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平成26年度 「生命動態システム科学推進拠点事業」 中間評価報告書

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平成26年度 「生命動態システム科学推進拠点事業」 中間評価報告書
資料 1-2
平成26年度
「生命動態システム科学推進拠点事業」
中間評価報告書
平成26年12月
生命動態システム科学推進拠点事業
中間評価委員会
-
目
次
-
Ⅰ.生命動態システム科学推進拠点事業開始経緯
Ⅱ.生命動態システム科学推進拠点事業の中間評価結果
(1)事業全体に関する中間評価
(2)課題の実施状況に関する中間評価
<2-1>
多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命シス
テムの革新的研究体系の開発・教育拠点
(国立大学法人京都大学)
<2-2>
転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点 (国立
大学法人東京大学)
<2-3>
複雑生命システム動態研究教育拠点
(国立大学法人東京大学)
<2-4>
核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成
(国立大学法人広島大学)
Ⅲ.参考資料
平成26年度「生命動態システム科学推進拠点事業」中間評価委員会
設置要綱
平成26年度「生命動態システム科学推進拠点事業」中間評価委員会
委員名簿
各課題の事業進捗状況概要
Ⅰ.生命動態システム科学推進拠点事業開始経緯
文部科学省では、創薬・医療技術支援基盤の強化を図るため、
「創薬等ライフサイ
エンス研究支援基盤事業」を実施している。「生命動態システム科学推進拠点事業」
は、「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」の一環として、ライフサイエンス
委員会の下に設置された「生命動態システム科学戦略作業部会」の報告書※を踏まえ、
平成 24 年度より開始された事業である。
※科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会
生命動態システム科学戦略作業部会 報告書(平成 23 年 7 月 19 日)
(「生命動態システム科学」の今後の推進のあり方について)
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n889_00.pdf
「生命動態システム科学推進拠点事業」は、
①計測で得られたデータから数理科学的手法(数学、統計学、計算機科学等を含む)
を用いて生命現象を理解し、in vitro、in silico、in vivo での再構成系を構築
する「生命動態システム科学」の研究手法を活用して、生命現象を動的なシステ
ムとして理解する方法論の開発と実証を行うこと、
②数理科学的手法と生命科学の融合研究の発展のため、人材育成や融合人材の常勤
ポストの設置等を行う恒久的な拠点が整備されること、
③「生命動態システム科学」の手法を創薬開発等に応用する道筋を示すこと、
を目的としている。
本事業は、平成 24 年 11 月 7 日に公募を開始し、外部有識者により構成される課題
選考委員会の審査を経て、平成 25 年 1 月 8 日、実施機関として、以下のとおり、4
機関を決定した。
本年度は、本事業開始後 3 年目に当たることから、事業の進捗状況、これまでに得
られた研究成果及び今後の展望等について中間評価を実施することを目的として、文
部科学省に外部有識者からなる中間評価委員会を設置した。
評価に当たっては、各実施機関から提出された成果報告書による書面審査やヒアリ
ング審査に基づき、研究成果(実験系と理論系の融合及び分野間の融合)、実施体制
(「生命動態システム科学」を戦略的に推進するための拠点形成)、人材育成(「生命
動態システム科学」の担い手である人材の戦略的な育成)、今後の展望等の観点から、
①事業全体の評価、②各実施課題の評価について、平成 26 年 10 月から審議を重ね、
公正かつ適正に評価を行った。本評価報告書は、その結果をとりまとめて作成された
ものである。
4
(参考)実施機関等(公募採択時の審査番号順)
課
題
名 :
多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命
システムの革新的研究体系の開発・教育拠点
機
関
名 :
国立大学法人京都大学
代表研究者名 : 松田
道行
課
題
名 :
転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点
機
関
名 :
国立大学法人東京大学
代表研究者名 : 井原
茂男
課
題
名 :
複雑生命システム動態研究教育拠点
機
関
名 :
国立大学法人東京大学
代表研究者名 : 金子
邦彦
課
題
名 :
核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成
機
関
名 :
国立大学法人広島大学
代表研究者名 : 楯
真一
5
6
Ⅱ.生命動態システム科学推進拠点事業の
中間評価結果
7
(1)事業全体に関する中間評価
1.総評
本年度は、事業開始後、3年目を迎えるが、事業全体の進捗状況として、順調に進
展していると評価できる。本事業の目標である、生命現象を動的なシステムとして理
解する方法論の実証とその応用に向け、各拠点で計測と理論・計算の連携を積極的に
進めており、拠点としての体制が整備されたと評価できる。個々の研究からは十分に
成果が挙がっていると評価できる。一部、融合研究としては成果に乏しい拠点もある
が、当該分野の発展には時間が要することが見込まれるため、長い目で見た評価が必
要である。今後は、融合分野だからこそ可能な取組から特筆すべき成果が創出される
ことが期待される。人材育成の観点では、融合研究を経験した若手人材の育成が期待
されるところであり、多くの拠点で工夫がなされていると評価できる。今後の「生命
動態システム科学」の更なる発展を見据え、4拠点の代表研究者及び有識者で構成さ
れる合同推進委員会において今後の推進方策等についての提言をまとめるとともに、
シンポジウムの開催等を通じて、拠点内外の有機的連携がより図られることが求めら
れる。
2.事業の進捗状況について
各拠点の整備が進み、体制が確立した段階にあり、概ね順調に進捗していると評価
できる。個々の研究については、新しい発見が多く提示されており、まさに発展領域
であると評価できる。一方、解析に適した実験系をテーマとする傾向が伺え、医学・
生物学的に見て研究対象に偏りがある印象がある。細胞集団として協働性のある多細
胞生物を対象にする等、より複雑な系を対象として、概念的にインパクトのある方向
に進展することが期待される。また、拠点間で進捗に差異が認められるため、進捗に
遅れが見られる拠点に対しては、融合分野の発展は時間がかかることに配慮した上で、
具体的な融合研究の成果が得られるよう要請するとともに、融合研究を実施するに足
る人材の確保を求めていく必要がある。
研究成果については、個別の研究自体は十分に成果が出るようになっている。「生
命動態システム科学」の方法論を用いた、今までの枠組みではできないことへの取組
が期待されるが、細胞の分子生物学と機器分析、計算科学からのモデル化の並立にと
どまっており、融合研究によるブレークスルーが恒常的にあるとは認められていない。
残りの期間内で更なる特筆すべき成果の創出を期待したい。
人材育成については、若手・女性研究者の育成などは十分視野に入っているが、成
果が結実するまで更なる推進が望まれる。学生については、大学院生のみならず、学
部生への配慮も必要であろう。
3.今後の展望について
今後は、我が国における「生命動態システム科学推進拠点」の位置付けを明確にし
て、それらが有機的に結びついて発展することが望まれる。また、将来、生命科学と
数理科学の融合について、ごく自然に取り入れられるような状況になり、そのような
8
中から新しい概念が生まれて、医学・生物学の新機軸が築かれることが期待される。
そのためには、当該分野の長期的な発展が必須であり、我が国の「生命動態システム
科学」の推進に向けてどのような拠点や人材が必要なのか、合同推進委員会等による
議論も踏まえ、戦略的に進めることが肝要である。また、本事業の拠点間のみならず、
独立行政法人理化学研究所 生命システム研究センター(QBiC)や独立行政法人科学
技術振興機構の戦略的創造研究推進事業における生命動態関連の CREST やさきがけの
研究者との更なる連携や人材の交流も望まれる。特に、平成27年4月に発足する日
本医療研究開発機構に移管する予定ではあるが、本事業の趣旨に鑑み、異分野融合研
究や人材育成を長期的な視点で推進するとともに、新法人で実施される様々な事業と
の連携も求められる。
国際的に見ると、生命科学と数理科学の境界領域に研究資金を重点的に投資し、研
究や教育の場を確保することについて、我が国はまだまだ遅れている。本事業は我が
国での現状を改善するうえで大きな効果が見込まれるため、今後とも支援を続け、
「生
命動態システム科学」としての研究開発及び人材養成に資する恒久的な組織を大学内
に設置する契機にしなければならない。
研究面では、今後「生命動態システム科学」の方法論を生命科学・医療等のより広
い領域に展開する必要がある。拠点ごとに取組に違いはあるが、全体的に推進を強化
していくことが望ましい。例えば、細胞生物学的にミクロの視点を取り入れる等の研
究領域を広げる取組や拠点間の連携等から新たな成果が創出されることが期待され
る。また、「生命動態システム科学」の社会的認知を進める取組も必要である。その
ためには今までにない真のブレークスルーが必要であり、融合分野でないとできない
出口を見据えることが重要である。
当該分野、特に実験系研究者と対話可能な理論・計算生物学の研究者は既に生命科
学の各分野で必要とされており、需要が高まっている。各拠点ともに人材育成に重点
をおいて進めており、これらの人材は今後の生命科学研究の中核となり得る。一方、
本分野の長期的な発展と出口(産業)市場が整わなくては育成した人材が他分野に流
出してしまうことが懸念されるため、アカデミア側での受け入れ体制も含め、本分野
の人材のキャリアパスの整備や本分野の評価体制の検討を行い、長期的な体制で人材
育成を進めていくことが望まれる。
9
(2)課題の実施状況に関する中間評価
課
題
名 :
多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命
システムの革新的研究体系の開発・教育拠点
機
関
名 :
国立大学法人京都大学
代表研究者名 : 松田
道行
1.総評
「生命動態システム科学」の推進に向け、生物的なデータと、理論解析が結び付
いており、着実に研究成果があがっている。学際的な研究や教育の成果が十分に上
がるような実施体制を構築しており、当該分野の講義の実施、各種の講習会等によ
り戦略的な人材育成が行われている。事業の後半では、研究内容がより高度で専門
化すると思われるので、学外も含めた関連機関との積極的な連携を期待する。
2.研究成果について
本課題においては、細胞増殖情報伝達系のモデル構築と薬剤効果予測への応用や、
生命科学・情報科学・物理学の融合による多細胞システム形態形成の力学的理解、
さらに、顕微鏡画像に含まれる多次元特徴量に基づいた細胞・組織の構造的特徴の
可視化・解析を可能とするソフトウェアプラットフォームの構築を目指した取組等
が進められているところである。
研究成果については、従来法の延長線上のように見受けられるものもあるが、定
量生物学に基づく数理モデルの構築に向け、研究の目的や手法も具体的で明確であ
り、着実に成果が上がっていると評価できる。例えば、イメージングと空間構造の
モデリングについては、筋が通った分かりやすい構成になっており、生命科学と数
理科学との結びつきも具体的で着実に成果があがっている。また、情報伝達系のモ
デリングは、旧来の手法の応用ではあるが、優れた研究である。特に細胞のマルチ
フィジックスモデルは、ニューラルネットなどによる現象論的なフィッティングを
行うものであり、具体的に示された細胞移動の例も興味深い。脳形成モデリング等
の3次元 vertex dynamics を用いたモデルは、機械工学の専門家で極めて優れた研
究者が参画しており、大変期待できる。なお、組織構成細胞のモデルや顕微鏡画像
の解析は、実験手法の研究であり、数理科学との融合という意味では主要テーマと
は言い難いが、画像解析の基盤技術であり、成果も上がっていると評価できる。学
会等の研究者コミュニティへの情報発信や、講習会等による成果の普及・啓発活動
を積極的に行っており評価できる。
3.実施体制について
本課題においては、計測科学と数理生物学・情報学の融合研究・教育推進拠点と
して、学内外に開かれた「時空間情報イメージング拠点」を立ち上げ、数理と計測
の研究者を結集し、ライブイメージングを入口とし、創薬を一つの出口とする生命
動態システム科学を創る体制整備が進められているところである。
10
実施体制については、学際的な研究や教育の成果が十分にあがるような体制が設
計されており、また、若手研究者を多く雇用する等、代表研究者による拠点運営は
適切であると評価できる。拠点内の情報交換についても、定期的な交流のシステム
が整備されており、評価できる。外部との連携の取組については、多くの事例はあ
るものの、システマティックな取組としては弱い。今後、学外も含めた積極的な連
携が望まれる。なお、学内の数学科との連携が現実的でない場合は更なる工夫が必
要であり、そのためにも、医学生物側からのアプローチがテクニカルな側面のみに
ならず、思考過程や方法論の柔軟性と概念的側面などが加わる事が期待される。
4.人材育成について
本課題においては、様々な専門分野をもつ研究者による異分野融合研究を通して、
数理も計測も実行できるπ型若手研究者の育成を行うとともに、大学院生に対して
は、所属研究室に加え、研究室間での数理と計測の融合研究への従事や当該分野の
講義の実施等により、数理と計測も理解できるπ型大学院生を育成するための取組
が進められているところである。
理論・情報系の若手教員を積極的に雇用し、学際的なテーマについて、数理科学
と生命科学の両方を適切に理解した上で、「実験系生物学者のための数理・統計・
計算生物学入門コース」や「数理科学者のための顕微鏡合宿」等の講義や講習会を
通じて、自らの専門領域で一流の研究者に育つような制度を積極的に設計・運営し、
十分な成果が上がっていると評価できる。ただし、一部テクニカルな面に偏りがあ
るようにも思われるため、生命科学にスケールの大きい新機軸を打ち出すには大局
的な視点からサイエンスを捉えることが重要であることから、学生や研究者等が興
味を持ち続けることができるように配慮することが期待される。なお、世代に対応
した人材育成の柔軟性が今後の課題と示された点については、リサーチアシスタン
トを通じた融合研究の経験や経済的支援に加え、若い世代の嗜好に合致するような
運用を考えていくことも重要であり、若い世代が企画する試み等を実施することに
より、世代間の融合等が進むことが期待される。
5.今後の展望について
イメージングという実験手法と空間構造を取り入れた数理モデリングというテ
ーマ自体は、融合研究として無理がなく、日本の生命科学に大きなインパクトを与
えるような成果が上がることが期待される。一方、細胞の多元的な画像情報から始
めて、今までにない数理解析を行って革新的創薬等を目指すという流れについては、
数理解析をどのようにとらえるかで、これまでの単に情報が多いだけのウエットな
研究と同じになってしまう危惧がある。新しい分野を作るという視点で、生命科学
と数理科学の双方を高いレベルに保つとともに、学内の永続的な拠点として継続し
ていくことが期待される。また、今後の研究課題として、3 次元の形態形成に関わ
る上皮組織の変形シミュレーション等の技術的なブレークスルーの導出や、電子顕
微鏡や超解像技術等による、ミクロな視点の導入等に挑戦することを期待する。
11
課
題
名 :
転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点
機
関
名 :
国立大学法人東京大学
代表研究者名 : 井原
茂男
1.総評
本課題は、転写のダイナミクスの機構解明という大きな課題の下、数理科学研究
に大きな特色があり、数理科学側からのアプローチによる成果が中心となっている
が、「生命動態システム科学」の推進に向けた生命科学との連携は現時点で十分で
はない。数理科学を活用するという意図は評価できるので、計画の見直しを行う中
で、強みを生かして、生命科学との融合研究を具体的に展開するとともに、これら
の研究を遂行できる博士研究員や大学院生を育成する戦略や体制を速やかに構築
することが求められる。
2.研究成果について
本課題においては、転写のダイナミクスの機構解明を目指して、転写過程の高分
解能時系列の実験・数理モデリング・シミュレーション、細胞の集団運動の実験と
シミュレーション、転写因子のタンパク質構造数理解析が進められているところで
ある。
転写のダイナミクスの機構解明というテーマ自体は、生命科学と数理科学の融合
に向けて、科学的にも重要であり、数理科学の有効性が期待されるところではある
が、全般的に計画が具体的ではなく、細胞集団の実験など、テーマとの関連性や実
現方法の明瞭化が望まれる。現時点では、数理を取り入れやすいテーマを寄せ集め
た印象となっており、融合研究の成果としてあげられたものは、簡単なセルオート
マトンモデルによるシミュレーションなどであり、生命科学がトポロジーや組み紐
理論、複素解析とどう結びつくか必ずしも明確ではない。転写過程の高分解能時系
列に関する研究については、データがどのように数理モデルにブレークスルーをも
たらすのかを示すことが求められる。研究者コミュニティへの情報発信は、「数学
協働プログラム」によるワークショップの中心を担うなど、着実に行っているもの
の、さらなる取組が期待される。
3.実施体制について
本課題においては、融合研究を推進するとともに、「生命動態システム科学」を
担う融合的人材育成を推進するための全学的な研究教育拠点として、「生物医学と
数 学 の 融 合 拠 点 (Institute for Biology and Mathematics of Dynamical Cell
Processes: iBMath)」の整備が進められているところである。
大学内の複数機関による協力により、数理の若手研究者を中心として、純粋に近
い数理科学を活用しようという意図は評価できる。しかし、日常的な交流の体制に
ついては明確でなく、数理の範囲を踏み出す人が少ないように思える。現状のまま
では、それぞれの研究者が研究資金を受け取り、若手研究者を雇用する資金を得る
12
ことで終了してしまうと危惧される。
4.人材育成について
本課題においては、部局横断型教育プログラムやサマープログラム、個別セミナ
ーを用いた融合教育、大学院生や MD-研究者コースの学部生を主な対象とした融合
研究指導の相互乗り入れの検討、キャリアパス支援等が進められているところであ
る。
学生対象のサマープログラムや若手の会や女性研究者の雇用等、様々な取組が計
画・実施されているが、育てるべき人材像とそのための戦略が明確でない。参加し
ている教員の専門を組み合わせただけでは、学際研究、融合研究を行うことができ
る大学院生が育つとは思えず、戦略的な取組が強く求められる。
5.今後の展望について
今後の展望については、「iBMath」がどのくらい本格的な研究教育拠点となるか
にかかっている。新規分野としての転写制御の解明は、短絡的に創薬に結びつくも
のではないと思われる。生命科学が抱える課題を的確に把握し、問題設定を適切に
見直すことが求められる。また、東京大学には、「複雑生命システム動態研究教育
拠点」というもう一つの拠点があるため、相互の役割分担や連携体制を適切に構築
することが求められる。今後、融合研究を経験できる機会とするべく、数理科学と
生命科学の両者が入った共著論文を執筆することを一つの目標に据え、強みを生か
して、生命科学との融合研究を速やかに具体化することが求められる。また、OJT
や、生命科学や数理科学を個別に教えるのではなく、育てるべき人材像とそのため
の戦略をはっきりさせ、どのように「融合研究」としてシステマティックな教育が
行えるかどうかが重要である。今後、教員を追加で雇用する場合、融合研究の成果
が具体的に上がるような研究者を外部から選ぶことが必要である。さらに、研究の
推進に当たっては、自らの手法の枠内だけで問題をとらえず、問題に対する適切な
解を、各種方法を総合的に用いて解を得るような方向性が必要である。
13
課
題
名 :
複雑生命システム動態研究教育拠点
機
関
名 :
国立大学法人東京大学
代表研究者名 : 金子
邦彦
1.総評
生命科学と数理科学の融合が研究成果として目に見える形で現れているだけで
なく、同時に学生の講義などの教育にも力点が置かれており、バランスの良い運営
が行われている。数理の強みや特徴を維持し、掲げられた3つのテーマの成就に向
けて邁進することが期待される。今後は、より外部に開かれた拠点として、組織体
制や教育・研究システムが学内で恒久的に維持されることを望む。
2.研究成果について
本課題においては、「生きていることの動的状態論」の構築に向け、可塑性、頑
健性、活動性を3つの軸に対して、3つのテーマ、①1細胞レベル、②多細胞集団
レベル、③ゲノム・エピゲノム変化を含む長期スケールという3階層で研究を推進
しているところである。
複雑系としての生命科学と数理科学の融合において、生命動態の観点から、これ
までの伝統的取組を、高度な数理解析によりさらに発展させており、一定の成果、
方向性が見出されている。細胞の動的状態理論、集団化した細胞系を駆動する原理、
生命の維持・進化との関連と、段階的に進む方策は明確であり、今後の具体的な取
組が求められる。例えば、ゆらぎとロバストネスの理論化は生物学にとって重要な
課題であり、長期的には適応や進化の理論化に結びつく重要なアプローチである。
生命動態を、このような観点からの解析に焦点を当てることにより、独自性を出し
ていることは高く評価できる。ブレークスルーをもたらすような飛躍的な成果につ
いてはこれからであるが、将来の課題として十分に期待できる。アウトリーチ活動
も良く行われており、国内外の学会だけでなく、一般市民へのセミナーや本の執筆
等、積極的に行われており、評価できる。
3.実施体制について
本課題においては、生命動態分野の研究者の育成と研究室の開設を行い、定量的
計測、理論とそのためのモデル、構成生物学とそのための技術開発の研究要素を用
いた融合的研究体制を立ち上げたところである。上記3つのテーマの各階層に跨っ
た可塑性、頑健性、活動性を表現する、「生きていることの動的状態論」の構築に
向けた体制を、教育も含めて構築し、異分野間で今後の方針について密に議論を重
ねて事業を進められているところである。
生命科学と数理科学の融合が研究成果として目に見える形で現れているだけで
なく、同時に学生の講義などの教育にも力点が置かれ、非常にバランスのよいマネ
ージメントが行われていると評価できる。スムーズに共同研究が実施されており、
情報共有・事業実施体制は効率的かつ効果的である。また、大学として、恒久的な
14
組織とするべく、他部局も参画して新たな機構(「生物普遍性機構」)の設立を試み
たことも高く評価できる。参画する研究者が元々構築していたネットワークが広い
こともあり、国内外の複数の研究室との連携も見られる。今後、より外部に開かれ
た拠点としてさらなる連携を期待する。
4.人材育成について
本課題においては、学部生に対して数理、物理、生命の基盤的研究から、数理生
物、システム、合成生物学に至る教育を行うカリキュラム制度が作られ、また、統
合自然科学科や広域科学専攻の拡充、統合バイオメディカルシステム国際研究セン
ターの設置等、戦略的な人材育成が進められているところである。
学部段階から研究に触れられる機会を設けることにより、柔軟な考えを取り入れ
るとともに、若い学生にも影響を与えようとする取組を積極的に進めており、評価
できる。また、本拠点の出身者が他大学のポジションを得るなど、具体的な育成事
例も出てきており、今後、長期的かつ体系的に人材育成を推進していくことが期待
できる。一方、融合研究は若手研究者が中心となって進めているが、併せて女性研
究者に対しても一定の配慮が望まれる。さらに、医学、薬学などの応用現場で実際
に活躍できる人材を育成することも期待する。
5.今後の展望について
研究の戦略と現場の進行に問題はないが、長期的な展望を持った体制構築として
は、まだ途に就いたばかりと見受けられる。博士研究員や若手教員、大学院生など
に研究継続と進展の機会を与える恒久的な教育・研究システムとして構築・維持さ
れることが求められる。生物と理論の融合が見られており、特に数理系の力強さを
感じるが、哺乳類細胞との共通性や違いも確認できる普遍的な系への広がりも考慮
できるとより説得力が増すものと思われる。今後は、細胞間相互作用等の多様性の
取り入れや、ゲノムやオミックスなどのビッグデータ解析との融合も望まれる。
15
課
題
名 :
核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成
機
関
名 :
国立大学法人広島大学
代表研究者名 : 楯
真一
1.総評
着実に研究が展開されており、今後も期待できる。クロマチンやゲノム編集では
国内でトップクラスの研究組織であるので、その利点を活かして、医学生物学の大
きな課題を取り入れ、数理科学がより本質的な役割を果たす問題にも挑戦していた
だきたい。また、技術移転のための講習会等の開催も企画していただきたい。
2.研究成果について
本課題においては、核内クロマチンの構造・動態による遺伝情報制御機構の解明
を目的として、「計測技術開発」「数理モデル開発」「数理モデルと実験の協奏的研
究」の3つの側面の研究を進められているところである。
参画している生命科学者は、クロマチン研究のより物質科学的な側面に強い実験
研究者であるため、多くの研究はその側面にそったものとなっている。それだけに、
物理学的なモデリングアプローチの有効性も明確であり、その成果は遺伝子の転写
や修復といった基本的な分子生物学に関するものであり、波及効果も期待できる。
融合研究による成果も得られつつあり、クロマチンの複数点蛍光標識技術の確立は
顕著な進歩として評価される。また、その上でクロマチン構造パターンの数理モデ
ルを構築しており独自の成果を出しつつある。一方で、この技術力の確立と共に、
より高度な細胞生物学、数理生物学に挑戦していくことが期待される。国際シンポ
ジウムの開催など、成果発信の努力は行っているが、今後はさらに世界的な取組が
期待される。
3.実施体制について
本課題においては、大学本部の支援も得ながら、拠点運営に関わる教員は若手研
究者の活動支援にまわることで、融合領域研究を推進する若手研究者を中心に事業
が進められているところである。
実施体制としては、優れた理論研究者がいるが、理論系と実験系との連携体制は
必ずしも十分ではない。外部との連携も含めた体制の強化が望ましい。一部に拠点
における役割が明確ではない参画者がいるように見受けられるため、接点を見いだ
せない教育・研究グループについては適宜見直し、再編によりスムーズな拠点運営
が行われることが期待される。また、国際的な核内現象の時空間解析(核内4D解
析)に関する日本初の国際シンポジウム「The 4D Nucleome 2014」を開催するなど、
外部機関との連携を進めており、評価できる。
4.人材育成について
本課題においては、実験系や理論系の隔てがなく日常的に情報交換や議論ができ
16
る環境を整備するとともに、広島大学型のテニュアトラック制度(研究リーダー型)
の活用や理学研究科数理分子生命理学専攻における教育プログラムの強化等によ
り、若手研究者の育成を進められているところである。
テニュアトラック制度など、本拠点を担う人材への支援もあり、着実に人材育成
が行われており、評価できる。一方で、研究テーマが少し狭い印象であるため、今
後幅広い分野で活躍できるかどうかに懸念が残る。また、学部生への教育体制や女
性研究者へのさらなる取組等を期待する。
5.今後の展望について
クロマチンのダイナミクスは、分子生物学的にも興味の多いところであり、細胞
分裂や分化、転写制御に結びつく重要な領域である。また、TALE 等による核内イメ
ージングは現在多くの研究者が扱うトピックスになっており、数理科学との密接な
連携を進めることで特色を出していくことが期待される。今後の展開については、
クロマチンやゲノム編集では国内でトップクラスの研究組織であるので、その利点
を活かして、理論系と実験系との連携を進めることで特色ある成果を出していくこ
とが期待される。申請の際に掲げられたように、他部局との恒久的な融合拠点を構
築し、学外との協同体制をさらに推進することで、ゲノム・エピゲノム研究との連
携や、バイオインフォマティクスをより大規模な取り込みを進めるとともに、研究
が行いやすい分裂酵母だけでなく、多種の細胞・生物への展開(2n の系に行くため
出芽酵母の利用等)を行うなど、スケールの拡大を企画することが求められる。
17
18
Ⅲ.参考資料
19
平成26年度
創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業
「生命動態システム科学推進拠点」
中間評価委員会
設置要綱
1.設置の目的
中間評価委員会(以下「委員会」という。)は、創薬等ライフサイエンス研究支
援基盤事業「生命動態システム科学推進拠点」の実施状況の中間評価に当たって、
評価要項を策定し、課題評価を適正に行うことを目的とする。
2.組織等
(1)委員会は、生命科学、数理科学等に関する学識経験者等で構成する。
(2)委員会には、主査を置き、文部科学省研究振興局が指名する。
(3)主査は必要に応じて、副主査を指名することができる。副主査は主査に事故等
があるときは、その職務を代理する。
(4)委員会は、主査が招集する。
(5)委員会は、委員の過半数の者の出席がなければ開会することはできない。
(6)委員会の議事は、出席した委員の過半数の同意を以って決し、可否同数のとき
は主査の決するところによる。
(7)委員会に出席できない委員は、主査又は他の委員にその権限を委任することが
できる。この場合、当該委員は委員会に出席したものとみなす。
(8)委員会は、必要に応じて委員以外の学識経験者等の出席を求めることができる。
(9) 委員の委嘱期間は、平成26年10月31日から平成27年3月31日まで
とする。
3.守秘義務等
(1)課題の評価の過程は、非公開とする。
(2)委員は、評価の過程で知り得た情報を他に漏らしてはならない。
4.庶務
委員会に係る庶務は、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課において処理す
る。
5.附則
本要綱は平成26年10月31日から適用する。
20
平成26年度
創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業
「生命動態システム科学推進拠点」
中間評価委員会
委員名簿
巖佐
庸
国立大学法人九州大学大学院理学研究院 教授
黒田
真也
国立大学法人東京大学大学院理学系研究科 教授
泰地真弘人
独立行政法人理化学研究所生命システム研究センター
副センター長
○
高木
利久
月田早智子
国立大学法人東京大学大学院理学系研究科 教授
国立大学法人大阪大学大学院生命機能研究科/
医学系研究科 教授
長洲
毅志
エーザイ株式会社PC本部 ポートフォリオ戦略・推進部
○ 主査
21
顧問
計6名(敬称略50音順)
生命動態システム科学推進拠点事業・京都大学(実施体制)
イメージングと数理解
析の大学院コースや
講習会の実施拠点
時空間情報イメージング拠点
一つ屋根の下に
数理と計測の若
者たちを集める
京都大学医学部構内F棟3階、地下
計測系・生命動態研究室
青木一洋
数理系・生命動態研究室
本田直樹
Hoden, Mark
近藤洋平
情報科学研究科
石井信、大羽成征
松田哲也、中尾恵
医学研究科
蛍光生体イメージング室
松田道行
ワンストップ創薬拠点
萩原正敏
榎本将人
平島 剛志
生命科学研究科
上村匡、今村博臣、
杉村薫
再生医科学研究所
安達泰治、井上康博
瀬原淳子、笠井倫志
医学研究科
斎藤通紀
ウイルス研究所
影山龍一郎
理学研究科数学教室
加藤毅
• リサーチアシスタント (大学院コースで教育し、各研究室で研究に従事する)
平成25年度 20名を雇用:医学(8)、生命(4)、情報(3)、再生研(3)、ウイルス(3)
平成26年度 19名を雇用:医学(7)、生命(5)、情報(2)、再生研(3)、ウイルス(2)
生命動態システム科学推進拠点事業(人材育成)
• 『発生・細胞生物学・システム生物学コース』
–
–
–
–
–
医学研究科・情報学研究科(通年)
若手研究者の研究発表
招待講演
年度末のリトリートでの研究発表
全て英語で実施
• 『光学顕微鏡入門コース』
教育の継続性
相互乗り入れの
大学院コースを
単位化
– Textbook抄読会
• 『実験系生物学者のための数理・統計・計算生物学入門コース』
– 主要なモデリングの方法論を理解できる。
– 画像解析の基本ソフトウェアが使いこなせる。
– 上記を使って、データ解析、モデリングとシミュレーションができる。
• 『数理科学者のための顕微鏡合宿』
• 『システム神経生物学スプリングスクール』
生命動態システム科学推進拠点事業(研究成果)
青木一洋
拠点で雇用した若手研究者たちの主な研究成果
•
細胞増殖情報伝達系のモデル構築と応用
–
–
–
•
細胞移動のシステム同定
–
–
–
•
平島剛志
近藤洋平・本田直樹・青木一洋・石井信
画像データから細胞に働く力を計算し、流体力学
モデルを構築した。
細胞競合の動態とその分子基盤の解明
−
−
•
平島剛志
精巣上体がなぜ屈曲するかをライブイメージングの画像を定量解析し、
そこから数理モデルを構築するというアプローチで解明した。
生命科学・情報科学・物理学の融合による多細
胞システム形態形成の力学的理解
−
−
•
本田直樹・青木一洋・松田道行・石井信
細胞の形態変化および細胞移動の予測に成功した。
予測する生物学への新しい動きを作りつつある。
精巣上体細管の形態形成現象
–
–
•
青木一洋・松田道行
細胞内情報伝達系の主要パラメータを実測し、実験系の研究者からみ
てリーズナブルな数理モデルを構築している。
定量生物学という新しい分野に発展しつつある。
榎本将人
ショウジョウバエをモデルに、「抗腫瘍シグナル」
と「腫瘍促進シグナル」のスイッチ機構を解明し
た。
本田直樹
移動方向
Mark Holden, 中尾恵、松田道行、松田哲也
イメージング画像のシグナルノイズ比についての
数理モデルを構築した。
形態変化予測
予測
観測
Biomedical image processing research
−
−
移動速度
Tug-of-war model
生命動態システム科学推進拠点事業(拠点形成・今後の展望)
拠点を永続させるシステム
教員: キャリアアップ経費で継続
技術職員: 課金システムで自立
技術支援
情報交換
理研
(QBiC・CDB)
京都大学医学部構内F棟
時空間情報
イメージング拠点
利用・相談
共同研究
蛍光生体
イメージング室
計測系・生命動態研究室
青木一洋
教務補佐員
顕微鏡操作
数理系・生命動態研究室
本田直樹
教務補佐員
画像処理
京都大学の
研究者
技術講習会
Webによる発信
利用・相談
共同研究
全国の
研究者
バイオメディカルイメージング分野の若手研究者の数を増やす
東京大学 転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点 (iBMath)
(Institute for Biology and Mathematics for Cellular Processes (iBMath))
目標:国際的に活躍ができる研究者の育成と創薬イノベーション
・ 医学/情報・システム科学/数理の特性をいかした情報数理解析と実験結果を相互にサイクルとして受け
渡しつつ研究し、生命動態システム科学の分野融合的な人材育成を行う拠点を確立する。
・ 国内外の生命システム科学拠点および数理科学研究施設との連携を加速し、数理科学と医学の融合を展
開する。民間との研究協働により、拠点の発展的な定着を確実にするため、実用化に近く世界的にも独自か
つ優位な基盤技術になると期待される高分解能時系列実験と数理モデル・シミュレーションから、転写過程
の動的機構の解明および創薬技術の開発を進める。
拠点の形成状況:
・ 東京大学 先端科学技術研究センター・大学院数理科学研究科・大学院医学系研究科・アイソトープ
総合センターの4部局が中心となって生命科学と数理科学の融合を推進中。
・ 2013年4月、東京大学大学院数理科学研究科は附属数理科学連携基盤センターを新設。
本プロジェクトの中心拠点を上記数理科学連携基盤センターに置いた。
・ 融合研究を経験した生命科学(実験と情報解析)の4部局にまたがる教授クラスの研究者5名、および
准教授2名を含む広い意味での数理科学専門の若手研究者8名を拠点のコアメンバーとして、融合研究
と全学的な教育改革を推進中。
・ 構成員のキャリアアップ実績:教授 1、准教授(海外)1、助教(他大学)2
人材育成
1.人材育成/人材キャリアパス 生命科学と数理科学の融合教育の強化と促進
・部局横断型教育プログラムの開始した。
- 学部生を対象に全学自由ゼミナールの活用を推進
- 学部生/大学院生を対象に数理科学研究科の科目に生命動態に関わる内容
を追加。医学系研究科では「MD-研究者コース」「PhD-MDコー ス」を活用
- 研究指導の相互乗り入れ
玉原セミナーハウスで開催した
サマープログラムの様子
・サマープログラム(大学院生、研究者を対象)を玉原セミナーハウスにて毎年開催
・島根大学[数理生物]-東京大学iBMath 合同研究会(学部生、大学院生、研究者を対象)
・数学協働プログラムの活用による融合研究を推進:2014年1月、12月、2015年3月
2.国際化と男女共同参画
・Caltec(Penner教授)、IHES、Aarhus大等、生命科学と数理科学の融合機関と共同研究を推進。
・Joint iBMath-QGM workshop, Center of Quantum Geometry of Moduli Spaces(Aarhu大)2013年12月に開催。
3. 国内外から研究者の雇用を促進
4. 産学連携 国内外の研究機関、企業との連携
共同研究を推進中
国際的な研究者を招聘。短期共同研究枠
としてiBMath連続講義を新設。
5. 医学部学生、若手研究者向けの月1回の
数理解析および論文指導の継続的なトレー
ニングコースの開設。
ミニ数理デザイン道場(2014年3月27日)での議論の1コマ
CREST栗原チームとの共同で「ミニ数理デザイン道場」
を開設。サマースクール等で意識を持った参加者を対象に、
論文投稿、学会発表を指導。
研究成果
(I) 転写過程の高分解能時系列実験と数理モデリングとシミュレーション 遺伝子レベル
モデリングとシミュレーション 遺伝子レベル
刺激応答性クロマチン構造変化 169550000
p65_00min
P65 (0 分)
P65(30分)
H3K4me3
H3K27ac
Pol II (0分)
Pol II (30分)
Pol II(60分)
0
169820000
169850000
169880000
169910000
169940000
0
0から30分
の間で何
が起きてい
るのか? 20000
0
ChIA_30min
RNA_60min
169790000
q24.2
chr1
20000
ChIA_00min
RNA_30min
169760000
0
500
PolII_60min
RNA_00min
169730000
0
500
PolII_30min
RNA-seq �
ChIA-PET�
169700000
20
500
PolII_00min
�
6 0 分�
�
169670000
20
30
H3K27ac_00min
�
RNA-seq �
3 0 分� ChIA-PET�
�
169640000
20
30
H3K4me3
RNA-seq �
ChIA-PET�
169610000
20
30
p65_30min
�
0 分�
�
169580000
30
遺伝子間
でループを
形成する 20000
流量
炎
理
(B) 炎症刺激応答性クロマチン構造変化 (C) RNAPIIの動力学のモデリング
(I) 転写過程の高分解能時系列実験と数
症
(A) 時間解像度の改善のための
検体調製自動化システム開発
0
ChIA_60min
ループは
時間変化
している RefSeq genes
F5
SELP
SELL
SELL
METTL18
C1orf112
SCYL3
SELE
KIFAP3
KIFAP3
KIFAP3
KIFAP3
SCYL3
�
SELE (42 kb:ポリメレースの通過時間12分) ・人型の実験ロボットを開発し、人手では不可能な
短時間、高精度、高再規性を可能にした。
RNAPII濃度
(D) 転写ファクトリーとしての動力学モデリング
・ 刺激や細胞の状態によって、クロマチン構造が時間とともに変化(B)
するだけでなく、異なる転写複合体が駆動(右図)し、必要な遺伝子
群を転写することを明らかにした。
・ 構造変化を確率過程として取り入れたRNAPIIの動力学モデル(C)
からRNAPIIの遺伝子上の濃度分布の実験結果を説明し、流量の
変化を多数の遺伝子について予測した。
・ 今後、自動化(A)を活用して詳細な時系列データを取得し、モデル
の改良を進め、転写の動的機構を明らかにする。
生
(A) 血管新 のtime-lapse imagingデータ取得 の解明 」と連携 (B) 実験結果からの要請とモデル化 (1) cell-mixing effect (先端細胞の入れ替わり)、
(2) 2体相互作 の存在,( 3) 細胞渋滞と伸長・分岐 用
開始 細胞レベル
CRESTテーマ「細胞動態の多様性・不均一性に基づく組織構築原
理
(II) 細胞の集団運動の実験とシミュレーション
36時間後 repulsive force 用
attractive force 2体相互作 モデル
(細胞のシグナル
理
0 min (C)先端細胞の入れ替わりの数
no interaction 伝達をモデル化) モデリング 伸長・分岐の
セルオートマトン
アルゴリズム 変位 現
色の違い:細胞の入れ替
わりを表 時間 画
(D) 内皮細胞密度の微分方程式モデルと伸張・分岐の厳密解 実験 像からの細胞の
今後:サイクル型 実験画像から細胞伸張・分岐の統計
æ
dr
1 ö 微分方程式 分岐の回数
分布を検証。細胞の集団運動の刺激
伸張・分岐の統計分布解析、
-t
= Vm r ç r 2 - r e r ÷
dt
Vm ø の厳密解 の解析的表式 検証・改良
応答と転写の解析(I)とを相互参照可能
遺伝子発 ・刺激応答解析へ
è
現
(III) 転写因子の蛋白質構造数理解析の方法論
蛋白質レベル
にする。
蛋白質改変、変異に有用な新解析手法を開発した。IHES、Caltec、Aarhus大と共同研究を推進中。
今後、新規転写制御の転写因子などから特定した創薬ターゲット候補に対して応用し、有効性を実証する。
今後の展望
人材・体制面:
・ 雇用の安定に向けた体制の構築
数理科学研究科付属数理科学連携基盤センターを国際研究ハブ拠点として永続化
・ 産学連携・他大学との共同研究による人材のキャリアパスの確保
- 拠点間の連携による推進体制の確立
- 関東、東北地方の他大学および民間企業との産学連携を視座に入れた共同利用施設化
・人材育成の推進
- 海外の研究者と対等に渡り合えるコミュニケーション能力の向上
- 知的財産権、情報処理教育の強化など融合教育の対象範囲の拡大
- 対象者の更なる拡大
成果と社会還元への可能性:
・ 数理と医学の融合教育を受けた人材の提供
・ 分子生物では未踏の高時間分解能(短い時間間隔での計測)の時系列計測を実現するための自動化計測
装置、および機器開発技術
・ 高時間分解能の遺伝子発現およびクロマチン構造変化のデータ、および細胞の集団運動の解析から得られ
る新規の現象に対する知見、およびその知見から得られる創薬候補
・ 一細胞解析実験にも適用でき、多様な細胞、多様な遺伝子の解析が可能な転写シミュレーション技術
・ 蛋白質のモジュラー幾何学による新しい構造表現を用いた解析技術、および得られる創薬候補物質
複雑生命システム動態研究教育拠点(東京大学)
実施体制
生命動態分野の研究者の育成と研究室の開設
◆ 実験と理論の研究者が議論するスペースを常設し恒例ミーティング、
人材育成例:(i) 出身者:広島の拠点の特任准教授、助教に採用
(ii) 拠点開始後の博士取得者:京大拠点特任助教ほか国内外のPD
(iii) メンバーの新研究室開設:
石原秀至ー理論生物物理研究室開設(明治大学准教授)
栗原顕輔ー構成生物学研究室開設(分子研特任准教授)
学内での新教員、メンバーのテニュア化
准教授テニュア取得:小林徹也ほか1名
新採用メンバー:入江直樹理学系准教授ほか1名
このほか特任准教授、助教は 5名(広い分野から)
恒常的な数理ー生命を統合する組織
(1) 統合自然科学科+広域科学専攻の拡充
(2)「統合バイオメディカルシステム国際研究センター」設置(生産研)
(3)「生物普遍性機構」概算要求 (全学で文科省に申請)
複雑系生命システムセンター、総合文化研究科 (本拠点)に
理学系、本郷部局も加わる
新教員も採用し長期的組織へ
複雑生命システム動態研究教育拠点(東京大学)
教育
人材育成
3- 4年生;発足した統合自然科学に
「生命動態プログラム」オープン
数理、物理、生命の統合的な 独自の講義(「数理生物
学」「システム・構成生物学」「バイオイメージング」など)
優秀履修者は海外派遣計画
iGEM(国際学生合成生物コンテスト)支援 東大チーム 金メダル
1-2年生から生命動態研究に携わるゼミ
オープン
生物実験から数理までの幅広い少人数体験型ゼミの提供
ジョイントゼミによる分野横断的体験コースの設定
平成25年度冬学期から毎学期開講(履修者20名)
大学1年生が
物理学会で
発表予定
(論文も)
複雑生命システム動態研究教育拠点(東京大学)
成果
テーマ① 細胞のホメオスタシスと適応性の論理の解明
複製、適応の力学系
細胞の適応性と勾配検出
機構における整流作用 情報統計熱力学
1) 酵素量律速による
理論:フィードフォワード型の
発現ゆらぎの人工改変による適応原
適応回路+抑制反応(G)がゼ 時間スケール調節
ロ次の超感度性
整流作用 周期の頑健性と位相の
理の実験検証
可塑性の関係、記憶
長期1細胞計測技術によるゆらぎの定量
遺伝子発現ゆらぎにもとづく
適応(パーシスタンス)の発見
Cf.Wakamoto,
et al. (2013)
Science
(Hatakeyama Kaneko,PLoSCB,
FEBSLett2014)
大腸菌用(ダイナミクス・サイトメーター)
培養液の流れ
2)ネットワーク上の情報
熱力学. Ito and T. Sagawa,
培養液の流れ
Phys Rev Lett 2013
3)細胞走性の情報理論
4)進化と情報 Sughiyama,
Kobayashi submitted
単一の粘菌細胞のトラップ
若本ら
特許第5231684号
5 mm
分裂時間の平均と揺らぎ(分散)の関係
細胞捕捉位置
Nakajima et al、Nat. Commun.,, 2014
細胞
単一細胞のペアリング 捕捉後の挙動観察
テーマ② 多細胞集団の安定性
細胞分化の相互作用力学系理論
振動発現分化のミニマムモデル self-consistent分岐理論
細胞内のタンパク量振動+相互
作用 Stemnessを失う分化過
程: 2遺伝子modelで分岐理論
解析 可塑性の力学系表現+
細胞集団の頑健性(比率制御)
+epigenetic過程による
蛍光イメージングからの位相抽出
分化の固定の解析
iPS過程
発現状態の分岐に の理論
(Furusawa,KK,Science2012)
幹細胞分化の
構成的実験
小野、若本ら
よる力学系分化過程
Goto, Kaneko, Phys. Rev.E .88 032718 (2013)
アメーバ様の細胞変形の動態
細胞性粘菌に
おけるアクチ
ンの重合とそ
の調節因子の
波の幾何学的
特性 膜変形
の動態
(Taniguchi et al、PNAS 110, 5016-5021, 2013 澤井研究室)
テーマ③ ゲノム・エピゲノムの変化と表現型可塑性
適応のマクロ状態論
定常成長状態理論 (環境応答)
マクロ少数自由度記述
各遺伝子発現のlog変化が
比例 (成長速度比で決まる)
適応進化実験
進化しやすさ 増殖速度を変数
変化の方向性 としたマクロ理論
の予測と整合
多数のDNA二本鎖切断
を一過的に誘導
修復過程でゲノム変化 •
•
理論予測ライン
(no parameter)
dm = Cd X + g md E m
Kaneko et al,
submitted
(久郷、太田ら)
表現型変化系統について、ゲノムの変
化(相同組換え、コピー数変化、点変異)
を次世代シークエンサーで測定
ゲノム変化における表現型の安定性
2. 遺伝子発現のゆらぎを生み出す機構の解析(小田・太田、平田、畠山・金子)
[S]or[A] 9
sense RNA
antisense RNA
8
7
mRNA 6
5
kss = 0.5
4
ksd = 0.05
3
kad = 0.1
d[S]
= kss - ksd [S]- kcb ([S][A]- exp(-Eb )[C])
dt
d[A]
= kas - kad [A]- kcb ([S][A]- exp(-Eb )[C])
dt
d[C] b
= kc ([S][A] - exp(-Eb )[C]) - kcd [C]
dt
複合体形成 乖離
分解 2
kas : 0.05 ® 0.6
1
0
0
60
120
Time
an sense RNA 180
→飢餓ストレス 240
•
酵母の飢餓ストレスへの早期応答を次世代シークエンサー
で測定 → BigDataの統計解析、新規情報解析手法の確立
•
長鎖ノンコーディングRNAによるネットワーク制御を明らか
にし、数理モデル化 → 分子生物学と数理生物学の融合
Epigenetic過程 による遺伝子発現適応過程の理論、モデル
(古澤、金子PLoSOne 2013)
新しい数理+物理による生命科学概念の構築
(1) 熱力学的な新たな細胞状態論:
C X
m
展望
Em
対数増殖・stationary・dormant・分化・死などを
増殖速度、発現量変化などのマクロ量の地形で表現
細胞状態の制御可能性
可塑性の順序による分化の理論:細胞集団への階層的分岐理論
幹細胞可塑性の理解とその分化制御、形態の安定性
マクロ状態量と揺らぎによる適応、進化の安定性の理解
(2) 生物のための新しい数理
力学系集団の発展としての進化
何桁も異なる時間スケールを持つ力学系の理論
ホメオスタシスやエピジェネティック記憶の理解へ
遅い時間スケールdynamicsへの埋め込み:
(3)生物情報統計熱力学
reprogramming、ガン化
自律制御、操作の限界
実施体制
若手研究者主体の実施体制・大学からの持続的支援
クロマチン動態数理研究拠点
Research Center for the Mathematics on Chromatin Live Dynamics (RcMcD)
研究推進機構(機構長:広島大学学長)
研究企画室(URA本部)
広島大学 研究拠点認定 (2014)
理学研究科
数理分子生命理学専攻
1999 ~
融合領域教育と研究: 数学・化学・生物の学生と教員
拠点雇用メンバー
11名
拠点外国人研究者
物理系
3名
細胞生物学
3名
数学系(H26助教昇任):1名
物理系(研究費雇用) :1名
構造生物学
2名
化学系
2名
英語教育(外国人)
1名
理論系: 5名
実験系: 7名
先端物質
科学研究科
理学研究科
化学専攻
原爆放射線
医科学研究所
人材育成
女性研究者育成
テニュアトラック教員
博士後期学生の融合領域研究支援
女性研究者育成
•
•
•
李 聖林 研究員 (2013年)
• 2014年4月 理学研究科助教に昇任
テニュアトラック教員1名(拠点枠)
• 外部評価委員(海外2名,国内2名)による中間業績評価.事業終了前に最終評価
後期課程学生を対象とした融合領域研究支援(提案型研究)
• 融合領域研究申請を数理分子生命理学教員が審査し,30万円までの支援
(H25: 1件,H26, 3件
•
拠点研究者による大学院生対象のオムニバス講義
•
•
•
採択)
大学院生に対して融合領域研究の魅力を伝える
拠点招待講演会開催(ほぼ毎月1名招聘)
• 共同研究の促進,研究者・大学院生に対する融合領域研究への導入
拠点の年次成果報告会を兼ねた国際会議の開催(年1回)
• 海外の主要研究グループとの共同研究・研究協力の促進
研究成果 計測から解析・数理モデル構築
biallelic
monoallelic
no expression
100%
90%
80%
70%
60%
50%
dCas9-GFP
MCP-RFP
Nanog
核内配置
転写活性
状態
merge
40%
30%
20%
10%
0%
LIF
Nanog 遺伝子活性化の核内構造依存性 (Sci.Rep. 2014)
Heat dissipation mapping theory (J.Phys.Soc.Jpb 2014)
Decomposition of dissipative heat of diffusion trajectories
in inhomogeneous media
分裂酵母遺伝子の多状態間遷移
今後の展望
拠点研究力を集約した拠点合同研究の集中的推進
Chr1
Chr2
Chr3
0
213
619 2440
537
2550
3719 kb
計測・解析
数理モデリング
・特任教員3名を広島大学テニュアトラック教員とする
・事業後,一講座分の教員を確保して現研究体制を維持する
・国内・海外の研究者との緊密な研究・教育連携の強化
特に4D Nucleome国際コンソーシアムとの連携
Fly UP