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イラン国 法整備支援巡回指導調査 報告書

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イラン国 法整備支援巡回指導調査 報告書
イラン国
法整備支援巡回指導調査
報告書
平成 18 年 8 月
(2006 年)
国際協力機構
中東・欧州部
地 五
J R
06 - 06
目次
ページ
1
調査団派遣の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2
調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
3
調査団員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
4
日程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
5
調査結果要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
6
調査結果詳細・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
7
議事録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
8
面会者リスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
1
1
調査団派遣の背景
イラン・イスラム共和国(以下イラン)は独自のイスラム制によって政治及び行政を執り行っ
ている。司法省はその中で特にイスラム制の根幹部分を成し、いわゆる保守派勢力が中枢にある
と目されている。その理由の一つとして、イスラム革命以降、司法に携わる者は他国の状況等を
見る機会が極めて限られ、これが現状の改善を特に困難としていると考えられる。
そのような中、平成 15 年にシャリーアト・バーゲリー・イラン司法省国際局長が外務省の中堅
指導者招聘プログラムで来日した。その際、同局長からは、イランの法制度改善で必要なものは、
新しい技術を導入するためのハード面での支援、専門的なプロジェクトを実施するための経済支
援、裁判官の教育への支援、日本を含めた他国の司法制度の情報等があげられ、結果として、同
局長の帰国後に日本での研修要請があった。
研修開始にあたり、平成 16 年 8 月に調査団を派遣し、本邦研修での具体的研修内容の確認及び
今後の研修の方向性について協議を行った。その結果、5 年間の基本テーマを「国民の信頼を如
何にして得るか」とし、現在まで 2 度の研修を実施した。1年目は「司法とは何か」と題し、日
本及び欧米の司法制度を紹介、2 年目は「調停」をテーマに日本の調停制度について紹介した。
5 年間の基本テーマについては決まっているものの、イラン側の具体的な問題点・課題点が研
修員からはなかなか提示されず、3 年目(本年度)以降の研修テーマ設定が困難となっている。その
背景には、イスラムを中心とした司法制度をとるイランにおいて、研修員・司法省関係者は、自
国の政治・思想体制に直結する事柄について、問題点を容易に列挙できないことがある。したが
って、今回、調査団を派遣し、帰国研修員のアクションプラン実施状況・帰国後の成果を確認し、
イラン側の抱える問題を把握する必要がある。
2
調査内容
(1) 3 年目以降の本邦研修テーマについて協議する。
(2) イラン側の司法関係者を集めてのセミナーを開催する。テーマは、「国民の司法参加(裁判員
制度など)」を予定。
(3) イランに対する司法分野での今後の協力可能性を検討する。
3
調査団員
総括
名古屋大学大学院法学研究科教授
杉浦
法整備
名古屋大学法制国際教育協力研究センター助教授
宇田川
幸則
協力企画
国際協力機構中東・欧州部中東第一チーム
日比野
崇
2
一孝
4
日程
日付
1
7 月 20 日
調査内容
曜
日
木
杉浦教授
宇田川助教授
23:00 中部空港発(JL5097)
日比野職員
19:30 羽田発(JL1317)
21:05 関西空港着
23:15 関西空港発
2
7月 21 日
金
05:00 ドバイ着
(JL5099)
05:00 ドバイ着
07:45 ドバイ発 (EK971)
09:15 テヘラン着
3
4
5
6
7
7 月 22 日
7 月 23 日
7 月 24 日
7 月 25 日
7 月 26 日
土
日
月
火
水
11:30
弁護士訪問
14:00
司法府国際局との協議
16:00
JICA イラン事務所長との打ち合わせ
9:00
最高検察庁視察
10:40
テヘラン州刑事裁判所視察
14:00
日本大使館訪問
15:00
帰国研修員との面会
9:15
UNODC 訪問
10:45
テヘラン大学法学部訪問
14:00
セミナー開催
10:00
少年院視察
14:30
警察署視察
9:30
司法府国際局との協議
12:00
JICA 事務所報告
14:00
日本大使館報告
21:15 テヘラン発(EK978)
23:45 ドバイ着
8
7 月 27 日
木
02:45 ドバイ発 (JL5098)
現地休日/報告書作成
17:40 中部国際空港着
9
7 月 28 日
金
現地休日/報告書作成
10
7 月 29 日
土
他案件対応
11
7 月 30 日
日
他案件対応
21:15 テヘラン発 (EK978)
23:45 ドバイ着
12
7 月 31 日
月
02:50 ドバイ発(JL5098)
17:20 関西空港着
18:45 関西空港発 (JL1316)
19:55 羽田着
3
5
調査結果要旨
前回の 2004 年の調査時とは異なり、各訪問先関係者が率直にイランの抱える問題点を述べ、視
察先においても前回見られなかったところまで公開された。また、初日の司法府国際局長との協
議において提示されたイラン側の問題意識が、検事総長との会談においても同様に提示されるな
ど、イラン側において、問題意識への統一見解が醸成されつつあることがみてとれた。
イラン側の問題意識は、一般犯罪予防(地域防犯、組織犯罪対策等)、麻薬取締、公務員の汚職防
止、受刑者の再教育・更正、少年犯罪対策、交通安全対策への取組みである。このようにイラン
側の問題意識に基づく課題が多岐にわたるため、第三回目は最も要望の強い「一般犯罪予防」を
中心に「地域社会と防犯」、「少年犯罪対策」及び「麻薬取締」の 3 つのサブテーマの下で研修を
実施することとした。
なお、将来の協力可能性(専門家派遣、技術協力プロジェクト)については、今次調査では結論を
出す段階にまで至っていないため、今後実施する研修での情報収集を踏まえ、継続して検討して
いくことが望ましい。
6
調査結果詳細
(1)パース・アソシエイト弁護士事務所(7 月 22 日 11:30∼13:30)
〔面談者〕マーティン弁護士
イランにおける弁護士の人数は不明であるが、中央弁護士会と地方弁護士会(例えばテヘラン州
弁護士会)がいくつか存在する。中央弁護士会作成の弁護士名簿があり、それを確認すれば人数は
カウントできる。
イランにおける弁護士資格取得には、①大学法学部もしくは大学宗教学系学部を卒業する、②
イラン中央弁護士会が主催する弁護士資格試験を受験・合格する、③1年間の実務研修に参加す
ることが必要である。
弁護士試験合格者数は非常に少ない。5年前に司法府が中央弁護士会に対して、合格者が非常
に少なく、人員を大幅に増強すべしとの意見を提起し、政府はこれに対する 188 項目からなる司
法改革とそれに対する予算措置を講じた。それに伴い、中央弁護士会が主催する弁護士資格試験
と並行して、司法府が主催する弁護士資格試験を実施し始めた。
中央弁護士会はこれらの政府の改革措置に対して、中央弁護士会の独立を脅かすものであると
して反対している。中央弁護士会はイランにおける独立した機関であり、これは憲法上にも規定
されている。よって、政府はこの独立を脅かすような措置を採ってはならない。司法府が弁護士
資格試験を主催するとすれば、弁護士の独立を脅かす結果となる。
これに対して司法府は、弁護士となる者の人格・人物の審査を行うに過ぎず、弁護士および中
央弁護士会の独立と自由を何ら侵害するものではないと反論した。司法府による弁護士資格試験
の主催は、弁護士会の力量と弁護士の数の不足ならびに弁護士育成の不充分さを補うためであり、
弁護士および弁護士会に対する協力であるとしている。
司法府と中央弁護士会との論争は今なお結論を見ていないが、しかし司法府は独自の弁護士資
格試験の実施に着手した。このように、同じ事がらに対してふたつ(複数)のシステムが存在す
4
るのがイランの特徴であり、甚だしい場合には、ふたつの司法府が存在した時代もあったし、裁
判所も普通裁判所と革命裁判所というふたつの裁判所が併存した時代もあったし(これらは今日
すでに統一されているが)、現在でも軍隊は通常の軍隊と革命防衛隊のふたつが併存している。ま
た、司法試験制度はイスラム革命前から存在する。革命前に資格を取得した弁護士の多くは、革
命後パージされた。
イランでは、民事・刑事事件を問わず、弁護士強制であるが、弁護士費用については、当事者
に資力がない場合、中央弁護士会が援助する。一級殺人のような重大な事件の場合、裁判所が費
用を負担する。
イランにおける司法制度をめぐる問題点として、次の点を指摘する。①かつてはひとつの裁判
所で民事・刑事事件を審理していたが、現在は民事裁判所と刑事裁判所に分離している。これは、
かつては一人の裁判官が何百万ドルの訴額の民事訴訟と殺人事件の刑事訴訟とを担当するという
混乱した状況にあったことに起因する。テヘラン州では民・刑裁判所が完全に分離されているが、
しかし地方ではかつてのシステムの裁判所がなお存在している。②民事訴訟に関して、裁判官の
専門性が不充分である。海事、会社等々の訴訟を一人で担当するのが常で、その結果、正しくな
い判決が往々にして出される。③庶民は裁判所の判決に対し、公平・公正でないと認識する傾向
にある(註:裁判官の腐敗については、明言を避ける)。
革命前から、民事訴訟はイスラム法にもとづき解決がはかられていた。これに関する多くの民
事判決が存在する。しかし、会社、労働に関しては特別の見解がある。
法の近代化の過程においてもなお、数千年の歴史を有するイスラム法の歴史は無視し得ない。
たとえば、1925 年に制定されたイラン民法では、夫は妻に対して何時でも離婚を宣告することが
できるという規定や、使用人との雇用契約においても1日 20 時間労働を可能にしたり、あるいは
50 年間雇用を継続することを可能とする契約を認めるような規定を設ける等していたが、その後
の民法改正において、妻からの離婚請求を認める等の修正を行ったり、労働法や社会法等の特別
法の制定により是正してきた。しかし、古い民法の枠組みは今なお残っている。他方、刑事法は
民事法とは異なり、たとえば刑法はその制定時に完全な欧州型のそれを採用し、フランス・スイ
スの刑法典がその基礎となっている。
このような革命前の民刑事法であるが、革命後、民事法には大きな変化がなかったが、刑事法
には次のような変化が生じた。すなわち、刑事法は全面的に改正され、完全にイスラム法に則っ
た、予言者モハメッドの時代にさかのぼってしまった。たとえば、殺人事件では被害者家族に刑
罰(処罰)の決定権が与えられ、窃盗事件では手首より先を切り落とすという肉体刑が復活し、
姦通事件では他の男と情を通じた妻を石で殴り殺す刑罰が復活する、といった具合である。これ
は現在まで続いているが、たとえば、純粋なイスラム法にしたがえば、殺人事件の被害者家族が
加害者を赦すとすれば、加害者は即座に放免となるが、現在では、そのような場合であっても、
10 年間はこれを収監することとなっている。しかし、原則(基本)はイスラム法にしたがうとい
う点では全く変化は生じていない。
革命後の刑法は、条文数が極端に少なくなった。現行刑法に規定されているものはクルアーン
に規定されている類型、すなわち殺人、尊属に対する裏切り、窃盗、同性愛に関する規定のみで、
たとえば詐欺、通貨偽造等といった犯罪についての規定はイスラム的でないとして、規定はおろ
か特別法による規律もなされていない。このように、現在のイランにおける刑事法は、その整備
5
がきわめて不充分であって、世の中の変化に対応し切れていない状況にあるといえる。
現行刑法が社会に対応し切れていない例として、イラン・イラク戦争時の「買い占め」問題に
対する政府の対応を挙げることができる。この時期に、クーラーやストーブ等の生活用品の買い
占めが横溢し、国民の生活に大きな影響が生じたため、議会で生活用品の買い占めの禁止に関す
る立法(以下、買い占め禁止法)がなされ、生活用品の買い占めに対する規制を試みた。買い占
め禁止法はその後「護憲評議会」に送られ、審議がなされた。そこでの結論は、買い占め行為そ
のものはイスラム法に抵触するものではないが、しかし、クルアーンには小麦、大麦、レーズン、
ナツメヤシの買い占めを禁止する旨規定している。そこで、これらの4品についての買い占めは
許されず、これら以外の物については、買い占めは許される、という結論が出された。しかし、
当時非常に厳格な食糧管理が実施されており、買い占めが禁止されるとされる物のうち、小麦は
原則上買い占め不可能で、大麦およびレーズンは国民生活でさほど重要ではなく、ナツメヤシは
足がはやいので、事実上買い占めは不可能である。一方、夏服や冬服、ストーブやクーラーは国
民の生活上非常に重要かつ必要な物であるにもかかわらず、護憲評議会はこれらに対する買い占
めを容認する結論を出してしまったのである。
同様の問題は他にも生じており、同性愛等さほど重要でない問題について規定がおかれる一方
で、よりいっそう重要な問題、たとえば資金の持ち逃げといった企業にかかわる問題について規
定がおかれていない、といった点を指摘することができる。
今後の方針、方向性について、イスラム法で解決できない問題が現代社会には多数存在するこ
とから、改正の努力は行われているとし、たとえば「無賃乗車は死刑」といった規定に対しては、
裁判官は死刑適用を回避すべく、法律の解釈を行っている。しかし、裁判官が法律の規定どおり
の運用を回避するあまり、帰って混乱が生じているのも事実である。たとえば、ある成人男性が
男児を誘拐し、性的な暴行をくわえた場合、現行刑法では誘拐や青年保護法のような規定は存在
しない。これを処罰するには、現行刑法下においては同性愛に関する規定があることから、当該
規定を以て処罰するしかない。しかし、この場合、結論は殺人事件同様、死刑以外の量刑が存在
しない。被害者に対して同情の念を抱かないわけではないが、しかし死刑という結論はあまりに
も重すぎる。そこで裁判官は同性愛関係も生じていないと判断するしかない。というのも、当該
規定は同性愛の観点から規定された条文であり、性的暴行の観点から規定されているものではな
いからである。このように、裁判官の解釈の結果、国民の要求や感情と大きく隔たった結論が導
かれる場合もある。
また、売春については、イランにおいては管理売春を取り締まることを目的とする規定である
が、これは売春を生業とする女性を客に斡旋・紹介してはならないと規定しており、当該女性が
売春を生業としていない場合、たとえば教師が自分の女子学生を客に紹介するといったような場
合には、この規定は適用されない。教師が自分の学生に客を取らせる方が売春婦を紹介するより
もはなはだ破廉恥であり、社会非難性も高く、この事例の結論はおかしなものであるが、規定上
はそうなっている。
このように、現行刑法は予言者の時代のみを考慮し、現実の社会に生じる問題点をあまり考慮
せずに制定されており、問題点は非常に多い。
6
今後、イスラム法を相対化するというよりは、解釈を拡大することで現実社会・国民の生活と
すりあわせる方向に向かうであろう。たとえば、現行刑法では、3 回飲酒すれば死刑となるが、
裁判官は裁判で 3 回目ではないというように解釈し(註:これは解釈というよりは事実認定の問
題である)、事実上において法の改正を行っているのである。
イスラム法に対する評価について、例えば、先に挙げた少年に対する性的暴行のようにイスラ
ム法的でないという理由から、それに関する立法を行う予定すらないのが実情であり、それが問
題である。この種の問題に対しては、先述のとおり、裁判官は法の解釈で解決をはかっている。
一例を挙げる。いずれも 5 年ほど前に発生した事件であるが、第一の事件は既婚女性がその愛人
に対し、夫の殺害を依頼し、愛人が夫を殺害したという事例である。愛人は犯行日の夕方 5 時頃
から夜 10 時頃までの間、鉄棒でかんぬきがされた女性宅のボイラー室にかくまわれ、およそ 5 時
間逡巡した挙げ句に夫を殺害した。第二の事件は、ある夏の日のうだるような暑さの午後、バン
ダルアッバース(イラン南部の都市)で 2 台の車が衝突し、それをきっかけとして 2 台の車の運
転手同士がケンカをはじめ、殴られた運転手が死亡したという事件である。2 つの事件を担当し
た裁判官は 1 日で事件を審理した。第一の事件は 5 時間もの間逡巡する時間があったことに注目
して故意殺人と判断して死刑を判決し、第二の事件はうだるような暑さの影響と交通事故がきっ
かけのケンカであることから、加害者に故意がないと判断して放免と判決した。ちなみに、第二
の事件は当事者(被告人)およびその関係者から裁判官に対して贈賄等がなされた結果ではない。
このように、イスラム法に則れば被害者家族の判断によるとされているが、司法実践では故意の
有無で判断している。たとえ第二の事件の被害者家族が死刑を要求しても、結論に影響はない。
このような裁判は一般的に行われている。ちなみに、第二の事件では、家族は政府に補償を求め
ることが可能である。
法の空白を埋めるための立法を積極的に行わない理由について、イスラム法に則っていない、
つまりクルアーンに記載されていない事もあるが、しかしクルアーンに規定されていない類型で
あっても、立法しようと思えば可能である。たとえば、麻薬売買については、予言者の時代には
そのようなものが存在していなかったため、クルアーンには全く規定されていないが、実際には
麻薬取締法は今日のイランにおいても存在する。
麻薬取締法はイスラム法的であるのかという問いに対して、当該立法がイスラム法的であるか
どうかは、まず議会が判断し、次いで護憲評議会が判断する。議会と護憲評議会との見解が割れ
た場合、最終的には公益評議会が判断する。しかし、この公益評議会が民衆の立場にないところ
が最大の問題で、今の政府が抱える最大の問題のひとつである。
裁判官の水準について、15∼20 年前には、革命裁判所で 3 年間仕事をすれば裁判官になること
ができた時代がある。一部ではあるが、このような裁判官が残っており、これらの裁判官の専門
知識は低い水準にある。
弁護士、検察官、裁判官の地位を比べると、裁判官が最も高く、ついで検察官、弁護士の順と
なる。これは、裁判官に権限が集中していることに原因があると思われる。
現在の裁判官の抱える問題点については、以下の三点を指摘できる。第一に独立性がない(弁
護士にはある)。第二に社会が革命的な社会であるため、裁判官の歩める道が狭い。第三に努力し
7
て道を進めば進むほど周囲から圧力を受ける。
(2)司法府国際局(7 月 22 日 13:50∼15:30)1
〔面談者〕ゴラムレザ・マフダヴィ局長、モハマッド・ゴチ担当官
研修のテーマに関する司法府の希望としては、犯罪予防をどのように行っているかという日本
の取り組みについて討議、検討したい。家庭を中心とする伝統的なイランは現在、工業国家(社
会)への転換期にあるが、その過程に生起する諸問題に対応する必要がある。現代的な生活や進
歩・発展と相矛盾する問題を抱えており、
「司法+社会」でこれらの予防にいかに取り組んでいく
か、日本の経験を参考にイランでの方針を検討したい。
犯罪予防以外の問題では、官公庁における汚職の問題、石油=国家収入の利益還元、再配分の
問題がある。前者については、宗教的な問題と教育の質の向上とで腐敗に対処しているが、司法
関係者への教育+αが必要である。後者については、革命前は潤沢な石油収入があったにもかか
わらず、農村の 90%は電気や水道がない生活を強いられていた。革命後は地方・僻地の支援・開
発に取り組んできたが、これが経済的に大きな負担となっている。
日本の制度理解が今回の研修の目的であり、講義よりは実態の理解を中心としていただきたい。
たとえば、日本の警察は貪汚・腐敗に対してどのように対処しているか、といった具合である(現
場を知りたい旨、再三強調される)
。
現在イランが抱える最大の問題は麻薬問題である。隣国で自由に栽培されている麻薬が大量に
イラン国内に流入している。とりわけ米軍がアフガンに侵攻して以降急増した。本邦はパキスタ
ン、アフガンとの間に 2000Km にもおよぶ国境線を抱えている。本邦の麻薬に対する取り締まり
は非常に厳しいが、しかし、これらの国から本邦を通過し、欧州に流れ出ているのが現状である。
麻薬対策は国際的な協力が必要である。現在、本邦の刑務所に収監されている者の 70%以上が麻
薬関連の犯罪に手を染めた者である。可能であれば、麻薬問題にフォーカスし、日本からこれら
の国に対してプッシュしていただきたい。国際協力および隣国の真摯な取組みがなければ、麻薬
問題は解決できない。
また、麻薬使用も問題となっている。家庭裁判所にて処理される離婚事件の多くが麻薬に離婚
原因を求めることができる。麻薬問題についての社会的な取り組み、司法の成功例、政府機関、
警察等による啓蒙活動等、日本の現状を理解したい。また、日本における収監者の再教育(麻薬
問題以外も含む)についても会得したい。
1
各出席者の発言詳細については、「8 議事録」を参照。
8
(3)最高検事院(7 月 23 日 09:00∼10:15)
〔面談者〕アヤトラ・ドリ・ナジャファバディ最高検察官(検事総長)、アリザデ副最高検察官(次
長検事)・最高裁判事、キミアイ事務次長、マフダヴィ司法府国際局長
この面会においては、以下の内容をイラン側から聴取するとともに、日本側は関連する資料、
情報の提供をイラン側に依頼した。
日本ではイランに関する報道が少なく、米国およびその同盟国の報道が中心であろう。これは、
全世界の報道の 70%が米国の手に握られているからである。日本とイランの間では、経済のみな
らず、法律の分野の交流も重要である。安全保障は法的事象にもかかわる問題である。テロ、組
織犯罪、麻薬等の問題は国際的な協力が必要である。
イランでは現在、麻薬が大きな問題となっている。隣国では、12 万 ha 以上の土地で大麻が栽
培され、4∼5 千 t の大麻が収穫されている。イラン国内では、この 20 年間で 3,500 人の官憲が麻
薬の取締り等で殺害されており、これは 2 週間に 1∼2 名が殺害されている計算になる。麻薬栽培
は米軍が侵攻した後 2、3 倍に増加した。また、イラン国内の収監者の 40%が麻薬関連の犯罪者
である。麻薬問題は、往々にしてマネーロンダリングやテロリズムに発展することから、強力な
国際協力が必要である。
次回研修で犯罪予防をテーマとする場合、イランの担当官にとって有益となる項目は、①行政
監察(イランの司法府も監察の作用を担っている)、②司法関係者への教育(司法に関する情報交換
と国際協力)、③二国間協力である。
イランと日本は国家機構や家族形態に多くの共通点が見られる。イスラムでは家族以上に神聖
なものはないとされている。現在、家庭裁判所の見直しに着手しているが、家族の再建、女性に
対する支援等が柱となっている。
行政機関の腐敗問題も深刻である。健全な行政機関の重要性がより増している中、残念ながら
これまで充分ではなかった。検察ではこれまでいろいろな取組みを行ってきたが、結実しなかっ
た。腐敗の予防・監督についても、日本の経験を参考にしたい。
(4)テヘラン州刑事裁判所(23 日 10:40∼12:00)
〔面談者〕ナーセル・セラージ所長
テヘラン州刑事裁判所では、殺人等の重罪事件を取り扱う。判決は、終身刑もしくは死刑。判
決を下す際には、裁判官同士で話し合い、バランスを取る。法廷は 5 人の裁判官からなる合議体
で、一人が欠けても当該法廷は不成立となる。
9
裁判では弁護士強制制を採り、被告人が経済的理由から弁護士費用を負担できない場合、国選
弁護士を選任する。選任の手続としては、裁判所から中央弁護士会に弁護士の選任を依頼し、弁
護士が派遣される。費用については国がこれを負担する。
政治犯やメディア犯罪も本裁判所で取り扱う。これらの事件の場合、3 名の裁判官と 21 名の陪
審員からなる法廷で審理する。陪審員は任期 2 年で、7 人以上の参加で法廷は成立し、有罪ない
しは無罪を判断する。評決に際しては単純多数決が採られる。なお、合議体裁判官は陪審員の判
断に拘束されることなく、これを覆す事も可能である。陪審評決が覆される割合は、およそ 2∼
30%である。なお、本裁判所で審理される出版・政治に関する事件は、年間約 6∼700 件である。
所長と面談の後、メディア裁判 1 件(詳細不明)、殺人事件 1 件(男性 3 人による麻薬取引をめ
ぐる殺人事件。うち 1 名は否認)および少年刑事事件 1 件(17 歳の少年による自動車事故の被害
者の遺棄殺人事件)を傍聴した。傍聴に際しては、写真撮影、録音、メモのいずれもが完全に自
由で、メディアによる取材も活発で、法廷内にはテレビカメラも入っていた。その後、上記事件
を取材に来ていたイラン・メディアに日本側調査団が取材され、その内容は翌日のイラン各紙に
掲載された。
(5)第1期、第2期の帰国研修員からのヒアリング(7 月 23 日 15:05∼)2
〔面談者〕アスガリ第 1 期研修団長、ハミディアン第 2 期研修団長他 7 名
(日)研修のテーマとして何がふさわしいか?
(イ)日本で見聞したことのうち、刑事事件で起訴から判決までの期間が 22∼25 日と非常に短い
ことに感銘を受けた(註:逮捕から起訴までの取り調べ期間と混同している模様)。イランでは裁
判にかかる時間、効率が問題となっており、参考に値する。
(日)上述の問題は、たとえば被疑者の人権問題というように捉えることもできるが、そのよう
な研修内容を想定しているのか?
(イ)被疑者の人権について、イランでは充分保障されている。たとえば、殺人事件の被疑者・
被告人について、その者の写真、氏名等の公表はすべて、刑が確定した後である。また、縄で縛
るということは動物に対してのみ行うことで、被告人に対してそのようなことは行わない。本邦
では、人権はどこでも保障されている(註:誤解、行き違いが生じた模様)。
(イ)犯罪予防という問題は、あらゆる国家にとって非常に重要な問題であり、とりわけ収監者
を減少させるということは、社会にとっても非常に重要な問題である。人を収監するということ
は、一人の人間の人生を台無しにすることである。よって、1,000 円の金がここにあったとすれば、
そのうち 999 円を予防に使い、1 円を再教育に使うというのが理想である。予防とは、努力多く
して効果少なし、の感が否めない。しかし、予言者も予防は重要であるとおっしゃっている。予
防システムは制裁システムより重要である。
犯罪予防のターゲットについては、これは麻薬問題だけでなく、他にも様々な重要問題がある。
2
本セッションでは意見交換という形で実施したため、記録は議事録形式とした。
10
しかし、麻薬問題は今や世界規模の問題であり、現実に 630 億ドルが麻薬売買に使われていると
されるとともに、犯罪の大部分が実は麻薬問題につながっているとされる。若者の中毒・死亡事
故も後を絶たず、一日平均 1∼2 件の若者の麻薬関係の犯罪が発生している。このように、麻薬問
題は多くの資源を投入する価値のある分野である。
その他、日本の 6∼7 倍もある交通事故問題も、解決されねばならない問題である。窃盗、空き
巣についても頭の痛い問題で、先般日本の警察で伺った空き巣対策「音、光、近所の目」には、
われわれも大いに参考にすべきである。
(日)日本での経験を、帰国後どのように活用されたか?
(イ)司法府には口頭・書面によるレポートを提出済み。長官はこれを積極的に活用するよう指
示された。国営放送(海外版)でも研修の模様が放送され、他のメディアでも記事やレポートが
多数掲載された。あるものは新聞の一面を飾り、司法府の機関誌には「大男の肩に乗る」
(偉大な
人の経験に借りる、という意味)というタイトルで研修が報道された。
研修内容も以下の具体的な施策として実を結びつつある。
・交通違反の取締りの改革に着手した。公安委員会のようなセクションで処理することとし、裁
判所で処理する必要をなくした。
・家庭裁判所改革に着手した。すでに草案は完成し、長官が署名した後に議会に送付された。
・自動車保険改革について、保険会社との間で協議に入った。
・調停委員会に年齢要件を導入し、委員は 40∼70 歳までとした。また、調停員のうち 1 名は女性
であることとした。
・警察官のうち、家裁内で女性問題を専門に扱う者や青少年問題を扱う者については女性とする
こととした。これは、女性についての問題は女性に、という方針による。
・各家裁に女性心理カウンセラーの配置を決定した。
・それぞれの家裁に相談員を配置することとした。
・これまで少年裁判所が扱っていた 18 歳未満の少年による事件も、家裁で扱う方針を示した。
・各家裁に女性問題専門の相談員を必ず1名配置する予定。
・離婚専門委員会を発足させる予定。メンバーは、大学教員、裁判官をあてるよう提案している。
・相談員を毎年 10%ずつ増員する予定である。
(6)国連薬物統制事務所(UNODC)(7 月 24 日 09:05∼10:30)
〔面談者〕ロベルト=アルビトリオ
イラン事務所代表、メフダッド=レザエイアン
プロジェク
ト・コーディネーター
イランは、アフガニスタンからの主要な麻薬密売ルートになっており、国内に 200 万人(人口の
約 4%)の麻薬使用者がいると言われている。麻薬犯罪者を収監している刑務所の状況は問題なく、
更正のための教育も行われている。ただし、視察したのは 4 箇所の刑務所だけであり、それ以外
の刑務所での実態は分からない。
1999 年∼2004 年に麻薬対策のプロジェクトを実施し、司法関係者への研修、麻薬検査方法の向
11
上を支援した。そのプロジェクトの評価をした中で、組織犯罪対策法の必要性、資金洗浄対策に
かかる人材育成、外国政府との情報交換の必要性、裁判実務の研修実施の必要性が新たに判明し
た。
現在は、司法改革と犯罪予防のために次の支援を実施している。①裁判実務能力の向上(ヨーロ
ッパ諸国への研修やワークショップ開催)、②国民の信頼獲得(パンフレット・ポスター作成や相談
室の設置)、③裁判において女性のニーズ反映(調査研究やワークショップ開催)、④最新テクノロ
ジーの活用(電子法廷)、⑤刑務所管理(海外への研修)を実施している。
また、公務員の汚職対策については、シンガポールとオーストラリアでの研修を実施した。今
後ワークショップを開催し、アクションプランを作る予定である。
人身売買への取組みについては、まだアイデアの段階である。イランからの誘拐もあるが、ア
ジアからヨーロッパへの中継地となっている面もある。
サイバークライムについは、まだ国会で法を議論している段階である。法が成立すれば、UNODC
で研修を実施したいと考えている。
イランは、司法長官のイニシアチブにより熱心に司法改革に取り組んでいる。犯罪予防への支
援もイラン側から提案があった。ただし、司法府での各種決定手続きに非常に時間がかかる点は、
UNODC との協力に支障をきたしている。
ドナー間の調整は重要であるため、日本大使館と相談の上、ミニダブリン・グループに参加す
ることを JICA に提案したい。
(7)テヘラン大学(7 月 24 日 11:05∼13:30)
〔面談者〕エスラニパナフ法学部長、アシュリ教授(犯罪学研究所責任者、前学部長)、カリミ教
授(比較法研究所責任者)、ロトフィアン教授(副学部長、学生受入担当)、モサフォ
教授(国際協力部主任)
、ホセイニ助教授(犯罪学、刑法)
テヘラン大学は、30∼40 の学部があり、法律政治学部は 70 年以上の歴史を有するが、法学教
育そのものは、約 100 年前から行われている。本学部では、法学および政治学の講義を行ってい
る。大学院法学研究科では 10 以上の専門課程がある。本邦の重要人物の多くは本学の卒業生であ
る。
現在、本学部は 2,000 人の在校生、100 名の教授会構成メンバー、6 つの研究所を擁し、大学図
書館には 6 万册以上の蔵書を有し(近年火事で一部焼失した)、紀要を発行している。これまでに
UNDP と人道問題に関する協力プログラムを実施している。国際セミナーも積極的に開催し、ネ
ルソン・マンデラ氏やアナン国連事務総長等に名誉博士号を授与している。本学部は司法府、三
権との間で知的協力関係を有し、アドバイザー的な存在である。
イランにおける法学教育について、全国に 64 の国立大学法学部、私立大学を含めると約 70 の
法学部が存在する。教育内容は全国統一で、修学年限は学部 4 年、修士 2 年、博士 2∼4 年、授業
12
における講義形式の割合はそれぞれ 100%、75%、50%となっている。卒業単位は学部段階で 140
単位、講義科目は憲法、刑法、民法、行政法、英語、アラビア語および一般教養となっている。
学部ではいわゆるコース制が採用され、民事法グループ、犯罪学グループおよび一般グループが
ある。
法曹(裁判官、検察官、弁護士および登記所職員)になるためには、法学士号が必須である。
本学の場合、卒業生の 50%以上が法曹になるが、政治専攻の場合は官僚になるケースが多い。ま
た、本学はイラン最高水準の大学であることから、修士課程から博士課程に進学する者も多い。
主な研究所として、次の研究所が紹介された。①国際高等研究所:卒業生のうち、国際機関に
就職する者も多数存在する。②比較法研究所:50 年の歴史を有する。イランにおける国際法研究
の中心的存在。③犯罪学研究所:40 年前に設立。一時期閉鎖を余儀なくされ、10 年前に再開。司
法府や警察との協力関係があり、警察や裁判官の教育も担当している。本研究所は研究を主とす
る機関で、これまでに 15 州の配偶者殺人事件、女児の家出、イスラムの殺人事件に関する政策、
テヘランにおける売春婦調査等の研究成果がある。
イラン法の基礎として、次の 2 点が考えられる。①宗教的思考:イスラム教はシーア派とスン
ニ派からなるが、イランはシーア派を基礎としている。②ヨーロッパ法:主にフランスとスイス。
たとえば、刑事訴訟法、民事訴訟法がそれにあたる。また、場合によっては慣習法による。イラ
ンと米国の対立は、イランのイスラム革命が契機となっているが、これは落としどころが探れな
かったためである。国際法のよい教材である。40 册からなる書籍が出版されている。
本学と司法府との関係として、大学には護憲評議会のメンバーが存在するし、研究所メンバー
には相談役も存在する。しかし、本学との間で定期的な催しは存在しない。
本学の立法、政策立案に対する影響は、事実上は存在する。条約加盟についても、本学はブレ
ーン的存在である。しかし、たとえば議会は本学のみならず、他大学、裁判所をはじめとする多
くの機関から意見を徴収しており、本学だけがそのような影響を発揮しているというものではな
い。
(8)テヘラン州少年更正センター(7 月 25 日 09:35∼12:30)
〔面談者〕ラファッラモフセニ所長、アリ・レステミ副所長、モハマッド・レザ・ガセミ広報担
当、マンソン・マグレフ刑務所内教育担当、トラビ司法府担当官
本センターには、18 歳未満を収容している。全国に 27 のセンターがあり、うち 2 つは少女専
用のセンターである。本センターは少女専用センターを併設している。
現在、収容者は 320 名前後、女子は 30 名前後、職員は 200 名、外部協力者(名誉職員)は 20
名程度で、収容者の再犯率はおよそ 7.5%。職員人件費や建築費以外に、毎年約 2 億トマン(約 2500
万円)の予算がある。
収容される理由(犯罪)のうち、最も多いのが窃盗であり、収容者のうち最も多い学歴は中学
13
卒業相当である。下級階層出身者が多い。中毒ではない程度の薬物使用経験者も多い。収容者は、
17 歳、18 歳、16 歳の順で多い。
センターと呼ばれるには、クリアすべき基準がある。すべての活動、内容が基準をクリアしな
ければならない。基準をクリアできない場合、センターという呼称が使用できなくなる。水準を
向上させる要求と努力をしている。基準については、北京会議等の国際会議で議論されている。
ちなみに、当センターは全国で最高レベルにあるセンターである。
リハビリの内容は子どもによって異なるが、通常以下の手順によって進めている。
①まず、精神、心理、家庭、社会の各面から子どもを分析する。
②子どもにあったプログラム・メニューを作成する。
③心理面・精神面で問題を抱える子どもは医学的治療を行い、治療の必要がない場合には、直ち
に矯正教育を実施する。
④教育コース
・学校教育(学歴)
:中卒者や高校中退者には高卒の資格を与える教育を行う。また、レアケース
ではあるが、子どもが文盲の場合、文字の読み書きから教育を施す。センター内には学校があり、
これは教育部の下にある正規の学校である。卒業証書からはセンターの名称が分からないように
なっている。
・職業教育:子どもの手に職をつけさせる。木工、コンピュータ、陶器等の 11 のコースがある。
これらも国の訓練校の指定を受けており、資格証書は全国で使用できる。これにもセンターの名
称が分からないようになっている。職業訓練の他、芸術やスポーツ(レスリング、サッカー等)
を選択することも可能。入所時にアンケートを取り、それにもとづいて決定する。
・社会訓練:心理学者や外部ボランティアである「名誉スタッフ」および職員全員で取り組む。
社会復帰を最大の目的とする。
センターの抱える問題点としては、以下の点が指摘できる。第一に、社会復帰後に直面する問
題に対応しきれていないこと、第二に、出所後は地方政府が対応することとなっているものの、
実際には不完全であること、第三に、センターと裁判所の関係が、とくに更正の判断をめぐって
アンバランスになりがちであること。
視察と併せて、センター長及び関係者と以下のやり取りを行った。
(日本側)出所に際して裁判所の判断が必要なのか。
(センター。以下、セ)たとえば、裁判所から 2 年間収容という判決が下された場合、2 年が経
過すれば出所できる。当センターには裁判所(司法府)派遣の担当者がいるが、その担当者と出
所について協議し、判断はその担当者が行うこととなっている。
なお、ここ数年の変化として、たとえば判決で 2 年収容とされた場合でも減刑のうごきが見ら
れる。これは、窃盗などの犯罪もこれまでの貧困から惹起されるのではなく、いわば遊びや興味
本位から惹起される場合が増加していることに起因する。このような場合、収容よりも他の方法
で矯正し、収容を極力回避し、社会の中で更正させることが望ましいとされる。もっとも、この
ような動きに対して、世論は賛否両論であるが、賛成の意見が近時増加傾向にある。また、これ
に関する法案が現在議会で審議されている。
14
また、センターの雰囲気を実社会のそれに近づける努力も行っている。NGO をはじめとする名
誉職員は自由に再教育にあたることができ、また職員は収容者と友人関係を築くように、愛情を
持って接するよう心がけている。また、センターの活動に子どもも積極的に参加するようにして
いる。
(セ)センターの抱える問題として、上述の他に、イラン社会そのものの変化、すなわち、伝統
社会から現代社会へとの転換にともない、社会全体の若返りと社会のテクノロジー化という現象
が生じつつあるが、これがセンターにも見て取れる。これはいわゆるジェネレーションギャップ
の大きさに表れ、それが結局収容される子どもたちにも影響を与えている。
これに関連して、収容される子どもたちの抱える問題としては、収容されることで前の世代の
社会に放り込まれることとなり、これにいかにして対応するかに子どもが悩まされるという事態
がまま生じる。職員は理解に努める。
(日)
「センターに来るよりも外で」という取り組みが指摘されたが、具体的にはどのようなシス
テムがあるのか。日本のような保護司制度のようなものが存在するのか。
(セ)システムは、現時点では存在しない。「家庭のドアの外まで」、つまり、今なお強力な家父
長制のため、家庭に口出しできない状況にある。
関連して、孤児院のような特別施設は存在する。これは、家裁が実親に親権者としての資格が
ないと判断した場合、子どもをこのような特別施設に送ることもある。また、ストリート・チル
ドレンや児童労働者のようなケースでは、後見人を指定している。
現在、「地域で子どもを見守る」を最終目標としている。
(名誉職員から補足)地域的・組織的なものは、現時点で存在しない。現在、家庭・市・NGO で
取り組むことを骨子とする法案がテヘラン市議会で審議中である。また、他の問題として、出所
後のアフターケアを行う組織が存在しない。その結果、彼/彼女を追跡することができず、彼/
彼女の「今」が分からないという問題がある。入所前と出所後の組織を整備・充実させる必要が
ある。そのためには、法、予算、人員がカギとなる。
(セ)収容者が構成する「収容者評議会」という組織がセンター内に存在し、センターではこれ
を「市議会」と称している。評議会メンバーは半年ごとに改選され、現在の評議会代表はモハマ
ド君(18 歳)。
「市議会」は出所後のための社会訓練の一環で、収容者とセンターとの間に立って
収容者の要求を伝えたり、外部社会との架け橋となったり(大統領や市長を視察に招請したりし
ている)という仕事をこなしている。
(9)警察署(ガンディ 13 署)(7 月 25 日 14:25∼16:00)
〔面談者〕アシュウビ署長
管内は 19 平方 Km、夜間人口は 40 万人、昼間人口は 60 万人。管内に商業地域も多く、高速道
路もある(逃亡の恐れ。なお、交通警察は別に存在する)
。スタッフは 150 名前後、窃盗や空き巣
犯罪が多い。
15
イラン全国のモデル署。5 年前に国民と警察を近づけるための改革に取り組み始める。たとえ
ば、内部機構を各部に分割し、犯罪、警邏等に機能区分している。また、国民の声・相談を受け
る組織に改編し、パンフレット等で啓蒙する等を行ってきた。
社会との連係として、110 番通報で犯罪・苦情処理を行う。たとえば、空き巣被害について、
従来は発見者の届け出を要件としていたところ、これでは初動捜査が遅れたり、面倒に巻き込ま
れたくないという心理が働いたりして、充分機能しなかった。そこで、110 番通報一本で警察が
動き出すようにシステムを改めた。
家族間の関係や大家と店子との関係等から生じる紛争や問題も、警察が処理をする。たとえば、
夫婦間のいざこざについては、警察がこれを取り調べ、警察が仲裁の努力をする。これが不調に
終わったときにはじめて裁判に進むことができる。
しかし、警察のメインの業務は犯罪捜査・予防である。制服・私服警官による地域警備を実施
している。夜間は明確に警察官であると分かる服装で(=制服)、昼間は風景に紛れ込むかたちで
実施する。
教育の面からも警察業務を正しく認識してもらう取り組みを実施している。モデル署として取
り上げられることで注目を集めている。PTA からも子どもの保護等で感謝されている。子どもや
教師に対しても情報を提供する等して、地域に貢献している。
テヘランの交通事情や交通法規の遵法精神について、交通関係は交通警察の管轄であるが、関
連する限りで紹介する。現在、全国で毎年 80 万台の自動車が製造され、うち 40 万台がテヘラン
で消費される。交通渋滞の緩和については、規制よりも駐車場の整備や公共交通機関の充実、ト
ンネルや高架化といたインフラ整備が一義的に肝要である。一方、運転手への教育、違反者への
罰金、再犯者への厳罰化といった手段も必要であることは確かである。
すでに違反者への厳罰化は実施している。イラン側から重罰化が犯罪予防につながるのか、と
の質問が提起され、これに対して日本側から危険運転罪の導入で飲酒運転の検挙件数が相当低下
した事例を紹介した。
また、地域社会と防犯について、日本の高度経済成長との関係がイラン側から提起され、これ
に対して日本の事例を日本側から紹介した。所長との面談後、所内施設の見学を行った。
16
7
議事録
(1)
2006 年 7 月 22 日(土)
14:00∼15:30
先方:司法府マフダヴィ国際局長、ゴチ職員
当方:調査団3、安田企画調査員、穴田通訳
冒頭、日比野より調査団来訪の目的を説明し、今後の研修テーマを決定することが主目的である
と伝えた。その後、主要な発言は以下のとおり。
・調査団の来訪を歓迎する。また、JICA の協力にも感謝している。自分は、20 年近く裁判官を務
め、その後大学で教鞭をとり、現職に就いた。今後の研修テーマとして、犯罪予防を取り上げ
ていただきたい。日本がどのように犯罪予防のシステムを確立したかを研修員に学ばせたい。
(局長)
・本年度の研修は刑事司法について研修を行うことを考えており、場合によっては来年度にまた
がる可能性もある。したがって、刑事司法の範囲でイランが抱えている課題を教えていただき
たい。今回のセミナーでも紹介するが、日本も司法改革を進めており、イランから学ぶところ
もあると考えている。(杉浦)
・イランは、家庭が中心に動いている社会である。工業化に伴って、さまざまな問題が噴出して
おり、これらは社会で取り組むべきものである。したがって、例えば学校教育や社会において、
犯罪予防のためにどのようなことを実践してきたのかを学びたい。講義もよいが日本の取り組
みを現場で見ることが研修員には必要である。また、官公庁職員の汚職も大きな問題となって
いる。(局長)
・要望を踏まえ、なるべく現場での研修を行いたい。犯罪予防については、日本の中にも色々な
見解があるため、なるべく複数の講師を揃え、異なる見解を紹介したい。その中からイランに
適したものを見つけていただきたい。(杉浦)
・昨年度の研修員は、来日前に勉強会を開催し、一昨年度参加した研修員からブリーフを受けた
と聞いている。本年度の研修員にも同じことをしていただければ、日本での座学を省略するこ
とが可能である。(宇田川)
・司法府は勉強会をアレンジしていない。今後、勉強会の開催は検討するが、現場での研修に重
点を置いていただくよう重ねてお願いする。(局長)
・日本は、社会が犯罪を予防する仕組みとして防犯協会があるが、あまり機能しておらず、その
再生が課題となっている。また、かつては地域が犯罪予防の役割を担ってきたが、現在は地域
関係の希薄化により、その体制が弱体化している。(杉浦)
・犯罪予防には刑務所での再教育が重要であるが、今まで十分な取り組みをしてきたとは言い難
い。(宇田川)
・イランの抱える別の大きな問題は、麻薬対策である。アフガンから麻薬が密輸されている。米
軍がタリバン政権を打倒してからも麻薬生産量は増えており、イランとアフガニスタンの国境
は長く、密輸を完全に防げる状況ではない。日本もアフガニスタンおよびパキスタンの両政府
に対し、麻薬対策を積極的に行うよう働きかけて欲しい。イランの刑務所の受刑者は、約 70%
3
特にことわりがない限り、調査団員は、杉浦・名古屋大学教授、宇田川・名古屋大学助教授、日比野・JICA 職
員である。
17
が麻薬関係で収監されている。密輸だけでなく、麻薬使用も問題になっており、離婚原因の主
要原因の一つにもなっている。したがって、麻薬対策についても日本の警察および司法として
の取り組みを学びたい。(局長)
・日本では麻薬売買は主として暴力団が行っている。厚生労働省に麻薬取締官がおり、対麻薬捜
査を行っている。また、日本では覚醒剤使用の低年齢化も問題になっている。その他には、麻
薬中毒者が罪を犯しても心神喪失者として罪に問われない場合があり、議論を呼んでいる。(杉
浦)
・受刑者への再教育・更正についての取組みも学びたい。(局長)
・三重刑務所では、日本で初めて受刑者を刑務所外に出して仕事に行かせており、さらに看守も
付けていない。この刑務所を視察するもの一案。(宇田川)
・一昨年度、昨年度の研修員が作成したレポートは、後ほど JICA 事務所へ届ける。(局長)
(2)
2006 年 7 月 23 日(日)
14:00∼14:30
先方:八幡公使参事官、小林書記官、長田書記官
当方:調査団、安田企画調査員、穴田通訳
・今回の訪問は、3 回目以降の研修テーマを決定する事が目的であり、午前中は検事総長にも面
会した。(杉浦)
・検事総長は元情報大臣であり、元国会議員(日・イ友好議員連盟の会長)でもあった。(小林)
・日本とイランとの関係は、昨年 8 月に政権が交代してから、非常に厳しい。そのような中で、
前回の調査団訪問時より先方の対応がよりオープンになっている例は珍しい。今までの研修で
の取組みが評価されたのではないか。また、麻薬問題は非常に大きな社会問題となっており、
イラン側の関心が高い点も納得がいく。(公使)
(3)
2006 年 7 月 26 日(水)
9:30∼11:00
先方:司法府マフダヴィ国際局長、ゴチ職員
当方:調査団、安田企画調査員、穴田通訳
冒頭、杉浦教授より調査結果を報告し、本年度の研修テーマについて説明した。その後、主要
な発言および意見交換は以下のとおり。
・現在、イランは日本と犯罪人引渡し条約の締結を目指して交渉しており、イラン側の草稿は日
本に提出してある。このように司法関係での日・イ関係は本件を含め強化されている。別途、
大学間の交流も JICA で行っていただきたいと考えている。具体的には大学における司法教育の
取り組みについて学びたい。(局長)
・学術交流は JICA の仕事ではなく、また本研修以外に別の研修を立ち上げることは予算的に厳し
いが、例えば今回のように調査団派遣時にセミナーを開催することは可能である。(日比野)
・最終年のテーマとして対応する方法もある。(宇田川)
・公務員の汚職に関し、司法府の役割は何か、どのような内容の研修を期待するか。(杉浦)
・司法府はそれぞれの行政機関を取り締まる権限を持っている。そのため、日本の法務省が行っ
ている取締・対策を学びたい。(局長)
・日本は、各行政機関で汚職が起こる前の対策を行っており、法務省傘下の検察庁は、汚職が起
きた後の取締りを担当している。イランとは異なった権限の構造であるが、その点を承知して
18
いただければ、研修実施は可能である。(宇田川)
・イランでは、各省庁も汚職対策を行っているが、外部から取締や対策を行う権限は司法府が有
する。司法府傘下に全国検査機関(Inspection Organization)があり、例えば銀行での不正があれば、
全銀行に対して通告を出すこともある。比較的幅広い権限を司法府が持っている。(局長)
8
面会者リスト
7 月 22 日
パース・アソシエイト
マーティン弁護士
司法府
ゴラムレザ・マフダヴィ局長
国際局
モハマッド・ゴチ担当官
JICA イラン事務所
蔵方
宏
所長
涌井
純二
安田
弓
職員
企画調査員
7 月 23 日
最高検察所
アヤトラ・ドリ・ナジャファバディ最高検察官
アリザデ
副最高検察官・最高裁判事
テヘラン刑事裁判所
ナーセル・セラージ所長
日本大使館
八幡
公使
小林
二等書記官(政務班)
長田
二等書記官(経済協力班)
7 月 24 日
国連薬物統制事務所(UNODC)
ロベルト・アルビトリオ
メフダッド・レザエイアン
テヘラン大学法学部
エスラニパナク博士
プロジェクト調整員
法学部長
ロトフィアン博士
アシュリ博士
イラン事務所代表
法学部副部長
犯罪法研究所責任者
アバス・カリミ博士
比較法研究所責任者
サイド・モハマッド・ホセイニ助教授
司法学研修所
モハマドフセイニ・ミルモハマッドサデジ学長
(Faculty of Judicial Science
アリ
& Administrative Services)
ガセミ博士
研究担当副学長
ファリッドモセニ博士
トレーニング担当副学長
ナジャフィ・アスファッド博士
ガセムザデ博士
個人法グループ長
アリ・カムカー氏
総務担当副学長
ファラザディ博士
7 月 24 日
テヘラン少年更正所
ラファッラモフセニ所長
アリ・レステミ副所長
19
国際法グループ長
モハマッド・レザ・ガセミ広報担当
マンソン・マグレフ刑務所内教育担当
トラビ
警察署(ガンディ13署)
司法府担当官
アシュウビ署長
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