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マーケティングにおけるデザインの罠
Kobe University Repository : Kernel Title マーケティングにおけるデザインの罠 Author(s) 栗木, 契 Citation 流通研究 = Journal of marketing & distribution,9( 1):1739 Issue date 2006-06 Resource Type Journal Article / 学術雑誌論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90000549 Create Date: 2017-03-28 マーケテイングにおけるデザインの買 栗 木 契 ( 神戸大学) 要約 ( アブス トラク ト) マーケテ イングには、や さしいようで、難 しいことが多い。当た り前のように思 える理論や構想であって も、 い ざ現場で実践に移 そうとす ると、空回 りして しまうことがある。マーケテ イングにおいて難 しいのは、理論 や構想を、抽象的な次元で理解す ることではない。難 しく、かつ重要なのは、これ らの理論や構想 を、実践 し ようとするときに、何が起 こるかを見抜 くことである。 マーケテ イングの実践は、デザ インの連続 となる。マーケテ イングの担当者 ( マ-ケタ-)は、さまざまな ステ ップを踏みながら、 抽象的な理論や構想 に次々と具体的なかたちを与 え、かつ理論や構想 を修正 してい く 。 マ-ケタ-が、抽象的な理論や構想 を実践へ と結びつけようとすれば、それ らに何 らかのかたちを与えなけれ ばならない。 しか し同時に、このかたちの付与には、マ-ケタ-の思考 を空転 させて しまうはた らきがある O マ-ケタ-は、特定のデザインを無 自覚に採択 し続 けているうちに、当のデザインが可視化す る関係のなかで しか、自社の市場や経営資源 を考 えられなくなっていく。このような思考の民 とで もい うべ き可能性のなかで、 あり得たはずの機会を見失わないためにも、マ-ケタ-は、デザインとい う行為に携わっていることを自覚 し 続けることが必要である。 本稿では、デザインによる可視化のはた らきをめ ぐって、消費財 と産業材の 2つのマーケテ イング事例 を検 討するoそ して、そのなかで、デザ インによる可視化が、意図せ ざるかたちで、マ-ケタ一にとっての現実 を 構成 して しまうとい う問題 を指摘す る 。 キーワー ド デザ イン、かたち、可視化、意図せ ざる結果、決定論的な思考の民、再帰的性 1 .解題 や 困難 は 、マ - ケ タ-の意 の ま まに な らない 消 費者 の行 動 や 、競 争 企業 の 行動 や 、組 織 内 デザインとは何か の コ ン フ リク トだ け に帰 因 す るの で は な く、 マ ーケテ イング意思 決 定 の プ ロセ ス は、デ マ - ケ タ- 自身 の思考 や行 為 に随 伴 す るデ ザ ザ イ ンを伴 うプ ロセ ス とな る。本 稿 で は 、 こ イ ンの は た らきに も帰 国す る こ とを指 摘 す る の ことに注 目 して 、マ ー ケテ イング にお け る こ とで あ る。 デ ザ イ ン とい う概 念 の 定 義 は 、 思考 の員 の 問題 を検 討 す る。以 下 の検 討 の ね 論 者 や文脈 に よ って 多様 で あ る。詳 細 な検 討 らいは、マ - ケ タ-が直面 す る実 務 上 の障壁 に入 る前 に、 まず 以 下 で は 、デザ イ ン とい う 77 概 念 を、 どの よ うな意味 で用 い よ うと して い い う、デザ イ ンの基幹 的 な 2つの語義 が派 生 るか を明確 に して お こ う す る。上述 した、デザ インの名の下 で行 われ 。 「デザ イ ン」 とい う言葉 の適 用範 囲 は広 い る さま ざまな行為 は、 この 2つの語義の細 目 。 見 渡 す と、 デ ザ イ ン とい う言 葉 は 、 マ ー ケ と見 なす こ とが で きそ うで あ る ( 高橋 テ イングに必要 とな る さま ざまな行為 を言 い 0 0 5 ) 0 p p. 1 4 1 5 , p p1 8 1 9。栗木 2 2004 表 すの に用 い られ て い る。 た とえば 、われ わ 加 えて 、D. A.ノーマ ンは、このデザ イ ンと れ は、製 品の ス タイル や 、店 舗 の イ ンテ リア 呼 ばれ る、具体 的 なか たち を付与 しよ うとす な どの外観 を、デザ インと称 す ること もあれ る行為 には、再帰 的 (リフレクシ イブ) な作 ば 、椅 子 の座 り心地 や 、衣服 の着脱 の容 易 さ 動 が随伴 す ることを指摘 してい るo ノ-マ ン な どを高 め るため に工夫 を こ らす ことを、デ は、デザ イ ンには、使 い手 に必要 なメ ッセー ザ インと称 す る こと もあ る。 あ るい は、製 品 ジを 「 可視化」す るはた らきが あると言 う。た や サ ー ビ スの コ ンセプ トや ポ ジシ ョニ ングな とえば 、われ われ は、 ドア を開 けよ うとす る どを策定 す る ことを、デザ イ ンと称 す る こと 際 に、左右 の どち ら側 を押 した り引いた りす もあれ ば、さらにその上位 の戦略概 念 で あ る、 れ ば よいか を、 瞬 時 に判 断す る ことがで きる。 事業 の単位 とな る経 営 資源 や市場 の範 囲 を策 ノーマ ンに よれ ば、 これ は、デザ インによる 定す る ことを、デザ イ ンと称 す ることもあ る。 「 可視化」の おか げで ある。一般 に、ドアには、 この よ うに、マ ーケテ イングにお け るデザ 聞 く側 の手 がか りとな るサ イ ンや 、取 っ手が イ ンとは、製 品 ・サ ー ビスな ど、マ ーケテ イ 取 り付 け られて い る。 こ う した ドアの形状 に ング ・ミックスの個 々の要素 の形態 を設 定す 導 かれ て、われ われ は、その どち ら側 を押 し るこ とで あ った り、消 費者 の選択 行動 を と ら た り引い た りすれば よいか を判 断 してい るの える軸 を設定 す る ことで あった り、事業 ドメ で あ る (ノーマ ン 1 9 9 0p p. 1 1 3 ) 0 さらに言 えば、この ドアの取 っ手の形状 は、 インを設定 す るこ とで あった りす る。デザ イ ンの問題 を検 討 す る際 には、 こ うした適 用対 ドア を 「 押 して」開 け るの か、「 引 いて」開け 象の広 が りに引 きず られ て 、議論 が混乱 す る るの か 、それ とも 「 横 に 引いて」 開 けるのか ことの ない よ うに、気 をつ けなけれ ば な らな を判 断 す るた め の 手 が か り と もな る ( 佐伯 い。 1 9 9 7p p. 4 3 4 4) 。この よ うに、言語 や記号 にか だが、幸 い な ことに、デザ イ ンとい う言葉 ぎ らず 、物 体 の形状 には、特定 の行 為 を誘発 に よ って言 い表 され る多様 な行為 には、ひ と す るはた らきが ある。つ ま り、デザ インとい つ の共 通項 を見 出す こ とがで きそ うで あ る 。 う行為 は、 目に見 えない もの に、具体 的 なか 高橋楊 - は、 これ らの 多様 な広 が りを もつ行 たち を付与す ることを通 じて 、われ われが道 為の共通項 は、直接 目に した り、手 に した り 具 や空 間や概 念 を知覚 した り、評価 した りす す る ことので きない何 もの か を、間接 的 な手 る際 の 前提 とな る知 識 を誘 発 す る こ とに関 段 に置 き換 えて表 出す る ことに関わ って い る わ って い るので あ る。 なお、 ノーマ ンは、 こ 点 だ と述 べ て い る■ 。す なわ ち、道具 や空 間、あ の 「 可視化」とい う概 念 を、「 見 えるよ うにす るい は概 念 な どに、何 らかの具体 的 なかたち ること」一般 で は な く、デザ インに見 られ る を付 与 しよ うとす る行為 を、われ われ はデザ 「 行為の手 がか りとなる知識 を誘発す るはたら イ ンと称 して い るので あ るo そ して 、そ こか き」に限定 して用 いてい る。「 可視化」とい う ら、美 的 な造形 と、設計 や見取 り図の作成 と 言葉 の一般 的 な用法 とは異 なる ことを確認 し 7 8 ておこう。 られたデザ インを利用 した り、自 らが定めた デザ インを利用 した りす る。つ ま り、「 つ くり デザインのプロセスとしてのマーケテイング 手」 は、可視化のはた らきの圏外 にい るわけ 以上の よ うな ノーマ ンらの指摘 を受 けて、 ではないので ある。以下では、 この上野直樹 企業におけるマーケテ イングの担 当者 ( マ- の指摘 を踏 まえて、デザ インを行 う 「 つ くり ケ一 夕-)の 日常的な業務 を、デザ インのプ 手」 もまた、デザ インによる 「 可視化」の影 ロセスとして再検討 してみ ることがで きるだ 響のなかでその仕事 を進 めてい くことに注 目 ろう。 して、検討 を進 めてい くことに しよ う。 マーケテ イングの プロセ スでは、 さまざま 本稿のアプローチ な局面で、高橋 らが言 うところのデザ インが 必要になる。す なわち、 目に見 えない もの に 上述 した よ うに 、本 稿 の主題 は、マ - ケ 具体的なかたちを与 えてい く行為 が、 さまざ タ-がデザ イ ンとい う行為 に関 わ る ことに まなところで利用 され る。冒頭 に挙 げたよ う よって発生す る、再帰的な可視化のはた らき に、製品 ・サー ビスの形態の設定 、消費者の につ いて検討 してい くことで ある。 本稿では、 選択行動 をとらえる軸の設定、事業 ドメイン この間題 を、マーケテ イングにおける 「 具体 の設定 といった行為 は、すべて 目に見 えない 的な状況」 を仮想的に再構成す ることを通 じ もの にか たち を与 える行 為 で あ る。 マ ー ケ て検討 してい く。 あわせて、本稿 が この よ う テ イングのプロセスは、デザ インの連続 とな な 「 状況 に根 ざした思考の方法」 を採悶す る る" 。 ね らいについて も、説明 してお こう 。 そ して、このプ ロセスにおいて も、 ノーマ M. R. ツ インコウタと小E f ] 部正明は、マーケ ンが指摘す る 「 可視化」のはた らきが、 さま テ イングでは、理論や概念 が、次の よ うな役 ざまなかたちで生 じてい るはずだ と考 えられ Cz nkot i a , 割 を担 ってきたことを指摘 している ( る。マーケ タ-は、使 い手が行為の手がか り Ko t a be 2 0 0 4p. 7 ) 。マーケテ イングの実務家 た となる知識にスムーズにアクセスで きるよう ちは、理論や概念 を、事象の一般 的 な定義 と に、「 可視化」のはた らきを生み出 した り、仕 い うよ りは、個別の具体的な問題 を分析 した 掛 けた りす る。同時に、マ-ケ タ-自身 もま り、整理 した りす るための図式や枠組み とし た、「 可視化」の影響の もとで仕事 を進め るこ て活用 して きた。そのため、マーケテ イング とになる。 の実務では、理論や概念 を、一般性 の高い厳 もっとも、 ノーマ ンは、 このデザ インによ 格 な定義 と して確立す ることよ りも、複雑 な る可視化のはた らさが、道具や空間や概念の 現 象 を理解 した り、有用 な発想 を導 いた り、 マ ーケテ イングの文脈 で言 えば 「 使 い 手」 ( あるいはそのポ イン トを記憶 に とどめた りす 「 消 費者 」 )だけで はな く、「つ く り手」 (同 ることを容易にす る、簡素 な図式や枠組 と し 「 マ-ケタ-」 )に も及ぶ ことについては、無 て定式化す ることが好 まれて きた。 自覚 だった嫌 いがある ( 上野 2 0 0 1 )…。なるほ 加 えて、 ツ インコウタと小 田部 は、この よ ど厳密 には、「 可視化」はデザ インをつ くり出 うに現象の水先案 内役 と して理論や概念 を使 す局面ではな く、利用す る局面 においてはた い こなす ためには、それ らを、具体的な現実 らく効果である。しか し、「 つ くり手」もまた、 のなかで どの よ うに用いればよいかに通 じて その思考や行動のプロセスでは、すでに定め いなければな らない、と述べている。つ まり、 7 9 われわれが、理論や概念 を、現象の水先案内 用す るか とい うメタ知識 によって も規定 され 役 と して、よ りよ く活用で きるよ うになるた る。以下では、マーケテ イングにおける 2つ めには、理論や概念その ものにつ いて知 るだ の具体的な状況 をとりあげ、 この 2つの状況 けではな く、それ らを、どの よ うな局面で活 に根 ざして検討 を進 めてい く。 そのなかで 、 用すれば、現象 に対す るどの よ うな理解や対 マ∼ケタ-が市場 との対話 を行 う際に、デザ 話 を導 けるか とい う、メ タ知識 ( 知識 につい インによる可視化のはた らきを通 じて、マ- ての知識) を、具体 的な文脈 に根 ざして確立 ケタ-の思考や行動 にどの ような影響がおよ しなければな らないので ある ぶかが浮 き彫 りになってい く。 。 本稿のね らい も、この よ うな具体性 を帯び 2 .デザインに導かれた思考 たメタ知識 を開発す ることにある。本稿のね らいは、 ノーマ ンや上野 らが提示 してい る、 ケーキの購買 にあたって重視 される属性 「 デザ インにおける可視化の随伴」を、現実の マーケテ イングのプロセスに適用 したときに、 製品 ・サー ビスは、属性の乗 となると言わ どの よ うな問題の理解や摘 出が可能 になるか れる ( Pe t e r , 01 s o n1 9 9 9p p. 6 7 6 9 ) 。一般 に、製 を明 らかにす ることで ある。 品 ・サービスは、多様 な属性 によって構成 さ れてい る。一方 、企業のマーケテ イング予算 そこで、本稿では、抽象的な位相 ではな く 具体的な位相 に即 して、問題 を検討 してい く は限 られている。したがって、マ-ケタ-は、 ことにす る。なぜ な ら、抽象的な位相では同 どの属性の開発や販売促進 に重点 をおけばよ じに見 える枠組みであって も、適用 され る現 いか を決定 しなければな らな い。以下では、 実の文脈が異 なれば、導 き出 され る理解の焦 この よ うな意思 決定 の局 面 で 、デザ イ ンが 点が大 きく異 なって しまうことがあるか らで マ-ケタ-の思考 に及ぼす影響 について検討 あるiv。 してい くことに しよ う。 マーケテ イングの ように実務 との関係 が深 図1 -1を見て欲 しい。市場調査会社の協力 い分野では、理論や概念 の意義や役割 を、具 を得 て、われわれが 、2 0 0 4年 1 2月に首都圏の 体的な現実 との関係のなかで見出 してい くこ 2 0-4 0歳代の男女のモニ ター約 7 0 0名を対象 とが重要 となる。実務 における理論や概念 の に行 ったアンケー トの結果である。「ケーキを 有用性 は、理論や概念 その ものの内容 だけで 購買す る際 に重視す る属性」を訊ねたところ、 はな く、現実の なかでそれ らをどの よ うに適 「おい しさ ・味」 を挙 げ る人 が、圧倒 的に多 20 [ 適 I . I : = = . 1 = _ I : = _ : = S dA ・ r - ・ . .. -17-準 塾 ≡≡≡璽 ■ ■ 匝 己 亙 = ::: 31_ 7 ■ ■ 繭 l チ 27 かった 善 に注力 した り、「 おい しさ ・味」を重点的に 。 アンケー トの結果 を見 ると、消費者 がどの 訴求 した りす るべ きだとい う結論になりそ う である 店で ケーキを購買す るかを選択す る際 には、 。 「 おい しさ ・味」の問題 を、特 に重視す るよう しか し、経験 を積んだマーケタ-は、この である。図 1-1を見 ると、「 おい しさ・味」を ようなナイーブな結論には異 を唱 えるか もし 「とて も重視す る」とい う人は、69. 7% にのぼ れない。現実 は厳 し 。ケーキの製法、ある る。この数字 は、その次 に重視 され る 「 値段」 いは鮮度管理 を少々改善 した り、その ことを と比較 して も ( 「とて も垂硯す る」人が 26. 4 訴求 した りしたところで、消費者はなかなか %)、群 を抜 いて高い。 おい しい とは言って くれな 。人間の味覚 と い い ケーキは食品 ( 食べ物)なのだか ら、選択理 い うのは、一般 に保守的であるO味の改善に 由 として 「 おい しさ・ 味」が最上位 に来 るのは、 よって食品の売上げを高めることが難 しいの 当然だといえるのか もしれない。た しかにそ は、な じみのない味 を、消費者は拒絶 しがち の通 りなのだが、図 112-1-4の ヨーグル だか らである。しか し、逆 に微細な変化では、 ト、機能性飲料、縁茶飲料 についての回答 と なかなか消費者 にその変化 を気づいてもらえ 比べ ると、ケーキの場合 は、味が重視 され る ない。たとえば、このような問題 を、ベテラ 傾向が特 に顕著であるV 。 ンのマ-ケタ-は指摘す るか もしれない。 一方、パ ッケージングについては、ケ-辛 難 しいのは、何 を改善すればよいかではな を購買す る際 には、あまり重視 されないよう く、どのようにその改善 を実行するかを知 る である。どの店でケーキを購買す るかを選択 ことである。 「 おい しさ・ 味」を改善するには、 す る際 に、「 パ ッケージデザインを、とて も重 どのようにその改善 を実行すればよいのだろ 視す る」とい う人は、6%程度 しかいない。な うか。 これは、ケーキや食品の製造 ・販売に お、 このパ ッケージングにつ いての数字 は、 限 った問題ではない。一般 に、消費者調査は、 ヨーグル トや機能性飲料や縁茶飲料の場合 と 何 を改善すればよいかは示 して くれるが、そ 同程度である れ を具体的にどの ように実行すればよいかを 。 示 して くれ ることは少 ない。そのため、消費 マーケテ イングの決め手 は何か 者調査 は、企業が直面 している状況の閉塞性 以上のよ うなアンケー トの結果 を、もしあ を、浮 き彫 りにす るだけに終わって しまうこ なたがマ-ケ タ-な ら、 どの よ うにマ ー ケ とが、少な くないのである。 テ イングに活かすだろうか。ケーキを製造 ・ だが、消費者調査か ら浮 き彫 りになる、こ 販売す る企業の立場 にたって、問題 を考 えて の ような状況の閉塞性 を、動か しがたい必然 み ることに しよう。 だと、早々に断 じて しまうことは、避 けた方 図 1のアンケー トの結果は、消費者がケー がよ 。それは、自らが選択 あるいは利用 し キを購買選択す る際の決め手は、「 おい しさ ・ たデザインの産物であるか もしれないのであ 味」であることを示 している。したがって、ア る。 い ンケー トの結果 に素直 に従 えば、消費者が重 視 していないパ ッケージングの変更 などは後 見落されていた可能性 回 しに して、 まずは 「 おい しさ ・味」 を高め デザ インには、人々を特定の思考や行動へ るために、ケーキの製法や鮮度管理 などの改 と導 く一方で、他の可能性 を見失わせて しま 22 うはた らさがある。先述 した ドアの ケースで る ( Al l i s on,Uhl1 96 4)Oブ ライン ド ・テス ト いえば、 ドアの取 っ手のデザ インが使 い手 を ( ブラン ド名 を隠 した試飲)では、ほぼ同 じ評 「 横に引いて」開けるよ うに誘導す ることで、 価 を受 けた 6ブラン ドの ビール につ いて、あ 引いた り」 して ドア その瞬間、「 押 した り」「 らためて ラベル を表示 して評価 を求めた とこ を開ける可能性 は潜在化す る。以上のケーキ ろ、特定 ブラン ドの ビールの味 が高 く評価 さ のマーケテ イングをめ ぐる考察で も、あ り得 れ るよ うになった。この よ うな実験 の結果 を、 たであろう可能性 が、われわれの視野の外側 ア リソンとウルは報告 してい る。 に置かれて しまってはいなかっただろうか。 あるいは 、Kノ\ンは、広告の映像 に併せて 同 じ製品 ・サ ー ビス あ るい は同 じ情報 で どの よ うな音楽 を流すかによって、広告の映 あって も、その提供 の仕方 の違 いによって、 像 に対す る被験者の理解が変化 して しまうこ 消費者の知覚や評価 が変化 して しまうことが とを報告 している ( Hung2000, 2001)。実験 で あるo製品のパ ッケージング、あるいはサー は、 まず、映像 に併せて、音楽 を流すか否か ビスの提供 時 に流 す音 楽 な どには、製 品や によって、被験者の理解が変化す る傾 向が見 サービスに対す る消 費者の知覚や評価 を、特 られた。 また、同 じ映像 に対 して、 どの よ う 定の方向に導 くはた らさがあることが知 られ な音楽 を組み合 わせ るかによって も、被験者 ている。 の理解 が拡散 した り収束 した りす る傾 向が見 これ は、マーケテ イング研究 の世界 で は、 られた。ハ ンによれば、同様の効果 は、広告 以前か ら知 られて きた古典 的 な効果で ある 。 のヘ ッ ドラインや画像の レイアウ ト、あるい たとえば、R. Ⅰ .ア リソンと K. P.ウルは、 ラベ は登場人物の文化的な背景 などを変化 させ る ルの有無 によって、ビールの味 に対す る被験 ことに よって も生 じる ことが 、先 行研 究 に 者の評価 が変化 して しまうことを報告 してい よって確認 されてい る 。 表 1)チ-ズケーキの味の評価 ( 平均値の差) 第 1日日 ( n=32) A. ( スーパーの箱に、 専門店のケーキ) B. ( 専門店の箱に、 スーパーのケーキ) 16439161 8」366868 45444444 第 28日 B. ( 専門店の箱に、 専門店のケーキ) 63659934 60575653 45433434 ふ わふ わ感 しっ とり感 甘み 酸味 味の濃厚 さ 見 た目の よ さ 味の高級感 総合評価 ( おい しさ) A. ( スーパーの箱に、 スーパーのケーキ) ( n=25) 0 4 4 64 0 6 4 0 2 8 」4 0 3 8 5 5 4 44 5 4 4 02204402 6」76680」 45443334 ふ わふ わ感 しっ と り感 甘み 酸味 味の濃厚 さ 見 た目の よ さ 味の高級感 総合評価 ( おい しさ) 第3日日 ( n=21) しっとり感 甘み 酸味 味の濃厚 さ 見 た目の よさ 味の高級感 総合評価 ( おい しさ) B. ( 紙皿に、 専門店のケーキ) 9 0 926 86 3 2 0 1.6 8 3 8 4 4 5 443 43 4 ふ わ ふ わ感 6 36 5 9 08 2 7 3 8 9 1.9 4 5 4 54 3 3 43 4 A. ( 紙皿に、 スーパーのケーキ) ★ ★ ★ 1%水準で有意 ★ ★ 5 %水準で有意 ★ 10%水準 で有意 24 念の ため に、同様 の効果 は、上述 した ケー て、「とて もよい」( 7点 )か ら 「 非 常 に よ くな キの味覚 において も生 じることを、追確認 し い」 (1点 )の 7点尺度 で解答 して もらった。 てお こ う。表 1お よび図 2-1-2-3は、わ その結果 が、表 1及 び図 2-1-2-3で あ れ われ が行 った小規 模 な実験 の結 果 で あ る るV。第 1日目と第 2日目で は、パ ッケー ジ ン 。 実験 は2 0 0 3年 1 2月に、神 戸大学 にて学生 の協 グ を入 れ 替 え る こ とに よ って 、 ス ーパ ーの 力 を得 て行 ったo その概 要 は、以下 の通 りで チ ーズ ケーキ を上 回 って いた専 門店 の チ ーズ ある ケーキに対 す る評価 が、い くつ かの項 目で逆 。 実験 で は 、被 験 者 に 2つ の 異 な るチ ー ズ 転 して しまって い る。特 に 「 味 の濃厚 さ」 や ケーキ を食べ て も らい、味 の評価 を行 って も 「 味 の高級 感」な どで は、この変 化 が顕 著 で あ らった。1 つ は、全 国チ ェー ンの ス ーパ ーマ ー る。また、やや弱 いか たちで は あ るが、「見 た ケ ッ トで販売 されていたチ-ズケーキで あ り、 目の よ さ」 や 「 総 合評価」 に も逆 転 が生 じて もう 1つ は、各種 コ ンクール での優勝経験 を いる 。 もつ菓子職 人 が シェフを勤 め る専門店 ( 朝日 一方 、パ ッケ ー ジ ング を見せ なか った第 3 9 98. 4. 27に よる)で販売 されて いたチ ー 新聞 1 日目は 、2つ の ケーキに対 す る評価 の違 いが、 ズ ケーキで あ る。前者 は 、 2個 セ ッ トで 3 0 0円 、 パ ッケ ー ジ ング を見せ た場 合 ( 第 1日) ほ ど 後者 は 、1 個4 0 0円で販売 され てい た。 また、 には明確 な もの で はな くな って い る。これ は、 前者 は、透 明 なプ ラスチ ック容 器 にプ レパ ッ ア リソンとウル が ビール を用 いて行 った実験 ケー ジング され た状態 で販売 されて い た。後 の結 果 と、同 じ傾 向 で あ る。 者 は、店頭 で注文 を受 けてか ら、 シ ョー ケー 以上 のパ ッケー ジングを入れ替 えるこ とに スか ら取 り出 し、紙 箱 に詰 め るとい う方法で よ って生 じた 、 ケー キの味 の評価 の変 化 は、 販売 されていた。 物理 的 な作 用 に よ る効果 で はな く、認知 的 な 実験 は 、 3日間 に分 けて、それ ぞれ別 の被験 メカニズムによる効果の産物 だ と考 え られ る。 者 を集 めて行 われ た。第 1日目は、 スーパ - なぜ な ら、 この実験 で は、パ ッケー ジ ング と の容器 か ら、スーパ ーのチ ーズ ケーキ を、専 被験 者 との接 点 は、パ ッケー ジ ングか らケー 門店 の紙 箱 か ら、専 門店 の チ ーズ ケ ーキ を、 キ を取 り出す ところを見 る、 とい うか た ちで それ ぞれ取 り出す ところを被験 者 に見せ てか しか与 え られ て い ないか らで あ るvii。 ら、それ ぞれの ケーキ を紙皿 に載せ た もの を、 ど うや ら、 ケ ーキ を味 わ うとい う行 為 は 、 食べ比べ て もらった。第 2日目は、パ ッケー 客観 的 な揺 らぐことの ない尺度 に よって対象 ジングの 中身 をあ らか じめ入れ替 えておいた。 を計測 す る ことで はない よ うで あ るO同 じ製 ス ーパ ーの パ ッケ ー ジ ング か ら、専 門 店 の 法でつ くられ た同一 の ケ ーキで あ って も、そ チ ーズ ケ ー キ を、専 門 店 の紙 箱 か ら、 ス ー の味 わ い は、味 わ う人 の知覚 や評価 の プ ロセ パ ーの チーズ ケーキ を、それ ぞれ取 り出す と スが どの よ うに構成 され るか に よって、変化 ころを被験者 に見せ てか ら、それ ぞれの ケー して しま うの だ と考 え られ る。 キ を紙皿 に載せ た もの を、食べ比 べて もらっ なお、以上 の実験 は、便宜 的 な もので あ り、 3日間 で異 な る被験 者 集 団 は、平均 的 に は同 た。 第 3日目は、 あ らか じめ紙皿 に載 せ て おい じ味 の評価 能 力 を もっ との想 定 を前提 と して た2 つのチ ー ズケーキ を食べ比べて も らった。 い る。 とはい え、以 上の結果 が 、先 行研究 と 3日間 とも、評価 は、表 1に挙 げ る項 目につ い 同 じ傾 向 を示 して い る こ と を踏 ま え る と、 25 パ ッケージングには、消費者の知覚や評価の くことにな りやすい V… 。 この ように、デザ イ 感度や基準 を変化 させ ることを通 じて、ケー ンによる可視化のはたらきに注 目することで、 キや ビールなどの味わいをつ くりだす はた ら 図 1- 1には、特定の思考の前提へ とマ-ケ きがある、 と考 えることがで きそ うで ある。 タ-を導いて しまう可能性 が潜在 していた こ したが って、ア ンケー トで消費者 が、「 重要 な とに、気がつ くことがで きる。 パ ッケージ のは 『 おい しさ ・味』であって、『 さて、一方で、われわれは、ケーキの味 に デザ イ ン』 で はない」 と答 えて い るか らと 対す る消費者の知覚や評価がどのように構成 い って、パ ッケージングのデザ インがマーケ され るかについて も検討 して きた。ケーキの テ イングにとって重要ではない とは言い切れ 製法や鮮度管理 の改善 が、どのような味の評 ない ことになる。 価 を消 費者 か ら引 き出す ことがで きるかは、 パ ッケージングをは じめ とす るケーキの提供 小結 の仕方の影響 を受 ける。 したがって、マーケ マ-ケタ-の意思決定のプロセスでは、デ タ-が、ケーキの味への評価 を高めたいので ザ インによる可視化の効果 が、二重三重 には あれば、その製法や鮮度管理の問題 に加 えて、 た らく。上述 して きた、仮想的なマ-ケ タ- ケーキをどの よ うなかたちで提供す るか とい の意思決定の一局面 を振 り返 りなが ら、そ こ う問題 につ いて も慎重 に検討 しなければな ら では この可視化の効果がどの ようにはた らい ないはずである 。 ていたか を確認 してお こう。 これ に対 し、ケーキの味 とパ ッケージング 上述 したよ うに、図 1-1の消 費者調査の結 は、独 立 した別個 の問題 だ と考 えるマ -ケ 果 を知 ったマ-ケタ-は、パ ッケージングの タ-は、製法や鮮度管理 を改善 し、訴求す る 変更 などは後回 しに して、まず は 「 おい しさ・ ことだけに注 力す ることにな りがちである 味」 を高 め るために、ケ-キの製法や鮮度管 したがって、消費者 は、改善 された製品 を、従 理 の改善 に注力すべ きだ と考 えることにな り 前 と同 じ提供 の仕方で受 け取 ることになる 。 。 。では、なぜ 、マ-ケ タ-は、 この よ そのため、消費者 は、 この新製品 を、従前 と うな考 えに導 かれて しまうのだろ うか。それ 同 じ基準 を用いて、従前 と同 じように知覚 し は、この調査結果 を見たマ-ケ タ-が、「ケー 評価 しようとす ることになる。 このような状 キその ものの物理 的な属性 によって、ケーキ 態 を放置 したまま、企業が、ケーキの製法や の味の評価 が決 まる」 とい う因果 を、間違 い 鮮度管理 だけを改善 して も、その繊細 な味の の ない唯一のパ ス として受 け入れて しま うか 変化 を、消費者 はなかなか読み取 って くれな らである いだろう。読み取れない味の向上 を訴求 して やす い 。 もう一度 、図 1-1を見て欲 しい。この図で も、効果 は うすい。か くして、マ-ケタ-は、 は、「 おい しさ ・味」は、消費者の購買時の選 マーケテ イングの行 き詰 まりを覚 える、とい 択 に影響 を与 える属性 と して 「 パ ッケー ジデ うことが起 こる。 ザ イン」や 「ボ リューム ・量」 などと並列的 しか し、す で に明 らか な よ うに、マ- ケ に、独立 した項 目と して扱われてい る。 この タ-が味 わ うこの閉塞感 は、絶対的なもので よ うな調査のデザ インは、この アンケー トの はない。 ここで生 じてい るのは、可能性 ( 他 結果 を見 る人 を、ケーキの味 とパ ッケージン の選択代案)が存在 しない とい う問題ではな グは、独立 した別個 の属性 だ とす る思考 に導 く、マ-ケ タ-が可能性 に気 がつ くことがで 26 きな くな ってい る とい う問題 で ある。で は 、 栄 には さま ざまな ものがある。マ-ケ タ-は、 なぜマ-ケタ-は可能性 を見失 うのだろうかO 上述 した消 費者 の選択行動 をとらえる軸のデ 上述 して きたよ うに、 この閉塞感 は一面でデ ザ イ ンや、製 品 ・サ ー ビスの提供 の仕方の デ ザ インの産物 で ある。 まず、消 費者 の意向 を ザ インの他 に も、 さま ざまな局面 でデザ イン とらえる際の デザ イン ( 消 費者 の選択 行動 を を行 った り、利用 した りしてい る。以下 で見 とらえるのデザ イン)の問題 が ある。次 に、製 てい くよ うに、事業単位 の策定 が企業 の競争 品 ・サー ビスの提供 の仕方のデザ イン ( パッ 行動 に及ぼす影響 につ いて も、同 じくデザ イ ケー ジング形態 の デザ イン)の 問題 が あ る。 ンとい う視点 か ら問い直 してみ ることがで き ここで は、 この後者 の効 果 は、直接 的 には、 る。 マ-ケタ-ではな く、消費者 の知覚 や評価 に C. ク リステ ンセ ンとM. レイナ-は、アメ リ 影響 を及ぼ してい る。一方 、前者 のデザ イン カの鉄鋼産業 で、電炉 メーカーが、大手高炉 は、マ-ケ タ一に対 して、ケーキの味 とパ ッ メーカーの市場 を奪 ってい ったプ ロセス を次 ケー ジングを、独立 した問題 をと して可視化 の よ うに描 いて い る (ク リステ ンセ ン 2 001 して しまい、後者のデザ インの効果 を見 えに p p. 1 3 2 1 4 0。 ク リステ ンセ ン ,レイナ -2 0 0 3 くくしている。 この よ うな連 関の なかで 、上 。 日経産業新 聞 1 9 9 9 . 1 . 1 3) p p. 4 2 4 8 。 述 したよ うなマ-ケ タ-の閉塞感 が構成 され 電 炉 に よ る鉄 鋼 生 産 は 、高 炉 に遅 れ て 、 1 9 6 0年代 の なかばに始 まった。電炉 による鉄 てい くので ある。 マーケテ イング とは、 デザ インの プ ロセス、 鋼生産 は、高炉 と比較す ると低 コス トではあ す なわちマ-ケ タ-が、自 らの頭の なかにあ るが、鉄 くず を溶融 して生産 す るため、鋼材 る、 目で見 ることの で きない洞察 や構想 に、 の品質 を安定 させ ることが難 しか った。は じ 予測 や分析 、計画や設計や評価 などを通 じて 、 めに、電炉 メー カ-が参 入 したの は、鉄筋市 次 々と具体的なかたちを与 えてい くプ ロセス 場 だった。鉄筋 で あれば、鋼材 の品質 を、顧 となる。以上で、われわれ は、 この具体的な 客 に厳 しく問われ る恐 れ は少 なか ったか らで かたちを与 えるとい う行為 を通 じて 、マーケ ある 。 タ-の思考 を暗黙の うちに誘導 す るはた らさ 対照 的 に、大手 高炉 メーカーか ら見 る と、 が生 じて しまうことを確認 して きた。 この よ 鉄 筋市場 は魅 力の ない市場 だ った。鉄 筋 は、 うに、デザイ ンによる可視化の はた らきに注 利益率 が低 く、生産量 も大 き くなか った。 そ 目す ることで、われわれ は、単 にマ-ケ タ- の ため、大手高炉 メーカーは、電炉 メーカー が ケーキの味 にパ ッケージングがおよぼす影 が鉄筋市場 に参入 し始 め ると、早 々に、 この 響 を見落 と していた ことを指摘 す るだけでは 市場 か ら手 を引いて しまった。そ うす ること な く、 こうした選択代案の限定化 がデザ イン で 、大手高炉 メーカーは、収益性 の高 い製 品 とい う行為 にアフ ォー ドされ た もので あった 分野 に経営資源 を集 中 し、投 資効率 を高 め る ことも指摘 で きるようになるので ある ことがで きた。 。 一方 、電炉 メーカーは、減価償却費や研究 3 .デザインがもた らす必然 開発費の負担 が、大手高炉 メーカー と比 べ る とはるかに少 なか った。その ため、収益性 の 低 い製 品分野 で も、一定の利益 をあげ ること 他 に選択肢 はなか った がで きた。 そ して、電炉 メーカーは、 この鉄 デザ インが、マ-ケ タ-の思考 に及ぼす効 27 筋市場 での成功 を足 がか りに、新 たな生産技 に鋼板 の生産 を開始 した。そ して、電炉 メー 術の開発 に乗 り出 し、少 しずつ 品質 の高 い鋼 カーは 、9 0年代 の なかばには、よ り付加価値 材 を生産 で きるよ うになっていった。 の高 い タイプの鋼板 を生産 で きるよ うにな っ 8 0年代 に入 ると、同 じことが、他 の棒鋼 や 、 ていた。大手高炉 メーカーは、 さらに市場 を 線材 、そ して形鋼の市場 で次 々 と繰 り返 され 喪失す ることになった。 アメ リカの大手高炉 た。大手高炉 メーカーは、相対 的 に利益率 が メーカは、 この よ うに して事業の袋小路へ と 低 か った棒鋼 、線材 、形鋼の市場 か ら順次撤 追 い込 まれてい ったので ある。 退 し、付加価値 が高 い鋼板 の生産へ と経営資 ク リステ ンセ ンた ちは 、「(この大 手高 炉 源 を集 中 していった。鋼板市場 で は、 自動車 メーカーを追 い込 んでいった)優良企業 を上 や電機 製品や缶製 品 な どの メーカーが、表面 位市場へ と駆 り立 て るこの力は、どの企業 に に傷 の ない、品質 の安定 した鋼材 を求 めてい も、 どの産業 に も、常 に作 F E lしてい るO- こ た。 これ らの顧客企業 に、最高品質の製品 を の力 はいつで も作用 してお り、予測通 り一つ 提 供 す る こ とに集 中す る こ とで 、大 手 高 炉 の方 向 に向か う」 と述べてい る (ク リステ ン メ- カーは利 益 を増大 させ る ことがで きた セ ン,レイナ -2 003pp. 47 51。( )内筆者付 。 当時 の アナ リス トや株 式 市場 も、大 手 高 炉 記)。ク リテ ンセ ンたちは、企業 を袋小路へ と メーカーの戦略 に好感 を示 した。 追 い込 む、同 じよ うな力の作用 は、鉄鋼の他 この よ うに して、大手高炉 メーカーは、北 に も、 さまざまな産業 で 目撃 され ることを指 米 における棒鋼 、線材 、形鋼の市場 を手放 し 摘 してい る。デパ ー トに対す るデ ィスカウ ン て い った 。9 0年代 の なかば には、電 炉 メー ト量販店 、メインフレ-ム ・コンピュー タに カーが、 これ ら条鋼類 の市場 をほぼ独 占す る 対す るパ ソコン、ジャンボ ジェ ッ ト機 に対す よ うになっていた。大手高炉 メーカーは、鉄 る近距離用小型 ジェ ッ ト旅客機 、 等々で ある。 鋼市場全体の約半分 を、電炉 メーカーに明 け ク リステ ンセ ンたちは、 この作用 を、あたか 渡 して しまった ことにな る。 も自然界 におけ る重 力の よ うな、法則的な も しか し、ク リステ ンセ ンたちは、「これ は大 の と見 な してい る (ク リステ ンセ ン 2 001pp: 1 3 1 4)0 手高炉 メーカーの不手際 な経営 の歴 史で はな い」と述べてい る (ク リステ ンセ ン,レイナ日本 における大手高炉 メーカーの反応 200 3,p. 47)。大手高炉 メーカーの経営者 た ち が選択 したの は、「 収益性 の低 い部門 を維持 す ところが、日本の鉄鋼産業 に 目を転 じると、 るための投資 をやめて、収益性 の高 い部門 を 同 じ時期 に、大手高炉 メーカーが とった行動 拡大す るための投 資 を行 う」 とい う行動 だっ は、大 きく異 なっていた。 た とえば、ク リス たO大手高炉 メーカーは、理屈 に合 わない不 テ ンセ ンたち も指摘す るよ うに、 日本の大手 合理 な行動 を選択 したわ けではない。 ク リス 高炉 メーカーは、 電炉 メーカーに対す る出資、 テ ンセ ンたちは、利 益の拡大 が企業 に とって 買収 を行 い、自社 グル ープに組み入れて きた の至上命題 で ある限 り、大手高炉 メ-カーに (ク リステ ンセ ン,レイナ -2 003,p. 43)。だが は、他 に選択肢 はあ り得 なか っただろ うと述 さらに、 ク リステ ンセ ンたちが指摘 していな べてい る。 い、 よ り重要 な相違 が ある。 日本の大手高炉 一方 、電炉 メ-カーは、追撃 の手 を緩 めな メーカーは、高炉 による棒鋼 、線材 、形鋼の か った01 9 8 9年 には、電炉 メーカーは、 さら 生産 か らも撤退 しなか ったので ある 。 28 振 り返 ると、 日本の鉄鋼産業で も、アメ リ p. 94, p. 371 , p. 37 4, pp. 45 6 458。 日本 マーケ ッ ト カと同 じよ うな動 きが見 られ た時期 が ある。 223235。 日経産業新 聞 シェア辞 典 2004pp. 1 98 0年代か ら90年代の前半 にかけて、日本の 20 0 3. 2. 1 8。 日経産業新聞 2004. 8. 1 0)0 電炉 メーカー各社 は、積極的な設備投資 を行 事業単位のデザイン い、棒鋼 、線材 、形鋼の市場 におけるシェア を拡大 していった。電炉 メ-カーの売上 げは 台頭す る電炉 メーカーに対す る、この 日米 拡大 し、1 990年代の初頭 に、東京製鉾 は、世 の大手高炉 メーカーの競争行動の違 い を、わ 界最大の電炉 メーカー となった ( 多田 1990 れわれはどの よ うに理解すればよいのだろ う p. 68。 日経産業新聞 2 000. 1 . 1 7)0 か。考 え られ る要因の一つ として、 日本 とア メ リカの大手高炉 メーカーでは、保有す る設 しか し、90年代のなかばに入 ると、日本で は、逆 に大手高炉 メーカーが、H形鋼や普通 備 に大 きな違 いがあったことが指摘 で きる 。 線材 などの市場で攻勢 を強め、電炉 メーカー 鉄鋼産業 は、装置産業 だ といわれ る。なか か ら市場 シェアを奪 い返 していった。大手高 で も、 日本では、高炉の大型化 が進 んでいた 炉 メーカーは、コス ト削減 に努め、品質の よ (日興 リサーチセ ンター編 1 982pp. 7 2 1 80) 。表 2 い桑 鋼類 を電炉 メーカー並みの価格で販売す に示す よ うに、1 98 8年の時点で、日本 におけ ることで、再び市場 シェアを回復 していった る 2000立方 メー トル以上の大型高炉 は 34基 のである。そのなかで、 日本では逆 に、電炉 あった。 これに対 して、アメ リカでは、2000 メーカーのなかに、事業の撤退 に追い込 まれ 立方 メー トル以上 の大型 高炉 は 7基 しか な 9 96. 2. 20。日 る企業が現れた。(日経産業新聞 1 990pp. 48 52)。逆 に 日本 にお かった ( 多田 1 本経済新聞 1 996. 5. 1 4。 日経産業新聞 1 997. l l . ける 2000立方 メー トル以下の高炉 は 1 4基 し 1 0)。 かなか った。88年の時点で、日本の高炉の 7 割以上は、2000立方 メー トル以上の大型高炉 その後、日本で も、200 2年か ら2003年 にか けて 、包括提携 や合併 に よ る大 手高炉 メー だった ことになる ( 鉄鋼新聞社編 1 989p. 82)。 カーの再編 が進行 した。しか し、現在で も、日 60年代以降 に、日本では、臨海部 に大規模 本の大手高炉 メーカ ーは. ・依然 と して線材 、 な一貫製鉄所 ( 原料 か ら鋼材 に至 る生産の 3 棒鋼、形鋼の分野で、新製品の投入 を行 って 段階 ( 製銑 ・製鋼 ・圧延) を垂直統合 し一貫 いる。 また、大手高炉 メーカーは、H形鋼 を 生産す る事業所)が次 々 と建設 された。一方 、 中心 に した大型形鋼の市場 で、比較的大 きい アメ リカでは、原料の鉄鉱石 、石炭 が産 出 さ シェアを維持す るとともに、線材や棒鋼の生 れ る内陸部 に、多 くの製鉄所 が立地 していた。 9 9 産 を継続 している ( 鉄鋼新聞社編 2004pp. 内陸部では、大型船舶 を利用で きる臨海部 と 1 0 0, p. 375, p. 37 8, pp. 45 8 460。鉄鋼新聞社編 2003 比べ ると、製鉄所の規模 は小 さくな らざるを 表2)各国の高炉の設備比較 ( 多田 ( 1 990)p. 50より) 大型高炉基数 ( 2 0 0 0m3以上) 年 1 9 8 8 年間製鋼能力 ( 万 トン) 年 1 9 8 7 日本 アメリカ 西 ドイツ イギリス フランス イタリア 韓国 3 4 7 8 2 3 6 5 1 5, 21 6 1 0, 7 8 8 4, 71 2 2, 2 8 7 2, 7 0 7 3, 6 5 5 1 , 8 3 0 29 得 なか った (日興 リサーチセ ンター編 1 982 要が増大す るとい う関係が見 られた。鋼板 と 。 p p. 4 3 4 4 ) 形鋼の双方 を手がけてお くことは、高炉 メー カーにとっては、景気変動 による需要変動 に この製鉄所の規模の違 いは、電炉 メーカー 対す る リスクヘ ッジとなったはずである。 の台頭 に直面 した 日米の大手高炉 メーカ」の 問題認識に、少なか らぬ影響 を及ぼ したはず このように、日本における大規模な一貫製 である。 日本 に多 く見 られた、大型高炉 を擁 鉄所の経営は、大型高炉 を、多品種の鋼材 を す る大規模 な一貫製鉄所 は、生産の効率性 と 圧延す る複数の圧延工場 と有機的に結びつ け い う点では優れていた。 しか し、短期的な生 ることによって、安定的な経営の実現 をめ ざ 産量の変動への対応 とい う点では、融通性 に していた。1 9 7 8年 には、日本国内の一貫製鉄 欠けるきらいがあった ( 岡本 1 9 8 4p p. 3 0 3 2) 。 所の うち、鋼板類 と条鋼類の圧延工場 を共に そのため、大規模 な一貫製鉄所では、比較的 有す るものが 1 4カ所あったのに対 し、鋼板類 需要の安定 していた鋼板 を中心に、需要変動 の圧延工場 だけを有す るものは 2カ所、条鋼 の動 きの異なる条鋼類 を多品種組み合わせた 類の圧延工場 だけを有す るものは 5カ所 しか 生産 を行い、需要の平準化 をはかるとい う対 9 8 4p p. 5 4 6 2 ) 0 なかった ( 岡本 1 日本の大手高炉 メーカーにとっては、アメ 応 が とられた。 同 じ鋼材で も、用途 によって需要の動 きは リカの大手高炉 メーカーにな らって、「 経営効 異 なる。鋼板の主 な用途が自動車や電機製品 率 を高めるために、利益率の高い特定品種 に だったのに対 し、形鋼の主な用途 は建材だっ 生産 を絞 り込む」 とい う方針を選択すること た。自動車 メーカーや電機 メーカーとの取引 は考 えに くかったと思われ る。なぜなら、大 が高炉 メーカーにとって望 ましかったは、上 規模一貫製鉄所 を主力 とする日本の大手高炉 述 したように、これ らの顧客が単にコス トだ メーカーの 目には、事業の収益性 とは、生産 けではな く、品質 も評価 したか らである。だ 品種ではな く、製鉄所 を単位に管理す る問題 が、その他 にも重要 な理由があった。自動車 と映 っていた可能性 が高いか らであるOこの メーカーや電機 メーカ-に鋼板 を供給す る場 ように、日本の大手高炉 メーカーは、「 製品分 合 には、受注の仕組み さえうまく整 えること 野 を絞 り込む ことが、収益性の向上に直結す がで きれば、同一規格の製品を、大量に継続 る」 とは、単純 に言い切れない状況に置かれ して供給することが可能 になった。 鋼板では、 ていたのである 。 大量かつ安定 した需要 を確保す ることが、比 小結 較的容易だったのである。 一方 、主 に建材 として用い られ る形鋼 は、 どうや ら、ク リステンセンたちが指摘する、 プロジェク トごとの受注 となる。そのため、 「 優良企業 を上位市場へ と駆 り立てる力」は、 形鋼 は品種 が多 くな り、かつ 月ごとの納 入量 マ-ケタ-が行 う分析や予測、あるいは思考 は、工事の進捗状況 しだいで変更 され る。鋼 や行動のプロセスを超 えて、その外部か ら、 板 と比較す ると、形鋼では、大量かつ安定 し 否応 な く押 しつ けられるものではな さそうで た需要 を確保 す ることが難 しか った ( 岡本 ある。 この力は、われわれが、もの ごとを理 1 9 8 4p p. 1 2 91 5 0 ) 。 しか し、9 0年代 までの 日本では、景気が悪 解 した り、考 えた りす るときに用いる、思考 化す ると、公共事業 に拍車がかか り、建設需 るべ きだろう。クリステ ンセ ンたちは、運命 のプロセスのなかで構成 され るものだと考 え 30 論ではなく、思考の民の問題 を語 っていたの 特定の方向に誘導 して しまうとい うことが起 である こるのである。上述 したアメ リカの高炉 メー 。 上述 して きたように、事業の分割可能性 を カーの事例 に見たように、棒鋼 、線材、形鋼、 どの よ うにデザ イ ンす るかによ って、電炉 鋼板 と、製品分野 を単位 に収益性 を把握 して メーカーの台頭に直面 した大手高炉 メーカー い く分析の フォームは、経営資源 を集中す る がとるべ き道は、大 きく異なって見えて しま べ き製品分野 を明確 にす る一方で、複数の製 う。アメリカの大手高炉 メーカーだけを見て 品分野 を組み合わせ ることか ら生 じる 「 操業 いると、企業 を上位市場へ と駆 り立てるこの の安定化」のような効果 を見えに くくす るこ 力は、避 けがたい法則的なものであるかのよ とになる。 うに思 えて くる。● しか し、このような決定論 このように、デザインによる可視化のはた が成 り立 って しまうのは、われわれが、「 鋼材 らきに注 目す ることで、クリステ ンセンたち の生産事業の収益 を、品種 ごとに独立 して と が兄いだ したのは、デザインがつ くり出す必 らえる」デザ インを、無防備 に受 け入れてい 然であ り、法則 で あったことが指摘 で きる。 るか らである。実際に、このデザ インが成 り デザインがつ くり出す必然は、ク リステンセ 立ちに くかった 日本では、大手高炉 メーカー ンたちが考 えたような自然法則的な必然 とは、 を上位市場へ と駆 り立て る力は、はるかに弱 明 らかに異 なった性質 をもっている。それは、 い もの となった。 マ-ケタ-の思考のプロセスに外在す る必然 ではな く、思考の プロセスの なかで生成 し、 この事業単位のデザインは、 ミドル ・マネ ジャーの短期的な意思決定においては、動か 強 まってい く必然である。この ような タイプ しがたい構造的な与件であるかのように扱わ の必然では、物理的に同 じ生産設備や情報 シ れることがあるo Lか し、経営者の全社的な ステムの もとで も、マ-ケタ-が、戦略分析 意思決定においては、事業単位 をどのように や思考 に用いるデザ インが異 なった り、自ら デザインするかは、変更の余地のない絶対的 の思考のプロセスにおけるデザインによる可 な与件ではな 。事業単位のデザ インは、企 視化のはた らきに気づいた りす ることで、全 業がその資源 として、どのような生産設備や く異 なった法則が生 まれ ることがあ り得 るの 情報 システムあるいは人材 を保有 しているか である。 い によって、必然的に定 まるのではな く、それ 4 . 本稿の帰結 と残された評注 らの資源 を、企業がどのように活用 しようと するかの戦略的な意思によって定 まるのであ る, デザインによる可視化のはた らき マーケテ イングのプロセスは、デザ インの ところが、日米の大手高炉 メーカーの対照 的な動 きを例 にとりなが ら確認 したよ うに、 プロセスとして再考することがで きる。すな 思考の前提 となる事業単位のデザインが異 な わち、マーケテ イングのプロセスは、マ-ケ ると、必然 と思 えることが らが大 きく異なっ タ-が、目で見 ることので きない洞察や構想 て しまうことがある。すなわち、戦略プログ に対 して、予測や分析 、計画や設計や評価 な ラムを具体的に実践す るために、あるデザイ どを通 じて、具体的なかたちを与 えてい くプ ンを採用す ることが、その先のマ-ケタ-の ロセスととらえることがで きる。 以上で見て きた 2つの問題、すなわちケ- 戦略的思考、あるいはプログラムの展開 を、 37 キにおけるパ ッケ-ジングの問題 と、鉄鋼産 出 して欲 しい。われわれは ドアを開けよ うと 業 における企業の競争行動の問題 は、一見 し す るときに、その左右の両サイ ドを同時 に押 た ところ関係の ない、異質 な問題で あるよ う すわけにはいかない。スイングタイプの ドア に思われ る。た しかに一方は、担 当者 レベル を開けるためには、その左右の どち ら側 を押 の問題 で あ り、他方 は、経営者 レベルの問題 すかを絞 り込 まなければな らない。 ドアのデ で ある。ところが、上述 して きたよ うに、マ- ザ インは、この行為の可能性の絞 り込みに関 ケタ-す なわち企業の市場行動 に関わ る意思 わっている。同様 に、マ-ケタ-も、具体的 決定者の立場 で この 2つの問題 に向かい合 う に問題 を知 るためには、現象 をどの ようなか とき、同 じ構図の思考の民 が出現す る。それ たちで とらえるかを特定す ることが必要で あ は、 この 2つ の問題 に対処す るプ ロセスで、 る。調査項 目や分析 ユニ ッ トのデザ インは、 マーケテ イングの意思決定 を行 う担 当者 ある この情 報収集 にお け る焦点 の絞 り込 み に関 いは経営者 は、 ともにデザ イ ンを行 った り、 わっている。た とえば、本稿の図 1-1も、そ 利用 した りす ることに関わ ることになるか ら うした フォームの一つで ある。 悩 ましいのは、 で ある。 ドアのデザ イナーとは異 な り、この ときマー 問題の焦点 となるのは、デザ インによる可 ケタ-は、対象の構造 を把握す る前に、対象 視化のはた らきで ある。以上で検討 して きた の構造 を知 るためにのデザ インを特定 しなけ よ うに、マーケテ イングにおけるデザ インに ればな らない、 とい う関係 に巻 き込 まれてい よる可視化の はた らきには、 大 きく分 けると、 ることである。 2つの局面 がある。第 1に、デザインによる可 マ-ケタ-が、市場の状態や、自社の経営 視化 には、製品 ・サービスとその 「 使 い手」と 資源の あ り方 を分析 した り、予測 した りす る の関係 を変化 させ るはた らきがある。す なわ 際 には、 対象 となる市場 あるいは経営資源 を、 ち、ケーキをどの よ うなかたちで提供す るか 何 らかの フォーム ( かたち) を用いて把握す のデザ インが変われば、ケーキ を味わ う人の る ことが必要 にな る。 ところが、 こ う した 知覚や評価 における感度や基準 もまた、変化 フォームには、マ-ケ タ-を決定論的な思考 して しまうので あるO の員 に導 く可能性 が潜在 している。つ まり、 第 2に、同 じよ うなはた らきが、デザイ ン マ-ケタ-が市場や経営資源の分析や予測の と、その 「 つ くり手」であるマ-ケタ-との ためにデザインを行 うことで、可能な選択代 間で も生 じる。マ-ケタ-は、予測や分析 、計 案の構成 が先取 りされて しまうことがあるの 画や設計や評価 などを行 うたびに、具体的な である。 かたちを付与 した り、利用 した りす ることに 図 1- 1の フォームの問題 は、ケーキの味 なる。そ して、 このデザ インの採択 、利用 に と、パ ッケージングが、相互 に独立 した属性 相即 して、マ-ケ タ-は自らの思考の前提 と として提示 されていることだった。そのため なる枠組み を呼び込 んで しまうことになる。 に、これ を見 るマ-ケタ-は、パ ッケージン 本稿 では、主 にこの第 2の局面 に注 目しな グとの相互関係 は考慮せず にケーキの味 を高 が ら、デザ インに よる可視化の はた らきが、 めよ うとす る、近視眼的な問題解決の枠組み マ-ケ タ-を決定論的 な思考の員 に導 くこと を採択す ることにな りやす くなるのだった。 にな りがちなことを確認 して きた。冒頭 に挙 あるいは、 電炉 メーカーの台頭 に直面 した、 げた ノーマ ンによる ドアのエ ピソー ドを思い 高炉 メーカーのケースで も、同 じような問題 32 が確認 され たr J棒鋼 、線材 、形鋼 、鋼板 と、製 Lも自 らに とって望 ま しくない現 象 を、自 ら 品分野 を単位 に収益性 を把握 してい く分析 の が招 いて しま うとい う事態 に導 いて しま う可 デザ インは、高炉 メーカーが、経営資源 を集 能性 が あるx 。マ-ケ タ一に とっての実務上の 中す る製品分野 を明確 にす るの に役立つ一方 障壁 は、意 の ままにな らぬ消 費者 の行動 や 、 で、袴数の製品分野 を組 み合わせ ることか ら 競争企業の行動 だけで はないoマ-ケ タ-の 生 じる 「 操業度 の安定化」の よ うな効果 を見 思考や行動 の可能性 を閉 ざしてい るの は、自 えに くくして しま うの だった。この場合 に も、 らの行為 に随伴す る可視化 の はた らきで ある 自社の経営資源 と市場 との関係 を分析 し、戦 か も しれ ないので ある。 もっ とも、 このデザ 略的思考 を進 め るために用い る、事業単位 の インによる可視化 が導 く員 は、 自然法則 の よ デザ インの なかに、可能 な選択代案の構成 が うな必然で はな く、見抜 くことによって逃れ 先取 りされて しまってい る。マーケテ イング ることが可能 な民 である。「デザ インには、可 の プロセスには、 この よ うなデザ インによる 視化の はた らきが随伴す る」 とい う理解 を確 可視化の はた らきが、 さま ざまな ところに潜 立す ることは、マ-ケ タ-が 自 らの思考や行 在 してい ると考 えられ る 動 を自省 し、決定論的 な思考の員 か ら抜 け出 。 すための一つの重要 な契機 となるはずである。 加 えて、デザ インによる可視化の はた らき は、デザ インを定めた り、利用 した りす る人 の意図 を超 えて生 じることにな りがちで ある。 マーケテ イング におけるデザイ ンの買 マ-ケ タ-が、市場 や経営資源 に対す る分析 デザ イ ンとい う行為 には、マ∼ケ タ-の思 や予測 を行 うには、何 らかの フ ォーム ( かた 考や行動 の プ ロセスを構成 す るはた らきが あ ち) を定 めた り、利用 した りす ることが必要 る。同様 に、消 費者行動論 で も、消 費者の思 で ある。 この とき、マ-ケ タ-は、最適 な選 考や行動 の プ ロセスを構成 す る、 さま ざまな 択 を導 く情報 をスムーズに収集 した り、分析 要 因が指摘 されて きた ( Pe仕y , Ca c i o ppo1 981。 した りす ることを意図 して、調査項 目や 分析 y,Ca c i oppo, Sc huma nn1 983。阿部 1 984。 Pe t t 単位のデザ インを行 うことになる。 ところが n1 9 8 6。 青木 1 9 9 2。 池尾 1 9 9 9pp. 1 0 9 1 1 2。 Be仕ma 一方で、 これ らのデザ イ ンには、当の情報の Pe t e r , 01 s on1 9 9 9pp. 1 65 1 7 0。新 倉 2 0 01 ) 。消 収集 ・分析の前提 とな る選択代案 の構成 につ 費者 が思考 や行動 を通 じて達成 しよ うと して いて 、特 定 の構 成 の み に 目が向 くよ うに ア い る目標の タイプ (目標効果)、消 費者 の思考 フォー ドして しまうはた らきが潜在 してい る。 や行動 の プ ロセスへの思 い入れや、達成 しよ この よ うなね じれか ら、デザ インによる可視 うと してい る目標の重要性 ( 関与効果)、消 費 化の はた らきは、意図せ ざる結果 と して作動 者 が保有 してい る知識 ( 知識効果)、課題達成 す ることにな りが ちで ある■ x 。可視化のはた ら に必要 な思考 や行動 の複雑 さ ( 課題効果)、あ さが、マ-ケ タ-の意図 を超 えた、外在 的 な るいは思考や行動 の対象 とな る選択肢の配置 法則や構造に起 因す るかの よ うな外観 を獲得 ( 文脈効果)な どで ある 。 して しまうの は、その ためだ と考 え られ る 以上の諸要因には、デザ イ ンによる可視化 。 だが、繰 り返 し述べて きたよ うに、 この よ と同様 に、われわれの思考 や行動 の プ ロセス うな思考の転倒 には、マ -ケ タ-を、「 決定論 を構成 す るはた らさが ある。 しか し、 これ ら 的な思考の員」、す なわち、自 らの思考や行動 の 諸 要 因 が 、 デ ザ イ ンに よ る可 視 化 とは異 にとらわれて物 事 を決 めつ けて しまい、必ず なってい るの は、それ らがプ ロセ スに外在的 33 な要因 と見な されて きた ことであるx■ 。す なわ た ことを確認 しておこう。 ち、以上の諸要 因は、消費者 が購買のための ( 丑マ-ケタ∼は、プロセスの産物 が、プ ロ 思考や行動 を開始す る時点 に先 だって形成 さ セスの進行 を導 く前提 に影響 を及ぼす と れてい る、外在 的 な要 因 と見 な されて きた。 い う再帰的 (リフレクシブ)な関係のな そ して、 もし、 これ らの諸要因が外在的な要 かで、その思考や行動 を進めている。 因であるな ら、それ らの選択や形成 に、購買 ② この再帰的な関係 が、意図せ ざる結果 と プ ロセスの なかでの消費者の思考や行動 ( あ して生 じるとき、マ-ケタ-は決定論的 るいは消費者の意図)が影響 をおよぼす こと な思考の民 に導かれやす くなる。 によって、どの よ うな事態 が構成 されてい く ③ デザ インとい う行為 は、マ-ケタ-を① か を検討 してみ る余地 はないわけで、ひいて ②の よ うな関係へ と導 く、結節点 として は、 これ らの要因 を介 して、消費者 が決定論 の役割 を果た している 。 的な思考の昆 ( 必ず しも自 らに とって望 ま し 当然の ことなが ら、問題の所在に気がつ く くない現象 を、自 らが招 いて しまうとい う事 ことは、問題 を解決す るための第一歩で しか 態)へ と導 かれ る、 とい う認識 を導 くことも ない。本稿で成 し得 たのは、この間題の所在 困難 となって しまう。 の指摘 であって、問題 を解決へ と導 くための これ に対 して、R. L.セル シとJ . C. オル ソン 手法や手順の提示 ではない。 しか し、この最 は、関与の状態 を、購買意思決定 プロセスの 初の一歩 を踏み出 さなければ、マーケテ イン なかで、購 買意思決定者 が選択 的に接触す る グにおけるデザ インの昆 ( デザ インが決定論 環境 や状況の特性 か ら、一時的に喚起 され る 的な思考の員 を導 くとい う問題)を乗 り越 え もの と して と ら え る こ と を提 唱 して い る よ うとす る思考 や行動 が始 まらない ことも、 ( Ce l s i , 01 s on1 9 8 8。Pe t e r , 01 s on1 9 9 9p. 8 0)。こ また確 かである。 の セル シとオル ソンが提唱す る 「 感 じとられ とはいえ、残 された課題 もある。デザイン た関与 ( f e l ti nvo l ve me nt ) 」と同様 に、本稿 で のはた らきは、思考の員 を導 くことだけでは は 、 デ ザ イ ンに よ る可 視 化 の は た らきは、 ないOデザ インは、マ-ケタ-の意思決定 に マ-ケタ-がその思考や行動のプロセスの な おける不確実性 を低減 した り、顧客への効果 かで新 たにデザ インを行 った り、すでに定 め 的な訴求 を行 った り、製品 ・サービスの使用 られ たデザ インを利用 した りす ることによっ 価値 を高めた りす ることに も貢献す る。今後 て生 じるはた らきで あることに注 目して、検 は、 この よ うなデザ インの正負の 多面的なは 討 を進 めて きたO加 えて、本稿では、マ-ケ た らきを考慮 しなが ら、マ-ケタ-がデザイ タ-がデザ インを行 った り、利用 した りす る ンとい う行為にいかに関わってい くべ きかを 際 には、可視化 に媒介 された 「 意図せ ざる結 見定 めることが必要 となると考 えられ る。ま 果」 と して、マ-ケ タ-の思考や行動のプロ た、デザ インによる可視化 は、フォーム ( か セスへの影響 が生 じることにな りがちなこと たち) とその使 い手 との相互作用 を通 じて生 を確 認 した。 この 間按 的 な リフ レクシ ヴ イ じるはた らきである。 したがって、具体的に テ ィが、マ-ケタ-を、決定論的な思考の員 どのような可視化のはた らきが生起するかは、 へ と導 くと考 えられ るので ある。 デザ インの使 い手 が もつ知識や経験 によって 最後 に、本稿の考察 が、われわれに、以下 異 なることになると予想 され る。 この ような の よ うな問題の所在 を気づかせ るもので あっ デザインのはた らきと使い手 との相補性 、お 34 よびそこか ら生 じる相互参照的な解釈 プロセ ( 1983) , "Cent r al andPer i pher a一 Rout est oad- スについて も、今後 さらに検討 を進 め る必要 ver t i sl ngEf f ec t i veness:TheModer at i ngRo一 e があるだろう na/o/ConsumerReoHnvol vement ",Jour 。 sear ch,VoL10Sept ember ,pp. 1351 1 46 く 謝辞) ・Pet t y,R.E.andJ.T.Caci oppo( 1981) ,"l ssue 本稿の作 成にあたっては、J F Eスチール株 l nvol vementasModer at oroft heEf f ec t sonAト 式 会社 ・経 営 企 画 部 の 黒 川 康 氏 、神 戸 大 学 大 t i t udeofAdver t i sl ngCont entandCont ext "Ad- 学 院 経 営 学 研 究 科 ・助 教 授 の 三 夫 裕 氏 か ら、 .8 v ancesi nConsumerResear ch,1981,Vol 日米の鉄鋼産業 に動向に関す る貢重 な示唆 を l ssue1,p2024 , 得 た。 また、本誌のエデ ィターおよび レピュ ・青木幸弘 ( 1 992) 「 消費者情報処理の理論」,大運 アー各位か らは、有益 なコメン トをいただい 豊編 『マーケテ イング と消費者行動 :マーケ た。記 して感謝 したい。なお、本稿の内容 に テ イン グ ・サ イ エ ンスの 新 展 開 』有 斐 閣 , 関す る責任 は、筆者 に帰す るものである pp. 1 291 54 。 , ・阿部周造 ( 1 984) 「 消費者情報処理理論」,中西正 ■参考文献 雄編著 『 消 費者行動分析 の ニ ュー フロンテ ィ ・A=s on,R.l .andK.P.Uhl( 1 964) ,"l n仙 enceof ア :多 属 性 分 析 を中 心 に 』誠 文 堂 新 光 社 , BeerBr andI den t i f i ca t i ononTas t ePer cept i onM, pp. 1191 64 , ・池尾恭一 ( 1 999) 『日本型マーケテイングの革新』 ,pp. 36Jour na/ ofMaI *et l r ngF 7 esear c h,August 39 有斐閣 , ・ Bet t man, J.R,( 1 986) ,"ConsumerPs ychol ogy", ・石井淳蔵, 嶋口充輝, 栗木契, 会田拓郎 ( 2004) 『ゼ AnnuaIRev I ' ewofPs yc ho/ ogy,Vol . 37, pp. 2571 ミナール ・マーケテ イング入門』日本経済新聞 289 社 , ・伊丹啓之, 加護野忠男 ( 2003) 『 ゼ ミナール経営学 ・ Cel si ,R.L.andJ. 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A.ノーマ ンは、「 電子化 された、 未来の理想のスケジュール帳」について論 じて V なお、 この図 1- 1- 1- 4の設問 は、 メー いる。ノーマ ンは、この 「 理想のスケジュール カー ・ブラン ドの選択行動 にあたって、消費者 帳」が備 えるべ き機能 として、スケジュール帳 が重視す る属性 を把握す ることを意図 して作成 に入力 した情報 が、自動的に自宅やオフ ィスの した。ケーキ と、ヨーグル ト、機能性飲料、緑 パ ソコンに転送 され る機能や、大学での授業や 茶飲料 とでは、 購買時の典型的な店舗形態 が異 学会、あるいは家庭 などのスケジュール を相互 なるoケーキの場合 は、メ-カー ・ブラン ド単 にチェックして、ダブルブ ッキ ングを防止す る 位の独立 したシ ョップや販売 コーナーで購買が 990pp. 304 機能などを挙げている (ノーマ ン 1 行われ ることが多 37 い 。したがって、消費者 によ ベルのみである るメーカー ・ブラン ドの選択 は、店舗選択 と連 。 動 して行われ ることが多 くなる。そのため、ア ンケー トの設問では、「どのお店でケーキを買 vi i i図 1-1のデータを用いて、因子分析 を行 うこ うか を選ぶ ときに重視す る属性」を尋ね ること とで、味 とパ ッケージングの 2つの属性 は、同 に した 一の因子 に関連 していることが見出 されるか も 一方、ヨーグル ト、機能性飲料、縁茶飲料の場 しれない。しか し、もし仮 にこの 2つの属性 が 合 は、各種 の メーカー ・ブラン ドの商品 を取 り 同一の因子 に関連 していたとして も、その こと そろえた、コンビニやスーパ ーなどの販売 コー に よって、パ ッケー ジ ングの違 いに よって、 ナーで購買 が行 われ ることが多い。 したが っ ケーキの味の評価 が変化 して しまう、とい う関 て、 消費者 によるメーカー・ブラン ドの選択 は、 係 が明 らかになるわけではない02つの属性 が 店舗選択ではな く、店舗内での商品選択 と連動 同一の因子 に関連 しているとい うことは、両者 して行われ ることが多 くなる。そのため、設問 が同一の構成概念 を形成す る可能件 を示すにす では、「どの商品 (ヨーグル ト、機能性飲料、縁 ぎない。そ して、この同一の構成概念が何に基 茶飲料)を買 うか選ぶ ときに重視す る属性」を づいて形成 され るかは、分析者の解釈 に委ね ら 尋ね ることに した。 れている。分析者 が、味 とパ ッケージングは別 。 の ものだと考 えているか ぎり、この 2つの属性 vi なお、この 2日間の実験 では、被験者 に評価 を は、たとえば 「 高級感」のよ うなメタレベルで 質 問票 に書 き込 んで もらう際 に、それぞれの の共通項 を構成 す ることに関連 してい る、 と ケーキが取 り出 されたパ ッケージングの特徴に いった解釈がな されて しまうことになる。 ついて も、 選択式の質問 を行い、回答 を求めた。 i x 沼上 ( 2000)が指摘す るよ うに、経営学では、 この回答 が誤 っていた ものについては、有効回 「 意図せ ざる結果」のはた らきは、企業組織の 答か ら除外 した。 内的なメカニズムや、企業組織 と環境 との相互 作用か ら生 じるはた らきとして、さまざまな角 vi iマーケテ イングにおけるパ ッケージングの効果 は、消費者の知覚や評価のプロセスの構成 を変 度か ら探求 されて きた ( pp. 20 22)。これに対 し、 。 た とえば、パ ッ 本稿では、① マ-ケ タ-の思考や行動のプロセ ケージングの違 いは、ケーキや ビールの鮮度 な スにおいて も、「 意図せ ざる結果」 が生 じるこ どに も影響 を及ぼす ことがある。 とを、②デザインのはた らきに注 E lLなが ら指 もっとも、今回の実験 や、ア リソンとウルの先 摘 して きたことになる 化 させ ることだけで はな い 。 行研究 などでは、このよ うな鮮度への影響 が生 じていた とは考 えに くい。今回のケーキの実験 x この 「 決定論的な思考の昆」とい うアイデアは、 では、パ ッケージングの入れ替 えは、被験者 に 沼上 ( 2000)か ら示唆 を受 けている ( pp. 234 - 箱 か らケーキ を取 り出す ところを見せ るため 248)。 もっとも、沼上 は、決定論的な思考 を、 の、デモ ンス トレーシ ョン用のケーキについて 社会的合成 を通 じて生み出 され る 「 社会的 ト のみ行 った。被験者 にサーブす るケーキは、あ ラップ ( 昆) 」の産物 として論 じている。 しか らか じめ正規のパ ッケージングか ら紙皿 に直接 し、決定論的な思考の民 は、社会的合成だけに 載せ て用意 しておいた もの を使用 した。 また、 由来す るわけではない。以上で見て きたくよう ア リソンとウルの実験 では、変更 されたのはラ に、マ-ケタ-が、自らの知識 にとらわれて し 38 まうとい う現象は、当事者の思考や行動 、そ し を提示す ることで、この先行研究の限界 を補完 てそれ らを支えているメタレベルでの選択 が、 す るものであった とい うことがで きるだろ う 。 デザ インを通 じて潜在的に起 こることによって も、生 じるのである。 xi あるいは、このよ うな認識が生 じて しまう理由 として、次の ような問題 も指摘で きるだろう。 仮説 を、実験やサーベ イに基づいて、変数間の 関係 として実証 しようとす るアプローチでは、 事象が、変数間の相関関係 に基づ くスタテ ィ、 ソ クな構造 としてのみ把握 されることにな りがち である。そのため、消費者やマ-ケタ-の思考 や行動の道行 き(ダイナ ミックな相互作用のプ ロセス)のなかで別発す る問題 については、充 分な検討を行 うことがで きなくなって しまうの であるo これに対 して、本稿では、「 状況 に根 ざした思 考の方法」を用いて、具体的な状況のプロセス を仮想的に再構成 しなが ら検討 を行 うことで 、 変数間の相関関係に基づ くスタテ ィックな構造 としてのみ事象 を把握す る手法 を補完す ること を試みて きた。本稿 と同様のアプローチを採用 1 9 8 8)を挙げる した先行研究 と して、加護野 ( ことがで きるだろう。加護野 ( 1 998pp. 72 73, p p. 8 6 9 3, p p. 1 31 1 48)は、具体的な問題の状況 を再構成 しなが ら検討 を進め ることで、企業 に とっての環境 とは、客観的な与件ではな く、ど のような 日常の理論、すなわちどの ような情報 の フ ィル ターを用いるかによって、見え方が異 なって しまう相対的な可能性で しかないことを 指摘 している 。 一方、加護野 ( 1 9 8 8)の問題点 としては、企業 組織の構成 員とい う、反省的な思考能力 をもつ 行為主体の間で、なぜ 日常の理論が共有化 され 絶対化 されて しまうかの説明が不徹底であるこ 2 0 0 2)pp. 3 6 3 7) とが指摘 されて きた ( 坂下 ( 。 われわれが検討 して きた、デザ インによる可視 化のはたらさは、構成物の実体化の メカニズム 39