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— Part 2 作成: 2016/7/16
海洋大気圏環境学(2016 年度版) 第 5 章 傾圧的な波動現象 — Part 2 作成: 2016/7/16 担当: 荒井正純 i-tide – p. 1/16 内容 5.2 内部潮汐波 概要 観測例 5.3 非線形の内部波 概要 観測例 A 観測例 B 観測例 C 内部波による混合の機構 内部波の役割 i-tide – p. 2/16 内部潮汐波(概要) 内部潮汐波 · · · 潮汐と同じ周期(角振動数)を持つ内部波 第 1 章で取り扱った潮汐 · · · 外部潮汐.潮流の鉛直構造は順圧的 内部潮汐波の発生機構 · · · 成層が発達した海洋において,外部潮汐による潮流が,海底の隆起 部(シル)や陸棚 縁辺に衝突して,密度躍層の変位が強制されて発生. 瀬戸内海のような,比較的浅い沿岸海洋: 外部潮汐が卓越. 相模湾や駿河湾のように,陸岸近くまで水深が深い沿岸海洋: 外部潮汐よりも内部潮汐が卓越. 内部潮汐にも,半日周潮(半日周期の成分)と日周潮(1日周期の成分)がある. 傾圧モードの連続の式 ∂H ∂H ∂η H1 − u +v ∂t H ∂x ∂y ∂ ∂ H − H1 H − H1 + H1 ũ + ṽ = 0. ∂x H ∂y H (4.30c) 赤の項が,外部潮汐による潮流 (u, v) と, ∂H ∂H 海底地形 , との相互作用を表す. ∂x ∂y i-tide – p. 3/16 内部潮汐波の観測例 駿河湾奥部にある内浦湾で観測された内部潮汐 (Matsuyama and Teramoto, 1985) 海底地形の特徴 湾の入口付近 · · · 急勾配の斜面 湾の内部 · · · 海底は比較的平坦 内浦湾の海域図 測点 H における 1972 年 11 月 14 日の水温 成層構造の特徴 70 m 以浅 · · · 混合層 (実線)の鉛直分布. 70 ∼ 80 m · · · 水温躍層 80 m 以深 · · · 底層 流速の時系列の特徴 半日周潮の周期で変動 上層(深度 5 m)と下層(深度 102 m)で, 逆位相で振動 → 潮汐周期の内部長波 = 内部潮汐の特徴 測点 A3 における 197211 月 12∼17 日の流速(東向き 成分)の時系列.上段は深度 5 m, 下段は深度 102 m. i-tide – p. 4/16 非線形の内部波(概要) 第 5.1 節: 内部長波や内部ケルビン波の理論 線形化した方程式を元に定式化 線形化した理由: 解析的な解を求めることが可能.それを用いて,力学的な特性を考察. 第 5.2 節: 内浦湾における内部潮汐波 発生源である外部潮汐が弱い. それによって励起される内部潮汐波は,振幅が小さい 線形近似の理論でよく説明できる 外部潮汐が強い海域 外部潮汐による潮流がシルや陸棚縁辺といった海底地形に衝突 → 水深と同程度の,大きな密度躍層の変位が強制 内部ボアと呼ばれる階段状の変位を持つ内部潮汐波が発生 現象を記述するには,線形化する前の方程式 (4.9), (4.21), (4.11), (4.20) が必要 i-tide – p. 5/16 非線形の内部波(概要の続き) 内部ボア 線形化した方程式では,現象を記述できない 非線形の内部潮汐波 伝播の過程で,その前面が複数の波列に分裂. 内部ソリトン 内部ボア → 分裂した複数の波列 = 内部ソリトンの波列 非線形の内部波 周期 · · · 潮汐の周期よりかなり短い周期に変化 非線形の内部波の特徴・役割 上層と下層で強い流速差 → ケルビン・ヘルムホルツ不安定 密度躍層をはさんで流体の混合 i-tide – p. 6/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例(概要) 日本の沿岸では見られないが,黄海や南シナ海北部,スコットランド西部のマリン陸棚,アメリカ西 海岸のオレゴン沖の陸棚等,世界の多くの陸棚で観測. 以下では,観測された物理量に応じて,複数の海域における観測例を紹介. 観測例 A: スコットランド西部にあるマリン陸棚 水温・流速の鉛直断面の観測 (Small et al., 1999) → 非線形の内部波の発展・特徴 観測例 B: 黄海 海面に現れた内部波の水平パターンの観測 (Warn-Varnas et al., 2005) 観測例 C: アメリカ西海岸のオレゴン沖の陸棚 密度の鉛直分布,音響後方散乱強度の観測 (Moum et al., 2003) → 非線形の内部波による混合の機構 観測例 D: ニュージーランド北東部沖の陸棚 水温,クロロフィル濃度,硝酸塩濃度の鉛直分布 (Sharples et al., 2001) → 内部波の役割: 底層から表層への栄養塩の供給 i-tide – p. 7/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例 A(その 1) マリン陸棚周辺海域図.等値線とグ レースケールは,m 単位の水深を表 す.右側の白色の部分は,スコット ランドの陸地. (Small et al., 1999) マリン陸棚周辺海域の特徴 • 陸棚 経度 9◦ W より東側に,スコット ランド西岸へ向けて広がる. 平均的な水深は 140 m • 陸棚縁辺 9◦ W ∼ 9◦ 30′ W の範囲で,水深は西に向かって,2500 m に至るまで急に深くなる. • 内部ボアの発生機構 外部潮汐による潮流と陸棚縁辺との相互作用. 発生した内部ボアは,陸棚上を東向きに(スコットランド西岸へ向けて)伝播. i-tide – p. 8/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例 A(その 2) 場所: マリン陸棚 観測日: 1996 年 8 月 13 日 水温の鉛直断面のスナップショット. 時刻: (a) 6.3 時,(b) 8.3 時,(c) 11.2 時,(d) 11.6 時. (Small et al., 1999) 内部ボア・内部ソリトンの時間発展 1. 時刻 6.3 時(図 a): 右端から幅 600 m の範囲に,水温躍層の変位として, 振幅 20 m 程度の下向き変位の内部ボアが見られる. 2. 時刻 8.3 時(図 b): 内部ボアは,3 つの波形に分裂. ボアの先端が波状に変形したもの = 波状ボア 3. 時刻 11.2 時∼11.6 時(図 c, d): 波状ボアは,波長の短い,明確な波形をもった 4 つの 内部ソリトンの波列へと成長. 内部ボア・内部ソリトンは東向き(スコットランド西岸 向き)に,約 30 cm/s の位相速度で伝播. i-tide – p. 9/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例 A(その 3) 場所: マリン陸棚 観測日: 1996 年 8 月 13 日 流速(東向き成分)の鉛直断面のスナップショット. 時刻: (a) 6.3 時,(b) 8.3 時,(c) 11.2 時,(d) 11.6 時. (Small et al., 1999) 白抜きの線: 12◦ C の等温線(水温躍層を代表する等温線) 内部ボア・内部ソリトンの流速の鉛直構造 • 12◦ C の等温線(水温躍層を代表する等温線)を境として, 上層と下層で,流速の向きは逆転. 上層は正で東向き,下層は負で,西向き (傾圧的な流速構造) • 水温躍層が下向き変位の内部ソリトンの流速構造に対応. i-tide – p. 10/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例 B 場所: 黄海 観測日: 1998 年 8 月 8 日 人工衛星に搭載された合成開口レーダー(SAR と略) により観測された,内部波の波面の水平パターン (Warn-Varnas et al., 2005) SAR は海面の凹凸を検出.内部波があると,海面に おける流速場の収束・発散が海面の凹凸をつくりだ すため,それが観測にかかる.収束(発散)の部分 は明るい(暗い)パターンとなる. 左図 (a): 内部波 B1, B2, S1–S4. 黒線は 46 km のスケール. 左図 (b): S1–S3 の拡大図.黒線は 10 km のスケール. • 図 (a) では,半日周潮の 6 周期間に発生した,6 個 の内部潮汐波の波面(B1, B2, S1—S4)が見える. 図の東南東向きが伝播方向で,S4 が最も古く,B1 が最も新しい波. • B1, B2 は,それぞれ明るい線が1本からなり,内部ボアのパターン. • S1, S2, S3 それぞれは,拡大図 (b) から分かるように,複数の明るい線の束からなる. この束は,内部ボアが分裂することにより生じた内部ソリトンの波列. i-tide – p. 11/16 内部ボア・内部ソリトンの観測例 C 場所: アメリカ西海岸オレゴン沖の陸棚 観測日: 2000 年 6 月 28 日 (Moum et al., 2003) 1 個の内部ソリトンの鉛直構造 ■ 上段の図: 音響後方散乱強度 水温躍層が,濃い青色で表示 → 水温躍層が下方変位した内部ソリトン ■ 中段の図: 流速の水平成分 • 水温躍層より上層 流速場は,ソリトンの前面で収束,後面で 発散. • 水温躍層より下層 流速場は,ソリトンの前面で発散, 後面で収束. ■ 下段の図: 流速の鉛直成分 ソリトンの前面では下降流,後面で は上昇流 i-tide – p. 12/16 内部ソリトンの流速構造(概念図) 密度境界面の変位が下向きの内部ソリトンの 場合 傾圧的な流速構造 • 上層の流れの向きは,境界面の変位と同位相 • 下層の流れの向きは,境界面の変位と逆位相 発散・収束の構造 ∂u1 • 中心より上流側では,上層で > 0 (発 ∂x ∂u2 < 0 (収束) 散),下層で ∂x ∂u1 • 中心より下流側では,上層で < 0 (収 ∂x ∂u2 束),下層で > 0 (発散) ∂x • ソリトンの伝播に伴い,境界面が,上流側で は上昇,下流側では下降することと対応 → 密度境界面の下降・上昇のパターンが移動 するのに伴い,上層及び下層の流れの発散・ 実線はある時刻での密度境界面の変位,点線はそれから少 収束場が移動 し時間が経過した密度境界面の変位. i-tide – p. 13/16 内部波による混合の機構(その 1) 場所: アメリカ西海岸オレゴン沖の 陸棚 観測日: 2001 年 10 月 1 日 (Moum et al., 2003) 内部ソリトンの音響後方散乱強度 の鉛直断面図(上段). 灰色,黒色で示した丸印を中心とし た 水温の鉛直分布(下段). • 水温躍層の変位の小さいソリトンの先端付近(番号 1 ∼ 7) 深くなるに従い,水温は単調に減少 = 安定な成層構造 • 水温躍層の下向き変位が最大となるソリトンの中心部(番号 8 ∼ 9) 水温の鉛直分布は単調でない.暖かい流体の上に冷たい流体がのった水温の逆転層が形成. ■ 水温の逆転層の形成機構 ケルビン・ヘルムホルツ不安定 水温の逆転層では,局所的に流体の鉛直運動が起こり,水温躍層をはさんで流体の混合が起こる. i-tide – p. 14/16 内部波による混合の機構(その 2) 場所: アメリカ西海岸オレゴン沖の 陸棚 観測日: 2001 年 9 月 29 日 内部ソリトンの 音響後方散乱強度の鉛直断面図. (Moum et al., 2003) 前スライドに示した水温の逆転層の 厚さより大きなスケールで,ケルビ ン・ヘルムホルツ不安定性による砕 波が発生した事例. ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の 特徴である波状の構造が,音響後方 散乱強度に観測. 前スライドに示したものよりもっと大きな鉛直スケールで,混合が起こる. i-tide – p. 15/16 内部波の役割(観測例 D) 左図 (a): 内部潮汐波通過前の時刻 05:00 右図 (b): 内部潮汐波通過後の時刻 11:50 内部潮汐波は,底層から,躍層を通過して表層へ 栄養塩を供給する重要な役割 場所: ニュージーランド北東部沖の陸棚 観測日: 1998 年 12 月 5 日 水温(実線),クロロフィル濃度(• 印),栄養塩 の一種である硝酸塩濃度(⊕ 印)の鉛直分布. (Sharples et al., 2001) ■ 内部潮汐波通過前(左図 (a)) • 硝酸塩濃度 ・水温躍層(深度 60 ∼ 80 m)より下層 7 mmol/m3 以上と高い ・水温躍層より上層 0.5 mmol/m3 以下と非常に低い. • クロロフィル濃度 極大となる深度 · · · 60 m(水温躍層の内部) ■ 内部潮汐波通過後(右図 (b)) • 硝酸塩濃度 水温躍層(深度 50 ∼ 60 m)より上層で,最大 1.5 mmol/m3 まで値が上昇 • クロロフィル濃度 極大となる深度は 20 m.躍層より上層の海面付近 まで上昇. i-tide – p. 16/16