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生命保険需要のミクロ経済分析
第70巻第5号(平成14年9月) 生命保険需要のミクロ経済分析 山上俊彦・鈴木祐輔 住友生命総合研究所調査部 上席主任研究員・副主任研究員 Iはじめに 人生における不確実性に対処する手段として生命保険は不可欠である。死亡 時期の不確実性に対しては死亡保険や個人年金が必要であり、病気やけが、介 護といった健康面の不確実性に対しては、医療保険や介護保険が必要となる。 経済学においては、生命保険は貯蓄理論の一分野として捉えられており、こ れまでの研究結果からは、死亡保険需要は遺産動機との関連性が高いことが指 摘されている。遺産動機は、家計貯蓄率の変動を通して資本蓄積や後世代の国 債負担に重要な影響を与えるため、財政政策を考える際の重要な検討課題とな っている。このように生保需要はマクロ経済のあり方とも関連している。 こうした重要性にも拘らず生保需要は、経済学の理論においてはいまだ解明 されていない面も多く残っている。実証面においても生命保険加入状況や世帯 属性を含んだ個標データが入手しにくいといった資料の制約から研究が十分に 進捗しているとは言い難い。 本論は、個標データを用いて、経済理論を踏まえた生保需要の構造分析を行 うものである。Ⅱで生命保険に関する経済理論と過去の実証分析結果を概観し たうえで、Ⅲで使用したデータの概要、Ⅳで生保需要分析結果を、Ⅴで生保需 要の相互依存関係と妻の就業との関連についての分析結果を提示し、Ⅵで総括 11 生命保険需要のミクロ経済分析 を行うこととする。 Ⅱ生保需要に関する経済理論と過去の実証研究結果 1.死亡保険、個人年金保険と貯蓄性保険 家計の貯蓄行動は、一般的にライフサイクル仮説により説明される。人生は 就労期と引退期の2期から成り立ち、死亡時期が予測可能であると想定する。 利己的に行動する合理的個人は、就労期に貯蓄を行い引退期に貯蓄を費消して 死亡するときに貯蓄は消滅する(注1)。 M.E.ヤアリ(M.E.Yaari)は、死亡時期の不確実性を組み込んだ拡張ライフサ イクル仮説モデルを提示することで、生涯の消費行動における生命保険の役割 の重要性を導き出した(注2)。 ヤアリに従うと、世帯主には利己的世帯主と家族を思いやる利他的世帯主の 2通りがあり、それぞれ異なる効用関数を有している。利己的な世帯主は消費 から得られる効用を最大化するべく行動し、利他的世帯主は消費と家族に残す 遺産から得られる効用を最大化するべく行動する。 世帯主の行動をとりまとめると表1のようになる。生命保険が存在しない場 合、利己的な世帯主は、不確実な将来よりも現在を重視して消費を増加させる。 利他的な世帯主は消費額と遺産額の均衡が図れず意思決定にとまどってしま う。 (表1)生命保険の有無と世帯主の消費行動 利己的 な世帯主 家 族を思いやる利他 的な世帯 主 生命保険 な し 現在 を重視 して、消費 支出を増加 最適消費 支出 と最適遺産額を決定で きず、態度保留 生命保険あ り 個人 年金保険加 入で、消 費支出を平準化 死亡保険加入で、最適消費支出 と最適遺産額 を決定 (出典)ヤアリの論文にもとづき作成。 しかしながら生命保険があれば、利己的世帯主は、個人年金保険に加入する ことで将来を視野に入れた消費行動をとることが可能になる。利他的世帯主は、 死亡保険に加入することで家族への配慮を伴った消費行動をとるようになる。 この結果は、世帯主は遺産動機が強ければ死亡保険に加入し、弱ければ個人 12 第70巻第5号(平成14年9月) 年金保険に加入する確率が高まることを示している。 ただし、ヤアリの定式化では、世帯主の死亡保険加入が夫婦間と親子間のい ずれの追贈を念頭においているか区別されていない。F.ルイス(F,Lewis)は、 ヤアリのモデルを発展させ、世帯の効用関数が、「配偶者」と「子供」に分割 可能であると想定し、配偶者と子供の世帯主の死亡保険に対する需要を明示し たモデルを提示している(注3)。 貯蓄性保険については、死亡保障と貯蓄の両面を備えた保険であり、ヤアリ の定式化では需要構造を説明することが難しい。貯蓄性保険の存在理由につい てはいまだ定説は確立されていないが、I.ベネジア(I.Venezia)は情報の非対 照性にその理由を求めた。独占的競争下において、保険会社は死亡保険と貯蓄 商品の抱き合わせ販売を行うことにより、死亡保険に死亡確率の高い被保険者 が集中する逆選択を避けるというものである(注4)。 2.医療保険と介護保険 医療保険需要については、L.J.コトリコフ(L.J.Kotlikoff)によるライフサイ クル仮説の一環としての健康保険モデルがある(注5)。一般的に就労期には健 康に対する不安が少ないが、引退期には健康状態が悪化する確率が高くなる。 合理的な個人は引退後の健康悪化に陥るリスクに備えるために就労期に健康保 険に加入し、生涯の総効用を最大化させるよう行動する。コトリコフは健康保 険が予備的貯蓄の必要性を低下させるとしている。 コトリコフの理論は介護保険にも拡張可能であると考えられる。要介護状態 に陥るのは引退期に集中しているため、就労期に介護保険に加入しておくこと は合理的な行動であると言える。 3.過去の実証研究結果 ここでは日本における最近の個票データを用いた生保需要に関する実証分析 結果のうち、ヤアリの理論を踏まえた主要なものを概観する。 中馬宏之氏ほかは、生命保険文化センターが実施した「生活保障と生命保険 13 生命保険需要のミクロ経済分析 に関する個人調査」(1988)を用いて生保需要関数を推定した(注6)。その結 果、男女共に、収入が多いこと、学歴が高いこと、金融資産額が多いこと、自 営業であること、住宅ローンがあること、遺産動機の強いことが死亡保険需要 にプラスに働いていることが示された。 岩本康志氏ほかは、日本経済新聞社電子メディア局が実施した「金融行動調 査」(1990)を用いて、死亡保険金から貯蓄分と考えられる解約返戻金を控除し た危険保険金需要関数を推定した(注7)。その結果、死亡保険需要に通産動機 がプラスの影響を与えること、遺族年金は死亡保険需要と代替的であることが 示された。 後藤尚久氏ほかは、生保需要は遺産動機のみならず貯蓄動機によっても説明 可能であると考えた。彼らは「金融行動調査」(1991)を用いて、死亡保険金需 要と満期保険金需要とが同時決定されるモデルを推定した(注8)。推定結果は、 満期保険金需要には、所得が多いこと、金融資産額が多いこと、配偶者の存在 がプラスの影響を与えている一方、死亡保険金需要には所得が多いこと、実物 資産額が多いこと、配偶者の存在、子供の数がプラスの影響を与えることを示 した。また、死亡保険金需要と満期保険金需要は同時意思決定されており、ラ イフ・ステージの変化に応じて死亡保険金と満期保険金に対する需要を調整し ていることを示した。 民間の医療保険や介護保険の需要に関してはほとんど先行業績がない。そう した中で滋野由紀子氏は、民間医療保険が死亡保険の特約として付加されるこ とが多いことに着目した。滋野氏は民間アンケート会社の調査結果を用いて、 民間医療保険需要と生保需要が同時決定されているか否かを検証した(注9)。 その結果、民間医療保険需要に対しては、所得が多いこと、負債があること、 30、40歳台であることがプラスに働いており、生保需要に対しては、所得が多 いこと、負債があること、30、40、50歳台であることがプラスに働いているこ と、そして、民間医療保険加入と生保加入は同時意思決定されていることが実 証された。 14 第70巻第5号(平成14年9月) Ⅲ実証分析に使用データの概要 本論文の分析は、生命保険協会が実施した「生命保険についてのアンケート」 (以下、「アンケート調査」)の個標データを用いて行った。 「アンケート調査」は、日本統計調査株式会社が同社のアクセスパネルを用 いて実施したものである。アクセスパネルは、住民基本台帳をもとに任意抽出 されたモニターで、13万8000世帯、50万8000人が登録されている。調査対象は、 首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川県)在住の雇用者世帯で、アクセスパネル からさらに層化無作為抽出を行って抽出した。調査方法は、郵送配布郵送回収 法であり、実施時期は1999年1月20日から同30日である。既婚世帯の回収状況 は表2のとおりであり、ここでは、回答内容に欠損値のない既婚世帯855世帯 を分析の対象とした。 (表2)「生命保険についてのアンケート」回収状況 夫 の 年齢 階 層 2 0∼ 2 9 歳 3 0∼ 3 9 歳 40 ∼ 49歳 50 ∼ 59歳 抽 出 発 送 数 600 550 550 600 有 効 回 収 数 350 349 353 343 有 効 回 収 率 5 8 .3 % 6 3 .5 % .2% 5 7 ,2 % 64 合 計 2 ,300 1,3 9 5 60 .7 % (出典)生命保険協会「生命保険についてのアンケート」(1998年1月)より作成。 「アンケート調査」の質問内容と回答結果の概要は表3のとおりである。 「アンケート調査」では、死亡保険、個人年金保険、貯蓄性保険のほかに、民 間医療保険、民間介護保険の加入状況について尋ねている。さらに、通産動機 については、遺産動機の有無のみならず、どのような場合に資産を子供に残す か、金融資産あるいは住宅資産をどの程度残す意思があるかを尋ねている。 遺産動機のある世帯のうち、世話をしてくれる子供に遺産を残す世帯は、遺 産に子供からの見返りを期待する利己的遺産動機を保有していると言える(注 10)。また、子供が世話をしてくれるか否かに拘らず遺産を残す世帯は、遺産 を残すことから効用を得る利他的遺産動機を保有していると言える(注11)。 15 生命保険需要のミクロ経済分析 (表3)「生命保険についてのアンケート」調査内容と結果の概要 項 目 年齢 夫 (歳 ) 帯 世 属 性 家族数 39 妻 世帯 37 (人 ) 3 .8 ( 1 .1 ) 子供 の い る 世帯 数 子供 数 784 (人 ) 扶養子供数 就業者数 1.7 (0 .8 ) (人 ) 1.5 (0 .9 ) (人 ) 84 9 所 得 勤 労 収 入 (年 間 、 万円 ) 他 収 入 の あ る 世帯 数 他収入 60 12 (5 6 ) ( 万円 ) 中学校卒 学 歴 高校卒 短大卒 大卒 7 4 0 (3 8 5 ) 344 57 (115) (人 ) (人 ) (人 ) (人 ) 43 28 335 410 53 281 424 136 金 融 資 産 保 有 世帯 数 金融資産額 8 11 (万 円 ) 6 3 8 (9 4 7 ) 住宅資産保有世帯数 476 資 産 住 宅 資 産 額 (万 円 ) 住宅 ロ ー ンあ り 世 帯 数 住 宅 ロー ン残 高 総 資産額 純 総 2 ,2 7 8 (3 ,4 6 2 ) 395 (万 円 ) 8 5 9 ( 1,1 83 ) (万 円 ) 資産額 2 ,9 16 (3 ,7 9 9 ) ( 万円 ) 2 ,0 5 6 (3 ,6 9 7 ) 死亡保障型保険金加入者数 死亡保障型保険金 ( 万円 ) 貯蓄性保険加入者数 険 保 (人 ) 79 2 566 3 ,19 5 (2 2 5 3 ) 7 6 9 (1 ,00 5 ) (人 ) 152 193 貯蓄性保険満期保険額 (万 円 ) 個人年金保険加入者数 (人 ) 176 151 民 間 医 療 保 険 加 入 者数 (人 ) 727 629 96 民間介護保険加入世帯数 (3 3 5 ) 7 4 (2 2 1 ) 40 遺① 産世 を 話 を して くれ る子 供 に 残 す ( 世帯 数 ) 50 ② 世話をしてくれるか否かに拘 わらず 小 供 にはできるだけ残す (世帯数) 14 9 ③ 余 った ら残 す 503 ④ 残 さ ない 遺 産 (世 帯 数 ) (世 帯 数 ) 1 16 ⑤ 子 供 の た め に な らな い の で 残 さ な い (世 帯 数 ) 37 遺 産 に 関 して 、 ① ② と回 答 し た世 帯 に つ い て ①金融資産遺贈希望世帯数 ②金融資産 遺 贈希望額 ( 万円 ) ③住宅資産遺贈希望世帯数 ④住宅資 産 遺贈希望額 (万 円 ) 18 2 2 4 5 ( 1,1 5 1 ) 16 5 6 5 4 (3 ,3 88 ) (出典)生命保険協会「生命保険についてのアンケート」(1998年1月)より作成。 注:1)括弧内の数値は標準偏差である。 2)金融資産には、生命保険料の払込累計額等の生命保険、損害保険に関係する ものは含まれていない。 3)生命保険の範囲は、民間生命保険、郵便局の簡易保険、農協・生協・全労災 の生命共済である。 但し、財形積立等の積立保険、団体信用保険は除いている。 4)貯蓄性保険には、養老保険、生存給付金や一時金を受け取ることが可能な生 命保険を含んでいる。 5)民間医療保険には、第3分野の保険以外に医療・疾病特約が含まれている。 16 第70巻第5号(平成14年9月) Ⅳ生保需要の構造分析 1.推定式の定式化 死亡保険需要は、年齢や所得などの家計の属性と遺産動機で表すことが可能 であり、これを関数式にすると次のとおりとなる(注12)。 IDD=Fl(AGE,DI,FASSET,HASSET,HC,……BEQ)+ε1 IDD:死亡保険需要(=死亡保険金額)、AGE:年齢、DI:可処分所得、 FASSET:金融資産額、HASSET:住宅資産額、HC:扶養子供数、 BEQ:遺産動機 個人年金保険需要関数については、死亡保険需要関数と同一の説明変数を想 定するが、被説明変数は保険金額ではなく加入の有無とした。 ida=F2(AGE,DI,FASSET,HASSET,HC,……BEQ)+ε2 ida=1:個人年金保険に加入している場合、 ida=0:加入していない場合 貯蓄性保険需要関数については、死亡保険需要関数と同一の関数型を想定し、 説明変数も同一のものを用いた。被説明変数は満期保険金とした。 民間医療保険需要関数と民間介護保険需要関数については、個人年金保険需 要関数と同一の関数型を想定し、説明変数も同一のものを用いた。被説明変数 については、それぞれの保険への加入の有無とした。 推定は、個人年金保険需要関数、民間医療保険需要関数、民間介護保険需要 関数についてはプロビット分析を、死亡保険需要関数、貯蓄性保険需要関数に ついてはトービット分析を用いた。 プロビット分析とは、被説明変数が生命保険に加入するか加入しないかとい った二者択一方式で表されているとき、その選択確率を推定する方法である。 トービット分析とは、死亡保険金額のように非加入者についての値が0とな るようなデータに切断があるときに用いる手法であり、いったん、プロビット 分析により選択確率を推定し、そのうえでバイアスを除去した被説明変数に関 する説明を行なう分析である。 17 生命保険需要のミクロ経済分析 遺産動機については、いずれの推定においても遺産動機を保有する世帯の遺 贈希望額を遺産動機の強弱と捉え、これを説明変数に用いた。生保需要と遺産 動機は同時決定されている可能性があるが、ここでは遺産動機の強弱が外性的 に与えられていると想定した。ただし、遺産動機が利己的であるか利他的であ るかについては区別していない。 2.推定結果の解釈 推定は夫、妻、両者を合算した世帯について行った。推定結果は夫について は表4、妻については表5、世帯については表6に示されている。 なお、表中の係数の推定値は、説明変数が被説明変数に与える影響を示して おり、生保需要に対してプラスでは増加、マイナスでは減少効果を与えること を示している。ただし、推定方法の特殊性により係数の推定値の大小から、直 接影響の大小を読み取ることはできないことに留意しておく必要がある。 表中の*印は統計的有意性を示しており、有意であれば説明変数と被説明変 数の間に因果関係の存在することを否定できないことを示している。 (表4)夫に関する生命保線需要関数の推定結果 死亡 保険 金 個 人年金保 険 被 説明 変数 加 入= 係数 係数 t値 民 間 医療保 険 加 入= t 値 係 数 t 値 1 、 非 加 入= 係 数 - 4 536 .084 - 2 .92 6 * * - 3 .4 02 - 3 .18 9 * * - 11 46 .429 - 1 .054 - 0 .69 7 - 349 .170 4 .2 17 * * 0 .120 2 .12 2 * * - 23 .409 - 0 .40 8 0 .067 1 .190 4.750 4 .783 * * - 0.002 - 2 .28 9 * * 0 .36 8 0 .538 - 0 .001 - 1 .19 2 10 .3 11 0 .667 - 0 .006 - 0,3 94 - 0 .0 15 - 0 .084 0 .001 0 .37 1 0 .79 4 0 .001 - 0 .6 6 8 - 4 7.6 69 - 2 .07 1 * * 0 .005 0 .30 9 夫所 得 1.9 76 7 .606 * * 0 .0004 2 .39 2 * * 妻 所 得 0.466 0 .6 80 0 .001 1 .67 2 * その 他所 得 3.2 36 2 .2 30 0 .0000 5 0 .05 7 1 .79 5 2 .095 * * - 0 .001 - 0 .57 5 金融 資産額 0 .0 49 0 .49 6 0 .0001 1 .87 3 * 0 .166 2 .77 4 * * - 0 .0000 2 - 0.2 9 5 0 .0 23 0.84 9 0.00000 1 0 .068 - 0 .02 1 - 1 .17 1 - 0.000000 2 - 0 .0 1 0 - 24 5.7 70 - 1.3 59 0. 0 .34 2 152 .89 1 1.23 3 0 .20 4 1 .57 8 説 数 住宅 資産額 住宅 ローン ダ ミー (あ り= 1) 扶 養 子供 数 194 .503 金融 資産 で残 す遺 産額 住宅 で残 す遺 産額 シ グマ - * * 040 2 .8 7 3 * * - 1 .196 2 .03 6 * * - 0 .0 25 - 0 .39 5 13 8 .84 2 2 .133 * * - 0 .02 6 - 0.3 9 5 0 .3 55 2 .6 18 0 .0000 4 0 .44 5 0 .16 3 1 .989 * 0 .0000 5 - 0 .5 29 0 .0 39 1.003 0 .00000 0 .02 0 0 .003 0 .13 0 0.0000 1 0 .2 9 8 21 98 .3 03 39 .0 70 53 .33 9 14 .99 8 * * 10 * * * * サ ンプ ル数 8 55 85 5 85 5 85 5 最 尤値 - 7 29 2.8 - 4 2 0 .6 - 1 49 9 .0 - 3 4 5 .8 注:1)推定方法はプロビット分析、 2)**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す 0 t 値 夫年 齢 夫婦 年齢 差 18 貯蓄性 保険 満 期保険 金 0 定数項 夫年 齢 2 乗 明 変 1 、 非 加 入= 第70巻第5号(平成14年9月) (表5)妻に関する生命保険需要関数の推定結果 死亡保 険 金 個 人年金保 険 被説 明変 数 係 数 1 、 非 加 入= 係数 t値 定数項 - 24 4 1.3 58 2 .47 8 * * - 3.990 妻年齢 139 .02 6 2 .56 9 * * 0 .14 7 * * 妻年齢 2 乗 - 作 保険 満期 保険 金 民 間医 療保 険 0 係 数 - 3.434 t値 * * 加 入= 1 、 非 加 入= 係 数 t値 * * - 127 3.52 7 - 2.129 2.33 7 * * 3 4.66 7 1.068 - 1 .64 6 0.110 - 1.7 78 1.6 94 - 2 .508 0 .002 - 2 .12 0 - 0 .39 4 - 0 .97 1 - 0 .00 1 0 .0 15 0 .0 10 0.703 5.719 0.790 0.01 5 1.2 1 7 夫所得 - 0 .098 - 0 .602 - 0.0001 - 0.722 - 0 .061 - 0 .6 70 - 0 .0000 1 - 0 .0 74 妻所得 1.709 4 .0 11 * * 0 .309 1.30 3 - 0 .000 3 - 0.78 1 その他 所得 1.7 13 1 .89 5 * 1.103 2.3 62 * * 0.00 1 金融 資 産額 0 .02 3 0 .07 9 2 .41 9 * * 0 .000 1 1 .2 2 1 住 宅 資産額 - 0 .0000 1 - 0.3 28 住宅 ロー ンダ ミー (あ り= 1) 0 .001 3 .366 0.000 3 0.36 4 0 .36 8 0 .0001 2 .006 0 .004 0 .25 2 - 0 .0000 1 - 0.750 0.004 0.420 - 55 .53 8 - 0 .490 0 .1 10 0.9 14 - 2 7.3 3 1 - 0.42 1 0.2 3 1 63 .9 71 1 .05 1 - 0 .087 - 1.36 2 0.61 4 - 0.130 扶 養 子供数 金融 資 産 で残す遺 産額 住 宅 で 残 す 遺産額 シ グマ * * * * 2.0 17 0.750 2.0 37 4 .69 5 * * 0 .0000 1 0.124 0.0 58 1.17 1 - 0 .00000 1 - 0.0 10 - 2.36 1 * * - 0 .0000 1 - 0.4 89 - 0.0 10 - 0.666 - 0.00000 8 - 0.3 40 .9 79 17.000 尤値 31 .51 5 * * 602 * * - 2.17 5 * * 0 .4 14 13 26 .74 1 * - 1 .843 * - 0 .069 サ ンプル 教 最 * * 0 2.13 1 * * 0 .190 夫婦 年齢 差 説明 数 変 t値 貯蓄 加 入= * * 85 5 85 5 855 855 - 5 10 7 .0 - 3 8 1 .1 1 76 5 .7 4 7 7 .1 注目推定方法はプロピット分析。 2)**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す (表5)世帯に関する生余保険需要関数の推定結果 死 亡保 険金 個 人 年金保 険 被 説明 変 教 係 数 定数 t値 加 入=1 、 非 加 入= 係数 t値 貯蓄 性保険 満期 保険金 0 民間 医療 保険 加 入= 係数 係 数 t値 加 入= 保険 1 、 非 加 入= 係数 t値 項 - 5 198.884 - 2.743 * * 1.369 - 0.089 -0.08 1 - 3.853 4 11.27 7 4.070 * * 0 .106 2.0 89 * * 12.627 0.248 0.03 8 0.635 0.0 76 0.8 13 夫年齢 2 乗 - 5.484 - 4.527 * * - 0.001 - 2.05 3 ** - 0.090 - 0.149 - 0.0004 - 0.522 - 0.(氾1 -0. 736 夫婦 年齢差 - 49.458 0.138 6.6 11 0.476 - 0.008 - 0.45 5 0.042 - 1.608 72 1 0.045 0.30 1 0.0005 - 0.0004 - - 1.759 * 2 .819 - 2 .939 0 .002 - 13 19.5 40 夫所得 1.901 6.002 ** 妻所得 1.899 2.267 * * 0 .001 2.2 35 ** 0.5 15 1.28 1 その他 所得 4.560 2.573 * * 0.001 0.694 2.1 16 2.71 1 * * 金融 資産謝 0.085 0.699 2.18 8 ** 0.15 7 2 .866 ** 住 宅 資産額 0.02 5 0.749 住宅ローンダミー(あり=1) - 32 1.012 - 1.454 扶 養子 供数 2 69.059 0.0001 0. - 1 t 値 夫年齢 - ** 民 間 介護 1、 非 加 入= 0 - 2.14 7 ** 2.073 ** 0.001 3.48 7 ** 0.925 0.001 1.57 0 - 0.001 - 0.69 4 0.002 1.927 * 0.00005 0.572 0.000 - 0 .00001 - 0.6 19 - 0.0001 明 説 数 変 金融 資産で残す遺産額 0.654 住宅 で残 す遺産 額 0 .079 シグ マ 2.306 ** 3.945 ** - 1.656 * 0.0001 - 0.00001 -0.63 0.127 1.18 2 - 0.0 57 -0.996 0.00005 4 0.064 - 1.969 * - 0.008 - 0.503 73.472 0 .675 0.2 11 1.566 0.233 1.197 0.993 - 0.003 - 0.047 - 0.069 - 0.695 -0.000 1 - 0.87 1 0.0002 0 .00003 0.68 1 - 0 .00001 56.580 0.660 - 0 .00001 -0.31 39 .43 1 ** 268 8.075 5 1.988 * 0.154 - 0.003 1067.530 - 0 .127 20.3 35 1.686 * - 0 .200 ** サ ンプ ル教 855 855 855 8 55 85 5 最尤値 7 53 3 .8 5 13 .9 2 4 36 .9 - 3 14 .0 1 43 .4 注:1)推定方法はプロピット分析。 2)**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す 19 生命保険需要のミクロ経済分析 (1)夫についての推定結果 死亡保険需要について見てみると、死亡保険金額に対して夫の年齢がプラス の影響を与えている一方で、夫婦の年齢差はマイナスの影響を与えている。こ の結果は、夫が加齢すると死亡保険需要が増加することと、年齢差のある夫婦 では死亡保険需要が減少することを示している。夫が死亡した場合、妻が長期 にわたり夫の遺産で生計を立てていく可能性と、妻が再婚や就業などにより生 計を立てるため夫の遺産は必要とされない可能性の二通りが考えられるが、こ こでの推定結果は後者が成立している可能性を示唆している。 夫の所得やその他所得はプラスの影響を与えており、人的資本水準が高いこ とや家計に余裕のあることが死亡保険需要を増加させることを示している。ま た、扶養子供数は死亡保険金額にプラスの影響を与えているが、これは子供に 対する世帯主の利他心を示しているという解釈と、子供の側からの死亡保険需 要が高いという二通りの解釈が可能である。 金融資産額や住宅資産額をみると、これらは死亡保険金額に影響を与えてお らず、死亡保険金と資産の代替性が低いことを示している。住宅ローンについ ては有意な結果が得られるに至っていないが、「アンケート調査」では、住宅 ローン借り入れに際して加入する死亡保険が十分に把握されていない可能性が ある。金融資産で残そうとする遺産額はプラスの影響を与えており、遺産動機 が強いと死亡保険需要を増加させるという理論で想定したとおりである。これ に対して、住宅資産で残そうとする遺産額は影響を与えていないが、住宅資産 は流動性が低い資産なので、死亡保険金との代替性は低いためであると解釈で きる。死亡保険は金融資産での遺贈希望を代替する役割があると言える。 個人年金保険について見てみると、加入確率に対して、夫の年齢や夫の所得 はプラスの影響を与えており、夫の年齢が高いほど、年金の重要性を認識して いること、所得が多いほど年金需要が高まることを示している。扶養子供数や 金融資産で残そうとする遺産額が影響を与えていないのは、遺産動機が個人年 金需要に影響を与えていないことを示すものであり、個人年金保険は自分のた めに加入するという理論で想定したとおりである。金融資産額はプラスの影響 20 第70巻第5号(平成14年9月) を与えており、個人年金保険が金融資産として保有されていることを示してい る。 貯蓄性保険について見てみると、満期保険金に対して夫の年齢や所得は影響 を与えていない。しかし、その他所得や金融資産額がプラスの影響を与えてい ることは、家計に余裕のあることが重要であること、貯蓄性保険が金融資産と して認識されていることを示している。その一方で、扶養子供数や金融資産で 残そうとする遺産額はプラスの影響を与えている。この結果は、貯蓄性保険需 要に遺産動機が関連していることを示しており、加入者は貯蓄性保険を死亡保 険としても認識していると解釈できる。したがって貯蓄性保険の存在理由は世 帯側の需要からの説明が可能である。 民間医療保険については、加入確率に対して夫の所得がプラスの影響を与え ており、人的資本水準が高ければ健康を損なうことの機会費用が上昇するため、 民間医療保険需要が高まる可能性を示唆している。あるいは、健康保険でカバ ーされない医療サービスを受けることを想定しているとも考えられる。 (2)妻についての推定結果 死亡保険需要について見てみると、死亡保険金に対して、妻の年齢はプラス の影響を与えている。夫婦の年齢差は影響を与えていないが、これは妻の立場 に立つと、夫が後に残されることを想定していないためであると考えられる。 妻の所得はプラスの影響を与えており、妻の人的資本向上が死亡保険需要につ ながることを示している。一方、扶養子供数は影響を与えておらず、妻は子供 を扶養するという認識が夫と比較して低い可能性を示している。金融資産額と 住宅資産額は影響を与えていない。これに対して、金融資産での遺贈希望額は プラス、住宅資産での遺贈希望額はマイナスの影響を与えている。この結果は、 死亡保険は金融資産での遺贈希望額を代替する役割があるが、住宅資産で資産 を残そうとする希望がある場合、死亡保険金額をかえって抑えようとすること を示している。 個人年金保険については、夫の場合とほぼ同一の結果となっている。 貯蓄性保険について見てみると、満期保険金額はその他所得や金融資産額が 21 生命保険需要のミクロ経済分析 プラスの影響を与えている点は夫の場合と同様である。一方、扶養子供数や金 融資産での遺贈希望額は影響を与えておらず、妻が貯蓄性保険の死亡保険機能 を重視していないことを示している。 民間医療保険について見てみると、加入確率に対して、年齢はプラスの影響 を与えているが、これは妻の年齢が高いほど、健康に対する不安要因が高まる ことを示している。住宅ローンや扶養子供数は加入にマイナスの影響を与えて おり、家計に余裕がないと妻の民間医療保険を賄えないことを示している。 (3)世帯についての推定結果 世帯についての、死亡保険、個人年金保険、貯蓄性保険、民間医療保険需要 については、これまでの推定結果をほぼ追認したものとなっており、傾向とし て夫の需要構造が強く反映されたものとなっている。 民間介護保険加入について見てみると、加入確率に対して、夫の所得とその 他所得がプラスの影響を与えており、家計に余裕があると民間介護保険に加入 する確率が高まることを示している。金融資産額は影響を与えていないが、金 融資産による遺贈希望額はプラスの影響を与えている。金融資産で遺産を残そ うとする場合、子供と同居することを希望しない世帯では民間介護保険に加入 していることが考えられる。また、子供と同居することを希望する世帯では、 子供に介護を期待しつつ、民間介護保険に子供の介護と補完的な役割を期待し ていることが想定できる。住宅資産額はマイナスの影響を与えているが、住宅 資産による遺贈希望額は影響を与えていない。住宅資産額が大きくなると、子 供に介護してもらう見返りに住宅資産を遺贈する家庭内における暗黙的介護契 約が結ばれている可能性が想定できる。その場合、暗黙的介護契約は民間介護 保険を代替することが想定できる。 Ⅴ生保需要の相互俵存関係と女性就業との関係 1.推定式の定式化 ここまでの分析は、保険種類ごとに生保需要が独立したものであると捉えて いる。つまり、生命保険の加入決定に際して他の種類の生命保険に加入するこ 22 第70巻第5号(平成14年9月) との影響を受けていないことを想定している。 しかしながら生命保険に加入するプロセスにおいては、ある種類の保険に加 入することと、他の種類の保険に加入することの間に相互依存関係が存在して いる可能性がある。例えば、死亡保険に加入すると民間医療保険に加入する確 率が高まり、民間医療保険に加入すると死亡保険に加入する確率が高まるとい うことが想定できる。 このような相互依存関係の有無を検証するためには、2本のプロビット分析 を同時に推定する連立プロビットを用いることが有効である。死亡保険への加 入の有無を被説明変数とするプロビット分析と、民間医療保険への加入の有無 を被説明変数とするプロビット分析の2つを同時に推定する連立プロビット分 析により、死亡保険と民間医療保険の加入が同時意志決定されているか否かを 確認することができる。 死亡保険需要関数idd=f3(AGE,Dl,FASSET,HASSET,HC,…BEQ)+ε3 idd=1:死亡保険に加入、idd=0:死亡保険に非加入 個人年金需要関数ida=f4(AGE,DI,FASSET,HASSET,HC,…BEQ)+ε4 ida=1:個人年金保険に加入、ida=0:個人年金保険に非加入 E(ε3)=E(ε4)=0、Var(ε3)=Var(ε4)=1、Cor(ε3,ε4)=ρ 誤差項の相関係数ρは、被説明変数として用いた死亡保険加入の有無と個人 年金保険加入の有無の相互依存関係を示すものである。 ここでは、連立プロビット分析を用いて検証を行った。それぞれの関数の説 明変数については、保険需要関数の個々の推定に用いたのと同一のものを用い た。 さらに、妻の就業率が高まると生保加入確率が上昇するか否かという、生保 需要と妻の就業との相互関連性についても検証した。女性の就業率が上昇する 現在、生保需要とも関連性を把握することは重要である。 ただし、保険加入の有無を被説明変数とするプロビット分析と妻の就業の有 無を被説明変数とするプロビット分析を連立プロビット分析として同時に推定 するには、若干の工夫が必要となる。なぜならば、妻の所得は妻の就業と同時 23 生命保険需要のミクロ経済分析 に内生的に決定されることになるので、妻の所得を妻の生保需要関数の説明変 数として直接用いることはできないからである。 ここでは、J.ヘックマン(J.Heckman)の2段階推定法を用いることで、こ の問題を解決した。まず、妻の所得を説明変数として用いることなく妻の就業 確率関数を推定し、その推定結果をもとにサンプル・セレクション・バイアス を排除した妻の所得関数を推定した。この結果から算出された、就労していな い妻を含めた妻全体の推計所得を、就業関数と生保需要関数の説明変数として 用いた。 2.推定結果の解釈 連立プロビット推定の結果から得られる誤差項の相関係数の推定結果を一覧 表として示した。夫については表7、妻については表8、世帯については表9 に示すとおりである。 推定結果から求められた誤差項の相関係数ρの推定値がプラスで有意であれ ば、両者は補完的なものとして、マイナスで有意であれば両者は代替的なもの として同時意志決定されていることになる。 (1)夫についての推定結果 死亡保険と個人年金保険は、補完的な関係がみられる。ヤアリの仮説にもと づけば、死亡保険と個人年金保険は理論上相反する性質を持つ。しかし、この 結果は、遺産動機と自分自身の生活保障とを相反するものではなく相互補完的 なものとして捉えている可能性を示している。一方、死亡保険と貯蓄性保険加 入とは関連性が低く、貯蓄性保険は死亡保障機能を兼ねているので、同時に死 亡保険に加入する必要性が低いと考えていることを示している。また、個人年 金保険と貯蓄性保険加入とは関連性が低い。加入者は両者の貯蓄機能を評価し ているものの、同時に加入するほどではないことを示している。 民間医療保険と死亡保険加入とは補完的な関係がある。民間医療保険と個人 年金保険加入も同様に補完的関係がある。しかし民間医療保険と貯蓄性保険加 入とは関連性が低い。この結果は、死亡保険に医療保険特約を付加する民間生 24 第70巻第5号(平成14年9月) (表7)夫に関する相互依存関係の検証結果 死亡保険加入 誤 差 項の相関係数 個 人 年 金 保険 加 入 t値 誤 差項の相関係数 t値 貯 蓄性 保険 加 入 誤差項の相関係数 t値 0 .006 0 .7 23 死亡保険加入 個人年金保険加入 貯 蓄 性保険加入 民間医療保険加入 0. 2 0 9 2 .0 3 8 * * - 0 .1 3 5 - 1.3 59 0 .1 1 8 1 .6 12 0 .5 1 9 6 .50 6 * * 0 .2 8 5 3 .2 9 8 * * 注:**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す。 (表8)妻に関する相互依存関係の検証結果 死亡保険加入 誤関 相 差係 項数 の t値 個人年金保険加 入 誤関 相 差係 項数 の t値 貯蓄性保険加 入 誤関 相 差係 項数 の t値 民間医療保険加入 誤関 相 差係 項数 の t値 死亡保険加入 個人年金保険加 入 0.00 7 1 .0 6 6 貯蓄性保険加入 0 .00 5 0 .7 7 6 0 .1 8 7 2 .6 3 8 * * 民間医療保険加入 0 .4 9 9 9 .9 3 1 * * 0 .10 1 1 .360 0 .2 5 6 3 .8 2 1 * * 妻 の就業 0 .0 7 7 1.2 3 9 0 .0 7 8 1 .1 3 9 0 .0 3 5 0 .5 2 2 - 0 .1 4 5 - 2 .228 * * 妻 の フル タ イム就業 0 .19 8 1 .9 3 3 * 0 .2 7 1 2 .9 14 * * 0 .12 1 1 .2 4 8 0 .0 7 9 0 .7 6 2 注:**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す。 (表9)世帯に関する相互依存関係の検証結果 死亡保険加入 誤関 相 差係 項数 の t値 個人年金保険加入 誤関 相 差係 項数 の t値 貯蓄性保険加 入 誤関 相 差係 項数 の t値 民 間医療保険加入 誤関 相 差係 項数 の t値 死亡保険加入 個 人年金保険加入 貯蓄性保 険 仙人 民間医療保険加入 民間 介護保 険加 入 0.3 2 6 3.001 * * - 0 ,00 5 - 0 .4 6 1 0 .23 6 4 .1 17 * * 0 .4 8 1 5 .2 4 9 * * 0 .2 4 4 3 .1 4 0 * * 0. 15 0 1 .9 6 3 * * - 0 .00 2 - 0 .1 3 5 0 .00 5 0.7 3 8 - 0 .0 0 9 - 0 .6 7 6 0 .29 0 1 .4 3 8 注:**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す。 保会社の営業戦略と前記の死亡保険と個人年金保険の補完性から説明が可能で あるが、個人年金保険に医療保険を特約として付加することも広がりを見せて いる可能性があるとも解釈できる。 (2)妻についての推定結果 死亡保険と個人年金保険加入とは関連性が低く、死亡保険と貯蓄性保険加入 も同様である。この結果は、妻が死亡保険と個人年金保険が補完的な商品であ るとは認識していないこと、貯蓄性保険の貯蓄機能を重視しているため、死亡 25 生命保険需要のミクロ経済分析 (表10)妻の就業率関数の推定結果 妻 被 が 就 業 説 明 変 数 就 業 = 1 係 数 t 値 定 数項 0 .3 3 4 7 1 .19 4 妻 年齢 0 .00 8 3 1 .16 0 供 ダ ミー (3 歳 以 下 = 子供 ダ ミ ー(4∼ 数 変 明 説 1) 5 歳 = 学 歴 ダ ミー (中 卒 = 1 ) 学 歴 ダ ミー (短 大 卒 = 学歴 (大卒 以 上 = ダ ミー 1) - 1 .13 2 6 - 8 .4 4 0 * * - 0 .7 8 13 - 7 .0 9 3 * * 1 ) 1) * * 0.00 3 2 .2 17 * * 0 .0 8 4 2 0 .7 9 2 0 .0 2 1 0.9 4 1 0 .2 2 5 7 1 .6 3 1 0 .0 4 6 1 .6 2 2 0 .000 7 - 4 .7 9 9 その 他 所 得 - 0.0009 - 1 .10 3 就業 5 6 .9 8 0 0 .2 7 3 - 0. 19 5 4 1 .9 7 8 - t 値 2 .5 4 6 0 .0 7 4 3 夫 所得 住 宅 ロ ー ン ダ ミー (妻 の 年 収 ) 係 数 妻 の 卒 業 後 年 数 小 n 1、 非 就 業 = 0 * 0 .009 - 0 .160 * * ダ ミー (その 1 ) - 0 .6 5 8 - 1 5 .0 0 1 * * 就 業 ダ ミー (その 2 ) - 0 .5 17 - 1 3 .3 8 0 * * 就 業 ダ ミー ( そ の3) - 0 .7 6 0 - 2 9 .0 3 8 * * - 0 .0 2 9 ラ ム ダ変 数 サ ン プ ル 教 最尤 値 修 正 決定 係 数 855 - 48 5 ,7 - 48 5 .7 - 0 .9 7 1 344 0 .7 14 注:1)推定方法はヘックマンの2段階推定法 2)就業ダミーのうち、その1は、正規従業員であるが労働時間が短い者、 その2は週35時間以上のパートタイム就業者、 その3は週35時間以下のパートタイム就業者である。 3)**は5%水準で有意、*は10%水準で有意であることを示す。 保険と貯蓄性保険が補完的な商品であるとは認識していないことを示してい る。 個人年金保険と貯蓄性保険加入とは補完的な関係があるが、これは、妻が個 人年金保険と貯蓄性保険の貯蓄機能を重視していることを示している。また、 民間医療保険と死亡保険加入とは補完的な関係がある。民間医療保険と個人年 金保険加入とは関連性が低いが、民間医療保険と貯蓄性保険加入とは補完的な 関係がある。この結果は、妻が民間医療保険を死亡保険以外のみならず貯蓄性 保険にも付加している可能性を示唆している。 妻の就業と死亡保険加入、個人年金保険加入、貯蓄性保険加入との間には関 連が見られず、妻の就業と民間医療保険加入は代替的な関係がある。ただしフ 26 第70巻第5号(平成14年9月) ルタイムで就業する妻の所得は264万円と単純平均の57万円を大きく上まわっ ている。したがって、妻の就業をフルタイムに限定した場合、就業と生保加入 の関連は異なってくることが想定できる。 妻のフルタイム就業と死亡保険、個人年金保険加入とは補完的な関係がある。 一方、妻のフルタイム就業と貯蓄性保険、民間医療保険加入との間には関連性 がない。妻がフルタイム就業を行なう場合、死亡保険と個人年金保険に対する 需要の増加が見込まれることになるが、貯蓄性保険や民間医療保険需要に対す る需要が高まるとは言えない。妻の就業目的が夫の収入を補うあるいは住宅ロ ーン返済にある場合が多いことを考慮すると、妻の所得増加が民間医療保険加 入を促進するほどではないと言うことになる。 (3)世帯についての推定結果 世帯についての結果は、これまでの分析結果をほぼ踏襲している。なお、民 間介護保険についてはいずれの保険の加入とも関連が見出せなかった。 Ⅶまとめ 以上の結果から、生保需要には遺産動機が深く関係していることが実証され た。とくに死亡保険において、金融資産遺贈希望額が保険需要に影響を与えて いるという重要な知見が得られた。死亡保険加入により、希望遺贈額を含めた 金融資産額を遺贈可能となるように調整していることを意味している。 夫にとって、死亡保険と貯蓄性保険は市場が分断されているが、死亡保険と 個人年金保険の市場は補完的である。また、貯蓄性保険には死亡保障と貯蓄の 2つの機能が期待されている。妻にとっては、死亡保険と個人年金保険は市場 が分断されているが、個人年金保険と貯蓄性保険の市場は補完的である。これ ら保険間の代替・補完関係は販売戦略にとって重要であろう。 女性の就業が世帯の生保需要にどのような影響を与えるかについては、かね てから議論があった。女性のフルタイム就業が死亡保険や個人年金に対する需 要を増加させることが判明したことは、今後の生保市場の拡大を示唆するもの として重要である。 27 生命保険需要のミクロ経済分析 なお、「生命保険についての調査」は、金融ビッグバン後の生保にかかる規 制緩和(とくに2001年4月の第3分野保険の規制緩和)や2000年4月の公的介護保 険実施以前に実施されたものである。したがって、ここでの関数推定結果は、 現在の情勢において無条件に当てはまるものではない。民間の医療保険や介護 保険については、市場が未成熟であり、それぞれの役割や他の保険との代替・ 補完性についての一層の調査が必要である。 (注1)Modigliani.F.andR.Brumberg,"Utility Analysis and the Consumption Function:An Interpretation of Cross-Section Data,in Post-KeynsianEconomics, Rutgers University Press,1954,pp.388-436. (注2)Yaari.M.E.,"Uncertain Lifetime,Life Insurance and the Theory of the Consumer,Review of Economic Studies,Vol.32,1965,pp.137-150. (注3)Lewis,F.,"Dependents and the Demand for Life Insurance,American Economic Review,Vol.79,No.3,1989,pp.452-467. (注4)Venezia,I.,"Tie-in Arrangement of Life Insurance and Savings:An Economic Rationale",Journal of Risk and Insurance,Vol.58,No.3,1991,pp.383-396. (注5)Kotlikoff,L.J.,"Health Expenditures and Precautionary Savings,What Determines Saving?,MIT Press,1989,pp.14. (注6)中馬宏之編『生命保険の経済分析−その役割と市場評価』、日本評論社、 1993年、61-83ページ。 (注7)岩本康志、古家康博「生命保険としての遺族年金の役割」『郵政研究所レビュ ー』第7号、1996年、97-124ページ。 (注8)後藤尚久、福重元嗣「貯蓄保険と生命保険需要−個標データによる実証分 析」『ファイナンス研究』1996年8月、85-102ページ。 (注9)滋野由紀子「私的医療保険の需要と公的医療保険」『季刊・社会保障研究』 Vol.36,No.3,2000年、378-390ページ。 (注10)利己的遺産動機には、遺産を残す見返りに子供の行動をコントロールしよう とする戦略的遺産動機と、子供が世話をしてくれる見返りに資産を残す暗黙的年 金契約がある(Bernheim,B.D.,A.Shleifer and L.H.Summers,"The Strategic 28 第70巻第5号(平成14年9月) Bequest Motive,Journal of Political Economy,Vol.93,No.2,1985,pp.508-546; Kotlikoff.L.J. and A.Spivak "The Family as an Incomplete annuities Market" Journal of Political Economy,Vol.89,No.2,1981,pp.372-391) (注11)Barro,R.,"Are Government Bonds net wealth?",Journal of Political Economy, Vol.82,No.5,1974,pp.1095-1117. (注12)中馬氏ほかによる前掲論文において.ヤアリの保険理論にもとづく明示的な 生命保険需要関数の導出プロセスが解説されている。 29