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MEMS 利用による交通振動計測の可能性検証

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MEMS 利用による交通振動計測の可能性検証
MEMS 利用による交通振動計測の可能性検証
筑波大学大学院システム情報工学研究科
博士前期 1 年
浅川 一樹
連絡先 [email protected]
指導教員
1.
山本 亨輔
+
(𝜔)が FRF と同
長江ら 1)は極‐留数モデルを用いて,𝐆𝒀𝒀
研究背景
橋梁等の交通構造物の点検は近接目視点検に頼っている.
目視点検は技術者の主観的判断に依るところが多く,熟練
技術者の育成が必要である.特に橋梁点検は橋梁の下部に
回り込む必要などから,安全対策にも多大なコストを要す
る.そのため目視点検に頼ることなく,実測値に基づいて
客観的かつ低コストに橋梁の健全性を評価できる新しい基
様のモーダルパラメータに関する情報を持っていることを
次式のように示した.
𝐆𝒀𝒀 (𝜔) = 𝑓 2 𝐇(𝜔)𝐇 H (𝜔)
𝑁
2
= 𝑓 ∑(
𝑟=1
𝝓𝑟 𝝓H
𝝓𝑟∗ 𝝓T𝑟
𝝓𝑟 𝝓H
𝝓𝑟∗ 𝝓T𝑟
𝑟
𝑟
+
+
+
)
𝑗𝜔 − 𝜆𝑟 𝑗𝜔 − 𝜆∗𝑟 −𝑗𝜔 − 𝜆𝑟 −𝑗𝜔 − 𝜆∗𝑟
準が求められている.
本研究では,橋梁の健全性評価手法のとして,交通振動
多点振動分析に着目した.交通振動は常時微動計測に比べ
センサ感度の性能要求が低く,安価なセンサで計測できる.
(4)
ここで,クロスパワースペクトル行列𝐆𝒀𝒀 (𝜔)の正の遅延成
+ (𝜔)は式(5)となる.
分𝐆𝒀𝒀
𝑁
しかし,多点計測は設置労力やセンサ費用が増大してしま
+ (𝜔)
𝐆𝒀𝒀
う.本研究では,MEMS センサを使用したセンサシステム
開発し,低コスト化を図る.
得られた交通振動の分析手法として FDD(Frequency
Domain Decomposition:周波数領域分解)法および SVD
= 𝑓 ∑(
𝑟=1
の分析手法の適用性を検討した.
𝝓𝑟 𝝓H
𝝓𝑟∗ 𝝓T𝑟
𝑟
+
)
𝑗𝜔 − 𝜆𝑟 𝑗𝜔 − 𝜆∗𝑟
(5)
+ (𝜔)に
Brincker ら 2)は𝐆𝒀𝒀
SVD 法を適用することでモード
形状を求めた.本研究では,Brincker ら 2)の方法に従い,
+ H
+ (𝜔 )
𝐆𝒀𝒀
𝑖 = 𝐔𝑖 𝐒𝑖 𝐔𝑖
(Singular Value Decomposition:特異値分解)法を用いた.
数値計算により,トラス橋の交通振動を再現し,それぞれ
2
(6)
ここで,𝐔𝑖 はユニタリ行列であり,各列がモード形状ベク
̂ 𝑟 から成る.また,𝐒𝑖+ は特異値を対角成
トル𝝓𝑟 の推定値𝝓
分に持つ対角行列である.
分析手法
2.1
FDD 法による分析
2.
FDD 法を適用すれば,交通荷重作用下での橋梁振動特性
が,損傷変化によりどのように変化するか確認できる.た
構造物の多点計測で得られる FRF(Frequency Response
Function: 周波数応答関数)行列𝐇(𝜔)は,各点の加振力
𝑭(𝜔)および振動応答𝒀(𝜔)を用いて,
𝒀(𝜔) = 𝐇(𝜔)𝑭(𝜔)
(1)
である.交通振動計測においては,𝒀(𝜔)が橋梁応答であり,
𝑭(𝜔)は交通荷重に対応する.𝒀(𝜔)のクロスパワースペク
トル𝐆𝒀𝒀 (𝜔)は,次式で表される.
𝐆𝒀𝒀 (𝜔) = 𝐇(𝜔)𝑭(𝜔)𝑭H (𝜔)𝐇 H (𝜔)
= 𝐇(𝜔)𝐆𝑭𝑭 (𝜔)𝐇 H (𝜔)
だし,式(3)に示すような外力の白色性の仮定が必ずしも満
たされているとは限らず,結果の信頼性には限界がある.
2.2
SVD 法
多点計測で得られた時刻歴データを
𝐘(𝜔) = [ 𝒚(𝑡0 ) 𝒚(𝑡1 ) ⋯ 𝒚(𝑡𝑁 ) ]
(7)
とデータ行列化し,直接 SVD 法を適用する.
(2)
(8)
𝐘(𝜔) = 𝐔𝐒𝐕 𝐓 = 𝐔𝐐
このとき𝐔はモード形状推定値となる.FDD 法がすべての
今,加振力𝑭(𝜔)が未知であるため,そのクロスパワース
周波数で計測点と同じ数のモード形状を推定するのに対し
ペクトル行列𝐆𝑭𝑭 (𝜔)も未知である.そこで,各点での加振
て,SVD 法では計測点数と同じ数のモード形状を一度だけ
力が同じ周波数成分持たず,パワー平均が周波数と加振点
推定する.
に依らず一定であるような特性を仮定する.この仮定より,
行列)を仮定しているが,この仮定も交通振動分析におい
式(3)が成り立つ.
𝑓2
𝐆𝑭𝑭 (𝜔) = [ ⋮
0
SVD 法では,基準座標である𝐐の無相関性(𝐐𝐐𝐓 が対角
⋯
⋱
⋯
0
⋮ ] = 𝑓 2𝐈
𝑓2
ては,必ずしも満たされていると限らない.
(3)
1
1
左側トラス
右側トラス
0
8
0
右側トラス
図-1 橋梁モデル
-1
0
First
8.0
16.0
24.0
32.0
40.0
1
左側トラス
0
Mode Shape
0
6
16
40
32
24
Mode Shape
4
0
0
左側トラス
-1
0
8.0
右側トラス
左側トラス
Second
0
8.0
16.0
24.0
32.0
40.0
-1
0
8.0
MAC value
MAC values
MAC values
1
Intact
First
0.5
0
Second
Third
10
20
30
Frequency (Hz)
First
Damage
Third
0
Second
10
20
Frequency
Frequency(Hz)
[Hz]
30
24.0
Second
32.0
40.0
(b) Damage
図-3 SVD 法を用いた橋梁のモード形状推定値
表-1 使用した各モジュール
部品名
製品名
マイコンボード GR-peach
KXR94-2050
加速度センサ
ADS1220
AD コンバータ
GMS6-CR6
GPS センサ
ADP150
レギュレータ
Micro SD card
データロガー
図-4 モード形状の MAC 値
3.
16.0
Position [m]
(a) Intact
計測点
図-2 橋梁モデルの損傷箇所と計測点
0
40.0
1
Position [m]
0
32.0
右側トラス
-1
1
24.0
0
損傷箇所
0.5
First
16.0
図-5 センサシステム外観
検討方法
5.
センサシステム開発
本研究では,トラス部材の破断が FDD 法および SVD 法
本研究では,全て市販の部品を用いたセンサシステムを
の推定結果に及ぼす影響を検討するため,VBI(Vehicle-
開発した.使用したセンサ部品を表-1 の通りである.
Bridge Interaction:車両-橋梁相互作用)システムモデルを
実装されたセンサシステムの外観は図-5 のようになった.
用いた数値シミュレーションを実施した.路面凹凸は実計
GPS 用いたセンサ間の時刻同期,SD カードへのデータ保
測路面を参考にランダム発生させた.トラス橋のモデルを
存が可能であり,多点計測に必要な仕様を満たしている.
図-1,トラス部材の破断箇所と加速度計測点を図-2 に示す.
計測点はそれぞれ両車線側に対称に設置した.
6.
まとめと今後の予定
橋梁振動を再現した数値シミュレーションを行った.計
4.
数値計算検討結果
算された加速度振動を FDD 法と SVD 法により分析し,分
数値シミュレーションによって得られた加速度に特異値
析手法により異なる推定モード形状を得た.特に SVD 法で
分解を適応し,モード形状を推定する.図-3 はそれぞれの
は推定モード形状に損傷による影響が大きく見られた.
車線側の正常時と損傷時の推定モード形状の一例である.
FDD 法と SVD 法,それぞれの推定モード形状を MAC 値
損傷が推定モード形状に強く影響を与えているのが分かる.
により比較した.健全時と損傷時により MAC 値に差異が
また,特異値分解と FDD 法の推定モード形状を比較した
みられることから,損傷検知の可能性が示唆された.
MAC 値を図-4 に示す.MAC 値は次式で表される.
センサシステムの開発が完了し,今後,実橋梁計測を開
始する.
2
𝑴𝑨𝑪𝒌𝒍 =
̅ 𝐴̂𝑗𝑙 )
(∑𝑗 𝐴𝑗𝑘
2
̅2 )(∑𝑗 𝐴̂𝑗𝑙
(∑𝑗 𝐴𝑗𝑘
)
(9)
MAC 値が 1 に近いほど,形状が近いことを表している.損
傷時において,20Hz 付近で励起しているモードが 1 位と 2
位で逆転している.一方,フーリエスペクトル上では 20Hz
付近における損傷変化は見いだせないことを確認している.
これはそれぞれの推定モード形状の精度に差異があること
を示しており,二つの分析手法を比較することにより,損
傷の影響をより顕著に確認することができる可能性がある.
参考文献
1)
2)
長江信顕,渡瀬正泰,玉木利裕:相互相関関数を用いた実稼働
モード解析,構造工学論文集 Vol.57A,pp.232-241,2011.
Rune Brincker, Lingmi Zhang and Palle Andersen: Modal identification
of output-only systems using frequency domain decomposition ,
Proceeding of SPIF , the International Society for Optical
Engineering,Vol.4359 (1) , pp.698-703, 2001.
車両応答分析による橋梁健全度判定手法の可能性検討
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 2 年
石川 幹生
E-mail:[email protected]
指導教員
1.研究背景
山本 亨輔
固定計測点は橋梁を等間隔に分割する点とする。
このとき、
現在日本には多数の橋梁が存在し、橋梁の保全が今後の日
近似したモード形状 𝜙𝑘 (𝑥) を行列で表すと、
本の課題である。しかし、膨大な数の橋梁をすべて点検する
ためには多くの費用や技術者が必要となり、実施は困難であ
る。そのため、橋梁群に対してスクリーニングを行う必要が
ある。本研究ではスクリーニングの手法として、橋梁上を走
行する車両の応答振動から橋梁健全度を判定する方法につい
て検討した。既往の研究[1]では健全度判定の指標として、橋
梁の推定モード形状を表す空間特異モード角(SSMA)が提
案されてきた。しかし、橋梁や損傷の形態について限られた
条件下での検討のみであるため、今後より様々な条件下で検
討を行い、SSMA の有効性や損傷検知メカニズムを解明する必
要がある。
[
𝜙1 (𝑥̃1 (𝑡)) 𝜙2 (𝑥̃1 (𝑡))
]
𝜙1 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝜙2 (𝑥̃2 (𝑡))
𝑁 (𝑥̃ (𝑡)) 𝑁2 (𝑥̃1 (𝑡)) 𝐴̂11
=[ 1 1
][
𝑁1 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝑁2 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝐴̂21
𝐴̂12
]
𝐴̂22
(5)
と表すことができる。移動計測点の座標を代入して得られる
̃ (𝑡) とすると、次式が
基底行列を 𝐍(𝑡) 、モード形状行列を 𝚽
得られる。
̃ (𝑡) = 𝐍(𝑡)𝐀
̂
𝚽
(6)
ここで、(2)式に(6)式を代入すると
̂ 𝒒(𝑡)
̃(𝑡) = 𝐍(𝑡)𝐀
𝒚
(7)
となる。車両後輪が 𝑥̂1 を通過してから(𝑡 = 𝑡1 )、前輪が 𝑥̂2
2.モード形状推定手法
一般に、
モード解析理論で想定される橋梁振動の計測値は、
を通過するまで(𝑡 = 𝑡𝑚 )を内挿の定義領域とする。(7)式の
固定点で得られるものである。一方、車両振動から推定され
両辺に 𝐍−1 (𝑡) をかけると、移動計測点での計測値から固定
る橋梁振動は、車両走行に伴って計測位置が時間変化する移
計測点での推定値を求めることができる。
動計測点での計測値である。そこで、本研究では基底関数を
̃(𝑡) での計測値 𝒚
̃(𝑡) から、仮想した
導入し、移動計測点 𝑥 = 𝒙
̂(𝑡𝑠 ) を求める。
固定計測点 𝑥 = 𝑥̂1 , 𝑥̂2 での推定値 𝒚
𝑘 次のモード形状関数を 𝜙𝑘 (𝑥) 、基準座標を 𝑞𝑘 (𝑡)とおく
と、橋梁変位振動は(1)式のように求められる。
𝑛
𝒚(𝑥、𝑡) = ∑ 𝜙𝑘 (𝑥)𝑞𝑘 (𝑡)
ここで、𝑛は考慮する最大モード次数である。(1)式より、移動
計測点 𝑥 = 𝑥̃(𝑡) における橋梁変位は
𝑛
(2)
𝑘=1
と表される。車上計測点数を 𝑛 = 2 としたとき、等しい数の
固定計測点 𝑥 = 𝑥̂1 , 𝑥̂2 における 𝑘 次のモード形状関数を 𝐴̂𝑗𝑘
として以下のように表す。
𝐴̂𝑗𝑘 = 𝜙𝑘 (𝑥̂𝑗 )
(8)
次に、(8)式で求まる固定計測点での推定値を特異値分解し、
モード形状を推定する。固定計測点での推定値を 𝑚 列並べた
行列を 𝐌(∈ 𝐊 𝑛×𝑚 ) とすると
̃(𝑡1 ) ⋯ 𝐍−𝟏 (𝑡𝑚 )𝒚
̃(𝑡𝑚 )]
𝐌 = [ 𝐍−𝟏 (𝑡1 )𝒚
(9)
̂ 𝒒(𝑡1 ) ⋯ 𝐀
̂ 𝒒(𝑡𝑚 )]
𝐌=[𝐀
(10)
̂𝐐
𝐌=𝐀
(11)
(1)
𝑘=1
̃(𝑡) = ∑ 𝜙𝑘 (𝑥̃(𝑡))𝑞𝑘 (𝑡)
𝒚
̂ 𝒒(𝑡)
̃(𝑡) = 𝐀
𝐍−𝟏 (𝑡)𝒚
となる。特異値分解は 𝑛 × 𝑚 行列に対して適用可能であるか
ら、(11)式の M に対して特異値分解を適用し、
𝐌 = 𝐔𝚺𝐕 T
(12)
と分解できる。ゼロ行列となる部分を省略すると、𝐔(∈
𝑅 𝑛×𝑛 )、𝐕(∈ 𝑅𝑛×𝑚 )は直交行列(ただし、𝐕 T 𝐕 = 𝐈、𝐈:単
(𝑗 = 1、2)
(3)
位行列)、 𝚺(∈ 𝑅𝑛×𝑛 )は特異値を対角成分にもつ対角行列
である。また、𝚺 の対角成分を大きなものから順に並べると、
つづいて、 𝜙𝑘 (𝑥) を基底関数によって離散化する。基底関
𝐔, 𝚺 および 𝐕 は一意に求められる。このうち𝐔の 1 列目の成
数 𝑁𝑗 (𝑥) (𝑗 = 1,2, … , 𝑛) を用いて、𝑘 次のモード形状関数
分が推定 1 次モード形状の値となるが、本研究では n=2 であ
𝜙𝑘 (𝑥) は近似的に次式のように表すことができる。
るから、その値の比を空間特異モード角(SSMA)として、橋
𝑛
𝜙𝑘 (𝑥) = ∑ 𝑎𝑗𝑘 𝑁𝑗 (𝑥)
(4)
𝑗=1
ここで、基底関数が、𝑁𝑗 (𝑥̂𝑗 ) = 1、かつ、𝑁𝑗 (𝑥̂𝑖 ) = 0(ただし、
𝑖 ≠ 𝑗)となる性質を示すとき、𝑎𝑗𝑘 = 𝐴̂𝑗𝑘 である。本研究では、
基底関数としてラグランジュ関数を用いた。
梁健全度判定の指標とする。すなわち、𝐔の𝑖行 𝑗列の成分を
𝑈𝑖𝑗 として、以下のように表す。
𝑈21
𝑆𝑆𝑀𝐴 = tan−1 (
)
𝑈11
(13)
3.検討方法
表 1 橋梁モデルのパラメータ
本研究では、四輪車を剛体バネモデルで、トラス橋を有限
トラス部材
要素の棒材でそれぞれモデル化し、車両の応答振動を数値計
算により求めた。作成した橋梁モデルの概観を図 1 に、橋梁
および車両モデルのパラメータを表 1、表 2 に示す。床板の
パラメータは、表の値を要素分割数に応じて割った値を使用
した。路面凹凸を考慮するために、ISO 基準で Extra Good と
床板
なる路面凹凸をモンテカルロシミュレーションにより生成し
た。
SSMA の算出には、
車両左側の車輪の加速度を使用した。
4.検討結果と考察
検討結果の一例として、トラス部材の剛性を変化させて損
傷を模擬し、SSMA の変化を調べた結果を図 3 に示す。破断
させる部材は図 2 の 3 番の部材(車両走行側)とした。グラ
フの横軸は剛性低下率を表しており、これが 0%のときは健
全時、100%のときは部材の破断を表している。グラフから、
SSMA は部材が破断する直前までほとんど変化しないが、破
断したときには大きく変化することがわかる。また、同じ条
件で、車輪の加速度に白色ノイズを加えて SSMA を算出した
ときの分布を図 4 に示す。
図中、
上段の青いグラフは健全時、
中段の緑のグラフは部材剛性低下率 80%のとき、下段の赤い
7800[𝑘𝑔/𝑚3 ]
0.02[𝑚2 ]
200 × 109 [𝑃𝑎]
78 × 109 [𝑃𝑎]
1.0 × 10−4 [𝑚4 ]
1.0 × 10−6 [𝑚4 ]
20
10
2400[𝑘𝑔/𝑚3 ]
0.4[𝑚]
25 × 109 [𝑃𝑎]
1.1 × 109 [𝑃𝑎 ∙ 𝑚]
0.03[𝑚4 ]
0.2[𝑚4 ]
密度
断面積
ヤング率
せん断弾性係数
断面二次モーメント
断面二次極モーメント
縦方向要素分割数
横方向要素分割数
密度
厚さ
ヤング率
ねじり剛性
縦方向断面二次モーメント
横方向断面二次モーメント
表 2 車両モデルのパラメータ
18000[𝑘𝑔]
65000[𝑘𝑔 ∙ 𝑚2 ]
15000[𝑘𝑔 ∙ 𝑚2 ]
10000[𝑘𝑔/𝑠]
1000000[𝑘𝑔/𝑠 2 ]
1100[𝑘𝑔]
30000[𝑘𝑔/𝑠]
3500000[𝑘𝑔/𝑠 2 ]
1.875[𝑚]
0.9[𝑚]
車体質量
車体慣性モーメント(ピッチ方向)
車体慣性モーメント(ロール方向)
車輪上減衰定数
車輪上バネ定数
車輪質量
車輪下減衰定数
車輪下バネ定数
長さ(重心-車輪間)
幅(重心-車輪間)
グラフは部材破断時を示す。グラフから、部材が破断してい
ない状態では SSMA の有意な変化は見られないが、部材が破
かる。このことから、SSMA によってトラス部材の破断を検
知できる可能性があることがわかる。
5.まとめ
本研究の結果から、SSMA は橋梁損傷検知の指標として一
52.5
SSMA[deg]
断したときは健全時と比較して有意な差が見られることがわ
52
51.5
51
0
20
40
60
Damage Rate[%]
定の有効性があることがわかった。ただし、損傷が深刻化す
るまで検知が難しいことも示されたため、損傷を早期に発見
80
100
図 4 部材剛性低下率と SSMA
する方法の検討も必要である。また、今後はトラス橋だけで
なく桁橋の損傷にも適用可能か調べる予定である。
0.3
山本亨輔, 大島義信, 金哲佑, 杉浦邦征:車両応答データの特異
値分解による橋梁損傷検知技術の提案と検討, 構造工学論文集,
0.2
0.1
0
Vol.59A, pp.320-331, 2013
50.5
51
51.5
52
52.5
53
0.3
Rate
Damaged(80%)
4
0
6
0
0
8
16
24
図 1 トラス橋モデル概観
32
40
0.2
0.1
0
51
51.5
52
52.5
53
51.5
52
SSMA[deg]
52.5
53
Damaged(100%)
0.2
0.1
0
図 2 橋梁部材番号
50.5
0.3
Rate
[1]
Rate
Intact
参考文献
50.5
51
図 5 白色雑音加算時の SSMA 分布
Numerical simulation of debris flow for the highlands of Ethiopia
Geotechnical Engineering Laboratory
2nd year Masters Student
Advisor
Co-advisor
Ahmed Muhammed Edris (E-mail: [email protected])
Professor Takashi MATSUSHIMA
Ass. Professor Kyosuke YAMAMOTO
ABSTRACT
The highlands of Ethiopia are frequently affected by landslide hazards causing: loss of human lives, damage on agricultural lands and natural environment. The study of landslide hazard assessment and identification of potential risk
sites is critically important. Objective of this research is to
apply numerical simulation in estimating the flow range of
landslides and identifying potentially hazardous failure
slope areas in the highlands of Ethiopia.
The Raster grid networks of Digital Elevation Model
(DEM) were produced from satellite images. The DEM
result was 5m which is high resolution and helped to make
acceptable numerical simulations. Evaluation of debris
sources by setting critical slope of failure and deposition
angle represented the debris flow situations in the area.
The result will help for identification of potential source
areas and for susceptibility assessment of landslides.
1. Theoretical backgrounds
1.1 Factors influencing the slope stability
In every slope there are forces which tend to promote
down slope movement and opposing forces which tend to
resist movement. A change in any one or a combination of
these factors can alter the equilibrium condition of slope,
decreasing its stability and leading to the slope failure.
Slope instability factors can be causative factor that make
the slope vulnerable to failure or triggering factor, a single
event that finally initiates the landslide. Slope stability factors can broadly grouped into geology and topography.
1.1.1Geological factors
Lithology involves the composition, texture, degree of
weathering, as well as details that influence the physicochemical and engineering behaviors such as
permeability, shear
strength, etc. of the
rocks and soils. These
characteristics in turn
affect the slope stability.
Figure 1 lithology map of the study area
The main lithological units of the study area are
agglomeratic, fine to course and vescular basalts, and
colluvial-eluvial deposits. 64 % of the area is covered by
basalts and agglomerates. About 50 % the land slide is occurring in colluvial-eluvial sediments.
(Hagos, Remote Sensing & GIS-based mapping of on Landslide Phenomena &
Landslide Susceptibility Evaluation of Debresina area (Ethiopia) & R.S.
Girolamo basin (Sardina, Italy))
1.1.2 Triggering factors
A trigger is an external stimulus such as earthquake shaking or rapid stream erosion that causes immediate response in the form of a landslide. The study area is characterized by high rainfall (figure 2 left side) and earthquake
tremor (figure 2 lower side) associated with the Afar triangle (figure 2 right side). The most probable triggering factor for the September 2005 large landslide occurrence
could be earthquake aggravated by high rainfall.
Figure 2 rainfall and landslide distribution (left), the Afar triangle (right) and location of earthquake
epicenters map (lower side).
The Afar Triangle is a diffuse extensional province marking a triple junction, where three plates represented
by the Nubia, the Somalian and the
main Ethiopian rift meet. It is prone to significant level of
seismic hazard due to the presence of the active regional
tectonic and volcanic activities in the area.
1.1.3 Topographic factors
1.1.3.1 Elevation
Elevation is useful locate points of maximum and minimum heights within terrains. Precipitation, weathering
processes, erosion, soil thickness, and land use are influenced by elevation. The more
intense erosion and weathering,
the more will be the influence of
elevation on landslides. Thus,
considering elevation as one of
the causative factors is reasonable.
figure 2 geomorphologic and structural
Divisions of the study area
The regional topography of the study area is divided into
three divisions. These are the Plateau, the escarpment and
the Rift floor. Elevation drops from 3000m at Escarpment
to 100 m in the lowlands of rift floor. Due to high elevation and steep slopes, these areas are characterized by high
weathering, erosion and slope instabilities.
1.1.3.2 Slope gradient
Slope angle controls the gravitational driving work and
thus debris flow initiation and debris transport .In general
the steeper the slope, the more the risk of landslide due to
the higher shear induced by gravity. For example, the initiation of debris flow is related to the slope of the source areas, with typical values between
and
Figure 6 the DEM
and Google earth
contour map of the
study area
Table 1 elevation
(Takahashi, 1981; Hungr et al., 1984; Rickmann and Zimmermann, 1993).
value comparisons between the DEM and Google earth
DEM values
Figure 4 critical slope of
failure and angle of deposition map (right side)
Figure 3 Slope gradient map of the study area (left side)
The maximum areal coverage (32.6 %) falls in the middle
slope class range of
. About 51 % of the study
area is covered by the slope gradients ranging from 210 to
550 and steep slope gradients with values greater than 550
represented by the reddish color cover 16 % the area.
These values have maximum potential for landslide.
(Hagos, Remote Sensing & GIS-based mapping of on Landslide Phenomena &
Landslide Susceptibility Evaluation of Debresina area (Ethiopia) & R.S.
Girolamo basin (Sardina, Italy))
Therefore, using critical failure slopes and deposition angle as simulation parameters for debris flow is sufficient
enough to identify potentially hazardous zones, particularly,
for the places like Ethiopia having steeper slopes characterized by high rainfall and earthquake tremors associated
with many geo-hazards, flooding, drought, and land degradation.
2 Methodology
2.1 Satellite image processing for DEM production
The DEM which gives elevation values in uniform grid
space was generated by processing the satellite images
from Advanced Land Observation Satellite (ALOS) on
which the calculation of the slopes and the simulation of
debris flow were performed and analyzed. ALOS has
three remote-sensing instruments: the Panchromatic Remote-sensing Instrument for Stereo Mapping (PRISM)
used to derive a digital surface model (DSM); Advanced
Visible and Near Infrared Radiometer type 2 (AVNIR-2) used for precise land coverage. Phased Array
type L-band Synthetic Aperture Radar (PALSAR) for day-and-night
and all-weather land observation.
https://auig.eoc.jaxa.jp
Figure 5 map of Overview of PRISM optical systems
3 DEM result
The DEM with 5m accuracy was obtained using commercial software called Map Matrix. Before the simulation was
run and analyzed a comparison of the DEM result with
Google earth DEM which has 16m accuracy were made as
shown in figure 6 and table 1.
The comparison showed similar values of elevation except
2 to 6 meters differences which could be attributed to the
difference in the accuracies between the two DEMs.
4 Simulation result and conclusion
Simulations were performed through estimation of debris
sources by the critical failure slope and critical angle of
deposition.
Because of the higher slope gradient (figure 3) of the study
area, we give
and
critical slope values and we
use 250,
and deposition angles to account all kinds
of flow situations.
Part of the flow debris
was seen to deposit at
angle about of 250. And
both critical slope angles
of
and
show
the slope failures coinciding to the main fault
directions in the area.
Figure 7 simulation results at critical slope of
and
and deposition angle of
The slide was aggravated due to rain which causes part of
the slide to run about 3km before it reaches the river
bank. We give depositions angles of
and
to represent
such flows in the study
area. The simulation
showed about 4km including the flow of debris inside the river.
Figure 8 simulation results at critical slope
of
And deposition angle of
It can be concluded that, simulation of debris sources by
setting critical slope of failure and critical slope of deposition had well represented the flow debris in the area. The
DEM is the most important one, and a reasonably realistic
simulation was made with this unique source of information. The use of remotely sensed data makes the method to be economically applicable for developing emergency plans and disaster assessments of inaccessible areas.
複雑構造物内における液体ジェットの微粒化挙動
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 2 年 成島 勇気
指導教員: 阿部 豊, 金川 哲也, 吉田 啓之
Email: [email protected]
1. 緒言
Front view
Top view
Without structures With structures
y [mm]
原子炉の廃炉や安全性向上のためには,福島第一原子力発電
所のような電源喪失を伴う,過酷事故が起こった際に原子炉の
下部プレナム内に落下し,微粒化,分散する溶融燃料の落下挙
動を予測することが重要である.沸騰水型原子炉では原子炉の
下部プレナム内に制御棒案内管をはじめとする複雑構造物が
存在しており,それらの構造物が溶融燃料の落下挙動に影響を
及ぼすと考えられている.複雑構造物内でのジェット落下挙動
の可視化計測は Saito ら[1]によって行われており,
一方で Suzuki
ら[2]は解析コードを開発し数値解析による落下挙動の予測を
行っている.しかしながら,複雑構造物内での溶融燃料の落下
挙動はいまだ明らかとなっておらず,溶融燃料の冷却に関して
非常に重要なブレイクアップ長さや,微粒化物の径などへの影
響を予測できていない.そのため本研究では,可視化実験装置
を製作し,透明流体を用いたジェット落下挙動可視化実験を行
うことで,複雑構造物がジェット落下挙動に与える影響を明ら
かにすることとした.
0
64.8
58.4
Nozzle
(f 3~7)
420
0
85
x
[mm]
0
本実験では,複雑構造物によるジェットの微粒化物径への影
響を調べるため,図 2 に示すようにジェットが完全に微粒化す
る装置下部を対象とし,粒子の重なりの影響を軽減するため装
置前面部にピントを合わせ撮影した.なお,構造物の影響を確
認するために構造物がない条件とある条件の 2 パターンで実験
を行う.実験では実機で使用される溶融燃料の模擬流体として
水と混合しない透明流体である FC-3283 をジェットに用いた.
また周囲流体には実機と同様に水を用いた.それらの物性を表
1 に示す.
unit : mm
High-speed video camera
85
Fig. 2 Schematic diagram of the photographic range.
Table 1 Physical properties.
Jet
Ambient
FC-3283
Water
Density [kg/m3]
1830
997
Surface tension [N/m]
0.043
[mm2/s]
0.82
0.893
Viscosity [mPa・s]
1.50
0.89
2.1 実験装置
2.2 実験条件
38
30
527.8
2. 実験装置および実験条件
図 1 に実験装置の概念図を示す.テスト部は沸騰水型原子炉
の下部プレナムを 1/10 の大きさで模擬した平板型の実験装置
であり,可視化を重視するため,壁面はアクリル,複雑構造物
は FEP チューブを用いて製作した.射出部はシリンジポンプを
用いた射出機構を採用し,モータ制御によりピストン部を押し
込むことで,任意の速度でジェット射出を可能としている.ま
た,ノズル先端部を付け替えることで,3, 5, 7 mm の 3 種類の
ノズル径での実験が可能である.
CRGTs
(f 27)
LED
Kinematic viscosity
3.1 撮影結果
ノズル径 7 mm,射出速度 1.0, 2.2, 3.6 m/s のときの可視化結
果について図 3 に示す.上段は構造物がある場合における結果
であり,下段は構造物がない場合における結果である.両条件
においてジェットの芯の部分は計測されず,微粒化しているこ
とがわかる.また,両条件において射出速度が増加するに伴っ
て,微粒化物の数が増加していることが画像から確認でき,よ
り小さな微粒化物が発生していることも同様に確認できる.こ
の原因として流量の増加に伴って,微粒化する量が増加したこ
とに加えて,射出速度の増加に伴い,ジェット界面でのせん断
力が増加したことでより微粒化が促進されていることが考え
られる.
3. 実験結果
Top View
4mm
Check valve
With structures
v=1.0 m/s
With structures
v=2.2 m/s
With structures
v=3.6 m/s
Without structures
v=1.0 m/s
Without structures
v=2.2 m/s
Without structures
v=3.6 m/s
Syringe pump
Tank
1/10
Simulant
Coolant
Test section
Lower plenum
Fig. 1 Schematic diagram of the experimental apparatus.
Fig. 3 Visualized images of fragments.
3.2 粒径の計測
4. 相関式による粒径の予測
得られた可視化結果から画像処理手法を用いて微粒化物径
の計測を行った.気液体系で用いられている Zhang ら[3]の画像
処理手法を界面取得が困難な液液体系に拡張し,それを含めた
アルゴリズムを開発することで自動的かつ高精度に粒径を計
測することに成功した.図 4 に構造物がない場合における処理
結果を示す. 1 条件で 0 ~ 2.5 秒間に撮影領域を通過した微粒
化物を 1000~8000 個計測した.ぼやけたものや多重に重なった
ものを除いて,精度良く検出できていることがわかる.本計測
手法では微粒化物を楕円として計測し,以下で示す面積等価直
径として径を算出した.
粒径を予測するため,界面のせん断力と表面張力が支配的と
考える,次の片岡らの式[4]で粒径の評価を行った.
𝑑 = 2√𝑎𝑏
(1)
ここで,𝑎,𝑏は楕円の長軸と短軸を示す.また,平均径として
以下の式で表す体積メジアン径を用いることで評価を行う.
𝑑vm = (Σ𝑛𝑖 𝑑𝑖3 )⁄(Σ𝑛𝑖 𝑑𝑖3 )
(2)
ここで,𝑑vm は体積メジアン径,𝑑i はある粒径,𝑛i はその粒子数
を表す.
ノズル径を 7 mm として,射出速度を 1.0 m/s から 3.6 m/s ま
で 10 条件で計測を行った結果を以下の図 5 に示す.縦軸は体
積メジアン径,横軸は射出速度であり,黒塗りは構造物がある
場合,白抜きはない場合の結果である.この結果より,構造物
の有無によらず,射出速度の増加に伴って微粒化物径が減少し
てゆくことが定量的に示され,速度に起因する現象が微粒化に
支配的である可能性が示された.また,構造物の存在による微
粒化物径への有意な差は確認されなかった.
−1⁄3
その他,以下の式で示す Kelvin-Helmholtz 不安定波長と臨界
Weber 数理論での評価を行う.
𝑊𝑒(𝑑vm ) = 2𝜋(1 + 𝜌w ⁄𝜌j ),
𝑊𝑒(𝑑vm ) = 12
[mm]
Fragment diameter 𝑑
(5)
図 6 にその結果を示す.縦軸と横軸はそれぞれ,𝑊𝑒と𝑅𝑒w で
あり,実線は Saito ら[1]によってジェットの体系に適応して C
を決めた場合の片岡らの式である.破線は臨界 Weber 数,
Kelvin-Helmholtz 不安定波長,C = 0.01 のときの片岡らの式を表
す.四角いプロットで示す本実験結果は片岡らの式に近い値を
示しているが,𝑅𝑒w の増加に伴い,式は過小評価をしている傾
向が確認された.これは,片岡らの式が気液体系の環状二相流
を仮定した式であり,本実験体系への適応が不十分であること
が原因であると考えられる.また,微粒化位置によって,KelvinHelmholtz 不安定波長など様々なメカニズムが微粒化物径に支
配的となる可能性がある. 今後は,片岡らの式で用いられてい
る界面波形状などのモデルの改良を行い,予測精度の向上を行
うことに加えて,微粒化の詳細可視化により,その支配的なメ
カニズムの特定を目指す.
C=0.145
C=0.115
K-H instability
𝑅𝑒 [-]
Fig. 6 Comparison of experimental results with theory.
5. 結言
1.6
・画像解析手法を開発し,自動的かつ高精度な微粒化物径の計
測を実現した.
1.4
・構造物の存在による微粒化物径への有意な差は確認されず,
構造物の有無によらず速度に起因する微粒化が支配的であ
る可能性が示され,特に片岡らの式と近い値を示すことが明
らかとなった.
1.2
1.0
Without
structures
0.8
0.6
(4)
(b) Processed image
With ●○:FC-3283
structures
1.8
(3)
ここで,d0 はノズル径,dvm は微粒化物の体積メジアン径を表
しており,U はジェットと周囲流体の相対速度,C は定数であ
る.添え字 j はジェット,w は周囲流体を表している.
Fig. 4Original and processed image of fragments without
structures.
2.0
2⁄3
𝑅𝑒w = 𝜌w 𝑑0 𝑈 ⁄𝜇w , 𝑊𝑒(𝑑vm ) = 𝜌w 𝑑vm 𝑈 2 ⁄𝜎
Wecr=12
C=0.01
(a) Original image
(𝜇𝑤 ⁄𝜇𝑗 )
ここで,𝑊𝑒と𝑅𝑒w は周囲 Weber 数と周囲 Reynolds 数であり,
定義は以下に示す.
𝑊𝑒(𝑑vm) [-]
5mm
⁄
2 3
𝑊𝑒(𝑑vm ) = 𝐶𝑅𝑒𝑤
(𝜌𝑤 ⁄𝜌𝑗 )
1.0
2.0
参考文献
[1] Saito et al., J. Nucl. Sci. Tech. (2015)
3.0
4.0
Inlet velocity [m/s]
Fig. 5 Volume median diameter versus inlet velocity.
[2] Suzuki et al., J. Nucl. Sci. Tech. (2014)
[3] Zhang et al., Pattern Recogn. lett. (2012)
[4] Kataoka et al., J. Fluids Eng. (1983)
マイクロ波加熱における高誘電率溶液の加熱特性と過渡沸騰現象
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
阿部・金子・金川研究室 博士前期課程 2 年
長南 史記 ([email protected])
指導教員 阿部 豊, 藤野貴康, 金川哲也
1. 緒言
核燃料サイクルの再処理工程では,マイクロ波加熱脱硝法
が利用されている.使用済み燃料の再処理溶液をマイクロ波
で加熱することで,溶液中の水分や硝酸分を蒸発させ,燃料
として再利用可能な MOX 原料粉末の生成が可能となる.し
かしながら,容器形状やマイクロ波の出力によっては,マイ
クロ波加熱時に溶液が突如噴き上げる突沸の発生が確認さ
れており,この突沸現象の発生限界は判明しているものの[1],
この処理方法での量産規模での実用化には至っていない.ま
た,希硝酸溶液のマイクロ波加熱時においてオーブン内の被
加熱容器及び溶液の位置により,加熱効率が異なることが加
藤ら[2]によって示唆されている.
本研究では被加熱容器下の誘電体テフロン(サポート)の高
さをパラメータとし,その高さによる加熱効率の違いを光
ファイバー温度計を用いて被加熱流体の温度上昇を測定す
ることによって評価した.またサポート高さによる流体の影
響を除いた被加熱部位の違いを明らかにするために,被加熱
容器・流体と同形状の寒天バルクを加熱し,中心部分を切断
することにより被加熱特性の評価を行った.更に加熱オーブ
ン内の電磁場解析を行い,オーブン内の電解の強さの解析を
行った.
Fig. 1 Schematic diagram of the microwave heating apparatus
3. 実験結果
3-1. 昇温速度
Fig.2,3 に,マイクロ波出力 700 W, 容器直径 100 mm, 初期
液位 80 mm, 100mm サポート高さ 10~100 [mm]の時の蒸留水
の昇温挙動を示す.
2. 実験装置及び実験条件
Fig.1 に実験装置の概要図を示す.実験装置は,マグネトロ
ン,アイソレータ,パワーモニタ,EH チューナー,オーブン,
それらをつなぐ導波管により構成されており,マグネトロン
から照射されたマイクロ波により,オーブン内の液体が加熱
される仕組みになっている.マイクロ波周波数は 2.45 GHz,
出力は 0 から 1500 W まで調整可能となっている.実験では,
容器直径 100 mm, マイクロ波出力 700 W, 初期液位 80 mm,
100mm において,被加熱容器下の直径 200 [mm]のテフロン
製サポートの高さを 10~100[mm]毎に変更し液体の中心付近
の温度計測を 3 セット行った.表 1 に実験条件を示す.周囲
圧力及び周囲温度はそれぞれ,大気圧下,室温で実験を行い,
試験流体には蒸留水を使用した.
Table 1 Experimental conditions
マイクロ波出力 QM
容器直径 D
初期液位 L
サポート高さ H
周囲温度 T∞
周囲圧力
相対湿度
試験流体
700 [W]
100 [mm]
80,100 [mm]
10~100 [mm]
20~24 [ºC]
100 [kPa] (大気圧)
50~80 [%]
蒸留水
Fig2. Temperature changes of the distilled water for each
number of supporters (1)
Fig.3 Temperature changes of the distilled water for each
number of supporters (2)
この結果より,初期液位が80 [mm]の条件において,サポー
ト高さが50[mm]の時,最も早く沸騰に至り,サポート高さが
70, 100 [mm]の時,沸騰に至る時間が最も長かった.また,沸
騰に至るまでに最大で約200 [s]程度の時間差が生じることが
明らかとなった.また,初期液位が 100 [mm]の場合,サポー
ト高さが60 [mm]のとき最も早く沸騰し,80, 90 [mm]のとき
沸騰までの加熱に最も時間を要した.またその差は約300 [s]
程度であり,初期液位80 [mm]の場合と同様にサポート高さ
による昇温速度の差が見られた.
3-2. 各サポート高さにおける平均の昇温速度
3-1, 3-2 と同様の昇温速度の測定を 3 回行い,その沸騰
までの昇温速度を求めた.このグラフを以下,Fig.5 に示
す
水寒天バルクの鉛直中心断面の温度分布はサポート高さ
に寄らず四隅や中心部分が加熱される傾向があることが分
かった.また被加熱部分は左右対称ではなく,マイクロ波
オーブン内のマイクロ波挙動に影響を受けている可能性が
判明した.
3-4.マイクロ波加熱オーブン内の電磁場解析結果
Fig.6 に加熱オーブン内の解析ソフト (Femtet, Murata
Software) を用いた電磁場解析結果を示す.この解析結果は
非加熱溶液の鉛直断面の比熱吸収 (SAS : Specific Absorption
Ratio) を表している.この結果として,吸収熱量は断面の四
隅または中心付近が強くなっていることから,該当部分が実
際にはよく加熱されていると考えられる.定性的ではあるが,
被加熱水寒天の実験結果と類似する結果が得られた.
Rate of temperature increase [ K/s ]
0.18
0.16
0.14
0.12
0.10
0.08
0.0
Fig.6 Characteristics of microwave on simulation
10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 110.0
Height of Suport [mm]
Fig.4 Rate of temperature increase
赤○プロットが初期液位 80 [mm],青△プロットが初期液
位 100 [mm]の場合の昇温速度である.この結果より,初期
液位が 80 [mm]の場合は初期液位 100 [mm]の場合よりも昇温
速度が全体的に早いということが分かる.これは初期液位の
高さが高いほど容積が大きいため昇温に要したエネルギー
が高かったことが原因と考えられる.また,初期液位 80 [mm],
100 [mm]いずれの場合においても,サポート高さが高くなる
につれてれ昇温速度が遅くなる傾向が見られた.したがって,
本実験体系においてはサポート高さがより低い位置に,マイ
クロ波加熱の適切な位置があると考えられる.
3-3.被加熱寒天の断面温度分布
溶液の対流の影響を除いた加熱特性を観察するために,被
加熱容器・溶液と同形状の水寒天バルクを作成し,サポート
高さ毎に加熱し,その鉛直切断面の温度分布をサーモグラ
フィを用いて測定した.Fig.5 に測定結果を示す.
4. 結言
・マイクロ波オーブン内における蒸留水の昇温速度は一律で
はなく,サポート高さによって異なることが明らかになった.
・初期液位 80 [mm]と 100 [mm]では,初期液位 80 [mm]の場
合の方が早く昇温することが明らかとなった.
・マイクロ波オーブン内では,被加熱溶液の上下方向の位
置により加熱効率が異なることが明らかとなった.加熱効
率に適した位置があると考えられる.
・水寒天の加熱の結果,温度分布は左右対称ではなく,
オーブン内のマイクロ波挙動の影響を受けている可能性が
示唆された.
・電磁場解析の結果,比熱吸収の高い部位は水寒天の被加
熱位置と相関があることが示唆された.
5.今後の方針
・誘電率が異なる溶液をマイクロ波加熱した場合は,加熱
特性が異なることが示唆されている.本研究と同様の方法
で昇温速度の測定や寒天の加熱,電磁場解析を行い,蒸留
水の実験結果と比較検証する.
・過渡沸騰現象において特に気泡核生成を高速度カメラで
撮影し,その挙動を画像処理等の手法を用いて定量的な評
価を行う.それの結果を基にこの現象のメカニズム解明を
試みる.
参考文献
[1]. 加藤良幸, 日本原子力学会和文論文誌 ,
No.2, pp.62-73, 2014
[2]. 八巻辰徳,筑波大学修士論文 (2014)
Fig.5 Characteristic of heated agar on each height condition
Vol.13,
音場浮遊液滴の内外部流動構造と熱伝達の関係
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 2年 丹羽 基能
指導教員:阿部 豊,副指導教員:金川 哲也,松本 聡
Email: [email protected]
1. 緒言
地上重力環境下における容器による溶液の取り扱いお
いては,容器壁面への溶液の吸収や吸着,容器壁面からの
コンタミネーションなど,容器壁に起因した問題が存在す
る.そこで,容器壁の影響を回避するために,浮遊技術を
利用した無容器プロセッシングが注目されており,材料創
生や,分析化学,創薬の分野での応用が期待されている[1].
本研究で活用する音場浮遊法は,音圧により試料を制御す
る浮遊法である.音場浮遊液滴の外部には,音波に起因す
る流動が生じ[2],さらには液滴内部にも流動が生じること
が知られている[3].浮遊液滴周りの流動は,液滴界面を通
しての熱物質輸送に影響を与えること[4]が報告されてお
り,音場浮遊法による無容器プロセッシング技術の確立に
は,浮遊液滴に生じる特徴的な内外部流動構造の把握およ
び内外部流動と熱物質輸送の関係の解明が必要である.
本研究では,音場浮遊液滴の内外部流動構造を把握し,
内外部流動が浮遊液滴の伝熱性能へ与える影響の解明を
目的とする.本報では,ステレオ PIV による内部流動の計
測結果および PIV による外部流動の計測結果を述べる.
2. 実験装置および実験方法
Fig. 1 に実験装置の概略図を示す.実験装置は,液滴
を浮遊させるテスト部と周辺機器から構成されている.関
数発振器から発振した正弦波信号を,アンプで増幅させ,
電力計を介した後に超音波振動子に入力する.超音波振動
子を駆動することで,接続されているホーンを介してテス
ト部内に音波を印加する.その後,反射板にて音波が反射
し,テスト部内に音響定在波を形成する.音圧の節の位置
にシリンジにより試料を注入し,液滴を浮遊させる.ホー
ンと反射板間の距離は 46 mm,入力周波数は 19.4 kHz であ
る.Fig. 1(a)に,外部流動を撮影する際の実験装置の概略図
を示す.外部流動の計測の際には,平均粒子径が約 5 μm
の水ミストをトレーサ粒子として用い,シートレーザを液
滴側面から鉛直断面に照射することで可視化を行い,ハイ
スピードカメラにより撮影を行った.取得した画像群に
PIV を行うことで,液滴鉛直断面における外部流動の速度
ベクトル場を取得した.また,浮遊液滴の内部流動を詳細
に把握するために,液滴赤道面におけるステレオ PIV を実
施した.Fig. 1(b)に,光学系の概要図を示す.液滴の上部
にハイスピードカメラを設置し,直角プリズムミラーで 2
方向に光路を分けて液滴を観測することでステレオ視を
行う.Fig. 2(a)に,液滴上部から撮影した画像を示す.平均
粒子径 10 μm のシルバーコート粒子をトレーサ粒子として
ステレオ PIV を実施し,液滴水平断面における 2 次元 3 成
分の速度ベクトル場を取得した.また,Fig. 2(b)に液滴側
部から撮影した画像を示す.撮影画像に画像処理を施すこ
とで,液滴の長軸と短軸および,音圧の節からの変位を得
た.試験流体は,蒸留水を用いた.液滴が扁平するため,
体積等価直径を液滴径 d,液滴の短軸に対する長軸の比を
アスペクト比 As と定義した.音圧は 2.9-3.3 dB,液滴径は
2.7-4.3 mm の範囲で浮遊させた.
(a) For external flow
(b) For internal flow
Figure 1: Experimental setup
(a) Top view
(b) Side view
Figure 2: Images for internal flow measurement
3. 実験結果および考察
3.1 水液滴の内部流動構造
Fig. 3 に,水液滴の内部流動に対してステレオ PIV を実
施することで得た 2 次元 3 成分の速度ベクトル場を示す.
速度ベクトル場は,1 秒間の計測に対する平均である.撮
影速度は 1000 fps,露光時間は 1 ms,空間解像度は 13.9
μm/pix である.Fig. 3 (a)(b)(c)は,それぞれ,音圧が 2.9,
2.9,3.1 kPa,d が 4.0,4.3,4.0 mm,As が 1.6,1.7,1.8 の
結果であり,内部流動の速度ベクトル場を鳥瞰図,液滴水
平断面である xy 平面,鉛直断面である yz 平面の 3 方向か
ら示している.
初めに,音圧が等しい Fig. 3 (a)(b)の比較を行い,液滴径
の違いが内部流動の構造に及ぼす影響について考察する.
Fig. 3 (a)の水平断面と鉛直断面の結果に着目すると,水液
滴は x 軸を中心軸として回転していることが分かる.一方,
Fig. 3 (b)に着目すると,
鉛直断面である yz 平面の結果から,
Fig. 3 (a)と同様に x 軸を中心軸として回転していることが
分かる.しかしながら,水平断面である xy 平面では,Fig. 3
(a)と異なり,液滴の中央を通り,液滴の端で 2 方向に分か
れるような,2 つの渦を伴う流動構造が計測された.従っ
て,水液滴において,液滴径は内部流動構造に影響を及ぼ
すことが示唆された.続いて,液滴径が等しい Fig. 3 (a)(c)
の比較を行い,音圧の違いが内部流動の構造に及ぼす影響
について考察する.Fig. 3 (c)において,水平断面である xy
平面に着目すると,Fig. 3 (b)と同様に 2 つの渦を伴う流動
構造を確認した.従って,液滴径に加え,音圧も水液滴の
内部流動構造に影響を及ぼすことが示唆された.
3.2 水液滴の外部流動構造
Fig. 4 に,水液滴の外部流動に対して PIV を実施するこ
とで得た 1 秒間の平均の速度ベクトル場を示す.図中の破
線は,液滴界面を示している.撮影速度は 2000 fps,露光
時間は 500 μs,空間解像度は 20.5 μm/pix である.Fig. 4
(a)(b)(c)は,それぞれ,音圧が 3.0,3.0,3.3 kPa,d が 2.7,
3.6,3.6 mm,As が 1.2,1.4,1.5 の結果であり,鉛直断面
である yz 平面における速度ベクトル場を示している.Fig. 4
より,水液滴の外部流動は,液滴の側部から流入し,上部
と下部へ流出する流れであることを確認した.Fig. 4 (a)(b)
の音圧が等しく液滴径が異なる場合の結果より,液滴径の
増加に伴い,液滴の上部と下部への流出速度は増加してい
ることが分かった.また,Fig. 4 (b)(c)の液滴径が等しく音
圧が異なる場合の結果より,音圧の増加に伴い,液滴の上
部と下部への流出速度は増加していることが分かった.
3.3 水液滴の対流熱伝達
液滴に流出入する熱量の関係は,物性値を一定とすると
次式のように表現できる:
c p
d
VTL   hS Ta  TL   L dV .
dt
dt
(b) p = 2.9 kPa, d = 4.3 mm, As = 1.7
(1)
ここで,は密度,cp は定圧比熱,L は潜熱,V は体積,S
は表面積,TL は液滴温度,Ta は周囲気体温度,t は時間,h
は対流熱伝達率である.Fig. 5 に,液滴径および液滴温度
の時間変化の計測結果を式(1)に挿入して得られた水液滴
の対流熱伝達率を示す.横軸が液滴径,縦軸が対流熱伝達
率である.Fig. 5 より,液滴径が小さく音圧が大きい程,
水液滴の対流熱伝達率は増加する傾向であることが定量的
に示された.また,球周りの対流熱伝達に関する実験相関
式である Ranz-Marshall の式[5]との比較を行う.

(a) p = 2.9 kPa, d = 4.0 mm, As = 1.6
(c) p = 3.1 kPa, d = 4.0 mm, As = 1.8
Figure 3: Velocity fields of internal flow of water droplets

Nu  2  0.6Re1 2 Pr1 3 0.6  Pr  380, 1  Re  10 5 . (2)
ここで,水液滴の界面近傍速度を計測したところ,約 200
~450 mm/s であった.この値を代表流速として(2)式から求
めた対流熱伝達率を Fig. 5 に示す.
Fig. 5 より,
Ranz-Marshall
の式から求めた対流熱伝達率よりも,音場浮遊した水液滴
の対流熱伝達率は小さいことが示唆された
4. 結言
音場浮遊法により浮遊した水液滴について液滴径,音圧
を変化させ,内外部流動を計測した.また,音場浮遊した
水液滴について対流熱伝達率の算出を行った.液滴径,音
圧の増加に伴い液滴の水平断面に 2 つの渦を伴う流動構造
が現れると共に,液滴の上部と下部への流出速度は増加す
ることが明らかとなった.また,音場浮遊した水液滴の対
流熱伝達率は,既存の球周りの実験相関式より小さい値と
なることが示唆された.
参考文献
[1] Rehder, S. et al., Eur. J. Pharm. Sci., 48, 97-103 (2013)
[2] Zhao, H. et al., J. Acoust. Soc. Am., 106, 3289-3299 (1999).
[3] Ishii, H. et al., Trans. Jpn. Soc. Mech. Eng., Series B, 78,
1696-1709 (2012)
[4] Shitanishi, K. et al., Microgravity Sci. Technol., 26, 305-312
(2014).
[5] Ranz, W. E. et al., Chemical Engineering Progress, 48,
141-146 (1952).
(a) p = 3.0 kPa,
d = 2.7 mm,
As = 1.2
(b) p = 3.0 kPa,
d = 3.6 mm,
As = 1.4
(c) p = 3.3 kPa,
d = 3.6 mm,
As = 1.5
Figure 4: Velocity fields of external flow of water droplets
Figure 5: Convective heat transfer coefficient of water droplets
パルスレーザー堆積法による固体酸化物形燃料電池用の高性能ナノコンポジット薄膜空気極の開発
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 2 年 福武 秀朗 ([email protected])
指導教員【石田 政義】
、副指導教員【花田 信子、西岡 牧人】
1. 研究背景・目的
化石燃料の枯渇や地球温暖化が問題となっている中、エネ
ルギー資源の有効活用と環境負荷の少ないクリーンエネルギ
ーの推進が求められている。それを達成するためのエネルギ
ーデバイスの一つとして、化学反応で得られるエネルギーを
直接電気エネルギーに変換できるため、発電効率が高い燃料
電池が挙げられる。その中でも固体酸化物形燃料電池(SOFC:
Solid Oxide Fuel Cells)は高い作動温度(600 ~ 1000C)から、排
熱を複合発電に利用でき、さらに高い発電効率を有する。
しかし、高温作動により部材の劣化が早いという問題点が
あり、
近年では低温作動(500C 前後)型 SOFC の研究開発が盛
んになっている。低温作動型 SOFC の研究課題として、抵抗
の増大による出力電圧の低下が挙げられ、特に空気極過電圧
が大きな割合を占めている [1]。よって、発電効率向上には空
気極過電圧の抑制が必要不可欠となっている。
その解決策として、本研究では電子の授受が行われる空気
極/電解質/酸素の界面(三相界面)を増大させることを試みた。
三相界面を最大限拡大するために、薄膜構造の調整が容易で
あるパルスレーザー堆積(PLD: Pulsed Laser Deposition)法によ
り、電解質材料の単結晶基板上に堆積させることで空気極材
料と電解質材料の柱状構造を有するナノコンポジット薄膜空
気極を作製した。作製したサンプルの構造解析として、結晶
構造解析や断面観察、元素マッピング分析を X 線回折法
(XRD: X-Ray Diffraction)および透過型電子顕微鏡(TEM:
Transmission Electron Microscope)を用いて行った。また、空気
極としての性能を同位体酸素交換測定から表面交換反応係数
k*を算出し、評価した。
2.ナノコンポジット薄膜空気極の作製方法
2.1 空気極材料および電解質材料の選定
本研究では、空気極/電解質間の電気化学反応が促進されや
すい組み合わせとして、空気極材料に導電率が高い
La0.6Sr0.4CoO3-(LSC)、電解質材料に低温作動域(500-700C)で
酸化物イオン導電率の高い Ce0.9Gd0.1O2-(GDC)を選定した。出
発材料は共に市販の粉末を用いた。各粉末を混合し、ペレッ
ト状に成形した複合材料をターゲット試料とした。
図 1. PLD 法による薄膜作製の概略
図 2. ナノコンポジット薄膜空気極の作製手順
単結晶基板(1 0 0)を選定した。
まず、YSZ 基板と LSC 粒子の固相反応を防ぐ役割を担う
GDC 層を GDC ターゲットにより作製した。
GDC ターゲット
の作製条件は、GDC 粉末を成形し、密度を高めるために
1550C で 6 時間焼結した。次に GDC 層上に LSC-GDC 薄膜
を LSC-GDC ターゲットにより作製した。LSC-GDC ターゲッ
トの作製条件は、LSC 粉末および GDC 粉末を物質量比 1:1
で混合・成形し、1400C で 5 時間焼結した。また、ナノコ
ンポジット空気極と性能を比較するため、GDC 層上に LSC
薄膜を堆積させたサンプルも用意した。LSC ターゲットの作
製条件はペレット状に成形し、1250C で 4 時間焼結した。
3. ナノコンポジット薄膜空気極の構造分析
3.1 結晶構造解析
図 3 に LSC-GDC ターゲットと薄膜の XRD 測定結果を示
す。各ピークに付いたマークは何の物質に起因して現れたピ
ークかを示している。LSC、GDC 共に、単一方向の面指数に
起因するピークのみが強く現れた。よって、LSC と GDC と
もに規則的に結晶成長した薄膜を成していることが分かった。
3.2 断面観察・元素マッピング分析
図 4 に LSC-GDC 薄膜の断面元素マッピング像を示す。BF
は薄膜の断面像、Zr は YSZ 成分の像、Ce は GDC 成分の像、
2.2 ナノコンポジット薄膜空気極の作製方法
CoはLSC成分の像を表している。
Coの像に着目すると、
GDC
図 1 に PLD 法による薄膜作製の概略を示す。PLD 法とは
層近傍では分布が一様かつ密になっているが、表面方向に行
薄膜の元となるターゲット試料にレーザーを照射し、基板上
くに従い分布が点在し、疎な部分が多くなっていることが分
に飛ばし、蒸着させることで薄膜を作製する方法である[2]。
かる。また、BF 像のコントラストにより薄膜材料が柱状に成
図 2 にナノコンポジット薄膜空気極の作製手順を示す。薄
長している様子が確認された。よって、空気極表面付近では
膜を堆積させる基板には電解質材料として一般的な 13 mol%
LSC 相と GDC 相が柱状に分離して現れ、酸素を供給するこ
イットリア安定化ジルコニア(YSZ: Yttria Stabilized Zirconia)の
とで三相界面が拡大される可能性が示された。
図 5. LSC-GDC 薄膜の表面付近における TEM 像
図 3. LSC-GDC ターゲットと薄膜の XRD 測定結果
図 6. 各薄膜空気極の酸素拡散プロファイル
表 1. 各薄膜空気極の拡散係数 Dと表面交換反応係数 k
薄膜
拡散係数 D(cm2/s)
交換反応係数 k(cm/s)
LSC-GDC
1.29  10-8
1.07  10-6
LSC
1.07  10
0.34  10-6
図 4. LSC-GDC 薄膜の断面元素マッピング像
-8
表面付近での LSC と GDC の分布を調べるため、さらに高
表 1 に各薄膜空気極の Dと k*を示す。D*は交換時の温度や
倍率で断面観察を行った。図 5 に薄膜の表面付近における
基板材料が等しいことから、近い値を示した。しかし、kに
TEM 像を示す。図 5 より柱状材料を判別するために、原子間
着目すると、LSC-GDC 薄膜空気極は LSC 薄膜空気極に比べ
隔距離を計測した。隣り合う柱状材料の原子間隔距離を比較
て表面の酸素交換活性が 3.2 倍向上していると分かった。
した結果、距離間隔が 0.275 nm と 0.312 nm と異なっている
ことが分かった。各材料の結晶構造や格子定数、配向面を考
4. ナノコンポジット薄膜空気極の性能評価
空気極としての性能を評価するため、同位体酸素交換測定
を行った。酸素の交換条件は、温度 600C、酸素圧力 20 kPa
に設定した。まず、16O を 60 分間サンプルに供給し、その後
18
Oに切り替え5分間供給した。
図6に交換測定後のLSC-GDC
5. まとめ・今後の予定
低温作動型 SOFC の高効率化を目的に、電子の授受が行わ
れる三相界面の拡大に向けて、PLD 法により作製した電極と
電解質のナノコンポジット薄膜空気極の構造解析と空気極性
能を評価した。薄膜空気極を単結晶基板に堆積させることで
各材料が柱状構造を形成し、表面における三相界面が拡大し
たことで酸素の交換反応活性が向上したと考えられる。
今後は空気極過電圧を電気化学測定により計測し、ナノコ
ンポジット薄膜空気極を用いることで、どの程度過電圧の抑
制に効果があるのかを調べる。さらに、空気極-電解質混合比
や PLD 法の成膜条件、単結晶基板の面指数を変更することで、
最も空気極過電圧が抑制される構造を模索する予定である。
薄膜および LSC 薄膜の酸素拡散プロファイルを示す。拡散プ
参考文献
ロファイルのフィッティング式を YSZ 基板側から適用し、拡
[1]
慮すると、0.275 nm は GDC 中のセリウム(Ce)間の距離、0.312
nm は LSC 中のコバルト(Co)間もしくは Co とランタン(La) or
ストロンチウム(Sr)間の距離と一致するので、図 5 中の左が
GDC、右が LSC であると断定した。よって、表面付近では
LSC とGDCが異なる柱状構造を成していることが判明した。
*
*
散係数 D と YSZ からの見かけ上の表面交換反応係数 k を算
出し、LSC および LSC-GDC 薄膜空気極の結果を比較した。
[2]
吉川将洋ら:「SOFC 性能劣化解析(1)」、第 21 回燃料電池
シンポジウム講演予稿集、2014, pp.103-106
Pawel Plonczak et al., Adv. Funct. Mater. 21, 2011, pp.2764-2775
高温水蒸気電解向け固体酸化物電解質の電気伝導度に雰囲気が及ぼす影響
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 2 年 包 宇峰 ([email protected])
主指導教員:石田 政義、副指導教員:花田 信子、西岡 牧人
1. 序論
水素は、使用時に温室効果ガスを排出しないことから次
世代エネルギーとして関心が集まっており、近年普及が進
む自動車用・家庭用燃料電池の燃料として期待されている。
高エネルギー効率な高純度水素製造法の一つとして高温
水蒸気電解法がある。電解質には一般的にプロトン伝導性
酸化物が用いられており、理論的には水素以外の副生成物
が生成しないため高純度水素製造が可能である。
しかし、実用的な電解質使用環境下において水蒸気電解
を行うと、プロトンと共にプロトン以外の電荷担体(正孔、
酸化物イオン)も電解質中を伝導することが示唆されてお
り [1]、プロトンは必ずしも理論通りに伝導しない。その結
果、生成水素の純度低下やそれに伴う電気分解効率低下が
懸念される。よって、固体電解質中でプロトンが温度や雰
囲気によってどのような伝導特性を示すのかを正確に調
査することで、電気分解に適した環境が判明することによ
り、高純度水素の高効率製造技術の実現に寄与できる。
本研究では酸化物 SrZr0.92Y0.08O2.96 の電気伝導度につい
て測定した際に、300ºC 温度一定状態で雰囲気を変化させ
て長時間放置すると、値が一桁程度増減することが確認さ
れた。この変化が雰囲気によるものか物質自身の変化によ
るものかを確認する必要があるため、再び電気伝導度測定
試験を行った。本発表では 300ºC 温度一定状態における電
気伝導度測定結果について報告する。
試料の両面にPt ペーストを塗布してPt メッシュとPt リー
ド線を貼り付けた後、電気炉内において大気中 1000ºC で
2 時間焼き付けた。その後、モジュール式電気化学測定シ
ステム(ModuLab, Solartron) を用いて、wet-Air, dry-Air,
wet-H2, dry-H2 の順に雰囲気を変化させ、それぞれの雰囲
気において 2 端子法(擬似 4 端子法)での交流インピーダン
ス測定を行った。それぞれの雰囲気の説明を表 1 で行う。
また、電気炉内の模式図を図 1 に示す。測定温度点は昇温
時には 300, 400, 450, 500, 550, 600, 700, 800ºC の 8 点、降温
時には 800ºC から 300ºC まで 100ºC 刻みで 6 点とした。温
度勾配は 10 ºC/min とした。印加電圧は 100 mV、周波数は
1 MHz から 0.1 Hz まで変化させた。8.0ºC に保持した恒温
槽中に Air または H2 ガスを導入して 1加湿状態にした。
表 1. 電気伝導度測定試験で用いた雰囲気一覧
dry-Air
水蒸気圧が 10-4 atm 以下の乾燥空気
露点温度:約-30ºC
wet-Air
dry-Air に 10-2 atm 分の水蒸気を添加した
1加湿空気
dry-H2
水蒸気圧が 10-4 atm 以下の乾燥 1水素
露点温度:約-40ºC
wet-H2
dry-H2 に 10-2 atm 分の水蒸気を添加した
1加湿 1水素
SrZr0.92Y0.08O2.96
Pt メッシュ
Pt リード線
2. 試料の作製方法と電気伝導度測定方法
2.1 固体酸化物 SrZr0.92Y0.08O2.96 の作製方法
SrCO3, ZrO2, Y2O3 をそれぞれ化学量論比に合わせて秤
量し、遊星ボールミルで十分混合させた。混合粉末を十分
に乾燥させた後、2 種類のプレス(10 kPa、392 MPa)をかけ
てペレット状に成形した。その後、これを電気炉内におい
て大気中 1350ºC で 10 時間仮焼した。出来上がったものを
粉末状に粉砕して、再度同様の方法でペレット状に成形し
た。最後に、これを電気炉内において大気中 1700ºC で 5
時間本焼した。出来上がった試料に対して XRD や
SEM-EDX を用いて構造分析や組成分析を行った結果か
ら、仕込み組成通り(SrZr0.92Y0.08O2.96)の酸化物の単相が作
製されたことを確認した。
2.2 酸化物 SrZr0.92Y0.08O2.96 の電気伝導度測定方法
出来上がった試料に対して両面研磨を行った。研磨後の
Air, H2, H2O
図 1.電気伝導度測定試験における電気炉内模式図
2 端子法(擬似 4 端子法)での交流インピーダンス測定に
より試料の抵抗インピーダンス(電気抵抗値)がわかる。試
料の電気伝導度 [S/cm]は、抵抗率 [Ω・cm]の逆数になる
ので、(1)式のようにして試料の電気伝導度が算出される。

= 1 / = ℓ / (R×A)
(1)
ℓ は試料の長さを表し、ℓ =0.110 cm である。R は試料の電
気抵抗値を表す。A は試料の断面積を表し A =0.502 cm2
である。
3.電気伝導度測定結果評価
変化した可能性が考えられる。しかし、Hasegawa らの実験
酸化物 SrZr0.92Y0.08O2.96 の電気伝導度測定における初期
実験結果を表 2 に、本実験結果を表 3 にまとめた。
表 2 から初期実験において、300ºC 温度一定状態で雰囲
気を変化させて長時間放置すると、wet-Air から dry-Air に
変化させた際(手順 2)には値が一桁程度減少し、dry-Air か
ら wet-H2 に変化させた際(手順 6)には値が一桁程度増加し、
そして wet-H2 から dry-H2 に変化させた際(手順 10)には値
が一桁程度減少することが確認された。
表 3 から本実験において、300ºC 温度一定状態で雰囲気
を変化させて長時間放置すると、dry-Air から wet-H2 に変
化させた際(手順 6)には値が一桁程度増加するが、300ºC
温度一定状態で雰囲気を変化させてそのまま連続測定を
行うと、いずれの雰囲気変化の際(手順 2,10)にも電気伝導
度に大きな変化は生じないことが確認された。
2 回の実験とも計測機器や計測手順に相違はなく、測定
装置のインピーダンス計測誤差も 0.2%であり、実験方法
が結果に影響を与えたとは考えにくい。よって、変化の原
因は 2 点考えられる。
1.酸化物が長時間 300 ºC 環境に晒された結果、結晶構造
等に変化が生じ、それが原因で電気伝導度の大幅な変化に
至った。
2.酸化物が長時間同一雰囲気に晒された結果、結晶中電
荷担体濃度に変化が生じ、それが原因で電気伝導度の大幅
な変化に至った。
Hasegawa らは示差走査熱量測定(DSC)・高温 X 線回折
測定・熱膨張測定、以上 3 種類の測定法を用いて高精度の
実験を行い、およそ 25ºC から 1200 ºC までの温度域で
SrZrO3 系酸化物の相転移について調査している。
その結果、
769ºC において単純斜方晶系から体心斜方晶系へと可逆
的な相転移が発生することがわかっている[3]。本研究にお
ける最高温度は 800 ºC であるため、斜方晶系へと可逆的に
結果[3]から 300 ºC においては結晶構造変化が生じるとは
考えられない。
500ºC 以下の環境においてプロトンが主電荷担体とな
り、電解質中を伝導しやすいこと[2]から、300ºC において
もプロトンが主電荷担体となる。よって、wet 雰囲気で長
時間放置することにより、酸化物中のプロトン濃度が増加
してこれが電気伝導度の増加に寄与したと推測される。同
様に dry 雰囲気で長時間放置することにより、酸化物中の
プロトン濃度が減少してこれが電気伝導度の減少に寄与
したと推測される。
表 2. 初期実験における電気伝導度の変化長時間放置
表 3. 本実験における電気伝導度の変化連続測定
 [S/cm]
4. 結論
本研究では300ºCから800ºCの範囲で雰囲気別の電気伝
導度測定を行った。その結果、相転移等の結晶構造変化が
生じない 300 ºC の比較的低温域において、同一雰囲気下
で 60 時間程度経過すると、酸化物の電気伝導度が 1 桁程
度増減することがわかった。これは雰囲気変化に伴う結晶
中プロトン濃度変化が元で生じる可能性が高いと考えら
れる。この場合、温度雰囲気一定条件下で水蒸気加湿量のみ
を変化させた際に、加湿量の増減に伴い電気伝導度も増減す
ると考えられるため、今後はこれに関する調査をする必要が
ある。
参考文献
[1] T.Sakai, et al.: International journal of hydrogen energy 34
(2009)56-63
[2] 包 宇峰.: 筑波大学工学システム学類卒業論文 (2015)
[3] S.Hasegawa, et al.: Solid State Ionics 181 (2010) 1091–1097
内容
1
測定 in wet-Air @300ºC
−5

測定 in dry-Air @300ºC
−6

800ºC まで昇温させて 300ºC まで降温

1.61 × 10−7
800ºC まで昇温させて 300ºC まで降温

測定 in dry-Air @300ºC
−6

測定 in dry-Air @300ºC
測定 in wet-H2 @300ºC
−5
7
測定 in wet-H2 @300ºC
8
2.93 × 10
800ºC まで昇温させて 300ºC まで降温
8
800ºC まで昇温させて 300ºC まで降温
9
測定 in wet-H2 @300ºC
−4
9
測定 in wet-H2 @300ºC
測定 in dry-H2 @300ºC
−5


7

11
2.04 × 10
次の雰囲気で 60 時間程度放置
1.35 × 10
次の雰囲気で 60 時間程度放置
7.18 × 10
内容
1
測定 in wet-Air @300ºC

3.02 × 10
2.39 × 10
次の雰囲気で 50 時間程度放置
手順
 [S/cm]
手順



11
1.62 × 10−7
次の雰囲気で連続測定
測定 in dry-Air @300ºC
1.04 × 10−7
次の雰囲気で 50 時間程度放置
1.09 × 10−6
1.49 × 10−5
次の雰囲気で連続測定
測定 in dry-H2 @300ºC
1.51 × 10−5
陰イオン交換膜水電解に関する電極触媒層の作製方法が過電圧に及ぼす影響
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 2 年 宮﨑 尚貴 ([email protected])
指導教員【石田 政義】
、副指導教員【花田 信子、西岡 牧人】
1. 序論
太陽光・風力発電などの気象条件により出力が変動する電源
(変動電源)の普及に伴い、需給調整を図る電力貯蔵システムの
開発が必要とされており、水素を用いた電力貯蔵システムの開
発が進められている[1]。図 1 に水素利用蓄電システムの概要を
示す。水素利用蓄電システムは、変動電源の出力を水素として
貯蔵し、電力不足時に燃料電池に供給して発電を行う。電力を
水素として貯蔵するため比較的長期間かつ大容量の蓄電が可
能であるが、実用化に向けては、コスト削減が必要である。
現在実用化がされている水の電気分解による水素製造方法
には、アルカリ水電解と陽イオン交換膜(PEM: Proton Exchange
Membrane)水電解がある。アルカリ水電解は大規模な水素製造
方法として広く展開しており、低コストでの水素製造が可能で
図 1 水素利用蓄電システムの概要
あるが、周辺機器が複雑であり変動電源への対応ができない。
また、PEM 水電解は起動停止特性に優れるため変動電源への
対応が可能であるが、酸性環境下での運転に耐えうる貴金属の
使用が必要となる。そこで、PEM 水電解の利点を維持し、低コ
スト化が期待できる新規水電解技術、陰イオン交換膜(AEM:
Anion Exchange Membrane)水電解に注目した。
AEM 水電解装置は、現状では研究開発段階にあり、その構
成部材等は最適化されていない。AEM 水電解の実用化に向け
ては、性能向上と耐久性向上が必要である。先行研究[2]では、
AEM 水電解装置による水素の製造は行われたが、運転可能な
電流密度範囲は制限され、また、数時間の水電解試験後に電極
触媒の剥離といった水電解セルの劣化が見られた。本研究では
耐久性の向上に向けて、AEM 水電解セルの電極触媒層の作製
方法が水電解時の過電圧に与える影響を調査することを目的
とする。電極触媒層の作製時のパラメータを変更することで、
AEM 水電解における最適な電極触媒層の作製方法を明らかに
図 2 AEM 水電解セルの構成
する。今回は、今後行う性能比較の基準として、先行研究と同
AEM 水電解では水の消費反応は水素極側で生じるため、循
様な手法で電極触媒層を作製し、その電極を用いて水電解試験
環溶液は通常水素極側に供給される。しかし、水素極側へ循環
を行った結果について報告する。
溶液の供給を行う場合、水素と循環溶液の分離が必要となるた
2. AEM 水電解
め、システムが複雑となる。そこで、本研究では水素の分離を
2.1 AEM 水電解セルの構成
容易にするために、循環溶液を酸素側に供給する。この場合、
図 2 に AEM 水電解セルの構成を示す。AEM 水電解セルは
水が酸素極側から AEM を通って水素極側へ移動することで水
電解質膜である AEM の両側に、水電解反応を担う触媒層、反
の消費反応が生じる。
応流体の輸送を担うガス拡散層(GDL: Gas Diffusion Layer)、反応
2.2 電極触媒層の作製方法[3]
流体の流路を担うバイポーラプレートを配置した構造である。
電極触媒層の作製方法には、電解質膜の両側に触媒を塗布す
式(1)および式(2)に AEM 水電解セルにおける水素極(カソード)
る CCM(Catalyst Coated Membrane)法と GDL に触媒を塗布する
および酸素極(アノード)の反応を示す。
CCS(Catalyst Coated Substrate)法がある。
Cathode : 2H 2O  2e   H 2  2OH 
Anode : 2OH  
1
O 2  H 2 O  2e 
2
(1)
(2)
CCM 法では、はじめに電極触媒に溶媒を混合し、バインダ
ーを加えて超音波処理を行い、均質な触媒ペーストを作製する。
その後、触媒ペーストを直接膜に塗布し、乾燥させることで
CCM が形成される。AEM の耐熱性は低く結着に熱処理が必要
なバインダーを用いることができないため、CCM 法ではバイ
表 1 AEM 水電解セルの構成部材の仕様
ンダーに陰イオン伝導性樹脂である AEM アイオノマーが用い
られる。アイオノマーは陰イオン伝導性の向上をもたらすが、
結着力が弱いため先行研究で見られた触媒層の剥離を引き起
Part
Specification
Membrane
A 201
Electrocatalyst
こす可能性がある。CCM 法は、電極触媒層作製時のパラメー
タが電極触媒のみであり、パラメータの変更やその影響の比較
GDL
が容易である。そこで先行研究では、AEM 水電解装置の特性
把握のため、CCM 法によって電極触媒層の作製が行われた。
H2 side
Acta 4030
O2 side
Acta 3030
H2 side
Carbon paper
O2 side
Ni foam
28.09 cm2
Active area
CCS 法では、同様に作製した触媒ペーストを GDL 上に塗布
する。GDL は耐熱性を有するため CCS 法ではバインダーに
表 2 試験に用いた各極の電極触媒の添加量
PTFE(polytetrafluoroethylene)溶液などのフッ素高分子材料が使
用でき、塗布後に GDL を焼結することでより耐久性に優れた
0.056 wt.%
H2 side
3.53 mg/cm2
KOH
O2 side
5.41 mg/cm2
1 wt.%
H2 side
2.18 mg/cm2
K2CO3
O2 side
7.00 mg/cm2
触媒層の形成が期待できる。しかし、PTFE は絶縁性を有する
ため、抵抗の増加の可能性がある。
3. AEM 水電解試験
3.1 水電解試験方法・条件
表 1 に実験に用いた AEM 水電解セルの構成部材の仕様を示
2.2
す。水素極触媒である Acta 4030 (Acta 社)は Ni/(CeO2-La2O3)/C
を原料とした製品であり、酸素極触媒である Acta 3030 (Acta
同様な CCM 法によって作製した。表 2 に試験に用いた各極の
触媒添加量を示す。循環溶液を供給し、直流電源を印加する
ことで水電解試験を行った。セル温度は 50°C とし、循環溶液
には 0.056 wt.%の KOH 溶液と 1 wt.%の K2CO3 溶液を用い、酸
Cell voltage [V]
社)は CuCoOx の混合酸化物である。電極触媒層は先行研究と
2
素極側にのみ循環させた。セル電圧は安定後の値を記録し、
測定は安全性を考慮してセル電圧が 2.2 V を超えたところで終
1.8
1.6
1.4
KOH
KOH0.056
0.056wt%
wt.%
K2 CO3 1wt%
1 wt.%
K2CO3
1.2
PEM
PEM
1
了した。セル抵抗は、安定後の 2 分間の平均値とし、測定し
0
たセル抵抗の値を用いて過電圧解析を行った。
3.2 水電解試験結果
流密度-電圧特性を示す。0.056 wt.%の KOH 溶液を用いた方が
セル電圧は低減されたが、PEM 水電解に比べると依然として
付着しているのが確認された。
4. 結論
AEM 水電解セルの電極触媒層の作製方法が水電解時の過電
圧に与える影響を調査することを目的とし、今回は性能の比較
の基準として電解質膜の両側に触媒を塗布する方法(CCM 法)
によって電極触媒層を作製し、水電解試験を行った。試験結果
Overpotential [V]
高い結果となった。図 4 に過電圧解析結果を示す。抵抗過電
を用いた方が低減された。また、試験終了時に配管に触媒が
1000
図 3 水電解時の電流密度-電圧特性
図 3 に CCM 法によって作製した電極を用いた水電解時の電
圧は循環液によって変化しないが、活性化過電圧は KOH 溶液
200
400
600
800
Current density [mA/cm2 ]
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
Activation overpotential
KOH
KOH0.056
0.056wt%
wt.%
K2CO3
K2 CO31wt%
1 wt.%
Resistance overpotential
0
から、CCM 法によって作製した電極を用いた水電解試験
では、KOH 溶液を用いた方が過電圧は低減され、性能は向上し
200
400
600
800
Current density [mA/cm2 ]
1000
図 4 過電圧解析結果
た。一方で CCM 法では、水電解試験終了時に電極触媒層の剥
離が見られたため、耐久性に問題があることが示唆された。今
参考文献
後は、耐久性の向上が期待できる GDL に触媒を塗布する方法
[1] 渡邉 久夫ら、東芝レビュー, vol. 68, pp. 35–38, 2013.
(CCS 法)を用いて電極の作製を行い、その作製方法の違いが水
[2] 杉山 翔太、筑波大学修士論文、2016.
電解性能に与える影響を調査する。
[3] Y. Leng et al., J. Am. Chem. Soc., 134 pp.9054 – 9057, 2012.
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