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先進 Ni 基超合金用コーティングの開発 - J

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先進 Ni 基超合金用コーティングの開発 - J
日本金属学会誌 第 70 巻 第 2 号(2006)192195
先進 Ni 基超合金用コーティングの開発
佐 藤 彰 洋1,2
原 田 広 史1
川 岸 京 子1
1物質・材料研究機構材料研究所超耐熱材料グループ
2石川島播磨重工業株式会社航空宇宙事業本部技術開発センター材料技術部
J. Japan Inst. Metals, Vol. 70, No. 2 (2006), pp. 192
195
 2006 The Japan Institute of Metals
Development of New Coatings for Advanced Ni
Base Superalloys
Akihiro Sato1,2, Hiroshi Harada1 and Kyoko Kawagishi1
1High
Temperature Materials Group, Materials Engineering Laboratory, National Institute for Materials Science, Tsukuba 3050047
2Materials
Technology Department, Research & Engineering Division, AeroEngine & Space Operations,
IshikawajimaHarima Heavy Industries Co., Ltd., Tokyo 1888555
Advanced Nibase single crystal (SC) superalloys containing high concentrations of refractory elements prone to generate a
diffusion layer called Secondary Reaction Zone (SRZ) beneath their bond coating during exposure at high temperatures. SRZ
cause a reduction of the load bearing cross section and it is detrimental to the creep properties of thinwall turbine airfoils.
In this study, a new bond coat system ``EQ coating'' designed to be in thermodynamic equilibrium with the Nibased superalloy substrate has been proposed. Two types of EQ coating systems based on g and g′compositions on the tie line of the base alloy
(TMS82+ or TMS173) were studied and compared with a conventional bond coat. Each coating system was diffusion coupled
with the substrate material and subjected to isothermal exposure at 1100°
C for 300 hours. The results have indicated minimal interdiffusion occurred between EQ coating systems and the substrate. The EQ coating based on g′composition possesses the most
promising oxidation resistance.
(Received October 26, 2005; Accepted January 6, 2006)
Keywords: bond coat, nickelbase single crystal superalloys, Secondary Reaction Zone (SRZ), diffusion, thermodynamic equilibrium
筆者らは基材と熱力学的に平衡する成分をコーティング材
1.
緒
言
に使用することで,元素の相互拡散を完全に抑制する“平衡
相コーティング”(以下, EQ コーティングと称する)を発明
ジェットエンジンの出力と効率の向上のため,高圧タービ
した8) .本報では, EQ コーティングの概念を説明するとと
ン翼に使用される Ni 基単結晶超合金(以下, Ni 基超合金と
もに, Ni 基超合金 TMS 82 +と TMS 173 に適用した結果
略す)の耐用温度向上が進む一方,タービン翼の冷却効率向
を報告する.
上と熱遮蔽コーティング( TBC )システムの適用が図られて
いる. TBC システムは,ボンドコートと呼ばれる優れた耐
2.
EQ コーティング設計
酸化特性を有する金属コーティングと,熱遮蔽特性を有する
セラミックスコーティングで構成される.一般的に,ボンド
相が規則
Ni 基超合金は,マトリックスである g 相中に g′
コートには PtAl や MCrAlY が用いられ,それぞれ優れた
的に析出した 2 相組織を有する. Fig. 1 に( Ni, X )( Al, Y )
耐酸化特性を有することが知られている.しかしながら,
系擬二元系平衡状態図を示す. Ni 基超合金基材の組成を S
Re などを多く含む新しい世代の Ni 基超合金にそれらのボ
とすると,使用温度(ここでは 1100 °
相
C )における g 相, g ′
ンドコートを適用すると,コーティング直下に元素の相互拡
の組成はそれぞれ A,B で表すことができる.このタイライ
散に起因する二次反応層(Secondary Reaction Zone, SRZ)が
ン上の任意の合金組成を C とすると,合金 A, B, C はいず
生成し,機械的特性を低下させることが報告されてい
れも基材 S と熱力学的に平衡である.つまり,基材 S と合
る1,2).今後,高圧タービン翼は薄肉化が進み, SRZ はより
金 A, B, C の間には拡散の駆動力となる合金元素の化学ポテ
大きな影響を及ぼすと予想されるため,それを抑制する技術
ンシャルの差がない.したがって,合金 A, B, C をコーティ
が求められている.現在までに, SRZ や拡散層の生成を防
ングとして用いれば,基材とコーティング間に相互拡散は生
ぐことを目的に,拡散バリア法36) や炭化法7) などが提案さ
じないと考えられる.
れている.しかしながら,いずれも相互拡散を本質的に防ぐ
本研究では,基材として,第 2 世代 Ni 基超合金 TMS 
ものではなく,また,プロセスの複雑化が工業的に問題とな
82 +9) と Ru 入りの最新合金である 第 5 世代 Ni 基超 合金
ると考えられる.
TMS 17310) を 用 い , 上 記 コ ン セ プ ト の 適 用 を 試 み た .
第
2
号
193
先進 Ni 基超合金用コーティングの開発
結 果 と 考 察
4.
4.1
第 2 世代 Ni 基超合金 TMS82+への適用
3 種類の拡散対, AMDRY962 / TMS 82 + , TMS 82 + g /
/TMS82+を作製し,1100°
TMS82+, TMS82+g′
C/300
h の拡散実験を行った.試験後の断面観察結果を Fig. 2 に示
す . 従 来コ ー テ ィン グ の AMDRY962 / TMS 82 + 拡 散 対
(Fig. 2 (a))では,約 150 mm の拡散層および SRZ が観察さ
れた.一方,EQ コーティングの TMS82+g/TMS82+拡
/ TMS 82 +拡散対
散対( Fig. 2 ( b )),および TMS 82 + g ′
Fig. 1
tem.
Pseudobinary phase diagram for (Ni, X)(Al, Y) sys-
(Fig. 2(c))では拡散層は非常に薄く,SRZ は確認されない.
合金中に TCP 相が少量観察される
Fig. 2 ( c )において, g ′
が,この相は試験開始前から合金中に均一に分散しており,
相の組成を合金設計プログラム11)
1100 °
C における g 相, g ′
相互拡散によるものではない.この相の生成は平衡組成と作
を用いて計算し,それらをコーティング材の組成とした.ま
製組成の若干のずれに起因すると考えられが, TCP 相の体
た,比較材として実用 AMDRY962 相当のコーティング材
積率は高々 2にすぎず,拡散挙動や耐酸化挙動にはほとん
に
を用いた.さらに,耐酸化性向上のために TMS 173 g ′
ど影響を与えないと考えられる.EQ コーティングにおける
0.5 mass の Y を添加したコーティング材も用いた.本研
元素拡散を定量化するために,TMS82+g/TMS82+拡散
究で使用した合金組成を Table 1 にまとめる.
対 と TMS 82 + g ′
/ TMS 82 + 拡 散 対 を EPMA で 分 析 し
た.分析結果のうち,比較的拡散の速い元素である Al と
3.
実 験
方 法
Co の濃度分析結果のみを Fig. 3 に示す.拡散層の厚さは g
で 5 mm , g ′
で 15 mm と い ず れ も 従 来 コ ー テ ィ ン グ ( Fig.
2( a))と比べ非常に薄いことがわかる.以上より,基材の g
不活性雰囲気下で Table 1 に示す合金試料を溶製した.均
質化熱処理後,直径 10 mm ,厚さ 5 mm の試験片を切り出
合金,または g ′
合金をコーティング材として用いること
し,表面研磨後,各種試験に供した.拡散挙動を調べるため
で,実用合金 TMS 82 +との間に生成する拡散層を劇的に
に,基材とコーティング材の拡散対を作製し,大気中
抑えることができることが実証された.
1100 °
C で 300 h の拡散熱処理を行った.拡散対の断面を
次に,EQ コーティングの耐酸化性を評価した.バルクの
SEM および EPMA により分析した.また,コーティング
合金の
TMS 82 +合金, TMS 82 + g 合金, TMS 82 + g ′
材の耐酸化特性を調べるために, 1100 °
C 大気中で 1 h サイ
1100 °
C 繰返し酸化試験結果を Fig. 4 に示す. TMS 82 + g
クル繰返し試験を行った.
は酸化皮膜の剥離に起因する非常に大きな質量減少を示し,
Table 1
Alloy
Substrate
82+
TMS
TMS
173
Coating
82+g
TMS
TMS
82+g′
TMS
173 g′
+Y
TMS
173 g′
AMDRY962
Chemical compositions (mass, Nibal.) of alloys prepared for this study.
Co
Cr
Mo
W
Al
Ti
Ta
Hf
Re
Ru
Y
7.7
5.6
4.6
3.0
1.8
2.8
8.6
5.6
5.3
5.6
0.5
―
6.3
5.6
0.09
0.10
2.4
6.9
―
5.0
―
―
10.5
4.7
4.2
4.2
―
7.6
1.4
1.5
1.5
22.0
2.6
0.9
1.5
1.5
―
10.0
7.2
5.3
5.3
―
2.9
7.9
7.8
7.8
10.0
0.2
0.7
―
―
―
3.4
9.5
8.0
8.0
―
0.03
0.16
0.15
0.15
―
4.2
0.5
2.6
2.6
―
―
―
3.9
3.9
―
―
―
―
0.5
1.0
/TMS
Fig. 2 Crosssectional microstructure of (a) AMDRY962/TMS82+, (b) TMS82+g/TMS82+, (c) TMS82+g′
82+
after 300 hours exposure at 1100°
C.
194
日 本 金 属 学 会 誌(2006)
第
70
巻
/TMS82+ after 300 hours exFig. 3 Crosssectional concentration profiles of (a) TMS82+g/TMS82+, (b) TMS82+g′
posure at 1100°
C.
Fig. 4 Specimen mass change for TMS82+ and its tieline
alloys during oxidation test of 1 h cycles at 1100°
C.
Fig. 5 Specimen mass change for TMS173, TMS173 g′and
TMS173+0.5 massY during oxidation test of 1 h cycles at
1100°
C.
基材の TMS 82 +よりも耐酸化性に劣る.一方, TMS 82
ことがわかる.しかしながら, TMS 173 g ′
の 50 サイクル
+ g′
は優れた耐酸化性を示すことがわかる.したがって,い
後の質量減少は Fig. 4 に示した TMS 82+基材よりも大き
ずれの合金も基材に平衡し,拡散しない EQ コーティングの
いため,耐酸化コーティングとしての特性は不十分であると
候補であるが,g′
合金の方が耐酸化コーティングとして有望
考えられる.そこで,TMS173 g′
合金の耐酸化性を向上さ
であると言える. g と g ′
で酸化特性が大きく異なるのは,
せるために, 0.5 mass の Y 添加を試みた. Y は一般的な
の酸化膜が酸化保護皮膜となる層状の Al2O3 であるのに対
g′
MCrAlY コーティングに含有される元素であり,繰り返し
して, g の酸化膜は主に NiO であり Al2O3 は柱状に合金内
酸化特性を大きく改善する働きがあることが知られてい
部に生成することに起因する12) .化学ポテンシャルは等し
る13) . TMS 173 g ′
+ Y 合金の 1100 °
C 繰返し酸化試験結果
いものの,含有する Al 量の差がこの違いを生じさせている
を Fig. 5 に示す.TMS173 g′
+Y 合金の初期サイクルでの
と考えられる.
質量増加は約 7.0 × 10-3 kg / m2 と小さく,その後,質量増
4.2
第 5 世代 Ni 基超合金 TMS173 への適用
減がほとんどなく 50 サイクルまで維持され,TMS173 g′
に比べて優れた耐酸化性を示すことがわかる.
Re などの高融点金属をより多く含み,かつ最新の薄肉
+ Y / TMS 173 拡散対の 1100 °
TMS 173 g ′
C / 300 h 拡散
タービン翼に適用される可能性が高い第 5 世代合金におい
実験後の断面観察結果を Fig. 6 に示す.界面での拡散層は 2
て,EQ コーティングはよりメリットを生じると考えられる
mm という結果が得られた.つまり,Y 添加が合金の化学ポ
合金について同様
ため,第 5 世代合金 TMS 173 とその g ′
テンシャルへ与える影響,つまりは拡散への影響はほとんど
の検討を行った.
なく,EQ コーティングのコンセプトは保たれていると言え
バルクの TMS 173 合金, TMS 173 g ′
合金の 1100 °
C繰
る.したがって,微量元素を加えることで EQ コーティング
返し酸化試験結果を Fig. 5 に示す. TMS 82 +の場合と同
のコンセプトを保ったまま耐酸化性を向上させることは可能
じく,基材に比べて TMS173 g′
の耐酸化特性は優れている
であり,第 5 世代 Ni 基超合金 TMS173 では,Y を添加し
第
2
号
先進 Ni 基超合金用コーティングの開発
195
るとともに,EQ コーティング材のプラズマ溶射粉末を作製
し,各種基材上に溶射施工して実証試験を行う予定である.
本研究を遂行するにあたり,物質・材料研究機構分析ス
テーション 青柳岳史氏に EPMA 分析でご協力いただいた
ことを,ここに記し,深く感謝いたします.
文
+0.5
Fig. 6 Crosssectional microstructure of TMS173 g′
massY/TMS173 after 300 hours exposure at 1100°
C.
た g′
合金が耐酸化コーティングとして有望であることがわ
かった.
5.
結
言
本研究では,熱力学的に平衡な成分をコーティングに用い
る EQ コーティングの概念を Ni 基単結晶合金 TMS82+と
TMS 173 に適用し,コーティング/基材間で元素の相互拡
散を抑えることに成功した.基材の g ′
合金は EQ コーティ
合
ングの有望な候補である.第 5 世代合金 TMS 173 の g ′
金は耐酸化性に劣るものの Y を添加することにより大きな
改善が確認された.今後,コーティング成分の最適化を進め
献
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1996, (TMS, 1996) pp. 918.
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11) H. Harada, K. Ohno, T. Yamagata, T. Yokokawa and M.
Yamazaki: Superalloys 1988, (TMS, 1988) pp. 733742.
12) J. Ang, A. Sato, K. Kawagishi and H. Harada: Mater. Trans.,
submitted.
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pp. 7180.
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