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「役員賞与に関する会計基準」における勘定科目の 合的検討

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「役員賞与に関する会計基準」における勘定科目の 合的検討
商学論集
第7
8巻第 3号
20
1
0年 1月
【 論 文 】
「役員賞与に関する会計基準」における勘定科目の
合的検討
吉
田
智
也
1 はじめに
昨秋の金融危機以降,欧米企業をはじめとした役員に対する高額報酬が批判され,経営者による
高額報酬目的の短期利益追求の姿勢を制限する動きが見られる 。
一方,わが国企業の役員報酬をめぐっては,株主への情報提供の観点から,平成 1
5年 3月 3
1日
に「企業内容等の開示に関する内閣府令」
(平成 1
5年内閣府令第 2
8号)が改正されたことを受け,
翌年 3月期から役員報酬の有価証券報告書への記載が行われている。
企業は,有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」において,取締役・監査役に支
払われた報酬等の金額を任意開示している。一般的に,記載される報酬等の金額は,社内取締役・
監査役と社外取締役・監査役に区
して示されているが,賞与額やストック・オプションによる報
酬額が含まれていない場合もあり,開示の方法は企業ごとに異なっているのが現状である 。
金融商品取引法令上,
「役員報酬の開示」
については,必ずしも開示が明確に義務付けられておら
ず,記載方法も明確に規定されていないため,報酬の種類別内訳や役員報酬の決定方針については
開示されていないことが多い。しかし,役員報酬については,経営者のインセンティブ構造等の観
点から株主や投資者にとって重要な情報であり ,今後,役員報酬の決定・開示に係る説明責任の強
化を図ることが課題とされる 。
この報酬等に含まれる「役員賞与」は,従来,会計学では「役員報酬」
(期間費用)とは異なった
処理がなされてきた。それは「役員賞与」の金額が,株主
会の利益処
案により決定・支給され
ていたからである。
企業会計基準委員会(ASBJ
)は,平成 17年 1
1月 29日に,企業会計基準第 4号として『役員賞
たとえば,G20(主要 20カ国・地域財務大臣・中央銀行
裁会議)において,金融機関の役員への高学報酬
を抑制する国際基準の導入が決定した(日本経済新聞 2
009年 9月 27日)。
金融庁は,2
010年 3月期から上場企業などに,有価証券報告書において役員報酬の
表(役員報酬
額や支
払い形態,報酬額の決定方法)を義務づける方針という新聞報道がなされた(日本経済新聞 9月 11日)。
実証研究においても,「経営者報酬」として役員報酬・役員賞与の数値を用いて,各種の仮説が検証されてい
る。たとえば,乙政[20
04]や須田[20
00]を参照。
詳細については,金融庁金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディ・グループ」の報告
『上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて』を参照。
1
9
商
学
論
与に関する会計基準』
(以下「役員賞与基準」とする)を
集
第7
8巻第 3号
表した 。「役員賞与基準」は,会社法(平
成 17年法律第 8
施行日である平成 18年 5月 1日以後終了する事業年度の中間会計期間におい
6号)
て,当該事業年度に係る株主
会で決議(委員会設置会社にあっては報酬委員会の決定)される役
員賞与から,適用されている。
役員賞与基準」によれば,従来,剰余金の額の減少として処理されてきた「役員賞与」を,発生
した会計期間の費用として処理することが規定された。
本稿では,日本簿記学会簿記実務研究部会での議論を下に,
「役員賞与基準」に関する勘定科目・
会計処理等について,
合的な検討を加える。まず,
「役員賞与基準」における定義・考え方を確認
し,法律的観点から検討を加え,その後,先行研究や他の会計基準との整合性,さらに国際的観点
から,役員賞与に関わる勘定科目名と会計処理に関する問題について考察する。
検討に入る前に,
「役員賞与基準」
における用語の定義と考え方を確認しておく
(なお,以下では,
「役員賞与基準」の各項の規定は「
(○項)」と示すこととする。
)。
まず,「役員」とは,取締役,会計参与,監査役及び執行役をいう(1項)。なお,「賞与」とは,臨
時的に支給する給与のうち,退職給与以外のものをいい,賞与・退職給与以外の給与で,定期的に
支給されるものを「報酬」と呼ぶ。
従来,わが国においては,取締役や監査役に対する「役員報酬」は,発生時に費用として会計処
理され,取締役や監査役に対する「役員賞与」は,利益処
により,未処
利益(利益剰余金)の
減少とする会計処理を行うことが一般的であった(7項)
。
平成 1
7年 7月 26日に
布された会社法では,
「役員賞与」は,
「役員報酬」とともに「職務執行
の対価として株式会社から受ける財産上の利益」として整理された。これを会社法では「報酬等」と
呼ぶ。定款に報酬等に関する一定の事項を定めていないときは,委員会設置会社以外では株主
会
の決議,委員会設置会社では報酬委員会の決定によって定めることとされた
(会社法 3
61条,379条,
。
3
8
7条,4
0
4条 3項及び 4
09条参照)
また,会社法では,利益処
案の株主
会決議(旧商法第 2
8
3条第 1項)に相当する規定は存在
していない(9項)
。そのため,会社法施行後に役員賞与を支給する場合,実務慣行であった処
可
能な剰余金を原資とする支給が可能であるかどうかは,会社法上,必ずしも明らかではない
(1
。
0項)
上記のような状況を受け,ASBJは,(
1)役員賞与と役員報酬の類似性および (
2)役員賞与と役
員報酬の支給手続という 2つの理由に基づいて,役員賞与を発生した会計期間の費用として処理す
ることを規定した(1
。
2項)
では,ASBJが,役員賞与を利益処
項目から費用項目に変
したこと,すなわちその 2つの理由
は妥当なものであるか,法律的観点から検討を加える。
2 費用項目への変
に関する妥当性の検証
まず,ASBJが,役員賞与を費用項目へと変
した 1つめの理由として挙げた
「役員賞与と役員報
なお,「役員賞与基準」には対応する「適用指針」および「実務指針」は存在しない。
2
0
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
合的検討
酬の類似性」について検討する。
基準においては,役員報酬が「確定報酬」と「業績連動型報酬」とに大別されるものの,いずれ
にせよ職務執行の対価として支給されることにかわりはなく,会計上はいずれも費用として処理さ
れることが述べられる(1
。その上で,
「役員賞与」が経済的実態として「業績連動型報酬」と
2項)
同様の性格であると考えられることを,費用処理の理由としている。
これは,今日の会計基準の支配的見解である「経済的実質重視」の思考が「役員賞与」の会計処
理に対してあらわれたとみることもできるが,従来から法律上では,いわゆる「役員賞与」が旧商
法(平成 1
7年改正前商法)2
6
9条の「報酬」にあたるかどうかについては,学説が
かれていた[弥
永,2
,p.2
。
0
06
0
3]
たとえば,神田[2
,p.2
0
08
0
5]は,「取締役に支給される賞与は,報酬に含まれるべきものであ
るが,従来は,日本では慣行として賞与は利益処
として支払われ」てきたと述べており,報酬に
含まれるべきとの見解がある 。ただし,役員賞与は「報酬」に該当しないとするのが多数説であっ
たとされ,「役員賞与」はあくまでも会社の利益稼得に貢献したことに対する「株主からの臨時的な
報酬」と考えられていた[鈴木,1
]。
9
9
4,pp.
24
9
25
0
また,歴
的にみれば,それまで実務においても判例においても報酬として扱われていた「役員
賞与」が報酬にあたらないという解釈が定着したのは,法人税法(平成 1
8年改正以前)の影響によ
るといわれる[浜田,1
,p.
]
。税法上では,役員に対する給与のうち定期定額の給与と退職
98
7
3
93
金給与を除くすべてのものを「賞与」と定義したうえで,役員賞与の損金算入を認めていなかった
ため,利益処
としてではなく支給することは不可能であったとされる[浜田,1
,p.
]
。
98
7
3
94
その後,旧商法から会社法への移行および「役員賞与基準」の設定等の動きを受け,平成 1
8年に
法人税法が改正され,役員に支給される給与はすべて支給形態にかかわらず
「役員給与」
(基本的に
損金算入)として統一された 。
なお,役員賞与を「利益を上げた功労に報いるために支給されるインセンティブ」として捉える
見解もあるが,それでもなお,会社の利益が職務執行の成果であることから,功労に報いるのも職
務執行の対価の一態様に過ぎず,役員賞与の職務執行の対価としての性格は揺るがないものと考え
られる。
次に,報酬および賞与の支給手続について検討する。
基準においては,支給手続について,報酬および賞与が「職務執行の対価」として支給されると
いう性格は,その支給手続の相違により影響を受けるものではないと考えられることを,費用処理
の理由としている。
まず,役員報酬の支給手続に関して,取締役・監査役のいずれも,報酬額(ないしその計算方法)
を定款で定めないときは株主
会の決議によって定めなければならないものと規定されてきたが
役員賞与を「報酬」として扱うべきという考えに基づき,旧商法 269条の
会決議に基づいて役員賞与を支
給し,費用計上する取扱いも行われていたとされる[濱克彦,20
。
04,p.
4]
役員給与」には,① 定期同額給与(支給期間が最長 1ヵ月であり,支給額が同額であるもの),② 事前確定
届出給与(所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与),③「利益連動給与」(利益に
関する指標を基礎として算定される給与)の 3つがある(法人税法第 3
4条)。
21
商
学
論
集
第7
8巻第 3号
(旧商法 2
,この扱いは会社法においても続いている(会社法 3
。月額報酬
6
9条,2
79条)
6
1条 1項)
であればその金額を,業績連動型報酬であればその上限額を決定することで,
「確定額報酬」
として
扱われる。
取締役の報酬が,
会の決議事項となったのは,取締役会・代表取締役に自己または同僚の報酬
を定めさせると,いわゆる「お手盛り」になる恐れがあるからである。つまり,規定の目的は高額
報酬が株主の利益を害する危険性を排除することにあり,定款・株主
会決議により個々の取締役
ごとに報酬額(その計算方法も含む)を定める必要はないとされる[江頭,2
,p.
。
00
6
4
0
6]
また,監査役の報酬が,
会の決議事項となったのは,適正な監査のために,監査役の独立性を
確保するためである。つまり,決定権限が取締役会にあれば
「お手盛り」
の危険性はないものの,被
監査対象者が監査実行者の報酬を決定することになり,報酬額を通じた圧力が掛かりかねないから
である 。
一方,役員賞与の支給手続について,賞与は利益処
案の一部として株主
会の承認を経て,配
当可能利益から支給されるものと規定されていた(旧商法 2
。賞与が 会の
81条 1項 4号,2
8
3条)
決議を必要とするのは,本来株主に帰すべき利益を株主の意思によって
配するものと考えられて
いたからである[鈴木,1
,p.2
]。このように,報酬と賞与はいずれも
9
94
5
0
会決議事項であった
が,その趣旨は異なっていた。
そして,既述のように,会社法の施行によって報酬と賞与の概念は「報酬等」として統一された。
表 1 役員賞与の支給額の決定方法
説
明
長
所
短
所
(
1) 役員賞与議案方式
(2) 上限額方式
(3) 計算式方式
毎期の株主 会で具体的な支
給額を決定する
予め定められた年額(ないし
月額)の上限額の範囲内で支
給する
不確定報酬として一定の計算
式を定める
① 従来の賞与と取扱いをほ
とんど変えずにすむ
② コーポレート・ガバナンス
上,望ましい
範囲内であれば, 会での承
認を受けることなく支給が可
能
業績向上のインセンティブと
して働く(ストック・オプショ
ンの場合)
毎年議案を上程する事務上の
負担が大きい
会社業績に比例した功労を十
に反映できない可能性があ
る
潜在株主として既存株主に与
える影響が大きい
株主 会への
議案上程
毎期必要
上限額による
制限
なし
あり
なし
算定基準・算定
式等の開示
あり
なし
あり
変
時のみ必要
変
時のみ必要
(出典) 田辺他,2
,pp.
-11
008
106
5より作成。
なお,会計参与の報酬が
会決議事項となっているのも,監査役と同様,計算書類の適正な作成のための独
立性の確保によるものである。監査役・会計参与はいずれも,株主
ることができる(会社法 387条 3項,37
。
9条 3項)
2
2
会において報酬等について意見を述べ
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
合的検討
ただし,会社法では賞与の支給について特別の手続が規定されているわけではなく,従来通りに賞
与を支給しようとする場合,取締役であれば会社法 3
6
1条 1項の規定に従うことになる。
賞与支給額の決定方法としては,
[表 1]に示される 3つの方法が考えられる 。
賞与支給額は,上記のいずれかの方法で決定されるが,報酬の場合と同様に,個々の取締役ごと
に支給額を定める必要はなく,取締役全員への支給
し,各取締役に対する具体的配
れは,①
額のみを定款に記載もしくは
会決議事項と
は取締役会等に委ねればよいとされる[江頭,2
,p.4
]。こ
0
06
0
6
額を決定すれば「お手盛り」が防止でき株主の利益は害されないことおよび ② 株主が
評価できるのはチームとしての経営者の能力であること等の理由による[弥永,2
,p.
]
。
006
2
08
会社法が,賞与の「株主からの功労報酬的な利益
与」という性質よりも「職務執行の対価とし
ての給付」という性質を重視したこと,さらに,支給手続的に(本来の趣旨こそ違うものの)いず
れも定款に定めるかもしくは
会決議事項とすることによって,株主の利害を損なうことなく,企
業から支給される「報酬」へと変わったといえよう。
3 役員賞与基準」における具体的な会計処理13項の
析
前節で詳述した考え方に従って,
「役員賞与」
は発生した会計期間の費用として処理することが規
定される(3項)。なお,
「役員賞与基準」の本文では,発生期間に費用処理することのみを規定して
おり,具体的な説明は,
「結論の背景」の 1
3項で述べられている。
まず,13項では,当該事業年度の職務に係る役員賞与を,期末後に開催される株主
項とするか否かで,会計処理が
処
会の決議事
けられている。ただし,ここでいう「決議事項」とは,剰余金の
の問題ではなく,支払限度の決議であることに注意しなければならない
[武田,2
,p.
]。
0
08
24
6
役員賞与」を株主
会の決議事項とする場合(たとえば,役員賞与が報酬等の限度額を超える場
合や,限度額以内であっても改めて決議する場合[ASBJ,2
])には,その支給は 会
0
09
a,p.
38
8
での決議が前提となるので,
「当該決議事項とする額」又は「その見込額(当該事業年度の職務に係
る額に限るものとする。
)
」を原則として,引当金に計上する。つまり,決算時に,決議事項とする
額が決定していれば「当該決議事項とする額」を,また,決定していなければ「
(決議事項となる)
その見込額」をそれぞれ引当金として計上することになる。
なお,見込額が計上されうる以上,役員賞与に関して設定される引当金と翌期における実際の支
給額との間に差異が生じることが考えられる。その差額は前期損益修正であるから,損益計算書上,
特別損益項目として計上されよう 。
他方,株主
会の決議事項としない場合
(たとえば,役員賞与が報酬等の限度額以内の場合)
,ま
なお,(1)役員賞与議案方式と(2
)上限額方式は「確定額報酬」であり(会社法 3
(3)計
61条 1項 1号),
算式方式は「不確定額報酬」である(会社法 36
1条 1項 2号)。また,報酬等のうち,金銭でないものについ
てはその具体的な内容が,
会決議事項(定款に定めがある場合を除く)となる。
差額の処理について,
「差額が重要でない場合には,他の引当金の会計処理と同様,通常は,特別損益ではな
く,販売費及び一般管理費等の区
で処理することが考えられる。」という意見もある[ASBJ
,2
009
a,p.
]。
389
2
3
商
図1
学
論
集
【
】
【
】
第7
8巻第 3号
役員賞与基準」13項による会計処理
たは,子会社が支給する役員賞与のように,株主
会の決議はなされていないが,実質的に確定債
務と認められる場合には,
「未払役員報酬等」
の適当な勘定科目をもって計上することができるとさ
れている。これは,子会社の役員は,多くの場合,親会社の役員・従業員が兼務しており,報酬等
の支給は,株主
会の決議で決まるというよりも親会社の意向によって決まると考えられるからで
ある。つまり,金額(賞与額)
・支払先(個々の役員)
・支払期日(賞与支給日)の条件がすべて確
定している確定債務であれば,引当金とせず未払負債を計上する例外処理が認められている。
ここで,役員賞与基準においてはじめて勘定科目名らしい「未払役員報酬等」が登場する。この
文言に関して,「未払役員報酬等」の勘定科目なのか,または「未払役員報酬」等の勘定科目なのか
議論の余地があろう。
「未払役員報酬等」
という勘定科目名の妥当性を考えてみると,この勘定科目
名は,おそらく,会社法(第 3
6
1条 1項)において「取締役の報酬,賞与その他の職務執行の対価
として株式会社から受ける財産上の利益」をまとめて「報酬等」と呼んでいることに由来するもの
であろう。ただし,勘定科目名に
「等」という曖昧な表現を付すのは極力避けるべきであるので,本
稿では「未払役員報酬等」という勘定科目は
用しない。
また,「未払役員報酬」については,
「役員賞与」に関する会計基準であるのにも関わらず,
「役員
報酬」に呼応する勘定科目を
用するとは考えにくい。
「未払役員報酬」はあくまでも期中に役員へ
の報酬(たとえば月額報酬など)を認識した(費用としての「役員報酬」が発生した)ものの,未
だ支給していない段階で債務として計上する際に
われるべき勘定科目と考えられる。
(ただし,会
社法が「報酬等」として概念の統一を図ったことをうけ,役員賞与の支給時であっても「役員報酬」
勘定で処理していれば,
「未払役員報酬」となるかもしれない。
)
役員賞与基準」1
[図 1]のように図示される。
3項による会計処理は,
それでは,以下の設例を用いて,具体的な会計処理を
析する。なお,勘定科目名は,金融庁の
EDI
NET タクソノミで取り上げられている財務諸表項目名を代用して,仕訳を示すものとする。
【設例 1】
① 3月 3
1日
決算にあたり,来る 6月の株主
会において承認の決議を行う予定の役員賞与の
支給額 5,
0
00について,これを当期の人件費として引当金に計上した。
役員賞与引当金繰入額)
A : (
5
,
0
00
(
役員賞与引当金)
5
,
0
0
0
借方の「役員賞与引当金繰入額」は一般管理費として,損益計算書の「販売費及び一般管理費」の
区
に計上し,貸方の「役員賞与引当金」は,貸借対照表の「流動負債」の部に計上する。
② 6月 2
8日
株主
会において上記の役員賞与に関する決議が承認され,ただちに小切手を振
2
4
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
合的検討
出して支払った。
B : (役員賞与引当金)
5,
0
0
0
(
当 座 預 金)
5
,
00
0
役員賞与が実際に支給されるときには,借方に「役員賞与引当金」と支給額 5,
0
0
0を記入し,引当
てていた金額を取り崩す仕訳を行う。貸方では,支払資金の減少を記録する。
なお,決算の段階(①)では「決算事項とする額」が決まっておらず「見込額」5,
0
0
0を計上して
いたが,翌期に
会決議を経て,実際に支給されたのが 5,
2
0
0であった場合は,次の仕訳になると考
えられる。
役 員 賞 与 引 当 金)
C: (
5
,
0
00
(
役員賞与引当金不足額)
2
0
0
(
当 座 預 金)
5
,
2
00
借方に計上された差額の「役員賞与引当金不足額(もしくは役員賞与引当金不足損) 」は,本来,
前期に職務執行の対価として発生し,記録されるべきものであるから,前期損益修正として扱われ,
損益計算書上,特別損失に計上される。
【設例 2】
③ 3月 3
1日
当社は,5
(役員賞与を考慮しない
,
00
0を限度額として,業績に対応する役員賞与
当期純利益の 0.
を翌期に支給することを定款に記載している。役員賞与を計
5
%)
上する前の当期純利益は 20
0
,
00
0であった。
D : (役 員 賞 与)
1,
0
0
0
(
未 払 役 員 賞 与)
1,
00
0
借方の「役員賞与」は,一般管理費として,損益計算書において「販売費及び一般管理費」の区
に計上される[「財務諸表等規則ガイドライン」8
。貸方の「未払役員賞与」は,その性格が
4項]
確定債務であることを考えれば,貸借対照表上
「未払金」
として計上されるべき数値の内訳である 。
なお,日本
認会計士協会[20
]によれば,従業員への賞与に関する「未払従業員賞与」では,財
0
1
務諸表の作成時に支給額が確定しているが,当該支給額が支給対象期間以外の臨時的な要因に基づ
いて算定されたもの(つまり,支給対象期間に対応して算定されていない場合)は,その額を「未
払金」として計上するとしている。
4 勘定科目名・会計処理についての提案
それでは,
「役員賞与」
の会計処理に関して,そこで
用される勘定科目名の再検討も含め,問題
この勘定科目は EDI
NET タクソノミに載っているものではなく,筆者が考えた。なお,見込額が支給額より
も大きい場合は,貸方に「役員賞与引当金超過額(もしくは役員賞与引当金修正益)」が記入される。ただし,
これらの勘定科目の妥当性については,4節を参照のこと。
未払役員賞与」を,支給が支給対象期間に対応した費用である役員賞与の見越計上によって生じる経過勘定
項目(未払費用)であると考えれば,翌期首に再振替仕訳が行われる。
2
5
商
学
論
集
第7
8巻第 3号
表 2『研究』における各勘定科目の説明
標準的な勘定科目名
提案勘定科目名
説
明
未払役員賞与
未払役員賞与額<簿>,
未払額<財>
利益処 による役員賞与額。科目の末尾に金をつけると資産
と誤解するため,負債であることを明らかにするために未払
役員賞与額とする。貸借対照表上は,未払額とする。
役員報酬
役員報酬(費)<簿・財>
役員に支給される定期的な給与。
役員賞与
役員賞与<簿・財>
役員に対して臨時的に支給される賞与。
賞与引当金繰入額
賞与引当費<簿・財>
従業員に対する将来の賞与の支払いに関し,当期に負担すべ
き費用。賞与引当額(従来の賞与引当金)の相手勘定として
生ずる。費用であることを明示するため,引当費という表現
に統一する。
[注] なお,
「提案勘定科目名」欄における<簿>,<財>という符号は,簿記の立場と会計の立場のいずれ
から対象を論じているのかを明らかにするために付されている。
点等を指摘し,本稿における提案を示すこととする。
まず,先行研究として,日本簿記学会簿記教育研究部会(平成 1
・1
4
5年度)の『勘定科目に関す
る研究』(以下,『研究』とする)から,該当する勘定科目等の説明を確認しておく。
『研究』
で取り上げられている本稿に関連する勘定科目としては,①「未払役員賞与」
(流動負債)
,
②「役員報酬」
(販売費及び一般管理費)
,③「役員賞与」
(販売費及び一般管理費 ),④「賞与引当
金繰入額」
(販売費及び一般管理費)
が挙げられる 。これらの各勘定科目の説明を示せば,
[表 2
]
の
ようになる。
ここで,
『研究』の基本的な考え方の 1つに「貸方の勘定科目に 金 をつけるべきではない」と
いうものがある[簿記教育研究部会,20
,p.
。これは,貸方の勘定科目,
0
4,p.
4および新田,2
00
4
7]
たとえば,「借入金」
に関して,貸借対照表に計上される借入金に相当するお金が存在しているかの
ように,会計学の知識のない人にとって誤解される余地があるため,
「金」を「額」に変えるなど適
切な科目名に変
するという趣旨である。
たとえば,
「賞与引当金」については「賞与引当額」という勘定科目名への変
が提案される[簿
記教育研究部会,20
]
。
0
4,p.
88
また,引当金に対応する「引当金繰入額」は,勘定科目の「費用」としての性格を明示するため
に「引当費」という表現で統一されており,たとえば,
「賞与引当金繰入額」は「賞与引当費」とい
う勘定科目名への変
が提案される[簿記教育研究部会,2
,p.
。
00
4
8
8]
本稿では,これらの提案を支持する(提案 I
)。前節での【設例 1
】①(仕訳 A )や【設例 2】
③(仕訳 D )に提案 Iを適用すれば,仕訳は次のように書き換えられることになろう。
平成 1
5年 4月 1日施行の「商法等の一部を改正する法律」(平成 14年法律第 44号)を受けて,平成 1
6年 3
月 9日に,実務対応報告第 1
3号「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」が
表されており,役員賞与
を発生した期間の費用として処理することが適当であると述べているため,研究部会でも既に「役員賞与」を
販売費及び一般管理費として取り扱っていたものと考えられる。
『勘定科目に関する研究』には,なぜか「賞与引当金」勘定の説明がない。
2
6
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
合的検討
役員賞与引当費)
A : (
5
,
00
0
(役員賞与引当額)
5,
0
0
0
D : (役 員 賞 与)
1,
0
0
0
(
未払役員賞与額)
1
,
00
0
なお,これらの勘定科目名が変
されても,勘定科目の性質・財務諸表上の表示等の取扱いに変
はない。
また,引当金に関する支出時の処理として,支出時にはいったん関連する費用(または損失)の
勘定で処理し,その後,決算整理に先立ち,前期末に設定された引当額(従来の引当金)によって
填補計算を行う。本稿では,この「勘定の精算」とよばれる処理(この仕訳を特に「精算仕訳」と
いう。[沼田,19
])を行うことを提案したい(提案 I
)。
9
2,pp.
1
77
17
8
I
この仕訳方法をとれば,支出額が引当額(引当金)の範囲内でのみ填補され,引当計上されてい
る金額を上回れば,関連する費用(または損失)が当該期間の費用として処理される。この処理は,
同種の取引について常に同一の仕訳をすべきであるという「同一取引同一仕訳の原則」にしたがっ
たものとなる。
前節での【設例 1
】②(仕訳 B )に,提案 I
Iを適用すれば,仕訳は下記のように変
B : (役 員 賞 与)
5,
0
0
0
(
当 座 預 金)
される。
5
,
00
0
また,「勘定の精算」のために,翌期の決算に先立ち,次の仕訳が追加される。
B : (役員賞与引当額)
5,
0
0
0
(
役 員 賞 与)
5
,
00
0
このように処理することで,決算時に「決議事項とする金額」が決まっておらず「見込額」(5,
0
0
0)
によって引当費を計上しており,見込額と支給額に差額が生じた場合でも,
「役員賞与」
の支給時点
では次の仕訳をおこなえばよい(数値は ②′のケースを利用)
。
役 員 賞 与)
C: (
5
,
20
0
(
当 座 預 金)
5,
2
0
0
精算仕訳ののち,引当額によって填補できなかった「役員賞与」の借方残高 2
0
0は,当該期間の
費用(または損失)として計上されることになる。このように仕訳することで「役員賞与引当金不
足額(または役員賞与引当金超過額)
」という勘定科目は不要となり,いたずらに勘定科目を増やさ
ずに済む 。
また,関連する会計基準における勘定科目の問題について考える。
まず,「役員賞与基準」による原則的な処理では,貸方に「役員賞与引当金」が記録される。この
ような引当金に関する会計基準として,企業会計審議会が平成 10年 6月 16日に
表した「退職給
付に係る会計基準」(以下,「退職給付基準」とする)がある。
「退職給付基準」によれば,貸借対照
表において退職給付に係る負債を計上するにあたっては「退職給付引当金」という科目をもって計
上することとされ(
「退職給付基準」四,1
)
,その簿記処理においても「退職給付引当金」勘定を用
ただし,このように処理することが「役員賞与は,発生した会計期間の費用として処理する」という文言に
反しないかどうかについて議論の余地があろう。
2
7
商
学
論
集
第7
8巻第 3号
いて処理される。たとえば,当期の勤務費用が 14
,利息費用が 3
,年金資産の期待運用収益 2
0
0
0で
あり,過去勤務債務・数理計算上の差異がともに発生していない場合の,当期の退職給付費用に関
して必要な仕訳を示せば,次のようになる。
(
退 職 給 付 費 用)
15
0
(退職給付引当金)
1
5
0
退職給付基準」
では,その債務額の算定に割引計算を用いられている特徴があるが,勘定科目の
観点からは,はじめて「引当金」を増加させる相手勘定として従来の「引当金繰入額」などではな
い「退職給付費用」勘定が用いられたことが指摘できる。
ここから敷衍すれば,もはや引当金への繰入額を「引当費(ないし引当金繰入額)
」勘定で処理す
ることに拘らなくてもよいのかもしれない。つまり,
「役員賞与引当金」(本稿では「役員賞与引当
額」
)を増加させる相手勘定として,
「役員賞与」勘定を利用することにより,役員賞与が株主
の決議事項となるか否かに関わらず,統一的な勘定科目を
会
用することが可能である。この考え方
に従えば,2節の【設例 1
】①(提案 Iを考慮後の仕訳 A )は,次のようになる。
役 員 賞 与)
A : (
5
,
00
0
(役員賞与引当額)
5,
0
0
0
また,「役員賞与基準」は,その基準の範囲について,
「本会計基準は,すべての会社における役
員賞与の会計処理に適用する。なお,役員に対する金銭以外による支給や退職慰労金については取
り扱わない。
」
(2項)と規定している。
このうち,
「役員退職慰労金」の取扱いに関しては,企業会計基準
開草案第 9号「役員賞与に関
する会計基準(案)」に対するコメントとその対応案において記述がみられる。つまり,
「役員の職
務執行の対価は発生した会計期間の費用として計上する」という基準の趣旨を貫徹するために,役
員退職慰労金についても,
「役員賞与基準」と平仄を合わせた会計基準の開発が提案されており,
,2
]。
ASBJはこれを「今後の検討課題」としている[ASBJ
00
5
b,p.7
さらに,ASBJから平成 2
においても,引
1年 9月 8日に 表された「引当金に関する論点の整理」
当金の論点の検討の範囲に含められるべきと考えられるその他の引当金として,
「役員退職慰労金引
当金」があげられている[ASBJ,2
0
0
9b,4
1項]。退職慰労金は法律や契約に基づいて支給される
ものではないため,株主
会の承認が得られた段階で,支給可能となり,法律上の債務が生じるも
のと考えられている。ただし,わが国企業の実務において,幅広く計上されてきた現状をかんがみ
て,引当金としても今後検討する必要があるとされる[ASBJ,20
。
0
9
b,4
1項]
他方,
「役員に対する金銭以外の支給」
については,ASBJが平成 17年 1
2月 27日に
表した企業
会計基準第 8号「ストック・オプション等に関する会計基準」
(以下,「SP基準」とする)で規定さ
れる「企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引」
(「SP基準」
,3項)が考え
られる。なお,本稿は,あくまで「役員賞与基準」が検討の対象であるから,
「SP基準」の記述は
最低限の規定のみを確認しておく。
「ストック・オプション」とは,
「自社株式オプションのうち,特に企業が
SP基準」において,
その『従業員等』に『報酬』として付与するもの」
(「SP基準」
,2項(2)
,括弧は筆者が追加)をい
う。
「従業員等」
とは,企業と雇用関係にある
用人のほか,企業の取締役,会計参与,監査役及び
2
8
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
合的検討
執行役並びにこれに準ずるものをいい(
「SP基準」,2項(3
))
,
「役員賞与基準」での「役員」が含
まれている。また,「報酬」とは,企業が従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価と
して,従業員等に給付されるものをいい(
「SP基準」
,2項(4
)
),この基準においても「役員賞与」
が報酬の性格をもつことが明らかである。
付与されるストック・オプションの金額の計算については,ここでは取り上げないが,たとえば,
株主 会において,「役員賞与」としてストック・オプションを付与することが決議されると,次の
ように仕訳処理される。
(
株 式 報 酬 費 用)
×××
(新 株 予 約 権)
×××
ここで,注目すべきは借方の「株式報酬費用」である。役員に対する職務執行の対価として支給
されるものであっても,それが金銭による支給であれば「役員賞与」として,また金銭以外による
支給,特にストック・オプションによる支給であれば「株式報酬費用」として処理されることは,勘
定科目の統一性を欠くと言える。
支給形態の違いから,勘定科目が異なることは理解できるとしても,
「SP基準」のように「支給
形態」を重視した勘定科目名を付すのであれば,本稿で取り上げてきた「役員賞与」は「現金報酬
費用」という勘定科目名が付されることになろう。つまり,
「役員賞与基準」は費用の性格を重視し
て,機能別に勘定科目名を付けており,
「SP基準」は企業の支給したモノ を重視して,形態別に
勘定科目名を付けているといえる。
このように,勘定科目名の付け方・考え方の違いがさまざまな会計基準(および適用指針)間に
存在している現状を放置してしまうと,いつまでたっても理論的かつ統一的な勘定科目によって簿
記処理を説明することができない。その点,これから述べる国際会計基準での「役員賞与」等の扱
いは,論理的一貫性があるといえる。勘定科目名・会計処理の提案として,国際的な観点からの検
討を加えるため,役員賞与等に関わる国際会計基準について触れたい。
国際会計基準(国際財務報告基準を含む)において,
「役員賞与」を規定するのは,国際会計基準
第 19号「従業員給付」
(Inter
national Accounting Standar
ds No. 19 (r
evised 2009 ) Employee
Benefits ,以下,I
AS1
9とする。)である。
「従業員」の範囲に取締役および他の役職者を含み(par
)
,
「従業員給付」は,
「従
I
AS1
9では,
.6
業員が提供した勤務と
換に,企業が与えるあらゆる形態の対価」
(par
)と規定される。わが国
.7
の「職務執行の対価」がこれに相当するだろう。そして,従業員が勤務した期末後 12
ヵ月以内にそ
の全額の期日が到来する「短期従業員給付」として,賃金・給料などともに「賞与」が含まれてい
る(par
。
.
8)
企業は,
(a)過去の事象の結果,当該支払を行う現在の法的債務または推定的債務 を有する場
実際に,ストック・オプションによる賞与として付与されるモノは「株式」ではなく「自社株式購入権」で
ある。「株式報酬費用」では株式を報酬として支給したかのような印象を受ける。業績連動型報酬の 1つとし
て実際に株式の形で支給する「株式取得型報酬」が存在するため,その会計処理との整合性が今後問題とな
ろう。
企業は,賞与を支払う法的債務を有さずとも,慣行として支払っていることがある。このような場合,企業
2
9
商
学
論
集
第7
8巻第 3号
合で,(b)当該債務について信頼性ある見積りが可能な場合 にのみ,賞与制度の予想費用を認識
する
(par
)。その際,従業員の提供した勤務の見返りとして支払うと見込まれる給付の割り引か
.1
7
ない金額が,債務(未払費用)および費用として認識・測定されることになる(par
)。
.
1
0
国際会計基準の考え方を,2節の【設例 1
】① の数値によって仕訳 の形で示せば,次のようにな
る。
(短期従業員給付)
A :
5,
0
0
0
(
未払従業員給付)
借方の「短期従業員給付」は,企業が(従業員給付と
た経済的
5
,
00
0
換に)従業員が提供した勤務により生じ
益を費消する時の費用である。従業員給付の内訳を表そうとするならば,わが国の実務
と同様に「役員賞与」としてもよい。貸方の「未払従業員給付」は,従業員が勤務により経済的
益を提供した時の負債であり,これは将来支払われることになる従業員給付と
換される。わが国
のように「引当金」としないのは,国際会計基準では,
「引当金 」を,期間損益の観点から将来発
生費用の相手勘定とするのではなく,企業が抱える財務リスクを表示するための負債項目として利
用しているからである[菊谷,2
,p.
]。
00
9
8
5
このように国際会計基準では,報酬や賞与に概念的な差異はないうえに,
「引当金」概念も整理さ
れているため,会計処理がシンプルで理解しやすいものになっている。本節で検討したように,わ
が国の現行制度を拡張した思考によって,国際会計基準と同様の勘定科目体系・会計処理を開発す
ることは十
5 ま
と
可能であると結論付ける。
め
以上,本稿では,
「役員賞与基準」に関する勘定科目・会計処理を検討した。
「役員賞与」の取扱
いについては,決算後の利益処
処理へと変
(利益剰余金の減少)という手続から,発生した会計期間の費用
されていたが,当該変
の根拠となった「役員報酬と役員賞与との類似性」から,そ
の会計処理そのものについては,さほど問題は生じていない。日本簿記学会簿記教育研究部会によ
る『研究』に
った形で,提案する勘定科目を示せば,
[表 3
]のようになる。
また,「同一取引同一仕訳の原則」の遵守といった観点から,
「精算仕訳」とよばれる会計処理の
提案を行った。さらに,他の会計基準との関連では,
「退職給付基準」
と
「SP基準」を取り上げ,
「SP
基準」における「株式報酬費用」との勘定科目名の不統一性を指摘した。この問題に関しては,今
が賞与を支払う以外の現実的な選択肢を持たないため,
「推定的債務」を有しているといわれる[I
ASB,200
9,
。
par
.
19]
法的債務または推定的債務の信頼性ある見積りを行うことができる場合については,I
AS1
9の par
.2
0を参
照。
なお,勘定科目名は菊谷[2
]のものを
009
用している。ただし,借方の「短期従業員給付」は,費用であ
ることを強調するのであれば「短期従業員給付費用」といった勘定科目が適当であるかもしれない。
国際会計基準では,引当金を「支払時期または金額が未確定な負債」と定義している(I
nt
e
r
nat
i
onalAccount
i
ngSt
andar
dsBoar
d,Inter
national Accounting Standar
ds No. 37 (
r
evised 2009 ) Pr
ovision, Contin)。
gent Liabilities and Contingent Assets ,20
09.par
.
10
.
3
0
吉田 : 役員賞与基準」に関する勘定科目の
表3
合的検討
役員賞与基準」に関連する勘定科目
勘定科目名
現時点の提案科目名
役員賞与(一般管理費)
役員賞与<簿・財>
役員報酬(一般管理費)
役員報酬<簿・財>
役員賞与引当金繰入額(一般管理費)
役員賞与引当費<簿・財>
未払役員賞与(流動負債)
未払役員賞与額<簿>,未払額<財>
未払役員報酬(流動負債)
未払役員報酬額<簿>,未払額<財>
役員賞与引当金(流動負債)
役員賞与引当額<簿・財>
}統一の可能性
後,
「SP基準」に関する勘定科目の検討を行う際の 1つの視点としたい。
最後に,国際的観点から I
AS1
9にしたがった会計処理を紹介した。今後,より一層の基準の収斂
化,さらにはアドプション(導入)が起こりうる状況下で,財務諸表作成やその基礎となる日常的
な簿記記録の段階から,作成者・利用者双方の理解可能性を高めるような勘定科目名・会計処理の
開発・研究が望まれる。ただし,それは国際会計基準の丸写し・翻訳である必要はなく,わが国に
既にある簿記論的思考によって,十
なしうることではないだろうか。
参考文献
I
nt
er
nat
i
onalAc
count
i
ng St
andar
ds Boar
d,Inter
national Accounting Standar
ds No. 19 (r
evised 2009 )
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005
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新田忠誓
かりやすい勘定科目の必要性
日本簿記学会・簿記教育研究部会「勘定科目に関する研究」での議
論を下に」『企業会計』第 5
6巻第 6号(20
04年 6月).
日本
認会計士協会リサーチ・センター審理情報 No.1
5 未払従業員賞与の財務諸表における表示科目について」
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日本簿記学会平成 1
4・15年度簿記教育研究部会『勘定科目に関する研究』200
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沼田嘉穂『簿記教科書』五訂新版,同文舘出版,1
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濱克彦「「役員章との会計処理に関する当面の取扱い」についての商法上の考え方」『商事法務』16
95巻(2
00
4年 4
3
1
商
学
論
集
第7
8巻第 3号
月).
浜田道代「報酬の決定」『新版注釈会社法(6)』有
弥永真生『リーガルマインド会社法』第 10版,有
閣,19
87年.
閣,20
06年.
本稿は,日本簿記学会・簿記実務研究部会(「新会計基準における勘定科目の研究」20
-20
08
09年)の研究成果を
踏まえている。
3
2
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