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(2014/7/22)GLAC(ジーラック)

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(2014/7/22)GLAC(ジーラック)
新生ストラテジーノート 第 162 号
2014 年 7 月 22 日
調査部長 江川 由紀雄
[email protected]
(03) 6880-6035
GLAC(ジーラック)は日本にも上陸するのか
ブリズベン・サミット(11 月)に向けて FSB がとりまとめる提言の内容が気になる
「ジーラック」、GLAC (gone-conern loss absorbing capacity) は、日本語では、「実質破綻
時の損失吸収力」と訳出する事例もある。金融安定理事会(FSB)で検討が進んでいる TBTF
(too big to fail) 終焉の為に、システム的に重要な金融機関の秩序ある破綻処理の過程で、株
主に加え、債権者が損失を負担し、資本の回復を図ることを可能にする意図で考案されようとして
いるものである。
制度整備では、欧州連合が先行しており、今年 4 月に Bank Recovery and Resolution
Directive (BRRD) が欧州議会を通過し、2016 年の年初からの施行に向けて加盟各国におけ
る法制化作業が進み始めている。同時並行的に、EU の単一破綻処理制度(single resolution
mechanism, SRM)の整備が進んでいる。これら、EU で進んでいる法整備が完了した暁には、欧
州域内のシステム的に重要な金融機関を破綻処理する際には、株式と劣後債務を全てワイプア
ウト(劣後債務については、株式に転換か債務免除特約の発動による「ベイルイン」(bail-in))し
たうえで、それでも当該銀行が市場にアクセスするに足りない場合に、無担保シニア債務の一部
をベイルイン(bail-in)するということが可能になる。この場合に、ベイルイン対象となる無担保シ
ニア債務は、付保預金やカバードボンド等の有担保債務、満期まで 7 日以内など短期の債務を除
く、ほとんどありとあらゆる無担保債務ということになる。
今後の FSB における議論の注目点は、G-SIBs(グローバルにシステム上重要な銀行)の秩序
ある破綻処理時に、ベイルイン(bail-in)できる負債等(それが、つまるところ、GLAC)の定量保
有義務付けを提言に盛り込むか否か、盛り込むとすれば、どのような水準を要求するかが中心と
なろう。たとえば、EU の SRM では、総負債・資本の 8%またはリスク・アセットの 20%相当額の
「ベイルイン(bail-in)」を行った後に、SRM が資本注入することが可能とされる方向で整備が進
んでいる。こうした EU における制度整備では、公的資金による資本注入による救済を得るには、
劣後債を全てベイルイン(bail-in)しても足りない場合に、シニア債も一部ベイルイン(bail-in)し
ていくことが想定されている。国際的な議論の中で、欧州諸国の関係者は、既に、自ら制度整備し
ている内容が適切であると主張する可能性が高いであろう。
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
日本と中国は状況が違うと指摘する報道
Financial Times 紙は、FSB における検討状況について、興味深い報道 1を行っている。オース
トラリアのブリズベンで 11 月 15 日・16 日に開催予定のブリズベンサミットに向けて FSB としての
提言を行うべく議論が進んではいるものの、日本と中国がかなり特殊な状況に置かれている、と
いうのだ。この記事によると、日本の銀行は資金調達を預金に大きく依存しているという特殊性が
あり、大量のベイルイン可能な銀行社債を発行させることについて日本側の関係者が
“uncomfortable” (快く思っていない)と指摘している。中国については、そもそも、大手銀行が
国営であり、破綻処理時に、民間の債権者に損失を負担させて資本の回復を図るという考え方自
体に抵抗感があるとのことだ。日本の当局者の強い抵抗感により、サミットまでに FSB として統一
された具体的提言ができなくなる(筆者注:その場合には、複数の考え方や選択肢を示した上で
の提言になる可能性もあろう)ことも指摘している。弊社は、この Financial Times 紙の報道内
容の当否について、別途の確認は行っていない。
GLAC 定量保有義務付けとは、具体的には、どういうことか
報道されたように、FSB における GLAC の議論に参加している日本側当局者に抵抗感が強いす
れば、それは無理もないことであろう。そもそも、日本の預金保険法は、公的資金による資本支援
を行う前に何がなんでも債権者も損失を負担することを求めてはいない。また、GLAC をどのレベ
ルで要求するかについては、SPE (single point-of-entry) という、持株会社に要求するという
考え方と、MPE (multiple points-of-entry) という、個々の銀行子会社等が保有していればよ
いという考え方があり、国際的にもコンセンサスは成立していないようである。仮に、SPE が採用さ
れるとなると、持株会社がベイルイン(bail-in)可能な負債の定量保有が要求されるということに
なる。
法律によって無担保シニア債務をベイルイン可能にしようとすると、日本では、憲法第 29 条で
保障されている財産権が問題になる他、倒産手続きを経ずに、どこまで私人間の権利義務を変更
する(たとえば、行政機関の判断で、債権者に債権放棄させてしまう)ことが許されるかといった悩
ましい法律論争に発展しそうである。
欧州のように法定ベイルインができなくとも、バーゼル3対応型の劣後債に先例があるように、
債務免除特約等を合意することにより、日本でも、当事者間の合意(契約)に基づくベイルイン可
能な負債を作ることはできる。もし、SPE が採用され、かつ、GLAC の定量保有義務が、資本と劣
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Financial Times, Carney leads push to break ‘too big to fail’ impasse, July 20, 2014
http://www.ft.com/cms/s/0/3f2d6f04-0e9f-11e4-ae0e-00144feabdc0.html
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
後債だけでは充足できない場合に、銀行持株会社が、十分な金額のベイルイン特約(債務免除特
約等)付のシニア社債を発行せねばならなくなるということになる。また、MPE でよいとすれば、ベ
イルイン特約付社債の発行だけではなく、ベイルイン特約付の預金を受け入れるということもあり
得るだろう。預金にベイルイン特約を付すには、預金保険の付保対象外の預金に限られるであろ
うから、大量に受け入れることは難しいかもしれない。
そうした想像をめぐらせれば、邦銀に既存の資本および劣後債の額を超える額の GLAC の保
有を義務付けようとすると、法改正や銀行の資金調達構造の大きな転換が必要となるところ、そ
れは、そう簡単ではないことが予想される。おいそれと、GLAC の定量義務付けを日本が受け入
れるとは考え難いのではないだろうか。
いずれにせよ、FSB が G20 サミット前にとりまとめることになる提言に、どういう内容が盛り込ま
れることになるのか、関心を持って見守りたい。
欧州大手行の信用リスクをどう考えるか
本稿の冒頭で言及した通り、欧州議会は、今年 4 月に BRRD を通過させ、2016 年からの施行
に向けて作業が進んでいる。順調にいけば、2016 年以降は、欧州連合域内の銀行等について
は、特約が合意されていなくても、銀行社債などのシニア債務がベイルイン可能になる。
この法改正の動きをうけて、ムーディーズは、今年 5 月、EU 域内 82 行の格付けについて、ア
ウトルックを安定的からネガティブに修正した 2。とりあえずのところ、格下げには値せず、格付け
のアウトルックを下方修正という程度の評価のようである。(日本の金融商品取引法第 66 条の
27 のとの関係では、これらの格付けは無登録格付である。なお、本稿は、最終ページに記載の
通り、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではない。)
もっとも、BRRD 施行後の欧州域内の銀行については、シニア債と劣後債の信用リスクの格差
またはバランスがどうなると考えるべきなのかについては、議論の余地はあろう。劣後債のみ
PONV(存続不能)トリガーを発動させ、シニア債はベイルインせずに済むという場合にのみ、劣後
債とシニア債の明らかな信用力格差が現実のものとして顕在化することになる。もし、PONV トリ
ガー付き劣後債をベイルインするような状況では、一部とはいえ、同時またはほぼ同時に、シニア
債もベイルインすることになろうと見るのであれば、劣後債が全損、シニア債が一部カットという事
態を想定することになる。そういう見方に基づけば、劣後債とシニア債は、デフォルトの発生可能
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Moody’s Investors Service, Rating Action: Moody's changes outlooks to negative
on 82 long-term European bank ratings, 29 May 2014
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
性としては大差なくなるが、デフォルト発生時の損失の程度が大きく異なるという評価になろう。格
付会社が、そういう評価に傾けば、劣後債とシニア債との間にそれほど格付け上のノッチ差は設
け難いことになる。EU 域内に本店を有する銀行の信用リスクをどう評価するかは、BRRD の施行
までまだ時間があり、シニア債のベイルインがどういう状況で実際に実施されるのかについては
(当然ながら、前例はなく)、判断材料に乏しいため、今後も議論が続く可能性があろう。
(調査部長 江川 由紀雄)
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社
はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである
ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、
特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取
引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について
は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及
び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその
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信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま
たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場
合があります。
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