...

2015夏季[PDF:10.2MB]

by user

on
Category: Documents
277

views

Report

Comments

Transcript

2015夏季[PDF:10.2MB]
2015
夏季号
No.
96
[巻頭言]
目 次
CONTENTS
ダイバーシティ経営と女性活躍の場の拡大
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
(人材研究会 委員長)
佐藤 博樹氏…………
1
[平成26年度 研究会・懇話会報告]
ダイバーシティ経営の推進のあり方について
【人材研究会】… …………………………………………………………………… 2
企業のグローバル展開とCSRのあり方について
【CSR研究会】… ………………………………………………………………… 14
IoTがもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
【ものづくり懇話会】……………………………………………………………… 25
[常設委員会]
「消費者契約法改正の論点について」
と
「投資協定・投資協定仲裁について」
【企業法制委員会】… ……………………………………………………………
最近の雇用・人材政策の動きについて
【雇用・人材開発委員会】… ………………………………………………………
中国経済社会の動向と日中経済関係
【企業活力委員会・企業活力政策研究会】… ……………………………………
我が国経済の現状と先行きについて
【業種別動向分析委員会】… ……………………………………………………
35
41
48
52
[税制]
税制改正に関する勉強会 【税制委員会】… ……………………………… 53
[CDGM]
吉田耕作博士講演会「ジョイ・オブ・ワーク~究極の人材育成~」開催報告
CDGMラウンドテーブルセミナー レポート… …………………………………
55
[特集]
企業統治に関する一考察~社外取締役を中心に~ 亜細亜大学経営学部 准教授 鈴木 智大氏………………………………………
58
[コラム]
中国滞在経験とダイバーシティへの思い 経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長 小林 浩史氏… ……………
47
[その他]
研究所便り… ………………………………………………………………………
60
巻頭言
ダイバーシティ経営と
女性活躍の場の拡大
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
(人材研究会 委員長)
佐藤 博樹
企業経営におけるダイバーシティ経営の重要性が指摘されているものの、
誤解も少なくない。
第一の誤解は、
ダイバーシティ経営を結果として人材活用の多様性だと考えることである。
あるプロジェクト
を社内でスタートさせる場合に、
一定数は女性に、
あるいは外国人にと、
人材の多様性を実現すること自体を
目的としてメンバーを集めてしまうことなどである。
結果としての多様性を求めるのではなく、
メンバーの選定に
あたり、
「適材」
と従来されてきた人材像をあえて取り除き、
多様な人材層から選ぶことが重要なのである。
第二の誤解は、
女性を活用すること自体をダイバーシティ経営と捉えてしまうことである。具体的には、
「顧
客が女性なので、
顧客ニーズを満たせるよう女性のみからなる開発チームを立ち上げたところ、
首尾よく新
商品の開発に成功した」
といった発言である。商品開発の成功要因は、
チームリーダーのリーダーシップや、
チームでの取り組み内容などにあるにもかかわらず、
それを解明せず、
単に女性のみのチームだったことを
成功理由としてしまうことになる。
こうした発言の背景には、女性のニーズは女性にしか理解できないなど、
女性を一様にとらえる考え方があり、
ダイバーシティ経営を正しくは理解しているとはいえない。
第三の誤解は、
ダイバーシティ経営は、
自動的に企業業績に貢献するものという考えである。女性を役員
や管理職に登用した結果、
企業業績が上がったという類の発言などが典型である。個々の企業経営という
観点からすると、
女性管理職の比率が高い企業のすべてが、
低い企業に比較して業績が良いわけではな
い。多様な人材が持っているポテンシャルを引き出して企業経営に活かし、経営戦略につなげることがダイ
バーシティ経営の鍵となる。多様な人材のポテンシャルを経営成果として生かせるかどうかは、
経営トップの
マネジメント次第なのである。
第四に、
ダイバーシティ経営として、
多くの企業で、
女性の活躍の場の拡大の取り組みがはじまっているが
誤解も多い。女性の意識啓発セミナーの実施や、
仕事と子育ての両立を可能とする柔軟な働き方の導入な
どである。
しかしそれらのみでは女性の活躍を阻害することになりかねない。企業としてまず取り組むべきこ
とは、女性の仕事意欲を低下させてきた原因が管理職の部下マネジメントにあることを認識し、
それを改革
するための管理職研修である。後者の柔軟な働き方の導入前に取り組むべきことは、恒常的な残業付きフ
ルタイム勤務の働き方の改革である。
つまり、
男性を含めた働き方改革が女性活躍推進の鍵となる。
最後に、
ダイバーシティ経営を推進するためには、
企業の経営理念や共通価値がきわめて重要になること
を指摘したい。多様な価値観などを持つ社員を受け入る一方で、
企業組織として求心力を確保するために
は、
企業の経営理念や共通価値に社員それぞれがコミットすることが不可欠になるからである。
企業活力
1
平成26年度人材研究会調査研究結果報告
人 材 「ダイバーシティ経営の
推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
人材研究会
グローバル競争下において、日本企業が、世界で戦う競争力を持ち、競争に勝ち抜いていくためには
『女性、海外人材等、多様な知識、経験、価値観をもった人材を幅広く確保し、その能力を最大限発揮
できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげる』ダイバーシティ経営
の有効性や必要性が指摘されています。
そこで、平成26年度、当研究所では、佐藤博樹氏(中央大学大学院戦略経営研究科教授)を委員長
にお迎えし、企業の人事担当者、学識者等の委員の方々、またオブザーバーとして経済産業省の方々に
参加いただき、人材研究会を設置、企業で働く女性の活躍推進に焦点を当て、7回にわたり研究会を開
催いたしました。
本調査研究では、文献調査、委員企業の女性活躍施策の事例発表及びインタビュー調査、夫婦とも
正社員で共働きをし、かつ小学校入学前の子育てをしている男性へのアンケート調査、有識者からの専
門的な知見等を踏まえて、「企業におけるダイバーシティ経営を推進するための具体的な方策」を検討
し、提言をとりまとめました。
また、平成27年4月16日には、調査研究報告書を中心とした提言発表セミナーを開催し、プレス関係
者、企業の人事ご担当者等、多くの方々にご参加いただきました。
2
企業活力
佐藤委員長、福地室長
研究会の様子
セミナーの様子
セミナーの様子
人
材
ご出席者名簿
委 員 長:
佐藤 博樹
オブザーバー:
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
委 員:
安達 智子 イオン(株) グループ人材育成部長
石原 直子 (株)リクルートホールディングス
リクルートワークス研究所 主任研究員
大竹由希子 (株)日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部
タレントマネジメント部長代理
狩野 尚徳 キヤノン(株)人材開発部 部長
東風 晴雄 ダイキン工業(株)東京支社 人事本部 採用グループ 担当部長
佐藤 一郎 新日鐵住金(株)人事労政部 部長
塩野 典子 富士通(株)ダイバーシティ推進室長
髙島 正人 トヨタ自動車(株) 東京総務部 人事室長
高橋 文子 カルビー(株) 人事総務本部 人事総務部 部長 兼
ダイバーシティ推進委員会委員長
田中 和子 (株)博報堂 リーママプロジェクトリーダー
中澤 二朗 新日鉄住金ソリューションズ(株) 人事部 専門部長
中島 竜介 アステラス製薬(株) 人事部 部長
鍋山 徹 (一財)日本経済研究所 チーフエコノミスト
成田 雅与 (株)LIXIL 人事総務本部 ダイバーシティ推進室 室長
布山 祐子 (一社)日本経済団体連合会 労働法制本部 上席主幹
平井 弓子 サントリーホールディングス(株) 人事本部 ダイバーシティ推進室長
藤中麻里子 損害保険ジャパン日本興亜(株) 人材開発室
ダイバーシティ推進グループリーダー
藤本 治己 帝人(株) 人財開発・総務部長
細川 純治 パナソニック(株) 本社人事戦略グループ
タレントマネジメントチームリーダー
福地 真美
関 万里
宇留賀美穂
戸田 悠子
根津利三郎
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 係長
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 係員
経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 係員
(独)経済産業研究所 シニアリサーチアドバイザー
事務局:
廣澤 孝夫
宮本 武史
須藤 良雄
石川 眞紀
狩野 史子
杉浦淳之介
朝倉 隆道
風間 勇助
(一財)企業活力研究所 理事長
(一財)企業活力研究所 専務理事
(一財)企業活力研究所 事務局長
(一財)企業活力研究所 主任研究員
(株)富士通総研 第一コンサルティング本部
社会調査室 マネジングコンサルタント
(株)富士通総研 第一コンサルティング本部
社会調査室 シニアコンサルタント
(株)富士通総研 第一コンサルティング本部
社会調査室 コンサルタント
(株)富士通総研 第一コンサルティング本部
社会調査室
(企業名・役職名は当時、敬称略、氏名五十音順)
1.検討の視点
1.1 いかにライフイベント後の就業継続を支援するのか
1.2 いかに女性のキャリア形成を支援していくのか
1.3 男性を含めた労働時間・働き方をどのように見直していくのか
2.課題を取り巻く現状
2.1「ダイバーシティ経営」に関する理解不足
2.2 ライフイベント後の女性の就業継続を妨げる要因
①保育サービスなどの供給不足の壁
②企業における働き方の壁
2.3 企業における女性のキャリア形成の難しさ
2.4 男性を含めた労働時間・働き方を変えることの障壁
①企業や職場に残る性別役割分担の意識の壁
②夫が家事・子育てを実施する場合の「仕事への支障」と「責任」の壁
企業活力
3
人
材
「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
3.アンケート「男性配偶者の家事・育児に関する調査」結果のまとめ
「女性のライフプランニング支援に関する調査」によれば、女性が子育てしながら働く場合、最も重要なのは「配
偶者を含む家族の支援」であり、とりわけ「配偶者が平日も家事・育児に協力してくれること」となっている。出産
前後に女性の就業継続がなかなか図られていない原因には、男性の家事・子育てへの参画が十分でないことが考えら
れる。こうした問題意識の下、男性配偶者の家事・育児に関する意識や行動について、Web 調査を実施した。
調査対象: 夫婦ともに妊娠時から出産後も正規雇用(企業または官公庁)で働き続け、末子が小学校入学前である、
男性 618 サンプル。
3.1 共働き夫婦の仕事と子育ての両立を可能にするもの
①家事・育児に対する意識の高さ
本調査対象者の家事・育児を行うことに対する考え方は、「仕事や職場の雰囲気等に関わらず可能な限り行う」
及び「仕事への支障がない範囲で、可能な限り行う」とする比率が結婚当初の時点で7割を超え、その後、妻の
負担を軽減したいと思ったことや、妻から家事 ・ 育児を求める働きかけがあったことなどから、その比率は現在 8
割近くにも上っている。
(図表- 1)
(図表-2)
図表-1 家事・育児を行うことに対する考え方
図表-2 家事・育児をより行う方向に考えが変わった理由
4
企業活力
人
材
②帰りづらい職場の雰囲気
があるとは言えない
職場において「所定時間
内にこなしきれないほど仕
事を抱えている」状況はあ
るものの、上司や評価を気
にして帰りづらいという職
場実態は、あまり見られな
かった。
(図表- 3)
図表-3 職場の雰囲気・価値観
③親のサポートを期待できる家庭環境
家事・育児を「同居または近居の親に、日常的に依頼することができる」とする男性が約半数に上り、「同居ま
たは近居の親に、日常的ではないが困ったときなどは依頼することができる」まで含めると、全体の約 4 分の 3
となる。親が支援できることが、少なくと
も夫婦ともに出産後も正規雇用で働き続け
るという選択をする際の重要な要素になっ
ている点が窺える。
(図表- 4)
図表-4 夫婦以外に家事・育児を依頼できる人の有無(家族、友人等)
3.2 子育て中の共働き夫婦が直面する課題
①仕事への支障
今回の調査対象となった男性は、家事・育児に対し積極的に取組もうとしているが、平日に家事・育児を行う上で、
「仕事への支障」が大きな制約となっている。
(図表- 5)
図表-5 家事・育児を積極的に行いたくない理由
企業活力
5
人
材
「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
職場で、
「所定時間内にこなしきれないほど仕事を抱えている」ケースが多く見られ、長時間残業(1 時間以上
の残業)を余儀なくされている実態が見られる。
定時に退社している男性の 3 割程度が、
「仕事が終わらない同僚や部下・後輩の仕事を手伝って帰るのがよい」
等の職場の雰囲気があると回答しており、男性本人が職場の雰囲気を感じつつも、定時に退社できるように努力
しているものと思われる。
(図表- 6)
図表-6 残業時間別の職場の雰囲気・価値観の特徴
3 割程度の男性が 1 時間以内の短時間の残業を行っているが、定時退社できない原因として、「定時で終わらな
い仕事が多いため」を挙げている。
(図表- 7)
図表-7 1時間以内の短時間の残業をする理由
6
企業活力
人
材
②仕事上の責任
残業実態については、世代別にはほとんど差が見られなかったが、役職別には差が見られ、責任が重くなるほ
ど残業時間が多くなることが明らかになった。このことは、時間外労働削減に取り組む際に、行政や企業への重
要な示唆となると思われる。
(図表- 8)
図表-8 退社時間に影響を与える要因(年齢別・役職別)
③退社時刻を厳格に制約する家事・育児
家事・育児を実施する意識の高い男性が、最も困難に逢着している家事・育児は、時間のかかる家事・育児と
いうより、
「子供の保育園等の迎え」等、退社時刻を制約する形態の家事・育児であることが明らかになった。仕
事の絶対量を減らすこととは別に、時間的な制限がある家事 ・ 育児を負担するための働き方の創意・工夫が求めら
れている。
(図表- 9)
図表-9 家事・育児の実施状況
企業活力
7
人
材
「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
3.3 課題克服へ向けた示唆
①「職場での積極的な働きかけ」の重要性
「定時に退社」している男性は、
「自分が子育て中であることを、職場に積極的に伝えている」比率が高い。職
場の上司や同僚とコミュニケーションを取り、家庭の状況や妻との家事 ・ 育児への分担などについて伝えることが、
男性が家事・育児に参画するうえで、有効であると言える。また、1 時間以内の短時間の残業をしている男性は、
「朝
残業」や「職場で特定の曜日だけは早く帰宅することを積極的に伝える」等の工夫を、「定時に退社」している男
性より実施している。しかし、残業を削減することが難しい実態が把握できる。(図表- 10)
図表-10 残業実施別での家事・育児を行うための工夫の違い
②「親等の役割」の限界
前述の様に、今回の調査対象となった、夫婦ともに出産後も正規雇用で働き続け、末子が小学校入学前の男性
には、家事・育児を依頼できる親等がいる場合が多い。しかし、男性が日常の家事・育児をどの程度行うかや退
社時刻については、依頼できる親等の有無はあまり影響していない。今回の調査対象となった男性は、親等のサ
ポートの有無に関わりなく、出来る限り家事・育児を行っており、子育てしながら女性が働くには、男性の家事・
育児が重要であるという実態を裏付ける結果となっている。
③家事・育児の広いメリット
男性が勤務時間等を工夫して家事・育児を行うことにより、「妻や子供との関係がよくなる」ことや「効率的に
仕事を行うようになる」ことは当然であるが、「職場の同僚や部下の家庭環境等に十分配慮した対応を取りやすく
なる」ことのメリットも、かなりの程度認識されている。(図表- 11)
8
企業活力
人
材
図表-11 勤務時間等を工夫して家事・育児を行うメリット
他方、家事・育児を行うデメリットは、メリットと比較すると低く、男性全体としてはデメリットを感じていない。
しかし、長時間の残業(3 時間~)をしている男性の 5 割以上は家事・育児を行うことによって「仕事へ集中でき
なくなる」
、
「社内外のコミュニケーションや関係構築の時間がなくなる」等のデメリットを感じている。こうし
た男性に対して、勤務時間等を工夫して家事・育児を行うメリットを伝え、男性の意識及び職場全体の価値観・
雰囲気を変えていくことが必要である。
4.提言
4.1 ダイバーシティ経営推進に向けて
1)経営トップから明確なメッセージを!
・・・まずはトップが職場の意識改革をリードする・・・
2)人事部門は現場の意見を吸い上げながら、ダイバーシティ経営の職場への浸透を!
・・・各社/各現場に適合した方策を・・・
事例:トップから明確なメッセージを発信
初代社長が医師であったこともあり、
「週 40 時間労働の理想は貫くべきで、毎週土日はゆっくり休んで十分
に鋭気を養い、明日の健康につなげよう」とのメッセージを発信。休むときには休み、効率を上げて働くの
がよいというメッセージをトップから明確に打ち出している。(キヤノン株式会社)
企業活力
9
人
材
「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
4.2 出産などライフイベント後の女性の就業継続支援のために
1)職場復帰に向けてのモチベーション維持を!
・・・育休取得時の十分な意思疎通が重要・・・
2)就業継続可能な職場環境に向け、仕事のマネジメントを見直す
・・・現場からの提案を吸い上げて推進・・・
3)
「共働・共育」の時代に向けての対応を
・・・夫婦間の十分なコミュニケーションを・・・
事例:妊娠・出産後も女性が活躍できる職場作り
当事者の声を活かす内容の管理職向け女性社員育成パンフレットを作成している。
「これからプロジェクトで忙しくなるというタイミングで妊娠。夫と大喜びをした後、上司に対して申し訳
ない気持ちで一杯に。翌日上司に報告すると、『良かった! おめでとう!』と笑顔で言ってくれました。
涙が出るほどうれしかった。絶対仕事でお返ししよう! と心に誓いました。」(パナソニック株式会社)
4.3 企業における女性のキャリア形成支援のために
1)中長期視点から、女性が指導的立場に至るまでのパイプラインを太くする
・・・
「男女差なく」を基本に・・・
・・・20 代の間に可能な限り多くの職務経験を・・・
・・・20 代後半での長期を見据えたキャリア研修を・・・
・・・リーダー育成プログラムには必ず女性の参加を・・・
2)育児休業からの早期復帰や短時間勤務からフルタイムへの早期復帰が図れるような環境整備を!
事例:女性リーダー育成のプログラム
従業員の約半数が女性であることから、10 年前より女性活躍専門部署を設置し、女性活躍を推進している。
将来の部店経営、会社経営を担う候補者の女性社員へのバイネームプログラムとして、女性経営塾を開催し
女性社員の育成を行っている。さらに、女性管理職層輩出パイプラインを形成するプログラムとして、希望
者制のプレ女性経営塾、キャリアアップ研修を実施している。(損害保険ジャパン日本興亜株式会社)
4.4 男性を含めた長時間労働の是正や働き方の見直しのために
1)長時間労働の是正に向けて「待ったなし」の取組みを!
・・・女性の活躍を推進するためにも男性を含めた働き方の見直しが不可欠・・・
2)どれだけの時間働いたかではなく、効率と成果で評価する
・・・効率と成果で評価していることを目に見える形に・・・
3)効率を上げて働くことへのインセンティブを提供するのも 1 つの手段
・・・残業削減により削減できたコストの削減部署への配賦・・・
4)まず「1 時間以内の短時間残業」をしている日を減らす
・・・1 時間以内の短時間残業ならちょっとした工夫で改善できるはず・・・
5)管理職が担うマネジメントの変革が鍵
・・・重要なのはダイバーシティ・マネジメント・・・
事例:働き方自体を変えていく活動
ダイバーシティ経営推進とセットで主体的に働き方自体を変えていくため時間と場所のフレキシビリティを
最大化していく活動を行っている。具体的にはコアタイムなしのフレックス制度や 10 分単位での在宅勤務
制度を上司が認めれば個人単位で取得可能な制度、等がある。(サントリーホールディングス株式会社)
10
企業活力
人
企業の取り組み事例
材
カルビー株式会社 カルビーでは、「女性の活躍なしにカルビーの将来はない」というトップの一言で、ダイバーシティ
推進がスタートしました。2010年社長直下にダイバーシティ委員会を設置し、従業員にダイバーシ
ティを理解してもらうところから活動を開始しました。以降、様々な施策を行い、2010年5.9%しかな
かった女性管理職比率は2015年4月には19.8%まで伸ばすことができました。目標として2020年に30%
を目指しています。
両立支援制度をまとめたハンドブックの作成
もともとカルビーには、いくつかの、家庭と仕事の両立支援制度がありました。しかし、制度の内容がわかりやす
く、まとまっているものはなく、その都度調べるという不便な状態でした。それを一冊の冊子にまとめ全従業員に配
布しました。
女性のキャリア支援
ライフイベントにキャリアが左右されやすい女性が、どんなライフステージにあっても将来のプランを描き、イキ
イキと仕事をし、成長し続けることができるようにキャリアを描く講座を開催しています。
また、2014年からは初めて登用された女性部課長をメンティとしたメンター制度を導入しました。メンターは執行
役員が務め、月に1回日頃の悩みや困りごとを相談し、次のマネジメントに活かせるようにしていきました。
ダイバーシティフォーラムの開催
ダイバーシティ推進の理解を深めることを目的とした300人規模のフォーラムを毎年11月に開催しています。
自ら参加したい、と手を挙げた人であれば誰でも雇用形態に関係なく参加することができます。2014年度のテーマは
「一歩前に踏み出す」として、女性活躍だけに焦点を絞らず、一人ひとりが成長したいと思えるようなプログラムに
しました。
工場での女性活躍推進の事例
・「てづくりチーム」
交替勤務で働くことが当たり前の製造現場では、時間に制限があり、急に休むことが多い育児勤務者たちは、一人
の要員としてカウントされず、掃除や欠員者のピンチヒッターとして仕事をすることがほとんどでした。しかし、育
児勤務者からは、「もっと活躍したい」「会社に貢献したい」といった思いから、自分たちができることを模索しま
した。結果、機械で大量生産ができないスナック詰め合わせ商品を生産する「てづくりチーム」を結成しました。ア
ソート品の生産は「てづくりチーム」が責任を持ち、営業と同行しての商談、資材の発注や物流との調整等も全て担
うことになりました。お客様の生の声をもとに新商品の企画にも参加しています。自分たちの仕事を自分たちで考え
ることで、仕事に対するマインドも変わりました。
・時短勤務も一員として働ける変則シフトの導入
ある工場では、育児勤務の女性たちも基幹要員として働ける日勤シフトに対応した変則シフトを導入しました。誰が
どこのシフトに入っても生産ができるように、チームの多能工化を進め、時短勤務者以外の人が早朝や深夜勤務に偏ら
ないようにしました。変則シフトでも、子供と一緒にご飯を食べることができたなど、良い評価を得られています。
家庭と仕事の両立支援制度の充実
これまでのフレックスタイム制度や在宅勤務制度に加え、ライフイベントが会社での活躍の阻害要因とならないよ
うに支援する制度を充実させました。同時にライフイベントにかかる費用補助の適用範囲を広げ増額しました。育
児勤務者が工場の交替勤務への職場復帰が少しでもスムーズにできるようにフルタイム体験ができるようにしました。
さらに、ライフイベントでやむを得ず退職する人が再就職できる制度も取り入れました。
人材研究会委員からのコメント
今回、研究会に参加させていただき、他社様の事例やアンケートの結果を深く研究す
る機会を得ることができ、たいへん勉強になりました。様々な方のご意見を伺うことで、
私自身の理解もさらに深まり、本気でダイバーシティ推進をしないと企業は生き残れな
いという危機感が強くなりました。この研究会の成果物である「ダイバーシティ経営の
推進に関する調査研究報告書」については、わかりやすくまとめていただき、感謝申し
上げます。今後のダイバーシティ推進の教科書として活用させていただきます。
(カルビー(株)人事総務本部 人事総務部 部長 兼 ダイバーシティ委員会 委員長 高橋 文子)
企業活力
11
人
材
「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」
~女性の活躍の場を拡大するために~
企業の取り組み事例
ダイキン工業株式会社
当社のダイバーシティ・マネジメントの考え方と女性活躍推進
ダイキングループでは、これまでダイバーシティ・マネジメントに取り組み、国籍・人種、障がい者、ベテラン・
若手層と様々な人材の活用を進めてきました。当社のダイバーシティの原点は「人を基軸におく経営」であり、“人
の持つ無限の可能性を信じる”“個人の成長の総和が企業の発展につながる”との考えのもと、一人一人がもつ多様
な才能をうまく組織化し、総合力に結集していくことを目指してきました。
現在、当社グループの約6万人の従業員のうち8割以上が海外従業員であり、世界145カ国で事業展開し、お客様や
取引先も多様化しています。これからのボーダーレス社会で益々厳しくなるグローバル競争を勝ち抜くためには、性
別・年齢・国籍あるいは障がいの有無といった人の属性に関わりなく、多様化した組織をいかに上手くマネジメント
していくかが鍵だと考えています。異質なものを認め合い、良きノウハウをお互いに伝え合って新しい価値を生み出
す風土に繋げたいという考えです。
こうしたダイバーシティ・マネジメントの考え方のもと、当社は、2001年から女性活躍推進に取り組んできました
が、女性管理職の比率は製造業平均を下回り、男女関係なく能力を発揮できる風土は道半ばでした。ダイバーシティ
という観点で当社を振り返ったとき、グローバル人材、ベテラン層、障がい者、キャリア採用者はすでに活躍してい
る会社でしたが、一番遅れているのが女性の活躍でした。そこで、2011年11月、トップの旗振りのもと、全社挙げて
の本格展開をスタートしました。
当社の女性活躍推進は、①男性と同様に修羅場を与え育てるとともに、競争社会で勝ち抜いていく覚悟を求める。
②十分に育った人材を男女公平な目で見て管理職・役員に登用していく。③男女の差は出産のみ。働く意欲や能力に
男女差はないととらえ、出産後、職場復帰するための支援を最大限行い、なかでも早期復帰の制度充実を図る、とい
う3つの方針のもと、取り組んでいます。特徴的な取り組みについて、具体的にいくつかご紹介したいと思います。
具体的な取り組みについて
1)女性管理職の育成の加速
2012年度より、将来の管理職候補者(若手層・中堅層)を対象に、「女性リーダー育成研修」を実施しています
(8カ月間。集合研修4~5回程度。若手層20代~30代前半、中堅層:30代半ば~40代)。これは、ポテンシャルの高
い女性社員が、ダイキングループで働き続ける意志・覚悟を持ち、将来、リーダーとして組織に影響力を持つ存在
となるために自らの意識と行動を変えることを目的としています。また、入社2~10年目程度の若手女性を対象に、
「長期的な視点で自らのキャリアを考える意識改革研修」を実施しています。
2)男性管理職の意識改革
①マネジメント研修の一環として女性部下育成研修を実施
2013~2014年度にかけて実施した管理職対象の研修である「マネジメント道場」(4カ月間。集合研修を3回)
の中で「女性部下育成セッション」を開催しました。特に「退職リスクを必要以上に気にせず期待を示して育て
る」「女性部下の育成に慣れていないことにより、女性に対して甘くなりがちだが厳しく鍛える」等を徹底し、
性別の違いによる「無意識の先入観」を払拭し、女性部下の育成・登用を行うマネジメント力を身につけること
を狙いとしました。
②育休復職者セミナーへの上司・部下ペアでの参加
上司と育休明けの部下の相互理解や意識改革を促すことを狙いとし、上司・部下ペアで参加する育休復帰者セ
ミナーを開催(1日)。「子どもがいるから出張、残業など無理をさせられない」といった良かれの配慮をせず、
遠慮せずに仕事を渡してもらうことを徹底しています。
3)育児休暇復帰者の活躍支援
①保活コンシェルジュサービスの導入
当社独自の保育所入所支援策として、妊娠中・産前産後休暇中、育児休暇中の社員に対し、各々の住む地域や
個々人の事情に応じた活動方法やノウハウ、安心できる認可外保育施設の情報提供等を実施しています。妊娠中
12
企業活力
人
材
から保育所が決定するまでの時期を個別にサポートすることで、保育所に入所できずに育休延長する人をゼロ化
し、確実に1年以内で職場復帰できることを目指しています。
②育児休暇からの早期復帰支援策
2014年4月には、育児休暇から早期に復帰する従業員への支援を充実させました。出産から半年未満で復帰する
従業員には、育児サービスに対する費用補助の上限を年20万円から年60万円に増額。1日4時間の短時間勤務や、1
日6時間の短時間フレックス勤務を導入し、意欲ある女性が働きやすい環境を整えています。
今後の当社の取り組みについて
2015年度には、女性役員・管理職登用の加速に向けた女性の育成策、20代の女性の成長を加速する若手女性の育成
の前倒し策、“女性特有の課題”に着目した意識改革策、出産・育児をキャリアブレーキにしないための両立支援策
(在宅勤務の導入)など、新たな取り組みを開始し、さらなる女性活躍推進の強化を進めていきたいと考えています。
人材研究会委員からのコメント
今回の人材研究会では、女性活躍推進に関する先進各社および経済産業省の取組み紹
介、そして佐藤委員長はじめ委員の皆さんのディスカッションを通じて、たくさんの発
見・学びがありました。報告書の提言にも盛り込まれた通り、仕事と育児の男女の役割
分担についてなど、企業内における男性の意識改革が真の女性活躍推進のためには不可
欠だと思います。当社でも研修や制度を通じて男性社員、特に上司および育児世代の男
性社員の意識改革を図っていますが、今回の委員会で、その重要性に改めて気づかされ
ました。一方で、女性活躍推進は、まさに働く女性 1 人 1 人がその主役であり、女性の
活力の総和がこれからの日本経済の成長の推進力に繋がるのだと考えます。自分自身と
しても、佳境を迎える採用活動のなかでお会いする優秀な女性の皆さんにこれからの活
躍・成長の覚悟を求めていきたいと思います。
(ダイキン工業株式会社 東京支社 人事本部 採用グループ 担当部長 東風 晴雄)
人材研究会担当研究員より
当研究所では、平成 16 年に人材研究会をスタートさせ、企業における人材に関する課題を取り上げ、企業の
人事担当者、学識経験者等をお招きし、オブザーバーとして経済産業省の担当部局にも参加いただいて、毎年
調査研究活動を行い、報告書を取りまとめております。
平成 26 年度は、
「企業におけるダイバーシティ経営の推進」、中でも女性の活躍の場を拡大するための具体的
な方策を中心に議論してまいりました。今回行ったアンケート調査では、女性が仕事と子育てを両立できずに、
活躍することを難しくさせている現状に焦点をあて、夫婦ともに正社員として働く男性を対象といたしました。
その結果、出来る限り家事・育児を行おうとする意識の高い夫の姿と、一方で「仕事への支障」を理由に 1 時間
以内の短時間残業をせざるを得ず、時間的な制約のある保育園のお迎えを行う夫は少ないという現状が明らか
になりました。このことから、1 時間程度の残業削減等、男性の働き方を変えることが、課題解決のためのひと
つの鍵になるということを見出すことができました。また、企業委員からは、育児休暇復帰者が活躍しやすい
ように支援する取組や、時短勤務者が活躍できるような働き方の導入、女性のキャリアアップ支援、長時間労
働対策等、ダイバーシティ経営の推進に向けた様々な具体的取組とその成果等、貴重な情報をご提供いただき
ました。
これらのアンケート調査、委員発表等と参加メンバーの熱心な議論を重ねて作成いたしました「ダイバーシ
ティ経営の推進に関する調査研究報告書」を是非参考にしていただき、皆様の職場で活用していただけました
ら幸いです。
委員長の佐藤博樹教授をはじめ、委員の皆様と経済産業省の皆様に対し、ご多忙にも拘らず、多大なお力添
えをいただきましたこと、この場を借りて心より感謝申し上げます。
(主任研究員 石川 眞紀)
この調査研究報告書は、企業活力研究所ホームページからダウンロード出来ます。
http://www.bpfj.jp/act/contents_display/3/28/
※この事業は、競輪の補助を受けて実施しているものです。
企業活力
13
平成26年度CSR研究会調査研究結果報告
CSR
企業のグローバル展開と
CSRのあり方について
CSR 研究会
事業のグローバル展開が進むにつれて、海外拠点やサプライチェーン・バリューチェーンにおける
CSRに関する諸問題(労働、人権、環境、贈収賄など)が増加しています。それら諸問題について
は、遡って日本の最終ブランド企業がNGO等から責任を厳しく追及されるケースも少なくありませ
ん。CSRの取り組みを推進していくうえで海外拠点等も含めた「CSRのマネジメント」の強化が求
められるのではないでしょうか。
そこで、当研究所内に研究会を設置し、CSRを巡る最近の国際動向、海外拠点におけるCSR展開
の特徴等についての収集把握をするとともに、内外企業がどのように「CSRのマネジメント」を強
化しているのかを調査分析することによって、今後の日本企業のグローバル展開におけるCSRのあ
り方に関し、提言することとしました。
本調査研究では、内外動向調査、インタビュー・アンケート調査等を実施するとともに、当研究所
内にCSR研究会(座長:髙 巖 麗澤大学 大学院 経済研究科 教授)を設置し合計7回研究会を
実施し議論を行い、提言を取りまとめました。 本稿では、その概要を紹介します。
平成27年5月13日(水)には調査研究報告を中心としたセミナーを行い、企業・団体のCSRご担当や
プレスなど78名の方にご参加いただきました。
写真左から、藤井顧問、髙座長、福本室長
平成26年度CSR研究会委員名簿
委
員
髙 巖
顧
長:
麗澤大学 大学院 経済研究科 教授
問:
藤井 良広
上智大学 客員教授、(一社)環境金融研究機構 代表理事
委 員 : 赤羽真紀子
足達英一郎
有川 倫子
安部 建吉
牛島 慶一
岡田 仁孝
金丸 治子
金田 晃一
黒田かをり
小林 雅宏
酒井 恵子
佐々木智子
佐藤 寛
14
企業活力
CSR アジア 日本代表
(株)日本総合研究所 理事
パナソニック(株)CSR・社会文化部 CSR・企画推進課
CSR 担当リーダー
(公社)経済同友会 政策調査第 1 部 マネジャー
EY ジャパン エリア CCaSS(Climate Change and Sustainability Services)リーダー マネージングディレクター
東京国際大学 国際戦略研究所 教授、上智大学 名誉教授
イオン(株)グループ環境・社会貢献部長
武田薬品工業(株)コーポレートコミュニケーション部
シニアマネジャー
(一財)CSO ネットワーク 事務局長・理事
(株)日立製作所 CSR・環境戦略本部 企画部 担当部長
東レ(株)CSR 推進室 室長
(株)東芝 コーポレートコミュニケーション部 CSR 推進室 参事
JETRO アジア経済研究所 上席主任調査研究員
CSR 研究会の様子
シッピー光
嶋田 行輝
菅田 顕
鈴木 均
関 正雄
鶴野 忠勝
冨田 秀実
中野 修平
樋口 詩子
藤井 郁乃
藤井 浩美
藤崎 壮吾
本多 幹生
三和裕美子
三品 孝
森 まり子
ソニー(株)広報・CSR 部 CSR グループ シニアマネジャー
(平成 27 年 2 月~)
損害保険ジャパン日本興亜(株)CSR 部長
旭化成(株)総務部 広報室 CSR グループ長
(株)国際社会経済研究所 代表取締役社長
損害保険ジャパン日本興亜(株)CSR 部 上席顧問、
(公財)損保ジャパン日本興亜環境財団 専務理事
キヤノン(株)CSR 推進部 副部長
ロイドレジスター クオリティ アシュアランス リミテッド事業開発部門長
本田技研工業(株)経営企画部 CSR 企画室 主幹
(前)ソニー(株)広報・CSR 部 CSR グループ シニアマネジャー
(~平成 27 年 1 月)
トヨタ自動車(株)(前)総合企画部 CSR 室長
(~平成 26 年 12 月)
日本電気(株)コーポレートコミュニケーション部 部長代理
兼 CSR・社会貢献室 室長
富士通(株)CSR 推進室 部長
トヨタ自動車(株)総合企画部 企画室
コーポレート・CSR グループ GM(平成 27 年 1 月~)
明治大学 商学部 教授
ダイキン工業(株)CSR・地球環境センター 担当部長
東京商工会議所 中小企業部 副部長
オ ブ ザ ー バ ー:
福本 拓也
大賀 裕可
経済産業省 経済産業政策局 企業会計室 室長
経済産業省 経済産業政策局 企業会計室 係長
坊 彩香
経済産業省 経済産業政策局 企業会計室 係長
C S R
事
務
村上 芽 (株)日本総合研究所 創発戦略センター 局:
ESG リサーチセンター マネジャー
廣澤 孝夫 (一財)企業活力研究所 理事長
宮本 武史 (一財)企業活力研究所 専務理事
長谷 直子 (株)日本総合研究所 創発戦略センター ESG リサーチセンター ESG アナリスト
吉澤 宏隆 (一財)企業活力研究所 企画研究部長
林 寿和 (株)日本総合研究所 創発戦略センター 小西 広晃 (一財)企業活力研究所 主任研究員
ESG リサーチセンター ESG アナリスト
(敬称略、氏名五十音順)
CSR研究会座長より
麗澤大学大学院経済研究科
教 授 髙 巖
事業活動は一気にグローバル化している。売上高や利益に占める割合、従業員に占める外国人比率など、
数字は年々大きくなっている。しかも、各社は、M&A を中心に、アジアなどへの進出を加速化させている。
現場(現状)を知らなければ、事業(取り組み)は成功しない。本社より指示を出すだけでは、経営は傾い
ていく。これは、CSR やサプライチェーン・マネジメントに関しても同様に言えることである。かかる問題
意識より、本研究会は、海外における状況と課題を確認し、企業関係者に対する提言を本報告書にまとめた。
詳しくは本論に譲るが、
「経営の強力なリーダーシップ」という提言が最初に来ていることを強調しておき
たい。月並みな表現と思われるかもしれないが、これにあえて言及したのは、やるべきことが山積している
ためである。CSR に関し「海外拠点における人材育成を図ること」「社会課題の解決に資する機会を見つける
こと」
「海外拠点が積極的に動けるよう支援すること」などの提言が並ぶ。これらはいずれも、経営トップが
声をあげ、リーダーシップを発揮しない限り、具体的な形とはならない。本報告書の趣旨が多くの経営者に
伝わることを期待したい。
Ⅰ 企業のグローバル展開とCSRのあり方に関する課題認識(本調査のねらい)
(1)本社と海外拠点の関係性に着目し、海外拠点におけるCSRのマネジメントの現状と課題を把握し、今後の改善
点を提示する。
(2)日本企業によるサプライチェーン・バリューチェーン上のCSRの現状と課題を、特に海外を中心に把握し、今
後の改善点を提示する。
(3)日本企業の海外進出とともに、CSRにおいても日本企業としての特徴や、欧米企業等との違いを感じているか
どうかを把握し、その活かし方を提示する。
Ⅱ 海外拠点におけるCSRのマネジメントついて(現状分析)
アンケート調査(102社)及び企業インタビュー、研究会発表から抽出。
1. CSRのマネジメント【全社】
CSR における注力分野
⇒ アジアで注力しているのは「職場の安全確保」
(51%)「
、社会貢献活動の実施」
(42%)「
、大気・水質汚染などの予防」
(27%)
企業活力
15
C S R
企業のグローバル展開と CSR のあり方について
想定する海外拠点で最近(3年程度)最も注力している社会的責任に関する取組(%)MA(3つ) n=102
職場の安全の確保
社会貢献活動の実施
大気・水質汚染などの予防
贈収賄の予防・対応
廃棄物の削減
長時間労働の予防・対応
社会課題への取り組みによる新たな事業機会の創出
公正なマーケティングの実施
サプライヤーにおけるCSRの把握・改善
児童労働や不法労働の予防・対応
人種、性別、出身地等による差別の解消
価格操作の予防・対応
その他
6.9
5.9
10.8
9.8
9.8
14.7
19.6
19.6
51.0
42.2
26.5
2.9
4.9
0 .0
20.0
10.0
30.0
40.0
50.0
60.0
経営戦略における CSR の位置づけ
⇒「経営戦略の根幹」(31%)
⇒「触れられていない」(22%)
3~5年程度の経営戦略にCSRをどのように位置づけているか(%)SA n=102
3.9
21.6
31.4
経営戦略の根幹にCSRが位置づけられている
経営戦略の1つとしてCSRが触れられている
経営戦略にCSRが触れられていない
43.1
企業事例
その他
・「中期経営課題」とあわせた「CSRロードマップ」(経営戦略との連動)[東レ]
・「本業・事業を通した社会への貢献」の明示 [味の素]
・ CSRと事業が不可分:顧客との関係構築、地域でのプレゼンス向上等 [コマツ]
2. CSRのマネジメント【海外拠点】
海外で CSR を推進するきっかけ
想定する海外拠点でCSRを推進するきっかけ (%)MA n=102
⇒「(本社の)経営トップの方針」(50%)
経営トップの方針
⇒「本社CSR担当部署からの働きかけ」
本社 CSR 統括部署からの働きかけ
(45%)
進出後、現地で発生した課題対応のため
⇒「進出後、現地で発生した
CSR 活動は行っていない
課題対応のため」(15%)
20
0
45.1
14.7
9.8
15.7
想定する海外拠点の代表者のCSRに関する
コミットメント(%)SA n=102
海外拠点におけるトップコミットメント
るものの、うち45%は海外拠点で、社内向けのみ、
CSR推進を説明している。
(※)経営戦略におけるC S Rの位置づけが「根
幹」であると答えた企業においては87%
16
企業活力
60
50.0
その他
⇒ 現地トップの意思表明は70%(※)でなされてい
40
5.9
2.0
行っている
22.5
行っていない
69.6
本社として把握していない
不明
C S R
コミットメントを実施している場合どのように実施しているか(%)SA n=71
0
20
10
40
30
50
拠点において、社内向けのみ CSR 推進を説明している
45.1
拠点において、社外に対してのみ CSR の
メッセージを出している
11.3
拠点において、社内向けに説明もし、
社外に対してもメッセージを出している
31.0
その他
企業事例
12.7
・国際規範に沿ったCSR経営の推進についてトップコミットメントを表明 [ダイキン工業]
・海外法人トップへのインタビューを実施し、CSR優先課題の選定 [コマツ]
海外拠点における CSR マネジメントの改善すべき点
⇒「CSRを担当する従業員数が十分ではない」(46%)
⇒「現地採用の従業員のCSRに関する基礎知識が十分ではない」(45%)
⇒「国内から海外拠点に派遣される社員の、CSRに関する事前知識が十分ではない」(35%)
海外拠点におけるCSRのマネジメントについての改善すべき点 (%) MA n=74
海外拠点における CSR を担当する従業員数が十分ではない
45.9
現地採用の従業員の、CSR に関する基礎知識が十分ではない
44.6
海外拠点では CSR に関する目標の設定が本社に比べ十分に出来ていない
43.2
国内から海外拠点に派遣される社員の、CSR に関する事前の知識が+分ではない
35.1
海外拠点と本社 CSR 統括部所とのコミュニケーションが取りにくい
29.7
海外拠点における CSR 関連の予算が十分ではない
27.0
海外拠点では経営理念や CSR 方針が浸透していない
27.0
人事評価や研修システムが統一されていない
21.6
海外拠点の代表者の、CSR に対する関心が低い
14.9
海外拠点では環境マネジメントシステム等の認証取得が遅れている
8.1
海外拠点から本社に寄せられる CSR に関する要望に、応えきれていない
4.1
その他
8.1
0
企業事例
10
20
30
40
50
・グローバルな人材育成プログラム、CSR観点からの人材育成実施 [カネカ]
・海外赴任研修でサプライチェーンや人権について講義、相談を促す [伊藤忠商事]
・「ウェイ」の伝道師を主要拠点に配置、業務改善も並行実施 [コマツ]
・人財データベース等の世界共通化による海外人材マネジメントの強化 [日立製作所]
アジアの代表的拠点における CSR 担当者
⇒「海外拠点に専任・兼任あわせてCSR全般に関する担当者がいる」(48%)
想定する海外拠点におけるCSRの担当者の状況(%)SA n=102
企業活力
17
C S R
企業のグローバル展開と CSR のあり方について
海外拠点における意思決定
⇒「社会課題への取り組みによる新たな事業機会の創出」について海外拠点が意思決定しているのは47%と、他の施
策より低い。
社会的責任に関する施策を検討する際に意思決定しているところ (%) SA n=102
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
人種、性別、出身地等による差別の解消
児童労働や不法労働の予防
長時間労働の予防
職場の安全の確保
大気・水質汚染などの予防
廃棄物の削減
価格操作の予防・対応
増収賄の予防・対応
サプライヤーにおける CSR の把握・改善
公正なマーケティングの実施
社会課題への取り組みによる新たな事業機会の創出
社会貢献活動の実施
海外拠点
海外拠点における外部との情報交換
⇒「外部との情報交換活動に特に参加していない」(42%)
想定する海外拠点における外部との情報交換等の活動 (%) MA n=102
0
5
10
15
現地に進出している日系企業の
CSR 情報交換の場に参加している
現地企業、または現地に進出している外資系企業の
CSR情報交換の場に参加している
20
25
30
40
35
45
29.4
19.6
同地域におけるグローバル・コンパクト・
地域ネットワークに参加している
上記以外に同地域における企業一般の
CSR 情報交換の場に参加している
4.9
16.7
特に参加していない
42.2
その他
11.8
海外拠点における現地での能力開発・人材交流
⇒「経営者と従業員の交流イベント」(71%) 「現地マネージャーと本社役員の定期的な対話」(48%)
想定する海外拠点で実施している能力開発や人材交流 (%) MA n=102
0
20
経営者と従業員は同じ食堂を使用している
52.9
経営者と従業員の交流イベントがある
70.6
地域住民との交流、会社のスポーツ施設等の開放
39.2
工場労働者への技能研修
地域サプライヤーヘの技能研修
38.2
13.7
現地従業員の本社留学制度
31.4
現地マネージャーと本社役員との定期的な対話がある
現地マネージャーと本社役員が
直接コミュニケーションできるツールがある
その他
企業事例
18
企業活力
80
60
40
48.0
29.4
9.8
・ 現地での社会貢献活動団体とのダイアログ(対話)[カネカ]、社会貢献活動のための基金の
創設[コマツ]など、自発的な活動を進めやすい環境づくり
C S R
3.サプライチェーン・バリューチェーン上の取り組み
海外拠点におけるサプライチェーン・バリューチェーンの CSR 対応方針
⇒「定められている」(42%)
⇒ 方針に含まれるサプライチェーンとしては「一次サプライヤー」が一般的(98%)
想定する海外拠点はサプライチェーン・バリューチェンのCSR対応方針を定めているか (%)SA n=102
CSR対応方針のサプライチェーン・バリューチェーンの対象 (%)MA n=42
0
外注労働者
建設・土木工事などの請負、外部委託先
物流の請負、外部委託先
情報システム等の外部委託先
コンサルタントなどの外部委託先
顧客、消費者
一次サプライヤーの原材料・部品調達先
二次サプライヤーの原材料・部品調達先
三次サプライヤー以降の原材料・部品調達先
その他
10
20
30
26.2
11.9
7.1
21.4
19.0
40
50
60
70
80
90
100
33.3
33.3
97.6
14.3
11.9
改善のために必要なこと
⇒「経営全体として関心を高め、経営理念の共有・周知徹底を通じて本社の調達部門等関連部門のCSRに対する理解
を促す」(60%)
⇒「取引条件としてCSRイシューへの対応を厳しく求める」(31%)
サプライチェーン・バリューチェーンを通したCSR活動をよりよくするための方策 (%)MA n=102
経営全体として関心を高め、経営理念の共有・周知徹底を通じて
本社の調達部門等関連部門の CSR に対する理解を促す
59.8
サプライヤーヘの直接訪問回数を増やすなどして、
CSR推進の意義を更に共有する
34.3
取引条件として CSR イシューヘの対応を厳しく求める
31.4
顧客に対する自社の販売方針の説明を強化する
17.6
サプライヤー調査について現地NGO等との連携を強化する
13.7
現状で十分と考えている
7.8
サプライヤーによる CSR 関連の外部認証取得を支援する
4.9
その他
9.8
0
企業事例
10
20
30
40
50
60
70
・ 仕入先は、単なる仕入れだけでなく、新たな技術・新たな価値の作り込みを共に行うパートナー
[トヨタ自動車]
・「サプライヤーCSRガイドライン」は、サプライヤーの自主的な改善の指針となるように企図 [味の素]
企業活力
19
C S R
企業のグローバル展開と CSR のあり方について
4. 欧米企業の取組み
組織への浸透
⇒ ウェイに基づき、各国の子会社のCSRパフォーマンスの測定 [ダノン]
⇒ 海外法人トップから社員へのレターでサステナビリティを盛り込む。情報開示や外部とのコミュニケーション [ユニリーバ]
情報開示や外部とのコミュニケーション
⇒ 国ごとのインパクトレポート発行 [スタンダードチャータード銀行]
⇒ NGOや国際機関によって構成されるアドバイザリーグループの設置 [イケア]
サプライチェーン(調達)上での取り組み
⇒ 取引先向けキャパシティビルディングをサステナビリティ戦略で明示 [プーマ]
⇒ バリューチェーン全体を通じて活動見直しを支援するファンド設立 [ダノン]
⇒ 取引先での経営改善(多様性確保)を目的としたメンター関係構築 [シスコ]
5. 日本企業のCSRの特徴、強み、弱みについて
CSR の取り組みに関する比較
⇒ 欧米企業の方が優れているとの回答は34%。日本企業との回答は23%。特に差を感じないが28%。
CSRの取り組みに関する比較 (%)MA n=102
0
5
10
15
20
25
30
欧米企業の方が優れている
アジア企業の方が優れている
40
34.3
13.7
日本企業方が優れている
22.5
特に差を感じない
その他
35
2 7.5
12.7
企業からの意見 ・日本企業は、経営にもともと長期的な目線が組み込まれており、CSRとの親和性が高い
・日本企業は、グローバルなルールメイキングのプロセスに入っていけていない
・日本企業は、達成が確実視できることしか対外的にコミットしない傾向
6. 考察
【海外拠点における CSR のマネジメント体制に関する好循環】
・全社の経営戦略にCSRが位置づけられており、事業と不可分になっている。
・海外拠点での人材育成を、CSRの観点からも行っている。
・海外拠点において、現地のステークホルダーとの対話や交流など、独自の活動を進めやすい環境を作っている
(買収先企業に対しても同様)。
【サプライチェーン・バリューチェーンを通した取り組みに関する好循環】
・サプライチェーン・バリューチェーン上のCSRに取り組むことの効果が、全社の調達戦略や販売戦略のうえで
認知されている。
・海外拠点において、現地の取引先と密なコミュニケーションを取れる体制が築かれており、取引先への研修・
教育機会の提供などが行われている。
・事例研究からは、日本企業では、CSR調達方針を設けている場合でも、取引先における自主的な取り組みの支援・
促進のための手段という性格が強いことが把握できた。この事例より、取引先に対し、時間をかけCSRの理念を根
付かせ、取り組みを後押ししていくことが実践効果をあげる上で有効である、との示唆を得た。ただし、現状、こ
の効果が、外部ステークホルダー(NGO、企業評価機関、株主など)に広く認知されているという状況にはない。
【好循環を生み出せない場合の背景】
・日本企業の経営戦略における海外拠点の位置づけの相対的な低さ
・海外と国内で異なる制度や文化など、壁の厚さと人材の不足
・企業とステークホルダーとの関心・情報ギャップ
20
企業活力
C S R
Ⅲ 企業のグローバル展開と
CSRのあり方(提言)
な取り組みを促進するとともに、調達等の部署を
含めた全社的対応を図ること
これまで以上に、調達、購入、契約等の意思決定を
1.海外におけるCSRのマネジメント体制について
通じて相手先における CSR 対応を促すための方針の
1.1 経営の強力なリーダーシップを発揮すること(経
策定・運用を進めることを、企業に求めたい。この為
営戦略との統合)
には、調達業務における重要な要素として、CSR 課題
経営トップは、CSR の国際的な議論を理解したうえ
への対応が組み込まれることが求められる。また、腐
で、
「自社の社会的責任とは何か」という問いに対し、
敗防止等他の課題への対応といった観点からは、顧客
一般的な常識レベルではなく、自社のグローバルな経
関係担当部署等、バリューチェーンに関わる部門にお
営戦略上の理由として整理し、社内外に周知すべきで
ける認識や連携した対応強化も重要である。
あることを提言したい。
2.2 外部との対話・連携を一層強化すること
いまや、企業が社会的責任を蔑ろにすれば、競争に
企業ごとよりも、業界内や国際機関、NGO と連携
生き残れない可能性さえある。ここで、もっとも重要
した監査を行うことで、調達企業も供給企業もメリッ
な役割を演ずるのが経営者であり、そのリーダーシッ
トを得ようとする取り組みが広がっている。企業が、
プが強く求められている。
こうした流れを後押ししていくことを提言したい。企
1.2 海外拠点において、代表者・担当者それぞれの人
材育成を図ること
業は、調達側であっても供給側であっても、他社など
に先行されることで不利益を被らないよう、業界内連
海外における事業活動の実態を踏まえ、国内外に存
携や業界横断的な連携などに関与していくことが期待
在する様々な違い(法制度、インフラ、コミュニケー
される。そのプロセスでは、国際機関や NGO などと
ション等)を乗り越えて、全社の CSR 方針や目標の改
の対話も重要である。
善を提案し、それを実践できるような人材を育成する
政府や業界団体等の役割が特に大きくなる。たとえ
ことを提言したい。海外拠点においては、まず拠点の
ば、業界団体は、サプライチェーン・バリューチェー
代表者が CSR を理解し、地域のステークホルダーとの
ン上の課題にとどまらず、CSR に関する課題全体に関
対話を通して関係性を築いていけるよう、本社が代表
する専門的な知見をもつなどして、業界としての取り
者に対し普及啓発・教育を行うことが期待される。
組みを底上げすることが期待される。
1.3 海外拠点における内発的な取り組み、社会的課題
解決に資する機会発掘を本社が積極的に支援する
こと
2.3 海外においても「長期的な信頼関係」の構築のた
めの具体的なアクションを
本調査を通して、日本企業は「取引先の自主的な行
本社は、CSR のマネジメントシステムの一環として、
動を尊重するというスタンスを取ることが多く、長期
海外拠点における CSR の内発的・自発的な取り組みを
的な信頼関係を築くのが得意である」という意見が少
促す姿勢を明示するよう提案したい。経営トップの強
なからずあった。これは、日本企業の強みとも考えら
力なリーダーシップのもと、海外拠点の代表者が自主
れるため、今後も一層推進していくべきと提案したい。
的・主体的に動ける環境づくりを、本社が支援すると
今後も、海外において、長期的な信頼関係の構築を通
いう役割分担が、今後は求められている。
じての価値創出(よりよい品質やコスト削減等)が実
アジアでは社会課題への解決のために企業に期待さ
践されるよう期待したい。
れる役割は大きくなっている。このことから、現地の
主体性を尊重し、現地密着型の課題提起・解決を進め
3.日本企業によるCSRに関する対話・発信について
ていけば、それが新たな事業機会の創出にもつながっ
3.1 日本企業のもつ伝統や哲学に対する理解の促進
ていく事になろう。当然、その際には地域のステーク
多くの日本企業には、「三方よし」に象徴される、
ホルダーとの対話を増やすことが前提となる。
250 年以上の歴史を持つ、企業間や社会との共存共栄
を志向する哲学が比較的広く根付いている。日本企業
2.サプライチェーン・バリューチェーン上の
CSR推進について
が、アジアをはじめとする海外において、「三方よし」
2.1 サプライチェーン・バリューチェーンでの自主的
る「世間」が誰なのか、「よし」という基準はどこに
という価値を示す場合、「三方」という言葉に含まれ
企業活力
21
C S R
企業のグローバル展開と CSR のあり方について
あるのか、といった点を詳細に整理し、理解されるよ
う説明することが望まれる。
3.2 日本企業によるベストプラクティスの積極的な発
信
の納得を引き出していく必要がある。
3.3 長期的な取り組みが経営に与えるインパクトの明
確化
日本企業の多くが、ステークホルダーとの長期的な
日本企業が得意であると自認するテーマ(環境や安
信頼関係の構築を強みと考えるのであれば、たとえば、
全)や方法(取引先との長期的な信頼関係の構築)に
サプライヤーとの平均的な取引年数や、その間に達成
ついて、各社がもっと積極的に情報発信すべきと考え
された共同開発・コスト削減などの成果もきちんと説
る。またその際、具体例やデータなども駆使し、相手
明していくべきである。同様に、他の取り組みについ
ても、本業での価値創造、顧客との関係の発展、地域
への貢献等のメカニズムをはっきりさせる必要がある。
提言発表セミナーの様子(講演時)
提言発表セミナーの様子(質疑応答時)
CSR研究会担当研究員より
CSR 研究会は、2004 年度からスタートをし「毎年その時代に即した、もしくはこれから重要となってくる
であろう CSR に関わるテーマ」を設定し「企業の CSR ご担当者、学識者、専門家、経済団体等」で構成され
る委員とオブザーバーの経済産業省のご担当者を交えて議論を重ね報告書をまとめております。過去数年間
に取り組んだテーマを振り返ってみますと「戦略的 CSR(2010 年度)」「非財務情報の開示(2011 年度)」「ビ
ジネスと人権(2012 年度)
」
「社会的責任に関わる国際規格(2013 年度)」となっております。
2012 年度の「ビジネスと人権」の調査をした際に、グローバルに展開する企業においての人権尊重責任は『自
社の活動による責任のみならず取引先やサプライチェーン・バリューチェーンにまで及ぶものも多いこと』
や『新興国等における人権保護に関する国内法が未整備であったり不十分であるがゆえに、海外現地の法律
を遵守していれば足りるというものではないということ』が浮き彫りになりました。
そこで昨年度(2014 年度)は、海外拠点やサプライチェーン・バリューチェーンにおける CSR に着眼し、
日本企業がどのような課題、問題に直面し、どのような考えの下、どのように CSR に取り組んでいるのかを
深堀りして調査研究をする事となりました。
調査を進める中で意識した点は『比較対象として欧米の CSR に関わる動向、企業の動きはもちろんウォッ
チしますが「それありき」ということではなく、日本企業の特徴(日本らしさ)も掴んでいくこと』という
ことでした。
、
、
、と申しましても「それら特徴をどう抽出し、どう提言としてとりまとめていくのか」が今振
り返りますと一番難しいところで、座長や委員の方々を悩ませた点でもあったかと思います。
企業の皆様には、アンケートやインタビューにおいて、このような「ある意味抽象的で答え辛い問い」に
対しても真摯にお応えいただき、多くの示唆を頂戴しましたことに改めて感謝申し上げます。
CSR 研究会メンバーの熱い議論の結果、つくりあげられました「企業のグローバル展開と CSR に関する調
査研究報告書」を少しでも多くの皆様にご活用いただき、グローバル展開における CSR の参考にしていただ
けますと幸いです。
(主任研究員 小西 広晃)
22
企業活力
C S R
企業の取り組み事例
ソニー株式会社
「ソニーグループのCSRマネジメント 特に海外との連携において」
1.概要
ソニーのミッションは、「ユーザー
【重要なCSR課題】
の皆様に感動をもたらし、人々の好奇
心を刺激する会社であり続ける」こと
である。この実現に向けて、エレクト
ロニクス事業、映画や音楽などのエン
タテインメント事業、金融事業を3つ
の柱として、全世界で事業を行ってい
る。
また、売上高構成比をみると、一般
消費者向けのビジネスの割合と、海外
売上高比率(2013年度連結:71.7%)
が高いことが特徴である。
2.CSR課題への対応:CSRマネジメントとグローバルネットワーク
【ステークホルダーからの課題提示とマネジメント】
・ソニーを取り巻く様々なステークホルダーの皆様と、意見を「聞く」「対話する」「新しい課題を受けとめる」
といったコミュニケーションをそれぞれ専門部署が行っている。
・寄せられたステークホルダーからの課題に対し、「課題アセスメント」という形で「外部要請と実態のギャップ
認識」や「対応策の検討」を行う。
・検討の結果、改善を行う場合には、課題を経営層に上げ、かつ事業本部・グループ各社等のビジネスユニットと
一緒になって改善策を策定し、実施する。基本的にこの循環を繰り返していく。
【コンプライアンス(CSRマネジメントの基礎)】
・ソニーでは、ソニーグループ全体のコーポレートガバナンスの強化、及び倫理的な事業活動の更なる徹底を目的
として、「ソニーグループ行動規範」を制定、この考え方がCSRマネジメントの基礎になっている。「ソニーグ
ループ行動規範」は26カ国語に翻訳され、ソニーグループ全体の行動規範として実行されている。基本的なマネ
ジメントは地域毎に行われ、全体を本社が統括している。
【Beyondコンプライアンス(企業の倫理性、新課題の対応)】
・コンプライアンスを超える社会課題については様々なアプローチがあるが、メディアからの問い合わせが、新た
な気づきにつながることも多い。メディアからの問い合わせは、グローバルな広報ネットワークで対応している
が、その地域で対応が難しいグローバルな課題については、本社に連絡が入り、CSRが関わる領域の場合(企業
の倫理性が問われるような課題)には、CSR部署も加わって対応策を検討する。
・顧客やNGO等からの意見・問い合わせは、直接CSRに入ることもあれば、顧客対応部門に入ることもある。この
他、SRIや機関投資家による問い合わせ、社員や地域とのエンゲージメントもあるが、各部署で対応できない場合
はCSRが対応している。
・個社で対応しきれない新たな課題として、サプライチェーン課題や、「責任ある○○(例えばエレクトロニクス、
鉱物、紙の調達)」といった社会課題を遡ってブランド企業に問うような課題が台頭してきている。
企業活力
23
C S R
企業のグローバル展開と CSR のあり方について
3.CSR課題への対応:個社によるマネジメントから業界連携への変化
【責任ある調達】
・サプライチェーンにおける課題は、すべてを自社の責任範囲として対応するのは難しく、このような問題に業界
全体で対処するため、電子業界CSRアライアンス(EICC)が設立され、行動規範が2004年に制定された。これを
ベースとして「ソニーサプライヤー行動規範」を2005年に制定した。
【責任ある鉱物調達】
・米国金融改革法1502条(紛争鉱物条項)では、米国に上場している対象企業は該当地域で採掘された鉱物の使用
状況について開示することが義務付けられている。ソニーも本法の対象企業として、米国証券取引委員会に報告
書を提出している。
【個社マネジメントから業界連携へ】
・新しいCSR課題の増加、かつサプライチェーンに及ぶ課題の台頭により、個社が各課題に対して、行動規範の改
訂やポリシーの発行、対応策を実施するという個別のマネジメント手法だけでは、限界が出てきている。
・業界横断的に新たな課題に対応する「行動規範」や「対応ツール」を制定し、「社会全体からの業界に対する期
待」に応えることは、各社の課題対応を効率よく進め、活動が前進する動機となる。
・EICCでの活動連携を通して、同じ課題を抱える海外の同業他社の考え方を深く知ることができる。結論だけを
シェアするのではなく、そもそもの課題の発端とその議論過程を知り、議論に加わるということの意義が大きい。
・業界で連携することのメリットとして、リスク分散や信頼の醸成を形成しやすいことに加え、CSR課題に詳しく
ないメディアから問い合わせを受けた場合に、何が課題なのか背景説明を行うなど、業界を代表して1ボイスで
対応が可能となることが挙げられる。
・また、新しい社会課題に関するNGO等の指摘にも、業界全体で対応できる。
・今後は、業界としての成功事例を作っていくなど、「オポチュニティ(機会)創出の枠組み」を作れるとインパ
クトがあるのではないかと考えている。一般的にいって日本企業は調査や推進活動などについて、非常に真摯に
取り組む特徴がある。そのような特徴を活かして、CSR活動の推進における実効性の確保や、現場におけるキャ
パシティビルディングなどが強みなのかもしれない。
【今後の方向性】
・業界連携については既に良い事例があるが、今後はその課題に対する改善意見や提案があるNGOとの協働や他業
界との連携、あるいは地域、行政をも含む、いわゆる「マルチステークホルダーによる協働」が必要になってく
ると思われる。
CSR研究会委員からのコメント
ソニーグループは、幅広い領域で事業を営んでおり、それぞれの事業によって、
事業活動を行う地域も異なれば、取り巻く環境、ステークホルダーの関心やソニー
に寄せられる期待も様々です。また、市場やお客様のライフタイルの変化にともなっ
て社会の期待は常に変化しています。こうしたダイナミックな変化を捉えて、継続
的な企業価値の向上を図っていくために私たちは日々 CSR の取り組みを推進してい
ます。
本研究会では、主に日本企業の海外における CSR の推進について、膨大な調査に
もとづく示唆に富む提言がまとめられ、また各回の研究会での議論を通じて、非常
に多くを学ばせて頂きました。この研究会の成果を活かせるよう、業界を越えた企業間連携や、他セクター
との対話をこれまで以上に意識して取り組んで参りたいと考えています。
(ソニー株式会社 広報・CSR 部 CSR グループ シニアマネジャー シッピー 光)
この調査研究報告書は、企業活力研究所ホームページからダウンロード出来ます。
http://www.bpfj.jp/act/contents_display/3/29/
※この事業は、競輪の補助を受けて実施しているものです。
24
企業活力
IoTがもたらす我が国製造業
ものづくり
の変容と今後の対応
ものづくり懇話会
本調査研究は、IoT(Internet of Things)を取り巻く国内外の最新動向や、IoTが我が国製造業に
もたらすインパクトを明らかにし、こうした新しい 状 況 下 に おいてこれまで日本が 強 みとしてきたも
のづくり産業が直面する課題や問題点を明らかにすることを目的としています。
当研 究 所 内にものづくり懇 話 会( 座 長:小川紘 一 東 京 大 学 政 策ビジョン研 究センター シニ
ア・リサーチャー)を設 置し、各 分 野 の 学 識 者 や 有 識 者 から問 題 提 起 につながるプレゼンをいただ
き、講師、経済産業省を交えたディスカッションを行いました。
本稿では、第2回(平成26年12月26日)以降の講演内容について、各講師の方々の発言内容を講演
の日時毎に紹介します
(なお、第1回(12月12日)は2015年春季(No.95)に掲載済みです)。
左から小川座長、西垣室長
ものづくり懇話会メンバー名簿
座 長:
小川 紘一
東京大学 政策ビジョン研究センター
シニア・リサーチャー
講 演(平成26年12月26日)
新 誠一
電気通信大学情報理工学研究科 教授
講 演(平成27年1月15日)
天岸 義忠
北野 宏明
アルプス電気(株)取締役
(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長
講 演(平成27年1月28日)
高梨千賀子
西岡 靖之
立命館大学大学院 准教授
法政大学デザイン工学部 教授
ものづくり懇話会の様子
講 演(平成27年3月17日)
長島 聡
(株)ローランド・ベルガー日本共同代表 シニアパートナー
参加者:
西垣 淳子
川森 敬太
廣澤 孝夫
宮本 武史 吉澤 宏隆
吉井 清
吉本 陽子
国松 麻季
経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長
経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐
(経済産業省の製造産業局、商務流通政策局担当課から出席)
(一財)企業活力研究所 理事長
(一財)企業活力研究所 専務理事
(一財)企業活力研究所 企画研究部長
(一財)企業活力研究所 調査役
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)主席研究員
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)主任研究員
ほか
(企業名・役職名は当時、氏名順不同、敬称略)
ビッグデータ時代(IoT 時代)のサイバーセキュリティ
講師 : 新 誠一 電気通信大学情報理工学研究科 知能機械工学専攻 教授
【はじめに】
重要インフラはインター
ネットにつながっていないと
いう言い方をされていたが、
現実には2010年にコンピュー
ターウイルスである「スタッ
クスネット(Stuxnet)」に
よるイランのウラン濃縮施設
に対する攻撃があった。ここ
から経済産業省を中心に状況
が大きく変わり、「技術研究組合 制御システムセキュ
リティセンター(Control System Security Center;
CSSC)」という組合ができた。今後、IoTやインダス
トリー4.0といった構想のなかで、さらに多くの機器を
インターネットにつないでいくこととなる。IoTやクラ
ウドといったUser Generated Contentsの世界に入って
いくのはとめられないが、セキュリティ対策は極めて重
要である。
企業活力
25
も の づ く り
IoT がもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
やGPSによる位置情報、温度、湿度がわかる。画像もと
【ビッグデータやサイバー空間を活用した新しいものづ
れるし、決済情報もあるため、集めて提供するとビジネ
くりの潮流】
スになる。これがビッグデータの1つの姿である。プラ
CPS(Cyber Physical System)は、現物と全く同じ
イバシー侵害になるので、個人情報を削る「ハッシュ」
ものをコンピューター空間につくってシミュレーション
という加工がなされている。しかし、その情報を混ぜて
するということである。現在、トヨタ自動車はカローラ
つくられる「ミンチ」は、分析すると元はどこのものか
を世界同時生産している。マザー工場が日本のどこかに
がわかってしまう。クラスター分析でグループ化した情
あるのではなく、CATIA、コンピューターの中で生産
報も、複数のデータを重ね合わせると絞り込むことがで
ラインを構築し、シミュレーションをして、組み立てマ
き、再生できる可能性がある。そこまで考えたミンチ化、
ニュアルをつくる。そのマニュアルに基づいて世界で一
ハッシングを考えなければいけない。
斉につくり出すという時代に入っている。
Googleカーが話題になっているが、Googleは車をつ
く る の で は な く 、 よ り 大 き い 商 売 を 考 え て い る 。 【不正ログイン】
昨今、流出パスワードでの不正ログイン事件が多く、
Googleの狙いは、数千万台の車の全てにカメラをつけ
SuicaやJALのマイレージバンクが攻撃された。情報処
て、その映像をGoogleが全部握り、Googleのクラウド
理推進機構(IPA)はサイト毎、定期的にパスワードを
に情報を集めるというものである。それをSLAM
変えるよう指導しているが実効性はない。工場や建設機
(Simultaneous Localization And Modeling)と呼んで
械、農業機器等でも管理の困難から同じパスワード、同
いる。自動車業界では自動運転がブームとなり、トヨタ
じ鍵が使われている。コントローラーを製造するベン
自動車も日産自動車も2020年までに自動運転の車を走ら
ダーが石油精製の工場でメンテナンスを行う際も、全て
せると凌ぎを削っている。しかし、常にリフレッシュさ
の鍵が共通である。自動販売機、ホテルなども必ずマス
れる3次元地図をベースに商売をしていくというのが
ターキーがある。そうした中でのセキュリティ担保は重
Googleの狙いなので、世界の自動車会社がみんな
要である。
Googleの配下となり、Googleに情報提供し、しかも
2014年4月にウィンドウズXPのサポート期限が切れた
Googleから情報をもらわないと自動運転や衝突防止が
が、銀行や官庁を含む各所で未だ使われている。ウィン
できないというのがひとつの姿になっている。
ドウズ2000ですら、未だ多数の基幹業務で使われている。
また、消費者に対し、短納期、低コストで高付加価値
なものを届けていくというのが現在の製造業のトレンド
である。ネジやバネ等を販売する商社のミスミは、自動 【標的型攻撃等による機密漏洩】
機密情報を盗む「標的型攻撃」が日常化している。日
化設備の設計事例をウェブで公開し、バーチャルに設計
を確認したうえで発注でき、発注後1日で提供している。 立や東芝の製品などを狙った攻撃がある。かつて紙媒体
であったマニュアルは現在ではクラウド化され、イン
携帯電話、スマートフォンのチップは台湾のメディア
ターネットにつないでマニュアルを読み、OBD(onテックが急速にクアルコムのシェアを奪っている。同社
board diagnostics)の情報に基づいて部品を交換すると
が全ての設計図を公開しているからである。自社を使っ
いう時代であり、ネットワークにつながないと仕事がで
て、他社の積層コンデンサ、抵抗、パネルなどを組み合
きない。文書の表示装置または動画プレーヤーなどのソ
わせたレファレンスと呼ばれる設計図を公開しており、
フトウェアに脆弱性があるとそこを攻撃される。普通の
設計図どおりに部品を集めて組み立てれば、誰でもス
テキスト文に見えるスクリプトがファイアウォールを通
マートフォンがつくれる。部品会社は、レファレンスに
り抜け、プレーヤーに異常を生じさせる。
自社の部品を載せてもらうことに懸命である。設計図を
2013年には「百度」の日本語変換ソフトが問題になっ
公開することによってシェアをとるという21世紀の1つ
た。百度を使って文章を書くと、百度のサーバーに文字
のあり方である。
情報が全部上がっていくというもので、内閣官房情報セ
キュリティセンター等は、中央省庁や大学などに使用停
【セキュリティの弱点とセキュリティ対策の重要性】
止を呼びかけた。
ものづくりは20世紀はプロフェッショナルの手の内に
1年半ほど前、東京大学でコピー機の情報が流出した。
あったが、プロフェッショナルとコンシューマーの区別
デジタルコピー機はスキャナーがJPEGファイルに変え、
がなくなっていき、プログラムの構築に消費者が入って
JPEGファイルをレーザープリンターに送り込んで印刷
きて情報を握るようになる。これがUser Generated
するため、コピーした書類が公開状態になる危険がある。
Contentという世界であり、当然、ここはサイバー攻撃
また、コピー機は業者が24時間メンテナンスをしており、
の対象になっていく。消費者のコンピューターやスマホ
全てインターネットにつないでおり、同じデフォルトの
の中で知らないソフトが勝手に動いているということも
パスワードなので全て見られることになる。
あり得る。
東京電力等は2020年に全ての家庭にスマートメーター
を提供する。これもIoTの1つで、スマートメーターを 【制御システム】
広く採用されているリアルタイム制御のコントロー
消費者の手元に置くことになるため、誰もが入手でき、
ラーの開発ツールはWindowsマシンであり、開発環境
それに対する攻撃手順を探すことができるため、先進事
においてシミュレーションのうえ開発し、でき上がった
例があるオランダやアメリカでも問題が起きている。
コードを送り込むという形で動かしている。世の中は
スマートフォンには多くのセンサーがあり、電話番号
26
企業活力
も の づ く り
iPadやAndroidのタブレットに変わっていくが、コント
ローラーが移行しないのは開発ツールが対応しないから
である。経済産業省は2014年5月の告示により、脆弱性
の届出義務をパソコンやウエブサーバーからコントロー
ラーにまで広げた。知らずに使っている人々に情報を伝
えるという趣旨である。
2010年にStuxnetの攻撃があったが、開発用パソコン
から侵入してシーメンスのコントローラーのプログラム
を改変した。イランの当事者たちは気がつかないまま、
遠心分離機の故障率が高まり、核開発が遅れた。
【制御システムセキュリティセンター】
2011年3月11日の東日本大震災で被災地は電気、ガス、
通信、列車などが止まるブラックアウトを経験した。こ
れは自然災害であったがサイバー攻撃においても同じこ
ととなる。現在、宮城県多賀城市に本拠を構えるCSSC
は、復興予算の支援を得てテストプラント(ガス、下水、
石油化学、発電所、スマートグリッド、ビル等)を9基
つくった。2012年度に経産省の支援で「サイバーセキュ
リティ演習」を実施し、電力、ガス、ビルの運用担当者
に対し、侵入時の対処手順を演習し、安全性が増した。
2013年度は認証事業を実施し、ISA/IEC62443という
一般化コントローラーのセキュリティ基準で、これに基
づいた認証事業を始めている。中東地域ではサイバー攻
撃が日常的にあるため、セキュリティが担保された商品
のニーズが高いため、認証により販売が促進される。国
内の重要インフラを守るだけではなくて、世界の人に安
心安全を提供していくための国際認証事業である。
(出所)技術研究組合制御システムセキュリティセンター
【情報セキュリティ対策】
情報技術は情報通信、情報ストレージ、情報処理の3
つから成る。セキュリティ対策の技術は暗号化、認証、
監視の3種がある。これらを確認すればセキュリティレ
ベルがわかる。
携帯電話や固定電話の通信は暗号化されている。ホー
ムページに入るときには認証がある。しかし、中にある
オラクルのデータは暗号化、認証化、監視化されていな
い。iPhone5、5Sまでは暗号化されていない。iPhoneは
iPhone6、iOS8から内部情報が暗号化されている。この
ように,セキュリティ対策が進んでいる。
IoE が電子部材産業にもたらす影響
講師 : 天岸 義忠 アルプス電気㈱ 取締役 品質担当兼生産本部資材担当
【IoE(Internet of Everything)
とは】
I o E は 、モ ノ に 関 わ る
IoT(Internet of Things)と、
人に関わるIoH(IoP)から成
ると整理している。世界の人
口は約80億人であり、個体に
対しての生体センシングや、
人のモニタリングには相当な
ニーズ が ある。私 たち部 品
メーカーにとってはハードウエアをどうするかが問題とな
るが、モノだけの世界ではなく、サービス全体の体系で考
えないと、IoT、IoEは成立しない。ベネフィットをどうす
るかを考える必要がある。
【市場動向と IoE をめぐる覇権争い】
横軸に年代、縦軸に生産規模(商品数)をとった座標
軸の斜め45度の線上に、情報端末のトレンドを捉えるこ
とができる。オフコン→パソコン→スマホ/タブレット
/ウェアラブル子機→IoH化(ウェアラブル/生体/埋
込)と、時代の変化とともに情報端末機器の生産台数が
1デジずつ上がっている。次は、人に対して何らかのベ
ネフィットを与えるような、さらにもう一桁大きい動き
のものが来てもおかしくない。それがIoTかはわからな
いが、個人としての生活が豊かになる何らかの情報提供
装置のようなもの、もしくは一連のシステムが来るので
はないかと考えている。IoEの中で最大の覇権争いは、
ルーターをどうするかという点になるであろう。
(出所)アルプス電気㈱ 天岸講師 プレゼン資料
企業活力
27
も の づ く り
IoT がもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
また、45度線の左上が「デジタルワールド」、右側が安
全・安心が重視される「すり合わせワールド」とみること
ができる。デジタルワールドに関係して発展してきたの
が、ネットワークである。デジタルと通信が、情報端末系
を大きくのみ込んで成長しつつある。一方、「安心・安全
シールド」と言っている部分は、いわゆる「すり合わせ」
が残る世界である。一番大きな製品である自動車は、趣味
の領域であることからブランドが輝く。たとえば、アルプ
ス電気はタクトスイッチ®をつくっているが、独車メー
カーはスイッチの音やフィーリングにも強いこだわりがあ
る。原価に対してではなくて、バリューに対してお金を
払ってもらえる領域であり、部品メーカーもこういったと
ころへのセンスを持つ必要がある。
【機能(モノ)から体験(サービス)へ】
モノからサービスへ、機能から体験へという流れがあ
る。車のデザインなどの感性にかかわる部分や、家電で
もダイソンのような優れたデザインが重視される。ま
た、デジカメでは、ウェアラブルカメラがはやってい
る。スキーや自転車で走っているときの景色を撮りたい
層は、高機能カメラよりもウェアラブルカメラを好む。
解像度などの機能ではなく、シチュエーションに合った
カメラに価値があるということである。モノであって
も、どういう営みの中にあるかということを踏まえてい
かないと、商品として成立しない時代になっている。
【HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の深
化とデジタル化】
今後、入力がどのような進化を遂げていくのかを頭に
入れながら機器の開発をしていくことが重要である。ス
イッチの次はタッチパネル、タッチパネルの次は音声に
なるかもしれない。ユーザー・インター・フェースの部
分は非常に重要であり、これが変わると表示やバイトな
どのフィードバックの部分も変わってくる。
【コモディティ化しない付加価値】
川上、川下戦略では、一般的に、川上側は「機能」が重視
され、川下側は「すり合わせ」や「ソフトウエア」が重視され
る。川下側は機能こそ少ないが、ユーザーに対するすり合わ
せはきちんとしなくてはいけないと考えている。両者の間の
中途半端な領域が最もベネフィットを生み出さない領域なの
で、コモディティ化を検討する際は、性能重視でいくのか、
ユーザー重視でいくのかはっきりポジション取りをして、自分
たちの立ち位置を明確にしながらやっていく必要がある。
【車載市場】
自動運転に関連して「スマートカー」と「コネクティッド
カー」という言葉をよく聞く。自動車メーカーはコネクティッ
ドカーと呼んでいる。コネクティッドカーは、ワイファイ系な
ど、従来からの通信技術を使った陣営である。アップルや
グーグルなど、ルーターの部分を携帯電話でやろうという陣
営はスマートカーと呼んでいる。スマートカーの流れであれ
ば、パソコンのようにデファクトスタンダード化に向かうので
あろう。この流れは今後さらに加速していくと思うので、誰
がプレーヤーになってくるかを見極めていく必要がある。
コネクティッドカーにかかわる国内施策を見ると、ITSの
情報通信を使った方法、プローブ情報の収集、物流支援、
車をプローブに用いたデータ解析等が行われている。私た
ちも車のプローブデータや、路車間のつなぎに対し、ビジネ
スとして大いに興味を持っており、ロバスト性の高い通信を
如何に確保するかが話題になっている。
今や車自体がプローブ化している。車そのものがセン
サーになり、水温計やタイヤの空気圧のセンサーなども加わ
り、情報処理に関連したビジネスチャンスが生まれてくる。
浸透する人工知能ロボット技術:第三次ロボットブームは本物か?
講師 : 北野 宏明 ㈱ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長
【ロボットブームと研究の
シーズ志向】
ロボットは、つくば博の頃
に少し盛り上がった後、2000
年ごろにロボデックスという
イベントや、ソニーのアイボ
やホンダのアシモが出てくる
など 、ロボ ット 研 究 者 や メ
ディアが 中 心に 盛り上 が っ
た。最近、またロボットが話
題になってきているが、過去との違いは投資家からの関
心が高まっていることである。
ロボットなどの「技術物」の開発はシーズ志向になり過
ぎる。大学の研究者もメーカーのエンジニアも、「技術
は、受益者に価値をもたらすための1つのオプションに過
ぎない」という発想ができない。基礎から応用研究の後、
実用化の前に「死の谷」があるという議論があるが、本当
28
企業活力
の死の谷はそれより手前の、応用に行くところにある。
「応用をどうするか」という段階で本当のバリューとは一
体何かを見極め、センスがある人に渡していかなければ
いけない。シリコンバレーはそういうエコロジーになって
いる。
【スタートアップのエコロジー】
サンディエゴは、30~40年前は何もなく、失業率が10%
と高かったが、今は全米第3のバイオテクノロジーのハブ
である。1978年にハイブリテックというベンチャーができ
て、イーライリリーに200億円で買収され、そのメンバー
が新たなベンチャーキャピタルやベンチャー企業をつく
り、それがまた成功するというサイクルができたためであ
る。
日本では、唯一、インターネットコマースの世界でそう
いうエコロジーが少しできつつある。楽天、DeNA、ミク
シィなどインターネットコマースやインターネットゲーム
も の づ く り
のようなところは成功し、大きなキャッシュを得て、それ
でベンチャーキャピタルをつくり、そこからまた第2世
代、第3世代の成功が出始めている。しかし、それ以外の
分野では難しく、例えばバイオテクノロジーは日本でこの
ようなサイクルができていない。ロボットはこれからが勝
負で、今うまくやれば、ロボットや人工知能関係でのス
タートアップのエコロジーができるかもしれない。
【人工知能とロボット】
「人間みたいなロボット」をつくるのではなく、人間に
できないことができるロボットをつくらなければ価値は生
まれない。人間理解のための一環として「人間みたいなロ
ボット」を研究することに価値がないわけではないが、そ
れがビジネスにつながるかどうかは別問題である。
ロボット産業の可能性には、ロボットを売る場合と、派
生技術を売る場合がある。いずれもコストの問題がある
が、重要なのはネットワークセントリックなロボットシス
テムであること。これからは、ネットワークで得た情報で
どのような価値を生み出し、ビジネスに仕向けていくかと
いう点が重要となる。一般的にいろいろなことができるロ
ボットはコストが合わない。費用対効果が優れていて、機
能特化したロボットが増えていくだろう。
【最新のロボット企業の動向】
グーグルが買収して話題となったシャフトやボストンダ
イナミクスは軍事用のロボットに展開できる技術を持つ。
また、アメリカはヒューマノイドロボットは強くなかった
が、最近、非常に強くなってきて、極めて運動能力の高い
ヒューマノイドをつくった。これも戦闘地で使うロボット
で、日本ではなかなか研究できないと思う。
国内では、テムザック社の歯科医研修用の患者全身ロ
ボットや脊損患者の歩行支援メカニズム、サイバーダイン
のロボットスーツのHAL等がある。ソニーCSLで研究し
ている歩行支援は、筋電ではなく動きに合わせてパワー
アシストする。まさにロボットの技術であり、アクチュ
エーターをコントロールするセンサーの精度、ヒューマノ
イドの歩行のメカニズムの応用等も必要である。担当者の
遠藤謙氏は、サイボーグ社を立ち上げ、東京パラリンピッ
クでオリンピックよりよいタイムで100メートルを優勝す
ることをターゲットにしている。科学技術振興機構の
ERATOプロジェクトには遠藤氏を含むメンバーがいた
が、そこからロボット関係6社、バイオメディカル関係3
社を含む9社が創業された。さらに、その時のメンバーが
中核となって、千葉工大の未来ロボット技術研究センター
ができた。そこはいま、福島で使われている原発対応用ロ
ボットをつくっている。松井龍哉氏はデザイナーで、新し
い家庭用ロボットを開発している。アールティ社はロボッ
トの部品販売、iXsリサーチ社は、インフラ整備の分野で
首都高速の整備用ロボットの主要納入業者である。
【ロボカップ】
ロボカップという世界的なイベントは、2050年までに
ヒューマノイドロボットでサッカーのワールドカップの
チャンピオンに勝つことを目的にしている。また、ロボ
カップはサッカーだけではなくて、ジュニアという教育プ
ロジェクト、レスキューというレスキューロボットのプロ
ジェクトも行っている。ワールドトレードセンターの現場
にもロボカップレスキューのチームが実際に入った。2009
年のチャンピオンロボットが、今、福島の現場に入ってい
るが、千葉工大が中心に開発したものである。
【グーグルの戦略とドローンの戦略的重要性】
グーグルにはSolve for <X>というプロジェクトがあ
り、ラジカルなソリューション、テクノロジーブレークス
ルーを目指すものである。ひとつの例は、ストレクチャブ
ルエレクトロニクスであり、グーグルはこの技術をコンタ
クトレンズに使い、糖尿病の血糖レベルのリアルタイムセ
ンシングをノバルティスと進めている。グーグルは、ビジ
ネスとしての自動走行に興味があるが、加えて大きな問題
を解決したいというアジェンダ、すなわち交通事故をなく
すというアジェンダを打ち出している。
ドローンについては、日本が完全に取り残される危険を
非常に危惧している。ドローンには、まだ安全性、ノイ
ズ、ミスユースなどの課題があるが、東京に1万台、日本
中に100万台飛ぶといったときに何が必要かを考えなけれ
ばいけない。5メートルから200メートルの間の空域の制御
の問題があり、国土交通省の管轄になるかもしれない。ド
ローンはロボットではなく新しい航空産業だと見るべき
で、そのように見ると全く違うものが見えてくる。また、
ドローンは確実に悪用されるので、それに対するディフェ
ンスをする会社は磐石なビジネスになる。ただし、ドロー
ンに本気でやられたら、ほぼ守れない。
【日本への示唆】
ロボットに事業機会があることは証明されたと思うが、
サンディエゴのバイオメディカルハブのようなロボット関
係のスタートアップエコロジーをどう形成するか。また、
日本も含めてネットワークをつくっていけるか。イノベー
ションを連続的につくり出すメカニズムは、ロボカップの
ように、国際的に人を集めてチャレンジすることが非常に
有効だとわかった。また、現実的にスケール感のあるとこ
ろに選択的投資をすることが重要である。
企業活力
29
も の づ く り
IoT がもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
(出所)北野宏明「2015年、第三次ロボットブームが花開くか? 尻すぼみになった第二次とのこれだけの違い」WEB RONZA 2015年1月1日
Industrie4.0 構想と企業の取り組み
講師 : 高梨 千賀子 立命館大学大学院 テクノロジーマネジメント研究科 准教授
【独公的機関による Industrie
4.0 の捉え方】
ドイツ機械工業連盟等公的
機関では、Industrie4.0を「第
4次産業革命」と位置付け、
Industrie4.0を、ドイツ製造業
が輸出国としての強みを維持
していくためにクリアすべき3
つの課題の方策としている。
その3つとは、①生産のための
エネルギーや資源の効率性、②製品の市場導入時間の短
縮、および③フレキシビリティの向上である。また、彼ら
がターゲットとする15年後の2030年には、Industrie4.0 は
単なるラボの世界ではなく、商業化のステージにあること
が期待されている。
Industrie4.0が実現した世界では、製品ライフサイクル
は個人の顧客ニーズを中心に展開され、製品ライフサイク
ルにおけるすべてのバリューチェーンはネットワーク化さ
れていく。異なる企業のエンジニアリング、生産、ロジス
ティクス、サービス、マーケティング等が縦横無尽に統合
されていき、リアルタイムで全ての関連情報が供給され、
バリューストリームが最適化されていくと公的機関はア
ピールしている。これの変革は、マネジメントと組織の変
革をももたらすものである。
【独企業の Industrie4.0 への取り組みと戦略:P&F の事例】
中堅のセンサメーカーP+Fは、1945年に創業した企業
で、2000年時点で2億ユーロだった年商が、2013年には5
億ユーロまで拡大し、同R&D投資額/年は約3,000万ユー
ロである。ラジオの修理から始まり、今では6大陸に販売
拠点も含めて80拠点以上を持つ(うち、生産拠点は10程
度で、残りは販売拠点)。P+Fの戦略は、国際市場におい
30
企業活力
ては国際標準規格に対応して、大量生産で規模の経済を
追求し、ソフトウェアで専有技術を忍ばせることで収益を
確保する。スケールメリットとコア技術の一体化である。
同社では、Industrie4.0に描かれているサイバー・フィ
ジカル・システム(CPS)とは、自社製品である組み込み
システム(Embedded Systems)とインターネットが結ば
れた世界であるとしている。インターネットの世界では、
専有技術は存在せず、Embeddedな知識などが定義され
ているだけである。デバイス側でも、ハードウェア技術
(機構)のエッセンスは大きく変わることはなく、むしろ
デバイスの接続や制御をつかさどるソフトウェアの設計に
こそ価値があると捉えており、ソフトウェアは、中堅企業
が強みを出しやすい技術としている。
さらに同社では、組み込みソフトウェアを取り巻く外側
のハードウェアやIFなどの各種規格においては標準化に
うまく対応することで、汎用の低価格デバイスを提供し、
グローバル市場で量産効果を得ようとしている。組み込
みソフトウェアのカスタマイズと標準化対応に基づくビジ
ネスモデルと言えよう。カスタマイズにおいては、複数の
海外拠点を通してlocal demandを吸い上げ、製品開発へ
フィードバックしていく体制である。標準化と製品開発は
並行して進めている。Solution Engineering Centerが中
心になって世界中のカスタマー(P+F製品ユーザー)と
密接な協業体制をとり、製品設計に結びつけている。
以下、3つの具体例を挙げよう。同社のRFID(リーダー
/ライターとトランスポンダの間で情報をやりとりし、個
体を識別する装置)では、複数のネットワーク規格に対応
させて組み込みソフトに標準プロトコールを用いることで
普及を狙っている。周波数帯も複数の国際基準に対応可能
である。EU圏ではソフトウェアのみでカスタマイズが可能
な状態にある。国際標準になっており、それも自社で認証
ができるため、素早く市場への導入が可能になっている。
も の づ く り
また、同社のIn-Line Sensor-Management with
consumer-hardwareはIndustrie4.0を想定した製品で、異
なるメーカーのデバイスが世界標準規格のIO-Linkで接続
されたシステムに、P+Fの占有ノウハウをアプリケー
ションに埋め込むことで利益を上げていくビジネスモデル
になっている。センサーは競合が多く存在するため、ス
マートブリッジのほうが収益が期待できると考えており、
そのインターフェースを標準化することで大量普及を狙っ
ている。
最後に、DART(Dynamic Arc Recognition and
Termination)はP+Fによって開発された新しい本質安
全コンセプトのことであり、国際標準とした。一般的に
言って、新しい技術は古い技術を駆逐することが難し
い。そのため、同社は、DARTという技術プラットフォー
ムを形成することでパテントを取り、知財で保護した上
で、国際標準化を行った。長寿製品をつくり出して、継続
して利益を獲得していくことが可能なモデルに仕上げ
た。同時に、国際標準とすることによって、中国等の模倣
技術を抑制しつつ、DARTの市場を確保していくことが
可能となっている。 【独企業の Industrie4.0 への取り組みと戦略:Siemens】
大企業のSiemensは、デジタルエンタープライズになる
ことを通してIndustrie4.0のビジョンを実現することを掲
げ、2007年から40億ユーロの投資を行って転身を図って
きた。同社は①生産ネットワークを適用すること、②バー
チャルワールドとリアルワールドの融合を図ること、およ
び③サイバー・フィジカル・システムをデジタルエンター
プライズのための3つの柱として掲げている。
②バーチャルワールドとリアルワールドの融合を図るに
おいては、設計と製造の橋渡しプラットフォームを構築し
ている。つまり、製品ライフサイクル上で製品企画部門の
設計エンジニアと工場の生産エンジニアが共通して使え
るデジタル・エンタープライズ・プラットフォームであ
る。今まで、製品規格部門のR&D部と生産部門のR&Dに
はデータのギャップがあり、使われているアプリケーショ
ンも違っていた。このプラットフォームに乗れば、単一の
データをやりとりでき、リードタイムの短縮に貢献でき
る。プロダクトライフサイクル(PLC)の設計・開発・製
造の各段階で、バーチャルモデルを活用し、それらが妥
当なものとなったときにリアルな製造へと落とし込んでい
くのである。製造が困難だとわかると、設計に戻され、改
良される。同じプロセスを繰り返し、問題がなくなると実
際の製造に入る。
このベースにあるのが③CPSであり、デジタル・ツィン
と言われている。現実の機械や部品のコントロールシステ
ムをバーチャルに提供する技術である。物理的な本物を
バーチャルな世界にコピーして、そこで操作をする。この
システムを通して、次のjobのためのシミュレーションが
可能になり、80%の時間が短縮でき、10%生産性が上がる
という。
①では、PLMソフトウェアで制御され、オフィス側のソ
フトウェアと、工場側のトータル・インテグレーティッ
ド・オートメーションシステム(TIA)をつなぎ合わせた
統合的なプラットフォームを開発しており、それを世界の
生産拠点で統一して用いることにより、各拠点間のバ
リューチェーンのインターオペラビリティを実現した。
シームレスな流れを可能にした大きなプラットフォームを
提供できるのは自社だけだとしている。
【日本企業の従来の事例】
富士通はSiemensと似た取り組みをしている。DFM
(デザイン・フォー・マニュファクチャリング)という、
企画、製品設計、試作評価までを統合したソフトウェアを
提供している。
三菱電機は、工場の中のトータルシステム(e- F@
ctory)を提供している。同社は独自技術を国際標準にし
たフィールドネットワークCC-Linkを展開している。
Siemensも同じようにPROFINETがあるが、そのカバー
範囲が上位層のアプリケーションも含んでいる点が異な
る。三菱電機の場合、あくまでも自社のコア製品である
サーボモータやシーケンサーなどの機器売りビジネスが
中心であり、これらをつなぐ多層のネットワークを構成し
ているが、上位層ほど、システムインテグレーターとの協
業の度合いが高くなる。
キーエンスは2次元バーコードの周辺の技術でユーザー
の使用環境に直結するところで特許を取っており、それに
基づいたカスタマーソリューション、サービスソリュー
ションを収益源にしている。そのため、ハードウェアでコ
モディティ化が起こっても対応可能となっているところが
特徴的である。
【考察:Industrie4.0 を見据えた日本企業の戦い方】
Siemensも富士通も、上位層のICTを制するものはやは
り強い。商品サービス仕様の決定権を巡るノウハウの所
在が重要であると考えられる。日本企業は、往々にして、
ハ ード ウェアを中 心 にノウ ハウを 蓄 積し てきた が 、
Industrie4.0への準備として、ソフトウェアにおいて仕組
みづくりができるようなノウハウ蓄積が必要になってくる
のではないだろうか。
ITは標準化が進み、差別化は難しくなってくるので、
それらを統合したプラットフォームを構築していくことが
一つの方向性であろう。一方、キーエンスやP&Fのよう
に、デバイスに特化したビジネスもあるが、ITで繋げばよ
いという問題ではない。たとえハードウェアのコア知財を
持たなくても、それを熟知さえしていれば、ソフトウェア
で付加価値を創出したり知財を設定したり、それと標準
化の合わせ技を用いるなどのパターンがあり得ると考えら
える。
企業活力
31
も の づ く り
IoT がもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
わが国によるものづくりと ICT のイニシアチブ
講師 : 西岡 靖之 法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科 教授
【IoT における人の役割】
Industrie4.0の話を含めて、
世界中がものづくりとICTの
未来について盛り上がってい
る。今後、日本的なものづく
りは ど うな る か 。ノウ ハ ウ
( 暗 黙 知 )を I C T で つ なぐ
際、ICTと人のよさをどう折
り合いをつけるかが大きな課
題である。IoTでは何もかも
インターネットにつなぐという風潮があるが、全てのモノ
がデータになるわけではなく、蓄積すべきデータ、その場
で捨てるデータの判断、蓄積したデータの意味あるデータ
への加工などが必要である。また、それぞれのデータがど
うつながるかが価値の源泉である。どことどこをつなげ、
どのデータが誰にとって意味があるかという関係性をつ
けるのは、やはり人である。したがって、IoTが進めば進
むほど、人が関与する仕事、人の付加価値が増え、トータ
ルの生産性は上がる。
【2 種類のシステムと人を含めた情報連携】
人工物のシステムを「第1種システム」、経営システム
や工場の仕組みなどの業務システムは「第2種システム」
として区別すべきである。例えば、制御のITとエンタープ
ライズ系のものづくりの現場の生産管理のITは、同じIT
と言えないほどに拠って立つディシプリンが違う。
日本的なつながる工場の特徴は、人を含めた情報連携
にある。コントローラー同士のM2Mの世界は、人工物が
設計どおりに動く世界である。それに対して、工場現場、
生産現場、あるいはサプライチェーン、バリューチェーン
は、人を含むシステムであり、エンジニアリングの世界で
閉じた第1種システムではなく、マネジメントを含めた第2
種システムが対象である。
【工場まるごと連携デモ】
「生産システム見える化展」というイベントに「NPO法
人ものづくりAPS推進機構」として参加している。工場の
ソフトウェアは第2種システムである。日本の工場はITが
うまく導入できないとよく言われるなか、企業の方々と、
如何に工場の仕組みをIT化しようかと10年ほど取り組ん
できている。そこで出た1つの結論は、「つなぐ」という
ことである。今の中堅・中小企業の生産現場では、Excel
を用い、個々の現場がそれぞれデータを管理している。工
場全体で効率的にやりとりするには、それらが連携しなけ
ればいけない。会社間、業務間の連携には、そこを司るソ
フトウェアも連携しなければいけない。そこで、非常用発
電機を製造するアプソム電機(仮想の企業)の生産革新
活動の場を想定して、それぞれの段階のソフトウェアを連
携させた。以前はインターフェースが標準化されていな
かったため連携が難しかったが、ここ1、2年、大手のソフ
32
企業活力
トウェア会社も自前主義の意識を変え、得意分野を持ち
寄ることで連携への対応が進みつつある。
【つながる町工場(プレス加工企業間の連携)】
「つながる町工場」プロジェクトは2014年暮れ頃から、
複数の10-20人規模の町工場により取り組まれている。同
業社同士が、お互いの強みをもちあって協力しあい、相互
につながることで得意先を拡大しようとしている。取引先
とつながらないと、個別受注や見積り提出などに工数が
多くかかってしまう。定型の見積もりだけではなく、不定
型な見積もりや個別の図面、材料の値段表などへも対応
していく。会社の内部もある程度IT化されている必要が
ある。タブレットやバーコードリーダーなどを含めて道具
がそろってきたので、ある程度普及し始めている。
【日本的な製造現場の参照モデル】
日本的な強さは生産現場にあるとよく言われ、異論はな
いと思うが、ある程度IT化されてきた繰り返し生産は利
益が出ないことがわかってきた。1回のみの生産、小ロッ
トといった注文が多くある。生産それ自体より、生産のた
めのしくみを作るプロセスや、ものをつくる段取りの方が
大変であり、そこをいかに効率的にするかが競争力の源
泉になっている。
(出所)西岡講師 プレゼン資料
製造を実行するための、生産準備、生産技術、工程設
計という、要はからくりの世界をどうつくっていくのか
が、実は一番のターゲットである。ITとはほど遠い、
まさに人間が創意工夫するところであるが、CAEのよ
うに、人が操作する道具としてのITが生産技術を支援
することが重要である。
【リファレンスモデル】
Industrie4.0に絡み、「リファレンスモデル」という言
葉を目にするようになった。「最低これを守ってくださ
い」という言い方をすることによって、接続仕様そのもの
が緩やかに統合されていくという仕掛けが海外で進めら
れている。リファレンスモデルをつくり、それに合わせて
も の づ く り
ものづくりやソフトウェアづくりを促す方法である。日本
でもそういうリファレンスモデルをつくる必要があり、先
ほど の N P O 法 人 が 中 心となりつくっており、これ は
IEC62264の中にも組み込まれている。国際標準に載せる
ことは、実はそれほど難しいことではない。企業のエゴの
ぶつかり合いとなると、囲い込みなどの話が出てくるが、
標準として緩やかにつくる分には歓迎される。
モノを動かすIT、いわゆる組み込み系のITは、ハード
ウェア+ソフトという製品の位置づけで、人工物であり、
ここは日本は比較的強い。一方、人を動かすITである工
場の仕組みとか業務システムとか、エンタープライズ系は
弱い。
Industrie4.0やものづくりの今後は、「つながる」とい
う話とITの話が入ったとたんに、ルールチェンジがある
のではないか。Siemensも業務システムを利益のコアに据
えていこうとサービスにシフトしていき、その一ライン
アップとして製品になる。ものづくりをネタにサービスで
いかに稼ぐのかがポイントとなる。
【20 年後のものづくり& ICT】
日本のソフトウェア産業にとって、ものづくりをネタに
海外でソフトウェアビジネスを展開する大きなチャンスで
ある。ものづくり絡みの生産管理や、トヨタ方式の仕組み
がこのパッケージを入れるとできるといえば売れる。そこ
にサービスやコンサルを投入し、機器も売っていくことが
商機につながる。
Industrie4.0はプロセス+データで保証するという視点
である。このプロセスとデータによる品質保証の仕組みを
日本がASEANでつくることができれば、日本の技術を国
際的に展開し、そこから利益を戻すことを考えられる。そ
のためには、日本のものづくりをソフトウェアとして標準
化して、ITに乗る形にすることが必要である。ものづくり
を実際にやっている、ノウハウを持っているところがそれ
をどう使うのかをリバインドして、それに合わせてソフト
ウェアベンダーはソフトを売り、製造業は管理レベルを上
げることができる。
【インダストリアルバリューチェーン】
価値を生む末端のところまで利益が還元されるインダ
ストリアルバリューチェーンを構築することを提案した
い。儲かっていて能力のある大手メーカーのみにバリュー
が蓄積されるのではなく、バリューを生み出すために貢献
した中小企業、地方の工場など、設備の改修、製造装置
の部品の交換などに関する中小・零細企業など、すべて
のステークホルダに利益が行きわたるという姿が実現さ
れることが期待される。
一見するとサイバー・フィジカル・システムだが、大手
製造業や、海外拠点や、中小製造業や、地方のいろいろ
な工場が、緩やかな標準によってつながり、製品(ワー
ク)、装置、情報、技術(知財)のトレーサビリティも可
能となる。およそ8割をICTでつなぎ、残る2割を人がつな
げておけば、新しいバリューチェーンに切りかわったとき
に対応するためのスイッチングコストが吸収できる。
IoT の潮流が自動車業界にもたらすもの
講師 : 長島 聡 ㈱ローランド・ベルガー 日本共同代表 シニアパートナー
【Industry4.0 の全体像】
【Industry4.0 の 6 つの価値】
ドイツの Industry4.0は製造
Industry4.0におけるものづくり/サービスの変革のコ
業の復権がメインであり、全
ンセプトは 6 つに分類される。
体像の中央に大きく工場があ
る。その中に 3Dプリンター積
層製造、ナノテクノロジー、
ロボット、自律走行の AGV 等
が入っている。また、センサー
からのデータがインターネッ
トにつながって集められ、ビッ
クデータとなる。ビックデータに集まった情報を見ながら、
先進的なマニュファクチュアリングシステムを実現する。
すなわち、製品に応じてラインを柔軟に組みかえ、ボトル
ネックを常に見つけながらつぶしていくという取り組みで
(出所)長島講師 プレゼン資料
ある。投資に見合った効果を得るには企業の手腕も問わ
れる。
① Cyber physical system:モジュール化
各モジュールのつながりを構造化し、車両の品質向上
に貢献する。車のシステムのつながりをふやし、機能を
担保しつつ、全体の簡素化によるコストダウンを実現す
る。昨今のフォルクスワーゲン(VW)の MQB という
モジュール化がこれに当たる。VW のモジュール戦略は、
過去に日本でなされたコスト削減を目的とするモジュー
企業活力
33
も の づ く り
IoT がもたらす我が国製造業の変容と今後の対応
ルギー変換効率の高度化を図るものである。環境基準の
ル化とは異なる。
まずは 30 ~ 50 の車両の基本性能によっ
達成によって補助金を獲られるという考慮点もある。
て車両のアーキテクチャーを定義し、次にこれを実現す
るために、ビックデータやバーチャルシミュレーション
⑤ Virtual Industrialization:バーチャル工場
を活用し、モジュールに性能を割り当てて開発する。こ
工場の建設、ライン変更、メンテナンス、廃棄コスト
れを「レゴブロック」のように組み合わせて、VW らし
まで将来を想定して投資対効果を高めるようバーチャル
い車を少ない開発工数でつくる。モジュールの共通化・
シミュレーションしておく。コスト削減と生産性の向上
標準化を通じ、スケールメリットも獲得している。
が実現される。
VW は 10 年スパンの計画で、地域毎に売り出す車の
大きさ・タイプ、ブランド、装備や価格を決めてモジュー
⑥ Big date:ビッグデータ
ルを用意している。モジュールによって車両の約 60 %
製造業を中心に既存のシステムや物をインターネット
を先行開発工程でつくり込んでいるので開発期間も短縮
でつなげ、さらなる効率性を追求することが中心である。
される。さらに、
ベーシックモジュールに加え、
バリエー
そのため、製造業の工場の生産工程やサプライチェーン
ションモジュールでスポーティーな、あるいはコン
フォートな味つけし、
乗り味や仕立てを多様化している。 全体を含むインターフェースを見える化し、そこに集
まったデータを使って効率化やマスカスタマイゼーショ
また、設計だけではなく、生産のモジュール化も進め
ンをしていこうという取り組みである。車業界では注目
ている。VW はグローバルで 400 ~ 500 万台の MQB の
されている自動運転も地図や走行パターンなどのビッグ
生産を計画している。最初につくった MQB 工場のコ
データを活用した事例である。
ピー・アンド・ペーストをグローバルで展開し、モジュー
ル化された生産工程・設備が導入されている。
また、完成車メーカーだけでなく、Bosch などのメガ 【Industry4.0 の本質】
Industry4.0の6つ価値は、①自動車産業全体への認識力
サプライヤーもこうした取り組みを行っている。サプラ
の拡大と問題の把握、すなわち「見える化」と、②高い機
イヤー業界では、モジュールを「プラットフォームとア
動力による効率化・付加価値向上の2つに整理される。
プリケーション」と言うケースが多い。プラットフォー
「見える化」は、自社内の機能(開発、生産、販売、調
ムは、どのバージョンの製品でも同じ部品を使っている
達、保守、マーケティング等)、プレーヤー(サイプライ
ところである。アプリケーションは、廉価、標準、高機
ヤー、顧客、競合先)、時間軸(将来予測を含む)をそれ
能、超高性能の各モデルに合わせて追加するという位置
ぞれ跨いだ取り組みである。見えるようになってやるべき
づけである。これによってプラットフォームのスケール
は、効率性向上と付加価値向上である。非効率的なボト
メリットを実現し、ニーズに応じてアプリケーションの
ルネックの改善、バーチャル開発による自動化、開発・生
組みかえで対応している。
産のモジュール化、エネルギーマネジメントなどを進めて
効率化するとともに、顧客に対する付加価値を最適設計
② New quality connectivity
や、マスカスタマイゼーションなどを実現する。なお、現
:バーチャルシミュレーション
在のIndustry4.0は、効率化に重点がある一方で、顧客に
高い精度で車両全体をシミュレーションし、実車の実
対するより直接的な価値提供については限定的である。
験に頼らず、大部分の設計を完了する。これを「モデル
ベース開発(MBD)
」といい、車両レベルでの要件規定
(さまざまな走行環境での操作性、車内からの視認性な 【日本企業の方向性】
欧州では見える化し、マネジメントが全体を俯瞰した
ど)から、部品レベルの詳細設計まで幅広く対象にして
うえで現場に指令を出す方法をとった。日本にはカンバン
いる。日系ではマツダも MBD を進めており、性能、品
方式があり、前工程と後工程を意識しながらボトムアップ
質向上と開発コストの削減に大きく貢献している。マツ
ができている。日本企業には、新しい顧客起点での付加
ダのシミュレーションの狙いは、実車開発では実現でき
価値を追及する枠組みに取り組んでほしい。そのために、
ない性能・品質の向上にある。
顧客のニーズと意思決定サイクルに即した価値提供の仕
組みを構築することが重要である。開発は 5 年に1 度のイ
③ Smart robot and machine:3D プリンター
具体例である 3D プリンターは、製造の自由度向上、 ベントとするのではなく、ランニングチェンジなどを強く
リードタイム削減および材料費の削減が画期的である。 意識すべき。社内外の各機能が密に連携、分担ながら、
顧客ニーズや意思決定サイクルに合った対応を行えるよ
フォードは 3D プリンターを活用し、試作期間を大幅に
うな構えを持つ。顧客ニーズやタイミングを予見し、その
短縮している。3D プリンターは②のシミュレーション
ための仕込みをしておく。また、IT 化はコストがかかる
との関係で重要であり、短期間・少コストで試作が作れ
部分だが、日本では現場が周りを見てくれるという強みが
れば、短期間で PDCA が回せるためモデルの精度が上
あるので、過度に ITに頼らず、投資対効果を見きわめな
がる。
がら進めることが適切である。現場が前後の工程だけで
なく、前の前、後の後の工程もしっかりと見えるようにマ
④ Energy efficiency and decentralization
ネジメントが支援すれば全体最適に近づくことが期待さ
:エネルギーマネジメント
れる。
環境性能の向上とコスト削減のために、化石燃料から
再生可能エネルギーに切り替え、燃焼の高効率化やエネ
34
企業活力
企業法制
「消費者契約法改正の論点に
ついて」と「投資協定・投資協
定仲裁について」
企業法制委員会
企業法制委員会は、平成27年3月18日(水)及び平成27年5月14日(木)に開催されました。3月
18日の委員会では「消費者契約法改正の論点について」をテーマに、一般社団法人 日本経済団体
連合会 常務理事の阿部 泰久委員にご説明いただきました。また、5月14日の委員会では「投資
協定・投資協定仲裁について」をテーマに、経済産業省 通商政策局 経済連携課 高橋 直樹課
長補佐をお迎えし開催致しました。
両委員会は、川田 順一委員長(JXホールディングス株式会社)の司会により進められ、それ
ぞれご説明があった後、参加者を交えて活発な意見交換が行われました。
阿部委員
写真左より、川田委員長、中原課長、髙橋課長補佐
ご出席者名簿(3月18日開催委員会)○
(5月14日開催委員会)●
委
員
長:
○●川田 順一 JX ホールディングス(株)取締役 副社長執行役員
経済産業省:
○●中原 裕彦 経済産業政策局
○●黒田 嘉彰 経済産業政策局
○●梶元孝太郎 経済産業政策局
●津田麻紀子 経済産業政策局
○●中村 昌克 経済産業政策局
産業組織課
産業組織課
産業組織課
産業組織課
産業組織課
課長
課長補佐
課長補佐
課長補佐
係長
●高橋 直樹 通商政策局 経済連携課 課長補佐
●大槻 衆 通商政策局 経済連携課 係員
委 員 : ○ 大久保 安 (株)神戸製鋼所 法務部長
○ 加藤 雅彦 四国電力(株)総務部 部長(法務担当)
○ 古本 省三 新日鐵住金(株)法務部 部長
○●佐成 実 東京ガス(株)総務部 法務室長
●田中耕二朗 トヨタ自動車(株)法務部 部長
○ 阿部 泰久 (一社)日本経済団体連合会 常務理事
●新井 克彦 パナソニック(株)リスク・ガバナンス本部
副本部長(兼)事業法務部 部長
○ 永田 真紀 パナソニック(株)リーガル本部
コンプライアンスグループ グループマネージャー
●土井 淳 (株)日立製作所 法務本部長
○ 松永 秋彦 三井化学(株)法務部長
●原田庸一郎 三菱重工業(株)総務法務部 法務担当部長
○ 藤田 和久 三菱商事(株)法務部長
委員代理:
○ 宮原 淳 キヤノン(株)法務統括センター 法務部 部長
○ 山下 淳二 (株)神戸製鋼所 法務部 担当部長
●篠原 朝子 東レ(株)法務部
○ 須藤 充教 トヨタ自動車(株)
法務部国内法務室東京 G グループ長
●和田 照子 (一社)日本経済団体連合会
国際経済本部 上席主幹
○ 海保 太郎 (株)日立製作所 法務本部 部長代理
○ 穂上 武史 富士通(株)法務・コンプライアンス部 部長
●荒木 達樹 富士通(株)法務・コンプライアンス部
●西岡 敦 三井化学(株)法務部 主席部員
○ 小林 一郎 三菱商事(株)法務部 生活産業チーム
チームリーダー
(企業名五十音順、敬称略)
企業活力
35
企 業 法 制 「消費者契約法改正の論点について」と
「投資協定・投資協定仲裁について」
消費者契約法改正の論点について(3/18 開催)
消費者契約法・特定商取引法の見直し
消費者契約法
特定商取引法
(目的)
(目的)
第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量
第一条 この法律は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び電
並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費
話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係
者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承
る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。
諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業
以下同じ。)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害
者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当
の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商
に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費
品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつて国民経済
者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者
の健全な発展に寄与することを目的とする。
等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消
費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済
の健全な発展に寄与することを目的とする。
消費者委員会消費者契約法専門調査会
消費者委員会消特定商取引法専門調査会
平成26年11月4日~27年7月取りまとめ予定
平成27年3月5日~27年12月取りまとめ予定
諮問(平成26年8月5日)
諮問(平成27年1月20日)
消費者契約法について、施行後の消費者契約に関する苦情相談
特定商取引に関する法律の施行状況を踏まえた購入者等の利益
の処理例および裁判例などの情報の蓄積を踏まえ、情報通信技術
の保護及び特定商取引の適正化を図るための規律の在り方につい
の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応
て。
等の観点から、契約締結過程および契約条項の内容にかかる規律
等の在り方を検討すること。
消費者契約法(実体法部分)に関するこ
れまでの主な検討の経緯
消費者契約法の運用状況に
関する検討会報告書概要 ※平成26年10月 消費者庁
1.消費者契約法の運用状況に関する検討会の目的
消費者契約法施⾏後の社会の変化等(※)を踏まえた
消費者契約法見直し検討の本格的な議論のための準備作
業として、消費者契約法の運用状況を踏まえた⽴法事実
の候補の把握や論点の整理等を行うことを目的とする。
※平成13年4⽉の施⾏後10年以上が経過し、その間、
情報化、高齢化、国際化等の社会の変化が生じて
いる。また、消費者契約法は民法の特別法である
ところ、平成21年以降、法制審議会において民法
(債権関係)改正の議論が進められている。
36
企業活力
企 業 法 制
2.関連事例の収集・抽出
・裁判例:委員報告やデータベース等を通じて収集し
響が大きい。
<勧誘要件の在り方>(報告書20頁)
た750件以上の事例のうち、事実認定の問題にとど
◆不特定多数向けの広告等であっても個別の契約締結の
まるものや純然たる適用事例、主張のみで裁判所の
意思形成に影響する場合がある。また、インターネッ
判断が示されなかったもの等を除き、消費者契約法
トの場合は、広告による契約締結の意思の形成が対面
の運用状況の把握に関連すると考えられる164件を
契約よりも直接的と考え得る。
抽出。
・相談等事例:消費生活相談や法律相談等の実務の実
態についての委員報告、PIO-NET、適格消費者団
■事業者は消費者とのトラブル予防目的で広告に幅広い
情報を記載することが考えられるが、かえって消費者
に必要な情報がわかりにくくなる。
体による差止請求事例、国民生活センターの発表事
<重要事項要件の在り方>(報告書31頁)
例等を通じて収集した事例のうち、事案が不明瞭な
◆動機も「消費者が当該消費者契約を締結するか否かの
ものや現行法の適用で解決し得るもの等を除き、消
判断に通常影響を及ぼすべきもの」であり、重要事項
費者契約法の運用状況の把握に関連すると考えられ
に含むべき。
る233件の事例を抽出。
■動機は個々の消費者により様々であり、契約締結時に
事業者が特定することは困難。
3.運用状況の考察・分析
<不当勧誘行為に関する⼀般規定>(報告書45頁)
本検討会において収集した裁判例及び相談等事例につ
◆消費者の判断力の低下等に乗じた不当な勧誘に対応す
き、消費者契約法の⾒直しに関連すると考えられる論
る立法の必要性は高く、困惑類型を拡充したり、誤認
点項⽬に対応させて整理した上、各論点項⽬について、
類型・困惑類型の分類に必ずしもなじまない新たな類
(1)問題の所在、(2)関連事例、(3)本検討会にお
型に係る規律を消費者契約法に導入するなどすべき。
ける議論状況を整理。
■不要な商品・役務であれば、消費者には拒否する選択
4.主な論点項目と検討会における委員の意見
<不当条項リストの在り方>(報告書64頁)
<消費者概念の在り方>(報告書3頁)
◆現行法の不当条項リストは2か条のみで、一般条項に
肢があることを考慮すべき。
◆実質的に消費者と異ならない「事業者」や当該事業
委ねられている部分が多い。予見可能性、不当条項の
者によって事業に誘い込まれた者が、情報力・交渉力
抑止効果という観点からも、具体的な不当条項リスト
の格差がある相手方事業者との間で締結した契約には、
の充実が必要。
消費者契約法の保護を及ぼすべき。
■形式的に「事業者」である者を実質的に見て「消費
■評価の余地があるリストが策定された場合は、取引を
無用に混乱させかねない点に留意すべき。
者」とする基準を一義的に定めることは困難であり、
<約款に関する規律>(報告書72頁)
消費者契約法の適用の有無が予測できないし、「消費
*民法(債権関係)改正の要綱仮案で保留とされている
者」か「事業者」かが個別事情により契約ごとに異な
ことから、引き続き、民法改正における議論を踏えた
ることは、取引を不安定なものとする。
検討をする必要がある。
<情報提供義務の在り方>(報告書10頁)
◆インターネット取引、約款取引、契約内容の複雑化・
5.今後の検討
多様化の進行、急速な社会変化への対応力に乏しい高
今後は、平成26年8月5日付けの内閣総理大臣からの諮
齢者の増加などによって、事業者から消費者に対する
問に従い、内閣府消費者委員会において、本報告も踏ま
情報提供義務・説明義務の明定の必要性は更に高まっ
えた上で、消費者契約法の見直しに向けた充実した議論
ている。
が進められることとなる。
■必要な情報の内容・種類は消費者によって異なり、契
約の締結に「通常影響を与える」情報といっても具体
的範囲は不明確であり、事業者の経済活動に与える影
企業活力
37
企 業 法 制 「消費者契約法改正の論点について」と
「投資協定・投資協定仲裁について」
投資協定・投資協定仲裁について(5/14 開催)
世界の投資協定の締結状況
主な諸外国の投資協定締結状況
・投資協定とは、外国企業の現地法人や工場などの財産
への差別的取扱いや外国企業の財産の国有化等を制限
又は禁止する規定を含む協定。
・海外直接投資の拡大等を受けて、1990年代に投資協定
締結数が飛躍的に増加。2013年末現在で約3,000件が
存在する。
<世界の二国間投資協定締結数推移>
【出典】UNCTAD International Investment Agreements Navigator
http://investmentpolicyhub.unctad.org/IIA/IiasByCountry#iiaInnerMenu
【出典】UNCTAD
投資協定に関する日本の取組
(投資協定又は投資に関する規律を含むEPA等を我が国が締結済又は交渉中の国・地域)
38
企業活力
企 業 法 制
投資協定仲裁の利用状況
・2013年末までに付託された投資仲裁件数は公表ベース
<国別の仲裁被申立件数(2014年末までの累積)>
で568件。このうち2013年に新たに付託された件数は
56件、このうち62%がICSIDの手続を利用。
・日系企業が仲裁を申し立てた例は、野村證券の子会社が
オランダ-チェコ投資協定に基づきチェコ政府に対して
提起し、請求が認められた事例がある(サルカ事件)。
・2014年末までに終結した356件の投資協定仲裁のうち、
投資受入国に有利な判断は37%、投資家に有利な判断
は25%。28%が和解で解決されている。
<仲裁機関への案件付託の動向(公表ベース)>
【出典】UNCTAD,“World Investment Report 2014”
UNCTAD,“Recent Trends in IIAs and ISDS,”February 2015.
よび会社を置くものでなければならない」(同条第3
投資協定仲裁以外の投資協定の活用事例
中国:上海市嘉定区の工場立ち退き問題
項)と規定されている。
・上記の働きかけなどにより、より市場価格に近い条件
で補償を受けることができた。
・上海市嘉定区に進出してまだ間もない日系企業十数社
が2006年、商業・住宅地の開発に伴い、地元政府から
立ち退きを求められた。
・当初、補償条件が明確でなかったことが日系企業関
係者に混乱をもたらした。上海市の法令によると、移
転に伴う操業停止補償として、立ち退き対象工場の建
築面積1平方メートル当たり300~400元(1元=約12.0
【出典】ジェトロ通商弘報 「地元政府との交渉に 6 つのポイント-上海
市嘉定区の工場立ち退き経験者が語る-(中国)」
( 2011 年 08 月 01 日 上海発)より作成
投資協定の内容
(日カンボジア投資協定を例として)
円)の補償金しか認められないため、これでは不十分
ではないかという不安が関係者の間に広がった。
・このため、日本総領事館の領事が「日中投資保護協定
第5条の規定に基づく適切な補償を得られるようにす
べきだ」と主張し、これが効果的だったという。
・日中投資保護協定第5条には、国民と会社の投資財産
が相手国で保護されるべきことが規定されており、土
地収用などに当たっての補償の水準は「その措置が取
られなかったとしたならば、当該国民および会社が置
かれたであろう財産状況と同一の状況に当該国民お
企業活力
39
企 業 法 制 「消費者契約法改正の論点について」と
「投資協定・投資協定仲裁について」
投資協定の主なルール
投資協定仲裁の事例紹介(事例集に掲
載した事案の一部を紹介)
最後に
□投資関連協定は進出先の政府による差別的・恣意的
な措置に対抗するためのツールとなり得る
□投資関連協定は投資協定仲裁だけでなく進出先の政
府との交渉でも活用しうる
□投資協定仲裁の手続は国際商事仲裁の手続とかなり
類似している
□投資関連協定の内容は協定毎に異なるので関連する
具体的な協定の内容をよく確認する必要がある
□訴訟及び商事仲裁と同様に事案毎の事情が重要です
ので仲裁判断の個別事情にも留意する必要がある
□投資関連協定の活用のためには国際投資法とともに
国際仲裁手続も把握する必要がある
※経産省のホームページにて投資協定及び投資協定仲裁に関する
FAQ 及び事例集を掲載しているので、そちらの内容も併せてご参
照下さい。
投資協定仲裁手続の概要
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/investment/
・経済産業省トップページより、
「政策について」
→ 「政策一覧」
→ 「対外経済」
→ 「通商政策」
→ 「EPA/FTA/ 投資協定」
→ 「投資」
・検索エンジンで、「投資協定 / 投資章について調べる」というフ
レーズを入力。
40
企業活力
最近の雇用・人材政策の
雇用人材 動きについて
雇用・人材開発委員会
雇用・人材開発委員会は、委員長である平山喜三委員長(山九株式会社 常任顧問)の司会進行に
より、平成27年2月16日(月)及び平成27年5月25日(月)に開催されました。
委員会では、経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 小林 浩史 室長から、「最近の雇用・人
材政策の動き」についてご説明があった後、参加者による活発な意見交換が行われました。
写真左から平山委員長、小林室長
委員会の様子
ご出席者名簿(2月16日開催委員会)○
(5月25日開催委員会)●
委
員
長:
委員代理:
○●平山 喜三 山九(株)常任顧問
経済産業省:
○●小林 浩史 経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長
委 員 : ○●秋元 潤 (株)IHI 人事部 人材開発グループ 部長
○●鈴木 康公 コスモ石油(株)人事部 人事部長
●齋藤 豊 昭和電工(株)総務・人事部長
○ 中尾 孝 東京ガス(株)人事部 人材開発室長
●岸澤 剛 東京ガス(株)人事部 人材開発室長
○ 髙島 正人 トヨタ自動車(株)東京総務部 人事室長
○ 佐々木比呂美 日産自動車(株)日本人事企画部
人事企画グループ 主担
○●尾崎 陽二 (公財)日本生産性本部 ワークライフ部長
○ 田代 康彦 日本電気(株)人事部長
●渡辺 周平 大阪ガス(株)東京支社 係長
●今田堅太郎 (株)神戸製鋼所 人事労政部 担当部長
○●宮崎 仁志 JX 日鉱日石エネルギー(株)人事部
海外人事グループ マネージャー
○ 山村 茂之 スズキ(株)東京支店長
●赤間 俊一 スズキ(株)東京支店 次長
○ 森崎 義仁 太平洋セメント(株)人事部 人事グループ
サブリーダー
●佐野 友則 トヨタ自動車(株)東京総務部 人事室
人事グループ
○ 池田三知子 (一社)日本経済団体連合会 労働政策本部 主幹
●藤井 智康 (一社)日本経済団体連合会 労働政策本部員
○ 脇澤 寛 本田技研工業(株)人事部(企画課長)主幹
(企業名・役職名は当時、企業名五十音順、敬称略)
○●田宮 直彦 (株)日立製作所 人財統括本部 人事教育部長
○●法原 弘明 富士ゼロックス(株)人事部 人事グループ
計画チーム長
●播磨 秀一 (一財)貿易研修センター 人材育成部 部長補佐
●脇澤 寛 本田技研工業(株)
人事部グローバル人材開発センター 所長
企業活力
41
雇 用 人 材
最近の雇用・人材政策の動きについて
「最近の雇用・人材政策の動きについて」について(2/16 開催)
1.今後の労働時間法制等の在り方について(労働政策審議会労働条件分科会 報告案)
我が国の労働時間をめぐる平成 25 年時点の状況をみ
②完全週休2日制の下での法定労働時間の計算方法
ると、一般労働者の年間総実働時間が 2000 時間を上回
③フレックスタイム制の制度趣旨に即した運用の徹底等
る水準で推移する中、雇用者のうち週労働時間の 60 時
(3)裁量労働制の見直し
間以上の者の割合は低下傾向にあるものの 8.8%と平成
①企画業務型裁量労働制の新たな枠組
32 年時点の政労使目標である 5%を上回っており、特に
②手続の簡素化
30 歳代男性では 17.2%となっている。また、年次有給
③裁量労働制の本旨の徹底
休暇の取得率は 48.8%であり、平成 32 年時点の政労使
目標である 70%を下回っている状況にある。 (4)特定高度専門業務・成果型労働制
(高度プロフェッショナル制度)の創設
こうした中、過労死等防止対策推進法が制定されるな
①対象業務…「高度の専門的知識、技術又は経験を要
ど、労働者の健康確保に向けた一層の取組が求められる
する」とともに「業務に従事した時間と成果との関
とともに、次世代育成支援や女性の活躍推進等の観点か
連性が強くない」といった対象業務とする適切な性
らも、長時間労働を抑制し、仕事と生活の調和のとれた
質を法定した上で、具体的には省令で規定すること
働き方を拡げていくことが喫緊の課題となっている。
が適当である。
また、経済のグローバル化の進展等に伴い、企業にお
②対象労働者…使用者との間の書面による合意に基づ
いて創造的な仕事の重要性が高まる中で、時間ではなく
き職務の範囲が明確に定められ、その職務の範囲内
成果で評価される働き方の下、高度な専門能力を有する
で労働する労働者が適当である、等。
労働者が、その意欲や能力を十分に発揮できるようにし
ていくことなどが求められており、健康確保措置を前提
③健康管理時間、健康管理時間に基づく健康・福祉確
保措置(選択的措置)、面接指導の強化
に、こうした働き方に対応した選択肢を増やしていくこ
④対象労働者の同意
とも課題となっている。
⑤労使委員会決議
このような考え方に基づき、労働政策審議会労働条件
⑥法的効果
分科会において労働時間法制等の在り方について検討を
⑦制度の履行確保
行った結果は、下記のとおりである。
⑧年少者への適用
(1)働きすぎ防止のための法制度の整備等
(5)その他
①長時間労働抑制策
①特例措置対象事業場
②健康に配慮した休日の確保
②過半数代表者
③労働時間の客観的な把握
③管理監督者
④年次有給休暇の取得促進
④電子的手法による労働条件明示
⑤労使の自主的取組の促進
(2)フレックスタイム制の見直し
①清算期間の上限の延長
(6)制度改正以外の事項
①労働基準監督機関の体制整備
②労働基準関係法令の周知の取組等
2.「変革の時代」に対応した高付加価値人材の育成と最大活用に向けて
(産業競争力会議 雇用・人材・教育ワーキンググループ 検討の方向性)
インターネット化に端を発するデータ社会の本格到来
一人が、能力や個性に真剣に向き合い、プロフェッショ
やグローバル競争の激化や少子高齢化などにより、企業
ナリティを磨き、発揮していくこと(真の「就職」
)を
と個人を取り巻く環境は劇的に変化しており、企業も個
どう後押ししていくのかが重要である。
人もこうした変革の中で、生き抜いていく覚悟が必要で
施策の考え方を以下の通り整理する。
ある。経済社会全体が、
「就社」意識から脱却し、一人
42
企業活力
雇 用 人 材
(1)若者・若中高年の職業選択の多様化・早期化
①実践的な職業教育を行う高等教育機関の制度化
(2)中高年企業人材の最大活用
(3)労働市場のインフラの整備
②段階的なキャリア教育の確立
①「キャリア・ドック」支援
③インターンシップの充実
②企業における人材育成の取組促進
3.地方創生と労働移動について
企業活力
43
雇 用 人 材
最近の雇用・人材政策の動きについて
4.賃上げについて(昨年12月16日政労使会議 経済の好循環の継続に向けた政労使の取組)
(1)賃金上昇等による継続的な好循環の確立
(2)賃金体系の在り方
企業収益の拡大から賃金の上昇、消費の拡大とい
労使は仕事・役割、貢献度を重視した賃金体系と
う好循環を継続的なものとし、デフレ脱却を確実な
することや子育て世代への配分を高める方向へ賃金
ものとするためには、企業収益の拡大を来年春の賃
体系を見直すことが一案である。若年層については、
上げや設備投資に結びつけていく必要がある。この
習熟期間であることを踏まえて安定的な昇給とする
ため、政府の環境整備の取組の下、経済界は、賃金
一方、蓄積した能力を発揮し付加価値の創出が期待
の引上げに向けた最大限の努力を図るとともに、取
される層では、個々人の仕事・役割、貢献度を重視
引企業の仕入れ価格の上昇等を踏まえた価格転嫁や
した昇給とすることが考えられる。
支援・協力について総合的に取り組むものとする。
5.外国人の技能実習制度について
(「技能実習の見直しに関する法務省・厚生労働省合同有識者懇談会」報告書のポイント)
44
企業活力
雇 用 人 材
「最近の雇用・人材政策の動きについて」について(5/25 開催)
1.ビッグデータ・人工知能がもたらす経済社会の変革
AI・ビックデ ータによって、 既 に、 製 造 プロセス、
モビリティ、 健 康・医 療、 流 通、インフラ・産 業 保 安、
造の変革をリードしていくことではないか。
今後の産業構造の変革の動きを具体的に見極めて
エネルギー、行政などの幅広い分野において、変革の動
いくための視点として、例えば、
きがみられる。その本質は
①「モノ」から「システム」への価値の移行
▷デジタルデータとなった森羅万象(人間の営み、
②産業活動のプロセスのシステム化と企業を超えた移
社会現象、自然現象など)が、
▷コンピューティング能力の飛躍的向上と
▷人工知能の技術革新によって解き明かされ、
これまで認識し得なかった人間社会や自然界の様々な法
則や関係性、無意識的なものを含めた個々人の行動や嗜
好などが明らかになることにある。
転可能性
③データのバリューチェーンにおける産業競争力の源
泉の所在
を挙げることができるのではないか。
(2)就業構造の変革
◆量的影響:今後、将来的な人手不足が見込まれる分
◆これによって今後は、個々人のそれぞれのニーズに
野を含めたサービス業等において、これまで技術導
応えるなど、これまでになかった全く新しい価値を
入が難しかった非定型的業務にも早いスピードでA
生み出すことが可能となるのではないか。
I等が浸透していけば、構造的な人手不足が解消す
◆さらに、AI・ビックデータ時代の到来は、
▷人口減少・少子高齢化に伴う物理的な労働投入量
の減少による潜在成長力の低下
▷高齢化社会における医療・介護のあり方
る可能性もあるのではないか。
◆質的影響:
①仕事の内容への影響
産業構造転換が進み、労働集約的業務がAI等によ
▷地方における人口減少による地域の存立の危機
り代替される中で、人間の仕事は、ヒューマンイン
▷省エネの推進等によるエネルギー制約への対応
タラクションが必要なものと、より創造的なものに
▷社会保障費の増加等による財政負担の増大
シフトしていくことが見込まれるのではないか。
などの日本が直面する大きな課題への対応についても、
②働き方への影響
新たな角度から解決に導く大きな可能性を秘めているの
時間と場所の制約を受けない働き方や生活スタイル
ではないか。
が可能となるのはもちろんのこと、組織と個人の関
係までも変化していくのではないか。これまでは使
用者と労働者が雇用契約という形で半ば主・従の関
係を構築し、時間に基づいて勤怠管理され、毎月一
定報酬を授受することが基本前提であった。
他方で、世界ではクラウドソーシングによって「個」
による国境を越えた取引が、米国では「スーパーテ
ンプ」と呼ばれる高度人材による個人主体の働き方
が台頭してきている。今後は、AI等が個人の能力
発揮を最大化する結果、個人がその知恵と行動力に
より、使用者と対等の関係で案件に応じて取引し、
成果に基づき評価し合うような動きも大きくなって
(1)産業構造の変革
いくのではないか。こうした環境変化の中で、より
◆我が国産業に求められるのは、欧米企業に見られる
多くの人間が「個」の能力発揮により創造性・生産
プラットフォーム構築の動きに受け身で対応するこ
性の高い仕事に対応できるよう、雇用制度・慣行や
とではなく、AI・ビックデータがもたらす産業構
教育を、変革していくことが必要ではないか。
企業活力
45
雇 用 人 材
最近の雇用・人材政策の動きについて
(3)我が国の課題と対応
①データの円滑な利用
⑤制度的環境
②サイバーセキュリティの強化
a)個別分野においてAI・ビックデータの
③研究開発
利用・更なる進化の促進
④人材 a)雇用・労働
自動運転/製品安全/産業保安/サービス業規制
b)人材育成 企業内IT人材育成/教育
b)デジタルプラットフォームに対応した競争政策
2.ミドル人材を活かす「人活」支援サービスの可能性
大規模な人材の移動を促すためには、既存産
◆多様な「人活」支援サービス創出事業
業と成長分野の産業の間をつなぎ、双方のニー
ズをマッチングして人材移動の仲介役となる人
材ビジネスの存在が必要。 しかしながら、スキ
ルと経験を持つ層(ミドル層)を有効にマッチ
ングするサービスは現時点において十分に育っ
ていない。
⇨
スキルと経験を持つ社会人がキャリア自律を
意識し、成長分野等の新たなステージで更なる
活躍ができるよう、「マインドセット変革・学び
直し」を行う研修プログラムと、転籍をも見据
えた「試行的就業」によるマッチングを一体的
に行う“「人活」支援サービス”の創出及び振興
を図る。
46
企業活力
コ ラ ム
中国滞在経験と
ダイバーシティへの思い
経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長
小林 浩史
既に少し前の話になるが、留学と日本大使館勤務とで中国北京で4年ほど
生活したことがある。北京オリンピック直前だったため、庶民的な居住地(胡
同)は次々に林立するビルへ、今にも路上で分解しそうな古タクシーは一斉に
ピカピカの新車へと代わり、高速鉄道も走り出す、そうした熱気と成長からの
果実を逃すまじと世界中から人が集まる、
という一種の高揚感に街中が包ま
れた時期であった。
こうした高揚感は成長期の頂点にある国が一様に持つも
のだろうが、中国という国には、そうした一過性のものに尽きない大きなエネル
ギーが感じられた。それは何だろうか?
日本人と中国人は姿形が近いが、考え方や文化は似ていそうでかなり違いが大きく、そのギャップが故に様々
なフリクションが起こるとも言われている。
中国の特徴を挙げれば、
「内:家族・朋」
と
「外」がはっきりしており
(「内」に入るためには、ベタだが、白酒という
度数の高い酒を浴びるほど飲むことが必要だったりする)、その「内」に直接の利益があるかどうかを行動基準
に、極度に面子を重視しつつ、
「外」
との関係では徹底的に主張し競争する、
といったところだろうか。結果的に、
エリート層から庶民まで一人一人にバイタリティがあり、
「外」の人間からすると必要以上にエネルギーの圧を高く
感じることになる。
この点を印象付ける強烈な思い出として、蘭 州という黄 河 上 流の地 方 都 市に行った際、機 材の故 障で突
然フライトがキャンセルされ、
自分1人と中国人約200人が航空会社用意のボロボロのホテルで1泊するとの
事態に遭遇したことがある。遅延補償が小さな弁当1つだけ、厳冬の1月だというのに暖房がなく、薄い毛布1
枚で夜をしのぐとの惨状に、乗客が一致団結して強力な交渉団を組織、徹底的に抗戦したのだが、
この時の
「内」の形成と主張のパワー、それへの完全な同化という経験は、
日本では決して味わえないものであった。
中国とのビジネスは難しい、接し方がわからないという声をよく聞くが、
こうした違いを心得ていれば、主張が
強いとか、周りを気にせず勝手だと思うようなことがあっても、特段びっくりすることも心底怒るようなこともない。
むしろ、中国人(およそ全ての国の人からかもしれないが)からすれば、
日本人こそ、周囲に気遣いをし万事き
め細かいが、何を考えているかわからず一向に事が進まない、異質な国だと思っているだろう。
産業人材政策室長という仕事がら、
ダイバーシティ
(多様性)
を進めることで、柔軟で創造的な強い企業や
社会がつくられていくことがやはり重要だと思う。
このためには、結局は、同質でない者との違いを理解してポジ
ティブに対応、共存していけるかどうかに尽きる。
女性活躍の方はこの1、
2年で相当流れが変わってきたが、外国人ダイバーシティの方はどうであろうか。残
念ながら日本企業での外国人社員の採用も、
日本に留学経験が長く、
日本語堪能で日本人感覚を身に着けた
人がまだ中心だろうが、人工知能の発展で自動翻訳機が普及してきたりすれば、
日本特有の「語学の壁」
とい
う言い訳も効かなくなってくる。長い歴史を紐解けば多くの文化をうまく吸収発展してきた日本なのだから、本
格的なダイバーシティが進むのはそう遠い未来ではないと期待したいし、信じることしたい。
企業活力
47
「中国経済社会の
企業活力 動向と日中経済関係」
企業活力委員会・企業活力政策研究会
企業活力委員会(企業活力政策研究会合同開催)は、平成27年3月2日(月)に「中国経済社会
の動向と日中経済関係」をテーマに、経済産業省 通商政策局 北東アジア課 岩永 正嗣課長を
お迎えし開催致しました。
委員会は、渡壁誠委員長(日本電気株式会社 常務理事)の司会により進められ、経済産業省か
らご説明があった後、参加者を交えて活発な意見交換が行われました。
写真右から、渡壁委員長、岩永課長
ご出席者名簿
委員長:
渡壁 誠 日本電気(株) 常務理事
講 師:
岩永 正嗣 経済産業省 通商政策局 北東アジア課長
ご出席者:
中出 朋彦 (株)IHI 総務部 渉外グループ 課長
福井 克久 大阪ガス(株)東京支社 副支社長
鈴木 久人 川崎重工業(株)企画本部 事業企画部 基幹職
森山 幸二 コスモ石油(株)執行役員 経営企画部長
佐藤 由理 JXホールディングス(株)総務部 総務グループ マネージャー
有路 正 JFEスチール(株)総務部 総務室 主任部員(課長)
藤川 優 (株)資生堂 秘書室 渉外グループリーダー
山村 茂之 スズキ(株)東京支店 支店長
中国の権力構造の変化
企業活力委員会の様子
三浦 哲雄 損害保険ジャパン日本興亜(株)企業営業企画部 海外グループ
藤沢 勉 ダイキン工業(株)東京支店 渉外室 担当課長
田中 浩 東京ガス(株)総合企画部 経営管理グループ マネージャー
宇賀持 豊 東京電力(株)経営企画本部事務局 調査グループ マネージャー
竹澤 俊光 東燃ゼネラル石油(株)広報渉外本部 渉外部 課長
橋浦 貴志 東北電力(株)東京支社 総務課
松田 英也 東北電力(株)東京支社 総務課
田村 敦彦 東レ(株)経営企画室 産業政策・調査グループ 担当部長
浅見 昭幸 トヨタ自動車(株)渉外部 担当部長
松本 芳彦 (一社)日本化学工業協会 常務理事
中村 聡志 (一社)日本化学工業協会 国際業務部 部長
加瀬 浩司 (一社)日本鉄鋼連盟 国際協力・調査本部
国際貿易グループ 主任
若林 邦広 (株)日立製作所 渉外本部長
伊藤 潤平 三井化学(株)経営企画部 調査・渉外担当ダイレクター
藤原 浩二 三菱重工業(株)グループ戦略推進室 戦略企画部 部長代理
栗原 康剛 三菱商事(株)グローバル渉外部 渉外企画チームリーダー
(企業名・役職名は当時、企業名五十音順、敬称略)
容赦せずに摘発する)」とのスローガンを掲げ、2014
▷習近平政権の誕生後の中国共産党内の権力構造は、習
年だけ23万人にも及ぶ汚職官僚、党員を摘発。最高指
近平への「権力の集中」が進み、また、これまで共産
導部の一人であった周永康・中央政治局常務委員の摘
党を支配してきた江沢民・元総書記のグループの「衰
発に踏み切ったほか、徐才厚・中央軍事委員会副主席、
退」が進んでいるとみられる。
令計画・統一戦線部長(元中央書記処書記)、蘇栄・
▷「虎も蝿も同時に叩く(大物幹部も末端の下級官僚も
48
企業活力
全国政協副主席(元江西省委書記)等も摘発。
企 業 活 力
▷一方で、最近の党・政府・軍での人事異動では、習
常務委員も全員参加したほか、中央政治局委員、中央
近平が地方指導者として勤務した時の部下が重要ポ
書記処書記、国務委員、中央外事工作領導小組メン
ストに抜擢されており、習近平派の体制作りが進め
バー、各省・自治区・直轄市及び新疆生産建設兵団、
られているとの見方がある。
党・政府・軍等の関係部門(王毅外交部長も参加)、
中国の外交スタンス
清朝末期以来の底流
●国権回収・主権重視:アヘン戦争以来奪われた領土を
取り戻し、中国の本来の姿(=清の乾隆帝の時代の版
図?曖昧な概念)を取り戻す。
鄧小平・江沢民の時代
●韜光養晦(とうこうようかい:能力を隠して力を蓄え
る)、「外交は発展に従属する」。
●対日関係:経済と歴史の両輪(1979年に第一次円借款
契約調印。1980年代から「歴史を強調せよ」)。
小泉時代の政冷経熱。1992年に領海法を制定し、尖閣
諸島を領土と明記。
胡錦濤の時代
●経済発展重視を承継。しかし、経済が急速に発展
する中、2006年~2010年頃、外交スタンスに変化
(2006年、主権・安全に初めて言及。2009年には発
言に「積極」を多用)。「経済力に相応しい外交」、
「新たな地域主義」を志向。
●対日関係:中国の経済力が高まった結果、日本に学ぶ
意識が縮小。2007年には新規円借款が終了。歴史の強
調だけが残る。2008年12月に中国公船が初めて尖閣諸
島領海に侵入。2010年、2012年には尖閣諸島を巡って
日中関係が悪化し、経済関係にも影響。
習近平の時代
●主権・安全重視を承継。「中華民族の偉大な復興の実
金融機関及び国有重要企業の責任者、関係国・機関に
駐在する大使等が参加。
中央外事工作会議
▷2014年11月28日・29日、李克強総理主宰の下、北京で
「中央外事工作会議」が開催された。
▷本会議の開催は2006年8月以来。習近平主席が中国国
内の大きな会議で外交をテーマで述べるのは2013年10
月の「周辺外交座談会」以来で、全ての政治局常務委
員や外交に関係する主要部門が揃って出席。
新シルクロード(一帯一路)構想
~「新シルクロード経済ベルト」
と「21世紀海上シルクロード」~
▷習近平国家主席は、2013年9月に「新シルクロード経
済ベルト」構想を提起し、中国政府として初めて大陸
間経済協力の一体化に具体的構想を提示した。また、
翌10月には「21世紀海上シルクロード経済」構想を提
起し、地政学的に戦略性と経済・資源開発の可能性が
高い中央アジア、東南アジア等の新興国や欧州・アフ
リカを取り込もうとしている。
▷中国は、2つのシルクロードを合わせて「新シルク
ロード(一帯一路)構想」と呼び、その推進を昨年11
月に行われた中央外事工作会議における習近平主席
の重要講話や同12月に行われた中央経済工作会議のコ
ミュニケでも言及。
現」、「海洋強国」。
●しかし、2013年10月の周辺外交工作座談会では、周辺
外交の基本方針として、隣国との関係を良くすること
等を指摘。2014年11月には中央外事工作会議を開催し、
特色ある大国外交を提唱。
周辺外交工作座談会
▷2013年10月24日及び25日、北京において、共産党中央
委員会が「新たな情勢下における周辺外交工作のため
の重要会議(周辺外交工作座談会)」を開催し、習近
平主席が重要講話を発表。
▷今次会議は李克強・国務院総理が主宰し、他の政治局
企業活力
49
企 業 活 力 「中国経済社会の動向と日中経済関係」
交通インフラ網の整備と都市化の進展
▷2013年末の交通網の敷設距離は、鉄道10.3万キロ(日
本の約4倍)、道路435.6万キロ(日本の約3.4倍)、高
周辺国に拡がる陸上輸送網
▷中国の陸地国境線の長さは2万2,800キロ。陸続きで隣
接する国は14カ国。
速道路は10.4万キロ(日本の約11倍)。「第12次5ヵ
▷雲南省は、ミャンマー、ラオス、ベトナムの3国と国
年計画」(2011~15年)では交通インフラ整備も重点
境を接しており、この「地の利」を活かすべく、東南
分野として挙げられている。 ※2013年の延伸距離
アジア・南アジアへのゲート・ウェイとしてインフラ
は、鉄道0.6万キロ、道路11.9万キロ、高速鉄道が0.8
開発が進んでいる。一方で、ミャンマーとの鉄道計画
万キロ(日本の総延長0.9万キロ)、高速道路1.7万キ
が白紙になる事例も発生。
ロ(日本の総延長2.4万キロ)
▷国内交通網の整備により都市化も急速に進んでおり、
中国パイプライン・LNG受入基地
2013年末の都市部の常住人口は7.3億人、都市化率は
▷中央アジアPL(トルクメニスタン、ウズベキスタン、
53.73%まで上昇。2014年3月には、「新型都市化計
カザフスタン)、ロシア西・東PL、ミャンマーPLが
画」を発表した。
主要ルート。
「高速鉄道外交」
~世界への売り込みを展開~
▷2013年秋以降、李克強総理を中心に国家指導者による
▷沿岸部では、LNG受入基地の増設も進めている。
港湾の整備
▷中国は、近年、インド洋・紅海とつながるシーレーン
外交での精力的な売り込みを展開中。中国の高速鉄道
において、沿岸国との積極的な協力を進めている。
の強みは、①先進的な技術と信頼できる安全性(技術
▷例えば、ミャンマー、スリランカ、モルディブ、パキ
面)、②豊富な運営経験(運営)、③低い価格と高い
スタンといった国に対し、官民の各レベルで、港湾イ
コストパフォーマンス(価格面)としている。
ンフラ整備等の協力を推進。
▷一方、2014年11月にペニャニエト・メキシコ大統領が
中国企業による高速鉄道事業の落札の取り消し・再入
札の実施を発表する事案も発生している。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想
▷特に新興市場と発展途上国では、インフラに対する旺
盛な資金需要が存在することから、アジアインフラ投
資銀行(AIIB)やBRICs銀行の設立を主導。
▷背景には、昨年9月現在で3.9兆ドルと世界最大である
外貨準備高の運用先の確保やインフラ輸出の指向があ
るとの指摘もある。
<AIIBの概要>
<設立趣旨>
◇特に新興市場と発展途上国のインフラはまだ十分
に発展しておらず、融資面に巨大なニーズが存在。
◇アジア各国のインフラとその他の生産性分野にお
ける投資を支援。 <概要>
◇参加メンバー: 中国、タイ、ベトナム、フィリピ
ン、カンボジア、マレーシア、ブルネイ、シンガ
ポール、ラオス、ミャンマー、インドネシア、モ
ンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、
カザフスタン、クウェート、モルディブ、ネパー
ル、ニュージーランド、オマーン、カタール、サ
ウジアラビア、スリランカ、タジキスタン、ウズ
50
企業活力
企 業 活 力
ベキスタンの計26カ国(参加意向が設立メンバー
(供給に係る中長期的な要因)
意向国)。(2015年1月現在)
4. 国営企業の温存と不十分な民間資本の成長= 「国進
◇2013年10月、習近平が東南アジア歴訪時にAIIB構
想を発表。
◇本部は北京に設置予定。
◇資本金は1,000億ドル。出資比率はGDPが主要なパ
民退」
5. 生産年齢人口のピークアウト(2012年から減少)
6. 環境問題の深刻化による成長制約(2013年の北京で
の大気汚染の環境基準超は161日)
ラメーターであるため、中国が最大出資者となる
予定。中国は最大で50%出資の意向あり。
◇今後、2015年中にAIIBに関する協定(Articles of
Agreement)の交渉・署名を行い、
2015年末までに協定発効(AIIB設立)及び業務開
始を目指す。
2015年以降の中国経済の行方ついて
▷2014年の実質GDP成長率は7.4%増となった。政府目
今後も中速成長が維持されうる主な要因
1. 中国政府も直面する課題を認識し、政策的な対応に
着手。
2. 比較的健全な財政(政府債務GDP比37%(2012))
3. 金融政策の緩和余力(政策金利5.6% 、預金準備率
(大手行)20% (14年12月) )
⇒経済下振れリスクに対する対応力は相対的に大きい。
標は、7.5%前後だったことから、目標は達成したと中
4. 中長期に亘り続く都市化(都市化率53%(2012))
国政府は説明。
⇒新型都市化、戸籍改革等による、労働人口供給が続
▷12月の中央経済工作会議において、中国経済が「新常
態に移行し、高速成長から中高速成長に向かって転換
している」旨指摘。また、「成長速度を調整し、勢い
は衰えさせない」とも指摘。
▷これを踏まえ、3月の全人代で決定される経済成長率
については、7%前後に引き下げるのではないかとの
観測が主流。
経済成長の減速の主な要因
(需要側に係る短期的な要因)
1. 固定資産投資の減速(伸びは直近ピーク33.6%(09
年6月)から15.7%(14年12月)に。政府目標17.5%
に未達)
⇒特に①政府公共投資と②不動産投資 が大幅減
く。
5. サービス産業化の余地(GDP比率 一次9.2%、二次
42.6%、三次48.2%(2014))
⇒雇用吸収力の大きいサービス産業の成長が見込ま
れる。
6. 輸出競争力のある新たな製造業やインターネット関
連産業の出現
7. 急速に進む社会基盤インフラ整備
その他、多角化が進むエネルギー供給構造なども強み。
★ ただし、中長期的な成長には、経済構造改革な進展
や、社会保障の整備等を通じた社会不安の抑制が条
件。
★ 加えて、日本には短期的に解決しえない固有のリス
クが存在することに留意。
⇒背景には、不動産価格下落(北京の新築住宅価格の
指数は14年6月129.3→12月122.7)とシャドーバン
キング引締め
2. 人件費の高騰(2000年以降、年10%超)と労働力集
約産業の競争力低下
⇒輸出の伸びの減速(伸びは直近ピークの31%
(2010)から6.0%(2014)に)
3. 個人消費の伸び悩み(伸びは直近ピークの22.7%
(2008)から11.9%(2014)に。政府目標14.5%に未
達)
⇒不動産投資減速による耐久消費財の伸び悩み。反汚
職・腐敗対策も影響か。
企業活力
51
我が国経済の現状と
業種動向 先行きについて
業種別動向分析委員会
業種別動向分析委員会は、平成27年2月19日(木)に開催されました。委員会では、経済産業省 経
済産業政策局 調査課 木村 聡 課長をお迎えし、「我が国経済の現状と先行き」をテーマとして景気/
GDP、家計部門、企業部門、外需部門、消費者物価等についてご説明をいただきました。その後、参
加者から各業界の経済動向、概況などについてお話いただき、活発な意見交換が行われました。
木村課長
委員会の様子
ご出席者名簿
経済産業省:
木村 聡 経済産業省 経済産業政策局 調査課 課長
委 員:
委員代理:
笠原 隆男 石油化学工業協会 業務部 兼 企画部 担当部長
佐藤 政広 石油連盟 企画部 財務グループ長
髙瀬 智子 (一社)電子情報技術産業協会 総合企画部
調査グループ長
持田 弘喜 (一社)日本自動車工業会 総務統括部
佐藤 正彦 (一社)セメント協会 調査・企画部門 統括リーダー
松本 芳彦 (一社)日本化学工業協会 常務理事
杉原 克 日本化学繊維協会 理事
寺島 清孝 (一社)日本鉄鋼連盟 常務理事
蔦 研一 (一社)日本貿易会 調査グループ部長
企画調査担当 副部長
内山 和憲 (公財)日本生産性本部 公共政策部 担当部長
(企業名・役職名は当時、委員名五十音順、敬称略)
52
企業活力
¥
企業税制
平成27年度税制改正に関する
勉強会開催報告
税制委員会
平成 27 年 3 月 4 日(水)に平成 27 年度税制改正に関する勉強会を開催しました。平成 27 年度税
制改正について、掘り下げて聞きたいことを税制委員へ事前アンケートした内容を中心に林 健善 経済産業省 経済産業政策局 企業行動課 課長補佐他からご説明があり、参加者による活発な意見
交換が行われました。
写真左から林課長補佐、伊東係長
ご出席者名簿
経済産業省:
林 健善
経済産業省 経済産業政策局 企行動課 課長補佐
伊東 俊平
経済産業省 経済産業政策局 企業行動課 税制係長
参 加 者:
菖蒲 静夫
畠 義昌
合間 篤史
丹 昌敏
佐藤 政広
小野 和彦
原 剛
キヤノン(株)財務経理統括センター 税務担当部長 ※
コスモ石油(株)経理財務部・税務グループ長
新日鐵住金(株)財務部 上席主幹 ※
住友化学(株)経理室 部長(税務)※
石油連盟 企画部 財務グループ長
ソニー(株)経理センター 税務企画担当 統括部長
太平洋セメント(株)経理部経理グループ サブリーダー
税制委員会の様子
秋元 茂樹 東京ガス(株)経理部長 ※
山口 裕之 東京電力(株)経理部経理担当兼経営企画本部事務局
蜂谷満智彦 東京電力(株)経理部予算グループ
石﨑 正樹 トヨタ自動車(株)渉外部渉外室 ※
水野 美貴 トヨタ自動車(株)渉外部
神谷 智彦 (一社)日本経団連 経済基盤本部
常間地 力 日本電気(株)経理部主計室 シニアエキスパート
小野 和明 (一社)日本貿易会 総務グループ
坂本 隼人 パナソニック(株)経理・財務グループ
経理渉外担当部長
川﨑 直行 (株)日立製作所 グループ財務戦略本部
担当本部長 兼 税務統括部長 ※
(企業名・団体名の五十音順 敬称略 ※ 印は税制委員会委員)
税制改正に関する勉強会
法人税改革
○法人実効税率の引下げ
▪法人税については、平成29年度にかけて段階的に財源
が確保されることとなるが、経済の好循環の実現を力
強く後押しするため、平成27年度から税率引下げを先
行させる。
▪大法人向けの法人事業税所得割については、外形標準
課税の拡大にあわせて、標準税率を引き下げる。
▪これらにより、国・地方を通じた法人実効税率(現
行:34.62%(標準税率ベース))は、平成27年度に
32.11%(▲2.51%)、平成28年度に31.33%(▲3.29%)
となる。
▪なお、第2段階として、平成28年度税制改正において
も、課税ベースの拡大等により財源を確保して、平成
28年度における税率引下げ幅の更なる上乗せを図る。
さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続
き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指
して、改革を継続する。
※東京都ベースであれば、現行の法人実効税率は 35.64%。
企業活力
53
企 業 税 制
平成 27 年度税制改正に関する勉強会開催報告
研究開発税制の強化・重点化
▪企業のオープンイノベーション(外部の技術・知識を活用した研究開発)を促進し、企業(大・中堅・中小・ベ
ンチャー企業)・橋渡し研究機関・大学等が各々の機能を発揮しつつ有機的に連携するイノベーション・ナショナ
ルシステムの強化を図るため、控
除率を大幅に引き上げるとともに、
中小企業の知的財産権の使用料等
を対象費用に追加するなど、オー
プンイノベーション型の抜本的拡
充が実現。
▪総額型とオープンイノベーション
型をあわせ、控除上限30%の確保
(総額型25%+オープン イノベー
ション型5%)(恒久措置)
▪繰越控除制度は廃止
地方拠点強化税制の創設
▪地方創生を実現するため、東京からの移転や地方企業の拡充等による企業の地方拠点の強化に対して、オフィス投
資減税(最大25%の特別償却又は7%の税額控除)や雇用促進税制の特例(増加雇用者1人当たり最大80万円の税
額控除等)を創設。自治体独自の減税措置に対する減収補填措置も併せて創設。
車体課税の見直し
▪消費税率引上げ時期の変更に伴い、平成26年度与党税制改正大綱等における消費税率10%段階の車体課税の見直し
については、平成28年度以後の税制改正において具体的な結論を得ることとされた。
▪エコカー減税について、足
下の自動車の消費を喚起す
ることにも配慮し、燃費基
準の切り替えとともに、現
行の燃費基準によるエコ
カー減税対象車の一部を、
引き続き、減税対象とする
等の措置が講じられること
とされた。
54
企業活力
CDGM
CDGMラウンド
テーブルセミナー
レポート
吉田耕作博士講演会「ジョイ・オブ・ワーク~究極の人材育成~」開催報告
4月17日(金)、当研究所にて2年ぶりに吉田耕作博士
講演会当日は、30名近い皆様にご参加賜り、吉田耕作
講演会「ジョイ・オブ・ワーク~究極の人材育成~」を
博士の講演に熱心に耳を傾けていただきました。また、
開催いたしました。
ご講演者との質疑応答では、質問に丁寧にお答えする吉
講演会では、吉田耕作博士から、「ジョイ・オブ・
田耕作博士に対して、ご参加いただいた方々からご自身
ワーク」をテーマに、全体観的経営に代表されるデミン
の会社の状況を詳しく説明して質問をされる方もいらっ
グ経営哲学の要素と、それを実現するための究極の人材
しゃいました。
育成方法としての新しい小集団活動「CDGM」について
ご参加いただきました皆様のほとんどの方にアンケー
ご講演がなされました。 トにお答えいただき、究極の人材育成方法CDGMに対し
当研究所は、2006年からCDGMラウンドテーブルセミ
てご興味をお持ちいただけましたこと感謝いたします。
ナーという形で、さまざまな企業から参加チームを募
り、吉田耕作博士にご指導をいただいております。現在
では、このセミナーも19期を迎え、セミナー参加人数が
延べ400人を超えました。さまざまな成果も出ているこの
人材育成方法をより多くの方々にお知らせし、ご活用い
ただくために今回も講演会を開催するに至りました。
吉田耕作博士講演会の様子
CDGM(Creative Dynamic Group Method)とは、日本人で唯一エドワード・デミング博士の右腕として活
躍した吉田耕作博士が編み出した「創造的で成長し続ける小集団活動」のことです。
小集団活動を通じて「仕事のやりがい」(Joy of Work)とサービスの質と生産性を高めることを狙いとして
おります。
第18期CDGMラウンドテーブルセミナー結果報告
○第18期CDGMラウンドテーブルセミナー結果報告
るもの、教育に関するもの、設備に関するものがあげら
平成27年1月よりスタートした第18期CDGMラウンド
れました。その中から、このチームが解決出来る原因と
テーブルセミナーは、平成27年6月に最終回を迎えました。
して選んだものは、方法に関する原因の中の、材料交換
6月13日に行われた最終回のセミナーでは、参加した
に時間が掛かるというものでした。まずは、モデルライ
各チームから半年間の総括について発表が行われ、指導
ンで材料交換に掛かる時間を測定しました。材料交換に
講師の吉田耕作先生(カリフォルニア州立大学名誉教
は、単純に材料交換のみを行うものと、材料交換と同時
授)による講評がなされました。
にパーツの交換を行うものとの2つのパターンがありま
今期4チームの活動結果は次の通りです。
す。そこで、2つのパターンそれぞれを測定しました。
材料交換の際に行う工程ごとに分けて、どの工程にどの
〈チーム 1〉
くらい時間をとられているかを測りました。すると、2
工場の各部門から集まったチームです。「何故マシン
つのパターンのどちらも、パーツ清掃に一番時間が掛
停止が多いのか?」ということをテーマに活動を行い
かっていることが分かりました。しかし、メンバー内で
ました。まずは、機械が停止する原因をあげました。原
清掃時間にばらつきはないため、清掃の頻度を減らす
因は、方法に関するもの、材料に関するもの、人に関す
ことが出来ないかを考えました。現在、材料には、12万
企業活力
55
C D G M
CDGMラウンドテーブルセミナー レポート
pinを打って1巻きおわるものと、3万pinで1巻きのもの
では、スキルの定義がなされていないということを取り
があり、1巻きが終わると材料交換が行われ、交換の際
上げて対策を行うことにしました。これは、集まった課
に清掃が行われるという方法をとっています。この方法
長の中でスキルの見える化を行っているところが有り、
を変更して清掃を1巻ごとではなく、pinの一定数ごと
そこは、スキルの定義を行っていたからでした。この課
に行うようしようと計画しています。材料は、それぞれ
を参考にスキルの見える化が出来ていない課に対して対
素材の異なるものもあるため、今後、pinの数で清掃を
策を行うことにしました。まずは、チームメンバーを含
することでどの程度の影響が出るのかを検証していく
めた部全体の課長からアンケートを採り、どのくらいの
予定です。さらに、このチームでは、2番目、3番目に時
課でスキルの定義を行えているのかを調べました。その
間の掛かっていたパーツの取り付け、取り外しの時間
結果、スキルの定義を行えていない課は、75%ありまし
についても対策を考えました。こちらも、メンバー内で
た。さらに、アンケートでは、なぜ定義が出来ていない
の取り付け、取り外し時間には、ばらつきはありません
のかも調べました。その結果、一番多い理由は、「職場
でした。また、材料交換時にパーツ交換を行うと、材料
における必要なスキルを把握できていないから」という
交換だけ行う時に比べて時間が倍掛かっていることも時
ことでした。そこで、チームメンバーの中の2つの課で、
間測定で分かっていましたので、パーツ交換の頻度を減
必要なスキルの把握が出来る状態にするため、スキルの
らすことを考えました。現在、パーツは、250万ショッ
項目を洗い出し、体系化して、スキルの一覧表を作成す
トで交換することになっていますが、ショット数を増や
ることにしました。スキル項目は、1つの課では、127項
すことができるかどうか検証することにしました。そこ
目、もう一つの課では、42項目ありました。さらに、ス
で、250万ショットから50万ショットずつ増やした時の
キルのレベルをこの表に入れて、課全体のスキルがどの
パーツの状態を調べました。目標としていました500万
ような分布になっているか見えるようにしました。この
ショットまでを検証したところ、すべて規格内の数値で
ことにより、課員のスキルの弱み強みを把握できるよう
推移していることが分かりました。今後、どのくらいま
になりました。今後は、このスキル一覧表を元に教育を
でこの数値を維持できるのか、ショット数を増やして検
行っていくことと、必要業務以外の業務に関してもスキ
証していく予定です。このチームの取り組みは、検証途
ル一覧表を作成していくことを予定しています。
中となりましたが、今後、彼らの対策を進めて材料交換
の頻度、材料交換とパーツ交換を同時に行う頻度を減ら
〈チーム 3〉
していければ、かなりの時間を削減できるのではないか
このチームも課長が集まって参加したチームです。
と思われます。また、このことにより生産効率も上がる
職場の問題にあげられた、「中心メンバーがいつも決
ことが期待されます。
まっている」「業務スキルの格差がある」というところ
から「必要なスキルと個人のスキルを明確にしよう!」
〈チーム 2〉
をテーマに活動を行いました。「なぜ、スキル差異が発
課長が集まって参加したチームです。職場の問題で
生するのか?」について原因を出したところ、「スキル
は、いろいろな課から集まっているため、広範囲の問
を計る指標が無いから」、「個々のスキルの違いが見え
題が挙げられました。半年間の活動は、これら問題の
る化されず格差があいまいだから」、「具体的施策が打
中からテーマを絞って行うことが求められているため、
てていない」ということがあげられた。このことを受け
テーマ選定のところでは大変苦労されていましたが、
て、まずは、必要なスキルの一覧表を作成しました。次
「なぜ、スキルが見える化出来ていないのか?」という
に、スキルの見える化をするため個人別の評価を実施し
ことをテーマに活動を行いました。これには、問題とし
ました。評価方法は、それぞれのスキルに、「○=3点
て「スキル能力の測定ができていない」「誰が何を知っ
自己完結できる」、「△=2点 助言を受けながら、
ているのかわからない」「メンバーのスキルのばらつき
またはマニュアルを見ながら処理できる」、「× =1
がある」「スキル向上に時間が掛かる」などがあり、管
点 知らない、またはまったくできない」、「空白 該
理職としても課員としても重要な問題ではないかという
当なし」、とマークと点数で分かるようにしました。こ
ことで、テーマとして取り上げられました。大きな目標
のようにしたところ、一番不足しているスキルがわかり
は、メンバーのスキルを向上させることとして、そのた
ました。チームでは、このスキルに特化した対策を行う
めにスキルの見える化を行うことにしました。スキルの
ことにしました。まず、マニュアルを整備し、次にリー
見える化が出来ていない原因としてあげたものには、課
ダーの学習会/リーダーフォローアップ(OJT)を実施
員の意識に関するもの、管理職の意識に関するもの、教
し、それから一般者の学習会/一般者へのOJTによる
育に関するもの、定義に関するもの、活用手段に関する
フォローアップを実施しました。その結果、当初5人しか
ものがあげられました。この原因の中から、今回の活動
出来なかったスキルが、13人出来るようになりました。
56
企業活力
C D G M
さらに、この対策の効果として、月末の繁忙期にも問題
参加者から鋭い質問や意見、アドバイスが出されていま
なく対応出来たり、突発の休みでも問題なく対応出来た
した。今期のセミナーでは、1チームは、第2回目からの
りすることがあり、業務としては、時間内に終わらせる
参加で5ヶ月間の活動となりましたが、他のチームの活
ことが出来るようになりました。今後は、今回特化した
動内容や意見から学んで、最後には、ほぼ同じ程度まで
スキルにはまだ出来ない人もいらっしゃいますので、全
活動を進めていました。また、似たようなテーマを取り
員が出来るようにしていく予定です。また、その他のス
上げたチームもありましたが、お互いの進め方や施策を
キルに関しても対策を行って行く予定としています。
見ながら自分たちの活動に取り入れたり、意見を交換し
あったりしながら、活動を進めていらっしゃいました。
〈チーム 4〉
参加されたそれぞれのチームは、他のチームの問題や解
工場の各部門から集まり作られたチームです。「なぜ
決方法を見ることにより、共感したり、励ましあったり
経費節減が進まないのか?」ということをテーマに活動
しながら、多くの気づきをされていたようです。そし
を行いました。経費節減が進まない原因としては、ルー
て、今回もこのようなセミナー形式の中で、お互いが学
ルに関するもの、設備設定に関するもの、意識に関する
びあえたことを喜ぶ声も多くいただきました。
もの、見える化に関するものがあげられました。そこ
最終回のセミナー後は打ち上げパーティーが開催さ
で、チームでは、アンケートを作成して、社員が何に対
れ、その中で吉田先生から各参加者に段位が授与されま
して無駄を感じているのかを調べました。アンケートの
した。また、受講生同士が交流を図りつつ、半年間の労
結果は、電気、カラーコピー、エアコンが上位となりま
をねぎらいました。
した。また、ルールに関して調べてみると、電気、エア
コンは、ルールがある程度示されているのに対して、カ
ラーコピーに関してはルールがないことが分かりまし
た。これらの調査から、チームメンバーは、改善がしや
すく、効果の確認がとりやすいカラーコピーを対策の対
象とすることにしました。まずは、現状を把握するため
サンプルとして4台のコピー機に対して数値の確認をし
ました。過去1年間の使用状況を白黒、カラー別に印刷
枚数と金額を調べました。その結果、カラー印刷は、1
台当たり1ヶ月¥207,080使用していることが分かりまし
た。また、カラー印刷は、全体の21.5%であることが分
かりました。そして、過去1年の間に一度カラー印刷の
経費節減アナウンスがあった後には、それ以後カラー印
○第19期CDGMラウンドテーブルセミナー開講予定
第19期CDGMラウンドテーブルセミナーは、平成27
年7月11日(土)にスタートを予定しております。ご参
加いただく皆様が、このCDGMラウンドテーブルセミ
ナーを通して、職場の問題の改善策に取り組み、成果を
上げ、ご自身も成長していただける場としてお使いいた
だけますよう努めていきたいと思います。なお、CDG
Mラウンドテーブルセミナーは、ご見学が可能です。セ
ミナーの講義の様子や、チーム活動の様子をご覧いただ
けます。ご興味がございましたら、担当までお知らせく
ださい。
刷が減っているという現象が起こっていることや、アン
ケートで出ていた意見を踏まえて考えると、現在でもカ
ラー印刷をしなくてもよい印刷物があると予想されまし
た。これらの現状把握により、カラー印刷の削減対策を
行うことにしました。全てのPCの印刷設定をモノクロ
CDGM ラウンドテーブルセミナーのお問い合わせ先
(一財)企業活力研究所 担当 関口・須藤
TEL 03–3503–7671 E-mail [email protected]
に変更をして、1枚当たりの金額や年間の金額を提示し
て経費節減の意識付けを行うことにしました。40台ある
全てのコピー機の設定をモノクロにしました。カラー印
刷低減呼びかけステッカーは、コピー機の操作パネル近
くや、PCモニターの上部に貼り付けました。この対策
後、効果を調べてみると、カラー印刷比率は、11%削減
され、1ヶ月の使用料金が¥68,000削減されました。年
間使用料金にすると¥816,000の削減になりました。今
回は、対策を実行してから2ヶ月間での成果となります
が、今後さらに削減されることが期待されます。
毎回のセミナーでは、吉田先生からの講義のほか、
各チームより経過発表が行われ、発表に対しては他の
第 18 期 CDGM ラウンドテーブルセミナーの様子
企業活力
57
特集
企業統治に関する一考察
~社外取締役を中心に~
亜細亜大学経営学部 准教授
鈴木 智大
2015 年 5 月 13 日、東京証券取引所より「コーポレー
式を市場が吸収で
ト・ガバナンス・コード」が公表されたのを受け、ビジネ
きたのも大きな要因
ス誌等で特集が組まれ、実務上の対応等が活発に議
と言える。
論されている。コードの解説等はそちらを参照していた
その後、失われ
だき、本稿ではその中でも取締役会改革の 1 つである
た 10 年・20 年と呼ばれる日本経済停滞期はガバナンス
社外取締役の導入効果等について、研究者がこれまで
不在の状態といわれ、コーポレート・ガバナンスの再設
に得た知見をもとに考察を行うことにする。
計が企業の喫緊の課題として浮上した。この点を特に
本題に入る前に、簡単に日本のコーポレート・ガバナ
問題視したのは機関投資家、特に外国人投資家と言わ
ンスの小歴史を振り返ってみたい。というのも、なぜ社
れている。彼らは銀行の経営危機時に放出された優良
外取締役の導入がこれほどまでに強く求められているの
企業株を保有しており、米国型のコーポレート・ガバナン
かを理解するには、これまでの経緯を知ることが重要だ
スを投資先企業に要求した。その 1 つが取締役会改革
からである。
であり、執行と監督の分離、社外取締役の導入などが
戦後資金不足の影響もあり高度経済成長期にかけて、
挙げられる。
日本ではメインバンクシステムが確立され、メインバンクが
こうして、社外取締役の導入が注目を浴びるようになっ
コーポレート・ガバナンスの中心を担ってきた。周知のと
たのだが、では、米国における社外取締役の導入効果
おり、バブル崩壊後は、銀行自体が経営危機に陥った
はどれほどであったかというと、実はあまり芳しいもので
ため、その影響力は弱体化してきている。メインバンク
はないというのが現時点での研究者の結論である。た
システムでは、企業と銀行の双方が良好な関係を築くた
だし、社外取締役の導入の経緯が異なるため、米国の
めに、メインバンクに決済口座を設けたり、お互いに株
研究成果をそのまま日本に当てはめることはできない。そ
式を持ち合ったりすることで、情報の非対称性を緩和す
こで、これまで日本企業を対象に実施されてきた社外取
るといった行為が観察されていた。そして、平時には少
締役の導入効果等に関する研究を見ていくことにしよう。
し高めの金利を企業が負担する一方で、有事に際して
まず社外取締役が法制化された当初の宮島・原村・
は、メインバンクが(他行に比べて)やや多めの損失を
稲垣(2003)では、企業価値(トービンの Q)および
負担し救済が実施された。なお持ち合い解消時に放出
企業業績(ROA)の間には統計的に有意な関係は観
された株式の多くは、優良企業の株式であったことが判
察されなかった。つまり、社外取締役を導入しても平均
明している。一見不可解な行動にも見えるが、銀行側
的には企業価値・業績の向上は見られないということで
は財政状態の改善を図るために手持ちの資産を売却し
ある。しかし、その後の研究では、社外取締役(特に
ているのだから、株式市場が低迷期にある中でも含み
独立社外取締役)と企業価値の間には統計的に有意
益が発生している優良企業株を売却するのが道理であ
に正の関係が観察されるようになった(三輪;2006、入
る。そしてまた優良企業であれば、銀行が放出した株
江・野間;2008、斎藤;2011、清水;2011 など)
。一
58
企業活力
特集 企業統治に関する一考察~社外取締役を中心に~
方で、企業業績については、多くの研究で統計的に有
以上、駆け足ではあるが、社外取締役の導入効果
意な関係は観察されていない。こうした非対称的な結果
について簡単に現時点の研究から得られた知見を考察
に対して、様々な解釈や統計的推定の問題が考えられ
した。周知のとおり、このたび制定されたコーポレート・
るが、現在のところコンセンサスは取れていないといえる。
ガバナンス・コードでは、「遵守せよ、さもなければ説明
この点に対して、宮島・小川(2012)は、情報獲得
せよ(comply or explain)
」アプローチが採用されて
コストと資本市場の圧力という切り口を導入して分析を
おり、社外取締役の導入を強制しているわけではない。
試みており、有力な解釈を提示している。理論的には、
よりよいガバナンスの形態があれば、きちんと説明したう
エージェンシー問題が深刻な場合には社外取締役の人
えでそちらを採用すべきというスタンスである。たとえば、
数が多いほうが望ましいが、企業特殊的な情報が多い
近年メイン寄せと言われる行為も観察されており、新た
企業では内部取締役が多いほうが有用であることが示
なメインバンクシステムが構築される可能性もゼロではな
されている。検証の結果、情報獲得コストが低い企業
い。
では社外取締役を導入することで企業業績は改善する
こうしたガバナンスのあり方についても、現在筆者が
が、高い企業ではそういった効果は観察されないことが
参加させていただいている企業活力研究所主催の企業
発見された。理論通りの結果といえる。
経営研究会で毎月活発な議論を行っている。実務家の
また資本市場の圧力(機関投資家持株比率)が強
生の意見を拝聴できることは、研究者にとって非常に有
い企業では企業業績は悪化する可能性が析出されてい
意義な時間であり大変感謝している。
る。この結果に対して、彼らは機関投資家持株比率が
周りと同じでよいという思考停止状態に陥ってしまうと、
高い企業の一部には、経営者が企業特性からみて合
そこからは進化は生まれない。いまこそ、日本企業は各
理的な水準以上の社外取締役を選任している可能性が
社の実態に合ったよりよいガバナンスの在り方を模索すべ
あると解釈している。
き時期にあるのだろう。
また以前より社外取締役の在任期間の問題が指摘さ
れている。日本弁護士連合会から 2013 年 2 月に公表
された「社外取締役ガイドライン」では「社外取締役
について任期の保証はないが、社外取締役が就任後
会社の営業の内容、ガバナンスの状況等について知識
等を深める期間を考慮すると、1 期のみで社外取締役
の評価を決めるのは早急に過ぎる。他方、再任が長期
間継続した場合、会社との癒着といった問題に配慮する
(p.17)
」との記述が見られる。この点について、筆者
が行った研究では、社外取締役の在任期間が企業価
値・業績に逆 U 字の影響を与えていることを発見してい
る。つまり、就任当初からある時期までは社外取締役を
導入すると企業価値・業績が向上するが、就任期間が
長期化すると低下していくということである。この結果は、
社外取締役は就任当初取締役会に規律を与えるととも
に、時間の経過とともに当該企業・業界に対する知識
を蓄積し就任企業にプラスの効果を与えるが、さらに時
間が経過すると、規律効果は薄まり、内部化していく(実
質的に社内取締役との差異がなくなる)と解釈できる。
【参考文献】
入江和彦・野間幹春 . 2008.「社外役員の独立性と企業価値・
業績」
『経営財務研究』28 (1) : 38-55.
斎藤卓爾 . 2011.「日本企業による社外取締役の導入の決定
要因とその効果」宮島英昭編著『日本の企業統治』:
181-213.
清水一 . 2011.「社外取締役の導入 , 委員会制度への移行
と企業価値 -- パネルデータによる分析 ([ 大阪経
済大学 ] 経営情報学部特集号 )」
『大阪経大論集』
61 (5) : 31-47.
鈴木智大 . 2013.「社外取締役の在任年数と企業価値」
『CSR
への取り組みの経済効果の測定と改善・改革方
策 の 研 究( 味 の 素 CSR 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト )』:
97-115.
宮島英昭・原村健二・稲垣健一 . 2003.「日本企業の取締役
会構成の変化をいかに理解するか : CGS(コーポ
レート・ガバナンス・スコア)による分析」
『フィ
ナンシャル・レビュー』(68) : 156-193.
宮島英昭・小川亮 . 2012.「日本企業の取締役会構成の変化
をいかに理解するか : 取締役会構成の決定要因と
社外取締役の導入効果」
『旬刊商事法務』(1973)
: 81-95.
三輪晋也 . 2006.「日本企業の取締役会と企業価値」
『日本
経営学会誌』(16) : 56-67.
企業活力
59
研究所便り
役員人事のお知らせ
6月24日(水)に評議員会が開催され、退任した会長の児玉幸治の後任として堤富男が、同じく理事長の廣澤孝夫
の後任として岩田満泰が選任されました。また副会長の松下滿雄が退任致しました。この他の任期を迎えた理事、監
事については、全員再任されました。
退任御挨拶
2013年2月より着任致しまして、2015年3月31日をもちまして帰任致しました。
在任中は主に税制を担当させて頂き、その間、国内では法人税改革の機運が高まる一方、国際的にはBEPSといっ
た難問が共通の課題として認識されるなど、様々な議論が非常に活発に行われてまいりました。このような中、それ
ぞれの論点について多方面からの理解を深めつつ業務を進められたことは、代えがたい経験となりましたこと、感謝
の念にたえません。至らぬ点もあったかと存じますが、当研究所での活動が少しでも課題解決の一助となっておりま
したら幸いでございます。
最後に今後の企業活力研究所及び皆様の活躍を祈念いたしまして、退任の挨拶に代えさせて頂きます。
(八木 純太)
着任御挨拶
4月1日に当研究所企画研究部主任研究員として着任しました土井皓介と申します。常設委員会としましては「経営
戦略・産業政策委員会」と「税制委員会」、研究会としましては、「ものづくり競争力研究会」「あるべき税制研究
会」を担当致します。
これまではエネルギー企業の経理部門で業績予測などの業務を担当しておりましたが、その際培ってきた知識や経
験を活かしつつ、一層の研鑽に励むことにより、皆様のお役に立てるよう努力して参る所存ですので、ご指導ご鞭撻
のほどどうぞよろしくお願い申します。
(土井 皓介)
編集
後記
先日、地元開催の「わんぱく相撲大会」に娘が出場することになり、応援に行ったところ、
現役のお相撲さんが3人ゲストで呼ばれておりました。一人のお相撲さんに話を聞くと「阿
炎(あび)」というしこ名の十両の関取で、娘が通っている小学校出身とのことでした。阿
炎関も小学校時代、この「わんぱく相撲大会」に毎年出ており優勝をしていたようです。
相撲大会の恒例イベントでちびっこ達がお相撲さんに挑むコーナーがありました。もちろん軽々と持ち
上げられたり、投げられたりしておりましたが、ちびっこ達は大喜び。
おそらく阿炎関も小学生の時にこのイベントに参加した際、同じような体験をして「お相撲さんって、
すごいんだな~」と憧れたのではないでしょうか。
「すごさに触れる。自分の肌で体験をする」ことは、やはり目標に繋がりますし、成長への意欲になっ
ていくのではないでしょうか。このちびっこ達からも将来の関取が生まれるかもしれませんので、ひそか
に期待しております。
今号の会報誌から表紙を一新し、内容も特集コーナーを設けるなどリニューアルを致しました。今後も
お読みいただく皆様に少しでも参考になる情報をご提供してまいりたいと考えておりますので、ご感想、
ご意見等ございましたら是非お聞かせください。
(小西 広晃)
60
企業活力
虎ノ門
5F 事務所 書房
6F 大会議室
夏季報告書
発行 2015. 7
一般財団法人 企業活力研究所
(Business Policy Forum, Japan)
設立:昭和59年7月19日
住所:〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-5-16 晩翠ビル5F
(大会議室:東京都港区虎ノ門1-5-16 晩翠ビル6F)
TEL:03-3503-7671 FAX:03-3502-3740
ホームページ:http://www.bpfj.jp/
Eメール:[email protected]
Fly UP