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建築に関わる少子高齢化対応技術動向調査報告書

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建築に関わる少子高齢化対応技術動向調査報告書
建築・住宅の将来像に関する社会・技術開発動向調査
平成17年度版
建築に関わる少子高齢化対応技術動向調査報告書
平成18年6月8日
建築研究開発コンソーシアム
序
建築研究開発コンソーシアムでは、建築に関する今後の技術開発におけるテーマ設定を支援する目
的で、研究開発推進委員会に技術動向調査小委員会を組織し、平成15年度から「建築技術動向調査」
を継続的に行なっております。過去のテーマを振り返りますと、 平成15年度には「防犯」
・「高層
居住」について、平成16年度には「市街地における自然災害対策技術」
・
「居住環境構築技術」
・
「建
築物の改善・改修技術」について調査を行ないました。3年目となる平成17年度は、これら過去の
経緯と、現在の社会的なトレンドを踏まえ、「少子高齢化社会」をキーワードとした建築分野の技術
動向調査に取り組みました。
折しも、調査を始めた平成17年には、増加の一途を辿ってきた日本の人口が減少に転じ、社会的
にも「少子高齢化」というキーワードがクローズアップされる年となりました。合計特殊出生率(一
人の女性が生涯に産む子供数
以下「出生率」
)が「2.1」程度を下回ると人口が減少に向かうとされ
ている中で、出生率「1.57」となった 1989 年から「少子化」という言葉が使われるようになり、い
ずれ到来するであろうことが予測されていた人口減少下の少子高齢化社会ですが、まだまだ世の中で
は漠然と捉えられており、具体的な施策もこれからというのが現状のようです。
例えば、「少子化」と「高齢化」に対する施策のアンバランスを指摘することが出来ます。国内の
社会保障給付費の割合を一人当たりで試算すると、高齢者は年間約 247 万円の給付を受けているの
に対し、子供は約 17 万円(2006/1/10 読売新聞)とのこと、また、2001 年の経済協力開発機構(O
ECD)の調査では、児童手当、育児休業手当、保育サービスなど、家族政策に関する財政支出の規
模を、対国内総生産(GDP)比で国別に比較すると、出生率が日本よりも高いスウェーデンで 2.9%、
フランスで 2.8%に対し、日本は 0.6%と
1/4以下にとどまっており、国際的にも国内的にも子育て世帯への支援の手薄さが目立ちます。
このような施策面での課題も踏まえ、本調査では、「人口動態→政策→建築界への要請」という展
開で全体をまとめ、
「少子高齢化」のキーワードに最も関連すると考えられる技術動向として「計画・
設計技術」と「施工技術」を取り上げ、現状を把握し、今後の提案を行ないました。
これらの成果が本会会員の今後の研究開発テーマ設定等に役立てられることを期待します。最後に、
本調査にご協力いただいた会員各位に感謝し、厚く御礼申し上げます。
平成18年6月
建築研究開発コンソーシアム
研究開発推進委員会
技術動向調査対応小委員会
委員長 坊垣和明
主査 末石伸行
平平成 17 年度
建築に関わる少子高齢化対応技術動向調査
報告書目次
序
1
平成17年度技術動向調査について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.1 この調査の目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.2 調査のテーマの設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.3 本年度の調査推進組織 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.4 調査活動の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.5 報告書の概要と執筆分担 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2
少子高齢化への人口動態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.1 日本の長期的人口趨勢
2.2 少子高齢化深化の要因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2.3 世帯と住宅の趨勢
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2.4 労働力人口の動態
2.5 人口趨勢の経済社会への与える影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
3 少子高齢化の政策とその展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.2 少子化政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
3.3 高齢化政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
3.4 地方の取り組み
4
少子高齢化の建築界への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
4.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
4.2 データ等による影響分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
4.3 ブレーンストーミング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
4.4 おわりに
5
計画・設計技術
5.1
5.2
5.3
5.4
5.5
5.6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
少子高齢化対応建築技術の現状(古瀬教授テクニカルヒアリングの記録) ・・・・・・・・81
各種バリアフリーを盛り込んだ計画・設計基準類 ・・・・・・・・・・・・・・83
・・・・・・・・・・・・・・・・・90
住宅における高齢者対応技術の実施状況
ハウスメーカ、材料・部品等の対応技術情報収集 ・・・・・・・・・・・・・・91
実施事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121
6 施工技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
6.1 まえがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
6.2 施工技術の合理化の現状と課題
6.3 施工技術をめぐる今後の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136
7 維持管理技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
7.1 構造体の維持管理技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
7.2 非構造体の維持管理技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145
7.3 設備の維持管理技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146
7.4 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146
8 平成 17 年度技術動向調査のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147
8.1 調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147
8.2 少子高齢化対応技術に関する動向調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147
8.3 残された課題と研究の方向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149
8.4 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150
資料編 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・152
Ⅰ 「建築に関する少子高齢化対応技術動向調査」に関わる主要ホームページとその概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153
Ⅱ 補論:労働人口の推計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155
Ⅲ
テクニカルヒアリング 『少子高齢化社会における建築とユニバーサルデザイン』
の記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・158
Ⅳ 建築施工ロボット化・システム化パネルディスカッション資料
・・・・・・・・・・165
・PD概要
(1) 機械化・ロボット化技術の現状と課題
清水建設㈱技術研究所 前田純一郎氏 ・・・・166
・・・・・172
(3) 内装工事の省力化技術 ㈱長谷工コーポレーション 技術開発部門 岩沢成吉氏 ・・・178
(2) ビル自動化施工システムの現状と課題 ㈱大林組技術研究所 井上文宏氏
1
平成 17 年度技術動向調査について
1.1 この調査の目的
建築研究開発コンソーシアムは、建築・住宅技術に関連する研究開発機関などが幅広く集結し、協
調的・連携的な研究開発の共通基盤(プラットホーム)である。この共通基盤を効率的、効果的に運
営するため、建築・住宅分野の技術動向情報を経常的にかつ系統的に収集している。技術動向調査は、
この役割を果たすために行うものの一つである。
この調査は、次の点に特長がある。
第 1 に「研究開発推進委員会」の下に「技術動向調査小委員会」を設け、組織的に推進する点、
第 2 に、毎年度、系統的かつトピカルな限定されたテーマを定め、特定分野に係わる情報を組織的か
つ集中的に収集する点である。
そして、その調査成果は、第 1 に会員各位の技術開発の基礎的資料を整えること、第 2 に本会の共
同技術開発テーマを発掘することを目標している。
1.2 調査のテーマの設定
(1) 過年度の調査テーマ
平成 15 年度、平成 16 年度の調査では、独立法人建築研究所の支援を得て、この技術動向調査を行
った。各年度に取り組んだテーマは、以下に示す 5 テーマである。
○ 平成 15 年度調査テーマ
「防犯技術」「高層建築居住の環境心理」
○ 平成 16 年度調査テーマ
「市街地における自然災害対策技術」「居住環境構築技術」「建築物の改善改修技術」
(2) 本年度の調査テーマ
本年度のテーマ設定に際して、技術動向小委員会では、「コンソーシアム会員業種との関連性」、
「技術研究開発の社会的ニーズ」「当該開発技術の市場性」「既成技術とニーズとの対応性」といっ
た評価項目を設け、コンソーシアムで取り上げるテーマとしての妥当性と社会的な期待度を検討した
上で、技術開発テーマを設定した。
(表1.1 参照)
そして、近い将来のわが国で深く、広く影響を与えるといわれる「少子高齢化対応技術」を本年度
のテーマとし設定し、研究開発推進委員会の承認を得た。
1.3
本年度の調査推進組織
(1)
調査組織
このテーマは、社会、経済、制度、文化に係わる幅広い内容に及ぶものである。そこで、広く会員
の協力を求め、図 1.1 に示すような調査研究委員会を設けて調査を推進した。
①研究開発推進委員会:建築研究開発コンソーシアムの研究開発業務全般を指導管理する委員会
②動向調査小委員会:研究開発推進委員会の下で「技術開発動向調査」を指導管理する委員会。本
年度は「少子高齢化対応技術動向調査委員会」の幹事団の役割も勤めた。
③プロジェクト委員:本年度のテーマへの「調査参画会員公募」に応じ参画した調査委員。実質、
調査の主要部分を担当した。
④「少子高齢化対応技術動向調査委員会」:宮田紀元(千葉大学教授)を委員長とした本年度の動
向調査推進した委員会。
研究開発推進委員会
「少子高齢化対応技術」技術動向調査委員会
委員長
宮田紀元(千葉大教授)
動向調査小委員会
プロジェクト委員:(9 名)
委員会幹事(5 名)
JFE スチール、関西電力、
旭化成ホームズ、大林組、熊谷組、
鉄建建設、熊谷組、
戸田建設、バンドー化学、フジタ、
三菱化学産資
三井住友建設
Ⅱ種情報会員
図1.1:平成 17 年度技術動向調査推進組織
(2) 少子高齢化対応技術動向調査委員
この調査委員会の委員構成を表1.2 に示す。
表1.2−平成 17 年度少子高齢化対応技術動向調査委員会構成
氏名
所属
備考
宮田 紀元
千葉大学 工学部
委員長
末石 伸行
JFE スチール 株式会社
小委員会主査
濱根 潤也
関西電力 株式会社
小委員会委員/幹事
鰐渕 憲昭
株式会社 熊谷組
小委員会委員/幹事
市川 昌和
鉄建建設 株式会社
小委員会委員/幹事
安藤 達夫
三菱化学産資 株式会社
小委員会委員/幹事
黒木 美博
旭化成ホームズ 株式会社
プロジェクト委員/少子高齢化対応政策担当
吉野 摂津子
株式会社 大林組
プロジェクト委員/少子高齢化の人口動態担当
磯貝 光章
株式会社 熊谷組
プロジェクト委員/施工技術担当
村江 行忠
戸田建設 株式会社
プロジェクト委員/建築界への影響担当
古田 智基
バンドー化学 株式会社
プロジェクト委員/関連要素技術担当
須賀 昌昭
株式会社 フジタ
プロジェクト委員/建築計画・設計技術担当
三上 藤美
プロジェクト委員/維持管理技術担当
小野澤 佳代子
三井住友建設株式会社
プロジェクト委員/建築計画・設計技術担当
石橋 孝一
三井住友建設 株式会社
プロジェクト委員/少子高齢化対応政策担当
松谷 輝雄
建築研究開発コンソーシアム
事務局
須田松次郎
建築研究開発コンソーシアム
事務局
吉田藍子
建築研究開発コンソーシアム
事務局
2
1.4
調査活動の概要
(1) サブテーマの設定
本年度のテーマは将来のわが国の社会、経済、文化、制度、生活慣習、教育等々全般に関わり、非
常に幅広い内容もつものである。このテーマについて図 1.2 に示すような枠組みで調査を推進した。
それぞれのサブテーマは、各プロジェクト委員が分担し、調査した。
施工技術
建築界への影響
少子高齢化
文化・経済等の国のあり方
少子高齢化の人口動態
価値観の変化
少子高齢化の対応施策の現状
計画設計技術
地球環境保全
関連要素技術
図1.2:少子高齢化対応技術動向調査のサブテーマ相互関連
それぞれのサブテーマの概要と相互関係を概説する。
「少子高齢化の人口動態」と「少子高齢化の対応施策の現状」は、少子高齢化の傾向とその対応施策
の現状を正確に把握するためのものである。これらの事象認識した上で「(少子高齢化の)建築界へ
の影響」を系統的にかつ総括的に検討した。
「施工技術」
。
「計画設計技術」、
「関連要素技術」は、非常に幅広い諸技術の中から、少子高齢化への
対応技術で有効なもの、特徴的なもの等々を取り上げ、共同研究のシーズを探索したものである。
(2) 調査活動の概要
この調査はプロジェクト委員の個別の独自調査とその全体をマネージメントする委員会とで遂行。
(2.1) 委員会/小委員会
委員活は調査委員会8回、小委員会2回開催した。その開催日及び主要な議題は以下の通りです。
①第 1 回委員会:2005 年 10 月 05 日
前年度活動概要報告と本年度活動予定
②第2回委員会:
10 月 31 日
本年度調査組織と活動指針
③第1回小委員会:
11 月 21 日
本年度調査計画案の策定
④第3回委員会:
12 月 02 日
本年度調査活動計画の検討・承認・調査分野と担当委員の
決定
⑤第4回委員会:2006 年 1 月 20 日
⑥第5回委員会:
2月 15 日
⑦第6回委員会:
3月 13 日
ヒアリングまとめ案の検討、各分担活動計画の検討
各担当活動報告の検討、調査計画の検討
各担当調査成果の検討、調査計画の検討、報告書作成スケ
ジュールの検討
⑧第7回委員会:
4月 25 日
報告書原案の検討
⑨第 8 回委員会:
6月中旬
本年度調査活動の反省と総括
(2.2) 調査活動
調査委員会が主催した調査活動は以下の通りです。会員及び学識経験者に多大なご協力を頂き感謝
しております。
①2005 年 10 月 31 日
第1回
テクニカルヒアリング
3
「少子高齢下の人口減少社会」:国立社会保障・人口問題研究所
②2005 年 12 月2日
第2回
高橋重郷
テクニカルヒアリング
「建築におけるバリアフリーとユニバーサルデザイン」:静岡文化芸術大学
③2006 年2月 10 日
副所長
古瀬
敏教授
パネルディスカッション
「建築施工のロボット化、システム化」:
司会とまとめ
国士舘大学
三浦延恭教授
副司会
熊谷組
パネラー
長谷工コーポレーション
大林組
時岡誠剛氏
岩沢成吉氏
井上文宏氏
清水建設
前田純一郎氏
④2006 年2月 15 日と3月 13 日
ブレーンストーミング
「(少子高齢化が)建築界に及ぼす影響」:委員全員
⑤ユニバーサルデザインの先進技術の見学会
2006 年3月 20 日
東陶
茅ヶ崎 UD 研究所
2006 年3月 30 日
積水ハウス
表 1.3:H17 年度
’05
10
委員会
●
11
●
小委員会
テクニカルヒアリング
総合住宅研究所
少子高齢化対応技術動向調査活動概要
12
●
’06
01
2
3
●
●
●
●
●
見学会
●●
報告書作成
(1)
報告書の概要
○
●
ブレーンストーミング
報告書の概要と執筆分担
○
6
●
パネルディスカッション
1.5
5
○
●
●
4
原稿作成
検討・編集・印刷
配布
報告書は、この章と8章「調査のまとめ」を除き、基本的には、6章構成である。それぞれの章の
概要を紹介する。
2章
少子高齢化の人口動態:人口、世帯、労働力の確実性の高い最新の推計に基づき「少子高齢
化の動態」を計数的に紹介するものである。
3章 少子高齢化の政策とその展開:少子高齢化は人口学的には、30 年前から進行し、多方面わ
たる社会的変質とそれへの対応、緩和、抑制への様々な施策が立案・施行されている。それら
の施策は、建築界に対する新しい社会的要請や多くの建築プロジェクトを生み出すもとになる
ものを包含している。その背景、政策の概要、具体的に実施されたプロジェクトの事例を紹介
するものである。
4章
少子高齢化の建築界への影響:まず、前2章に関わる調査事項を再整理した。これを前提に、
調査委員会で章標題の即した擬似的なブレーンストーミングを行い、これを整理したものであ
る。建築界の対応も現在は、右肩あがりを前提にした高齢化対策に重きをおいているが極めて
4
近い将来、既存の学校再利用問題、介護者減少を前提にしたコンパクトシティー、建設作業員
確保等々の少子化対策により重きをおかざるを得ないことを示している。
5章
計画・設計技術:この章から以降は技術各論である。この章では、高齢化−ユニバーサルデ
ザインに焦点を当てた。各種機関の最新の技術基準、ハートビル法の実施事例、ユニバーサル
デザインの最新技術等々の情報を収集・紹介している。
6章
施工技術:少子高齢化の影響を受けやすい現場施工について焦点を当てている。今後の施工
技術は、①若年層の入職しやすもの−合理的・系統的であること、②生産性向上が容易に企画
できること、③施工作業は安全・清潔であること等々を要件にする。この前提で、施工のロボ
ット化、自動化に焦点を当てた。大手建設業者のロボット化・自動化の先進事例のパネルデス
カッションに沿って様々な技術的試みを紹介している。
7章
維持管理技術:現行技術体系の中で維持管理技術の信頼性はさらに重要になるとの観点から、
建築に関わる各種の検査基準を躯体、仕上げ、設備に分け紹介している。
8章 平成 17 年度技術動向調査のまとめ:宮田調査委員長がまとめ、小委員会で検討したもので
ある。「8.3
残された問題」には、「(1)中長期的観点よりの検討の必要性」、「(2)生産者
の視点から生活者の視点へ」、「(3)物的価値・ハード技術重視から情報・サービス・ソフト
技術重視へ」、「(4)時代の諸潮流との協調」の4点を統括的視点から、を厳しく指摘してい
る。
資料編:参考としたホームページの紹介、独自のおこなった労働力推計、UDテクニカルヒアリン
グ紹介、ロボット・自動化パネルディカッション資料で構成さている。
(2) 執筆分担
本報告書の主に執筆はプロジェクト委員分担・担当した。執筆分担は以下のとおりである。
(なお、
序文は坊垣研究開発推進委員会委員長と末石小委員会主査が担当した。)
・宮田調査委員会委員長:「8 平成 17 年度技術動向調査のまとめ」
・黒木委員:「3.4 地方の取り組み」
・吉野委員:
「2.1
日本の長期的人口趨勢」、
「2.2
少子高齢化深化の要因」
、
「2.5
人口趨勢
の経済社会への与える影響」
・磯貝委員:「6 施工技術」
・村江委員:「4 少子高齢化の建築界への影響」
・古田委員:「5.4.2
材料・部品等要素技術の現状」、「5.5.4
材料・部品等要素技術における事
例」、「5.6.8 材料・部品等要素技術の課題」
・須賀委員:「5 計画・設計技術」(古田委員分を除く部分を小野沢委員と全て分担)
・三上委員:「7
維持管理技術」
・小野澤委員:「5 計画・設計技術」(古田委員分を除く部分を須賀委員と全て分担)
・石橋委員:「3 少子高齢化の政策とその展開」(黒木委員分担分を除く全て)
・須田事務局員:
「1
平成17年度技術動向調査について」
、
「2.3 世帯と住宅の趨勢」、
「2.4 労
働力の趨勢」
、「資料編:Ⅱ
補論:労働力推計」
5
6
7
防火・耐火
耐火設計
IT機器防護技術
雷防護技術
津波対応住宅(構造)
都市災害防止技術
火災対策技術
津波対策技術
内水洪水対策技術
情報化技術の急速な進展
(共通)
少子高齢化の進展
サスティナブル型社会の到来
環境保護に対する意識
の向上
崖地補強技術
建物対策技術
避難誘導技術(共通)
災害予知・センサー
防災情報システム
緊急時避難施設
快適空間の提供
室内環境制御技術
室内空気質、省エネ、遮音
生活ゴミ
室内外環境制御技術
排気、廃熱、排水
ヒートアイランド、インフラ設備
防犯
防犯技術
鍵
侵入センサー
防犯ネットワーク(コミュニティ)
防犯設計
防犯システム
セルフセキュリティ
住宅の安全に関する環境 高層居住の環境心理
建設状況
心理
居住者の実態
居住者への影響
テロ対策
爆発物対策技術
センサー・防爆構造
化学・生物兵器対策技術 センサー
避難・隔離技術
シェルター
地球温暖化抑止
省エネルギー技術
設備・蓄熱(ヒートポンプ)
(CO2削減)
屋上(壁面)緑化
新エネルギー技術
水素電池・風力・太陽光
バイオマス
建築ストックの活用増大
管理・維持・補修技術
セルフビルド・DIY
管理システム
価値増大
建物診断技術
非破壊診断
中古住宅の性能表示技術
コンバージョン技術
プラン変更・設備・遮音
歴史的建造物の活用
評価・診断
材料の再利用
建築廃材の再利用技術 廃木材の再資源化
コンクリートの再利用
自然素材の再評価
材料の再評価技術
石、土、植物
若年労働力の減少
生産合理化技術
生産手段の標準化
施工ロボット、Pca化
女性・高齢者・外国人の 雇用システム
雇用
法的問題
技術の伝承システム
教育・運用
福祉型施設の増大
バリアフリー技術
行動容易性・設備
地域福祉施設計画技術 全体計画
建築技術/空間のIT化
生産システムIT化技術
IT対応建築技術
地すべり対策技術
雷害対策技術
強風対策技術
4
4
3
3
4
4
4
3
4
4
4
3
3
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪
①、⑦、⑩
①、②、③、④、⑤、⑦、⑩
⑤、⑩
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑩
①、⑩
①、⑩
①、②、③、④、⑤、⑦、⑩
①、⑩
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩
4
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪
①、②、③、④、⑤、⑦、⑨、⑩
①、②、③、④、⑤、⑦、⑧、⑩
4
4
4
4
4
4
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩
?
?
①、③、⑤
①、②、③、④、⑤、⑦、⑨、⑩
4
①、③、④、⑦、⑧、⑩
4
4
3
3
4
4
4
ニーズ
①、⑧、⑩
①、③、⑦、⑩
①、⑩
①、②、⑦、⑧、⑩
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑩
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑩
耐震・免震・制震
耐震補強・2次災害
修復・復旧・モニタリング
屋根・壁・窓
地震対策技術
自然災害の防止(防災)
安全・安心・快適に対する
高度な要求
要素技術を保有していると予想さ
れる会員業種
建築技術への課題
建築業界へのインパクト
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑩、⑪
2
3
3
3
3
4
3
4
3
2
4
3
4
4
2
2
2
4
4
3
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4
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3
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3
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3
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3
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4
3
3
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3
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3
4
4
3
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3
3
3
2
3
4
3
4
3
3
3
4
2
9
10
10
10
10
10
10
12
9
9
11
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11
10
9
9
11
10
10
12
11
11
10
9
9
12
10
市場性 対応性 総合
評価
・福祉施設については、現状の問題点調査からはじめる必要がある
・団地等の維持補修は物理的な課題と管理システムの課題があり後者に対する取組は手薄
・LCAの認知と引渡し後の制度(点検等)が未整備
・可変化、高機能化、性能向上などの技術が必要とされている
・必要性は認知、普及しない(費用負担)という課題がある。リファインという考え方もある
・マーケットとして流通させるための性能表示システムやしくみに課題がある
・権利問題やコスト的な課題が主流
・耐震補強や防火などが課題
・石膏ボードやコンクリートの再利用は進んでいるが、再資源化された材料の評価技術が課題
・核シェルターの技術はある
・建築では対処しずらい
・H15年度実施済み
・H15年度実施済み
・快適な居住環境は人間の永遠の欲望
・室内環境は外部環境との調和によって成立するので、今後の重要課題となる
・危機時の生活空間確保(避難場所)に関する取組は手薄
・ユニバーサルデザインに対する技術は今後の課題
・要素技術としては各分野での取組多数
・巨大地震/長周期地震については今後の取組
・総じて技術動向は明らかになっている
・今年の台風により従来考えられなかった風害が多数発生
・風圧力、風環境の技術については技術的関心が高いが、建物部材側の風対策については
未検討
・市街地火災については総プロで実施。想定外火災や高層火災は今後の課題
・避難・誘導は共通技術
・IT化の進展により家電や計測器の雷害が多数発生し、課題は多い
・今回のテーマ対象としてはやや範囲が狭い
・津波に関する建築的課題はほとんど検討されていないし、基準もない
・要素技術を保有している会員は少ないと予想される
・避難・誘導は共通技術
・地下室の浸水による事故が発生している
・今までの対応では盲点がある
・建築での問題も多少あるが、基本的には土木技術で対応
検討結果
*会員業種:ワークショップ開催に当たり話題提供を呼び掛ける業種
①総合建設業、②ハウスメーカー、③設備工事業、④住宅設備メーカー、 ⑤建材メーカー、⑥鉄鋼メーカー、⑦設計事務所、⑧情報技術関連、⑨エネルギー関連、⑩公的機関、⑪保険・金融業、⑫其の他
要素技術
は平成16年動向調査テーマ
は平成15年動向調査テーマ
社会動向の変化
平成17年動向調査テーマ案
2. 少子高齢化の人口動態
はじめに
この章は、少子高齢化の人口動態を計数的に紹介することが目的とする。
わが国の人口動態については、総務省統計局の「国勢調査」や厚生労働省国立社会保障・人口問題
研究所の「人口推計」が詳しい。今回の調査でも、国立社会保障・人口問題研究所が 2004 年∼2005
年に行った各種の人口推計に基づき報告するものである。その主要な部分は以下に示すテクニカルヒ
アリングで得たものである。
①第 1 回
少子高齢化対応技術動向調査−テクニカルヒアリング
②開催日時
平成17年10月31日(月)
③開催場所
晴海トリトンスクエアー
④演
『少子高齢下の人口減少社会』
題
⑤講 演 者
国立
Z棟
13:00∼15:00
4F
社会保障・人口問題研究所
高橋
重郷
副所長
本章では、上記講演に加え、人口動態に密接に関連する「2.3 世帯と住宅」や「2.4 労働人口」に
ついて、関連統計調査の動態や独自の推計を加えて報告する。
2.1
日本の長期的人口趨勢
2.1.1 出生率の低下と高齢化
日本の人口は江戸時代前(∼1,600 年頃)までは 1,000 万人程度で推移していたが、江戸時代末期
(1,850 年代)までに 3,000 万人程度に、そして近代社会を迎えた明治以降は、日清、日露、第一次
世界大戦、第二次世界大戦等々の戦争期間を含め、人口は爆発的に増加し、2004 年には 1 億 2 千 800
万人近くまでに達した。しかし、1970 年代前半の第二次ベビーブームを最後に出生数、出生率共に低
下傾向にあり,2005 年をピークに人口減少期に突入した。2004 年の合計特殊出生率は 1.29 であった
が、人口推計では、合計特殊出生率が 2.07 を下回ると人口は減少するとされることから、今後もその
出生率のままで推移すると仮定すれば、人口は加速的に減少を続ける。
(図 2.1.1-1∼図 2.1.1-3)平
成 14 年 1 月の日本の将来推計人口(中位推定:1985 年生まれの世代の平均初婚年齢を 27.8 歳、出
生率を 1.72、生涯未婚率を 16.8%として推計)では、2025 年に 12、114 万人、2050 年に 10,089 万人
と下降で推移する。(図 2.1.1-4∼図 2.1.1-6)
出生率の低下に伴い少子化が進行する一方で、高齢化も進行している。日本人の平均寿命は、第二
次大戦以降飛躍的に伸び続けており、2004 年現在、男性が 78.36 歳、女性が 85.33 歳と、世界一の
長寿国となっている。
(図 2.1.1-7)また、65 歳以上の人口割合は、2000 年の実績値では 17.4%、2025
年、2050 年の中位推計はそれぞれ 28.7%、35.7%と上昇で推移する。(図 2.1.1-8)
8
図 2.1.1-2 出生数及び
図 2.1.1-1 日本の長期人口趨勢
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
合計特殊出生率の推移(1)
高橋
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
重郷氏講演)
高橋
重郷氏講演)
図 2.1.1-3 出生数及び
図 2.1.1-4.将来推計人口(平成 14 年)
合計特殊出生率の推移(2)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋
高橋重
郷氏講演)
重郷氏講演)
図 2.1.1-5 総人口の推移
図 2.1.1-6 出生、死亡
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
及び自然増加数の推移
高橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
重郷氏講演)
9
高橋
図 2.1.1-7 日本人の平均寿命
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
図 2.1.1-8 65 歳以上の人口割合の推移
高橋
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
重郷氏講演)
高橋
重郷氏講演)
2.1.2 生産年齢人口の推移
生産年齢人口(15∼64 歳)は 1995 年の 87,165 千人(実績値)をピークに 2025 年に 72,325 千人、
2050 年に 53、889 千人と下降で推移する。この間高齢化に伴い、老年人口(65 歳以上)は、2000 年
は 22,041 千人(実績値)であるが、2020 年に 34,559 千人に上昇し、それ以降も横ばい傾向で推移
する見込みである。また、後期老年人口(75 歳以上)も 2025 年頃までは上昇で推移する見込みであ
る。(図 2.1.2-1)
高齢化の進展と、生産年齢人口の推移をみると、1970 年の生産年齢人口ピラミッド゙は若い年代ほ
ど多いピラミッド゙型を築いており、65 歳以上の老年人口の男女比に大きな開きはみられない。(図
2.1.2-2)
2000 年になると、生産人口構成は団塊世代(50∼54 歳)及び団塊ジュニア世代(25∼29
歳)を中心とした 2 箇所のピークがみられ、65 歳以上では女性の人口が多くなる。
(図 2.1.2-3) 2025
年の生産人口構成では団塊ジュニア世代(50∼54 歳)を中心としたピークがみられ、若い世代ほど
少ない。65 歳以上では男女の差異が拡大している。(図 2.1.2-4) 2050 年の生産人口構成では若い
世代ほど少ない逆ピラミッド型となると同時に 65 歳以上の男女の差異が更に拡がりをみせ、女性の
高齢化が顕著になる。(図 2.1.2-5)
図 2.1.2-1 年齢 3 区分別人口の推移
図 2.1.2-2 人口構成の変化
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(1970 年)
高橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
10
高
図 2.1.2-3 人口構成の変化
(2000 年)
図 2.1.2-4 人口構成の変化
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(2025 年)
高橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
橋重郷氏講演)
図 2.1.2-5 人口構成の変化
(2050 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋重郷氏講演)
2.2. 少子高齢化深化の要因
2.2.1 合計特殊出生率
合計特殊出生率(TFR: Total Fertility Rate)は図 2.2.1-1 で示されるように、一人の女性が生涯
に出産する子供の数を示す統計上の指標である。出生率の低下と晩産化傾向は、1975 年と 2000 年の年
齢別出生率の比較により、20 歳代の大幅な低下と 30 歳代の若干の上昇という大きなカーブの変化か
ら確認できる。(図 2.2.1-2、図 2.2.1-3) この現象は他の統計からも確認できる。出生順位別の合計出
生率の年次変化では、第 2 子、第 3 子の出生率の顕著な低下がみられ、出生順位別平均出産年齢(第 1
子)では、1975 年の 25.6 歳から 2004 年の 28.5 歳への上昇がみられる。(図 2.2.1-4、図 2.2.1-5)
出産の 98%が既婚女性によるもの(夫婦出生力)であることから、少子化の進展には、結婚の変化と
夫婦の子の生み方の変化、すなわち、産み控えに加え、晩婚化の影響も含めた出産の先送りによる夫婦
出生力の低下が大きく寄与している。(図 2.2.1-6)この裏付けとして、有配偶人口構成割合を 1975 年と
2000 年で比較すると、25 歳で 7 割近かったのが約 3 割に急速に低下しており、30 歳では 9 割近かっ
たのが、6 割少々となっている。(図 2.2.1-7)また、有配偶年齢別嫡出出生率を 1975 年と 2000 年で比較
11
すると、20 歳代では出生率が低下傾向、30 歳代で上昇傾向がみられる。なお、10 代後半から 20 代前半
に出生率の上昇がみられるが、全体でみればこの年代層の出生率は微少なため、大きな影響力はない。
(図 2.2.1-8)
図 2.2.1-1 合計特殊出生率の定義
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
図 2.2.1-2 年齢別出生率
高
(1975 年と 2002 年)
橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
橋重郷氏講演)
図 2.2.1-3 1970 年以降の年齢別出生率
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
図 2.2.1-4 出生順位別合計出生率
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
図 2.2.1-5 出生順位別平均出生年齢
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
図 2.2.1-6 合計特殊出生率の構成要素
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
12
高
図 2.2.1-7 年齢別有配偶人口構成割合
図 2.2.1-8 有配偶年齢別嫡出出生率(1975
(1975 年と 2000 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
年と 2000 年)
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
合計特殊出生率は、一般にその年の女性の年齢別出生率に着目する「期間合計特殊出生率」が用いら
れるが、他に、ある世代に属する女性の年齢別出生率に着目する「コーホート合計特殊出生率」がある。
1935 年から 1975 年生まれの出生コーホート(世代)別年齢別出生率をみると、20 代後半時点の出生率
は世代が下がるにつれて低下傾向にあるが、30 歳代では上昇傾向に転じており、出産の晩産化傾向が
みられる。世代別みると、1950 年以前生まれ世代の 30 歳時の出生率は安定的なのに対し、1950 年から
1950 年代半ば生まれの世代は、30 歳時の出生率は下がっている。しかし、最終出生率をみれば、晩産化
傾向はみられるものの 2.0 産んでいた世代であることが分かる。つまり、1970 年代から 90 年代に入る
までは、40 歳時点の出生率は 2.0 前後で推移しており、子どもの産み方にはほとんど変化は見られな
い。一方、1960 年以降生まれのコーホート(世代)別累積出生率(実績値)をみると、1960 年生まれ(2004
年当時 44 歳)が 1.84、1965 年生まれ(同 39 歳)で 1.57、1970 年生まれ(同 34 歳)で 1.23、1975 年生まれ
(同 29 歳)で 0.65、と世代が下がるにつれて低下している。1960 年代前後生まれの世代から最終出生率
の低下傾向が起きており、この世代から本格的な少子化現象が起きていることが分かる。
(図 2.2.1-9∼図 2.2.1-11)
図 2.2.1-9 二つの合計特殊出生率
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
図 2.2.1-10 出生コーホート(世代)別
高
年齢別出生率
橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
13
高
図 2.2.1-11 出生コーホート(世代)別
図 2.2.2-1 合計特殊出生率変化の
累積嫡出出生率
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
要素分解
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
図 2.2.2-2 結婚行動変化
図 2.2.2-3 女性の年齢別未婚率
(平均初婚年齢)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
高
橋重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
図 2.2.2-4 夫婦の子ども産み方の
図 2.2.2-5 妻の出生年別
変化
平均出生子ども数
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
2.2.2 出生率低下の要因
これまでの各種統計が示すように、出生率の低下は第一に結婚の変化、第二に夫婦の子どもの生み
方の変化によってもたらされたといえる。ここで、要素分解により、出生率低下に対する結婚の変化
14
および夫婦出生力の変化の寄与率を求めると、70 年代後半から 80 年代は、出生率の低下は約 9 割方
が結婚の変化(晩婚、未婚化現象)によってもたらされており、夫婦の出生行動によって1割の低下
がもたらされている。一方、90 年以降は出生率低下の約 4 割が結婚の変化によりもたらされ、約 6
割少々は夫婦が子どもを産まなくなるという現象によりもたらされている。つまり、1990 年以前の
日本の少子化現象は 9 割方結婚の変化で説明できるが、90 年代以降は、夫婦が子どもを産まなくな
るとういうことが少子化現象の大きな要因になっており、90 年代を挟んで、出生率低下の意味合は
大きく異なる。(図 2.2.2-1)
(1)結婚の変化
結婚の年齢は高度経済成長期には安定的であったが、1973 年オイルショック以降の低成長期に入
るに従い結婚の年齢変化が生じ、現在に至っている。 これを統計でみると、1965 年時点の男女の
平均初婚年齢はそれぞれ、27.2 歳、24.5 歳であったが、2004 年ではそれぞれ、29.6 歳、27.8 歳と
なっている。(図 2.2.2-2) 年齢別未婚率をみると、20 代後半女性については、1970 年代は 2 割で
あったのが 1985 年には 3 割に達し、以後 5 年で 4 割に達し、2004 年時点では 56.9%に上昇している。
(図 2.2.2-3)
(2)夫婦の子どもの産み方の変化
夫婦の完結出生児数(結婚持続期間が 15∼19 年の夫婦の生んだ子どもの平均値)をみると、1970
年が 2.20 であり、2002 年が 2.23 である。(図 2.2.2-4)これにより、1985 年前後に結婚した人まで
については夫婦出生力に変化はないことが分かる。1985 年以降に結婚した夫婦については、妻の出
生年別、平均出生子ども数からみると、1960 年生まれ以降のいわゆる「均等法世代」に平均出生数
に低下がみられる。これらから 1985 年以降に結婚した夫婦で子どもの産み方が小さくなったことが
分かる。(図 2.2.2-5)
2.2.3 社会経済変化
これまでにみた結婚・出生行動の変化を経済との関係で対応させると、製造業中心の産業化が進展
していた高度経済成長期は、結婚行動、夫婦と子どもの数ともに安定していた。1973 年のオイルシ
ョック以降、80 年代後半のバブル期、90 年代からの平成不況までの一貫したサービス産業を中心と
する産業構造への大転換期に結婚が遅れ、90 年代以降結婚した夫婦が子どもを産まなくなる現象が
あらわれたことになる。
産業類型別就業人口割合の推移をみると、日本の産業構造は戦前までは、第 1 次産業の就業人口の
割合が高いが、戦後になると第 1 次産業は縮小し、1970 年代の高度経済成長期までは第 2 次産業が
増加している。オイルショック以降は 3 次産業の割合が高くなり、2000 年の就業人口割合は 65.1%
と顕著な増加がみられる。(図 2.2.3-1) これを男女別就業者の推移にみると、第 1 次産業につい
ては、戦前は男女等分に働いていたが、第 2 次および第 3 次産業については、戦前は男性が主、女性
が従の構造であった。1970 高度経済成長期までに第 2 次産業が大きくなると、男性労働力が非常に
大きくなった。ところが、オイルショック以降第 3 次産業が増えるに従い、男女比率の差が小さくな
った。第 2 次産業全体が縮小してくると、労働市場における就業者は男女共に働くという形に変化を
してきている。(図 2.2.3-2)
15
図 2.2.3-1 産業類型別就業人口割合の推移
図 2.2.3-2 男女の就業者数の推移
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋重
郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
2.2.4. 結婚・出生行動の社会経済的背景
社会・経済的背景を考える上で重要な要素は、①就業行動の変化、 ②未婚者の結婚の意欲と出生
意欲、③出産・育児の機会費用である。
(1)就業行動の変化
高度経済成長期である 1971 年当時、全体の 20 代前半の女性の有業者の割合は 65%であり、55%は
未婚女性であった。しかし 20 代後半になると女性就業者は大きく減少しており、典型的なM字カー
ブ型就労を形づくっていた。
(図 2.2.4-1) 2002 年になると大きな変化を示し、20 代後半女性の労
働市場への進出が顕著になり、正規就業の未婚女性の割合が拡大した。あわせて、中高年女性も労働
市場に出てきたが、それは、非正規就業の既婚女性の増加による。(図 2.2.4-2)近年のサービス産
業化した社会では、女性の労働力に対する需要は高まったが、それは未婚労働力に対する需要の高さ
であり、これが 20 代女性の未婚化を促進していると考えられる。
図 2.2.4-1 女性の配偶状態別にみた
図 2.2.4-2 女性の配偶状態別にみた
有業率(1971 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
有業率(2002 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋重郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
(2)未婚者の結婚・出生の意欲と雇用状態
2002 年の未婚者の生涯の結婚意思の調査では、男女とも 9 割近くが「いずれ結婚するするもり」
と回答している。(図 2.2.4-3)また、未婚女性の理想子ども数および希望子ども数は、世代を問わ
16
ず 2 人前後であり、底堅い。(図 2.2.4-4)
男女の雇用状態をみると、男女の若年層(20∼24 歳、25∼29 歳、30∼34 歳)は、どの層も 1992
年、1997 年、2002 年と年を追って非正規雇用の占める割合が増えている。(図 2.2.4-5) 失業率を
みると、失業率は 20 代のところで非常に高くなっている。(図 2.2.4-6) また、若年無業者(15∼
34 歳)いわゆるニートの人数は 2002 年以降増加傾向にある。(図 2.2.4-7) 若年層、つまり結婚生
活を開始する時期に相当する人々の経済基盤の弱さは、近年における結婚の大きな問題の一つと考え
られる。
図 2.2.4-4 未婚女性の理想と
図 2.2.4-3 未婚者の生涯の結婚意思
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
希望子ども数
高橋
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
重郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
図 2.2.4-5 男女の雇用状態
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
図 2.2.4-6 若年無業者の推移
高橋
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
17
高
図 2.2.4-7 フリーターの人数の推移
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋重郷氏講演)
(3)働き方と機会費用
未婚女性は結婚後の仕事のし易さに対しては、
「やや悪くなると思う」
「悪くなると思う」が世代を
問わず 55%を超えており、結婚後の就業継続の困難さが結婚を抑制する状況が伺える。(図 2.2.4-8)
実際に、第 1 子出産後の就業継続率をみると、女性の就業人口が最も多い事務職でも、継続率は 2
割に満たない。(図 2.2.4-9)つまり、女性が結婚して子どもを生むと就業継続が困難な状況になるこ
とを示している。
内閣府の『H15 年経済財政白書』によると、子育てによる就業中断に伴う就業所得逸失額は、大卒
女子のケースで育児後の再就職には約 8,500 万円の機会費用が発生すると試算されている。パートの
場合は、同様に約 2 億 3794 万円と試算されている。(図 2.2.4-10) 一方で、35∼39 歳の働き方を所
得階層別雇用者数でみると、パート従業員の多くが税、年金、扶養手当等の優遇措置が受けられる範
囲に収入を留めている。(図 2.2.4-11)
これらの統計は、日本の雇用慣行や企業風土が、出産後の
就業継続を困難にさせ、子どもを生むことの機会費用を高騰させていること、加えて、税・年金など
の社会制度が女性労働のインセンティブを奪っている状況を示すものと考えられる。
ここで、先進諸外国の状況と比較すると、1970 年の女子労働力率(25∼34 歳)と出生率の関係は
負の相関関係にあった。(図 2.2.4-12) ところが、2000 年になると日本とイタリアを除き、労働力
率が高い国ほど出生率も高くなる相関関係にシフトしている。(図 2.2.4-13) これは各国の育児支
援策や社会制度改革等の少子化対策の取組みによる効果と考えられる。
18
図 2.2.4-8 未婚女性の結婚後の
図 2.2.4-9 第 1 子出産前
仕事のし易さ
職種別就業継続率
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高橋重郷氏講演)
橋重郷氏講演)
図 2.2.4-10 働き方と機会費用
図 2.2.4-11 所得階層別雇用者数
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(35∼49 歳)
高橋重郷氏講演)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
高
高
橋重郷氏講演)
図 2.2.4-12 女子労働力率と出生率
図 2.2.4-13 女子労働力率と出生率
(1970 年)
(2000 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
高橋重郷氏講演)
19
高
2.2.5 まとめ
少子高齢化深化の要因を以下にまとめる。
(1)女性の働き方や生き方が社会制度や社会慣行によって、誘導されている。
① 税の仕組み、年金の仕組み、扶養手当が就業を抑制し、子どもの機会費用の増大させている。
② 年功序列型賃金体系と硬直化した職業流動性が、ライフコースの変更を困難にすると共に子育て後
の正規就業を困難にしている。
(2)現実の経済社会は女性の労働力化を促進
① 未婚労働力に対する高い需要が未婚女性の結婚を抑制。
② 女性の就業継続が、結婚や出産・子育てを抑制。
20
2.3
世帯と住宅の趨勢
少子高齢化は家族−家計−世帯のあり方、あり様に深く関わる問題である。この節は、世帯数の動
態、そして、人口−世帯数と裏腹に関連する住宅数の動態について、次の統計情報を分析、整理した
ものに基づき報告する。
①国勢調査:総務省統計局
②人口の年齢別推計:厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所[2002 年1月推計−以下『人口
推計 02』とする。]
③世帯型別推計:国立社会保障・人口問題研究所[2003 年 10 月推計−以下『世帯型別推計 03』と
する。]
④2003 年土地・住宅統計調査:総務省統計局[2003 年 10 月実施−以下『住宅統計調査 03』とす
る。]
2.3.1 世帯の細分化
(1) 世帯数と世帯規模の推移
人口は既に減少期に入っている、しかし、世帯数はこの数年間増加し、2015 年頃およそ 5,050 万
世帯でピークになる。単身世帯や夫婦のみ世帯が増加し、世帯規模は、1985 年 3.2 人/世帯、2005
年人 2.6/世帯、2025 年 2.4 人/世帯とさらに細分化していく。
千世帯
60,000
世帯規模(人/世帯)
3.4
3.2
50,000
3.0
40,000
2.8
30,000
2.6
世帯数
世帯規模
20,000
2.4
2.2
2.0
年次
(この図は国勢調査、世帯型別予測 03 から作成した。)
図 2.3.1 世帯数と世帯規模の推移
21
25
20
20
15
10
20
05
00
20
95
90
85
19
19
80
10,000
(2) 高齢者世帯の推移
特に、高齢者世帯の細分化が進む。単身世帯と夫婦のみ世帯の合計比率は、1985 年 53%、2005 年
64%、2025 年 70%と急速に高くなっていく。
図表2.3.1:世帯型別世帯数(一般世帯)
図表2.3.2:世帯型別世帯数(世帯主:高齢者)
世帯数(千)
世帯数( 千)
50 ,00 0
20,000
45 ,00 0
17,500
40 ,00 0
15,000
35 ,00 0
30 ,00 0
12,500
25 ,00 0
10,000
20 ,00 0
7,500
15 ,00 0
5,000
10 ,00 0
5 ,00 0
その他
片親と子
夫婦と子
夫婦のみ
単独
0
198 5
95
05
15
2,500
その他
0
片親と子
1985
夫婦と子
夫婦のみ
単独
25
年次
90
95
2000
05
10
15
2020
25
年次
図 2.3.2:一般普通世帯と高齢者世帯の世帯型別構成
(この図は国勢調査と世帯型別推計 03 から作成した)
(3) 世帯数と世帯規模の変化が社会に及ぼす影響
世帯は家計と居住をともにする経済の基本単位である。
1990 年頃、平均世帯人員が 3 人を割り込んだ頃から、
「家庭」や「家計」のあり方や分担すべき責
任を再考する必要が高くなっている。これは、
「少子高齢化」との関連でみれば、出産、養育、教育、
老人介護といったことがらに深く係わる。さらに、建築界との関連では、今後供給すべき住宅の質や
量にも密接に関わってくる。
2.3.2 住宅数の推移
(1) 世帯数と住宅数
2003 年に住宅数は、世帯数の 1.15 倍に、空き家の数は約 700 万戸に達した。人口減少、少子高齢
化が進展する状況の下で、住宅需要の拡大し難い状況にある。今後は、高齢者介護や養護、就業事情、
余暇等々のためにマルチハビテーションが増えると予測されている。即ち、住宅供給は、様々なセカ
ンドハウス需要への対応が必要になる。
千
50,000
住宅数
世帯数
空家
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1978
1983
1988
1993
1998
注:この表は住宅統計調査03から作成した。
図 2.3.4 住宅・世帯数・空家の趨勢
22
2003
(2) 高齢者世帯の住む住宅
(2.1) 世帯の型と住宅の所有関係
高齢者世帯の 80%は持家に住んでいる。これは、一般普通世帯 62%に比較してはるかに高い比率
である。しかし、高齢単身世帯では、持家比率が 66%にとどまる。このような人々の住宅改善、生
活支援、養護・介護は社会的問題として次第に重くなっていく。
普通世帯の住宅所有関係
高齢者のいる世帯の住宅所有関係
8%
3%
17%
11%
62%
2%
5%
持家
公営の借家
公団・公社の借家
民営借家 (木造)
民営借家 (非木造)
給与住宅
6%
2%
2%
5%
3%
10%
66%
持家
公営の借家
公団・公社の借家
民営借家 (木造)
民営借家 (非木造)
給与住宅
高齢夫婦のみ世帯の住宅所有関係
0%
7%
0%
80%
高齢単身世帯の住宅所有関係
14%
4%
持家
公営の借家
公団・公社の借家
民営借家 (木造)
民営借家 (非木造)
給与住宅
0%
5% 2%
86%
持家
公営の借家
公団・公社の借家
民営借家 (木造)
民営借家 (非木造)
給与住宅
(この図は土地・住宅統計調査 03 から作成した)
図 2.3.5
2003 年の一般世帯と高齢者世帯の住宅所有関係
(2.2) 高齢者の住むための技術対策
バリアフリー対策を講じた住宅の数は次第に増えている。しかし、まだ十分でない。
バリアフリーの対策も「手摺」をつけると軽微なものが圧倒的で、「車椅子の通れる廊下のはば」、
「屋内段差の解消」、
「道路から玄関までの段差の解消」等本格的なバリアフリー対策は、9%(道路
から玄関までの段差の解消」)∼17%(「またぎやすい浴槽」
)にとどまる。高齢化は、さらに深化し
ていくので、今後、膨大な既存住宅の改善・改修が必要なってくる。
(2.3) どんな住宅が高齢者対応されているのか?
既存住宅全体では約 40%のものがなんらかの高齢者への技術対応がなされている。
所有関係で借家、建て方別で共同建て、建設年代で 1960 年代∼1990 年代のものでは、技術的対応
のあるものの比率が 35%以下である。特に、「借家」、「共同建て」では 30%以下と極端に低い。
土地・住宅統計調査では、一定の要件を具備する共同住宅を「高齢者対応型住宅」として調査して
いる。2003 年では 25 万戸存在する。年々、増加する傾向にあるとはいえ、共同住宅総数 187 万戸の
13%にすぎない。
共同住宅では、エレベーターの設置、階段のないアクセス経路の設置等改修・改善への技術対応が
難しいばかりでなく、区分所有−改修・改善費用の分担問題や共同空間の使用規制等改修・改善を進
める上でのソフト的課題も存在する。
23
高齢者対応技術の内容
高齢者への技術的対応のある住宅の比率
所
有
関
係
別
1 8 .2
借 家
5 4 .2
持 ち 家
段 差のない屋 内
13.1
廊下 など の 幅が車椅 子で通行可 能
12.6
4 4 .6
そ の 他
うち高齢者対応型共同
住宅
6 5 .8
3 9 .8
う ち エレベーター あ り
建
て
方
別
9.3
道路から 玄 関ま で車椅 子で通行可 能
17.5
ま たぎやす い高さの浴 槽
2 2 .7
共 同 住 宅
0.5
その 他に
2 8 .4
長 屋 建
1.6
居住 室に
5 2 .5
一 戸 建
平成13年 ∼ 15年
9月
平成8年 ∼ 12
年
19.7
階 段に
6 6 .9
5 4 .7
3.8
廊 下に
平成3年 ∼ 7年
3 8 .5
2.5
脱衣 所に
昭和61年 ∼ 平成2
年
3 1 .7
昭和56年 ∼ 60
年
15.1
浴 室に
3 4 .2
昭和46年 ∼ 55
年
3 8 .3
昭和36年 ∼ 45
年
3 8 .2
13.2
トイレに
5.4
玄 関に
昭 和 35 年 以
前
4 1 .6
30.4
手摺の ある 住居総 数
住
宅
総
数
3 9 .8
0
10
20
30
40
50
60
70
0
80
10
20
30
(この図は土地・住宅統計調査 03 から作成した)
図 2.3.6
2003 年の高齢者世帯のバリアフリー等への対応状況
(2.3) 公共公益施設へのアクセスと街づくり
地域も総体として、高齢化が深化している。
高齢者の医療・介護施設、交通施設へのアクセスは、もちろん、日常生活を快適におくるため、
「高
齢者にやさしい街づくり」のモデル事業がいくつかの地域で進められている。
高齢者世帯の各種施設へのアクセスの状況を持家と借家に分けて住宅統計調査 03 で概観する。
持家に比較して借家の方が「最寄の医療機関までの距離」も「最寄の老人デーサービス機関までの
距離」の短いものの割合が高くなっている。「借家」の成り立つ立地条件からみると当然のことであ
ろう。
また、「最寄の駅まで」のアクセスは「1km 以上のもの」が 60%を超え、「2km 以上のもの」でも
24
25%∼30%に達する。これも過疎化−高齢化が地方ですすんでいることの反映である。
高齢化社会に向かい街づくりの高齢者対応策が緊急性の高い課題になってきている。街の高齢者利
用施設の効率的配置、アクセス距離を短縮ためのコンパクトシティー構想そして交通バリアフリー法
に基づくモデル事業が注目されている。
:最寄の医療機関までの距離(全世帯)
最寄の老人デーサービスまでの距離(全世帯)
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
250 m 未 満
夫婦とも65歳以
上主世帯
250 ∼ 500
500 ∼ 1,000
65歳 以上の単身
20%
40%
60%
80%
250 ∼ 500
500 ∼ 1,000
65歳 以上の単身
1,000
m 以 上
0%
250 m 未 満
夫婦とも65歳以上
主世帯
1,000 ∼ 2,000
0%
100%
50%
2,000
m 以 上
100%
最寄の老人デーサービスまでの距離(持家)
最寄の医療機関までの距離(持家)
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
夫婦とも65歳以上
主世帯
夫婦とも65歳以
上主世帯
65歳 以上の単身
65歳 以上の単身
0%
20%
40%
60%
80%
0%
100%
最寄の医療機関までの距離(借家)
20%
40%
60%
80%
100%
最寄の老人デーサービスまでの距離(借家)
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
65歳 以上の世帯
員がいる主世帯
夫婦とも65歳以上
主世帯
夫婦とも65歳以
上主世帯
65歳 以上の単身
65歳 以上の単身
0%
20%
40%
60%
80%
0%
100%
20%
40%
60%
(この図は土地・住宅統計調査 03 から作成した)
図 2.3.7
2003 年の高齢者世帯の公共・公益施設へのアクセス
25
80%
100%
最寄の交通機関までの距離(全世帯)
駅まで 200 m未満
駅まで200m∼500m
65歳 以上の世帯員がいる主
世帯
駅まで500m∼1km
駅まで1km∼2kmバス停まで100m未満
駅まで1km∼2kmバス停まで100m∼200m
駅まで1km∼2kmバス停まで200m∼500m
夫婦とも65歳以上主世帯
駅まで1km∼2kmバス停まで500m以上
駅まで2km以上バス停まで100m未満
駅まで2km以上バス停まで100m∼200m
駅まで2km以上バス停まで200m∼500m
65歳 以上の単身
駅まで2km以上バス停まで500m∼1km
駅まで2km以上バス停まで1km以上
0%
20%
40%
60%
80%
100%
最寄の交通機関までの距離(持家)
65歳 以上の世帯員がいる主世帯
夫婦とも65歳以上主世帯
65歳 以上の単身
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
:最寄の交通機関までの距離(借家)
65歳 以上の世帯員がいる主世帯
夫婦とも65歳以上主世帯
65歳 以上の単身
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
(この図表は住宅統計調査 03 により作成した。)
図2.3.8 高齢者世帯の交通施設へのアクセス
26
90%
100%
2.4
労働人口の動態
わが国の資源は貧しい。これまでの産業社会の発展を支えてきたものは、主に人的資源である。人
口減少、少子高齢化社会が深化するということは、この貴重な人的資源も減少することを意味する。
この節では、次の統計情報を分析し、2035 年までの労働人口を推計した。
[詳しくは資料編:
『補論:
労働人口の推計』結果に基づき労働人口の動態について報告する。]
①国勢調査:総務省統計局
②人口の年齢別推計:国立社会保障・人口問題研究所[2002 年1月推計−『人口推計 02』と示す]
③労働力統計調査:総務省統計局
2.4.1 推定の前提
年少年齢人口はすでに 1980 年代初め、生産年齢人口と労働人口は 1997 年∼1998 年頃に既にピー
クに達し、減少期入っている。今後、人口の高齢化にともない労働人口はさらに減少する傾向にある。
現在の雇用・就労・賃金に係わる諸制度に大きな変化がないと仮定して、将来の労働人口を予測す
る。即ち、現在の趨勢が大きく変わらないと仮定して、性別、年齢階層別に労働人口比率を予測した。
女性生産年齢層の就労率は次第に高くなる。
[2005 年 61%、2035 年 72%]。一方、高齢者層の労
働人口比率は次第に低下する[2005 年 29%、2035 年 20%]。
労働人口比率(%)
100
y = 0.0164x + 83.987
80
60
y = 0.366x + 50.43
65才以上(男)
15才∼64才(男)
65才以上(女)
15才∼64才(女)
線形 (15才∼64才(男))
線形 (15才∼64才(女))
線形 (65才以上(男))
線形 (65才以上(女))
40
y = -0.3747x + 43.028
20
y = -0.0726x + 16.34
0
1975
1980
1985
1990
年次
1995
2000
2005
(この図は労働力統計[総務省統計局]から作成した。)
図 2.4.1
年齢階層別性別労働人口比率の推移
27
2.4.2 推計労働人口の動態
前項で推計した年齢階層別、性別労働人口比率に人口推計 02 の中位値を乗じて労働人口を求めた。
今後の労働人口は、2005 年 6,651 万人、2015 年 6,441 万人、2025 年 6,171 万人、2035 年 5,737
万人と推移する。即ち、労働人口は、30 年後には 920 万人程度減少する。また、減少速度は 2010
年以降に速やまる。
労働人口に占める女性の比率は、次第に大きくなる。2005 年 41%から 2035 年 46%である。一方、
高齢者層の労働人口比率は低下するが、高齢者の絶対数が増加するので、労働人口全体に対する高齢
者比率は上昇する。2005 年 7.6%から 2035 年 8.3%である。
千人
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
65歳以上(女)
65歳以上(男)
15歳∼64歳(女)
15歳∼64歳(男)
10,000
0
1975
1985
1995
2005
2015
2025
2035
年次
(この図の作成方法は補論「労働人口の推計」に示す。)
図 2.4.2 年齢階層別性別労働人口の推移
2.4.3 労働人口減少への対応
労働力人口減少は、いわゆる「労働人口増のボーナス:労働人口増の社会環境の下では、産業の労
働力調達が容易になる。
」効果が淡くなる。さらに、
「終身雇用−年功序列」型賃金−雇用制度の下で
は、高年齢−高賃金層の増加、高齢職員の処遇ポスト相対的減少等々解決困難な問題が深刻になって
いく。
労働人口減少を緩和するため次のような施策が検討されている。
a.女性生産年齢層の就業環境整備=>就業意欲向上
b.若年無業者の就労意欲向上
c.高齢者の就業環境整備=>就労意欲向上
d.外国人就労枠拡大
e.生産性向上のための継続的技術開発
f.より生産性の高い産業への産業構造の再構築
28
2.5 人口趨勢の経済社会へ与える影響
2.5.1 人口構成の変化
(1) 経済学者の総体的俯瞰
将来の日本経済の概観−生産人口の減少、高齢化人口の増加、少子化による高齢化の加速という趨
勢の下の日本の経済を俯瞰し、次のような指摘がある。
『・・・・・では、これからの人口減少社会におけ
る経済はどうであろう。人口減少は経済を確実に変質させる。その第 1 は経済成長の消滅である。
今後、経済成長率は年々低下していき、やがて継続的なマイナス成長に転ずる。第 2 は生産資本ス
トック(生産設備の総量)の縮小である。それによって日本経済成長の原動力であった設備投資は、
今後ほとんど拡大せず、やがて明確に縮小に向かう。そして第 3 は経済の不安定性の増大、具体的
には不況が長期化する危険性の存在である。』
(人口減少社会の設計−幸福な未来への経済学:松谷明
彦、藤正巌著:中央公論新社刊、56 頁)
(2) 人口減少の社会経済への影響
人口構成の変化として、①生産年齢人口の大幅な減少
②高齢者人口の大幅な増加
③少子化によ
る高齢化の加速化がみられる。これらにより、経済成長への影響、年金・介護・医療・福祉への影響、
社会への影響が考えられる。
生産年齢人口は 1990 年半ばにピークアウトし、以来減少傾向にある。戦後日本の高度経済成長を
下支えした人口ボーナス期の終焉は、経済社会へ様々な影響を及ぼす。供給面では、労働・資本供給、
技術進歩への影響が、需要面では、消費・需要への影響が、また、外的な要因に対しては輸入・輸出、
外国人労働力への影響が考えられる。
2.5.2 働き手人口の確保に向けた課題
人口推計によると 2037 年までは死亡者が増加し、女性過剰の高齢化社会が続くことになる。2000
年の労働力状態別にみた人口ピラミッドでは、高齢者および生産年齢における女性の非労働力人口が
多いことがわかる。(図 2.5.2-1)
は、①高齢非労働力人口の活用
従って、少子高齢化が進展する中、労働人口を確保するために
②女性の非労働力人口の活用
③外国人労働力人口の活用
進歩 ⑤出生率の回復が要件となる。
図 2.5.2-1 労働力別にみた人口ピラミッド(2000 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
29
高橋重郷氏講演)
④技術
(1)高齢者の労働力化に向けての課題
2002 年の男性の就業構造をみると、就業希望者の数が 20 代前半までの若年層より 60 代の方が多
く、有業者と、そこに就業希望者を加えた潜在的就業者との乖離が最も大きい。(図 2.5.2-2)このこ
とから、高齢者の労働力化に向けて以下の課題が考えられる。
① 高齢者の潜在的就業希望と雇用の側とのミスマッチ
② 高齢者の就業環境の整備
③ 所得と就業と年金の問題と思われる。
(2) 女性の労働力化に向けての課題
同様に、2002 年の女性の就業構造をみると、出産・子育て期の 30 代前半の就業率が低い、いわゆ
る M 字型を形づくっている。しかし、ここに就業希望者を加えると、日本も欧米型のフラットな就業構造
が現われる。潜在的にはフラットな就業構造でありながら、様々な要因によって M 字型になっていると考
えられる。つまり、女性の労働力化に向けて以下の課題が考えられる。
① 高い出産・子育ての機会費用
② 日本の企業風土・雇用慣行
③ 税・年金制度にみられる就業意欲の高い女性のインセンティブを奪う社会システム上の問題
図 2.5.2-2 潜在的有業率
図 2.5.2-3 潜在的有業率
(2002 年、男)
(2002 年、女)
図 2.1.2-2 人口構成の変化
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
(1970 年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所
橋重郷氏講演)
高
橋重郷氏講演)
30
高
3.少子高齢化の政策とその展開
3.1 はじめに
少子高齢化の政策は、建築界の技術に関わる部分について具体的に見え難い部分があり、そのため
マクロ的な視点とミクロ的な視点の両側から、公的対策を調査することで今後の動向を探るものとし
た。
本章は、「少子化政策」、
「高齢化政策」、「地方の取組み」の三つの構成とした。
「少子化政策」では、「次世代育成対策」、「保育施策」、「児童の健全育成施策」、
「子育てバリアフ
リーの推進」について記載した。
「次世代育成対策」では、少子化社会対策を含め、子供の育成支援対策について記載した。直接建
築と係わらないが、次に記載する「保育施設」について記載するための前付けとなる。
「保育施策」では、現在、保育需要が増加している中、これまでの施策を根本から見直し、多様な
保育需要に即応して質の高い保育サービスが柔軟に提供されるよう、利用者である親や子どもの立場
に立った保育制度を確立することが必要となっている。
ここでは、保育施設の現状や今後の課題について、建築基準を含めながらその内容を記載した。
「児童の健全育成施策」では、前記「保育施設」から「児童の健全育成」にフォーカスし、その施
策の概要について記載した。
「子育てバリアフリーの推進」では、高齢者・身体障害者等を対象としたバリアフリーに触れなが
ら、乳幼児同伴の利用者に配慮した設備等について、その概要を記載した。
「高齢化政策」では、国の施策「ゴールドプラン」、
「老人福祉の課題と対応」、
「居住環境」につい
て記載した。
「ゴールドプラン」では、この施策を例に高齢者の尊厳の確保と自立支援を図り、できる限り多く
の高齢者が、健康で生きがいをもって社会参加できる社会をつくるために国が行ってきた施策の概要
を記載した。
「老人福祉の課題と対応」では、わが国の高齢化が世界最高の水準に達することが予想される中で、
超高齢社会を安心して迎えられるよう、高齢者保健福祉施策を一層充実させるための重要な課題につ
いて記載した。
「居住環境」では、高齢者の居住環境や関連する住宅施策について記載した。
「地方の取り組み」では、地方都市の事例(青森市)、都心における住宅政策事例(東京都)
、郊外
オールドタウンの事例(千里ニュータウン新千里東町)について記載した。
「少子高齢化の政策」に関しては、今後の需要増加や質的向上が一層求められる。我々建築界に関連
する者も今後の向上にむけ努力する必要がある。
31
3.2 少子化政策
出生率の低下に伴う少子化の進行や児童や家庭を巡る環境の変化などに伴い、児童家庭施策は新た
な展開が迫られてきている。
このような状況を背景として児童家庭福祉の施策体系は、
昭和 22 年公布の児童福祉法を基本とし、
児童が人として人格を尊重され、健全に育成されなければならないこと、また次代の社会の担い手と
して、児童の資質の一層の向上が図られなければならないことを理念として、ライフステージに対応
した多様な施策からなっている。これら児童家庭福祉施策は、国、地方公共団体もさることながら、
国民各自や家庭、地域社会の中で期待される面が多く、相互に連携をとりつつ推進することが要請さ
れている。児童福祉の全体的概況は図 3.2-1 のとおりである。
0歳
3
6
9
18
20
母子保健対策
幼児検診
三歳児検診
1歳6ヶ月児検診
乳児検診
未熟児養育医療
妊婦検診
母と子の健康を
確保し国民の資
質の向上を図る
小 児 慢 性 特 定 疾 患 治 療 研 究
保育対策
保育に欠ける児
童の福祉の増進
を図る
保育所の整備運営
児
家庭・地域にお
ける児童の健全
育成と要保護児
童の福祉の増進
を図る
児
童
童
館
健
・
全
児
童
育
遊
園
成
の
対
設
置
策
普
及
小学校第3学年終了前
児童手当の支給
児童養護施設・里親等の要養護児童対策
母 子
母子家庭等の自
立の促進と生活
の安定を図る
母 子
児
童
家 庭
家 庭 等
扶
養
日
手
対
寡婦対策
策
常 生
当
の
活 支
支
援
事 業
給
母 子 福 祉 資 金 の 貸 付 ・ 寡 婦 福 祉 資 金 の 貸 付
母 子 福 祉 関 係 施 設 の 整 備 運 営
図 3.2-1 年齢別児童家庭福祉施策の一覧1)
3.2.1 次世代育成支援対策
(1) エンゼルプラン
子育てはとかく夫婦や家庭の問題ととられがちであるが、その様々な制約要因を除外していくこと
は、国や地方自治体はもとより、企業・職場や地域社会の役割でもある。
そうした観点から「子育て支援社会」の構築を目指す本格的な取り組みを進めるため、平成 6 年 12
月、文部、厚生、労働、建設の 4 大臣合意により、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向に
ついて」(エンゼルプラン)が策定された。
さらに、平成 11 年 12 月には、大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の 6 大臣の合意により、「重
32
点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(新エンゼルプラン)が策定された。
新エンゼルプランは、これまでの保育サービス関係ばかりではなく、雇用、相談・支援体制、母子
保健、教育、住宅などの総合的な実施計画として策定されるとともに、計画の最終年度である平成
16 年度に達成すべき数値目標が定められ、各取り組みが推進された(表 3.2.1-1)。
平成 12 年度
低 年 齢 児 受 け 入 れ の 拡 大
延
長
保
育
の
推
進
休
日
保
育
の
推
進
13
14
地 域 子 育 て 支 援 セ ン タ ー の 推 進
一 時
保
育
の
推
進
ファミリー・サポート・センターの整備
放 課 後 児 童 ク ラ ブ の 推 進
フレーフレー・テレフォン事業の整備
再就職希望登録者支接事業の整備
周 産 期 医 療 ネ ッ ト ワ ー ク の 整 備
59.3 万人
8,052 ヵ所
152 ヵ所
132 市町村
1,376 ヵ所 1,700
ヵ所
116 ヵ所
9,401 ヵ所
39 都道府県 24
都道府県
14 都道府県
62.4 万人
9,431 ヵ所
271 ヵ所
206 市町村
1,791 ヵ所
3,068 ヵ所 193
ヵ所
9,873 ヵ所
43 都道府県 33
都道府県
16 都道府県
64.6 万人
10,600 ヵ所
354 ヵ所
251 市町村
2,168 ヵ所
4,178 ヵ所
262 ヵ所
10,606 ヵ所 47
都道府県
47 都道府県 20
都道府県
小 児 救 急 医 療 支 援 事 業 の 推 進
51 地区
74 地区
112 地区
乳 幼 児 健 康 支 援 一 時 頂 か り 事 業 の 推 進
15
67.1 万人 11,702
ヵ所
525 ヵ所
307 市町村
2,499 ヵ所
4, 959 ヵ所
301 ヵ所 11,324
ヵ所
47 都道府県 47
都道府県
24 都道府県
16 年度
目標値
16
69.4 万人
13,086 ヵ所
618 ヵ所
337 市町村
2,786 ヵ所
5,651 ヵ所
344 ヵ所
12,188 ヵ所 47
都道府県
47 都道府県 30
都道府県
68 万人
10,000 ヵ所 300
ヵ所
500 市町村
3,000 ヵ所
3,000 ヵ所
180 ヵ所
11,500 ヵ所
47 都道府県 47
都道府県
47 都道府県 13
年度
360 地区
185 地区
(2 次医療圏)
158 地区
36 ヵ所
不妊専門相談センターの整備
18 ヵ所
24 ヵ所
28 ヵ所
47 ヵ所
51 ヵ所
表 3.2.1-1 新エンゼルプランで目標を掲げた事業の実績(厚生労働省関係)
1)
(2)少子化社会対策大綱
少子化の進展に伴い、与野党ともに少子化社会対策に関する基本法制定の気運が高まり、平成 15
年 7 月、少子化社会対策基本法が議員立法により成立した。この法律は、少子化社会において講ぜら
れる施策の基本理念を明らかにし、国と地方公共団体の責務などを定めるとともに、総合的かつ長期
的な少子化に対処するための施策の大綱を定めることなどを定めており、同法に基づき、平成 16 年
6 月、少子化社会対策大綱が閣議決定された。
この大綱では、少子化の流れを変えるために「自立への希望と力」、「不安と障壁の除去」、「子育て
の新たな支え合いと連帯」という 3 つの視点を掲げ、これに対応する形で「若者の自立とたくましい
子どもの育ち」、「仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し」、「生命の大切さ、家庭の役割等について
の理解」、「子育ての新たな支え合いと連帯」という 4 つの重点課題に沿って取り組むための 28 の行
動がまとめられている。
(3)次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の推進
少子化社会対策基本法と同時期に成立したのが次世代育成支援対策推進法である。同法では、次代
の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ育成される環境の整備を図るため、次世代育成支提対策
についての基本理念を定めるとともに、国による行動計画策定指針、地方公共団体や事業主による行
動計画の策定などの対策を迅速かつ重点的に推進するために必要な措置を講ずることとしている。
このうち、地方自治体が策定する地域行動計画に関する規定、国および地方公共団体の機関等や企
業が事業主として策定する行動計画に関する規定は平成 17 年 4 月から施行されており、現在、各都
道府県および市町村では、それぞれ地域の特性を考慮して策定した地域行動計画に基づいた次世代育
成支援の取り組みが進められている。また、一般企業(一般事業主)や国および地方公共団体の機関等
(特定事業主)においても、労働者の仕事と子育ての両立の推進という視点などを盛り込んだ行動計画
を策定し、これに基づく取り組みが進められている。
33
(4)子ども・子育て応援プラン
これらの動きを踏まえ、平成 16 年 12 月、少子化社会対策大綱の具体的実施計画として「少子化社
会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について」(子ども・子育て応援プラン)が少子化社会
対策会議(全閣僚で構成)で決定され、平成 17 年度からこれに基づいた取り組みが実施されている(図
3.2.1-1)。
○少子化社会対策大綱(平成 16 年6月4日閣議決定)の掲げる4つの重点課題に沿って,平成 21
年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を提示
○施策の実施を通じて、「子どもが健康に育つ社会」「子どもを生み,育てることに喜びを感じる
ことのできる社会」への転換がどのように進んでいるのかわかるよう、おおむね 10 年後を展望
した「目指すべき社会の姿」を提示
【4つの重点課題①:若者の自立とたくましい子どもの育ち】
【平成 21 年度までの5年間に講ずる主な施策】
○職場体験等を通じた小・中・高等学校におけるキャリア
教育の推進
○若年者のためのワンストップサービスセンター (ジョ
ブカフェ)における各種サービスの推進
○若年者試用(トライアル)雇用の積極的活用
○キャリア・コンサルタントの養成・活用の推進
○若年労働者の職場定着の促進
○日本学生支援機構奨学金事業の充実
○学校における体験活動の充実
○こどもエコクラブ事業の推進
【今後5年間の目標(例)】
→常用雇用移行率 80%を平成 18 年度までに達成
→平成 18 年度までに約5万人を養成
→新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率を毎年度対前年
度比で減少
→基準を満たす希望者全員の貸与に向け努力
→全国の小・中・高等学校において一定期間のまとまった体験
活動の実施
→小・中学生のこどもエコクラブ登録者数を 11 万人に
○「確かな学力」の向上や「生きる力」の育成
【目指すべき社会の姿〔おおむね 10 年後を展望〕(例)】
○若者が意欲を持って就業し経済的にも自立[フリーター約 200 万人、若年失業者・無業者約 100
万人それぞれについて低下を示すような状況を目指す]
○教育を受ける意欲と能力のある者が経済的理由で就学を断念することのないようにする
○各種体験活動機会が充実し、多くの子どもが様々な体験を持つことができる
○子どもたちが、「確かな学力」、豊かな人間性などの「生きる力」をはぐくむことができる学校
教育が推進される
【4つの重点課題②:仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し】
【平成 21 年度までの5年間に講ずる主な施策】
○企業の行動計画の策定・実施の支援と好事例の
普及
【今後5年間の目標(例)】
→次世代法認定企業数を計画策定企業の 20%以上、ファミリ
ーフレンドリー表彰企業数を累計 700 企業
○育児休業制度の周知・定着
○男性の子育て参加促進に向けた企業等における 取り組
みの推進
○個々人の生活等に配慮した労働時間の設定改善 に向け
た労使の自主的取り組みの推進
○長時間にわたる時間外労働の是正
→男性の育児休業取得実績がある認定企業数
業の 20%以上
を計画策定企
→長時間にわたる時間外労働を行っている者を1割以上減少
→労働者1人平均年次有給休暇の取得率を少なくとも 55%以
上に
→就業人口に占めるテレワーカー比率を 20%に
→取り組み企業の割合を 40%に
○子育てのための年次有給休暇の取得促進
○適正な就業環境の下でのテレワークの普及促進
○企業におけるポジティブ・アクションの普及促進
○再チャレンジサポートプログラムなど再就職準
の推進
○求人年齢の上限の緩和促進
→育児休業制度を就業規則に規定している企業の割合を
100%に
備支援
→公共職業安定所における全求人に占める年
割合を平成 17 年度 30%に
【目指すべき社会の姿〔おおむね 10 年後を展望〕(例)】
○希望する者すべてが安心して育児休業等を取得[育児休業取得率男性 10%、女性 80%、小学校
就学始期までの勤務時間短縮等の措置の普及率 25%]
○男性も家庭でしっかりと子どもに向き合う時間が持てる[育児期の男性の育児等の時間が他の
先進国並みに]
○働き方を見直し、多様な人材の効果的な育成活用により、労働生産性が上昇し、育児期にある
男女の長時間労働が是正
○育児期に離職を余儀なくされる者の割合が減るとともに、育児が一段落した後の円滑な再就職
が可能となる
*次ページにつづく
34
齢不問求人の
【4つの重点課題③:生命の大切さ、家庭の役割等についての理解】
【平成 21 年度までの5年間に講ずる主な施策】
○保育所、児童館、保健センター等において中・
高校生が乳幼児とふれあう機会を提供
○全国の中・高等学校において、子育て理解教育
を推進
○安心して子どもを生み育てることができる社会
について地域住民や関係者が共に考える機会の
提供
【今後5年間の目標(例)】
→すべての施設で受け入れを推進
→全市町村で実施
【目指すべき社会の姿〔おおむね 10 年後を展望〕(例)】
○様々な場において中・高校生が乳幼児とふれあう機会をもてるようになる
○多くの若者が子育てに肯定的な(「子どもはかわいい」、「子育てで自分も成長」)イメージを持
てる
○全国の市町村において子育てを応援する各種の取り組みが行われるようになる
【4つの重点課題④:子育ての新たな支え合いと連帯】
【平成 21 年度までの5年間に講ずる主な施策】
○地域の子育て支援の拠点づくり
○一時・特定保育の推進
○預かり保育の推進など幼稚園における地域の幼児教育セ
ンターの機能の充実
○シルバー人材センターによる高齢者を活用した子育て支
援の推進
○待機児童ゼロ作戦のさらなる展開
○放課後児童クラブの推進
○乳幼児健康支援一時預かり(病後児保育)の推進
○家庭教育に関する学習機会や情報の提供の推進
○児童虐待防止ネットワークの設置
○虐待を受けた児童等に対する小規模グループケアの推進
○自閉症・発達障害支援センターの整備
○小児救急医療体制の推進
○特定不妊治療費助成事業の推進
○子育てバリアフリーの推進
【今後5年間の目標(例)】
→つどいの広場事業、地域子育て支援センター合わせて全国
6000 ヵ所での実施
→全国の中学校区の約9割[9500 ヵ所]で実施
→待機児童の多い市町村を中心に保育所受け入れ児童数を
215 万人に拡大
→全国の小学校区の約4分の3[17500 ヵ所]で実施
→全国の市町村の約4割[1500 カ所]で実施
→全市町村で家庭教育に関する講座が開設
→全市町村
→児童養諸施設等において1施設当たり1カ所程度[845 ヵ
所]で小規模ケアを実施
→平成 19 年度までに全都道府県・指定都市で設置
→小児救急医療圏 404 地区をすべてカバー
→全都道府県・指定都市・中核市で実施
→建築物、公共文通機関および公共施設等の段差解消,バリ
アフリーマップの作成
【目指すべき社会の姿〔おおむね 10 年後を展望〕(例)】
○全国どこでも歩いていける場所で気兼ねなく親子で集まって相談や交流ができる(子育て拠点
施設がすべての中学校区に1ヵ所以上ある)
○孤独な子育てをなくす(誰にも子育てについて相談できない人や誰にも預けられない人の割合
が減る)
○全国どこでも保育サービスが利用できる[待機児童が 50 人以上いる市町村をなくす]
○就業形態に対応した保育ニーズが満たされるようになる(保育ニーズが満たされていると考え
る保護者の割合が増える)
○家庭教育に関する親の不安や負担感が軽減される(しつけや子育てに自信がないという親の割
合が減る)
○児童虐待で子どもが命を落とすことがない社会をつくる[児童虐待死の撲滅を目指す]
○全国どこでも養育困難家庭の育児への不安や負担感が軽減される支援を受けられるようになる
○障害のある子どもの育ちを支援し,一人ひとりの適性に応じた社会的・職業的な自立が促進さ
れる
○全国どこでも子どもが病気の際に適切に対応できるようになる
○妊婦、子どもおよび子ども連れの人に対して配慮が行き届き安心して外出できるようになる
【検討課題】
【目指すべき社会の姿〔おおむね 10 年後を展望〕(例)】
○社会保障給付について,大きな比重を占める高齢者関係給付を見直し、これを支える若い世代
と将来世代の負担増を抑えるとともに,社会保障の枠にとらわれることなく次世代育成支援の
推進を図る
○社会全体で次世代の育成を効果的に支援していくため、地域や家族の多様な子育て支援、働き
方にかかわる施策,児童手当等の経済的支援など多岐にわたる次世代育成支援施策のあり方等
を幅広く検討する
図 3.2.1-1 「子ども・子育て応援プラン」の概要1)
35
同プランでは、大綱に掲げる 4 つの重点課題に沿って、保育関係事業中心であった過去 2 期のエ
ンゼルプランよりも幅の広い取り組みについて、平成 21 年度までの 5 年間に重点的・計画的に講ず
る施策と目標を掲げている。さらに、これらの施策を実施することによって、「子どもが健康に育つ社
会」、「子どもを生み、育てることに喜びを感じることのできる社会」への転換がどのように進んでい
るのかがわかるよう、おおむね 10 年後を展望した「目指すべき社会の姿」を提示し、その実現を目指
すものとしている。
また、同プランに掲げる各施策の目標値のうち子育て支援サービス事業については、次世代育成支
援対策推進法に基づき各市町村で策定を進めていた地域行動計画を調査し、その集計値をもとに設定
された。地方公共団体の計画とリンクさせた形でプランを策定したのは今回が初めてであり、これに
よって子ども・子育て応援プランは、少子化社会対策大綱の具体的実施計画であると同時に、次世代
育成支援対策推進法に基づく全国の地方公共団体の行動計画の実現に向けた取り組みを国として支
援する位置づけをもつこととなっている。
3.2.2 保育施策
(1) 保育施策の背景
児童福祉法施行当時(昭和 23 年 3 月)、保育所は 1,476 カ所、入所児童数は 135,503 人にすぎなか
ったが、戦後における児童福祉法、児童憲章や児童権利宣言などの精神による児童観の発展、戦後に
おけるわが国の著しい社会構造の変革と急速な経済成長を背景として、平成 16 年 4 月には、22,490
カ所、1,966,929 人と 10 倍以上に増加している。
しかしながら、近年の保育施策を取り巻く状況は大きく変動している。今日におけるわが国の経済
成長を支える 1 つの要因となった女性の労働力の質的量的な増大を背景として、夫婦共働き家庭が
一般化してきており、保育需要の増加の要因となっている。
さらに、女性労働における勤労形態の変化(勤務時間や時間帯、職種等の多様化や通勤距離の遠距
離化など)により、保育需要が多様化してきている。
一方、子どもの出生の動向をみると、第 2 次ベビーブーム(昭和 46∼49 年)以来出生数は減少傾向
が続いて平成 16 年には約 111 万人となり、合計特殊出生率は現在の人口を維持するのに必要な 2.08
を大きく下回る 1.29 に低下し、総人口に占める子どもの割合も約 2 割程度に低下している。
こうした状況の下で、これまでの施策を根本から見直し、多様な保育需要に即応して質の高い保育
サービスが柔軟に提供されるよう、利用者である親や子どもの立場に立った保育制度を確立すること
が必要となっている。
(2) 平成 13 年の児童福祉法の改正
保育サービスに対する需要の急速な増大を背景に認可外保育施設が増加し、そこでの乳幼児の事故
が社会問題化していることに緊急に対応するため、また、都市化の進行など児童を取り巻く環境が大
きく変化し、児童の健やかな成長に影響を及ぼす恐れのある事態が生じていることに対応するため、
地域において児童が安心して健やかに成長することができる環境を整備することが重要になってい
る。
こうしたことから、認可外保育施設に対する監督の強化などを図るため、平成 13 年 11 月、児童
福祉法が改正された。具体的な内容は、次のとおりである。
36
ア
認可外保育施設に対する届け出制の導入、運営状況の定期報告の義務づけ、改善勧告などによ
って、施設をより効率的に導入し指導監督の強化を図るとともに、施設に関して事業者や都道府県知
事が情報を提供することとし、保護者による適切な保育サービスの選択を通じて、悪質な施設の排除
を図ることとされた。
イ
認可外保育施設に関する問題は、保育所数の不足が原因の 1 つであることから、保育所整備
促進のため、公有財産の貸し付けなどによる整備が推進されることとされた。
ウ
保育士資格が詐称され、その社会的な信用が損なわれている実態に対処する必要があることや、
地域における子育て支援の中核を担う専門職として保育士の重要性が高まっていることなどを背景
として、保育士資格が児童福祉施設の任用資格から名称独占資格に改められたほか、守秘義務、登録・
試験に関する規定が整備された。
イについては公布日(平成 13 年 11 月 30 日)から、アについては平成 14 年 10 月 1 日から、ウにつ
いては平成 15 年 11 月 29 日から施行されている。
(3)保育対策の現状と展開
(a)保育所入所児童の状況
平成 16 年 4 月現在、入所児童数は全国で約 197 万人となっている(表 2)。また、就労形態の多様化
に伴う多様な保育ニーズに応えるため、延長保育、休日保育、専業主婦等の育児疲れ解消などのため
の一時保育、保育所等の施設において保護者から保育に関する相談に応じ、情報提供を行う地域子育
て支援センター事業などの特別保育事業を行っている。
保育所入所児童数は、少子化を背景に減少していたが、平成 7 年以降は、女性の社会進出に伴う
共働き家庭の増加などの要因から増加しており、特に低年齢児について増加が著しい(表 3)。このため、
保育所入所受け入れを拡大しているものの、入所待機児童は、平成 16 年 4 月現在、都市部を中心に、
全国で 2 万 4245 人となっている。
表 3.2.2-1 保育所数・定員・入所児童数の推移1)
各年 4 月1日
保育所数
昭和 60 年 ('85)
平成 2
('90)
7
('95)
12
('00)
15
('03)
16
('04)*
22,899
22,703
22,496
22,195
22,354
22,490
定員(人)
入所児童数(人)
2,080,451
1,978,989
1,923,697
1,923,157
1,911,145
2,028,045
1,770,430
1,637,073
1,593,873
1,788,425
1,920,599
1,966,929
厚生労働省「社会福祉行政業務報告」
*は概数である。
表 3.2.2-2 保育所入所児童(0 歳児.1・2 歳児)数の推移1)
(単位
人)
各年4月1日現在
平成2年
('90)
0 歳児 1・2
歳児
低年齢児計
39,166
326,140
365,306
7
('95)
12
('00)
15
('03)
16*('04)
52,364
370,527
422,891
65,782
460,935
526,717
73,084
521,686
594,770
76,436
541,7396
18,175
,
厚生労働省「社会福祉行政業務報告」
*は概数である。
37
(b)保育所の待機児童ゼロ作戦の推進(表 3.2.2-3)
表 3.2.2-3 待機児童ゼロ作戦の推進について1)
1
待機児童ゼロ作戦(平成 13 年7月6日閣議決定)
保育所,保育ママ,自治体単独施策,幼稚園預かり保育等を
活用し,平成 14 年度中に5万人,さらに平成 16 年度までに 10 万
人,計 15 万人の受入児童数の増を図り,待機児童の減少を目指
す取り組み
2 平成 16 年4月1日の現状
○ 保育所入所児童数:196 万7千人
○ 待機童数:2万4千人
3
平成 14 年度スタートの待機児童ゼロ作戦の推進について
平成 14 年度スタートの待機児童ゼロ作戦を着実に推進すると
ともに,新たに「次世代育成支援に関する当面の取組方針」の
推進による働き方の変化,潜在的な需要などを踏まえつつ,的
確に対応
○ パートタイムなどで働いている方々に対応した新しい保
育事業(特定保育)の実施
○ 都市部の取り組みの強化を促進(改正児童福祉法による
「市町村保育計画」の策定)
保育所の待機児童の解消については、保育所の入所受け入れを拡大するため、従来から、少子化対
策推進基本方針や新エンゼルプランなどにより保育サービス量の拡大、保育所に係る設置主体制限の
撤廃、小規模保育所の定員要件の緩和(30 人→20 人)、保育所の運営に係る不動産の自己所有制限の
緩和といった規制緩和を実施し、認可保育所をつくりやすくすることに努めてきた。さらに、平成 13
年 7 月の閣議決定「仕事と子育ての両立支援策の方針について」において、「待機児童ゼロ作戦」とし
て、保育所、保育ママ、自治体単独施策、幼稚園預かり保育などを活用し、平成 16 年度までに 15
万人の受け入れ増を図ることとされた。これを受けて所要の予算を確保し、平成 14 年度は、保育所
児童数約 5 万人の預け入れ増を行うとともに、公設民営方式を活用した保育所整備の推進、送迎保
育ステーションの整備、保育ママの促進などを実施し、これに加え、15 年度からは、特定保育事業
を創設し、親の就労形態の多様化(パートの増大など)に伴う子どもの保育需要の変化に対応した支提
を行っている。
また、平成 17 年度以降も待機児童解消の取り組みを推進するために、平成 15 年に成立した児童
福祉法改正法において、一定数以上の待機児童のいる市町村と都道府県に対し、地域の実情、ニーズ
に的確に対応した保育計画の作成を義務づけることとしており、さらに平成 16 年 12 月に策定され
た子ども・子育て応援プランに基づき待機児童数が 50 人以上いる市町村を中心に平成 17 年度から 19
年度までの 3 年間を中心に集中的に受入児童数の増大を図り、待機児童の計画的な解消を目指すこ
とにしている。
(c)認可外保育施設
認可外保育施設は、それぞれの地域の実情に応じ多様な保育需要に応えるなど保育所の補完的な役
割を担っており、事業所内保育施設やへき地保育所などがある。
このうち事業所内保育施設については、昭和 53 年度から整備や委託に要する経費の助成を行って
いる。
また、へき地保育所(平成 16 年度 924 カ所)は昭和 36 年度から制度化されており、離島、山間へ
き地における要保育児童に対して必要な保護を行い、その福祉を図るものである。
その他、私人、団体、民間会社により不特定の乳幼児を保育する施設(平成 16 年 3 月現在 6,953
38
カ所(ベビーホテルを含む))があり、このような施設も含め、認可外保育施設への対応として、児童の
安全確保の観点から認可外保育施設への指導監督の方法を明確化、具体化した「認可外保育施設指導
監督の指針」を策定し、平成 13 年度からこれに基づき、設備面、職員の配置基準などについて指導
を行っている。
都道府県レベルの公共機関からも「指導監督基準」が出されているので、事業者や設計者は確認す
る必要がある。「指導監督基準」には、在籍児童一人あたりの面積基準、採光、非常災害に対する措
置などが記載されている。参考に神奈川県と大阪府の URL を付記する。
神奈川県:
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kodomokatei/sisetuhoiku/kangaekata.pdf
大阪府
:
http://www.pref.osaka.jp/jido/ichiran/kijun.pdf
3.2.3 児童の健全育成施策
(1) 意義と方法
児童が、心身ともに健全に育成されるため、児童の生活の場である家庭に対する相談援助、児童の
人間関係の場である地域における遊び場の確保などの児童の育成環境の整備、地域の人々の連帯意識
の醸成が必要である。
最近の児童を取り巻く社会環境には、人口の都市集中、公害、住宅、交通事故など様々な問題が生
じており、また、核家族化と女性就労の増加などによって、家族生活においても種々複雑な問題が生
じている。これらの問題に対応することに加え、家庭や社会生活を心豊かなゆとりとふれあいの子育
ての環境として整備することが、現在、最重要課題となっている。
地域児童対策としては、児童館、児童遊園などの児童厚生施設の設置普及を図るほか、放課後児童
健全育成事業(放課後児童クラブ)の普及、母親クラブなどの地域組織の育成、また、出版物、映画等
の優良文化財の推薦などのソフトウェアについても育成を図っている。
(2)地域における児童の健全育成
(a)地域組織活動
家庭児童の健全な育成のためには、地域住民の積極的参加による地域活動が特に重要である。
これらの地域活動としては、子ども会などの児童の集団活動と、母親クラブ、親の会などの親によ
る児童の育成活動がある。子ども会は、小地域のすべての児童が健全に育成されることを目標とする
もので、近隣の児童の遊びの集団が組織化されたものである。その実際活動は、児童の生活に即して
遊びが主体となっており、その他社会奉仕、文化、レクリエーションなど各種の活動が展開されてい
る。また、子ども会を育成援助する子ども会育成会などの組織も結成されている。
母親クラブ、親の会は、近隣の母親などが集団として活動するもので、相互の話し合いや研修によ
って児童養育についての知識や技術を高め、これを家庭や地域社会で実践し、児童の健全な育成を図
るものである。
特に、母親による地域活動への参加は、地域における母親の互助、連帯を強め、地域全体で児童を
育成する体制を確立する上で最も効果的である。
そこで、昭和 48 年度からは、児童館と有機的な連携をもち、児童の事故防止活動、家庭養育など
に関する知識や技術についての研修活動を行うなど所定の要件を具備している母親クラブに対し、活
動費の一部を国庫補助することにより、その活動の一層の促進を図っている。平成 11 年度からは、
39
地域組織が日曜日・祝日に閉館している児童館を利用して児童の居場所の確保を図るとともに、親子
行事などの諸活動を行う児童館日曜等開館活動についても国庫補助を行っている。また、近年、子育
てサークルや子育て支援 NPO(民間非営利組織)の活動が増加していることに伴い、幅広い地域組織
への活動に対する支援を図ることとしている。これら母親クラブなどの地域組織の活動費の国の予算
額は、平成 17 年度は 2 億 5200 万円となっている。
なお、こうした地域組織活動は、ボランティアによって支えられており、これらボランティアの育
成を図り、よりよい指導者を得るため、都道府県・指定都市が行う指導者の研修事業についてもその
費用の助成を行っている。
(b)児童厚生施設
児童厚生施設は、児童福祉施設の一種であって児童館、児童遊園など児童に健全な遊びの場を与え
て、その健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設である。
児童にとって、自発的・創造的活動としての遊びは、心身の健全な発達を図る上で大きな影響を及
ぼすことから、児童の遊び場の設置普及が重要である。
また、近年、児童・青少年の非行が社会問題となっているが、その背景には、遊びや集団での活動
を通じ、自己信頼感や友人との連帯感を育む「居場所」がなくなりつつあるともいわれており、児童の
居場所のうち、児童館は従来から重要な役割を果たしてきたが、今後、地域の中で児童の健全育成の
拠点として、中・高校生などの居場所として、異年齢児の交流の場として、さらに活性化し、活用し
ていくことが求められている。
さらに、都市化や核家族化に伴い、子育てに関する世代間伝承が減少している中で、両親が子育て
で孤立しなくて済むよう、地域における児童館などが地域の実情に応じ協力して子育てを支えていく
体制も必要である。
①
児童館
児童館は、屋内での活動を主とするものであり、その規模と機能から、おおむね次のような型に分
けることができる。
ア
小型児童館
小地域を対象として、児童に健全な遊びを与え、その健康を増進し、情操を豊かにするとともに、
母親クラブ、子ども会等の地域組織活動の育成助長を図るなど、児童の健全育成に関する総合的な機
能を有するもの
イ
児童センター
小型児童館の機能に加えて、遊び(運動を主とする)を通して体力増進を図ることを目的とした指導
機能を有し、必要に応じて年長児童に対する育成機能を有するもの
ウ
大型児童館
・A 型児童館
児童センターの機能に加えて、都道府県内の小型児童館、児童センターその他の児童館の指導と連
絡調整などの役割を果たす中枢的機能を有するもの
・B 型児童館
豊かな自然環境に恵まれた一定の地域(こども自然王国)内に設置し、児童が宿泊しながら、自然を
活かした遊びを通して協調性、創造性、忍耐力などを高めることを目的とし、児童センターの機能に
加えて、自然の中で児童を宿泊させ、野外活動が行える機能を有するもの
40
・C 型児童館
広域を対象として児童に健全な遊びを与え、児童の健康を増進したり情操を豊かにする機能に加え
て芸術、体育、科学などの総合的な活動ができるように、劇場、ギャラリー、屋内プール、コンピュ
ータプレイルーム、歴史・科学資料展示室、宿泊研修室、児童遊園が適宜附設され、多様な児童のニ
ーズに総合的に対応できる体制にあるもの
②
児童遊園
児童遊園は、屋外での活動を主とするものであり、都市公園法に基づくいわゆる街区公園と相互に
補完的役割を有するものとして、主として幼児、小学校低学年児童を対象としている。その標準的規
模は、都市部において土地の確保が困難な状況を考慮して平成 4 年度から縮少され、330 ㎡以上であ
って、広場、ブランコなどの遊具設備と便所、水飲場などを設けることとされている。
③
児童厚生施設の運営
児童厚生施設には児童の遊びを指導する者(児童厚生員)が置かれ、その施設の所在する地域社会と
の連携を密にし、母親クラブ、子ども会などの児童福祉のための地域組織活動の拠点としての機能を
もっている。また、児童舘によっては、幼児の集団指導や放課後児童クラブを行っている。これら児童
館・児童センターの国の予算額は平成 17 年度においては整備費 19 億 600 万円(県立児童厚生施設を
含む)となっている。
なお、皇太子殿下(現天皇陛下)ご成婚記念事業の 1 つとして児童の健全育成に寄与することを目的
に、神東川県横浜市と東京都町田市にまたがる約 92 万平方メートルに及ぶ広大な敷地に建設された
「こどもの国」は、昭和 40 年 5 月に開園した児童厚生施設である。
地方においても、これに類似した大規模な施設(いわゆる「地方子どもの国」)の設置が計画され、北
海道・千葉県・山梨県・岐阜県・愛知県・滋賀県・鳥取県・香川県・沖縄県で開園しており、多くの子どもた
ちに利用されている。
(c) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ:学童保育ともいう)
女性の就労が一般化するにつれ、小学校に入学した児童の放課後の健全育成に対する支援が必要と
されている。
児童館の設置されていない地域を対象に、昭和 51 年度から地域のボランティアによる児童の保護
と健全育成の活動への公的な援助が行われてきた(児童育成クラブ)。平成 3 年度から内容を改善し、
新たに放課後児童対策事業が始められたが、平成 9 年の児童福祉法の改正により、放課後児童健全
育成事業として法律上に位置づけられ、同時に社会福祉法上においても、一定の要件の下に第 2 種
社会福祉事業として位置づけられた。
この事業は、「小学校に就学しているおおむね 10 歳末満の児童であって、その保護者が労働等に
より昼間家庭にいないもの」を対象とし、授業の終了後に児童厚生施設などの施設を利用して適切な
遊びや生活の場を与えて、その健全な育成を図るものである。
放課後児童クラブの活動は、①児童の健康管理、安全確保、情緒の安定、②遊びの活動への意欲と
態度の形成、③遊びを通しての自主性・社会性・創造性の向上、④児童の遊びの活動状況の把握と家庭
への連絡などである。
41
「全国学童保育連絡協議会」は、学童保育の設置・運営基準の中で、施設・設備に関し以下を記述
している。設計者は、これらを参考にするとよい。
Ⅳ 施設・設備
1 学童保育に必要な施設・設備
学童保育の施設・設備には、生活室、プレイルーム、静養室、事務室、トイレ、玄関、台所設備、
手洗い場、足洗い場、温水シャワー設備、物置、電気・給排水設備、冷暖房設備、屋外の遊び場、避
難口、換気、日照・採光設備等を設けること。
ただし、併設の場合でも生活室と静養室、事務室、台所設備は専用とする。その他、生活に必要な
備品を備えること。
2 施設の広さ、設備の内容
(1) 生活室は、子ども1人につき 1.98 ㎡以上確保し、生活に必要な用具を備えること。(用具とし
ては、ロッカー、机、図書など)
(2) プレイルームは、子ども 1 人につき 1.98 ㎡以上確保し、遊具を備えること。ただし、生活室
と共用する場合は、子ども一人につき 3.96 ㎡以上確保すること。
(3) 静養室(スペース)は、子どもが休める用具を備えること。
(4) 事務室(スペース)は、指導員ロッカー、事務机、書棚、更衣コーナー、印刷機、電話・FAX
を備えること。
(5) トイレは、男子用女子用をそれぞれ確保し、便器を複数設けること。
(6) 玄関は、くつ箱、傘置き場を備えると共に、子どもが安全に出入りできる広さを確保すること。
(7) 台所設備は、湯茶、おやつを提供できるものとすること。備品として、冷蔵庫、食器棚及び食
器などを備えること。
(8) 温水シャワー設備を備えること。
(9) 屋外の遊び場として、児童遊園に準じて 330 ㎡以上のボール遊びができる広さがある、専用も
しくは近くに同程度の広さで遊べる場所を確保すること。
(10) 障害がある児童の生活に支障がないよう、施設はバリアフリーとすること。
(11) 非常警報設備および消火設備を設けること。
本事業については、エンゼルプラン、新エンゼルプラン、それに続く子ども・子育て支援プラン(平
成 17 年度からの 5 カ年計画)において、実施カ所数を計画的に増やすこととして、平成 21 年度まで
に全国で 17,500 カ所とする目標を設定し、推進している。
なお、平成 16 年 5 月現在の放課後児童健全育成事業の状況は、全国で約 14,000 カ所、児童数約
59 万 4 千人である。
(d)児童環境づくり基盤整備事業
近年の出生率の低下、核家族化や都市化の進展、地域コミュニティーの弱体化等に伴う育児不安、
子どもが多様な人間関係を経験する機会の減少など、子どもや家庭を取り巻く様々な問題が生じてい
る。このため、都道府県・市町村の地域事情に応じた児童環境づくりの基盤整備を図るため、平成 9
年度から、子どもにやさしい街づくり事業と児童環境づくり支援事業を統合して創設されたものであ
る(平成 17 年度予算額 13 億 9500 万円)。
42
(e)児童文化の普及等
児童の人格形成時に、優れた児童文化財(出版物、舞台芸術、映像・メディア)に直接触れることは、
児童の創造性などを高めるために重要である。
このため、社会保障審議会において推薦された児童文化財の中から、優れた映画、児童劇を各都道
府県の児童厚生施設において上映、上演し、児童の健全育成を囲っている。
3.2.4 子育てバリアフリーの推進
(1) ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進
国土交通省は、平成 17 年 7 月に「ユニバーサルデザイン政策大綱」を公表している。
ここでは、子どもから高齢者までの全ての世代や外国人を対象に想定し「どこでも、だれでも、自由
に、使いやすく」という考え方で、公共交通機関や主な駅周辺等の歩行空間、病院等の不特定多数の方
が利用する建築物等に関する今後の取組方針を提言している。
今後、この政策大綱を踏まえ、子どもから高齢者までの全ての人々が安心して生活できるように、公
共施設等のバリアフリー環境の整備を一層推進していくこととしている。
(2)建築物等におけるバリアフリー化の推進
「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」が、1994 年 9 月
から施行されている。ここでは、建築物・施設について利用円滑化基準に適合するよう推進されている。
高齢者・身体障害者等を対象としているが、乳幼児同伴の利用者にも配慮されている。例えば、乳幼児
同伴の利用者が利用する建築物全般における乳幼児用いす、乳幼児等用ベッド、授乳のためのスペー
ス、多機能トイレの設置等が挙げられる。他には、建物出口の近い位置に妊婦や乳幼児同伴の利用者が
利用できる駐車施設の確保や通路への手すりの設置、劇場等の寄席・観覧席における乳幼児同伴の利
用者のための区画された観覧室の設置などがある。
3.2.5 少子化政策のまとめ
現在、夫婦共働きが一般化してきており、少子化政策は保育関係が中心であった。しかし、今後は
幅の広い取組みが必要になるであろう。
少子化対策に関しては、国や地方自治体はもとより、企業・職場や地域社会のかかわりも重要であ
る。また少子化に関連した課題は、常に変化し続けている。現在は、主に男性が働く社会ではあるが、
これが逆転し女性が働き、男性が主に育児を行う社会に変わる可能性もある。これにより、新たな雇
用、相談・支援体制の確立も必要になるかもしれない。
もともと少子化に関しては、「大人の生き方」が変化した影響が大きいと考える。社会の変化はも
ちろんであるが、大人の男女の生き方の変化によるものと考える。そうなると、これからもこの「少
子化政策」に関しては、
「生き方」の変化に応じて、追従しなければならない、できれば先を進んで
欲しいと感じる。
本質的には、施設や相談所を設ければよいのではなく、人間が幸せに生きていくためには、何をど
のようにすればよいのかをこれからも考え続ける必要がある。子どもが人として人格が尊重され、健
全に育成できるよう、建築界からの提案も必要に思う。
43
3.3 高齢化政策
人生 80 年時代を迎え、今後とも令暇・自由時間は増大する方向で社会は進展すると思われるが、
長い老後をどう過ごすかは、個人にとっても、社会にとっても大きな問題となってくる。
また、平成 12 年度からは介護保険制度が導入され、すべての高齢者が生きがいをもって安心して
暮らせるよう、要介護状態になる前の生きがい、健康づくり対策や生活支援対策が課題となっている。
3.3.1 ゴールドプラン
(1)ゴールドプラン策定の経緯
少子高齢社会において、国民の誰もが健康で生きがいをもち、安心して生涯を過ごせるような明る
い活力のある長寿・福祉社会としていくためには、高齢者の保健福祉の分野における公共サービスの
基盤整備を一層進める必要がある。
このため、在宅福祉、施設福祉などの事業について、20 世紀中に実現を図るべき十か年の目標を
掲げ、これらの事業の強力な推進を図ることとし、平成元年 12 月、厚生省、大蔵省、自治省の 3 省
合意として「高齢者保健福祉堆進十か年戦略」(ゴールドプラン)がとりまとめられた。
(2)新ゴールドプラン策定の経緯
高齢者保健福祉施策については、平成元年のゴールドプランに基づき整備を図ってきたが、平成 5
年度中に全国の都道府県・市町村で策定された地方老人保健福祉計画においてゴールドプランを大幅
に上回るニーズが明らかになったことなどを踏まえ、高齢者介護対策のさらなる充実を図るためゴー
ルドプランを全面的に見直し、平成 6 年 12 月、大蔵、厚生、自治の 3 大臣合意により、「新・高齢者
保健福祉推進十か年戦略」(新ゴールドプラン)をとりまとめた。
(3)ゴールドプラン 21 策定の経緯
新ゴールドプランの計画期間が平成 11 年度で終了することから、12 年度以降の新たなプランの策
定が必要となり、平成 11 年 11 月、政府として新たなプランを策定する方針が決定された。また、介
護保険制度においては、全国の地方公共団体が要介護者などの実態を把握し、将来の介護サービスの
必要量を見込んで、介護保険事業計画を作成することとし、平成 11 年度中に、12 年度から 16 年度
までの 5 年間を計画期間とする計画が作成され、65 歳以上の高齢者人口などの見込みや在宅サービ
ス、施設サービスの量の見込みについて、全国的な集計値が公表された。こうした中、平成 11 年 12
月に、大蔵、厚生、自治の 3 大臣の合意により、「今後 5 か年間の高齢者保健福祉施策の方向」(ゴー
ルドプラン 21)が策定され、平成 12 年度から実施に移され、16 年度に終了した。
(4)ゴールドプラン 21 の概要
ゴールドプラン 21 は、新ゴールドプランの終了と、介護保険制度の導入という新たな状況を踏ま
え、住民に最も身近な地域において、介護サービス基盤の整備に加え、介護予防、生活支援などを車
の両輪として推進することにより、高齢者の尊厳の確保と自立支援を図り、できる限り多くの高齢者
が、健康で生さがいをもって社会参加できる社会をつくっていこうとするものである。
具体的施策は、①介護サービス基盤の整備、②認知症高齢者支援対策の推進、③元気高齢者づくり
対策の推進、④地域生活支援体制の整備、⑤利用者保護と信頼できる介護サービスの育成、⑥高齢者
の保健福祉を支える社会的基礎の確立の適切な実施などに向けて努力し、また、地方公共団体の自主
44
事業を支援していくことである。
3.3.2 老人福祉の課題と対応
わが国の高齢化が世界最高の水準に達することが予想される中で、超高齢社会を安心して迎えられ
るよう、高齢者保健福祉施策を一層充実させることが重要な課題となっている。
(1) 老人福祉施策の基本的方向
健康で生きがいをもち、安心して生涯を過ごすことのできる明るい活力に満ちた長寿福祉社会とし
ていくためには、高齢者保健福祉の分野におけるサービスの総合的な整備充実を図っていくことが必
要である。高齢者が可能な限り住み慣れた自宅で、安心して暮らし続けることができるよう、訪問介
護(ホームヘルプサービス)などの在宅福祉サービスを拡充するとともに、自宅で生活を継続すること
が難しい高齢者が安心して住み替えることができる場としての認知症高齢者グループホームやケア
ハウスの整備、在宅で常時の介護を受けることが困難な方のための特別養護老人ホームの整備を進め
るなど、高齢者の福祉サービスの一層の充実を図ることが重要である。
(2)在宅福祉サービス
高齢者は、身体構能が低下しても可能な限り地域社会で家族や隣人と暮らしていくことを望んでい
ることから、これらの者の在宅生活を支援していくための在宅福祉サービスの充実が求められている。
以下、在宅福祉対策事幕の内容を概説する。
(a)訪問介譲(ホームヘルプサービス)事業
この事業は、訪問介護員(ホームヘルパー)などが要介護高齢者の自宅を訪問し、入浴の介助、身体
の清拭、洗髪などの身体介護サービス、調理、衣類の洗濯、掃除などの家事援助サービス、およびこ
れに付随する相談、助言を行い、日常生活を支援することを目的とするものである。昭和 33 年ごろ
から一部の地方で行われていたが、その成果にみるべきものがあったことから、これを全国的に普及
させるため、老人福祉法制定より 1 年早い昭和 37 年度から要保護階層を対象に国庫補助事業として
制度化され、翌 38 年の老人福祉法制定に伴い、関係規定が設けられた。昭和 57 年 10 月には、それ
まで低所得の家庭(原則として、その世帯の生計中心者が所得税を課せられていないもの)を対象に無
料で派遣されてきたが、これに加えて、寝たきり老人などの介護サービスが一般市場では容易に得ら
れない実情にかんがみ、所得税課税世帯に対しても有料で派遣できるように改正された。平成元年度
には、利用者の利便を図り利用を促進するとともに、今後の高齢化の進展に伴い増加が見込まれる寝
たきり老人の介護などへの援助を充実する観点から、以下のように制度の改善が行われた。
①事業の委託先として、老人の介護の専門機関である特別養護老人ホームや在宅介護サービス方イ
ドライン(昭和 63 年 9 月)の内容を満たす民間事業者が新たに明記された。
②派遣対象の要件について、「その家族が老人の介護を行えない状況にある場合」とされていたもの
を「老人又はその家族が老人の介護サービス(広義の介護サービスであり、家事援助サービスを含
む)を必要とする場合」と改正され、要件が緩和された。
③ホームヘルパーの業務内容のうち、身体の介護に関する業務が明確にされた。
④高齢者の多様な需要に対応し、個々の高齢者の需要に最も適切なサービスを提供するため、保健、
福祉、医療などに係る各種サービスを総合的に調整、推進することを目的として、市町村に置か
れている高齢者サービス調整チームと本事業とのかかわりが明らかにされた。
45
また、本事業に要する費用の負担割合を国 1/3、県 1/3、市町村 1/3 から、短期入所生活介護(ショ
ートステイ)と日帰り介護(デイサービス)と同様の国 1/2、県 1/4、市町村 1/4 へ国の負担を引き上げ、
地方の負担を軽減するとともに、ホームヘルパーの手当額について、特に介護を中心とした業務を行
う場合については、大幅に改善された。
平成 3 年度には、基幹的な訪問介護員(主任ヘルパー)が、看護師、ソーシャルワーカーと連携し、
パートヘルパーなどとチームを組み、質の確保されたサービスを提供することを目的としたチーム方
式推進事業が創設された。
平成 4 年度には、ホームヘルパーの手当額が抜本的に見直され、常勤職員については、従来、介
護中心型と家事援助中心型の 2 区分であったものが一本化され、大幅に引き上げられた。また、ホー
ムヘルパーに対する退職手当を導入するため、民間の常勤ヘルパーを社会福祉施設職員退職手当共済
制度の対象とする法改正が行われた。
平成 7 年度からは、深夜であっても介護を受ける必要がある時間帯にヘルパーの訪問を受けるこ
とができるよう、24 時間対応ヘルパー(巡回型)が創設された。併せて、ホームヘルパーの養成につい
て、業務内容に対応した一定の資質を有する者の養成を図ることを目的とした段階的研修制度が創設
され、平成 8 年度から、全国で統一的に新カリキュラムにより研修が行われている。平成 12 年度か
らは、介護保険法に規定する居宅サービスの 1 つとして位置づけられている。
(b)短期入所生活介護(ショートステイ)
居宅において要介護高齢者等を介護している者が病気、出産などの場合に特別養護老人ホームなど
に短期間入所させ、介護者の負担の軽減を図るなど、要介護高齢者等とその家庭の福祉の向上を図る
ことを目的として昭和 53 年度から事業が開始された。
この事業の実施主体は市町村であり、特別養護老人ホームや養護老人ホームのベッドの空き具合、
利用者の利便などを考慮して市町村が指定した施設で実施されていた。
昭和 60 年度には、短期入所の要件を介護者の病気、出産などのほか、介護疲れ、旅行などの場合
にも利用できることとし、特別養護老人ホームに短期保護事業のための専用ベッドを整備できること
とした。また、その対象を虚弱老人まで拡大し、養護老人ホームの空きベッドにおいても事業を実施
できることとされた。
平成元年度には、私的理由による利用料が全額自己負担から社会的理由による利用料と同額の飲食
物費相当額に改められ、要介護高齢者等を抱える家族への支援が一層充実されることとなった。
また、20 床以上で短期入所生活介護(ショートステイ)を実施する特別養護老人ホームは、原則とし
て送迎サービスを実施することとされたほか、入所の期間は原則として 7 日以内であるが、必要最
小限の範囲で期間の延長が認められた。
平成 6 年度からは、計画的利用を行う場合は、最長 3 カ月の利用ができるようになった。
平成 9 年度からは、事業指針の内容を満たす民間事業者などに対する市町村の委託を認めた。
一方、昭和 63 年度から、ショートステイの一環として、在宅のおおむね 65 歳以上の要援護高齢
者(65 歳末満であって初老期認知症に該当する者を含む)と、その高齢者を介護している家族を特別養
護老人ホームに短期間滞在させ、その家族に介護技術などを習得させることにより、老人等の在宅生
活の維持向上を図ることを目的としたホームケア促進事業が開始された。
平成元年度からは、夜間の介護が困難なおおむね 65 歳以上の認知症高齢者等(65 歳末満であって
初老期認知症に該当する者を含む)を一時的に夜間のみ特別養護老人ホームに入所させ、夜間におけ
る家族の負担軽減を図るとともに、認知症高齢者等の在宅生活の維持、向上を図ることを目的とした
46
ナイトケア事業が開始された。
平成 12 年度からは、介護保険法に規定する居宅サービスの 1 つとして位置づけられている。
(c)日帰り介護(デイサービス)
この事業は、在宅の要介護高齢者等を日帰り介護施設(デイサービスセンター)などに通所させ、入
浴サービス、食事サービス、日常生活動作訓練、生活指導、家族介護者教室などの総合的なサービス
を行うもので、いわば、施設入所と在宅介護の中間的な施策である。昭和 54 年度から適所サービス
事業を実施し、56 年度から在宅の寝たきり老人・重度身体障害者等に対し、居宅まで訪問して入浴・
給食などのサービスを提供する訪問サービス事業を実施してきたが、61 年度にこの 2 つを統合して
在宅老人デイサービス事業とし、事業内容も基本事業(生活指導、日常動作訓練、養護、家族介護者
教室、健康チェック、送迎)、適所事業(入浴サービス.給食サービス)、訪問事業(入浴サービス、給食
サービス、洗濯サービス)に改めた。
平成 10 年 2 月からは、事業指針の内容を満たす民間事業者などに対する市町村の委託を認めた。
一方、平成 2 年度から高齢者世話付き住宅(シルバーハウジング)生活援助員派遣事業が開始された。
これは、昭和 61 年度から厚生省と建設省が共同して進めてきた「シルバーハウジング構想」に基づき
建設が進められている高齢者世話付き住宅の入居者の生活相談、緊急時の対応などを業務とする生活
援助員を近接のデイサービスセンターから派遣する事業である。この事業は住宅施策と福祉施策との
連携を図る上で重要な事業である。
このほか、デイサービスセンターの一形態として、過疎地域などの高齢者に対する介護支援機能、
居住機能、地域との交流機能を有する小規模な複合施設として、デイサービスセンターに居住部門を
加えた生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター)の整備が開始された。
この生活支援ハウスには、デイサービスセンターの職員に加え、居住部門利用者に対する相談、管
理などを行う生活援助員が配置されている。また、都市部対策として平成 5 年度には、公共住宅の建
て替え等の際に地域交流スペースなどを併せもつ都市型複合デイサービスセンターが創設され、6 年
度には、早朝、夕方に利用時間を延長できるよう時間延長加算制度が創設された。
さらに、平成 9 年度において、過疎地などサービス提供効率の低い地域において、公衆浴場等既
存施設を活用して、デイサービスを弾力的に実施できるよう既存施設活用型日帰り介護事業が創設さ
れた。平成 12 年度からは、介護保険法に規定する居宅サービスの 1 つとして位置づけられている。
(d)認知症対応型老人共同生活援助事業(グループホーム)
この事業は、要介護者であって認知症であるもののうち、少人数による共同生活を営むことに支障
がない者を対象に、小規模な居住空間、なじみの人間関係、家庭的な雰囲気の中で、住み慣れた地域
での生活を継続しながら、一人一人の生活のあり方を支援することを目的としており、平成 9 年度
から実施されている。
グループホームにおいては、利用者に対して、一定の期間、住居と食事の提供、入浴や排せつの援
助などを行い、また金銭管理の指導、健康管理の助言などの生活指導を行うなど、利用者が安心した
生活を送れるよう援助を行う。日常生活を通じた世話を行うという観点から、食事は原則として、利
用者と施設職員が共同で調理して行うよう努めることとされている。グループホームの定員は 5 人以
上 9 人以下であり、日常生活を支障なく送るために必要な設備(洗面所、浴室ほか)や、居間、食堂な
ど入居者が相互交流することができる場所を有し、利用者の居室は原則個室とする。また、特別養護
老人ホームなどの後方支援(バックアップ)施設、ボランティアなどの支援体制があり、協力医療機関
47
などと緊急時においても迅速に対応できる体制とすることに配慮がされている。平成 12 年度からは、
介護保険法に規定する居宅サービスの 1 つとして位置づけられている。
(e)在宅介護支援センター運営事業
この事業は、在宅の要援護高齢者や要援護となるおそれのある高齢者とその家族に対し、ソーシャ
ルワーカーや看護士などの専門化が在宅介護に関する総合的な相談に応じるとともに、その需要に対
応した保健、福祉サービスなどが円滑に受けられるよう市町村との連絡、調整を行う事業である(図
3.3.2-1)。
市
町
村
基幹型在宅介護支援センター
(市町村に1ヵ所)
【選択事業】
4.介護サービス情報の整備
5.住宅改修の指導・福祉用具の
紹介
6.介護予防事業
11ーー1ー
ーーーーーー
︷
【基本事業】
1.地成型支援センターの統括、
支援
2.介護予防・生活支援サービス
の総合調整
3.介護サービス機関(ケアマネ−ジ
ャーを含む)の指導支援
地域ケア会議
○介護予防・生活支援の観点から、
介護予備軍を対象に効果的な予防サービスを総
合調整
○地域ケアの総合調整
介護サービス機関
の指導支援
介護予防・生活
支援サービスの
総合調整
地成型支援センターの統括
地域型在宅介護支援センター
(原則として中学校区に1ヵ所)
ケアマネージャー
各種介護サービス機関
1.総合相談
2.高齢者の実態把握
3.介護保険対象外者に対する支援
(一般市町村保健福祉サービスの申請
代行等)
4.地域住民グループ活動などイン
フォーマルサービスの育成支援、活用
○市町村の保健
福祉サービス
○ボランティア
住民グループ
図 3.3.2-1 地域介護予防・生活支援システム1)
なお、この事業は、夜間などの緊急の相談に対応することもできるよう、24 時間にわたり機能し
ている特別養護老人ホーム、老人保健施設、病院などで行われることになっている。
主な事業内容は次のとおりである。
①在宅介護に関する各種の相談、助言
②必要な保健福祉サービスなどが受けられるように行う市町村との連絡、調整
③介護機器の展示、使用方法の指導
④地域住民に対する公的サービスの周知、利用についての啓発
平成 10 年度から、市町村内のすべての在宅介護支援センターを包括する連絡支援体制を形成する
ことを条件に、特別養護老人ホームなどに併設する「標準型」に加え、大都市のビルの貸事務所などを
利用する「単独型」、市町村の保健福祉センターなどに併設して統括、支援業務を併せ行う「基幹型」
を整備するとともに、民間事業者などに対する委託を認めることとした。
48
平成 12 年度からは、標準型と単独型を「地域型支援センター」として統合するとともに、「基幹型
支援センター」を地域ケアの中核を担うものとして位置づけ、地域型支援センターを支援するほか、
地域ケア会議の開催を業務として位置づけたところである。
また、平成 13 年度からは「介護予防プラン作成」等を行うことができることとなっている。
(3)老人福祉施設の整備と運営
老人福祉施設の種別は、デイサービスセンター、老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、養護老
人ホーム、軽費老人ホーム、在宅介護支援センター(法律上は、老人介護支援センター)と老人福祉セ
ンターとなっているが、このほかに老人福祉の向上のための施設として、有料老人ホーム、老人休養
ホーム、老人懇の家などの施設がある。
これらのうち、特に特別養護老人ホームは、入所している要介護高齢者の生活の場として整備され
てきたが、施設サービスに加え、寝たきり高齢者等の介護の専門機関としての知識・経験を生かし、
日帰り介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)、訪問介護(ホームヘルプサービス)
事業などの在宅福祉サービスを積極的に展開するための拠点としての役割を果たすことが求められ
ている。
(a)特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、65 歳以上の者であって、身体上または精神上著しい障害があるために常
時の介護を必要とする者であって、居宅において適切な介護を受けることが困難なものを入所させる
施設である(介護保険法に規定する施設サービスの 1 つであり、同法では指定介護老人福祉施設とい
う名称)。
この特別養護老人ネームの設置主体は、地方公共団体または社会福祉法人であり、その定員規模は、
20 人(他の人所施設に併設する場合は 10 人)以上となっている。
特別養護老人ホームの施設数と定員の推移を表 3.3.2-1 に示す。
また、平成 14 年度から、
特別養護老人ホームにおける 4 人部屋主体の居住環境を抜本的に改善し、
入居者の尊厳を重視したケアを実現するため、ユニットケアを提供するユニット型特別養護老人ホー
ムの整備を進めている。
(b)養譲老人ホーム
養護老人ホームは、65 歳以上の者であって、身体上もしくは精神上または環境上の理由および経
済的な理由により居宅での生活が困難なものを入所させる施設である。
表 3.3.2-1 特別養護老人ホームの施設数と定員の推移1)
昭和 45 年
(1970)
施設数
定員(人)
資料
注
55('80)
152
11,280
1,031
80,385
平成 2
('90)
2,260
161,612
12(2000)
15('03)
4,463
298,912
5,084
346,069
厚生労働省「社会福祉施設等調査報告」
平成 12 年以降は,「介護サービス施設・事業所調査」において
介護老人福祉施設として把握された数値である。
この養護老人ホームの設置主体は、地方公共団体または社会福祉法人となっており、施設への入所
は、市町村の措置決定に基づき行われる。
49
(c)軽費老人ホーム
軽費老人ホームは、60 歳以上の者(夫婦で入所する場合はどちらかが 60 歳以上)であって、家庭環
境、住宅事情などの理由により居宅において生活することが困難なものを低額な料金で利用させる施
設である。
①軽費老人ホーム(A 型)
利用者の生活に充てることのできる資産、所得、仕送りなどが利用料の 2 倍(月およそ 34 万円)
程度以下の者であって身寄りのない者、または家族との同居が困難な者が入所する施設である。
②軽費老人ホーム(B 型)
利用者が自炊できる程度の健康状態であるものを入所させる施設であり、利用者の食事は、原
則として自炊による。
③介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)
本格的な高齢社会の到来を背景として、今後の高齢者の多様な需要を踏まえ、高齢者のケアに
配慮しつつ自立した生活を確保できるよう工夫された施設であり、入所定員は 20 人以上(特養等
に併設する場合は 10 人以上)である。
入所者は、自炊ができない程度の身体機能の低下があり、独立して生活するには不安が認めら
れ、家族による援助を受けることが困難な者である。
施設でのサービスは、食事、入浴、生活相談、緊急時の対応を行うこととしており、入所者の
虚弱化の進行に対しては、訪問介護(ホームヘルプサービス)などの在宅福祉サービスの利用によ
り対応することとしている。
なお、平成 13 年度には、社会福祉法 62 条 2 項の規定により都道府県知事などの許可を受け
た法人によるケアハウスの設置・経営が認められることとなった。
軽費老人ホームは、介護保険法に規定する居宅サービスの 1 つである特定施設入所者生活介護
事業者の指定を受けることが可能である。
3.3.3 居住環境
(1) 高齢者等の居住状況
総務省統計局が実施した「平成 15 年住宅・土地統計調査」から、65 歳以上の高齢者がいる世帯の
推移をみると、昭和 58 年には 866 万世帯で世帯全体の 25%だったが、平成 15 年には 1,640 万世帯
と、世帯全体の 35%に達している。(図 3.3.3-1)
50
図 3.3.3-1 高齢者のいる主世帯の推移
出典:http://www.stat.go.jp/data/topics/topics091.htm
関連資料:総務省統計局「平成 15 年住宅・土地統計調査」
また、高齢者のいる主世帯について,住宅の所有の関係別割合をみると,持ち家が 83.9%,借家
が 16.0%である(図 3.3.3-2)。
高齢者のいる主世帯について,住宅の建て方別割合をみると,一戸建が 80.5%,長屋建が 3.2%,
共同住宅が 15.9%,その他が 0.4%である(図 3.3.3-3)。
高齢単身主世帯の持ち家率は 64.8%、一戸建てに居住する割合は 61.3%であり、他の高齢者のい
る世帯型よりも低くなっている。
図 3.3.3-2 高齢者のいる主世帯の世帯の型別 住宅の所有の関係別割合 全国(2003 年)
51
図 3.3.3-3 高齢者のいる主世帯の世帯の型別 住宅の建て方別割合 全国(2003 年)
出典:総務省
平成15年住宅・土地統計調査速報 結果の要約
平成 16 年8月 30 日
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2003/pdf/2-1.pdf
(2) 高齢者に関連する住宅施策
高齢者に関する居住環境整備のための各種の施策は、1980 年代後半から講じられてきている。住
宅施策を以下の 5 に分類した。
(a) 住宅のバリアフリー化
国土交通省は設計指針として、バリアフリー含めた「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」が定
めている。また、これらを普及・促進するため、住宅金融公庫などが、各種の融資や利率の優遇を行
っている。さらに、住宅性能表示制度では設計指針として「高齢者等への配慮に関する等級表示」があ
る。
(b) 住宅改造等の推進
「住宅改造等の推進」では、厚生労働省が「住宅改修費の支給」を行っている。融資では「バリア
フリーリフォームに関する公庫融資」などがある。また、相談窓口が設置され、相談員の育成などが
行われている。
(c) 民間賃貸住宅居住者への支援
民間賃貸住宅居住者に対し、各種の支援が行われている。一例としては、高齢者の入居を拒まない
賃貸住宅を推進する「高齢者円滑入居賃貸住宅の登録・閲覧制度」などがある。
(d)公的住宅の供給
高齢者に対する入居優遇が、公社や自治体で行われている。
(e) ケア付住宅等の供給
「ケア付住宅等の供給」では、国土交通省が「高齢者向け優良賃貸住宅制度」として、高齢社会
の急速な進展に対応し、増大する高齢者単身・夫婦世帯等の居住の安定を図るため「高齢者向け優良
52
賃貸住宅制度」を実施した。ここでは、民間活力を活用し、高齢者の身体機能に対応した設計、設備
など高齢者に配慮した良質な賃貸住宅ストックの早急な形成を促進している。
3.3.4 高齢化政策のまとめ
高齢者の区分は少子化のように、乳幼児から児童へと年を増す毎に変わるのではなく、多種多様で
ある。例えば、80歳で「特別養護老人ホーム」が必要であったり、または元気にスポーツを楽しむ
人もいる。また、財産に関しても余裕があったり、または生活保護を受けている人もいる。年齢だけ
では今後の検討を行うことができない。
老人福祉のサービスの向上や施設の増加は、高齢者の区分に合わせながら、現在も様々な取り組み
が行われている。わが国の高齢化は世界最高の水準に達することが予想される中、これらをより一層
充実させる必要性を感じる。
今回の調査では、現在のサービスや施設に対する課題は、国や自治体がある程度分析しており、そ
の対策が検討されていると感じた。また、高齢者の家族や支援する人々に対する政策も検討されてい
ると感じた。
今後も、誰もが安心して快適に暮らすためにも、地域コミュニティーづくりをはじめ、高齢者住宅
や福祉施設の整備や交通、公共施設などさまざまな分野で、有効な施策を展開して欲しいと思う。
※参考資料
1)国民の福祉の動向
厚生の指標
財団法人
厚生統計協会
2005 年 10 月
2)図説
JOURNAL OF HEALTH AND WELFARE STATISTICS
臨時増刊
Health and Welfare Statistics Association
発行
高齢者白書
2004 年度版
全国社会福祉協議会
2004 年 12 月
発行
3)平成 17 年版 少子化社会白書 少子化対策の現状と課題
内閣府 2005/12/19 発行
4)高齢者介護・シルバー 事業企画マニュアル 2005-06
(居宅介護・有料老人ホーム・グループホーム・介護保健施設・保健医療サービスの企画開発辞典)
エクスナレッジムック 2005 年 3 月
発行
(すべての高齢者介護サービス事業関係者のための必携マニュアル介護保険ビジネス新ステージ対
応!)
5)平成 16 年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況
平成 17 年度
高齢社会対策
内閣府<第 162 回国会(常会)提出>2005 年 6 月
6)Life Design
株式会社
発行
REPORT 「変わる住宅事情」
第一生命経済研究所
ライフデザイン研究本部 2004.11
53
発行
3.4 地方の取り組み
3.4.1 まえがき
地方の取り組みは、自治体だけでなく NPO などを含めた様々な運営形態で幅広い活動が行われてい
るが、その活動内容は体系化されておらず、様々な試行錯誤が行われ始めたところであるといってよ
い。
そこで今回、地方の取り組みの中で既に具現化されつつあるものの中から、代表的な3事例を調査
し、今後建築界へ影響を与えると思われる事柄について報告したい。
3.4.2 地方都市の事例(青森市)
青森市は、青函連絡船が廃止となった 1988 年以降、市街地空洞化が始まり、既存市街地人口は 2000
年時点で 30 年前と比較し約 13、000 人減少した。
市街地空洞化という問題を抱えた青森市は、高齢化率約 20%と全国の平均的な高齢化社会を迎え
つつある。少子高齢化社会を睨み、全国に先駆けてコンパクトシティ形成を目指し、かつ実行に移し、
成果を上げつつある青森市の取り組みを紹介する。
(1) 背景
本計画は、以下の背景と課題の認識から 1999 年に策定された。
①少子化と高齢化の進展
少子高齢化社会の到来に伴う生産年齢人口減少等により、一層の効率的な公共投資が求め
られてくること。街づくりとしても高齢者の社会参加を支える基盤整備が求められてくるこ
と。
②郊外開発と都心の空洞化
低密度での拡散化を続けることで都市の空洞化が進んでいること。さらに市街地拡大にイン
フラ整備が追いつかないこと。青森市の試算によると、1970∼2000 年の 30 年間に、郊外へ流
出した約 13,000 人を受け入れるために要した行政コストは、インフラ整備で約 350 億円と試
算されている。
(内訳は、道路:83.7 億円、小中学校:67.4 億円、上水道:40.6 億円、下水道
156.8 億円)
③自然環境問題への意識の高まり
環境負荷の小さな都市づくりには市街地の集約化、効率的な都市施設配置、公共交通の有効
活用などが求められてくること。豪雪都市として歩行移動範囲の拡大が高齢者の社会参加を支
える基本となること
④都市の個性と住民参加
⑤青森市における都市づくりの環境変化
(2)都市づくりの方向性
上記の背景と課題解決のために、以下のコンパクトシティの形成を目指している。
①雪に強い都市
多い時で年間30億円にも上る除雪費は深刻であり、市街地拡大を抑制し効率的な融雪施設
54
配置をする必要性。
②高齢・福祉社会に対応した都市
四季を通じたバリアフリー社会の実現には制約が多いが、都市機能の集約化と複合化等によ
り、所定の移動距離を少なくし、高齢者や車椅子利用者等の交通弱者の社会参加を促す。また
高齢者向け住宅など居住機能の都心への集約化によって、高齢者に優しい冬でも快適な居住環
境を創出する。
③環境調和型の都市
豊かな自然に囲まれた都市個性であり、無秩序な市街地拡大を抑制し、機能を明確に区分化
することで、都市近郊における自然農地の乱開発防止・大気の浄化・良質な水源・視覚的な癒
し・ヒートアイランドの防止などの効果が得られ、一層住み良い都市環境を形成する。
④災害に強い都市
⑤効率的で快適な都市
(3)市街地整備の方針
青森市の市街地整備方針は、雪対策や防災性を考慮しながら、分散化しがちな都市づくりにかける
まちづくりエネルギーの集約を図るコンパクトシティの形成を都市整備戦略として、インナー
(Inner-City)における都市施設の集中整備等による市街地環境の向上と、ミッド(Mid-City)・ア
ウター(Outer-City)において、コンパクトシティ形成のために必要な計画的かつ秩序ある市街地整
備にとどめることを基本としている。
図 3.4.2-1 土地利用構想図 (青森都市計画マスタープランより)
55
表 3.4.2-1 土地利用配置の方針(青森都市計画マスタープランより)
市
街
地
インナー
(Inner-City)
ミッド
(Mid-City)
都市の中枢性を高める
商業・行政機能と、都心
との近接性を活かした居
住機能などを配置し、土
地の高度利用などを進
め、コンパクトシティの
中核部を形成する。
ゆとりある居住機能や
それを支える近隣的商業
機能を配置し、都市の魅
力の一つである「住みご
こち」の向上により、コ
ンパクトな都市づくりと
都市活力の維持をバラン
スさせる。
居住機能
中高層中高密度
低層低密度
商業機能
中心的商業
近隣的及び沿道利用的商
業
工業・
流通機能
臨海型
アウター
(Outer-City)
豊かな自然、おいしい水
などを守るため、農業・自
然機能を配置するととも
に、それらを維持するため
に必要な集落を配置し、コ
ンパクトシティ形成を後
方から支援する。
内陸型
農業生産機
能
農地・集落
森
自然機能
林
行政機能
都市中枢性
近隣利便性
集落利便性
教育・
文化機能
総合文化面
芸術・史跡等活用面
高等・産業教育面
芸術文化面
観光・レク
リエーショ
ン機能
都市観光面
自然・温泉等活用・スポー
ツレクリエーション面
(4) インナーシティの整備方針
都市計画道路 3・2・2 号(内環状線)及び東北本線などを基調とする内側の地域で、戦後の戦災復興
により区画整理された旧市街地に加え、急激な昭和 40 年代のスプロールによって形成された市街地
を多く内包する地区であり、まちなみの老朽化や空洞化が進行しているものの、市民の濃密な生活空
間がいまだ多く存在する地区としてコンパクトシティ形成の核心部と言える。
そのため、都市生活の高い利便性を享受できるよう、インナー(Inner-City)のコミュニティサー
ビス等をカバーする中心市街地地区を中心核として老朽化したまちなみの再構築を図るとともに、こ
れまで分散傾向にある都市整備等をエリア内に集約化し、市街地環境の改善を進めることを基本的な
方針としている。
56
(5)インナーシティの整備実例
インナーシティの重点整備地点として、
青森駅
前の再開発を中心とした整備が実績を上
げつつ
ある。
その整備の中心である、駅前再開発ビル、
空き地
利用の広場、商店街の3つについて紹介し
たい。
図 3.4.2-2 青森駅前地図
(a) 複
合施設「アウガ」
コミュニティサービス等をカバーする中心市街地地区
形成のため、1999 年1月に複合施設「アウガ」がオープ
ンした(写真 3.4.2-1)。
地権者で構成された市街地再開発組合が建設した再開
発ビルで、総事業費は 185 億円。うち買取り補助等を含め
青森市の投資額は 85 億円。運営は市が 36.6%出資する第
3 セクターが行っている。ちなみに「アウガ」は津軽弁で
「会おうよ」という意味。
①地下 1 階
もともと青森駅前にあった朝市が、そのまま移設された
ような造りの生鮮市場や飲食店が集まっている
写真 3.4.2-1 アウガ外観
アウガ概要
(参照:商店建築2001年5月号)
延べ床面積
公的施設 (市民図書館・男女共同参画プラザ)
駐車場
店舗専用
共用部分 (階段など)
54,505m2
11,157m2
16,461m2
16,194m2
10,693m2
商業企画総合プロデュース/トム 柳田信之
エグゼクティブディレクター/JFP 神 憲昭
設計/建築 久米設計 商環境 サンクデザインアソシエイツ 藤澤岳穂 + 根本惠司設計事務
協力/VI計画 コム・プロジェクト 田嶋 栄
施工/建築 清水・東海・奥村・阿部重建設工事共同企業体 空間環境演出 白水社
写真 3.4.2-2 地下市場
②1∼4階
ファッション・雑貨中心の約 50 店舗ある商業スペース
③5∼6階
男女共同参画社会の形成を図るための拠点となる「青森
市男女共同参画プラザ(愛称カダール)」があり、6∼8
階が吹き抜けとなったインナーパーク(写真 3.4.2-3)は、
待ち合わせの場所としてなど、本施設の中心的な空間で
写真 3.4.2-3
ある。また、様々な活動を支えるための多目的室、研修
室などを備え、子育て中の親子が気軽に立ち寄って、
一緒に遊んだり、子育てについてのアドバイスが受けられたりできるつどいの広場や
託児施設も併設している。
57
④6∼9階
「青森市民図書館」(9階は書庫)が整備されている。
(b)「パサージュ広場」
「パサージュ広場」は、1998 年 9 月、
「青森市中心市街地再活性化基本計画」が目標とするウォー
カブルタウン(遊歩街)を具体化するために整備された公設民営型の商業広場である。これは、青森市
独自の計画である、車がなく人が安心して「まち歩き」を楽しめる新しい商界隈を創り出す「パサー
ジュ構想(フランス語で小径の意味)」を、先導的・モデル的に示すため、市街地空洞化に伴って発生
した「空き地」を市が買い上げ、商店街有志が中心となり整備したものである。
この広場には、将来、中心市街地に出店して
パサージュ広場概要(青森市まちなか整備対策室資料より)
商売を始めようとする学生や意欲のある人々
面積
施設
建物
4棟(約107坪)
店舗9区画
ギャラリー
テラス
多目的トイレ
約5億6,500万円
(用地費、建物リース料を含む)
を支援するため、一定期間の間(物販は 1 年、
飲食店は 5 年)、この広場にある商業施設で実
践してもらい、経営指導などを行いながら自立
を促す機能を有している。実際に青森公立大学
総事業費
の学生起業によるショップもある。
写真 3.4.2-4 パサージュ広場の様子
58
894.78m2
シンボルツリー(ドイツトウヒ)
ウォールアート
融雪歩道(地熱・常温方式)
水飲み場
広場
現在では青森市中心の商店街が中心となって設立した、
(有)ピー・エム・オーという、企画、指導助言、
個別事業間の総合的、横断的な調整の機能を担った
会社組織が広場運営にあたっている。そして 2006 年
5月には3店舗を増築し全12店舗となる予定で
あり、さらに 2007 年春にホテルと商業テナントの
複合施設が隣接してオープンする運びとなり、確実
に街中再生に向けての活性化が進んできている。
今年度の新たな事業計画として、地元商工会議所が中
心となり、中心市街地を訪れる高齢者・障害者が安全に
買物ができるための介助、街路の清掃、観光客に対する
観光案内などを行い、中心市街地の賑わいづくりを目的
とする学生ボランティア組織作りと実践が予定されて
いる。
図 3.4.2-3 広場概要図
青森市商工観光部産業振興課資
(c)新町商店街
上記の二つの施設のある、青森駅前から延びる新町通り沿いの新町商店街は、少子高齢化社会へ
の対応としての取り組みが行われ、車椅子利用可能な電話ボックス(写真 3.4.2-5)などバリアフリー
施設などを積極的に推進している。
また、タウンモビリティの試みとして、電動スクーターや、お買い物用カートの無料貸出などを行
っている。さらに、商店街での買物を宅配するサービスなど、高齢者の買物しやすさを商店街として
支援している。
子育て世代に対する支援としては、アウガを中心に、託児
施設や子育て情報交換の場の提供、また中高生対象の保育ボ
ランティア研修などを実施したり、商店街が企画する子供向
けのイベントもなされており、若い世代が集まりやすい商店
街へ向けての取り組みも多くなされている。
写真 3.4.2-5
蛇足ながら、本商店街では無骨になりがちな消火栓、電力
配電盤、車止めなど(写真 3.4.2-6)が住民参加の視点でデザインされているのも特色のひとつにあげ
られる。
写真 3.4.2-6
59
(d)効果
郊外型の大型ショッピングモールが 1998 年の 6 月に開店
したにもかかわらず、「アウガ」オープン前の 12 年と
16 年の数字の比較での歩行者通行量は、平日で 33%、
休日は 42%と大幅に増加している。人通りが増え、町中
に元気が出てきたということが報告され、その象徴的な
存在である「アウガ」の来場者は年間 500 万人に上って
いる。つまり郊外の大型店舗などに分散していた買い物
客、公共施設利用者などが中心市街地へ狙い通り戻って
きたといえる。
また、市街地活性化に伴い、マンションブームが起きて
おり、2002 年から 2006 年 2 月までで既に 722 戸完成し
写真 3.4.2-7
ている。
その中でも、この春には総戸数 107 戸の都市再開発法に
基づく高層ケア付マンション「ミッドライフタワー青森駅前」(写真 3.4.2-7)が、「アウガ」の隣に完
成し、「交流できる、買い回れる、暮らせる」中心市街地整備構想が、徐々に実現されつつある。
(6) ミッドシティの整備方針
ミッド(Mid-City)は、市街地の外縁である(都)3・2・3 号外環状線と、インナー(Inner-City)と
の間であり、インナー(Inner-City)とアウター(Outer-City)の緩衝的役割を担う、昭和 40 年代
後半以降から市街化した比較的新しい市街地や、将来の市街化需要の受け皿となる地区である。
そのため、原則として低層低密度・戸建て住宅を主体とした居住エリアとして、良好な居住環境の
整備・充実を図っている。
また、将来的な市街化需要の受け皿となる地区整備については、まちづくりエネルギーの分散化を
防ぐため、現況及び将来の人口・産業経済等を見据えた慎重で計画的な宅地供給により無秩序な市街
地拡大を防ぐと同時に、土地区画整理事業等により良質で優れた宅地整備を進めるとともに、地区計
画等によるまちなみルールづくりを推進し、雪に強く人に優しい居住環境整備を基本としている。
(7) ミッドシティの整備実例
(a)石江地区
2010 年開業予定の新幹線新青森駅のある石江地区
図 3.4.2-4
(青森都市計画マスタープランより)
は、ミッドシティの新しい地区整備として、平成14
年度から土地区画整理事業(市施行)により、新駅周
辺整備はもちろんのこと、現青森駅周辺を含めた区画
整理事業を行っている。
当該地区は、交通広場、道路、公園、下水道等都市
基盤整備が立ち後れている状況にあり、このため本事
業は、主要幹線、駅前広場と区画道路を合わせて整備
し、また公園等の公共施設の整備を行うと共に、駅周
辺にふさわしい宅地の利用を促進することにより無秩序な市街化を防ぎ、健全な市街地を形成するこ
とを目的としている。
60
(b)浜田地区
スプロールによる無秩序な市街地の
形成が進行しつつあった浜田地区に
おいては、平成 8∼16 年にかけて土地区
画整理事業を施行した。幹線道路におけ
る広幅員歩道の確保、電柱の宅地内建柱
等を実施し、雪に強く安全で快適なまち
を実現するとともに、住居専用ゾーンに
地区計画を導入することにより、高品質
写真 3.4.2-8
な街並み形成を果たした。
(8)今後の課題
佐々木市長は、青森市のコンパクトシティについて「成果を上げつつあり、まちなかに元気がで
てきた」と、2006 年 4 月 4 日の衆院国土交通委員会で報告している。 一方で「郊外を保全すること
は中心市街地の衰退の防止につながる。安易な市街化区域の拡大をしないことだ」とも指摘している。
青森市の報告によると、実際にビジョンを推進していく方法として、従来のようにマスタープラン
を押し付けるやり方は、新規に開発する場合は向いているが、市街化を抑制しながらビジョンを実現
していくには、下記(図 3.4.2-5)のように市民が参加し地域ビジョンとルールを条例などで作成しな
がら、全体の都市ビジョンを実現して行く枠組みの必要性を挙げている。
図 3.4.2-5(青森都市計画マスタープランより)
61
3.3.3
都心における住宅政策事例(東京都)
少子化の進展する都心においては、最近少子高齢化、特に少子化の視点から住宅政策を行
う行政が出始めている。ここでは、先進的な住宅対策について簡単に紹介したい。
(1)墨田区子育て支援マンション認定制度
(a) 背景
墨田区は、東京都東部のほぼ中央に位置し、面積 13.75ha、人口約 22 万5千人を有し、数多くの
中小企業が集積する住商工混在のまちであることが特徴である。
また、墨田区の人口構成については、地域的な利便性を求めて20代前半の転入が多い反面、子育
て環境が十分でない等の事情から30代後半∼40代の転出が目立つ傾向が続いていた。その結果、
2002 年の合計特殊出生率は 1.07 と全国平均を大きく下回り、逆に高齢化率は、都平均 16.6%に対し
て 19.05%となっていた。
そこで、新住宅マスタープランにおいては「住宅施策の面から子育てを支援する」という考え方を
採り入れることとし、具体的な提案としてはハード・ソフト両面において子育てに適した集合住宅を
「子育て支援マンション」として認定する制度を 2002 年度に創設した。
(b)制度概要
「すみだ子育て支援マンション」の認定を受けるためには、次の条件を満たし、かつ別表の認定基
準のいくつかを満たすことが必要である。
①耐火構造で、6 戸以上の独立した住戸を有すること。
②専有面積 55 平方メートル以上の住戸が、全体の 3 分の 2 以上であること。
③2 階建て以上のマンションの場合は、エレベーターを備えていること。
④賃貸マンション、または新規に建設される分譲マンションであること。
⑤その他、
別表の「すみだ子育て支援マンション」認定基準については民間ベースでの、今までに無かったよ
うな、様々な子育て支援のための工夫が生み出される可能性があるため、申請内容に基づき区が適切
に評価し認定するとしている。
大きく分けて「住戸内の仕様」、「共用部分の仕様」、「管理運営上の工夫」の 3 つに大別され、さ
らに別表のとおり、それぞれの支援の内容によって細かく分類されており、このうち、原則として一
定以上の数の基準をクリアすることが必要とされている。
62
表 3.4.3-1 すみだ子育て支援マンションの認定基準等(平成 15 年 9 月 1 日現在)
区分
項目
子育て支援の内容
住 戸 内 適切な間取り 適切な間取りの確保
の仕様 等の確保
収納スペースの確保
仕様等
評
価
度
2 以上の就寝室を有する住戸が全体の 3 分の 2(高齢者円滑入居賃貸住 A
宅に登録した住宅にあっては 2 分の 1)以上
全住戸において住戸専有面積のおおむね 8%以上を確保
B
バリアフリー 段差の解消
化
日本住宅性能表示基準別表(高齢者等配慮対策)の段差基準に関する項 A
目が等級 2 以上相当
事故防止の配 転倒時の危険防止
慮
滑りにくい浴室床仕上げ等の採用
C
その他の転倒時の安全対策
C
衝突時の危険防止
柱の面取り加工等の有効な対策
C
ドアストッパーの採用等の有効な対策
C
感電の防止
コンセント位置の配慮等の有効な対策
C
危険箇所への進入防止
台所等へのチャイルドフェンス設置等の有効な対策
C
浴槽における水溺防止
浴室扉への外鍵設置等の有効な対策
C
ドア等による指挟み防止
指を挟みにくい蝶番、ドアクローザー、引き戸等の採用
C
健康に優しい 低ホルムアルデヒド建材等 日本住宅性能表示基準別表(ホルムアルデヒド対策)の等級 2
建材使用
の使用
A
その他の子育 重量床衝撃音に対する遮音性能
てに対する配
便所の使いやすさに関する配慮
慮
A
その他子育てに配慮した仕様
共 用 部 バリアフリー エントランスにおける配慮
分 の 仕 化
階段における配慮
様
エレベーターにおける配慮
駐輪場等の確 自転車置き場の確保
保
遮音床工法の採用等の有効な対策
介助が可能な広さ(おおむね 1.5 メートル×1.2 メートル以上)の確保等 C
の有効な対策
防汚仕様の建材等の使用
C
スロープの設置
B
子供が使用可能な高さ(おおむね 75 センチメートル以下)に手すりを C
設置
9 人乗り以上で防犯に配慮したものとし、かつ、東京都福祉のまちづく B
り条例施行規則別表 3 の整備基準を満たすこと
敷地内に平置き(ラック式のものを含む)で 1 住戸につき 1 台以上を収 A
容できる規模のものを確保
三輪車・補助輪付き自転車・ 全住戸数の 3 分の 2(高齢者円滑入居賃貸住宅に登録した住宅にあって C
ベビーカー置き場の確保
は 2 分の 1)以上の住戸について、1 平方メートル以上のスペースを確
保
防犯上の配慮
不審者の侵入防止
事故防止の配 衝突の防止
慮
危険箇所への進入制限
転落の防止
子育て支援施 キッズルームの設置
設の設置
遊び場等の設置
オートロックの設置等の有効な対策
C
各住戸の玄関部分にアルコーブを設置
C
フェンスの設置等の有効な対策
B
足がかりの生じない壁仕上げ等の有効な対策
A
面積はおおむね 20 平方メートル以上とし、内部仕様は住戸内の仕様等 B
に準じていること
おおむね 40 平方メートル以上のプレイロット(提供公園等を含む)の C
設置
敷地内への手(足)洗い場の設置
遊具置き場(トランクルーム)等の設置
その他の子育てに
対する配慮
B
B
C
その他の子育てに配慮した
仕様
C
管 理 運 子育て支援サ 送迎サービス等の実施
営 上 の ービスの実施
一時預かり等の実施
工夫
C
C
その他の子育て支援サービス
近隣保育施設 保育施設等との連携
等との連携
医療機関等との連携
C
子育て相談体 子育て相談の実施
制の充実
医療相談等の実施
C
その他の子育 自主保育サークル活動への支援
て活動への支
ベビー用品リユースシステム等
援
C
C
C
C
C
その他の管理運営上の工夫
63
注釈 1:それぞれの仕様ごとに定める評価度について、原則として次の条件を満たすことが必要。
評価度 A:6 項目すべてについて適合していること。
評価度 B:7 項目中 5 項目以上について適合していること。
評価度 C:
「住戸内の仕様」では 10 項目のうち 4 項目、
「共用部分の仕様」では 6 項目のうち 2 項目、
「管理運営上の
工夫」では 10 項目のうち 3 項目についてそれぞれ適合していること。
(c)認定のメリット
認定または仮認定を受けたマンションについては、事業者が分譲や入居者募集の際のチラシ等に、
「すみだ子育て支援マンション仮認定取得済」などのように表示し販促活動に活かすことができる。
また区も、認定されたマンションについて積極的に PR している。
さらに認定の効力期間(3 年間)中に、区からの次のような支援を受けることができる。
①専門員による子育て相談の実施
②子育てグループ活動への支援
③乳幼児相談の実施
④区職員による「リクエスト講座」の派遣実施
ほか
(d)実績
2006 年 4 月現在、完工した物件は下記の 8 件である
表 3.4.3-2 子育て認定マンション完工物件リスト
上記の物件から実例を見てゆくと、以下の内容が認定のポイントとなっていた。
所在地
名称
事業者
①子供用
墨田区吾妻橋二丁目 17 番 7 号
ライオンズシティ本所吾妻橋
(株)大京
足洗い場
墨田区立花三丁目 16 番 11 号
ライオンズガ−デン亀戸イ−ストアクエア
(株)大京
(エント
墨田区東向島四丁目 1 番 1 号
ライオンズステ−ジ東向島
(株)大京
ランスの
墨田区錦糸四丁目 26 番 2 号
プラウド錦糸公園
野村不動産(株)
墨田区亀沢四丁目 9 番 4 号
ライオンズシティ錦糸町北斎通り
(株)大京
墨田区八広六丁目 3 番 3 号
ライオンズガ−デンテラス東向島
(株)大京
②平置き
墨田区堤通一丁目 1 番
サングランデ桜橋
京成電鉄(株)
の駐輪場
墨田区太平一丁目 16 番 5 号
太平 1 丁目新築工事
セコムホームライフ(株)
(株)東京ピオ
の割合を
そば)
増やす
(子供が置き易い)
③防犯カメラの設置
④遊具置き場(共用遊具等を保管するための倉庫)⑤コンセントに感電防止カバー
⑥窓ストッパー(サッシ開閉時に指を挟まないストッパー等)
⑦乳母車に対応する玄関収納
⑧インターネットを通じたコミュニティ育成
⑨インターホンでの屋外子供遊び場モニター
⑩共用空間にキッズルーム
⑪その他
室内の柱面取り加工、浴室扉の外鍵設置、外廊下、エントランスホールなど共用部分への手摺
の設置、バリアフリー化、人とクルマの導線の分離など
64
子供用足洗い場
防犯カメラ
平置きの多い駐輪場
キッズルーム
感電防止カバー
乳母車対応
玄関収納
写真 3.4.3-1
大京 HP 資料より
(2)千代田区子育てファミリー世帯など親元近居助成制度
千代田区は 2002 年度より世帯構成のバランスの確保、介護・子育て等の共助の推進、コミュニテ
ィの活性化のため、区内に 10 年以上居住している親がいて、区内の住替え、または戻り転入する中
堅所得層までの子育てファミリー世帯・新婚世帯に対し、家賃助成及び転居費用助成を行う制度をは
じめた。
助成内容は、
表3.4.3-3
ファミーユ下神明の構成 (全132戸)
家賃補助月額 5 万円
間 取 り
子育て助成 児童 1 人:1 万円
2DK
51.26㎡
児童 2 人以上:2 万円
転居一時金 移転費用実費 20万円限度
(マイホームの場合は+登記費用 30 万円)
助成期間:5 年間か末子が 18 歳に達する年度末
までのいずれか短い期間
募集世帯数:民間賃貸住宅への住替え 50 世帯、
マイホームへの住替え 50 世帯
現在では同様の子育て世代に対する住宅助成制度が、文
京区・台東区・新宿区・目黒区など都内に拡大してきてい
る。
家 賃
戸数
¥102,200
∼
¥112,900
21戸
1LDK
57.07㎡
2LDK
59.29㎡
2LDK
69.26㎡
2LDK
71.01㎡
3LDK
76.97㎡
¥125,700
¥112,300
∼
¥124,100
¥133,900
∼
¥148,000
¥137,300
∼
¥151,800
¥154,700
∼
¥171,000
2戸
21戸
21戸
42戸
21戸
3LDK
74.42㎡
¥159,000
2戸
¥180,100
2戸
3LDK
81.94㎡
65
(3) 品川区家族の増減に応じた区民住宅住替システム
品川区は 2003 年、子育て世帯の定住を促進し、家族の増減に合った住宅を供給するため、区民住
宅条例を改正し、特定優良賃貸住宅の住替えシステムを導入した。
これは、子どもの誕生、親との同居等、家族数が増えた場合、必要に応じてより広い区民住宅に移
ることができる制度。逆に死亡、離婚、子どもの独立等により家族数が減少した場合、それに見合っ
た適切な間取りの住宅に住替えることができる。さらに、加齢、疾病等による下層階への転居や、介
護の必要な世帯はエレベーターや避難口近くに移動するなど、住宅変更・住宅交換システムを導入し
た。
このため、新たに建設する高層賃貸の区民住宅(3 棟 630 戸)は、核家族、多子家庭、2 世代同居
など家族構成の変化に対応できるよう、多様な間取りを設計することとした。
例えば表 3.4.3-3 にあるように、2003 年 2 月に入居が始まった区役所に隣接する区民住宅(ファミーユ
下神明)の場合、2DK(51 ㎡)から 3LDK(82 ㎡)まで、10 種類の間取り構成を用意し、所得の伸
び悩みなどに対応して、都内初のフラット家賃方式を採用している。また所得に応じて家賃の一部を
15 年間補助する。たとえば、4 人世帯で年収 543 万円の場合、2LDK(71 ㎡)は家賃 13 万 7300 円
のところを 10 万 8900 円で入居できる。さらに、18 歳未満の子どもがいる世帯の優遇募集があり、
子どもが 1∼2 人なら一般申し込みの 3 倍程度、3 人以上なら 5 倍程度倍率が優遇される。
品川区は合計特殊出生率(1999 年)が 0.87 人で都内でもかなり低い方だが、都心回帰の影響を受
けて、子どものいる世帯の減少に歯止めがかかりつつある。
3.4.4
郊外オールドタウンの事例(千里ニュータウン新千里東町)
(1)千里ニュータウンの背景
図 3.4.4-1 千里 NT 人口動向
日本で最初の大規模郊外ニュータウンである千里
タウンは、昭和35∼45年の約10年間に、近隣住区理論
(出典: 千里中央地区整備推進協議会)
ニュー
に基づ
き計画され、人口1万人を想定した日常生活圏を近隣
住区と
してそこに近隣センターを置き、3∼5の近隣住区が地
区を形
成し公的サービスや専門店などを持つ地区センター
を配置
している。
しかしながら街開き(昭和37年)から約40年が経過
し、住
民の高齢化と世帯人数の減少により街の活力が低下
してき
た。また、モータリゼーションの発達により日常行動
圏が拡
大した結果、近隣センターに空き店舗が増加し、徒歩
圏に頼
る高齢者にとって日常生活に不便を強いられる悪循
環に陥
った。
その中で人口約6,800人の新千里東町は、ニュータ
ウンの
ほぼ中央に位置し、ニュータウンを代表するセンター
である
と同時に、千里中央駅や新都心として位置付けられた商業業務地区と中高層集合住宅地区からなる約
100haのエリアである。そのため集合住宅だけからなる近隣住区であり、建替え準備が進むにつれ5
年間で人口が約1200人減少している課題を抱えた住区である。
66
図 3.4.4-2 新千里東町位置図
(2) 新千里東町「7 つのまちづくり
提案」
街の魅力回復のため、2000年に千
里
ニュータウン・新千里東町(豊中
市)
では、「歩いて暮らせる街づくり
(国土交通省)」モデルプロジェ
ク
ト推進事業の指定を受けて、千里
ニ
ュータウンの再生を見据えた構
想
(出典:街角広場アーカイブ‘05)
策定に取り組んだ。
住民、地元商業者、行政関係者に学識経験者を加えた調査検討委員会を結成し、住民アンケート、
ヒアリング、ワークショップ等の手法を用いながら次に示す「7 つのまちづくり提案」をとりまとめ
た。
①多世代居住のための多様な住宅をつくろう
②学校をコミュニティの場として活用しよう
③近隣センターを生活サービスとの交流の拠点にしよう
④千里中央を地域の生活・文化の拠点にしよう
⑤公園を緑の交流拠点にしよう
⑥緑道を人々の出会いのある交流空間に育てよう
⑦交流とまちづくりのための場と仕組みを育てよう
その後、下図のような3つの社会実験メニューが提案された。特に暫定利用であった、メニュー
案3の空き店舗を生活関連サービスへ利用する試みは、実験終了後も住民の自主運営によって継
続された好事例となっている。
図 3.4.4-3 新千里東町社会実験の提案
出典:(財)国土技術研究センター
安全な住宅市街地づくりの事例
67
(2.1) ひがしまち街角広場の概要
地域の人がいつでも立ち寄れる場所を作るため、2001年9
図 3.4.4-4 配置図
月末に市の財政支援を受け、近隣センターの閉鎖店舗の一
角を借りてオープンした街角広場は、約30㎡の店舗面積を
喫茶スペースや地域のギャラリースペースとして利用し、
前面のピロティや屋外空間と連続した空間利用を行ってい
る広場である。
(出典:街角広場アーカイブ‘05)
写真 3.4.4-1 街角広場の様子
営業時間:11:00∼16:00
営業日: 日曜日・祝日はお休み
図 3.4.4-5 平面図
*16:00 以降は会合などに貸切可能
ボランティアスタッフ:約 15 名
飲み物:コーヒー・紅茶
お気持ち料:100 円目安、水は無料
一部委託販売も行っている
家賃:35,000 円/月
利用客は 30∼50 人/日であり、光熱費と
家賃を支払うとギリギリの採算となって
いる。
6 ヶ月間の社会実験後、住民から存続を
望む声が高まりにより住民の自主運営に
よる経営によって、存続することとなった。
(出典:街角広場アーカイブ‘05)
運営当初は複数の運営団体が当番制で
管理したが、団体役員しか出てこなくなり、また人手不足の際も他の団体と連携が上手くいかないで
いた。そこで個人のボランティア方式となったことで自主運営は定着し、現在に至っている。
(2.2) ひがしまち街角広場の成果
この社会実験についての効果について、住民の自主運営にサポートアドバイザーとして参加した
(財)生活環境問題研究所の伊富貴氏、宮本氏は下記の様に整理している。
(a) 日常的な利用から見た成果
①気軽に立ち寄る休憩場所
・新千里東町には気軽に休憩できる喫茶店がなかった
②地域交流のきっかけの場
・高齢者、主婦層、小学生を中心として様々な地域の人が交流する場となった。公民館などの
活動と違い、限られた人や限られた時間利用の制約がなく、参加しやすいと同時に、おそらく
建築的にも位置的にも寄り道しやすさがあると考えられる。
68
・小学生も下校時に立ち寄り、先生と親以外に話をする大人との貴重な交流の場となっている。
③地域の情報交換の場
・地域住民の交流が進むことで地域情報の交換の場となった。
④その他、多面的な支援の場
・地域のことを知るボランティアスタッフがいることにより広場界隈で遊ぶ小学生に目が届く
ことや、一人暮らし老人には緊急時の駆け込み寺的な機能も担っている。
(b)人が集うことでの成果
①近隣センターの賑わいの演出
・人が一定時間滞留することで、空き店舗が目立ち人通りが少なかった近隣センターの賑わい
演出に寄与した。
②自己表現の場と鑑賞の場
・様々な趣味や特技を持つ地域住民にとって、自己表現と鑑賞の場として機能した。
③防犯機能
・従来は人通りが少なくバイク走行も目立ち安心して歩けないところだったが、人が滞留する
ことでバイク走行も出来なくなり、また夜は暗く人影もないところだったが、夜間集会などで
人明かりが漏れ出すことで夜間歩行する住民に安心感を与えるものとなった。
(c)様々なネットワークの広がり
①地域と学校との結びつき
・広場で学校のコンサートなどが企画され、住民が小中学生を身近に感じられる効果があった。
②地域と行政の結びつき
・住民と行政が何度も顔を合わせ話し合いを重ねることで信頼関係が形成された。
③地域と住民団体との結びつき
・社会福祉協議会、防犯協議会、自治会連合、公民分館などの団体や、建替え委員のメンバー、
その他住民団体が意見交換などを行い交流が図られ、まちづくりについて考える機会を提供し
た。
(2.3)今後の課題
単発的な交流が多かった地域交流活動において、フレキシブルにいろいろなネットワークが形成さ
れた。また地域のシンボル的な空間ともなってきている。今後の課題としては、高齢者と小さな子供
を持つ世帯の交流は果たせたが、20∼30 代の世代交流は少ないため、若年層の開拓が今後必要であ
ること。また常連以外の初めての人でも参加しやすい雰囲気作りにより新たな利用者を増やすことな
どが上げられている。
3.4.4 地域の取り組みのまとめ
3つの事例に代表される、全国の少子高齢化社会に対する、地域取り組みを見てくると、今後の建
築界に求められてくる技術について下記のようにまとめられる。
(1)高齢化対応について
従来の高齢化対応はバリアフリーに代表されるところであったが、個々の建築技術的には進んでき
た印象がある。今後、少子高齢化社会対応という視点に立つと求められる技術として下記の点がさら
69
に重要となってくると考えられる。
①建築部位毎のバリアフリーから、歩いて(もしくは車椅子で)日常生活を構成できるためのバリ
アを無くす街づくりやサポートサービスの必要性。
②高齢者世帯が自立して住みやすい住居や地域施設にとどまらず、子供世帯と近居可能な住居施設
及び街づくりの必要性。
(2)少子化対応について
少子化対応については、地方自治の取り組みは福祉的施策が中心であり、建築技術に直結する動向
は見極め難い。但し子育て世代の住居環境は決して恵まれているわけではなく、一部でその対策がと
られ始めている。また少子化により学校など余剰となってくる公共施設を地域活用することも活発に
行われてきている。
建築的にはまだまだ試行錯誤の取り組みがあると考えられるが、少ない中でも今後必要とされるも
のとしては下記の技術が求められてくると考えられる。
①子育て家族がその時々で必要となる立地や環境、規模の住宅を得やすくするための、既存住宅ス
トックの生かし方や中古流通の仕組み
②その前提となるストック評価や改修技術
上述の技術開発を活かすために、少子高齢化社会に向
けた地方自治の視点からは、青森市や新千里東町の実例
図 3.4.4-1
TMO の位置付
自治体
を見ても分かるように、官民が協働し実現に当たる必要
性がある。また運営主体は地域住民の団体が中心となる
ことで、結果的に様々な地域のネットワークが広がり、
地域社会全体が活性化し、少子高齢化対策が進む側面が
強い。
よって今後求められてくるものとしては、運営主体が
住民中心となる以上、上述した技術開発テーマはもちろ
住民
地域団体
TMO
商工会議
自治会等
所商店街
んのこと、ハード技術を適材適所に計画し、実行する地
域組織の運営の技術 (例えば全国に拡がりつつある TMO のような運営概念にいかに建築計画を有機
的に結び付けていくかの方法)も新たに建築界に求められてくると考えられる。
*TMO:Tは「Town=街」、Mは「Management=管理・運営する」、Oは「Organization=組織・団体」の略で、「街
を元気にする」ためのいろいろな活動を行う組織の総称
*章中の引用資料
3.4.2
青森都市計画マスタープラン(青森市)
青森商工会議所HP
www.acci.or.jp
月刊中小企業レポート No.352 2006 年 3 月号(長野県中小企業団体中央会)
東奥日報新聞 2006 年 4 月 13 日
十勝毎日新聞 2005 年 11 月 21 日
商店建築 2001 年 05 号(商店建築社)
3.4.3
墨田区住宅課HP
www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/zyuutaku/index.html
千代田区まちづくり推進部HP cdp.city.chiyoda.tokyo.jp/jyutaku/housing.htm
品川区まちづくり事業部HP
(株)大京HP
www2.city.shinagawa.tokyo.jp/jigyo/05/index.htm
www.daikyo.co.jp
70
3.4.4
千里中央地区再整備ビジョン 2003 年 10 月(千里中央地区整備推進協議会)
街角広場アーカイブ‘05 (発行:ひがしまち街角広場 2005 年 9 月発行)
論文「ニュータウン再生における地域住民参加」(都市住宅学 39 号 2002 年秋)
71
4 少子高齢化の建築への影響
4.1 はじめに
人口は社会システムの基盤であり、少子化、高齢化あるいは人口減少がもたらす影響は連鎖的に非
常に広い範囲におよび、社会基盤の一端を担う建築業界に対しても、その影響は広範囲におよぶもの
と思われる。しかしながら、現状では社会保障制度などの一部については詳細に検討されているもの
の、建築業界への具体的な影響や対策などについてはほとんど明示されていないのが現状である。
そこで、本プロジェクトを遂行するための手がかりを得るため、様々なデータ分析などを行うとと
もに、ブレーンストーミングにより各委員が専門的な立場などから考えうる影響や対策の抽出を試み
た。
4.2 データ等による影響分析
後述するブレーンストーミングに先立つ予備知識として、データ等に基づいて今後の建設市場への
影響を分析した。以下にその概要を示す。
(1) 建設投資の減少
日本経済研究センターによるよれば、2007 年を境に人口が減少局面に転じても、2020 年までは日
本全体の GDP は上昇を続けると予想する一方、建設投資に関しては、1990 年以来の減少傾向は変わ
ることが無いと予想されている。これは人口減少による影響だけの予測では無いが、今後も建設業界
120
人口予測とGDP予測
日本の人口
GDP
百万人
100
80
60
40
20
予測
GDPは
GDPはアップ
アップ予測
予測
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
0
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
GDP予測と建設投資予測
90
80
70
2003年日本経済研究 センタ ー 予 測
800
建設投資(兆円)
GDP
700
600
政
政府系研
府系研究機関
究機関の予測
の予測では
では
2020年
2020年頃まで
頃まで、
、GDPはアップ
GDPはアップ
兆円
60
500
50
400
40
兆円
140
兆円
にとっては厳しい状況が続くことを示すものである(図 4.2-1)。
300
30
200
20
10
100
0
0
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020
建
建設投資
設投資はダウ
はダウン予測
ン予測!
!
図 4.2-1 建設投資の減少
(2) 住宅市場の縮小
図 4.2-2 は出生率から必要な住宅数を試算した例である。
出生率 1.29 を 1.0 とすると、親2人に対して子供1人と考えられるので、子供世代の人数は親世代
の 1/2、孫世代では 1/4、曾孫世代では 1/8 となることを示している。これに伴って必要な住宅数も
50 年程度で1/4になる計算になり、相続されない住宅が増えていくものと考えられる。
72
出生率1.29=1.0とすると。
二人から一人
二人から一人
75歳
50歳
25歳 ●
50歳
25歳
0歳
25歳
0歳
●●
●
●●
●
●
●
● 8人 4住宅
●
●
●
●
二人から一人
二人から一人
●
0歳
1人 1住宅
50年後
50
年後
図 4.2-2 住宅市場の縮小
(3) 世帯規模の変化
図 4.2-3 は住宅着工数および世帯規模の変化を示している。
住宅着工数に関しては、必ずも人口全体との関連は明確ではなく、購入世代(30 歳代)の人口や、
景気動向に左右されているものと思われる。
世帯規模(1世帯あたりの人数)に関しては、既に親2人子供 1 人の 3 人を割り込んでおり、今後
も減少していくと予想されている。このことは単身や夫婦のみの世帯など、世帯の多様化を示すもの
と考えられることから、住宅の面積・プランニングにおいても多くのバリエーションが要求されるも
のと思われる。
日本の人口
住宅着工数(千戸)
140
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
120
100
80
60
人
40
20
世帯規模
核
核家族以
家族以下の人
下の人数へ
数へ
2050
2045
2040
2.80
2035
2030
2020
2015
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
1965
1960
1955
1950
2025
2.90
0
2.70
2.60
2.50
2.40
多様な家族形
多様な家族形態へ
態へ
2.30
1995
2000
2005
2010
2015
2020
図 4.2-3 世帯規模の変化
(4) 学校への影響
全体の人口減少に比べ、若年層の減少は早く訪れるため、学生数の減少は既に始まっている。2007
年には大学全入時代が来ると言われており、今後は定員割れの増加とともに大学経営難、ひいては廃
校などへのつながっていくことが予想される。また、小学校などでは、1学級あたりの人数も少なく
なってきており、OECD 加盟国の平均人数 24 人に近づいていくものと考えられる。
一方、図書館については増加傾向であり、開かれた教育施設に対する社会ニーズは引き続き高いと
思われる(図 4.2-4)。
73
20
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1975
1970
1965
1960
1955
1980
2,500
2,000
80
1,500
60
1,000
40
500
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
0
1995
20
1990
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
1965
1960
1955
0
1950
20
0
3,000
1985
約30人
約30人
40
200
100
1980
60
120
1975
80
700→500?
700→500?
日本の人口
図書館
140
50.0
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
300
100
0
1970
100
400
2007年大学全入時代?
2007年大学全入時代?
40
1965
一学級当り生徒数(中学)
120
500
60
日本の人口
140
600
80
2050
2025
2030
2020
2015
2005
2010
2000
1990
1995
1985
1980
1970
1975
学生数は確実に減る
学生数は確実に減る
1965
1955
1960
1950
0
2040
2045
20
2035
1990年をピークに
1990年をピークに
700
100
1950
60
800
日本の人口
大学数
120
1960
80
40
140
2,000,000
1,800,000
1,600,000
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
0
100
1955
120
1950
日本の人口
高等学校卒業者数
140
0
図書館
図書館は
は増加傾
増加傾向・・・
向・・・
社会教育施設
社会教育施設は
は増加す
増加する?
る?
OECD各国(25カ国)
OECD各国(25カ国)平均=24人
平均=24人
(2003年版OECD「図表で枝みる教育」)
(2003年版OECD「図表で枝みる教育」)
図 4.2-4 学校への影響
(5) 労働人口の減少
急速な少子高齢化のため、人口に比べ労働人口の減少が早く進んでいくことが予想されている。各
産業とも労働者の確保が難しくなると思われるが、市場規模の動向と合わせて考える必要がある(図
4.2-5)。
人
人口減少
口減少
人口減少よりも早く、
人口減少よりも早く、
日本の人口
生産年齢人口(15-64歳)
140
120
働く人が少なくなる
働く人が少なくなる
百万人
100
80
60
働
働く人
く人
40
20
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
1965
1960
1955
1950
0
2003年 国立社会保障・ 人口問 題研究 所 中位 予測
生産年齢人口
15歳 以上65歳 未満の 層
労働力人口
労 働の意 思と能 力をも ってい る人口
図 4.2-5 労働人口の減少
(6) 社会資本の整備状況
社会資本の整備状況を先進各国と比較すると(図 4.2-6)、日本は高いとは言えないレベルにある。
今後の市場動向を考える上では、国際化を考慮しながら、社会資本の整備を進める必要があるものと
思われる。
社会資本は、いまだ
社会資本は、いまだ
一人当りの都市公園面積(㎡)
100
社会資本整備国際比較
約
約1/3
1/3
水道普及率(%)
国際水準に達していない
国際水準に達していない
80
60
道路舗装率(%)
40
約
約1/2
1/2
日本
英国
ドイツ
フランス
イタリア
米国
20
0
下水道普及率(%)
業界のデータ
国鉄複線化率(%)
配線地中化率(%)
2004 建設業ハンドブック(日 本建設 業団体 連合会 、日本 土木工 業協会、 建築業 協会)
図 4.2-6 社会資本の整備状況
74
4.3 ブレーンストーミング
4.3.1 目的
少子高齢化がもたらす建築に与える影響について、考えうる影響およびその対策を抽出する。
4.3.2 実施概要
予備知識として、前項に示すデータ等に基づく影響分析についての説明を行った後、5つのテーマ
に関してそれぞれ質問を用意し、1テーマあたり30分程度のブレーンストーミングを実施した。
・実施日
第 1 回 2006 年 2 月 15 日(水) 13:30∼15:00
第 2 回 2006 年 3 月 13 日(月) 13:30∼15:00
・参加者
原則として当動向調査プロジェクトメンバー全員
・進行
戸田建設
村江
4.3.3 テーマの選定
前述のデータ分析にあげられた影響が大きいと予想された「住宅」
「学校」
「労働力」に、ストック
の増加に伴い影響があると思われる「維持管理」と「その他」を加えた以下の5つのテーマに対して
ブレーンストーミングを実施した。
(1) 市場の縮小(住宅)
人口減少に伴い、必要な住宅戸数が減少することが予想されます。
Q.今後どのような住宅が求められると思いますか?
Q.また、ストック住宅の活用方法としてどんな事が考えられますか?
(2) 淘汰される学校
すでに幼稚園の倒産や、将来的に高齢者向きの教育施設への転用も視野に入れた施設作りが始まっ
ています。
Q.学校経営を考えた場合、今後どのような設備投資が有効だと思いますか?
(3) 労働力への影響
作業員の高齢化にともない、技術伝承と労務不足が懸念されます。
Q.技術伝承または労務確保としてどのような方策が考えられますか?
(4) 維持管理への影響
空住戸や空フロアの増加にともない、管理費や家賃収入が減少することが予想されます。
Q.今後、建物物を維持管理していく上で、どのような事が必要になると思いますか?
(5) その他の影響
Q.その他に人口減少や少子高齢化が与える影響としてどんな事が考えられますか?
75
4.3.4 結果および分析
ブレーンストーミングの実施結果について各テーマ毎に以下の通り概述する。なおテーマ「その他」
における発言内容については(1)∼(4)のテーマに含めた。
(1)住宅市場の縮小
発言におけるキーワードとそれぞれの関係を図 4.3-1 に示す。
対策
行政・施策
行政・施策
法整備
家族割引(補助金)
施策(減税)
質・価値の向上
質・価値の向上
DIYによるリフォーム
近居・隣居
地方の活用
地方の活用
同居
価値の向上
マルチハビテーション
田舎の活用
広さ・質の向上
家族が支えあって生きる
国が買って緑化
スケールアップ
ロハス
家族主体
家族主体
2戸を1戸に
仕事と生活の一体化
デュアルリビング
手すり・スロープ
駅前保育所
亭主の部屋
職場の託児施設
子づくりしやすい住宅
職と生活の一体化
職と生活の一体化
都市の若年向け低家賃住宅
ミクロ(住宅)
マクロ(都市)
ストックになるような住宅はない
中古市場の活性化
新築は減らない
ストックの増大
一極集中
世帯の変化
世帯の変化
市町村合併
超核家族化
市場の縮小
親の家に住まない
住宅を継がない
市場への影響
市場への影響
少子高齢化・人口減少
影響・問題点
図 4.3-1 「住宅市場の縮小」に関するキーワードとその関係
① ストックの増加
・ ストック住宅が増加するというのが大方の見方であるが、単に人口減少によるもので
はなく、現在のストック(中古住宅)に対する魅力・価値を疑問視する声があった。
・ 一方、新築に関しては、単身世帯、DINKS、マルチハビテーションなどの増加も含め
て減らないとの意見もあった。
② ストックの活用
・ 増加するストックを活用するためには、質・価値の向上が必要という意見が多く、2
戸を1戸にすることなどによるスケールアップや、書斎を設けたり高齢者対応にする
事などによる質の向上が必要との意見があった。
・ また都市レベルでは国による緑地化やマルチハビテーションによる地方(田舎)の活
用などの他に、一極集中を懸念する声もあった。
③ 職とのつながり
・ 若い世代が職場近くに住める低家賃住宅や、ウィークデーのみ職場近くに住むマルチ
ハビテーションなど、職場と生活(住宅)の隔たりを小さくすることが必要との意見
があった。
76
・ また、女性の社会進出および子育て支援のために、駅や職場に隣接した保育施設・託
児施設が必要との意見もあった。
④ 家族の助け合い
・ 核家族化および高齢者の介護に対応するため、家族を重視するべきとの意見があり、
同居はもとより隣居、近居などに対する税制優遇などを求める声があった。
⑤ 法令・制度の整備
・ 上記の対策のほとんどは建築技術的には可能であったり、既に実施されている事項で
ある。しかしながら、現行の関係法令(建築基準法・消防法など)や、税金などの優
遇制度が未整備であることなどが、阻害要因になっているという意見があった。
(2) 淘汰される学校
発言におけるキーワードとそれぞれの関係を図 4.3-2 に示す。
対策
教育の変化への対応
教育の変化への対応
安全性
安全性
フレキシビリティー
コンバージョン
セキュリティー
行政の対応
警備強化
自然素材
木と土
環境
環境
教育の多様化
教育の多様化
教育の多様化
環境教育
役所と学校の共存
ものづくり大学
乗馬
学童保育の充実
情報化
地域・高齢者
地域・高齢者
への開放
への開放
学校の開放
教育イノベーション
茶道
技術家庭の充実
統合
地域に溶け込んだ学校
中高一貫
高齢者施設への変更
華道
高齢者の利用
ミクロ(教育)
マクロ(地域)
IT=具体的に何か
郷愁の場
現在の学校
現在の学校
他の施設と共存しにくい
オールドタウン化
学校は使いにくい
コンクリートのグラウンド
小学生不在の団地
子供の減少
地域への影響
地域への影響
地域格差
少子高齢化・人口減少
影響・問題点
図 4.3-2 「淘汰される学校」に関するキーワードとその関係
① 地域への影響
・ 少子化を地域的な問題と捉える意見があり、地域的な格差、とりわけ少子化の著しい
地域でのオールドタウン化を懸念する意見があった。
・ その上で現在の学校における使いにくさなどの問題と合わせて、施設としてどう活用
するかについての意見があった。
② 地域への開放
・ 主に公立の学校では、児童・学生数の減少により学校の統廃合が進むとともに、空い
た教室・学校を利用して地域の拠点や高齢者が集う場所としての機能を持たせて解放
すべきとの意見が多かった。
77
③ 教育の多様化(私立校)
・ 一方、私立の学校では、児童・学生の確保が経営の基盤として重要であるため、特色
のある教育を提供する必要であるとの意見が多かった。
・ その内容としては、情報化をはじめ従来の学習科目以外(乗馬、茶道など)の教育に
着目した発言があった他、施設自体を環境教育の場として整備する必要があるとの意
見があった。
④ 教育の変化への対応
・ 上記の教育の変化に対応するための施設作りとして、可変性(フレキシビリティー)
が必要であるとともに、コンバージョンなどの改修に関わる技術・法令の整備を求め
る意見があった。
⑤ 安全の確保
・ また、様々な使われ方を想定した場合に、学校(児童・学生)に対するセキュリティ
ーの確保が必要であり、特に地域に解放した場合について方策が検討課題とする意見
があった。
(3) 労働力への影響
発言におけるキーワードとそれぞれの関係を図 4.3-3 に示す。
対策
労働力の確保
労働力の確保
建築の魅力回復
建築の魅力回復
人間工学的な道具
マニュアル化
限られた職種
労働環境の向上
女性トイレ
働き=賃金
車のようには行かない
安定化
賃金向上
カルチャーの違い
技術の伝承
技術の伝承
建築業の魅力回復
低賃金だからではダメ
機械化
ロボット
外国人の活用
技術伝承は不要
教育
高齢者の活用
若い人に入ってもらえるように
女性の活用
マクロ(建築業)
ミクロ(施工)
労働力不足
技術伝承は不可能?
質の低下
匠がどこにいるのか?
不安定
親方の指導力
保身になる
不連続
成果主義
実力主義
入るのも出るのも気楽
景気に左右
質の低下
質の低下
若い人に見放されたらダメ
高齢化
契約概念
3K
労働力の不足
労働力の不足
新たな思想
超突貫工事はNG
日本人のメンタリティ
少子高齢化・人口減少
影響・問題点
図 4.3-3 「労働力への影響」に関するキーワードとその関係
① 労働力の不足
・ 少子高齢化・人口減少による絶対的な労働力不足に加え、いわゆる3Kなどと言われ
る労働環境の問題により、建設業界ではより深刻であるという認識が強かった。
・ また、景気に左右される不安定さや労働者の地位にも問題があるとする意見もあった。
78
② 質の低下
・ 労働力の不足とあわせて、質の低下を懸念する発言もあった。
・ 原因としては、若い世代が居着かないことと合わせて、成果主義や実力主義により上
位者自身の保身のために教育・指導が不十分となっていることや、契約概念により、
それ以上の事をやらないなど、従来の日本人のメンタリティには無かった考えた方が
入ってきたこともあるのではないかという意見もあった。
③ 建築の魅力回復
・ 労働力不足の解決として、若い世代に建築の世界に入ってもらえるように魅力的にす
る必要があるとの考え方から、賃金、安定性、労働環境の向上が必要とする意見が出
された。
・ また、ものづくりの大切さを教える教育も重要であるとの意見もあった。
④ 労働力の確保
・ 労働力の確保として、女性、高齢者、外国人の活用に期待する意見があった。
・ 女性については、トイレの問題に代表されるように労働環境の改善が必要であるとの
発言があった。
・ 高齢者については、技術の伝承としての意味も大きいとしながらも、(女性も含む)
身体的な弱さを補助する人間工学的な機械の開発に期待したいとの意見もあった。
・ 外国人については、従来の日本的な考え方に押しつけるのではなく、文化・考え方の
違いなどを考慮して、マニュアルなどを整備して活用する必要があるという意見があ
った。
⑤ 技術の伝承
・ 技術伝承は必要とする認識が多かった一方、その必要性や可能性について疑問を投げ
かける発言もあった。
・ 機械化施工については、労働力としても、限られた作業については期待出来るのでは
ないかとの意見があった。
79
(4) 維持管理への影響
発言におけるキーワードとそれぞれの関係を図 4.3-4 に示す。
対策
維持管理のしやすさ
維持管理のしやすさ
資金の調達
資金の調達
メンテナンスフリー
アセットマネジメント
エンジニアリングレポート
改修の図面・仕様のスタンダード
光触媒
リスク管理
維持管理しやすさ
リスクがわかる技術
複数年契約
証券化
コンサルティング
容積率の緩和
すまい手の技術
高齢者の活用
自分でできる
専門家も必要
資産価値が維持管理で変わる
設備の稼働率向上
価値ある建物
計画的に手を入れる
バリアフリー化
維持管理の必要性
維持管理の必要性
価値向上
価値向上
コンバージョン
法規の整備
使うための維持管理
既存不適確
ミクロ(建築・設備)
上物(建物)は無価値
維持管理不足
マクロ(資金)
メンテナンス困難
改修のハード技術はある
金をかけてない
資金の不足
不十分な維持管理
不十分な維持管理
家賃収入の減少
入居率低下
少子高齢化・人口減少
影響・問題点
図 4.3-4 「維持管理への影響」に関するキーワードとその関係
① 不十分な維持管理
・ 維持管理に関しては現状でも十分ではないとする意見が多かった。
・ その要因として、(1)住宅市場の縮小でも述べたように、ストックに対する価値の低
さをあげる発言があったが、維持管理の不十分さにより価値が低いという側面と、価
値が低いものへの投資(維持管理)メリットが無いという側面があるものと思われる。
・ 特に既存不適確の建物については、法規上の阻害要因とともに、後者の理由により改
修が行われていないとの意見もあった。
② 維持管理の必要性
・ 後述する価値向上の観点から維持管理についての必要性を訴える声が多く、建物使用
者の立場に立って計画的にメンテナンスする必要があるのとの意見があった。
・ また設備機器の稼働率の向上、バリヤフリー化やコンバージョンなどにより価値向上
が期待できるとの意見もあった。
③ 維持管理のしやすさ
・ 維持管理を行うためには、そのしやすさが必要という発言があり、建物の保有者・使
用者が自分でできる仕組みや、メンテナンスフリーとする技術は維持管理コストの削
減になるとの意見もあった。
・ また、改修工事に関しては、図面や仕様が不明確な場合が多く、それらのスタンダー
ドを設けること(標準化)も、維持管理のしやすさにつながるとの発言もあった。
④ 価値向上
80
・ 維持管理が適切に行われている建物の資産価値やリスクが正当に(高く)評価される
仕組みが必要との意見が多かった。
⑤ 資金の調達
・ エンジニアリングレポートなどにより、資産価値が正当に評価されることにより、証
券化やアセットマネジメントといった手法を用いて、維持管理などに関わる資金調達
も可能という意見があった。
4.4 おわりに
住宅に関しては、中古住宅(ストック)が増加していくというのが大方の見方であり、その価値を
向上させる改修・リフォーム関連の技術が今後必要になる項目として抽出された。一方、新築に関し
ては様々な居住形態により一定の市場規模の市場は残る可能性が考えられるが、法令および施策的な
取り組みが必要であると思われる。また、今後の住宅のありかたとして、家族や職場とのつながりを
考慮する必要があると思われる。
学校に関しては、学生数の減少は必至であることから、公立校に関しては開放して地域の拠点とし
ての活用することが考えられ、その場合の改修・コンバージョンに関する技術や安全性の確保が課題
として抽出された。私立校に関しては学生の確保のために教育の多様化が必要であり、そのために施
設としての可変性(フレキシビリティー)が必要であると思われる。
労働力については量・質ともに低下していくことが懸念されており、今後労働力および質を確保す
るためには、環境・賃金などの労働条件の向上とともに外国の思考などについても考慮していく必要
があると思われるが、具体的な方策についてはさらに検討の余地があるものと思われる。また機械化
施工については今後に期待することが大きいと思われる。
維持管理については、今後の増加するストックの価値を高めるために重要であると思われる。しか
しながら現状では不十分であり、技術的にもコスト的にもより維持管理のしやすさが求められている。
また、資金調達などにおいても維持管理の状況を含めた資産価値の適正な評価手法の整備が課題とし
て抽出された。
81
5. 建築計画・設計技術
5.1 少子高齢化対応建築技術の現状
静岡文化芸術大学デザイン学部の古瀬教授を講師に迎えて開催したテクニカルヒアリング『バリ
アフリー技術からユニバーサルデザインへの変遷』の要旨を示す。
開催日時
2005 年(平成 17 年)12 月 2 日(金)16:30∼18:30
演題
『少子高齢社会における建築とユニバーサルサービス』
講演者
静岡文化芸術大学
デザイン学部
古瀬
敏
教授
講演要旨
(1)
1986 年、厚生省から 2030 年には人口の 1/4 が 65 歳以上になるという報告がなされた。これを
うけ、建設省は「長寿社会における技術開発プロジェクト」をたちあげ、バリアフリーを中心と
した対策が始まった。1987 年から高齢者専用住宅(シルバーハウジング)が導入され、1995
年には長寿社会対応住宅設計指針がだされた。まちづくりの視点からは、外出時のトイレ、休憩
場所の重要性が指摘された。
(2)
年齢と人間の能力の関係において、これまでは、体力の衰えがみえる 55 歳までが労働力として
の要求水準であった。体力を機械化で補える現在、その人の経験を生かせる 60 歳・65 歳までを
水準とすべきである。その余力は、住まいからまちへ、そして生活を楽しむ方向へ向かい、学習・
レジャー・労働へと新たな分野が広がるだろう。身体障害、そして加齢変化に対応するためにハ
ートビル法が誕生したが、その基本的な要求水準はさほど高くなく、使い勝手にも言及していな
い。
(3)
ユニバーサルデザインは、年齢・性別・能力などに関わらず、差別・区別されない、すべての
人のためのデザインである。欧米では障害者の権利やノーマライゼーションと連動していたが、
わが国においては、高齢化がすすみ、誰もが当事者にならざるを得ないことが意識され始めてか
ら、認識されるようになった。
よいデザインの必須6要件とは、安全・アクセシビリティ・使い勝手・価格妥当性・持続可能性・
審美性である。「安全」と「使い勝手」は、バリアフリーでも求められるが、消費者製品として
成功するためには手の届く価格、デザインセンスと、誰がカバーされ誰が排除されているかの深
い洞察力をもったものでなければ、個人消費には対応できない。(例:らくらくホンの性能と価
格の事例)
一方、都市・建築・住宅には、公的資金が関与する。長持ちするので一度つくると影響が大きい。
したがって、排除される利用者が多いものは容認されない特性を持っている。
(4)
死ぬまでいったいどういう暮らしをしたいのか、が本来の問いの原点である。
人のため、ではなく、まず自分のため(自分が住みたくない住宅、使いたくない建築物はあるべ
きではない)。ついで、自分ならOKでも他人にも問題がないかどうか。このとき、他人につい
て、Designing for someone not like me. 自分と違った人にとってはどうなのか、という意識が
必須である。
82
いいデザインの事例として、以下のものが紹介された。
・ 温水洗浄便座
・
段差なしユニットバス
・ スイカ(非接触ICカード)
・
・自動ドア
・携帯電話
・ トーキングサイン(ナビゲーションシステム)
・ 筆記具のラバーゴム
ロンドンタクシー(車椅子対応)
・
レバーハンドル
・自販機(硬貨と製品の高さの配慮)
・ 設置高さがいくつもある公衆電話
・ 東京愛宕神社の勾配の違う男坂、女坂
【写真は古瀬提供】
83
5.2 各種バリアフリーを盛り込んだ計画・設計基準類
高齢者やバリアフリーに関する技術基準等の概要を示す。
5.2.1 国土交通省:高齢者が居住する住宅の設計に係る指針
平成13年制定された「高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針」(平成 13 年国土交通
省告示第 1299 号)の三に定める事項に基づき、高齢者が居住する住宅の設計に係る指針(平成 13
年 8 月 6 日国土交通省告示第 1301 号)が定められた。適用範囲や二段階(基本レベルと推奨レベル)
に分けた各部の指針が示されている。詳細はホームページ
(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/koureishahou-kokuji1301.htm)を参照頂
きたい。
5.2.2 国土交通省:高齢者向け優良賃貸住宅制度
平成13年度に「高齢者の居住の安定確保に関する法律」の中に高齢者向け優良賃貸住宅が位置
付けられ、認定基準、助成措置、事業主体に対する税制上の優遇などが定められた。詳細については、
例えば「高齢者居住支援センター」のひとつ高齢者住宅財団のホームページ
(http://www.koujuuzai.or.jp/html/page07_02_02.html)を参照頂きたい。
5.2.3 住宅金融公庫:公庫融資におけるバリアフリー住宅の基準
住宅金融公庫の融資基準において、基準金利適用住宅、割増融資など政策的に優遇される住宅に
係る基準のひとつにバリアフリー基準がある。専用部分については、段差の解消、部屋の配置、住宅
内の階段、手すりの配置、通行幅の確保、浴室の広さの確保などについて、基準が示されている。共
用部分についても同様である。
さらに、高齢者等対応設備を併設する場合の基準が定められており、高齢者等の住宅内の移動又
は日常生活を支援するため、①ホームエレベータ、②階段昇降機、③移動用リフト、④高齢者等用浴
室、⑤高齢者等配慮型キッチン・洗面所・便所、⑥スプリンクラー設備等のいずれかの設備を行うこ
とが求められている。
詳細はホームページ(http://www.jyukou.go.jp/yusi/koukojutaku/baria_syou.html#1 または
http://www.jyukou.go.jp/yusi/koukojutaku/baria_free.html)を参照頂きたい。
5.2.4 国土交通省:住宅性能表示制度
住宅性能表示制度とは平成12年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律
(以下「品確法」という。)」に基づく制度である。 品確法は「住宅性能表示制度」を含む、以下の
3本柱で構成されている。
1.新築住宅の基本構造部分の瑕疵担保責任期間を「10年間義務化」すること
2.様々な住宅の性能をわかりやすく表示する「住宅性能表示制度」を制定すること
3.トラブルを迅速に解決するための「指定住宅紛争処理機関」を整備すること
性能の表示項目は 10 分野 29 項目あり、住宅の外見や簡単な間取図からでは判断しにくい項目が優
先的に採用されている。表示項目の 10 分野は次の通り。
1.地震などに対する強さ(構造の安定)
2.火災に対する安全性(火災時の安全)
3.柱や土台などの耐久性(劣化の軽減)
84
4.配管の清掃や補修のしやすさ(維持管理への配慮)
5.省エネルギー対策(温熱環境)
6.シックハウス対策・換気(空気環境) (ただし、測定はオプション)
7.窓の面積(光・視環境)
8.遮音対策(音環境) (この評価項目はオプション)
9.高齢者や障害者への配慮(高齢者等への配慮)
10.防犯対策
9項目目の高齢者や障害者への配慮については、高齢者等に配慮した建物の工夫の手厚さの程度を
等級により表示することに重点をおき、特に、新築時に対策を講じておかないと対応が難しい、移動
時の安全性の確保と介助のし易さ、に着目した工夫を評価の対象としているとのことである。
ものさしを示した制度であるため、そのすべての項目について最高等級である必要がないことも特
徴と言える。
詳細については、住宅性能表示制度の適切かつ円滑な運用を目的とした評価等を行っている登録機
関より構成された協議会である「住宅性能評価機関等連絡協議会」のホームページ
(http://www.hyouka.gr.jp/seido/shintiku/05.html)を参照頂きたい。
5.2.5 国土交通省:ハートビル法
平成 6 年に制定された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関
する法律」の略称がハートビル法である。この法律の目的は、高齢者や身体障害者等が円滑に利用で
きる建築物の建築の促進を図ることであり、不特定多数の者が利用する建築物を建築する者に対し、
障害者等が円滑に建築物を利用できる措置を講ずることを 努力義務を課している。改定に伴い、特
別特定建築物の建築等についての利用円滑化基準への適合義務が創設さた。判断基準も、制定当初は、
基礎的基準と誘導的基準であったが利用円滑化基準と利用円滑化誘導基準に変更された。
同法の詳細については、例えば(財)日本障害者リハビリテーション協会ホームページ
http://www.normanet.ne.jp/~ww101765/main/shirase/heart.html 等を参照頂きたい。
図は前述 HP より引用
85
5.2.6 国土交通省:交通バリアフリー法
平成12年に公布された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進
に関する法律」の略称が交通バリアフリー法である。この法律の目的は、高齢者、身体障害者等の公
共交通機関を利用した移動の利便性・安全性の向上を促進するため、
I.鉄道駅等の旅客施設及び車両について、公共交通事業者によるバリアフリー化を推進
II.鉄道駅等の旅客施設を中心とした一定の地区において、市町村が作成する基本構想に基づき、
旅客施設、周辺の道路、駅前広場等のバリアフリー化を重点的・一体的に推進することであり、公共
交通事業者が講ずべき措置や国、地方公共団体の支援措置などが定められている。詳細については同
法 の 概 要 を 紹 介 し た ホ ー ム ペ ー ジ 、 例 え ば 国 土 交 通 省 の ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrier/gaiyo_.html を参照頂きたい。
5.2.7 東京都:小規模建築物・既存建築物 バリアフリーガイドライン
自治体における取り組みの一例として、東京都の例を紹介する。東京都福祉のまちづくり推進協
議会が平成15年8月に行った最終報告で取り上げた、小規模建築物・既存建築物 バリアフリーガ
イ ド ラ イ ン ( 素 案 の 抜 粋 ) を 示 す 。 詳 細 は 、 東 京 都 ホ ー ム ペ ー ジ
(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chiiki/21vision/guideline1.htm#s1)を参照頂きたい。
なお文中の図は、同ホームページから引用している。
(a)小規模建築物・既存建築物
バリアフリーガイドライン
1. バリアフリーガイドラインの考え方
「福祉のまちづくり条例」の整備基準に適合させることを原則とするが、敷地や建築物の構造
上の制約により整備が困難な部分について、「バリアフリーガイドライン」に掲げる整備基準に
基づく整備を行い、かつ、従業員などによるサポートで補うことを基本的な考えとしている。
2.バリアフリーガイドラインの整備基準
1)敷地内通路
・通路幅は 1.2m以上確保
・段差を設けない
・滑りにくい仕上げ
●階段にスロープを併設した例
●スロープに沿って手すりを設置した例
86
2)出入口
・有効幅は 80cm 以上確保
・段差を設けない
・滑りにくい仕上げ
●ブロックを避けてマットを敷いた例
●出入口前の段差にスロープと手すりを設
置した例
3)トイレ
・出入口の幅は、80cm 以上確保
・戸は、車いす使用者が円滑に通過できる構造
・便房内に、腰掛け便座、手すり等を適切に配置
・床面には段差を設けない
・出入口に、表示をする
●手すりを要所に設置した例
●すべての人が利用可能な鏡
87
4)傾斜路
・傾斜路の幅は、90cm 以上を確保
・こう配は、できるだけ緩やかにする
・滑りにくい仕上げにする
●出入口の段差に傾斜路を設けた例
●出入口の段差にスロープ板を設けた例
5)駐車場
・障害者のための駐車施設を設ける
・障害者のための駐車施設から建築物の出入口までの通路は、敷地内通路の基準に適合
●障害者用駐車施設の設置例
●障害者用駐車施設と標識の設置例
88
6)廊下(屋内通路)
・有効幅は 1.2m以上確保
・段差を設けない
・滑りにくい仕上げにする
●廊下の段差をスロープにした例
●廊下の幅員が十分な例
7)階段
・手すりを設ける
▼け上げ、踏面の形状(つまずきにくい構造の例)
▼階段の立上がり
手すりの形状
●階段の手すりの設置例
89
8)エレベーター等の昇降装置
・かご及び昇降路の出入口の有効幅は 80cm 以上
▼エレベーターの設計標準例(11人乗り)
●エレベーター乗り場にインターホン
を設置した例
(b) 福祉のまちづくり条例の改正
東京都は平成 12 年、急速な少子・高齢社会の進展、子育て支援環境整備の必要性の高まり、ユ
ニバーサルデザインの思念の普及、福祉用具等の技術進歩など、福祉を取り巻く環境の変化に対応
するため、一部を改正している。
① 一般都市施設、特定施設、整備基準等を具体的に規定。
② ベビーチェア、授乳場所、だれでもトイレ等の設置。
③ 公衆電話、発券機などの車椅子対応の強化。
詳細は同 http://www2.fukushihoken.metro.tokyo.jp/machiz/manu/manu-2.pdf を参照頂きたい。
東京都以外にも同様に、社会環境の変化に適合した条例の改定をすすめている行政も増加してい
る。
90
5.3 住宅における高齢者対応技術の実施状況
総務省が、平成 15 年 10 月1日現在で実施した住宅・土地統計調査について、平成 16 年 8 月 30
日付けで速報調査結果が公開された。概要は以下の通りである。
1)
総住宅数は5387万戸、空き家は 12.2%
2)
共同住宅が大幅に増加,高層化が進む
3)
持ち家住宅率は 61.2%に上昇
4)
専用住宅の1住宅当たり延べ面積は 93.85m²に増加
5)
高齢者等に配慮した設備がある住宅割合は最近の住宅で高い
6)
共同住宅で高い自動火災感知設備設置率
7)
誘導居住水準以上の世帯は5割を超える
8)
高齢者のいる主世帯が持ち家,一戸建に居住する割合はそれぞれ8割以上
9)
現住居以外の住宅を所有している世帯は 7.7%、現住居の敷地以外の土地を所有している世帯
は 18.3%
高齢者等に配慮した設備がある住宅についてみてみると、高齢者等に配慮した住宅設備の有無に
ついては、
・住宅内に手すりがある住宅
30.4%
(手すりの設置場所は、階段 19.7%、浴室 15.1%、トイレ 13.3%)
・またぎやすい高さの浴槽がある住宅
・廊下などの幅が車椅子で通行可能な住宅
17.5%
12.7%
・段差のない屋内となっている住宅が
13.1%
・道路から玄関まで車椅子で通行可能な住宅が
9.4%
となっている。平成 13 年以降建築された住宅に限った場合、
・手すりがある
55.8%
・またぎやすい高さの浴槽
42.1%
・廊下などの幅が車椅子で通行可能
32.9%,
・段差のない屋内
53.8%,
・道路から玄関まで車椅子で通行可能
19.5%
となり、最近建築された住宅で高齢者等に配慮した設備のある割合が高い傾向が伺える。また、
共同住宅居住する高齢者のいる主世帯の 19.9%が高齢者対応共同住宅に居住している。
詳細は、統計局のホームページ http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/に譲る。
91
5.4 ハウスメーカー、材料・部品等の対応技術情報収集
既に実用化されている技術の概略を把握する目的で、ハウスメーカー等の高齢者対応技術関係の
パンフレット収集、材料・部品等要素技術の調査、ならびに先端研究機関訪問を行った。
5.4.1 ハウスメーカー等の高齢者対応技術
少子高齢化に対応した実際の商業ベースに乗っている技術情報を『少子高齢化に対応した住宅カ
タログの収集への協力のお願い』を関連会員 11 社に送付して、収集した。
3社より回答が寄せられた。これに、後述する見学会で入手したものを加え、計 23 冊の資料を収
集した。一覧を表に示す。
収集したカタログ
収集したパンフレット類は、その記載内容から、以下の 5 系統に分類できる。
① 休閑地等を活用した高齢者関連養護・介護施設事業支援に係わるもの
−パナホーム等2社
② 高齢者対応住宅を強調したもの
−へーベルハウス、住友林業等3社
③ 高齢者対応住宅への改修・改善を強調するもの
−TOTO[住宅に限らずオフィスビルや公共建築物の改修・改善事業を支援を目標にしたカタ
ログ]
④ 高齢化対応関連部品を強調したもの
−TOTO、積水化学2社
⑤その他
−UD 関連研究所、研修所、高齢者対応住宅への改築、高耐久性を強調したもの
92
表 収集カタログ一覧
企業名
住友林業
積水化学
旭化成ホームズ
カタログ表題
My Forest
販売している様々な住宅タイプ
Harvestment
高齢者暮らしやすい住宅の計画
積水化学の介護・自立支援設備
積水化学が高齢者の介護、自立型支援を目指し
て開発したリフト、シャワーバス、手摺等
AICS
高齢者対応住宅
Remove
資産活用した高齢者対策支援
ロングライフ住宅でいい人生を
耐用性の高い住宅の資産価値強調
シニア向け安心賃貸住宅
へーベル Village
パナホーム
内容の概要
シニア向け賃貸住宅事業支援
旭化成設計㈱
医療福祉施設事業経営
Aging Life
高齢化対応事業の支援
Pana
高齢者グループホームの建設運営支援
Home Grandma
Care Village
介護サービス複合化事業支援
Nursing Village
小規模有料老人ホーム建設運営支援
Sunresta
高齢者共生住宅の建設支援
Care Village
Care Village の事例集
DOCTOR
治療・介護型医療施設の建設運用支援
CURE CARE
Restpal DX
住宅の高齢者対応の改修支援パンフレット
Remadel Life
リモデルリポート:オフィス、商業施
設、交通施設
TOTO
TOTO
事例集
KITCHEN
TOTO
PUBLIC REST SPACE
積水ハウス
高齢化対応厨房設備の紹介
高齢者対応型の公衆便所への改修
TOTO ウォシュレット
独自の高齢者対応ウォシュレットの解説
TOTO トイレ
高齢者対応型トイレ改修の解説
UD 研究所
TOTO 茅ヶ崎 UD 研究所紹介
納得工房
積水ハウス総合住宅研究所の高齢者的実体験
できる研修・研究施設紹介
5.4.2 材料・部品等要素技術の現状
本節では、少子高齢化対策に関する「材料・部品等要素技術」の現状を、個別住居内の以下のゾー
ンごとに整理した。ここで、少子化及び高齢化の両者の対策技術に関しての調査をスタートしたが、
少子化対策に関しては、防犯ベル、GPS による位置確認、インターネットによる状況確認といった
セキュリティー(安全・防犯)に関する技術が主であり、建築との関連性を有しているものがほとん
ど無かったため、本節が高齢化対策になってしまっていることをお許し頂きたい。すなわち、バリア
93
フリーに関するゾーンごとの整理となっている。
(1)浴室廻り
(2)トイレ廻り
(3)ベッド廻り
(4)キッチン廻り
(5)玄関・階段廻り
(6)その他移動関係
(1)浴室廻り
高齢者も、清潔感は絶えず求めており、入浴は日本の文化として欠かせないリラクゼーションのひ
とつである。そこで、表 5.4.2-1 に示すように、行動パターンの分類を縦軸に、自分で自立して移動
できるものから完全介護が必要なものまでを横軸にし、入浴行為・動作別に機器・器具を分かりやす
く整理した。表 5.4.2-1 に具体的な製品を落とし込んだものを表 5.4.2-2 に示す。
表 5.4.2-1 動作と介護レベルによる機器・器具(浴室廻り)*1
動
作
自立
介護
自立歩行で移動
浴室に入る
建具
車椅子移動
すのこ
段差を解消
手摺
滑り止めマット
身体を支える
転倒防止
洗面器置き台
手摺
多少の介護が必要
シャワーチェア
立ち座りを楽に
浴槽への
出入り
水栓器具
身体を支える
自分でまたいで出入り
手摺
浴槽手摺
多機能シャワー
簡単操作
踏み台
浴槽
高齢者配慮浴槽
介護浴槽
リフトで出入り
バスボート
移動台
腰掛ける
機器を使う
身体を支える
介護必要
浴室以外で入浴
腰掛けて出入り
自分でつかる
浴槽中
固定式リフト
器具を使って移動
自分で洗う
身体を洗う
リフト移動
シャワー用車椅子
固定式リフト
多少の介護が必要
手摺
手摺
浴槽台
滑り止め
身体を支える
立ち座り楽・姿勢安定
*1:バリアフリーデザインガイドブック(三和書籍)
94
滑り止めマット
滑りを防ぐ
表 5.4.2-2 動作と介護レベルによる機器・器具(浴室廻り)*1
動
作
自
立
介
段差を解消
身体を支える
転倒防止
器具を使って移動
浴室に入る
立ち座りを楽に
姿勢を楽に
身体を支える
簡単操作
浴室以外で入浴
身体を洗う
身体を支える
腰掛ける
機器を使う
浴槽への
出入り
高齢者配慮浴槽
滑り止め
浴槽中
*1:バリアフリーデザインガイドブック(三和書籍)
95
身体を支える
立ち座り楽・姿勢安定
滑りを防ぐ
護
(2)トイレ廻り
高齢者も、入浴同様に身体の清潔感は絶えず求めており、排泄時はできる限り単独(介
護なし)で処理したいと言う願望は非常に強い。そこで、表 5.4.2-3 に示すように、行動パ
ターンの分類を縦軸に、自分で自立して移動できるものから完全介護が必要なものまでを
横軸にし、排泄行為・動作別に機器・器具を分かりやすく整理した。
表 5.4.2-3 に具体的な製品を落とし込んだものを表 5.4.2-4 に示す。
表 5.4.2-3
動
作
動作と介護レベルによる機器・器具(トイレ廻り) *1
自立
介護
自立歩行で移動
車椅子移動
トイレに入る
手摺
扉を開ける
リフト
身体を支える
機器で移動する
自分で座る・立つ
便座へ座る立つ
手摺
車椅子移動
便器
身体を支える
立ち上がり補助便座
動作を補助する
自分で拭く
排泄後
片手で切れる紙巻器
洗面する
車椅子から移乗
温水洗浄便座
便器洗浄遠隔操作装置
お尻を洗う
センサー・リモコン洗浄
自分で洗う
洗面器
車椅子対応便器
自分で洗う(ボタンを押す)
お尻を拭く
手洗い
リフト移動
多少の介護が必要
手摺
シングルレバー混合水栓
身体を支える
簡単操作
*1:バリアフリーデザインガイドブック(三和書籍)
96
自動水栓
動作と介護レベルによる機器・器具(トイレ廻り) *1
表 5.4.2-4
動
作
自
護
立
扉を開ける
介
身体を支える
機器で移動する
トイレに入る
身体を支える
動作を補助する
車椅子から移乗
便座へ座る立つ
お尻を拭く
お尻を洗う
センサー・リモコ
ン洗浄
排泄後
洗面する
身体を支える
手洗い
*1:バリアフリーデザインガイドブック(三和書籍)
97
簡単操作
(3)ベッド廻り
ベッド廻りに関しては、浴室、トイレ廻り同様の行動パターンの分類ができなかったた
め、以下の代表的な(目に付いた)材料、機器、器具の紹介にとどめる。
a)床材/天然木敷床材(㈱上田敷物向上)
b)建具/アールムーブドアシステム(㈱ベスト)
c)建具/自閉式引戸(㈱ノダ)
98
e) ベッド/バスベッド(㈱赤土製作所)
d)ベッド(パラマウントベッド㈱)
f)ベッド/床ずれ防止エアーマットレス
g)ボータブルトイレ(ウチエ㈱)
(フランスベッドメディカルサービス㈱)
h)家具/電動昇降座椅子(ウチエ㈱)
99
(4)キッチン廻り
キッチン廻りに関しても行動パターンの分類ができなかったため、以下の代表的な(目
に付いた)材料、機器、器具の紹介にとどめる。
a)システムキッチン(松下電工㈱)
b)水栓金具(㈱INAX)
c)水栓金具/フットスイッチ(㈱INAX)
100
d)調理用具/包丁(東穂工業㈱)
e)食事補助具(アビリティーズ・ケアネット㈱)
f)調理用具(相模ゴム工業㈱)
g)消火器(セコム㈱)
101
(5)玄関・階段廻り
玄関・階段廻り廻りに関しても行動パターンの分類ができなかったため、以下の代表的
な(目に付いた)材料、機器、器具の紹介にとどめる。
a)階段/システム階段(東洋プライウッド㈱)
b)階段/ノンスリップ(タキロンマテックス㈱)
c)スロープ(マツ六㈱)
d)踏み台/木製踏台(マツ六㈱)
e)手摺(積水化学工業㈱)
102
f)手摺/手摺ブラケット(マツ六㈱)
(6)その他移動関係
以下の代表的な(目に付いた)材料、機器、器具の紹介にとどめる。
a)セキュリティ(セコム㈱)
b)スロープ(㈱イーストアイ)
103
c)トレーニング機器(コンビウェルネス㈱)
d)据置型・天井壮行式リフト(竹虎ヒューマンケア㈱)
e)段差解消機(㈱マイクロエレベータ製作所)
f)階段昇降機(㈱マイクロエレベータ製作所)
g)ホームエレベータ(クマリフト㈱)
h)ホームエレベータ(三菱日立ホームエレベータ㈱)
i)電動車椅子(アルケアコープレーション)
104
j)福祉自動車(スズキ㈱)
5.4.3 先端研究機関訪問
関係各位のご好意により、先端研究機関 2 機関を見学する機会を得た。見学内容の概略
を以下に示す。
(a) 東陶機器㈱:TOTO
UD 推進本部
UD 推進グループ
UD 研究所
1)
見学場所:神奈川県茅ヶ崎市本村2−8−1
2)
見学日時:平成 18 年3月 20 日(月)
3)
見学者
4)
見学目的:少子高齢化に対応したユニバーサルデザイン先端研究開発現場の視察
5)
見学先概要:http://www.toto.co.jp/company/press/2006/02/01_1.1.htm
15:30∼17:00
:3 名(委員ならびに事務局)
①設置目的
・少子高齢化に対応したユニバーサルデザインの研究・検証・研修。
・
「全てのライフステージにおいて、安全で快適で誰もが使いやすいと感じる商品・空
間を提供する。」
②開設と沿革
・平成 18 年2月1日
・沿革
1)1970 年代障害者用の器具を「バリアフリーブック」に収録、発刊、’74 年「身体
障害者のための設備・器具についての」カタログ発刊
2)1991 年シルバー研究所設立、’96 年レブリス推進部設立
3)2002 年 UD 研究所(北九州)設立、’04 年 UD 推進本部設立
③主な施設
*建屋:建坪 2,670 ㎡、延床面積 9,666 ㎡
a.生活シーン検証スタジオ:モニター(高齢な主婦、身障者等)の実際の生活挙動
を観察、ビデオ収録する施設
b.世代別リビングの比較(リビングラボ):昭和 40 年代のモデル住宅と先端的モデ
ル住宅とを併設し、生活挙動における作業負荷の差異を実体験できる施設
c シミュレーションルーム:高齢者、身障者の体力、感性を前提に様々な日常生活
動作を疑似体験し設備機器や生活空間の使いやすさや快適性を検証する。
1)ライティングルーム:様々な採光条件の下で商品の色感がどのように感じられ
るかを検証する施設。
2).老化シュミレーター:TOTO 独自に開発した老化による体力低下を実感しなが
ら日常生活挙動をシュミレートできる装置
3)ぼやけシュミレーター:東京大学と共同開発したもので、老化による視力の低
下を健常者も同時に体験できる装置
d.詳細な体力測定装置一式:被体験者の体力、心身能力を客観的にかつ詳細に計測
する装置一式。
6)
TOTO
UD 研究所茅ヶ崎の説明(UD 企画部
山根氏)
①東陶機器㈱の企業理念:豊かで、快適で、安心できる日常を実現することに貢献する。
105
②企業憲章:消費者に満足してもらえる使いやすく、長持ちする商品の供給
③事業への展開:消費者満足の実現←→ユニバーサルデザイン
④東陶の製品:毎日、日常的に皆が必ず使う商品であることの深い認識
⑤TOTO
UD 研究所の沿革:前述
⑥UD 関連商品開発のステップ:ニーズの発掘→問題点の検討→試作品テスト→結果を
製品に創りこみ販売→ユーザーの意見徴収→商品の再検討
⑦UD 製品開発サークル:つくる<−>育てる<−>考える[消費者と一体になり、商
品を開発し、育成する。]
⑧UD 研究所のスピリット:人間工学アプローチとモニターの疑似体験データーの蓄積
から科学的で、人間的な便利さ、豊かさ、快適さを具備した商品を開発し検証する。
7)
実プロジェクトへの反映
①身体障害者用便所の設備機器配置の標準化:東洋大学建築学科高橋研究室との共同研
究。身障者用トイレの設備機器を使いやすい標準配置の設定。
②空港身障者用トイレの設計:空港の身障者用トイレの配置や寸法設定について疑似体
験を重ね 100mm 巾拡張の科学的根拠を整え、提案した。
8)
収集資料=見学に際して収集したカタログ等
①TOTO
UD 研究所:見学先概要説明パンフレット。19 ページ
②TOTO
パブリックトイレにおける大便器まわり操作系設備(紙巻器・便所洗浄ボタ
ン・呼出ボタン)壁面配置共通ルールのご提案:東洋大学建築学科高橋研究室との共
同研究成果パンフレット。4ページ
③TOTO
リモデルレポート特別号−オフィス・商業施設・交通施設
事例集:表題の
事例をオフィストイレのリモデル事例、商業施設トイレのリモデル事例、交通施設ト
イレのリモデル事例及び多目的トイレの配置のポイントにつて 24 事例を紹介してい
る。また、巻頭に「リフォーム・リニューアル市場の将来予測」[㈱三菱総研
鈴木
達也著]が掲載されている。67 ページ
④TOTO
パブリックトイレ向けおすすめ商品:巻頭に「エコ&メンテ、ユニバーサル
デザイン、アメニティー、タフネス、施設に合ったレストスペースづくり」が掲載さ
れ、商品開発目標を簡潔にまとめている。85 ページ
⑤TOTO
KITCHEN:巻頭に商品コンセプトを提示。いわく「美しいひと。美しいキ
ッチン」、「こだわりを創る」、「ゆとりを創る」、「つながりを創る」。「セットプラン:
お勧め機器コーディネート、特長紹介:各種機器の機能、おすすめプラン参考価格表、
TOTO の取り組み:信頼性確保のための努力、施策を提示」する。65 ページ
⑥TOTO
トイレカタログ:「おすすめトイレプラン、おすすめ便器、ウォシュレット、
おすすめ手洗器・その他」の順に紹介。101 ページ
⑦TOTO
ウォシュレット:ウォシュレットの製品開発・改良の小史、オート洗浄、オ
ート開閉クリーン便座、オート脱臭、サウンドリモコン、洗浄ノズルセルフクリーニ
ング等々の新しい機能の解説。27 ページ
106
(b) 積水ハウス(株)
総合住宅研究所
納得工房
1)
見学場所: 京都府相良郡木津町兜台 6−6−4
2)
見学日時: 平成 18 年3月 30 日(木)
3)
見学者
4)
見学目的: 少子高齢化に対応したユニバーサルデザイン先端研究開発現場の視察
5)
見学先概要: http://www.sekisuihouse.com/nattoku/koubou/
6)
積水ハウス
13:30∼16:00
: 4 名(委員ならびに事務局)
総合住宅研究所の説明(納得工房
(web 版)
情報企画グループ
部長
林部氏)
①構成:三つの研究所
・ 技術研究所:主にハード面
・ ハートフル研究所:主にソフト面
・ 納得工房:もともとは社員の教育用に作り、現在は一般に公開(要予約)している。
2 泊 3 日を基本とする。車椅子や臨月の妊婦など装具を着けて体験可能。
②少子高齢化に関する意見交換
・ 少子高齢化はこれから。1.5 人世帯やオンリーワン世帯が増えると予想。プラン等
は研究中。
・ 家族みんなが楽しいサザエさん一家は 10 年後には 10%程度、残りは 2 人か 1 人
住まい。片親と生涯独身の世帯(母と娘など)が増えるのではないか。
・ 対面キッチンではなくホテル型が求められ、ホテル並みの設備が必要になる。
・ カプセルホテルのカプセル(ベッド)を並べて 4 畳半などに設置する。残りは広大
な LD として活用。カプセルの中では隣の邪魔をせずにテレビも見られる。
・ 10 年、20 年後の台所は電子レンジ 1 台あればことが足り、システムキッチンが不
要になるのではないか。
・ 高齢者 3000 万人、10%程度が要介護。90%の健常者対応を考えるべき、が安藤忠
雄氏の意見。
・ 意識はしっかりしているが、手足がうまく動かなくなることは想定される。見た目
は健常でも身体はぼろぼろ、20 年後は、戦中の人と異なり、本当に弱い高齢者に
なる可能性がある。
・ モビルスーツ的な車椅子が必要になる。歩いて躓き、骨折すると元に戻らない。足
が弱いから使うから、弱くなる前に使うに変化する。
・ 段差が問題ではなくなり、欧米的に靴を履いたままの室内になる。臭いが問題に。
・ デンマークやスウェーデンでは、雪で汚れるため、外履きと上履きを履きかえる。
素足やスリッパ履きの方が良いように思うが、靴を履いていないと不安とのこと。
7)
施設見学(ガロ体験含む)
①視覚:白内障を擬似化
・ 幕がかかったようになる。同系色を区別し難くなる。段差や蹴込みの下などにも蛍
光灯があると良い。タイルや框は色テープを貼るなどして識別しやすくする。
・ 進行すると同系色はほとんど区別できない。明度差の識別は高齢者には困難。
②聴覚:老人性難聴を擬似化
・ 高音側の低下がより大きく、こもった音に聞こえる。水が出ている音や携帯の呼び
107
出し音(ベル)は分かり難い。
・ 低い音や振動を加えるなどの工夫が必要。踏み切りの警報音は低い音の成分を含ん
でいるため、比較的認識しやすい。
③関節自由度:加齢による自由度低下を擬似化
・ 踵と膝の自由度を抑制する装具を着ける。スキーブーツを履いて、ひざを軽く曲げ
た感じに似ている。
・ 段差 30cm の玄関上がり框を正面から一足で下りることは出来ない。横向きに降り
ようとするが、手摺等につかまらないと安定した動作は困難。10cm 程度の段差に
分ければ手摺がなくても昇降可能。
・ 実際には靴の脱ぎ履きが必要。片足立ちでの動作は不可能で、一旦座ることになる。
・ 座った状態から立ち上がることに非常なエネルギーが必要。段差が低いほど、昇降
はしやすいが、反面立ち上がり動作は厳しくなる。40∼45cm 程度の腰掛があると
良い。腰を下ろした場合に手を掛けるにも適当な高さである。
・ 上半身は全く抑制しない状態で体験した。肘や手首の関節も同様に制限された場合、
より困難になり、自立には相当の努力を要すると推定される。
・ 入浴:立ち上がりが小さいほどまたぎやすい。反面、浴槽の深さを同じにした場合、
FL よりもかなり低い位置で跨いだ足が浴槽の底に着くことになるため、安定性が
保持できない。40cm 程度とし、一旦浴槽の淵に腰を掛けられる計画とするのが好
ましい。バスボード等の利用も有効と考えられる。
④指先:発泡性材料にあけられた 5 箇所の穴に指を通して指先の細かい動きを抑制
・ ドア:握り玉は握って回せないため、ドアを開けることが出来ない。ハンドル式で
あれば、手(掌)全体で押せる。プッシュプルハンドルが最も操作しやすいと思わ
れるが、室内の出っ張りが大きくなるため、利用できる場所が限定される。
・ 取っ手:掘り込みの取っ手は操作困難。掘り込みが薄く、小さい程難しい。ある程
度の、大きさ、深さが要求される。部位によっては実現不可能となるため、他の形
状を検討する必要がある。プレート状の取っ手は、指先ではさめないと操作が困難。
下側にかるく折るなどして、引っかかりができるとよい。棒材をリング状やカギ状
に加工した取っ手はどこからでも手(指)を掛けられるので操作しやすい。反面、
出が大きくなるので、ぶつかり防止などの配慮が必要になる。
⑤車椅子:通常型の車椅子に試乗
・ 扉:開き戸はあけた後に一旦扉をあおる方向に退避する必要がある。空間が広けれ
ば支障ないが、通常の室内寸法では相当の困難を伴う。引き戸が断然操作しやすい。
引き残し、ハンドルの出寸法などに注意が必要。
・ ドア寸法:廊下幅員との関係にもよるが、有効で 800 ㎜確保されると大分楽に通
行できる。
・ 1/12 スロープ:下りる場合は想像以上の加速度が生じる。スピードコントロール
にも、それなりの腕力が要求される。のぼりは、6m 相当(50cm の高低差)を上
るのに汗をかくほどであった。
・ 段差:一般に 2cm 以下が推奨されているが、2cm の段差を乗り越えるのは楽では
ない。
108
・ フットレスト:足元に出が生じる。壁面等を保護するため、床面から 400 ㎜程度
まで、幅木を設けると良い。特注品とする必要はなく、従来品を積み上げるように
貼っても良い。カウンターなどは、床から 300 ㎜程度抜いた計画とすると良い。
・ カーテン:窓の幅が広い場合、一回でカーテンを引くことは困難である。ブライン
ドやロールタイプとすると、車椅子を移動することなく操作が行える。
・ コンセント:入り隅や通常の高さ(壁の低い位置)での操作は難しい。
・ 玄関チャイムの受話装置:通常の位置は健常者の立位を想定している。床上 1000
㎜程度など、車椅子利用者の目線高さを意識して計画すると良い。
・ 引き出し:高い場所は中が確認できない。網状や横面を切り欠くなどの工夫が必要。
・ 洗濯機:洗い上がって濡れたものを片手でもったまま扉の開閉は困難。車椅子を逃
がさなくてはならない。濡れた洗濯物を一旦置ける場所を計画すると良い。
・ キッチン:直線(I 型)配置は移動が困難。コの字型であれば回転操作のみになり
使いやすい。L 字型でもメリットが得られる。
・ シンク:浅くし、膝が入る形状とする。吐水操作を手前でできると良い。全体の高
さも、健常者用よりも低い方が使いやすい。制振部材(ゴムコーティングなど)を
採用すると、水はね防止と騒音低減に効果がある。
⑥子供部屋
・ 幼児の頃は一室で広い空間を確保し、成長後に分割する工夫を計画しておく。
⑦寝室
・ 収納からの寸法により、扉を使い分ける。折れ戸は開くとすべて見渡せる。半面折
れ戸の出が生じて移動の障害になる。他の家具までの寸法が確保できるのであれば
折れ戸、厳しければ引き戸が使いやすい。
⑧浴室
・ カウンター:深く前屈しなくても使える。
・ シャワー配管:カランではなく壁面から取り出せるとホースの取り回しが邪魔にな
らない。
・ 入口:折れ戸は開口寸法が確保しやすい。浴室側に折ると水滴が外にこぼれない。
取っ手を工夫すると使いやすい。
⑨浄水器
・ 軟水、アルカリ電解水、浄水の 3 つが主流。
⑩防犯
・ 見える:狙われ難い。家族の情報は仇となる。ポストも中身を抜かれ難いものが良
い。高い壁は侵入し難いが、一旦入ると外から見えない。北側のたたきなどに砂利
を引くと足音が消せない。
・ 守る:侵入し難い
・ 知らせる:被害を抑える
・ インターホン:正面に立って操作しないとやり直しとなる製品が出ている。
・ ドア:1 ドア 2 ロックが基本。
・ シリンダー:通常の縦型は 20 余万通り。横型では両サイドに加工できるため二乗
になる。
109
・ サムターン回しの対策:ロックするとサムターンが空回りする製品がある。
・ 金庫:底面に鉄板を付けて、見つけ寸法よりもフチをはみ出させた製品がある。移
動しようとすると自分で鉄板を踏むことになり、動かせない。
・ ガラス:網入りガラスは簡単に割れる。こもった音になるため狙われる可能性があ
る。強化ガラスも割れる。コバが弱い。フィルム入りは割れるが突き抜けない。フ
ィルムを貼ることも有効。ただし全面に空気やごみを巻き込まずに貼ることが重要。
⑪防災
・ 生活空間、水、食料、エネルギーの確保が必要。
・ 家具の転倒の防止:4 点留めが有効。
・ エネルギー:電気のほうがガスより復旧が早い。
・ 太陽光:消防法の関係でバッテリーの容量が規制され、数が必要。嵩も大きく重量
が重いことが現在の課題。
・ 水:雨水を溜める。深夜電力を利用した電気温水器の貯湯タンクを転用する。
・ 食料:ストックシェルター、通常使うものを転用できる計画も有効。
⑫その他
・ 茶の間‐キッチンモデル:畳を敷き、床を上げる。400 ㎜の縁。座るとキッチンの
立位者と同じ目線になる。
・ 隠し壁:キッチンを一時的に LD から切り離す工夫。
・ 土間イメージの住宅:ガラスのサンルームを併設。どんな生活がしたいのか、生活
のイメージを考える。
8)
収集資料=見学に際して収集したカタログ等
①積水ハウス総合住宅研究所
納得工房
ガイドブック:見学先概要説明パンフレット。
30 ページ
110
5.5 実施事例
5.5.1 ハートビル法認定建築物
(a) 国土交通省
国土交通省が公開している平成 15 年度末までのハートビル法認定件数の推移を示す。
( http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/kensetu.files/hbl/18sannkou.htm 参 照 、
図表は当該ホームページより引用)
111
平成 15 年度末までの用途別の認定件数の内訳を示す。
( 表は当該ホームページより引用)
112
(b) 東京都
東京都では、基準適合状況を容易にチェックできる「ハートビル法認定チェックシート」
を作成し、ハートビル法認定建築物設計時の活用を呼びかけている。
平成 17 年 3 月 31 日現在の東京都におけるハートビル法の認定建築物は 192 件である。
(東京都のホームページ参照 http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kenchiku/bfree/)
(c) 神奈川県
平成 17 年 3 月 31 日現在の神奈川県におけるハートビル法の認定建築物は 107 件(計画
中止 1 件を含む)である。
(http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kentikusido/bousai/heart.htm 参照)
(d) ショッピングセンターにおける事例
ハートビル法の認定を取得したショッピングセンターも身近になりつつある。以下のよ
うな対策を実施した施設を実際に使われた方も多いことと思う。
・ 車椅子利用者の専用駐車場(駐車場の入口隣接位置、例えば 1 階と地下 1 階など)
・ 車椅子で利用可能な多目的トイレ(手摺付き)を各階に設置
・ 屋内外の段差をなくし、敷地外公道際の入口から正面玄関まで平滑化
・ 音声案内、点字表示、誘導ブロック敷設
・ 通常位置と車椅子利用者等が操作可能な高さに操作盤を設けたエレベータ設置
・ 入口(上記車椅子利用者専用駐車場を設けた階など)にインターホンを設置
・ 呼び出しにより介添えサービスの実施
・ サービスカウンター等に車椅子を用意し、無料で貸出し
一例として、ユニーのホームページ(http://www.uny.co.jp/tenpo/heart_b_shosai.html
参照)に紹介されている事例を引用する。
車椅子ご利用の方の専用駐車
音声案内、点字表示、通常の
出入口にインターホンを設置
場をショッピングセンター駐車場 高さと低い位置の両方に操作
し、お呼び出しによって、介添え
に設けています。地下・立体駐
盤をつけたエレベーターを設置
サービスの要望にお応えいたし
車場は雨の日でも濡れずにご
しています。
ます。
利用いただけます。
113
屋内外の段差をなくし、公道入
サービスカウンターでは車椅子
車椅子でご利用いただけるお
口から各出入口まで誘導ブロッ
を用意しています。無料で貸し
手洗い(手すりつき)を設けてい
クを埋め込みました。
出しいたします。
ます。
■ベビー休憩室
■子供の遊び場
■危険防止
お子様の授乳やおしめ替えに
小さなお子様のための広場が
手すりを設置し、角を丸くするな
ご利用いただけるベビー休憩室 あります。
ど危険防止に努めています。
を設けています。
またイトーヨーカ堂によると、安全で快適な店舗づくりの一環として、1994 年から店舗
設備の「バリアフリー」化を、2000 年 11 月からは、施設、設備から什器に至るまで、従
来のバリアフリーを一歩進めた「ユニバーサルデザイン」の視点を取り入れているとのこ
とである。2005 年 2 月現在のバリアフリー化等を行っている店舗数が紹介されている。
(http://www.itoyokado.co.jp/company/profile/csr/user/usr35.html 参照)
バリアフリー対応店舗
64 店舗
うちハートビル法認定店舗
44 店舗
うちユニバーサルデザイン対応店舗
14 店舗
着手時期の関係もあり、バリアフリー化の店舗数に比較すると、ユニバーサルデザイン
対応の店舗数はまだまだ少ないのが実状のようである。
同業他社においても同様の傾向があると考えられる。
114
5.5.2 高齢者対応住宅
建築物の建築主は、建築物の施設・運営などを計画、基準に適合させることにより、所
管行政庁等の認定を取得することができる。認定を取得することにより、行政からの補助
や高齢者の安心居住を支援する制度認定建物としての紹介が受けられる。
以下に高齢者対応住戸として認定された事例を示す。
(a) 高齢者向け優良賃貸住宅
財団法人高齢者住宅財団調査による認定物件の都道府県別内訳を以下に示す。
(http://www.koujuuzai.or.jp/excel/page07_02_02_01.xls
参照)
平成17年3月末現在。376件、9,436戸。
事業主体は、各地の住宅供給公社、個人、企業と様々。1 住宅での戸数も 10 戸程度
から 100 戸超まで様々である。
都道府
県等名
建物数
戸数
(抜粋)
北海道
青森
東京
福井
愛知
大阪
鳥取
香川
福岡
沖縄
浜松
北九州
8
2
25
4
7
33
7
2
19
9
8
26
256
46
610
102
169
1073
286
50
480
243
123
552
(b) シルバーハウジング・プロジェクト
シルバーハウジング・プロジェクトとは、住宅施策と福祉施策の連携により、高齢者等
の生活特性に配慮したバリアフリー化された公営住宅等と生活援助員(ライフサポートア
ドバイザー)による日常生活支援サービスの提供を併せて行う、高齢者世帯向けの公的賃
貸住宅の供給事業である。
詳細については、「高齢者居住支援センター」のひとつ高齢者住宅財団のホームページ
(http://www.koujuuzai.or.jp/html/page07_02_05.htmll)を参照頂きたい。
認定物件の都道府県別内訳を以下に示す。
(http://www.koujuuzai.or.jp/excel/page07_02_05.xls
より抜粋して作表)
シルバーハウジング・プロジェクト管理団地等一覧(平成 17 年 3 月末現在)
都道府県名
団地数
管理戸数
都道府県名
団地数
管理戸数
北海道
1
760
宮城県
1
167
青森県
1
152
山形県
4
74
岩手県
2
26
福島県
1
136
埼玉県
5
124
茨城県
2
41
千葉県
4
100
栃木県
1
182
神奈川県
131
4350
群馬県
1
101
新潟県
8
129
東京都
205
5253
富山県
6
130
山梨県
2
40
石川県
6
106
長野県
6
101
福井県
1
26
岐阜県
1
19
115
愛知県
45
901
静岡県
5
127
三重県
1
41
大阪府
40
1045
滋賀県
4
59
兵庫県
97
4379
京都府
1
30
和歌山県
5
100
山口県
8
187
奈良県
2
55
徳島県
5
111
鳥取県
8
92
香川県
4
89
島根県
3
96
愛媛県
2
47
岡山県
5
116
高知県
2
50
広島県
4
133
福岡県
6
149
大分県
6
83
佐賀県
3
54
宮崎県
4
104
長崎県
3
74
鹿児島県
24
256
熊本県
6
307
沖縄県
3
59
実施団地数
実施戸数
749 団地
20,155 戸
(c) シニア住宅
シニア住宅とは、高齢者(高齢者単身、夫婦世帯等)が安心して住み続けられるように、
事故防止・生活不安解消・家賃負担軽減の配慮が施された賃貸住宅ある。
詳細について
は、財団法人高齢者住宅財団(http://www.koujuuzai.or.jp/html/page07_02_04.html 参照)
のホームページを参照頂きたい。
一例として、都市再生機構での建設例
ボナージュ横浜 を示す。
〈概要〉
●所在地/神奈川県横浜市都筑区仲町台
●交通/市営地下鉄「仲町台」駅下車徒歩 5 分
●住宅戸数/シニア住宅 170 戸〔1DK:24 戸、1LDK:19 戸、2DK:115 戸、2LDK+S:12 戸〕
●構造・規模/鉄筋コンクリート造 13 階建、14 階建
●住宅専用部分面積/37.26 ㎡∼74.52 ㎡
●バルコニー面積/6.75 ㎡∼14.40 ㎡
●入居開始/平成 7 年 8 月(第 1 次)、平成 8 年 3 月(第 2 次)
●シニア関連施設/延床面積約 8,830 ㎡
提携介護施設:ゆうらいふ横浜
生活関連施設:診療所・美容室・薬局
●管理運営団体/財団法人 高齢者住宅財団
シニアライフを支える施設・サービス
〈施設〉
●診療所:「ボナージュ横浜」のホームドクターとして、診療にあたっている。
116
●美容室:入居者には割引のサービスもある。
その他:・ATM〈現金自動預金払出機〉
・展示コーナー
・アクティビティルーム
・図書コーナー・ラウンジ・テラス
・会議室
・和室集会室
・プレイルーム
・多目的ホール、工芸室
〈基礎サービス〉
運営基本契約に基づき提供される入居者共通のサービス。(財)高齢者住宅財団が実施。
●フロントサービス:生活サービスセンターにてさまざまなバックアップを行う。
●緊急時の対応:生活サービスセンターに常駐するスタッフが 24 時間体制で対応。
専用住戸内に、緊急通報装置(コールボタン)・トイレ内に生活リズムセンサーを設置。
●健康管理サービス:定期健康診断、健康医療相談。
●生活支援サービス:・生活相談
・生きがいづくり・交流支援
・専門相談会(法律、税務、資産運用その他)
〈選択サービス〉
●在宅介護:訪問介護、訪問入浴介護、福祉用具貸与
●移送サービス
●ショートステイ
●介護研修
●機能訓練
●アクティビティ
〈住戸専用部分〉
●流し台:いすに腰掛けても使える流し台で、ワゴン付。ガスコンロは、立ち消え・空炊
き防止機能などの安全装置付。
●浴室:手すりや緊急通報ボタンを設置。また、暖房機能付の浴室乾燥機を設置
●トイレ:緊急通報ボタンと生活リズムセンサーを設置。照明は人感センサー付自動スイ
ッチで作動、人の出入りに反応して点灯・消灯
●温水式床暖房
●生活リズムセンサー
●緊急通報ボタン(トイレコール、バスコール)
●住宅用簡易スプリンクラー
●住宅情報盤
●移動型電話子機 (緊急通報用インターホン)
117
5.5.3 交通機関における事例
ハートビル法や交通バリアフリー法の制定以降、様々な公共施設において、ユニバーサ
ルデザイン(以下 UD)適用の取り組みが行われている。最新事例の一つとして、
「つくば
エクスプレス(TX)」を取り上げた研究会が開催され、参加する機会を得た。
開催概要は次の通りである。
1)
日時:
平成 18 年4月 21 日(金)
13:00∼17:00
2)
会場:
TX 秋葉原駅,建築会館会議室(東京都港区芝 5-26-20)
3)
主催:
日本建築学会
建築計画委員会
建築人間工学小委員会
列車開発や駅舎における事例を紹介する。
①案内板:
・ 人感センサとインターバルタイマーで音声
案内を実施
・ 触知図と音声でガイド
②券売機:
・ フィンガーナビゲーション(券売機の縁取
り)にそって指を移動すると視覚障害者用の
ボタンに至る。
・ 車椅子が近づきやすいように、カウンター下
をえぐったデザイン。
・ 上部の案内板に角度を持たせて、下にあおり、
視認性を向上。
③改札口:
・ 通常幅、間口が広い改札(車いす、大型荷物
携行者)、有人改札の3種類を併設。
・ 誘導ブロックの誘導する改札と間口が広い
改札をずらして設置。
・ 浅草駅にはイベント対応の改札有り。
④ベンチ:2種類設置
・ 通常のベンチ:少し広めに設定し、荷物も一
緒における構造。
・ 高めのベンチ:ひざが悪い方などの立ち上が
りやすい構造。
⑤サイン計画
・ 色分けによる誘導:ブルーは乗り場へ、イエ
ローは出口に誘導。
・ 四ヶ国語(日本語、英語、中国語、韓国語)表示。
・ 駅名に 1∼20 の番号を併記。
⑥エレベーター:
・ 15 人乗り大型エレベーターを設置
118
当日撮影した写真
・ 地下の深い駅には 18 人乗りを設置し、ストレッチャーに対応
⑦エスカレーター
・ 乗り場、降り場ではステップ3枚分が平らになり乗降容易に。
・ 高速型(45m/M)、通常型(30m/M)を設置。
⑧階段
・ 手摺は2段。
・ 段鼻:濃い色にして視認性を向上。
・ 鳥のさえずり音で案内(注意喚起)。
⑨トイレ
・ 入り口に触知図と音声案内を設置。
・ 多機能トイレ(車椅子対応、オストメイト、多目的シート等)を設置
・ 簡易多機能トイレを男女それぞれに設置。
・ ボタンのレイアウトが今後の課題
⑩ホーム
・ 手摺柵を設置。ホームに沿った危険防止のための誘導ブロックを省けるため、車イ
ス移動がしやすい。
・ 手摺柵には、各種サインと点字を表示。
・ ホーム側は車両の扉より 700 ㎜広く、±350 ㎜車両の停止位置がずれると扉が開か
ない。
・ 誘導明示物(蓄光型)を床に設置(5m間隔)。暗闇で 30 分以上光る。
⑪車両
・ 2号車、5号車に車椅子スペース。固定用ベルトあり。
・ 5‐6号車間に電動車椅子用の渡り板を収納。
・ 乗降位置確認用に車内に点字案内板を設置。
・ 乗降口とホーム段差は 40 ㎜。
・ 優先席をシートに明示。
⑫雑感
・ 音声明瞭度:駅構内は大空間のため、良いとは言えない。災害発生等の危急時には、
肉声による情報伝達が困難になる可能性がある。
・ 床の仕上げを変えると音が変わる。視覚障害者の注意喚起に有効。
119
5.5.4 材料・部品等要素技術における事例
本節では、高齢者対応に改修を行っても必ずしも成功事例ばかりではないことを具体的
な失敗例で紹介し、材料・部品自体の課題は、企画・製造メーカに任せることとした。
なお、本失敗事例は「財団法人住宅リフォーム紛争処理支援センター」ホームページ
( http://www2.refonet.jp/bfree/jirei/ )から参照、要約した。詳しくはこのホームページを参
照されたい。
(1)退院と同時に使えるように行う改修
a)「入院中に 300 万円かけてトイレ・浴室をバリアフリータイプにしたが」
b)「退院前に理学療法士の電話でのアドバイスでトイレにL字型手すりをつけたが」
c)「退院時に作業療法士が書いたメモを施工者に渡して手すりを設置したが」
=>「退院」という時間的制約のもとで、検討が不十分まま、急いで改修を進めた失敗
例である。
=>居住する高齢者と改修内容との対応がマッチしていない。「自宅療養するようにな
って2ケ月も入浴できない」、「L字型手摺を通常とギャクにとりつけ立ち上がるのに
体力を要する。」、「(既設の)便所に手摺を取り付けた。寸法が足りず負荷軽減に応え
られなかった。」等々である。
=>高齢者対応部品を有効に活用するには居住者の体力に合わせた十分な設計上の配
慮が必要であり、そうでない場合には、取り付けた部品が「不便」、「邪魔」、「不快」
にもなりかねないことを示している。
(2)バリアフリーの本などの例を鵜呑みして行う改修
a)「つまずき防止のために 10cm の段差にスロープを設置したが」
b)「伝い歩き用に、玄関にスロープを付けたが」
c)「車いす利用者用の浴室改修を本で知り、その例ならったが」
=>ここに示されている事例は部品のカタログやマニュアルの効果を信じて改修し、予
め示された効用が得られなかったばかりかギャクの結果を招いた失敗例である。
=>今後、通販などと同様に「高齢者対応技術」においても宣伝・普及のあり方につい
て一考する余地があることを示唆する。
(3)使い勝手を考えない改修
a)「車いすで外出するためのスロープをつくったが」
b)「図面上で検討して、階段昇降機を設置したが」
=>この二つの事例は比較的おおきな改修事例だがやはり改修効果はあまりなかった
とされている。
=>既存住宅の改修に際しては、居住者の人員構成や使用者の体力への配慮が大変重要
になる。
(4)工事のしやすさを優先する改修
a)「トイレの縦手すりは、間柱の位置に付けられることが多い」
=>便所の手摺設置失敗(?)事例である。手摺にかかる加重を配慮して間柱の位置に
手摺をとりつけることは少なくない。しかし、それによって、寸法不足・空きすぎ等
で使い勝手が悪くなることを指摘している。
120
(5)利用者の動機があいまいな改修
a)「施工者の勧めで手すりを付けたが」
=>設置してしまった手摺が不要になってしまう失敗事例として紹介している。特に、
高齢者対応技術を供与する場合には、家族、本人の希望を綿密に知り専門家としての
解決策を提示する必要がある。
121
5.6 まとめ(今後の課題)
ハートビル法をはじめとした法律の制定、各種指針の作成が進み、高齢者、障害者、乳
幼児、子育て世代等、健常成人に比べて配慮が求められる人々への方策の具体化が進みつ
つある。少子高齢化の本番はこれからであり、解決しなければならない問題も、少子高齢
化の進展とともに、顕在化してくると考えられる。
数の上で、高齢化を意識した方策が圧倒的に多いようである。まず高齢化対応に目が向
けられ、次にユニバーサルデザインに代表されるコンセプト、誰にでも優しいことの実現
が提唱されたためと考えられる。高齢化対応技術からの波及効果も期待できるが、少子化
を意識した視点が希薄であるのも事実であり、一層の取り組みを期待したい。
今後の研究を待ちたい課題を示し、まとめとする。
5.6.1 高齢化に伴いどんな建築プロジェクトが増加するのか
余剰になる建築物や施設の再構築が行われると想定される。特に住宅については、独居
の増加による需要増を見込んだとしても、総数では余剰が生じる可能性が高い。これに伴
い、余剰となる建物や施設に対する建築プロジェクトが発生する。昨今話題となっている
団地再生も、経年変化による老朽化に加え、この点を先取りしたものであると考えられる。
余剰部分の利用方法については不明な点が多く、周囲の環境条件等を含めた個別対応にな
る可能性が否定できない。①解体(跡地は公園等構造物以外に活用)、②解体して再構築(従
来のスクラップ&ビルドの考え方)、③部分的に再利用、④再利用(用途変更含む)、など
様々な形態が想定される。形態に応じた技術が求められると考えられるが、環境負荷や加
齢変化に対する配慮が、今後更に求められるようになることだけは間違いなさそうである。
5.6.2 既存建築物改善・改修時のユニバーサルデザイン適用
既存建築物においては、新規計画建物に比べ、物理的な制約が生じる可能性が高いと言
える。常に 100 点満点とはならずとも、アヴェレージを向上するための適用が進むことが
期待される。ユニバーサルデザインの原則の一つに価格妥当性があることからも、実状を
加味した適用が望まれる。同時に、既存建築物に生じがちな制約事項に影響を受け難い適
用技術の開発を平行して行う必要がある。
5.6.3 ユニバーサルデザインに関する技術基準の改訂等
ユニバーサルデザインのコンセプトは、車などの身近な工業製品に導入されたことによ
り、市場において一様の認知を得たように思える。一方で、具体的な方策が理解され難い
点が指摘されている。イメージとしては理解できるが、具体的にどうすることがユニバーサ
ルデザインの実践となり、結果として誰にでも優しい状況が創造されるのか、が共通の認
識となりえていないようである。
加齢変化の特徴の一つに、個人差が大きいことがあげられる。このため、年齢を切り口
とした標準化(例えば 70 歳男性にはこのようなサポートをすれば概ね十分となる尺度)
が困難であることが、共通認識醸成の障害になっているように思われる。類型化の難しさ
が、本編で紹介した TOTO や積水ハウスの取り組みの背景にあるようである。
少子化においても同様のことが言える。古瀬教授の講演にもあったように、高齢化に比
122
べ後発となってしまったこともあり、データが十分に蓄積されているとは言えない。
具体化するためには、データの収集と分析が必須である。体系的データなしに、技術基
準の評価は困難であろう。評価指標の構築も求められる。更なるデータの収集・分析と技術
基準の評価・改定が待たれるところである。
5.6.4 関連要素技術の建築計画や設計への取り込み
単独で進歩する技術はむしろ少なく、他分野適用の波及効果により、洗練された技術と
して成熟していく例が多いように思う。量産効果による価格低廉化のインパクトも大きい。
現段階で他分野からの適用が期待できる関連要素技術が明確化しているわけではない
が、ユビキタス、IT、ワイヤレスセンシング、複合素材・多機能材料等の進化による建築
計画や設計への取り込みが期待される。
数の上で大きくなると想定される高齢化を見据えた取り組みが当面のマーケットとな
ると想像されるが、少子化に関連したマーケットへの波及も期待したい。
5.6.5 高齢者増大に伴う都市施設へのユニバーサルデザイン適用範囲の拡大
法制度の整備や助成制度拡大により、高齢者が暮らしやすい住宅や施設は増加の傾向に
あるが、大規模な面的開発を除き、必ずしも有機的に結びついていないのが実状である。
更なる施設数の増加に加え、相互に効率的に結びつけることが今後求められる。個別に存
在する建物や各種施設を紡ぐための方策として、都市施設、インフラへのユニバーサルデ
ザイン適用が拡大すると考えられる。
適用を進める過程において、整備すべきレベルの問題が顕在化してくると考えられる。
特に高齢者は、体力を含めた諸機能維持が、通常の生活動作で支えられている側面もあり、
例えば、すべてをフラットな空間とすることが妥当かどうかの議論も必要である。
高齢者が動きやすく暮らしやすい空間の創造は、乳幼児を抱えた子育て世代にも優しい
と考えられ、間接的には少子化へも対応した都市施設の創造に寄与すると考えられる。一
方で、寸法等において相容れない事柄も、特有の部位や施設においては発生する可能性が
あるため、更なる検討が求められる。
5.6.6 高齢者対応住宅の推進
今後団塊世代が大量退職となり、アクティブシニアが増大することとなる。彼らは多種
にわたる情報に高い関心をもち、健康期から生活の向上や豊かさの重視、心身機能の低下
をみこした住まいを求めていくであろう。これに対応して医療機関との共同開発や、クリ
ニック併設などのサービスや共用施設も充実したシニア住宅が増大すると考えられる。ま
た、多世代交流などコミュニティを考慮した住まいも期待したい。
5.6.7 更新、維持管理、メンテナンス対策を含めたユニバーサルデザインの進展
少子高齢化社会の到来は避けられない現実のようである。生産労働人口の減少は、公的
な資金の減少にも影響を及ぼすと考えられ、維持管理等に、手間のかからないインフラへ
の転換が求められる。直接的なコストのみならず、LCC(ライフサイクルコスト)の観点
からも評価したユニバーサルデザインの適用を図る必要がある。
123
5.6.8
(1)
材料・部品等要素技術の課題
膨大な市場性
現在、高齢者単身・高齢者夫婦のみの世帯は、758万世帯、持家に居住するもの57
7万世帯である(H15 年土地住宅統計調査)。今後もこのような世帯はさらに増大していく
(H15 年国立社会保障・人口問題研究所推計)。膨大で成長性の高い市場である。
このような市場を想定してユニバーサルデザインを意識した部品産業の技術開発は盛
んである。しかし、市場として、高齢者対応技術提供するリフォーム工事は分散し、小規
模な工事でかつ、間歇的に発生する。市場として組織化し難い。その市場を開拓・組織化
することは、在来の「製材ルート」、
「建材ルート」、
「設備機器ルート」等々の例をみると、
多大な資本力と組織力を必要とする。今後の課題である。
(2)
計画・設計技術の反映は?
高齢者対応技術の供与の失敗事例をみると、
a.改修希望=要求と概算予算の絞り込み
b.要求に対応する部品の選択
c.体力に対応する取り付け、角度、寸法、デザイン等々に対する細やかな検討。
d.既存住居との技術的適合性の検討
等々が不可欠であり、これはまさに建築計画、設計技術そのものである。また、そのよ
うな知見・素養が高齢者対応改修工事には、現実、関与し難い状況も写し出している。部
品の適合性や効用を高める「技術」をどのようにして組織的、継続的に供与していくかも
部品市場開拓のもう一つの大きな課題である。
124
6. 施工技術
6.1 まえがき
少子高齢化時代を間近に控え、建築生産分野においてもさまざまな対応が求められるこ
とになるが、とくに建設技能者の減少による影響が考えられている。
一時期、経済活動が活発であったころ、建設技能者減少問題が取上げられ、いくつかの
対策がされたが、景気の収束とともに話題に上らなくなった。しかしながら、日本の人口
そのものが減少時代にはいり、今後は構造的な問題として取組まざるを得なくなると考え
られる。具体的には、若手労働者の参入減少にともなう高齢技能者の割合の増加、女性労
働者の増加、また、近い将来には外国人労働者の雇用等も視野に入ってくるのではないか
と考えられている。
このような背景から、建築研究開発コンソーシアム技術動向プロジェクトでは、
(社)建
築業協会「ロボット専門部会」
(主査:熊谷組
時岡誠剛氏)の協力を得て「少子高齢化が
及ぼす建築施工技術への影響と今後の課題」というテーマでパネルディスカッションを行
った。国士舘大学の三浦延恭教授の司会により「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
(清水建設:前田純一郎氏)、
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
(大林組:井上文宏
氏)、
「内装工事の省力化事例」
(長谷工コーポレーション:岩沢成吉氏)の3テーマについ
て講演をいただき議論を深めた。本稿では、施工技術の合理化に焦点をあて現状と課題、
開発事例、少子高齢化が施工技術に及ぼす影響とそれに伴う新しい施工技術の方向性につ
いてこのパネルディスカッションの資料を中心として述べる。
6.2 施工技術の合理化の現状と課題 1 )、 2 )、 3 )
施工技術における合理化工法という言葉は非常に範囲が広く、プレファブ化工法、複合
化工法、省力化工法、工業化工法、ロボット化工法、システム化工法、自動化工法などの
内容を含む総称として使用されることが多い。これらは狭義ではそれぞれ独自の技術とし
て使用されていることもあるが、相互に密接な関連がありいくつかの技術の組合わせとし
て使用されることもある。
このような背景から、ここでは合理化工法を機械化/ロボット化工法(以下、ロボット
化工法という)とそれ以外の工法(以下、合理化工法という)にわけて、これらの技術の
現状と課題について述べることとする。
6.2.1 ロボット化工法および合理化工法の開発経緯と現状
(1)ロボット化工法
建設技術のロボット化は 1980 年代から開発が進められた。もともとは、建築生産の生
産性向上や 3K(汚い、危険、きつい)追放を目指すという主旨で建設会社各社が積極的
に取組み、(社)日本建築学会や(社)土木学会、(社)建築業協会などの委員会活動も活
発に行われた結果、1990 年代までに建築関係だけでも約 150 種類のロボットが開発され
た(日本建築学会調査)。開発された主な機種は
・躯体:鉄骨玉外し、鉄骨溶接、耐火被覆吹付け、鉄筋配筋、コンクリート床仕上
げ、コンクリート打設
125
・仕上:外壁塗装、天井ボード貼り、パネルハンドリング
・検査:外壁タイル検査、クリーンルーム検査
・メンテナンス:ガラス清掃、床清掃
などが上げられる。表 6.2‐1 に建築用ロボットの開発状況を示す 4 )。
これらのロボットは一定程度の適用事例をみせたが、技術的レベルやコスト、保有体制
等の問題から普及にまで至らなかったものが多かった。
一方、1990 年代に入り、大手ゼネコンを中心として全自動ビル建設システムへの取組が
開始された。これはビルの作り方を含めた新しい施工システムを構築するもので、現在ま
でに 8 社 12 システムが開発され、20 現場以上に適用されている。ビル自動化施工システ
ムの開発事例を表 6.2‐2 に示す。
技術的には
・自動化・工業化・情報化技術の統合
・作業環境の全天候化
・搬送や組立て、接合などの自動化
・積層工法、ユニット化・プレファブ化工法
・情報管理システムの統合
などに特徴がある。
2000 年代に入ると、受注競争の激化、要求性能の高度化、環境保全などの課題がクロー
ズアップされ、研究開発の方向性もこれらを解決する取組みに変化してきている。最近の
取組みとしては、ダイオキシン除去ロボットなどの環境保全関係やリニューアル作業用ロ
ボット、災害復旧対応としての遠隔操作ロボットなど新しい取組みが開始されている。
(2)合理化工法
合理化工法は 1960 年代から部材の工場生産という概念のもとに開発が進められた。と
くに部材のプレファブ化ということが強く意識され、日本の高度成長にともなう大量の住
宅供給という背景を受け急速に普及した。PC 工法、HPC 工法などの各種工法がこれであ
る。しかしながら、第一次オイルショック以降、経済活動の低成長時代には需要が減少し、
この時期に閉鎖に追い込まれたプレファブ工場も多い。
プレファブ化そのものについては、コストが高いことや設計の自由度が損なわれるなど
の欠点があったが、その後ニーズの多様化などの背景もあいまって、改良開発が進められ、
経済的で安定した品質を持つ製品が登場し、とくに住宅生産分野では部品の工場生産とい
う概念の一環としてプレファブ部材が多用されるようになっている。
また、プレファブ部材の合理的な適用という観点から、ハーフ PC 工法が 1970 年代か
ら使用されはじめ、安定供給、接合の容易性などから多用され現在に至っている。
一方、それぞれの工種における資材、労務、工程などを分析し、これらを規格化・統一
化し作業の連続性を重視したシステム化工法が考案され、多能工化や多工区分割工法の採
用などが図られている。この工法は作業員の習熟効果があり品質の向上も期待できるもの
であるため、省力化や工期短縮などに大きな効果が認められている。
以上のように、合理化工法は建設産業の労働集約型産業からの脱皮を目指して研究開発
が進められてきており、今後も社会の要請に応じた研究開発が期待される。
126
6.2.2 清水建設におけるロボット化への取組例
清水建設ではロボット研究開発に 1980 年以前から取組んでおり、1982 年までの基礎研
究を経て 1980 年代から個別ロボットを開発してきた。
1980 年代に開発した主なロボットは耐火被覆吹付け、床けれん清掃、鉄骨自動玉外
表 6.2-1
建築用ロボットの開発状況
ロボット名 称 ( 開 発 期 間 )
工事分類
大項目 中項目 小項目
仮設
足場
検収
鋼 管 自 動 検 収 装 置 ( フジタ)
土工
地業
宅 地 造 成 工 事 用 マニピュレータ
(東急建設)
搬送
自動揚重機(竹中工務店)
内 装 資 材 搬 送 システム( 清 水 建 設 )
躯体
墨出し
鉄 筋 コン
クリート
鉄筋
自 動 搬 送 システム( フジタ)
ロボットアーム付 資 材 垂 直
搬 送 システム( 鹿 島 )
水 平 墨 出 し 装 置 ( フジタ)
鉄筋自動加工機(青木建設)
X筋 曲 げ 加 工 装 置 ( 大 林 組 )
ユニット鉄 筋 加 工 ライン( 竹 中 工 務 店 )
鉄 筋 自 動 配 筋 システム( 清 水 建 設 )
重 量 鉄 筋 配 筋 システム( 鹿 島 )
ロボット名 称 ( 開 発 期 間 )
工事分類
大項目 中項目 小項目
外部
外壁
塗装
壁 面 仕 上 げ ロボット( 熊 谷 組 )
仕上げ
外 壁 塗 装 ロボット( 大 成 建 設 )
外 壁 吹 付 け ロボット( フジタ)
外 壁 塗 装 ロボット( 鹿 島 )
タイル貼 り タイル貼 り ロボット( ハザマ、 コマツ)
PC板
旋回制御吊り具(清水建設)
取 付 け 吊 荷 姿 勢 制 御 システム( 大 成 建 設 )
外 壁 PC板 自 動 施 工 システム( フジタ)
ガラス
コンクリート
分配
HMC型 枠 ハンドリングマニピュレータ
(大成建設)
水 平 コンクリートディストリビュータHA型
(竹中工務店)
プレーシングクレーン( 大 林 組 )
コンディスクレーン( 竹 中 工 務 店 )
自 動 定 量 打 設 コンクリートバケット
(鴻池組)
歩 行 式 コンクリートディストリビュータ
(東急建設)
コンクリート打 設 ロボット( 竹 中 工 務 店 )
コンクリート
締固め
コンクリート
床均し
天井
設備
保守
自動締固め工法(戸田建設)
コンクリート自 動 締 固 め システム
(大林組)
電気設備
工事
検査
外壁
タイル
マイティハンド( 鹿 島 、 コマツ)
スカイハンド( コマツ)
建 築 作 業 用 マニピュレータ
( 竹 中 工 務 店 、 コマツ)
壁 パネル取 付 け ロボット( 大 林 組 )
塔 状 構 造 物 内 部 塗 装 ロボット( フジタ)
天 井 ボード張 付 け ロボット( 清 水 建 設 )
内 装 工 事 ロボット( 東 急 建 設 )
天 井 ボード張 り 機 ( 熊 谷 組 )
天 井 作 業 ロボット( 関 電 工 )
天 井 開 口 ロボット( 九 電 工 )
タイル壁 面 剥 離 検 知 システム( 鹿 島 )
外 壁 タイル調 査 機 ( 竹 中 工 務 店 )
壁 面 診 断 ロボット( 大 林 組 )
壁 面 自 動 診 断 システム( 熊 谷 組 )
壁 面 点 検 ロボット
(大林組、関西電力、三菱重工)
コンクリート床 仕 上 げ 用 吸 水 ロボット
(竹中工務店)
鉄 筋 建 方 ロボット( 清 水 建 設 )
自動玉掛け外し装置(清水建設)
自動玉掛け外し装置(柱用)
(大林組)
自動玉掛け外し装置(壁用)
(大林組)
地 組 用 精 密 自 動 位 置 決 め システム
(大成建設)
スタッド溶 接 ロボット( 鹿 島 )
鉄 骨 溶 接 ロボット( フジタ)
鉄 骨 溶 接 ロボット( 竹 中 工 務 店 )
鉄 骨 柱 溶 接 ロボット( 大 林 組 )
清掃
鉄 骨 柱 自 動 溶 接 ロボット( 清 水 建 設 )
外部
外壁
仕上げ
床 面 ケレン・ 清 掃 ロボット( 清 水 建 設 )
ボード張 り マニピュレータ( 大 成 建 設 )
外 壁 タイル診 断 ロボット( 大 成 建 設 )
コンクリート自 動 締 固 め 装 置 ( 熊 谷 組 )
コンクリート自 動 均 し 機 ( 竹 中 工 務 店 )
コンクリート床 均 し ロボット( 清 水 建 設 )
自 律 走 行 式 床 作 業 ロボット( 大 林 組 )
溶接
グレージングロボ( 旭 硝 子 )
グレージングマシン( セントラル硝 子 )
サンリフト( 太 陽 精 機 )
ALC板 取 付 け 機 ( 日 本 国 土 開 発 )
塗装
コンクリート コンクリート床 直 仕 上 げ ロボット( 鹿 島 )
床 仕 上 げ コンクリート床 仕 上 げ ロボット
(竹中工務店)
コンクリート床 仕 上 げ ロボット
(清水建設)
鉄骨
間仕切
仕上げ
( ハンドリング)
コンクリート均 し ロボット( フジタ)
コンクリート均 し 機 ( 東 急 建 設 )
コンクリート
吸水
建方
取付け
ガラス取 付 け ロボット( 日 本 国 土 開 発 )
内部
内部床
仕上げ 内壁
鉄 筋 組 立 自 動 クレーン( 竹 中 工 務 店 )
鉄 筋 自 動 組 立 ロボット( 大 成 建 設 )
型枠
4)
耐 火 被 覆 耐 火 被 覆 吹 付 け ロボット( 清 水 建 設 )
耐 火 被 覆 吹 付 け ロボット( フジタ)
耐 火 被 覆 吹 付 け ロボット
( ニチアス、 清 水 建 設 )
塗装
長 大 柱 塗 装 ロボット( 大 成 建 設 ) 解 体
手 摺 壁 外 面 吹 付 ロボット( 清 水 建 設 )
外 壁 自 動 吹 付 け ロボット( 清 水 建 設 )
補修
クリーン
クリーンルーム検 査 ロボット( 大 林 組 )
ルーム
クリーンルーム自 動 計 測 ロボット
(計測) (大林組)
環 境 計 測 用 ロボット( 飛 島 建 設 )
クリーンルーム検 査 ロボット
( 熊 谷 組 、 日 立 プラント建 設 )
リークチェックロボット( ハザマ)
クリーンルーム検 査 ロボット( コマツ)
空 調 用 吹 出 空 気 検 査 ロボット
(新菱冷熱)
配管
配 管 劣 化 診 断 ロボット( 大 林 組 )
配 管 診 断 システム( 三 井 建 設 )
床 清 掃 自 走 式 床 面 清 掃 ロボット
(東芝、三井不動産)
床 面 清 掃 ロボット( オートマックス)
窓 清 掃 自 動 窓 拭 き ロボット( 三 菱 電 機 )
窓 拭 き ロボット( 日 本 ビソー)
マルチスパン型 窓 拭 き ロボット
( 日 本 ビソー)
横 行 式 窓 拭 き ロボット
( 日 本 設 計 、 日 本 ビソー)
吸 着 自 走 式 ガラス拭 き ロボット
(清水建設)
ダクト清 掃 空 調 用 ダクト清 掃 ロボット( 明 電 舎 )
外 壁 塗 膜 剥 離 ロボット( 竹 中 工 務 店 )
コンクリートは つ り ロボット( 熊 谷 組 )
カームジェット工 法 ( 鹿 島 )
アブレイシブジェット工 法 ( 鹿 島 )
鉄 筋 コンクリート切 断 機 ( 熊 谷 組 )
鉄 筋 コンクリート壁 ・ 床 切 断 機 ( ハザマ)
超 高 層 ビル外 壁 塗 装 ロボット
(大成建設)
127
し、天井パネル取付け、コンクリート床仕上、鉄骨柱溶接等のロボットであり、1990 年代
ではビル自動化施工システム(スマートシステム)の開発や、原子炉解体ロボット、宇宙
用のロボット等の研究が行われた。2000 年代に入ると、人間型ロボット、空間知能化など
の研究が加わった。最近では人間協調・共存型ロボットのパネル搬送やパネル組立への応
用、空間知能化の一例として車いすロボットの開発などを行っている。この中で、少子高
齢化対策に使用できる技術としては写真 6.2-1、写真 6.2-2 に示すような技術を開発してい
る。
表 6.2-2
ビル自動化施工システム開発事例
ビル自動化施工システム開発事例
システム名称
スマートシステム
(1992.11∼
T−UP工法
(1993.1∼
ABCS工法
(1993.3∼
MCCS工法
(1993.3∼
ルーフプッシュアップ工
法 (1990.9∼
AMURAD工法
(1996.4∼
BIG CANOPY
(1995.9∼
FACES工法
(1996.10∼
あかつき21
(1995.7∼
ルーフロボ工法
(1995.8∼
開発会社
適用件数
清水建設
2件
大成建設
1件
大林組
5件
前田建設工
業
2件
竹中工務店
2件
鹿島
2件
大林組
5件
五洋建設
2件
フジタ
2件
戸田建設
2件
大屋根架構
上昇装置
仮設マスト+油圧
*10∼30階以上の高層建物、S、SRC構造
写真 6.2-1
揚重・搬送
トロリーホイスト+ワイヤー
ガイド揚重
コア部全天候ルーフ ガイド柱(油圧ジャッキ 走行ジブクレーン+天
+外周ハット梁
内臓)+コア梁
井クレーン
仮設支柱+油圧 天井クレーン+貨物リ
最上階躯体鉄骨
ジャッキ+本設柱
フト
本設クライミング柱+油
最上階躯体鉄骨
アクティブクレーン
圧ジャッキ
プッシュアップ装置+本 走行ジブクレーン+天
最上階本設スラブ
設柱
井スライドクレーン
躯体取付装置+資
1F固定プラント
プッシュアップ装置
材搬送装置
タワークレーンクライミング装 走行ジブクレーン+天
仮設屋根
置+仮設支柱
井クレーン+貨物リフト
支柱フレーム+リフトアッ
最上階躯体鉄骨
シャトルクレーン
プ装置
本体鉄骨反力+コン トロリバス+トラバーサ
最上階躯体鉄骨
ビネーションジャッキ
+自動リフト
建物コア支柱方式 全方向水平搬送+
最上階躯体鉄骨
+せり上げシステム
自動仕上げ搬送
仮設ハットトラス
少子高齢化に使える技術(1)
RC構造
写真 6.2-2
128
5∼15階程度
少子高齢化に使える技術(2)
6.2.3 大林組のビル自動化施工システムへの取組例
(1)概要
大 林 組 の ビ ル 自 動 化 シ ス テ ム は 鉄 骨 構 造 を 対 象 と し た 「 ABCS( Automated Building
Construction System)」システムと RC 構造を対象とした「Big Canopy」とがある。
これらの施工システムは、作業環境の改善、品質・工程・コストなどの安定化、生産性
の向上、環境問題の改善をはかることによって、技能労働者不足の解消と作業環境(3K)
の改善を目的としており、生産性の向上とともに生産現場を魅力あるものに変革しようと
するものである。
これを実現するために、建設現場に製造業の FA の概念を導入することによって、建設
工事の自動化・ロボット化・情報化を積極的に推進しており、個別作業の自動化技術およ
び自動化に適した構・工法の研究開発がなされている。
(2)「ABCS」システム 5 )
「ABCS」については前述したように鉄骨構造物を対象としており、雨・風などの天候
の影響を受けずに施工できるよう屋根と壁で覆われている FA 化されたビル組立て建設工
場である「SCF(Super Construction Factory)」と「搬送システム」のハード技術および
「計測システム」と「ABCS 総合管理システム」のソフト技術とで構成されている。図 6.2
‐1 に本システムの主要構成技術(ハード技術)を示す。
クライミング装置
SCF(本設利用)
ジブクレーン
多能工主体の施工
外周ホイスト
SCFクレーン
荷取ステージ
クライミング支柱
外周架構
貨物リフト
図 6.2‐1
「ABCS」システムの主要構成技術(ハード技術)
「SCF」は、
「ABCS」の中核システムで建物最上階の本設鉄骨を骨組として利用した屋
根架構および作業空間の外周を覆い足場を兼ねた外周架構から構成されており、建物の本
設柱位置に組み込んだクライミング支柱により1フロアごとに SCF を上昇させて建物を
建設する。写真 6.2‐3 に SCF の内部状況を示す。
「搬送システム」は現場に資材が到着してから、SCF 内の作業階までの運搬を行う設備
で、揚重と水平搬送・取付けを別々の機械で同時に行う並列搬送システムとなっている。
129
垂直搬送は貨物リフト、SCF 内の水平搬送・取付けは SCF クレーンで行う。SCF クレー
ンは作業階における各種部材の自動搬送および取付けを行う天井クレーンで、部材に取付
けられたバーコードラベルによりデータを読み取り、所定の場所へ搬送して、取付け作業
を自動運転で行う。操作は機側または中央制御室のどちらからでもできるようになってい
る。また、高所での玉外しも各部材に応じた吊治具を使用することにより自動化されてい
る。
写真 6.2-3
「SCF」の内部状況
「計測システム」は鉄骨建て入れ精度の計測管理と SCF のクライミングとリフトダウン
後における SCF の位置を計測管理するシステムで、トータルステーションを利用した専用
のシステムを利用し作業の効率化を図っている。
「ABCS 総合管理システム」は鉄骨に部材情報となるバーコードを工場であらかじめ貼
付し、それを建方時に読み取ることによって作業の進捗状況を管理する生産管理システム、
SCF クレーンの安全運行管理を行う衝突防止システム、クライミング装置の自動運転制御
を行う機械制御システムなどからなり、システム全体を管理するものである。
「ABCS」システムを適用した工事と在来工事とで労務歩掛りを比較してみると図 6.2
‐2 のようになり在来工法に比べて約 40%労務量が減少している。とくに、鉄骨建方や仮
設安全設備の減少が著しく減少していることがわかる。
また、N 工事での作業員へのアンケート調査結果を図 6.2‐3 に示すが、作業環境につい
てはすべての項目で平均点以上を示した。とくに、
「まぶしくない」、
「屋根の必要性」につ
いては 4.5 点(5 点満点)を示しており、作業環境の改善という目的を十分果たしている。
130
図 6.2‐2
図 6.2-3
ABCS の適用効果
N 工事適用結果
(3)「Big Canopy」 6)、7)
「Big Canopy」は鉄骨造とは異なる下記の技術課題を解決した RC 造の自動化建設シス
テムである。
①部材接合、支保工組立解体などに細かい人手を要する作業が多く、自動化レベルを高
め難い
②コンクリート強度の発現待ちから鉄骨造のように全天候型組立工場を建物の上に載せ
るのが困難
③単位面積あたりの建設コストが鉄骨造より小さく、仮設費を大きくできない
131
このため、写真 6.2‐4 に示すようにタワークレーンのポストを利用した同調クライミン
グ式仮設屋根架構の採用と徹底したプレハブ化とユニット化を図ることにより上記の課題
を解決している。
キャノピー
同調クライミング式仮設屋根架構
クライミング装置
天井クレーン
ポスト
並列搬送システム
貨物リフト
写真 6.2-4
Big Canopy の構成技術
搬送システムは「ABCS」システムと同様並列搬送システムが採用されており、プレハ
ブ化・ユニット化された大量の資材管理には部材管理システムが採用されている(図 6.2
‐4 参照)。
図 6.2‐4
部材管理システム
本工法を採用した場合の作業能率は下記の理由により大幅に向上している
①効率的な搬送による手待ち時間の減少
②多能工の採用による作業間の無駄の減少
③天井クレーンは風の影響を受け難い(吊り代が短い、屋根の下では風速が減速)
④オペレータが作業床上にいて建方状況を的確に把握しながらクレーン操作が可能
132
⑤壁、床プレキャスト部材や仕上材などは貨物リフトで一度に複数量を揚重できる
また、在来工法と比較した労働生産性は図 6.2‐5 に示すように在来鉄筋型枠工法の 20%
から 30%の人工数で済んでおり、従来のプレキャスト化工法などの合理化工法に比べても
少なくなっている。
図 6.2‐5
適用効果(労働生産性)
作業環境の改善という面から作業員の心拍数を測定した結果を図 6.2‐6 に示すが、地上
作業に比べて屋根下作業が最大値および平均値で少なくなっており、労務管理という面か
らも好ましい結果が得られている。
図 6.2‐6
適用効果(作業環境の改善)
(4)今後の課題
大林組の自動化施工システムは上記のように生産性の向上ならびに作業環境の改善とい
う目的を達しつつあるが、下記のような課題も残されており今後の改良開発が進められて
いるところである。
133
①自動化レベルの適正化、汎用化
②施工工場の組立・解体の効率化
③最適な施工計画手法の開発
④自動化施工に適した建築設計
⑤コストダウンの検討
⑥作業者(多能工)の育成
また、少子高齢化時代を迎えて自動化施工システムは作業者の問題、生産要素の問題、
生産環境の問題という面から更なる進化が求められている。労働集約的な生産方式から自
動化中心方式への転換にともなう熟練工と多能工との関係、材料の大型化・ブロック化・
プレハブ化にともなう建設機械の大型化・高性能化・多機能化、騒音・振動・粉塵などの
作業環境の改善と品質向上など多方面にわたる課題を解決する必要があると考えられてい
る。
6.2.4 長谷工コーポレーションの内装工事省力化への取組例
(1)省力化の現状
長谷工コーポレーションでは内装工事における省力化に積極的に取組んでいる。この背
景には造作工の高年齢化があり、平均年齢は毎年 0.8 歳程度高齢化し、現時点では 53 歳
から 54 歳になっている。
内装造作工事をすべて造作工で消化しようとすると東京地区において、その必要人数は
事業量から 1,200 人程度であるが、実際に確保できているのは 800 人程度であり、400 人
ほど不足してしまうため、2000 年度から工場製品の積極的採用という方針で対応している。
その方針に基づき行なった施策がスタッド併用工法(現在 95%程度の採用)と、工場製品
の積極的採用であった。図 6.2‐7 に造作量の低減実績を示すが、これらの施策により約 2
年間で間仕切り天井および収納部分を中心として造作工の 50%省力化が達成できている。
造作工の労務量低減
その他
29%
スタッドボード
工事へ転換
35%
収納設置工事
6%
収納ユニット
へ転換
15%
間仕切り工事
15%
図 6.2‐7
造作工の労務量低減
134
(2)今後の方策
今後の方策として現在検討しているのは
①間仕切り造作工事における工業化製品の採用率向上
②収納工事におけるユニット化標準化製品の提案
③和室の仕上の省力化
④建具の寸法の標準化
⑤墨出し方法の効率化
などである。
間仕切り造作工事においては、ハウスメーカーで採用しているバーコードを利用したパ
ネル化やリフォームで使用されている折り畳みパネルなど戸建住宅用に開発されている精
度の高い各種工法の採用が考えられている。
収納工事ではユニット化された製品を置くだけで位置決めができるユニット間の結合方
法や、精度の高い床の作りこみ方法が検討されている。
和室の仕上については、たとえば押し入れを奥行き 900mm の大きな収納というコンセ
プトのなかで仕上の省力化を図るといった方法が検討されている。
建具については、現状寸法がまちまちである建具の幅の統一と標準化が必要であり、設
計サイドとの連携を強化して標準化を目指すことが検討されている。また、ドイツやイタ
リアの考え方を採用して、造作工事と建具工事を分離することも検討されている。
墨出しについては、とくに地墨の出し方を改良することが検討されている。
このように各工種によりいろいろと検討を重ねているが、内装工法の課題としては「簡易
工法への変換」、「収まり変更」、「位置決め、設置技術の確立」にまとめられる。物指しを
必要としない工法で標準化・規格化しプレ加工しておく「簡易工法」、和室・枠・額縁・キ
ッチン・クロスなどのデザインや意匠の提案による「収まり」、工場製品の相互調整を行う
インターフェイスの改善による「設置技術」などの採用や開発が必要とされている。
6.2.6 ロボット化技術および合理化技術の課題
上記のように、生産手段のロボット化や合理化施工法については一定の効果を果たして
きたが、今後を展望した場合いくつかの課題が示されている。
(1)ロボット化技術
前述したように、今までに開発されたロボットがなかなか普及しなかった原因としては
①システムやロボットの機能に関わる要因
②システムやロボットを使用する現場条件に関わる要因
③サブコン・協力業者との関係に関わる要因
④システムやロボットの運用に関わる要因
⑤建築構工法や建築需要に関わる要因
の 5 つに整理される。
①については、ロボットの処理能力・処理品質や取扱性・操作性といった問題であり、
本当に要求品質が確保できるかという面で十分な機能が発揮できていないことである。②
については、ロボットを設置・撤去する現場状況や、コスト、汎用性、安全性等の現場条
件かかわる問題であり、現場全体を見据えたシステムとなっていないものが多かったこと
135
である。③はロボットを使用する業者のメリットや直接ロボットを扱う作業者の意欲への
配慮が足らなかったということである。④はロボットを製作するメーカーやロボットを保
有するリース会社の意欲の問題とメンテ・トラブル対応体制の問題である。⑤は設計との
整合性や繰返し使用に対する適用性、適用可能な工事量の問題である。
これらの要因について 1 例として清水建設で開発した 10 種類のロボットについて普及
阻害要因を分析した結果を表 6.2‐3 に示すが、上記の理由のうち①と②が大きな阻害要因
となっていることがわかる。
いずれにしても、ロボットが複雑な現場条件のニーズに技術的に十分に答え切れておら
ず、使う立場にたって開発されなかったものと考えられるが、今後は建築の固有条件に合
わせたロボットの開発が期待されており、とくにセンシング技術、マニピュレータ技術、
遠隔操作技術、移動機構技術、ハンドリング技術、耐久性などに関する継続的な研究開発
が望まれている。
表 6.2-3
普及阻害要因の調査分析例
(2)合理化技術
合理化技術に関しては、1960 年代から建築物の一部分を工場生産するということが始め
られ、大量生産を前提とした壁式プレキャスト造の中高層 RC 住宅等に適用されてきた。
それ以降、主としてゼネコン各社により工業化工法や複合化工法などが相次いで提案・適
用され、工期短縮や安全性の向上、労働生産性の向上などに寄与してきた。
一方、ハウスメーカー等においては、住宅を「部品」化することにより、現場での生産
性を高め、経済的で均質な住宅を提供してきており一定の評価をえている。
しかしながら、これらの合理化技術にも情報化/多様化への対応、コストの低減、スト
ック社会に対応した「部品」の再利用、多能工の養成等の課題があり、今後の研究開発が
求められている。
136
6.3 施工技術をめぐる今後の展開
以上述べてきたように、今までの施工技術開発については、一部技能労働者不足対策と
いう側面をもちつつも、主として生産性向上、労働環境改善などが目的で、少子高齢化と
いうことはあまり意識されてはいなかったと考えられる。
本格的な少子高齢化時代を迎え、今後要求される課題としては
①高齢者や女性という技能労働者にやさしい施工システムの構築
②3K の追放による若年労働者の入職率向上
③優秀な労働者の育成
④管理技術者の育成と新たな管理技術の開発
⑤省技能・省労務工数を考慮した建築設計
が意識的に考慮されなければならないと思われる。これらの課題は従来型の技術開発の延
長線上にあるものもあるだろうし、新しい概念を導入した技術の開発も考えられている。
①については、高齢者や女性の肉体的特徴や行動様式、行動心理などを考慮した人間工
学的な観点からいままでの施工機械や装置、施工システムを見直すことから新たなステー
ジが見えてくるだろうし、②については依然として社会的に認識されている建設業界の悪
いイメージ(3K)を払拭し、希望が持てる産業への転換としての施工システムを目指すべ
きではないかと思われる。さらに、③については、基幹技能者の育成とその社会的地位の
向上を図ることが重要な対策であり、④については技能者のみでなく、管理技術者の育成
強化と、新しい管理技術の開発も不可欠であり、⑤については、従来から行なわれてきて
いる設計と施工との一体化(施工に適した建築設計)を一層進めることが求められる。
一方、少子高齢化にともなって、日本の経済活動も減少し建築に対する需要も低減する
ので、技能労働者不足も心配ないという論調も見られる。日本の経済活動が今後どのよう
な推移をするのか注意深く見守る必要はあるが、労働生産性の向上や労働環境の改善とい
った要求は規模の増減に関係なく増加すると思われるし、そのような努力を継続的に行わ
ない限り、日本の建設業従事者の雇用改善は進まないであろう。
国においても少子高齢化は大きな問題として考えられており、各省庁でさまざまな取組
みがなされている。国土交通省では、
「技術が支える明日の暮らし」として「国土交通省技
術基本計画(2003.11)」をまとめており、そのなかに「建設ロボット等による自動化技術
の開発」を重点プロジェクトとして位置付け、危険作業からの解放や熟練者不足、労働力
不足などに対応することとしている。また、経済産業省では「5感で納得できる暮らし」
を目指して「人間生活技術戦略 2006」を策定しており、ヒューマナイドロボットの開発等
が目標となっている。さらに、厚生労働省では、平成 17 年 10 月から平成 22 年度までの
第 7 次建設雇用改善計画を策定し、重点事項として「魅力ある労働環境づくり」、「能力の
開発と技能の継承」、「若年者の入職促進と高齢者や女性が活躍できる労働環境の整備」等
を施策として推進していくこととしている。
137
こうしたなかで、具体的には
①高齢者のノウハウを生かして、安全に効率よく作業できる方式
②非熟練者でも所定の作業品質を確保する作り方
③技術や技能の伝承ツール
④魅力ある環境作り・作業者モチベーションの向上
が今後の方向性として考えられており 1 )、そのための産官学による本格的な調査研究が必
要であろう。
今後のロボット技術については、2001 年度から日本建築学会建築生産自動化小委員会が
行った「次世代ロボット技術に関する調査研究」に詳しく述べられており、建築工事を 15
項目に分類して、それぞれの項目ごとにロボット化のニーズ、阻害要因、期待できるシー
ズにまとめられている(表 6.3-1 参照)。これらを参考として研究開発が進められていくこ
とになると思われるが、とくに高齢者の人間工学的な面からのアプローチが必要ではない
かと考えられる。高齢者の認知・行動特性、視覚特性等の研究がロボットや合理化工法の
開発に大きな効果を発揮するのではないかと思われる。
2030 年に約 2 割減少する労働力のうち、現場の労働力の核となる 20∼30 歳代の労働力
は 4 割程度減少する見込みといわれている 9 )。需要の減少がなければこの減少分を高齢者
や女性あるいは省力化でまかなわなければならない。表 6.3-2 に年齢別体力・運動能力を
示すが、高齢者や女性は言うまでもなく体力・運動能力が成人男性に比べて落ちる。この
ような要素も研究開発にあたっては考慮されなければならない問題であろう。
138
表 6.3-1 建築用ロボットニーズ一覧8)
阻害要因の分類:①技術的要因 ②現場の条件 ③施工体制上の要因 ④社会的要因
項目
仮設
組み立て
(養生、足場) 解体
現状の機械、ロボット等
移動式、昇降式足場
鋼管自動検収装置
自動洗浄装置
掘削機自動制御
遠隔操作
緑化基盤材吹付け装置
玉掛けロボット
柱建入れ調整治具
溶接ロボット
耐火被覆吹き付けロボット
鉄筋組み立て装置
杭、土工
山止め
掘削、削孔
鉄骨
建て方
接合
鉄筋
加工
組み立て
接合
型枠
加工
組み立て
接合
解体
打設
均し
直仕上げ
型枠加工装置
滑動型枠装置
防水、左官
タイル、石
PC板、ガラス
塗装
間仕切り、造作
壁紙、塗装
左官
ハンドリングロボット
塗装ロボット
コンクリート
外部仕上げ
内部仕上げ
設備
搬送
電気
空調
衛生
揚重
運搬
ディストリビュータ
均しロボット、トロウェル
直仕上げロボット
ボード張りロボット
壁紙糊付けロボット
・苦渋作業の低減(筒先、均し、仕上)
・夜間作業の無人化
・品質試験、打設作業管理
・締め固め作業の自動化
・高所作業の無人化(仕上げ材取付け、塗
装、シール)
・ガラスなど重量物のハンドリング取付や
PC板位置決めの協調作業
・仕上げ材取付け作業の省力化
・資材運搬の自動化
・足場の組解体作業を無くす
②作業場所が狭い
②危険作業
④環境への影響
④重機低公害化
①大重量、慣性大
①開先条件がばらつく
②高所危険作業
②作業場所が離散的
②床が平滑でない
③鉄骨が標準化されていない
②作業場が広範囲
②小運搬
・アクチュエータ技術、ハンドリング技術
自立分散制御
・複数の機械の協調
・直仕上げ(水引き状態検出)
・直仕上げ自動化(自立走行、出隅入隅
対応可能、障害物回避)
①仕上げ面性状検知を職人
の技能に頼る
③集中作業
・農業用ロボット(荒均しや均し、仕上げ)
・外部足場を無くす
②高所危険作業
④環境への影響
・知能材料
・人間型ロボットによる取り付け
・機械使用の大型重量部材で内装を効
率化する
・パネル類の協調搬送取付け
③作業場所が狭い
③工程的に厳しい場合が多い
④職種が多い
・新材料による接着技術(グラウドなし
アンボンドPC等)
・知能材料
・人間型ロボット
・情報化技術
クレーン、EV、リフト
フォークリフト
自動搬送装置
吊り荷姿勢制御
清掃ロボット(床・ガラス)
タイル剥離検知ロボット
・夜間に自動搬送するシステム
・段差開口部のある床面の自律搬送
・軽量物の自在な搬送、取付け
②段差や開口部あり
③荷姿が様々
③搬送路上の障害物
解体
破砕
切断
コンクリート切断・穴あけ装
置
解体用外周養生装置
リニューアル
補修
改修
塗装剥離ロボット
外壁塗装ロボット
補強繊維巻き付け
光波距離計
3次元測量器
GPS
切り梁応力自動測定
潜水作業
・床コンクリートを低騒音、低振動、粉塵
を出さずにはつる
・床仕上げ材を低騒音・低振動、粉塵を
出さずに効率よくはがす
・墨出しの自動化
・超々高層構造物の測量
・見通しのできない場所の測量
・水中溶接、船底ケレン等のマニピュレー
タ付作業艇(乗用、遠隔)
138
・遠隔手術マニュピレータ
・光波距離計、GPS
・アクチュエータ技術、ハンドリング技術
自立分散制御
・複数の機械の協議
②作業場所が狭い
③食酢が多い
・外壁面やガラス面を自在に移動して
クリーニングを行う
・同上場所でクラックやタイル剥離などの
検査診断を行う
・騒音や振動の少ない切断、はつり、穴
あけ作業を行なう
・建設廃材を自動分別しストックする
期待できるシーズ
・果物や野菜などの自動選別装置、物流
のピッキング技術
・新材料、新素材による軽量化
・動力のハイブリッド化
・燃料電池
②作業場が広範囲
②小運搬
・設備機器取付け作業の省力化
・配管ダクト等搬送、持上げ、取付け
清掃
調査・診断
その他
阻害要因
①使用部品が小さく点数が多い ②高所危険作業
ハンドリングロボット
墨出しロボット
メンテナンス
検査
測量・測定
墨出し
ロボット化のニーズ
・足場組立て、解体や盛り替えを自動で
・全天候施工
行う
・天候の影響を少なくする
・足場用資材の分別、ケレン、結束を自動
・危険エリアの監視をロボットで行う
・重機の改造なしで運転をロボットに代行
・重機の事故を防止する
させる
・低騒音、低振動、排ガス浄化、低燃費
・切り梁のハンドリングを効率的に行う
・高所危険作業の無人化
・遠隔溶接(手溶接技術と作業環境改善
・位置決め、精度管理
の両立)
・接合作業の自動化
・ボルト締め
・玉掛け、玉外しの自動化
・耐火被覆吹付け(厚みの確保)
・ユニット鉄筋組立て、取付け
・太径鉄筋の自動圧接
・結束作業の自動化
・機械的継手を自動接続
・運搬作業の省力化
・太径鉄筋のハンドリングのロボット化
・短時間で接合を行う
・型枠加工システム
・打ち込み型枠ハンドリング、取り付けの
・小運搬、盛り替えの省力化
ロボット化
・コンクリート充填を測定するセンサ
②荷重制限
・情報化技術
・人間型ロボットによる不整地運搬
・水道管、空調ダクト、天井裏等の建物
細部検査のロボット化(小動物型)
・外壁や屋上からの漏水検知
④環境への影響
・マイクロマシン
・ICタグによる情報化
・人間型ロボット
・ダイオキシンなど有害物を分離除去す
る(遠隔操作)
・放射化された原子炉壁コンクリートを解
体搬出する
・少量の資材を分散した個所に効率よく
搬送供給する
・外壁塗装材を無足場で剥離する
・外壁を吹付け、塗付け仕上げする
②危険作業
④環境への影響
・遠隔操作ロボット
・低騒音切断技術
・高出力レーザー
②作業条件が厳しい
③時間的制約
②作業スペース、搬入経路な
ど制約が多い
・装着型倍力装置
・低騒音アンカー技術
・光波距離計、GPS、センサ技術
①遠隔操作の難しさ(海流などによる揺らぎ、視界の悪さ)
②潜水作業は潜水病の危険性から1人1日数時間しか作業で
きない(水深による)
・ハンドリング技術、遠隔操作
・人間型ロボット代行運転
表 6.3-2
年齢
握力
(kg)
上体
起こし
(回)
年齢別体力・運動能力
長座体
前屈
(cm)
反復
横とび
(点)
10)
20mシャトル 持久走
50m走
ラン
(秒)1) (秒)
(折り返
し数)1)
立ち幅
とび
(cm)
ソフトボール・
ハンドボール
投げ
(m)2)
男
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20−24
25−29
30−34
35−39
40−44
45−49
50−54
55−59
60−64
9.37
11.24
13.02
15.22
17.49
20.51
25.38
31.92
36.99
39.72
42.16
43.71
43.71
43.89
48.16
48.76
49.62
49.39
49.21
47.99
46.70
45.00
42.02
10.87
13.10
15.36
17.04
18.65
21.07
23.30
26.79
28.49
27.79
29.60
30.48
28.83
28.90
26.30
25.75
24.80
23.80
23.19
21.45
20.10
18.39
16.30
25.29
27.17
29.14
30.92
32.67
34.91
38.53
43.83
46.49
47.69
50.17
50.57
48.18
47.73
44.56
43.58
43.18
42.54
42.30
41.56
40.77
39.31
38.55
26.58
30.04
33.96
38.12
41.71
44.88
47.80
51.34
53.14
52.44
54.13
54.63
54.40
54.85
51.04
50.35
49.29
47.95
47.05
45.28
42.62
39.70
36.86
15.38
23.71
33.16
40.61
48.26
58.44
67.74
82.72
89.69
79.15
85.63
88.12
78.47
82.21
64.15
59.20
54.12
49.80
46.28
40.01
36.33
30.87
26.75
―
―
―
―
―
―
422.03
388.07
375.44
386.43
375.94
371.36
391.63
393.54
681.27
692.69
701.29
715.00
712.16
724.07
741.19
763.05
780.37
11.65
10.83
10.16
9.75
9.36
8.91
8.47
7.97
7.60
7.61
7.40
7.32
7.51
7.44
―
―
―
―
―
―
―
―
―
114.61
127.08
138.65
145.49
153.47
166.54
182.35
200.16
212.61
217.91
223.90
228.73
229.62
231.63
228.19
224.76
220.89
214.73
210.30
204.40
195.89
185.81
174.96
9.16
12.37
17.08
21.42
25.20
30.42
19.29
22.06
24.29
24.67
26.40
26.98
26.65
26.85
―
―
―
―
―
―
―
―
―
女
6
8.75
10.27
27.38
26.00
13.70
―
11.93
105.59
7
10.62
12.35
29.68
29.07
19.51
―
11.01
117.38
8
12.06
13.96
31.50
32.37
24.80
―
10.50
128.12
9
14.28
15.59
33.35
35.88
31.43
―
9.99
136.92
10
16.93
16.82
36.03
39.50
38.68
―
9.62
145.26
11
19.36
18.33
37.98
41.53
46.06
―
9.25
154.28
12
22.39
19.25
42.10
42.87
50.40
299.77
8.98
164.63
13
24.75
21.44
44.26
44.83
57.28
287.34
8.80
170.32
14
26.12
21.85
45.67
45.20
56.80
291.37
8.80
171.35
15
25.76
20.10
45.62
43.94
44.71
311.22
9.10
166.55
16
26.85
21.09
46.69
44.27
47.04
311.61
9.07
167.88
17
27.53
21.52
47.35
44.37
46.66
309.00
9.01
170.77
18
27.00
19.82
45.20
44.18
45.13
326.20
9.30
167.24
19
27.45
20.53
45.34
45.03
45.27
309.82
9.15
168.25
20−24
29.00
18.89
45.11
43.16
36.84
522.00
―
168.09
25−29
29.28
17.99
44.70
42.96
34.19
527.23
―
166.59
30−34
29.86
17.25
44.68
42.53
31.57
525.64
―
164.91
35−39
30.08
16.79
44.49
42.22
29.55
529.74
―
163.29
40−44
30.39
16.49
44.53
42.07
28.36
530.61
―
160.47
45−49
29.64
15.28
43.80
40.62
24.89
535.39
―
154.56
50−54
28.36
13.19
43.13
37.96
20.99
548.55
―
144.52
55−59
27.08
10.87
42.18
35.18
17.74
562.39
―
135.70
60−64
25.63
9.26
41.26
32.37
14.89
585.73
―
125.38
注) 1)12∼19歳はシャトルランと持久走、20∼64歳はシャトルランと急歩のどちらかを選択
2)6∼11歳はソフトボール、12∼19歳はハンドボール
139
5.83
7.61
9.55
12.31
14.80
17.19
12.53
13.92
14.56
14.10
14.52
14.81
14.15
14.60
―
―
―
―
―
―
―
―
―
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設ロボットシンポジウム論文集、pp.249∼258、2000.7
6) 古屋他:「高層 RC 造建物自動化建設システム『BIG CANOPY』の開発と実用化」、大林
組技術研究所報、No.55、pp.29∼38、1997.7
7) 古屋他:「BIG CANOPY」の開発と実用化(その 2)―システムの改造と 3 工事への適
用結果―、大林組技術研究所報、No.61、pp.45∼50、2000.7
8)星野春夫:「次世代ロボット技術に関する調査研究」、第 15 回建築施工ロボットシンポ
ジウム予稿集、
(社)日本建築学会 材料施工委員会 建築生産自動化小委員会、2004.1
9)「人口減社会と建設業」、建設人、(株)建設人社、2006.1
10)「体力・運動能力調査報告書」、文部科学省スポーツ・青少年局生涯スポーツ課
140
7
維持管理技術
はじめに
平成17年11月に発覚した耐震偽装問題や欠陥住宅・マンション,管理不十分な膨大
な建築物、阪神大震災における建築物の崩壊など建築物の欠陥が目立つようになり、建築
物の維持管理技術が社会一般の関心が集まっている。特に小子高齢化の時代を迎えて,新
築工事優先から良い建築物を長く持たせようようとする長寿命化が唱えられ,建物の維
持・管理・調査・診断・補修・補強への関心は専門家だけでなく一般の人々まで集まって
いる。
小子高齢化に向かう我が国は建築物の構造、設備など複雑化・高度化してきて、その維
持管理には構造・仕上げ・空調・衛生設備などの知識や適切な取扱いが必要となっており,
維持管理技術の現状の調査を行った。
7.1 構造体の維持管理技術
7.1.1 コンクリート強度
戦後60年間の間に使用された概算数量は90億 m 3 以上と推定され、さらに昭和30
年代以降の高度成長期に建設構造物は集中して構築され、技術者、職人の不足、管理の不
十分、コンクリートは施工不十分でも強度に問題が生じないなどの現場での耐久性軽視の
傾向により、劣化の著しい構造物が膨大な建設量として現存しており、維持管理のおける
コンクリート強度は重要である。
コンクリートを長寿命化させるには、コンクリートの現状の品質、性状を調査し把握す
ることが必要である。
維持管理におけるコンクリート強度の調査方法としては以下のものがある。
1) Φ 1 0 0 コ ア サ ン プ ル に よ る 圧 縮 強 度 試 験 ( JISA 1108 コ ン ク リ ー ト 圧 縮 強 度
試験法)
2) 小径(50mm 以下)コアサンプルによる圧縮強度試験(Φ22.5×45 標準体 ソフ
トコアリング協会基準、日本大学小径コアによる試験基準)
3) 超小径コアサンプリングによる圧縮強度試験(千葉工業大学+独立法人土木研究
所によるΦ10×20 コアによるコンクリート圧縮強度試験方法の評価手法)
4) 反発度法によるコンクリート圧縮強度試験(JIS A 1155 コンクリート反発度の測
定方法)
5) ボス供試体による構造体コンクリートの圧縮強度試験
6) 引抜き法によるコンクリートの表層強度試験
7) 引っかき傷によるコンクリートの強度試験
8) 超音波によるコンクリート強度試験
9) 衝撃弾性波によるコンクリート強度試験
10)接触抵抗によるコンクリート強度試験
11)表面波をよるコンクリート強度試験
12)電磁波によるコンクリート強度試験
13)その他(局部破壊によるコンクリート強度試験)
以上、コンクリート強度試験には各種の試験方法があるが、維持管理に一般的に使用
されている方法は1)Φ100コアサンプルによる試験、2)小径コアサンプルによる
試験、4)反発度法による試験が使用されている。他の方法は今後の技術の改良と一般
的に使用されるための調査方法の普及が必要である。
141
7.1.2 コンクリートの中性化進行
新しいコンクリートは、セメントの水和生成物である水酸化カルシウムを多量に含ん
でいるため高いアルカリ性を示すが、経年とともに空気中の炭酸ガスなどが硬化セメン
トペーストの細孔中に浸入し水酸化カルシウムと反応し炭酸化カルシウムなどになり、
コンクリートのアルカリ性が低下していく現象を中性化といい、鉄筋のさびの進行を促
進し構造体の劣化を早めため、維持管理として重要なものである。
特に近年問題となっているシャブコンと言われる加水コンクリートが中性化進行を
著しく進行させ劣化を促進させるため重要は調査である。
調査方法としては以下のものがある。
1) はつりによる中性化進行試験(JISK フェノールフタレン1%溶液による試薬試
験方法通則 4.3 指示薬)
2) コアサンプリングによる中性化試験(JISA 1113 コンクリートの割裂試験方法)
3) ドリルによる中性化試験(NDIS3419 ドリル削孔粉を用いたコンクリート構造物
の中性化試験)
4) 示差熱重量分析による中性化試験
5) 粉末X線回析装置による中性化試験
6) X 線マイクロアナライザー装置による中性化試験
7) AE 法による炭酸化コンクリートの定量的損傷度評価による中性化試験
8) 酸塩基指示薬による中性化試験(武蔵工業大学による中性化試)
中性化進行測定試験の方法としては上記の試験方法が行われているが、維持管理に一
般的に使用されている方法は、1)はつりによる試験、2)コアサンプルによる試験が
行われており、一部(土木構造物など)に3)ドリルによる試験が用いられている。
7.1.3 コンクリート中の鉄筋腐食状況
鉄筋腐食は、コンクリート中の鉄筋の電気化学反応による変化であり、コンクリート
が炭酸イオンと反応し中性化し PH 値が下がり、鉄筋が陽極部に移行して腐食現象が起
こる。また、コンクリート中の塩素イオンにより鉄筋に腐食現象が起こる。
鉄筋の腐食現象は鉄筋コンクリート構造物の耐力、耐用年数に大きな影響を与えるた
め維持管理に必要な調査である。
調査方法としては以下の方法がある。
1)
はつりによる鉄筋腐食状況(JSI-SCI コンクリート中の鋼材の腐食評価方
法)
2)
自然電位法による鉄筋腐食状況(ASTMC876)
3)
分極抵抗法による鉄筋腐食状況
4)
電気抵抗法による鉄筋腐食状況
5)
交流インピーダンス測定による鉄筋腐食状況
6)
マクロセル腐食速度推定による鉄筋腐食状況
7)
鉄筋腐食モニタリングによる鉄筋腐食状況
鉄筋腐食状況の試験方法としては上記の試験方法が行われているが、維持管理に一
般的使用されている方法は、1)はつりによる腐食状況が行われており、一部に2)
自然電位法、3)分極抵抗法が土木構造物を主として使用されている。
142
7.1.4 塩化物イオンによる塩害状況
鉄筋コンクリート構造物に含まれる塩化物は、鉄筋の腐食進行などを促進させ、鉄筋
コンクリート構造体としての耐力、耐用年数に性能に大きな影響を及ぼすので、塩化物
イオンの含有量の調査をし、塩害状況を評価することは維持管理に必要な調査である。
特に海岸に林立する観光ホテルなどに使用された軽量コンクリート、洗浄が不十分な
海砂の使用された構造物が大きな影響を受けていることがあるので注意が必要である。
調査方法としては以下の方法がある。
1) 全塩分定量による塩害状況
1)―1塩化物イオン選択性電極を用いた電位差滴定法
1)―2クロム酸銀―吸光光度法
1)―3硝酸銀滴定法
2)可溶性塩分定量による塩害状況
2)−1塩化物イオン選択性電極を用いた電位差滴定法
2)−2クロム酸銀滴定法
塩化物イオンによる塩害状況の試験方法としては上記の試験方法が行われているが、
維持管理に一般的に使用されている試験方法として、1)全塩分量による試験、2)可
溶性塩分量による試験とも使用されている。
7.1.5 アルカリ骨材反応状況
アルカリ骨材反応は骨材中
アルカリ骨材反応は骨材中にある限度以上の反応性成分が存在し他の条件などが成立し
た場合に構造物に損傷を与える。その損傷は長期にわたってゆっくりと進行し構造体に致
命的な損傷を与えるため維持管理においても必要な調査である。
1) コアの残存膨張量試験(JCI−DD2法、カナダ法、デンマーク法)
2) 岩種判定(偏光顕微鏡、X 線回析、SEM−EDXA、赤外線吸収スぺクタル分析)
3) アルカリシリカ反応性判定(化学法、モルタルバー法)
4) アルカリシリカゲルの判定(化学成分分析、SEM-EDXA、硝酸ウラニル蛍光法)
5) アルカリ量判定(水溶性アルカリ、酸溶性アルカリ)
6) 力学的性質判定(圧縮強度、引っ張り強度、弾性係数、超音波パルス速度)
7,1,6 振動状況
振動など荷重によるコンクリート構造の性能変化にたいしても維持管理に必要は調査
な調査である。
1) 強制振動試験
2) 常時微動試験
7.1.7 たわみ、傾斜状況
建物の不同沈下などによる傾斜などに対しても維持管理の必要な調査である。
1) 載荷試験
2) レベル測定(不同沈下測定)
143
7.1.8 凍害状況
コンクリートの凍害は古くて新しい問題である。AE 剤はコンクリートの耐凍害性の
向上を目的として開発されたものである。この AE 剤によりコンクリートの凍害は大幅に
軽減されるはずであったが、凍害の発生は相変わらず寒冷地の重大な問題であり、維持管
理上からも寒冷地においては必要な調査である。
1) コンクリート圧縮強度試験
2) コンクリート中性化進行状況試験
7.1.9 化学的腐食劣化状況
化学的腐食による劣化は、一部温泉地帯や酸性河川流域を除き一般の人々には問題が
ないが、化学工場、食品工場、排水・汚水処理施設、下水道などでは大きな問題が発生
している。今後は酸性雨などの影響で一般の構造物も問題となる可能性があり、維持管
理の必要は調査である。
1) コンクリート圧縮強度試験
2) コンクリート中性化進行状況試験
3) 過マンガン酸カリウム・塩化バリウム混合液による試験
4) ニトロアゾ化合物 0.1%∼50%のエタノール溶液による試験
5) トリフェニルメタン化合物 0.1%水溶液による試験
7.1.10
鉄骨造
鉄骨造は全建築面積の床面積において 40%前後を占めており、住宅にみる鉄骨系住宅
は 65%以上であり鉄骨構造物の維持管理技術は重要なもとなっている。
鉄骨構造物は宿命として鋼材の腐食に支配され、腐食の管理が維持管理に占める割合
も大きい。
鉄骨構造物の耐久性は環境条件、施工性になどにより異なるが、基本的には鋼材を保
護する防食、防錆システムに大きく影響される。一部には高力ボルトの接合不良、不適
切な溶接など施工不良に左右される構造物がみられることから維持管理における調査は
必要である。
調査方法は以下の方法がある。
1) 溶接部超音波試験
2) 高力ボルト接合試験
3) 変形調査
4) 引っ張り強度試験(JISZ2241 金属引っ張り試験)
5) 硬度試験(JISR6001)
144
7.2 非構造体の維持管理技術
7.2.1 外壁の塗装
外壁の塗装のみについて維持管理のための調査を行うことはまれでひび割れ、剥離調査
の一部として行われることが多い。
調査方法として以下の方法がある。
1) 塗膜劣化調査(JISL0804 変退色用グレースケール)
2) 光沢度低下調査(光沢度計)
3) 白亜化調査(白亜化試験機)
4) 磨耗、割れ、ふくれ、剥がれ、(付着試験、クロスカット)
5) 付着力の低下(碁盤目法、碁盤目テープ法、カットテープ法)
6) 接着力の低下(建研式接着力試験機)
7) 塗膜厚さ(電磁式膜厚計、過電流式膜厚計、外側マイクロメータ、超音波膜厚計)
8) 金属面の塗膜の欠陥(ピンホール探知機)
7.2.2 外壁のタイル
外壁のタイルの剥離により落下などにより事故が多く発生し死傷事故も含まれており、
維持管理において重要な調査である。
1)テストハンマーによる打診調査
2)赤外線センサー画像処理システムによる調査
3)打音法(リペッカー)
4)簡易打撃音方式(ビートウォール)
5)ロボット式外壁診断方式
6)内視鏡による調査
7)接着試験機による方式(油圧式、板バネ式)
8)タイル目地の脆弱部有無(引掻き金物)
7.2.3
ひびわれ、欠損
ひびわれは劣化の現状を把握するには、その発生パターン、幅などにより知ることがで
きるため維持管理における必要な調査である。
1)クラックスケール
2)顕微鏡(ルーペ)によるひび割れ幅
3)赤外線装置法
4)超音波法
5)ひびわれ挙動測定(ひび割れ挙動測定器)
7.2.4
屋上防水層
屋上防水層の維持管理は建物に重要な管理であり、外部からの雨、その他の水に対する
保護を行い内部の建築空間を守ることが基本条件である。このような外観、意匠の美観性
とともに省エネルギーの観点からも断熱性能を求められるなど建築内部空間向上に防水工
法は維持管理上から重要なものになってきた。防水工法の劣化は防水材そのものが性能を
低下しておこる場合、下地及び躯体の劣化により防水材が劣化を誘発される場合、さらに
両者が併合しておこる場合など劣化の程度、状況により維持管理が難しいものとなってい
る。
145
調査方法としては以下の工法がある。
1) 引っ張り試験(JISA6008,6009)
2) 針入度試験(JISK2207)
3) 軟化点試験(同上)
4) 垂直引っ張り試験(下地との接着試験)
5) 剥離試験(180 度ピーリング)
6) 接合部のせん断接着試験
7) 接合部の水密試験
8) 劣化度試験
9) 硬さ試験(JISK6311)
上記調査は一般的に行われており、劣化の状況により調査項目を選定して行われている。
7,3
設備の維持管理技術
既存建物の維持管理において,設備関係の維持管技術は電気設備・機械設備・環境設
備などの様々な構成要素があり、その要否の判断は維持管理上だけでなく、建物の寿命に
も大きな影響を及ぼす重要な調査である。
調査方法としては以下の工法がある。
1) 電気設備機器(目視・一部触診・室内照度測定・電気抵抗測定・非接触型温度計
による表面温度測定・その他)
2) 衛生設備機器(目視・一部触診・X 線調査・内視鏡調査・一部抜き取りサンプル調
査・その他)
3) 空調設備機器(目視・一部触診・X 線調査・内視鏡調査・風量測定・その他)
4) 機械設備(超音波調査・振動系調査・熱系調査・電気系調査・その他)
設備調査は1)・2)・3)の項目においては一般的に行われており目視の状況により
調査項目を選定している。
7.4 まとめ
建物の維持管理は設計・使用材料・施工の良否・長期の保全計画に大きく影響され、
使用条件・耐用年数にあった安全性、耐久性が維持できるように管理することが必要であ
る。しかし、高度成長期の管理の不十分な建築物、膨大な建設ストックを適切に維持管理
する必要が社会的使命になってきた現状に、時代は少子高齢化を迎えている。
維持管理の技術はマニアル本、技術書だけで習得できる技術ではなく、経験のなかで知
識と伴に習得した知恵・工夫が必要であり、高い技術力とそれを応用できる人材が必要と
なり高齢化に伴う人材の活用が必要な時代である。
しかし、高齢化に伴う人材の活用は、活用する組織・人材の確保・技術の伝承など現状
の組織体制での発想では無理であり、組織体制そのもの評価基準、価値判断の根本的な意
識改革が必要な時代となってきており、その意識改革が小子化対策に結びついている。
146
8
平成 17 年度技術動向調査のまとめ
8.1 調査の概要
平成 17 年度の技術動向調査は、「研究開発推進委員会」や「技術動向調査小委員会」の
指導下、
「建築に関わる少子高齢化対応技術開発動向」をテーマとして、具体の調査研究活
動は、新たに組織された「少子高齢化対応技術動向調査委員会」で実施された。
「少子高齢
化対応技術動向調査委員会」には、建築に関する多くの技術部門からさまざまな能力を有
する専門家が小委員会委員、プロジェクト委員として参画され、第1章に総括されている
ように、限られた時間の中、きわめて精力的に多彩な調査作業を担当された。
活動内容やその結果についての詳細は、続く上記諸章に各担当委員の執筆により報告さ
れているが、本章では、委員会のまとめ役の視点から、それらについて総括的な考察をす
るとともに、残された今後の課題や研究の方向について若干言及する。
8.2 少子高齢化対応技術に関する動向調査
少子高齢化対応技術に関する動向調査の報告内容の理解を一層容易にするために、章立
てが若干前後する感はあるが、各章の観点やレベルの違いを説明し、報告内容の総括的意
味合を示す。
(1)動向調査の内容の組み立て
報告された動向調査の内容は、大きく分けて以下の3つにレベルに分けした側面に対す
る調査研究活動の結果である。3つのレベルは、研究の背景と基盤、対応の諸動向から実
際の技術内容に至る具体化の段階である。言い換えれば、少子高齢化に関するソフト技術
からハード技術への展開である。
①そもそも少子高齢化の動向とはどのような状況なのか?
(第2章 少子高齢化への人口動態)
②少子高齢化の動向下でどのような対応が考えられるか?
行政的な対応(第3章 少子高齢化の政策とその展開)
建築的な対応(第4章 建築界への要請−少子高齢化社会への対応)
③具体的な対応建築技術の現状にはどのようなものがあるか?
(第5章 計画・設計技術)
(第6章 施工技術)
(第7章 維持管理技術)
(2)動向調査の内容の意味合い
各章で報告された動向調査の内容には、それぞれ考察や結論が付されており、重複する
恐れはあるが、あえてここでは、より大きな観点から調査内容の意味合いを復習すること
とする。
①研究の背景・基盤としての人口動態
「第2章 少子高齢化への人口動態」に報告されている内容は、主として、国立社
会保障・人口問題研究所の資料であるが、その予測によれば、ごく近い将来の203
0年代にも、未曾有の少子高齢化の状況に到達し、人口減少、若年者減少、高齢者増
加が生起するとされる。一方、行政的にも、社会的にも、すでにこの問題は大きく意
識されており、制度、税制など出産、育児支援など少子高齢化の食い止めのための施
策がさまざま展開されていることは周知の通りである。
しかしながら、これらの対応は効果的であるとしても、本質的に性急な効果が期待
できないと考えられる。したがって、深刻さの受け止め方には、さまざまなニュアン
スがあるとしても、短中期的には、少子高齢化の動向は避け得ないものとして、建築
147
関連部門に限らず、色々の部門でそれぞれの対応を考えておく必要があると思われる。
②行政的な対応の方向
「第3章 少子高齢化の施策とその展開」では、国や地方自治体で展開されている
少子高齢化に関するさまざまな施策を調査した結果が報告された。行政としての細か
な努力には評価する面が多々あり、参考にもなるが、問題点もいくつか感じられる。
全体として、高齢化に関する施策はかなり以前から展開されており、その分具体の
実績も上がっているが、少子化対策については、まだ端緒についたばかりであり、具
体的な政策イメージが確立しているとは言い難い。この点に関しては、各行政体とも
きわめて類似する項目について、対応の方向性を抽象的に列挙しているに過ぎず、行
政の後追いを感じる。
行政的な対応に関連して、地方の取り組みとして NPO などの市民レベルの活動に
ついても、かなり詳細な調査が実施され報告された。これらの活動は、必ずしも体系
化されておらず、行政との連携にも不十分な面があるとの評価も加えられているが、
少子高齢化の影響を直接受止める市民自身による草の根的な活動であり、さまざまき
め細かな対応や発想のよい工夫が散見され、未来に対する大きな期待や可能性を感じ
させるてくれる研究成果である。
③建築的な対応の方向
「第4章 建築界への要請−少子高齢化社会への対応」では、
「少子高齢化対応技術
動向調査委員会」メンバー全員によるブレンストーミングの結果とそれに先立つ調査
結果を体系的、有機的にまとめた結果から、いくつかの重要な側面について、建築的
な対応の方向が報告された。
データ等による影響分析では、建設投資の減少、住宅市場の縮小、世帯規模の変化、
学校への影響、労働人口の減少、社会資本の整備状況について、数値を伴った具体の
予測がなされた。データ等による影響分析を参考にして設定されたブレンストーミン
グの内容は、多くのキーワードを2次元の評価平面に位置づける手法で分析・考察さ
れ、住宅市場の縮小、学校施設の変容、労働力への影響、維持管理への影響などに関
して、さまざまな影響と対応の方向がしめされた。さまざまな専門家のより広い視点
から集約された結果は、信頼性が高く、今後の建築技術の展開に貴重な示唆を与える
ものと考えられる。
④個別技術における対応の現状
「第5章 計画・設計技術」では、ユニバーサルデザインに関する講演の内容、バ
リアーフリーを盛り込んだ公的な計画・設計基準類に関する調査結果、ハウスメーカ
ー、材料・部品メーカーにおける技術的対応に関する調査と見学の結果について報告
された。さらに、それらについての、実施事例を多く収集して、その概要を報告して
いる。
これらの報告からは、技術的には、バリアーフリー、ユニバーサルデザイン等、
法制度的には、バリアーフリー法、ハートビル法等かなりの建築技術的の現状が存在
することが把握でき、今後の方向性も明快にされているように思えるが、そのほとん
ど全てが高齢者対応の視点での展開であり、少子化への対応については、顕示されて
いるものは、全くと言っていいほどなく、今後の対応の必要性が強く感じられた。
このような実情も反映して、この章のまとめとしては、多くの今後の課題が指摘さ
れており、これからの技術開発へ大きな示唆を与えるものと評価できる。
「第6章 施工技術」では、
(社)建設業協会「ロボット専門部会」の協力を得て開
催したパネルディスカッション「少子高齢化が及ぼす建築施工技術への影響と今後の
課題」の成果をまとめて、機械やロボットによるビル施工の自動化、内装工事の省力
148
化の現状や開発課題について報告した。
少子高齢化の傾向では、施工技術の面では、労働力の不足、技能継承の不足などの
問題が予測されており、その対応策として、高齢者や女性の活用、外国人労働力の導
入などと並んで、施工の機械やロボットの活用による施工の省力化は、考慮不可欠な
方策と考えられる。そのため、かなり早期から研究開発に着手され、たびたびの技術
改良も加えられ、多くの実績も残されており、充実した報告がなされたと言える。
しかしながら、機械やロボットに基づく施工技術は、特有な論理構成を持ち、習慣
や制度とも密接に関係し、労働者の人情や心理など非論理的な面も少なくない既存の
建設技術との連続性や適応性には解決すべき多くの困難な問題も数々横たわっており、
早期に建設技術を変革する可能性は、いまだ未知数の感がある。
「第7章 維持管理技術」では、建築物の長寿命化の必要性から、構造面における維
持管理技術の現状調査が実施され、その結果が報告された。
構造体の維持管理技術としては、コンクリートの強度、中性化、鉄筋の腐食、塩化
物イオンによる塩害状況、骨材のアルカリ反応状況、振動状況、たわみ・傾斜状況、
凍害状況、鉄骨造の耐久性など多くの観点について、調査方法等の現状が調査され、
報告された。一方、非構造体の維持管理技術に関しては、外壁の塗装、外壁のタイル、
ひび割れ・欠損、屋根防水層等について調査され、報告された。
8.3 残された課題と研究の方向
本報告書に報告された内容は、かなり広範な視野から選択された項目について、それぞ
れ可能な限りの探求をした結果であり、担当者としては、短期間の調査研究の成果として
はかなりの出来栄えであると自己評価をしている。
しかしながら、少子高齢化の動向には、行政的対応の効果による減速などまだまだ未確
定な部分もあり、また一方では、建築関連の世界はきわめて広範に亘り、検討すべき視点
も技術評価の次元もきわめて多様であるため、なすべき研究課題はまだまだ多い。
ここでは、これら残されている研究課題について、主として、大掴みな方向性を示すこ
とにより、今後の調査研究の参考に供したい。
(1)中長期的観点よりの検討の必要性
今回の動向調査作業では、参画している委員の実務上からの関心もあり、比較的短期の
開発に結びつく議論が必要と考えられ、主として、現実の技術の延長上にある動向の把握
に重点が置かれた。そのため、トレンドを巡る議論としては、比較的現実的な視点に立脚
した報告がなされ、それはそれで有意義ではあったが、少子高齢化が現代の我が国民にと
って未曾有の状況であることを認識すると、いずれ、建築技術に関する中長期的な検討に
迫られることに疑いはない。
新しい時代の潮流への対策には、従来技術の論理が必ずしも通用しないことも十分に予
想され、そう言う意味合いから、想を新たにして先行きを考える必要もある。すなわち、
難しいことではあるが、中長期的な検討では、根本的に発想の転換を図る必要があり、そ
の意味では、技術トレンドは、受動的に把握するものではなく、能動的に創りだすものと
言える。
(2)生産者の視点から生活者の視点へ
「少子高齢化対応技術動向調査委員会」への参画者は、全て建築生産側に属する研究者
と専門技術者であり、今回の動向調査作業では、主として、生産者側の情報が収集され、
本報告書で報告された。無論、生産者サイドでも生活者のニーズ把握など生活者の視点の
考慮の必要性は十分意識されており、今回の報告でも、そのような要素に対する言及がな
かったわけではない。しかしながら、ユニバーサルデザインの問題など少数の観点を除き、
同じ重みをおいて両者が議論されたわけではない。
149
少子高齢化は、所詮、人間の生態に関する変化であり、人間の生活に直接関係する状況
であることを忘れてはならない。建築や住宅に係わる技術開発の前提としては、この点を
しっかり踏まえておく必要があり、詳細な検討は、今後の重要な研究課題として残される。
少子高齢化により、生活者のライフスタイルがどのように変貌するのか、家族形態、住要
求、人生観、生活感などさらに詳しく想定する必要があり、それらに対応する空間や環境
の在り方についても、居住空間、施設空間、都市空間の全てについて技術予測をする必要
がある。
(3)物的価値・ハード技術重視から情報・サービス・ソフト技術重視へ
上記にも大いに関連するが、今回の動向調査では、技術の顕示的な側面が主要な観察対
象であり、技術を有効に動かす制度、組織、方法、コストなどの側面にまでは目が行き渡
らなかった嫌いがある。たとえば、自動施工のハード技術の詳細についての動向調査は詳
細になされたが、現行の施工組織との関係や労働者の意欲への影響などソフトな観点から
の検討には、必ずしも目を向ける余裕は無かった。このような点も、今後の課題として残
される。
新しいハード技術の定着には、ことさらソフトな観点に関する深い洞察が必要であり、
今後十分な検討がなされる必要があるが、この種の課題の追求では、工学技術のみでは対
応ができなく、社会学、心理学、人間工学、経済学など学際的な研究組織を準備すること
も不可欠であると言える。
(4)時代の諸潮流との協調
少子高齢化は、時代を画するような激烈な動向であり、我が国民の生活や経済に大きな
影響を与えることに疑問がないが、この時代を画する動向が単独で生起しているわけでは
ない。技術的な追求の深化を進めて行くと、つい目的志向が強まり、まま視野が狭くなる。
その結果、この当然の事実をつい忘却し勝ちになる。
前世紀の後半から、時代を画する潮流はさまざま生起しており、我々は現在もその流れ
の中にある。1970年代に生起した省エネルギーや省資源の問題は、いまや地球環境問
題に拡大して、ますます深刻化している。また、1980年代ごろから認識された始めた
高度情報化では、コンピュターや携帯電話などの電子機器が、我が国民の生活のレベルを
著しく向上させたり、生活の内容を大きく変貌させたりした反面、テクノストレスや個人
情報の漏洩など新たな生活問題を引き起こしている。さらに、津波のように押し寄せる経
済のグロバーリゼイションの動向は、我が国民のライフスタイルや労働慣行に劇的な影響
を及ぼしつつある。
これから開発される少子高齢化関連技術についても、そのコンセプト設定にこれらの潮
流を考え合わせる必要があるし、開発される技術は、安全性、保健性、利便性、快適性、
社会性、創造性など多面的に評価される必要があるが、このような評価においても、これ
らの時代潮流からのチェックを加える必要がある。
8.4 謝辞
本報告書を実質作成した「少子高齢化対応技術動向調査委員会」の活動期間は、半年間
程度であり、調査の目的や内容に照らして決して十分な時間ではなかったが、上記の諸章
に示されているようにかなり内容豊富な報告がなされた。これは、一重に、委員会に参加
されたプロジェクト委員諸氏の意欲的で積極的な取り組みの結果であり、プロジェクトの
まとめ役として、大いなる敬意を表して感謝するところである。プロジェクト委員諸氏に
とっては、それぞれ本来業務を抱える傍らの調査研究作業であり、活動に伴うさまざまな
辛苦については、容易に想定できるところである。
また、調査活動では、委員会活動にほかに、テクニカルヒヤリング、パネルディスカッ
ション、ブレンストーミング、見学会、アンケート調査等が実施され、多数の外部の学識
150
経験者、コンソーシアム会員から、高度な情報の提供等多大な尽力を得た。これらの方々
の氏名は、序章に掲げられているので、ここでは割愛するが、それらの協力に対して心よ
りの謝意を表するものである。
コンソーシアム事務局の事務局長松谷輝雄氏、参事須田松次郎氏、担当事務吉田藍子氏
は、委員会活動の円滑な運営や報告書の編集等事務局作業に努力されたばかりでなく、調
査研究活動の一端を積極的に担当され、意見の表明や原稿の執筆など多大な貢献をされた。
末尾ながら、これらの諸氏にも深く感謝する次第である。
151
資
料
編
Ⅰ 「建築に関する少子高齢化対応技術動向調査」に関わる主要ホー
ムページとその概要
Ⅱ
補論:労働人口の推計
Ⅲ
テクニカルヒアリング 『少子高齢化社会における建築とユニバ
ーサルデザイン』の記録
Ⅳ
建築施工ロボット化・システム化のパネルディスカッション資料
(1) 機械化・ロボット化技術の現状と課題
清水建設
(2)
技術研究所
前田純一郎氏
ビル自動化施工の現状と課題
株式会社
(3)
株式会社
大林組
技術研究所
井上文宏氏
内装工事省力化の事例
株式会社
長谷工コーポレーション
技術開発部門
岩沢成吉氏
152
Ⅰ
「建築に関する少子高齢化対応技術動向調査」関わる主要ホームページと
その概要
この「技術動向」という調査の特性のため、速報性を重んじて、インターネットを
通して様々なホームページに掲載された情報を参照している。
また、
「少子高齢化」は昨年の暮れから本年(2006 年)初旬の際立った流行用語とな
った観もあり、多くのホームページで関連情報の掲載が詳細で具体的になった。
これらの点を考慮してここでは、本調査遂行する上で参照した主要なホームページ
で本文ではあまり触れらてないものを紹介する。
1
厚生労働省
国立社会保障・人口問題研究所(http://www.ipss.go.jp/)
*少子高齢化に関わる人口動態や世帯に関わる推計は非常に充実している。さらに、
高齢化に関する文献情報、トピカルな政策と統計情報との関連を解説したものを掲
載する。
*掲載する情報は広く豊富でかつ新しい。また、ホームページから求める情報までの
アクセスも操作しやすい。
*主要な統計情報を列記する
①人口推計 2002 年 1 月(全国)、都道府県別人口推計 2002 年3月、市区町村別推計
2003 年 12 月
②世帯型別推計 2003 年 10 月、都道府県別 2005 年8月
③主要推計結果は、「人口統計 2006 年版要約」掲示されている。
2
総務省統計局(http://www.stat.go.jp/)
*「国勢調査」等法律で定められた多くの指定統計を分かりやすく掲載している。ま
た、様々な統計を分かり易く、総合的に掲載する最新の「世界の統計」、「日本の統
計」、「ポケット統計情報」も掲載している。
*本調査との関連では以下のような統計が掲載されている。
①国勢調査(5年に 1 度調査、最新 2005 年要計票による速報)
・「結果の概要」:統計結果の特徴点を概説している。
・統計表:Execell 型の file でかなり詳細な調査結果を項目別に公表している。
②土地・住宅統計調査(5年に1度調査、最新 2003 年調査結果等)
・調査結果は「日本の土地・住宅」(2006 年5月)(PDF 形式)で概説されている。
・統計表は、「全国編」の他、「大都市圏編」、「距離帯圏編」、「都市圏編」、「都道府
県編」に分割編集されている。(Excell 形式)
③労働力統計調査(毎月調査、最新 2006 年4月まで)
・人的資源=労働力の状況をタイムリーに的確に把握するため行われている。速報
性を重んじたサンプル調査であるが、2006 年5月に 2006 年4月の調査結果が把握
できる。
*その他、「産業連関表」、「家計調査」、「消費者物価指数」、「事業所・企業統計調査」
等々わが国の主要な指定統計調査を掲載している。
153
3
国土交通省(http://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/toukei-jouhou.html/)
①建築着工統計調査(業務統計で毎月公表、最新 2005 年確報)
・建築基準法に基づく。建築工事確認申請の情報を毎月集計公表する。
・速報性、正確性が求められており最新の公表は 2006 年3月分、2005 年(暦年)の
集計結果も公表している。
②建設工事施行統計調査(毎年調査、最新 2004 年実績)、建設業構造基本調査(毎年
実施、最新 2002 年)、増改築・改装等調査結果(毎年実施、最新 2003 年)等々、
わが国の建設活動、建設産業、建設工事費に関する統計調査情報はこのホームペ
ージに掲載されている。少子高齢化社会に対応した建築産業あり方を追求する上
で欠かせない情報である。
4
内閣府(http://www.cao.go.jp/)
内閣府は日本政府の統合的な政策を立案する。このため、少子高齢化に関わる各種
情報、各省庁の各種政策はここで統合されていいる。
①「少子化社会白書」(毎年公表、最新「2005 年度」)
・「概要」と「全文」を掲載している。
②「高齢社会白書(2005 年度版)」(毎年公表最新「2005 年度版」)
・「概要」と「全文」を掲載している。
③その他トピカルな少子高齢化に関わる以下の調査を掲載する。
・「少子化社会対策に関する子育て女性の意識調査」(2005 年 10 月)
・「高齢者の日常生活に関する意識調査」(2005 年7月)
・「高齢社会対策に関する特別世論調査」(2005 年 10 月)
・「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2004 年7月)
154
Ⅱ
補論:労働力人口の推計
1
分析の目的
少子高齢化深化しつつある現状で労働力人口をできるだけ正確に推計することは、わが
国の産業・経済及び社会の将来像を組み立てる上で不可欠である。本論では、平成 14 年に
公表された国立社会保障人口問題研究所の推計に基づき、雇用や賃金の制度的、慣習的状
況が大きな変化ないことを仮定して、将来の労働力人口を推計することを目標とする。
2
分析の背景
政府発表の将来の労働力人口は、別表に示すように推計されている(注1)。この推計に
基づくと女性や高齢者の就業環境がこの数年間に飛躍的に整備され、現在の非労働人口と
されている女性や高齢者の就業意欲が向上することを前提にしている。
( 生産年齢人口にお
ける労働人口比率の飛躍的上昇)。
本論では、雇用、賃金および就労上の制度や慣習が現行と大きく変化しないと仮定した
場合、労働人口はどの程度なるか把握し、将来のわが国社会像をイメージする基礎的計数
を整える。
3 分析の方法
(1) 本推計で援用した統計
本推計で参照した統計及び推計は以下の通り。
①年齢別人口
a:労働力統計−全国、年齢別(3階層)、性別、労働力人口及び人口比率、1975 年∼
2005 年平均)[総務省統計局公表]
b:国立社会保障人口問題研究所平成 14 年推計の中位値人口−全国、年齢(3階層)、
性別
(2) 計数の集約
前項で示した統計を参照し、表1に示すように集約した。
(3) 計数の検討
集約した資料を検討する。
①義務教育終了後の 15 才以上の人口は、この 30 年間緩やかに変化する。即ち、2010 年
頃 11,040 万人程度でピークになり、以降、年々、緩やかに減少し、2035 年には 11,000
万人程度になる。
②高齢化は、この 30 年急速に進む。2005 年の高齢化率は 17%だが、2035 年には、高齢
者人口 3.500 万人を超え、高齢化率 31%に達する。特に、2010 年以降の数年、高齢
化率は加速的に上昇する。
③生産年齢人口(15 才∼65 才)は既に 10 年前、1995 年にピーク、8,700 万人を記録し、
年々減少している。特に、2010 年からの数年間は年率約1%で減少する。
④労働力人口も、生産年齢人口に約3年遅れの 1998 年、6,800 万人をピークとして、緩
やかに減少し始めている。
⑤年齢人口別、性別労働人口比率を概観する。
ⅰ男子生産年齢人口の労働人口比率はこの 30 年間 82%∼85%、横ばいで推移している。
ⅱ女子生産年齢人口の労働人口比率はこの 30 年間 50%→61%へ上昇傾向で推移してい
る。
ⅲ65 才以上の高齢者層の労働人口比率は男女とも低下傾向である。特に、2000 年以降
の男性の低下が際立っている。(男:44%→29%、女:15%→13%)
155
(4) 労働人口推計上の仮定
将来の労働力人口を推計するに当たって、前述した『雇用、賃金および就労上の制度や
慣習が現行と大きく変化しな』を仮定した。すなわち、
「性別・各年齢階層別の人口の労働
人口比率は将来 30 年間、現在のトレンドを継続する。」という仮定である。
これに基づきこの 30 年間の年齢階層別、性別の労働人口比率を最小二乗法で推計し、そ
の結果を表に示す。
表2:年齢階層別(3階層)・性別労働人口比率の傾向
傾き
乗数項
2035 年の予測
値
男子 15 才∼64
84.99%
0.0164
83.987
才
女子 15 才∼64
72.76%
0.366
50.43
才
男子 65 才以上
−0.3747
20.17%
43.028
女子 65 才以上
−0.0726
11.91%
16.34
X=1,2,3,・・・・・・・・61(但し、X=1;1975 年、X=61;2035 年とする。)
算定結果の特徴を検討する。
①計算結果による各傾向線は前述の定性的傾向を正確に反映するものである。
②2035 年の予想労働人口比率は計数的に容認できる範囲にある。
4
推計結果
前項で示した方法で、2035 年までの労働力人口を推計した。その推計結果の概要を表4
及び図3に示す。
①既に減少し始めている労働人口は5年間に 120 万人∼260 万人のペースで減少し、30
年後 2035 年には約 920 万人減少し 5,740 万人となる。特に 2005 年→2010 年と 2030
年→2035 年の5年間の減少巾が大きい。
②女性生産年齢の労働人口は 2010 年頃まで増加し、その後減少していく。一方、男性
生産年齢労働人口は一定して減少し続け、2035 年には 770 万人減の 2,820 万人になる。
③高齢者の人口は急速に増加するが、その労働人口は 2020 年頃の 630 万人をピークと
して、減少に転ずる。2035 年の高齢者労働人口は 540 万人程度である。
④労働人口の女性比率 2005 年 46%から 2035 年の 48%へ上昇し、高齢者比率は 23%か
ら 21%に低下する。
表1:労働力人口の推計結果まとめ
年齢階層別人口(男)
総人口
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
総計
15歳∼64歳 65歳以上
労働人口(単位:千人)
年齢階層別人口(女)
総計
15歳∼64歳 65歳以上 65歳以上
総計
15歳∼64 15歳∼64 65歳以上 65歳以上
歳(男)
歳(女)
(男)
(女)
111,940
40,990 37,180
3,810 43,440
38,460
4,980
498 53,230
31,670 19,110
1,690
760
117,060
43,410 38,920
4,490 45,910
39,800
6,110
611 56,500
32,810 20,900
1,840
950
121,049
46,020 40,960
5,060 48,630
41,360
7,270
727 59,630
34,090 22,540
1,870
1,130
123,611
49,110 43,160
5,950 51,780
42,930
8,850
885 63,840
35,740 24,500
2,170
1,430
125,570
51,080 43,630
7,450 54,020
43,340 10,680
1,068 66,660
36,880 25,330
2,780
1,670
126,926
52,530 43,440
9,090 55,830
43,120 12,710
1,271 67,660
37,040 25,690
3,100
1,830
127,708
53,230 42,450
10,780 56,840
42,111 14,729
1,473 66,510
35,841 25,629
3,169
1,871
127,473
61,932 41,005
12,167 65,541
40,660 16,567
16,567 66,411
34,681 25,862
3,594
2,274
126,266
61,086 38,824
13,944 65,180
38,473 18,828
18,828 64,417
32,868 25,175
3,858
2,516
124,107
59,766 37,411
14,602 64,341
37,042 19,957
19,957 62,980
31,703 24,916
3,766
2,594
121,136
58,068 36,338
14,495 63,069
35,987 20,231
20,231 61,712
30,823 24,866
3,467
2,557
117,580
56,121 34,958
14,365 61,459
34,618 20,405
20,405 59,906
29,682 24,553
3,167
2,505
113,602
54,022 33,129
14,438 59,580
32,762 20,707
20,707 57,370
28,156 23,836
2,912
2,467
注1:この表は「労働力統計調査」、「国勢調査」、国立社会保障人口問題研究所:推計人口(平成14年推計中位値)から作成した。
注2:表中二重線より上は国勢調査や労働力統計調査の実績値。下は推計値である。
156
千人
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
65歳以上(女)
65歳以上(男)
15歳∼64歳(女)
15歳∼64歳(男)
10,000
0
1975
1985
1995
2005
2015
2025
2035
年次
建築研究開発コンソーシアム事務局
須田松次郎
157
Ⅲ
テクニカルヒアリング
『少子高齢化社会における建築とユニバーサルサービス』
開催日時
演 題
講演者
2006 年(平成 17 年)12 月 2 日(金)16:30∼18:30
『少子高齢化社会における建築とユニバーサルサービス』
静岡文化芸術大学 デザイン学部 古瀬 敏 教授
【講師紹介−事務局】
・静岡文化芸術大学デザイン学部教授。前職は、旧建設省建築研究所。
・建築計画学に人間工学を持ち込まれ計画学の体系化に尽力した。
・バリアフリー、ハートビル法の制定段階で中核的な役割を担った。に動かれ、半分(何
分の一か)は責任があるのではないかと言われている。
21世紀の課題、少子高齢化。
講演に先立ち講師より、ユニバーサルデザインについてどの程度御存知かとの質問が
あった。関心を若干持っている方はいるが専門家はいないので、わかっていると思われ
る事柄についても、よく説明してほしいとの依頼が、聴講者よりあった。
配布資料(4 つの図)は、人間工学百科事典(国際人間工学会編)の中の、高齢化とユニ
バーサルデザイン(universal design for ageing)の部分で使われた図である。端的に
言えば、この図にほとんどすべてが集約している。
少子高齢化、特に少子化が問題にされたのがこの 10 年位である。高齢化はもう少し
前からである。
旧厚生省人口問題研究所が、5 年毎に人口将来推計を出している。1981 年の発表では、
65 歳以上の割合のピークは 20%を少し超える程度と予想された。5 年後の 1986 年の計
算では、25%近くになるとの推計結果を得た。急速に変わっており、4 人に 1 が高齢者
になる。2030 年がピークと予想された。
この結果を受けて、政府が長寿社会改革大綱を出した。大綱を実現すべく各省が予算
を要求。住宅局が総プロ(長寿社会における居住環境の向上技術の開発)を提案し、1
年目に認められた。住宅と建築 3:都市 1 で予算配分して実施した。実施は建研であり、
第五研究部が、住宅と建築のメインを担当した。
1980 年代の半ば、福祉の街づくり要綱が出て、バリアフリーがはやった。建物をバリ
アフリーにすると、高齢者もカバーされる。一方で、住宅が抜け落ちた。
1987 年からシルバーハウジングが動き出したが、他は何もない。特養等か普通の家の
いずれかになる。1/4 が高齢者で、苦労することが予想されるため、この対策を狙った。
長寿社会対応住宅設計指針の案がで、95 年に、局長通達、課長通達、として出た。
数(絶対数)の問題が都市で潰し切れていない。トイレと休息する場所が不足 する。
車椅子を念頭に議論していた。座っている車椅子では問題にならないが、高齢者は、数
百 m おきに休憩する場所がないと、休息できず、結果、外出できなくなる。
21世紀の課題は、次の 5 点につきると考えている。
① 少子高齢化:ユニバーサルデザイン 人口推計により 2050 年にかけて変化、65 歳
以上 1/3、15 歳未満が 10%。1970 年頃高齢者の割合が 7%を越える。生産年齢人
口(15∼64 歳)が 70%にまでなった時代と比べる。
② 情報化:ユビキタス
③ 国際化:若干見えにくい
158
④
⑤
地球環境:資源エネルギー
防災:開発途上国は致命的な打撃を受ける
何ができるか、何をやらなければいけないか、建築にも関係する。
少子高齢化の利点は、絶対的な狭き門を目指さなくて良い(大学全入時代)こと。ゆ
とり。
江戸時代は 3000 万人しか支えられなかった。そこまで少なくはないが、今の人口(1
億 3000 万人)を支えられそうにない。
欠点は、経済活力が右肩上がりではなく、年金を払った分が戻ってこないこと。軟着
陸を見出さなくてならない。
経済面は、役割分担見直し(年齢給と役割給を切り離す)で若干カバーできる可能性
がある。
能
力
これまでの要求水準
今考えるべき水準
0
20
40
60
80
年齢
年齢と人間の能力の関係の模式図
【古瀬氏御提供】
緩やかな体力の衰えはカバーできない。デザインで一定程度カバーできるが、パーフ
ェクトではない。
人間がやることの本質は何か?物を移動することはマシンでできる。加齢による影響
をカバーし、取り除くため、範囲を限った動力を活用する。建築がやらなければならな
いこと、出来ることに活用する。
学習、労働、レジャー:住まい、街、生活を楽しむ
大臣告示
品確法は加齢を意識している。ベースは建築基準法。評価 1 では全く何もしていない
のと同じ。
具体的にはハートビルが出発点である。必要条件であり、十分条件ではない。延床面
積 2000 ㎡以上の建物が対象。自治体条例で上乗せできる。ただし規制できる内容は、
基準法に規定のある事柄に限定される。
アメリカの UD は、ADA 法(障害をもつ米国人のための法律)が出来てからである。
ANSI の標準がたたき台であり、ガイドラインを満たしていれば法律違反ではない。書
かれていないことをやらなくても訴えられることはないが、書いていなくてもやってく
れないと困ることはある。
建築基準法は安全と衛生を規定。高齢者、障害者の要求には、使い勝手があるが、指
定されていない。設計者にとっては、施主の考え方に左右される。
車椅子、視覚障害者対応は書いてあるが、聴覚障害者対応はほとんどない。危険があ
るということで、消防が動き出した。
159
『ユニバーサルサービス』という言葉から、全く異なる2つの使い方が検索できる
① 全国で同じレベルを確保:情報通信で議論。どこからでも手紙が出せるなど。国営
であること。
② 心のバリアフリー、心のユニバーサルデザイン:関する本が出た。接客業はそう考
えている。非常な問題である。人手をあてにするようでは不可。往々にしてユニバ
ーサルサービスと捉えられがちであり、注意が必要。
・ホテル:ユニバーサルデザインがやりやすい
・旅館:人手で対応、24 時間仲居さんが対応できるか?本来的には人をあてにし
ない。物理的な環境がないとダメであり、パーフェクトは難しい。
地方条例にまかせたのは正解であると思う。
行政と施主の交渉はシビアであり、そこまで要求されるのであれば、やめる、撤退す
る場合もある。厳し過ぎると住民にマイナスになり、サービスレベルが低下する。すべ
てハードによる対応も難しい。人々の問題もある。福祉の街づくり条例はソフトな部分
を導入することが可能。基準法は物理的にコントロールする規定のみである。例えば、
2F に EV がなくては行けないが、1F に同じ機能あれば問題はない。基準法では不適と
なる。
ユニバーサルデザイン バリアフリーをこえて
『年齢、性別、能力の如何に関わらず』、が原文、訳では、
『年齢、性別、障害の有無』
になる。私は障害がない、あの人は障害がある、と二つの類型に分かれる。自分のため
ではなく、自分とは違う人のためとなり、意識が止まってしまう。善意の恵み的になる。
アメリカでバリアフリーが導入された経緯は、第二次世界大戦による傷が目立ったこ
とにある。抗生物質ができて、救命率が上がった。それ以前は傷を負うと感染症で死亡
していた。
最初スロープを設置。それがヨーロッパにまわり、日本へ。1961 年 ANSI に標準化、
以降各国に。ヨーロッパに伝わってノーマライゼーションと連動。スウェーデンでは 70
年代後半に、建築構造に反映。アメリカ、61 年ベトナム戦争は国論を二分した戦争。第
二次世界大戦と異なり、国に殉じたとならなかったため ADA 制定が 1990 年までかかっ
た。
書かれたこと以上に注意(設計センス)が重要である。誰でも当事者になり得る可能
性がある。
障害者手帳保有者は、日本 300 万人と少ない。アメリカは人口の、10%、20%の議論
をしている。現に障害のある人をカウントすると桁違いに多い。日本では、障害者手帳
の有無でしか議論をしてこなかった。障害者の定義が広がると、そのたびに人数が増え
る。内部障害者がようやく見えるようになってきた。高齢化ははっきりしている。65 歳
以前で亡くなる人は少ない。既に母集団から外れており、必然的に長生き。
UDへの動き。
1998年 国際会議
2004年 リオデジャネイロ
2006年 京都具体的な中身が準備できていない
バリアとは?:物意的、制度的、意識(心のバリア)、文化、情報。自分以外の誰 か
に対して、お恵みと考える。都市化、核家族化により、高齢の両親、祖父母と同居しな
い。見聞きしないと理解できない。状況が変わり、自分の問題としてひたひたと迫って
くる。高齢対応が多数派になる。対応できないは論外となる。高齢化率が、ヨーロッパ
は 10 から 25%に変化。日本は 5 から一気に 30%と急激。中国、韓国は、日本に 30 年
遅れる。日本が失敗したことはやらず、成功は見習う。石の文化があることがもうひと
160
つの強みである。(図参照)
【古瀬氏御提供】
UDのための 6 つの要求条件
① 安全性(Safety):法的条件の第一。プロダクトライアビリティ
② アクセシビリティ(Accessibility):狭い意味でのバリアフリー ハートビル、交通バ
リアフリー法:不特定多数が相手、新たな法規制
③ 使い勝手(Usability):最後は利用者が決める。1 つのデザインであらゆる人をカバー
できない。例えば、自動ドアであればワンデザインが可能。高さ関係は人により異
なる。
④ 価格妥当性(Affordability):市場が答えを出す。
⑤ 持続可能性(Sustainability):新たな法規制(建築廃材法など)
⑥ 審美性(Aesthetics):デザインの領分
そろばんにのるのか(経済性)に、もうひとつの難しさがある=説得の論理
可処分所得はどこにあるか。40 年近く払った人の年金、大企業では 40∼50 万円/月。
住宅ローンも教育費もないので、現役世代よりも可処分所得が多い。その人達がお金を
使ってくれることが経済発展の鍵になる。
161
公共物
インフラストラクチャー
(まちづくり)
住宅
寿命が長い
寿命が短い
耐久消費財
消費者製品
私有物
公私と物の寿命の関係
【古瀬氏御提供】
左下(寿命が短くて、安価なもの)から右上(耐久消費財、車や家具、住宅、インフラ)。
財布と使い勝手を考えて選べるか
人手による支援
技術による自立支援
改変・付加
ユニバーサルデザイン
デザインされたもののあるべき姿
【古瀬氏御提供】
・NTT ドコモの例 楽々ホン 第一世代は数が非常に少なく、手数料が高かった。第二
世代は、普通とあまり変わらなくなった。現在は第三世代。
・高齢者、障害者が使えないものには存在価値がない。最後の選択は、改修・廃止もあ
る。
・高齢者を前提にするとユニバーサルデザインが大事になる。
・ノートパソコン:キーボードがない 10 キーパッドを買う。
・デスクトップ:A4 に収まらない。サイズが優先。カバーする方法を考える。
・電動車椅子は、常時必要な人は限られるが、必要な人には必須であり、これを提供す
るのが本当のバリアフリーである。
・全く人手に頼らないのはばかげている場合もある。夏冬物の入れ替えは、人手(ヘル
パー)で OK。Give & take も可。すべて電動にすることもない。
162
国や自治体の立場
・住まい、建物、交通、街づくりは、そこに住む税金を納める人へのサービス
・いいデザインの例(本文「5.1」写真参照)
① 温水洗浄便座:既に半分以上普及
② 段差解消浴室ユニット:フロ前がフラット化、当初反対があった。阪神淡路大震災
の復興住宅で普及、
③ ロンドンタクシー:呼べばすぐ来る。車椅子も OK(スロープがトランクにある)
④ 非接触 IC ユニット(スイカ)
⑤ 楽々ホン
⑥ ボールペン:ラバーがまかれた
⑦ 愛宕神社の男坂、女坂 EV もついた
・建築にはいくらでも事例がある
・市民は、他人の目を持って見て思う。一方、すべては出来ないので、優先順位を付け
る。ネックを特定して手を打つ。
・浮き彫り文字+トーキングサイン:赤外線センシングのナビゲーションシステム、
NEDO がお金を出してすべてつけようとしている。どれが来ても OK と開発中。
・防火・防炎扉:網入りガラスの複層化。圧力損失の和で考える。一気に煙はこない。
見通せる利点がある。
・自販機:お金も物も同じ高さに出る。
【質疑】( Q:質問及び聴衆からの意見、A:古瀬氏の回答)
Q:ロンドンタクシーはすべて対応か?
A:写真は 93 年(ベルファースト)。2000 年に向けての新型はさらに良くなった。助手
席には人を乗せない。補助椅子が回る。普通にながしているのですぐにつかまる。イ
ギリス DDA(1995 年:障害者差別禁止法)は、非常に厳しい要件で、出来ていない
と訴えられる。
・グラフを再度説明
以前は、人生 50 年の意識があった。70 代までもつか、80 代か。生物的寿命は 100 を
越える。今考えるべき水準、利用者が要求すべき水準を下げなければならない。低い
程、配慮される人の割合が増える。一方で全体のコストが高くなる。どこかでバラン
スがとられる。市場には相当なプレッシャー要因。ただし変化に気がつくのが遅いと、
取り返しがつかない。
Q:街づくりの UD を考える時期ではないか。市区町村がその推進者となるしかないが、
財源が貧しい。シルバータウンの助成では足りない。方法はあるのか?
A:死ぬまで、いったいどういう暮らしをしたいのかを考えると、お金を出せる限度が見
える。私の納めた税金を使えなければ拒否。結局こういう議論になって、合意が成立
する。大企業は本社で税金を払う。地方に落ちないためバランスしない。アメリカで
は、国防と外交を連邦政府にゆだねているが、それ以外は地方が強い。
Q:いままでのやり方では、まず基準をつくり、クリアーしないと補助金が出ない。段階
を作るべきではないか。
A:中央官庁が基準を作っているが、社会は急速に変化しており、出来たときには追いつ
かない可能性がある。技術基準や通達であれば変更しやすい。ユニバーサルサービス
といってもお金がなければできない。しかし、弱小な地方であっても一定レベルが保
てないと国全体として好ましくない。最低限を中央でやる。地方分権の到達点はそう
あるべき。
Q:アメリカと日本の違い。
A:アメリカは通販が一般的。全国に営業所を張り巡らそうとはしない。中央のコストを
カットできる。また、住民達が力をあわせてやれる事、やらなければならない事を考
163
える。完全な善意だけではどこかで破綻。Give & take であれば、一方向ではない。
Q:長寿総プロ:すべての住宅が高齢者対応でなければならない。長幼の摩擦。今の子供
は鉛筆が削れない。今の高齢者は削れた。その人たちの低下を補おうとしている。今
の子供は最初からシングルレバーの水栓。もっと低いレベルの UD が必要になるので
は。EV、動く歩道。外国ではどうか?やりすぎてしまうと、同様の問題にならないか?
A:集約化(例えば桜木町)は、人を呼んで効率的に動かそうという、純粋にビジネスの
発想。もちろん施設の存在そのものを議論することもありうる。エスカレータは、高
齢者にとって足腰が弱ると厳しい。その意味ではエレベーターでなければならない。
Q:地方は都会ほど進んでいない。高齢化は激しい。老々介護、隣近所で助けあう。ビジ
ネスになるからやっているのか。道路も都会は平滑、地方は山の中にあったりする。
衣食住の住の本質をどう考えるか?
A:スウェーデンの例、介護サービスはヘルパーがひたすらカバーする。圧倒的に移動時
間のほうが長いが、やれる間はやる。とことんダメになった時は、移るか残るか?究
極はここまでいく。
Q:過疎の村、ここに住み続けるためには、親類、近所がカバー。それが無くなれば支え
きれないはずだ。
A:地方に住む例。縁者の平屋、加齢に伴い家の中は改修した。上下できる洗面台の導入
などで対応できた。しかし、居住地では、需要がないため、介護タクシーがない。出
前がない。以前あった店が配食サービスをやめた。あるいは対応区域が限られる。コ
ミュニティーが出来ていると、顔見知りだとサポートされる。しかしポッと入った人
は難しい。最低水準を議論する必要がある。
Q:郵便局がなくなっても、預金、保険は JA で事足りるという。しかし配達が困る。50
円、80 円で可能か不透明だ。アメリカは郵便は公社のままだ。
A:少子高齢化に伴い、生産人口が減る。そうすると中国との賃金格差を利用して外国人
労働者を雇うという選択もないわけではない。
Q:イギリスやフランスについては、経済原理としては考えられるが、メンタリティーの
面では? 介護の外国人導入は日本でうまくいくか?
A:軟着陸点が分からない。ドイツはトルコから入っているが、ネオナチによる反発が出
ている。イギリスは、パキスタン等からの移民。以前はゆるかったが、定住要件を厳
しくした。以前から、住民の間の対立はあった(1970 年代末においてすでにパキスタ
ン系が蔑視されていた)。
A:日本では、バブルの時、あらゆる国から入って来た。研修生として、イランなどから
来たが、言葉が分からない。今は日系人(メキシコ、ペルー、ブラジルへ移住した人
の 2 世、3 世)を特例で入れ、就労ビザを与えている。浜松は日系ブラジル人の実数
が多い。スズキ、ホンダ、ヤマハなどに入る。公営住宅に入れるし、数が増えたので、
自治会の活動にも入ってもらう。Give & take で少しずつ溶け込みつつある。
Q:介護する若者がものすごく減るため、中南米では難しい。中国になるか?
A:看護士はフィリピンから入れる仕組みを整えつつあるが、まだ日本へはハードルが高
い。香港や台湾などでは既に入っているはずだ。通産省がかつて提唱したシルバーコ
ロンビア(高齢者の海外移住)は、少しずつ増えている。たとえばタイのバンコクは
医療水準も高い。対価を払えばあり得る。日系 2 世は、外見は日本人でも、気質が相
当違う。つまり非日系人の出稼ぎ、移民問題と何ら変わらないことになる。この点を
見失ってはならない。
164
Ⅳ 建築施工ロボット化・システム化パネルディスカッション 資料
日 時:平成 18 年 2 月 10 日(金) 15:00∼17:00
場 所:トリトンスクエア Z棟 4 階 フォーラム
出席者:(敬称略)
【パネリスト】 (社)建築業協会「ロボット専門部会」委員
時岡誠剛(熊谷組;ロボット専門部会主査)、三浦延恭(国士舘大学教授)、
前田純一郎(清水建設)、井上文宏(大林組)、岩沢成吉(長谷工コーポレーション)
【フロアー】
建築研究開発コンソーシアム 技術動向調査 PJ 委員
委員長
宮田紀元(千葉大学工学部教授)
副委員長
末石伸行(JFE スチール:動向調査対応小委員会主査)
対応小委委員 濱根潤也(関西電力)、鰐渕憲昭(熊谷組)、
市川昌和(鉄建建設)、安藤達夫(三菱化学産資)、
委 員
黒木美博(旭化成ホームズ)、吉野摂津子(大林組)、
磯貝光章(熊谷組)、村江行忠(戸田建設)、古田智基(バンドー化学)、
須賀昌昭(フジタ)、小野澤佳代子(三井住友建設)、
石橋孝一(三井住友建設)、三上藤美(Ⅱ種情報会員)
事務局
松谷輝雄、須田松次郎、吉田藍子
次
第:
(1)挨拶および主旨説明(動向調査 PJ 宮田紀元 委員長)
(2)パネリスト紹介(ロボット専門部会 熊谷組 時岡誠剛 主査)
(3)パネリストからの説明および質疑応答(司会 国士舘大学 三浦延恭
・機械化・ロボット化技術の現状と課題(清水建設 前田純一郎 氏)
・ビル自動化施工システムの現状と課題(大林組 井上文宏 氏)
・内装工事の省力化技術(長谷工コーポレーション 岩沢成吉 氏)
(4)ディスカッション〈補足説明および質疑応答含む〉
・建設技能者減少にともなう今後の技術動向について
(5)まとめ
(三浦延恭
165
教授)
教授)
(1)清水建設(株)
「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
少子高齢化が建築施工技術に及ぼす影響
と今後の課題
日本の建設会社における機械化・
ロボット化研究開発の経緯と現状
①機械化・ロボット化技術の現状と課題
平成18年2月10日
清水建設(株)技術研究所
前田純一郎
建築生産におけるロボット化の経緯
ロボット化の狙いと効果
(1980年代)
・作業環境の改善 ○
(悪環境作業からの解放)
・労働災害の低減 ○
(危険作業からの解放)
・施工品質の確保 ○
(熟練工に依存しない)
・生産性の向上
△
(工数の削減、工期の短縮)
生産性向上、3K追放を目指す建設用ロボットの開発
日本建築学会、土木学会、建築業協会の委員会活動開始
1990年代までに、約150機種開発(日本建築学会調査)
(開発された主な機種)
躯体:鉄骨玉外し、鉄骨溶接、耐火被覆吹付け、
鉄筋配筋、コンクリート床仕上げ、コンクリート打設
仕上:外壁塗装、天井ボード貼り、パネルハンドリング
検査:外壁タイル検査、クリーンルーム検査
メンテナンス:ガラス清掃、床清掃
開発された建築作業用ロボット
Stage
Structure
Work
Reinforced
Concrete
Steel Frame
Exterior
Finishing
Interior
Finishing
Maintenance
Dismantlement
Common
Exterior Wall
Wall
Floor
Ceiling
Equipment
Inspection
Cleaning
Renewal
Concrete
Transportation
Construction Robots
Reinforced bar processing, Reinforced bar
assembly, Concrete distribution, Concrete
leveling, Concrete finishing
Frame remote releasing, Erection accuracy
measuring and adjustment, Heavy parts
handling, Column welding, Girder welding,
Fire-proof spraying
Exterior wall spraying, Multi-purpose wall
work, Lifting equipment for PC panel,
Lifting and assembling of curtain wall panel,
Assembly of glass panel
Light weight panel handling, Wall spraying
Grinding and cleaning of floor surface
Ceiling wall panel placing
Ceiling lighting fixtures and piping
Wall tile exfoliation, Clean room inspection,
Ducts deterioration inspection
Glass cleaning
Earthquake-proof reinforcement, Wall
surface finishing removal
Water-jet concrete cutting
Finishing material transportation
躯体作業用ロボット開発例
Number
30
25
23
7
2
5
3
17
溶接ロボット(清水)
6
5
3
14
コンクリート床仕上げ
ロボット(竹中)
(日本建築学会 建築生産自動化小委員会調査)
166
コンクリート床仕上げ
ロボット(鹿島)
耐火被覆吹付け
ロボット(清水)
(1)清水建設(株)
「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
仕上作業用ロボット開発例
検査用ロボットの開発例
外壁パネルハン
ドリングロボット
(鹿島)
外壁タイル剥離調査診断
ロボット
点検虫(大林)
天井パネル取付け
ロボット(清水)
タイル剥離調査
(熊谷組)
ウォール・バグPRO
(第一建築サービス)
外壁吹付けロボット(清水)
外壁吹付けロボット(大成)
建築生産におけるロボット化の経緯
(1990年代)
ビル自動施工システムの開発例
ビル全体の施工自動化を目指すシステムへの取組み
ビルの作り方を含めた新しい施工システムの提案
建設会社8社12システム開発、20現場以上に適用
(技術の特徴)
自動化・工業化・情報化技術の統合
作業環境の全天候化
搬送や組立て、接合などの自動化
積層工法、ユニット化・プレハブ化工法
情報管理システムの統合
シャトライズ工法(鹿島)
ABCS工法(大林)
スマート工法(清水)
他のパネラーから報告予定。
環境保全:ダイオキシン除去ロボット
建築生産におけるロボット化の経緯
(2000年代)
バブル崩壊後、建設需要低迷に伴い、受注競争が激化
コスト効果や性能、取扱性などへの要求が増大
環境保全、リニューアル関連クローズアップ
(研究開発の取組みの変化)
ビル自動施工システムの簡易化(コストダウン)
建築作業用ロボットはスローダウン
環境保全関連の取組み
リニューアル関連の取組み
災害復旧対応など新しい動き
五洋建設
東急建設
飛島建設
167
(1)清水建設(株)
「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
リニューアル作業用ロボット
リニューアル工事機械化・自動化調査研究
外壁調査・補修工事の機械化システム
耐震補強工事の機械化システム
アンカー穿孔(戸田)
ベースマシンと作業ア
タッチメント構成案:
壁面仕上げ材剥離
(西松)
補修作業サイクルの
自動化案:
・Inquiry of laying
・Drilling
・Drilling
・Driving of pin
・Injection of resin
外壁塗膜剥離
(竹中)
・Injection of resin
・Driving of anchor
鉄骨ハンドリング(戸田)
(BCSロボット専門部会報告書より)
建築用ロボット実用化の現状
遠隔操作ロボット
噴火、震災、水害
などの復旧作業
ブルドーザを遠隔操作で
運転するロボット
実用化レベルに到達した建築用ロボット調査:
鉄骨自動玉掛け外し装置
普賢岳の土石流の危険の
中で活躍するロボット
パネルハンドリング
ロボット
コンクリート床仕上げ
ロボット
遠隔操作:ロボQ
(国土交通省・フジタ)
BCSロボット専門部会(1997年)実施
普通の建設機械に乗
せるだけで無人運転
ができる
150機種中、21機種・・・・・数少ない
(また、約40機種が、数現場で実施された)
普及阻害要因の調査分析例
ロボット普及の阻害要因
開発したロボットについて普及しなかった要因を分析(清水建設)
システムやロボットの機能に関わる要因
(処理能力、品質、取扱性、操作性、等)
システムやロボットを使用する現場条件に関わる要因
(設置・撤去、施工コスト、汎用性、安全性、等)
サブコン、協力業者との関係に関わる要因
(業者のメリット、作業者の意欲、等)
システムやロボットの運用に関わる要因
(メーカ・リース会社の意欲、メンテ・トラブル対応体制)
建築構工法や建設需要に関わる要因
(設計の適合性、繰返し度、工事量、等)
ロボット普及の阻害要因の機種別分析結果
(数字は%) 2001年6月
機種名
A
B
C
D
E
吹付け
作業区分
F
G
ハンドリング
H
コンクリート
I
J
溶接
搬送
計
ロボットの機能
に関する要因
40
20
60
30
20
50
20
30
40
40
350
30
10
20
30
70
40
30
20
10
20
280
10
0
15
10
10
10
40
40
10
10
155
10
20
5
10
0
0
10
10
30
20
115
10
100
50
100
0
100
20
100
0
100
0
100
0
100
0
100
10
100
10
100
100
1,000
阻害要因
現場条件
に関する要因
サブコンや協力
業者との関係
に関する要因
ロボットの運用
に関する要因
構工法や需要
に関する要因
計
168
(1)清水建設(株)
「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
建築の固有条件とロボット技術
・非定型作業 →センシング、認識、遠隔操作、
・繰返し性少ない →センシング、認識、マニピュレータ、
・種類が多く、複雑 →センシング、マニピュレータ、
・作業場所が分散 →移動機構、不整地歩行、動力源、
・協調作業が多い →コミュニケーション、信頼性、
・大型重量部材 →ハンドリング、位置決め、
・自然環境下 →耐久性、耐候性、不整地歩行
清水建設におけるロボット研究開発
進歩するロボット技術の継続的な研究開発が必要である。
清水建設のロボット研究開発(80年代)
清水建設のロボット研究開発(90年代)
年
シールドトンネル
∼1980 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90
スマートシステム
原子炉解体
基礎研究
耐火被覆吹付
サイロライニング
床けれん清掃
鉄骨自動玉外し
鉄骨自動玉外し
天井パネル取付
コンクリート床仕上
外壁塗装吹付
鉄骨柱溶接
鉄骨柱溶接
(最近のトピック)人間型ロボットの応用研究
清水建設のロボット研究開発(2000年代)
宇宙ロボット
人間型ロボット
空間知能化
人間協調・共存型ロボット
プロジェクト
経済産業省の共同研究プロジェ
クトに参画
人間と協調によるパネル搬送
人間と協調によるパネル組立
169
視覚(カメラ)
による画像処
理システムの
開発を担当
(1)清水建設(株)
「機械化・ロボット化技術の現状と課題」
(最近のトピック)空間知能化:車いすロボット
少子高齢化対策に使える技術(1)
建物(環境)に設けたRFIDタグ
から情報を獲得してロボットの
走行制御を行う。
長時間の目を痛める作業を自動化
RFIDタグによる自動走行実験
環境(園芸用柵)に設置したタグ
パネル持ち上げる
筋肉作業は機械に
ビス打ち作業は人
間が分担する。
環境(石垣)に設置したタグ
高所での危険作業
を遠隔操作で行う。
長時間の中腰での作業を自動化
歩行通路での追随走行実験
少子高齢化対策に使える技術(2)
少子高齢化に対する機械化・
ロボット化の今後の課題
外壁CWの複合ユニット化
アルミカーテンウォール
のワンタッチジョイント化
鉄骨柱接合部の仕口
の形状を変更して、機
械的に位置決めが出
来るようにする。
鉄骨梁接合部の仕口
の形状を変更して、機
械的に位置決めが出
来るようにする。
少子高齢化と労務問題
労務問題とロボットの可能性
■熟練労働者の高齢化が促進される。
■少子化
→ ①高齢者のノウハウを生かして、安全に効率よく作業できる方式。
・若年労働者の絶対数が減少する。
→ パワーアシスト技術、遠隔操作技術、集約型生産方式
・若年労働者が、「3K作業」の典型である建設業を敬遠する。
■非熟練労働者の割合が増える。
→ 若年労働者の建設業への参入が減少する。
→ ②非熟練者でも所定の作業品質を確保する作り方。
■高齢化
→ 部品化、ユニット化、プレハブ化、ロボット高機能化
■高齢者の大量リタイヤが始まる。
・高齢労働者の割合が増加する。
→ ③技術や技能の伝承。
・高齢者を中心に作業チームを編成せざるを得ない。
→ 次世代ロボットによる技能伝承
→ 能率面、安全面、肉体負担面で問題が増える。
■若年労働者の就業率が増えない。
・高齢者は、いずれやめていく。
→ ④魅力ある現場作り。 モチベーションの向上。
→ 熟練技能やノウハウが失われる。伝承されない。
→ ロボットやモバイルの組合わせ、継続的職能スキルアップ
170
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
パワーアシスト応用例イメージ
ロボット技術の研究開発事例
除去工具
除去工具ユニット
ハンドルレバー
■パワーアシスト技術
→ ウェアラブル型(筑波大学:山海研、東京理科大:小林研、など)
着脱可能な
パワーアシス
ト装置
除去工具アタッチメント
肘先用サポート
→ 作業台車タイプ(日立プラント建設:パワーアシスト台車、など)
上腕用サポート
→ 自重補償型(日立建機:屋内作業機、など)
既存昇降台車
腕をあずけるため
のアーム(パワーア
シスト)
■遠隔操作技術
取り付け、取り外し可能
→ 国土交通省 総合技術開発プロジェクト
既存昇降機構付
走行台車
粉塵回収装置
■高機能ロボット
→ 日立建機:双腕型作業機、など
吹付けアスベスト除去システム
BCSロボット専門部会報告書より引用
ミレニアム・プロジェクト
まとめ
経済産業省・厚生労働省の国家プロジェクト(H12,13年)
①高齢者のノウハウを生かして、安全に効率よく作業できる方式
■ 「高齢者の雇用・就労を可能とする経済社会実現のための
大規模な調査研究」
②非熟練者でも所定の作業品質を確保する作り方
(経済産業省)
③技術や技能の伝承支援ツール
・高齢者対応機器の設計のための高齢者特性の解明に関する
調査研究
④魅力ある現場作り・作業者モチベーションの向上
(厚生労働省)
少子高齢化から派生する上記の技術的課題に対して、方策の1
つとしてロボット技術は大きな可能性を持っていると考えられる。
・製造業における高齢者活用モデルの構築に関する研究
建設業固有の条件を踏まえた産官学による本格的な調査研究
が求められる。
・高年齢労働者の安全と健康に配慮した作業負荷の評価基準の
開発に関する調査研究、他12テーマ。
おわり
171
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
2006.2.10
発表内容
少子高齢化が建築施工技術へ及ぼす影響と今後の課題
1.ビル自動化施工システムの概略
②ビル自動化施工システム
の現状と課題
2.開発の背景と目的
3.各社の開発状況
4. ABCS、Big Canopyの開発推移と課題
5.少子高齢化への影響と今後の課題
㈱大林組 技術研究所 井上文宏
ビル自動化施工システムの概要
全天候屋根
上昇装置
揚重・搬送装置
計測技術
構・工法技術
ABCS(鉄骨構造)
施工管理
Big Canopy(RC構造)
開発の背景
開発経緯
・個別作業の自動化技術の研究開発(1980∼
技能労働者不足の解消
(熟練工不足や少子化・高齢化の進行に
よる生産年齢人口の減少)
作業環境(3K)の改善
作業者の作業
ロボット、自動機械
・自動化に適した構・工法の研究開発(1985∼
建築物の躯体工事、外壁・屋根工事
生産性の向上とともに
魅力ある生産現場に「変革」してゆく必要性
ビル自動化施工システム
(1990∼
172
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
開発の目標
開発の目的
製造業の自動化工場
・作業環境の改善
(安全、快適、清潔、苦渋作業からの開放)
・品質、工程、コストなどの安定化
(全天候化、労務平準化)
・生産性の向上(工期短縮、省人化)
・環境問題の改善
(省資源、廃材減少、公害低下、景観調和)
・自動化技術
・情報化技術
・工業化技術
建設現場における自動化工場
大林組の開発推移と稼動状況
ビル自動化施工システム開発事例
1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
システム名称
スマートシステム
(1992.11∼
T−UP工法
(1993.1∼
ABCS工法
(1993.3∼
MCCS工法
(1993.3∼
ルーフプッシュアップ工
法 (1990.9∼
AMURAD工法
(1996.4∼
BIG CANOPY
(1995.9∼
FACES工法
(1996.10∼
あかつき21
(1995.7∼
ルーフロボ工法
(1995.8∼
開発会社
適用件数
清水建設
2件
大成建設
1件
大林組
5件
前田建設工
業
2件
竹中工務店
2件
鹿島
2件
大林組
5件
五洋建設
2件
フジタ
2件
戸田建設
2件
大屋根架構
上昇装置
揚重・搬送
S工事
トロリーホイスト+ワイヤー
ガイド揚重
コア部全天候ルーフ ガイド柱(油圧ジャッキ 走行ジブクレーン+天
+外周ハット梁
内臓)+コア梁
井クレーン
仮設支柱+油圧 天井クレーン+貨物リ
最上階躯体鉄骨
ジャッキ+本設柱
フト
本設クライミング柱+油
最上階躯体鉄骨
アクティブクレーン
圧ジャッキ
仮設ハットトラス
仮設マスト+油圧
構想発表
システム改良
N工事
J工事
要素技術開発
N2工事
ABCS
システム改善
S構造
最適化
プッシュアップ装置+本 走行ジブクレーン+天
設柱
井スライドクレーン
躯体取付装置+資
1F固定プラント
プッシュアップ装置
材搬送装置
タワークレーンクライミング装 走行ジブクレーン+天
仮設屋根
置+仮設支柱
井クレーン+貨物リフト
支柱フレーム+リフトアッ
最上階躯体鉄骨
シャトルクレーン
プ装置
本体鉄骨反力+コン トロリバス+トラバーサ
最上階躯体鉄骨
ビネーションジャッキ
+自動リフト
建物コア支柱方式 全方向水平搬送+
最上階躯体鉄骨
+せり上げシステム
自動仕上げ搬送
最上階本設スラブ
*10∼30階以上の高層建物、S、SRC構造
RC構造
F工事
Big
Canopy
5∼15階程度
1993年
1998年
2001年
S工事(東京)
N工事(川崎)
J工事(大阪)
寮(10F)
事務所(26F)
ホテル(33F)
Big Canopyの開発経緯
ABCS開発の方針
1 9 8 9 1 99 0 1 9 91 1 9 9 2 1 9 9 3 19 9 4 1 9 95 1 9 9 6 1 9 9 7 19 9 8 1 9 99 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2
S工事
ABCS
(S造対象)
Big Canopy
(RC造対象)
N工事
構想発表
J工事
Y工事
工事レベルの自動化
K工事
H工事
システム開発
システム改善
プロジェクトレベルの自動化・システム化
S工事
D工事
目的
高い生産性
工期短縮
安定した作業環境
省力化
1998年
1995年
1997年
1997年
D 工事
2001年
Y 工事(千葉)
K工事(福岡)
H 工事(神戸)
(シンガポール)
S 工事(大阪)
集住(26F)
集住(20F)
集住(33F)
事務所(28F)
集住(42F)
品質安定
安全性向上
現場作業の単純化
173
方針
全天候型の作業環境
自動化・機械化
自動化・機械化に適した
構工法
情報化及び統合化
多能工化
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
ABCSシステム概要
クライミング装置
システム平面図
SCF(本設利用)
クライミング装置(B群)
ジブクレーン
貨物リフト2
クライミング装置(A群)
多能工主体の施工
外周ホイスト
SCFクレーン
SCFクレーン2
荷取ステージ
SCFクレーン3
クライミング支柱
SCFクレーン1
外周架構
貨物リフト
貨物リフト1
外周ホイスト
荷取ステージ
外周架構
総合管理システム
SCF内部状況
天候に左右されない
作業空間
飛来・落下防止
安全性の向上、周辺環境保全を実現
設備制御:SCFクレーン運行管理
作業高さ
工事管理:3D施工実績表示
1フロアに限定
仮設材の削減
堅固な作業床
安全確認、作業内容確認:ITVカメラ
内部作業状況
ABCS適用効果
在来(N工事)
ボルト本締め
鉄骨建方
HTB・溶接
床工事
仮設安全設備ほか
墨出し工事
外装工事
1階周り梱包
ABCS関連
ABCS(S工事)
ABCS(N工事)
鉄骨柱建方
0
20
40
60
80
100
労務歩掛り(N工事在来を100とする)
ハーフPCa床板敷
174
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
<N工事適用結果(アンケート結果)>
<N工事適用結果(地球環境保全)>
明るい
まぶしくない
■型枠材の削減
埃っぽくない
疲労がたまる
2
75%減
→建設廃棄物抑制
■梱包材の削減
雨天時の環境
部材のユニット化を推進
やる気の度合
休日の取得
15%減
→CO 排出量、騒音抑制
■車両台数の低減
体調の良さ
2
仮設材使用量の削減
屋根の必要性
10%減
■電力使用量の低減 →CO 排出量抑制
作業性の良さ
1.0
→CO 排出量抑制
プレファブ化の大幅な採用
暑くない
1.5
2.0
2.5
3.0 3.5 4.0
評価点(5点満点)
4.5
2
5.0
工事機械の効率的運用
5%減
Big Canopyシステム概要
RC自動化建設システム
Big Canopy
キャノピー
同調クライミング式仮設屋根架構
ABCSとは異なる技術課題
クライミング装置
• 部材接合、支保工組立解体などに細かい人手を
要する作業が多く、自動化レベルを高め難い
• コンクリート強度の発現待ちからS造のように全
天候型組立工場を建物の上に載せるのが困難
• 単位床面積あたりの建設コストがS造より小さく、
仮設費を大きくできない
天井クレーン
ポスト
並列搬送システム
貨物リフト
部材管理システムの基本構成
PCa化・多能工主体の施工
部材DB
工程計画
搬入指示
実績情報
作業指示・
データ収集
175
進捗状況把握
実績データ分析
建方計画
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
適用結果(サイクルタイム)
作業能率の向上要因
柱PCa
H工事
• 効率的な搬送による手待ち時間の減少
• 多能工の採用による作業間の無駄の減少
• 天井クレーンは風の影響を受け難い(吊り代
が短い、屋根の下では風速が減速する)
• オペレータが作業床上にいて建方状況を的
確に把握しながらクレーン操作ができる
• 壁、床PCa部材や仕上材などは貨物リフトで
一度に複数量を揚重できる
梁PCa
床PCa
バルコニー
Y工事
タワークレーン2基
0
5
10
15
20
25
時間H
P C a 部 材 の 搬 送 時 間 の 比 較 ( 24階 施 工 時 )
H 工 事 ( 柱 :36, 梁 :60, 床 :129, バ ル コ ニ ー :24)
適用効果(労働生産性)
適用結果(作業環境の改善)
BigC a nop y S 工 事
55
BigC a nop y H工 事
表面温度と外気温の測定結果
外気温
50
服装 地上
BigC a nop y K 工 事
45
服装 屋根下
温度( ℃)
BigC a nopy Y工 事
フ ル PC a化 工 法
ハ ーフ PC a化 工 法
システ ム 型 枠 工 法
鉄部 地上
40
鉄部 屋根下
35
30
在来鉄筋型枠工法
25
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
20
労 働 生 産 性 (在 来 工 法 を100)
適用効果(作業環境の改善)
10月15日
10月16日
10月17日
10月18日
10月19日
10月20日
並列搬送機器の改良
180
Maximum
最大値
145
Outdoor
地上作業
屋根下作業
Under
Roof
休息時
Rest
Minimum
最小値
140
Mean
平均値
屋根下
120
100%
休息時
60
70
80
100 110 120
90
Heart-rate(Beats/Min)
130
140
ホイスト乗移り式クレーン
心拍数
176
ブーム旋回式クレーン
(2)(株)大林組
「ビル自動化施工システムの現状と課題」
自動化施工技術の波及効果
仮設屋根架構解体時の安全性向上
実 施 項 目
・経済性
自動化・ロボット化施工の推進
プレファブ化・ユニット化の採用
多能工の採用
・品 質
覆われた空間での作業
ロボット化・情報化施工の推進
プレファブ化・ユニット化の採用
・環 境
作業空間を覆う
プレファブ化・ユニット化の採用
搬入車両の低減
ジブクレーンによるポストの解体と門形架構部分の地上への下降
及 効 果
→ 技能労働者不足の解消
→ 現場労務の削減
→ 作業人員の削減と効率化
→ 高品質の確保
→ 施工精度の向上
→ 安定した品質の確保
→ 周辺への騒音・粉塵の低減
→ 建設廃材、仮設資材の大幅低減
→ 騒音、振動、排出ガスの減少
少子高齢化への影響と今後の課題
(ビル自動化施工システムによる)
ビル自動化施工システムの課題
・生産主体:労働集約的方式
• 自動化レベルの適正化、汎用化
・様々な職種の作業者
・熟練作業者
・積上げによる技術習得
• 施工工場の組立・解体の効率化
• 最適な施工計画手法の開発
自動化中心方式
・様々な技術の多能工
・技術の習得作業者
・技術的事項の知的習得
作業者の問題:技能習得の消極性、効果不明(賃金、就業)、
職場の限定、要求技能の教育、主体性の意識
• 自動化施工に適した建築設計
・生産要素:材料の大型化、ブロック化、プレハブ化
建設機械の大型化、高性能化、多機能化
• コストダウンの検討
• 作業者(多能工)の育成
終
波
・生産環境:作業空間を全天候屋根で囲む
環境改善(騒音、振動、粉塵)、品質の向上
了
177
(3)内装工事の省力化事例
(株)長谷工コーポレーション
178
岩沢
成吉
(3)内装工事の省力化事例
(株)長谷工コーポレーション
179
岩沢
成吉
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