベル】
将来あるべき姿が明示さ
れている(目標設定)
【プログラム系図等=明
示されたシナリオ】
I-3.協力プログラムは、相手国関係者との対話を通じて協力シ
ナリオが策定されており、文書等で、そのシナリオや計画内容、
実施主体及び実施時期などが相手国側に周知され、
理解されてい
る(ドナー主導のシナリオ策定となっていない)
。
I-4.SWAp や PRSP 等の相手国政府主導の援助協調枠組みにおけ
る、協力プログラムの役割と位置づけが、協力プログラム計画書
/WP 等で明確に説明されている。
I-5.協力プログラムの達成目標は、複数の案件で一体的に実施
することで達成できる高い目標(アウトカム~インパクトレベ
ル)となっている)
。
I-6.協力プログラムのシナリオが、JCAP/協力プログラム計画書
/WP 等で明示されており、
「プログラム系図」等により可視化も
されている。
【構成案件の位置づけ、 I-7.JCAP/協力プログラム計画書/WP/プログラム系図等において
構成する個々のプロジェクトの位置づけや役割が明確に説明で
役割】
きるよう整理されている。
協力プログラムの期間が I-8.協力プログラムの目標の達成に必要な、十分な期間が設定
適切であり、出口戦略・ されている(設定期間が短く目標達成が困難な状況は想定されな
次の段階への展開戦略が い)
。または次の段階への展開戦略が明確である。
明確である
【協力プログラムの期
間】
様々なリスクの検討が行 I-9.JCAP/協力プログラム計画書/WP/プログラム系図等で示され
なわれている
た協力シナリオにおいて、想定されるリスクの特定がなされ、そ
【リスク(外部条件、内 のリスクがどの段階で発生するかが明確に整理されている。
部要因)
】
60
チェッ
ク欄
協力プログ
ラムとして
の実施マネ
ジメント計
画
協力プログラムとしてど
のように実施するか、協
力プログラム計画書に具
体的に記載されている
【JICA 内の実施体制】
I-10.
協力プログラムの成果と目標の達成状況を一元的にモニタ
リングし、共有可能なモニタリング実施体制が、JICA 案件関係
者間(本部、在外事務所、コンサルタント、コントラクター、専
門家等)で構築されている。またその実施主体やモニタリングの
方法・時期・頻度につき明文化され、共有されている。
I-11.
協力プログラムの成果と目標の達成状況を一元的にモニタ
リングし、
関係者間で共有可能なモニタリング実施体制が相手国
政府や案件関係者間で構築されている。
またその実施主体やモニ
【相手国政府・関係ドナ タリングの方法・時期・頻度につき明文化され、共有されている。
ーの実施体制】
I-12.協力プログラムの構成案件の複数の C/P 機関において、案
件の進捗を一元的に管理することが可能な、
相手国政府側のフォ
【相手国政府の実施体制 ーカルポイント(調整機関)及び人員体制が整備されている。
/調整機関】
表 4-2
項目
協力プログ
ラムの目標
プログラム
目標に至る
ロジック
評価可能性向上のための要件(協力プログラムのデザイン)
要件
確認を要する点
目標のレベルが適正であ II-1.期間内、対象地域内で達成可能な目標となっている。
る
II-2.JCAP/協力プログラム計画書/WP/プログラム系図等におい
て、構成案件とプログラム目標間の因果関係が明確になってい
る。
II-3.
協力プログラムが相手国のセクター開発計画などの大きな
枠組みの中に位置づけられる場合、プログラム目標が、セクター
開発計画がめざす最終的な目標と同一ではなく、
その目標の達成
に必要となる下位レベルの(課題に対するあるいは戦略に関す
る)目標に設定されている。
II-4.協力プログラムの目標と協力プログラムの成果が手段-目
的の関係になっている(目標が成果の言い換えになっていない)
。
目標達成に至るシナリオ II-5.
各構成案件が目標に至るシナリオは合理的かつ具体的であ
が適切である
る。
構成案件を実施すればプログラム目標が達成できる関係とな
っている。
II-6.協力プログラムが、いくつかのサブ・セクターまたは課題
別の小プログラム(サブ・プログラム)で構成されている場合に、
サブ・プログラム目標とプログラム目標は直接的な「手段-目的」
関係になっている。
II-7.各構成案件が相乗効果を発揮するような計画である場合、
効果的に目標を達成するための戦略が協力プログラム計画書、WP
等に具体的に示されている。
II-8.相手国のセクタープログラムにおいて、特定の課題に対処
する戦略となっている。
II-9.
協力上の制約や目標の達成を妨げるようなリスクのモニタ
リングが計画に織り込まれ、モニタリング・シートにも記入され
ている。
II-10.現実的な出口戦略・次の段階への展開戦略が構想され、
JCAP/協力プログラム計画書/WP 等に明記されている(達成され
たプログラム目標の持続性の確保に配慮している)
。
II-11.他ドナーとの役割分担や連携の効果が明らかに想定され
る場合、この点につき明確に JCAP/協力プログラム計画書/WP 等
に記載され、相手側組織も理解している。
相手国の開発目標達成へ II-12.相手国開発目標の達成への協力プログラムの貢献の道筋
の協力プログラムの貢献 が JCAP/協力プログラム計画書/WP/プログラム系図等において
61
チェッ
ク欄
協力プログ
ラムの目標
の達成を表
す指標
の道筋が明らかである
具体的に明記されている。
協力プログラムの目標に II-13.協力プログラムの目標の指標は、目標の達成度を具体的
照らして適正な指標が設 に示すことができる有効なものとなっている。
定されている
II-14.成果の指標が、協力プログラムの成果を測定できるもの
となっている。
II-15.それらの指標は入手/計測できる見込みがある。
II-16.協力プログラム期間内に達成できる現実的な目標値が設
定されている。
協力プログラムで支援す II-17.協力プログラムが貢献する、相手国の開発目標の達成状
る相手国の開発目標(あ 況の進展を何で測るか、具体的に JCAP/協力プログラム計画書
るいはその下のレベルの /WP 等に示されている。
戦略目標)の達成度も把
握可能である
表 4-3
項目
協力プログ
ラムの実施
管理
評価可能性向上のための要件(実施時の要件)
要件
確認を要する点
協力プログラムとして
管理されている
III-1.定期的なモニタリングが行なわれ、モニタリング結果がプ
ログラム・マネジャーのもとにある。
III-2.プログラム形成時からの関連資料(JCAP/協力プログラム
計画書/WP 等の決裁とそのすべての添付文書等)が適切に保管され
ている。計画策定時のロジックの整理や、協力プログラムの背景
情報など、計画書の前段階や策定プロセスの情報が文書で残され
ていればなお可。
III-3.大きな変更や中核となる案件の追加があり、協力プログラ
ムの方向性が変わった場合には、プログラム目標、シナリオ、指
標を含め、JCAP/協力プログラム計画書/WP 等の該当箇所が改訂さ
れている。
III-4.協力プログラムの開始後、協力プログラムの情報が、相手
国側の関係機関や関与する他ドナー等のアクターと文書等で共有
されている。
協力プログラム情報が
共有されている
表 4-4
項目
チェッ
ク欄
評価可能性向上のための要件(評価時の要件)
要件
確認を要する点
評価の活用
協力プログラムの評価
の目的が明確であり、
評価結果の活用先も明
確である。
データの収
集
データの収集が可能で
ある
IV-1.何のために協力プログラムの評価を行うのかという評価の
目的(成果の対外発信、開発効果の検証、説明責任、協力プログ
ラムの改善のための提言、教訓抽出、戦略性の強化など)や、評
価結果の具体的な活用先(JCAP/協力プログラム計画書/WP 等の変
更、JICA 年次評価報告書への掲載、国際会議における成果の発信
等)が明確である。
IV-2.協力プログラムの関係者は、ネガティブな結果でも受け入
れる用意がある。
IV-3.評価に必要なデータが評価の際に、実際に収集可能である。
62
チェッ
ク欄
<評価可能性の向上に向けた協力プログラムの評価>
上記の、
「評価可能性向上のための要件」に基づき評価可能性が高いと判断された協力プ
ログラムについては、協力プログラムの計画と実施の適切性を検証しつつ、プログラムの
結果を問うことに主眼を置いた「総括評価」による評価を協力プログラム完了時に実施す
るのが適切である。
表 4-5 は、こうした考え方にも考慮した協力プログラムの評価項目と設問例として、テ
ーマ別評価「JICA 協力プログラムの評価可能性向上に向けた分析」で提案されたものであ
る。
表 4-5
評価項目
評価項目/設問27
評価設問(大項目)
評価設問(中項目)
I.プログラム 1.相手国の開発政策・計画 1-1. 協力プログラムは相手国の開発政策・計画と
の戦略性(意 や 日本の援 助方針に 沿っ 整合しているか
義)
て プログラ ム目標が 設定 1-2. 協力プログラムは相手国において優先度の
されているか
高い開発ニーズと整合しているか
事前評 完了時点
価
での評価
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2-4. 各構成案件からプログラム目標に至る論理
構成は適切か
○
○
2-5. プログラム目標がより効果的に達成される
ために相手国や他ドナー・国際機関の取組みも踏
まえて協力プログラムが構成されたか
○
○
×
○
×
○
×
○
×
○
×
○
1-3. 協力プログラムは日本の国別及び課題別の
援助方針と整合しているか
II. プ ロ グ ラ 2. プログラム目標達成ま 2-1. プログラム目標は明確か
ム の 戦 略 性 で のシナリ オは適切 であ 2-2. プログラム目標はデータに基づき検証可能
(計画)
ったか
か
2-3. プログラム目標(目標値)は期間内に達成可
能か
III.プログラ 3. プログラム目標達成に 3-1. 計画(構成案件の採択・実施、予算確保等)
ム の 戦 略 性 向 けて構成 案件は適 切に は予定どおり実施されたか
(プロセス) 実施されたか
3-2. 協力プログラムの構成案件を一元的に管理
する体制にあったか(プログラム・マネージャー
の配置等)
3-3. 協力プログラムに対する関係者間の共通認
識は高かったか
3-4. モニタリングの仕組みが関係者間で共有さ
れ、必要なデータ・情報が収集・蓄積されたか
3-5. その他プログラム・マネジメント(相手国政
府・他ドナー等との連携・協調、リスク管理、プ
ログラム改訂等)は適切に行われたか
27
これらは標準的な評価項目と評価設問である。必ずしもすべての評価設問に対応する必要はなく、協力
プログラムの評価可能性、評価のタイミング等に応じて選択してよい。
63
評価項目
評価設問(大項目)
評価設問(中項目)
IV. プ ロ グ ラ 4. プログラム目標は達成 4-1. プログラム目標はどの程度達成したか
ムの結果
したか
4-2. 相手国の開発目標の達成に、協力プログラム
の実施はどのようなインパクトを与えたか
4-3. 協力プログラムの実施により、その他どのよ
うなインパクトがあったか
事前評 完了時点
価
での評価
×
○
×
○
×
○
また、テーマ別評価「JICA 協力プログラムの評価可能性向上に向けた分析」においては、
モニタリングの際には以下を参考に達成状況の確認と記録を行うことが提言されている。
表 4-6
モニタリング項目
プログラム目標の達成
状況
プログラム成果の達成
状況
プログラム目標達成に
向けた進捗状況
モニタリングのポイント
概要
数値データを用いて達成状況を確認する。
計画策定時に目標値が設定されていない場合、早期に設定する。
数値データを用いて達成状況を確認する。
計画策定時に目標値が設定されていない場合、早期に設定する。
進捗状況につき、段階評価を行う。指標データがない場合は、関連情報を用いて定
性的に判断する。
 「課題がある」と判断した場合は、その内容と原因を記載する。
相手国政府当該セクタ  変化の状況を確認し、「変化がある」と判断した場合は、その内容と原因を記載す
ー政策の変化
る。





外部要因・リスクの変  変化の状況を確認し、「大きな変化がある」と判断した場合は、その内容と原因を
化
モニタリング・シートに記録する。
今後協力プログラムの戦略性を更に高め、その開発効果をより客観的に評価し、JICA 事
業の改善や対外発信を行っていくためには、協力プログラムの目標やシナリオの設定を含
む計画・デザインの改善がますます重要となることから、これらも踏まえた評価実施体制
の確立が必要である。
64
4-3 インパクト評価
前節までは、プロジェクトまたはプログラムの PDCA サイクルに沿った事業評価について
の説明であった。本節では、プロジェクトまたはプログラムのなかで開発課題の改善・解
決を目指して行われる介入がその介入対象に対して変化を生んだか否かを検証し、エビデ
ンスを得る「インパクト評価」について述べる。
MDGs の期限を迎えその先の目標である持続可能な開発目標(SDGs)が採択される中、開
発効果向上に向けた取り組み強化がより一層求められているが、そのための重要なアプロ
ーチとして、エビデンス(根拠・証拠)に基づく事業実施が挙げられて久しい。エビデン
スに基づく事業実施では、信頼性の高いエビデンスによって裏付けられた効果の高いプロ
ジェクト(またはプロジェクトの中で実施する活動・介入)を事業計画の策定段階で選別
すること、エビデンスが不十分なアプローチについてはスケールアップに踏み切る前に適
切な評価デザインを用いて効果を科学的に検証すること、そして効果の検証結果を対外的
に示し公共財として蓄積していくことが重要である。
介入効果に関するエビデンスはインパクト評価を通じて獲得される。そのための評価デ
ザインは様々であるが、用いるデザインによって評価結果の確証度は大きく左右される。
これまで JICA が行ってきた効果検証のための評価デザインは、事前事後比較といった比較
的簡便な方法を用いることが一般的であった。しかしながら、こうしたアプローチは簡便
さゆえの限界から効果の把握が不正確になされており、信頼性の低いエビデンスに基づい
て意思決定をしてしまっている可能性を否定できない。
既に世界銀行や DFID をはじめとする主要な援助機関では、エビデンスに基づく事業実施
の実践が強力に推進されてきている。JICA においても更なる事業効果の向上、事業の質の
向上のためにその推進に向けた機運が高まりつつある。JICA 評価部は、特に、信頼性の高
いエビデンスが不十分な介入については、インパクト評価を用いて効果を科学的に検証す
ることを推奨している。こうして効果が検証されれば、事業の質の向上に貢献し、スケー
ルアップや対外発信に向けての科学的裏付けが与えられ、さらには、アカウンタビリティ
を果たすことにもつながる。
インパクト評価の実施は、
(1)信頼性の高い既存のエビデンスの有無の確認、(2)
(信
頼性の高い既存のエビデンスが不十分な場合)実施価値の検討、(3)(実施価値が高いと
判断された場合)実施可能性の検討、を経て事業部にて判断する。各段階の検討事項を下
表に示す。
65
表 4-7
インパクト評価の実施判断に至るステップ
(1)信頼性の高い既存のエビデンスの有無を確認する。
既存のエビデンス(インパクト評価や複数のインパクト評価結果を統合したシステマティックレビュー)
で一定の質を確保したものを以下の International Initiative for Impact Evaluation (3ie)28のサイト
等から検索する。
http://www.3ieimpact.org/evidence/
ただし、質の高いエビデンスの存在が確認された場合も、社会経済状況、自然環境、文化等の観点から
担当する案件に応用可能かどうか判断することが重要。
(2)信頼性の高い既存のエビデンスが不十分な場合、実施価値を検討する。
:以下のいず
れか(もしくは複数)に該当する場合、実施が強く推奨される。

新たな(イノベーティブな)援助手法・介入方法が含まれている場合

汎用性が高い援助手法・介入方法が含まれている場合

JICA において普及しつつある事業モデルや手法のうち、経験的に「よい」とされているが、定量的に
効果が明らかにされていないもの

複数の介入方法のなかから最適な方法を特定したい場合
(3)実施価値が高いと判断された場合、実施可能性を検討する。
:上記(1)、
(2)を経
て、インパクト評価の実施が推奨される場合も、以下のいずれかに該当する場合、実施可
能性は低い。これらについては、別の評価デザインを用いて可能な限り定量的に効果を検
証する必要がある。

関係者(相手国政府、C/P、専門家等)の協力体制がない。

調査倫理上の問題がある。次の場合は非倫理的な調査とみなされる:①調査の対象に危害が及ぶ;②
不必要なリスクにさらす;③調査者や受け入れ機関の評判を落とす;④そもそも不法な行為を行う。
また、便益を受ける介入群と受けない比較群を設けることにより軋轢を生じさせるケースもあり、事
前に関係者の理解を醸成する必要がある。

案件の性格上(大規模インフラ、国全体をカバーする介入)
、カウンターファクチュアルが構築でき
ない。ただし、デザインの工夫により可能な場合もあるので、評価部にご相談ください。
)
以上は案件開始時から実施する前向きのインパクト評価にかかる検討事項であるが、案件終了後に実施
する後ろ向きのインパクト評価で、必要なデータが入手できない場合も実施可能性は低くなる。
上記の基準に照らしインパクト評価を実施すべき、かつ実施可能と判断された場合は、
具体的な実施に向けて準備を開始することになる。インパクト評価の実施フローは、計画、
準備、データ収集、分析、活用・発信の 5 段階に分けられる。前向きのインパクト評価の
28
エビデンスに基づく開発とプログラムを推進する国際 NGO。
66
http://www.3ieimpact.org/en/
計画はプロジェクト自体のデザイン時または開始初期に行うことが望ましく、また、分析
方法にもよるが、多くのケースではデータ収集(ベースライン)は介入が開始する前に行
われる必要がある。プロジェクトとインパクト評価の実施フローの関係を以下に示す。
図 4-1プロジェクトとインパクト評価のフローの一例:プロジェクト全体を介入と捉えた場合
図 4-2
プロジェクトとインパクト評価のフローの一例:プロジェクトの1コンポーネントを介
入と捉えた場合
67
付属資料
(1)評価関連用語集
ア行
●アウトカム(outcome)
プロジェクトのアウトプットによって達成される短期的、中期的および長期的な効
果。なお、組織によって長期的な効果については「インパクト」と呼んでいるとこ
ろもある。
●アウトプット(output)
プロジェクトの結果として生み出される産出物(財やサービス)。プロジェクトに
よって生じた変化であり、アウトカム達成に関連する変化を含むこともある。技術
協力プロジェクトにおいては、アウトプットを「成果」と呼ぶことがある。
●アカウンタビリティ(accountability)→説明責任
●インパクト(impact)
プロジェクトの実施による長期的、間接的効果や波及効果。予期しない正・負の効
果も含む。
●インプット(input)→投入
カ行
●開発援助委員会(Development Assistance Committee:DAC)
経済協力開発機構(OECD)の下部機関として1961年設立。加盟国の援助実績、援助
政策に関する援助審査や国別・地域別の経済開発事情、援助状況、累積債務問題等
の検討を行い、必要に応じて加盟国に勧告を行う。
●外部条件
プロジェクトではコントロールできないが、その進捗や目標達成に影響を与え得る
要素やリスク。ログフレームに記載する事項のひとつでモニタリングの対象にもな
る。
●外部評価
援助機関や援助実施に関わる組織以外の組織、個人によって行われる評価。
●外部有識者事業評価委員会
JICAの事業評価における透明性・客観性を確保するとともに、評価体制の充実と評
価の質の向上のために設置された委員会。学識経験者、NGO、ジャーナリストなど
の外部有識者から構成され、JICAにおける評価の方針や制度等について助言する。
●カウンターパート(counterpart)
途上国に派遣されたJICA 専門家やコンサルタント、青年海外協力隊員等と活動を
68
ともにし、技術移転を受ける相手国側の関係者をさす。
●カウンターファクチュアル(counterfactual)
反事実的状況。実際には確認できないが、プロジェクト等の介入がなかった場合に
観察される状況。これに対して実際に観察される状況をファクチュアルと呼ぶ。イ
ンパクト評価では、これらの状況を比較することで、介入の効果を測定する。
●課題別指針
主要な開発課題について、その課題の概況や援助動向、JICAによるアプローチや手
法を整理したうえで、JICAが蓄積してきた経験と知見を体系的に取りまとめ、JICA
事業実施上の留意点や今後の協力の方向性をJICA内外に示すもの。
●活動(activities)
技術協力プロジェクトのアウトプットを産出するために実施される一連の活動。ロ
グフレームではアウトプット(成果)ごとに活動の流れが記述される。
●技術協力プロジェクト
一定の成果を一定の期限内に達成することを目的に、協力期間、規模、構成要素(専
門家、研修員、機材等)の組み合わせが目標に応じて自由に選択される技術協力の
事業形態。
●キャパシティ・ディベロップメント(capacity development)
開発課題に対処するための能力を途上国自身が強化していくこと。キャパシティ・
ビルディングが外からの能力構築を指すのに対し、キャパシティ・ディベロップメ
ントは途上国自身の内発的な能力の構築、強化、維持といったプロセスそのものを
指す。
●教訓(lessons learned)
評価結果から導き出される、ある程度一般化された事柄。対象プロジェクト以外の
事業や開発計画、援助戦略策定等に反映される。
●協力プログラム
JICAにおいては、複数のプロジェクトから構成される「途上国の特定の中長期的な
開発目標の達成を支援するための戦略的枠組み(=協力目標とそれを達成するため
の適切な協力シナリオ)」。なおマルチレベルのドナーの関与のあり方としての「プ
ログラム・ベースト・アプローチ」は、「相手国が自ら所有する開発プログラムに
対して、十分に調整のとれた支援を行う」という原則に基づいて実施する協力を指
す。
●グッド・プラクティス(good practice)
他の模範となるような良い実践事例。
●経済協力開発機構
(Organization for Economic Cooperation and Development:OECD)
経済成長、開発途上国援助、貿易の拡大を目的とし、加盟国相互間の情報交換、
69
コンサルテーション、共同研究と協力を行う。経済政策委員会、貿易開発委員会、
開発援助委員会をもつ。
●結果
開発インターベンションのアウトプット(産出物)
、アウトカム、あるいはインパ
クト(意図的なもの、意図でないもの、肯定的なもの、及び(又は)否定的なもの
を含む)
。
●結果重視マネジメント(results-based management)
実績(パフォーマンス)とアウトプット、アウトカム、インパクトの達成に焦点を
置いたマネジメント手法。
●研修員受入
途上国の中堅・高級技術者を、その政府の要請により日本に受け入れ、各分野の技
術や地域について研修を行い、経済的・社会的発展に寄与し、日本についての理解
を深めてもらうことを目的とする事業。設定されたプログラムへの参加希望者を募
る集団研修と、各国独自の要請で行う国別研修がある。
●現地国内研修・第二国研修(in-country training)
JICAが行う研修事業のひとつ。途上国でのさらなる技術移転・普及をはかるため、
日本の技術協力で養成された人材が中心となって、その国の関係者を対象に実施す
る研修。
●効果
意図されたものであるか否かにかかわらず、援助によって直接あるいは間接的に生
じる変化。関連用語:結果、アウトカム
●合同評価(joint evaluation)
被援助国の関係機関、あるいは他のドナーと合同で行う評価。
●効率性(efficiency)
プロジェクトのコストとアウトプットの関係に着目し、アウトプットの達成度はコ
スト(投入)に見合っていたか(見合うか)、より低いコストで達成する代替手段
はなかったか、同じコストでより高い効果を達成することはできなかったか等を問
う視点。
●国際協力専門員
JICA所属の専門家で、海外では政策アドバイザー、プロジェクト・リーダー、専門
家等として活動し、国内では各種の調査研究、助言、専門家養成研修の講師、海外
からの研修員の指導等を行う。
サ行
●在外研修→現地国内研修・第二国研修→第三国研修
●ジェンダー
70
特定の社会で共有されている価値観や個々人の価値観等によって形作られる文化
的・社会的な性差。
●事後評価(ex-post evaluation)
原則、案件完了 3 年後までに DAC 評価 5 項目に沿った JICA 事後評価の視点を踏ま
えて当該事業の総合的な評価を行うもの。事業のアウトカムを評価することにより、
国民への説明責任を果たすこと、また、評価結果を基に提言、教訓を導き出し、実
施機関及び JICA 事業部へフィードバックすることで、相手国政府及び JICA による
当該事業および将来事業における改善を図ることを目的に実施する。
●事前評価
相手国から要請されたプロジェクトについて、JICA国別事業実施計画との整合性
や実施の必要性を検討し、プロジェクトの内容や予想される成果をより明確にし、
プロジェクトの実施の適切性を総合的に検討・評価することを目的に行う。事前
評価の段階で設定したプロジェクトの評価指標は、中間から事後までの各段階の
評価で協力効果を測定する基準となる。
●実績(performance)
目標(プロジェクト目標、上位目標)の達成度、アウトプットの産出状況、投入の
実施状況等、計画段階で立てられた達成目標に対する情報。
●指標(indicator)
プロジェクトの業績やプロジェクト実施による変化を測るための定量的・定性的な
変数。ログフレームの指標の欄に、プロジェクトの計画段階で設定する目標値とあ
わせて記入する。
●終了時評価(terminal evaluation)
技術協力プロジェクトの終了間際に、プロジェクト目標の達成度、事業の効率性、
自立発展性の見通し等の視点から評価するもの。その結果をふまえて、協力終了の
適否や協力延長などフォローアップの必要性を判断する。
●受益者(beneficiaries)
対象とされている、されていないにかかわらず、直接もしくは間接的に便益を受け
る個人、グループ、組織。「裨益者」とも表記される。
●上位目標(overall goal)
プロジェクト計画時に意図された、プロジェクトの間接的で、より長期的な効果。
ログフレームに記載する事項のひとつ。
●持続性(sustainability)
援助が終了してもプロジェクトで発現した効果が持続しているか(持続の見込みが
あるか)を問う視点。持続可能性。技術協力プロジェクトでは、自立発展性と以前
呼んでいた。
●審査(アプレイザル)
71
資金拠出の決定前に、開発支援の妥当性、実施可能性および潜在的な持続可能性を
全体的に査定すること。
●青年海外協力隊 (Japan Overseas Cooperation Volunteers:JOCV)
途上国で現地の住民と生活・仕事をともにし、その地域の経済・社会の発展に協力
しようとする、日本の青年の海外ボランティア活動を促進・助長することを目的と
する事業。
●説明責任(accountability)
事業の実施状況や目標達成度を明らかにして、決められた任務を果たしていること
を納税者等に証明、説明する責任。
●前提条件(precondition)
プロジェクトが実施される前にクリアしておかなければならない条件。ログフレー
ムに記載する事項のひとつ。
●専門家
途上国や国際機関へ派遣される専門的な知見を有する人材。派遣先の政府関係機
関・試験研究機関・学校・指導訓練機構等で、開発計画の立案・調査・研究・指導・
普及活動・助言等の業務を行う。
タ行
●ターゲット・グループ
プロジェクトを実施するときに、第一に便益をもたらす対象となる社会集団。
●第三国研修
日本が技術移転を行った成果を、相手国が近隣国に波及させるために実施する研修。
共通の自然環境や社会的・文化的環境をもつ近隣諸国から研修員を個別・集団で招
請し、各国の現地事情により適合した技術の研修を実施する。2002年度より技術協
力プロジェクトに統合。
●第三国専門家
南南協力支援の一環で、開発途上国へ派遣する他の途上国の人材。環境、技術水準、
文化・言語等の同一性や類似性により技術移転がより適切に効率的に行われる。
●妥当性(relevance)
プロジェクトが目指している効果(プロジェクト目標や上位目標)が受益者のニー
ズに合致しているか、対象分野・セクターの問題や課題の解決策として適切か、援
助国側の政策との整合性はあるか、プロジェクトの戦略・アプローチは妥当か、公
的資金であるODAで実施する必要があるかといった「援助プロジェクトの正当性・
必要性」を問う視点。
●中間レビュー(mid-term review)
協力期間の中間時点でプロジェクトの実績と実施過程を把握し、効率性、妥当性等
72
の観点から評価し、必要に応じて当初計画の見直しや運営体制強化を行うためのモ
ニタリング。
●提言(recommendation)
評価を行った結果、そのプロジェクトの将来や関連事業の実施に関して行う具体的
な措置のための提案や助言。
●テーマ別評価(thematic evaluation)
地域、課題セクター、援助手法等、ある一定のテーマを設定し、そのテーマに関連
したプロジェクトについて、テーマごとに設定された基準により行う評価。
●投入(input)
プロジェクトを実施するために使われる資源。資金、人的資源、資機材等で、ログ
フレームに記載する事項のひとつ。
ナ行
●内部評価
事業の実施監理を目的に、実施責任者であるJICAが主体で行う評価。
●南南協力
途上国間で、地域経済協力等を通じて相互の経済発展をはかること。先進国の最新
の資本・知識集約的技術が途上国の実情、ニーズに適合しないこと等から、途上国
の中で、ある分野において開発の進んだ国が、別の途上国の開発を支援すること。
●2次評価
ある評価者が行った評価(1次評価)に対して、別の評価者が2次的な評価を行う作
業。1次評価の質を検証するための「評価の評価」の観点からは、メタ評価とも呼
ばれる。→メタ評価
●入手手段(means of verification)
プロジェクトの達成度や業績を測るための情報源・調査手段で、ログフレームに記
載する事項のひとつ。
●人間の安全保障(human security)
一人ひとりの人間を中心にすえて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威のも
とにある個人と地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うで
きるような社会づくりを目指す考え方。具体的には紛争、テロ、犯罪、人権侵害、
難民の発生、感染症の蔓延、環境破壊、経済危機、災害といった「恐怖」や、貧
困、飢餓、教育・保健医療サービスの欠如等の「欠乏」といった脅威から個人を
保護し、また、脅威に対処するために人々が自らのために選択・行動する能力を
強化すること。
73
ハ行
●評価
プロジェクト、プログラム、政策およびその計画、実施、結果についての体系的か
つ客観的な査定のこと。目標の妥当性および達成度、開発の効率性、有効性、イン
パクト、持続可能性の判断を目的とする。評価は、得られる教訓が被援助国側、ド
ナー側双方の意思決定のプロセスに活用されるような信頼性および有用性の高い
情報を提供するものでなければならない。また評価は、活動、政策、プログラムの
価値や意義を決定するプロセスであり、計画中、実施中またはすでに修了した開発
援助についての、可能な限り体系的かつ客観的な査定である。
●評価5項目
1991年にOECD開発援助委員会(DAC)の発表した「DAC評価方針」で、援助を評価す
る視点として提唱された。relevance
(妥当性)、effectiveness(有効性)、efficiency
(効率性)、impact (インパクト)、sustainability(持続性)。
●貧困削減戦略文書(Poverty Reduction Strategy Paper:PRSP)
1999年の世界銀行とIMF(国際通貨基金)の開発委員会が、重債務最貧国で債務削
減を希望する国に対して、債務削減認定の資料として、その国自身が貧困への対応
策を重視して、主体的に作成することを義務づけた文書。
●ファクチュアル(factual)
実際に観察される状況。これに対して反事実的状況をカウンターファクチュアルと
呼ぶ。
●(評価結果の)フィードバック(feedback)
評価情報を関係する人々・組織に対し提供し、学習効果を高めるために活用するこ
と。
●フォローアップ協力(follow-up cooperation)
技術協力プロジェクトで、目標を達成していない一部の特定分野の協力を追加的に
行うこと。
●プログラム評価
地球規模、地域別、国別、分野別等の開発目標を達成するために整理された一連の
インターベンションの評価。
●プロジェクト・デザイン・マトリックス(Project Design Matrix:PDM)
プロジェクトの計画、モニタリング、評価を行うために使用する「理論的枠組み」。
プロジェクト要約、指標、データ入手手段、外部条件、投入、前提条件から構成さ
れる。ログフレームの一形式として、JICAで利用している。
●プロジェクト目標(project purpose)
プロジェクトの終了時に達成が期待されているプロジェクトの目標。ログフレーム
(PDM)に記載する事項のひとつ。
74
●ベースライン調査(baseline survey)
プロジェクト実施前の対象地域の現状を調査・分析するもの。指標を使って目標設
定を行う場合は、選定された指標のプロジェクト開始前の基準値を明らかにするた
め、ベースライン調査が必要になる。
●ボランティア事業
JICAでは、青年海外協力隊事業、シニア海外ボランティア事業、日系社会青年ボラ
ンティア事業、日系社会シニアボランティア事業を指す。
●本邦研修
技術研修員受入事業の一形態で、日本国内で行われるもの。
マ行
●ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)
2000年の国連サミットでのミレニアム宣言に基づいて発表された、2015年までに達
成すべき8つの目標。①極度の貧困と飢餓の撲滅、②普遍的初等教育達成、③ジェ
ンダー平等推進と女性の地位向上、④幼児死亡率軽減、⑤妊産婦の健康改善、⑥
HIV/AIDS、マラリア等の蔓延防止、⑦環境の持続可能性確保、⑧開発のためのグロ
ーバル・パートナーシップ促進。
●無償資金協力
相手国に返済義務を課さない資金協力。保健、水供給等のBHNを中心に、国の将来
に大きくかかわる教育、エイズ、子どもの健康、環境、人口問題等の分野、道路、
橋等経済や社会の基盤となる基礎インフラの整備まで及ぶ。
●メタ評価
実施した一連の評価から評価結果を集計することを意図した評価。また、評価の質
の判断や評価実施者の実績(パフォーマンス)を査定するための「評価の評価」と
いう意味で使われる。
●モニタリング
プロジェクト実施中に、継続的にその進捗状況をチェックすること。モニタリング
情報は評価調査を補完する。
ヤ・ラ行
●有効性(effectiveness)
プロジェクトの実施により、本当に受益者や社会への便益がもたらされているか
(もたらされるのか)を問う視点。
●有償資金協力(円借款)
無償資金協力の対語で、途上国の経済・社会の発展を支えるため、比較的多額の資
金を必要とする事業に対し緩やかな貸付条件で行われる、相手国に返済義務を課す
75
資金協力。円建てで行われるため円借款と呼ばれる。
●レビュー
定期的あるいは任意に行われる、インターベンションの実績(パフォーマンス)を
査定すること。
注:
「評価」という語はしばしば「レビュー」よりも統合的及び(又は)より詳細
な査定を意味するものとして使われる。レビューは実施面に重点を置く傾向がある。
時折「レビュー」と「評価」が同義語として使われることがある。
●ローカルコスト(local cost)
プロジェクト実施に必要な資金のうち、現地で調達可能な部分等の現地通貨建て
の部分のことで、現地工事の人件費、一部資機材等の費用。プロジェクトを相手
国政府との協力により実施する場合、本来受入国側が負担すべき経費(プロジェ
クトサイトの整備確保、一部施設の建設、施設維持管理、プロジェクト運営等の
経費)をローカルコストと総称する。
●ログフレーム→ロジカル・フレームワーク
●ロジカル・フレームワーク(logical framework)
プロジェクトのおもな要素(インプット、アウトプット、目標等)とそれらの因果
関係、プロジェクトの外部要因・リスク等を表したもので、計画、実施、評価の各
段階で効果的なマネジメントを行うために活用される。PDMはその一形式である。
→プロジェクト・デザイン・マトリックス
●ロジック・モデル
プロジェクトやプログラムがどんな過程、関係を経てどんな成果となるかを論理的
に示すモデル。全体の目標、アウトプット、投入やその因果関係、指標、外部条件
等を論理的にまとめたもの。
略語
●CD キャパシティ・ディベロップメント
●DAC 開発援助委員会
●JOCV 青年海外協力隊
●MDGs ミレニアム開発目標
●NGO(Non-Governmental Organization)
非政府組織
●ODA(Official Development Assistance)
政府開発援助
●PDM プロジェクト・デザイン・マトリックス
●PRSP 貧困削減戦略文書
●3ie
International Initiative for Impact Evaluation
76
(2)事後評価レファレンス
外部事後評価レファレンス
2016 年度外部事後評価
JICA 評価部
調査・分析方法全般
・ 調査開始時に評価の方針を明確にする。
・ 計画時/審査時-事後評価時の比較を基本とする。
・ その際に当該案件が、開発のコンテクスト(例:問題系図)の中でどのような位置づけにあり、どのようなロジックに基づき発現する効果(及び/また
は協力の付加価値)による貢献を目指したのか、その全体像を理解した上で事後評価を行うこと(全体像において、当該事業の効果含め開発効果発現に
向けたシナリオやロジックを十分に念頭に置くこと)。
・ (計画/審査時-事後評価時の実績の比較を原則とするも、ロジックがつながらない場合は)事業目的/プロジェクト目標に基づいて事業が目指した効果
と開発課題への貢献の道筋(アウトプット、アウトカム、インパクトの関係)を改めて明確にしたうえで、評価方針を設定し分析する。この際、事業に
よる付加価値(真に事業が生み出した価値) を可能な限り事実と仮定(反事実)の比較を意識し、それが効果に繋がっているか因果関係を確認し、評価
判断に繋げる。
・ 要因分析を適切に行う(濃淡をつけることは可)
。例えば、
「手当されないから、予算が不足している」は不十分であり、手当されていない要因を分析す
る。また、外部要因は事後評価の分析対象とし、判断にあたり原則その影響を除外しない(外部要因だから問題なかった、とはしない)。
29
・ 事実誤認を防ぐため、必ずエビデンスに基づいて事実を確認する。また、早い段階でキーパーソン にヒアリングし、現地調査前の情報収集を十分に行
う。
・ 評価対象となっていない場合でも、先行の関連事業等、当該案件の実施に影響を及ぼしていると考えられるものについては、既存資料や関係者のインタ
ビューを通じて情報を収集し、当該案件が占める位置を理解した上で、事後評価を行うこと。
・ 各項目について、入手した情報量が十分でなかったとしても、原則評価不能とはせずに、かかる制約を示した上で評価判断を行う。ただし、定量的なデ
ータのみならず定性的データを含めた十分なエビデンスが収集できなかった場合は、原則としてサブレーティング③の判断はしない。
29
技術協力は JICA 事業担当部や専門家等。円借款・無償資金協力は、施工/調達監理コンサルタントや JICA 事業担当者(審査/監理)等。また実施機関におけるキーパーソンについても JICA
在外事務所の担当者等から確認し、確実にヒアリングを行うこととする。
77
技術協力
円借款
無償資金協力
・ 技術協力プロジェクトでは、事前や中間時に ・ 円借款事業では、原則として事業全体(相手国 ・ 無償資金協力事業は、相手国政府が特定の開発
加え、終了時評価報告書30、完了報告書及び専
政府、他ドナー(協調融資の場合31)資金によ
課題を解決するために計画するより広範囲の
門家報告書など活用しつつ、他の情報ソース
り実施される部分を含む)を評価対象とする。
プロジェクト(以下「プロジェクト全体計画」
やインタビュー等による追加の検証を経て、
ただし、他ドナー事業の実施が、円借款事業目
という)の一部を支援するという考え方に立ち
事後評価段階における事実確認、評価判断を
的の達成に必要不可欠ではない場合には、その
実施されることもある。無償資金協力により実
行うこと。
部分は評価対象から除外する(事業目的と円借
施されるものを「本事業(先方負担事項を含め
・ 上位目標達成までの道筋を整理し、PDM との整
款事業内容との関係性(ロジック)によって、
たもの)」33と呼び、これを評価の対象とする。
合性とプロジェクトが実際に貢献した内容を
評価対象の範囲を設定する)。なお、本事業(本
無償資金協力事業に言及する時は、本事業を使
分析・記述する。
事業のスコープ)とは評価対象範囲全体を差
用し、「プロジェクト」や「プロジェクト全体
し、そのうちの JICA が支援した範囲を円借款
計画」の呼称を使用しない。
・ 事業実施中に PDM が変更されている場合には、
変更の適切さ、過程を確認し、該当する評価
対象と呼ぶ。
項目(妥当性、有効性等)において分析・記 ・ 相手国政府、他ドナーとの合同評価の場合はそ
述する。ただし、当該事業のプロジェクト目
の旨を記述する(ただし、報告書のクレジット
標達成に向けたロジックを踏まえると適切と
は原則日本側の評価者のみとする)
。
32
判断できない PDM の変更の場合は、変更前の ・ 円借款附帯プロと一体評価を実施する場合 に
PDM を計画とみなして、評価を行う(評価方針
は、報告書の事業概要の項目において、同附帯
にて明確化する)
。
プロのプロジェクト目標と成果、上位目標と実
・ 協力において移転された技術等が、その後、
施期間、事業費を記載した上で、一体評価を行
組織等の活動の中でどのように活用され効果
う旨を記載する。ただし、個別案件ごとに個別
30
技プロは終了時 6 カ月前に終了時評価を実施することから、案件完了時点を示すには「終了時」とはせず、
「完了時」と記載し混同を避ける。
円借款の協調融資には Joint Financing と Parallel Financing の 2 通りがあり、前者の場合は同じコンポーネントを支援することから評価対象となる。後者の場合は上記のとおり個別に判
断する。
32
一体評価とは、2 つ以上の事業でも 1 つの評価報告書にて評価分析を行い、1 つのレーティングを付すこととする。円借款附帯プロについては、プロジェクトが完了していれば基本的には一
体評価の対象とする。技協部分が本体事業評価時に未完了の場合、効果発現が確認できるものは一体評価の対象とすることもできるが、効果発現が確認できるほどの進捗がない場合は、別途評
価とする。
33
ただし、
「本事業(相手国負担事項を含めたもの)
」の計画に含まれていない場合でも、
「本事業」で整備/調達された施設や資機材の活用による、期待された効果発現に不可欠なものがあれ
ば、評価の対象とする。効率性の項目も参照のこと。
(無償のうち 2016 年度閣議決定以前の案件。
)
31
78
発現に繋がっているのかという視点を踏まえ
項目のサブレーティングへの反映方法は案件
ること。
内容の特性に応じて検討する。
・ モデル構築事業などは、協力で目指した「モ
デル」の意味を可能な限り正確に捉え、評価
を行う。
以下、DAC5 項目(妥当性、効率性、有効性、インパクト、持続性)に沿った事後評価のポイント(視点)を整理する。
妥当性
 基本的に日本の援助政策、相手国政府の開発政策、開発ニーズの 3 点について分析を行う。
 日本の援助政策、相手国政府の開発政策、開発ニーズとの整合性を確認する。計画時/審査時に、事業の緊急性があったとされていた場合は、事業が採
択された妥当性を日本の援助政策、相手国政府の開発政策、開発ニーズのいずれかにおいて分析し、反映する。
【日本の援助政策】
 計画時/審査時で確認する。日本/JICA の援助方針との整合性について、外務省作成の国別援助方針およびその別紙である事業展開計画、国別データブッ
ク、旧国別援助計画、旧 JICA 国別事業実施計画、旧 JBIC 海外経済協力業務実施方針、国別分析ペーパー等を用いて、なるべく具体的な(地域・セクタ
ーを絞り込んだ)方針を確認する。ただし、計画時/審査時の具体的な援助政策が定かでない場合には、ODA 白書の中の地域及びセクターに関する記載を
もって妥当性を確認する。わが国の外交政策に基づく経済協力(例:APEC)、地域支援(例:TICAD)などの枠組で実施される協力については、これら政
策を援助方針として位置づける。事後評価時点における日本の援助政策との整合性の確認は行わない。
【相手国政府の開発政策】
 計画時/審査時と事後評価時で確認する。相手国の開発政策との整合性について分析対象を揃える。つまり、計画時/審査時の分析対象として国家五ヵ年
計画を採り上げる場合、プロジェクト完了時点(技術協力)や事後評価時点(円借款・無償資金協力)でもその時点の国家五ヵ年計画を採り上げる。同
じものを採り上げることが困難な場合は、それに相当するもので代替する。
【相手国の開発ニーズ】
 計画時/審査時と事後評価時で確認する。
 相手国の全体計画や開発ニーズの一部を支援する事業の場合、また、JICA 単独あるいは他ドナーとの協調によるプログラム・アプローチによる支援(ま
79
たはそれに準ずるような包括的、長期的な取り組み)である場合、全体として目指していた(目指している)開発効果、その中での当該案件の位置づけ
や役割(貢献度)について把握・分析する。
 相手国の開発ニーズについては、対象事業の優先度及び受益者・対象地域の選定の適切性についても分析を行う。
 事業開始以降、事業及びその実施の妥当性が覆されるような変化(急激な経済環境の変化、政策の変化、社会的価値基準の変化に起因するニーズの変化
など)が起きていないかについて確認する。
 計画時/審査時に日本の技術を用いる必要性・優位性の観点から妥当性が確認されていた事業については、開発ニーズの妥当性の確認において、計画時/
審査時からプロジェクト完了時点(技術協力)/事後評価時点(円借款・無償資金協力)について同観点からも確認する 。
【事業計画やアプローチ等の適切さ】
 内外の要因に関わらず、計画と実績との間に非常に大きな差異がみられる場合や実施中に大きな変更が見られた場合は、事業計画におけるインプット、
アウトプット、アウトカムを確認し、事業目的の達成、開発効果発現につながるロジックが適切に計画・デザインされていたか(達成のための必要コン
ポーネントや政策が欠けていなかったか)
、事業実施中に計画が変更されていた場合は適切な変更がなされていたかという点を確認する34)。
 審査時・事業開始時に、事業内容が、F/S や基本設計調査、詳細計画策定調査等の事前の調査において、代替案を含め十分検討された上で計画を選択し
たか確認する。またそれが妥当であると判断された場合にはその根拠を記載する。
 評価対象案件に関連する別の技術協力、円借款、無償資金協力等がある場合、それらとの関連性や位置づけも分析・記述する。ただし、これをもって「ニ
ーズが高い」という根拠とはしない。
【妥当性分析における留意点】
 妥当性の分析にあたっては、事前の資料等を参照しつつも、それらの記載のみをもって判断根拠とすることは避ける。複数の情報源から情報を収集し、
当該案件が対象とするセクター/課題における本件の位置づけを捉え、妥当性を分析する。
 妥当性は、案件の有効性における「目的達成度」とは切り離して分析する。つまり、「本事業の目標は達成されたため、事業実施の妥当性は高かった。」
という分析は不適切。
34
計画内容(適切なロジック構築や代替手段の検討含む)
、手段の適切性(プロジェクトの採った課題解決手段やアプローチ、関係機関や対象者の選定、適切なモデル構築等)
、計画時に予見
できなかったニーズや環境の変更等に応じた事業実施中の対応等の観点から検証、判断し、例えば「有効性がないから妥当性は低い」という単純な整理は行わない。
また、関係者の案件形成(詳細設計等)や事業実施・案件監理の質が、有効性・インパクト、持続性、効率性、それぞれの項目で何らかの影響を与えたか確認を行う。さらに、詳細設計の質や
関係者の事業実施・案件監理の質が事業に大きな影響を与えている場合は、
「役割・貢献」(レーティング対象外)の項目で分析する。
80
技術協力


円借款
無償資金協力
計画時からプロジェクト完了時点の間の妥 
他機関との協調融資で実施した事業の場 
プロジェクト全体計画における協力対象事業の位置
当性について、相手国政府の開発政策、開
合、円借款で支援がなされたことの意義と
づけを確認するとともに、同プロジェクトのその他
発ニーズ、を確認する。なお事後評価時点
円借款対象範囲の適切性を分析する。
コンポーネントと協力対象事業の関係性に着目し、
の整合性については「持続性」の項で確認
協力対象範囲の選定の適切性を分析する。相手国政
する。
府の投入内容については、相手国政府の責任範囲、
新たな制度構築を目的とするプロジェク
負担事項等も可能な限り明らかにする。
トにおいては、必ずしも事前の政策との整
合性が具体的に明示されていない場合も
ある。その場合には、プロジェクトと政策
の整合性は完了時点においても確認し、事
前段階における非整合のみをもって妥当
性の評価判断を直ちに下げることはしな
い。
81
有効性・インパクト
 事業が目指した効果と開発課題への貢献の道筋(アウトプット、アウトカム、インパクトの関係)を明確にしたうえで、評価方針を設定し分析する。こ
の際、事業による付加価値(真に事業が生み出した価値)を可能な限り、事実と仮定(反事実)との比較を意識しながら、それが効果に繋がっているか因
果関係を確認し、評価判断に繋げる。目標値が達成されていたとしても、外部要因に起因することが明らかな場合は、評価判断に考慮する。なお、個々
の指標がアウトカム、インパクトとして設定された内容を適切に示しているか確認する。その際、指標の定義を確認し、報告書に明記するようにする。
 事前評価時に想定/設定されたインパクト(資金協力)/上位目標(技術協力)について、ロジックに問題があるためにアウトカムから事業目的/プロ
目、インパクト/上位目標への道筋(貢献度)が合理的に説明できない場合には、インパクト/上位目標の指標の達成度について補完的に代替指標を立
てた上で評価判断を行う35。
 関連する別の技術協力、円借款、無償資金協力等がある場合、それらとの相乗効果についても可能な範囲で検証する。また、JICA による協力に加え、他
ドナーとの連携・役割分担等が想定・実施されていた場合は、本協力の付加価値を意識しつつ、その内容と効果も分析・記述する。
 プログラム・アプローチ(又はそれに準じる包括的な支援)による場合、プログラム全体の中での本協力の位置づけ及び貢献を明確にし、関連案件との
相乗効果に留意して、開発効果発現状況について分析する。
 インパクトは有効性の項目と合わせてレーティング判断を行う。
(事業の「効果」として一括りで考えられるため)
。有効性とインパクトとの判断におけ
る比重の置き方は、スキームによって異なることに留意する(別添 2 参照)。事業内容の設計や過去の事後評価事例を参照しつつ、案件個々に判断する
こととなるが、完了後のサービスデリバリー及びそれからの効果を意識する。
 事後評価時点で、評価者が指標等の追加や変更を提案する場合は、JICA の合意を得たうえで実施機関にも説明を行い修正する。他方、追加指標を置く場
合でも、元々設定されていた指標についても可能な限り捉えて、判断に加味するか否かを含め検討する。
 事後評価のタイミングにより、目標年から事後評価時点まで年月が経過している場合、目標年の効果発現状況に加えて、目標年から事後評価時点までの
効果発現状況の経年変化及び事後評価時点の効果発現状況を分析し、判断に加味する。
 事後評価のタイミングにより、目標年より前に事後評価を実施する場合や事業の一部が未完了の案件は、これまでの効果発現状況の経年変化及び目標年
における効果発現状況見通しを分析、判断に加味する。
 事後評価時に事業の一部が未完了であるものの、評価を実施する場合は事後評価時点の実績をもとに評価する。可能な限り実績を確認するものの、情報
不足により効果発現が確認や分析、判断ができない事業スコープ部分については、評価判断は行わないことも可能とする。
35
資金協力において、事前評価時に設定されている運用・効果指標は、有効性とインパクトのいずれの指標とするか事業目的/プロ目と照らし合わせて整理を行う。また、事前評価表の指標
等で記載がなくとも、背景等の記述から明らかに想定し得たと捉えられるものは代替指標を立てた上で評価判断を行う。それ以外の想定し得なかったインパクトについては評価において記載す
るもののレーティングの判断には加味しない。
82
 目標年や指標が設定されていない案件については、事後評価時点で入手できる最新の効果発現状況を分析、判断に加味する。
有効性及びインパクト各々については、以下のとおり。
83
有効性
 事前評価時におけるプロジェクト目標/事業目的(定量・定性とも)、成果、指標を所与のものとし、事後評価ではそれらとの比較を行い、達成度合いを
測り、かつ、外部要因等含め要因分析を行うことを基本とする36。実施中の大きな計画変更に伴いアウトカムの変更が発生し相手国側と合意している場
合、背景等を確認のうえ、適当な場合は効果にかかる計画時/審査時の指標変更があったものとして捉える(ただし、必要に応じて妥当性等で論じる)。
 事業概要(事業の目的)の「本事業は○○○(対象地域)において△△△(アウトプット)を実施することにより、 ×××(アウトカム)を図り、も
って●●●(インパクト)に寄与するもの。」の△△△(アウトプット)にあたるものを明確にしたうえで、×××(アウトカム)の達成度合い(想定
していた効果の発現度合い)を測る。計画時/審査時に計画値(目標値)が設定されている場合は、その指標と、審査調書/事前評価表/基本設計調査報
告書等で示されている完成後年数における実績値とを比較する。
技術協力
【プロジェクト目標との関連性】
円借款

無償資金協力
事業完成が遅れた場合は実際の完成年を基準として目標年を設定し直すこととする。事業完成の遅れ
 技術協力プロジェクトの有効性は、プロジェ
については効率性で分析・判断する。実績値が計画値(目標値)からかけ離れた値となった場合は、
クト実施の結果としてプロジェクト目標が
その理由を分析する。計画値/目標値が過大(過小)であったと考えられる場合は、そのような計画値
達成されたかをもって測る。つまり、目標が
/目標値設定に至った背景を分析・記述し、F/S 時点の計画値の設定に問題があったと考えられる場合
達成されており、かつそれがプロジェクトの
は計画の不備として記述し、教訓を導きだす。特に技術支援(T/A)を目的としたコンサルティングサ
実施に起因することが確認された場合は、有
ービス/ソフトコンポーネントが含まれている場合、同コンポーネントの効果の発現状況についても評
効性が高いといえる。
価の対象とし、可能な限り T/A を受けたカウンターパートや受益者にインタビュー等を行い、その成
 「プロジェクト目標」とは“プロジェクトが
36
果を確認する。
完了する際に達成されるべき目標”であるの 
審査時/計画時基本設計調査(事業事前評価結果表/基本設計調査概要表)において指標が設定されて
で、事前評価時(途中で設定変更されている
ない場合は、事後評価時に JICA の「無償資金協力開発課題別の標準指標例 Ver.2」や「運用・効果指
場合はそれも含む)に設定されたプロジェク
標リファレンス(第 2 版)」から適切な指標(施設・機材の使用状況については運用指標、効果発現状
ト目標に対するプロジェクト完了時点での
況については効果指標)を選定し、データを収集する。同リファレンス以外からでも、有効性の評価
実績をもとに達成度を判断する。
に有益な指標がある場合には、収集可能且つ有益な範囲で設定・収集し、評価に役立てる。新たな指
運用・効果指標、定性的・定量的指標については、分類した上で、それぞれの達成度を確認し、評価判断を行う。
84
 実績の確認では、
「プロジェクト完了報告書」
標の設定にあたっては、評価方針で明示し、JICA 及び実施機関と合意を得たうえで確定する。
(場合によっては「終了時評価報告書」
)
、相 
運用指標を確認し、施設/機材が使用(運用)されていない状況が明らかになった場合はその原因を分
手国の資料・データ、関係者へのヒアリング、
析する。また、施設/機材の使用(運用)状況及び効果が定量的に確認できない場合は、定性的な方法
受益者調査(後述)等をもとに、プロジェク
で確認する。
ト完了時点でのアウトプット(成果)の産出 
有効性においては、事業目的(「・・・にお  基本設計調査で挙げられた事業効果について、内容に
状況とプロジェクト目標達成度を、PDM で設
いて、○○を行うことにより、△△を図り、
応じ、有効性とインパクトに整理し、それぞれの項目
定されている指標を用いて確認する。
もって××に寄与する。」)のうち、△△に
で分析する
 プロジェクト目標の実績値が目標水準に達
あたるものを分析し、インパクトにおいて 【機材調達を含む事業】
している場合でも、それだけをもって有効性
は××にあたるものを分析する。審査調書  消費財や非耐久財の調達がある(資機材そのものは事
が高いとは判断せずに、それが産出されたア
で定性的効果とされているものは、内容に
後評価時には消費済みであると考えられる)場合は、
ウトプットに起因するものか、その他による
応じ、有効性またはインパクトにおいて分
資機材が当初の目的、タイミングどおり利用・使用さ
ものかを分析する。PDM が問題系図等を反映
析する。
れたかを実施機関の資機材管理台帳等の記録をもと
しているかの論理性を検証すると共に、アウ 
円借款附帯プロのプロジェクト目標達成度
に確認する。また、相手国政府のプロジェクト全体計
トプット指標の実績値を検証することで、プ
は、本体事業の効果発現の一部としてとら
画に対して、協力対象事業の投入の割合が小さく、
ロジェクト目標指標の変化が本件の実施に
え、事前評価時の目標値と事後評価時の実
個々の資機材の消費状況を確認できない場合はプロ
よるものか否かの判断を行う。
績値の比較を行い、附帯プロによる効果発
ジェクト全体での状況で代替することも可とする。
 プロジェクト目標の実績値が目標水準に達
していない場合は、アウトプットの産出状
現の貢献度合を確認し、評価判断に加味す  調達機材の数が多数に亘り、一つ一つの活用度を確認
る。
することが困難な場合は、主要機材(事業の効果発現
況、外部条件、PDM の論理構成を確認したう
に貢献度が大きい機材)或いは、価格が高いもの等、
えで、「PDM のロジックが適切で、アウトプ
評価判断を行うに十分な対象を選択して評価するこ
ットが予定どおり産出しているにも関わら
とも可とする。
ず、その他要因により目標を達成しなかっ
た」のか、
「PDM のロジックは適切であるが、
なんらかの要因でアウトプットを産出しな
かったために目標が達成できなかった」か、
「PDM のロジックに破綻があり、アウトプッ
85
トを産出してもプロジェクト目標につなが
らなかった」のか、などの検証を行う。
 PDM の Theory Failure の場合は、有効性・
インパクトにおいて判断するのみならず、妥
当性の判断に加味する。
 既存の報告書から把握できる事業の実態を
PDM が適切に描いていないと考えられる場合
には、事業が目指した「道筋」を整理し、有
効性・インパクト等の評価判断のために事後
評価で確認すべき内容を整理する。ただし、
一般論等に基づく「理想的な」
(あるべき)
PDM を作成するものではない。
 効果の発現状況については、受益者(ターゲ
ットグループ)を確認する(どの人口集団に
おいてどの程度の人数が裨益したか)
。
 上位目標、プロジェクト目標、成果の記載を
含め PDM の論理性に課題があるとみられる
場合でも、事後評価段階で修正することは原
則行わず、可能な限り既存の計画により評価
を行う。
 専門家派遣や各種研修がプロジェクト範囲
に含まれている場合、かかる効果の発現状況
についてもヒアリング等を通じて確認する。
86
【受益者調査】
 指定された案件については、事業の効果を理解するために、受益者調査を実施する。また、事前の段階で想定される受益者への定量的効果・定性的効
果の記載がない場合でも、事業による直接的/間接的な効果がありうる場合は、受益者調査を通じて確認する。
 受益者調査等で取得したデータから得られる分析は、論理性に十分留意して記載すること37。
 受益者調査の対象の選定に当たり、事業効果を説明するうえで、バランスのとれた対象地域や対象者の選定に留意し、どのように選定し調査したか等
の内容を示す。なお、受益者調査の被質問者の構成に偏りが生じてしまう場合(例:対象者、対象地域、サンプリング方法、サンプルサイズ、有効回
答数及びその内訳、調査方法等)
、その点を制約要因として注記する。
 受益者調査を行わない場合でも、契約業務量の範囲内で、現地調査補助員等を活用しつつ関係者へのインタビューなどを行い代替することとする。
37
統計的に有意であるかに十分留意した上で分析を行ない、分析が困難な場合には、意識変化などの取得データの考察を記載するにとどめる。また、定性データを扱う際には、少数の意見を
もって事象を一般化しないように留意すること(例:灌漑案件において、対象地域のうち上流の農民は満足していても、下流の農民は未だ水不足ということもありえる)。
87
インパクト

インパクトとしては、協力内容を踏まえ「付加価値」(真に事業が生み出した価値)を認識したうえで、蓋然性のある形で説明する。事前評価段階で記
載があるものに加え、例えば、政策・制度へのインパクト(政策、関連規制や法制度への影響)、ジェンダー・格差・技術面でのインパクトなども考え
られる。

インパクトの発現度合いの確認にあたっては、インパクトが波及した受益者の数・範囲を可能な限り明確にする。

域内総生産の伸び、人口動態などを含む社会経済の変化について、事業との因果関係を分析し、変化に対するプロジェクト/事業の貢献度合いを類推し
て、その度合いが大きいものは評価判断の対象とする。

今後発生しうる長期的なインパクトについても、定量・定性的な情報をもとに可能な限り蓋然性を持った形で推測する。

事業実施によって自然環境や社会環境(用地取得・住民移転等)に負の影響が発生した場合、その正確な事実を把握し、当該事業に適用される JICA 環
境社会配慮ガイドラインを参考にしつつ、評価対象とする(用地取得・住民移転がない場合もその旨明記する)
。なお、報告書作成に際しては、情報ソ
ースや判断の主体を明記する。

インパクトに関する定量的なデータが入手できない場合には定性的な手法(受益者調査やヒアリング)を通じて検証する。受益者調査における留意事
項は有効性の項目を参照。

受益者層を検証し、期待されたとおりに効果が発現しているか検証する。受益者数については原則本項目で記載するが、アウトカム発現に影響する内
容であれば、有効性の項等で記載してもよい。
技術協力

円借款
無償資金協力
プロジェクト目標と上位目標の間のロジッ 
有効性評価の対象とした事業効果以外で、事前の段階で想定されていた効果・影響について、改めて
クを理解する。また、上位目標の指標が未
事業との関係性を確認のうえ、その発現状況を把握・分析する。
設定である場合は、代替指標や想定される 
資金協力については、事後評価時点がアウトカム中心の効果発現が期待されるタイミングであること
達成度合いについて提案する。定量的なデ
に留意し、インパクトについては事後評価時点で発現していると判断できる付加価値を慎重に分析し
ータの入手が困難であると考えられる場合
たうえで評価判断に加味する。(別添 2)
は、適切な定性的指標を設定する。

プロジェクト完了時点でのプロジェクト目
標の達成度は「有効性」として判断する。
「インパクト」では、プロジェクト目標や
88
成果の継続および活動の状況を踏まえ、事
後評価時点での上位目標の達成度、効果の
発現について評価判断を行う。

プロジェクト目標(必要に応じ成果も)の
完了後から事後評価段階に至る活動・達
成・普及度合い等を見ることが、上位目標
の達成度やインパクトを測るにあたり重要
であるため、それらを確認のうえ、判断す
る。なお、事前調査、終了時評価、完了報
告書、完了時 JCC 討議録等における先方の
完了後の姿に向けた取り組み内容も踏まえ
つつ、うまくいっている/いっていないに係
る要因分析を行うこと。

上位目標の達成時期が設定されていない場
合は事後評価時点において、上位目標がど
の程度達成されているかを指標に基づき分
析する。

円借款附帯プロについては、本体事業の有効性、イン
パクトどちらへの貢献があったかを整理したうえで、
本体事業のインパクトへの効果発現が確認できる場
合、そこの項目において附帯プロの本体事業のインパ
クト発現への貢献度合いを分析し、評価判断に加味す
る。
89
効率性
効率性の評価は、OECD-DAC のガイドライン上、インプット、アウトプットの比較を行うことになっており、アウトプットとインプットの比較分析に基づ
いて評価判断を行うこととする。インプット→アウトプット→アウトカムという実績の一連の因果関係が、論理的に担保されている(説明可能である)こ
とが前提となる。
本来、効率性の評価では、費用便益分析を行う必要があるが、円借款の場合、IRR の再計算が困難な事業もあり依然参考値扱いにならざるを得ない状況に
あること、技術協力の場合も他の類似プロジェクトとの比較等で費用効果分析に基づく評価判断は可能となるが、かかる分析が可能となるケースは極稀な
状況であることを踏まえ、以下のとおり、アウトプットとインプットの分析を行う。
【アウトプット(成果)及びインプット(協力期間/事業期間および協力金額/事業費)】

アウトプットは、技術協力においては「有効性」の項に記載し、資金協力においては「効率性」の項に記載する。

アウトプット及びインプットの計画・実績に差異がある場合、エビデンスに基づきその要因分析を行い、具体的に記述する。(期間の例:「技術的な問
題により遅延」といったものでなく、
「軟弱地盤が約 2km 四方に発見され、正確な調査に時間を要したことに加え、構造物建設のために計画より深い地
点まで杭を打つ必要が生じたことにより追加工事が発生し、8 カ月遅延した」というように具体的に分析・記述する。)

外部要因により事業期間・事業費が計画より増加/減少した場合でも、天変地異や戦乱、治安等による一時退避などの事象を除き、原則38として効率性
の評価判断に際しては外部要因を考慮しない。

アウトプットの増減や大きな変更があった場合、エビデンス(円借款については実施機関の変更申請、無償資金協力については詳細設計における変更、
調達不調に対応したアウトプットの削減等)に基づいて、その理由を確認し、計画変更の適切性についても分析する。

事業スコープの変更(アウトプットの増減)により期間や事業費に増減が生じた場合には、単純に増減した実績をもって評価せず、まず、スコープ変
更について、相手国側との正式な合意の有無を確認したうえで、変更理由の適切さを判断し、そのアウトプット変更に見合った期間・費用の変更であ
るかを分析する。記載にあたっては、例えば「事業費は減少したものの、スコープの減少分を勘案すると、実際のアウトプットに必要な計画費を上回
った」等とする。その際、アウトプット(成果)の増減がアウトカムに与える影響・変化を踏まえた上で、アウトプット(成果)の増減に見合うイン
プットの増減であったのかを分析・判断する39。
38
想定外の資機材価格の急激な高騰、経済金融危機などの外部要因については判断の恣意性が高いため慎重な検討を要し、JICA 評価部の合意が必要。調達手続きの遅れに起因する鋼材価格上
昇などは事由として適切ではない。なお、予備費やプライスエスカレーションを事業費にあらかじめ計上している事業はより厳しく判断される。
39
例 1)アウトプット(成果)の増減がアウトカムと高いレベルで連動していることを確認するという主旨であり、もし、アウトプット(成果)の増減がアウトカムと連動していない場合(例:
追加で研修をしたが、その内容からして、プロ目達成に結びつかない場合)はインプットの計画と実績の単純比較とする。
例 2)アウトプット(成果)の増減がきわめて小さい範囲であり、アウトカム(プロ目の達成(能力強化)
)の微小な増減にしか繋がらない場合はかかるアウトプット(成果)の増減は考慮せ
90

インプットの内容(事業期間及び事業費)を、計画と実績の差異が明確になるよう表にまとめる。

協力金額/事業費の表記は「○○百万円」とし、百万円未満を切り捨てる。%やその他の数値の表記は小数点第 1 位を四捨五入する(例:99.4%=99%、
99.8%⇒100%)
。

外貨の表記については、初出の際に外貨と円の為替レートを記載するか、もしくは円貨換算額を併記するなどして、当該金額の規模が理解できる形で
記述する。

効率性のサブレーティング方法(基準)については、別添 1 を参照のこと。

事後評価時に事業の一部が未完了の案件については、原則、事後評価時点の実績をもとに評価する。(未支出でも契約が既に締結されている場合はそれ
を反映する。)
技術協力
円借款
無償資金協力
【計画と実績(プロジェクト完了時点)の比較】 【計画と実績(事業完成時)の比較】



カウンターパートの自己資金や他機関によ 
アウトプット(事業目的の一部:
「○○を行うことにより、△△を図り」の○○にあたるもの)の達成
る投入は、JICA による投入と区別して記載
に対し、インプット(事業費、事業期間)が適切であったかを評価する。アウトプットおよびインプ
する。
ットに係る計画(cf.円借款:審査調書等、事業事前評価表、無償資金協力:基本設計報告書等、事前
協力期間の延長や投入内容の変更があった
評価表)と実績の差異分析を行うことにより、事業実施の効率性を分析する。
場合にはその理由や変更の適切性を分析す 
まず、
(効率的な計画が立てられていたという前提のもと)事業が計画どおりに実施されたかを確認す
る。
る。次に、審査時の想定や F/S・基本設計等の計画自体に問題があったと考えられる場合は、問題箇所
延長している場合、延長部分を含めて効率
を指摘するとともに、可能な場合はより効率的な事業内容(アウトプット、期間、費用等)を示す。
性判断を行う。

輪切り案件/フェーズもの、追加資金協力については、当初の全体計画と実績との比較を原則とする。
また、輪切り案件および追加資金協力については、変更の経緯の要因分析のため、その途中段階で締
結された L/A や G/A の時点での事業期間(具体的には完成目標年)
、事業費(具体的には総事業費およ
び円借款対象額)も簡略化した形で確認する。

事業期間・事業費に大幅な変更があった場合には、その理由や実施機関/関係者等による対策の有無を
ず、インプットの計画と実績の単純比較とする。
例 3) アウトプット(成果)の増減がアウトカム増減に通じる場合には、原則、効率性においてアウトプットとインプットを比較し、増減を考慮した上で評価判断を行う。なお、アウトカム増
減への影響については有効性で分析・評価するとともに、要すれば妥当性の「事業計画やアプローチ等の適切さ」にて分析をする。
91
確認し、対策の適切性も分析する。

円借款の場合は借款対象以外の部分(相手国政府負担部分や他ドナー実施部分)も含めて、無償資金
協力の場合は先方負担事項も含めて比較する(ただし、円借款・無償資金協力によるアウトプットに
係る部分を可能な限り明確にする)
。事業完成後含め、事業効果発現にあたり重要な投入(追加投資)
があれば、当該部分を考慮して評価する。
【協力期間】

【事業期間】
アウトプット(成果)が計画どおりに産出 
協力/事業期間(月数)の数え方は、事前評価表の月数を基本とするが、
(円借款における審査時資料、
されていない場合で、その理由が協力期間
無償資金協力における詳細設計報告書等も確認する)、月数が明示されている場合でも、両端入れとな
内に産出できるような計画となっていなか
っているか確認し、同条件で計画と実績の比較を行うこと。
(例:2008 年 4 月~2008 年 12 月は、8 カ
ったと考えられる場合は、その旨を明記す
月ではなく 9 カ月と数える。)
る。

事業開始月は、事業事前評価表等で別途設定されている場合を除き L/A 調印月、G/A 締結月( L/A、G/A
共に発効月とはしない)
、終期は完成月とする40。

事業完成月は、完成の定義と共に記載する(案件によって試運転、竣工式、円借款の貸付完了、無償
資金協力の完工など)
。円借款については審査時の資料の中で定義しているので、JICA 提供資料で確認
する。明示されていない場合、原則供用開始をもって事業完成とする)41。

円借款附帯プロについては、事業実施時期 
2016 年度以前の閣議決定案件については暫定措置と
が必ずしも本体事業と一致しないことか
して、先方負担事項を確認し、その投入内容が事業
ら、評価判断には加味しないが、計画値と
効果発現のために特に重要(運用及び効果に支障を
42
実績値は参考のため記載する 。
与えないレベルの水道や電気の引き込み等を超える
範囲)であると判断される場合等は、その期間の計
40
JICA による G/A 締結前の案件は E/N 締結月とする。
無償資金協力については、2017 年度以降の閣議決定案件について、原則供用開始を以て事業完成とする。
42
円借款附帯プロは、本体事業実施前、実施中、実施後に開始終了する案件等、様々な形態があることから、事業期間の評価判断に加味するという一律の取り扱いが困難なため、加味しない
こととする。
41
92
画と実績を確認し、評価判断に加味する。
【協力金額】
【事業費】



プロジェクトの計画額と実績額(ともに
円換算にあたっては、
「資金協力案件情報の確認方法について」
(20xx 年 x 月 xx 日評価部)を参照のう
JICA より提供)を確認する。
え、為替レートを利用する。(PCR その他相手国政府の資料に記載されているレートは使用しない)。
日本側の協力金額の計画と実績の比較によ 
原則、事業費における比較対象は、計画/実 
事業費における比較対象は、計画/実績ともに、先方
って評価を行う。
績ともに、先方政府負担分や他ドナー実施
政府負担分も含めた事業費とし、円換算で評価する
分も含めた総事業費とし、円換算で評価す
(レーティングも同様)
。
る(レーティングも同様)。


合には、確認できなかった点を明記のうえ、日本側
いるものの内貨ベースでは計画を上回った
事業費のみで評価判断を行うことも可とするが、先
(インフレを上回る現地通貨の減価があっ
方負担分についても、できる限り情報入手に努める
た)場合はその点を考慮したうえで事業費
こと。
を評価し、報告書への記載にあたっても補 
日本側計画は E/N 額(完了届を参照)、実績は契約額
足説明する。
(無償資金協力はランプサム契約であるので供与額
総事業費または外貨部分が計画を下回って
と一致する)とする。
際/国内)競争入札の結果、総事業費は大幅
に減少した。」と明記する。
「コストオーバーラン/アンダーラン」のよ
うな用語は使わず、「事業費増加/事業費減
少」の平易な用語を使用する。

ただし、先方負担分の事業費が確認できなかった場
外貨ベースの総事業費は計画内に収まって
いて、その原因が入札にある場合は、「(国


円借款附帯プロの事業費については、計
画・実績の比較は記載するが、原則、評価
判断には加味しない。
93
【内部収益率(IRR) 分析】

審査時と同じ方法・条件(算出根拠)で EIRR、
FIRR を再計算し、事前事後の比較分析を行
い、差異の要因を分析する。

原則、FIRR は収益性のある案件のみで算出
し、EIRR は全ての案件で算出するが、JICA
の指示に従うこと。IRR を算出しない場合に
は、必ずその理由を記載する。

審査時の算出根拠が明らかでない場合は、
事後評価時に、最も妥当だと思われる条件
にて算出する。その際、算出根拠を明確に
し、審査時との比較分析は行わない。また
その旨、記載する。

IRR 値がマイナスとなる場合は、推定される
理由を記載する。

時間等の制約からデータの収集が困難な場
合は、計算の前提条件を記述したうえで、
何らかの代替的なアプローチで試みる。

IRR 算出のためのデータが全て集まらない
場合においても、サブコンポーネント単位
など、可能な範囲で計算する。

IRR は参考値として扱い、原則として評価判
断の根拠とはしない。

IRR は小数点第二位を四捨五入して、小数点
以下一桁までを示す。
(例:12.57%→12.6%、
11.23%→11.2%)
94
持続性

事業によって発現した効果の事後評価時での持続性の見通しに関し、運営・維持管理体制、技術、財務面と運営・維持管理の状況43について、各種資料
および実施機関へのヒアリングやサイト視察により近年の状況を踏まえ分析する。課題に関し、要因分析を適切に行う。

他ドナー等から支援を受けている場合、支援内容に加え、支援の継続見込みや支援完了後の状況(計画・見込み)についても、ヒアリング等により確
認し分析する。
技術協力

円借款
無償資金協力
プロジェクトによって発現した効果の事後 
機材の劣化の原因が、不適切な使用方法(技術不足)に因る場合は、その点を指摘し、マニュアルの
評価時点での持続性の見込みに関し、相手
有無を確認のうえ、持続性の評価に反映させる。
国政府の政策・制度(政策・制度面でのバ 
機材の耐用年数が短いものについては、調達機材の不具合のみで直ちに持続性評価を下げず、更新状
ックアップがあるか)
、実施機関の体制、技
況あるいは計画を確認したうえで、判断を行う。
術並びに財務面について近年の状況を踏ま 
例えばスペアパーツが買えないという事象がある場合、それが資金不足で買えないのか、輸入等の手
え分析する。
続きが困難なのか等を確認し、資金不足や困難な手続きの根拠及びその要因を分析する。
【政策・制度面】

事後評価時の関連政策や国家制度等を確認
し、プロジェクトで発現した効果に関する
妥当性が継続するか検証する。プロジェク
ト計画時と同等の政策をとりあげることが
望ましい(例えば、計画時に「第 2 次国家
計画」を用いて妥当性を確認した場合は事
後評価においても「第●次国家計画」を確
認する。
)加えて、実施機関レベルにおいて
43
技術協力については、運営維持管理の状況は大規模な施設整備・機材供与が含まれる場合に分析を行う。その場合の分析の観点は資金協力と同等とする。
95
も、持続性をサポートするに蓋然性の高い
制度等を確認する。

【体制】

【体制】
計画時に予定された実施機関の体制や役 
審査時に計画された運営・維持管理担当機関に変更がないか(変更があった場合は、新しい体制につ
割、上位機関との関係に変更がないか(変
いての適切さ)、組織内・組織間の責任の所在と意思決定のプロセスが明らかか、人員が充分か等を確
更があった場合は、新しい体制についての
認する。運営・維持管理が他機関または民間等企業に移管・委託されている場合はその旨明記し、移
適切さ)、効果の持続的な発現に向けた責
管・委託先の体制や移管・委託先との役割分担などを評価の判断材料とする。
任の所在と意思決定のプロセスが明らか
か、人員が充分か等を確認する。
【技術】

【技術】
相手国の関係機関/関係者に、効果の持続 
運営・維持管理機関に、運営・維持管理に必要な技術レベルが備わっているか、トレーニング・技術
的発現に必要な技術レベルが備わってい
指導が充分に行われているか、マニュアル類は整備・活用されているか等を確認する。
るかを判断する。また、継続的な技術の更
新、普及が必要な場合、必要なトレーニン
グ・技術指導が充分に行われているか、マ
ニュアル類は整備・活用されているか等を
確認する。

供与機材等についても耐用年数に留意し
つつ、現況、運営・維持管理状況、スペア
パーツ入手の状況等を、サイト視察含め確
認する。適切な使用や維持管理がなされて
いたか、今後の施設整備や機材更新の必要
性なども含めて確認する。
96
【財務】

財務面の持続性分析については、実施機関(及びその下部組織)の予算・実績値、収支内訳(過去数年分)、ステークホルダーの予算・実績値、収支内
訳(過去数年分)
、実施機関または監督省庁による財務見通しの情報収集を行い、分析することを原則とする。収集が困難な場合は、その理由について
も記載する。

プロジェクト運営に必要な財源を確認し、 
運営・維持管理の財源を確認し、必要な財源が備わっているか、維持管理に予算が配分されているか、
効果の持続的な発現に必要な財源が備わ
料金設定が適切か、料金徴収は適切に行われているか等を、今後の蓋然性のある展望も含めて確認す
っているか、機材などの維持管理に対する
る。
予算が配分されているか等を、今後の蓋然 
特に運営・維持管理主体が公社等の企業体の場合、事業単体の収支、企業全体の財務状況、政府から
性のある展望も含め確認する。
の補助金の有無、実績、見込み等について検証し、評価する(P/L、B/S、キャッシュフローなど)
。
【運営・維持管理の状況】

事業によって建設された施設及び購入された機材にかかる現況、維持管理状況、かかる施設・機材を
活用したサービスの運営状況、スペアパーツ入手の状況等を、サイト視察含め確認する。適切な使用
や維持管理がなされていたか、今後の施設整備や機材更新の必要性なども含めて確認する。
調達機材の数が多数に亘り、一つ一つの運用・管理状況を確認することが困難な場合は、主要機材(事業
の効果発現に貢献度が大きい機材)あるいは、価格が高いもの等、評価判断を行うに十分な対象を選択し
て評価することも可とする。

持続性の各項目に対する円借款附帯プロの
成果(貢献度合)を確認する。なお、附帯
プロの活動自体の持続性については個別案
件の内容に応じて(その活動自体を継続す
る計画のものであったかなど)評価判断に
加味する。
97
役割・貢献
本項目は有用な提言・教訓導出に資すると考えられる場合に記載する。
JICA 等の関係者が事業目的を達成するために審査/計画時や事業実施中に果たした役割、貢献について分析する。主な分析の観点として以下が上げられる
が、必ずしもこれらに限定されない。
 事業計画時の対応の適切性(事前調査の質、想定されたリスクへの対応)
 事業計画遂行にあたっての対応の適切性、案件監理の質(想定外の変化や問題発生時の対応。効果的かつタイミング良くインプットの投入を行ったか。
負のインパクト(環境社会配慮等)に必要な対応をしたか)
 事業の難易度が高い場合や新たな課題に挑戦する場合、事業関係者として特別な役割・貢献をしたか。
提言・教訓

提言、教訓を出来る限り提案することとする。その際には、本評価業務からの学びを基本とすることから本文中における要因分析含めた記載を踏まえ、
その要因の概略(本項において初めて(唐突に)記載しない)と提言・教訓をまとめる。特に、項目別評価において「②」もしくは「①」と評価してい
る場合には、その要因を分析のうえ、改善に繋がるように示すことが望まれる。

JICA の HP(事業評価)上の検索機能、ナレッジ教訓等を活用し、過去の同地域・同セクター案件の評価における提言や教訓を十分に参照する。また、
他ドナーが関係する事業を行っていた場合、他ドナーの評価報告書等を参照する。
提言

提言は、評価対象案件について、実施機関や JICA が提言を受けて具体的アクションをとることをイメージしたものとする。具体的且つ実施可能なもの
になるよう第 2 回現地調査時等に実施機関と充分な協議を行うこと。JICA に対する提言については、実現性がある内容とすべく、JICA 事務所等との意
見交換を踏まえたものとすること。

教訓

教訓は、価対象案件ではなく今後の類似案件への適用を想定しており、一般的かつ汎用性のある形でまとめる(ただし、
「計画を適切に立てるべき」な
どと余りに一般的に記載しすぎない)
。問題や好事例に繋がった要因や取り組みについて分析を行い導出する。教訓の記載振りは、当該事後評価での分
析のポイントとそこからの教訓という形とする。教訓においては、5W1H ができるだけ分かるように記載する。

報告書作成に際しては、教訓の内容を簡潔に表現した参照しやすい見出しを明記する。
98

国、地域、セクター、類似案件などの特定の条件下のみに適用できる場合は、
「○○国における類似案件への教訓」
、
「地方分権化が実施され、地方行政
機関に権限が委譲されている場合の教訓」などの説明をつけることで、教訓の適用範囲を明確化する。
99
事後評価レファレンス・別添 1
◆効率性のサブレーティングについて◆
基本的な考え方は以下のとおり。
(1) まずアウトプットを明確化しその達成度(増減)を検証する。
(2) アウトプット達成度を考慮に入れたうえで、事業費と事業期間についてそれぞれ、サブレーティングをつける。
目安
サブレーティング
・計画内に収まった(100%以下)
②
・計画を上回った(100%超 150%以下)
③
・計画内に収まったが、○○に見合わないものであった
・計画を大幅に上回った(150%超)
①
(3) 続いて、以下の組み合わせにより効率性サブレーティングを導く。
事業費・
報告書の記載
事業期間
②
③
・以上より、本事業(本プロジェクト)は事業費及び事業期間ともに計画内に収まり効率性は高い。
④
⑤
⑥
・以上より、本事業(本プロジェクト)は[事業費/事業期間]については計画内に収まったものの、[事業費/事
④
業期間]が計画を(大幅に)上回ったため、効率性は中程度である。
③
③
・以上より、本事業(本プロジェクト)は事業費、事業期間ともに計画を上回ったため、効率性は中程度である。
④
・以上より、本事業(本プロジェクト)は[事業費/事業期間]が計画を(大幅に)上回り、[事業費/事業期間]
①
①
②
が計画を(大幅に)上回ったため、効率性は低い。
・以上より、本事業(本プロジェクト)は事業費/事業期間ともに計画を大幅に上回ったため、効率性は低い。
100
事後評価レファレンス・別添 2
101
(3)参考資料一覧表
●事業評価全般
資料の名称
格納場所
JICA事業評価ガイドライン(第2版)
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
ation/guideline/ku57pq000004z0q1-att/g
uideline_02.pdf
評価と援助の有効性―評価および結果重視
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
マネジメントにおける基本用語集(OECD-DAC
ation/pdf/term.pdf
援助評価作業部会)
テーマ別評価「プロジェクトのPDCAサイク
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
ルにおける教訓活用マネジメントの強化
ation/tech_ga/after/ku57pq00001cdfnb-a
策の検討」
tt/201401_02.pdf
国際協力機構 事業評価年次報告書
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
ation/general_new/
テーマ別評価「JICA協力プログラムの評価可
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
能性向上に向けた分析」
ation/tech_ga/after/ku57pq00001oi2bn-a
tt/201501_05.pdf
●事前評価参考資料・標準指標例等
資料の名称
技術協力
格納場所
開発課題別の標準的指標例及び
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
代表的教訓レファレンス
ation/indicators/technical.html
無償資金協力
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
開発課題別の標準指標例
ation/indicators/grant_aid.html
円借款
運用・効果指標レファレンス
http://www.jica.go.jp/activities/evalu
ation/indicators/ku57pq00001n2u3o-att/
yen_loan.pdf
●外務省関連の資料他
資料の名称
格納場所
外務省ODA評価ガイドライン(第9版)外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/
大臣官房ODA評価室2015年5月
kaikaku/hyoka/siryo_3_a.html
外務省ODA評価年次報告書
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/
shiryo/index_hyouka02.html
102
《JICAの事業評価を知るには》
●JICAによる事業評価の取組をまとめた「事業評価年次報告書」(和文・英文)を毎
年発行しています。JICAホームページに掲載されています。
●JICAホームページに、事業評価のページを設けており、上記の年次報告書やテーマ
別報告書などを閲覧できます。
http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/index.html
●JICAホームページの事業評価案件検索のページでは、案件名・国名・分野名等を入
力して、公開済みの個別案件の事業評価報告書を確認することができます。
http://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/index.php
編集・発行:独立行政法人国際協力機構
評価部
〒102‐8012
東京都千代田区二番町5-25
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URL: http://www.jica.go.jp/
照会先:評価部
評価企画課
E-mail:[email protected]
二番町センタービル
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