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駒込地すべりの対策工について
駒込地すべりの対策工について 長野県佐久建設事務所 鈴木 知之 1.駒込地すべりの概要 駒込地すべりは、長野県佐久市の中心部から東南東に約 10km の地点、佐久市志賀駒込地区(図-2)で 発生した。延長約 200m、末端部幅約 160m、中段部幅約 100m、冠頂部幅約 30m,最大すべり面層厚約 17 m の典型的な末端開放型を呈する地すべりである。移動土塊量は、約3×105m3 と推定される。 当該地は新第三紀の火山岩類が分類するグリータフ地域で、地すべりの頭部付近には東西方向の断層 に切られて、駒込層と八重久保層などの新第三紀火山岩や火山砕屑岩類及びこれらの二次堆積物が分布 しており、地すべりは駒込層中の火山砕屑岩を起源とする二次堆積物中で発生している。地すべりブロ ック中では、泥濘化したスメクタイトを含む黄灰色化した火山砕屑岩の分布が顕著に認められる。 地すべりの兆候が確認されたのは 2006 年 8 月 6 日であり、主要地方道下仁田−浅科線の道路ブロッ ク積擁壁及び道路舗装部に亀裂が発生しているのが確認され、その後、同8月8日には地すべり地内の 随所に明瞭な亀裂群や段差地形が生じ、急速に頂部滑落崖、側方滑落崖及び末端部隆起が発達し、頂部 滑落崖が後退した。本地すべり滑動は極めて急速に進行し、地盤伸縮計の変位量は発生初期段階で約 4mm∼7mm/時、その後2ヶ月半もの期間、2mm/時以上の速度で動きが継続した。 佐久市 図−1 長野県位置図 図−2 位置図 2.警戒避難体制、地域への周知について 当該地すべりは、初期段階から急速に進行したため、地すべり地内を走る主要地方道下仁田浅科線へ の影響が顕著であったため、県では交通及び地域住民の安全確保を考え、周辺区への周知を図るととも に、8月10日には県道を全面通行止めとした。また、職員により交代制で24時間の監視体制をとり、 併せて、地すべりの進行状況に対応した緊急連絡網により、緊急時の招集体制を整えた。幸い、地すべ りの直下に人家が無かったため、住民の避難は避けられた。 主要地方道下仁田浅科線は、佐久市から群馬県を連絡する幹線道路であるとともに、住民の生活道路 としても重要な路線であったことから、佐久市役所と連携し代替道路の確保を急いだ。佐久市では迂回 路となりうる林道、市道をピックアップし、拡幅及び、待避所を確保するための緊急工事を行った。 至 群馬県 地すべりブロック 一級河川 志賀川 県道 下仁田浅科線 写真−1 全景写真 写真−2 県道被災写真 3.応急対策工について 長野県佐久建設事務所では,地すべり変状が確認された段階から,地盤伸縮計及びパイプ歪計を用い て地すべり観測を実施した。また、応急対策として地すべり中段部∼頂部付近の排土工、地表水抜きボ ーリング工及び地表面水の排水処理工を行い、さらに、緊急対応として RC セグメント工法による集水 井3基を地すべりブロック外の頂部近傍に計画した。 地すべり発生当初から実施した応急対策工の施工順序は以下のとおりである。 ①浸透防止工 ブロック頭部に発生した亀裂にシート張りによる浸透防止工を実施。 ②排土工 土塊バランスを安定させるために,頭部及び中段部において可能な限り排土工を実施。約1,000 m3 の土砂を排土した。 ③地表横ボーリング工 活動ブロック内外において湧水が認められたため、ブロック中段部及び上段部にて横ボーリング工を 実施。中段施工前には当初伸縮計の変位量が 2mm/h であったが、施工中に 5mm/h にまで加速したため、 L=50∼65m の横ボーリング工を 3 本設置した後に撤収。上段部はブロック外からの施工により L=50m の 横ボーリング工を 8 本設置。 ④集水井工、集排水ボーリング工 ③の対策工後も活動は継続したため、更なる地下水排除工を追加するべく、冠頂部及び東西両側部に 集水井工を実施。空中写真判読結果より、かつての谷地形が位置する西側(1 号)より掘削し、引き続き 湧水のある冠頂部(2 号)を掘削。また尾根上の地形を呈する東側(3 号)は最後に掘削した。 集水井工に引き続き、井内の集水ボーリングを実施。3箇所のトータルでのべ本数78本、延長3, 790m の集水ボーリングを施工した。 今回の集水井の計画箇所は地すべりブロックに近接しており、地すべりが活動中であったこと、また、 湧水が多く、ヒービング現象、集水井への土圧、偏圧等を考慮しRCセグメント工法(自沈式・下継工法 併用)を採用した。掘削時の湧水、巨石の出現状況からみて、RCセグメント工法で無ければ施工は困 難であったと思われる。掘削はクラムシェルとクレーン方式の併用で行われ、熟練した作業員により急ピッチで進ん だ。 また、1号集水井の掘削時に、生木に近い状態の木片が出土した。放射性炭素年代測定の結果によると、約14,5 00年前の針葉樹の木片であることが報告された。この木片は、後の地すべり機構解析を進める上での重要な手がかり ともなった。 写真−3 2号集水井 鋼製刃口設置状況 写真−5 集水井掘削状況 写真−4 2号集水井 写真−6 掘削(巨石破砕)状況 2 号集水井 地すべり発生直後の 8 月から集水井工が完了した 12 月までの地下水位の状況を見ると、ブロック頭 部に設置したB−3調査孔においては、9 月に6.99mを示した地下水位が、12 月には11.94m に低下し、排水量としては各集水井の合計で平均 20 ㍑/分が計測された。また、伸縮計の観測結果から も、2∼5mm/h 程度継続して観測された動きが、集水井工が施工された 9 月末からは 0.1mm/h 程度まで 低下したことから、地下水排除工の効果が発現され、地すべりが沈静化に向かったことが確認できる。 また、地すべり末端部の下には、一級河川志賀川が流れており、地すべり末端部の一部が崩壊したた め、土砂が河川に埋塞し、天然ダム化した場合の対応についても検討する必要が生じた。このため、河 川を南側に付け替えることとし、応急対策として堀川による施工を実施した。 その後、12月末までに応急対策工事は概ね完了し、地すべりの動きもほぼ収束したため、応急対策 工の効果、地質調査、及び各種観測結果を踏まえて恒久対策工の検討を実施した。 付け替え後の志賀川 写真−7(一)付け替え後の志賀川 写真−8(一)志賀川 10.6 の出水状況 4.恒久対策工の検討 1-2 3-2 V V V 4-2 1 00 5. 00 V V V B-4 ホ ゙ー リ ンク ゙ GL = 68 . 06 (主)下仁田浅科線 C0 ボー リン グG L=9 95 .16 S-3 B-3 水抜パイプ 10 05 .0 0 3号井 ボーリングG L=9 91. 63 鋼管杭 7-2 2- 1 1 00 0. 00 1号井 99 0. 00 B-6 φ500mm t=12mm SKK570 1 00 0. 00 N=46 本 0 4 0. 2 0. 科線 集 水 ボ ーリ ンク ゙ 5-2 KBM 9 89. 592 B-1 0.0 (主 )下 仁田 浅 10 00 .0 0 -20 1.0 C2 9 95 .0 0 99 5. 00 B-5 C1 県道 44号 下仁 田浅 科線 M10 C3 - 181.0 - 165 .0 -151.0 1 01 0. 00 3号水制位置 2号井 10 00 .0 0 0 6 0. 99 0. 00 C4 9 95. 00 0 99 5. 00 ボ ーリン グ GL= 985 .25 ボ ーリ ング GL= 984 .7 8 8 0. 98 5. 00 0 S-5 10 9 90 .0 0 0. 0 9 85 .0 0 BV-1 水抜パイプ 1 20 . B-2 98 0. 00 99 0. 00 0 B-9 975 .0 0 4号井 B-7 9 70 .0 0 B-10 M8 C5 98 5. 00 96 5. 00 S-2 9 60 .0 0 (主)下仁田浅科線 M7 C6 9 56.59 C 10 M2 KD04 KD01 9 75 .0 0 954 .88 M3 B-8 9 75 .0 0 BV-2 No.9 No.9 +4.2 科線 949.81 M5 BV-3 (主)下仁田浅科線 C7 M6 9 70 .0 0 9 65 .0 0 No.8 0 No. 96 0. 00 No.3 1 KN o. No.4 No.6 95 5.0 0 .1 945 .12 9 50 .0 0 No.2 K D08 No No.7 .0 946.6 9 No.5 KD07 K No C8 M4 9 65 .00 32 0.0 BV-4 400. 0 4 40. 0 県道 44号 下 仁田浅 KD06 420 .0 4 60 .0 97 0. 00 95 0. 00 94 5. 00 98 0. 00 300.0 48 C9 360. 0 KD0 5 953.17 380 .0 0 KD03 956.24 0. KD02 956.26 3 40.0 95 6.08 9 55 .0 0 9 55 .0 0 KD09 賀 川 K A WA 志賀 川 7- 1 14 0. 0 945.30 KNo.5 KNo.5+ 5.0 D ODAI 942.71 15 0. 0 945.29 943.28 12 0. 0 944.80 1 00.0 T4 945.96 943.59 H EN 944.81 80 .0 60 .0 940.29 2-1 40 .0 3- 1 B2 936.08 W1 934. 23 20 LL 2 0LL * 943.96 0.0 20. 0 940.39 W2 9 3 7. 1 2 0.0W 9 3 5 .1 5 B1 936.63 B3 936.73 4 -1 B4 936.95 9 3 5. 1 7 B5 93 7 . 1 2 94 1.1 1 T1 940.68 943.46 944.57 け替え 河川付 9 50 .0 0 6-2 945.23 志 EP RB R 943.14 20.0W 937.66 B6 93 7 . 2 1 6-1 94 0. 00 93 5.0 0 KD12 945.59 BR KN 944.02 KN o.3 KD11 KNo.4 KD10 944.07 o. 2 944.37 1 -1 図−3 対策工計画平面図 図−4 対策工縦断図 当該地すべりは、初期安全率を0.914とし、計画安全率は地すべりの規模、保全対象の重要度か ら1.15と設定した。 次に、当該地すべりは活動が激しく、応急対策後には地形が大きく改変したため、地形測量等を再度 実施し、あらためて地すべりの機構解析を行い恒久対策工を決定することとした。 応急対策による排土工、及び1∼3 号集水井施工後の安定解析を実施した結果、地下水排除工等の効 果により約 5%の上昇が図られ、応急対策後の現況安全率は0.963となった。 このため、恒久対策として、地すべり末端部に押さえ盛土工を施工して安全率を1.007まで引き 上げ、現況安全率を1.00以上とした上で、地すべりブロック内に4号集水井工を施工し、同じくブ ロック内に鋼管杭工を施工して計画安全率1.15を満足させる計画とした。 5.対策工の施工 前述の検討により、恒久対策として押さえ盛土工、鋼管杭工を実施した。概要は下記のとおりである。 ・押さえ盛土工 25,000m3 ・鋼管杭 46本(φ500mm t=12mm SKK570) 押さえ盛土の施工にあたっては、25,000m3 もの土砂をどのように手配するかという問題があったが、 幸い、現場から3㎞ほどの地点で県道のバイパス工事を実施しており、残土を流用することが出来た。 鋼管杭については、 直径 500mm という太い鋼管であったため、 継ぎ手部溶接の品質確保が困難なこと、 また、溶接時間が大幅に増大すること等を考慮し、継ぎ手部については機械式ネジ継ぎ手による施工を 採用した。鋼材不足から、現場への杭の納入に若干時間がかかるという事態もあったが、昨年 12 月に は杭の施工も完了した。 恒久対策実施期間の地すべりの動きについては、ブロック内に設置された伸縮計、パイプ歪計は3月 以降大きな変動はなく、9月の台風時にも若干の動きが見られたが、その後は大きな変動は観測されて いない。また、地下水位についても、9月の台風による降雨時には水位上昇が見られたものの、平均し て低い水位で安定しており、4号集水井にもっとも近いB−7観測孔では観測開始時5.35mあった 水位が4号井完成後には10.56mまで低下している。また、1∼4 号集水井工の合計排水量は平均し て 50 ㍑/分を排出しており、これらの観測結果等から当該地すべりについては、概ね沈静化が図られた といえる。 また、当該地すべりは、地すべりの発生とともに被災した県道の復旧も大きな命題の一つであり、生 活、観光面から一刻も早い県道の開通が地域住民の望みでもある。地すべり発生から約1年6ヶ月経過 し、地すべり対策は概ね完成を迎えつつある。今後は、早期の県道復旧が大きな課題になるが、地すべ りの動向を注意深く観察しつつ、工事を安全に進めていきたい。 写真−9 鋼管杭施工状況 写真−10 写真−11 4 号集水井、鋼管杭完了 現況(地すべり末端部より上方を望む) 5.おわりに 今回の駒込のような大規模な地すべりは、佐久地域では非常に珍しく、関係者を含め地元住民も発生 当初は大きなとまどいがあり、所有する畑や山林、道路までもが崩れていく様を目の当たりにし、自然 災害に対する不安から、行政に対するいらだちを隠せなかったが、現場での説明会等を実施する中で、 次第に地元住民と行政が協力する体制を整えて災害に対処していった。 地すべりに限らず災害への対応は、そのスピードが重要視される。駒込地すべりにおいても、早い決 断と対処、また関係機関の迅速な協力により人的被害もなく、最小限の被害にとどめることが出来たと 言えるのではないか。