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プレスアーティクル
トレンドとその影響 開発方法とツールの観点から ECUのキャリブレーション 今後5年から10年の間、ECUの測定/キャリブレーション分野における開発の進歩および課題は、世界のさまざまなトレンドによって 決定づけられ、それに付随する変化への対応も求められていくでしょう。これまでに確立された従来の手法が限界に達する状況では、 企業による新たなアプローチの導入は避けられません。特に、データに基づくキャリブレーション手法、データ交換がほぼ透過的に行わ れる「インテリジェント」なデータ管理、そしてアプリを介した専門的なノウハウの柔軟な統合は、アプリケーションエンジニアの作業 を補助するようになると考えられます。 自動車業界の経営者層の多くは、これからの数年間に同業界 バリアントは1,000種類に上ります。 を左右するであろう主なトレンドとして、新市場への対応、自 ドライバーアシスタンスシステムの効率的な開発、テスト、 動車のプラットフォームとモジュールの標準化、ドライバーア 検証には、既存の測定/キャリブレーションツールとのダイレク シスタンスシステム、内燃機関のさらなる最適化を挙げていま トな統合が欠かせません。センサーデータの融合には、データ す[1]。これによって企業とその開発部門には新たな要求が課せ レートを上げるだけでなく、従来のシグナル指向のコンセプト られ、数々の作業でその方法の根本的な変更が必要になると予 を、その表現と情報処理の面でオブジェクト指向に拡張するこ 想されます。 とが必要になります。 たとえば、新しい市場では顧客、取引先、サービス提供会社 とのさらに緊密なコラボレーションが国際的なレベルで求められ 仮想キャリブレーションからパラメーターセットの自動生成まで る一方、標準化が進むことでバリアント数が増える可能性があり ます。また、内燃機関の開発が高度化すれば、パワートレインも その他のトレンドとして、仮想環境でのキャリブレーション、 今以上に複雑になるでしょう。排出ガス浄化装置を持つ今日の最 既存データセットからのナレッジの自動生成、産業分野の作業 新のディーゼル駆動システムはすでに、4、8、10、あるいは20 シーケンスへのWeb技術の導入などが挙げられます。キャリブ 種類のバリアントで、6万を超えるパラメーターのキャリブレー レーションは近年、車両からテストベンチおよびHILシステムへ ションが必要なレベルに達しています。 とシフトしていますが、今後キャリブレーション作業や最適化 ECUの複雑化と設定の多様化は、シャーシやボディーなど は、シミュレーションとモデルを用いて、ラボ内で実行するケース の他の電子分野や支援システムでも進んでいます。管理すべき が増加すると見られます (図1)。これによって企業では高価なプロト シャーシ系のパラメーターが仮に5,000個に納まっても、エン タイプやテスト車両が不要になります。これは単にシグナルの測 ジニアはそれらを80から100種類の製品バリアントについて確 定やデータの取集および管理を行うアプローチではなく、結果の 認していかなければなりません。たとえば超音波センサーは支援 自動生成に主眼を置いたアプローチになることでしょう。既存 システムでよく使われるコンポーネントであり、キャリブレー のデータベースを基に、適切な演算アルゴリズムを使用して、新 ションすべき値は2、3個に過ぎませんが、それを装着している しいパラメーターセットやバリアントが作成されるのです。 01 Technical Article / November December 2015 図1: ECUキャリブレーションは次第に車両からテストベンチおよびHILシステムへとシフトしつつあります。高価なプロトタイプやテスト車両のコスト削減を図るため、キャリブレーション作業や 最適化を、シミュレーションとモデルを用いて、ラボ内で実行するケースが増えています 信頼性が高く、付加価値のあるクラウド技術の統合 るための柔軟なインターフェイス」、「測定/キャリブレーシ ョンソリューションにおけるインターネット技術の統合と、信 今日では、ソーシャルメディア、Internet of Things (モノの 頼性の高い備え」の4つです。 インターネット)、Web 3.0を通じて、データ交換や接続、拡張 が、アプリを使用することでシンプルかつ包括的に実現されて 今後の開発に最適な現在のソリューション います。これを測定やキャリブレーションのアプリケーション で生かすためのポイントは、これらのアプローチを統合された パワートレインのキャリブレーションは、測定データの収 信頼性の高い企業向けソリューションとしてどう落とし込める 集からオフラインでのキャリブレーションまで実に多面的な作 かにあります。 業です。オフラインキャリブレーションでは、測定ファイルと たとえば、これらの技術を使用した測定データ分析のアプリ パラメーター値の操作に主眼が置かれます。アプリケーション ケーションは付加価値が高く、ポテンシャルも極めて高いと エンジニアはバリアントの作成や管理のほか、モデルベースの いえます。従来のソリューションでは専用の高額なソフトウェア 技術や仮想技術を使用して、最適化やデータセットの生成を行 を使用し、時間の掛かる設定も必要でしたが、クラウドソリュー います。現在でもさまざまなオフライン作業の分野に対応した ションでは測定データだけでなく、データ解析の中心的なアル 高機能なソリューションが用意されており、それらを利用すれ ゴリズムも簡単に分かりやすく共有することができます。 ば今後の開発に向けた理想的な基盤を構築できます。ベクター のソリューションには幅広いツールが含まれており、例を挙げる 将来性を考慮したECUキャリブレーション用ツールチェーン と、「vSignalyzer」は測定データ解析ツール、「CDM Studio」 はキャリブレーションデータを処理するためのスタンドアローン これらのトレンドはいずれも、今後数年にわたって測定、 のツール、「vCDM」は大規模なキャリブレーションデータ管理 キャリブレーション、診断のツールチェーンに長期的な影響を ソリューションです。「CANape」はSimulinkと組み合わせるこ 及ぼすでしょう。ベクターは、高性能のECUキャリブレーショ とにより、モデルベースでキャリブレーションを行うことのでき ン製品を、現在も、そして将来もお客様に提供していくツール る、高機能なプラットフォームです (図2)。 メーカーとして、これらのトレンドには細心の注意を払ってい 測定データの収集やオンラインキャリブレーションの際の帯 ます。ベクターは、ECUキャリブレーション分野で注力すべき 域幅要件や応答時間は、急速に増加しています。シャーシと支援 戦略的なテーマを掲げています。それは、「支援システム」、 システムには、現在では100Mbpsに達する伝送レートが求めら 「パワートレインへの付加価値」、「企業のツール部門や外部 れます。測定およびキャリブレーションハードウェアの サービス会社のソリューションにベクター製品を容易に統合す 「VX1000」は、コストパフォーマンスに優れ、ECUに高速かつ 02 Technical Article / November December 2015 図2: モデルベースのソフトウェア開発では、その過程で アプリケーションの機能が反復的なプロセスでテストさ れます。CANapeをはじめとする、モデルの測定、パラメー ター割り当て、視覚化を行うための使いやすいインターフェ イスが、 開発プロセスを大きく加速します 直接アクセスできるインターフェイスであり、ASAMで標準化 されたXCP on Ethernetプロトコルを使用してECUと通信する ほか、POD(プラグオンデバイス)の使用により、スペースの限 られた筐体内にも簡単に収容することができます。 現在、チーム内でのデータ交換を目的として、信頼される クラウドを介し、実質的にボタンのクリックだけで成果物、 測定値、パラメーターセット、レポートなどを共有できるソ リューションの準備が進められています。これには社内ネッ トワークのほか、そのツールメーカーがホストするクラウド も使用可能になる見込みです。オフィス内でもテストコース 上でも、データの読込み、変更、書込み、同期が簡単に実行 できるようになります。 2020年のビジョン:Calibrators Workbench お客様にとって、投資に見合うスケーラビリティーを確保す ることは長年の最優先課題であり、今後もそうあり続けるので はないでしょうか。求められる要件に応じて拡張できるツール と実装、すなわち1台のワークステーションからチーム作業、最 終的には全社までをもカバーできるソリューションが必要とな ります。ベクターのスペシャリストは、この次世代の作業環境 の構想を「Calibrators Workbench」と名付けました (図3)。 これはユーザーインターフェイスが統一され、共通の使用感を 持つ、一体化した一連のツール群です。これらのツールはいず 図3: 統一されたユーザーインターフェイスを持つ「Calibrators Workbench」は、モジュール 式の一連のツールでエンジニアをサポートします。これらは操作方法が似ており、ECU内部デ ータの編集、解析、管理が可能です。ユーザーは標準の機能を再利用することで、自身の拡張 機能を簡単に開発、統合できます れも操作方法が似ており、多彩なツールを使用してキャリブレ ーションデータを編集、管理、解析することができま す。Calibrators Workbenchの主な特徴の1つは、アプリまたは 簡単にCalibrators Workbenchに統合することが可能となりま vApp (仮想アプリ) の使用による拡張性です。これによって既 す。サーバーやクラウドのインフラストラクチャーに装備され 存の機能 (測定ファイルやパラメーターセットファイルの読込 るアプリには、ベクターおよび外部サービス提供会社のいずれ み/書込み、マップエディターなど) をエンジニアが自身のアプ のアプリも使用できます。Calibrators Workbenchをナレッジ リケーションに再利用できるようになり、開発コストが削減さ 管理のかなめとすることで、最終的にはクラウドを介して成果 れます。必要に応じてエキスパートのノウハウを追加購入し、 物を簡単に共有できるようになるでしょう。 03 Technical Article / November 2015 本稿は、2015年11/12月にドイツで発行された 『Hanser Automotive』 に掲載された記事内容を和訳したものです。 参考文献: [1] KPMG’s Global Automotive Executive Survey 2014 – Strategies for a fast-evolving market 画像提供元: 見出し画像:©Fotolia.com/vege(ベクターにて修正・編集) 図1~3:Vector Informatik GmbH リンク: 「CANape」 www.vector-japan.co.jp/canape 「VX1000」 www.vector-japan.co.jp/vx1000 「CDM Studio」 www.vector-japan.co.jp/cdm_studio 「vCDM」 www.vector-japan.co.jp/vCDM キャリブレーションデータ管理のためのソリューション http://jp.vector.com/vj_calibration-data-management_jp.html ベクター・ジャパン www.vector-japan.co.jp 執筆者: Michael Vogel Vector Informatik GmbHでビジネス・ディ ベロップメント・マネージャーとして「vCDM」 を担当。 ■ 本件に関するお問い合わせ先 ベクター・ジャパン株式会社 営業部 (東京)TEL:03-5769-6980 FAX:03-5769-6975 (名古屋)TEL:052-238-5020 FAX:052-238-5077 E-Mail:[email protected] 04