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IBNR備金の推計方法の精度について

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IBNR備金の推計方法の精度について
IBNR備金の推計方法の精度について
相原 浩司
要旨
IBNR備金の推計方法としては、チェイン・ラダー法、ボーンヒュッター・ファーガソン法、マック・
モデル等がある。
本論文では、これらの各推計方法の精度について論じる。
まず、仮想的な事故データに対して、途中までの年度の累計保険金から推定される最終保険金と当該
仮想データの実際の保険金とをいくつかの条件の下で比較する。
次に、当該比較結果に基づき、各推計方法を使用する際に留意すべき点について考察する。
キーワード
IBNR備金、チェイン・ラダー法、ボーンヒュッター・ファーガソン法、マック・モデル、モンテカルロ・
シミュレーション
-176-
1. はじめに
1.1. 本論文の概要
日本におけるIBNR(Incurred But Not Reported)備金(既発生未報告支払備金)の推計方法は、統
計的見積法と算式見積法に大別される。
更に、統計的見積法は、決定論的アプローチと確率論的アプローチに分かれる。決定論的アプロー
チの例としては、チェイン・ラダー法(以下「CL法」)やボーンヒュッター・ファーガソン法(以下「BHF
法」
)が、確率論的アプローチの例としては、マック・モデルが挙げられる。
算式見積法は、要積立額aと要積立額b(発生保険金の3年平均の1/12、つまり1ヶ月分)に分かれる。
本論文では、これらの各推計方法の精度について考察する。
まず、仮想の事故データに対して、
「途中までの年度の累計保険金から推計されるIBNR備金」
と
「当該仮想データの実際のIBNR備金」
をいくつかの条件の下で比較する。
次に、当該比較結果に基づき、各推計方法を使用する際に留意すべき点について考察する。
なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではない
ことをお断りしておく。
1.2. 日本におけるIBNR備金の推計の現状(筆者の理解)
筆者は、日本におけるIBNR備金の推計の現状を、以下のとおりであると理解している。
公益社団法人日本アクチュアリー会「損害保険会社の保険計理人の実務基準」第26条第2号ロでは、
「統計的な見積り方法により計算する場合には、見積り方法の選択が、チェイン・ラダー法、ボーン
ヒュッター・ファーガソン法等の統計的モデルの中から」と記載があることから、統計的見積法の中
でも決定論的アプローチがよく使用されていると考えられる。
また、ショートテール(事故発生から支払完了までが長期に及ぶロングテールでないもの)又は重
要性がない場合には、算式見積法を使用することが原則となっている。また、算式見積法で使用され
る算式は日本独自のものである。
マック・モデルでは、一定の前提の下で、累計保険金の加重平均値によるCL法の推計誤差を考慮し
ているが、BHF法や算式見積法においては、推計誤差は考慮の対象外である。
さらに、本稿の内容と関連する日本におけるIBNR備金の推計方法の概要については、付録Aで述べる。
2. ロングテールのデータによるシミュレーション
2.1.概要
本章においては、ロングテールのデータによるシミュレーションの概要、結果及びそれに関する考
察を述べる。
-177-
2.2. 事故データの概要
事故データの概要は、下記(1)~(4)のとおりである。
(1)事故件数
平均1,000件のポワソン分布に従うものとする。
(2)各事故の支払額
各事故による支払額は独立で、平均10、標準偏差2の対数正規分布に従うものとする。
(3)生成年度
下記(4)及び(5)でみるように、事故発生から(当該年度を含めて)第7年度までに支払完了する
ため、7年度分の事故データを生成する。
(4)事故発生から事故報告までの経過年数別構成比
事故発生から事故報告までの経過年数別構成比は、次表1のとおりである。
表1 事故発生から事故報告までの経過年数別構成比
経過年数
構成比
0
1
70%
21%
2
9%
(5)事故報告から支払完了までの経過年数別構成比
事故発生から事故報告までの経過年数別構成比は、次表2のとおりである。
表2 事故報告から支払完了までの経過年数別構成比
経過年数
構成比
0
1
50%
25%
2
3
4
12.5%
6.25%
6.25%
2.3. 普通支払備金の計上パターン
普通支払備金(Outstanding Loss Reserveの略で、
「OS」という。
)の計上パターンとして、下記(1)
~(3)の3種類を考える。
(1)OS据置
事故報告時に平均値を計上し、以降見直さないパターンをいう。
つまり、
OS=10(平均値)
である。
(2)OS見直し
実際の損害の規模から推計される普通支払備金を計上し、毎年見直すパターンをいう。
ここでは、
OS=実際の支払保険金
×支払までの残り年数に応じた次表3の平均・標準偏差を持つ対数正規分布に従う乱数
とする。
-178-
表3 支払までの残り年数別の平均・標準偏差
残り年数
平均
1
2
3
4
100%
100%
100%
100%
5%
10%
15%
20%
標準偏差
(3)OS完全予測
実際の支払保険金が完全に予測できているパターンをいう。
つまり、
OS=実際の支払保険金
である。
2.4. 使用する保険金等
IBNR備金の推計に使用する保険金、推計手法及びCL法及びBHF法における展開係数の算出基準は、下
記(1)~(3)のとおりである。
(1)使用する保険金
使用する保険金としては、累計支払保険金及び累計発生保険金を考える。
(2)IBNR備金の推計手法
IBNR備金の推計手法としては、CL法、BHF法及びマック・モデルを考える。なお、BHF法の予想
損害額は、毎年10,000とする。
(3)CL法及びBHF法における展開係数の算出基準
CL法及びBHF法における展開係数の算出基準としては、加重平均及び単純平均を考える。
2.5. シミュレーション回数及びツール
シミュレーション回数及びツールは、下記(1)及び(2)のとおりである。
(1)シミュレーション回数
シミュレーション回数は、10,000回とする。
(2)使用するツール
使用するツールは、Rとする。Rのプログラムは、下記付録B.1.のとおりである。
2.6. 結果
シミュレーションの結果は、OS据置、OS見直し及びOS完全予測の別にそれぞれ次表4、次表5及び次
表6のとおりである。なお、各表中「マック・モデルにおける予測誤差」とあるのは、下記付録A.8で
述べた「最終保険金の推計値の平均二乗誤差」の平方根である。
-179-
表4 シミュレーション結果(ロングテール、OS据置)
項目
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
使用する保険金
手法
算出基準
平均
-
-
-
3,899.89
208.21
累計支払保険金
CL法
加重平均
-3.00
678.88
単純平均
19.46
679.71
加重平均
-2.93
449.48
単純平均
7.35
449.49
加重平均
1.26
276.76
単純平均
5.66
276.89
加重平均
0.44
234.60
単純平均
3.69
234.62
-実際のIBNR備金
BHF法
累計発生保険金
CL法
BHF法
標準偏差
マック・モデル
累計支払保険金
-
-
672.17
133.96
における予測誤差
累計発生保険金
-
-
271.55
60.02
表5 シミュレーション結果(ロングテール、OS見直し)
項目
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
使用する保険金
手法
算出基準
平均
-
-
-
3,900.64
201.67
累計支払保険金
CL法
加重平均
-3.00
678.88
単純平均
19.46
679.71
加重平均
-2.93
449.48
単純平均
7.35
449.49
加重平均
-0.29
266.65
単純平均
4.38
266.82
加重平均
-1.00
222.28
単純平均
2.44
222.33
-実際のIBNR備金
BHF法
累計発生保険金
CL法
BHF法
標準偏差
マック・モデル
累計支払保険金
-
-
672.17
133.96
における予測誤差
累計発生保険金
-
-
265.46
62.10
-180-
表6 シミュレーション結果(ロングテール、OS完全予測)
項目
使用する保険金
手法
算出基準
平均
-
-
-
3,900.48
199.14
累計支払保険金
CL法
加重平均
-3.00
678.88
単純平均
19.46
679.71
加重平均
-2.93
449.48
単純平均
7.35
449.49
加重平均
0.49
262.43
単純平均
4.98
262.61
加重平均
-0.18
218.74
単純平均
3.12
218.80
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
-実際のIBNR備金
BHF法
累計発生保険金
CL法
BHF法
標準偏差
マック・モデル
累計支払保険金
-
-
672.17
133.96
における予測誤差
累計発生保険金
-
-
256.02
61.97
2.7. 考察
以上の結果に基づく考察は、下記(1)~(5)のとおりである。
(1)使用する保険金と精度
累計発生保険金による推計の方が、累計支払保険金による推計よりも精度が高い。
(2)使用する保険金
BHF法による推計の方がCL法による推計よりも精度が高い。予想損害額が一定であることが影響
している可能性が考えられる。
(3)CL法及びBHF法における展開係数の算出基準
加重平均と単純平均については、CL法、BHF法とも精度に大きな違いはない。毎年の平均損害額
が一定であることが影響している可能性が考えられる。
(4)普通支払備金(OS)の計上方法と精度
OS据置→OS見直し→OS完全予測の順に、精度は高くなっている。しかし、上記(2)の使用する保
険金や上記(3)の手法による精度の違いほどにはその差は大きくない。各事故がまったく均質であ
り、普通支払備金の予測精度が高いことが影響している可能性が考えられる。
(5)マック・モデルの予測誤差
マック・モデルの予測誤差は、加重平均を用いたCL法の標準偏差とほぼ同じである。
3. ショートテールのデータによるシミュレーション
3.1.概要
本章においては、ショートテールのデータによるシミュレーションの概要、結果及びそれに関する
考察を述べる。
-181-
3.2. 事故データの概要
事故データの概要は、下記(1)~(4)のとおりである。
(1)事故件数
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、平均1,000件のポワソン分布に従うも
のとする。
(2)各事故の支払額
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、各事故による支払額は独立で、平均
10、標準偏差2の対数正規分布に従うものとする。
(3)生成年度
下記(4)及び(5)でみるように、事故発生から(当該年度を含めて)第3年度までに支払完了する。
しかし、算式見積法におけるロングテール性比率の計算を歪みなく行うためには6年度分の事故
データが必要になる。
(本稿では、日本にIBNR備金の算出のロングテールかどうかのの判定を行う
ための基準となる比率を「ロングテール性比率」ということとする。ロングテール性比率とは、
支払保険金のうち当該年度とその前年度に発生した事故の占める割合である。詳細については、
下記付録A.3.参照)
したがって、ショートテールのデータによるシミュレーションでは、6年度分の事故データを生
成する。
(4)事故発生から事故報告までの経過年数別構成比及び事故報告から支払完了までの経過年数別構
成比
事故発生から事故報告までの経過年数別構成比及び事故報告から支払完了までの経過年数別構
成比は、いずれも次表7のとおりである。
表7
事故発生から事故報告までの経過年数別構成比及び事故報告から支払完了までの経過年
数別構成比
経過年数
構成比
0
1
70%
30%
事故発生から(当該年度を含めて)第3年度までに支払が完了する。
また、事故発生から(当該年度を含めて)第2年度までに支払完了する割合は、
100%-30%×30%=91%である。
ショートテールのデータによるシミュレーションでは、ロングテール性比率90%以上のパター
ンのみ抽出する。
3.3. 普通支払備金の計上パターン
普通支払備金(OS)の計上パターンとして、下記(1)~(3)の3種類を考える。
(1)OS据置
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、事故報告時に平均値を計上し、以降
見直さないパターンをいう。
-182-
つまり、
OS=10(平均値)
である。
(2)OS見直し
実際の損害の規模から推計される普通支払備金を計上し、毎年見直すパターンをいう。
ここでは、
OS=実際の支払保険金
×平均100%、標準偏差10%の対数正規分布に従う乱数
とする。
(残り年数は最大1年である。
)
(3)OS完全予測
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、実際の支払保険金が完全に予測でき
ているパターンをいう。
つまり、
OS=実際の支払保険金
である。
3.4. 使用する保険金等
IBNR備金の推計に使用する保険金、推計手法及びCL法及びBHF法における展開係数の算出基準は、下
記(1)~(3)のとおりである。
(1)使用する保険金
使用する保険金は、累計発生保険金のみを考える。下記(2)における算式見積法の要積立額a(下
記付録A.7.参照)では、IBNR備金が累計発生保険金に基づき算出されているためである。
(2)IBNR備金の推計手法
IBNR備金の推計手法は、算式見積法の要積立額a、CL法及びBHF法を考える。なお、BHF法の予想
損害額は、ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、毎年10,000とする。
(3)CL法及びBHF法における展開係数の算出基準
CL法及びBHF法における展開係数の算出基準は、加重平均のみを考える。ロングテールのデータ
によるシミュレーションで、加重平均と単純平均の間に著しい差異が見られなかったためである。
3.5. シミュレーション回数及びツール
シミュレーション回数及びツールは、下記(1)及び(2)のとおりである。
(1)シミュレーション回数
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、シミュレーション回数は10,000回と
する。
(2)使用するツール
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、使用するツールは、Rとする。Rのプ
ログラムは、下記付録B.2.のとおりである。
-183-
3.6. 結果
シミュレーションの結果は、次表8のとおりである
表8 シミュレーション結果(ショートテール)
項目
OS計上方法
OS据置
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
使用する保険金
手法
算出基準
平均
-
-
-
2,997.86
180.13
累計発生保険金
算式見積法
加重平均
2.21
212.30
CL法
2.13
232.72
BHF法
0.49
190.83
2,998.61
177.62
1.49
209.69
CL法
1.32
230.89
BHF法
-0.20
187.80
2,998.71
176.75
1.38
208.55
CL法
1.21
229.68
BHF法
-0.30
186.89
-実際のIBNR備金
OS見直し
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
-
-
-
累計発生保険金
算式見積法
加重平均
-実際のIBNR備金
OS完全予測
実際のIBNR備金
推計されたIBNR備金
-
-
-
累計発生保険金
算式見積法
加重平均
-実際のIBNR備金
標準偏差
3.7. 考察
以上の結果に基づく考察は、下記(1)及び(2)のとおりである。
(1)推計手法と精度
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、 BHF法による推計の方がCL法による
推計よりも精度が高い。予想損害額が一定であることが影響している可能性が考えられる。
また、算式見積法(要積立額a)による推計の精度は、BHF法による推計の精度とCL法による推
計の精度の中間である。
ただし、BHF法で推計しても著しく精度が向上するものではない。
そのことをみるために、データ別、OS計上方法別に実際のIBNR備金を比較すると次表9のとおり
である。
-184-
表9 実際のIBNR備金の比較
データ
ロングテールのデータ
ショートテールのデータ
OS計上方法
平均
標準偏差
標準偏差/平均
OS据置
3,899.89
208.21
5.34%
OS見直し
3,900.64
201.67
5.17%
OS完全予測
3,900.48
199.14
5.11%
OS据置
2,997.86
180.13
6.01%
OS見直し
2,998.61
177.62
5.92%
OS完全予測
2,998.71
176.75
5.89%
実際のIBNR備金について、標準偏差/平均(標準偏差の平均に対する比率)を比較すると、ロン
グテールのデータよりもショートテールのデータの方が、標準偏差/平均が大きい。
本稿は仮想データを用いたが、実際のデータにおいても、ショートテールの損害であってもIBNR
備金の推計誤差が小さいとは限らない可能性があると考えられる。
(2)実際のIBNR備金について
ロングテールのデータによるシミュレーションと同様に、BHF法による推計の方がCL法による推
計よりも精度が高い。これについても、予想損害額が一定であることが影響している可能性が考
えられる。
4. まとめ
4.1.概要
本章においては、ロングテールのデータ及びショートテールのデータによるシミュレーションの結
果を踏まえて、IBNR備金の各推計方法を使用する際に留意すべき点について考察する。
4.2.統計的見積法の使用について
本稿に用いた仮想データによるシミュレーションでは、
(1)累計支払保険金よりも、累計発生保険金を使用する方が
(2)CL法よりもBHF法を使用する方が
より精度が高かった。
IBNR備金の推計には相応の誤差が生じる可能性を認識した上で、複数の手法を比較検討することが
必要であると考えられる。
また、過去のIBNR備金の推計の精度を、実際のデータを用いて確認する必要があると考えられる。
4.3.統計的見積法の使用について
本稿におけるシミュレーションの結果、ショートテールの損害であっても、IBNR備金の推計誤差が
小さいとは限らない可能性があることが確認された。
-185-
ショートテールの損害については算式見積法が原則であるが、平成10年(1998年)大蔵省告示第234
号(以下「告示第234号」
)第2条第3項ただし書きによると、
「一般に公正妥当と認められる会計基準に
照らし、合理的かつ妥当な理由がある場合には」統計的見積法が使用できるとある。
ショートテールの損害であっても、算式見積法だけではなく、必要に応じて、統計的見積法による
推計の併用も検討すべきと考えられる。
(有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ
アクチュアリアル&インシュランス ソリューションズ)
-186-
付録A. 日本におけるIBNR備金の推計方法の概要
A.1. 支払備金の定義及び区分
支払備金とは、
「保険金、返戻金その他の給付金(以下「保険金等」
)で、保険契約に基づいて支払義務が発生したも
のその他これに準ずるものとして内閣府令で定めるものがある場合において、保険金等の支出として
計上していないもの」
(保険業法第117条)
である。
保険(特に損害保険)では、事故発生から事故報告、保険金支払までの間に長期間を要することが
あるので、その間の支払保険金の見込額を負債として計上しておく必要がある。
支払備金は、更に、普通支払備金(OS; Outstanding Loss Reserve)及びIBNR備金に区分される。
普通支払備金とは、保険契約に基づいて支払義務が発生したものであり、IBNR備金とは、まだ支払
事由の発生の報告を受けていないが保険契約に規定する支払事由が既に発生したと認めるもの(保険
業法施行規則第72条)である。
具体的に、事故発生から保険金支払までの流れと、その間の勘定科目について図示すると次図A1の
ようになる。
図A1 事故発生から保険金支払までの流れと、その間の勘定科目
IBNR備金
事故発生
普通支払備金(OS)
事故報告
保険金
保険金の支払
A.2. 計算単位とスクリーニング
IBNR備金の計算単位と推計方法は、告示第234号第2条及び別表並びに保険会社向けの総合的な監督
指針(以下「監督指針」
)II -2-1-4 (19)に規定されている。
まず、計算単位については、
「保険種類ごとに、国内元受契約、海外元受契約、国内受再契約及び海
外受再契約の引受区分ごととする。なお、保険金支払等の特性により合理的な理由がある場合は、計
算単位をさらに細分化することができるものとする。」(監督指針II -2-1-4 (19)①ア.)と規定されて
いる。
次に、各計算単位に対するIBNR備金の推計方法として、統計的見積法及び算式見積法のいずれを採
用するかの判定(以下「スクリーニング」)については、ロングテール性基準及び重要性基準に基づく
ものとされている。つまり、ロングテールかつ重要な計算単位については、原則として統計的見積法
によるものとされ、ショートテール又は重要でない計算単位については原則として算式見積法による
ものとされている。具体的なスクリーニングの流れを図示すると、次図A2のようになる。
-187-
図A2 スクリーニングの流れ
(出典: J.Furuki[2006] “Loss Reserving in Japan” 23ページ に基づき筆者作成)
A.3. ロングテール性比率の算出とロングテール性の判定
上記3.2.(3)で述べたロングテール性比率の算出方法とロングテール性の判定について例示する。
事故発生から(当該年度を含めて)経過年度第3年度までに支払が完了するとし、次表A1のとおり、
第i事故年度、経過年度第j年度目の支払保険金を𝑃𝑖,𝑗 で表す。
(第N事業年度の支払保険金は、次表A1の
網掛けのセルの合計)
表A1 事故年度・経過年度別支払保険金
経過年度
1
2
3
N-5
𝑃
,
𝑃
,
𝑃
,
事
N-4
𝑃
,
𝑃
,
𝑃
,
故
N-3
𝑃
,
𝑃
,
𝑃
,
年
N-2
𝑃
,
𝑃
,
𝑃
,
度
N-1
𝑃
,
𝑃
,
𝑃
N
-
-
,
-
このとき、
1
(
3 𝑃
𝑃
,
,
+𝑃
+𝑃
,
,
+𝑃
,
+
𝑃
𝑃
,
,
+𝑃
+𝑃
,
,
+𝑃
,
+
𝑃
𝑃
,
,
+𝑃
+𝑃
,
,
+𝑃
,
)
で計算される値を、ロングテール性比率ということとする。
ロングテール性比率が、90%未満であれば、ロングテール、90%以上であればショートテールであ
る。
-188-
A.4. 統計的見積法の概要
統計的見積法の概要を、保険金の支払が、事故発生から(当該事業年度を含めて)第3年度までに完
了する例で説明する。
累計発生保険金(累計支払保険金+普通支払備金)の履歴(ロス・ディベロップメント)を次表A2
のとおりとする。𝐶𝑖,𝑗 は、第i事故年度、経過年度第j年度目の累計発生保険金であり、直近(第3事業年
度)の累計発生保険金は、𝐶
+𝐶
,
,
+ 𝐶 , である。
表A2 事故年度別・経過年度別累計発生保険金(実績値)
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
1
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
2
𝐶
,
𝐶
,
-
3
𝐶
,
-
-
,
統計的見積法においては、ロス・ディベロップメント(及びその他の情報)から最終保険金を推計
する。次表A3で、網掛けのセルが、累計発生保険金を推計した部分であり、𝐶̂𝑖,𝑗 は、第i事故年度、経過
年度第j年度目の累計発生保険金の推計額である。
表A3 事故年度別・経過年度別累計発生保険金(実績値及び推計値)
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
1
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
,
2
𝐶
,
𝐶
,
𝐶̂
,
3
𝐶
,
𝐶̂
,
𝐶̂
,
最終保険金と直近の累計発生保険金の差(𝐶̂ , −𝐶
,
+ 𝐶̂ , −𝐶 , )がIBNR備金の推計額である。
A.5. CL法によるIBNR備金の推計
CL法とは、過去のロス・ディベロップメントに基づき推計した将来の保険金の増加度合を表す係数
(展開係数)を、直近の累計保険金に乗じて最終保険金を推計する手法である。
具体的には、事故年度別及び経過年度別発生保険金を次表A4(網掛け部分が直近の発生保険金)の
とおりとするとき、そこから推計される展開係数(𝑏 及び𝑏 )を、直近の発生保険金(𝐶 , 及び𝐶 , )
に乗じて、最終保険金を推計するものである。
(次表A5の網掛け部分)
-189-
表A4 事故年度別・経過年度別累計発生保険金(実績値)及び展開係数
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
1
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
2
𝐶
,
𝐶
,
-
3
𝐶
,
-
-
𝑏
,
𝑏
表A5 事故年度別・経過年度別累計発生保険金(実績値及び推計値)
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
1
𝐶
,
𝐶
,
2
𝐶
,
𝐶
,
3
𝐶
,
𝐶̂
𝐶
,
𝐶
𝐶̂
,
𝑏
𝐶̂
,
,
𝐶
,
𝐶
𝑏
,
,
𝑏
𝑏
ここで、展開係数としては、
(1)加重平均
𝐶
𝐶
𝑏
,
,
+𝐶
+𝐶
,
,
(2)単純平均
1 𝐶
(
2 𝐶
𝑏
,
,
+
𝐶,
)
𝐶,
(3)トリム平均
等が挙げられる。
A.6. BHF法によるIBNR備金の推計
BHF法とは、
最終保険金=累計発生保険金+予測損害額×未報告割合
として推計する手法である。ここで、未報告割合は、CLによる展開係数に基づき算出される。
具体的には、事故年度別及び経過年度別発生保険金及び展開係数を次表A6のとおりとするとき、
𝐶̂
,
𝐶
,
+ 𝑈𝐿
(1 −
𝐶̂
,
𝐶
,
+ 𝑈𝐿
(1 −
1
)
𝑏
1
𝑏
𝑏
)
として、最終保険金を求めるものである。(次表A7)
-190-
表A6 事故年度別・経過年度別累計発生保険金(実績値)及び展開係数
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
1
𝐶
,
𝐶
,
2
𝐶
,
𝐶
,
-
3
𝐶
,
-
-
𝑏
𝐶
,
𝑏
表A7 BHF法による最終保険金の導出
経過年度
1
事
故
2
1
𝐶
,
𝐶
,
2
𝐶
,
𝐶
,
3
𝐶
,
3
𝐶
̂2,3
𝐶
,
(1 −
𝐶2,2 + 𝑈𝐿2
年
度
-
̂3,3
𝐶
𝐶3,1 + 𝑈𝐿3
(1 −
1
𝑏3
)
1
𝑏2
𝑏3
)
ここで、𝑈𝐿𝑖 とは、第𝑖事故年度の予測損害額であり、
第𝑖事故年度の経過保険料×第𝑖事故年度の予定損害率
として求められるものである。
また、括弧内の式つまり、
(1 −
1
1
) , (1 −
)
𝑏
𝑏
𝑏
が、展開係数から求められる未報告割合である。
A.7. 算式見積法によるIBNR備金の算出方法
算式見積法(要積立額a)によるIBNR備金の算出方法を概説する。
事故発生から(当該年度を含めて)経過年度第3年度までに支払が完了するとし、次表A8のとおり、
第i事故年度、経過年度第j年度目の支払保険金を𝐶𝑖,𝑗 で表す。
-191-
表A8 事故年度・経過年度別累計発生保険金
経過年度
1
事
故
年
度
2
3
N-4
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
,
N-3
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
,
N-2
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
,
N-1
𝐶
,
𝐶
,
𝐶
N
-
-
,
-
このとき、第N事業年度に関して告示第234号別表の規定による要積立額aは、下記(1)及び(2)の積と
して計算される。
(1)対象事業年度の前事業年度までの直近3事業年度における既発生未報告損害支払備金積立所要額の
平均額
1
{(𝐶
3
,
−𝐶
,
) + (𝐶
,
−𝐶
,
) + (𝐶
−𝐶
,
,
) + (𝐶
,
−𝐶
,
)}
(2)単純平均
𝐶
𝐶
,
+𝐶
, +𝐶
,
+𝐶
, +𝐶
,
,
A.8. マック・モデル
マック・モデルによるIBNR備金の算出方法を概説する。
事故発生から(当該事業年度を含めて)第𝑁年度までに支払が完了するものとし、第i事故年度、経
過年度第j年度目の支払保険金を𝐶𝑖,𝑗 で表す。
さらに、下記(1)~(3)を仮定する
(1) 𝐸(𝐶𝑖,𝑘+ |𝐶𝑖, , ⋯ , 𝐶𝑖,𝑘 )
𝑏𝑘 𝐶𝑖,𝑘 (𝑖
(2) 𝑉(𝐶𝑖,𝑘+ |𝐶𝑖, , ⋯ , 𝐶𝑖,𝑘 )
𝜎𝑘 𝐶𝑖,𝑘 (𝑖
1, ⋯ , 𝑁, 𝑘
1, ⋯ , 𝑁 − 1)
1, ⋯ , 𝑁, 𝑘
1, ⋯ , 𝑁 − 1)
(3)異なる𝑖, 𝑗に対して、{𝐶𝑖, , ⋯ , 𝐶𝑖,𝑘 }と{𝐶𝑗, , ⋯ , 𝐶𝑗,𝑘 }は独立
このとき、各推計値は、下記(1)~(5)のとおりである。
(1)𝑏𝑘 の推計値𝑏̂𝑘
𝑏̂𝑘
∑𝑖= 𝑘 𝐶𝑖,𝑘+
∑𝑖= 𝑘 𝐶𝑖,𝑘
(CL法における、累計保険金の加重平均値と等しい。)
(2) 第i事故年度の最終累計保険金𝐶𝑖, の推計値𝐶̂𝑖,
𝐶̂𝑖,
𝐶𝑖,
𝑖+
𝑏̂
𝑖+
𝑏̂
𝑖+
⋯ 𝑏̂
(3)𝜎𝑘 の推計値𝜎̂𝑘
𝜎̂𝑘
1
𝑁−𝑘+1
𝑘
∑ {𝐶𝑖,𝑘 (
𝑖=
𝐶𝑖,𝑘+
− 𝑏̂𝑘 ) }
𝐶𝑖,𝑘
(4)第𝑖事故年度の最終保険金の推計値𝐶̂𝑖, の平均二乗誤差𝑚𝑠𝑒(𝐶̂𝑖, )
-192-
𝑚𝑠𝑒(𝐶̂𝑖, )
𝐶̂𝑖,
∑
𝑘=
𝑖+
𝜎̂𝑘
𝑏̂𝑘
1
1
(
+
)
𝐶̂𝑖,𝑘 ∑𝑖= 𝑘 𝐶̂𝑖,𝑘
(5)全事故年度合計の最終保険金の推計値𝐶̂
𝑚𝑠𝑒(𝐶̂ )
∑𝑖= 𝑘 𝐶̂𝑖, の平均二乗誤差𝑚𝑠𝑒(𝐶̂ )
∑ {𝑚𝑠𝑒(𝐶̂𝑖, ) + 𝐶̂𝑖, ( ∑ 𝐶̂𝑗, )
𝑖=
𝑗=𝑖+
∑
𝑘=
-193-
𝑖+
2𝜎̂𝑘
𝑏̂𝑘 ∑𝑖= 𝑘 𝐶𝑖,𝑘
}
付録B. シミュレーションで使用したRのプログラム
B.1. ロングテールのデータのシミュレーションで使用したRのプログラム
# ロングテールデータのシミュレーション
# 使用法 main(n) ←nは回数
# 事前にChainLadderのパッケージの取り込みが必要
# パラメーターの設定
mu0 <- 2.282974736
sgm0 <- 0.1980422
mu <- c(-0.00124844,-0.004975165,-0.011125304,-0.019610357)
sgm <- c(0.049968792,0.099751345,0.14916638,0.1980422)
# メイン
main <- function (number_of_trial){
prem <- 10000
elr <- 1.0
result <- NULL
for (i in 1:number_of_trial) {
base <-gen_loss(0)
paid_all <- base[,,1]
os1_all <- base[,,2]
os2_all <- base[,,3]
os3_all <- base[,,4]
tri_paid <- func_half_na(paid_all)
tri_incrd1 <- func_half_na(paid_all+os1_all)
tri_incrd2 <- func_half_na(paid_all+os2_all)
tri_incrd3 <- func_half_na(paid_all+os3_all)
true_ult <- sum(paid_all[,7])
cur1 <- sum(getLatestCumulative(tri_incrd1))
cur2 <- sum(getLatestCumulative(tri_incrd2))
cur3 <- sum(getLatestCumulative(tri_incrd3))
-194-
ult0 <- func_cld_bhf(tri_paid,prem,elr)
ult1 <- func_cld_bhf(tri_incrd1,prem,elr)
ult2 <- func_cld_bhf(tri_incrd2,prem,elr)
ult3 <- func_cld_bhf(tri_incrd3,prem,elr)
mack0 <- MackChainLadder(tri_paid)
mack1 <- MackChainLadder(tri_incrd1)
mack2 <- MackChainLadder(tri_incrd2)
mack3 <- MackChainLadder(tri_incrd3)
mackse0 <- sum(mack0[[14]])
mackse1 <- sum(mack1[[14]])
mackse2 <- sum(mack2[[14]])
mackse3 <- sum(mack3[[14]])
result <- rbind(result,
c(true_ult-cur1,ult0-cur1,ult1-cur1,
true_ult-cur2,ult0-cur2,ult2-cur2,
true_ult-cur3,ult0-cur3,ult3-cur3,
mackse0,mackse1,mackse2,mackse3))
}
return(result)
}
# 損失を発生させる関数
gen_loss <- function (dummy){
# 配列の初期化
loss <- array(0,c(7,7,4))
# loss:ロス 7行7列の行列×4
# 最初の引数(1~7)
・・・事故年度
# 次の引数(1~7)
・・・経過年度
# 最後の引数(1~4)
・・・ロスの種類
# 1:Cum Paid Loss、2:OS(定額)
、3:OS(都度見直し)
、4:OS(完全予測)
# 7事故年度分
for (k in 1:7) {
-195-
#事故件数(平均1000のポワソン分布)
num_case <- rpois(1,1000)
for (j in 1:num_case) {
# 事故報告年度(rep_y)
rep_r <-runif(1,0,1)
rep_y2 <- log(rep_r)/log(0.3)
if (rep_y2 > 2) { rep_y2 <-2 }
rep_y <- as.integer(rep_y2)
# 支払年度(set_y)
set_r <-runif(1,0,1)
set_y2 <- log(set_r)/log(0.5)
if (set_y2 > 4) { set_y2 <- 4 }
set_y <- as.integer(set_y2)
# 各ロスの金額設定(平均10、標準偏差2の対数正規分布)
ls <- rlnorm(1,mu0,sgm0)
for (i in 1:7) {
#累積支払保険金
if (i > rep_y+set_y) { loss[k,i,1] <- loss[k,i,1]+ls }
#普通支払備金(OS)
if ((i > rep_y) && (i <1+rep_y+set_y)) {
loss[k,i,2] <- loss[k,i,2]+10
loss[k,i,3] <- loss[k,i,3]+
ls*rlnorm(1,mu[1+rep_y+set_y-i],sgm[1+rep_y+set_y-i])
loss[k,i,4] <- loss[k,i,4]+ls
}
}
}
}
return(loss)
}
# CL法とBHF法の最終保険金を発生させる関数
func_cld_bhf <- function(x,prem,elr) {
-196-
# Current Lossを取得
cur <- getLatestCumulative(x)
# Value Weighted (加重平均)
# 展開係数
mult_wtd <- attr(ata(x), "vwtd")
mult_wtd <- c(mult_wtd,1.0)
ldf_wtd <- cumprod(rev(mult_wtd))
# Value Weighted (加重平均)によるCL法の最終保険金
cld_wtd <- sum(cur*ldf_wtd)
# Value Weighted (加重平均)によるBHF法の最終保険金
bhf_wtd <- sum(cur + (prem*elr) *(1-1/ldf_wtd))
# Simple (単純平均)
# 展開係数
mult_smp <- attr(ata(x), "smpl")
mult_smp <- c(mult_smp,1.0)
ldf_smp <- cumprod(rev(mult_smp))
# CL法の最終保険金
cld_smp <- sum(cur*ldf_smp)
# BHF法の最終保険金
bhf_smp <- sum(cur + (prem*elr) *(1-1/ldf_smp))
return(c(cld_wtd,cld_smp,bhf_wtd,bhf_smp))
}
# 正方行列の右上~左下対角線から下の要素をNAにする関数
func_half_na <- function(mat){
n <- ncol(mat)
for (i in 2:n){
k <- n+2-i
for (j in k:n){
-197-
mat[i,j] <- NA
}
}
return(mat)
}
-198-
B.2. ショートテールのデータのシミュレーションで使用したRのプログラム
# ショートテールデータのシミュレーション
# 使用法 main(n) ←nは回数
# 事前にChainLadderのパッケージの取り込みが必要
# パラメーターの設定
mu0 <- 2.282974736
sgm0 <- 0.1980422
mu <- -0.004975165
sgm <- 0.099751345
main <- function (number_of_trial){
prem <- 10000
elr <- 1.0
result <- NULL
for (i in 1:number_of_trial) {
ratio <- 0.0
while (ratio < 0.9){
base <- gen_loss(0)
ratio <- func_longtail(base[,,1])
}
paid_all <- base[,,1]
os1_all <- base[,,2]
os2_all <- base[,,3]
os3_all <- base[,,4]
incrd1_all <- paid_all+os1_all
incrd2_all <- paid_all+os2_all
incrd3_all <- paid_all+os3_all
true_IBNR1 <- incrd1_all[5,3]-incrd1_all[5,2]+incrd1_all[6,3]-incrd1_all[6,1]
true_IBNR2 <- incrd2_all[5,3]-incrd2_all[5,2]+incrd2_all[6,3]-incrd2_all[6,1]
true_IBNR3 <- incrd3_all[5,3]-incrd3_all[5,2]+incrd3_all[6,3]-incrd3_all[6,1]
IBNR_a1 <- func_IBNR_a(incrd1_all)
IBNR_a2 <- func_IBNR_a(incrd2_all)
IBNR_a3 <- func_IBNR_a(incrd3_all)
-199-
cld_bhf1 <- func_IBNR_cld_bhf(incrd1_all,prem,elr)
cld_bhf2 <- func_IBNR_cld_bhf(incrd2_all,prem,elr)
cld_bhf3 <- func_IBNR_cld_bhf(incrd3_all,prem,elr)
result <- rbind(result,c(ratio,
true_IBNR1,IBNR_a1,cld_bhf1,
true_IBNR2,IBNR_a2,cld_bhf2,
true_IBNR3,IBNR_a3,cld_bhf3))
}
return(result)
}
# 損失を発生させる関数
gen_loss <- function (dummy){
# 配列の初期化
loss <- array(0,c(6,3,4))
# loss:ロス 6行3列の行列×4
# 最初の引数(1~6)
・・・事故年度
# 次の引数(1~3)
・・・経過年度
# 最後の引数(1~4)
・・・ロスの種類
# 1:Cum Paid Loss、2:OS(定額)
、3:OS(都度見直し)
、4:OS(完全予測)
# 6事故年度分
for (k in 1:6) {
#事故件数(平均1000のポワソン分布)
num_case <- rpois(1,1000)
for (j in 1:num_case) {
#事故報告年度(rep_y)
rep_r <-runif(1,0,1)
if (rep_r < 0.7) {
rep_y <- 0
} else {
rep_y <- 1
-200-
}
#支払年度(set_y)
set_r <-runif(1,0,1)
if (set_r < 0.7) {
set_y <- 0
} else {
set_y <- 1
}
# 各ロスの金額設定(平均10、標準偏差2の対数正規分布)
ls <- rlnorm(1,mu0,sgm0)
for (i in 1:3) {
# 累積支払保険金
if (i > rep_y+set_y) { loss[k,i,1] <- loss[k,i,1]+ls }
# 普通支払備金(OS)
if ((i > rep_y) && (i <1+rep_y+set_y)) {
loss[k,i,2] <- loss[k,i,2]+10
loss[k,i,3] <- loss[k,i,3]+ls*rlnorm(1,mu,sgm)
loss[k,i,4] <- loss[k,i,4]+ls
}
}
}
}
return(loss)
}
# ロングテール性比率の計算
# 「対象事業年度の前事業年度までの直近3事業年度における当該事業年度の支払保険金に対する
# 当該事業年度及び当該事業年度の前事業年度に発生した保険事故に係る支払保険金の占める割
# 合の平均値が90%未満」
# 監督指針II -2-1-4 (19) ○1 ア
func_longtail <- function (mat){
# 入力行列は累積支払保険金の6(事故年度)×3(経過年度)行列
ratio <- 0
for (i in 1:3) {
-201-
ratio <-ratio+(mat[i,3]-mat[i,2])
/(mat[i,3]-mat[i,2]+mat[i+1,2]-mat[i+1,1]+mat[i+2,1])
}
return(1 -ratio/3)
}
# 既発生未報告損害支払備金積立所要額の計算
# 前事業年度までの直近3事業年度におけるそれぞれの事業年度(以下「当該事業年度」という。)
# 終了の日以前に発生した保険事故について、それぞれ次の算式により計算した金額を平均した
# 金額とする。
# 当該事業年度の既発生未報告損害支払備金積立所要額=当該事業年度の翌事業年度の支払保険金
# +当該事業年度の翌事業年度の普通支払備金-当該事業年度の普通支払備金
func_shoyogaku <- function (mat){
# 入力行列は累積発生保険金の6(事故年度)×3(経過年度)行列
shoyo <- 0
for (i in 2:4) {
shoyo <-shoyo+mat[i,3]-mat[i,2]+mat[i+1,2]-mat[i+1,1]
}
return(shoyo/3)
}
# 対象事業年度を含む直近3事業年度の発生損害増加率の計算
# 対象事業年度を含む直近3事業年度の発生損害増加率
# =対象事業年度を含む直近3事業年度の発生損害額の合計額
# ÷対象事業年度の前事業年度までの直近3事業年度の発生損害額の合計額
func_hasseizoka <- function (mat){
# 入力行列は累積発生保険金の6(事故年度)×3(経過年度)行列
return((mat[4,1]+mat[5,1]+mat[6,1])/(mat[3,1]+mat[4,1]+mat[5,1]))
}
# IBNR備金 算式見積法要積立額a
# 既発生未報告損害支払備金積立所要額×対象事業年度を含む直近3事業年度の発生損害増加率
func_IBNR_a <- function (mat){
return(func_shoyogaku(mat)*func_hasseizoka(mat))
}
-202-
# チェイン・ラダー法・BHF法(展開係数は加重平均)
func_IBNR_cld_bhf <- function (mat,prem,elr){
# 入力行列は累積支払保険金の6(事故年度)×3(経過年度)行列
# prem,elrは一定値とする
# 1年目の展開係数
bunsi <- 0
bunbo <- 0
for (i in 1:5) {
bunsi <- bunsi+mat[i,2]
bunbo <- bunbo+mat[i,1]
}
dev1 <- bunsi/bunbo
# 2年目の展開係数
bunsi <- 0
bunbo <- 0
for (i in 1:4) {
bunsi <- bunsi+mat[i,3]
bunbo <- bunbo+mat[i,2]
}
dev2 <- bunsi/bunbo
cld <- mat[5,2]*(dev2-1)+mat[6,1]*(dev1*dev2-1)
bhf <- prem*elr*(2-1/dev2-1/dev1/dev2)
return(c(cld,bhf))
}
-203-
参考文献
(a) 岡田昌史「RjpWiki」
http://www.okada.jp.org/RWiki/
(b) 奥村晴彦「統計・データ解析」
http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/stat/
(c) 竹澤邦夫「統計解析フリーソフト R の備忘録頁 ver.3.1」
http://cse.naro.affrc.go.jp/takezawa/r-tips/r.html
(d) 公益社団法人日本アクチュアリー会[2011]「損保数理」
(平成 23 年 2 月改訂)
(e) 公益社団法人日本アクチュアリー会 ASTIN 関連研究会[2013]
「アクチェアリー業務における R の活用」(会報別冊第 261 号)
(f) 公益社団法人日本アクチュアリー会[2014]「損害保険会社の保険計理人の実務基準」
(平成 26 年 3 月 3 日 改正)
http://www.actuaries.jp/lib/practice-standard/Z20140325-2.pdf
(g) J.Furuki[2006] “Loss Reserving in Japan”
http://www.casact.org/education/spring/2006/handouts/furuki.pps
(h) A.Saluz, A.Gisler, M.V.Wuthrich[2011] “Development pattern and prediction error for the
stochastic Bornhuetter-Ferguson claims reserving method” Astin Bulletin 41.02 (2011):
279-313.
(i) “ChainLadder Package Tid-Bits”
http://trinostics.blogspot.jp/
-204-
The Accuracy of IBNR Reserve Estimation Methods
Koji AIHARA
Summary
Chain ladder method, Bornhuetter-Ferguson method, and Mack model are the most commonly used
IBNR reserve estimation methods.
In this paper, the author will discuss the accuracy of these estimation methods.
First of all, the author will use hypothetical loss data and then compare the ultimate losses, which are
estimated by comparing partial years' cumulative loss data against the actual loss with several
scenarios.
Finally, based on the results, the corresponding considerations for each methods will be proposed.
Keywords
IBNR Reserve, Chain Ladder Method, Bornhuetter-Ferguson Method, Mack Model, Monte Carlo
Simulation
(Deloitte Touche Tohmatsu LLC
Actuarial & Insurance Solutions, Financial Industries Group)
-205-
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