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私立門星学園 ∼モンスターたちとの学園生活

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私立門星学園 ∼モンスターたちとの学園生活
私立門星学園 ∼モンスターたちとの学園生活∼
田中 友仁葉
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
私立門星学園 ∼モンスターたちとの学園生活∼
︻Nコード︼
N0121BX
︻作者名︼
田中 友仁葉
︻あらすじ︼
動物に懐かれやすく成績はそこそこ、運動神経はそれほどで他種
族や神話が好きな主人公の元に届いたのは異世界にある伝説の学園
﹃私立門星学園﹄への入学案内。
なんとそこは、人間は主人公以外一人もいないモンスターだらけ
の学園だった。
主人公は自分の身を守るべく剣を抜く⋮⋮といこともなく、彼の
1
モンスター知識を活かして生徒たちの悩みを聞いたり、生徒から俺
くんという愛称をつけられたりと平穏︵?︶な学園生活を過ごすこ
とに⋮⋮。そんなモンスターと戦わない系学園ラブコメファンタジ
ー。
2
プロローグ︵前書き︶
この作品は中学生の時に書いた
大学ノート小説の第4作目をリメイクしたものです。
キャラクターに名前は一応ありますが、大抵は﹁俺﹂﹁先生﹂のよ
うな表現で行こうと思います。
また後書きには種族の説明も加えます。
3
プロローグ
俺﹁ここが⋮⋮門星学園か⋮⋮﹂
今日はここ、門星学園の入学式。
俺は晴れて。ここに入学することになった。
門星学園は小中高大に含め幼稚園のような保護施設などもある学
園で、入学できる確率と投げたコインが空中で静止する確率が等し
いと言われるほどの低倍率である。
それにしても⋮⋮
俺﹁本当にどこもかしこも人間がいないな⋮⋮﹂
犬や猫のような動物みたいなのもいるし、伝説と言われた人魚や、
神話でしかいないと思っていたメデューサまでいる。
俺は彼らと一緒にこの学園に入学することになる。
ただ俺自身は普通の古アパートに住んでたなんの変哲もない一般
的な学生だ。
どうしてこの学園へ入ることになったか。事の発端は数日前まで
遡るーー。
4
ちょ誰か来て!﹂
1話﹁人間は感情が豊かです﹂
主人公宅
俺﹁うわぁ!
ってうわぁ!
俺の悲鳴を聞き、部屋の扉が開かれた。
妹﹁お兄ちゃんどうしたの?
は、鳩!?﹂
部屋に入ってきた鳩は妹に驚いて部屋から逃げて行った。どこと
なく申し訳ない気持ちになった。
俺﹁あ⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
妹﹁なんか嫌な気分﹂
でも、鳩が人間から逃げるのは普通だと思う。⋮⋮俺は例外だけ
ど。
妹﹁また、窓開けたの?﹂
俺﹁換気だよ。鳩が来るとは思わなかったけど﹂
俺は汗をぬぐいながら答えた。
妹﹁ホントお兄ちゃん動物に好かれるよね。人相手にはそれほどな
のに﹂
5
俺﹁お前、学年上がって毒舌になるつもりか?﹂
妹﹁まだピュアな小学生なのだ﹂
俺にはお前がただの小2には見えない。
妹﹁そんなことよりさ、手紙だよー﹂
封筒?進○ゼミ?﹂
妹は分厚い封筒を適当に床に置いた。
俺﹁なんだ?
妹﹁それはないと思うよ、封筒透明なやつじゃないし﹂
手紙は古典洋画に出てくるような蝋で固められた封筒だった。
豪華すぎて疑いたくなる。
俺﹁ホントに俺宛?﹂
タイスケ
妹﹁うん、ここにお兄ちゃんの名前書いてある﹂
ミヅキ
妹の言うとおり、手紙には﹃美月 泰介と俺の名前が書いてある。
とりあえず、蝋を剥がして封筒を開ける。
珍しい封筒だから開けられるか不安だったが、思ったより簡単に
開いた。
妹﹁おお、付録は?﹂
俺﹁進○ゼミじゃない言ったじゃねぇか。⋮⋮えーっとこれは⋮⋮﹂
6
出ちゃう∼っ!﹂
妹﹁そんなめんどくさいことしないで、一気に出しちゃえー﹂
俺﹁だ⋮⋮だめ!
俺が一枚一枚確認しようとしていたのに、妹は一気に散らかした。
妹﹁お兄ちゃんヘンタイ﹂
俺﹁そもそもお前なんでそんなテンプレ知ってんだよ。ほらグチャ
グチャだよ⋮⋮﹂
なんだこれ、見たことのない字なのに読める⋮⋮なんで
妹﹁あれお兄ちゃん見てこれ!﹂
俺﹁え?
だ?﹂
謎のゼノグラシアを体験しながらも読み進める。
妹﹁これは﹃にゅうがくあんない﹄?﹂
俺﹁?⋮⋮見せてくれ﹂
そこには考えられないことが書いてあった。
﹃我が門星学園は其方の入学を許する﹄
俺﹁⋮⋮﹂
妹﹁⋮⋮おめでとう﹂
7
なんだよ門星学園って!
聞いたことないし、
妹から祝福の声が聞こえて、俺はやっと我に返った。
俺﹁ちょっと待て!
聞いた
受験も受けてねぇのになんで合格通知が来てるんだよ!?﹂
妹﹁裏にも何かあるよ?﹂
俺﹁ん?﹂
なんだよ門星学園って!
妹に言われたとおり、裏にも言葉が並んであった。
﹃今、貴方は﹁ちょっと待て!
ことないし、受験も受けてねぇのになんで合格通知が来てるんだよ
!?﹂と叫ばれたことでしょう﹄
妹﹁読まれてるね﹂
⋮.⋮いや、ここまで一文一句間違えてないとか、どこかで見てい
るんじゃないか?
﹃我が校は完全抽選にて生徒を選出いたします。ですので、身に覚
えがないことを前提としております﹄
俺﹁⋮⋮﹂
妹﹁⋮⋮おめでとう﹂
もはや俺には無茶苦茶な方針に突っ込む気力などなくなっていた。
8
俺﹁校風は?﹂
妹﹁校風紹介⋮⋮こんなのがあったよ﹂
妹から差し出された紙をみる。
そこには、妙にハイテンションな書き方でこう綴られていた。
﹃私立門星学園は魅力がいっぱい!
其の一、完全無料!
例|︵
入学金も授業料、教材費、部費、また学寮の食事も三食無料です!﹄
おお、これは魅力だ。怪し過ぎる。
私立なのにどうやって運営してるんだ。
﹃其の二、授業の保証。
この学校を受けた生徒はいずれも人生に成功しています!
スーパーモデル、国王、魔王︶﹄
⋮⋮これはもはや突っ込めたとしてもツッコミが追いつかない。
妹﹁私は魔王より漆黒の堕天使とかになりたいな﹂
妹の言葉には無視して読み続ける。
⋮⋮あ、ここなんか書いてる﹂
ダンガ○ロンパフラグ!?
﹃其の三、保険保証。この学校なら絶対死にません!﹄
なんだよこれ!
妹﹁核シェルターでもあるのかな?
9
﹃こちらの字は、ルメヨ文字よ呼ばれており、正式にはルメヨール
イルストダム文字といいます。
魔法の力により誰にでも読めるようにされております。﹄
すごい!
お兄ちゃんもできるようになるんじ
もはや俺にはどうでもいい情報だった。
俺﹁⋮⋮ふぅん﹂
妹﹁魔法だって!
ゃない!?﹂
一方妹は興味津々だそうで食いついてきた。
俺﹁魔法か⋮⋮んまぁ、読めるもんな。知らない字なのに﹂
妹﹁んー。もしかして信じてない?﹂
そりゃ信じた方が夢はあるが⋮⋮
やはりゲームや漫画みたいなことはあり得ないと思う。
俺﹁まぁ⋮⋮んー。微妙なところ﹂
妹﹁ふーん、まあ普通そうだよね﹂
まあ、どちらにしろもっと情報が必要だと思う。
俺﹁パンフレットとかは無いのかな⋮⋮9あった﹂
妹﹁これだけ日本語だね﹂
10
今度はまた一つ変わって凛々しい文字で綴られていた。
﹃私立門星学園は創立1560年の学園であり、名誉な将来が約束
されています。卒業者の中には、モデル、国王、魔王などが代表さ
れます。﹄
妹﹁お兄ちゃん魔王なって﹂
俺﹁続き読むぞ﹂
悪いな妹よ。
スルーしないと身が持たないんだ。
空気を読んだらしい妹は、まともな質問をしてきた。
妹﹁授業ってどんなことするの?﹂
俺﹁授業は英国数理社その他に一つ追加されていた﹂
妹は急かすように首を傾げた。
俺﹁魔法だとよ。しかも、学寮は強制らしい、しかも休日にしか帰
れない﹂
妹﹁ええ!?﹂
妹がショックなのも無理はない。
なにより二人暮らしなのだから。
俺﹁ただ衝撃なのは、一人につき一部屋が割り当てられていて、一
11
つの街がまるまる学校の配下にあるらしい﹂
そこまで話すと妹からもっともな質問がきた。
妹﹁でもお兄ちゃんみたいなのが魔法使えるのかな?﹂
俺﹁まあ、あれだ。某小説でもなんとかなってたし大丈夫じゃない
か?﹂
俺は映画しか見たことがないが、確かヒロインの子が魔法の使え
ない家庭の普通の子だったはず。
妹も納得したようにこくりと返事した。
俺﹁あとさ⋮⋮一番衝撃なのが、生徒や先生なんだけど⋮⋮﹂
妹﹁なに?﹂
このパンフレットの書き方だと多分ここからが本題になるのだろ
う。
これは俺にとって⋮⋮いや普通の人から考えてもあり得ないこと。
俺﹁人間が一人もいないんだ﹂
少しの間が開き妹が呆然として聞く。
12
妹﹁?
⋮⋮なにそれ、動物王国かなにか?﹂
俺﹁そんな可愛らしいものじゃない。ここ見て﹂
ここは、説明が難しい。実際に見てもらう方が早そうだ。
﹃我が校は種族を毎年一種につき一名を入学させています。また教
師も種族が被らないようにしております。﹄
妹﹁おー。だから誰も死なせないか、確かに死ぬもんね弱いやつな
ら﹂
もっともなことだが、俺が言いたいのはそういうことじゃない。
俺﹁ここ見て﹂
﹃今年度新しく入る種族はハッシャク、ダークエルフ、人間の三種
族です。﹄
ーー今年度新しく入るーー
これはつまり過去に人間の生徒の例がなかったということになる。
妹﹁⋮⋮お兄ちゃん﹂
妹も心配したのか俺に声をかけてくる。
俺﹁ああ﹂
妹﹁ハッシャクってなに?﹂
13
俺﹁そこかよ!?
⋮⋮多分八尺様っていう日本の都市伝説のこと
だと思う。身長が230cmくらいでショタコン﹂
俺はツッコミながらも頭に﹁?﹂マークを浮かべている妹に大まか
な知識を教えた。
妹﹁ふうん、よく知ってるね﹂
俺﹁神話や都市伝説とかファンタジー関係は強いから﹂
それを聞くと妹はトーンを落として尋ねた。
妹﹁じゃあこの学校にも興味ある?﹂
俺﹁⋮⋮まあ、ないことはない﹂
正直な気持ち行きたい。
家は吉井さんにも手伝ってもらうし﹂
しかし、妹を放っておくわけには⋮⋮
妹﹁じゃそこにすれば?
吉井さんというのはこのアパートの大家さんのことだ。
⋮⋮元気な顔をしているが妹の配慮だろう。
妹の性格上、ここで気を使うと逆に凹まれる。
せっかくなので従うことにした。
俺﹁⋮⋮そう⋮⋮だな。お金いらないしな。公立も滑ったしここで
いいや﹂
14
妹﹁⋮⋮理由不憫だね﹂
妹と俺は互いに苦笑いした。
******
ついに入学の日が来た。
着替え入ってる?﹂
妹のことだから落ち着かなくなると思ったがそんなことはなかっ
た。
妹﹁カバンちゃんと用意した?
⋮⋮出来た妹だ。お母さんみたい。
俺は最後にその小さなオカンに別れを告げた。
俺﹁じゃまた帰るから﹂
妹﹁いってらー!﹂
妹は最後まで悲しい顔を見せることはなかった。
******
路地裏
転移の儀式はなるべく人のいないところでする。
これくらいは流石に俺でもわかる。
俺﹁ここら辺でいいよな⋮⋮?﹂
15
俺はぼそりと独り言をつぶやき手紙に目を落とした。
﹃通学方法:魔法陣︵下図参照︶を書く。そこに契約として体の一
部を中心に一つ飾る。﹄
入ればいいのかな?﹂
こんなんでいけるのか不安だが⋮⋮。とりあえず髪の毛を抜いて魔
法陣に落とした。
﹁⋮⋮ニンショウカンリョウ﹂
俺﹁わっ喋ったしこれ。⋮⋮で?
音のような声を出した魔法陣は鈍い光を出していた。
モンスター
間違いなければこの中に入ることで転移ができるはず。
俺は思い切って、足を進めた。
⋮⋮⋮
校門前
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
俺﹁ここが⋮⋮門星学園﹂
こうして今に繋がる。
人間のいない学園⋮⋮まさしく門星学園といったところか⋮⋮
さて、これからどうなるのだろう。
⋮⋮それにしても気持ち悪い、転移酔いというものか。
16
1話﹁人間は感情が豊かです﹂︵後書き︶
説明
ダークエルフ:
北欧神話に出てくる種族のこと
容姿はエルフと同じ美形だが褐色で豊満。
多くの場合、悪や混沌をモチーフとしている
八尺様:
現代の都市伝説の一つ
身長が八尺︵約2.5m︶もある白い服の女性で、幼い少年を好む
八尺様に魅入られると数日のうちに殺されるとか⋮
以前はとある村で封印されていたが、地蔵が壊されたため全国に出
た模様。
17
園庭
2話﹁ラミアは睡眠をとりません﹂
門星学園
俺﹁⋮すごいな、こんなとこ本当に入れるのか?﹂
ドン!
?﹁あ、すいません。﹂
俺﹁あ、いえ⋮ん?﹂
⋮ゴロン
?﹁あー、腕落ちちゃいました。﹂
俺﹁⋮⋮。﹂
?﹁この手嵌めてくれませんか?自分で嵌められない⋮どうしまし
た?﹂
俺﹁あ⋮いえ⋮えと、もしかしてドールガールですか?﹂
ドール﹁あ、はいドールです。﹂
俺﹁あ、そうか⋮びっくりした⋮﹂
ひょい
18
バシッ
俺﹁うわぁっ!?﹂
ドール﹁あ、すいません。腕の部分じゃなくて手首の方もってくれ
ますか?くすぐったいです。﹂
俺﹁⋮⋮。﹂
パコッ
ドール﹁あ、はいありがとうございます。では。﹂
ぺこ
⋮⋮
俺﹁⋮ほんとに人外だ﹂
ドカドカ
俺﹁ん?あれは⋮イフリートとコカトリス?ってかコカトリス、人
の姿してるし。﹂
イフリート﹁くお⋮結構⋮強いな。﹂
コカトリス﹁石にしてもいいんだぜ!?﹂
イフリート﹁この⋮ヒキガエルがっ!﹂
19
コカトリス﹁なっ⋮!?カエルをバカにするなぁーっ!﹂
イフリート﹁甘いっ!﹂
ビューッ!
コカトリス﹁あ。﹂
イフリート﹁あ。﹂
俺﹁⋮え。﹂
ドカーン!!!
俺﹁ちょっ!えっ!飛ばされてるし!や、やばいて。死ぬから、悪
魔の戦いに巻き込まれておいて死なない方が可笑しいから!﹂
?﹁ふんふーん♪﹂
俺﹁うわ!どいてどいて!﹂
?﹁え?﹂
通学路
*******
小学校
妹﹁⋮グスッ⋮グスッ﹂
妹友達﹁どうしたの?﹂
20
妹﹁ううん、えっとお兄ちゃんがね。遠い高校に行っちゃったの。
でしばらく帰ってこないから⋮﹂
妹友達﹁そっか⋮大丈夫?楓ちゃんの家ってお兄さんと二人暮らし
だったもんね⋮一人で大丈夫?﹂
妹﹁うん、平気だよ。﹂
妹友達﹁そうだ、良かったら今日うちに泊まらない?﹂
妹﹁ええ!?でも迷惑じゃないかな。﹂
妹友達﹁そんなことないよー。話せばお母さんも分かってくれると
思うし。﹂
妹﹁んー。じゃあもし大丈夫なら泊まらせてもらうよ。﹂
妹友達﹁⋮フフフ﹂
妹﹁なに?キモいよ?﹂
妹友達﹁キモいて⋮いや、あのさ楓ちゃんはほんとお兄さんのこと
が好きなんだな∼ってさ。﹂
妹﹁す、好きなわけではないよ!なんかねほっとけないの、あの人
私がいないと何もできないし⋮﹂
妹友達﹁なんか奥さんみたいだね。﹂
21
妹﹁もうっ!﹂
昇降口付近
********
門星学園
俺﹁⋮いてぇ。下手したら死んで⋮﹂
?﹁うぅ∼。痛いよぅ。﹂
俺﹁あ、ゴメン!︵⋮蛇?じゃあラミア!?⋮でもさっきのコカト
リスもだけど敵意はなさそう。︶﹂
ラミア﹁あ!ねぇ君怪我してる!﹂
俺﹁あ、ほんとだ。まぁこれくらい舐めとけば治るし。﹂
ラミア﹁ダメだよ、そんなのあまり効果ないし。待って傷薬あるか
ら⋮あ、でも種族違うの効果あるかな⋮ふわわわ⋮﹂
俺﹁︵な、なんか可愛い。︶﹂
たったったっ
コカトリス﹁大丈夫か!?﹂
俺﹁あ、うん、大丈夫﹂
イフリート﹁悪かった。実は別種族を見て力比べをしたくなってな。
競い合っていたというわけだ。﹂
22
コカトリス﹁俺たちは、高等部のα組だから、またなんかあったら
来てくれ。代償としてだが相談があれば乗ろう。﹂
俺﹁︵いい人たちだ!人じゃないけど。︶﹂
キーンコーン
イフリート﹁あ、じゃあこれで。行くぞ。﹂
コカトリス﹁あぁ、じゃあまたな。﹂
たったったっ
ラミア﹁じゃ、私たちも行こっ!﹂
俺﹁ちょ、うわっ!引っ張らないで!ってか力強っ!﹂
ラミア﹁えぇ!?女の子に向かって酷い!﹂
23
2話﹁ラミアは睡眠をとりません﹂︵後書き︶
説明
ドールガール:
特に伝説とかはない
人形のように白い肌で関節がしっかりしていないため、衝撃を受け
ると外れる。
外れた関節も触覚はある。
コカトリス:
雄鶏とトカゲを合わせた姿
雄鶏から生まれた卵を蛇やカエルが暖めたら
生まれると言われる。
飼い主の家の人から血を喰らい殺す。
触れたり息をかけることで石に変えたりもする。
イフリート:
イスラム教でいわれる堕天使
魔法のランプの精である。
性格は獰猛で短気、アダムに背いたことで天界を追放されたとされ
る。
ラミア:
ギリシャ神話でいわれる怪物
ポセイドンの孫で呪いをかけられて、
半身蛇の姿に変えられた。
子供を誘拐して食らったりするといわれている。
24
3話﹁日本人は自己主張が苦手です﹂
入学式がある講堂はとても大きく、まるでコンサートホールのよう
だった。
ラミア﹁同じクラスなんだね!よろしく!﹂
俺﹁あ、うん。よろしく⋮﹂
ラミア﹁もしかしてさ、緊張してる?﹂
俺﹁え?いやそんなこと⋮まぁうん。﹂
ラミア﹁わたしも。﹂
俺﹁え?﹂
ラミア﹁だって私以外にここにはラミアがいないんだよ。不安に決
まってるじゃん。﹂
俺︵あぁそうか。みんな一緒なんだ。独りだから強さとか高貴さと
か関係なく不安なんだ。︶
ラミア﹁ねぇ好きな種族って何?﹂
俺﹁え?⋮うーん、やっぱり人魚かな?同学年にはいないようだけ
ど。﹂
25
ラミア﹁人魚かぁ、確か中等部にはいるらしいよ。﹂
俺﹁おお、それは是非とも会いたいな。﹂
ラミア﹁わたしは人間が好きなの。﹂
俺﹁え?﹂
ラミア﹁本でしか見たことないんだけど、凄いかっこよかったり可
愛かったり色々で面白いし、何もない土地を数年で街にしたりとか
本当にすごいなぁって思うの!今年来るらしいし是非とも会いたい
なぁ。﹂
俺︵もしかして、俺を人間と気づいてないのか?︶
ラミア﹁本当人間ラブだぁ。会ったら絶対友達になって男の子なら
子作りまで行きたいなぁ。なんかラミアっぽいよね⋮ってどうした
の?﹂
俺﹁べ、別になんでもないよ!ほら始まった!﹂︵なるべく人間と
いうことを隠そう︶
入学式は式というより講義っぽう先生の話が続いただけだった。
それでわかったことを纏めると、この世界は学園を軸としており、
言葉が母国語に勝手に変換されるようになって聞こえるらしい。
ちなみに、話をした先生の中に人間は居なかった。
放送﹁次は学園長からの祝辞です。﹂
さて、種族はなんだろ。
26
ラミア﹁わぁ綺麗!人かな?﹂
俺﹁それはないと思うよ。﹂
たかが人間にこんな世界が創造出来るわけがない。
学長﹁皆さんご入学おめでとうございます。わたしは門星学園学園
長のワルキューレといいます。﹂
俺﹁ワ、ワルキュ⋮!﹂
ラミア﹁誰∼?﹂
俺﹁⋮ヴァルハラって知ってる?
戦いの英雄たちが死後集まる永遠に戦いの終わらない場所なんだけ
ど。戦士たちをそのヴァルハラに送る神様の名前がワルキューレっ
て言うんだよ。﹂
ラミア﹁じゃ、じゃあ戦いの神様⋮?﹂
どうしよ⋮人生終わったかも。
ワルキューレ﹁あの⋮なんか落ち込んでる様子ですが別に戦わせた
りはしませんし、ここはヴァルハラではありませんよ?﹂
俺﹁え?﹂
ワルキューレ﹁わたしはこの学園を通じて戦いの醜さや差別を無く
そうと考えています。だから、絶対に卒業させます。﹂
27
俺︵なんだまともな人じゃないか。︶
ワルキューレ﹁これでいいよね、じゃ挨拶終わり。頑張ってね。﹂
高等部βクラス
俺︵前言撤回︶
⋮⋮
式終了
2F教室
ラミア﹁同じクラスだね!﹂
俺﹁⋮そうだねぇ。﹂
ラミア﹁そういえば君の種族って⋮﹂
俺﹁あーそうだった、まだ他の生徒に挨拶してないや。クラスメー
トなのにしとかないとね!﹂
ラミア﹁え?あ、ちょっと!⋮まぁ後ででいいや﹂
危ない、もう少しで食われるとこだった。いろんな意味で。
??﹁お前も大変なんだな。﹂
声をかけられたのは二人の少年。
片方は制服を着崩し短髪にアクセサリといったヤンキー系と、正反
対のメガネをかけた真面目そうな人だった。
28
ヴァンプ﹁俺はヴァンパイア。長いからヴァンプでいいよ。でこい
つは成績優秀者。﹂
オオカミ﹁名前で呼べ。狼男だがこっちも長いからオオカミと呼ん
でくれたらいい。﹂
俺﹁あぁうん、よろしく。﹂
ヴァンプ﹁お前は人間か。﹂
俺﹁え!?﹂
ヴァンプ﹁匂いで分かった。でも襲わないから安心しろ。﹂
オオカミ﹁でもどうして隠している?この学園に籍をおいている限
りお前は安全のはずだが。﹂
俺﹁あーその。実は⋮﹂
俺はラミアに関するリスクを伝えた。
ヴァンプ﹁なるほど﹂
俺﹁頼む、黙っててくれ。﹂
オオカミ﹁黙るのはいいが、すぐ話すことになるぞ?﹂
俺﹁え?それってどういう⋮﹂
??﹁にゃー。席につくにゃ。﹂
29
突然猫ボイスが聞こえた。
先生だろう。言われたとおり全員席につく。
周りはやはりモンスターばかりだ。
ケンタウロスやハーピィ。鬼までいる。
先生は服を着ている子猫の姿をした妖怪だった。
先生﹁ご入学おめでとうございます、そして始めましてだにゃ。僕
はケットシーっていうにゃ。国語担当ですにゃ。﹂
俺︵やはりケット・シー。長靴を履いた猫か。しかし、国語⋮確か
に心理学は強そうだけど何語になるんだろう?︶
ケットシー﹁じゃ、順番に自己紹介にゃ。たまに名前を悪用する輩
がいるから種族と出身だけでいいにゃ。﹂
俺︵え。それだけでも致命的なんですが︶
最初に自己紹介をしたのはラミアだった。
ラミア﹁初めまして!サウスランドから来ましたラミアです!一年
間よろしくお願いします!あと人ラブです。﹂
俺︵最後いらないだろ。︶
サウスランドというのは国名ではなく世界の名前である。
一人一人違う世界から来てることもあり世界名は生徒手帳に書いて
ある。
30
ヴァンプ﹁ヴァンパイアだ。イーストホールから来た。よろしくな。
﹂
オオカミ﹁緊張するな。﹂
ヴァンプ﹁っるせ。﹂
オオカミ﹁同じくイーストホールから来た狼男だ。よろしく。﹂
俺︵なるほど同じ世界からだからこんなに仲が良いのか。︶
次は小さな女の子だった。
羽が生えてるし天使かな?
天使﹁初めましてー、天使でーす。エデンから来ました。よろしく
ね。好きなものはこの子でーす。﹂
彼と呼ばれた少年﹁っな!﹂
天使﹁ほらほら次君だよー?﹂
少年﹁くっ⋮閻国から来た悪魔だ。一年間世話になる。﹂
天使﹁かわいーなぁ。﹂
悪魔﹁な、やめろ!辱める気か!﹂
俺︵彼も大変だな。狼になれない羊と羊になるつもりのない狼か。︶
31
次は前の席のケンタウロスの少女だった。
ケンタウロス﹁テイタス出身、ケンタウロスだ。以後しばらくの間
世話になる。﹂
俺︵ケンタウロスっぽいな。厳格なイメージだったし、プライドも
高いだろうから気をつけないと。︶
次は鬼の生徒だ。後ろ姿だからわからないが女の子のようだ。
鬼﹁ヤマト連邦からきました。鬼⋮です。よろしくお願いします。﹂
俺︵鬼っぽくない。しかし、次のハーピーの子が挨拶を終えたら俺
の番だ。︶
ハーピー﹁ヘイコウセカイジューゴウ?から来ましたハーピーです。
よくわかんないけどよろしくです。﹂
俺︵平行世界か。じゃあ俺の世界に似てるのかも⋮︶
ケットシー﹁おーい、次は君にゃ。早くするにゃー。﹂
俺﹁あぁはいすいません。えっと地球連合から来ました。種族はえ
っとその⋮⋮です⋮﹂
⋮⋮
オオカミ﹁濁したな。﹂
俺﹁なっ!?﹂
32
ラミア﹁よく聞こえなかったよー?呼び名がないとキツイしもう一
︵しかたがない⋮︶
回。﹂
俺
俺﹁地球連合出身!クラス高等部β!出席番号15番!種族は人間
だ!﹂
33
3話﹁日本人は自己主張が苦手です﹂︵後書き︶
人魚:
マーメイドと呼ばれることもある。各地方に伝説があり代表は人魚
姫である。正体はジュゴンやリュウグウノツカイといわれている。
魅惑の歌声で人間を誘惑したところを海に沈めて殺すといったり人
魚の肉を食べることで不老不死になるといった話もある。
ワルキューレ:
北欧神話で継がれている半神。戦いで死んだ戦士たちを終わらない
戦場であるヴァルハラに送るとされている神。女神として表現され
ることが多い。
ヴァンパイア:
吸血鬼。世界中に伝説があり、今回話に出てくるのはヨーロッパの
ドラキュラである。
血を吸って生き、吸われたものも吸血鬼になるとされることが多い。
狼男:
獣人の一つ。いくつもの伝説があり、普段は普通の男性の姿だが満
月や丸いものを見ることで狼に変わるとされている。多くの場合は
人格を失うが今作では自我を保つことができる。
ケット・シー:
アイルランドの妖精の猫。
犬ほどの大きさの黒猫で描かれることが多く、二足歩行で言葉を話
すことができる。
﹁長靴を履いた猫﹂﹁猫の王様﹂などが著名作品。
34
天使:
いくつもの神話に載る神の使い。
種類が多いが作品の多くでは恋を結ぶキューピッドとして書かれる
ことが多い。
悪魔:
神に敵対するものとされ、仏道を害する悪神や人間を誘惑するもの、
煩悩の具体化など表現されることがある。
ケンタウロス:
ギリシャ神話に出てくる下半身は馬の姿で、上半身は人間の姿の種
族。
好色で酒好きとされることがあり、大人しいがプライドが高い。弓
が得意。
鬼:
日本の妖怪。1∼3本の角をもち、牙があり肌の色が赤や青など様
々である。
角をもち、虎の毛皮の服をきていることから、丑と寅の間である北
東︵鬼門︶から来るとされている。金属の棍棒を振り回し悪いもの
や強いものの象徴である。
ハーピー:
ギリシャ神話に出てくる女性の顔を持った鳥である。顔から胸まで
が人間で翼と下半身は鳥の姿である。食欲が旺盛だが、下劣な存在
として描かれることが多い。
35
4話 ﹁ケンタウロスはプライドが高いです﹂
門星学園4
ラミア﹁⋮え?⋮えええええ!?﹂
ラミアは赤面している。
本人の前で人間の魅力を散々語ってたのだから無理はないが。
まぁ人間に会えた興奮のせいもあるだろうが。
ケットシー﹁元気がいいですにゃ、いいことですにゃ。人間として
は初めての生徒ですから、頑張ってくださいにゃ。﹂
俺﹁⋮はぁ。﹂
ケットシー﹁んじゃ最後にゃ。﹂
しかし、誰も立たない。
僕は悩みすぎて突っ伏しているが、他の生徒は辺りを探しているだ
ろう。
ケットシー﹁一番右後ろを見るにゃ。﹂
先生の一言でそこに注目が固まる。
そこにいたのは⋮
??﹁⋮⋮♪﹂ウニュウニュ
36
言葉を発しない謎の半凝体だった。
ケットシー﹁彼女は見ての通りスライムにゃ。これでも首席入学者
なのにゃ。﹂
いや首席も何も入試受けてないのに。
ケットシー﹁ほら自分で挨拶しないのかにゃ?﹂
いや、しようにも制服みたいな袋で包んだ30センチ程の透明な餅
だ。
まずは話せないだろう。
そう思っていた。
俺﹁⋮⋮え?﹂
どんどん大きくなり形が歪になって行く。
そして最終には
スライム﹁⋮⋮カラキマシタ。スライムデス。ヨロシキピロシキ。﹂
明らかに質量の違う半透明の美人女生徒の姿が⋮⋮。
ちなみに、制服は体内に取り込まれている。つまりは裸だ。
俺﹁ス、スライムが洒落言った⋮﹂
ヴァンプ﹁⋮そこか﹂
こうして誰もスライムの出身地を気にすることなくホームルーム及
び今日の学校が終了した。
37
⋮⋮
⋮
そして、蛇系女子の獲物となった。
ラミア﹁うへへへへへへへ﹂
俺﹁た、頼む離れてくれ。﹂
さっきまで赤面していたのが嘘かのように額に汗をかき、息を荒く
して⋮
気持ち悪い
ラミア﹁逃がさないよぉ∼﹂
ちなみに、体は蛇部分で縛られて動けない。
やはりラミア、力が強い。
いや、人間が弱いのだろうが。
ケンタウロス﹁やめろ!俺くんが嫌がっているだろ!﹂
ラミア﹁出た、風紀委員。﹂
ケンタウロス﹁まだだ。とにかく相手は人間なんだから優しくしろ
!﹂
ラミア﹁ちぇ。﹂
なんとかケンタウロスさんのおかげにより解放された。
38
ケンタウロス﹁大丈夫か?﹂
俺﹁はぁはぁ⋮学級委員⋮﹂
ケンタウロス﹁うむ、まだだ。﹂
俺﹁⋮俺、周りから俺くんって呼ばれてるんすか。﹂
ケンタウロス﹁⋮そこか。﹂
自室
ちなみに、この俺くんはかなり速いペースで広まっていった。
⋮⋮⋮
⋮
門星学園
俺﹁うっわすげぇ。本当に個室かよ﹂
とりあえず自室を見たいと思ったので部屋に来てみたがここまでと
は⋮
パンフレットに書いてあったとおり個室なのだろうが、普通に広い
し良い。
東京の郊外あるような家賃10万円のアパートよりもよほど良いだ
ろう。
冷暖房もテレビもベッドもある。
正直ベッドよりも布団派なのだがそこはいいだろう。
39
あと風呂は別に大浴場があるらしい、日本妖怪とかが集まったりし
てるのだろうか?どちらにしろ日本人の俺は大歓喜だ。
ベッドに目をやるとカバンが置いてある。俺のものだ。
多分入学式前に預けた荷物だろう。
まあほとんど妹がしてくれたから、中身はあまり理解していない。
さて中は何があるだろうか。
ジャージと携帯充電器と文房具、衣服に歯ブラシにトランプ?
あいつ修学旅行かなんかと勘違いしてるんじゃないか?
と思ったら、缶詰に即席麺、コンパス、寝袋、発煙筒、充電式懐中
電灯、多機能携帯ツール⋮無人島かよ。
しかも、缶詰あるのに缶切りがないとは。本当に遊びに行くとでも
思ってるんじゃないだろうな。
そう思っていたが、しっかりと気にしてくれてるようだ。
キャリーバッグの奥にあったのは愛用のノートパソコンと3冊の本。
・世界神話妖怪事典
・明日から使える50の護身術
・家族
護身術は多分人型相手じゃないと使えないだろうが、せっかくの厚
意だし一応読んでおこう。
家族とはアルバムの名前だ。
幼い頃から親は外国に行っており、俺は妹と一緒にアパートの大家
をしている親戚の吉井さん元に預けられた。
40
⋮考えてみればまだ妹、小学生なんだよな。
しっかりし過ぎていてたまに忘れてしまう。
俺は妹を⋮家族を一人置いていくのか?
否、それは避けるべきだ。
しかし、入学してしまった。
一体どうすれば⋮
ラミア﹁人間さーん!!﹂
俺﹁うわっ!?ラ、ラミアさん!?﹂
ラミア﹁ごめんね、荷物の整理してた?﹂
俺﹁いや、今終わったとこだけど。﹂
ラミア﹁じゃあさ、学食行こう!﹂
俺﹁ま、待って!﹂
カフェテリア
なんとかハンドバッグ一つ掴んだが、そういや無料なんだったな。
⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
俺﹁わ、デカ。﹂
41
ラミア﹁そうだね、なんてったって全校生徒がいるんだもん。﹂
俺﹁そう考えれば妥当だな。﹂
ラミア﹁人間さんは何にするの?﹂
俺﹁そうだな⋮﹂
Aセット﹁マンドラゴラのバーサーカーソース炒め﹂
Bセット﹁人面魚の塩焼き﹂
Cセット﹁新入生限定!クトゥルル定食﹂
ラミア﹁私はCセットにするね!﹂
俺﹁そか、僕はいらないから帰るね。﹂
ラミア﹁俺くんが僕って言ったらダメだよ。﹂
俺﹁⋮じゃあ食が合わないから母国食でも食べるよ。﹂
カバン持ってきてよかった。
確かあれがあったはずだ。
⋮⋮
⋮
ラミア﹁人間さん。それ確か。﹂
まさか異世界に来てまでカップ麺を食うとはなぁ。
42
まぁ食べるとすればAセットなのかな。
マンドラゴラは万病を治すとか聞いたことがあるけど⋮バーサーカ
ーってなんだよ。
ラミア﹁⋮それインスタントだっけ?﹂
俺﹁おお、よく知ってるなぁ。﹂
ラミア﹁うん、でもさ⋮これだけ言っておくけど。カップ麺がある
世界なんて数える程だよ。﹂
俺﹁⋮⋮そうなの?﹂
そうか、だからさっきからチラチラ視線を感じるのか。
ラミア﹁ねー。一口ちょーだい!﹂
俺﹁いいけど⋮熱いぞ?﹂
ラミア﹁大丈夫ー。﹂
せっかくなので異文化交流と洒落込むことにした。
俺﹁お箸は使えるか?﹂
ラミア﹁大丈夫。人間さんの見て使い方憶えたよ。﹂
ラミアってこんなに学習能力高いんだ。知らなかったな。
ラミア﹁じゃいたらきまぁす。あちっ!﹂
43
舌長っ!⋮まぁ蛇だからか。
すするというよりと頬張るように食べる。
ラミア﹁んーっまい!うちの世界のとは全然違うね。﹂
俺﹁え?ラミアさんの世界にはあるの?﹂
ラミア﹁うん、人間さんは皮靴を煮て食べる話知ってる?﹂
俺﹁あぁうん、喜劇王の。﹂
ラミア﹁その要領で乾麺に水分入れるだけなんだけどね。﹂
俺﹁たぶん、それこれもだよ。﹂
ラミア﹁えっ!?﹂
俺﹁えっ!?﹂
乾麺のノンフライ技法は全世界共通か。
あと、折角なので都市伝説を調べてみる。
俺﹁それってどこで売ってた?﹂
ラミア﹁え?世界違うのに店名わかる?﹂
俺﹁予想、ロー○ン。﹂
44
ラミア﹁⋮正解。﹂
さすがロー○ン。異世界にも普通に店舗抱えている。
ラミア﹁私も一口あげるよー。﹂
⋮大丈夫だとは思う。
ただお腹の中にダゴン様とかがイアイアされたら⋮
ラミア﹁はい、口開けてー。あーん。﹂
俺﹁あ、あーん。﹂
なにやらクニクニしたものが突っ込まれる。
タコのようだが味は染みており、かなり出汁も日本人に合わせて作
られてる。
見た目ほど臭みもなくマズイというよりも⋮
俺﹁⋮美味いな。﹂
ラミア﹁でしょーっ!﹂
あんたが作ったわけではないだろ。
まぁここでは先入観を捨てるべきかもしれないな。
ヴァンプ﹁お二人さんもお盛んだな。一緒にいいか?﹂
お盛ん⋮?
俺﹁何のことだ。﹂
45
ラミア﹁いいよー。﹂
ヴァンプ﹁おお、母国飯か。﹂
俺﹁無視かよ⋮食わず嫌いなんだよ。﹂
ラミア﹁良くないよ。﹂
ヴァンプ﹁そうだな。﹂
そういうとヴァンプは赤い液体を机に置いた。
俺﹁⋮なぁそれって。﹂
ヴァンプ﹁あぁ血だ。あくまでもヴァンパイアだからな。﹂
ラミア﹁⋮なんの?﹂
ヴァンプ﹁⋮わからん、多分牛だろ。乳臭い。﹂
血にも味があるのか。
ってか成分的に乳も血液のようなもんだろ。
俺﹁まさか、それだけ!?﹂
ヴァンプ﹁あー。いや菓子で腹膨らますからいいんだ。﹂
ラミア﹁ビタミン不足になるよ。﹂
46
ヴァンプ﹁ビタミン剤やトマト取ってるし問題ないだろ。﹂
ラミア﹁⋮そか。﹂
まあ、ヴァンパイアだ。そう簡単に衰弱はしないだろう。
ヴァンプ﹁トイレ行く。⋮っとと﹂
ラミア﹁え?﹂
俺﹁⋮﹂
ヴァンプ﹁どうした?﹂
俺﹁⋮もしかして⋮立ちくらみ?﹂
ヴァンプ﹁そうだ。鉄分が足りないようでな。﹂
血を原液で飲んでいて鉄分不足ってなんだよこいつ。
俺﹁⋮そういや、オオカミさんとは仲良かったよな。﹂
ヴァンプ﹁あぁまあ、同郷の友って感じだからな。﹂
俺﹁今どこにいるんだ?﹂
ヴァンプ﹁山で狩りだとよ。自給自足じゃないと満足できないらし
い。﹂
ラミア﹁さすがオオカミだね。﹂
47
ケンタウロス﹁お前らも食事か。﹂
上から突然凛々しい声が聞こえてきた。
上を見上げると、山の間からケンタウロスさんの顔が覗いていた。
俺の視線に気がついたのか
ケンタウロス﹁なっ何を見ている!?﹂
胸を隠して叫ぶケンタウロスさん。
俺﹁い、いや。⋮大きいなと思って。﹂
ラミア﹁そうだね、3mは超えてるよね、ケンタウロスさん。﹂
ヴァンプ﹁少なくともD⋮いやEか?﹂
ケンタウロス﹁身長と胸、どっちのことを言ってるんだ!?﹂
ケンタウロスさんは文句を言いながら机に昼食を叩きつけた。
って⋮?
ケンタウロス﹁そもそも、胸なんかが大きくても見てる方は良くて
も困るのは自分だ。﹂もぐもぐ
ケンタウロス﹁背が高いと言っても私もケンタウロスである以前に
女性だ。気にしているのだ。﹂もぐもぐ
48
ケンタウロス﹁どちらにしろ、この学園の生徒ならばおかしなこと
は言わないで欲しい。﹂もぐもぐ
ラミア﹁⋮あのケンタウロスさん。﹂
俺﹁まってラミアさん。﹂
ラミア﹁え?﹂
俺﹁知ってるか否かは知らないけど、馬は平均一日に12∼15k
gほど食べるんだよ。ちなみに人間は1.3∼1.7kg、ヘビは
一週間に一回ネズミ食べるだけでも生きられる。﹂
ケンタウロス﹁っ!?﹂
ヴァンプ﹁へえーよく知ってるなぁ。﹂
ラミア﹁私、腹持ちいいんだ。﹂
俺﹁まぁ気にすることはないけどね、ケンタウロスさん。﹂
ケンタウロス﹁な、なんのことだ。﹂
ケンタウロスさんは食べた皿を何処かに隠したようだ。
気にすることないのに。
ケンタウロス﹁そ、それにしても﹃ケンタウロスさん﹄とは長った
らしい上によそよそしくないか?﹂
49
俺﹁まぁ言いにくいね。﹂
ラミア﹁じゃあさ、あだ名考えよ!﹂
うまいこと話をそらしたようだ。
もしラミアさんが居なければそんなことはなかっただろうが。
俺﹁俺はなぜか俺くんなのだが。﹂
ヴァンプ﹁だって俺くんだろ。﹂
ケンタウロス﹁君は俺くんで充分だ。﹂
ラミア﹁そういや俺くんって呼んでなかったなぁ。﹂
俺﹁⋮はい、俺くんでいいです。﹂
ラミア﹁私はそのままラミア。ヴァンプはヴァンプでいいとして。﹂
ヴァンプ﹁呼び捨てかよ。﹂
俺﹁ケンタウロスさんですね。﹂
ケンタウロス﹁良いのを頼む。﹂
ヴァンプ﹁健太くん。﹂
ケンタウロス﹁誰だよ!チキン焼いてそうな名前だ!﹂
ラミア﹁けったろ。﹂
50
ケンタウロス﹁せめて女性にしてくれ!﹂
俺﹁健太郎。﹂
ケンタウロス﹁混ぜるなぁっ!﹂
少し面白かった。
俺﹁んーじゃあ、ウロスさんとかタウロさんとか、タウロスさんと
か。﹂
ラミア﹁おお、センスあるね。﹂
ヴァンプ﹁本人、選べよ。﹂
ケンタウロス﹁ふむ、そうだな。タウロか⋮タウロちゃん⋮ウロス
ちゃん﹂
ラミア﹁ケンタウロスさん乙女ですね。﹂
ケンタウロス﹁なっ!?⋮タウロだ。気に入った。﹂
俺﹁そか、じゃあよろしくタウロちゃん。﹂
ケンタウロス﹁あ、あぁよろしく。﹂
あれ?からかったはずなのに。
ラミア﹁タウロさん、よろしくお願いします。﹂
51
ヴァンプ﹁おう、タウロさん。﹂.
ケンタウロス﹁⋮⋮﹂
俺﹁どうかしました?﹂
ケンタウロス﹁なぜ私に対してはそんな敬語を使うのだ?﹂
俺﹁そりゃケンタウロスだから。﹂
ケンタウロス﹁え?﹂
ラミア﹁だって軍人ぽい性格だし、タウロさん。﹂
ヴァンプ﹁お前もその方がいいんしゃないか?﹂
ケンタウロス﹁そ、それは偏見だ!私ももっと友愛を深めて行きた
いのだ。﹂
俺﹁⋮わかったよ、タウロさん。﹂
ケンタウロス﹁こらっ!さんは抜け!﹂
俺﹁いやいや、俺、女子には全員さん付けなので。﹂
ラミア﹁本当だ!なんで呼び捨てじゃないの?﹂
俺﹁いや呼び名が種族名で呼び捨てとか無いだろ。﹂
52
ラミア﹁俺くんのことも俺ってよぶから!﹂
俺﹁ややこしいよ!﹂
ヴァンプ﹁べつにさん付くらいは許してやれよ。﹂
ケンタウロス﹁むう⋮まあ良いだろう。﹂
そうだ、これだけいるんだ。
一人くらいヒントくれるだろう。
俺﹁あのさ、突然だけど学園長室ってどこ?﹂
ヴァンプ﹁なんだ、いきなり悪事でも働いたのか。﹂
俺﹁見た目で判断するのもなんだが、お前には言われたくない。﹂
ケンタウロス﹁学園長室ならこの棟の最上階だ。しかし、エレベー
ターのようなものはない。ほとんどの場合、魔法や魔法陣を使って
移動するのだろう。﹂
俺﹁つまり?﹂
ラミア﹁階段を上るしかないよね。﹂
俺﹁他に方法は?﹂
ヴァンプ﹁壁を登る。﹂
俺﹁俺は人間だ、しかも普通の。﹂
53
ヴァンプ﹁わかってる。タウロに手伝ってもらうのはどうだ?﹂
ケンタウロス﹁私か?﹂
俺﹁乗せてってもらうということ?﹂
ケンタウロス﹁なっ⋮!?だ、ダメだダメだ!私は人どころか荷物
さえ乗せたことがない!それに鞍がないと腰を痛めるぞ!﹂
なぜか顔を真っ赤にしてパニックになっている。
俺﹁そっか⋮まぁいいや。食べたら行ってくるよ。﹂
ラミア﹁あのさ、目的は何なの?﹂
俺﹁あー、ワガママを聞いてもらうためだな。﹂
54
4話 ﹁ケンタウロスはプライドが高いです﹂︵後書き︶
スライム:
ファンタジー作品における主にゼリー状、粘液状の怪物。元々はラ
ヴクラフトの﹁狂気の山脈にて﹂から他の作品にも出現するように
なる。
55
10階階段前
5話 ﹁鬼もたまには泣きます﹂
門星学園
俺﹁ハァハァ⋮体が鈍ったかな?﹂
なんとか頑張ったが10階で疲れてしまった。
どうやら一段一段が人間の平均よりも高くなっているらしい。
俺﹁この階で休むところは⋮﹂
生徒手帳を見る。
立体映像の中で10階の間取りが出てくる。
俺﹁図書館か⋮読めるかな。﹂
ちなみに、この生徒手帳は魔法の板のようなもので立体映像が浮か
び上がる型である。
きちんと手帳の役割にも使え、校則や学校の間取りも見ることが出
来る。
ちなみに、内線携帯にも使え、生徒同士で互いに同意をすれば通話
が可能、個人情報も少々知ることができる。
ついでに、俺はラミアとヴァンプとタウロとオオカミとしか登録を
していない。
ちなみに、これを使えば、城下町での買い物もサービスしてくれる
らしい。
56
図書館の入り口は各数カ所にあるが、全て同じ図書館に繋がってい
る。
わかりにくい説明かもしれないが、つまり図書館の入り口が1階に
も10階にも南校舎にもあるが、どの入り口を通っても同じ図書館
に着くということだ。
しかし、この入り口が1番高い階らしいので最上階へのショートカ
図書館
ットはできないようだ。
⋮⋮
⋮
門星学園
俺﹁うわっ⋮デカッ⋮﹂
中は空間を歪めなければいけないくらい大きかった。
この校舎とほぼ大きさは変わらないだろう。
外から見てもこんな大きさのものは見つからなかったから実際に空
間を歪めているとか次元の狭間とかにあるんだろうか。
この世界だからあり得なくもない。
とりあえず壁と同一化をしている本棚を見てみる。
やはり、あの文字で書かれている
たしか⋮ル⋮ルヨメ?だっけ
まぁいいや
57
本をじっくり見ていると何やら見たことのある本がある。
俺﹁これって⋮﹃エルマーの冒険﹄か?﹂
まさか元の世界の児童文学まであるとは、侮れないな。
と思ったら、見たことのある本が乱立している。
川端康成、村上春樹、野村美月、東野圭吾、井上堅二、湊かなえ、
西尾維新、米澤穂信、宮部みゆき
ラノベと文学が入り乱れているというのに、普通に見えてしまうな。
並べ方は適当のようだ。
もちろん元の世界の本以外もある。
バイブルとかは危なそうだ。
魔法書もあるが使えないだろう。
なかなか面白そうな本が見つからない中ふと上を見ると、小さな文
庫本があった。
﹃城下町パンフレット﹄
俺﹁これだな。﹂
文庫本なのにパンフレットというのはよくわからないが使えるだろ
う。
しかし高い位置にあり梯子を使っても届かない。
58
すると、その本がとなりから出てきた手によって抜かれるのが見え
た。
??﹁これ⋮だよね?﹂ポポポ⋮
隣を見ると背の高い白い服を着た女性がいた。美人である。
なんかどこからかポポポと聞こえるけど。
人のようだが、それにしては肌が白く背が高い。
俺﹁もしかして、今年初めての種族ですよね。﹂
??﹁うんそうだよ、⋮君は人間だね。いいショタだよ。﹂ポポポ⋮
間違いない。
ハッシャクだ。
ハッシャク﹁あのさ⋮もしよかったら、これ譲ってくれないかな?﹂
ポポポ⋮
俺﹁あ、うん。いいですよ。﹂
ハッシャク﹁悪いね。私のクラスは大学部のαクラスだから。じゃ
あね。﹂ポポポ⋮
こうして女子大生八尺様と顔を知り合ったけども。
ここまで、安全なものなんだな。
俺﹁いつかテケテケやペタペタさんとかも来るのかな⋮﹂
しばらくして、今度はガイドブックがあった。
59
この辺りのことのようだ。
さっきの文庫本よりは内容薄いかもしれないが仕方ないだろう。
しかし、またしても届かない。
最終的に本棚にへばりつく形になるがこれでも無理だ。
最後に梯子に戻ろうとしたとき
がたっ
俺﹁あ。﹂
梯子に足をかけてバランスを崩してしまって後ろから落ちる。
やばい、死にはしなくても頭打って後遺症とか残られたら困る。
そう頭の中を張り巡らしていた、その時だった。
ガシッと力強く、しかし優しく受け止められた⋮というより抱かれ
た。
なにやら身長差的に顔面に柔らかさが来ている。
命の恩人の感謝を述べようと立ち上がると、そこにいたのは⋮
俺﹁あ、たしか同じクラスの⋮﹂
鬼﹁⋮あ。﹂
鬼だった。
60
背は想像よりも高くはない。
せいぜい2mちょいだろう。
充分高く聞こえるかもしれないが、ラミアの場合4mあると考えれ
ば妥当だろう。
俺﹁あ、ありがとう。﹂
鬼﹁ううん、いいよ。私ここの図書委員してるんだけど、探し物?﹂
やはり鬼らしくないな。
俺﹁探し物っていうよりも、そこの雑誌欲しいんだけど。﹂
鬼﹁ん?⋮ちょっと待ってて。﹂
鬼というより角の生えた女性は、俺と同じように梯子を登って本を
取ってくれた。
鬼﹁はい。﹂
俺﹁ありがとう。えっと⋮なんて呼べばいいかな?﹂
鬼﹁え?﹂
俺﹁鬼って呼びにくいんだよね。僕のところでは⋮その⋮﹂
さすがに本人の前で悪口に使われていたとは言えない。
鬼﹁なんでもいいんだけどな。﹂
61
俺﹁気にしないものなの?﹂
鬼﹁うん﹂
俺﹁じゃ、じゃあ鬼さんで﹂
そういうと鬼さんは微笑んだ。
鬼﹁それにしてもよかった。﹂
俺﹁え?﹂
鬼﹁同じクラスに来た人間が日本人で。﹂
まあ、それもそうか。
住む世界が違っても、日本なのだろう。
鬼﹁そういえば知ってる?ここお風呂ある以外に敷布団や畳のサー
ビスもあるんだって。﹂
俺﹁ほんと!よかった、布団じゃないと眠れないんだよ。﹂
鬼﹁やっぱ日本だよね。﹂
俺﹁日本だよなぁ﹂
日本か⋮
こう日本妖怪がいると、本当に日本って不思議だと思う。
62
地べたに寝るし、草の床だし。
でもそれが好きになってしまう。
本当不思議国家だ。
俺﹁じゃあ、借りてくるよ。﹂
鬼﹁うん、じゃ、またね。﹂
鬼っぽい子と別れて受付に行く。
すると、そこにはさっきの八尺様が。
俺﹁どうしたんですか﹂
ハッシャク﹁あ、うん、そのね。受付に人がいないの。﹂ポポポ⋮
俺﹁当たり前です。学園全て探しても人は俺しかいませんよ。﹂
ハッシャク﹁そうじゃなくて!受付に誰もいないの!﹂ポポポ⋮
受付を覗くと確かに誰もいない。
⋮一つ残された宝箱を除けば。
俺﹁多分いますよ。﹂
ハッシャク﹁え?﹂ポポポ⋮
63
俺は身を乗り出して箱にノックをしてみる。
俺﹁すいませーん。借りたいんですけど。﹂
?﹂
俺は図書館だし司書さんはブックマスターかとかと思っていたが違
ったようだ。
ミミック﹁⋮え
ハッシャク﹁⋮箱が喋ったよ、俺くん。﹂ポポポ⋮
何故かさっき知ったばかりの人にも俺くんと呼ばれる。
俺﹁気にしないでください。﹂
ハッシャク﹁⋮そうだね、この学園だし。気にしたら負けだよね。﹂
ポポポ⋮
本を元箱に渡す。
ミミック﹁⋮はい、オッケーです。貸し出し期間は二週間でーす。﹂
ハッシャク﹁はーい。じゃまたね。﹂ポポポ⋮
俺﹁じゃあの、これお願いします。﹂
ミミック﹁はーい。それにしても、よく私が受付だとわかったね。
君新入生でしょ?﹂
中性ボイスで会話が行われる。
64
どっから声だしてるんだろう。
俺﹁勘ですよ。﹂
ミミック﹁ま、いいや。じゃ頑張ってね。﹂
俺﹁はい、また寝ないでくださいよ。﹂
ミミック﹁わかってるわかってる。﹂
わかってない人の返事だな。
65
5話 ﹁鬼もたまには泣きます﹂︵後書き︶
ミミック:
主にゲームに出てくる怪物。
宝箱そっくりの姿で口に牙が生えている。
なお、神話や伝説は見つかっていない。
66
27階階段前
6話 ﹁グリフォンは神の乗り物です﹂
門星学園
27階にあるものは、第三音楽室に中等部教室。特に寄るところは
ない。
なぜこんな中途半端なところに止まっているかと言うと⋮ただのこ
むら返りである。
コカトリスの攻撃を受けてもピンピンしていたのに、たかが足を釣
っただけで動けなくなるのもなんだと思うが⋮
ただ一歩も動けない。
理由は簡単なのに、治すのが難しいのがこの状態異常だろう。
しばらく壁にもたれていると、横から渋い声が聞こえてきた。
??﹁おい、どうした?﹂
見ると、巨大な鷲の頭があった。
しかし、体はライオンのような姿をしてある。
なるほど、グリフォンは授業用かと思っていたが生徒だったか。
俺﹁足釣っちゃって。﹂
67
グリフォン﹁そうか、確か30階に保健室があるはずだが。動けな
いようだな。﹂
俺﹁あの⋮肩か背中貸してくれませんか?﹂
グリフォン﹁そうしたいのは山々なんだが申し訳ない。我が種属の
決まりで神以外は乗せられないのだ。﹂
正直知っていた。
ただ決まりだったのは知らなかった。
俺﹁ううん、いいよ。保健室の場所教えてくれてありがとう。﹂
グリフォン﹁構わない、では頑張れ﹂
そう言ってノソノソとどっかへ行ってしまった。
さて、また動けない。
どうしよう。
通りがかりの人に助けを求めようとも廊下に誰も見えない。
かなりピンチだと思っていると、
コツコツと窓から音が聞こえてきた。
なんとか這いながら窓の鍵を開けると、鳥が入ってきた。
ハーピィ﹁やあ確か⋮僕くん?﹂
なんだ、その夏休みのゲームのキャラみたいな名前は。
68
俺﹁多分俺くんだ。﹂
ハーピィ﹁そうそう、でどうしたの?同じクラス兼地球系列なんだ
し話してみ。﹂
なんか頼りなさそうだが、頼ってみるか、
俺﹁足釣った。﹂
ハーピィ﹁なにそれ!すごい!﹂
なにがだよ。
俺﹁とにかく30階まで行けたらいいんだが。﹂
ハーピィ﹁任せて僕くん!あたしが飛んで連れてってあげる!﹂
そんな小さな体で人間一人持ち上げられるわけがない。
それから、俺くんを忘れるな。
やはり鳥頭か。
ハーピィ﹁足に捕まった?﹂
俺﹁ああ、ってかわかるだろ。﹂
ハーピィ﹁じゃあ行くよ!﹂
バサバサ
69
バサバサ
バサバサバサバサ
同じところで羽ばたきを続けるハーピィ。
ハーピィ﹁ハァハァ⋮ねえ、体重何キロ?あたしは15kg﹂
俺﹁女子なんだから体重言うの躊躇うだろ。軽いな。56kgだ。﹂
ハーピィ﹁ごじゅっっ⋮!?﹂
メチィッ!
⋮なんかすごい音なったぞ?
ハーピィ﹁⋮⋮﹂
俺﹁どうした?なんで倒れこむんだ?﹂
ハーピィ﹁足⋮釣った。﹂
被害者が出てしまった。
なんてことだ。
俺が加害者になってしまったではないか。
ハーピィ﹁50kgって重すぎぃ。デブ。﹂
俺﹁何言ってんだよ。これでも男子高校生では軽い方だ。﹂
70
ハーピィ﹁ヴァンプは50kg切ってたよ∼﹂
俺﹁あいつはもっと太るべきだ。﹂
ハーピィ﹁もうやだー。動けないー!﹂
俺﹁飛べないのか?﹂
ハーピィ﹁足が痛くてそれどころじゃないーっ!﹂
隣で鳥の金切り声を聞くと、さすがに耳が痛い。
すると、今度は大きな狼が話しかけてきた。
??﹁なんだ?どうしたんだ?﹂
ハーピィ﹁ひいぃぃぃっ!食べないでェ!﹂
確かに大きさ的には俺もハーピィもすぐに食べてしまいそうな大き
さである。
しかも、三つ頭だ。
三頭猟戌⋮
ケルベロスか。
俺﹁すいません。こいつ鳥頭なんで。足釣っただけなんで。﹂
ハーピィ﹁なんであんたは冷静なの!?﹂
71
ケルベロス﹁いや、それはいいんだ。それになにか手伝えることは
ないか?﹂
俺﹁じゃあ、あの保健室連れてってくれませんか?﹂
ケルベロス﹁成る程、少々手荒になるがいいか?﹂
ハーピィ﹁ふぇ?﹂
ケルベロス﹁おい、お前ら起きろ!﹂﹃え?なんすか?﹄﹁手伝え。
﹂﹃⋮わかりましたよ﹄
それぞれ三つの頭が喋る。
すると、
ケルベロス﹁少し我慢してくれ。﹂
俺﹁え?﹂
ケルベロス﹃すいません、一瞬ですから﹄
ハーピィ﹁なに?﹂
二つの頭は同時に2人を咥えた。
傷がいかないように甘噛みである。
少し気持ちいい。
しかし
72
ハーピィ﹁うわあああああ!うわあああ!﹂
鳥は泣いていた。
そして、その刹那、凄い勢いで階段を駆け上がる。
正直、かなり気持ち悪い。
そしてそのまま保健室に到着した。
ケルベロス﹁先生、患者だ。﹂
??﹁はーい、なになに?﹂
目の前にいたのは、保険医定番のサキュバス⋮ではなく⋮
俺﹁コロ⋮ボックル⋮﹂
それだけを言い残し
脳のミックスジュース状態の俺は、力尽きたかのように倒れた。
⋮⋮⋮
⋮
コロボックル﹁びっくりしたよー。だって突然唾液まみれで飛び込
んでくるんだもん。﹂
飛び込んできたのはケルベロスだが、もう何も言うまい
コロボックル﹁はい、これシップ。﹂
73
俺﹁⋮すいません。﹂
俺は学校医さんが布団のように持ってきたシップを太腿に貼った。
俺﹁⋮ありがとうございます。﹂
コロボックル﹁いいって、それにしても日本人かぁ。日本懐かしい
なぁ。﹂
そうか、コロボックルは北海道の妖精だっけ?
ちなみにハーピィはベッドでふかふかしている。
明日には羽毛布団ならぬ、羽毛まみれ布団だろう。
迷惑極まりない。
俺﹁じゃもう行きます。﹂
コロボックル﹁そう。魔法ないと大変だね。僕も手伝いたいけど魔
法が小さいから。﹂
俺﹁いえ、それでは。﹂
ちなみに後日知ったことだが、ハーピィは足の筋肉どころか関節ご
と外れていたらしい。
⋮⋮
⋮
さて、ついに40階。
最上階だ。
74
最上階までは螺旋階段になっており、広さもあまりない。
あの学園長のことだからもっと広いと思っていた。
階段を登るとそこにはちょっとしたスペースと扉が一つあるだけ。
俺が最上階に足を踏み入れると、となりから中性的な⋮それでもっ
て無表情の人が出てきた。
??﹁⋮私は門星学園長執務を担当しております、ホムンクルスで
す。﹂
ホムンクルスか。人造人間もいるとはな。
俺﹁学園長に会いたいのですが。﹂
ホムンクルス﹁申し訳ありませんが、予約がない方の面談はお断り
させていただいております。どうかお引き取りを願います。﹂
俺﹁そ、そんなぁっ!﹂
こ、ここまで来たのに⋮
もう帰る気力もないよ⋮
俺﹁⋮休憩してもいいかな﹂
ホムンクルス﹁どうぞ﹂
階段に座り込む。
75
足がズキズキして痺れているようだ。
こめかみを揉もうとすると汗が溢れてきた。
緊張のしすぎで汗腺も閉まっていたのだろうか⋮
??﹁あれ?君は⋮新入生の人間かな?﹂
俺﹁⋮学園長ですか?﹂
やばい、幻が見えるまで来てしまったか。
学園長﹁えっ!?凄い熱!と、とりあえず中入って!﹂
こうして意識が朦朧としている間に、学園長室への入室が許可︵と
いうより推奨?︶された。
76
6話 ﹁グリフォンは神の乗り物です﹂︵後書き︶
グリフォン:
鷲の翼と上半身、ライオンの胴体を持つ伝説の生物。
ギリシャ神話よりも前からおり、伝説としてはかなり古い部類に当
たる。神の乗り物や黄金を守るなどと称される。
ケルベロス:
ギリシャ神話に出てくる冥界の番犬。
三つの頭をもつ犬の姿をしている。ちなみに、主人公たちが浴びた
唾液からは猛毒植物であるトリカブトが生えたという伝説もある。
コロボックル:
アイヌの伝承でいわれる小人。
いろんな話があるが、昔、アイヌとコロボックルが商談をしていた
という話もある。
ホムンクルス:
ヨーロッパの錬金術師が生んだ人造人間。
一説によるとフラスコの中でしか生きられない、生まれながらあら
ゆる知識を得ているなどという話がある。
77
学園長室
7話 ﹁ヴァンパイアは太陽が苦手です﹂
門星学園
学園長﹁えーッ!階段で来たの!?そりゃ熱も上がるよ。﹂
俺﹁っていうか、魔法陣中土地なんてあったんですか⋮魔法陣って
僕にでも使えたんですか⋮﹂
、学園長﹁⋮まぁ注意してなかった私のせいでもあるけどね⋮﹂
俺はソファに寝かされて、学園長は執務椅子に腰をかけて話をする。
この文だけではかなり態度が悪く見えるが、階段のせいで熱が上が
ったようだ。
学園長﹁私はヒール使えないからなぁ。コロボックルならいい薬が
あるかもしれないな。﹂
再びお世話になるようだ。
学園長﹁それで?﹂
俺﹁え?﹂
学園長﹁用がなくちゃ来ないでしょ。階段で来たのなら尚更。﹂
俺﹁⋮はい﹂
78
さて、ついにいう時がきたか。
この校風を考えると、かなり無理があるかもしれないが⋮まあ頼む
だけ頼もう。
俺﹁俺⋮一人妹がいるんですよ。﹂
学園長﹁うん、そうだったね。﹂
俺﹁両親は海外に行ってて、ここに来るまでは二人三脚で頑張って
暮らしていたんです。﹂
学園長﹁⋮。クトゥルルイアイア﹂
俺﹁ま、待ってください!意味もなく邪神呼ぶのはやめてください
っ!﹂
学園長﹁冗談だよ。それで?﹂
俺﹁転入はさせなくてもいいです。だから、せめて俺の部屋で暮ら
せないですか?﹂
学園長﹁つまり、妹思いのシスコン兄さんが妹と同じ部屋で同じ時
を過ごしたいと⋮﹂
うっ⋮何も言えない⋮
学園長﹁でもまぁ、家族無しで一週間過ごすのも可哀想だし⋮ま、
特例として許可しましょ。﹂
79
⋮ん?
いや、今許可の降りた音が聞こえたような⋮
俺﹁⋮?、???﹂
学園長﹁どうしたの?許可したんだよ?﹂
俺﹁えっと⋮こ、こんなあっさりでいいんですか?﹂
学園長﹁いいよー。校則にも法ってるからね。っていうか転入しち
ゃいなよ。﹂
俺﹁あ⋮あ⋮﹂
学園長﹁?﹂
俺﹁ありゃ⋮ありあ⋮ありがとうございますぅ⋮﹂
涙ながらに感謝する俺。
足痛いから引きずりながら手を握る。
学園長﹁なんか重い感謝だなぁ﹂
正直苦しいだけなのだが、そう思われたのなら好都合である。
学園長﹁じゃもう日も暮れたし戻ろうか。﹂
俺﹁え。﹂
80
蘇る恐怖。
学園長﹁ははは大丈夫だって、送ったげるから。場所は?﹂
俺﹁えっと、2105です。﹂
学園長﹁ふうん、若い番号だね。﹂
4ケタで若い番号ってことはもっといるのかここの生徒。
学園長﹁⋮⋮。﹂
俺﹁⋮?どうしましたか。﹂
学園長﹁クトゥルフイアイア⋮﹂
すぐに学園長の手を離す。
俺﹁な、何呼んで⋮!ダゴン様は勘弁﹂
学園長﹁⋮あははは!﹂
なんか笑われた。
戦神が邪神を呼んだのだからビビるだろ。
変な顔をしていると学園長は答えた。
学園長﹁いやぁごめんごめん、本当に君は他の種族について詳しい
んだね。﹂
81
俺﹁詳しいっていっても、容姿とか伝説、内容だけですが⋮﹂
学園長﹁充分だよー。ま、それが聞きたかっただけ。じゃ飛ばすよ
?あとでコロポックルにも行かせるから。﹂
そういって僕の肩を触ると後ろに突き飛ばされた。
﹁うわぁっ!﹂
しかし、尻餅を着いたのは学園長室ではなく自室のベッドの上だっ
た。
どうやら本当にワープしたらしい。
しかし、考えてみる。
昔見た映画のことだ。
あのハリーがワープを経験したとき。
その時に感じたのは⋮
﹁うっ⋮お、おおぅ⋮﹂
こみ上げる何かが俺を襲う。
胸の奥から湧いてくるようなこの感じ。
間違いない。
嘔吐感だ。
とりあえず、トイレに行きたいが少し遠い。
82
多分立ったらすぐに吐くだろう。
ならどうすれば⋮
ふと横を見るとカバンがある。
そうだ。ビニール袋とかゴミ袋があるかもしれない。
漁ってみる。
⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
見つかった、カップ麺を入れていた袋である。
とりあえず、ここに出すことにしよう。
袋を顔に当てて⋮
ラミア﹁やっほーい、俺くーん!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
誰のせいでもない。
それが分かっていても、嘔吐を見られて気持ちがいいやつなんて一
部の変態を除いて、いないだろう。
コロポックル﹁ふーん、つまり顔に生気が無いのは精神の方なわけ
か。﹂
ラミア﹁⋮ごめんね。で、でもゲロ吐く俺くんも可愛かったよ!﹂
83
コロポックル﹁⋮それフォローになってないよ。﹂
もういや。
授業受ける前に壊れちゃう。
コロポックル﹁ところで、妹さん来るんでしょ?﹂
少し自分を取り戻した。
俺﹁あ、はい。明日には来てもらうつもりです。﹂
コロポックル﹁そっか。じゃ今度挨拶させてもらおうかな?﹂
ラミア﹁ま、待ってよ!話聞いてないよ?﹂
忘れてた。
ラミア﹁俺くんの妹さんが来るの?もしかしてそのために学園長室
に?﹂
俺﹁ん、まーそうだ。手出すなよ?﹂
ラミア﹁えぇっ!?﹂
そこで驚くな。
コロポックル﹁ラミアさんは本当に人間が好きなんだねー。噂にな
ってるよ?﹂
84
ラミア﹁もちろんです!﹂
コロポックル﹁わたしはあまり好きじゃないかな⋮﹂
ラミア﹁えっ?﹂
コロポックル﹁あ、ごめんごめん!本人もいるのに失礼なこと言っ
ちゃったね。﹂
俺﹁いえ、理由は察しがつきますから。﹂
あの民話だろうな。
コロポックルの私物を盗んだり、タブーとされているのに姿を見た
りした話。
コロポックル﹁はい、あとは薬飲めば治るから。﹂
俺﹁はい、ありがとうございます。﹂
コロポックルはそう言うと小さな手を振ってゆっくりと消えていっ
た。
部屋に戻ったのだろう。
ラミア﹁⋮さて!晩ご飯行こっか!﹂
俺﹁そうだな。﹂
とりあえず体は回復したし、足の痛みも何処かに行った。
することも無くなったし、今夜もカップ麺をついばむことになる
85
俺﹁じゃ取ってくる。﹂
ラミア﹁えっ?﹂
お?何かおかしいことでも言っただろうか。
ラミア﹁今夜は新入生パーティだからビュッフェだよ?﹂
⋮びゅっふぇ?
つまり、バイキングのことか!?
ラミア﹁俺くん、腹括って。﹂
俺の気分はいつもより本気の口調のラミアにさらに萎えるのだった。
⋮⋮⋮
⋮
イベントホール
ラミア﹁うわあ∼∼!すごいすごい!﹂
確かに、目をつぶれば食べ物の匂いやゲストの談笑などでパーティ
の雰囲気を醸し出しているが⋮
視覚では明らかにゲストや食べ物がおかしい。なんだこのゲル、食
べ物なのか?ゲストなのか?
ラミア﹁それにしても似合うね。そのタキシード。﹂
86
俺﹁あぁ、ありがとう。そちらこそ綺麗なナイトドレスだな。﹂
これらはパーティ用に各部屋に備え付けてあったものである。
そもそもタキシードとか持ってないし。
ラミア﹁えっ!⋮あっその⋮そ、そうだ!﹂
ラミアは突然顔赤くして走り去った。
まぁ走り去ったというよりも、ハイスピードで這っていったという
形だが。
ヴァンプ﹁お?お前も来てたのか。﹂
俺﹁まあ、半端無理矢理だけど。﹂
ヴァンプもグラス片手にタキシードか⋮
俺﹁様になるな。﹂
ヴァンプ﹁そ、そうか?﹂
俺﹁俺の中のヴァンパイアのイメージのまんまだ。﹂
ヴァンプ﹁なるほど、そうかもな﹂
照れて頭を掻くヴァンプ。
俺も紋付袴でも持ってくるか⋮。
ラミア﹁俺くん!これ食べよ!﹂
87
俺﹁うわっ!な、なんだ戻ってたんだ。﹂
持ってきた皿の中にはゲルのかかったパスタ。
ゲルの色が緑なので、あるクラスメイトを思い浮かべた。
俺﹁これ⋮なに?﹂
ラミア﹁パスタのテヌート!﹂
⋮テヌートでは⋮ないと思う。
ヴァンプ﹁⋮なぁ⋮代わりに食おうか?﹂
俺﹁⋮悪いな。﹂
タウロ﹁なんだここに集まっていたのか。﹂
顔を上げると、やはり皿に大量のサラダを盛ったタウロさんがいた。
それよりも目を引くのはその格好なわけで⋮
ラミア﹁⋮エロい。﹂
タウロ﹁え?﹂
ラミア﹁⋮デカい。﹂
代わりにラミアが伝えてくれた。
88
8話﹁妹は至高です﹂
ラミアの言葉の意味に気づき、タウロさんはハッとした。
タウロ﹁なっ⋮ち、違っ!こ、これは部屋にあったんだ。﹂
ラミア﹁乳揺らすな。﹂
タウロ﹁な、なんか怒ってないか?﹂
仕方なく仲裁に入ってみる。
俺﹁ラミアさんも立派だよ。﹂
ラミア﹁⋮それって慰め?﹂
俺﹁そんなことないよー。﹂
実際、大きい方だと思う。
ただ、比較対象が悪いのだ。
リンゴとメロンくらいの差があるのだ。仕方が無いだろう。
ヴァンプ﹁こんなところで変な話をするなよ︵ムシャムシャ︶﹂
オオカミ﹁お前は食いながら話すな。﹂
話に入ってきたのは、銀縁の眼鏡をかけたくせのある栗色の髪の少
89
年だった。
俺﹁オオカミくんだっけ?久しぶり。﹂
オオカミ﹁あぁ、こいつが世話になってるみたいだな。﹂
顎でヴァンプの方向を指す。
俺﹁いや、俺の方が世話になってるよ。今も代食してもらってるし。
﹂
しかし、困った。
何も食えない。
オオカミ﹁⋮なあ。確かあっちに野ウサギのシチューがあったぞ。﹂
俺﹁察してくれてありがとう。でも、今夜も自分でなんとかするよ。
﹂
妹が来るまでになんとかしないと⋮
⋮妹?
俺﹁あっ。﹂
タウロ﹁どうしたんだ?﹂
俺﹁あなたこそ蛇を身体に巻きつけて、どうしたんですか。星座に
でもなるつもりですか。﹂
90
ヴァンプ﹁なるほど、上手いな。﹂
タウロ﹁いやこれはだな。巻きつけてるというより、締められてる
んだ⋮じゃなくて、俺くんはどうした?﹂
俺﹁あ、いや。なんでもない。﹂
妹に伝えるの忘れてた。
勝手に決めちゃったけど、良かったかな⋮?
妹の友人の家
******
日本
妹﹁ごめんね、エリちゃん。ご飯も食べさせてもらって。﹂
エリ﹁気にすることないよ。ね!お母さん。﹂
エリ母﹁そうよ、一層の事今夜泊まったらどう?﹂
妹﹁⋮そ、そんなあの⋮いいんですか?﹂
エリ母﹁気にすることないわよ。お兄さんが遠くに行って気が晴れ
ないだろうし。﹂
妹﹁あ、ありがとうございます。じゃ、あの大家さんに連絡入れま
す。﹂
私は携帯を取り出し、大家さんに電話を入れようとした。
その刹那、私の携帯からベルの音がなり出した。
91
妹﹁あれ?⋮お兄ちゃんからだ。すいません、少し出させていただ
きます。﹂
一応断りを入れて、液晶に浮かび上がる電話マークに触れる。
妹﹁もしもし?﹂
自室
********
門星学園
俺﹁あ、繋がった。聞こえる?﹂
妹﹃うん⋮電波、通るんだね。﹄
俺﹁あぁ、俺もびっくりした。今日は何かあった?﹂
妹﹃ううん、大きな変化はお兄ちゃんがいなくなったことくらい。
⋮あ、そだ今晩は友達の家に泊まることになったよ。﹄
俺﹁そっか⋮。﹂
暫しの沈黙
切り出したのは、15秒後だった。
俺﹁なあ、聞いてくれ。﹂
妹﹃?﹄
92
俺﹁今日、学園長に頼んでお前も俺と暮らせるようになった。﹂
妹﹃えっ!?ちょ、ちょっと待って!嬉しいけど、少し急すぎるよ
!﹄
⋮やっぱりか。
俺の都合のいいようにして、相手のことを考えなかったというのも
あるが。決めてしまったことだ⋮。
今更、はい辞めますって言っても妹は﹃嬉しい﹄と言ってくれた。
一緒に暮らすことには賛成らしい。
俺﹁⋮ごめん。﹂
妹﹃そ、そんな!謝らなくてもいいよ。私のこと思って決めてくれ
たことなのに。﹄
どうしようか⋮。
そういえば、確かに他の人たちにも何も言ってないや。
俺﹁⋮よし。明日もう一度元の世界に帰るよ。﹂
妹﹃えっ!?﹄
俺﹁えっと、準備手伝うのもあるけど⋮他の人たちへ挨拶まだして
ないから。﹂
妹﹃あ⋮そっか。そだね、挨拶しておかないとね。﹄
俺﹁うん、じゃあ続きは明日直接伝えるよ。﹂
93
妹﹃うん、わかった。待ってるね。﹂
こうして眈々としたまま会話は終了した。
俺﹁⋮ふぅ。﹂
ラミア﹁何してるの?﹂
俺﹁ぬわあああああああ!!?﹂
後ろを見るとラミアがいた。
他人の部屋なのに何の躊躇もなく入ってきて⋮ここのセキュリティ
ーはどこに行ったんだ。
俺﹁妹と話してた⋮あ、そうだ。﹂
ふと思い立ち、部屋を出る。
ラミア﹁えっ?どこ行くの?﹂
俺﹁あぁ、少し用があって。ラミアさんも出てってよ。他人の部屋
なんだから。﹂
ラミア﹁いや、私はえっと、俺くんの部屋を護らないと!﹂
俺﹁⋮﹂
ラミア﹁⋮ん、わかった。﹂
94
素直に言うことを聞いてくれたようだ。よかった。
さて、用事を済ませたら早速行くか。現世界へ。
主人公宅
********
日本
妹﹁⋮えっと、あとコレ⋮と﹂
俺﹁⋮ふぅ。﹂
妹﹁⋮あれっ!?お兄ちゃん?なんで?休日にしか帰らないんじゃ。
﹂.
そこには、軽く目に涙を浮かべてる妹がいた。
⋮多分感動ではなく、あくびだろう
俺﹁おまえなぁ⋮もっと早く寝ろ。今日が休日だ。﹂
妹は驚いた様子で上にある時計を見る。
時間は既に26時、小学生にとっては少しきつい時間だ。
妹﹁えぇっ!?う、うそ!﹂
俺﹁本当だ。ついでに今日は休日だ。﹂
また慌てる妹。今更フトンを出し始めた。
俺﹁えぇ∼⋮﹂
95
思わず息が漏れるような声が出る。
妹﹁⋮だってさ。準備してたんだよ。﹂
俺﹁⋮ふーん。でも寝ててもいいよ。﹂
妹﹁ええーっ!でも、話聞きたいよ!﹂
そっちか。
俺﹁⋮じゃあ、ちょっとだけだよ。﹂
妹﹁よしきた!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮
ちょっとだけと言いながらも、かなり長い時間話したようでテレビ
は既に砂嵐の時間にまでになった。
俺﹁それで、学園長に転送されて⋮﹂
妹﹁⋮スースー﹂
俺﹁あっ⋮話しすぎたかな。﹂
これ以上起こす理由もないので、そのまま布団まで運び寝かしつけ
た。
そういえば、俺も疲れてた。
96
吹っ飛ばされて頭ぶつけたり、吹っ飛ばされて嘔吐したり。
なんだこれ、ろくな目にあってないな。
まあ誰も酷いやつはいないんだが。
しかし、妹の種族を考えないと⋮人間以外で。
﹁ヒト﹂?
いや言い方変えただけじゃないか。
﹁妹﹂?
いやいや種族でもなんでもない。
ならば﹁少女﹂とか⋮いや、種族じゃなくてそれは性別だ。そもそ
もラミアもタウロさんも少女だし⋮。
いや、待てよ?
今年ダークエルフが入学したんだっけ。
ダークエルフといえば、闇堕ちしたエルフだよな。
なら、天使がいるんだから堕天使もいる。しかも、どちらも天使。
悪魔って名乗ってたけど、今朝あったコカトリスだって悪魔だし。
俺﹁︵まさか、もしかすると⋮︶﹂
急いで生徒手帳を開く、魔晶で動くと聞いていたが無事開いたとい
うことはこの世界にも魔力はあるのだろう。微かだが。
次に手帳の中の生徒一覧を調べる。
狙いは決まっている、俺も考えが当たっているとしたら⋮
俺﹁⋮あ﹂
97
思わず声が出てしまった。
やはり、考えは当たっていた。
これなら、妹の種族も⋮!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
朝になった、春の長閑かな温かさが眠気を誘うが顔を洗って振り払
う。
今日は、昔からの友人に会う日だ。
だらしない顔を見られる訳にはいかない。
妹﹁おはよ、お兄ちゃん。﹂
俺﹁あぁ、よく眠れたか?﹂
妹﹁んー、何時から寝てたんだろ?﹂
俺﹁そんなことより、顔洗って髪整えな。友達に会うんだろ。﹂
妹﹁んー⋮そだ、久々に髪セットしてよ。﹂
俺﹁⋮そういや、暫く手伝ってなかったな。んじゃ、頑張らせても
らうよ。﹂
98
俺の部屋
9話﹁友情は複雑です﹂
門星学園
ラミア﹁やほー!こんな鍵簡単に開いちゃうよー!⋮ってあれ?﹂
ヴァンプ﹁⋮よっ。﹂
ラミアこと私の目に入ってきたのは、確かテレビって言われる箱か
ら伸びた紐をさらに繋いで⋮あーもういいや。
確かテレビゲームって言うんだっけ。
それをなぜかヴァンプがしてた。
ラミア﹁な、か、勝手に人の部屋入って遊ぶなんて最低!﹂
ヴァンプ﹁お前には言われたくねーよ。﹂
文句をいいながらもテレビから目を逸らさないところ夢中になって
いるらしい。
えっと確か、人間界の家具はここを抜けば⋮
ブチッ
ヴァンプ﹁ぬあああ!?何しやがった!﹂
ラミア﹁こんせんと。そもそも俺くんの世界の文字わからないでし
ょ﹂
99
ヴァンプ﹁電源を切ったのか⋮﹂
切ったというより、抜いたんだけど。
ラミア﹁で、俺くんは?﹂
ヴァンプ﹁ああ、妹呼びに行ったぞ。﹂
ラミア﹁あ、そっか。﹂
落ち着いて紅茶を沸かすヴァンプ。
悔しいけど結構絵になる。
ラミア﹁でも、なんでヴァンプがいるの?﹂
ヴァンプ﹁何処かの誰かさんが鍵開けて入ってコソコソなにかされ
ないように見ててくれとのことだ。ちなみに、部屋のものは自由に
してくれていいって言われた。﹂
うっ⋮それって完全に私じゃん。
っていうより、自由⋮?
ラミア﹁なにそれ!俺くんの私物を私物化するの!?ずるい!人間
界に似たような漫画のキャラがいたよ!﹂
確かブタゴリラだっけ?
ヴァンプ﹁お前⋮発言と行動が伴ってないぞ。﹂
100
ラミア﹁なに!?枕匂いでるだけじゃん!﹂
ヴァンプ﹁⋮引くわ、流石に。﹂
ラミア﹁な⋮ふーん、じゃあ勝負する?﹂
ヴァンプ﹁⋮いいだろう。﹂
結局、二人でゲームすることになった。
内容は乗り物で競争をするゲームだった。
ラミア﹁これ、アイテム使うのってどうするの?﹂
ヴァンプ﹁バツのボタンだ、押したら投げられるぞ。ちなみに、ブ
レーキは赤のボタンだ。﹂
ラミア﹁そんなの、使わないよ!⋮あ、落ちた。﹂
ヴァンプ﹁ざまみろ。聞かないからだ﹂
なんだかんだで楽しかった。
ミスタドナッツ
********
日本
俺﹁よぅヤマ、フカザワ悪いな朝から呼び出して。﹂
ヤマ﹁いいって、俺も久々で楽しみだったし。﹂
フカザワ﹁で、どうしたの?﹂
101
二人は小学校からの友人で、かなり俺のことを理解してくれている。
眼鏡を掛けている男子はヤマと呼ばれており、ファンタジー小説を
こよなく愛する⋮変態だ。
一方ラテン系の少女であるフカザワはエクソシストを父に持つくせ
に、ホラーが苦手だという。
ちなみに妹は妹で友達に話をしに行った。
俺は早速本題を出してみた。
俺﹁⋮俺さ、高校寮生活になるんだ。﹂
フカザワ﹁え?⋮ふーん、そっか。﹂
ヤマ﹁⋮それだけじゃないんだろ?﹂
そりゃそうだ、高校で別々になった友人に寮生活の話をしても意味
はない。
俺﹁⋮えっとさ、その学校ってのがかなり遠いところでさ⋮門星学
園ってところなんだけど⋮﹂
ヤマ﹁⋮待って、も、門星学園?﹂
フカザワ﹁え?なに?知ってるの?﹂
ヤマ﹁知ってるも何も⋮人間以外の種族が通う学園だよ。ネット掲
102
示板で噂があったけど⋮あんなの、都市伝説とか物語じゃないのか
?﹂
なんだ知ってる人は知ってるのか。
俺﹁残念ながら真実だ。今年から人間の生徒も募集することにした
らしい⋮つっても信じないよな﹂
フカザワ﹁⋮に、人間以外ってどんなの?﹂
俺は生徒手帳から、クラス名簿を出し二人に見せた。
ヤマ﹁おお!知らない字なのに読める!人外ばっかだ!すごい!C
Gか!?﹂
俺﹁⋮本物だよ。﹂
フカザワ﹁⋮駄目。﹂
気がつくと、フカザワが顔を真っ青にしていて画面を食い入るよう
に見ていた。
俺﹁え?﹂
フカザワ﹁だ、ダメだよ!!こんなの危ないよ!悪魔とかに取り憑
かれたらどうするの!?死んじゃうかもしれないじゃん!﹂
ヤマ﹁まあまあ落ち着きなよ。﹂
正直フカザワの迫力に押されて後ろに倒れかけた。
103
俺﹁だ、大丈夫だって!ほらここ!学内では殺戮行為は禁止だって
書いてあるし、もし死んでも蘇生させてもらえるし⋮﹂
フカザワ﹁そんなの書いてあるってことは過去に例があるってこと
でしょ!!余計ダメ!!ね!?﹂
ヤマ﹁⋮俺はいいと思うよ?ってか是非とも俺が通いたいね。﹂
俺﹁⋮そうか。﹂
フカザワ﹁⋮アンタに聞いた私がバカだった。﹂
ヤマ﹁じゃあさ、お前、どんなやつと仲良くなったんだ?﹂
俺﹁⋮まあ色々かな?とりあえず普段一緒に行動してるのは、ラミ
アとヴァンパイアとケンタウロスと⋮あとまだあまり会えてないけ
ど狼男。﹂
ヤマ﹁おお!RPGでは王道だな。﹂
俺﹁でもさ。みんな、良い奴らなんだよ。俺も、最初すごい不安で
初めてラミアにあった時とか伝説通り精食われて死ぬかと思ったし。
でも結局、そのラミアはフレンドリーで人間味を人間よりも感じた
んだ。﹂
気がつくと、二人とも目を丸くして聞いていた。
俺﹁え⋮あ!ごめん話しすぎた!﹂
104
ヤマ﹁ううん、続けてよ。﹂
続きを促されたので話すことにする。
俺﹁ヴァンプはヴァンパイアのイメージとはかなり掛け離れたよう
なチャラチャラした性格だし、逆に、ケンタウロスさんは照れ屋だ
けどイメージ通り厳格な性格で⋮。それに、他の人たちもすごく優
しい。命を取るどころか守ってくれると言ってくれたし⋮﹂
ヤマ﹁⋮うん、もういいよ。﹂
うん、止められてしまった。
ヤマ﹁ただ、悪い人は居ないみたいだよ。フカザワ?﹂
フカザワ﹁ぬぐぐ⋮﹂
ヤマ﹁じゃあこうしよう!最低月1で日本に帰る。どう?﹂
フカザワ﹁⋮わかったよ。そもそも私には権限なんてないんだから。
﹂
俺﹁⋮ありがとう。ハハ⋮﹂
許可もらえたのが今更すぎて、少し笑えてきた。
マクナドルド
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
日本
妹﹁えっと⋮とりあえず、昨日ありがとう。﹂
105
エリ﹁ううん、また来てね。﹂
とりあえず、特に仲の良いエリちゃんを呼んだんだけど
逆に言いにくいなぁ⋮
エリ﹁⋮お兄さんのこと?﹂
妹﹁えっ!?な、なんで!﹂
エリ﹁見え見えだよー。⋮引っ越すんでしょ?﹂
そこまで読まれちゃったか⋮
妹﹁⋮もうエリちゃんには敵わないよ。﹂
反省を通り越して、思わず苦笑が漏れてしまう。
エリ﹁行っておいでよ。﹂
妹﹁⋮え?﹂
エリ﹁もちろん、突き放すとかそういう意味じゃないけど⋮。でも、
戻ってこられるでしょ?﹂
妹﹁う、うん。寮暮らしになるけど、休日なら帰れるよ。﹂
エリ﹁戻って来られるんだ!なら全然いいよ!行っておいで!﹂
106
妹﹁え、えっ!?で、でも。﹂
エリ﹁でもじゃないよ!お兄さん好きなんでしょ?好きな人と別々
で暮らすのと友だちに会える回数が減るのだったら、暮らす方を選
ぶべきだよ!﹂
そっか⋮エリにはバレてたのか⋮
妹﹁⋮うん、ありがとう。他の友だちにも伝えてくれる?﹂
エリ﹁うん、わかった!﹂
エリは私に満面の笑みを見せてくれた。私もその気持ちに応えない
と!
自宅
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
日本
俺﹁どうだった?﹂
妹﹁応援してくれるって。﹂
俺﹁良い友だちだな。﹂
妹﹁お兄ちゃんは?﹂
俺﹁心配されちゃったよ。﹂
妹﹁良い友だちじゃん。﹂
107
向き合って笑ったあと、最後に伝えるべき人物のところにきた。
他の部屋と大差ないボロボロのトイレの様な扉。
偉い人が入っているようには到底思えない。
俺﹁⋮すいません、大家さん。﹂
中から出てきたのは、中性的に見える女性。それでも、髪や肌はか
なり綺麗に整えられている。
大家﹁ん?ミズキさんところの⋮どうしたの?﹂
俺﹁お願いがあるのですが、実は俺、今年から妹と寮暮らしになる
んです。﹂
大家﹁⋮なるほど、理解しちゃった。部屋、みてて欲しいの?﹂
俺﹁なっ⋮はい、当たりです⋮﹂
すごい洞察力だ⋮
妹﹁あ、あの!いいですか?﹂
大家﹁もちろん!美代子にも二人のこと見るように頼まれてるから
ね!﹂
無駄に緊張していたが、即答してくれたおかげで、肩の荷が下りた。
ちなみに、美代子というのは俺の母のことだ。
108
大家﹁いつまでぐらいかな?﹂
俺﹁⋮えっと、よくわかってないです。でも、たまの休日には戻っ
てきます。﹂
大家﹁うん、わかった。じゃあ荷物運べるように段ボール用意して
あげるね。﹂
俺﹁ええっ!そんなことまで結構ですよ!﹂
大家﹁えー、でももう暫く面倒みれないし。﹂
つまりは大家さんのワガママということだ。
俺﹁⋮はい、ありがたくお願いさせていただきます。﹂
大家﹁宜しい!﹂
こうして、準備は整った。
あとは、荷物まとめて飛ぶだけだ。
109
10話﹁清姫は嫉妬深いです﹂
妹﹁よっこいしょういち⋮よしこれでオッケー!﹂
俺﹁⋮お前何歳だよ。まあ、いいや、じゃ早速飛ぶぞ﹂
荷物はもともとあまり持ってなかったので、直ぐにまとまった。
妹﹁あ!私にやらせて!﹂
俺﹁えっ?﹂
妹﹁だって、私も生徒なんでしょ?飛べるって!﹂
仕方ないので、させて見ることにする。
俺﹁じゃしっかり、家具触っておけよ?そうじゃないと、召喚され
なくなるぞ。﹂
妹﹁わかってるって!⋮えっと魔法陣に、髪の毛を⋮ほいっと。﹂
⋮ニンショウカンリョウ⋮
校門
**********
門星学園
俺&妹﹁﹁おえー﹂﹂
110
すっかり召喚酔いのことを忘れてた⋮
しかも、飛んだとこ校門だし。自室じゃねえのかよ。
俺﹁⋮ごめん、もう一回飛ぶ。﹂
妹﹁えっ!ちょ、ちょっとま⋮﹂
⋮ニンショウカンリョウ⋮
自室
********
日本
俺﹁⋮よいしょ。﹂
妹﹁おい!﹂
⋮ニンショウカンリョウ⋮
自室
*********
門星学園
俺﹁ふぅ⋮そろそろ慣れた。﹂
妹﹁うっ⋮おえっ⋮お兄ちゃん、トイレ⋮﹂
妹は口を押さえながら悶えている。
流石に三回連続はキツイか。
111
俺﹁あー、このドアだよ。﹂
妹﹁ちょっと、行くね。﹂
妹がトイレに行ったので、家具の整理を始めることにする。
俺﹁あ。﹂
ヴァンプ﹁よっ。﹂
ラミア﹁やあやあ。﹂
その前に、この2匹を部屋から引き摺り出した。
寮室前廊下
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
ヴァンプ﹁な、なんだよ!恩を仇で返す気か!﹂
俺﹁いや、ヴァンプに対しては本当に悪かった。﹂
ノリでヴァンプまで、引きずってしまったからな。
あとで、制服のクリーニング代を渡そう。
ラミア﹁本当だよ!責任とってよね!﹂
俺﹁お前はなんだ。﹂
ラミア﹁えっ!忘れたの。﹂
忘れるかよ、いろんな意味で。
112
俺﹁とりあえず、妹はもう少ししてから会わせるから。﹂
ラミア﹁えっ?妹さん来てるの!﹂
ヴァンプ﹁気づかなかったぞ。﹂
⋮ふたりどんだけゲームに入ってたんだよ。
俺﹁まあ、今日も夕食会あるだろ?そのときにでいいか?﹂
すると、すぐに否定の言葉が聞こえる。
ラミア﹁えー。せっかくなら今すぐ⋮﹂
ヴァンプ﹁よし、いいぞ。﹂
ラミアの声に被せるように、ヴァンプは応えた。ありがたい。
俺﹁じゃ、部屋の片付けは俺がするから。﹂
ラミア﹁あ、そだ!あのさ、俺くんの部屋の本で読んだんだけど⋮
他に直接その世界に入れるゲームってある?﹂
俺﹁それは、本の中の話だ。⋮もう少し待ったら出来るかもだけど。
﹂
ってか、こいつラノベ読めるのか。
日本語とか大丈夫だったのか?
113
俺﹁あ、ちょっと!ラミアさん、日本語大丈夫なの?﹂
ラミア﹁ふふふふ、昨晩ついでに俺くんの部屋から貰った本で勉強
したよ!﹂
俺﹁ど、どうやって⋮﹂
なんのついでだったのかが、気になるが。日本語を勉強しようにも
この国の言葉じゃ⋮。
ラミア﹁友だちの清姫に教えてもらった。﹂
俺﹁清姫って、確か蛇の日本妖怪だよね?﹂
ラミア﹁そうだよー。﹂
なるほど、蛇繋がりか。
この人いつかメデューサに石にされそうだな。
ヴァンプ﹁⋮.あのさ、帰っていいか?﹂
あ、忘れてた。
俺﹁悪い、じゃあまた、今晩な。ラミアさんも、また日本語聞かせ
てね﹂
ラミア﹁おっけー!﹂
自室
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
114
妹﹁あ、もどった。﹂
俺﹁悪い、友だちと話してた。ラミアとヴァンパイアな。今晩紹介
するよ。﹂
妹﹁やったー!インキュバスは!?﹂
俺﹁⋮お前、それ好きだな。とりあえず部屋大きくしてもらったし、
家具置こうか。﹂
妹﹁うん!﹂
しかし、部屋はかなり広い。
まさに良いところの旅館ぐらいだ。
全部置くのに2時間かかってしまった。
俺﹁はぁ⋮疲れた。﹂
妹﹁お疲れー。あ、そうだ!﹂
妹はそう言うと、立ち上がりこちらを見つめた。
妹﹁ねえねえ、学園長に会った方がいいんじゃない?﹂
もっともな意見だ。
確かに、挨拶ぐらいは必要だろう。転入手続きとかもあると思うし。
俺﹁そうだな。でも、また転送になるぞ?﹂
115
妹﹁うっ⋮仕方ない。我慢しよ。﹂
そう言うが、すぐに慣れるだろう。
俺だってもう慣れたんだから。
学園長室
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
俺﹁おえっ⋮が、学園長。い、妹で⋮す。﹂
妹﹁⋮ども⋮兄がお世話になってます﹂
学園長﹁て、丁寧にありがとう。私は学園長のワルキューレ。⋮え
っと、二人とも挨拶に来てくれたのは嬉しいけど、転送慣れしてい
ないんだから、そんなにガツガツ使わない方がいいよ?﹂
ごもっともです。
学園長﹁で、妹さんの種族は決まった?﹂
妹﹁えっ?﹂
俺﹁はい、決まりました。﹂
妹﹁待って待って!お兄ちゃん、何それ!聴いてないよ!?﹂
ん?
そういや、言ってなかったか。
俺﹁あ、いや。ここ入るには本名を隠すために種族を名乗らないと
116
いけないんだけど、﹃人間﹄は既に俺がいるから別の名前を考えな
きゃいけないんだ。﹂
学園長﹁もう、ちゃんと言っといてよ。﹂
俺﹁すいません。お前も、悪かった。﹂
妹﹁ううん、入学できるように考えてくれてたんでしょ?それだけ
でも嬉しいよ。﹂
いい子だ。
学園長﹁で、何にしたの?﹂
俺﹁はい、ーー﹂
自室
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
パンフレットを読んだところ、クラスは全部で15クラス。
人数まではわからないが、幼稚部、初等部、中等部、高等部、大学
部にそれぞれαクラス、βクラス、γクラスの三つがあると分かっ
た。
ただ日本と違うのは、その世界軸の日数、そして、3年間同じクラ
スでするということだった。
そして、妹は初等部になるわけで⋮。
妹﹁⋮ねえお兄ちゃん。﹂
117
俺﹁ん?﹂
妹﹁⋮ちょっと不安になってきた﹂
俺﹁⋮ひとつ教えてあげる。俺たち以外の種族は全員この世界に唯
一無二だ。でも⋮﹂
妹﹁⋮私たちは、二人いるんだよね。﹂
俺﹁だから、不安なのは他の人たちなんだ。カルチャーショックっ
てやつだよ。﹂
妹﹁そうだね。私にはお兄ちゃんがいるもん。﹂
俺﹁⋮ブラコンなのか?﹂
妹﹁そ、そんなんじゃないよ!﹂
俺からしたらブラコンという単語を小2が知っている時点で悲しい
んだが。
俺﹁それにしても、なんだ?その格好。﹂
妹は今にも縁日に向かいそうな赤い浴衣を着ている。
妹﹁ふふふ⋮お兄ちゃんが決めた種族名だからね!それっぽくして
みたんだ。﹂
まあどちらかというとギリギリラインだったんだが⋮
118
俺﹁まあ、そうしてくれた方が嬉しいよ。﹂
気がつくと外はすっかり夜になっていた。
妹﹁⋮うわぁ。﹂
妹は俺に釣られて外を見るやすぐに窓に近づいた。
俺﹁どうした?﹂
俺の声に釣られて振り返る。
すこし顔が紅潮しているようだ。
妹﹁私まだ外見てなかったから。﹂
俺﹁⋮そういやそうだった。俺もだ。﹂
俺も外を見る。
窓は新しい部屋ということもあり、曇りが一点もない。
俺﹁⋮すごいな。﹂
つい声が漏れる。
外に見えたのは、まさに西洋の如く石畳の街だった。
遠くに見えるのは海だろうか。
顔を覗かせて横を見ると山も見える。
自然と街との共存といったところだろう。
119
この学園と同じ高さの建物といえば、少し遠くにある城のような建
物くらいだろうか。
何であれどうやらここを中心として街が広がっているらしい。
俺﹁それにしても、ここには人間が俺たち以外いないんだよなぁ。﹂
妹﹁⋮そっか。私たちが最初なんだもんね。﹂
俺﹁⋮この街に住んでいる人たちはどういう経緯で暮らしているん
だろう。﹂
あとで先生に聞こう。
俺﹁お?そろそろ時間だな。着替えようか。﹂
妹﹁うん。じゃ向こう行ってるね。﹂
そう言い、妹は敷居のある別の部屋に向かった。
もし、一緒に着替えるとか言い出したら本当に困った。
俺が着替え終わると、タイミング良くラミアが入ってきた。
ラミア﹁チッ。もう少し早かったら俺くんの裸体が拝めたのに。﹂
俺﹁別種族の裸体見て興奮するのかお前は。﹂
そういう俺も、ラミアやタウロさんが目の前で着替え始められると
逃げたくなるだろうが⋮胸は人間と変わらないし⋮。
妹﹁んー。誰∼?﹂
120
あ、まずい!
いきなりラミアはレベルが高くないか?
ラミア﹁あっ!俺くんの妹さん?初めまして∼。あだ名はラミアお
姉ちゃんだよー!﹂
俺﹁おい。﹂
妹への心配は、どこかに行ってしまい。俺は変なことを言わそうと
しているラミアに文句を言おうとする。
ラミア﹁冗談だって!⋮3割。﹂
俺﹁7割本気だったのか。﹂
妹﹁あっもしかしてこの人がラミアさん?﹂
ラミア﹁まぁ人ではないけど、そうだよ。なんだ俺くん話しててく
れたんだ。﹂
俺は満足そうに体をくねらしているラミアに一喝した。
俺﹁別に、お前のこと気にしてるわけじゃない。﹂
いや、これ墓穴だな。
ただのツンデレじゃないか。
ラミア﹁はははー。照れなくてもいいってー。﹂
121
妹﹁仲良いね。﹂
俺﹁⋮否定はしない。あっそうだ!なにか用があって来たのか?﹂
逃げ道を作るために作った会話だが、ラミアのことだし理由なんて
なさそうだ⋮いつもなら。
ラミア﹁あ、そうそう⋮なんだっけ?誰かに何かを頼まれて来たん
だけど⋮﹂
でも忘れたらしい。
同時に二つのことは考えられないようだ。
ラミア﹁えへへ∼。まぁ妹ちゃんに会えたから別にいっか。﹂
妹﹁ラミアさん、お兄ちゃんが言うほど変わってないじゃん!﹂
お前は何をいっているんだ。
ラミア﹁えっー!俺くん、そんな風に言ってたの?ひどーい!﹂
妹﹁ごめんね。お兄ちゃん、変な人だから。﹂
ラミア﹁でっでも、良いところもあるよ!部屋綺麗だし、優しいし、
面白いもの沢山持ってるし⋮学力面は知らないけど⋮あと小ちゃく
て可愛いし!﹂
俺﹁なっ⋮小ちゃ⋮﹂
122
妹﹁あー!ラミアさん、それタブーだよ!なかなか170cm行け
なくて悩んでるのに。﹂
い、妹にもばれてたのか⋮。
でも高校生にもなったんだからこの身長は嫌だ。
もっとスレンダーボーイになることが目標だったのに。
ラミア﹁えっと⋮お、俺くんごめんね。で、でも私も580cmだ
よ!﹂
俺﹁それは世間的にはどうなんだ?﹂
ラミア﹁⋮でかい方。﹂
なんでその話をした。
123
11話﹁ヤマタノオロチは軟派です﹂
タウロ﹁お前ら、遅いぞ!﹂
突然、以前のおっぱい強調衣装を着たタウロさんが部屋に飛び込ん
できた。
勢いよすぎて、ドアから少しパキッと音がしたがあまり気にしない
で置こう。
そもそも問題は俺が扉と壁に挟まれたことなんだが。
ラミア﹁⋮⋮。﹂
妹﹁あ⋮⋮。﹂
頼む、なんとか言ってくれ。
助けてくれ。
タウロ﹁な⋮な⋮なんだこの子はぁっ!?﹂
妹﹁ビクゥッ!﹂
ラミア﹁タ、タウロさん!こ、この子は⋮﹂
タウロ﹁お前、ついに俺くんに幼女化の魔法でも使ったか!?﹂
何を言ってんだ。
124
ラミア﹁違うよ!でもそんなのがあるなら試して見たいよ!﹂
本当に何を言ってんだ。
タウロ﹁ま、まさか⋮お、お前。俺くんと⋮不純異性交遊だぁ!!﹂
ラミア﹁な⋮で、できるものならもうしてるよ!!入学の瞬間に着
床してるよ!﹂
俺﹁ぬああああ!!妹いるのにそんな話するなぁっ!!﹂
流石にこのままだと妹に悪影響が出てしまうため、鼻血を出しなが
らもなんとか扉の裏から這い出た。
タウロ﹁え、お、俺くん?妹?﹂
俺﹁大丈夫、このケンタウロスさんはタウロさんって呼ばれていて
⋮えっととにかく優しいから。﹂
とにかく、緊張してるであろう妹にわけを話す。
妹﹁お、おネェさん大っきいね。﹂
俺﹁あぁ、少なくともF⋮ん?大きくなりました?﹂
タウロ﹁⋮そのことじゃないと思うんだが。﹂
ラミア﹁っていうか、俺くん大丈夫!?﹂
125
タウロ﹁あっー!?ほ、本当だ⋮わ、悪い!だ、大丈夫か?本校の
生徒とはいえ人間だ。無理だけはしないでくれ!﹂
⋮なんかすごい必死だ。
俺﹁だ、大丈夫だから!唾つけとけば治るから!﹂
タウロ﹁そうか!じゃあ付けてやろう!塗ってやろう!﹂
妹﹁え、えーっ!?﹂
ラミア﹁な、なに言ってんの!仕方ない!私がやる!ってか舐める
!﹂
俺﹁や、やめろー!俺を食う気か!?﹂
この後、格闘はオオカミくんが来るまで長時間に渡り続いた。
イベントホール
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
少し出遅れたせいで生徒と料理は少なくなっていた。
タウロ﹁あうう⋮お、お料理がぁ⋮﹂
だいたいこの人のせいなんだが。
ちなみに唾はつけずに鼻にティッシュ詰めて、傷は絆創膏で抑えた。
俺﹁とりあえず、改めて紹介するよ。妹です。﹂
126
妹﹁⋮おお、も、モンスター⋮﹂
⋮あ。
俺﹁うわああああ!なんてことを言うんだ!謝りなさい!﹂
ラミア﹁ん?なにか変なこと言ってた?﹂
ヴァンプ﹁たしかにモンスターだが⋮もしかしてそれがダメなのか
?﹂
俺﹁だ、だってモンスターって呼び名俗悪っぽいし⋮﹂
タウロ﹁?⋮そうなのか。いや別に問題はないぞ?そもそも人間で
も動物でもない限りモンスターだと思うぞ。﹂
俺﹁⋮そ、そっか⋮。﹂
な、なんだ、俺の思い違いか。
俺﹁とにかく、お前も口には気をつけろよ。﹂
妹﹁うん、ごめん。﹂
ラミア﹁いいって。じゃ改めて挨拶するね。私の種族はラミア。こ
の学園に入って俺くんの最初の友だちだよ。呼び名はラミアでいい
よ。﹂
ヴァンプ﹁俺はヴァンパイア。普段はヴァンプって呼ばれてる。ま
あ、俺くんとは仲の良いクラスメイトだ。﹂
127
タウロ﹁私はケンタウロス。長いからタウロと呼ばれている。俺く
んが傷つかないように見張ってる。﹂
俺﹁え、そうだったの?﹂
タウロ﹁当たり前だ。お前がこの学園で1番弱いと言っても過言で
はないだろ。﹂
なんか散々な言われようだ。
オオカミ﹁俺は狼男。呼ぶときはオオカミでいい。あまり見かけな
いかもしれないが、仲良くしてくれ。﹂
俺﹁な?みんな良い人だろ?﹂
妹﹁うん!﹂
とりあえず一通り挨拶が終わり食事に入る。
オオカミ﹁そういえば、俺くんよ。﹂
俺﹁ん?﹂
珍しくオオカミくんが俺に話しかけて来た。
オオカミ﹁妹も種族は人間として暮らすのか?﹂
多分種族のダブりについて聞いているのだろう。
やはりこういうところは優等生だ
128
俺﹁いや、被ったらいけないし。でも良いこと考えて、学園長に頼
んだら許可が出た。﹂
オオカミ﹁ほー。そうか、公表されるのが楽しみだ。﹂
俺﹁そんな期待するほど面白いものじゃないよ。﹂
実際にこれは最後の手段という感じだからな。
妹﹁お、お兄ちゃん!このサラダ美味しいよぉ!?﹂
俺﹁⋮それってマンドラゴラか?﹂
妹﹁⋮へ?﹂
妹は、いつか見た顔付きの根菜を貪っている。
タウロ﹁どうした俺くん。食べなきゃ大きくなれないぞ?﹂
俺﹁うわあああ!気にしてることを⋮﹂
さらに、タウロさんが追い打ちをかける。
ラミア﹁俺くぅんやぁ∼い。﹂
俺﹁なっ、なんだぁ!うわあああ!!﹂
突然後ろからラミアが体重を預けて来た。
柔らかいものが当たっているのはともかく、あくまで5m越えの半
129
獣である。
こちらも、耐えきれなくて倒れる。
俺﹁な、なんなんだ!?﹂
ラミア﹁ふへへへへ、子供作ろ∼?作ったら私の一部となって∼!﹂
俺﹁ちょ、ちょっとラミアさん!ラミアの性質まんま出ちゃってる
よ!﹂
するとタウロさんが机に置いてある中ジョッキを手に取る。
タウロ﹁全く⋮こいつ、酒飲んでやがる。﹂
俺﹁そ、そんな!蟒蛇じゃないのか!﹂
ラミア﹁なぁにそれぇ?そんなことより∼﹂
この後のラミアのセリフは割愛するが、決して妹や未成年者には聞
かせられないような淫語を連発していた。
俺﹁そ、そうだ!八塩折之酒!八塩折之酒ってない!?﹂
いくら伝説とはいえ、この学園ならあるだろう。
ヴァンプ﹁な、なんだ?こいつにまた酒か?﹂
俺﹁いいから、とにかくラミアさんにそれ飲ませて!﹂
妹﹁えっと⋮ヤシ⋮オリ⋮これかな?はいラミアさんグイッと!﹂
130
ラミアは酒を手に取ると、ラム酒の入っていたジョッキにそのまま
継ぎ足した。
ラミア﹁ごっきゅごっきゅ⋮ぷはぁ!お代わり∼!﹂
一同﹁﹁アル中だぁぁぁぁ!!﹂﹂
この後、ラミアは五杯近くまで飲んでようやく酔いつぶれた。
エントランス
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
ラミア﹁むにゃむにゃ⋮俺くんのおっぱい⋮﹂
タウロ﹁ど、どんな夢を見ているんだ⋮?﹂
オオカミ﹁えっと、取り敢えず災難だったな。﹂
俺﹁本当だよ。﹂
一応ラミアさんはこれ以上迷惑をかけないように、その場にいた大
型生徒らに手伝ってもらって退出させた。
ヴァンプ﹁ところで、あの酒はなんだったんだ?あのヤシなんとか
ってやつ﹂
妹﹁八塩折之酒だよね!私、知ってるよ。確か、スサノオノミコト
がヤマタノオロチを倒すのに使ったお酒だよね?酔わせて首をスパ
ッと!﹂
131
俺﹁あぁそうだ。八塩折之酒は蛇を酔わすのを目的に作ってるよう
なものだからな。効くと思ったんだ⋮まあ本来、与える側は女装す
るんだが。﹂
タウロ﹁じょ、女装!?⋮似合いそうだな。﹂
俺﹁ありがとう。喜んでいいかわからないよ。﹂
こうして妹が最初にラミアに抱いた印象は﹁肉食で淫乱で酒豪﹂と
いうことになった。
132
12−1話﹁兄は大変です﹂
初等部βクラス
あれから2日が経ち、ついに最初の授業と妹の転入が始まった。
門星学園
緊張するなぁ⋮
周りに人間がいないんだもんね。
でも!しっかりしないと!
先生﹁じゃ、入ってー。﹂
先生の呼ぶ声が聞こえる。
早速向かおう。
妹﹁し、失礼します!﹂
ガラガラと扉を開け、教壇に立つ。
学園長室
そして、黒板に名前と種族を書く⋮
門星学園
⋮⋮⋮⋮⋮
二日前
俺﹁種族って、つまり住んでいる集団や体質も関係して来るんです
よね。﹂
学園長﹁ほう、なんでそう思ったの?﹂
133
俺﹁今年、ダークエルフも入学したじゃないですか、でもエルフも
いると聞きます。でもダークエルフも闇堕ちしたエルフなのだから
どちらも実質的にはエルフなんですよ。﹂
学園長﹁うんうん﹂
俺﹁それに、俺のクラスの悪魔くんだって、なんの悪魔かはっきり
していないじゃないですか。サキュバスも悪魔ですし、俺の仲の良
いヴァンパイアくんだって言わば悪魔に属します。﹂
学園長﹁おお、よく気がついたね。﹂
俺﹁なら、この俺の考えも通るはずです。﹂
学園長﹁⋮教えて欲しいな﹂
門星学園
初等部βクラス
俺﹁その種族は⋮﹂
今
お兄ちゃんの決めてくれた種族、正直言うともっと別のが良かった
けどね。妹代表とか。
妹﹁私は、地球連合からきました。種族は﹃日本人﹄です!﹂
高等部βクラス
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
門星学園
134
ラミア﹁なるほどそっかー。日本人ね。﹂
ヴァンプ﹁上手いこと考えたな。同じ種族でもその細かい部分で決
めるという発想はなかったな。﹂
アイディアを絶賛され、つい照れてしまう。
俺﹁まぁ、半分無理矢理だけどね。﹂
すると予鈴がなり始めた。
オオカミ﹁おい、授業だぞ。﹂
ヴァンプ﹁ああ悪りぃ。﹂
ラミア﹁タウロさん。最初の授業って何かな。﹂
タウロ﹁自分で調べろよ全く。数学だ。﹂
なんだかんだ言いながら教えるタウロさん。
でも、門星学園の授業ってどんなのなんだろう。
騒がしい教室も静まって行く。
先生﹁はーい、座ってー立ってー気をつけーれー座ってー﹂
くっそ雑な挨拶をしたのは⋮スライムさん人間ver似のプルプル
した液体状の女の人だった。
135
⋮もしかして、国語以外の5科目は四精霊か?
先生﹁はーい。数学担当のウンディーネでーす。アンディって呼ん
でね。﹂
クラス皆スルーをしたが、そのまま授業が始まった。
最初の授業定番の﹃せんせー、彼氏はいるですかー。﹄は無いよう
だ。
それにしても⋮
ウンディーネ﹁秒速10mのケルベロスくんが⋮﹂
ウンディーネ﹁24匹のキジムナーは⋮﹂
ウンディーネ﹁皆のために命を犠牲にしたたかしくんは⋮﹂
簡単過ぎやしないか?
しかし、周りを見てもこの高校レベルを下回っている勉強を気にす
るものはいない。
それどころか隣を見ると⋮
ハーピー﹁⋮んぐぐ﹂
鳥頭が悩んでいた。
ラミア﹁え、えっと﹂
136
蛇も悩んでいた。
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
一時限目終了
ラミア﹁難しかったね。﹂
ハーピー﹁うん⋮あんなのわかんないよ。﹂
気になったので二人を試すことにする。
俺﹁あのさ、俺の世界には九九ってのがあったんだが。﹂
ラミア﹁あ。わたしのとこにもあるよ!﹂
なら話は早い。
俺﹁じゃあ7の段。﹂
ラミア﹁え!え、えっと、しちひちがしち⋮﹂
ん?
俺﹁まて。もう一回だ。﹂
ラミア﹁え?おかしかった?⋮んーと、しちひちが⋮﹂
⋮これは酷い。
137
俺﹁ハーピーはどうだ?﹂.
ハーピー﹁うん。出来るよ。﹂
俺﹁2の段﹂
ハーピー﹁にくじゅうはち。﹂
⋮え
俺﹁過程全部飛ばし⋮?﹂
ハーピー﹁え?いやいや分かるよ。分かるけどそんなのいらないし﹂
いるだろ⋮
仕方が無い。
俺﹁教えるから、ノート貸して。﹂
ラミア﹁えっ?﹂
最初、驚いた顔をしていたがすぐに渡してくれた。
俺﹁いいか?取り敢えず足し算があやふやだと思うから⋮﹂
タウロ﹁お、俺くん!﹂
後ろから凛々しい声が上がる。
138
俺﹁えっ?どうしたの?﹂
タウロ﹁私にも、教えてくれ!﹂
俺﹁⋮え?でもタウロさん賢いじゃん。複素数とか乱数とかも分か
るでしょ。﹂
以前そんな話を聞いた。
タウロ﹁あーいや⋮そ、そうだ!私も勉強を手伝うというのはどう
だ?﹂
俺﹁あぁ助かる、ならラミアさんの相手をしてよ。﹂
ラミア﹁⋮へ。﹂
どこからか変な声が聞こえたが無視しよう。
問題は、鳥頭にどう教えるかだ。
⋮んー。好きなものと結びつける作戦で行くか。
俺﹁ハーピーさん。好きなものある?﹂
ハーピー﹁んー。食べることかな。﹂
俺﹁じゃあさ!リンゴが30個あって、それを17個食べたらいく
つになる?﹂
139
ハーピー﹁えっと⋮13個食べるから0﹂
答え出てるのに間違えてるーっ!
俺﹁13でいいんだよ!﹂
ハーピー﹁ええっ!13個どうなるの!?腐っちゃうじゃん!﹂
もうこの人このままでも良いんじゃないかな。
一方。
タウロ﹁次っ!3の段だ!﹂
ラミア﹁え、えっと。さんいちがいち、さんにがろく、さざんが⋮﹂
タウロ﹁気持ちが篭ってない!!やり直し!﹂
ラミア﹁九九の気持ちってなんだよーっ!﹂
国語
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
二時限目
ケットシー﹁じゃあにゃ、﹃まさか∼ろう﹄を使った文を教えるに
ゃ。じゃラミアさん。﹂
どうせ、金太郎だろうな。
140
ラミア﹁は、はいっ!えっと⋮マサカズってだれだろう。﹂
上回ったよ。
ケットシー﹁惜しいにゃ。じゃあ正解は﹃まさから生まれたまさか
ろう﹄にゃ。﹂
⋮⋮⋮。
ケットシー﹁冗談にゃ。じゃオオカミ君。﹂
オオカミ﹁まさか、だれも先生がスベるとは思っていなかっただろ
う。﹂
ケットシー﹁⋮次にゃ。﹂
ごめん、先生。
これはフォロー出来ない。
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
二時限目終了
俺﹁オオカミ君ここの言葉不思議なんだけど。﹂
オオカミ﹁みんな思ってるよ。﹂
ですよね。
141
化学
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
三時限目
シルフ﹁いやーここまで体が小さいとさ。チョークを持つのも大変
なんだよねー。﹂
⋮そうですか。
シルフ﹁ぶっちゃけ、化学なんて使わないよね。将来。﹂
⋮わかったので授業を進めてください。
タウロさんがブチギレそうです。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
三時限目終了
タウロ﹁結局、なにもしなかったじゃないか!!﹂
ラミア﹁な、なんで私に怒るの?﹂
政治
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
四時限目
142
今回は多分ノームだろう。
なら多分教えてくれるはずだ。
サラマンダー﹁おっれだー!!﹂
外れました。
サラマンダー﹁俺はサラマンダー!昔、ヤリマ○などオマ○コなど
ほざいてる奴がいたが、そいつはハイになって卒業したぞ!﹂
ハイじゃなくて灰なんだろうな。
サラマンダー﹁いいか!この世界はこの門星学園が軸になってんだ
!でも、主に政治を運営してるのは窓から見えるあの城だ!﹂
あれ?思ったよりまともかも。
サラマンダー﹁ちなみに少し歴史の授業となるが、この国に住んで
いる人は元から学園長が世界を創造したときに作った⋮俗にネイプ
シーと呼ばれる人たちだ!向こうはこちらに敬意を表しているが、
もちろん、普通の一般人だから対等に接しても問題はないぞ!﹂
マシンガントークか。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
四時限目終了
143
俺﹁ほとんど聞いてなかったんだけど。﹂
タウロ﹁⋮簡単に言えば、あれだ。学校は中心。政界は城というこ
とじゃないか?﹂
そこに気の抜けた声が聞こえてくる。
ラミア﹁そんなことよりお腹がすいたよ。ねえ、今日はどうするの
?﹂
俺﹁部屋で自炊する。﹂
ラミア﹁えー、でも料理できるの?﹂
俺﹁妹が出来る。﹂
ヴァンプ﹁あー、妹ならさっき他の生徒とカフェテリアに行ってた
ぞ。﹂
俺﹁⋮マジデ?﹂
タウロ﹁いつも通りということで決まりだな。﹂
俺﹁そ、そんな。﹂
ここは腹を決めるべきなのか。。。
144
12−1話﹁兄は大変です﹂︵後書き︶
久々に新モンスターが出て来た気がする。
サキュバス:
夢魔や淫魔と呼ばれる女性型の悪魔。
睡眠中の男性から精を奪う。
主に相手の理想像になるというが、主に赤い瞳に褐色が多いらしい。
ウンディーネ:
四精霊のうち水を司る精霊
主には美しい女性の姿で描かれる。
多くの禁忌があるらしい。
これは筆者の見解だが、水関係のモンスターは人間との悲恋劇が多
い気がする。
キジムナー:
沖縄周辺で伝承されてきた樹木の精霊。
沖縄の代表妖怪として多くの民芸品がある。
赤い髪に枝のような手足で結構かわいい。
シルフ:
四精霊のうち空気を司る精霊
目に見えないとされているが、今作では妖精のような姿。
ちなみにシルフと検索すると、少女漫画の公式サイトが出てくる。
ノーム:
四精霊のうち大地を司る精霊
145
主に地中で生活しており、容姿は老人の小人
手先が器用で知能も高く、優れた細工品を作る。
サラマンダー:
四精霊のうち炎を司る精霊
主には手に乗るようなドラゴンやトカゲの姿をしているが、今作で
は人型のドラゴニュートということにさせてほしい。
炎の中や溶岩の中に住むと言われている。
146
12−2話﹁妹も大変です﹂
妹﹁種族は﹃日本人﹄です!﹂
先生﹁ん!元気だね。じゃあよろしくー。そこ、席開けたからそこ
ね。﹂
あれ、こんなあっさりなんだ。
妹﹁あ、はい。﹂
何もないまま席に着く。
??﹁ねーねー転校生。﹂
妹﹁えっ?﹂
ふと隣を見ると、双方の富士が見えた。
確か、ミノタウロス?大きいなぁ、2mは優に越えてるなぁ。
ミノタウロス﹁日本人って呼びにくいし、日本ちゃんでいい?﹂
妹﹁あ、うん。﹂
ミノタウロス﹁よかった。私はまぁ適当にミノさんとでも呼んでく
れたらいいからね。﹂
こ、こんなあっさり友だちって出来るものなのか。
147
というより、本当に同い年なのだろうか。
妹﹁えっと⋮ミノさんはなんだし、タウ⋮えっとウロスさんでいい
?﹂
ウロス﹁うん?いいよ。﹂
危ない危ない、タウロさんと被るところだった。
先生﹁じゃホームルーム終わります。﹂
ちなみに、先生は玉藻御前でした。
日本ちゃんにピッタリですな。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ホームルーム終了
エルフ﹁あっひゃー!ちっちゃーい!可愛いーっ!﹂
ダークエルフ﹁おいやめろ!怖がってるだろ!﹂
今、私はエルフ二人にオモチャにされています。
それにしても、ウロスさんを含めた3人以外、私に関わろうとして
来ないなぁ⋮
妹﹁っねえ、ダークエルフさん。﹂
148
ダークエルフ﹁ダーエルでいいぞ。なんだ?﹂
私はオッパイに挟まれながら問うことにした。
妹﹁あまり他の人たち私に関わろうとしてこないみたいなんだけど。
﹂
ダーエル﹁そうだな。多分この世界に人間が二人いることが不思議
なんだろ。まぁ私とコイツは関係が似たようなもんだから気にして
いないんだがな。﹂
エルフ﹁本当にねー。気にすることないのに。﹂
⋮まあいいや⋮っていうより。
妹﹁そろそろ離してくれないかな。胸で死にそう。﹂
ダーエル﹁はっ!わ、悪いな。﹂
エルフ﹁いっただきーっ!﹂
再び捕まった。こちらも同じくデカい。
本当にこのクラス小学部なのかな?
ダーエル﹁なっ!お、お前⋮!﹂
エルフ﹁いーじゃん!転校生ちゃんあれだもん。私の嫁だもん。﹂
なにそれ。
149
ウロス﹁だーめだよー!エルフちゃん!﹂
突然体が持ち上がって、目線が高くなった。
エルフ﹁あー⋮転校生ちゃん⋮﹂
ウロス﹁全くー。﹂
あれ?ウロスさん腕組んでる。
じゃあ私、どうやって持ち上げられてる⋮!?
妹﹁え、えーっ!?﹂
ウロス﹁ど、どうしたの!?﹂
どうしたのじゃないよ!
私、ウロスさんの胸に挟まってるよ!ってか、胸に捕まってるんだ
けど!
ウロス﹁わわっ!暴れたらダメだって!落ちちゃう!感じちゃう!﹂
感じるならやめてよ!
⋮数分後
完全に埋まった。
もう出てる部分がチェストアップのみなんだけど。
150
ウロス﹁あぶない危ない。﹂
エルフ﹁⋮わ、私の嫁が﹂
ダーエル﹁⋮ちょっと羨ましい。﹂
口々に感想を垂らしてくる。
妹﹁そんなことよりもウロスさん!引っ張り上げてよ!!﹂
こうしてなんとか次の授業には間に合った。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
一時限目終了
ここ、小学部なのに本当小学らしい人がいないなぁ
?﹁ホームルームは大変だったね。﹂
妹﹁ほんと⋮ん?﹂
突然耳元で甲高い声が聞こえる。
横を見るとそこにいたのは妖精だった。
妖精﹁やほー転校生ちゃん。私はあなたの心の妖精だよー。﹂
妹﹁変な冗談やめてよ⋮。信じちゃいそうになるし。﹂
151
多分私の幻覚ではなく生徒だと思う。
かなりはっきり見えてるし。
妖精﹁⋮それは危ないね。ごめん、私は妖精代表として来たの。﹂
ほう。ならお兄ちゃんや悪魔さんと同じように種族マクロ目線的な
生徒か。
妹﹁なんで、このクラス小学部なのに小学っぽくないのかな。﹂
妖精﹁うーん、種族によって成長の具合が違うからじゃないかな。
ほらあのエルフさんいるじゃん。あの子確か40越えてるよ。﹂
妹﹁ふーん。﹂
思ったより上だった。
妖精﹁ん?驚かないの?﹂
妹﹁いや、お兄ちゃんからエルフは長命だって聞いてたからね。﹂
少しは知識、わけもらってるわけだし。
ダジャレじゃないよ。
妖精﹁お兄ちゃんって、確か高等部の⋮俺くん先輩だっけ。﹂
なんで小学部まであだ名伝わってるの。
お兄ちゃん。
152
妹﹁うん、私をわざわざ転入させてくれたの。﹂
妖精﹁へえー。凄いなぁ。でもさ、ニホンジンってどんなの?﹂
妹﹁うーん⋮私の世界では侘び寂びを重んじるとか言ってたけど、
最近はサブカルチャー的な感じえっと⋮漫画ってわかる?あんなの
が流行ってる。﹂
妖精﹁ま、まんが⋮?﹂
わからないのか⋮どう説明すれば⋮
そうだ、持ってたんだ。
妹﹁えっと、これ!絵にセリフを乗っけるの。こう言うのが流行っ
てるっていうのかな?﹂
妖精﹁へえー面白そう。この女の人は何て言ってるの。﹂
妹﹁えっと⋮﹃バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。﹄﹂
自分で持ってきてなんだけど⋮
なんで選りに選ってこの本なんだ。
妖精﹁⋮すごいこと言ってるんだね。﹂
妹﹁ぜ、全部が全部こんな内容じゃないんだよ!?例えば、一人の
男の子を巡る恋の三角関係や、スポーツを頑張る話とか、同性愛と
か!﹂
153
するとガタッと右前の席の女の子が立ち上がった。
妹﹁えっ?﹂
?﹁⋮あ、いや。なんでもない。﹂
見た目は珍しく小学部らしいロリ顔で足元に触手が蠢いている生徒
がいた。
たしかスキュラっていうんだっけ。
妖精﹁転校生ちゃん?﹂
妹﹁⋮あ、いやなんでもない。ほら授業始まっちゃうよ。﹂
教室
もしかして、あの子⋮腐女子なのかな。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
四時限目終了
妹﹁授業終わったー。﹂
いちいち言わなきゃ私の場合、終わった気になれないのだ。
ウロス﹁じゃあカフェテリア行こっか!﹂
妹﹁え?でも私はお兄ちゃんと⋮﹂
ダーエル﹁カフェテリアに居たら誘えばいいだろ。﹂
154
エルフ﹁そうだね、もしいたら新しい家族で話し合わないと。﹂
お兄ちゃんごめん。
自炊は自分でしてください。
心の中で反省しながら廊下に出た。
するとカバンから見た顔が出てきた。
妹﹁よ、妖精ちゃん!?いつからいたの?﹂
妖精﹁えへへ∼。私も連れてってよ。﹂
ウロス﹁へぇー、日本ためととチヌgっちゃん。妖精ちゃんとも仲
良くなったんだー。﹂
いつのまにかウロスさんの顔も真横にあった。
エルフ﹁そうだよ。よっちゃんも来なよ。﹂
うわ、なにその駄菓子みたいなあだ名。
ダーエル﹁⋮あ。﹂
突然、ダーエルさんが声を上げた。
ダーエル﹁あそこにいるの、お前の兄ちゃんじゃね?﹂
確かにそこにはお兄ちゃんがいた⋮けど。
155
妹﹁⋮そ、そうだけど、なんでわかったの?やっぱり臭いとか?﹂
ダーエル﹁そんなに敏感じゃねえよ﹂
即答された。
ウロス﹁うーん。そもそも他種族だからってのもあるんじゃない?﹂
エルフ﹁そうだねー。例えば私たちが道にいる同じ種類の鳥は同じ
と思うのと同じだよ。﹂
そ、そういうものなのか。
妖精﹁ほらほら、そんな話をしているうちに着いちゃったよ。﹂
156
12−2話﹁妹も大変です﹂︵後書き︶
多い書くの大変。
ダークエルフさんは以前書いたのでパスします。
ミノタウロス:
ギリシャ神話に伝承される牛頭の怪物⋮だがそれだと映えないので
胸がえげつない筋肉質の女性の姿で書かせてもらいます。
ミーノース王の子が呪いで姿を変えられた結果らしい。
玉藻御前:
鳥羽上皇に仕えたと言われている九尾の狐が化けた伝説の絶世の女
性。
安倍晴明に退治されるが中国で復活、のち753年に若藻という少
女に化け来日を果たす。
なぜここまで細かいのかは不明。
エルフ:
正式にはリョース・アルヴァーという︵ちなみにダークエルフの場
合はデック・アルヴァー︶
笹穂耳や釣り目、美形で長身などの特徴があり、長命で弓が上手い
ことで有名。
妖精:
今作ではピクシーとして描かれる。
主に小さいと思われがちだが、人型や巨人型などサイズは様々だっ
たりする。
イタズラずきなのには変わりは無いが。
157
スキュラ:
ギリシャ神話に出てくる上半身が美女の怪物。
下半身はものによって異なるが、今作では創作物として代表される
﹁下半身は蛸の様な触手﹂で通させてもらいたい。
ちなみに、他のパターンだと蛇の足や魚の下半身などがある。どれ
もキャラクターが被る。
158
カフェテリア
13話﹁ミノタウロスは大きいです﹂
門星学園
ラミア﹁ん?あ!妹ちゃーん!﹂
妹﹁あ、ラミアさん!﹂
やっぱりいた。
でも、お兄ちゃんが見当たらない。
妹﹁あれ?お兄ちゃんは?﹂
ラミア﹁あぁ、タウロさんと食べ物取りに行ってる。﹂
ラミアさんはフォークをゆで卵に刺しながら教えてくれた。
妹﹁そっか。じゃあ私たちも一緒にいいですか?﹂
すると、ラミアさんは目をキラキラさせた。
よく見ると爬虫類特有の蛇目なんだなぁ⋮
妹﹁おー!妹ちゃん友だちもう出来たんだ!ええよええよ、座りな
ー。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮
159
一方
タウロ﹁そんな程度でいいのか!?﹂
タウロさんは右手に4皿左手に4皿、さらに器用なことに背中には
8皿も乗せている。しかも、全部サラダだ。
俺﹁俺は人間だし、そもそも食べる量が違いすぎる。﹂
タウロ﹁ひぐっ⋮痛いところをつくな全く。﹂
別に種族の違いなのだから気にしなくても良いと思うんけど。
俺﹁ところで気になっていたのだが⋮﹂
タウロ﹁?﹂
俺﹁人参は食べないのか?﹂
馬といえば人参だし、よくケンタウロスの出てくる漫画では人参を
好む描写がある。
なのに、皿には一切人参が入っていない。
タウロ﹁⋮じ、実はだな。恥ずかしいのだ。確かに人参は大好物だ。
しかし、人参ばかり食べてると、からかわれたりはしないだろうか
⋮?﹂
そんなことかい。
160
俺﹁そんなの、ラミアさんはどうなるんだよ。あの人卵ばっかだよ、
コレストロールマンになっちゃうよ。﹂
タウロ﹁あいつは、蛇に近いから。﹂
俺﹁あんたも馬に近いだろ。﹂
タウロ﹁うっ⋮﹂
墓穴を掘ったな。しかも、めっちゃわかりやすい穴。
俺﹁さて、戻るぞ。﹂
タウロ﹁あ、あぁ!そうだな。﹂
すると、そこにオオカミが走ってきた。
さすがオオカミ。早い。
俺﹁どうしたオオカミ忙しそうにして。またラミアさんがなんかや
らかしたのか。﹂
オオカミ﹁いや、普通に食べる場所が変わったから案内に来ただけ
だ。﹂
ふ、普通に?
俺﹁その割りには、かなり早かった気がするが﹂
オオカミ﹁あ、いやー。俺、狼男だから身体能力高い方だし⋮時速
20kmくらいなら。﹂
161
タウロ﹁ちなみに、私は55kmが限界だ。ものによれば早いのも
いるが。﹂
さすが馬と狼だ。
テラス
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
オオカミ﹁ここだ。﹂
タウロ﹁おお、こんなところがあったのか。﹂
テラスの床は全面芝で埋め尽くされており、そこからは空には数少
ない雲と球場らしきものが見える⋮多分グラウンドだろう。
この学校なんでもありだし。
ラミア﹁あっキタキタ。﹂
妹﹁あ、お兄ちゃん。﹂
俺﹁よっ。ってあれ?﹂
ふと見るといつものメンツの他にも様々なやつが増えている。
ウロス﹁あ、どうも。日本ちゃんとは仲良くさせてもらってまーす。
ウロスって呼んでください。﹂
162
ウロス⋮危ないな。タウロさんと名前が被るところだった⋮。
彼女は⋮ミノタウロスかな。だからウロスね。
タウロ﹁⋮デカい。﹂
まさかのタウロさんが困惑している。
ラミア﹁そうだよね。ここまで来るともう埋まっちゃうよね。﹂
妹﹁ってか埋まったんだけどね。﹂
ウロス﹁いや、私身長2.5mほどですし、ケンタウロスの先輩ほ
どでは。﹂
なんで皆同じ勘違いを起こすのか。
しかし、これは殺人サイズだ。
130センチの妹くらいなら簡単に埋れてしまいそうだ。
ヴァンプ﹁胸重くないのか?﹂
お前が聴くべき質問ではないと思う。
ラミア﹁ヴァンプ⋮最低。﹂
ヴァンプ﹁えっ!?なんでなんで!﹂
すると制するようにウロスちゃんが出てきた。
ウロス﹁いいですって先輩方。確かに、凄く重いです。片方だけで
も40キロはありますけど胸筋が鍛えられてますので!﹂
163
真面目に答えてくれるのも、どうかと思う。
妹﹁そうなんだ。なら水泳とか得意なの?﹂
ウロス﹁えっと⋮大きいので水の抵抗が強くて。﹂
なるほど。
タウロ﹁そうか、人型は不便だな。﹂
ウロス﹁先輩は大丈夫なのですか。かなり大きいですけど。﹂
多分これは胸のことだろう。
タウロ﹁さらに大きい人に言われると腹が立つが⋮私は立ち漕ぎだ
からな。﹂
そりゃそうだ。
逆にタウロさんがクロールをしているところを想像をできない。
続いて、隣の子が話し始めた。
エルフ﹁私は見ての通りエルフでーす。お兄さん!﹂
俺﹁は、はいっ?﹂
突如改まった態度をされたので、こちらも反応をしてしまった。
エルフ﹁妹さんを私にください!﹂
164
なにをいってるんだこの子は。
⋮キマシ?
妹﹁ちょっちょっと!﹂
俺﹁⋮うーん。俺に決定権はないけど、別にいいんじゃないか?﹂
正直面倒だし、いいや。
エルフ﹁やったー!お兄さん公認ゲット⋮﹂
ダーエル﹁バカかーっ!﹂
エルフ﹁あべしっ!﹂
⋮痛そうだ。
今度は、ダークエルフか⋮たしか俺と同じ新生徒だよな。
俺﹁珍しいな。ダークエルフとエルフが一緒に行動をしてるなんて。
﹂
妖精﹁まあ、目的が同じだからね。﹂
妹の鞄から出てきた小さいのが出てきた。
この子も生徒なのか?
ラミア﹁あっ可愛い!﹂
タウロ﹁あっ可愛い!﹂
165
ラミア﹁えっ?﹂
ふと見ると、タウロさんが明後日を見ていた。
オオカミ﹁⋮気にしてやらない方がいい。﹂
仕方がないので放っておくことにした。
俺﹁ところでさ。お前、女友達しか作ってないのか。﹂
他の生徒を見渡しても男の子がいないようだ。
妹﹁うーん。別に男友達いてもいいんだけど。偶然⋮ね。﹂
ウロス﹁でも、小学部はイケメン少ないですし。﹂
イケメン関係無い気もするけど。
まあ、仕方がないのかもしれないな。
エルフ﹁まあ、私は男には興味ないですから!﹂
恋愛とかじゃないんだが⋮
ダーエル﹁でも、男自体はいるぞ。しかしなぁ⋮男らしくないのだ。
﹂
ラミア﹁別にいいんじゃないかな。俺くんだって可愛いし。﹂
ん?
166
俺﹁複雑な気分なんだけど喜べばいいのかな。﹂
妹﹁笑えばいいと思うよ?﹂
そんなアニメ台詞みたいなこと言われても⋮
⋮ごめん、笑えないや。
すると、ヴァンプが切り出した。
ヴァンプ﹁それってどんな子なんだ?﹂
代表して答えたのはウロスちゃんだった。
ウロス﹁コボルトくんとか、他あと妖精の⋮えっと⋮ス、スプ⋮﹂
俺﹁スプリガン?﹂
というか、スプから始まる種族なんてスプリガンくらいだし。
ウロス﹁そう!⋮でも情けないんですよね、なんか。﹂
ヴァンプ﹁うーん⋮そうかー。﹂
珍しくヴァンプが悩んでいる。
意外なこともあるものだと思っていると。
ヴァンプ﹁⋮おい、オオカミ。コボルトとかスプリガンって何だ?﹂
167
それかい。
オオカミ﹁それなら俺くんの方が詳しそうだが?﹂
俺﹁⋮えっと、コボルトは犬と人間のハーフみたいな感じ。ただオ
オカミくんみたいに人から獣に変化するわけではなくって、元から
毛皮が生えてて⋮難しいな。﹂
妹﹁スプリガンは?﹂
俺﹁スプリガンは巨人に変化する妖精。自由に姿が変えられるんだ
けど⋮残念ながら主には醜い姿をしているって言われてるんだよね。
﹂
一通り説明を終えると、感嘆の声が漏れるのが聞こえた。
ウロス﹁へえー!詳しいんですね。﹂
俺﹁まあこの分野は得意なんだ。﹂
あまり褒め慣れていない僕は、少し照れ臭くなって俯く。
ダーエル﹁しかし、どちらもあまり好ましくない印象だな。﹂
うーん⋮流石に、種族否定されるのは可哀想だな。
俺﹁そんなこと言っちゃダメだよ。コボルトだって大きな鉱脈を持
ってるからお金持ちなんだよ。コバルトってコボルトが語源だし。﹂
妖精﹁⋮!﹂
168
取り敢えず、長所を述べる。
鉱脈の下りでなにやら小さい影が反応した気がするがまあいいや。
放っておこう。
俺﹁スプリガンも山に隠した大きな宝を守るために巨人の姿をして
いるんだから。⋮って全部お金関係だね⋮ごめん。﹂
しかし、意外なことに食いついた子が一名⋮。
妖精﹁⋮転校生ちゃん!仲良くなりに行くよ!﹂
妹﹁へっ!?なんで急に。﹂
現金な子だな⋮。
タウロ﹁さて、もう時間だぞ。戻ろう。どうせホームルームだけだ。
﹂
俺﹁あぁ。じゃあなカエ⋮妹よ。﹂
あ、危ねぇ⋮
なかなか慣れなさそうにはないな。
妹﹁うん、お兄ちゃん。﹂
169
カフェテリア
14話﹁スライムは弱いとは限りません﹂
門星学園
ラミア﹁ん?あ!妹ちゃーん!﹂
妹﹁あ、ラミアさん!﹂
やっぱりいた。
でも、お兄ちゃんが見当たらない。
妹﹁あれ?お兄ちゃんは?﹂
ラミア﹁あぁ、タウロさんと食べ物取りに行ってる。﹂
ラミアさんはフォークをゆで卵に刺しながら教えてくれた。
妹﹁そっか。じゃあ私たちも一緒にいいですか?﹂
すると、ラミアさんは目をキラキラさせた。
よく見ると爬虫類特有の蛇目なんだなぁ⋮
妹﹁おー!妹ちゃん友だちもう出来たんだ!ええよええよ、座りな
ー。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮
170
一方
タウロ﹁そんな程度でいいのか!?﹂
タウロさんは右手に4皿左手に4皿、さらに器用なことに背中には
8皿も乗せている。しかも、全部サラダだ。
俺﹁俺は人間だし、そもそも食べる量が違いすぎる。﹂
タウロ﹁ひぐっ⋮痛いところをつくな全く。﹂
別に種族の違いなのだから気にしなくても良いと思うんけど。
俺﹁ところで気になっていたのだが⋮﹂
タウロ﹁?﹂
俺﹁人参は食べないのか?﹂
馬といえば人参だし、よくケンタウロスの出てくる漫画では人参を
好む描写がある。
なのに、皿には一切人参が入っていない。
タウロ﹁⋮じ、実はだな。恥ずかしいのだ。確かに人参は大好物だ。
しかし、人参ばかり食べてると、からかわれたりはしないだろうか
⋮?﹂
そんなことかい。
171
俺﹁そんなの、ラミアさんはどうなるんだよ。あの人卵ばっかだよ、
コレストロールマンになっちゃうよ。﹂
タウロ﹁あいつは、蛇に近いから。﹂
俺﹁あんたも馬に近いだろ。﹂
タウロ﹁うっ⋮﹂
墓穴を掘ったな。しかも、めっちゃわかりやすい穴。
俺﹁さて、戻るぞ。﹂
タウロ﹁あ、あぁ!そうだな。﹂
すると、そこにオオカミが走ってきた。
さすがオオカミ。早い。
俺﹁どうしたオオカミ忙しそうにして。またラミアさんがなんかや
らかしたのか。﹂
オオカミ﹁いや、普通に食べる場所が変わったから案内に来ただけ
だ。﹂
ふ、普通に?
俺﹁その割りには、かなり早かった気がするが﹂
オオカミ﹁あ、いやー。俺、狼男だから身体能力高い方だし⋮時速
20kmくらいなら。﹂
172
タウロ﹁ちなみに、私は55kmが限界だ。ものによれば早いのも
いるが。﹂
さすが馬と狼だ。
テラス
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
オオカミ﹁ここだ。﹂
タウロ﹁おお、こんなところがあったのか。﹂
テラスの床は全面芝で埋め尽くされており、そこからは空には数少
ない雲と球場らしきものが見える⋮多分グラウンドだろう。
この学校なんでもありだし。
ラミア﹁あっキタキタ。﹂
妹﹁あ、お兄ちゃん。﹂
俺﹁よっ。ってあれ?﹂
ふと見るといつものメンツの他にも様々なやつが増えている。
ウロス﹁あ、どうも。日本ちゃんとは仲良くさせてもらってまーす。
ウロスって呼んでください。﹂
173
ウロス⋮危ないな。タウロさんと名前が被るところだった⋮。
彼女は⋮ミノタウロスかな。だからウロスね。
タウロ﹁⋮デカい。﹂
まさかのタウロさんが困惑している。
ラミア﹁そうだよね。ここまで来るともう埋まっちゃうよね。﹂
妹﹁ってか埋まったんだけどね。﹂
ウロス﹁いや、私身長2.5mほどですし、ケンタウロスの先輩ほ
どでは。﹂
なんで皆同じ勘違いを起こすのか。
しかし、これは殺人サイズだ。
130センチの妹くらいなら簡単に埋れてしまいそうだ。
ヴァンプ﹁胸重くないのか?﹂
お前が聴くべき質問ではないと思う。
ラミア﹁ヴァンプ⋮最低。﹂
ヴァンプ﹁えっ!?なんでなんで!﹂
すると制するようにウロスちゃんが出てきた。
ウロス﹁いいですって先輩方。確かに、凄く重いです。片方だけで
も40キロはありますけど胸筋が鍛えられてますので!﹂
174
真面目に答えてくれるのも、どうかと思う。
妹﹁そうなんだ。なら水泳とか得意なの?﹂
ウロス﹁えっと⋮大きいので水の抵抗が強くて。﹂
なるほど。
タウロ﹁そうか、人型は不便だな。﹂
ウロス﹁先輩は大丈夫なのですか。かなり大きいですけど。﹂
多分これは胸のことだろう。
タウロ﹁さらに大きい人に言われると腹が立つが⋮私は立ち漕ぎだ
からな。﹂
そりゃそうだ。
逆にタウロさんがクロールをしているところを想像をできない。
続いて、隣の子が話し始めた。
エルフ﹁私は見ての通りエルフでーす。お兄さん!﹂
俺﹁は、はいっ?﹂
突如改まった態度をされたので、こちらも反応をしてしまった。
エルフ﹁妹さんを私にください!﹂
175
なにをいってるんだこの子は。
⋮キマシ?
妹﹁ちょっちょっと!﹂
俺﹁⋮うーん。俺に決定権はないけど、別にいいんじゃないか?﹂
正直面倒だし、いいや。
エルフ﹁やったー!お兄さん公認ゲット⋮﹂
ダーエル﹁バカかーっ!﹂
エルフ﹁あべしっ!﹂
⋮痛そうだ。
今度は、ダークエルフか⋮たしか俺と同じ新生徒だよな。
俺﹁珍しいな。ダークエルフとエルフが一緒に行動をしてるなんて。
﹂
妖精﹁まあ、目的が同じだからね。﹂
妹の鞄から出てきた小さいのが出てきた。
この子も生徒なのか?
ラミア﹁あっ可愛い!﹂
タウロ﹁あっ可愛い!﹂
176
ラミア﹁えっ?﹂
ふと見ると、タウロさんが明後日を見ていた。
オオカミ﹁⋮気にしてやらない方がいい。﹂
仕方がないので放っておくことにした。
俺﹁ところでさ。お前、女友達しか作ってないのか。﹂
他の生徒を見渡しても男の子がいないようだ。
妹﹁うーん。別に男友達いてもいいんだけど。偶然⋮ね。﹂
ウロス﹁でも、小学部はイケメン少ないですし。﹂
イケメン関係無い気もするけど。
まあ、仕方がないのかもしれないな。
エルフ﹁まあ、私は男には興味ないですから!﹂
恋愛とかじゃないんだが⋮
ダーエル﹁でも、男自体はいるぞ。しかしなぁ⋮男らしくないのだ。
﹂
ラミア﹁別にいいんじゃないかな。俺くんだって可愛いし。﹂
ん?
177
俺﹁複雑な気分なんだけど喜べばいいのかな。﹂
妹﹁笑えばいいと思うよ?﹂
そんなアニメ台詞みたいなこと言われても⋮
⋮ごめん、笑えないや。
すると、ヴァンプが切り出した。
ヴァンプ﹁それってどんな子なんだ?﹂
代表して答えたのはウロスちゃんだった。
ウロス﹁コボルトくんとか、他あと妖精の⋮えっと⋮ス、スプ⋮﹂
俺﹁スプリガン?﹂
というか、スプから始まる種族なんてスプリガンくらいだし。
ウロス﹁そう!⋮でも情けないんですよね、なんか。﹂
ヴァンプ﹁うーん⋮そうかー。﹂
珍しくヴァンプが悩んでいる。
意外なこともあるものだと思っていると。
ヴァンプ﹁⋮おい、オオカミ。コボルトとかスプリガンって何だ?﹂
178
それかい。
オオカミ﹁それなら俺くんの方が詳しそうだが?﹂
俺﹁⋮えっと、コボルトは犬と人間のハーフみたいな感じ。ただオ
オカミくんみたいに人から獣に変化するわけではなくって、元から
毛皮が生えてて⋮難しいな。﹂
妹﹁スプリガンは?﹂
俺﹁スプリガンは巨人に変化する妖精。自由に姿が変えられるんだ
けど⋮残念ながら主には醜い姿をしているって言われてるんだよね。
﹂
一通り説明を終えると、感嘆の声が漏れるのが聞こえた。
ウロス﹁へえー!詳しいんですね。﹂
俺﹁まあこの分野は得意なんだ。﹂
あまり褒め慣れていない僕は、少し照れ臭くなって俯く。
ダーエル﹁しかし、どちらもあまり好ましくない印象だな。﹂
うーん⋮流石に、種族否定されるのは可哀想だな。
俺﹁そんなこと言っちゃダメだよ。コボルトだって大きな鉱脈を持
ってるからお金持ちなんだよ。コバルトってコボルトが語源だし。﹂
妖精﹁⋮!﹂
179
取り敢えず、長所を述べる。
鉱脈の下りでなにやら小さい影が反応した気がするがまあいいや。
放っておこう。
俺﹁スプリガンも山に隠した大きな宝を守るために巨人の姿をして
いるんだから。⋮って全部お金関係だね⋮ごめん。﹂
しかし、意外なことに食いついた子が一名⋮。
妖精﹁⋮転校生ちゃん!仲良くなりに行くよ!﹂
妹﹁へっ!?なんで急に。﹂
現金な子だな⋮。
タウロ﹁さて、もう時間だぞ。戻ろう。どうせホームルームだけだ。
﹂
俺﹁あぁ。じゃあなカエ⋮妹よ。﹂
あ、危ねぇ⋮
なかなか慣れなさそうにはないな。
妹﹁うん、お兄ちゃん。﹂
180
15話﹁コボルトはコバルトの語源です﹂
時間が来るまで暇なので、近くをウロウロすることにした。
すると、派手な見た目の建物が目に入った。
俺﹁⋮あれは、ゲームセンター?こんなところにもあるのか。﹂
ラミア﹁なにそれ。﹂
意外なことに、ラミア以外の世界には存在するらしく、ヴァンプが
代表して説明をしていた。
ヴァンプ﹁ゲームが出来るところだ。﹂
しかし、説明簡単すぎである。
妹﹁私久々だし、行きたいなぁ。﹂
そういえば、一昨年家族と暇つぶしに寄ってから行ってないな。
タウロ﹁しかしだな⋮ゲームセンターは貯金箱と言ってだな⋮﹂
⋮それってクレーンゲーム以外にも言えるんだ。
オオカミ﹁⋮たまには良いんじゃないか?﹂
結局ちょっとした暇つぶしという丁でゲームセンターに入ることに
した。
181
城下町
ゲームセンター
俺﹁改めて見ると⋮異色だな。﹂
内装は日本のものと全然変わらない。
ただ変なものがウヨウヨはしてるけど。
妹﹁⋮あれ、なにが浮いてるの?﹂
やはり妹も奇怪に思ったらしい。
少し引いている。
タウロ﹁さ、さぁ飾りみたいなやつじゃないか?﹂
⋮この世界の美徳センスはおかしい
ヴァンプ﹁あれは、飾りに困ってガラクタを浮かせてるだけだと思
うぞ。﹂
そうかな⋮そうだな。
妹﹁あ!見て見て懐かしい!これってDDRじゃない!?﹂
そこには、まごうことなき数が減ってしまった巨大な有名アーケー
ドゲームが置いてあった。
俺﹁うわっ本当だ。こんなところにも進出していたのか⋮﹂
異世界だぞ⋮ここ。
182
ラミア﹁知ってるならやろうよ!﹂
⋮だからと言って、やったことは無いんだが。
俺﹁んー⋮まあいいか。﹂
とりあえずお金を入れて始めてみることにする。
やったことはないが、説明文がルメヨ文字なのは日本と違うので違
和感がある。
妹﹁さあお兄ちゃんがんばって∼。始まるドーン!﹂
俺﹁それ、違うから!﹂
うお、意外と難しいな。
手で叩くのとは全然違うし、全く足が着いて行かない⋮。
結果もCランクだった。
俺﹁ゼーゼー⋮こ、これはタウロさん向けだ。﹂
タウロ﹁私には乗れないぞ!?﹂
すると、ラミアが両手で自分の顔を叩いて気合を入れた。
完全に女子高生のすることではない。
ラミア﹁じゃあ私が仇を取りに⋮﹂
するとまた、ヴァンプが余計なツッコミを入れる。
183
ヴァンプ﹁やめろ!お前が乗ったら壊れ⋮﹂
あーあ。
ベシッと激しい音がなる。
今度は、ラミアに吹っ飛ばされたらしい。
妹﹁すごーい!スライムさんうまーい!﹂
いつの間にかスライムさんがプレイしていた。
4本の触手を出し器用に床を叩いている⋮
俺﹁いやいや!それ反則だろ!?﹂
俺のツッコミも、ついにだれも聞かなくなってしまったようだ。
ラミア﹁ねー、あれはー?﹂
なるほど自分が出来ないものには興味がないらしい。
指を差す方向にあるのは某太鼓のゲームだった。
スライムさんの結果はSSと分かりきっていたので、行くことにす
る。
俺﹁まあこれも似たようなゲームだよ?﹂
これなら誰でも出来るだろう。
ラミア﹁リズムゲームだね!赤は真ん中だね!よし!﹂
184
始まるドーン。
ドーン⋮
⋮
え?
っ
壊
し
や
が
っ
た
ラミア﹁え?あれ?試し打ちに一回叩いただけだよ?﹂
ぶ
俺﹁な、ちょ⋮え?﹂
俺が困惑してるなか、オオカミは冷たく告げた。
オオカミ﹁校則24条、生徒の壊したものは自己負担とする。﹂
ラミア﹁ええええええっ!?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮
ラミア﹁うう⋮ほとんどないよ。﹂
なんとか、ラミアさんにも出来るゲームを探す。
近くに、某ボタンを叩くリズムゲームが見つかった。
俺﹁え、えっと、あれならどう?手で叩くやつ!あれなら⋮不安だ
ね。ごめん。﹂
185
ふと見ると、懐かしきパンチングマシーンがあった。
俺﹁あ、これは懐かしいなぁー。﹂
流石にこれの知名度は世界どころか世代によっても変わるだろうな。
ヴァンプ﹁なんだこれは。﹂
ど、どういえばいいかな。
俺﹁殴るゲーム?﹂
妹﹁間違いじゃないけど、もっと分かりやすくいいなよー。﹂
いつの間にか妹がスライムさんを乗せて戻ってきた。
手に持っているのはぬいぐるみだろうか。
俺﹁そのぬいぐるみは?﹂
妹﹁いや、UFOキャッチャーで欲しいなーって思ったら、スライ
ムさんが中に入って取ってくれた。﹂
それ、クレーンの意味なくね。
すると、ヴァンプが機械にお金を入れた。
ヴァンプ﹁じゃあ一人ずつしようぜ。じゃあ俺から⋮どりゃっ!﹂
バコッっと軽い音がなった。
結果は⋮
186
ヴァンプ﹁⋮強さ2﹂
落胆していた。
オオカミ﹁お前は、あれだろ。スピードタイプだからな。﹂
ヴァンプ﹁⋮言い出しっぺがこうだとかなり来るものがあるな。﹂
ヴァンプがしょげているのを楽しそうに見た後、オオカミは腕まく
りをした。
オオカミ﹁よし、仇を取ろう。⋮ふんっ!﹂
今度は、先ほどよりも大きくバスッと音が聞こえた。
結果は強さ7だった。
俺﹁おお、強いな。﹂
オオカミ﹁おうよ。﹂
流石、獣の血が流れているだけはある。
俺﹁じゃあ、俺も⋮﹂
慣れてるのは多分一番俺だ。
これはコツがある。計測器のあたりを狙って打つ。それだけでかな
り変わる。
これなら、俺も勝てるはず。
187
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁1だって。﹂
な、なんだこれは⋮モンスター用に改良されているのか⋮?
ラミア﹁俺くんの仇おりゃーっ!﹂
なにも言う前にラミアさんが殴る。
思いっきり機械が揺れている。
壊れるかと思ったが、なんとか持ちこたえた。
ラミア﹁えっ!?41!?﹂
衝撃の数字につい突っ込みを入れてしまった。
俺﹁え。これ強さいくつまであるんだ⋮?﹂
ラミア﹁そこじゃないよっ!男子勢抜かすとそれはそれで恥ずかし
いよ!﹂
さて、残るは3人だが。
俺﹁スライムさんは力ないよな。器用だけど。﹂
それに関しては知識はある。
殆ど液状で骨も筋肉も無いのだから、スライムは力が弱いのだ。
妹﹁あ、私これダメだから。﹂
188
ということは残るは。
タウロ﹁私か⋮いいだろう。相手になろう。﹂
剣は抜かないでほしい。
しかし、タウロさんか⋮。
加減を間違えたりはしないかな。
タウロ﹁そい。﹂
⋮それは、すごい音だった。
例えるなら、巨大な岩が落ちてきたような⋮トンネルが突然崩れた
ような音だった。
タウロ﹁どうだ!?﹂
力の加減をしたのは、伝わったが⋮
ラミア﹁⋮壊れたよ。﹂
ラミアの有りのままを伝えた言葉にタウロさんは某然とした。
タウロ﹁⋮⋮。﹂
⋮言えない
正直予想していたなんて言えない。
189
ヴァンプ﹁予想は出来ていたんじゃないか?﹂
オオカミ﹁あ、ばか。﹂
すると、タウロさんは顔を上げずに少し後ろに下がって、助走をつ
けて思いっきりヴァンプに拳を打ち込んだ。
そして、そのまま店内を出て行った。
次々にヴァンプへのフルボッコを始める
オオカミ﹁あっ!⋮この野郎!﹂
ヴァンプ﹁⋮俺もそこそこ被害あってんだけど。﹂
ラミア﹁あんた、すぐに回復するでしょ!!えっと俺くんとスライ
ムさん追いかけて!﹂
指示されたので、頷きスライムさんとともに外に出る。
って⋮
俺﹁どうしようっ!あの人、時速55キロあるんだった!﹂
こんなの追いつくには⋮なにか、乗り物がなくちゃ⋮
俺﹁⋮え?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
190
城下町
うぅ⋮
街道
わ、私は何故こうも周りに合わせられないのだ⋮
種族の違いだから、仕方ないにしてもチョイと力を入れただけなの
に⋮
どうして、壊してしまったんだ⋮
やはり、私はここに居るべきでは無いのだろうか⋮
いっそのこと、学園中退して田舎に⋮
ん?後ろから何やら騒音が⋮
タウロ﹁な、なんなんだあれはぁぁぁぁあっ!?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁す、スライムさん⋮こんな能力あったんですね。﹂
スライム﹁♪﹂
気を利かしてくれたのか。
スライムさんはなんと、ハーレーに形を変えた。
しかも、150ccなのでかなり早い。
俺は運転は出来ないものの、スライムさんが勝手に動いてくれるの
191
で操縦も助かる。
この調子だと、すぐに追いつく⋮
俺﹁え?﹂
スライム﹁!?﹂
突然、タウロさんが急に止まった。
時速55キロから急に止まれるのも凄いと思うがそれ以前にこちら
が止まれない。
スライム﹁!!﹂
俺﹁うわっ!﹂
スライムさんが何とか飛び跳ねたお陰で助かったが、このままでは
壁にぶつかる⋮
ヤバい⋮これは、久々にヤバい!
タウロ﹁お、俺く⋮!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮?
助かったのか?
192
というよりも、目の前にタウロさんが⋮って近っ!?
俺﹁うわっ!タウロさん!﹂
僕の声に驚き、タウロさんは後ろに飛びはねた。
タウロ﹁わわっ!す、すまん!怪我はないか見ていただけなのだ。﹂
⋮ん?
俺﹁って、あれ?なんで助かったの?﹂
すると、背中にムニムニとした柔らかいものが当たっているのを感
じた。
後ろを見ると⋮
俺﹁す、スライムさん?﹂
スライム﹁⋮ダイジョーブ?﹂
人型になったスライムさんの抱擁に包まれていた。
体が少し大きくなっているのは、俺を包み込める大きさにするため
だろうが⋮
人型にならなくても、良かったと思う。
しかし、そうしたらスライムさんの巨乳に包まれることは無かった
と思う。
⋮どうでもいいな。
193
俺﹁あ、ありがとう。﹂
スライムさんに感謝を告げる。
スライムさんはそれを聞き、嬉しそうに微笑んだ。
タウロ﹁うっ⋮くっ⋮﹂
突然、タウロさんが声をこもらせた。
俺﹁タ、タウロさん!?﹂
タウロ﹁うわあああん!﹂
タウロさんは、大声をあげて泣き出した。顔も隠さずに泣くなんて
タウロさんの割りには珍しい。
ラミア﹁ゼーゼー⋮タウロさん見つかった?ってええっ!泣いてる
!﹂
ラミアたちもちょうど追いついたようだ。
タウロさんは我に返って顔を両手で隠した。
タウロ﹁う⋮や、やめ⋮見ないでくれ⋮﹂
今のままでは、話をすることも出来なさそうだ。
俺﹁⋮とりあえず、落ち着いてから話してよ。﹂
数分後、タウロさんは息を整えて話し始めた。
194
タウロ﹁⋮私の家は、実は農家なんだ。ただ兄者だけが騎士を率い
ており。私の憧れだった。しかし、私は所詮農馬。サラブレッドほ
ど速く走ることは出来ないのだ。
でも、負けず嫌いというのか、馬鹿というのか⋮諦められなかった。
﹂
みんな、意外にタウロさんの話を聞いているにも関わらず表情を崩
さない。真剣な目をしている。
タウロ﹁そこで、私は大型種の特徴を活かしてスピードを力と持続
力で補った。そして、騎士の卵として騎士学校にも入学出来たのだ。
そして、転機が訪れた。門星学園への入学だ。私と一緒に初の人間
が入ると聞いて、私は騎士経験を活かして他種族と比べ弱い人間を
護ることで自分の実力を図ろうと思ったのだ。﹂
確かに、入学の時や妹の転入の時など護られたということに思い当
たる節がある。
というより、多すぎるほどだ。
タウロ﹁しかし、このザマだ。迷惑しかかけていない。今回なんか、
逆に俺くんに怪我をさせかけたのだ。⋮もはや、騎士失格だ。私は
⋮田舎に帰るべきなのかもしれん。﹂
ラミア﹁か、帰るって待ってよ!何もそこまで⋮﹂
ラミアの言葉が終わるまでにタウロさんは言った。
タウロ﹁いや、私は何度も護るといいながら、傷つけてばかりいた。
なによりも、俺くんを試験台に使っていたのだ⋮罪は重い。﹂
195
どう声をかけようかな⋮
全然わからなくなってしまった⋮
妹﹁でもタウロさんは何も悪くないもん!ね?お兄ちゃん!﹂
俺﹁あ、ああ!そうだ!﹂
反射的に答えた後、言葉を綴る。
俺﹁俺が⋮人間が弱いというのは本当だし。それを、護ろうと考え
てくれていたのは、嬉しいよ。それに、いつも第一に俺のことを心
配してくれるじゃないか。﹂
結構反射のままに委ねてみると言葉が出て来るものだ。
これは、妹のナイスパスだな。
タウロ﹁あ⋮うぅ⋮﹂
タウロさんは歯を食いしばり始めた、また泣きそうなのか。
俺﹁⋮俺はさ、他種族の知識と体のタフさだけが取り柄だからさ。
埋められる穴のところはタウロさんに埋めてほしいな。﹂
タウロ﹁///////っ!?﹂
あ、あれ?俺、なんか変なこと言った?
妹﹁お、お兄ちゃん!それっていわゆるプロポーズにしか聞こえな
いよ!﹂
196
ラミア﹁タ、タウロさんに先を越されるなんて⋮﹂
⋮え?おれ、なんて言ったんだ?
俺﹁ええっ!?あっ!タ、タウロさん!そ、そんなつもりで言って
ないから!﹂
うわわわわ
これは、どうしようもないぞ?
タウロ﹁い、いや⋮お、俺くんなら⋮構わない。﹂
ラミア﹁なあああっ!?﹂
な、なんだとおおおお!?
タウロさんがこんなにチョロいとは思いもしなかった⋮
俺﹁ご、ごめんな。自分から言っといてだけど、さっきのは撤回し
てくれないかな。﹂
タウロ﹁ならん!﹂
えっ。
タウロ﹁私は⋮こんなにも胸に高鳴りを抱いたことは無かった。こ
のようなのは初めてなのだ。そばに置いてくれ!﹂
ラミア﹁だめーっ!な、なら、タウロさんは騎士としてそばに居た
197
らいいじゃん!﹂
あ、その手があった。
タウロ﹁それはよいな!なら、私の剣を俺くんに授けよう。我が主
と未来の嫁候補として⋮﹂
あれ?
タウロ﹁婿として来てくれるのを楽しみにしているぞ。﹂
オオカミ﹁婿養子か。﹂
ラミア﹁うあああん!!なんでこうなるのぉ!?﹂
タウロさんはその後も、俺の胸の中で涙が乾くまで顔を埋めていた。
198
武器屋
16話﹁ケットシーは策士です﹂
城下町
そろそろ一時間が経ったので、武器屋に武器を取りに行くことにし
た。
相変わらず、店の中は竃の火で顔が火傷しそうだ。
店員﹁お!来たか!ほら、約束のものだ。﹂
こんな休日なのだから、注文する人は多いと思うけど。
やっぱり武器で客を覚えるのかな。
俺﹁おおっ!すげぇー!本物のSIG556だぁっ!﹂
⋮まあ武器知識は詳しいわけじゃないけど。
店員﹁ふふふ実はな、これには少し仕掛けがあってだな。ここをこ
うすると⋮ほら、形が変わった!お前さん人間の生徒だろ?オマケ
だ。﹂
俺﹁おおっ!これは⋮なんだっけ。﹂
もう一度言うが、武器には詳しくはない。
妹﹁DSR−1だよ、お兄ちゃん。﹂
⋮妹よ。
199
お前は、なんでそんなことを知っているんだ。
店員﹁まあ他は弄って試してくれ。ほれ、これ説明書な。じゃあ、
次は蛇のねーちゃん。﹂
ラミアと交代すると同時にパンフレット程度の大きさの紙を渡され
た。
説明書か⋮あまり読まないタイプだけど、流石に銃だから見た方が
良さそうだ。
それに、異世界の銃だし勝手が違うかもしれないからな。
ラミア﹁私のは、どんなのかなーっ?﹂
店員﹁ふふふ⋮どうだ!﹂
ガチッと音を立てて机の上に置かれたのは、まさしく忍者の持つよ
うな両端が鎖で結ばれた二本の短剣だった。
ラミア﹁うひゃーっ!これだよー!可愛いなぁ全くお前はーっ!﹂
今までも、この人がどこか変なのは知っていたけど。
刃物に愛着を持つのは普通に皆引いていた。
店員﹁じゃ、じゃあこれも使い勝手が難しいから説明書だ。えー、
あぁそうだ、次はそこのメガネの兄ちゃん。﹂
次にオオカミが呼ばれると、丁度ラミアが俺に声をかけてきた。
ラミア﹁俺くん俺くん、そこに練習場あるし武器の性能、試してみ
200
ない?﹂
俺﹁⋮手合わせって奴か?死ぬぞ、俺。﹂
冗談で言ったのに、ラミアは必死に手を前でブンブンと振り出した。
ラミア﹁ち、違うよ!ほら、流石に部屋で練習するわけにもいかな
いし、それに早速使い勝手を試したいじゃん。﹂
まあ納得だ。
でも一応許可は取っておこう。
俺﹁店員さん。練習場借りていいっすか?﹂
ドワーフは、オオカミのナックルのサイズ調節をしながらこちらを
向いた。
店員﹁ん?いいぞ。好きなだけ使ってくれ。﹂
妹﹁じゃあ、私も貰ったら行くね。﹂
出来ればお前に切られないようにしたい。
練習場
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
武器屋
練習場内はやはりドワーフが作ったと思われる様々な武器にあった
設備があった。
201
銃向きに、きちんと射撃台もある程だ。
試しに幾つか弾を打ってみた。
俺﹁えっと⋮安全装置を外して⋮弾を入れて⋮あれ?弾は?﹂
ラミア﹁俺くん、説明書!﹂
ちなみに、ラミアは向こうで短剣を使いバッティングマシンから飛
ばされる球を素早い動きで切り刻んでいる。
⋮早速慣れたようだ。
俺﹁あ、そうか。えっと⋮ほう、弾は要らないのか。﹂
流石異世界と言ったところだろうか、弾の代わりに飛ばすのは銃に
込められた魔力らしい。
俺﹁⋮まあ、俺の魔力はまだたかが知れてるだろうし、今はこの魔
力タンクを使う方がいいらしい。﹂
多分この説明は、俺が人間ということに対するドワーフの配慮だろ
う。
改めて、弾を打つ。
俺﹁パーン!パーン!﹂
ラミア﹁⋮えっ?﹂
202
俺﹁ダダダダダダダダッ!!﹂
ラミア﹁俺くん⋮?﹂
俺﹁セダーン!セダーン!﹂
ラミア﹁俺くんっ!?﹂
聞こえていたが、そろそろ無視も出来ないだろう。
俺﹁こいつ、凄いな。きちんと打てているのに銃声も反動も無いし、
もう効果音も口で言うしかないな。﹂
ラミア﹁⋮口で言う意味なくない?もう変な人にしか見えなかった
よ?﹂
それにしても、扱いやすい。
見た目程重たくないし、何より銃器が変わるのが凄い。
ボタン一つで形が変わるところとか、まるでFPSそのものだ。
俺﹁ほう、グレネードもあるのか。﹂
試したい⋮
でも、絶対試したらいけない⋮っ!
自制をし終える時には、既に全員集まっていた。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
203
ヴァンプ﹁ほー、軽いな。﹂
オオカミ﹁お前が持つと、修学旅行でヤンキーが買った模造刀みた
いだな。﹂
なるほど、他の世界にもそういう奴はいるのか。
ヴァンプ﹁んー。そうだ。模擬戦しようぜ!﹂
突然の提案にどよめいた。
タウロ﹁私はいいが⋮危なくないか?﹂
タウロさんの言うのも最もだ、今日貰った武器をいきなり扱えるわ
けがない。
ヴァンプ﹁大丈夫、武器を弾くっていうだけだから。﹂
ラミア﹁ならいいじゃん。私は、ヴァンプに賛成。早速使ってみた
いし。﹂
オオカミとタウロさんも渋々承諾したようだ。
ヴァンプ﹁よし!じゃあ俺くんやるか!﹂
俺﹁ええええっ!?なんで俺!﹂
逆に、レイピアだと面積が小さいし、ヴァンプの方が危ない気がす
る⋮。
204
ヴァンプ﹁折角だしな、それに俺は銀の弾丸じゃない限り死なない
ぞ!﹂
いや、それでも致命傷はできるだろ。
俺﹁うー、仕方が無いか。どうなっても知らないからな。﹂
勝ち目は無いと思うけど。
オオカミ﹁じゃ、始めー。﹂
はやっ!
そんなあっさり告げられても⋮
俺﹁え!ちょちょっと弾込める時間が⋮﹂
あたふたしている時間、2秒。
それだけでも、ヴァンプにとっては充分だったようだ。
ヴァンプ﹁悪いなっ!﹂
俺﹁よし!⋮あっ!?﹂
何か打ち付ける音がなり、手から愛銃が放たれた。
やはり、スピード以前の問題だ。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
205
城下町
喫茶店
俺﹁やっぱり、俺は戦いなんて無理だって。﹂
武器屋を出ると、そろそろ昼ごはんの時間だったので、折角なので
城下町で取ることにした。
選んだ店は、まさに庶民的と高貴的の間のような店だったが、俺た
ちのような学生でも普通に入れてくれた。
⋮まあ喧騒もない静かな雰囲気だから良しとしよう。
タウロ﹁俺くんはそのままで良いと私も思う。﹂
ラミア﹁いや、タウロさんの場合は俺くんが強かったら専属の騎士
になる意味がないからでしょっ!﹂
サンドウィッチを食べた後に頼んだケーキとコーヒーが出てきた。
ふむ⋮少し砂糖入れよ。
ヴァンプ﹁あ、ちなみにここ、俺くんの奢りだから。﹂
えっ⋮?
少し驚いて砂糖をこぼしてしまった。
いやいや、そんなことより!
俺﹁はぁっ!?な、なんで!﹂
ヴァンプ﹁え、いや、だって。⋮負けたじゃん。﹂
206
えー。
あれは負けイベントじゃないの?
俺﹁ちょ、おい!皆もなんか言ってくれよ!﹂
俺の泣き言に返ってきたのは、半分は予想していた悲しき現実だっ
た。
みんな﹁﹁ゴチになります﹂﹂
俺﹁⋮えー。﹂
仕方が無いので、財布を見る。
大丈夫だ、まだ今月の家賃を使えば⋮
となど考えていると、突如野太い男の怒声が聞こえてきた。
男﹁おいコラ!俺の服汚しやがって!﹂
すると、言われた女性も控えめながら反論する。
女性﹁いや、貴方が勝手にぶつかって零したのでしょう?それに、
零れたのはただの水です。﹂
男﹁うるせぇっ!この服、いくらしたと思ってんだ!しみになる前
にクリーニング代、慰謝料等払ってもらおうか。﹂
無理やりな言いがかりに妹が俺に質問する。
妹﹁ねぇお兄ちゃん。普通、水ってしみならないよね。それに、あ
207
の服、さっきの店でみた服だよ。﹂
まあ、シミは物によったらなるけど。
妹﹁ついでに、服が売ってた店じゃなくて雑貨屋ね。﹂
それを聞き、ラミアが表情を変える。
ラミア﹁つまり⋮どういうこと?﹂
先ほどの流れから考えられる答えはすぐに出るが、代わりにオオカ
ミが答えた。
オオカミ﹁つまり、言いがかりをつけて金を盗ろうとしているんだ
ろう。﹂
やるせない問題だが、善があれば悪もある。
あの学園長もそう考えてこの世界を世界を創造したのだろう。
ものの秩序を考えれば仕方ないことだろう。
しかし、オオカミの言葉を聞いたラミアは血相を変えて飛び込もう
とした。
ヴァンプ﹁お、おいヤメろ!﹂
間一髪、タウロさんがラミアの手を掴み制することができた。
ラミア﹁なんでっ!あの女の人、何も悪くないんだよ!?﹂
オオカミ﹁校則にあるだろ!一般人のトラブルには首を突っ込むの
208
はダメだ!﹂
オオカミに続けてタウロさんも冷静に注意する。
タウロ﹁それに、このようなことで首を突っ込むと体がいくつあっ
ても足りないぞ。﹂
タウロさんの言葉を聞き、ラミアは項垂れた。
ラミア﹁う、うん⋮﹂
一方、喧騒はまだ収まっていなかった。
女性﹁もういい加減にしてよ!本当にコーヒーとかぶっかけるわよ
!﹂
男﹁あぁ!?女のくせにお前なっ⋮!?﹂
バキッと音が聞こえたと思うと、瞬間に男は倒れていた。
そこに残されていたのは、唖然とする女性と冷や汗をかくタウロさ
んの2人だけだった。
俺﹁あっ。﹂
タウロ﹁うああああああああっ!?わ、私は、な、なんでことを⋮
っ!?こ、今度こそ田舎に⋮﹂
何が起こったのかは、タウロさんの手に持ったランサーで一目でわ
かる。
多分、女性差別を聞いて許せなくなって思いっきり殴ったのだろう。
209
すると、男はまだ意識があったのか体を起こした。
男﹁こ、この野郎⋮たかが学生のアマになにが出来るってんだ。﹂
⋮顔に蹄鉄の跡がついている。
ランサーは関係なかったらしい。
それを見たヴァンプは呆れて頭を抱えた。
ヴァンプ﹁あいつ⋮なにやってんだよ⋮。﹂
オオカミ﹁仕方ない。あいつ、まだあの男、仲間がいるようだし加
勢するか。﹂
何故かオオカミも乗り気に見えるのは気のせいだと信じたい。
俺﹁ええっ!ちょ、危ないって!﹂
俺の心配を無視して2人とも行ってしまった。
男の方を見ると、オオカミの言葉の通り、それなりに仲間がいたら
しい。
妹﹁お、お兄ちゃん⋮﹂
俺﹁だ、大丈夫だよ。﹂
ここに来てから、なんだか頼りないところしか見せていない。
こういう時くらいは兄らしくするべきだろう。
しかし、妹の口から出てきたのは信じがたい言葉だった。
210
妹﹁私も加勢したい!﹂
俺﹁⋮!?﹂
それを聞いて、脇にいたラミアも声を上げる。
ラミア﹁よーし!じゃあ私についてきなさーい!﹂
俺﹁おい!校則ってなんだったんだよ!﹂
俺の声も虚しく届かないまま、また2人と立ち去ってしまった。
もう既に残されたのはスライムさんと俺だけだ。
俺﹁⋮はぁどうしよう、スライムさん。﹂
そう言っても、スライムさんはポヨポヨしているだけで俺にはスラ
イムさんの言葉はわからなかった。
俺﹁⋮コルク銃とか麻酔銃にはならないのかな。﹂
狙撃ぐらいなら手伝えそうなので弄ってみることにする。
さっきラミアに注意されて、説明書を読んだ時、ボタンだけでなく
自分の意思でも銃は変わると書いてあった。
その通りに使えるなら、試すのにいい機会だ。
俺はさっきの葛藤を忘れて、形を変えてを忍ばせた麻酔銃に手をか
けた。
211
俺﹁⋮ほいっ!﹂
的は動いているものの丁度敵の首に針が刺さった。やはり反動が無
いと軸がぶれにくい。
刹那男は眠るように倒れた⋮ってか事実眠ったんだけど。
スコープを追加して覗く。
他の人たちもかなり優勢に戦っているようだ。
妹ととかは適当に振り回してるようにしか見えないけど。
しかし⋮
夢中になりすぎていたのか、首に冷たいものが触れる。
スコープから顔を外すと後ろには顔の濃い男が刃物を俺に向けてい
た。
これは、ヤバい。マスケットに形を変えるにも、変な行動を起こし
たとみて首が跳ねるのは見えている。
しかし、なにより。
⋮他の人たちにバレたくないっ!!
これで叫び声とかあげたらマジで俺の中の男が他の人から消える気
がする。
すると、歯を食いしばって我慢した甲斐があったのだろうか、また
は単なる幸運か。⋮まあ後者だろう。
スライムさんが男の顔にへばりついた。窒息でもさせる気だろうか。
スライム﹁⋮。﹂
終いに男は動かなくなり、スライムさんが剥がれる。
212
⋮その男の顔を見て思い知らされた。
スライムさんが意外と酸が強いということを。
俺﹁す、スライムさん⋮やりすぎ。﹂
スライム﹁^︳−☆﹂
いや、テヘッてされてもこれはトラウマになるからと内心ツッコミ
を入れて置いた。
どうせ、口で言っても仕方が無い。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
女性﹁あの、本当にありがとう。なにかお礼させて欲しいですが少
し今は⋮﹂
敵を片付けた後、女性が話してきた。
すっかり逃げたのだと思ったが、本人曰く流石に食い逃げも悪いと
思ったらしい。
タウロ﹁いや、礼など構わない。私が勝手に首を突っ込んだだけだ。
﹂
ヴァンプ﹁そうですよー。お礼とかやめてください、性に合わない
っす。﹂
こちらがいくら断っても、女性の方は下がろうとしない。
213
さっきも思ったが、強い意思の人だと思う。
最後まで粘った結果、またお礼をするから連絡先を教えるというこ
とになった。
タウロ﹁よし、俺くん。君だ。﹂
俺﹁えっ?なんで俺?﹂
ラミア﹁だって、この人と1番種族似てるし。﹂
えー。見た目で決められた気がする。
そんなの、オオカミやヴァンプにも言えることだと思うが⋮やはり、
俺が連絡受けになった方がいいだろう。
俺﹁あ、はい、じゃあ。えっと、これでいいですか。﹂
カバンに入れてあったメモ用紙にペンで、学校住所と部屋番号、そ
して部屋の電話番号︵この世界にも電話線は通っていた︶を書いて
女性に渡した。
女性﹁はい、確かに。⋮えっ!学園の生徒さんだったんですか!﹂
そういえば、伝えるの忘れていたな。
ヴァンプ﹁ああっ!そうだ!すいませんがこの事学校には秘密に⋮﹂
ケットシー﹁もう出来ないにゃ﹂
後ろから聞いたことのあるクセのある声が聞こえた。
214
背筋が冷たくなったのは俺だけではなかっただろう。
ラミア﹁せ、せんせー⋮﹂
ラミアが弱々しく声を上げる。
ケットシー﹁うーん、城下町の人たちのトラブルには首を突っ込ん
だらいけないと伝えたはずにゃ。君たち、悪いけど罰として教科の
﹃闘い﹄。単位マイナス20からのスタートにゃ。﹂
結構痛い罰だ。
他の人たちも顔をしかめている。
ケットシー﹁ちなみに、オオカミくんには個人的に恨みがあるから
国語でもマイナスしとくにゃ。﹂
オオカミ﹁えええええっ!?﹂
これはタダの理不尽だと思う。
自室
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
俺﹁スポーン、スポーン﹂
妹﹁あ、危ないよー!﹂
次の日、俺たちは一日部屋から出たらいけないと言われた。
215
俺は折角なので練習として、銃の練習をすることにした。
もちろん危ないから、コルク銃にしてだが。
俺﹁人には向けないから大丈夫。﹂
妹﹁じゃあ私も、刀の練習しようかな⋮﹂
俺﹁⋮離れて、模造刀でしてくれ。﹂
再び、ドアに掛けた的に目掛けて銃を打つ。
⋮すると
ラミア﹁俺く⋮うはっ!?﹂
的ではなくラミアに当たった。
人に向けないようにと言ったところだったから妹に変な目でみられ
ている。
俺﹁ラ、ラミアさん!?なんで出ちゃダメでしょ!?﹂
ラミア﹁⋮イテテ⋮出ちゃいけないのは外にだよ。部屋から出ずに
ご飯とかどうするの。﹂
作れよっ!?
俺﹁⋮もしかして、ラミアさん料理出来ない?﹂
ラミア﹁うぅ⋮いいもん。私は俺くんに主夫してもらうから。﹂
216
まさかの妻働き。
俺﹁ってか、勝手に結婚決めんなよ⋮まあいいや、そこそこいい時
間だし今回は俺がご馳走するか。﹂
ラミア﹁えっ!?いいの?﹂
せっかくなら、他の人も呼びたいが今回は仕方ないだろう。
妹﹁いいって、お兄ちゃんこう見えてもバイトで厨房立てる腕前な
んだよ!﹂
ラミア﹁すごい!意外と普通なのが特にすごい!﹂
うん、それすごくないな。
ラミア﹁あ、そうだ。俺くんにこれ渡しにきたんだった。﹂
俺﹁お、そうか。今回は意味のある訪問なんだな。⋮これって。﹂
ラミアが取り出したのはそれは雑貨屋の包み紙だった。
ラミア﹁えへへ、あの時のマグカップ。片方、俺くんになんだ。﹂
カップを手に取り改めて彼女は俺に好意を抱いてくれているのだと
思う。
⋮いやいやいや、彼女は俺が人間だから好きなんだ。
危ない、それを忘れそうになった⋮。
217
ラミア﹁あと、実はもう一つ。⋮あ、これは恋愛とかじゃなくて一
生徒としてなんだけど。はい。﹂
俺﹁えっ?﹂
渡されたのは、また雑貨屋の袋だった。
中に入っていたのは⋮
俺﹁手袋?﹂
ラミア﹁っていうより、グローブかな。これね、魔力が溜まりやす
いから俺くんにと思って。﹂
そうか⋮そういえば、ラミアって俺の世界に魔法がないこと知って
た⋮ん?
俺﹁おい、ラミアさんの世界にも魔法ないよな?自分のはいいのか
?﹂
ラミア﹁うん、覚えてくれてたんだ。まぁね。私は⋮ラミアだから、
一応魔法っぽい力はあるし。俺くんなら知ってるでしょ?﹂
確かに。
ラミアは伝説では人語を話せない代わりに美しい口笛で人間を虜に
すると聞いたことがある。
ラミア﹁まあ、この世界は人語が話せない私でも魔法で補正して、
伝えてくれるけどね。多分、口笛も魔法みたいなものなんだと思う。
﹂
218
⋮そういえば、不思議なことがある。
かなりリスクのある質問かもしれないけれど、今のラミアなら教え
てくれるだろう。
俺﹁どうして、ラミアさんは口笛で俺を虜にしようとは思わないの。
﹂
ラミアは、微笑んで応えた。
ラミア﹁私は、そんなせこい技を使って恋人にはなりたくないの。
そんなのタダの外だけの恋愛だもん。﹂
⋮
⋮⋮⋮
俺﹁バカだな、あんたは。﹂
ラミア﹁なっ!こ、これ言うの恥ずかしかったんだよ!?﹂
俺﹁そうか。録画しておけばよかったな。﹂
ラミア﹁むううううっ!!﹂
なんだ、
意外とまともなところもあるんだ。
ちょっと献立を変更してやろう。
妹﹁ねー、晩ご飯なにー?﹂
219
俺﹁エッグベネディクトだよ。﹂
220
高等部βクラス
17話﹁スライムさんは酸性です﹂
門星学園
ラミア﹁んーっ今日も無事終わったぁ。﹂
魔法の授業まであと4日となった日
いつもと変わらず、変わった生活が日常となりつつあるなか、今日
もラミアは決まったセリフを言う。
俺﹁⋮そういやさ。なんでこの学園って4時限授業しかないのかな。
俺の世界は午後からもあったぞ?﹂
対して、オオカミが答える。
オオカミ﹁さあな。世界が違うと時間も変わったりするんじゃない
か?﹂
相変わらずオオカミくんはマクロな目線で考えていると思う。
そんなことを考えながら、教室を出ようとする。
その時、いつもの癖のある声が聞こえてきた。
ケットシー﹁あー、そうにゃ。そこの6人、ちょっとこっち来てに
ゃ。﹂
221
6人といっても、もうすでに教室にはいつメンの人たちしか居ない。
ラミア﹁な、な、なんですか。ま、まさかまた補習ですか!?﹂
ケットシー﹁あーそれもあるけど、今回は違うにゃ。﹂
後ろから、ラミアを哀れむ声が聞こえた気がするが無視をする。
ケットシー﹁スライムさんが居ないようだけど、まあ仕方ないにゃ。
えっと、この間の学外トラブルにゃんだけど⋮﹂
皆﹁﹁すいませんでしたっ!﹂﹂
自分も発したが、こんなに声って揃うものなのかと思う。
先生は少し戸惑い肉球を胸の前で振る。
ケットシー﹁違うにゃ違うにゃ、説教じゃなくて⋮まあいいにゃ。
ほれ、お前たちの呼び出しにゃ。﹂
見るからに貴族臭がする筒状の羊皮紙を渡される。
入学案内のときみたいに蝋印がついているが、デザインが違う。
すると、それを開いて先生はナ行を崩しながらも読み始めた。
ケットシー﹁﹃4丁目の純喫茶で喧騒を鎮めた学園生よ。上弦の月
が浮遊大陸と重なる時、今晩の舞踏会に間に合うよう王宮へ迎え。﹄
とのことにゃ。﹂
⋮いや、わけわかんないっす。
222
ヴァンプ﹁なぁ、上弦の月の日って⋮﹂
タウロ﹁ああ、今日だな。﹂
上弦とか下弦とかってよくわからないけど王宮って、あの城のこと
だよな⋮。
ラミア﹁え、えっ!?なんで私たちが!?﹂
ケットシー﹁そんなの僕も知りたいにゃ。とにかく、学園の生徒と
してふざけた真似はしないようににゃ。﹂
この人、地味に生徒をバカにするよな。
自室
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
とりあえず、この先どうするかを考えるために、一番広い俺の部屋
で話し合うことにした。
タウロ﹁つまり、このところで出された結論だとあの時、助けた女
性が実は王宮の関係者で、お礼として舞踏会に招待したということ
だな。﹂
タウロさんは、どこから取り出したかわからないホワイトボードに
マジックでまとめていく。
ちなみに、ラミアは予想通りそこらへんを漁っている。
223
もちろん変なものはないので困らないが、やはり落ち着かない。
ラミア﹁俺くん、何これ!?新しいゲーム買ったのなら教えてよ!﹂
あー、それが見つかったか。
タウロ﹁ラミア!今はそんな時間じゃない!⋮俺くんあとでゲーム
少しやらせてくれ。﹂
⋮そうか。やっぱり、異世界のものだから珍しいのだろう。
オオカミ﹁ところでだ⋮舞踏会とか言ってたよな?⋮服どうするん
だ?﹂
まあ制服でもいいだろうが、相手は王宮だ。
制服よりも位の高いそれなりの正装が必要だろう。
タウロ﹁⋮。そうだ、新入生歓迎週間の夕食のときの服はどうだろ
う。﹂
ヴァンプ﹁おお、なるほどな。﹂
これには全員が感嘆の声を上げた。
あまりあれから日は経っていないのだが、懐かしく感じる。
ラミア﹁⋮そういやさー。何か粗品でも持って行くべきかなー?﹂
ラミアの疑問に、再び悩み出す。
タウロ﹁⋮どうだろうか。そうした方がよい⋮とは思うが⋮﹂
224
そまつ
俺﹁本当に粗品になるぞ?﹂
何度も言うが、相手は王宮だ。
ケーキや饅頭ていどでは釣り合わないだろう。
俺﹁そもそも、呼ばれ方も半端強制だしこっちから持っていく必要
は⋮﹂
オオカミ﹁まあ、確かにそうだな。﹂
オオカミを含め、他の人たちも納得したようなので次の話題をする。
俺﹁えっとさ、気になってたんだけど浮遊大陸に月が重なるときっ
て具体的には何時のことを言っているん
だ?﹂
すると、またオオカミが応えた⋮というか口ごもった。
オオカミ﹁えっと⋮俺は月に敏感だから分かるんだが⋮﹂
ヴァンプ﹁なんだ、はっきりしないな。﹂
オオカミ﹁⋮この部屋の時計で4時だ。﹂
一瞬静まり返ったあと、全員時計を見る。
そのとき、丁度いいタイミングで時計の鐘が3度響いた。
ヴァンプ﹁⋮ヤバいんじゃないか?﹂
225
俺より先にヴァンプが囁く。
タウロ﹁⋮と、とにかく⋮15分までに支度するぞ!!﹂
タウロさんが叫ぶと、みんな一斉に部屋を飛び出した。
校門
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
﹂
15分後に集まることになったもののラミアが髪を整えるのに遅れ
たせいで30分になってしまった。
俺﹁ど、どうする!?残り30分だよ?
タウロ﹁全くだ!!ラミア!だからお前は⋮﹂
?﹁なんだ。困りごとか?﹂
タウロさんが怒り心頭しかけた瞬間、あるときお世話になった生徒
が声をかけてきた。
俺﹁あ、ケルベロスさん!あのときはどうもです。﹂
ケルベロス﹁ん?あぁ、あの時の。足は大丈夫のようだが、また何
か問題が出来たのか?﹂
皆は冥界の番犬を目の当たりにして呆然としているが、俺はなんと
か王宮に行くことを短くまとめて話すことが出来た。
226
ケルベロス﹁な、なに!?それは大変じゃないか!立ち話をしてい
る場合じゃない!しかし、6人か⋮﹂
ケルベロスは少し悩んだ後、何かを思いついた。
ケルベロス﹁よし、女は背中に乗れ!男は⋮悪いがーー﹂
俺はそれを聞いて、フラッシュバックというものはこれかと思った。
王宮前
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
城下町
間近で城を見るのは初めてだけど、ここが数ある城の中でも立派な
方に入るのは見てわかった。
現世界で昔行った某テーマパークの城をそのまま大きくしたような
姿は見るものを圧倒させるという表現がまさに似合っている。
それにしても、またケルベロスさんに助けられるとは⋮
俺﹁ケルベロスさん、ありがとうございます。﹂
ケルベロス﹁いや、問題ない。それじゃあ、健闘を祈る。﹂
そう言い残してケルベロスさんは走り去った。
ラミア﹁俺く∼ん。気持ちわるいよぉ⋮﹂
227
タウロ﹁ま、全くだ⋮。私は身体が大きいからまともに捕まること
も大変だというのに⋮﹂
オオカミ﹁いや、あんたらはいいよ⋮。俺も他の狼に喰われること
は初めてだったわ。﹂
ヴァンプ﹁俺くんよ⋮。服、少し湿っぽいんだが。﹂
残されたのは、言葉だけじゃなかったようだ。
俺﹁⋮ん、まぁ仕方ないよ、時間なかったんだし。服も意外とすぐ
に乾くから。﹂
⋮臭いは保証出来ないけど。
妹﹁それにしても、すぐだったね。何分くらい?﹂
一応忍ばせていた携帯を手に取る。
俺﹁⋮5分しか経ってない。﹂
ラミア﹁ええぇっ!?じゃあ後⋮25分もあるのか!﹂
ケルベロスさん⋮早すぎっす。
228
王宮前
18話 ﹁バジリスクは蛇の王です。﹂
城下町
さて、なんとか間に合ったものの逆にまだ早すぎるかもしれない。
そこで俺たちは門前の植え込みに座って待機することにした。
ラミア﹁じゃあさ。折角だし、現世界の話しようよ。﹂
そういえば、意外と話していない話題だ。
ラミア﹁私の世界はね⋮魔法はないっていうのは言ってたね。でも
代わりに魔晶機関っていうので発達していたの。世界は一面砂漠で
水は街とか城とかね限られた場所でしか確保出来なかったんだけど、
魔晶機関が発達してからは水源から遠くのところにも送れるように
なったの。﹂
俺﹁じゃあその、魔晶機関っていうのは科学的なものじゃないの?﹂
ラミアは少し間をおいてからは答えた。
ラミア﹁うーん、どちらかというと両方になっちゃうんだよね。え
っと魔法の力で機械を動かすって感じなわけだからさ。﹂
ふーん、世界には色々あるんだな。
ヴァンプ﹁そういや、ラミアはどんな家で暮らしてたんだ?﹂
229
ラミア﹁うっ⋮それ聞かれないと思ったのに⋮﹂
何故だろう、ラミアが言うのを渋っている。
いつもなら自分のことを知ってもらいたい一心で頑張るような人な
のに。
俺﹁⋮まあいいよ。でも、いつか遊びに行かせてね。﹂
ラミアはそれを聞いて、別に遊ぶところなんてないとか言っていた
が聞こえないふりをしておく。
次にタウロさんが話した。
タウロ﹁私は⋮私の世界は二つに分かれていて、片方は科学界、も
う一つは魔法界がある。それぞれ長い間戦争を続けていたのだがあ
る年ピタッと休戦して、さらには同盟まで組んだのだ。理由は騎士
である私の兄だった。兄は一人で旅に出かけ戦争の発端である両界
の王の首を跳ねたのだ。﹂
俺﹁ちょ、ちょっと待って。わけわからん。⋮つまり、タウロさん
はその世界を救った英雄の妹と言うことなの?﹂
タウロ﹁英雄の妹⋮初めて言われたな。い、いや、それほど大層な
ものではないぞ!?﹂
タウロさんがわちゃわちゃしているなかなか次に進みそうにないの
で、オオカミがさっさと話し出した。
オオカミ﹁俺の世界はヴァンプと同じだから一緒に説明するが、そ
んな特別変わった世界ではないぞ?科学がある、学園が中心となっ
230
ている、その点を除けばこことそんなに変わった点はない。﹂
ラミア﹁じゃあ魔法はあったの?﹂
ラミアが問う。
オオカミ﹁まあな、ただ使えたのは一部の種族だけで俺とヴァンプ
は使えない。魔力ってのはあるがな。﹂
まぁいわゆる、某大作の魔法映画みたいな感じの世界を想像すれば
いいのかな。
続いて俺が話す。
俺﹁最後に俺か。うーん、魔法はなくって、戦いも一部の場所でし
か今は行われてないし、あるものといえば⋮科学と経済的なものく
らいか?まぁ意外と遊べるところは多いかも。﹂
とりあえず、なんとなくマクロに説明をする。
ラミア﹁ゲームとかは誰が作ってたの?﹂
俺﹁えっと⋮俺の世界には人間ほどの知能を持つ種族はいないんだ。
他は普通の動物とかしかいない。だから、ゲームとかも皆人間が作
ってるぞ。﹂
俺の話を聞いて、ラミアが身を乗り出した。
ラミア﹁へぇーっ!行きたいなぁ⋮。﹂
231
俺﹁だから、人間しかいない世界に見た目で他種族と分かるラミア
さんが来たら困るんだけど。⋮まあ誤魔化す魔法とか覚えたら来て
もいいかな。﹂
ヴァンプ﹁じゃあ俺はいいのか?﹂
俺﹁ヴァンプは⋮いいけど、俺の世界ではヴァンパイアは太陽の光
に弱いとか聞くぞ?﹂
ヴァンプ﹁そうか、なら帽子とUVカットをして行くか。﹂
ヴァンプが笑いながらそう言った時、丁度いいタイミングで門が開
いた。
俺﹁お、すげ。勝手に開いたぞ、魔法か?﹂
すると、タウロさんが覚めた声でつぶやいた。
タウロ﹁⋮リモコンで動いてるみたいだな。ここにセンサーが付い
ている。﹂
なにそれ、すごーい。
現代チック。
タウロ﹁ラミア、変なところ触るなよ?下手すりゃ感電するかも
しれないからな。﹂
ラミア﹁ひいっ!﹂
タウロさんがラミアを脅していると、城の中からあの時の女性が出
232
て来た。
ただあの時の比べると服装が高貴になったというか⋮っていうかこ
んなに若かったっけ?
こう見てみるとあまり俺たちと歳が
変わらないようだけど⋮
女性﹁あ、お久しぶりです!﹂
女性は俺たちを見るや否や、待ってましたと言わんばかりに話しか
けて来た。
俺﹁あ、はい。この機会はご招待いただきありがとうございます。
なるべくそれっぽい挨拶で答える。
が、女性は笑って応じた。
女性﹁いえ、そう硬くならないでください。誘ったのは私の勝手な
都合ですので。﹂
うーん、あの時喧嘩していた時とはひどく別人に見える。
女性﹁とりあえず、中に入りましょうか。﹂
そう案内され中に入る。
エントランス
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
王宮
玄関を入りいきなり壮観である。
233
まさにルネサンスというかゴシックというか⋮言葉にするのは難し
いが天井が高かったり甲冑が飾ってあったりと、一般人が考える多
少オーバーな想像をそのままにしたような城である。
俺たちは音を立てないように絨毯の上を歩きながら、話を続けた。
女性﹁そういえば、一人いないようですが⋮確かスライムの生徒さ
ん。﹂
ラミア﹁あ、彼女は少し学園の方で用事があるそうです。どうやら
生徒会の重要なことらしいので。﹂
女性はスライムさんが女子生徒と言うことを知り︵実際には性別な
んて有るのかは知らないが︶多少驚いた様子だった。
女性﹁そうですか⋮多少残念ですが仕方ないでしょう。﹂
俺は軽く謝ったあと、ふと疑問に思ったことを告げた。
俺﹁そういえば、舞踏会が始まるのって4時⋮月が浮遊大陸と重な
る時ですよね。他の方々はまだいらっしゃらないのですか?﹂
親切に女性は教えてくれた。
女性﹁はい。私たち、貴族の業界では時間より多少遅れた方が立派
だといわれておりまして⋮﹂
言い終わらないうちにタウロさんが謝った。というより、他の人た
ちは会話を俺とタウロさんに任せてるような気がする。⋮しかし、
ラミアさんは少し違う表情をしているが、どうしたのだろう。
234
タウロ﹁すいません。マナーをしっかりと理解してなくて⋮﹂
女性﹁い、いえ!そんな。マナーなんてただの飾りですよ。気にし
ないでください。﹂
言葉とともに5mはありそうな扉が開いた。
大広間
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
王宮
エントランスもだったが、やはり多くの人が歩き回る場所というこ
ともあり豪華な作りとなっている。
横を見ればステンドグラス、上を見れば大きなシャンデリア。
どの方向を見ても絢爛な作りとなっていた。
ヴァンプ﹁すげぇ⋮﹂
ヴァンプも思わず声を漏らす。
女性﹁しばらく開会は先ですので、こちらの方でご歓談ください。
では、私は用事がありますので⋮﹂
女性はそう言ったあと一礼し、別の扉に向かって歩いて行った。
女性が去ったあと、俺たちは周りの雰囲気のせいで少し緊張してい
た。
ラミア﹁あの、女の人。王宮の人だったんだね。﹂
235
やっと出て来た話題にオオカミが答える。
オオカミ﹁あぁ、地方貴族とかみたいなのだと思ってた。﹂
確かに。
王宮の人ということは王族か従者か⋮
いや、前者はないだろう。
それなら、昨日の外出時に護衛を連れているはずだ。
タウロ﹁俺くん、どうした?難しい顔して。﹂
俺﹁えっ?あ、いや何も。バジリスクとコカトリスの違いについて
悩んでた﹂
咄嗟に嘘をつくと、本当に変なことを言ってしまう癖は抜けないが、
俺のことだからと皆信じてくれたようだ。
ラミア﹁そういえば、こんな紙貰ったんだけど。﹂
タウロ﹁いつの間に、そんなもの手に入ったんだ?⋮まあいい、見
せてみろ。﹂
そこに書いてあったのは3行のルメヨ文字の列。
﹃音楽が5曲ほど終わったら
従者に門星学園の生徒だと
声をかけて下さい。﹄
⋮どういうことだろう。
236
???
19話﹁ケンタウロスの掟は複雑です﹂
王宮
??﹁もう昨日言ったばかりでしょう。困りますよ。﹂
女性﹁いいじゃない、私はやりたいことと、やらなければならない
ことしかしたくないの。﹂
??﹁そんな身勝手な⋮﹂
大広間
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
王宮
少し時間を待っていると、女性の言っていたとおり多くの客人が来
た。
タウロ﹁な、なんだ⋮あの服は⋮背中が丸見えではないか⋮!ふし
だらな⋮。﹂
ラミア﹁あんたが言うな。﹂
そういうラミアもエッチい服だと思う。ヘソが見えているような服
で⋮蛇にヘソ?
俺﹁⋮?????﹂
237
オオカミ﹁⋮知らなくてもいい謎もあるんじゃないか。﹂
オオカミの言う通りだ、このことは考えるのをやめよう。たぶん本
人もわからないだろうし。
すると、早速舞踏会が本格的に始まったのか曲が鳴り出した。
ヴァンプ﹁おおっ!あそこに美人の人型種族が!ちょっと落として
くるな。﹂
あいつ⋮こんなところでナンパする気か。
タウロ﹁お、おお⋮これが⋮なんというか、幼少期に読んだ城のま
まだな⋮﹂
オオカミ﹁まさに絵に描いたようなって感じだな、ラミア。﹂
オオカミはラミアに話題を振ったが、反応はなかった。
俺﹁⋮ラミアさん?﹂
ラミア﹁えっ!?⋮あ、うん、そうだね⋮﹂
なんだかラミアさんの様子がここに来てからおかしい気がする⋮何
故だろう。
オオカミ﹁全く、俺くんの声なら聞こえるのか⋮。﹂
オオカミが突っ込んだあと、ふと思いついたように話し出した。
238
オオカミ﹁⋮そういや俺くんは踊らないのか?﹂
俺﹁えっ!?無理無理!踊れないし。﹂
一応俺もヒップホップを習っていたことがあるし、今も体には染み
付いている⋮が、今回は高貴な場所で行う社交ダンスだ。
また物が違いすぎる⋮
オオカミ﹁でも、あれ見ろよ。﹂
指を差した方向に居たのは、微笑む女性と⋮たどたどしい足取りの
ヴァンプだった。
俺﹁⋮ああはなりたくないんだが。﹂
俺が呆れるとともに、オオカミも確かにと隣でため息をついた。
すると、ラミアが衝撃的なことを呟いた。
ラミア﹁⋮俺くん、踊ろっか。﹂
俺﹁えっ!?ちょ、ちょっと待って。ラミアさん踊れるの!?でも
俺⋮。﹂
すると、意外なことに自信に溢れた顔で答えた。
ラミア﹁大丈夫、私に任せて。とりあえず足が尻尾に引っかからな
いように気をつけてくれれば問題ないから。﹂
239
そして、引っ張られるがままラミアに連れて行かれた。
大広間
ダンスホール
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
王宮
すでに、ホール内は満員だったが、ラミアは体が大きいながらも何
とか隅っこを陣とったとき丁度、曲が変わる頃だった。
幻想的な世界観に相応しい音楽とともに俺はラミアと手を取り合っ
た。
ラミア﹁足のある種族のことはよくわからないけど、取り敢えず三
拍子のリズムで足を踏み出すの。﹂
言われたとおり、心で三つ数えながら時計の方向に歩く。
俺﹁だ、大丈夫かな。﹂
ラミア﹁大丈夫だよ、じゃあ次は回ってみようか。﹂
とりあえず、何と無く想像の動きで体を動かす。
ラミア﹁うん、上手い上手い。﹂
二人は一曲終わるまで踊り続けた。
俺は素人同然の動きだっただろうが、ラミアがリードをし続けてく
れたおかげでなんとか乗り切ることが出来た。
240
俺は踊っている間、自分よりも背の高い半分蛇の少女に少しばかり
恋愛感情を感じてしまった気がした。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
ラミア﹁んーっ!ありがと、俺くん!緊張ほぐれたよ。﹂
ダンスが終わると何時ものラミアに戻っていた。
俺﹁いや、それはいいけど⋮どこでダンスを?﹂
ラミア﹁うーん⋮私さ、教養いいから、こういうの分かるんだよね﹂
少々ぎこちなく照れ笑いながらラミアは答えた。
とりあえず疲れたので戻ることにする。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
タウロ﹁こ、こうじゃなかったか?⋮うわっ!﹂
オオカミ﹁タウロさん、無茶するなよー。﹂
戻ってくると、なにやらダンスの練習をしていたのか。
タウロさんがハーハー言っていた。
俺﹁ヴァンプは?﹂
オオカミ﹁ほれ、そこだ。﹂
241
顎で差した方向にいたのは鮮や踊り続ける女性と⋮踊り疲れてヘト
ヘトになっているヴァンプだった。
しかしラミアはヴァンプに目もくれずタウロさんにアドバイスを始
めた。
ラミア﹁いい?せっかく足が有るんだから活かさないと⋮ここ、こ
こ、ここの順にステップを踏んで。﹂
オオカミ﹁⋮そうか、ナルホド。これは面白いな。﹂
オオカミが何かに気づいたらしく軽く笑った。
俺﹁どうした?﹂
オオカミ﹁いや、なんでも無い。いつか分かると思うぞ。﹂
俺は首を傾げながら曲が終わるのを待った。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
最後の曲となったとき、タウロさんが思い切ったように声をかけて
来た。
タウロ﹁お、俺くん!い、一緒に踊ってはくれまいか?﹂
俺﹁⋮これまたどうして。﹂
タウロさんは顔を赤らめてモジモジしながら呟いた。
242
タウロ﹁い、いや。その、ダンスの成果を試したいし⋮それに⋮知
らない人と踊るのも⋮なんだし⋮﹂
うーん⋮タウロさんが緊張しているなんて、珍しいな。
まあ、いいか。一応コツもつかんだし。
俺﹁いいよ。じゃ行こうか。﹂
タウロ﹁⋮えっ?﹂
タウロさんはなにやら驚いた様子で立ち止まった。
俺﹁どうした?早くしないと曲終わるぞ?﹂
タウロ﹁あ、あぁ!うん、行こう!﹂
大広間
ダンスホール
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
王宮
俺﹁⋮。﹂
タウロ﹁⋮。﹂
気まずい⋮。
思ったよりも身長差あるから踊りにくいというのもあるけど⋮何よ
りも会話が無い。
タウロ﹁あっ!﹂
243
俺﹁っ!!!???﹂
突如右の足の甲に抉るような激痛が走った。
どうやらタウロさんに踏まれたらしい。
タウロ﹁だ、大丈夫かっ!わ、悪い⋮こ、こんなことになるなら蹄
鉄を外しておけばよかった⋮﹂
俺﹁い、いやいいって!それに蹄鉄外したらタウロさんの足が痛ん
じゃうよ。﹂
なんとか心の中で悶えながらも回答する。
が、タウロさんはまた泣き出しそうな顔になった。
俺﹁⋮えっと、今回は休もう。今度また踊ろうよ。﹂
タウロ﹁あ⋮うん⋮﹂
庭園
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
王宮
一応タウロさんへの配慮として、人の少ない庭で休むことにした。
しかし、落ち着くまで時間かかりそうだな。
まあだからと言って、ドウドウとか言ったら怒られそうだけど。
俺﹁⋮タウロさん、俺は大丈夫だから﹂
タウロ﹁⋮しかし⋮また俺くんを⋮せっかく、騎士として護ると誓
ったのに⋮﹂
244
うーん、これは重傷かな。
俺﹁⋮タウロさん、俺は確かに人間だし弱いよ。ヴァンプみたいに
回復も早くないし、オオカミくんみたいに力もない。だからさ、や
っぱり護ってもらわないとダメなんだよ。この足だと多分暫くは無
茶出来ないし。﹂
タウロ﹁⋮すま⋮ごめん。﹂
固い言い方を言い直したのは俺に合わせるためだろう。
それも加えて、タウロさんを慰めた。
俺﹁でもさ、タウロさんは無理しすぎなんだよ。だから力んじゃっ
てドジをしちゃうんだと思うよ。俺はさ、これでも人間の中ではタ
フな方だしね。﹂
タウロ﹁⋮。﹂
タウロさんは話を聞き終えると、俺の前で足を折って体制を低くし
た。
タウロ﹁⋮私の背中に乗った方がいい。⋮足が悪くなるぞ?﹂
顔は反対を向いているため表情が読めないが、とにかく言われたと
おり、背中に乗った。
一瞬、びくんと動いたが暫くすると落ち着いて立ち上がった。
俺﹁⋮わわっ⋮高⋮。﹂
245
タウロ﹁危ないので、どっか捕まっておいてくれ。﹂
⋮なんか恥ずかしいな。
タウロ﹁ハウァッ!?む、胸はなるべく⋮﹂
俺﹁えっ⋮?あっ!?ご、ごごごごめん!!﹂
な、なに俺、セクハラしてんだ⋮
ラミア﹁あーっ!2人ともここにいたか!﹂
タウロ﹁ラミア。どうした?﹂
タウロさんもすっかり立ち直ったらしい。
すると、後ろにいたヴァンプが息を切らせながら言った。
ヴァンプ﹁ゼーゼー、ど、どうしたじゃ、ないだろ。手紙、忘れた
のか﹂
どうやら皆勤だったらしい。
お疲れ様だと言いたいが、ここからが本番のような気配がするのは
俺だけだったのだろうか。
回廊
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
王宮
俺たちは手紙に書いてあったとおり、従者と思われる人物に生徒と
246
いうことを告げた。
すると、一瞬驚いた顔になったがすぐに表情を戻し、着いてくるよ
うに案内された。
しかし今考えると、もし従者じゃなかったらと思うとゾッとするな。
俺﹁ねータウロさん。もう降ろしてくれても大丈夫だよ?﹂
タウロ﹁心配は無用。俺くんは軽いから私自身には負担なんてこれ
っぽっちもない。﹂
すると、タウロさんの前にいるオオカミがからかうように言った。
オオカミ﹁でも⋮タウロさん。今、すごい顔だぞ?﹂
俺﹁やっぱり、降りた方が⋮肩借りたら歩けるし。﹂
すると、また背中を震わせてから答えた。
タウロ﹁なっ!?⋮も、問題ない。この顔は⋮生まれつきだっ!﹂
そういえば、ケンタウロスに乗る話ってあまりないよな⋮
まあ最近の漫画とかでは、ケンタウロスの背中に乗るのは⋮あっ!?
俺﹁ああああっ!!?﹂
タウロ﹁な、な、なんだ!?﹂
俺﹁だ、駄目だって!そ、そんな簡単に俺なんかを乗せたらいけな
いって!﹂
247
慌てる俺を全員不思議そうに見ていたが、ことを悟ったタウロさん
は俯き呟いた。
タウロ﹁そうか⋮やはり俺くんは知っていたか⋮。﹂
ラミア﹁なになに!?ど、どういうこと?﹂
タウロさん自身からは言い出しにくいだろう。
俺が変わって説明をした。
俺﹁ケンタウロスってやっぱりタウロさんみたいな堅実な人が多い
んだよ。だから、背中に乗せるなんてことは稀なんだ。例え俺が怪
我しようとも⋮。﹂
俺は続けた。
俺﹁ケンタウロスが人を乗せるということ。つまり、例えるなら、
レイ⋮淫行を働くのと同じことくらい重要なことなんだ⋮﹂
言い方を考えるのも難しいものだが、全部言い切るとタウロさんの
膝が折れた。
タウロ﹁う、うわあああああっ!!す、す、すまないっ!!き、緊
急事態だからと思ったからつい⋮。せっかくの初めてを取ってしま
って反省している!よ、よかったら本当に私の生殖器に⋮私のガバ
ガバウマン⋮﹂
ラミア﹁ちょちょっとそれ以上言ったらダメだって!!?それに、
私は気にしてないからいいよ!?ダンスで足踏んで怪我したから代
わりに乗せているだけでしょ!そんな、本番とかはいいからってか
248
ヤメて!﹂
タウロ﹁はっ!そ、そうか⋮す、すまない。⋮しかし、これだけは
言わせてくれ。私は俺くんなら別にいいと思っている。﹂
⋮え?
それって⋮どういうこと⋮?
そう聞きたかったが結局聞きそびれてしまった。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
扉の前についた。
かなり厳正そうな扉だが、この先に何があるかは全くわからない。
ただ言えるのは、ただ事で無い空気がこの先から感じられるという
ことだ。
俺﹁こ、ここに入るのか?﹂
ヴァンプ﹁な、なんか、嫌な予感がするな⋮﹂
すると、突如重々しい扉が開き始めた。
その先にあったものは⋮
謁見の間
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
王宮
左右には大勢の騎士が剣を構え、
床は大理石の上に赤の絨毯を敷いてある。
さらに、奥には左右に大臣らしき人物を抱え玉座に座る一人の女性
が⋮
249
俺﹁⋮すいません、場違いのようですので帰らせていただいても良
いですか?﹂
オオカミ﹁逃がさん﹂
ヴァンプ﹁逃がさん﹂
⋮逃げられない
仕方なく、ビビりながら従者のあとをついていきながら小声で相談
する。
俺﹁⋮あの人って?﹂
オオカミ﹁⋮この国の王族じゃないか?﹂
それは正直薄々分かってた
俺﹁どうすればいい?﹂
オオカミ﹁とりあえず、玉座の前に来たらタウロさんから降りて、
跪けばいいんじゃないか。⋮それに、こういう場はラミアの方が詳
しいと思うぞ。﹂
最後の意味がわからないが、玉座の前に来てしまった。
とにかく、オオカミの言うとおりタウロさんから降りる。
これは流石に頭が高いというやつだ。
それから、周りに合わせて跪いた。
250
⋮ヤバい。
今更だが緊張して来た。
??﹁顔を上げて下さい。﹂
どこかで聞いたことのある声⋮
意外と最近というかちょっと前に聴いたような⋮
ゆっくり顔を上げる。
そこにいたのは他の誰でもないーー
俺たちが助けた女性だった。
251
20話﹁ネイプシーは王室です﹂
ラミア﹁⋮え!?いや、あのどうしてあなたが?﹂
皆の気持ちを代弁するように、ラミアが質問をする。
相手からの返答は実に簡単なものだった。
女性﹁そういえば、自己紹介まだでしたね。私は、ゲスター王国第
1王女テイスタといいます。﹂
まさか、王女だったとは思わなかった俺はかなり動揺した。
俺﹁お、王女さま⋮。あ、お、俺⋮いや、自分はミズ⋮﹂
タウロ﹁お、俺くん!私も気になるが本名はダメだ!﹂
あ、忘れてた。
危ない、もう少しで⋮別に困らない気もするが校則に違反するとこ
ろだった。
ってか、この国ゲスター王国って言うんだ。
王女﹁その話は聞いております。ですので、申し訳ありませんが種
族名で呼ばせていただきます。﹂
オオカミ﹁あ、はい。構わないです。﹂
252
王女は一呼吸おいてから話し出した。
王女﹁この世界は真新しいものです。実際創世主が在住している世
界なども珍しいと思いますし、何よりもこの世界には未だここしか
国と呼べるものはありません。﹂
ど、どんだけ狭いんだこの世界。
王女﹁私の種族はネイプシーの中でも少なくないルリア族といいま
す。﹂
ネイプシー⋮か。
確か、この世界で生まれて一般国民として暮らしている人のことだ
よな。
王女さまはその後も続けた。
王女﹁本当は、私なんかがなるような者が王女になるよりも、門星
学園のOB、OGの方を推奨するべきなのですが⋮この世界に残る
ものは居ないのです。﹂
そりゃそうだろう⋮
生まれ育った故郷を捨てて、新天地で暮らすなんてそうできること
じゃない。
やはり皆、出て行くのだろう。
王女﹁その上、先日外出した際も生徒の方に助けられるようなこと
になり、感謝とお詫び、挨拶を含めて今回招待させていただきまし
た。﹂
253
⋮なるほど。
要約すれば、助けられたことの感謝、力不足なのに王女に就ている
ことの謝罪、それから挨拶のために呼ばれたということか。
ヴァンプ﹁礼には⋮﹂
タウロ﹁礼には及びません、それに今回招待していただき大変嬉し
く思います。﹂
一瞬ヴァンプが小声で﹁何でだよ﹂と言っているのが聞こえたが気
にしないことにする。
王女﹁⋮遠くで見ていて思いました。人間、ラミア、ケンタウロス、
ワーウルフ、ヴァンパイア、それぞれ種族は別なのに実に楽しそう
に接していると。﹂
皆、顔を俯く。
少し恥ずかしいんだろう。
ってか、俺と妹纏められたのか。
王女﹁⋮長々と申し訳ありません、これだけは言いたかったんです。
﹂
こちらも、軽く会釈する。
俺﹁いえ、御丁寧にありがとうございます。自分たちも、こういう
場に呼んでいただき感謝しております。﹂
少し食い気味かなと思いながらも告げる。
254
王女﹁そう⋮ですか。それならありがたいです。﹂
王女は少し困った顔をしながらも納得してくれたようだ。
表通り
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
城下町
王女との会合が終わった後、俺の足の怪我のこともあり、せっかく
だが帰ることにした。
王女はまた会う日までお元気でと言ってたけど⋮まあ、もう会うの
は難しいだろう。
タウロ﹁⋮すまないな、私のせいで帰ることになって。﹂
タウロさんが申し訳なさそうに話してくる。
俺﹁え?いやいや、謝るのはこっちの方だよ。皆して一緒に帰って
もらわなくても⋮﹂
タウロ﹁その足では学園まで帰れないじゃないか。﹂
ラミア﹁私は俺くん居ないとつまんないし。﹂
ヴァンプ﹁俺は疲れたから、せっかくだし帰ろうと思って⋮。﹂
オオカミ﹁俺は性に合わないからな。﹂
255
みんな、それぞれの理由を話す。
結局、みんなこういう場は好みじゃないらしい。
⋮帰宅後、補習で部屋に居なかった妹に問い詰めを食らったのは言
うまでもない。
高等部βクラス
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
俺﹁おはよー。﹂
ヴァンプ﹁ああ⋮おはよう。朝もお前ら一緒なのか。﹂
ラミア﹁えへへー。体温が上がるまで一緒にいて貰ったの。﹂
全く、変温動物だからというのは言い訳にならないと思う。
それにしてもヴァンプの様子がおかしい。
いつもより、グッタリしているというか顔色が悪いというか⋮
どちらもいつも通りか。
ラミア﹁⋮どーしたの?元気ないけど。﹂
ラミアも気づいたようで質問する。
ヴァンプ﹁⋮ああ、筋肉痛で⋮やばい。﹂
256
⋮さいですか。
ケットシー﹁はーいにゃー。挨拶するにゃー。﹂
オオカミ﹁⋮。﹂
ケットシー﹁⋮えっと⋮。いつも言ってるけども挨拶するにゃーっ
ていうのは挨拶しなさいって意味にゃ。﹂
多分、分かって無視してるんだと思う。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
ケットシー﹁⋮ってまあ今日はこんなとこにゃ。あと、追加。今日
は新入生がいるにゃー。﹂
⋮?
門星学園に新入生ってことは、誰かが俺みたいに誰かを転入させた
ということか?
教室が少しざわめいているなか、先生は構わず新入生を入れた。
ケットシー﹁さー、入るにゃー。﹂
ガラガラと音を立てて扉が開く
そこにいた人物を見て、教室で5人が突っ伏した。⋮もちろん俺を
含めて。
王女﹁今日からこの学園に通うことになりました。種族はネイプシ
ーです。﹂
257
ケットシー﹁ネイプシーさんはこの国の王女にゃ。だから、特別に
王宮からの通学という処置を行いますにゃ。﹂
⋮これは。
また、大変なことになりそうだ。
258
21話﹁王女は不思議な人です﹂
吾輩はラミアである。
名前は校則があるので黙らせてもらうよ。
今回、王女陛下が入学した件に関して私は正直不安である。ってか
私この人の名前知ってるし。
王女﹁あ、あの俺さん。﹂
俺﹁ああ、俺くんってただのあだ名だから種族は人間だし、そう呼
んでくだされば。﹂
王女﹁ではあだ名として俺さんと呼びます。﹂
俺﹁⋮まあ俺が分かればいいですけど。﹂
⋮なによりもなんか仲良くしてるのが気に食わないっ!
タウロ﹁お、おいラミア。どうしたんだ⋮﹂
ラミア﹁タウロ⋮さん⋮。﹂
憎しみの目をタウロさんに向けると、少し怯んだ様子を見せた。
タウロ﹁ひっ⋮な、なんだ?また俺くん関係か?﹂
ラミア﹁なによ﹃また﹄って!惚気たっていいじゃない!話す相手
259
がいないんだから!﹂
タウロ﹁⋮いや、お前人脈すごいだろ。﹂
タウロさんの一言に納得したせいで、一瞬の静寂が訪れた。
仕方ない、八つ当たりしてもなんにもならないか。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
タウロ﹁⋮ふむ⋮別に仲良いのはいいことじゃないか。むしろ仲悪
い方が困らないか?﹂
ラミア﹁そうだけど、でも私俺くんのこと好きだし!﹂
憤慨する私を宥めたタウロさんはボヤいた。
タウロ﹁⋮私が仲良くしても何も言わないのに何を今更。﹂
ラミア﹁だって、タウロさんは戦力外だもん。﹂
タウロ﹁⋮何を見てそう思っているんだ?﹂
仕方が無い、次の授業は体育。
さっさと着替えよう。
女子更衣室
******
門星学園
260
ラミア﹁⋮ふむ。﹂
王女陛下の体は華奢のようだ。
これなら私の方がスタイル的にも⋮
タウロ﹁⋮おいラミア。さっさと着替えろ⋮ってなんだその目は!
?﹂
ラミア﹁⋮戦力内⋮なのかもなぁ。﹂
タウロ﹁だから私の何を見てそう思っているんだ!!?﹂
私は手を伸ばして思いっきりモノに掴んでやった。
ラミア﹁その二つの山脈はなに!?乳でも張ってんの!?﹂
タウロさんは狼狽えたが顔を赤くしながらも叫んだ。
タウロ﹁そんなわけないだろ!毎晩乳汁は出している!﹂
ラミア﹁⋮え。出るの。﹂
私が唖然とするとタウロさんは身を引き﹁⋮種族の違いだ。理解し
ろ。﹂と呟くとジャージのファスナーを上げて走り去った。
⋮どうやってズボン履いたんだろ。
王女﹁わぁっ!ラミアさんのズボン面白いです!﹂
ラミア﹁わわっ!へ、陛下。﹂
261
王女﹁ほー、なるほど。下はヘビだからこうなってるんですねぇ。﹂
ラミア﹁⋮でも、私走れないから今日の持久走は見学ですよ。﹂
王女﹁あ、私もです。走ったことないので。﹂
な、なんという箱入り娘⋮。
グラウンド
******
門星学園
俺﹁へえ、グラウンドってあの浮遊島だったんだ。確かに春でもジ
ャージは必要だな、思ったより冷えるし。﹂
ヴァンプ﹁どおりで学園内にはグラウンドが見つからないはずだな。
⋮しかし、だだっ広いなぁ。﹂
オオカミ﹁トラックの端から端まで1kmって言ったところか。っ
て俺くん大丈夫か?﹂
俺﹁⋮周回による。﹂
ヴァンプ﹁⋮変な汗かいてるぞ。﹂
まったく、やることは同じなのになんで男女別行動なんだろうなー。
ラミア﹁⋮俺くんのジャージ姿⋮あの下には俺くんの塩味が効いた
体操着が⋮。﹂
262
王女﹁となり良いですか?﹂
ラミア﹁わわっ!聴いてました!?﹂
王女﹁⋮何のことですか?﹂
良かった、聞かれてなかったみたいで。あんな変態発言聞かれたら
終わってたかも⋮
王女﹁ところでこちら入ります?﹂
ラミア﹁⋮何これ?﹂
王女﹁お塩のキャンディです。塩分不足のようですし。﹂
聞かれてたーっ!!
ど、どうしよう⋮言い訳出来ない⋮
結果、飴を頬張り10分くらい沈黙が続いた。
⋮⋮⋮⋮
⋮
王女﹁⋮舐め終わりました?﹂
ラミア﹁う、うん。待っててくれてたんですね⋮。結構美味しかっ
たです。﹂
263
⋮まあいいか、直接聞いても何も変わらないだろう。
ラミア﹁ねえ陛下。俺くんのこと、どう思います?﹂
王女﹁そう⋮ですね。優しくて良い方だとは思います、可愛げもあ
りますしね。⋮でも少し頼り気がないかもしれないですね。﹂
そりゃあ俺くん人間だし、仕方ないと思うけど。
今も持久走の最後尾で白目剥きながらながら走ってるし。
ってかタウロさんこっちに走ってきてる!?
王女﹁⋮?﹂
ラミア﹁⋮どしたの?﹂
タウロ﹁あ、いや、続けてくれ。﹂
ラミア﹁⋮持久走は?﹂
タウロ﹁⋮既にノルマの4kmは走った。﹂
息、全然乱れてないけど⋮まあいいや。
でも、俺くんの魅力を知らずに語るとは王女陛下でも少しムカって
きた。まぁわたしが振ったんだけど。
ちょっと反論することにする。
ラミア﹁⋮まあ確かに俺くんは体力も無いし、戦闘とかは苦手だと
思うよ。でも彼はさ、その他の点では凄いよ?知識や技術とかの学
264
年順位2桁だし、何故だか分からないけど知名度もあるし。この間
も私が卵が好きだなんて言ったことなかったのに﹃エッグベネディ
クト﹄作ってくれたし!﹂
ラミア
それを聞いてタウロは思った。
知名度はお前のせいでは無いか?
卵が好きだというのは蛇から連想したのではないか?
って何で私の知らない間に俺くんの手料理食っているんだ、と。
タウロ﹁そ、それに私は俺くんに仕えているからな。騎士として彼
の力量の方は賄っているつもりだ。﹂
ラミア﹁⋮それ一方的に決めてなかった?﹂
タウロ﹁そ、そんなことないぞ!とにかく私のランスは俺くんに委
ねているも同然だ!﹂
二人のやりとりを見ていた王女は指の背を下唇に当てて考えている
そぶりを見せたのち、気がついたように答えた。
王女﹁もしかして、お二方は俺さんのことを愛しておられるのです
か?﹂
ラミア﹁そうだよっ!っていうかわたし結構言いふらしてると思う
んだけど⋮。﹂
タウロ﹁⋮い、いや、そ、その。わ、私と俺くんは、しゅ、主従の
関係であって、け、決してそのような仲では⋮その⋮﹂
王女は分かりやすい人だと思いながら、クスッと笑った。
265
王女﹁分かりました。お二方とも応援していますから。﹂
タウロ﹁い、いや、だから、そ、その⋮﹂
ラミア﹁あ、俺くんゴールした。﹂
タウロ﹁なにぃっ!?早く医務室へ運ばなくては!﹂
なんで身体壊した前提で話してるんだろ。
城までの道
******
城下町
王女﹁申し訳ありません、私の帰りのために時間を割いていただい
て。﹂
俺﹁えっ!?い、いやいや王女様を1人で帰すわけにはいきません
よ!⋮まぁ護衛が俺一人なのもかなり心配ですけど。﹂
王女は隣で後頭部に手を当てて苦笑する少年を見て思う。
彼がお二方の意中の人なのだと。
王女﹁⋮あの俺さんはラミアさんとケンタウロスさんを如何お思い
になっていますか?﹂
俺﹁な、なんですか突然!⋮ラミアさんが何か言ったんですね⋮は
ぁタウロさんまで巻き込んで、もう。﹂
266
王女﹁ねえねえ、一体どうお思いですか?﹂
うわぁ面倒なやつだ。
俺はこれに答えないと帰れないと悟り、仕方なく教えることになっ
た。
俺﹁どちらも普通のよく一緒にいる友だちですよ。ラミアさんは少
し積極的すぎて困ることもあるけど、それほどに好いてくれてるこ
とは嬉しいですね。﹂
王女﹁⋮。﹂
俺﹁タウロさんは自他共に厳しいですけど、やっぱり女の子らしく
て傷つきやすい人だと思います。﹂
まあケンタウロスはプライド高いというのも理由の一つかもしれな
いけど。
王女﹁⋮なぁんだ。私が手を貸す必要皆無ではありませんか。﹂
俺﹁えっ?﹂
王女﹁なんでもありませんよ。﹂
なんでも無いわけない。
王女の顔がほころんでいるんだから。
王宮前
******
門星学園
267
王女﹁ここまでありがとうございます。では、頑張ってくださいね。
﹂
俺﹁あ、はい。頑張ります。﹂
⋮
⋮え、何を?
まあいいか、とりあえず晩御飯までに帰らないと⋮
俺﹁あ。﹂
ラミア﹁あ。﹂
タウロ﹁あ。﹂
な、なんでいるんだ、この人たち。
ラミア﹁い、いやあ偶然だなぁ。﹂
俺﹁⋮もしかして、尾けてたの?﹂
タウロ﹁い、いや。その、私たちについての話が終わってから俺く
んに気がついてな!﹂
ラミア﹁た、タウロさん!それ矛盾してるって!﹂
タウロ﹁⋮あっ!?﹂
268
⋮まあいいか。
俺﹁⋮早く帰ろう。お腹すいた。﹂
タウロ﹁乗らないか?﹂
俺﹁いいや、足は薬塗ったら一瞬で治ったから大丈夫だよ。﹂
河童の妙薬ってすごいな。
ラミア﹁あ、そういえば明日だね戦闘と魔法。﹂
俺﹁ああ、楽しみやら不安やら。﹂
タウロ﹁大丈夫だ!俺くんは私が守るからな!﹂
俺﹁はは、なら安心か。﹂
日が傾く頃、3人は学園へ歩を進めた。
ラミア﹁⋮王女陛下も悪い人だよね。﹂
俺﹁⋮?﹂
269
22話﹁ダンピールは半妖です﹂
ついにこの日が来た。
3時間目:魔法の授業。
魔法なんて空想のものだと思っていた︵まあこの世界も凄いファン
タズミックだ︶が俺のようなマ○ルでも杖を手に取り某卿と戦った
りするのかもしれない。
ラミア﹁俺くん浮かれてるねー。﹂
俺﹁ラミアさんは楽しみじゃないの?元の世界には魔法なかったん
でしょ?﹂
むしろ彼女が一番浮かれそうな気がするのだが。
ラミア﹁うーん、まあ面白そうだとは思うけど⋮﹂
オオカミ﹁おい、移動教室なんだからさっさといくぞ。﹂
結局オオカミに連れて行かれたためラミアが何を言おうとしたかは
わからなかった。
魔法結界室
******
門星学園
俺﹁あれ、ラミアさんとタウロさんは?他にも数人いないし⋮。﹂
270
ヴァンプ﹁俺くんな、話聞いてなかったのかよ。魔法は人型クラス
と魔獣クラスに分けられるんだぞ。﹂
俺﹁ええっ!?そうなの?﹂
なるほど、だからラミアはあんな反応だったのか。
まあ俺がいなくても楽しめるような人だとは思うけど。
??﹁ふんっふんっ!﹂
息を詰めて扉を開けようとしているのは多分先生だろう。
そういやあの扉、やけに重たかったな。かわりにオオカミに開けて
もらったけど。
多分、攻撃魔法対策か何かだろうけど⋮引き戸だから意味ないと思
うな、俺は。
そうこう思っているとガラガラと扉が音をようやく音を立てて開い
た。
??﹁ハアハア⋮み、みんなおはよう。僕は魔法の授業を担当する
ダンピールです。よろしく。﹂
オオカミ﹁なぁ、ダンピールってなんだ?﹂
ほお、オオカミくんが聞くとは珍しい。
俺﹁多分ヴァンプの方が知ってると思うぞ?﹂
271
ヴァンプ﹁⋮まあ知ってるも何も簡単なことしか知らないけど、ダ
ンピールって確かに吸血鬼と人間のハーフだよな。﹂
俺﹁簡単にいえば正解だ。﹂
ダンピールの解説が終わり、授業内容に耳を傾ける。
どうやら今回から早速練習するらしい。
ちなみに、この世界の時間軸は少し変わっていると以前伝えたが、
そのため1限の授業時間も長めになるので、しっかりと魔法の練習
を行えるのである。
ダンピール﹁じゃあまずは手を使わずに物を浮かす練習、これは分
子飛躍とエネルギー保存の法則を利用して⋮﹂
まさか魔法が物理にかなったものだということは知らなかった。
確かに行き過ぎた科学は魔法と変わらないとは言うが流石によくわ
からない、こんなのラミアとか出来るのか?
ダンピール﹁まあ簡単に言えば、気を落ち着かせて脳波で動かす感
じでやってみて。はい、じゃあどうぞ。﹂
なんか丸投げだな、でも数人は既に行っている。
ヴァンプ﹁⋮ムムム﹂
オオカミ﹁⋮。﹂
二人も流石魔法世界出身といったところである。
難なくクリアしている。
272
俺﹁よし⋮んぐぐ⋮﹂
チラッと目の前の羽を見る。
⋮全く動く気配はない、すごいこの部屋風もあまり吹かないんだ。
ダンピール﹁えっと俺くんだっけ。﹂
ついに声をかけられた、やばい補習か?
俺﹁⋮静かにしてください。今集中してるんで。﹂
ダンピール﹁いやいや集中するっていうか、俺くん手出してくれな
いかな。人間界の魔力計りたいんだけど。﹂
な、なんだそんなことか。
それならと、右手を出した。
ダンピールはそのうえに軽く添える程度に手を重ねる。
俺﹁⋮どうですか。﹂
ダンピールは笑顔でこう告げた。
ダンピール﹁一滴も無いね!﹂
カフェテリア
******
門星学園
273
俺﹁⋮。﹂
ラミア﹁⋮俺くーー﹂
オオカミ﹁静かに。⋮今はそっとしてやれ。﹂
妹﹁お兄ちゃんどうしたの。﹂
ヴァンプ﹁⋮そもそも魔力値が0だったんだよ。﹂
うう、言われるとキツイな。
タウロ﹁⋮しかし伸ばせるだろう?確かそういう訓練があると聞く
が。﹂
ラミア﹁でも、それって確か5年に魔力値1程度じゃなかったっけ。
﹂
タウロ﹁⋮すまん。﹂
仕方ない、世界軸が悪かったんだと思うし気にしないようにしよう。
それに例の手袋を使えばなんとかなったし、全く魔法が使えないわ
けでは無い。
俺は話題を彼女たちに変えた。
俺﹁ところで、ラミアさんとタウロさんはどんな授業受けたの?﹂
ラミア﹁うん、面白かったよ。⋮見る?﹂
274
タウロ﹁⋮い、いやしかし此処ではダメでは無いか?﹂
ラミア﹁いいっていいって、行くよー!﹂
すると、ポワンと間抜けな音を立ててラミアが煙に包まれた。
魔法って言うか忍術である。
妹﹁いつかカエルとか呼べそうな魔法だね。﹂
俺﹁うん、それ思った。﹂
オオカミ﹁煙だけでその発想に至るのか、お前たちの世界は。﹂
徐々に煙が晴れる。
ラミア﹁どう?これ﹂
そこはラミアの姿はなく⋮いや姿が変わっていた。
顔立ちも少し大人びた感じになり、尻尾はなくなり代わりに二本の
足が生えていた。
ラミア﹁これね!人間になれる魔法なんだって!﹂
タウロ﹁こいつ⋮一ヶ月はかかる魔法を一日で覚えたんだ。﹂
すごいな、流石にここまでくると人間への愛も異常に見えてきた。
いや元々見えてはいたけども。
275
タウロ﹁⋮はっ!ラ、ラミア!ふ、服!﹂
ラミア﹁えっ!?⋮やだ!なんで消えてるの!?﹂
そりゃ人間に姿が変わればラミアの体格に合わせた服くらい脱げる
だろう、と冷静に判断していると足が飛んで来た。
俺﹁ぐへっ!!﹂
ラミア﹁わあああっ!ゴメンゴメン!尻尾で目隠しさせようと思っ
たら、代わりに足が飛んじゃった!﹂
ちょ、意味わからん。
******
放課後、俺は予想通りダンピールの先生に呼び出された。
⋮あと本人は気づいていないつもりだが、後ろからラミアが着いて
魔法結界室
来ていることくらいは分かる。
門星学園
俺﹁失礼します。﹂
ダンピール﹁うん、悪いね。魔力値がないのは世界軸の問題だから
仕方ないし気を落とさないでね。﹂
俺﹁⋮はい。﹂
ダンピール﹁それで、ちょっと考えたんだよ。流石に教師側からし
ても点無しにさせる訳にはいかないからね。﹂
276
なんだろう、まさか強制ギプスみたいな生活にならないだろうな。
ダンピール﹁先生ー、来てください。﹂
??﹁はーい。﹂
そこに入ってきたのは⋮
ダンピール﹁紹介するね、彼は魔獣クラスを担当してたインキュバ
ス先生。﹂
インキュバス﹁よろしく。﹂
なんかこの人凄く体格いいと思ったら、インキュバスか。
喜べ妹よ、彼は服を着ているぞ。某ライトノベルみたいにスッポン
ポンではないぞ。
俺﹁⋮一応言いますけど、俺ノンケなんで。﹂
インキュバス﹁あ、うん。なんか激しいの想像した?しないから大
丈夫だし、俺もノンケ。﹂
俺﹁えっ!?﹂
インキュバス﹁え?﹂
ノ、ノンケ⋮?インキュバスなのに?
277
ダンピール﹁⋮えっと、もういいかな。﹂
俺﹁あ、はい⋮すいません。﹂
インキュバスは軽く咳をしてジャケットのポケットからドッグタグ
を取り出した。
インキュバス﹁これを俺くんにつけて欲しいんだ。﹂
278
22話﹁ダンピールは半妖です﹂︵後書き︶
久々の新種族です。
ダンピール:
東欧やロシアの伝説に出てくる人間と吸血鬼の混血。外見はただの
人間だが不死の吸血鬼を倒す力を持つ。殆どは生まれてもすぐに死
ぬが、成長すれば強い力を持つ。
インキュバス:
男の淫魔。こちらはサキュバスと違い、寝ている女性に精を注ぎ妊
娠させるといわれている。過去にはゲイ扱いされたり浮気の言い訳
に使われたり、今でもインキュバスと調べるとイギリスのバンドが
一番上に出てくると言うなんとも可哀想な種族でもある。
279
23話﹁インキュバスはゲイではありません﹂
俺﹁そ、それってつまり観察処分者ってやつですか!?﹂
インキュバス﹁ほら見ろ!勘違いされたじゃないか!だからドッグ
タグはやめろって言ったのに!﹂
ダンピール﹁でもかっこいいじゃん!ドッグタグ。﹂
⋮どうやら話を聞いている限り観察処分扱いというわけではなさそ
うだ。
俺﹁えっと、処分ではないなら何なんですかこのタグ。﹂
ダンピール﹁それはね、魔力を込めたドッグタグ。今君がつけてる
手袋と同じ仕組みだよ。﹂
俺﹁⋮どのくらい入ってます?﹂
ダンピール﹁うーん、取り敢えず空中浮遊なら1000回は出来る
レベル。まあ友だちに充電してもらえば永遠に使えるとは思うけど。
﹂
結構高いな。酒で言うと手袋が梅酒くらいだとしてテキーラくらい
か。
インキュバス﹁ただこれを付ける時と外す時にはかなり体に負担が
かかるから気をつけてね。⋮といっても貧血みたいな感じだけど。﹂
280
なるほど、体から急に魔力が抜けるのだから立ってはいられない。
要は魂魄の原理と同じか。
俺﹁ありがとうございます、さっそく自室で練習します。﹂
ダンピール﹁うん、頑張れ。﹂
インキュバス﹁じゃあまた。﹂
自室
******
門星学園
俺﹁⋮ここだっ!﹂
妹﹁すごーい!また浮いたー!﹂
さっそく色んな物で試してみた。
ペン、本、ノート、生徒手帳、リモコン、辞書。
しかし、辞書以上重たい物は浮かせないことが分かった。
俺﹁ふう⋮結構しんどいなぁ。﹂
ヴァンプ﹁よっ!どうだ調子は。﹂
ラミアから聞いたのだろう、ヴァンプが相変わらず金属をチャラチ
ャラさせながら入ってきた。
俺﹁はぁはぁヴァンプか。えっと、ヴァンプはどのくらいの重さま
281
でなら念力使える?﹂
ヴァンプ﹁んー、せいぜい教卓ぐらいか?﹂
教卓か⋮確か補強されてる分30kgくらいはあったよな。
俺﹁⋮遠いな。﹂
ヴァンプ﹁まあ頑張れ!俺も応援してるから。﹂
俺﹁ありがと、お茶飲んで行く?﹂
ヴァンプ﹁おう!俺くんの世界のお菓子って美味しいよな!﹂
俺﹁そういってくれると嬉しいよ。﹂
俺は気抜けした声で答えて、シンクへ向かった。
ヴァンプ﹁⋮なあ妹ちゃんよ。﹂
妹﹁うん?﹂
ヴァンプ﹁多分、お前の兄ちゃんはお前よりも弱い。だけどそれに
気を病むようなことになれば励ましてやってくれないか。﹂
妹﹁⋮ヴァンパイアのお兄ちゃんさ、見た目の割りに良い人だよね。
﹂
ヴァンプ﹁⋮よく言われたよ、前の世界でも。﹂
282
俺﹁お待たせ⋮なにか話してた?﹂
俺の質問に二人は同時に首を横に振った。
タウロ部屋
******
門星学園
女子生徒の割りには必要最低限の物しか置いてない︵城下町で買っ
た物は除く︶部屋。
一方タウロはそのような部屋で鏡の前に立っていた。
タウロ﹁⋮精神統一⋮そして、イメージ⋮ここだぁっ!﹂
ポワン
タウロ﹁⋮くそっ!やはり尻尾と耳が残るな⋮。しかしだいぶ近づ
けたは⋮ず⋮﹂
タウロが視線を扉に向けると、ラミアが気の抜けた顔で待機してい
た。
ラミア﹁⋮あ、どうぞ続けてください。﹂
タウロ﹁な、な、い、いつからそこにいたんだっ!?﹂
ラミアは言葉のペースを乱さずに答えた。
ラミア﹁うーんと、今から5回前の変身くらいからかな。あっ、あ
とね、
その馬のコスプレ風も可愛いよ。﹂
283
タウロ﹁⋮お前に言われても嬉しくない。﹂
タウロは耳と尻尾を生やした裸のまま寝床︵藁の山︶に倒れこんだ。
タウロ﹁⋮痛いな、人間の姿だと藁でも刺さる。﹂
ラミア﹁タウロさんはさ、体が複雑だから難しいんだと思うよ。結
構良いところまでできてるし。﹂
タウロ﹁それに⋮二足歩行は疲れる。⋮しばらく寝ることにする。﹂
ラミア﹁⋮ふーん。﹂
すると、ラミアは面白いことを思い浮かべ口角を上げた。
⋮。
一瞬の静寂
そして
ラミアはタウロの乳を揉みしだいた。
ラミア﹁うりゃああああっ!﹂
タウロ﹁ヒエヤアアアアッ!?な、なにをする!﹂
ラミア﹁人間の姿でもこの大きさ、すごいっていうかちょっと腹立
ってきたな流石に。﹂
284
タウロ﹁ひゃうっ!い、痛い!流石に力入れすぎだ!乳汁が出たら
どうする!﹂
実際は人間の姿なので体の構造も変わり乳汁は出なくなっている。
というよりも、出たら出たでR18指定に扱われそうなので筆者の
都合上搾乳をさせるわけには行かない。
ラミア﹁⋮はあ疲れた。﹂
タウロ﹁私もだ、全く。⋮まぁ確かに、魔力など滅多に使わないか
らな。こんなに疲れるものだとは思わなかった。﹂
2人は暫く並んで疲れで倒れこみ動かなかった。
自室
******
門星学園
俺﹁⋮もうすぐ戦闘か∼。﹂
ヴァンプ﹁やっぱり気になるのか?﹂
俺は机に突っ伏した。
俺﹁当たり前だよ、前に手合わせしたとき分からなかったか?﹂
ヴァンプ﹁言いにくいことをふるなよ。﹂
ヴァンプはそう言いながらも苦笑いした。
俺﹁まあ死なないだろうけどさ。﹂
285
ヴァンプ﹁ああ、死なないな。﹂
妹﹁⋮お兄ちゃん、ウロスちゃんから呼び出されたんだけど。﹂
妹は静けさを破ってそう言い通信に使っていたであろう生徒手帳を
見せてきた。
俺﹁ああ、行ってきな。﹂
妹が出て行くのを見送るとヴァンプは徐に切り出した。
ヴァンプ﹁なあ、そういえばお前、部活はどうするんだ。﹂
俺﹁部活?この学園にもあるのか?﹂
ヴァンプ﹁ああ俺はブカツという言葉自体初めて聞いたんだが、俺
くんの世界にはあったんだな。﹂
言葉は多分違うと思うけど。
俺﹁ふーん、何部があるの?﹂
ヴァンプ﹁野球部、サッカー部⋮まあ、そこらへんはベタか。多分
珍しいのは魔法研究部とか異世界探検部とか俺くん愛好会とか。﹂
絶対最後のラミアが作っただろ。
ヴァンプ﹁俺は演劇部を選んだ。﹂
286
俺﹁意外だな、ヴァンプなら体育会系を選ぶと思ってたけど。﹂
ヴァンプ﹁立ちくらみ。﹂
俺﹁なるほど。﹂
そこで言葉を切りお茶を飲む。
ヴァンプ﹁俺くんは?﹂
俺﹁うーん、そうだなぁ。ゆっくり選ばせてもらうよ。﹂
俺は首から下げたタグを指でいじりながら答えた。
287
グラウンド
24話﹁ニャルラトホテプは這い寄る混沌です﹂
門星学園
ヴァンプと会談をした翌日。
ついに、新科目:﹁戦闘﹂の時間が来た。
この授業はどうやらα、β、γの3クラス合同で行うようだ。
流石に3クラス集まると300人を超えるか越えないかぐらいなの
で集合場所は体育と同様空飛ぶグラウンドである。
ちなみに、王女は危険のために見学だ。
俺も見学にしてほしい。
生徒﹁ねえ、もしかして⋮﹂
生徒﹁あれが例の⋮﹂
生徒﹁人間の生徒⋮俺くん。﹂
生徒﹁女垂らしの俺くん⋮﹂
オオカミ﹁有名だな。﹂
俺﹁余計なお世話だ。あと女垂らしってどこからの噂だよ。﹂
確かに女子生徒の方が知り合い多いけれども。
ラミア﹁俺くーん、大丈夫?﹂
288
俺﹁⋮分からないよ、まだ。﹂
タウロ﹁たとえ負けたとしても、大丈夫だ。﹂
あ、こういうこと言われてるのか。
そうこうしているうちに授業が始まった、担当はまさかの這い寄る
混沌ナイルラトホテイプだった。
ニャルホテ﹁はいー、皆さんにはこれから戦っていただきます!も
ちろん、死にやしません!すごい傷薬はありませんが皆さんこそ元
気の塊ですからねっ!では早速チーム分けしちゃってズームインス
ーパーしちゃいましょーっ!﹂
俺﹁⋮なんか聞いたことある声。ってか初日から実践って大丈夫な
のか?﹂
オオカミ﹁あれじゃないか?力量をみてこれからの方針を考えると
か⋮﹂
なるほど、確かにそれならさっさと戦わせ合う方が早いな。
ラミア﹁なんだか見た目のわりに面白い先生だね。﹂
ラミアはなんか慣れてるらしい。
ニャルホテ﹁はいドーン!決まりましたよ、真尋さ⋮いえ、なんで
もありませんよ!っていうわけでこんな感じに分けちゃいました!
うおお私の鼓動もトランザムっ!真夏のサマーグッドォ!では五分
後くらいにゴーゴゴーですよ!アバアバアバアバアバレンジャーで
289
すよ!﹂
俺﹁ああ、分かった。この人阿澄さんか。﹂
オオカミ﹁ん?誰だ?﹂
俺は静かに言った。
俺﹁知らなくていい人。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
混沌先生の代わりに説明すると、この授業は主にチーム戦らしい。
それぞれ5人のチームで、6組、つまりは3試合を同時に行うシス
テムだ。
制限時間は一戦につき10分、まぁ授業の一環なのだからこんなも
のだろう。場所はグラウンドで仕切られた枠組みの中でしか闘えな
いが一応障害物となるものもある。もちろん使える武器は普段から
使っているもののみ、複数の武器は基本使えないが魔法は使用して
も良いらしい、まぁ僕には関係ない話だが。
あと余談だが雨天決行らしい。
まあそもそも雲の上にあるのだから雨天になることはないだろう、
俺﹁⋮しかし、どうも縁があるみたいだな。このメンバーは。﹂
オオカミ﹁本当だな。﹂
ヴァンプ﹁お約束というやつだろ。﹂
290
ラミア﹁⋮もしかしたらめんどくさいからいつものメンバーでいい
やって先生が後を押したのかもね。﹂
タウロ﹁⋮ありえるな。﹂
第2職員室
⋮⋮⋮⋮⋮
門星学園
ケットシー﹁ブェックシ!﹂
ウンディーネ﹁ケットシー先生風邪ですか?﹂
ケットシー﹁ズズッ⋮多分大丈夫にゃ⋮﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
最初の組が終わり早速俺たちの番になった。
俺﹁ついに来たか⋮﹂
ラミア﹁緊張するね⋮﹂
オオカミ﹁作戦とかはあるのか。﹂
俺﹁よし、俺が囮になってやられるから、そこをついてくれ。﹂
タウロ﹁ダメだ、俺くんは絶対に生かす。﹂
死にはしないと思うけど。
ヴァンプ﹁相手はどんなやつだ?﹂
291
タウロ﹁⋮アンデッドと雪女と⋮人魂、ゴースト、マミーらしいな。
﹂
俺﹁なるほど死霊軍団か⋮なら、少しだけ策がある。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
ニャルホテ﹁はいじゃあレッツ&ゴー!﹂
ラミア﹁それにしても、なんでこうも物理が気かなさそうなのに当
たっちゃったんだろうね!﹂
ラミアは雪女から降り注ぐ氷の粒に必死に牽制をする。
ヴァンプ﹁まあ俺たちが前線だから仕方ないだろ!﹂
一方少し下がったところでオオカミとタウロと俺は話をしていた。
俺﹁まずマミーはこれでなんとか倒せる。人魂も同じだ。﹂
タウロ﹁そ、そうなのか。﹂
俺﹁それからアンデッド、あいつはそう簡単に倒れないだろうが元
々が死体。ならーー﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
雪女﹁攻めてこないのか?﹂
292
ラミア﹁ちょ、そろそろきついんだけど!﹂
ヴァンプ﹁ってか向こうなんで雪女しか闘ってないの!?﹂
タウロ﹁待たせたっ!﹂
そう言うと、タウロはラミアとヴァンプの周りに雪の如くつもった
氷をランサーの鞘に詰めて物陰に戻った。
ヴァンプ﹁⋮。﹂
ラミア﹁ええっ!?助けてくれないの!?﹂
雪女﹁⋮どうするつもりだ?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
タウロ﹁これでいいのか?﹂
息も切らさずにタウロが戻ってきた。
俺﹁悪いね。鞘をこんな風に使っちゃって、さてまずはアンデッド
からだ。オオカミ、悪いけどヴァンプと交代してくれない?﹂
オオカミ﹁構わない⋮がラミアの方がきつくないか?﹂
俺﹁⋮うん、大丈夫。むしろラミアさんは前線にいるべきだよ。﹂
オオカミ﹁?﹂
293
オオカミは首を傾げながらも向かっていった。
⋮⋮⋮⋮⋮
ラミア﹁はぁはぁ⋮氷浴びてるのに⋮暑くなって来た⋮﹂
オオカミ﹁⋮おい交代だ。﹂
ラミア﹁えっ!?﹂
ラミアは一瞬喜びの表情を見せた
オオカミ﹁ヴァンプと。﹂
ラミア﹁⋮えーっ!﹂
が、それも所詮一瞬だった。
⋮⋮⋮⋮⋮
ヴァンプ﹁なんだ?用って。﹂
俺﹁ヴァンプ、お前って空飛べるよな確か。﹂
ヴァンプ﹁まぁ、一応な。でも空中戦とかは無理だぞ?﹂
俺﹁知ってる。で、この氷を障害物の後ろに隠れているだろうアン
デッドにかけて欲しいんだけど⋮﹂
ヴァンプ﹁そんなことか。でもそれって効果あるか?そりゃ生き返
294
るほどびっくりするだろうが⋮﹂
俺﹁いいから、溶ける前に行って!﹂
ヴァンプは不思議そうにタウロから鞘を受け取ると空へ舞い上がっ
た。
295
24話﹁ニャルラトホテプは這い寄る混沌です﹂︵後書き︶
ナイアルラトホテイプ︵ニャルラトホテプ︶:
クトゥルフ神話に出てくる這い寄る混沌。土の精であり旧支配者及
び人間を冷笑している⋮が本編では柔和。千の顔を持つと言われて
おり、今作では名状し難いほど比較的グロい容姿になっている。ま
た某漫画のニャルラトホテプとは似ても似つかぬ関係。
雪女:
日本妖怪の一つ。言ってはならないと言われていた禁忌を破る話が
有名。顔は白く美人だが、吐息によってなんでも凍らせてしまう。
人魂:
日本妖怪の一つ。名前の通り人の魂だけが残った姿。主に火のよう
な描写で描かれる。余談だが、緑色の火を出すにはモリブデンやバ
リウムを使った炎色反応を用いれば良い。
アンデッド:
動く屍。要はゾンビである。ブラムの作品﹁ドラキュラ﹂にて初め
て存在する。
構造は人間とほとんど変わらないが太陽の光や聖水が苦手だと言わ
れている。
ゴースト:
日本語で幽霊のことである。死者の霊が現れたものと表現されるこ
とが多い。
文献的にみても日本の幽霊と西洋の幽霊はそんなに変わらないらし
い。余談だが、﹁ゴースト/ニューヨークの幻﹂は名作なので是非
296
とも見て欲しい。
マミー:
ミイラのことである、個人的にはマミーは女、ミイラは男のイメー
ジがある。
自然乾燥によりエジプトで数千年経っても生前の顔を保つことが可
能。
水が苦手というのは有名な話。︵包帯が水を吸って重たくなるため。
︶
297
25話﹁雪女はツンデレです﹂
雪女﹁⋮お前たち戦意あるのか?﹂
ラミア﹁そ、そうじゃなかったら引いてるでしょ!もう俺くん酷い
よ⋮﹂
すると後ろから高く舞い上がるヴァンプの姿が見えた。
雪女﹁⋮どういうつもりだ?﹂
ヴァンプ﹁あ、いたいた。よし⋮とりゃっ!﹂
ドサドサと落ちていく半溶け状態の氷。
それは見事アンデッドに命中した。
アンデッド﹁ヒィアアアアッ!?冷え!な、何を⋮はっ⋮体が⋮動
かない⋮﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
俺﹁アンデッドって屍でしょ、ならしっかりと死体の特徴もあるは
ずなんだよ。﹂
タウロ﹁それが今回の氷か?﹂
俺﹁うん、アンデッドの動いていない状態の体を一気に低温まで下
げる。こうすることで流れていない血液が凍って死後硬直に近い形
298
になるはずなんだよ。﹂
タウロ﹁な、なるほど。しかし、いずれ凍った血液も溶けるのでは
?﹂
俺﹁だから、そこに詰めて寄れば⋮﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
ヴァンプ﹁⋮悪いな。まあアンデッドだから痛覚はないだろうけど
な。﹂
そう言うとヴァンプはザクッとアンデッドの体をレイピアで貫通さ
せた。
残り5対4
⋮⋮⋮⋮⋮
タウロ﹁さて、また雪を集めてきたが⋮今度はどうするんだ?﹂
俺﹁ヴァンプまた鞘を預かっててくれないか?その間にタウロさん、
ラミアと交代してあげて。﹂
俺はモンスターハントなら参謀に向いているのかもしれないな⋮
⋮⋮⋮⋮⋮
ラミア﹁ゼーゼー⋮お、俺くん酷い。﹂
俺﹁わ、悪い。そこで休んでてくれ。ヴァンプ、鞘の中はどうだ?﹂
299
ヴァンプ﹁⋮溶けてるな。﹂
ヴァンプは鞘を揺らしチャポンと音を鳴らして、液体になっている
ことを示した。
俺﹁よし、次はマミーと人魂だ。﹂
ヴァンプ﹁?⋮人魂は分かるけど、なんでマミーなんだ﹂
すると呆れ顔で俺は呟いた。
俺﹁⋮これ、結構有名だぞ?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
ヴァンプ﹁再びどうもー、お水でーす!﹂
そう言ってヴァンプは3割ほどの水を人魂にかけた。
人魂﹁お、おいらは水が苦手なんだーっ!﹂
何処かで聞いたことのある声を発しながらも人の頭ほどのサイズだ
った人魂はロウソクの火くらいの大きさまで小さくなった。
戦意喪失
残り5対3
⋮⋮⋮⋮⋮
300
ラミア﹁ブルブル⋮こ、ここってこんなに寒かったの?﹂
俺﹁あぁ、だから変温動物のラミアさんには前線で体を動かしても
らいたかったんだけど⋮逆に汗で冷えちゃったね。﹂
ラミア﹁⋮いいよ、でもゴメン。戦えそうにないや。﹂
ラミアは小さな声で呟いた。
俺﹁⋮仕方ないか。とりあえずこれ着てて、僕のだけど。﹂
残り4対3
⋮⋮⋮⋮⋮
ヴァンプ﹁はい、よくわからないけどお水でーす。﹂
ヴァンプは残りの水を全てマミーにかけた。
マミー﹁きゃあああああっ!⋮エッチ。﹂
ヴァンプ﹁ゲッ!?女かよ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
俺﹁マミーは所謂ミイラの妖怪であるわけで、つまりは包帯が水を
吸うと重たくなって動けなくなるから、昔から水が苦手って言われ
てるんだけど⋮マミーって女の子が多いんだよね。﹂
ラミア﹁つまり?﹂
301
俺﹁ヴァンプがミイラになる。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
マミー﹁う⋮うぅ⋮﹂
ヴァンプ﹁血⋮血が⋮足りない⋮﹂
マミーの透けた体をみた結果、ヴァンプは鼻血が止まらなくなりま
さにミイラ取りがミイラになった。
残り3対2
⋮⋮⋮⋮⋮
俺﹁あと2分か⋮あとは保てばいいんだけど⋮ゴーストとか雪女は
少し無理がある作戦だから⋮﹂
ラミア﹁⋮俺くんなら行けるよ。がんばって。﹂
俺﹁⋮そうだね、頑張るよ。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
オオカミ﹁こ、これ、結構きついな。﹂
ゴースト﹁流石に3人やられちゃったし前線に出るしかないでしょ。
﹂
雪女﹁私なんか氷降らしてただけだし⋮﹂
302
タウロ﹁⋮なっ!お、俺くんっ!?﹂
俺は前線に出ると軽く深呼吸をした。
俺﹁⋮般若波羅みとぅっ⋮あ、噛んだ。﹂
ゴン!
俺﹁痛っ!?﹂
戦意喪失
残り2対2
引き分け
時間切れ
結果
303
力無いのわかってたのに⋮⋮﹂
グラウンド︵介護テント︶
26話﹁マミーはミイラです﹂
門星学園
俺﹁本当にゴメンっ!!
王女﹁でも頑張っておられましたよ﹂
オオカミ﹁王女様の言うとおりだ。それに俺くんがいなけりゃあん
な惜しいところまで行けなかったし﹂
タウロ﹁そうだ。それよりも、頭は大丈夫か?﹂
俺は頭をさすりながら、大丈夫とだけ答えた。
雪女﹁あ、いた。お疲れ様。﹂
あれも加点されるべきだって!
俺
俺﹁あぁ、相手チームの。ごめん、なんか卑怯な手ばっかり使って﹂
ゴースト﹁なあに、大丈夫!
たちの弱点ついてるんだから。経詠まれたら終わってたし﹂
アンデッド﹁俺も死後硬直を利用されるとは思わなかった。流石噂
に聞くだけはあるな、俺くんよ﹂
あ、やっぱり呼び名俺くんなんだ。
雪女﹁じゃあゆっくり休んでて、私は人魂の様子みてくる﹂
304
俺﹁うん、お疲れ様﹂
3人が去ったのを確認して、タウロはクスリと笑う。
タウロ﹁俺くんもなかなか名が立ってきたな﹂
俺﹁なんでだろ﹂
俺は軽く頭を掻きながら応えた。
すると、少し傷口が痛んだ。
俺﹁いって!﹂
タウロ﹁まだ大丈夫ではないじゃないか。虚勢は命取りになるぞ?﹂
俺﹁⋮⋮そうだね、ごめん﹂
王女﹁では、私はラミアさんの処へ行って来ますね﹂
王女が椅子から立ち上がった瞬間、テントが音を立てて開いた。
大丈夫!!?﹂
と、止まれっての!﹂
ラミア﹁俺くーん!!
オオカミ﹁ちょ!
入ってきたのはオオカミを尻尾に引っ掛けてきたラミアだった。
俺﹁ら、ラミアさん⋮大丈夫なのか?﹂
305
ラミア﹁何が?﹂
⋮⋮大丈夫そうだ。
お、俺くんがマミーに呪われたー!?﹂
まあラミアの場合は身体温めたら、すぐ治るか。
ラミア﹁ギャーッ!?
俺﹁お、大袈裟だな﹂
マミー﹁私何もしてないから!﹂
タウロ﹁あ、隣のベッドだったのか﹂
そんなこんなで今日の授業は終わりになった。
カフェテリア
******
門星学園
戦闘の授業を無事終えたことで、今日もいつものメンバーで食事を
することになった。
ここも部活あるんだ!﹂
まだ特には⋮⋮﹂
ヴァンプ﹁⋮⋮そういえば、部活は決めたか?﹂
俺﹁ん?
妹﹁ヘェ∼!
タウロ﹁うむ、これが部活一覧表だ﹂
俺と妹はタウロさんが出したプリントを受け取った。
306
⋮⋮なるほど、ヴァンプの言ってたとおりそんなに日本と変わって
いないな。
オオカミ﹁そろそろ決めないと、出遅れになるぞ?﹂
俺﹁そうだな、適当に仮入部して回るよ﹂
ラミア﹁ねえねえ俺くん、これとか入ってみない?﹂
俺﹁俺くんを愛でる会だかなんだか知らないが、入る気はないぞ。﹂
そう即答すると、明らかにラミアは項垂れた。
ラミア﹁そんな∼﹂
俺﹁そもそもラミア以外にそんな同好会もどきに入るもの好きなん
ているのか?﹂
⋮⋮?
なんでみんな何も言わない?
次に口を開いたのはオオカミだった。
オオカミ﹁⋮⋮お前さ、裏ではかなりモテてるぞ?﹂
俺﹁えっ!?﹂
タウロ﹁⋮⋮この鈍ちん﹂
タウロさんまで⋮⋮
307
でも、そんなにモテてるか?
⋮⋮うーん
⋮⋮⋮⋮
zzz⋮⋮
ヴァンプ﹁⋮⋮おい、俺くんよ。思い当たらないならそれでいいか
ら﹂
俺﹁はっ!⋮⋮う、うん﹂
妹﹁そんなことより部活だよ。どうするの﹂
ラミアが少しクワッ!と目を見開いたが気にしないでおこう。
俺﹁⋮⋮そうだな、帰宅部で良いんじゃないか?﹂
妹﹁つまんなーい﹂
俺﹁⋮⋮お前まさか一緒の部に入るつもりか?﹂
ラミア﹁何それ天国!﹂
静かにして欲しい。
俺﹁⋮⋮みんなはどこに入ったんだ?ラミアさん以外﹂
ラミア﹁へっ!?﹂
まるで期待していたかのような表情だったラミアは置いといて、一
308
人ずつ話してもらった。
ヴァンプ﹁俺は前言ったな。演劇部だ﹂
タウロ﹁私は⋮⋮剣道部に入った﹂
オオカミ﹁俺は陸上部だ、毎日身体は動かしたい﹂
なるほど、みんなそれ相応の部活に入ってるんだな。
まあいいか、仮入部という形で色々見て回ろう。
309
グラウンド
27話﹁ドラゴニュートは竜人です﹂
門星学園
妹﹁お兄ちゃん、どうしたの放課後にわざわざここに来るなんて﹂
俺﹁お前なぁ⋮⋮部活だよ。どんな感じか見るくらいなら出来るだ
ろ﹂
俺は妹に説明して、部の様子を見て回りはじめた。
*****
野球部
野球部の活動場所に来てみると、同じクラスで見た生徒を見つけた
俺﹁お。あれは悪魔か﹂
君たちは⋮⋮?﹂
妹﹁と、飛んでるよ!?﹂
?﹁うん?
声をかけてきたのは、背中に羽根と尻尾を生やした青年だった。
俺﹁あ、すいません。俺は高等部の人間です。﹂
妹﹁私は小学部の日本人です⋮⋮だよね?﹂
310
俺﹁自分の種族ぐらい覚えろ﹂
俺は小声で妹に囁いた。
?﹁あ、もしかして体験入部?﹂
俺﹁あーいえ、見てるだけなんですけど⋮⋮﹂
ああ!あの噂の!
ならもしかして僕の種族も
悪魔﹁あ、俺くんじゃん。何してんだ?﹂
見つかった。
?﹁俺くん⋮⋮?
わかる?﹂
ドラゴニュート
俺﹁え、えぇまあ。⋮⋮竜人ですよね﹂
竜人﹁流石だね、容姿だけで分かるとは。ねえ、君野球してみない
?﹂
俺﹁えぇっ!?でも俺空飛べないですし、足もそんなに⋮⋮﹂
上を見ると悪魔が手を合わせている。なんで謝る、あんた本当に悪
魔かよ。
竜人﹁野球経験は?﹂
俺﹁俺の世界の野球ならしました﹂
それを聞いたドラゴニュートは爬虫類じみた顔をにやかせた。
311
同じクラスなんだろ﹂
竜人﹁じゃあさ、僕が投げるからそれを打つくらいはしてってよ、
悪魔、こっち来て手伝って!
悪魔﹁あー、はい。⋮⋮悪いな俺くんよ﹂
あまり話さない相手だけに申し訳なさそうだ。
⋮⋮天使が見たら笑ってそうだが。
仕方ない。
早速適当にバット振って終わらそう。
悪魔﹁じゃあ始め!﹂
竜人﹁見よ、僕の送球を!﹂
どこに投げてるんだよ。
二塁ランナーいないよ。
竜人﹁よし!じゃあ行くぞ!⋮⋮そりゃ!﹂
なるほどストレートか。
ならこのラインを狙って⋮⋮
カキン!
俺﹁あ、当たった﹂
竜人﹁やっぱ経験者は違うなぁ。ならこれは!?﹂
312
これは、スライダーと見える。
なら持ち上げるようにして⋮⋮
カキン!
俺﹁⋮⋮俺、向いてるかも⋮⋮﹂
妹﹁お、お兄ちゃん!?それ作戦だよ!?﹂
俺﹁はっ!?﹂
竜人﹁そんなことないよ∼、ならこれならどうだっ!﹂
かなり大きいがカーブがかかっているが、見逃したらギリギリスト
ライクだろう⋮⋮。
脇を締めて軸を固定して⋮⋮
俺﹁のりゃっ!﹂
カキン!
俺﹁⋮⋮俺入るわ﹂
妹﹁⋮⋮えええっ!早いって!﹂
結果体験させてもらったので、お礼を告げる。
俺﹁⋮⋮楽しかったです、でもやはり力不足です。⋮⋮でも、お手
伝いくらいならさせていただきます﹂
313
竜人﹁そっか、残念だけど仕方ないね。また来てよ﹂
余談だが、俺が離れるとドラゴニュートの投げる球は空気摩擦で炎
を纏い、ホームランボールも空を飛んでいるため簡単に取られてし
まうことが分かった。
妹の言うとおり接待プレイだったようだ。
******
サッカー部
エルフ﹁あ、私の嫁とお義兄さんだ﹂
妹﹁ってかエルフちゃん、サッカーしてるんだ﹂
俺﹁火は纏うのか?﹂
エルフ﹁纏わないですよ!そんなのサッカーボールじゃなくてファ
イアボールじゃないですかー﹂
⋮⋮真面そうでよかった⋮⋮
エルフ﹁私は精霊魔法使えるので風を代わりに纏わせます!﹂
あー、ダメだった。
妹﹁そういえば部長さんは?﹂
エルフ﹁あそこだよ﹂
314
エルフが手を振ると、部長と思われる人物も振りかえしながらこち
らに向かって来た。
?﹁あ、どうもサッカー部へようこそ!⋮⋮えっと体験入部ですか
?﹂
エルフ﹁違いますよ、2人は見にきただけです。ちなみに、この子
が私の嫁です﹂
余計なこと言わなくて良い
?﹁⋮⋮あ、じゃあそちらはお兄さん、ということは俺くんかな?﹂
凄いよ、俺!
有名だぁ、嬉しくない!
俺﹁⋮⋮はい。えっとカマイタチさんですか?﹂
カマイタチ﹁そうだよ!凄いなぁ。あ、あまり近づかない方がいい
よ。切れるし﹂
でしょうな、ボールも何個割れたことやら。
俺﹁それにしても⋮⋮男女混合なんですね﹂
カマイタチ﹁まあね、ほらこの学校ってサッカーできる二本足の生
徒って少ないじゃん﹂
まあ確かにそうか。
315
俺﹁⋮⋮そんな目で見られても入りませんよ﹂
カマイタチ﹁そう言わずに﹂
エルフ﹁楽しいよ?﹂
妹﹁こっちくんな﹂
結局、俺は妹と逃げ切ることにした。
******
逃げ切ったあともいろんな部活をみた。
しかし、陸上部のオオカミは100mを5秒で走るし、ラクロス部
のハーピーはゴールにそのまま突っ込むし、ラグビー部はゴーレム
がいるのを見た時点で諦めた。
仕方が無い、場所を変えよう。
316
27話﹁ドラゴニュートは竜人です﹂︵後書き︶
今回追加キャラ多いからしんどいな。
ドラゴニュート:
竜人︵龍人︶とも呼ばれる各地方の神話に出てくる人の姿をしたド
ラゴン。多くの場合は半獣だが稀に殆ど人間と変わらないものもあ
る。
カマイタチ:
漢字では﹁鎌鼬﹂と書く、芸人ではない。日本妖怪の一つで、つむ
じ風に乗って鋭い爪で人を傷つけるイタチだと言われている。真空
で肌が切れる現象も同様にそう言われる。
ゴーレム:
﹂︵死んだ︶とすれば動きが
﹂︵心理︶と書いた羊皮紙を頭に貼
ユダヤ教で言われる泥人形。創造主の命令に従って動くが運用には
﹂を消して﹁
多くのルールがある。﹁
ると動き出し、﹁
止まる。まあ、ここまで詳しく書かなくても、強いってことが分か
ってもらえればよかったんだけど。
317
中庭
28話﹁日本妖怪は多種多様です﹂
門星学園
俺﹁⋮⋮どこも合わないな﹂
妹﹁力量の差があるもんね⋮⋮どうする?﹂
俺﹁⋮⋮そうだね、帰宅部でいいんじゃないかな?﹂
結局文化部も俺には合わないものばかりだった。
オカルト研究会とかもあったが、そもそもここの生徒自体オカルト
的だと思う。
妹﹁お兄ちゃん。部活は大事だよ﹂
俺﹁つってもなぁ⋮⋮﹂
選び始めて3時間、外は明るくともかなり歩いた。
疲れたため、ベンチに腰を下ろしペットボトルからジュースを飲む。
?﹁あ、やっと見つけた。俺くん!﹂
突然、聞いたことのある声が耳に入った。
俺﹁ゆ、雪女さん?どうしたんですか﹂
318
雪女﹁俺くん。確か部活入ってないよな?なら私の部活に入って欲
しい﹂
妹﹁でも、お兄ちゃん。運動神経も頭もそんなにいいというわけで
は無いですよ﹂
事実、文化部も行ったが科学部は賢い種族、吹奏楽部は音楽関係の
種族が集まっており俺の入る隙が無かったのである。
雪女は初めて見る生徒に誰何を問いた。
雪女﹁⋮⋮君は?﹂
妹﹁日本人です。妹です﹂
雪女﹁日本人⋮⋮なるほど、面白いな。それにしても妹か、なら君
も入れ﹂
結局、有無を言わせずに部室に連れて行かれた
??室
******
??部
門星学園
俺﹁⋮⋮変な部活じゃないですよね﹂
雪女﹁いいからいいから﹂
息を呑み、一呼吸置いてから扉を開けた。
319
すると⋮⋮
?﹁おお来たか﹂
?﹁待ってたよ!確か俺くんだっけ?﹂
?﹁ヘぇ∼思ったより、普通だな﹂
?﹁そ、そうかな?﹂
次々に色んな生徒から声を浴びせられ、困惑する。
俺﹁な、なんですかここ。見た感じ日本妖怪ばっかですけど、日本
妖怪同類会かなんかですか?﹂
雪女﹁先輩静かにしてください。あー、悪いな俺くん、説明する﹂
とりあえず、俺と妹は椅子に座らされて、暫くするとお茶が出され
た⋮⋮
俺﹁⋮⋮毒とか入ってないですよね﹂
?﹁も、もちろん!毒は入れてないよ!毒は!﹂
妹﹁え!どうしようお兄ちゃん!私飲んじゃったよ!?﹂
雪女﹁震々︵ぶるぶる︶先輩、落ち着いてください。大丈夫だ俺く
ん、入ってるものと言えば抹茶くらいだ﹂
320
震々︵ぶるぶる︶?⋮⋮これまたマニアックなのが居たな。
俺﹁⋮⋮で俺に何部に入れっていうんですか?言っておきますけど
何もできませんよ﹂
わざとぶっきらぼうに言ってみるが雪女は苦笑して答えた。
雪女﹁いや、それは分かっている。この部が欲しいのは君の異種族
に感する知識だ﹂
妹﹁⋮⋮この部って?﹂
?﹁言ってなかったのか?﹂
雪女﹁はい、先輩﹂
その声の主はキツネ耳をつけた少女だった。
?﹁すまんのう、何も聞かせず連れてきてもうた。質問に答えよう、
ここは生徒会室、そして妾たちは生徒会執行部じゃ。ちなみに妾は
大学部。生徒会長を務めておる﹂
せ、生徒会?
妹はそれよりもロリババアとか言い出しそうだったので、無理やり
抑えた。
?﹁⋮⋮何しとるんじゃ?﹂
俺﹁なんでもないです﹂
321
妹﹁んー!んー!﹂
?﹁まぁよい、しかし汝の実力は妾も耳にしただけじゃ。妾の種族
名を当ててみよ﹂
いきなりクイズかよ。
まあいいや、えっと⋮⋮キツネ耳か。玉藻前は確か妹の担任だった
から違うと思う。
そうすると残りは妖狐かオサキ狐、もしかしたら管狐が変化した姿
かもしれない。
うむぅ、キツネの妖怪って多いんだよな。
しかし、よく見ると尻尾が9本ある。
なんだ、簡単だった。
俺﹁九尾ですか﹂
九尾﹁うむ、さすがに簡単すぎたかの。それでは、こやつはなんじ
ゃと思う﹂
?﹁私だね!よし、当ててご覧よ﹂
俺﹁むむ⋮⋮﹂
感じは女の子に見えるけど、服が変わっていて着ぐるみみたいにモ
コモコしている。
⋮⋮もしかすると、これは人間に化けているのか?
俺﹁⋮⋮化けるのってありですか?﹂
322
九尾﹁ほうバレたか。ほれ、元に戻れ﹂
?﹁えーっ!元の姿あまり好きじゃないんだけどなぁ﹂
すると、変化が解けたのか着ぐるみが広がって彼女の体が完全に無
機質な着ぐるみに包まれた。
いや、この着ぐるみ自体が彼女なのか。
⋮⋮よし分かったぞ。
ぼろぼろとん
俺﹁暮露暮露団ですね﹂
暮露﹁凄いなぁ。まあいっか!改めまして!中学部!暮露暮露団で
す﹂
九尾﹁ふむ、思ったより面白い奴じゃのう。気に入った、お主よ生
徒会に入れ。そこの童もじゃ。﹂
妹﹁わ、私も!?﹂
しかし、なんで俺なんだ?
そう首を捻っていると幼い見た目の会長さんが答えてくれた。
九尾﹁生徒会には色んな頼みが届く。すると、やはり種族の知識が
必要となってくるのじゃ﹂
?﹁そこで俺たちは雪女から俺くんの噂を聞いたんだ﹂
太い声が聞こえ、そこを見ると人面の牛の姿が見えた。唯一人間に
化けていない。
323
くだん
?﹁あー、すまない。俺は高等部の件⋮⋮ってもアンタには分かる
か﹂
俺﹁⋮⋮予言する、鬼の妖怪ですね。確か予言すると死ぬと聞きま
したけど﹂
件﹁まあな、だから普通の人面牛とでも思っててくれ﹂
そういうと、件は鼻を鳴らした。
九尾﹁⋮⋮まあこやつらで全員じゃ﹂
妹﹁少なくない?﹂
九尾﹁ああ、少ない。しかし汝の力はかなりの役に立つ⋮⋮頼む、
我が生徒会に入ってくれ!﹂
生徒会一同は会長の言葉に合わせて頭を下げた。
⋮⋮そこまでされると、流石に断れないな。
それに、俺にしか出来ないといわれたら⋮⋮
俺﹁⋮⋮頭を上げてください、分かりましたよ。入ります﹂
九尾﹁ほ、本当か!﹂
俺﹁ええ、でも妹はオマケみたいになるんですけどいいんですかね﹂
妹﹁オマケ言わないでよ!私だってそこそこ詳しいよ!﹂
324
妹は足を蹴りながら文句を垂らした。
けっこう痛い。
九尾﹁そうなのか?﹂
俺﹁⋮⋮まあはい、俺が教えてたので﹂
九尾﹁ならお主も入れ、童が入ると華やかになる﹂
妹﹁なんで私、子供扱いばっかされてるの!?﹂
こうして、俺と妹は日本妖怪同類会及び生徒会執行部に入ることに
なった。
325
28話﹁日本妖怪は多種多様です﹂︵後書き︶
今回は日本妖怪メイン
震々︵ぶるぶる︶:
今昔画図続百鬼に出てくる妖怪の一つ。
恐怖を感じた時にゾッとする現象の要因らしいとされており、人か
ら寒気を食うとされている。ただ今作の震々は本人が代わりにブル
ブルしている。
九尾:
日本妖怪と思いきや、実は中国の妖怪︵筆者も知って驚いた︶狐憑
きの一つ。
玉藻前と九尾は同じものとされているが、今作では尾の数が同じだ
けだということで違うものとしている。
妖狐:
人を化かすといわれている狐の妖怪、だが助けてくれた人間に対し
ては恩返しをすると言われている。油揚げが好き。また白狐や銀狐
など様々な妖狐がいる︵九尾やオサキ狐もその一種︶。
オサキ狐:
日本の各地方に伝わる狐の憑き物。
尾が二つに裂けているため﹁尾裂狐﹂と表されることもある。九尾
もその一種である。身のこなしが早く、神出鬼没。
管狐:
主に中部地方に伝わる狐の妖怪。
326
竹の筒の中に入るほどの大きさで、家にいると裕福になると言われ
ている。
しかし、それも初めのうちで暫くすると75匹にまで増えるので家
が食いつぶされてしまう。︵個人的にはHOL○Cを思い出す︶
ぼろぼろとん
暮露暮露団:
日本妖怪の一つ、百鬼徒然袋に出てくる妖怪だが民間伝承はない。
ぼろぼろの布団の九十九神とされている。
くだん
件:
日本各地で伝承される妖怪。名前の通り人と牛が合わさった姿で人
面の牛の姿として表現される。牛から生まれ災難を予言するがすぐ
に死ぬ。件の絵姿は厄除招福の護符とされている。
327
自室
29話﹁オークは豚のモンスターです﹂
門星学園
今日は珍しいことにオオカミが来ている。
理由はどうやらゲームが目当てだということだ、どうやらヴァンプ
に負かされたことが気に食わなかったらしい。
オオカミ﹁そんで、生徒会に入ったのか?﹂
俺﹁あぁ。⋮⋮あ、それボタン押しっぱなしにすれば車体の後ろに
アイテム付けられるぞ﹂
オオカミ﹁おお、ほんとうだ﹂
遊ぶなら外だとか言いながらも、オオカミも楽しそうに遊んでいる。
すると妹が部屋に帰ってきた。
妹﹁ただいまー。あ、オオカミさん来てたんだ﹂
オオカミ﹁おうよ﹂
俺﹁あー、帰って早々悪いけどお茶出してくれないか?﹂
妹は肩をすくめながらもヤカンからお茶を二人分淹れてくれた。
328
オオカミ﹁⋮⋮そういえば、もうすぐ文化祭だな、誰か呼ぶのか?﹂
俺﹁呼ぶって?﹂
オオカミ﹁知らないのか、門星学園の文化祭は誰か現世界から一人
につき二人呼ぶことが出来る⋮⋮もちろん禁止事項は守ってもらう
がな﹂
バナナで車を滑らしながらオオカミは説明した。
俺﹁へー、だから他の世界では門星学園は有名なのか﹂
妹﹁そうなの!?﹂
俺﹁聞いて回った﹂
まあだから、確かな情報では無いけど。
俺﹁⋮⋮まあ人は考えとくわ﹂
妹﹁私も。友だちまで危険に晒したく無いしね﹂
オオカミ﹁まあ、人間からすればそうなるか﹂
オオカミは車を落としながら、不敵な笑みを浮かべていた。
俺﹁⋮⋮それにしても、下手すぎないか?﹂
オオカミ﹁むぅ﹂
329
生徒会室
******
門星学園
某日、生徒会室に来てみたものの今は文化祭の準備による予算案の
決定ぐらいしか仕事がなかった。
俺﹁人寄せとかいいんですか﹂
九尾﹁構わぬだろう。そもそも門星学園ならそんなことせんでも仰
山くると思うぞ﹂
妹﹁確かにね﹂
俺たちが納得すると九尾は震々にお茶を頼んだ。
どうやら震々は生徒会の小手間係とみて間違いはなさそうだ。
九尾﹁しかし⋮⋮あれじゃな。せっかく二人に入ってもらったが仕
事がないのも申し分ない。確か、この部屋の前に目安箱を設置して
いたはずじゃ。それを見てくれば良い﹂
目安箱て⋮⋮徳川吉宗か。
妹﹁お兄ちゃん取って来てよ﹂
俺﹁仕方ないな﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
数分後
330
俺は多量の用紙を机に置いた。
俺﹁すごい入ってました。出すのに苦労するくらい﹂
九尾﹁溜めてたからの﹂
おい。
妹﹁まあいいじゃん!どんなのがあるの?﹂
そう言いながら手を付け始めた。
俺﹁なになに⋮⋮﹃学食のメニューを増やして欲しい﹄⋮⋮学食に
頼めよ﹂
妹﹁こっちは﹃バドミントンの羽が屋根に上がって取れない﹄だっ
てさ﹂
俺﹁空飛べる種族に頼めばいいだろ⋮⋮﹂
簡単すぎる。考える前に入れてそうだな皆。
妹﹁恋愛相談もある!﹃好きな人が別の女に盗られてしまいました
⋮⋮﹄どうする?﹂
俺﹁寝肥でも忍ばせとけ﹂
そしたら太ってる彼女見て男は失望する。デブ専なら知らないけど
な。
331
妹﹁﹃僕は隣の席のメデューサさんが好きなのですが、なかなか目
を合わせてくれません﹄﹂
俺﹁そりゃあ目を合わせて石にさせたら困るからな﹂
妹﹁これは私でも分かった﹂
結構鈍い人多いなこの学校。
俺﹁そういえば、これ回答ってどうすればいいんですか?﹂
九尾﹁目安箱にクリップで留めてもう一回入れよ。さすれば、本人
の元へ行き着く﹂
なんか凄いシステムだ。レンタルビデオ屋みたい。
とりあえず適当に⋮⋮かく的確に回答を書いて一通り留めたところ
で訪問者が現れた。
?﹁お、俺くんはいるブヒか!?﹂
なにこの語尾
件﹁お前は⋮⋮﹂
?﹁僕は高等部γクラスのオークですブヒ﹂
あり得ない語尾だな。
暮露﹁あー、もしかしてアイドル研究部の部長の﹂
332
オーク﹁そうブヒ!それで文化祭の出し物で少しトラブルが起こっ
たブヒ﹂
なんだ萌え豚か。
オーク﹁ちょっとそこの君!さっきから聞こえてるブヒ!﹂
な、なんだと!?
思っていただけのつもりだったのに。
オーク﹁失礼ブヒ!僕は豚じゃなくてオークブヒ!⋮⋮だから鼻で
笑うな!﹂
俺﹁俺くんです﹂
オーク﹁君が俺くんだったブヒか。やっぱり想像どおりのイケメン
だったブヒ﹂
うわぁすっごい手のひら返し。
まあ俺の機嫌を損ねさせるわけにはいかない理由でもあるのだろう。
それに免じて今回は話を聞くことにしよう。
俺﹁でなんですか、俺に用って﹂
オーク﹁実はアイドル研究部で文化祭にライブをするつもりだった
ブヒ﹂
会長に確認する。
333
九尾﹁確かに文化祭のオープニングセレモニーとしてアイドル研究
部に地下ホールを割り当てておる﹂
オーク﹁そのライブ予定だったアイドルが来れなくなったブヒ!﹂
妹﹁なんと!!﹂
確かにオープニングセレモニーでそもそも本人がいないのはキツイ
な。
俺﹁誰が来る予定だったんですか?﹂
オーク﹁エレメンタルズだブヒ﹂
俺﹁エレメンタルズ?確かにここのTVで聞いたことあるな﹂
妹﹁お兄ちゃん!エレメンタルズ知らないの!?﹂
妹が説明するところによると
エレメンタルズというのは、男女混合のアイドルユニットで出した
アルバムCDが週間ランキングでいつも1位を取ってるらしい。
メンバーは名前の通り、火妖精、水妖精、土妖精、風妖精の4人で
組まれているということだ。
しかも、最近は3日間連続ライブを行う予定らしい。
俺﹁そんな忙しい時期なのによく来校を考えましたね﹂
オーク﹁だって門星学園だし﹂
334
そりゃそうか。この世界のメッカみたいなものだもんな。
断らないと思うよ、普通。
オーク﹁俺くん、なんとかして欲しいブヒ!﹂
俺﹁⋮⋮なんで俺に?﹂
オーク﹁俺くんの知識でスクールアイドルを作ってオープニングセ
レモニーをカバーするブヒ!﹂
なんちゅうことを言うんだ、この人は。
俺﹁そうは言っても⋮⋮﹂
妹﹁面白そうじゃん!やろうよ!﹂
俺﹁お前なぁ⋮⋮﹂
仕方ない、少しガツンと言ってやろう。
俺﹁面白そう、楽しそうだけでするようなことじゃないんだぞ?遊
びじゃないんだから﹂
オーク﹁それには凄く同意するブヒ!!﹂
俺﹁なら⋮⋮﹂
オーク﹁だから、本気でアイドルを作るブヒよ!!こっちも遊びで
アイドル研究部やってないブヒ!﹂
335
凄く熱が入ってるこの人。
焼豚にでもなりそうな勢いだ。
九尾﹁俺くんよ。仕事なくて困っておるんじゃろ?﹂
俺﹁はい﹂
九尾﹁やってやれ﹂
俺﹁⋮⋮﹂
こうして、俺はスクールアイドルユニットを作ることになった。
336
29話﹁オークは豚のモンスターです﹂︵後書き︶
ねぶとり
寝肥:
女性が床に就くときに部屋に入りきらないほど太り、車の轟音より
も大きなイビキをかかせる妖怪。戒めや病気とされている。デブ専
歓喜。
メデューサ:
ギリシャ神話に出てくる怪物。髪の毛の代わりに蛇が生えており、
目を合わせたものを石にさせると言われている。そこそこ有名どこ
ろ。
オーク:
元々は豚の姿をしていなかったが、アイルランド語で豚という意味
に近いため豚の姿で伝わった怪物。ずる賢く主に悪役としてされる。
オーク×エルフの同人誌は主流。
337
廊下
30話﹁件は人面牛です﹂
門星学園
俺﹁つまりは男女混合ユニットでもいいってことですよね﹂
オーク﹁もちろんブヒ。可愛い女の子が歌って踊るのも魅力ブヒが、
男の子がかっこ良く踊るのも素晴らしいブヒからね﹂
なんだ、ただのドルオタだと思ったけど、ちゃんとアイドル研究部
してるんだ。
オーク﹁で、どんなテーマのユニットにするブヒ?﹂
俺﹁⋮⋮テーマ?そんなのいるの?﹂
Ki○sとか関ジャ○∞とか沢山いる
オーク﹁何言ってるブヒ!あんたんとこの世界にもモモ○ロとかモ
ーニ○グ娘とかKi○Ki
ブヒ!みんなそれぞれテーマあるブヒ!!﹂
なんでこいつ俺の世界のところまで知ってるんだよ。
妹﹁⋮⋮もしかしてオークさんは日本好きだったりするの?﹂
オーク﹁そうブヒ。結構好きブヒ。ここの図書館で日本の本見てか
ら日本のサブカルチャーというものが気に入ったブヒ﹂
俺﹁ふーん、じゃあテーマは日本に関係するものでいいか﹂
338
妹﹁そうだね﹂
日本に関係するものか⋮⋮
日本妖怪、都市伝説、星座とかもいいかもしれない⋮⋮日本関係な
いけど。
妹﹁⋮⋮干支ってどうかな?﹂
俺﹁あー、でも干支アイドルってなんかで知ってるぞ?﹂
妹﹁⋮⋮お兄ちゃん、それエロゲでしょ?﹂
しまった。墓穴を掘ってしまった。
というかなんでこいつも干支アイドルがエロゲネタって分かるんだ
よ。
オーク﹁えっと⋮⋮エトって何ブヒ?﹂
俺﹁ほら日本人。説明しなよ﹂
妹﹁仕方ないなぁ、日本では12年間周期で毎年1年を動物を象徴
させる風習があるの。それが干支って言われる文化﹂
つまり妹は干支である、ネズミ、牛、虎、ウサギ、竜、蛇、馬、羊、
猿、鳥、犬、イノシシのアイドルを作りたいのだろう。
オーク﹁それは面白そうブヒ!この世界のkemkemoみたいな
339
獣人ユニットブヒ!﹂
うんそのケムケモとかなんとかっていうのは知らないけど。
オーク﹁早速探すブヒ!まずは何から行くブヒ?﹂
妹﹁ネズミだね⋮⋮いきなり難問だけど、お兄ちゃんネズミの異種
族ってわかる?﹂
俺﹁まあな。中学部にいるらしいから行くぞ﹂
ちなみに、クラスを調べるのは簡単だ。種族の名前を生徒手帳の検
索欄に当てるだけだからである。
⋮⋮もちろん﹁ネズミ﹂などのキーワード検索は出来ない、名前で
打たないと意味はないのである。
γクラス
******
中学部
?﹁わたしがアイドル⋮⋮ですか?﹂
生徒は日本妖怪である分、人の姿に化けていた。ただネズミ的部分
は残っているが。
俺﹁うん⋮⋮まあ突然こんなこと言っても困ると思うけど⋮⋮﹂
?﹁⋮⋮やります。この鉄鼠!やらせてもらいます!﹂
妹﹁ええっ!?﹂
340
オーク﹁構わないブヒか!?﹂
2人が驚くのも無理はない。
彼女自体、かなり美麗な姿をしていたからである。
鉄鼠﹁⋮⋮代わりに頼みがあります。先輩﹂
鉄鼠は手に持った鉄線をスティック菓子のように齧って話した。
鉄鼠﹁その俺くん先輩にプロデューサーをしてもらいたいです﹂
俺﹁俺!?﹂
オーク﹁こういう時、オークの自分が憎くなるブヒ⋮⋮仕方ない、
俺くん!アイドル研究部に入らなくてもいいからせめてプロデュー
サーをしてくれブヒ!﹂
俺がプロデューサー?
もう何が何だか困惑してきた⋮⋮
妹﹁いいじゃん!13のアイドルたちを好きなこと出来るんだよ!﹂
俺﹁するかよ!⋮⋮しませんからね!﹂
鉄鼠﹁い、いや。俺くんプロデューサーが希望するなら一肌でも二
肌でも⋮⋮﹂
こいつもなんなんだ!?
いつのまに攻略してるんだ、俺!?
341
俺﹁⋮⋮というか妹よ。13のアイドルって?﹂
妹﹁もちろん猫もいれるよ!﹂
なるほど。
某少女漫画と同じパターンか。
カフェテリア
******
門星学園
オーク﹁次は牛ブヒね﹂
俺﹁生徒会のは使えないか?﹂
件を出してみる。
オーク﹁あの人は少し気持ち悪いブヒ﹂
お前が言うなと言いたいが、同感だ。
妹﹁牛⋮⋮ねぇ、一人しか出てこないや﹂
ウロス﹁あっ!いた、日本ちゃーん!!﹂
ドドドドドドと音を立てながら3m超えの巨体が走ってきた。
妹﹁言ってたら来た﹂
妹はすでに慣れてるのかされるがままにされている。
342
⋮⋮毎日こんなことされているのか、怖いな小学部。
ウロス﹁俺くん先輩もこんにちはー﹂
俺﹁うん、いつも妹がお世話になってゴメンね。ところで少しお願
いがあるんだけど、アイドルにならない?﹂
我ながら率直に言ったな⋮⋮
ただのナンパみたいになっちゃったよ。
ウロスちゃんも雷打ったように固まっちゃったし。
俺﹁妹よ⋮⋮ゲーム新しいの買ったげるから説明頼むというか、こ
れからずっと妹が説明してくれ﹂
妹﹁えっとね、ウロスさん。実はーー﹂
⋮⋮妹の説明の甲斐もあってウロスちゃんの硬直も解けた。
ウロス﹁そ、そっか⋮⋮でも私みたいな脳筋でいいのかな。牛の種
族なら他にもいるじゃん﹂
俺﹁だって他のはムサいし、ウロスちゃんが一番いいよ﹂
ムサいは言い過ぎたかもしれないが、胸もデカイし。
ウロス﹁うーん、そっか。でも条件与えていいかな?﹂
俺﹁なんでしょう﹂
343
ウロス﹁俺くん先輩がプロデューサーして﹂
⋮⋮こうしてウロスちゃんのアイドル入りも決まった。
アイドル研究部部室
******
門星学園
オーク﹁これで2人決まったブヒ、残りは11ブヒ。次は虎ブヒね﹂
俺﹁虎か⋮⋮難しいな、そろそろワービーストに逃げるかな﹂
妹﹁それはダメだよ!チートだよ!﹂
チートが何かとか知らないがもう少し考えてみよう。
⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
俺﹁白虎と開明獣しか出てこねぇ﹂
妹﹁ズーフィリアにしか受けないよ、それ!?﹂
妹のツッコミは軽く流すとする。
俺﹁あと人虎﹂
オーク﹁なにブヒ?ジンコ?﹂
俺﹁ワービーストつったらワービーストだけど、ちゃんと伝説もあ
344
るぞ?人虎伝とか言ってだな⋮⋮﹂
そして、俺は誰も聞いてない話を20分間ぐらいして人虎のいるク
ラスへ辿りついた。
345
30話﹁件は人面牛です﹂︵後書き︶
鉄鼠:
平安時代に頼豪の怨霊とネズミにまつわる妖怪。人の家に入り鉄を
かじると言われている。滋賀県の妖怪で実は僕も滋賀県出身。
ワービースト:
獣人を引っくるめた言い方。
つまりはケモっ娘は全てワービーストととして括られる。ただ動物
が違いワービーストとしてカウントされないため門星学園には多く
のワービーストがいる。
白虎:
中国の四神のうち西を守る虎の神獣。
細長い身体で白い虎の姿をしていると言われている。ちなみに、白
虎のWikipediaのページにはホワイトタイガーの説明もあ
る。
開明獣:
中国に伝わる神獣。
今作では虎の姿に人の頭をしている。
天界の王が住むと言われている宮殿で、9個ある門のうちの開明門
を守ると言われている。
人虎:
虎の姿、または虎と人間の半獣の姿になると言われている、虎憑き
とも言われている。山月記は人虎の出てくる人虎伝を元にした作品
とも言われている。
346
αクラス
31話﹁アルラウネは植物です﹂
中等部
人虎﹁私がアイドルですかぁ!?﹂
やはり思ったとおりの反応だった。
しかし、まぁこうも女子ばかりになるものだな。
オーク﹁ダメブヒ?﹂
人虎﹁嫌です﹂
俺﹁俺がプロデュースするから﹂
人虎﹁やりましょう!﹂
なんだ、どういうことだろうか。
俺が頼むと皆一発OKしてくれる。
⋮⋮裏で手でも引いてるのか?
俺﹁本当にいいのか?﹂
人虎﹁だって拒む理由がありませんから!﹂
オーク﹁⋮⋮僕のときは拒んでたブヒ﹂
しかし、都合良く可愛いというのが運がいいというか、なんという
347
か。
カフェテリア
******
門星学園
少し小腹が空いたのでカフェテリアに寄ることにする。
?﹁こんな時間に珍しいとは思ったけど俺くんか∼、久しぶり﹂
俺﹁うん、そういえば最近寄ってなかったですね﹂
妹﹁こんにちわー﹂
この人は、カフェテリアで料理を担当しているアルラウネさんであ
る。
ときにバイトとして大学部のドリアードさんが働いていることもあ
るが非常に無口である。
アルラウネ﹁何にする?﹂
俺﹁じゃあ豚丼で﹂
オーク﹁姑息な嫌がらせ、やめて欲しいブヒ﹂
間食を手にして一息つくことにした俺はいつもの席に向かった。
俺﹁あっ。そこタウロさんの席だから左にずれて﹂
オーク﹁い、今いないんじゃ⋮⋮分かったブヒ﹂
348
すると丁度いいタイミングでアイドルがTVに映っていた。
俺﹁⋮⋮ねえあれは誰?﹂
オーク﹁エンジェルズブヒね。ちなみにその隣で手を振ってるのが
kemkemoブヒ﹂
俺﹁ふーん﹂
こうしてみると、うちの世界と大差ない気もするな。まあケモミミ
とか天使が歌っているのは凄いと思うけど。
妹﹁お兄ちゃんもアイドルに目覚めたの?﹂
オーク﹁うちは万年部員募集中ブヒよ!﹂
知らないよ。
γクラス
******
小学部
?﹁ふぇえ!わたしアイドルですか!?﹂
また女の子だ。しかも幼女である。
彼女、アルミラージはウサミミをピコピコさせながら赤い目をクル
クルさせていた。
アルミラージ﹁で、でも、なんで、わたしなんですかぁ?﹂
349
俺﹁ウサギだから﹂
アルミラージ﹁ウサギじゃないです!アルミラージですぅ!ツノ生
えてるでしょ!﹂
のんびりとした口調でツノをペチペチと俺の胴にぶつけてくる。
やめろ、下手すりゃ刺さって死ぬ。
俺﹁アルミラージさんの他は鉄鼠、ミノタウロス、人虎が入ってく
れたよ﹂
アルミラージ﹁そんなこといっても⋮⋮じゃ、じゃあ条件です。俺
くんを呼んでください。俺くんからの頼みならわたし入ります﹂
俺﹁俺が俺くんだ﹂
アルミラージ﹁ふええっ!?そうなの!?﹂
こうしてさらに一兎捕まえることに成功した。
中庭
******
門星学園
俺﹁むむぅ⋮⋮﹂
妹﹁どうしたのお兄ちゃん﹂
俺﹁竜だよな、次﹂
350
俺は生徒手帳を弄りながら話した。
なぁこの世界はやっぱり
俺﹁ヨルムンガンドにヒュドラ、バハムートまで調べたけど、皆オ
スだし人の姿じゃないんだよなぁ⋮⋮。
人型の方が受けがいいのか?﹂
TVには人型の種族しか居なかった。
案の定、オークの答えも肯定を表すものだった。
オーク﹁その傾向は大いにあるブヒ﹂
妹﹁ふーん﹂
この生徒なら﹂
しばし、脳からファイル引っ張って検索しているとある生徒が目に
入った。
俺﹁⋮⋮お?
βクラス
******
高等部
オーク﹁ここ俺くんのクラスじゃ⋮⋮﹂
俺﹁ああ、うん。取り敢えず宛はあるけど、あまり目立つタイプじ
ゃなかったからなぁ﹂
早速、目的の生徒の席へ向かう。
俺﹁ごめん、ちょっといいか?﹂
351
?﹁⋮⋮なに⋮⋮って俺くんだ﹂
そこにいるのは見た目は美形の高身長の宝塚の男役のような生徒だ
った。
ただ普段は眼鏡をかけて地味に過ごしている。
俺﹁そういう君は、カンヘル⋮⋮さんであってるよね?
カンヘル﹁うん、覚えててくれたんだ、嬉しいです﹂
カンヘルは少し顔を赤らめて照れた。
ただ妹が何か言いたげにしていたため、無理やり引っ込ませた。
俺﹁ところで頼みがあるんだけど⋮⋮﹂
ここはなんか妹に任せられない。
なるべく頑張ってみよう。
俺﹁今度の文化祭で、オープニングセレモニーにアイドル研究部が
担当するんだ﹂
カンヘル﹁へぇ﹂
俺﹁でも頼んでたアイドルグループが来れなくなって⋮⋮それでス
クールアイドルという形でメンバーを募集してるんだけど⋮⋮﹂
ここまで言えば事情は分かったらしい、目を伏せて考え込んだ。
カンヘル﹁⋮⋮じゃあさ、少しお願いしてもいいかな﹂
352
******
俺﹁まさか写真一枚で交渉出来るとは思わなかったな﹂
オーク﹁でもおかげで沢山集まったブヒ﹂
妹﹁でももう晩御飯の時間だよ﹂
気がつかなかったが、確かに日が大きく傾いて斜陽が窓から入り込
んでいる。
俺﹁⋮⋮じゃあ明日また探しましょう﹂
妹﹁あとは蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪だね!﹂
残りは7人か、なんとか頑張ろう。
353
31話﹁アルラウネは植物です﹂︵後書き︶
アルラウネ:
ドイツの古い伝承に出てくる植物の精霊。童貞が死刑になるときに
垂らした尿や精液から生まれるとされ、質問すると未来のことや秘
密のことを教えてくれる。そもそも死刑で精液を垂らす意味がわか
らない。
ドリアード:
ギリシャ神話に出てくる木の精霊。
木を伐採する人間が嫌いだが、何故か美男美少年を緑の髪の女性と
して誘惑し、木に閉じ込めるといった話もある。
アルミラージ:
イスラムの詩に出てくるウサギの姿をした神獣。体格は普通のウサ
ギより大きめで黄色っぽく、頭には2フィートのツノが生えている。
可愛らしい見た目の割りに肉食で人間や大きな獣まで食べると言わ
れている。
ヨルムンガンド:
北欧神話に出てくる毒蛇の怪物。漫画ではない。海の底に住んでい
るといわれており尻尾を加えている姿が印象的である、ちなみに毒
蛇のため自分の毒で死ぬ。
ヒュドラ:
ギリシャ神話に出てくるドラゴン。
9つの頭をもち、一個の頭を切ってもそこから二つになると言われ
ている。
354
うみへび座とはこのヒュドラのことを指し、ヘラクレスによって退
治された。
バハムート:
プラチナ色の神のドラゴンとされる。
実はもともとは大きな魚だったのだが、TRPGの﹃ダンジョンズ
&ドラゴンズ﹄によりドラゴンの姿として伝わるようになった。
カンヘル:
中米着土信仰とキリスト教の融合した、天使的性格の龍人である。
コウモリの羽とかぎ爪を付けた姿をしており、権力の象徴ともされ
る。
355
32話﹁アイドル活動は大変です﹂
アイドル研究部室
あれから2、3日が経ち、ついに干支プラス猫がメンバーになった。
門星学園
俺﹁ふぅ⋮⋮疲れたけど、みんなよく入ってくれたよね﹂
あ、でも布教用だからちゃんと
オーク﹁感謝するブヒ!お礼にこのエレメンタルズのメジャーアル
バム初回限定盤を贈呈するブヒ!
返して欲しいブヒ﹂
うん、正直いらない。
妹﹁でも今日は集めないの?皆お互いメンバー把握してないけど⋮
⋮まあアルミラージさんは別として﹂
俺﹁いや、呼んだと思うんだけど⋮⋮﹂
そんな話をするや否や扉が開いた。
最初に来たのは⋮⋮
鉄鼠﹁⋮⋮ごめんなさい!遅れましたか?﹂
ミノタウロス﹁ゆっくりでもいいって言ったんだけどなー﹂
この二人だった。
356
話によると元々2人の仲は良かったらしい。なるほどそれなら一緒
に来るはずだ。
鉄鼠﹁あれ?でも皆来てないですね。どうしたんですかね﹂
俺﹁まあすぐに来ると思うぞ﹂
人虎﹁ちょちょっと!﹂
ほら来た
アルミラージは人虎を突き飛ばして俺の後ろに隠れた。
アルミラージ﹁俺くんセンパイ!と、とらが追いかけて来ましたぁ
!!﹂
人虎﹁ちょ違うよ!わたしもアイドルのメンバーなの!﹂
アルミラージ﹁ふぇえっ!?﹂
なるほどアルミラージの性格がなんとかなく分かった気がする。
俺﹁さてと後は誰が来るかな﹂
ガチャ
カンヘル﹁あ、あの⋮⋮ここってアイドル研究部であってますか?﹂
オーク﹁そうブヒ、よく来てくれたブヒ﹂
カンヘル﹁ひいいっ!間違えましたぁっ!﹂
357
オーク﹁え⋮⋮﹂
あーあ走り去った。
俺﹁カンヘルさんはシャイなんだから初対面の人には抵抗があるん
です。特に男が苦手らしくて﹂
オーク﹁そ、それは悪いことをしたブヒ⋮⋮﹂
正直なところ、この人自体は何も悪くない気がするけど⋮⋮。
次に時間差で来たのは
?﹁ここですよネ?なんか走り去っていった人いたんですケド、連
れて来ましタ﹂
カンヘル﹁ふぎゃあっ!離してっ!離してくださいぃ!﹂
俺﹁来てくれたんだ、ありがとうカンヘルさん。それからメリュジ
ーヌさんも﹂
メリュジーヌさんは2日目でメンバーに率いれることができた、中
等部の蛇の生徒である。妙に好いてくれたため扱いやすいっていえ
ば扱いやすい。
メリュジーヌ﹁俺くんのためなら体を捨ててでも何でもするヨ!た
とえ血肉を捨てようともネ!﹂
しかし、重い。色々重たい。
358
さて、あと来てないのは⋮⋮
?﹁1ばーん!!﹂
俺﹁残念ですが1番じゃないです﹂
?﹁えっ!?﹂
?﹁ほらー、だからもっと早く出ようと言ったのに﹂
2人は馬と羊の生徒で、順にエポナ、パーンという種族である。
エポナはぶっちゃけ馬に乗った女性なんだけど馬の神と言われてる
から、別に問題はないだろう。ポニテだし。
パーンも実際は羊じゃなくて山羊なんだけど⋮⋮真面目な子だから
別にいいや。本人も不服ではなさそうだし。
妹﹁そういえば馬といえばタウロさんには聞いてないの?ラミアさ
んとかも興味ありそうだけど﹂
俺﹁実は⋮⋮﹂
カフェテリア
******
昨晩
門星学園
タウロ﹁私がアイドルになれと!?﹂
ラミア﹁私も?﹂
359
俺﹁いや?﹂
俺が聞くと2人は顔を合わせて困惑した。
タウロ﹁嫌と言うよりは⋮⋮困るな﹂
ラミア﹁うん﹂
俺﹁なぜ?﹂
すると無言でラミアはテレビを指差した。
私にはあの
そこにはちょうどエンジェルズと言っていたアイドルが踊っていた。
⋮⋮みんな人型の足を動かして。
俺﹁⋮⋮なるほど﹂
タウロ﹁アイドルといえば踊ることもあるのだろう?
動き方は出来ない﹂
ラミア﹁私も⋮⋮うん﹂
******
俺の話を聞くと妹も頭に大きな汗マークを浮かべて苦笑した。
妹﹁なるほどね⋮⋮確かにみんな人型だもんね﹂
そう呟くとパーンが閉めたと思われる扉が悲鳴を上げるレベルに開
360
いた。
?﹁でやぁっ!!ここだぁ!!﹂
?﹁ちょ、ちょっとヤメテクダシャイ⋮⋮﹂
残念干支順に来ると思ってたんだけど、そんなこともなかったか。
元気に扉を蹴破って来たのは狒々︵ひひ︶、そしてそこに突っ込む
のが例のコボルトである。
ちなみにコボルトは唯一の男性メンバーである。まさに白一点だ。
******
某所
?﹁へっくしゅ!﹂
?﹁⋮⋮ナオ、風邪?﹂
?﹁さあ⋮⋮なんか異世界で僕のこと言われたような気がしたけど﹂
******
妹﹁ゴメンね∼コボルトくんも入ることにさせちゃって︵男の娘枠
とはお兄ちゃんもやるなぁ︶﹂
コボルト﹁い、いえ、前に恩があるので﹂
なんかしたっけ⋮⋮忘れたんだけど
361
コボルト﹁それにお金入りますし﹂
妹﹁現実的だね﹂
一方、狒々は愛想笑いをしながら扉を直させられていた。
狒々﹁イヒヒごめんごめん、はしゃぎ過ぎたよ﹂
パーン﹁こんなので本当に大丈夫なの?﹂
俺を見るな。
しかし、これで来てないのはあと3人だ。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
20分経ったがまだ来ない。
ちなみに、待機しているメンバーは俺の世界のクッキーとお茶で舌
鼓を打っていた。
この世界ではかなり好評だ、今度里帰りしたら多めに買っておこう。
そして、やっとこさ残るイノシシと鳥の生徒が来た⋮⋮扉をぶっ壊
して。
オーク﹁ブヒイイイイイイイ!!﹂
?﹁うるせーよ豚﹂
362
?﹁え?ブタってムーちゃんもでしょ﹂
?﹁ブヒイイイイイイイ!!﹂
煩い。
トリ
ちなみに豚⋮⋮もとい猪として来たのはムィティチゴロ、鳥として
来たのはハーピーである。
ハーピーは鳥頭だし、どうせ忘れて来たんだろう⋮⋮ムィティチゴ
ロは知らないけど。
俺﹁ハーピーさん、思い出してくれたんだ﹂
ハーピー﹁おうよ!わたしも流石にバカじゃないからね!﹂
覚えとけよ、そのセリフ。
ムィティチゴロ﹁お、俺くん⋮⋮こ、こんな私でも本当にいいのか
?﹂
なんか性格変わるんだよな、鈍いわけではないけど⋮⋮なんでこん
なに好意を見せてくるんだろうか?
俺﹁こんな私って⋮⋮人間からしたら充分可愛いぞ﹂
ムィティチゴロ﹁ブヒイイイイイイイ!﹂
こいつが1番病的だ。
363
さて、あとは猫か。
鉄鼠﹁うわっ!?⋮⋮え?﹂
俺﹁どうしたんだ?﹂
人虎﹁ここ、生徒いるんだけど﹂
そこは掃除ロッカーだった。
開けてみると⋮⋮
?﹁わあっ!!﹂
俺﹁⋮⋮ネコマタさん、ふざけないでください﹂
ネコマタ﹁ふ、ふざけてないにゃー!!狭いところがちょっと恋し
かっただけなのにゃ!﹂
しかし、妹の言うとおり猫枠は必要かもしれない、このアイドルに
はのほほんとした癒しが少し足りない気もする。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
俺﹁とりあえずメンバーは集まったな、俺がプロデューサーになっ
た人間だ。改めて宜しく﹂
全員﹁﹁よろしくお願いしまーす!﹂﹂
まずはメンバーを纏めてみることにした。我ながら多すぎるため混
364
乱しそうだ。
辰,
卯,
寅,
丑,
メリュジーヌ
カンヘル
アルミラージ
人虎
ミノタウロス
子,鉄鼠
巳,
未,
狒々
パーン
午,エポナ
申,
コボルト
酉,ハーピー
戌,
亥,ムィティチゴロ
猫,猫又
ダメだ、やはり混乱する。
ゆっくりと慣れて行こう
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
暫しのご歓談タイムも終了した。
とりあえず、顔合わせも済んだことだしここで解散することにする、
細かいことは後日考えよう。
俺くん愛好会本部
******
門星学園
365
鉄鼠﹁⋮⋮只今帰りました﹂
ラミア﹁うんお疲れ、アイドル活動はどんな様子?﹂
人虎﹁問題なくこと進みそうだよ﹂
アルミラージ﹁それにしても、こんな偶然あるんですねぇ、教室で
待機していた甲斐がありました﹂
カンヘル﹁特に怪しまれることもなかったです﹂
メリュジーヌ﹁それにしても、俺くんって良い人だネ。聞いたとお
りだったヨ﹂
エポナ﹁あんたは少し落ち着くべきだったと思うけど﹂
パーン﹁同感ね﹂
狒々﹁ひひひ面白いことになりそうだな﹂
コボルト﹁でも、ミノタウロスさんがいるのは予想外でした﹂
ムィティチゴロ﹁大丈夫だろ、あいつも俺くんの魅力に惹かれるさ﹂
ネコマタ﹁まあそもそもあの子は妹フェチだから俺くんの手元も同
然にゃ﹂
ラミアはそれを聞くと口を歪めた。
366
32話﹁アイドル活動は大変です﹂︵後書き︶
これでアイドルは全員集まったわけです。
一人除いて皆俺くんファンクラブの差し金だったわけですけどね。
そして、セルフパロ詰め込み過ぎたね。
では種族説明です。
メリュジーヌ:
フランスの伝承に出てくる下半身蛇の女性、異類婚姻譚の女主人公。
背中には羽が生えているとも言われている。語尾がカタカナなのは
キャラ付け。
エポナ:
ケルト神話、ローマ神話における馬の女神。主に乗馬の姿や馬に挟
まれて玉座に座っているといった絵が多い。単品では馬と全く関係
がなく見える、馬とワンセット。ゼルダとは関係ない。
パーン:
ギリシャ神話における山羊の神、主に羊飼いと羊を監視する役割を
担っている。下半身は二足歩行だが山羊の脚をしている。ナルニア
にも出てたよね。
狒々︵ひひ︶:
日本に伝わる猿を巨大化したような妖怪、山の中に住み、怪力で人
間の女性を誘拐すると言われている。名前の由来は﹁ひひひ﹂と笑
うため。
ねこまた
猫又:
367
日本の古典に出てくる猫の妖怪。
尾が二本に分かれており、人間の喉に突っ込み呪い殺すと言われて
いる。徒然草にも出てくるよね。ちなみに実際カナダで二本の尾を
持つ猫の姿が発見されている。
ムィティチゴロ:
奄美の民話で語られる一つ目の豚の妖怪、股をくぐられると死ぬと
言われている。可愛いというのは天クロの絵のイメージ。
368
自室
33話﹁休日は退屈です﹂
門星学園
今日は授業がない。
生徒会も休みで、アイドル研究部もETOというグループとして早
速活動を始めたらしいので俺が出る幕もないということだ。
つまり今日は久々にゆっくりと出来る日ということになる。
俺﹁⋮⋮しかし、何もないっていうのも暇だな﹂
妹は友だちと城下町へ出かけると言ってたし⋮⋮
まあいいか。今日は一日ゴロゴロしよう。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮⋮ダメだ、この世界の時間はゆっくりと進む所為で一日が長く感
じる。まだ朝だというのに無駄に過ごしてしまいそうだ。
俺﹁⋮⋮仕方ないか﹂
俺も買い出しついでに町へ出ることにしよう。
広場
******
城下町
369
相変わらずの賑わいだ。
まあ比べるものが前回行ったときのものしかないけど、賑やかなの
は間違いない。
俺﹁⋮⋮ん、もしかしてタウロさん?﹂
タウロ﹁お、俺くんっ!?どうしてこんなところにっ!﹂
こっちの方が聞きたいけど、タウロさんの右手に大量のパンが抱え
られているのを見ると⋮⋮オヤツでも買いにきたのだと思う。
俺﹁俺は気まぐれ。暇つぶしに買い物でもしようかなと思って﹂
タウロ﹁そうか、なら私も付き合おう﹂
俺﹁え、でも悪くないか?タウロさん、荷物持ってるし﹂
タウロ﹁そ、そうか⋮⋮?なっなら少し待て!⋮⋮少しでいいから
なっ!﹂
そう言い残すとタウロさんは全速力で学園へ向かって行った。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
5分後
タウロ﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮す、少しと言ったのに待たせてしまった。
悪かった﹂
370
俺﹁い、いや5分くらい別に待つような時間じゃないし⋮⋮﹂
しかし、汗をかいてるとはいえ、すごい速さだ。
確か、ここから学園まで5キロくらいはあったと思うんだけど。学
園に入ってタウロさんの部屋で荷物を置く。
それを踏まえても5分というのは流石タウロさんといったところだ
ろう。
俺﹁とりあえずタウロさん疲れただろうし、どこかで休憩しようか﹂
タウロ﹁わ、悪いな⋮⋮俺くんがいいのならそうさせてもらう﹂
しかし、タウロさんも変わったな。
前までだったら、﹁いや俺くんの目的が優先だ﹂とか言ってそうな
のに。
カフェ
******
城下町
ちょうど中央広場の近くにいい感じのカフェがあったのでそこにす
ることにした。
まぁタウロさんの体が大きすぎて店内に入らないため、屋外席だけ
どこういうのも悪くない。
タウロ﹁すまない⋮⋮私の体の所為で屋外になってしまった︵俺く
んと買い物ついでにお茶⋮⋮これって俗に言われるデートというも
のではないのかっ!?︶﹂
371
謝罪する割には嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。
そんなにここの雰囲気が気に入ったのだろうか。
俺﹁それはいいけど⋮⋮タウロさんは何にする?﹂
タウロ﹁私は⋮⋮アイスコーヒーにさせてもらう﹂
俺﹁うーん⋮⋮タウロさん。もっと高いものでもいいんだよ?俺の
奢りだし﹂
タウロ﹁し⋮⋮しかし﹂
すると近くを店員さんが通ったので呼び止めた。
俺﹁すいません、アイスカプチーノとショートケーキを二つずつお
願いします﹂
タウロ﹁なっ!?﹂
店員﹁はい、かしこまりました。しばらくお待ちくださいね﹂
タウロさんは店員さんが立ち去ってからも呆然としていたが少し経
つと口を開いた。
タウロ﹁お、俺くん⋮⋮私はアイスコーヒーでいいのに。それにケ
ーキまで﹂
俺﹁タウロさんって、でも確かブラックじゃコーヒー飲めないんじ
ゃなかった?﹂
372
タウロ﹁そ、そんなこといつ言った?﹂
俺﹁前に皆で夕食食べたときに言ってたよ﹂
そういうと思い出したのか顔を赤くして俯いた。正直結構可愛い。
俺﹁あとケーキは俺の買い物に付き合ってくれるお礼、あと走って
くれた分の労いだよ。糖分は摂らなきゃ﹂
タウロ﹁むむう⋮⋮﹂
俺﹁これは俺が好き勝手にしたことだよ。俺が良いならタウロさん
は別にいいよね﹂
タウロ﹁⋮⋮わかった﹂
なんだか不服そうだが了承得ることができた⋮⋮まあ尻尾は正直に
横振りしているけど。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁どうだった?﹂
タウロ﹁おいしかった⋮⋮しかし、次からはカフェラテを頼む﹂
カプチーノでも苦かったか。
雑貨屋
******
城下町
373
俺﹁おおっ!このフライパン軽いなぁ、使いやすそうだ﹂
タウロ﹁⋮⋮俺くんは普段から料理をするのか?﹂
俺﹁うんまあね、ここに来る前から妹と二人暮らしだったしそれな
りにはできるよ。今度タウロさんにご馳走しようか?﹂
タウロ﹁⋮⋮か、考えておこう﹂
なんだろ、不安なのかな。
ラミアもがっつり食べてたから、異種族に害があると言うわけは無
いと思うんだけど。
俺︵タウロさんはケンタウロスだから、人参メインがいいかな。サ
ラダとか︶
タウロ︵俺くん、なんだか真剣に悩んでいるな。主夫みたいだ︶
何か用があるのか?﹂
とりあえず包丁も見ておくか。
銀行
******
城下町
タウロ﹁銀行?
俺﹁うん。ヴァンプやオオカミがよく俺のゲームするから、せっか
くだし新しいゲームでも買おうかなと思って﹂
タウロ﹁ああ、俺くんの世界の通貨に変えてもらうのか﹂
374
俺﹁うん、まあどうせ5000円くらいしか落とさないけどね﹂
そう言いながら俺はATMで指を動かした。
タウロ﹁そ、その俺くん﹂
俺﹁なに?﹂
タウロ﹁わ、私も練習したんだ。人間になれる魔法﹂
俺﹁へえ∼、タウロさんの人間姿か。想像できないな﹂
俺がそう言うとタウロさんは一歩下がったところでゆっくりと息を
吐いていることがわかった。
タウロ﹁よ、よかったら今度俺くんの世界に連れて行って欲しい。
⋮⋮興味だけではダメか?﹂
俺﹁⋮⋮うーん、難しいな。考えておくよ﹂
日本人のこのパターンは大体ダメということなんだが、タウロさん
はそれを知らないためか尻尾のスウィングが凄いことになっていた。
⋮⋮本当に考えておこう。
映画館前
******
城下町
妹﹁あ、お兄ちゃん﹂
375
俺﹁なんだ映画に行ってたのか﹂
ウロス﹁こんにちわー﹂
偶然にも妹と遭遇したので足を止める。
妹﹁へーお兄ちゃんは買い物かぁ。⋮⋮そうだ!もし服買いに行く
んだったら店前のクレープ買ってきてよ!持ち帰りできるらしいし﹂
俺﹁⋮⋮あー予定になかったけど、まあいいか。寄って行くよ﹂
タウロ︵俺くんは寛容だな。⋮⋮しかし、あのウロスという子。俺
くんの妹の友だちということだが、私よりも胸がデカい。⋮⋮俺く
んはどう思っているのだろうか︶
376
洋服店
34話﹁アルミラージは肉食です﹂
城下町
俺﹁ついでだし、なんか買っていこうかな。もうすぐ夏になるし夏
服買わないと﹂
タウロ﹁⋮⋮なあ俺くん、私の国では季節という概念があまりなか
ったんだが夏とはどんなものだ?﹂
俺﹁あつい、日が出てる時間も長くなるし台風は来るでかなり大変
だよ﹂
するとタウロさんは口に手を当てて考えた。
夏休みがあるし⋮⋮そう
タウロ﹁ふむ⋮⋮俺くんは夏は嫌いなのか?﹂
俺﹁いや、どちらかというと好きかな?
いえば、学園から西の方に海が見えたな。また皆で行こうか﹂
タウロ﹁み、皆で⋮⋮そうだな!楽しみだ!﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁とりあえず、こんなものかな﹂
377
タウロ﹁随分買うんだな﹂
俺﹁そういえばタウロさんって私服でもいつも同じ服だよね、一張
羅なの?﹂
タウロ﹁んなまさかっ!?変なこと言わないでくれ!⋮⋮ちゃんと
違う服なんだが、私に合う服があまりなくて、その結果どうしても
似たような服になってしまうのだ⋮⋮﹂
それは、生徒である以前に女の子であるタウロさんからすればかな
りの問題だろう。
俺﹁⋮⋮ちょっと先に行って待っててくれるかな﹂
タウロ﹁?⋮⋮了承した﹂
また文句言われるかもしれないけど⋮⋮
僕にも妹がいるから分かるんだよね。
自室
******
一方
門星学園
ラミア﹁寝坊したぁっ!!⋮⋮あれ。誰もいない﹂
オオカミ﹁⋮⋮何してるんだお前﹂
ラミア﹁えっ!?⋮⋮あ、いや、何もないよアハハ⋮⋮﹂
オオカミ﹁俺くんなら今朝、学園を出て行ったのを見たぞ﹂
378
それを聞くとラミアは硬直した。
オオカミ﹁⋮⋮?どうした﹂
ラミア﹁わ、私が早く俺くんを襲っておけば⋮⋮﹂
オオカミ﹁襲っている自覚はあったんだな﹂
オオカミの冷静なツッコミを無視するとラミアは部屋から飛び出し
て行った⋮⋮が、自分の尾に躓き壮大に転んだ。
オオカミ﹁⋮⋮何してんだ本当に﹂
ラミア﹁⋮⋮うぁあ痛い。お、俺くんを追いかけないと⋮⋮別の女
にぃ⋮⋮﹂
オオカミ﹁⋮⋮俺くんから種族的にもラミアは嫉妬深いと聞いてい
たが本当だな﹂
結局その後ラミアは保健室に向かうことになった。
クレープ屋
******
城下町
俺﹁お待たせ﹂
タウロ﹁うむ、ではクレープだな﹂
379
俺﹁そうだね﹂
やはりそこそこの人気があるようで学園の他の生徒もいるようだ。
しかし、回転率が早くて、並んで10分で俺にまわってきた。
俺﹁えっと⋮⋮じゃあ、ブルーベリーとチョコバナナを1つずつテ
イクアウトでお願いします﹂
店員﹁はーい。⋮⋮どうぞ﹂
俺﹁ありがとうございます﹂
すると、タウロさんも
タウロ﹁えっと⋮⋮ミルクベリーとチョコティラミスを頂きたい﹂
店員﹁はーい﹂
俺﹁なんだ、タウロさんも食べるんだ﹂
しかも2つか。
タウロ﹁いや、少し気になったのでな。ほら、俺くん﹂
俺﹁えっ?くれるの﹂
タウロ﹁構わない、ただ俺くんの好みがイマイチ分からなくて取り
敢えず俺くんが買ったものと似たものを選んだ﹂
俺﹁えっ!タウロさんの好きなもの買えばよかったのに﹂
380
タウロ﹁私は⋮⋮スイーツなら何でも好きだ⋮⋮﹂
そう言いながらもタウロさんはミックスベリーを自分の胸に近づけ
た。
無意識だろうが、タウロさんらしいな。
俺﹁じゃあチョコティラミス貰うよ。チョコ好きなんだよね﹂
嘘ではないから、構わないだろう。
タウロ﹁そっそうか!ならよかった﹂
すると嬉しそうにタウロさんはハムハムとミルククリームを頬につ
けながら満面の笑みで食べ始めた。
これは⋮⋮すごいギャップ萌えだ。
タウロ﹁ん?どうした、俺くん。食べないのか?﹂
俺﹁い、いや、頂くよ﹂
危ない危ない⋮⋮。
もし悶絶してることがバレたら、タウロさんがまた顔真っ赤にして
馬蹴りしてくるかもしれない。
⋮⋮まあタウロさんに馬蹴りされたことないと思うけど。
⋮⋮なんだろな、ここに来てから凄く怪我するようになったから色
々混合しちゃったのかもしれない。
381
俺﹁⋮⋮はぁ﹂
タウロ﹁⋮⋮お、俺くん。私の食べるか?﹂
俺﹁えっ?﹂
すると、タウロさんは俺の頭の位置までクレープを持つ手を顔から
下げた。
タウロ﹁い、いや。俺くん溜息ついたから、もしかして私に気を遣
ってチョコ選んでくれたのかと思ってだな⋮⋮食べかけで悪いが⋮
⋮﹂
⋮⋮変な気遣わせちゃったな。
俺﹁気にかけてくれてありがとう。ううん、気持ちだけ貰うよ﹂
タウロ﹁むう⋮⋮﹂
まあ、タウロさんは前に俺を護るって言ってくれたから、気にする
問題じゃないな。
その日食べたクレープはほんのりと苦かった。
382
市場
35話﹁キスは不思議な味がします﹂
城下町
俺﹁最後に晩御飯だけ買って帰るけどいいかな?﹂
タウロ﹁⋮⋮今日はカフェテリアで食べないのか?﹂
なんだか少し残念そうな顔になったので少し訂正を加える。
俺﹁そのことなんだけどさ、今日は皆で僕の部屋で食べない?﹂
タウロさんも希望してたし、善は急げとも言うから折角だからと思
い立ったから提案したのだが、どう返ってくるだろう。
タウロ﹁⋮⋮つまり、俺くんの手料理⋮⋮﹂
俺﹁まあ単なる思いつきだから他の人らも来るかわからないんだけ
どね﹂
まあいつものメンバーで食べるとしたら皆来そうだけど。
でもタウロさんは少し固いところがあるから難しいかも⋮⋮
タウロ﹁⋮⋮行く﹂
俺﹁えっ?﹂
よく聞こえなかったので聞き直すと、タウロさんは膝を折り曲げ俺
383
と同じ目の高さになると両肩に手を乗せてきた。そして一言。
タウロ﹁ぜひ行かせてもらうっ!!﹂
な、なんか今日のタウロさん鬼気迫るものがある気がするな⋮⋮。
廊下
******
門星学園
ヴァンプ﹁やっぱ演劇部大変だな⋮⋮文化部とは言っても運動する
し疲れる⋮⋮!?﹂
ラミア﹁あ、ヴァンプ﹂
ヴァンプ﹁いやいやいや!なんでラミアが保健室から出てくんだよ
!﹂
慌てるヴァンプにラミアは首を傾げながら応えた。
ラミア﹁いや、保健室に入ったから出たんだけど﹂
ヴァンプ﹁そういう哲学的な意味じゃなくって!なんでいつもバカ
元気なお前が保健室から⋮⋮﹂
ラミア﹁バカは余計だよっ!⋮⋮強くは否定しないけど。⋮⋮えー
と、まあ俺くん関係かな﹂
ヴァンプは心の中で﹁俺くん、強くなったな﹂と復唱した。
ラミア﹁なんかすごい失礼なこと思わなかった?﹂
384
ヴァンプ﹁いや、寧ろ褒め称えてたぞ。
ラミア﹁なんで!?﹂
ヴァンプ﹁とにかく尻尾に包帯巻いてるってことは怪我だろ。肩ぐ
らい貸すぞ﹂
そういいヴァンプはラミアの腕を無理やり肩に回した。
ヴァンプ﹁うおっ、結構な重さだな﹂
ラミア﹁肩回すなっ!あと失礼だから!﹂
すると突如ラミアの生徒手帳に電話が入った。
生徒手帳﹃着いたぞ。着いたぞ。︵俺くんボイス︶﹄
ラミア﹁ん?あ、俺くんからだ﹂
ヴァンプ﹁⋮⋮それ真面目に引くわ﹂
ラミアはヴァンプの首を腕で絞めながら電話に出た。
俺﹃あ、ラミアさん?﹄
ラミア﹁うん何ー?﹂
ヴァンプ﹁ぐほぉ⋮⋮﹂
385
俺﹃あ、ヴァンプもいるんだ。ならヴァンプにも言ってて欲しいん
だけどーー﹄
かくかくしかじか
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ラミア﹁行くぅ!絶対行くっ!っていうかすぐ行く、もう砂漠で打
ち拉がれて砂かき分けてでも行く!﹂
俺﹃そ、そう?後半なに言ってんのか全然分からなかったけどなら
いいや。ヴァンプにも伝えておいて。それじゃあ﹄
ラミア﹁あっ!もうちょっと話したい⋮⋮﹂
ブチッ
ラミア﹁⋮⋮﹂
ヴァンプ﹁⋮⋮あ、あんだって?﹂
ラミア﹁⋮⋮皆で俺くんのご飯食べよってさ。なんかすぐに切られ
たけど﹂
ヴァンプ﹁そりゃあお前が⋮⋮ぎやあ⋮⋮﹂
ラミアは息をしてないヴァンプを肩に背負いながら部屋に向かって
行った。
386
門星学園付近
******
城下町
俺﹁ってわけだから、カエ⋮⋮妹よ。よろしく﹂
タウロ﹁俺くん。そろそろ本名を言いかけるくせは卒業したほうが
いいぞ﹂
俺﹁前の世界の癖だから抜けないんだよ。妹の場合はずっとそう呼
んでたから﹂
タウロ﹁自分の名前までか?﹂
うっ⋮⋮
痛いところ突かれたなぁ
俺﹁⋮⋮なんとかするよ﹂
タウロ﹁ならいい。⋮⋮あ、その荷物預かろう﹂
俺﹁いや、いいよ。これくらい自分でしないと本当に貧弱になっち
ゃう﹂
タウロ﹁むぅ⋮⋮ならせめてそっちを持とう﹂
タウロさんはそう言うと軽い方の荷物を手に受けた。
俺﹁悪いね、なんか付き合わせた上にこんなことさせて﹂
タウロ﹁構わない。何と言っても俺くんの騎士だからな﹂
387
俺﹁そうだったか﹂
まあ騎士は買い物袋を代わりに持つ役割では無いと思うけど。
タウロ﹁でも楽しかった⋮⋮。すごく充実してたな﹂
俺﹁なら良かったよ﹂
タウロ﹁⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮﹂
う⋮⋮会話が途切れると気まずいな。
タウロ﹁⋮⋮お、俺くん。最後に頼んでもいいか?﹂
俺﹁ん?別に出来る範囲なら﹂
タウロ﹁⋮⋮なら少し目を閉じてくれないか?10秒で構わない﹂
俺﹁⋮⋮変なことしないよね﹂
俺は渋々目を閉じてタウロさんの許可が降りるのを待った。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
なんか顔の前に温かい何かある気がする。
少し甘い香りがするな、でも何処かで嗅いだことのあるようなーー
388
ーー!?
今なにしたの!?
タウロ﹁も、もういいぞ⋮⋮﹂
俺﹁タ、タウロさん!
っ?﹂
く、唇に何かが⋮⋮え
すると当の本人は先に学園に帰ろうと俺から顔の見えない場所まで
行っていた。
そして、振り返らず正面を向いたまま叫んだ。
タウロ﹁⋮⋮さあ!帰るぞ!﹂
389
自室
38話﹁料理は早さが命です﹂
門星学園
俺﹁ただいまー⋮⋮﹂
そうだったタウロさん俺くんと勝手にデー
タウロ﹁し、失礼する⋮⋮なっ!?﹂
ラミア﹁なあーっ!?
トするなんて!﹂
何故かラミアが俺の枕を片手にテーブルに着いていた。
買い物の付き合いというも
もちろん俺はいつものことだから気にしていないが、タウロさん
は大層驚いていた。
タウロ﹁あ、あれはデートではない!
のだ!﹂
なんかタウロさん慌てて訂正してる割にはすごく嬉しそうだけど。
妹﹁あ、お兄ちゃんお帰りー!﹂
ふと見ると、妹とヴァンプがまた同じレーシングゲームをしていた。
ヴァンプ﹁お疲れ。妹に入れてもらったぞ﹂
なんだ妹が入れたのか。
ならラミアは正規ルートで来たのかもしれないな。
390
⋮⋮多分可能性は低いけど
俺﹁あ、そうだ今度新しいゲーム買うから﹂
ヴァンプ&妹﹁﹁おおー!﹂﹂
2人の歓声を耳にしながらキッチンに立つ。
俺﹁そういえばオオカミは?﹂
ヴァンプ﹁さっき確認したら﹃なら少し待っててくれ﹄だとよ。な
んか獲物でも取りに行ったんだろ﹂
話をするや否やオオカミが入ってきた。
相変わらずこいつ出るタイミング図るために話聞いてただろとい
うぐらいピッタリだ。
オオカミ﹁すまんな、少し遅れたか?﹂
俺﹁いや、まだ料理に手をつけてない﹂
オオカミ﹁なら良かった。これ、差し入れだ﹂
オオカミの片手に握られていたのは、何かの肉だった。獲物を獲
ってからキチンとした処理はしてくれたらしいが。
俺﹁これ、なんの肉?﹂
オオカミ﹁ウサギだ。山の方に行ってたら結構いたから、その内の
391
一つだ﹂
なんだ時間は経ってるんだ。
オオカミ﹁少し腐りかけかもしれないが⋮⋮火を通せば美味しく食
べられるはずだ﹂
俺﹁ありがとう。肉はむしろ少し腐りかけが一番いいからね。あり
がたく使わせてもらうよ﹂
この時、少しアルミラージが頭をよぎったのは秘密。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
改めて髪を軽く纏めて鍋を取り出す。
俺﹁苦手な食べ物とか食べられないものとかあれば教えてね﹂
すると皆快く教えてくれた。
ラミア﹁特にないけど、卵は好きだよ﹂
ヴァンプ﹁ニンニクだ。まあ俺くんなら知ってると思うけどな﹂
オオカミ﹁俺は特にない。肉全版好きだな﹂
タウロ﹁私は特にない﹂
うん、タウロさんは人参だねと内心で呟きながら野菜を刻む。
392
多分ヴァンプはトマトが好きなのだろう、大抵のヴァンパイアはそ
う描かれてるからな。
俺﹁なあ、カ⋮⋮妹。トマト缶取ってくれ﹂
妹﹁はいはーい﹂
タウロ﹁⋮⋮俺くん﹂
俺﹁ご、ごめん﹂
タウロさんの冷ややかな目を感じながらも缶を手に取る。
それも料理に使うのか?﹂
いやこの世界にも缶はあるだろ﹂
ヴァンプ﹁なんだそれ?
俺﹁え?
オオカミ﹁ジュースとかコーヒーはな。⋮⋮だだ俺くんが持ってい
るようなものは俺も初めて見た﹂
なんだ意外と普及してないんだ。
真空詰めにすればいいことなのに⋮⋮。
まぁ、もしかすると缶詰って俺の世界の技術だけなのかもしれない
な。
ラミア﹁見せてー﹂
タウロ﹁俺くんの邪魔になるだろう、皆下がるべきだ﹂
393
言ってることは正論なのに、タウロさんもこっちに来てるのは突っ
込むべきなのか?
俺﹁別に瓶詰めみたいなもんだぞ﹂
そう言いながら缶切りでキコキコと缶を開ける。⋮⋮凄く目線を
感じながら。
とりあえずトマト缶を鍋にあけ、火にかける。
トマトがプツプツと音を立てる程度になったら弱火にして野菜を入
れる。あとは蓋をして10分だ。
俺﹁⋮⋮そんなに見てて面白いか?﹂
ラミア﹁うん⋮⋮俺くんのスキルが高すぎる﹂
タウロ﹁これは私たちも負けてられんな﹂
何故か女性陣の闘志は強火になったらしい。
この10分間に野菜を刻む。
この世界の野菜を殆ど食べたわけではないが、前に食べたこの世
界でしか育てられない固有種の野菜を食べたところそれなりに行け
た。
今回はこれをザク切りにしてレタスと混ぜながらサラダにする。
せっかくなので安売りしていたラディッシュも乱切りにしていれ
る。乱切りやザク切り、直接素手で破るようにすることによってド
レッシングが絡みやすくなるのである。
394
俺﹁タウロさん﹂
タウロ﹁つ、つまみ食いなんて考えてないぞ!﹂
この状態でつまみ食いしても仕方が無いと思うけど。
続いて10分経ったようなので、鍋の蓋を濡れ布巾越しで開ける。
さっきこんなに水入れてたっけ?﹂
うまいこと野菜がスープに浸かるようになっていた。
ラミア﹁あれ?
俺﹁野菜の水分が出たことで水かさが増したんだよ﹂
試しに芋に箸を刺してみる。なるほど、いい感じに蒸かされている。
そこに前もって強火で炒めたウサギの肉を細かく切りながら鍋に入
れる。骨が無く柔らかい分、簡単にハサミが入る。
最後に臭みを取り除くためにハーブを散らせば完成である。
美味しそう!﹂
俺はそれらを皿に均等に盛り付けた。⋮⋮いやタウロさんには少し
サービスした。
ラミア﹁すごいすごい!
タウロ﹁こ、これは⋮⋮﹂
ちなみに他の二人はいつの間にかゲームに移っていた。どうやら
飽きたようだ。
395
38話﹁料理は早さが命です﹂︵後書き︶
ちなみに今回書かせていただいた料理の作り方は適当です!
実際にして失敗しても私は一切の責任を負いません!
396
37話﹁件の絵札はお守りになります﹂
実食
タウロさんとかも野菜しか食べれないとかな
ヴァンプも血しか飲めないとかないよね?﹂
俺﹁どう⋮⋮かな?
いよね?
タウロ﹁そんな訳無いだろ、雑食だ﹂
ヴァンプ﹁そもそも血しか飲めなかったら俺くんの部屋に来ねえよ﹂
よかった、これだけが心残りだったんだ。
ラミア﹁ねー、俺くん。これなんて料理?﹂
俺﹁それはな⋮⋮﹃トマトで野菜とウサギ肉を煮たやつ﹄だ﹂
妹﹁名前つけてないんだね﹂
んなこと言っても、適当に考えて作ったんだから仕方ないだろ。
俺﹁ほら、つべこべ言わずに食え﹂
オオカミ﹁⋮⋮さっきまで味の好み凄い気にしていた癖に﹂
オオカミになんか言われたが、言い返せないので黙っておく。
ラミア﹁ねえねえ、俺くんの世界では食べる前に﹃イタダキマス﹄
397
って唱えないといけないんだよね!﹂
俺﹁うんまあ。でも、唱えるというよりは挨拶みたいなものだし、
僕もよく言い忘れるし⋮⋮﹂
ラミア﹁私本場もの見たいなぁ﹂
俺﹁⋮⋮いただきます﹂
何故かそれだけでラミアは目をトローンとさせた。
あと、本場ものならキリスト教の教会にでも行ってみればいいと
思う、食べ出すまで凄く時間かかるぞ。
俺﹁⋮⋮うん、いけるな﹂
味見してないわけでは無いが、流石に初めて食べさせるとなると
緊張する。
ラミア﹁うおおおおおぅ!美味しいよぉ⋮⋮美味しいよぉ⋮⋮勿体
無いよぉ﹂
泣くな。食べたらなくなる決まってるだろう。
タウロ﹁こ、こんなもの食べたことがないぞ⋮⋮﹂
ヴァンプ﹁こんな味気あるもの久々だ⋮⋮﹂
あーこの2人は素材で食ってそうなイメージだもんな。
妹﹁いつもよくこんなの作れるよなぁ﹂
398
お母さんは?﹂
俺﹁ん、任せろ。主夫歴5年の実力だ﹂
ラミア﹁え?
俺﹁別の国で働いてる。何してるかは俺もよく知らない﹂
そういえば母さんや父さんって何してんだろ。
ここ暫く帰ってないし、インドで野垂れ死とかアラブで監禁とかさ
れてたらどうしよう。
⋮⋮どうもしないか。
オオカミ﹁しかし、料理というのも面白くできたものだな﹂
俺﹁うんまあそうかな、俺も始めてかなりハマったからな﹂
でもオオカミとかも狩りしてそのまま食べそうだよな。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
ラミア﹁ふうー美味しかったぁ﹂
タウロ﹁うむ、満足だ﹂
俺﹁良かった、嬉しいよ﹂
⋮⋮あっ!
そういえば明日テストじゃん!﹂
やはり人外であっても、満足してもらえると嬉しいな。
ラミア﹁⋮ん?
399
タウロ﹁あー、そうだな﹂
ヴァンプ﹁俺は、勉強してもしなくても同じ点数を取れる自信があ
る!﹂
オオカミ﹁それは⋮⋮問題だぞ﹂
そっか、明日はテストか⋮⋮。
テストということはもうすぐ学園祭も近づいてるってことだよな
ぁ。
それに、俺くんにこれ以
俺くんがいーいー﹂
オオカミ﹁仕方ないな⋮⋮俺が教えてやる﹂
ラミア﹁えーオオカミがぁ?
オオカミ﹁前に俺くんに教わっただろ。
上負担を増やすな﹂
オオカミはそう言うと、ラミアの首元を掴み引きずっていった。
おやすみ﹂
俺﹁⋮⋮まあ、赤点回避はしてもらえるだろ﹂
ヴァンプ﹁んじゃ俺も帰るわ。
俺﹁ん、そっか。おやすみ﹂
私も加勢する﹂
さて、あとは皿洗いくらいするか。
タウロ﹁皿洗いか?
400
俺﹁あ、悪いな﹂
タウロさんが加勢してくれたおかげでかなりスムーズに洗い終わ
りそうだ。
401
38話﹁想いというのは難しいものです﹂
俺﹁ありがとう片付けまで手伝ってくれて﹂
タウロ﹁構わない⋮⋮妹はどうした?﹂
俺﹁もう寝ちゃったよ﹂
時刻はもう12時、少し世間話をしすぎたかもしれない。
俺﹁風呂は大浴場で済ましたらしいけどね﹂
タウロ﹁そうか、もうこんな時間か。私もシャワー浴びて寝ないと
いけないな、明日はテストだというのに﹂
俺﹁そうだな⋮⋮あ、忘れてた。タウロさんちょっと待っててね﹂
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺が物を取りに行ってる間もタウロさんは律儀に待っていてくれ
ていた。ラミアだったら色々漁りそうなのに。
俺﹁ごめんね、はいこれ、今日のお礼﹂
タウロ﹁⋮⋮これは?﹂
タウロさんが受け取った紙袋の中にあったのは、タウロさんサイ
402
ズに作られたノースリーブのシャツだった。
俺﹁いや、もうすぐ暑くなるしタウロさんの何時もの格好しかない
というのもしんどいかなと思って⋮⋮はは、いらないなら捨てちゃ
って構わないから﹂
ご、ごめんなさいぃ!
勝手なことしました、
タウロ﹁⋮⋮馬鹿⋮⋮馬鹿者!この戯けが!﹂
俺﹁ひいいっ!!
もうしません!﹂
タウロ﹁あ⋮⋮いや、すまん⋮⋮そうじゃない﹂
そういうと口をもごもごさせてから、改めて言い直した。
タウロ﹁馬鹿者⋮⋮こんな素敵なもの捨てられるわけがないだろう﹂
わわっ!
ちょ、ちょっとタウロさん!?﹂
そして、俺の身体を軽く抱擁した。
俺﹁えっ!
それとも力
タウロ﹁⋮⋮気にするな、私の国では感謝のとき抱擁をする文化な
んだ﹂
俺﹁で、でも⋮⋮これは⋮⋮キツいかも⋮⋮﹂
す、すまない。汗臭かったか?
色んなところが当たってるし⋮⋮
タウロ﹁⋮⋮っ!?
が入ってしまってたか?﹂
403
いや、確かに芳しい香りはしたけど⋮⋮って俺は何を考えてるん
だ!?
あと、タウロさんが力入れたら、絶対俺の身体が雑巾絞りになっ
てたと思う。
タウロ﹁ありがとう、これは大切にする﹂
ラミアさんにバレたら面倒なことになりそう﹂
俺﹁こちらこそ色々手伝ってもらってありがとう。⋮⋮あとこのこ
とは秘密ね?
タウロ﹁切実だな﹂
タウロさんはふと苦笑すると、部屋に帰って行った。
******
タウロ部屋
タウロサイド
門星学園
私は部屋に戻り、服を脱ぐと部屋に備え付けられているシャワー
ルームに入った。
とりあえず先ずは上半身の身体の届く範囲をタオルなどを駆使し
て洗い、次に枝の長いブラシを使って下半身をこすり落とす⋮。
最後に頭を冷やしながら反省会を⋮⋮
タウロ﹁⋮⋮反省点しかないではないか﹂
404
身を引き締めるために床を強く蹴ると、少しタイルが削れてしま
った。⋮⋮まあ蹄鉄を付けているため怪我の問題はないのだが。
タウロ﹁⋮⋮流石に出しゃばりすぎたか?﹂
唇に手を当てて考える⋮⋮。
喫茶店のときも同じ
⋮⋮それにしても、まだ少し唇に感覚が残っているな。
⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
あああああああああくそぅっ!!!
考えても無駄だ!
そもそも私は俺くんの騎士だろ!
なんで一緒にクレープなど食べてたんだ!
だ。
⋮⋮それに服も知らぬ間に買ってもらってたし
これではまるで、俗に言うデートではないか⋮⋮
⋮⋮もう上がろう。充分だろう。
とりあえず私は思考をリセットしてタオルを縫い合わせて作った
自家製のバスローブを纏う。我ながら継ぎ接ぎだらけである。
⋮⋮そういや、俺くんは以前から妹と二人暮らしだったと言っ
てたな。今日食べた料理もだが、彼自身体力や運動神経以外はかな
り高ステータスなのかもしれない。
405
⋮⋮家事もできるし、賢いし⋮⋮気配りも⋮⋮他種族に関する知識
だって。
タウロ﹁うがああああああっ!!﹂
ドンドン!
⋮⋮壁を叩かれてしまった。
とりあえずもう寝よう、明日は早い。
私はソファに上半身を突っ伏して、目をつぶった。
高等部βクラス
******
俺サイド
門星学園
俺﹁テストはこれで終わりかぁ﹂
俺は軽く伸びをすると、ラミアがフラフラとやってきた。
ラミア﹁み、3日間おつかれぇ﹂
俺﹁えっと⋮⋮俺は大丈夫だけど、ラミアさんこそ大丈夫?﹂
ラミア﹁大丈夫ぅ、ラミアは眠らないから﹂
いや、でも既にその呪いは解けてた気がするけど⋮⋮
406
ヴァンプ﹁俺くんお疲れー!
!﹂
もう暫く眠らなくても大丈夫そうだ
こいつはテスト中ずっと寝てたのか。
俺﹁赤とっても知らないぞ﹂
ヴァンプ﹁大丈夫だって∼ちゃんと埋めるには埋めたからな!﹂
俺﹁あっそ﹂
しかし、オオカミは神出鬼没だからいいとして。
俺﹁タウロさんはどうしたんだ?﹂
ラミア﹁ああ∼⋮⋮そこ﹂
ラミアは苦々しい顔をしながら指を一方に指した。
そこに目に入ってきたのは、石化の如く机に突っ伏し動かなくな
タウロさん﹂
ったタウロさんだった。
俺﹁⋮⋮どしたの?
ラミア﹁うん⋮⋮本人曰くあり得ないほど調子が悪かったらしいよ。
目の下のクマも酷かったし。三日間眠れなかったんだろうね⋮⋮あ、
俺くんには顔を見せたくないって頑なに言ってたよ﹂
徹夜で丸めるタイプの人じゃない
⋮⋮なるほど、まぁ本人たっての希望なら尊重しよう。
しかし、どうしたんだろう。
と思ってたけどな。
407
高等部βクラス
39話﹁カンヘルは正義のドラゴンです﹂
門星学園
オオカミ﹁⋮⋮出し物?﹂
テストも終わり、夏休みまで残るイベントは学園祭だけとなった
ある日。ついに我がクラスもイベントに向かって動き出した。
ケットシー﹁そうにゃ、今度行われるの門星学園祭は部門がそれぞ
れあるにゃ﹂
先生の話によると部門は全部で3種類あるようだ。
劇やダンスを披露し合うステージ部門。
次に校庭で屋台を行うストール部門。
そして教室で展示やレストランなどをするアトラクト部門である。
俺︵なんだ、俺の世界の学園祭と変わらないんだ︶
ケットシー﹁とりあえず代表は平行世界の2人にしてもらうにゃ﹂
一瞬の間が空く。
俺&ハーピー﹁﹁えっ!?﹂﹂
408
俺﹁な、なんでなんすか!?﹂
ケットシー﹁だって、ここの学園祭は平行世界のものを参考にさせ
てもらってるからにゃ、ちなみに拒否権はないにゃ﹂
なんだよそれ。
ブラック企業かよ蟹工船かよ。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁んじゃあ、一応聞くけど。元の世界に学園祭という概念があっ
た人ってどのくらいいる?﹂
パラパラと手が上がってるのが見える。一応、学園祭自体は色ん
な世界でもしてるのか。
俺﹁えーっと、じゃあどんなことしてたか教えてくれるかな⋮⋮例
えば、悪魔くんとかは?﹂
悪魔﹁サバト﹂
ですよねー︵笑顔︶
俺﹁んーと⋮⋮じゃあ悪魔くんに手を出そうとしてる天使さんは?﹂
私?
色々してたよ、アーチェリーとか弓道とか流鏑
俺の言葉によってほぼ同時に悪魔が顔を振り返り、天使が手を引
っ込めた。
天使﹁ん?
409
馬とか、1番盛り上がるのは頭に乗せたリンゴを外すまで射ちつづ
けるのが最高だね!﹂
全部弓やん、あと最後のウィリアム・テルはなに?
外すまでって、学園祭のたびに人が死ぬのか?
王女﹁あのー⋮⋮俺さんよろしいですか?﹂
俺﹁はい、王女様﹂
いつも物静かな王女がか細い声を上げた。
王女﹁あの、世界軸と言うものがよく理解出来ないのですが⋮⋮平
行世界とはどういった世界のことを言うのでしょう?﹂
俺はハーピーと顔を見合わせたが、お互い頭にはクエスチョンマ
ークを浮かべていた。
俺﹁うーん⋮⋮すいません、難しいです。かなり複雑な世界なので﹂
王女﹁そう⋮⋮ですか﹂
ハーピー﹁でも、うちの世界の学園祭なら説明できるよー﹂
ハーピーが珍しく、ちゃんとしたことを言ったので俺は少々驚い
た。
王女﹁そうですね!まず、学園祭とはどういったものかを知りたい
です﹂
410
ハーピー﹁だってさ、俺くん。説明したげてよ﹂
⋮⋮こんなやつだとは思ってた。
俺﹁んーっとそうだね⋮⋮簡単に生徒でも出来るものを料理してそ
れを提供するというのもあるけど、たまにお化け屋敷やメイド喫茶
をするところもあるよ。大体はテーマを決めてそれに沿ったものを
提供するのが主だね﹂
俺、演劇部だから気になるんだけど、
流暢とはいかないが、比較的スラスラと言えたと思う。
ヴァンプ﹁ちょっといいか?
劇ってどんな演目を選ぶんだ?﹂
俺﹁特にって言うものはないけど、多いのは古典文学やオリジナル
脚本かな﹂
ヴァンプ﹁オリジナルって⋮⋮生徒が考えるのか!?﹂
俺﹁うん、でもまぁ大体は混沌と化しちゃうからやめた方がいいと
思うよ。それなら、古典選んだ方が安全策かな﹂
実際に中学の学園祭でやったオリジナル脚本﹁人魚姫サバイバー﹂
は酷かったからなぁ⋮⋮。
ラミア﹁ねーねー、劇に使う古典ってどんな作品があるの?﹂
俺﹁うーん⋮⋮大体盛り上がるのは悲恋かな?﹂
ラミア﹁ヒレン?﹂
411
俺﹁うん。例えば親同士が仲悪いせいで交際が出来なくなって、お
互いに自害する話。種族の決まりごとのせいで人間と結婚出来ない
異種族の話。他にも、主人公が好きだった女の子が実は幼馴染に心
を寄せていたという話とか恋が実らない話とかいっぱいあるよ﹂
⋮⋮まあベタすぎるかもしれないけど、そのくらいがいいだろ
う。
ハーピー﹁俺くん結構知ってるんだねー、わたしは学校行けなかっ
たからあまり知らないんだー﹂
俺﹁ん、まぁ本はよく読んでた方だから﹂
ハーピーはそもそも本を持つ手がないから、そういう話は聞く以
外に方法がなかったんだろう。
それに平行世界出身ということは人の少ないところでひっそりと
暮らしていたのかもしれない。
物語を知らなくて当たり前だ。
俺﹁まあいいや、劇の脚本は俺が適当にいいのを選ぶよ﹂
他の世界の物語も知りたいが、今回は平行世界の学園祭だ。俺が
選んだ方が良いだろう。
クラスからも異議は上がることはなく、順調にステージは決まっ
た。
俺﹁でも俺生徒会で忙しいからヴァンプも手を貸してくれよ﹂
412
ヴァンプ﹁ああ、任せろ﹂
さてと、あとはストールとアトラクトか。流れ的にはストールを
決めておきたいな。
俺﹁じゃあ次露店だけど、何がしたいとかってある?﹂
ラミア﹁俺くんのとこはどんなことしてたの?﹂
俺﹁そればっかだな﹂
オオカミ﹁いや、平行世界の住民に聞くのはかなり大事だと思うぞ。
誤って平行世界とは全然異なるものになってしまうのは怖いからな﹂
確かに一理あるか。
でも、俺の中学は露店なんてしてなかったからなぁ⋮⋮。まあド
ラマとか漫画のイメージでいいか。
俺﹁クレープとかたこ焼き、焼き鳥とかじゃないか?﹂
ハーピー﹁俺くん不謹慎だな﹂
俺﹁ごめん﹂
ハーピー﹁まあ焼き鳥好きだけどね﹂
しかし、今こう考えてみると結構コストの高いものを作ってるん
だな。
ラミア﹁つまりは鉄板とか網焼きとかで簡単にできるものなの?﹂
413
嫌だぞ。一匹仕留めるだけでも体力使うのに、
俺﹁まあ、そうだな⋮⋮オオカミくんよ﹂
オオカミ﹁狩りか?
山賊の晩餐会みたいな量を作るとなると俺の体が干からびる﹂
⋮⋮仕方ないか。体力はどうしょうもないことなのは俺が1番分か
ってる。
俺﹁そういや先生。予算とかはいいんすか﹂
ケットシー﹁まあそれは大丈夫にゃ。全額学園保証とさせてもらう
にゃ。⋮⋮でもキャビアとか烏骨鶏とかドラゴン肉とか嫌がらせに
しか見えないものなら断るにゃ﹂
そりゃそうだろうな。ならやはりB級で攻めるしかないのだろう。
俺﹁えっと⋮⋮じゃあ何か網焼きとか鉄板とか鍋とか扱える人って
いる?﹂
すると手が上がったのはスライムさん、カンヘルさん、そして鬼
さんの3人だった。
俺﹁⋮⋮3人だけか、とりあえず何作れるか教えてくれるかな﹂
鬼﹁えっと、地元でお団子作ってたよ。実家が和菓子屋だったから﹂
カンヘル﹁ホットケーキです。修道院でよく作って配ってました﹂
スライム﹁タコヤキ⋮⋮ドビンムシ⋮⋮﹂
414
なるほど、あとスライムさんは早く元の球体に戻ってほしい。
女性の裸は見慣れてないんだから、せめて服ぐらいは着せた格好
には出来ないものか。
団子とホットケーキとたこ焼きと土瓶蒸しか。
⋮⋮そうだ。
俺﹁スライム、少し似たものにしていいかな﹂
カンヘル﹁⋮⋮何作るの?﹂
俺﹁うん、たこ焼き作る要領でベビーカステラ作ったり、土瓶蒸し
の要領でプリンとかは出来ないかなと思ってね﹂
スライムさんは体をくねらしてOKというサインをしてくれた。
なんとか出来るらしい。
これなら、お菓子喫茶ぐらいなら出来るかもしれない。
415
40話﹁ミノタウロスは怪力です﹂
その後、アトラクト部門の話になり、毎度のように俺は簡単に例
を出した。
すると、意外なことにかなり多くの案が飛び交い、黒板の半分く
らいがアトラクト部門の意見で埋まった。
俺﹁えっと⋮⋮これで全部か﹂
ハーピー﹁うひゃあ大変だね﹂
他人事かよ。
俺﹁それじゃあ色々無理そうなのは添削するよ﹂
なんでー!﹂
まずベタだけど﹃お化け屋敷﹄は無しだな。
ハーピー﹁ええっ!?
案を出した本人が反対の声を出す。
俺﹁だって考えてみてよ。この学校、普通にお化けなら何人もいる
ぞ。今更怖くないだろ﹂
ハーピー﹁⋮⋮そか﹂
なんとかハーピーにも理解してもらえたようだ。
続いてどれかな⋮⋮メイド喫茶、コスプレ喫茶は一緒に出来そう
416
だな。
あと、手芸展示とかも副展示としたら可能だろう。
あとは⋮⋮
ごめん!
勝手にこっちだけで考えてた﹂
カンヘル﹁え、えっとさ。俺くん﹂
俺﹁え?⋮⋮あっ!
カンヘル﹁うん、それはいいんだけどさ⋮⋮﹃メイド喫茶﹄ってど
んなの?﹂
⋮⋮まさか、世界軸のギャップというものか。
確かに俺の世界でもメイドといったらアキバだが、元々といえば
フランスとかイギリスの女性使用人だ。
その解釈から抜け出せない人とかいるだろう。
俺﹁⋮⋮王女様。王女様もメイドさん従えてたりするの?﹂
王女﹁はい。しかし給仕などはその係りのものがございますので、
彼女らの仕事は掃除、洗濯などの家事が多いと存じております﹂
⋮⋮これも考え直した方がいいか。
生徒会室
******
門星学園
俺﹁ふう⋮⋮疲れた﹂
雪女﹁お疲れ、学園祭のことか?﹂
417
俺の体調を心配してか、雪女が休みの震々の代わりにお茶を出し
てくれた。
俺﹁ありがとう﹂
雪女﹁構わない、しかし、平行世界組は大変だな。俺くんはそれに
加え、生徒会やアイドルのこともあるのだろ?﹂
俺﹁本当にそれ、おまけにいつの間にかクラスのステージ部門は俺
が仕切ることになってたし﹂
本当、普通の学校でもこうは忙しくならないぞ。
雪女﹁そうか⋮⋮ところで、どのようなことをするのか決まったの
か?﹂
俺﹁決まったよ。でもまだ言えない﹂
雪女﹁ああ、理解してる﹂
﹃校則52:学園の行事で行うことは他のクラスに口外してはな
らない﹄
なんか全然いないけど﹂
なぜこんな校則を作ったかは知らないけど、俺もこの学園の生徒
である限り守らないといけない。
生徒会なら尚更のことである。
俺﹁それにしても、今日あるよな?
418
生徒会室に今いるのは俺と雪女、そして昼寝している件だけであ
る。
雪女﹁まあな、学園祭も近いんだ。クラスの用事で休む人が出てく
る時期だろう﹂
それはそうか⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ゆきめ
俺﹁⋮⋮なあ雪女さん﹂
雪女﹁なんだその呼び名は。⋮⋮まあ気にしないが﹂
俺﹁現世界ってどんな世界でしたか?﹂
雪女﹁なんだ藪から棒に﹂
理由を考えた末、特に深い意味はない、空気が重いから話でもし
て紛らわしたいと伝えると楽々と承諾を得た。
雪女﹁⋮⋮聞いても面白いかは知らんぞ。島世という世界だ﹂
聞くとそこは日本をルーツという世界というわけではなく、どち
らかというと平行世界に近い感じだった。
ただ、大陸がそれぞれ宙に浮いているらしく他の大陸への行き来
は飛行船や気球などが使われてたそうだ。
419
雪女が暮らしていたのは、その世界でも日本に位置する国。しか
し、日本とは言っても昔話のような感じではなく大正ロマンのよう
な感じだったらしい。
雪女﹁こんな感じでいいか?﹂
俺﹁うん、面白かったよ。俺の世界のことも説明したいけど⋮⋮下
手だからなぁ﹂
雪女﹁いや、構わない。私も気になるんだ。平行世界というものを﹂
カフェテリア
******
別日
門星学園
学園祭まで2週間を切った今日も相変わらず晩御飯の時間になり、
いつものようにカフェテリアに歩を進めた。
アルラウネ﹁あ、俺くんいらっしゃーい﹂
ドリアード﹁⋮⋮﹂
今日はドリアードも働いているんだ。相変わらず小動物みたいだ。
アルラウネ﹁いやぁドリアードちゃんがいるとさ、売れるんだよね
ー。客寄せになるからいつでも来てほしいよ。あ、そうだ、今日の
A定食は俺くんの苦手な異世界モノは入ってないよ﹂
420
そう言いアルラウネさんはウインクをしてきた、普通に学生服を
着たら絶対生徒と紛れられそうだなこの人。
俺﹁じゃあそれで﹂
しかも、上手いこと乗せられてしまった。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ラミア﹁俺くーん!!﹂
俺﹁ああ、うん分かったから座って食べて﹂
相変わらず、ラミアは1番最初にいるな。別に蛇だからお腹が空
いているわけでは無いと思うんだけどな。
ラミア﹁お。俺くんもそれにしたんだ﹂
俺﹁ああ、乗せられてな﹂
ラミア﹁私も。アルラウネさんは本当に売るの上手いよね。粉とか
愛想とか振りまいてるからかな﹂
俺﹁粉ってなんだよ、花粉だろ﹂
苦笑しながら定食の煮物に手を付ける。
なるほど、俺の世界で言う肉じゃがみたいだ。
他にもおひたしや、卵焼きなども添えられていて健康的和食と
421
言った感じだろう。
私好きなことに対してなら上達早いんだ♪﹂
俺﹁⋮⋮それにしても、ラミアさん本当に箸使うのうまくなったな﹂
ラミア﹁そう?
好きこそ物の上手なれ⋮⋮ってか。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
暫くして、他の3人とも合流した。
今日も劇の練習だったし、
⋮⋮まぁその頃には俺も食べ終わり2杯目のコーヒーに移ってた
のだけど。
タウロ﹁⋮⋮しかし、俺くん大変だな。
明日はアイドルの方に行くのだろう?﹂
俺﹁まぁね⋮⋮でも順調だし別に問題は無いよ﹂
そういい、コーヒーを飲む。やはりガムシロップが多い方が飲み
やすい。
変ってそんなわけ無いじゃん、俺はいつも通りだけど﹂
オオカミ﹁⋮⋮俺くん。少し変だぞ﹂
俺﹁え?
ヴァンプ﹁⋮⋮でも確かに顔色が優れていないような気が⋮⋮﹂
俺﹁ヴァンプに言われたくないけど﹂
422
すると、タウロさんは近くで食事をしていた妹を捕まえてきた。
タウロ﹁俺くんの妹よ、俺くんの様子をみてどう思う?﹂
俺﹁どうもしないよな﹂
妹﹁⋮⋮お兄ちゃん、ちょっと動かないでね﹂
⋮⋮お兄ちゃん!
すごい熱だよ!?﹂
すると、妹は俺のおでこに手を乗せた。
妹﹁!?
ラミア﹁ええっ!?﹂
俺﹁そんなことないって、ほら見てよこんなに動け⋮⋮﹂
あれ⋮⋮クラクラする⋮⋮
何事ですか
世界が回って見えるし、頭の中で波が起こってるみたいだ⋮⋮
俺﹁痛っ!﹂
妹﹁お、お兄ちゃん!?﹂
ウロス﹁日本ちゃんどうしたのー⋮⋮俺くん先輩!?
!?﹂
ラミア﹁俺くん死んじゃやだぁぁ!!﹂
﹁なんだなんだ﹂﹁どうした﹂﹁あれって俺くんじゃないか?﹂
423
そんな大変なことなの!?﹂
﹁あの子が⋮⋮でもどうしたんだろう﹂﹁あの女子生徒は死ぬとか
言ってたけど﹂﹁ええっ!?
ざわざわがやがや
俺が倒れたことでカフェテリアは騒然となってしまった。
大丈夫!?
もしかして食あたり!?﹂
俺﹁だ、大丈夫だよ。少し足を挫いただけだから﹂
アルラウネ﹁俺くん!
ドリアード﹁⋮⋮﹂
食堂の二人も呼び出してしまったか⋮⋮
タウロ﹁いえ、どうやら熱があるらしいです。病気だと思われます﹂
アルラウネ﹁そう⋮⋮とりあえず、部屋に連れて行ってくれる?
保健室じゃなくて自室に連れて行ってね﹂
ヴァンプ﹁わかりました。じゃ俺くん、歩けるか?﹂
俺﹁だから、問題な⋮⋮うわっ!﹂
自分が良くても周りの心配もあります!
突如、ウロスちゃんに両脇を掴まれて、タウロさんの背中に乗せ
られた。
ウロス﹁俺くん先輩!
⋮⋮タウロ先輩、俺くんをお願いします﹂
424
タウロ﹁⋮⋮あ、ああ承知した。
ってくれ。立ち止まるからな﹂
俺くん、気持ち悪くなったら言
そして、俺はタウロさんにドナドナされて自室に連れて行かれた。
425
自室
41話﹁暮露暮露団は九十九神です﹂
門星学園
俺﹁ほんとに大丈夫なのにー﹂
タウロ﹁本人に限ってだいなきそういうのが病気というものだ。い
いからしっかり休め﹂
俺﹁まだ忙しいのに⋮⋮﹂
タウロ﹁無理をするからだ。一度に3つも抱え込むなど可笑しいだ
ろう。⋮⋮なるべくのことは手伝うから今は無理をするな﹂
⋮⋮仕方ないか。
⋮⋮でもこの布団なんだろ?
こんなの持ってたっけ?
結構モフモフだ。
タウロ﹁あと一つ。生徒会長からの連絡だが、無理をしないように
暮露暮露団を見張りにつけた⋮⋮と言っていた。以上だ、じゃあま
た呼んでくれ﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
426
俺﹁⋮⋮もしかして﹂
試しに布団をくすぐってみた。
暮露﹁ひゃははははっ!や、やめっ⋮⋮!ヒィィィイッ!﹂
俺﹁なにしてんの﹂
問いかけると、布団の上部から顔がひょこっと出てきた。
暮露﹁会長に頼まれたんだよー。そもそも私布団の九十九神だし問
題は無いでしょ?﹂
俺﹁⋮⋮まあそうか﹂
暮露﹁むしろさー、あくまで私も女の子なんだから、セクハラはや
めて欲しかったなー。﹃ぐすん、センパイにあんなことやこんなこ
⋮⋮悪かったよ﹂
とをされましたー、私お嫁に行けないー﹄﹂
俺﹁それ本当に問題になるからやめて!?
⋮⋮しかし、何もしないっていうのも嫌だなぁ。
俺﹁⋮⋮もしかしてさ、他の種類の布団にもなれたりするの?﹂
暮露﹁うーん⋮⋮あとは着ぐるみと女体にしかなれないなぁ⋮⋮。
もしかして女体蒲団がご所望で?﹂
俺﹁何言ってんだあんたは﹂
427
暮露﹁⋮⋮俺くん、生徒会に来た時と全然態度違うね﹂
そりゃ初対面だったし。
あと他種族だと学年が下だとは分からなかったからである。
俺﹁どっこいしょ⋮⋮﹂
暮露﹁こら!どこにいく!?﹂
俺﹁ぐえ﹂
⋮⋮掛け布団を除けて起きようとしたら、押さえつけられた。
しかも、布団縛る紐で逃げないように固定されたし⋮⋮。
喉乾いたんだって!﹂
⋮⋮病人と聞いてるはずなのに容赦ないな。
俺﹁違うよ!
暮露﹁あぁ。なるほどね。私が取りに行こうか?﹂
俺﹁⋮⋮俺はどうなる?﹂
暮露﹁うーん⋮⋮ベッドで寝る?﹂
⋮⋮最初からそうしてくれ。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺が部屋に閉じこもってから1時間が経った。少し頭が痛いのが
自覚できるようになってきた。
428
暮露暮露団は確かにある程度の世話はしてくれたが、今はもう退
屈したのか爆睡してしまっている。
俺﹁うーん⋮⋮それにしてもお見舞いくらい来ると思ったんだけど
なぁ﹂
⋮⋮まあいいか。
自室前
******
一方
門星学園
ラミア﹁な、な、なにこれぇっ!?﹂
病気による大規模感染を防ぐため、無
パンデミック
なんですかこれ!?﹂
九尾﹁気がついたか、お主も﹂
ラミア﹁あ、会長!
人間
九尾﹁⋮⋮そういうことじゃろう﹂
﹁高等部βクラス
機質系の生徒以外の入室を禁ずる﹂
ラミア﹁無機質系ってなんですか?﹂
九尾﹁細胞など体の作りがそもそも一般的な生物とは違うもののこ
とじゃな﹂
******
429
門星学園
自室
俺﹁⋮⋮すーすー﹂
暮露﹁⋮⋮ふにゃあ?
あ。寝ちゃってた、ごめんごめん俺くん⋮
⋮ってそっちも寝てたかぁ﹂
暮露暮露団は少し考え、ハンペンの着ぐるみのような姿になると
彼の上に覆いかさばった。
暮露﹁⋮⋮ちょっと汗かいちゃってるなぁ⋮⋮よし!﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁⋮⋮ん?﹂
暮露﹁あ⋮⋮﹂
な、何脱がそうとしてんだぁっ!?﹂
汗かいてたから⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮うわぁあああっ!?
暮露﹁ちっ違うって!?
珍しく暮露暮露団が両手をブンブンと振って焦りを見せていた。
俺﹁あ⋮⋮そっか。ごめん、それくらいは自分でできるからいいよ﹂
暮露﹁う、うん﹂
430
42話﹁学園長は半神です﹂
翌日になり、暮露暮露団も流石に授業を放っておくわけにはいかな
いため俺は午後まで一人だ。
あと俺の自室が入室禁止エリアになっていることを昨夜妹からの
電話から知った。
ちなみに本人も病気が移るとダメなのでウロスさんの部屋を借り
たらしい⋮⋮どうせパフパフしてもらって寝たのだろう。
それから、部屋に入れないこともあり電話⋮⋮もとい生徒手帳が
鳴り終わらない。
相手はラミア、ヴァンプ、ラミア、ハーピー、ラミア、ドル研、
ラミア、先生、会長、ラミア、ラミア、鬼といった感じである。
ラミアからの電話はもう面倒だから無視し、通知を切っている。
それ以外の電話は全部事務報告だったが、やはり心配してくれて
いる様子だった。
俺のは多分風邪だと思うし、問題ないと思
俺﹁しかし、パンデミックねぇ⋮⋮﹂
そうなるものかな?
うんだが。
せっかくなので少し外に出てみることにする。どうせ今は授業中
で誰もいないだろう。
431
ベッドから這い出て扉に手を掛ける⋮⋮。
俺﹁⋮⋮え?﹂
部屋のすぐ外には手紙と一緒に大量の箱が置いてあった。
カンヘルより﹄
ハーピーより﹄
病気回復して一緒に頑張りましょう
その中の一つの手紙を読んでみる。
﹃俺くんへ
⋮⋮まさかこれ全部っ!?
鬼より﹄
それぞれの手紙も読む。
﹃俺くん頑張ってね。
﹃あとは任せて、心配しないで!
アルミラージより﹄
雪女より﹄
ドリアード﹄
﹃きっと上手く行きます!
﹃食べて、元気。
﹃あまり体を冷やさないように
⋮⋮みんな。
俺﹁⋮⋮心配⋮⋮してくれてるんだ﹂
⋮⋮どうせただの風邪なのに。他種族で、体力もない俺なのにっ
⋮⋮!
ふと手紙に黒いシミが出来た。
泣いてるのか⋮⋮涙で字が滲んでしまった⋮⋮。
432
⋮⋮絶対学園祭は成功させよう!
ないといけないな。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
数時間後
⋮⋮がちゃ
スライム﹁♪⋮⋮?﹂
俺﹁⋮⋮スースー﹂
そっか授業終わったんだ﹂
そのためにも今はゆっくり寝
⋮⋮ス、スライムさん?
スライム﹁⋮⋮﹂ピトッ
俺﹁冷たっ!
スライムは肯定するように体をモニモニと変化させた。
俺﹁でもなんでスライムさんが?﹂
ありがとう﹂
確かに、無機質だから病気が移る心配は無いだろうけど。
スライム﹁⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮ああ、お見舞い?
そう言うと、スライムさんは触手を伸ばすと箱を一つ手にとって
俺に渡した。
433
あっ、これって!﹂
開けろということだろうか?
俺﹁なんだ?
学園祭はステージの
ドル研はもう衣装出来た
中に入っていたのは服などの絵が書かれたメモの束だった。
俺﹁学園祭の企画書とドル研の企画書!
んだ、あとは歌とダンスを鍛えるだけだな。
様子も見たかったから、こういうのあって助かったよ。スライムさ
ん、ありがとう﹂
そう言うと、スライムは体をよじらせて照れるような動きをした。
⋮⋮しかし俺、なんかスライムさんの言いたいことが分かるよう
になってきたな。もう末期かもしれない。
俺﹁⋮⋮そういえばスライムさんはプリンだったよね。どんな様子
?﹂
スライムは体の中心に空間を作り広がった
⋮⋮なるほど、バッチリということらしい。
俺﹁⋮⋮﹂
スライム﹁⋮⋮﹂
⋮⋮静かだなぁ。まあ昨日は暮露暮露団だったというのもあるけ
ど温度差が凄い。
434
なにか思い出したの?﹂
スライム﹁⋮⋮!﹂
俺﹁ん?
すると別のところから新たな箱を出した。
スライムさんは人の姿︵俺を配慮してか着衣バージョン︶になる
と箱を器用に開けた。中からはほんのりと甘い匂いがする。
俺﹁⋮⋮?﹂
⋮⋮アーン﹂
スライム﹁⋮⋮アーン﹂
俺﹁え、え?
口の中にスプーンを突っ込まれる。
仄かに甘く、ソースに少しの苦味もあり舌に乗った瞬間体温で溶け
るように香りが広がった⋮⋮これは。
すごく美味しいよ、このプリン。スライムさん
﹂
俺﹁す、すごい!
が作ったの!?
店も出せるレベルだよ!﹂
スライム﹁⋮⋮コレデオーケー?﹂
俺﹁うん!
俺はそのまま食べさせてもらう体制に入った。
お風呂沸かすよ﹂
食べ終わる頃にはスライムさんの体が少し乾燥していた。
俺﹁⋮⋮あ、ゴメンね。
435
ベッドから起き上がろうとすると、手を肩に乗せてスライムに制
された。⋮⋮結構力がある。
俺が困惑していると、スライムは全裸になった。思わず顔を背け
る。
全裸⋮⋮全裸ってなんだ?
⋮⋮全裸待機?
俺﹁待てってこと?﹂
スライム﹁ハイ﹂
⋮⋮別に待てぐらいなら変身で伝えなくても、スライムさん話せ
るだろ。
すると、スライムさんは風呂場に入ると扉の奥からシャワーの音
が聞こえてきた。
βクラス
ああ、沸かす必要は無かったんだ。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
翌日
門星学園
436
ラミア﹁⋮⋮おれくーん﹂
ヴァンプ﹁⋮⋮流石に3日も会えないと、顔色えげつないな﹂
タウロ﹁あぁ⋮⋮もはや近寄りがたい﹂
俺くんの匂い!﹂
すると突然後方の扉が開いた。
俺﹁おはよー﹂
ラミア﹁ハッ!
ヴァンプ﹁おい﹂
マスクもしてるし﹂
なんとか俺に突っ込んでくるラミアはヴァンプに抑えられ、押し
倒されずに済んだ。
オオカミ﹁大丈夫なのか?
俺﹁心配ないよ。熱も下がったし、それに今のうちにーー﹂
なんで!﹂
パンデミックになっ
コラアアアアアアア!﹂
学園長!?
学長﹁おーれーくーん!
俺﹁ちょっ!
っていうかこの人も俺くん呼ばわりか。
学長﹁まだ微熱なんだから休んでなさいっ!
たらどうするの!﹂
437
俺﹁で、でもぉ﹂
学長﹁いいから、ほら﹂
平日は戻れな
結局俺は引きずられて部屋に押し込まれた⋮⋮今度はドアの封印
もされてしまった。
ラミア﹁⋮⋮俺くぅん﹂
タウロ﹁⋮⋮無理するからだ﹂
自室
******
門星学園
学長﹁で、なんで無断登校したの?﹂
俺﹁⋮⋮現世に招待券だけでもと﹂
学長﹁⋮⋮俺くん、風邪で頭の回転遅くなったの?
いって﹂
⋮⋮そういえばそうだった
学長﹁もう妹さんが代わりに配ってくれたから安心して﹂
そうか、アイツちゃんとしてくれたんだ。
それだけを守って﹂
学長﹁とりあえず、俺くんは残り一週間の学園祭までに元気になる
こと。
438
俺﹁⋮⋮はい﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
しかし、現実はそう上手くいくこともなく。
病気は収まることもなく、一週間が来てしまった。
439
43話﹁俺は一人ではありません﹂
俺が病気になって10日が経った。夏風邪はしつこいとはよく言
うが、ここまでとは思わなかった⋮⋮。
⋮⋮まあ熱が下がるたびに脱出を試みてたこともあるだろうけど。
しかし、残念ながら学園祭には参加できなかった。
俺自身、外に出ることは出来なかったからどんな様子かは分から
なかったが混沌ながらも面白くなっていたのだろう。
ようやく完治した俺は学園からの許可もおり、今日から再登校で
きるようになった。
⋮⋮まあ、とてつもなく教室には入りにくいが。
他の人にも迷惑かけてしまったからなぁ。
俺はため息を吐くと、扉に手をかけた。
左に傾いてるぞ!﹂
βクラス
******
門星学園
タウロ﹁そこ!
ラミア﹁ひーん⋮⋮この飾りだけで15分くらい経ってるよ?﹂
俺﹁⋮⋮えっ?﹂
440
俺く⋮⋮いたぁっ!?
タウロさん⋮⋮まだ何もし
教室ではクラスの皆が教室の飾り付けをしていた。
ラミア﹁あ!
てないよ﹂
タウロ﹁何かしようとしていたんだろ。悪いな、あと俺くんはステ
ージだから今日は講堂だぞ﹂
俺﹁あ、えっと、うん﹂
結局タウロさんに言われるがまま講堂へ向かった。
学園祭は昨日で終わったんじゃなかったのか?
講堂
******
門星学園
さすが門星学園の講堂。えげつない大きさだ。ここでなら野球と
サッカーと相撲ぐらいなら同時に出来るかもしれないな。
復活したんだな!﹂
ヴァンプ﹁﹃この背中の桜吹雪、まさか覚えがねえとは言わせねえ
ぜ!﹄﹂
俺﹁おーい、ヴァンプ﹂
ヴァンプ﹁あ、俺くん!
俺﹁うん、あと劇は遠山の銀さんじゃないよ﹂
441
軽くツッコミを入れておく。
ヴァンプ﹁あれ、かっこいいと思うんだけどな﹂
俺﹁まあ確かにかっこいいけど⋮⋮。っていうか学園祭昨日じゃな
かったの!?﹂
ヴァンプ﹁あー、それな。⋮⋮話すと少し長くなるがーー﹂
******
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
βクラス
遡ること1週間前
門星学園
ラミア﹁おれくぅん⋮⋮﹂
タウロ﹁無理するからだ⋮⋮﹂
オオカミ﹁⋮⋮でもあのペースだと回復は遅くなりそうだな﹂
いつの間にかいるオオカミにヴァンプは椅子を引いて驚いた。
ヴァンプ﹁⋮⋮お前いつのまにいんだよ﹂
悪魔﹁でも実際間に合わないだろうな﹂
天使の顎を頭に乗せた悪魔がヒョイと話に入ってきた。
442
タウロ﹁⋮⋮どういうことだ﹂
悪魔﹁ラプラスの悪魔だよ﹂
全員の頭にハテナマークが浮かぶ。
ラミア﹁まぁそのラプラスのなんたらは今度俺くんに聞こう。で、
それは確実なの!?﹂
悪魔﹁あぁ、残念だけどな。⋮⋮少しでも日が伸ばせたら別なんだ
が﹂
オオカミ﹁⋮⋮ふむ﹂
たしか学園祭の詳細の変更は署
暫しの沈黙。静寂を破ったのは意外な人物だった。
天使﹁ならさー、署名集めたら?
半分集めるとしても100
名の数次第によっては変更できるんでしょ?﹂
ヴァンプ﹁⋮⋮でも、この学園だぞ?
廊下
0人以上いるってのに⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
ラミア﹁病気の俺くんのために署名お願いしまーす!﹂
443
タウロ﹁⋮⋮しまーす﹂
ラミア﹁声小さいよ!﹂
タウロ﹁し、しかし、これは恥ずかしい⋮⋮﹂
ラミアが切磋していると⋮⋮
鉄鼠﹁先輩ー﹂
ラミア﹁あ、ネーちゃん﹂
鉄鼠﹁どうしたんですか?﹂
同好会の縁もあるため、ラミアは鉄鼠に始終を教えた。
鉄鼠﹁お、俺くん先輩が⋮⋮。なら私たちに任せてください!﹂
タウロ﹁⋮⋮?﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
鉄鼠﹁署名お願いしまーす!﹂
﹁﹁﹁﹁お願いしまーす!﹂﹂﹂﹂
13人の声に生徒は全員振り向く。
ラミア﹁なるほどーETOかぁ﹂
444
タウロ﹁ETOって確か、俺くんがプロデュースしたアイドルだっ
たか?﹂
ラミア﹁うん。なるほどね、スクールアイドルなら人を集めるのも
すぐかもしれない﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ヴァンプ﹁で、どれだけ集まったんだ?﹂
ラミア﹁クラスの皆、ETOの皆、そして休み時間に集めた人数を
足して⋮⋮157人!﹂
タウロ﹁一日で集めたとしては多いな⋮⋮しかし、それ以上に数が
足りない﹂
せめて署名は全校生徒の半分以上は欲しいところだが、まだまだ
1000人には程遠い。
オオカミ﹁このままだと直に学園祭が始まってしまうぞ﹂
生徒会室
ラミア﹁うーん⋮⋮そうだ!﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
門星学園
445
九尾﹁して、署名を集めるために放送をさせてほしいと﹂
ラミア﹁はいっ!﹂
九尾﹁ダメじゃ、一般生徒には触らせるなと言われておる﹂
ラミア﹁えーっ!?﹂
肩を落とすラミアに九尾は軽く微笑んで続けた。
九尾﹁⋮⋮妾も俺くんが心配じゃ。会長から直々に流そう。その方
が効果もあるだろう﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
数日後
﹁署名書いた?﹂﹁うん、俺くんのことは有名だからすぐに書いた
よ﹂﹁楽しみだけど、楽しみなのは俺くんもだからね﹂﹁とりあえ
ず私たちも手伝おうよ﹂﹁そうだね、小学部にも手伝ってもらおう﹂
﹁大学部にもね﹂
ラミア﹁これでついに1000人目だ!
オオカミ﹁よし、明日には学園長に出そう!﹂
そして
学長﹁⋮⋮うん、先生の分も集まってるけど⋮⋮もう少しほしいな﹂
446
ラミア﹁そんなっ!?﹂
学長﹁ごめんね⋮⋮あと100人くらいいないと﹂
?﹁待ってくださいぃっ!﹂
署名集めたのでなんとかし
扉から転けて入ってきたのは妹の姿だった。
それよりもこれ!
学長﹁⋮⋮えっと、大丈夫?﹂
妹﹁大丈夫です!
てください!﹂
学園長は妹の手からプリントを受け取ると⋮⋮
学長﹁凄いね⋮⋮これ合わせたら、全校生徒の8割だよ?﹂
ラミア﹁ということは!﹂
学長﹁流石俺くんの人脈。良かったね、承認するしかないじゃん﹂
﹁﹁﹁やったー!﹂﹂﹂
******
ヴァンプ﹁ってことだ。まあ泣ける話だ⋮⋮っておい!﹂
俺﹁びんなぁ⋮⋮ううぅ⋮⋮ぼくなんかのためにぃ⋮⋮﹂
447
ヴァンプ﹁本当に泣くなよ!
あとぼくとか言うな!﹂
俺﹁でも本当に嬉しいよ。お礼、なにかしないとね﹂
その言葉を聞いたヴァンプは広角を釣り上げ
ヴァンプ﹁なら、俺が代表して一つ﹂
俺﹁えー。ヴァンプが代表?﹂
ヴァンプ﹁別に個人的な頼みじゃねえよ。⋮⋮学園祭を最高のもの
にしてくれよ。お前にかかってるんだ﹂
俺は一瞬呆気にとられたが、息を整えて笑って言い返した。
俺﹁奇遇だな。頼まれるまでもなく俺もそうするつもりだった﹂
448
公園
44話﹁メデューサは鏡を見られません﹂
現世界
俺﹁あ。悪い、遅くなったか?﹂
早く!
早く行かせろよ!﹂
フカザワ﹁う、ううん。そんなに待っーー﹂
ヤマ﹁遅えよ!!
す、すごい温度差⋮⋮。
俺がこうして現世界に戻ったのにはもちろん理由がある。
門星学園の学園祭に招待するためだ。
⋮⋮とはいえ、学園祭自体は明日に開催される。
いきなり混乱させるようなことを防ぐために前日に観光して、慣
れさせるというのが学園祭のルールだからということだ。
俺﹁そんな焦らなくても⋮⋮門星学園の時間はこの世界の2倍ぐら
いなんだから﹂
俺のシナプスが!﹂
フカザワ﹁⋮⋮それって疲れそうだよね﹂
俺の!
俺﹁睡眠時間も2倍だから問題ない﹂
ヤマ﹁そんなことより早くっ!
449
うるせぇな。
俺﹁ちょっと待て。カエデの友達に待ってからにしよう。お前らは
2人だからいいかも知れないけど、彼女は1人なんだ﹂
ヤマ﹁⋮⋮カエデちゃん。友達少ないの?﹂
俺﹁それ本人の前では言うなよ﹂
妹﹁遅いよ﹂
突然間を割って入ってきた妹に俺とヤマは驚いた。
俺﹁い、いたのか﹂
妹﹁エリちゃんもいるよ﹂
エリ﹁ど、どうも﹂
俺﹁ごめんねエリちゃん、騒がしくて。カエデからよく話を聞いて
るよ﹂
エリちゃんという少女は見た目妹と変わらないようにみえるが、
どちらかというと消極的な子のようだ。
ただ、複数人だからえこ
だが、空色のワンピースを上手に着こなしており、オシャレな雰
囲気も持ち合わせている。
妹﹁あと、私ほかにも友だちはいるよ?
ひいきみたいになるのが嫌だったの﹂
450
俺﹁でもエリちゃんは?﹂
妹﹁エリちゃんは親友だから﹂
なるほど。
無理して来る必要
わたし部屋に戻る!﹂
エリ﹁えっと、そこのお姉さんたちが一緒にいてくれるんですか﹂
俺﹁そのはずなんだけど⋮⋮﹂
横目でちらりと見る。
フカザワ﹁そんなとこにいたくない!
ヤマ﹁それ死亡フラグだから﹂
エリ﹁⋮⋮えっと、お姉さんはどういう?﹂
妹﹁人外とかモンスターが苦手なんだってさ。
ないんだけど、何故か最初は行きたいって言ってた﹂
何でだよ。
俺﹁⋮⋮フカザワ。嫌なら無理すんな。ただフラグは処理しとけ﹂
フカザワ﹁えっ⋮⋮でも⋮⋮﹂
俺﹁どっちだよ!?⋮⋮まあ好きにしろ。無理強いはする必要ない
からな﹂
451
酔い止め飲んだ?﹂
すげ∼ミヅキ、賢者みたいだな!﹂
俺はそう告げると、いつものように魔法陣を作った。
ヤマ﹁おおっ!
俺﹁大げさな⋮⋮。とりあえず準備は出来た?
ヤマ﹁おう!﹂
エリ﹁はい!﹂
2人の返事を聞くと妹とエリちゃんは先に飛ばされた。
続いて俺も行く。
ヤマ﹁じゃあな、フカザワ。エリちゃんは俺に任せておけ﹂
そうだった、ダメぇ!!﹂
ちょ、うわっ!﹂
フカザワ﹁あーっ!
ヤマ﹁えっ!?
俺は慣れてるから良いんだけど﹂
結局、全員飛ばされることになった。
校門前
******
門星学園
俺﹁⋮⋮大丈夫か?
ヤマ﹁⋮⋮いや⋮⋮これは﹂
エリ﹁⋮⋮カエデちゃん⋮⋮気持ち悪いよぉ﹂
452
フカザワ﹁⋮⋮うぅ﹂
これは⋮⋮仕方ないな。
俺﹁えっと、こっから名前で呼ぶの禁止な﹂
ヤマ﹁なんで?﹂
妹﹁校則で決まってるの。名前と顔を知るだけで悪用されることも
あるらしいからね﹂
エリ﹁へぇ、分かったよカエ⋮⋮えっと⋮⋮﹂
まあ、そうなるよな。
雰囲気や他種族に慣れて
俺﹁⋮⋮この世界では、俺は﹃俺くん﹄、妹は﹃妹ちゃん﹄と呼ば
れることが多いな﹂
妹﹁たまに﹃日本ちゃん﹄ね﹂
理解した﹂
エリ﹁じゃあ妹ちゃん!﹂
ヤマ﹁俺くんだな!
とりあえずこれで安心かな。
俺﹁じゃあとりあえず町の方行こうか。
ほしいし﹂
453
ヤマ﹁あ、ちょっと待って!
なるほど。
俺﹁ダメだ﹂
ヤマ﹁なんで!﹂
門星学園写真撮りたい!﹂
俺﹁カメラは魂を封じるから﹂
ヤマ﹁なるほど!﹂
さすがファンタジーヲタ。理解が早い。
俺﹁ってか、さっきから黙ってるけどフカザワ大丈夫?
いなら無理しなくてもいいんだよ?﹂
戻りた
フカザワ﹁だ、大丈夫⋮⋮。エリちゃんをヤマの魔の手から守らな
いと﹂
ヤマ﹁酷い﹂
別にヤマはロリコンじゃないから、どちらかというと他種姦しそ
うだけどな。
広場
******
城下町
ヤマ﹁ギャー!﹂
454
フカザワ﹁ギャー!﹂
凄い!
絵本の世界みたい!﹂
悲鳴と歓声を上げる2人。これは前日に連れて来て正解だったと
思う。
エリ﹁うわぁ!
俺﹁⋮⋮お前ら、エリちゃんを見習えよ﹂
ピュアとナチュラルは月とスッポンだ。
ヤマ﹁フカザワ、落ち着けよ﹂
フカザワ﹁ヤマこそ﹂
お前らの場合は亀とスッポンだ。
ヴァンプ﹁よお、俺くん﹂
俺﹁ヴァンプか。おはよう﹂
ヴァンプ﹁おう。後ろの人らはお前の連れか?
俺﹁ああ。現世界から連れてきた﹂
ヴァンプか⋮⋮。見た目的には顔色が悪いだけで人間と変わらな
いし、慣れさせるにはいいかもしれないな。
俺﹁えっと、彼はヴァンパイア﹂
455
ヤマ﹁えっ!
マジで!﹂
ヴァンプ﹁お、おう﹂
フカザワ﹁ひいっ!?﹂
まあ反応はそれぞれだけど、悪い反応ではないな。
ヴァンプ﹁俺くんー!﹂
俺﹁悪い悪い、こいつら他種族初めてだからテンション上がってん
だ。慣れるまで付き合ってやれないか?﹂
ヴァンプ﹁あー、なるほどな。⋮⋮悪いけど、ステージ役員の用事
があるんだ﹂
俺﹁⋮⋮そっか、頑張ってな﹂
最後にヴァンプは、学園祭楽しめと一言告げると足早に帰って行
った。
ヤマ﹁なんか、人間ぽいな﹂
俺﹁人間ぽいというか、感情あるもの全てあんな感じなんだよ﹂
フカザワ﹁⋮⋮悪い人ではないのかな﹂
とりあえず難問は抜けたとして、次は少しレベルを上げ⋮⋮
俺﹁⋮⋮ちょっとこっち行こうか﹂
456
フカザワ﹁え?
な、なに?﹂
四人を連れて路地に逃げる。
危ない⋮⋮ラミアに見つかるところだった。
ラミアは見た目的に蛇だから苦手な人からしたら堪らないし、何
より彼女は人間に対して強い好奇心を持っている。
今、見つかってしまえばフカザワのSAN値が失われてしまうと
ころだった。
⋮⋮そうだな⋮⋮何でもいいな!﹂
俺﹁⋮⋮うーん、ヤマは何に会いたい?﹂
ヤマ﹁俺か?
俺﹁⋮⋮そか﹂
457
αクラス教室
番外 門星ビフォア 八尺様編
大学部
ガチャン!
?﹁あっ。ハッシャクさん、ペンケース落としたぞ?﹂
ハッシャク﹁本当だ⋮⋮ありがとうローさん﹂ポポポ⋮⋮
ローパー﹁ローパーな⋮⋮。ところで、噂で聞いたんだけど城下町
のくじ引き当たったんだって?﹂
ハッシャク﹁うん、魔術書一式⋮⋮正直いらない⋮⋮邪魔﹂ポポポ
⋮⋮
淡々としたハッシャクの答えに、一瞬変な空気が流れた。
ローパー﹁え、えっとさ。捨てるなら縛るの手伝おうか?俺、ロー
パーだから縛るのは得意だぞ?﹂
⋮⋮ところで、そのペンケース男物に見え
ハッシャク﹁捨てるのは勿体無いけど⋮⋮縛るのはして欲しいかな﹂
ポポポ⋮⋮
ローパー﹁よしきた!
るんだが⋮⋮どうしたんだそれ?﹂
ローパーへの応答にハッシャクは少し考えたが、結局秘密という
458
ことにした。
*********
それは入学よりも昔の話。
山の中
ハッシャクがまだ八尺様だった頃の話。
某田舎町
八尺様は木陰に座って、双眼鏡を手にいつものように小学校を覗
いていた。
八尺様﹁⋮⋮今日も誰もいない。夏休みに入ったのかな⋮⋮﹂ポポ
ポ⋮⋮
天気は晴れ、日付は7月30日の夏休み最盛期。
田舎すぎるため小学校には部活動もサッカーチームも無いため、
ガランとしている。
いるとすれば、飼育小屋のニワトリとウサギ、そしてプリントを
印刷する職員室の教員の姿だけだ。
そもそも八尺様は都市伝説で子どもを誘拐するとか言われている
があれは勘違いである。
ただ迷っていた小学生を家まで送ってあげただけ⋮⋮まあ興奮し
て変な顔にはなっていたのもあるが、親子二人ともが勘違いしたせ
いで変な噂になってしまったのだ。
今は町の人たちを怖がらせないためにも山に暮らしている。
459
八尺様はセミのジリジリという鳴き声を聞きながら背伸びをする
と、山のトンネルから見慣れない車が来たのに気がついた。
八尺様﹁⋮⋮トラックかな?﹂ポポポ⋮⋮
しかし、いつも道の駅や宅配便にくる車の柄ではない。どちらか
といえば、いつもよりも青っぽい色をしているように見える。
山麓の祠
八尺様は様子を見るため、もっと麓に降りてみることにした。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
某田舎町
祠の後ろに隠れようとしたが、少し八尺様の方が大きいため、頭
だけヒョコッと出る形になってしまった。
八尺様﹁⋮⋮きた﹂ポポポ⋮⋮
八尺様は帽子を被り直すと、目を凝らす。
トラックが目の前を通るまで心の中でカウントする。
2⋮⋮1⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
男の子だ。しかも目が合った。
460
しかも⋮⋮八尺様の好みである。
八尺様﹁もう少し追いかけよう⋮⋮住所くらいは知っておきたいし
⋮⋮﹂ポポポ⋮⋮
とはいえ、トラックを走って追いかけるわけにもいかないので、
山から双眼鏡で目で追いかけることにした。
山麓近く民家
******
某田舎町
住所を確定した八尺様は茂みからこっそりと様子を見ることにし
た。
八尺様﹁それにしても、山主さんの家の子だったんだ⋮⋮山主のお
婆さんも元気そう⋮⋮﹂
山主の家のお婆さんとは子どもの頃以来の知り合いである。
⋮⋮とはいえ体が悪いようで最近は外に出ることが無くなり、顔
を合わせることも減ったのだが。
暫くするとお婆さんのいるところへ車の少年が来た。見た感じ小
学生のようである。
少年﹁婆ちゃんただいま﹂
お婆さん﹁⋮⋮おかえり、祥太﹂
少年﹁病気は治りそう?﹂
461
お婆さん﹁⋮⋮さあ。病気なんぞ本人にはどうもわからないことさ﹂
いつものようにのんびりとした口調で言うお婆さんに対し、少年
は積極的である。
少年﹁そういえばさ、ここに来るときに不思議な人が居たんだけど
⋮⋮﹂
お婆さん﹁⋮⋮不思議とは﹂
八尺様はすぐに気がつき、気づかれないようにし
少年﹁うん、髪が長くて白い帽子を被っていて、とても身長の高い
人だった﹂
私のことだ。
ながら身を乗り出す。
お婆さん﹁⋮⋮それは八尺様じゃないかい?﹂
少年﹁はっしゃくさま?﹂
お婆さん﹁ああ、わたしゃ物の怪の一種だと思っているんだがね。
男の子どもが好きなんだと言われている。でも拉致や殺しゃしな
いし別に害はないよ﹂
意外にフォローされていた。まぁ、お婆さんとも昔遊んでいたと
いうのがあるからだろうけど⋮⋮。
お婆さん﹁⋮⋮おやおや、そんなところに居ないでこちらに来なさ
んな﹂
462
八尺様﹁ぽぽっ!?﹂
バレてしまっていたようで、八尺様は急いでその場から逃げた。
何かいたの?﹂
⋮⋮いや逃げる必要などはないんだが。
少年﹁⋮⋮?
お婆さん﹁⋮⋮少し恥ずかしがり屋の女の子さ。それよりも、祥太
はこの辺りを散策したのかい?﹂
少年﹁うーん、今着いたところだしなぁ﹂
お婆さん﹁ならブラブラするといいさ。でも、今は日がだいぶ傾い
てしまった。ここは田舎だから都会のように夜でも見晴らしが良か
ねぇ。どうせ休みだろ。明日にしな﹂
少年はお婆さんにそう言われると、庭から夕日を見た。
水の張った田んぼに紅い太陽が沈んでいるようで彼自身も赤く照
らされていた。
463
番外 門星ビフォア 八尺様編︵後書き︶
ローパー:
名前の通り縄のような触手を自在に操る怪物。主に鍾乳洞に住んで
いるとされており、触手プレイが人気の今、需要が増えている。
464
番外 門星ビフォア ハッシャク編 家の前に着いた少年は、ふと玄関の正面にある山の方を見た。
少年﹁⋮⋮確かこの山、婆ちゃんが管理してんだっけ﹂
少年は軽い興味、ほんの少しの興味を抱き山に入ることにした。
******
数分後、少年は山の麓まで来た。
まだ日は充分に高い。
山の中は辛うじてけもの道になっているため迷う心配は無さそう
である。
少年はそれだけが心配だったので、一応靴紐を結び直して足を踏
み入れた。
しかし、結構木が茂っている。昼でも薄暗い感じなのに、夜にな
るとどうなってしまうのだろうかと少年は不安になる。
ただ動物がいる様子はないため、しっかりと人の手は入っている
ようだ。
しばらく歩いていると突然けもの道が途絶えた。少し期待はして
いたがまぁこんなものだろうと少年は苦笑する。
すると、遠くの方で一段と明るくなっている場所があることに気
465
がつき、長ズボンで良かったと思いながら草木をかき分けて進む。
目的地に着くとそこは神社か何かの跡地のようだった。
草は高くなっているもののその周りだけ木が生えていない、少年
の目には何だか不思議と神聖な場所に見えた。
近くには川の流れる音も聞こえてくる、昔はここで水を汲んでい
たのかもしれない。
少年はふらふらと川の音の方に向かった。
******
少年﹁!!?﹂
八尺様﹁⋮⋮あっ昨日の﹂ポポポ⋮⋮
固まってるけど﹂ポポポ⋮⋮
川の音とともに八尺様の声が通る。
八尺様﹁⋮⋮どうしたの?
そう言われてもなお少年は顔色を変え返事ができなかった。
これは恐怖のため⋮⋮ではない、悪評は一切聞いてないから当た
り前だ。
少年の目の前に水浴みをしている八尺様が魅力的な体を震わせて
いたからである。
466
八尺様は天然なのかワザとなのか腕を胸のしたにくぐらせ、少年
の頭よりも大きいであろうと思われる豊満な胸をたゆんと強調しな
がら話す。
八尺様﹁⋮⋮遊ぶ?﹂ポポポ⋮⋮
八尺様は少年に身長を合わせるために前に体を屈んだ。流石に2
40cm近くある身長で160cmもない少年の身長に合わせるの
は無理があるが⋮⋮。
しかし、その前のめりの格好によって、少年は羞恥に襲われ⋮⋮
少年﹁う、うわああああああっ!!﹂
八尺様﹁⋮⋮あー﹂
その場から逃げ去った。
八尺様﹁⋮⋮久々に遊べると思ったのに﹂
残された八尺様は口をへの字にして、少年の落としていった、ま
だ奇跡的に溶けていない未開封のアイスを口にした。
******
それから数日の間も少年の前に八尺様が現れる回数が増加し、少
年も出現するたびに苦笑や手を振るようになっていった。
⋮⋮しかし、お盆に入ってから突然、少年の前に出現することが
なくなった。
467
少年﹁⋮⋮どうしたんだろう?﹂
お婆さん﹁何かあったのか?﹂
少年﹁⋮⋮うーん、まあちょっと⋮⋮ね﹂
お婆さん﹁⋮⋮八尺様のことかい?﹂
お婆さんの言葉に少年も反応を示す。
お婆さん﹁しばらくお前から八尺様の話を聞かなくなったが⋮⋮喧
嘩でもしたのかい﹂
少年﹁⋮⋮実はさ、最近八尺様を見なくなったんだ。何か理由があ
るんだろうけど﹂
お婆さん﹁⋮⋮祥太はまた八尺様に会いたいのかい?﹂
少年﹁⋮⋮どうだろう﹂
少年は元々八尺様とは何の関わりもなく過ごしていた。今もまだ、
まともに会話をしたこともないし別にこのまま会えなくても彼自身
には何の問題もない。
少年﹁⋮⋮でもそろそろ会わないといけないよ﹂
お婆さん﹁⋮⋮あんたは律儀な子だね。誰に似たんだか﹂
お婆さんは呆れたような声で唸った。
468
お婆さん﹁⋮⋮山の廃寺には行ったのかい?﹂
少年﹁ま、まあ⋮⋮べ、別に行っただけだけど⋮⋮﹂
少年はふと八尺様の裸体を想像してしまい、顔が熱くなった。
お婆さん﹁⋮⋮あそこにあの娘は暮らしてんだ。⋮⋮私にはバレて
ないと思ってるらしいけどね﹂
少年﹁そうなんだ﹂
お婆さん﹁行くか行かないかは好きにしな、私ゃお腹すいた。先に
準備しているよ﹂
そう言い残すと、お婆さんはよっこいしょと発し、部屋の奥に入
って行った。
その時だった。
突然強い風が吹き、少年は思わず目をつぶった。すると、モフっ
とした感触のものが顔にぶつかってきた。
視界が奪われていたため、慌ててその顔にぶつかったものを手に
取るとそれは、白く大きな貴婦人帽子だった。
かなり大きいため、一瞬飾り用か何かと思ったが少年には心当た
りがあった。
少年﹁⋮⋮もしかして、これが原因なのかな﹂
469
そう考えていると、家の中から少年を呼ぶ声が聞こえてきた。夕
飯ができたらしい。
少年は返事をすると、自分の部屋に帽子を置いてから茶の間へ行っ
た。
******
夜
カエルとふくろうと思われる鳴き声が響く中、少年はベッドの中
で考え込んでいた。
もし、この帽子が原因で出られなかったのなら届けるべきなのだ
ろうか。
彼女と会えなくても少年には何の問題もない、それは向こうもそ
うだろう。
⋮⋮しかし、少年の中のモヤモヤが晴れない。
彼はベッドから起き上がると懐中電灯と帽子、それから必要にな
りそうなものをリュックに詰めるとバレないように静かに家から出
ると、山に入った。
******
少年は正直なところ後悔していた。
470
電熱線の懐中電灯など役に立たないも同然で殆ど明るくない。足
元を照らす程度で精一杯だ。
そもそも辺りは昼間でも充分に暗い山の中だ。
もし懐中電灯が無ければ盲目と同じようなものだろうし、あるだ
けまだマシなのだろう。
少年は慎重に歩を進めると、突如草が不自然に音を立てた。
ガサガサという音に少年は腰をついて怯える。
熊だろうか。少年の中でそんな想像を起こす。
熊は出るとは聞いてはないけれど、出ないとも聞いていない。も
しかすると、お婆さんが言い忘れているのかもしれない。
足がすくむ少年の前に出てきたのは
八尺様﹁⋮⋮こんな時間に危ない﹂
少年﹁は、八尺様ぁ⋮⋮﹂
少年は安堵によって、息をゆっくりと吐いた。
八尺様﹁⋮⋮ポポ﹂
少年﹁どうしたの?﹂
八尺様﹁⋮⋮ううん、初めて会話が成立したから﹂ポポポ⋮⋮
少年﹁そういえば⋮⋮そうだっけ﹂
471
少年が苦笑すると八尺様は少年に着いて来るように言い、廃寺へ
向かった。
小学生で低学年だと思われてたなんて!﹂
⋮⋮祥太くん中学生だったの?﹂
******
八尺様﹁!
少年﹁ひどいよ!
少年と八尺様は二人、廃寺の階段で持ってきたお菓子を食べなが
ら話していた。
八尺様﹁⋮⋮でも、嬉しいよ。帽子無いとこの山から出られなかっ
たから﹂ポポポ⋮⋮
少年﹁そうだったの!?﹂
八尺様﹁⋮⋮うん、だから山の外に帽子が飛んだから取りにいけな
かったの﹂ポポポ⋮⋮
少年﹁そっか⋮⋮﹂
は、八尺様っ!?﹂
少年が返事すると、八尺様は微笑んで少年を膝の上に乗せた。
少年﹁わわわわっ!
八尺様﹁⋮⋮それに、貴方のこと気に入ってたから来てくれて嬉し
いの﹂ポポポ⋮⋮
少年﹁そ、そう⋮⋮﹂
472
少年は照れ臭そうに俯く。それを見た八尺様はポポと笑う。
少年﹁あのさ⋮⋮実は、お盆が終わったら都会に帰るんだ﹂
八尺様﹁⋮⋮﹂
少年﹁⋮⋮﹂
八尺様﹁⋮⋮そっか﹂ポポポ⋮⋮
八尺様は膝上の少年の頭を優しく撫でながら言う。
八尺様﹁⋮⋮私はこの町から出たこともないし、どんなところかわ
からないけど⋮⋮都会は楽しいのかな﹂ポポポ⋮⋮
少年﹁⋮⋮まあね、山内くんっていう小学生以来の友だちもいるか
ら﹂
八尺様﹁⋮⋮良かった、祥太くんが大丈夫なら私は満足だよ﹂ポポ
ポ⋮⋮
少年﹁⋮⋮なんでそんなに僕のことを気にしてくれるの?﹂
上目遣いで尋ねる少年を見つめ返し、再びポポと微笑む。
八尺様﹁⋮⋮こうして私を怖がらずに接してくれたのは貴方で2人
目だから﹂
少年﹁えっ?﹂
473
八尺様はお菓子を一つ食べると続けた。
八尺様﹁⋮⋮私が初めて仲良くなったのは小学生の女の子。TVが
白黒で電柱も木で出来たような時代。私は町を探索して帰る時に、
姿を消して屋根のあるバス停で座って待っていたの﹂
少年は山から少し近いところにある2時間置きのバス停を思い出
した。
八尺様﹁そこで会ったのがその女の子。透明になっているはずの私
の目をじっと見上げていたの。後日、その女の子はここにボールを
持って来て一緒に遊ぶようになった⋮⋮まあ、その女の子も一年く
らいで会わなくなったけどね﹂
少年はふと階段のそばにあるボロボロのボールが目に入った。状
態から察するにかなりの年が経っているようだ。
少年﹁⋮⋮その女の子はどうなったか分かる?﹂
八尺様は微笑んで少年の頬に手を当てた。
八尺様﹁⋮⋮案外そばにいるかもしれないよ﹂
******
翌日、少年はリュックと共に自室のベッドで起きた。
少年は八尺様の膝上で話を聞いてから何も覚えていないのだが、
きっと眠ってしまった後家まで送ってくれたのだろう。
474
日が経ち、少年は盆のお参りを済ましたあと、ついに都会に帰る
日になった。
最後に山で会ってから、少年と八尺様は会っていない。きっと、
今行くよ﹂
荷物まとめ終わったか?﹂
あれを境に会うことを辞めたのだろうと少年は解釈した。
父﹁おーい祥太!
祥太﹁⋮⋮あ、うん!
少年は荷物をまとめたカバンを手にすると外に出た。
家の前では既に車が止まっていた。
少年はお婆さんに帰りの挨拶と礼をすると車に乗り込んだ。
父﹁じゃ、行くか。家では母さんも待ってるからな﹂
少年﹁うん﹂
動かないぞ?﹂
父は車のキーを回しエンジンをかける⋮⋮が。
父﹁⋮⋮あれ?
どうした?﹂
少年﹁⋮⋮あっ﹂
父﹁ん?
少年﹁ううん、なんでも無い。僕、少し車の様子見てくるよ﹂
475
少年は車から出ると、車の後方へ向かった。
少年﹁⋮⋮ごめん、最後に会いたかったんだけど時間がなくて﹂
八尺様﹁⋮⋮ううん、無理に止めてゴメンね。どうやら私は透明化
しても未成年には見えるみたい﹂ポポポ
八尺様は車を掴んでいた手を離した。
八尺様﹁⋮⋮行かないでとは言わない。でも、これ受け取ってほし
いな﹂
八尺様は少年の手を掴むと手のひらにポトリと布の袋を渡した。
少年﹁これは御守り?﹂
八尺様﹁⋮⋮うん、中に私の服の切れ端が入ってるの﹂
よく見ると微妙に八尺様の白いワンピースが少し破れている。
八尺様﹁私の服は霊力が蓄えられているの、怪我しないようにと私
を忘れないようにという思いを込めて﹂
少年﹁⋮⋮じゃあ僕も。こんな物しかあげられないけど﹂
少年はリュックからペンケースを出した。
八尺様﹁⋮⋮これ、もらっていいものなの?﹂
少年﹁うん、筆箱くらいすぐ買い直せる気にしないでよ。それに一
476
方的に貰ってちゃ悪いしね﹂
八尺様﹁⋮⋮うん、大事にする﹂
八尺様はペンケースを大事そうに胸に寄せた。
八尺様﹁⋮⋮最後にお願いしていいかな?﹂
少年﹁⋮⋮なに?﹂
八尺様﹁⋮⋮私を呼び捨てで呼んで﹂
少年﹁⋮⋮﹂
期待の目を向ける八尺様に少年は照れ臭そうに呟いた。
少年﹁ハッシャク、また会おうね﹂
ハッシャク﹁⋮⋮うん、またね祥太くん﹂ポポポ⋮⋮
祥太﹁⋮⋮絶対忘れないよ﹂
祥太は車に戻るとすぐに出発して行った。
ハッシャクは遠くなる車からひたすら手を振り続けた。
お婆さん﹁⋮⋮変わらないんだね、あんた﹂
ハッシャク﹁⋮⋮妖怪みたいなものだからね﹂
477
お婆さん﹁⋮⋮わたしの孫はどうだった?﹂
ハッシャク﹁⋮⋮チサとは正反対﹂
お婆さんは首から下げた御守りを揺らしながら笑った。
ハッシャクの部屋
******
門星学園
ハッシャク﹁⋮⋮ありがとう、本、まとめてくれて﹂ポポポ⋮⋮
少し分けて欲しいんだけど﹂
ローパー﹁構わないさ。⋮⋮そういや文化祭の招待券余ってないか
?
ハッシャク﹁⋮⋮一枚だけならいいよ﹂
ハッシャクは財布から招待券を抜くと、ローパーに差し出した。
ローパー﹁ありがとな。それにしても、あんた一人誰を呼ぶんだ?﹂
ハッシャク﹁⋮⋮高校生の男の子。優しくて、大人しくて⋮⋮可愛
い子なんだ﹂ポポポ⋮⋮
ハッシャクは帽子を抱きしめて、笑顔を見せた。
478
番外 門星ビフォア ハッシャク編 ︵後書き︶
番外編終わりです。次回からは普通に戻りますー。
479
45話 ﹁グールはゾンビではありません﹂
オオカミ﹁よお俺くん、時間だ﹂
俺﹁ん、わかった。じゃあオオカミ、妹、後は任せた﹂
オオカミ﹁おう、任された﹂
妹﹁じゃあねー、お兄ちゃん﹂
説明してなかったのか?﹂
目の前で連れてきた本人がいなくなり、戸惑う3人。
オオカミ﹁⋮⋮?
妹﹁⋮⋮あー、忘れてたね﹂
オオカミはそれを聞き、やれやれという仕草を見せた。
妹﹁えっと、実はお兄ちゃん学園祭の準備が盆と正月だから、私と
このオオカミさんが案内することになってたの﹂
オオカミ﹁よろしく頼む﹂
訳を理解し、エリとヤマはぽんと手を叩いて納得した。
ヤマ﹁ミヅ⋮⋮俺くんは学園祭何するんすか?﹂
オオカミ﹁あー⋮⋮悪いな、言えない決まりなんだ﹂
480
ヤマ﹁分かったっす!
メガネ同士仲良くしようぜ!﹂
オオカミ﹁⋮⋮俺くんの妹よ。大半は任せていいか?﹂
オオカミの泣き言に妹は苦笑いを浮かべた。
******
移動中、エリはオオカミにこっそりと話しかけた。
ああ、俺は狼男だぞ?﹂
エリ﹁⋮⋮あの貴方も人間ではないんですよね?﹂
オオカミ﹁ん?
フカザワ﹁フェエッ!?﹂
言葉にならない悲鳴を上げたフカザワにオオカミもビクッと驚い
た。
エリ﹁おー、本当ですね。耳と尻尾が生えてます﹂
オオカミ﹁油断するとこうなるんだ⋮⋮今戻す﹂
ヒョコっと生えた耳と尻尾を戻すと、エリは﹁あぁ∼﹂と惜しむ
声を上げた。
オオカミ﹁⋮⋮そこの挙動不審な女はなんなんだ?﹂
フカザワに聞こえない大きさで聞いたが、答えたのはヤマだった。
481
ヤマ﹁あー。実は彼女、家が悪魔払いらしくてモンスターとかが怖
いらしいです﹂
オオカミ﹁⋮⋮なんでここに来たんだ?﹂
ヤマ﹁⋮⋮さぁ?﹂
そんな会話をされてるとは思っていないフカザワは気を紛らすた
め小声で賛美歌をループして歌っていた。
ホテル
******
城下町
オオカミ﹁着いたぞ。とりあえず人型種族はここで一晩過ごしても
らうことになる。ちなみに宿泊費は学園負担だから気にしなくても
構わない﹂
ヤマ﹁ひょえー、デケー﹂
エリ﹁学園とどっちが大きいんですか?﹂
オオカミ﹁それは⋮⋮余裕で学園だろうな﹂
門星学園はこの世界で一番大きい場所である。
ああ、心配ないと思うぞ?
ここは人外とはいえ
フカザワ﹁あ、あの⋮⋮私、大丈夫ですかぁ?﹂
オオカミ﹁ん?
482
人型しか異形みたいなのはいないからな。それに今日に限っては従
業員は門星学園の生徒ばかりだから慣れやすいと思うぞ?﹂
ヤマ﹁だってさ、よかったな﹂
フカザワ﹁う、うるさいなぁ⋮⋮﹂
二人の光景をみたエリはなんだかんだ言いながらも仲がいいんだ
と年下ながらも微笑ましく思った。
フロント
******
ホテル
ヤマ﹁すいませーん﹂
?﹁はーい⋮⋮っ!?﹂
どうしたんすか?﹂
受付の一見普通の人間に見える男性はヤマの姿を見るや否や顔を
俯けた。
ヤマ﹁⋮⋮?
?﹁い、いえ何でもないです。失礼しました、あ、あはは﹂
ヤマ﹁?⋮⋮。あの、部屋が分からないので案内お願いできますか
?﹂
男性はヤマの後ろを見ると口を押さえながら人数を確認する。
483
?﹁え、えっと、生徒1人、外来客が3名ですね!
すぐご案内します﹂
そういうと男性はフロントの奥に行った。
畏まりました、
ヤマは二人と不思議そうに顔を見合わせると、代わりに別の女性
が現れた。
⋮⋮あ、いや。はい、3名
エルフ﹁やれやれ先輩、ここ合わないのになんで選んだのかな⋮⋮﹂
これは運命かな!?
妹﹁あ、エルフさん﹂
エルフ﹁おー!
ですね。ご案内します﹂
エルフは顔をとろんとさせる前に3人に気がつくと、営業の顔に
切り替えた。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
?﹁フィー危ない危ない⋮⋮﹂
問題ないのか﹂
自制効いてますし!﹂
ダンピール﹁様子見にきたが⋮⋮お前、ここ担当で大丈夫なのか?﹂
?﹁せ、先生⋮⋮だ、大丈夫です!
ダンピール﹁でもお前、グールだろ。人喰鬼だぞ?
ダンピールの言葉にグールは息を詰まらせたが、顔を横に振り気
484
を切り替えた。
グール﹁が、学園でも俺くんに慣れてますし。大丈夫ですよ!
れに⋮⋮﹂
ダンピール﹁それに?﹂
そ
それ。そもそもお
グール﹁この作品は日常系なんですから、残虐な描写は絶対あり得
ません!﹂
ダンピール﹁⋮⋮フラグにしか聞こえないぞ?
前俺くんに関わりあったことあったか?﹂
広いな!
フカザワと同室か!﹂
再びグールは、ううううと言葉に詰まらせ、結局受付に立つこと
を諦めた。
部屋
******
ホテル
ヤマ﹁おーすげぇ!
エルフ﹁あ、いえ、個室です﹂
ヤマ﹁⋮⋮﹂
ヤマの反応を見て、エルフはフカザワに同室にしようかと尋ねた
が即答で拒否した。
エルフ﹁じゃ、日本ちゃんは学園帰るんだよね。頑張ってね﹂
485
妹﹁うん、ありがとう。⋮⋮ということだからエリちゃんゴメンね﹂
エリ﹁ううん、いいよ。頑張ってね﹂
妹はエリの声援を聞くと、笑顔で手を振ってからホテルを出て行
った。
ヤマ﹁それにしても、フカザワ。エルフさんには拒絶反応なかった
な﹂
フカザワ﹁うん、エルフは悪魔やモンスターじゃなくて亜人だもん。
そういうヤマだってエルフさんに反応薄かったじゃん﹂
ヤマ﹁それは⋮⋮抑えられなかったときの俺が怖かったから﹂
フカザワ﹁あ、テンションは上がってたんだ﹂
ヤマはフカザワの言葉に﹁ファンタジーのスペシャリストだろ﹂
と力説したが相手にされなかったため、諦めた。
ヤマ﹁しかし、あれだな。この街自体は馬とか走ってるしドイツと
かの中世っぽいのに、このホテルに関しては日本のレジャーホテル
みたいだよな﹂
フカザワ﹁うん、それ思った。エレベーターまであるし﹂
エリ﹁でもここに来るまでにも、自動販売機とか電子掲示板もあり
ましたよ?﹂
486
ヤマ﹁えっ!?
マジか﹂
エリの言葉にヤマは驚くと、一瞬間を開けて吹き出した。
ヤマ﹁ははっ今更だな。だってこの部屋だってテレビあるし﹂
フカザワ﹁そう言えばそうだね。元々慣れてたからあまり気にして
なかったよ﹂
エリ﹁何やってるんですかね⋮⋮ヤマさん、つけていいですか?﹂
エリはヤマに許可を取るとリモコンのボタンを押した。
すると、ちょうど昼のエンタメニュース番組が流れていた。
キャスター﹃⋮⋮では門星学園の学園祭です。門星学園の学園祭と
いえば世界的にもっとも大いなるイベントですね﹄
MC﹃ですねー、では現場の様子を確認しましょう。現場のタカハ
シさーん?﹄
アナウンサー﹃はい、タカハシです。前日ということもあり、学園
あのすいま
の前は人でいっぱいです。生徒たちよ楽しそうな表情の中に力を感
私かっ?﹄
じますね。では早速インタビューして行きましょう!
せん﹄
タウロ﹃な、な、なんだ?
選ばれたタウロさんはかなり動揺で顔を堅くしていた。
ちなみに、タウロさんを見た三人の反応はこんな感じだった。
487
ヤマ﹁あっ、ケンタウロスだ﹂
フカザワ﹁う、馬っ?﹂
エリ﹁おー、カッコいいです﹂
アナウンサー﹃はい。ではあの、あなたはどちらを担当されるので
すか?﹄
それは面白そうですね。
ところで、
タウロ﹃あ、ああ。私はクラス展示を行う。少し凝った喫茶店にす
るつもりだ﹄
アナウンサー﹃なるほどー!
今回の学園祭、見どころはどこでしょうか?﹄
あー⋮⋮い、一概には言えないが⋮
kemkemoのネーネ
そ、そう言えばスクールアイドルがデビューライブを行
タウロ﹃み、見どころっ!?
⋮あっ!
うとのことだったな﹄
MC﹃ほー、スクールアイドルですか。
というか私、既に門星のアイドル知ってます。
さんも現役のアイドルですが興味がありますか?﹄
ネーネ﹃ですね!
ETOですよね、私、公式サイトで見たのですけどみんな可愛かっ
たです!﹄
******
番組が終わりヤマはテレビを消すと、背伸びして話した。
488
すごい耳かわいいです!﹂
ヤマ﹁へー、アイドルとかもいるんだ﹂
エリ﹁可愛いですね!
フカザワも少し慣れたのか?﹂
フカザワ﹁う⋮⋮うん、これは可愛いかも⋮⋮﹂
ヤマ﹁ん?
ヤマの言葉にフカザワは顔を伏せて呟いた。
フカザワ﹁⋮⋮でも、まだ少しだけど﹂
ヤマ﹁ふぅん⋮⋮っていうか、フカザワとエリちゃんはいつまで俺
の部屋にいるつもりなんだ?﹂
フカザワはヤマに問われると、息を詰まらせながらも聞き返した。
フカザワ﹁だ、だめ?﹂
どっちにしろお前怖がってるなら部屋
エリ﹁私は一人で行くのは少し心細いですから﹂
ヤマ﹁⋮⋮どうするんだ?
一人になれないだろ﹂
フカザワ﹁で、でもぉ⋮⋮﹂
フカザワはエリを見つめるが、本人は首を傾げるだけだった。
結局、三人はホテルに線引きだけして同室にすることになった。
489
45話 ﹁グールはゾンビではありません﹂︵後書き︶
グール:
爪が鋭く牙を備えており、人間の体を食べると言われているアンデ
ッドの一種。ゾンビというよりかは精霊に近いものである。稀に人
間と結婚するものもいる。
490
46話 ﹁ドールガールは文献がありません﹂
カフェテリア
一方門星学園でも、ちょっとした事件が起こっていた。
門星学園
俺﹁⋮⋮疲れるな﹂
鉄鼠﹁俺くんセンパイ﹂
ふと横を見るとちんまりとした女子生徒がいつものようにトライ
アングルのバチのような鉄線をポリポリと齧っていた。
人の姿をしているということは、アイドルの練習の休憩なんだろ
う。
みんな上手で驚いてます﹂
俺﹁鉄鼠か。ダンスとか歌は大丈夫か?﹂
鉄鼠﹁はい!
俺﹁そか。なら良かった。あとでリハだけ確認するから﹂
そういうと鉄鼠はポケットから飴の包み紙のようなものを取り出
した。
俺﹁⋮⋮なにそれ、飴?﹂
鉄鼠﹁いいえ、鉛玉です。一つ食べます?﹂
491
俺﹁⋮⋮やめておくよ。俺には中国の超人みたいなパフォーマンス
は出来ないし﹂
鉄鼠﹁⋮⋮よくわかんないですけど、分かりました﹂
しかし、凄いな。
鉄を食べる妖怪とはいえ、ゴリゴリゴリィッと激しい音が咀嚼音
として出る女子生徒は始めて見るぞ⋮⋮。
鉄鼠﹁⋮⋮ぉあ、おえくんしぇんふぁい﹂
俺﹁聞き取れないぞ﹂
すると、鉄鼠は﹁んーっ﹂と少しむくれたと思ったら飴玉サイズ
の鉛玉を飲み込んだ。
うわ、本当にTVで見たやつみたいだ。
鉄鼠﹁ほらTV見てください。あれうちの学園ですよ﹂
俺﹁あ、ほんとだ。やっぱ大きく出るんだなぁ﹂
鉄鼠﹁そうですね⋮⋮あ、今インタビュー受けてるのって俺くん先
輩のお友達ですよね﹂
俺﹁⋮⋮タウロさん、なにしてんだか﹂
私たちのこと宣伝してくれましたよ!﹂
あーあ、硬くなってるよ。耳もヒョコヒョコと忙しなく動いてる
し。
鉄鼠﹁あ、見てください!
492
俺﹁うおっ、本当だ。っていうかスタジオにマジもん居るのに大丈
夫なのか?﹂
ちょ、アル
け、けけけkemkemoが私たち
な、なに気を失いかけてんだ!
鉄鼠﹁ヒャアアアアッ!!?
をぉぉっ!?﹂
俺﹁落ち着けっ!?
練習室
ラウネさぁん来てくださぁい!!﹂
アイドル研究会
******
門星学園
鉄鼠﹁⋮⋮面目ないです﹂
オークさんは知ら
俺﹁いやいや、でも本物のアイドルにオススメされるとはね⋮⋮。
他の皆はどこにいるの?﹂
鉄鼠﹁多分クラスの仕事の方じゃないですか?
ないですけど﹂
ふむ、ほとんどはあのオークに任せてたところもあるからなぁ。
色々相談もしたかったんだけど、仕方ないか。
俺﹁少し落ち着いたら、俺たちも仕事に戻ろうか﹂
鉄鼠﹁はい、そうですね﹂
しかし、こんな本格的な練習室が学園にあるとはなぁ⋮⋮。
493
少し汗の芳しい匂いもするし⋮⋮って何考えてんだ。
﹃人間、生徒会室
俺くんや、至急生徒会室まで来るのじゃ﹄
すると、突然呼び出しの放送が入った。
ピンポンパンポン
九尾﹃準備中すまんの。
ピンポンパンポン
俺﹁⋮⋮呼び出しくらい俺くんって呼ぶなよ﹂
鉄鼠﹁いや、それだと誰だか分かりませんよ!
まで﹄とか誰っ?ってなりますよ﹂
俺﹁なんかそれ、もう学級名簿も﹃俺くん﹄に変わりそうな勢いだ
な⋮⋮﹂
生徒会室
******
門星学園
妹﹁お兄ちゃん、やほー﹂
俺﹁お前、生徒会室で仕事してたのか。珍しいな﹂
九尾﹁おー、待っておったぞ。ほれ、客人じゃ﹂
とりあえず生徒会室には簡易な応接間みたいなスペースがあるの
でそこに行く、会長も止めないしそこで待ってるのだろう。
494
俺﹁⋮⋮お待たせしました。俺に何かご用ですか?﹂
目の前にいたのは三人のワービーストの女性だった。そのうち犬
耳の一人はスーツを決めているが、他のウサギと猫の二人はオシャ
レしてきたといった程度だろうか。
しかし、この2人何処かで見たような気がするな⋮⋮。
?﹁申し遅れました。わたくし、ゲトスター事務所のシナガワとい
うものです﹂
俺﹁はぁ⋮⋮シナガワさん﹂
とりあえず名刺を受け取る。こちらも名刺を渡すべきなのだろう
けど、学生という立場故に持ち合わせは電子生徒手帳一台だ。
俺﹁あ、俺は⋮⋮いや、その。すいません、門星学園生徒という立
場名乗ることはできないです﹂
そう言うと、シナガワさんはふふと声を漏らした。
シナガワ﹁承知の上です。ところで、こちらの2人はご存知ですか
?﹂
俺﹁⋮⋮いや、何度か見た覚えはあるんですけど﹂
何か気に障ることをいっただろうか?
?﹁﹁ガーン⋮⋮﹂﹂
え?
どちらもすごく可愛いし、綺麗な人だという印象はある。体つき
495
も大人なものだし、まるでアイドルみたいな⋮⋮。
あっ。
俺﹁もももももしかしてkemkemoですかぁっ!?
ゲトスター事務所ってあの!?﹂
シナガワ﹁はい、芸能事務所です﹂
な、なら
後ろではイェイと2人がハイタッチしている。そうか、人気アイ
ドルなのに知らないとか言われるとショックに決まっているか。
俺﹁申し訳ないです。知らないなんて失礼なことを﹂
ラーラ︵ウサギ︶﹁いやいやー分かってもらえたらそれだけでも嬉
しいよ﹂
ネーネ︵ネコ︶﹁うん。でも他のメンバーは仕事で来れなくて⋮⋮
ごめんね﹂
kemkemo⋮⋮
読みは﹃けむけも﹄
ワービーストの女性だけで組まれたトップアイドルユニット。
デビューしてからまだ1年というのにシングルCDを出すたびに
オリコン一位を毎回獲得。先月出た1stアルバムも初回盤も含め
ダブルミリオンを達成。
音楽番組だけでなくバラエティにも積極的に出演。ツアーコンサ
ートは1万人を総動員させた
496
メンバーはリーダーで元気担当の猫のネーネ、色気担当のウサギ
のラーラ、天然担当の羊のメーメ、クール担当のヒョウのレーレの
四人である。
以上オークからの情報より。
⋮⋮しかし、なぜこの学園に?
尋ねようとすると、その前に答えが来た。
も、もしかして問題がありましたでしょうか⋮⋮﹂
シナガワ﹁今回来校させてもらいましたのは、他でも無いETOの
件です﹂
俺﹁えっ?
シナガワ﹁いえ、その逆です。ゲトスター事務所はそのETOを支
援させてもらおうと思っています﹂
俺﹁⋮⋮は?﹂
意味がわからない。
なんで芸能事務所がスクールアイドルを支援するんだ?
ETOはあくまでスクールアイドル
たかが部活動に芸能事務所がつく理由ってなんですか?﹂
俺﹁あの、どうしてですか?
ですよ?
言い方は悪いが、ストレートに聞いた方が早い。
シナガワ﹁⋮⋮たかが部活動、されど部活動です。ここ、門星学園
497
はこの世界を司る存在といっても過言ではありません﹂
俺﹁つまり、ETOはスクールアイドルである以前に世界的アイド
ルの一つだと?﹂
シナガワ﹁ええ、超新星です。kemkemoが抜かされるのも時
間の問題⋮⋮それどころかエンジェルスやエレメンタルズなど他の
アイドルを抜いてトップになるのも早いでしょう﹂
⋮⋮そんな大きなことをしていたのか。
シナガワ﹁わたくしはその成長を早めたい。kemkemoをライ
ブに出せばすぐに育ちます。どうでしょう?﹂
俺﹁⋮⋮それでトップになったときあなた方はどうなるのですか?﹂
シナガワ﹁⋮⋮その時はまた地方巡業から始めます。なにより学園
には逆らえませんから﹂
⋮⋮なんだよ。それ。
俺もマネージャーをしてよく分かる。アイドルを一つ作るのは大
変なんだ。
しかも、それを育てて有名にして、ライブして、CD出して⋮⋮
どれだけの確率だよ。
この2人だって顔は笑ってるけど、俺たち以上の努力をしてきた
に決まってる。諦めきれないはずだ。
俺﹁⋮⋮お断りします﹂
498
俺は小さく⋮⋮しかし、はっきりと答えを告げた。
シナガワ﹁⋮⋮なぜゆえ?﹂
俺﹁kemkemoが出てしまえば、それはETOよりもkemk
emoを目当てで来る人が増えます。むしろ浮くかもしれません﹂
シナガワ﹁⋮⋮い、いえ、それは﹂
俺﹁それにっ!﹂
俺は興奮しかけた頭を抑えることで落ち着かせた。
俺﹁⋮⋮それに、学園が世界の中心だからという力でアイドルを育
てたくありません﹂
シナガワ﹁⋮⋮どうするのですか?﹂
⋮⋮すまないな、みんな。
俺﹁⋮⋮ETOは門星学園のアイドルであって、世界的アイドルを
目指すつもりはありません。もし学園からはみ出るほどの活動にな
った際にはアイドルを解散させます﹂
******
その頃
499
ホテル
部屋
ヤマ﹁⋮⋮﹂
エリ﹁⋮⋮ヒマ⋮⋮ですね﹂
フカザワ﹁⋮⋮うん﹂
とは言っても娯楽がないわけでは無い。ただ少し、異世界らしい
刺激がないということだ。
ヤマ﹁もしフカザワが他種族恐怖症じゃなければなぁ⋮⋮﹂
ジュース買ってきますね!﹂
フカザワ﹁う⋮⋮悪かったわね⋮⋮﹂
エリ﹁まあまあお二方、そうだ!
それに一人で大丈夫?
小学
空気を読んだのか、エリは自ら行動に移した。確かにこのホテル
では日本円が使える⋮⋮が。
ヤマ﹁俺たちの分のお金はいいの?
お金は流石にお母さんに怒られますのでレシートで
二年生でしょ?﹂
エリ﹁はい!
集金させてもらうかたちにはなりますけど⋮⋮﹂
ヤマ﹁そっか、なら適当に冷たいもの頼めるかな﹂
エリ﹁わかりました!﹂
500
廊下
******
ホテル
エリ︵とはいえ広いです⋮⋮すれ違う人みんな人間じゃないし⋮⋮︶
エリはうろ覚えの地図を頭に浮かべながら自販機を探すが、なか
なか見つからない。
エリ﹁⋮⋮ふう、広すぎて大変です⋮⋮﹂
とはいえエリの家はかなりの富豪のため充分に大きい。だから、
体力的には問題がないのである。
ようは場所の違いだ。
エリ﹁⋮⋮うう⋮⋮おかぁさぁん﹂
?﹁迷子﹂
エリ﹁グスッ⋮⋮え?﹂
エリが振り向くと、そこには人間味のないほど白い肌をした女性
がいた。
エリ﹁あ、あの自動販売機って⋮⋮﹂
?﹁ならすぐそこ、案内する﹂
女性は抑揚のない返事をすると反対を向いて歩きだした。
501
すると、エリはあることに気がついた。
エリ﹁⋮⋮あれ。あの、すいません﹂
?﹁なに﹂
エリ﹁⋮⋮靴反対じゃないですか?﹂
?﹁⋮⋮本当。少し違和感あった、恥ずかしい﹂
指摘を受けた女性はしゃがむと靴を脱いだーー足首ごと。
エリ﹁ヒヤァッ!?﹂
?﹁⋮⋮あ、すいません。わたしドールガールなんで﹂
エリ﹁ド、ドール⋮⋮?﹂
ドール﹁はい、直った﹂
キュポッと気持ちのいい音がなり足の入れ替えが終わる。
ドール﹁入学当時は腕が外れた。だから少し強化した﹂
エリ﹁は、はぁ⋮⋮﹂
そして少し歩くと、自販機が見つかった。
早速お金を入れると自販機が光った。タッチパネル式の都会型ら
しい。
502
ドール﹁高いところ届かないなら、代わりに押してあげる﹂
エリ﹁あ、ありがとうございます。ではあの、オレンジジュースを
⋮⋮﹂
ドール﹁⋮⋮これか﹂
トン。
⋮⋮トン。
トントントントントントントントントントントントントントント
ントントントントントントントントン。
ドール﹁⋮⋮無理、わたし人形だからタッチパネルに反応されない﹂
エリ︵今度からボタン型にしてあげてください︶
ドール﹁それじゃ、抱き上げるけどいい﹂
エリ﹁はい、構いません﹂
エリの返事に頷くと、ドールガールはエリの脇の下に手を差し込
んだ。
ドール﹁じゃあ持ち上げる﹂
⋮⋮スポン。
ドール﹁⋮⋮﹂
503
エリ﹁うで、抜けちゃいましたね﹂
ドール﹁とりあえず嵌めてくれる。一人じゃできない﹂
エリ﹁あ、はい﹂
バシッ
エリ﹁ヒヤァッ!!?﹂
ドール﹁腕の方はくすぐったい。手の方を近くに持って﹂
エリ﹁あ、す、すいません﹂
ドール﹁ううん、怒ってない﹂
そして、腕が嵌め終わり、ドールガールは腕を握ったり開いたり
して確認した。
ドール﹁⋮⋮最終手段。四つん這いになるから背中に乗って﹂
エリ﹁あ、その、大丈夫なんですか?﹂
ドール﹁お客様のためにスタッフは全力を尽くします﹂
エリ﹁あ、はい﹂
恐る恐るエリは背中に足を乗せる。土足は悪いのでもちろん脱い
でる⋮⋮が。
504
⋮⋮バゴン!
エリ﹁あ﹂
ドール﹁⋮⋮﹂
エリ﹁腰が砕けてしまいましたね﹂
ドールの身体は子どもとはいえ重さに負けてしまい、半分にへし
折られる形になってしまった。
ドール﹁⋮⋮もういいや、あきらめよ﹂
エリ﹁いや、腰砕けないでください﹂
カフェテリア
******
門星学園
俺﹁⋮⋮﹂
アルラウネ﹁⋮⋮ドリアードちゃん、俺くんにパフェサービスして
あげて﹂
ドリアード﹁⋮⋮こくり﹂
お昼時、準備の休憩がてら食事をする生徒で多くなる中、一人彼
はテーブルに突っ伏していた。
505
ラミア﹁タウロさん硬かったね﹂
タウロ﹁う、うるさい﹂
2人がいつもの席に着くや否や⋮⋮。
お腹が空いて動けなくなったのか?﹂
ラミア﹁⋮⋮俺くん⋮⋮だよね?﹂
タウロ﹁⋮⋮どうしたんだ?
ドリアード﹁⋮⋮﹂コトン
ラミア﹁ほら、ドリアードさん心配してパフェ持ってきたよ?﹂
呼びかけに反応しないので、無理やり顔を上げさせることにする。
ラミア﹁ほら顔を上げてっ⋮⋮!﹂
俺﹁ニャーヤーッ!!﹂
奇声を発したので周りの生徒は全員振り返ったが、手を離すとす
ぐに鳴きやんだ。
ラミア﹁⋮⋮うう、ガーゴイルみたいに動かないよう﹂
タウロ﹁仕方ない⋮⋮ラミア、今回ばかりは遣り尽くして構わない﹂
ラミア﹁マジで!?﹂
俺﹁やめてぇっ!?﹂
506
思わず顔を上げたので、周りからもクスクスと笑い声が上がった。
ラミア﹁⋮⋮惜しいなぁ﹂
俺﹁なにがだよ﹂
タウロ﹁さて、俺くんよ。悩みがあるなら言うがいい﹂
ラミア﹁何があったの?﹂
こ
詰め寄ってくる2人に戸惑いが隠せなくなり、両手を上げて降参
した。
俺﹁⋮⋮実はさ、さっきkemkemoが来てーー﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
ラミア﹁そ、それは思い切ったことしたね﹂
こ
俺﹁どうせスクールアイドルとは言ってもこの世界で学校は門星学
園だけだし、問題ないと思うんだけど⋮⋮﹂
タウロ﹁人気になって、社会現象を起こすレベルまで達されると困
るということか⋮⋮なんとも不思議な悩みだな﹂
確かに、変な悩みだ。有名になると困るなんて、どんなアイドル
だよと突っ込みたくなる。
507
ラミア﹁ETOとかドル研には?﹂
それより解散って
俺﹁ううん、言ってない。言い出せるわけないよ、俺の独断で決め
たことなのに﹂
?﹁今聞きました!﹂
後ろからドッと強い衝撃を受ける。
⋮⋮アルミラージか﹂
衝撃でテーブルに頭を強打した。痛い。
俺﹁いったーっ!?
アルミラージ﹁ウサギだから耳はいいんです。
本当なの?﹂
俺﹁⋮⋮まあ、隠すつもりだったんだけど﹂
アルミラージ﹁⋮⋮ばかですか?﹂
年下の子どもに言われるのは腹立つけど正論だよな⋮⋮。
アルミラージ﹁でも、そうですね。ETOは門星学園のアイドルで
あっても、この世界のアイドルではありません。活動範囲は落ち着
かせないとですね﹂
むしろその方がいいですよ。わたしはア
俺﹁ごめんね⋮⋮プロデューサーなのにプロデュースと逆のことし
ちゃってるし⋮⋮﹂
アルミラージ﹁いえっ!
イドルを趣味でやりたいのであって、仕事では嫌ですから。そもそ
508
も業界に出ちゃったらスクールアイドルじゃないですよ﹂
⋮⋮前向きだな。
他の子もそう思ってくれるのかな⋮⋮?
509
46話 ﹁ドールガールは文献がありません﹂︵後書き︶
ワービースト:
DAYSタ
獣人を引っ括めた総称。条件はものによって様々だが、基本的に興
奮や満月によることが多い。また、獣人でも﹁DOG
イプ﹂と﹁しまじろうタイプ﹂に分かれる。
510
高等部βクラス
47話﹁カンヘルは優しい龍です﹂
門星学園
カンヘル﹁いいんじゃないですか?﹂
いいの?﹂
教室に戻り、カンヘルに尋ねたところあっさりと告げられた。
俺﹁え?
カンヘル﹁はい、別になくなるわけではないんですから。⋮⋮とい
うか、そういうことは普通鉄鼠ちゃんとか場を仕切ってる子に言う
べきでは?﹂
俺﹁⋮⋮まあでも、言い出しにくいし。同じクラスだしさ﹂
俺はそう告げると、自分なりに返ってきそうな答えを想像してみ
た。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮⋮ダメだ。みんな良い子すぎて否定されそうに無い気がする。
まあそれはそれで嬉しいんだけど、やっぱりアイドル活動はして
もらいたいしなぁ。
カンヘル﹁私からすれば、そこまで気にする問題じゃないと思いま
511
すよ?
解決策はいくらでもありますし﹂
俺﹁⋮⋮考えすぎなのかなぁ﹂
カンヘル﹁とりあえず今は学園祭のこと考えましょう。アイドルの
解散だなんて仮の話じゃないですか﹂
それもそうだ。
ありとしないかもしれない話を深刻そうにするよりも、目の前の
ことをこなすのが最優先だ。
カンヘル﹁それにアイドルのことばっか考えてると、他のことに集
中出来ませんよ。⋮⋮私と俺くんの他には誰がこのこと知ってます
?﹂
俺﹁えっと⋮⋮アルミラージと、あとはラミアさん、タウロさん、
生徒会とkemkemoの関係者かな﹂
カンヘル﹁なるほど⋮⋮アルミラージなら心配なさそうですね﹂
なんかアルミラージの印象が可哀想になってきた。
カンヘル﹁まあアイドルなんて有名になってから考えるものですよ。
私の世界のアイドルなんかも、突然出てきて突然消えたみたいなこ
とは良くありましたから﹂
俺﹁⋮⋮そういうもんかね﹂
俺がそう言うと、カンヘルがクスッと笑った。
512
カンヘル﹁そういうものですよ﹂
俺﹁そっかぁ﹂
⋮⋮一瞬の沈黙
カンヘル﹁そういえば、露店のメニューの確認してくれます?
ハ
ーピーちゃんにも頼んでるんですけど⋮⋮何食べても美味しい以外
のコメントがもらえないので﹂
俺﹁あー⋮⋮そうだな。うん、確認するよ﹂
調理実習室
******
門星学園
俺﹁そういや俺、ここ来たの初めてだな﹂
カンヘル﹁確かに、調理実習なかったですもんね﹂
結構本格的な調理器具が設置されているだけでなく、一般的なイ
メージの調理室の4倍くらいはありそうだ。
それに見たことのない道具もある。これは異世界の道具だろう。
俺﹁しかし、人多いな。やっぱ学園祭前だから?﹂
カンヘル﹁ですね。それにしてもシンクが全クラス分あるっていう
のは驚きですよね⋮⋮﹂
俺﹁確かに⋮⋮﹂
513
その一般的な学校の規模から逸脱した光景に圧倒されながら、自
分のクラスがいるシンクへ向かう。
鬼﹁あ、俺くん来たんだね﹂
スライム﹁ラッシャイ﹂
2人は既に幾つか試作していたらしく、エプロン姿でトレイにお
菓子を並べている。
もちろんスライムさんは裸エプロンという奴だ。ビニール加工で
防水仕様。
鬼﹁つまみ食い?﹂
俺﹁試食だよ﹂
鬼﹁物は言いよう﹂
俺﹁⋮⋮じゃあいらないよ﹂
ため息をつき、後頭部を掻く。
食べてよ、ねえ!?﹂
俺自身、料理を作るのに関しては好きだが別に食い意地が張って
いや、冗談だよ!
いるわけではない。
鬼﹁え!?
しかし、反応は予想外のものだった。
鬼が取り乱し、スライムが腕から伸ばした触手もどきで鬼にペチ
ペチとツッコミを入れている。カンヘルは支度をしてるため関わっ
514
ていない。
俺﹁そ、そんなに食べて欲しいのか?﹂
鬼﹁だって平行世界の人だもん﹂
俺﹁⋮⋮あーうん﹂
まあそのためにここに来たからな。
俺﹁そういえば前にスライムさんのプリン食べたなぁ。風邪だった
からよくわかんなかったのかもしれないけど﹂
スライム﹁⋮⋮タベル?﹂
そういうとスライムさんはスプーンでプリンを掬い、口に近づけ
て来た。
⋮⋮これってアーンってやつでは?
あ、アーン﹂
スライム﹁アーン﹂
俺﹁え?
スライム﹁⋮⋮アッ﹂
アッ⋮⋮?
いやでも、口に入って来たのは紛れもないプリンだった。
舌で簡単に潰すことも出来、カラメルソースの苦さとカスタードの
甘さのバランスで飲み物の如くスルッと食べられる。
515
ウエッブ!
な、なにこれ!﹂
後味もプニプニでグニュグニュで⋮⋮
俺﹁っ!?
カンヘル﹁俺くん、失礼ですよー﹂
俺﹁ち、ちがっ⋮⋮﹂
思わず口に入った異物をぺっとはきだす。
それは緑色の謎のグニグニした物質だった⋮⋮いや、これ見たこ
とある。
俺﹁⋮⋮ス、スライムさん⋮⋮もしかして、体が垂れたの?﹂
スライム﹁⋮⋮ベビーカステラ⋮⋮アーン﹂
俺﹁ちょ、話変えないで⋮⋮っていうか、スライムさんって強酸じ
ゃなかったっけ!?﹂
スライム﹁⋮⋮プリントチュウワ⋮⋮アンゼン﹂
プリンと中和⋮⋮!?
あのプリン何が入ってたんだっ!?
俺﹁⋮⋮と、とりあえずプリンは美味しかったよ。まるで店のもの
みたいだった。⋮⋮あと自分で食べるから﹂
スライム﹁⋮⋮チッ﹂
516
舌打ちの音は実際は﹁チュッ﹂が正しいらしいから舌打ちじゃな
いよね?
うん。︵自己完結︶
俺﹁じゃあベビーカステラもらうよ﹂
ベビーカステラか。確か地方によっては呼び方が異なっていて、
東京ケーキ、チンチン焼、松露焼き、福玉焼き、玉子焼き、ピンス
焼、コンチネンタルカステラなど他にも多くの呼び方があるんだっ
け。
まあこの世界では、翻訳してくれてるから呼び方の違いなんて些細
なことなんだろうけどね。
俺﹁んじゃ⋮⋮パクッ﹂
あ、おいしい。あとすごい、なんかすごい。
大粒のザラメが口にしたことのないほどフワフワの生地に纏わり
付いていて、かと言っても甘ったるいわけでもない程良い甘さ加減
⋮⋮屋台顔負けだ。
俺﹁⋮⋮卵って何のやつ使ってるの?﹂
流石にこれは普通の卵では無いだろう。
スライム﹁⋮⋮ワカンナイ⋮⋮デモマチデハ1パック、キンカ10
マイダッタ﹂
517
俺﹁金貨10枚っ!?﹂
改めて説明すると、この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類
である。
また、それらを日本円で表すならば銅貨1枚=10円、銀貨1枚
=100円、そして金貨1枚で1000円⋮⋮。
つまりこの卵1パック買うだけで1万円ということだ。流石に文
系も俺でも分かることだ。
俺︵烏骨鶏とかドラゴン肉はダメって言ってたくせに⋮⋮︶
スライム﹁⋮⋮ドウ?﹂
俺﹁めちゃんこ美味い。問題なく店に並べられるよ﹂
素直に感想を述べると、スライムさんは満足そうに微笑んだ⋮⋮
と思う。
続いては鬼の作ったお団子だ。
見た目はとても綺麗で、流石団子屋をしているだけはある。
種類もいくつか作ったらしく、みたらし、きな粉、あんこなど様
々だ。
俺﹁パクッ⋮⋮むむぅっ!ふまい!﹂
鬼﹁よかったぁ⋮⋮﹂
味もしっかりしているし、何よりも生地がすごくモチモチしてい
る。餅粉だけでは出せない弾力だ。
518
俺﹁すごいな。何か工夫していたりするのか?﹂
鬼﹁うん。片栗粉にゼラチンを砕いていれたりしてみたよ。あと表
面が香ばしくなるように砂糖水塗ってみたりと工夫も凝らしてみた﹂
俺﹁なるほど。だから表面がカリカリなのか﹂
つまりは団子に大学芋の如くべっこう飴のコーティングをしてい
るということだ。面白い工夫だと思う。
俺﹁でもこれ全部作るのか?﹂
机には種類が豊富な団子だらけだ。
流石に骨が折れる作業になるだろう。
鬼﹁大丈夫だよ。鬼の体力は並々じゃないんだから﹂
俺﹁そうか。でも、もしものことがあれば他を頼れよ﹂
鬼は少し照れながらも頷いた。
俺﹁最後にカンヘルのパンケーキか﹂
正直、パンケーキは誰が作っても味は変わらない気がする。
まあそんな予想も外れるんだろうな⋮⋮。
俺﹁パクッ⋮⋮﹂
カンヘル﹁どう?﹂
519
俺﹁⋮⋮カンヘルよ。⋮⋮これはない﹂
カンヘル﹁ええっ!?﹂
食べられないわけではない。
ただ出来れば食べたくないレベルの味である。
ミックスのダマがしっかりと残ってるし、中は生焼け⋮⋮。
出来上がりのものを見ても、せんべいの如く空気が抜けている。
かろうじて、生クリームとシロップで食べられる⋮⋮そんな味で
ある。
カンヘル﹁⋮⋮つまりはマズイと?﹂
⋮⋮そうなんですかね?﹂
俺﹁⋮⋮っていうか⋮⋮カンヘル、パンケーキ作るの少し適当だっ
ただろ﹂
カンヘル﹁えっ!?
鬼﹁そういえば、確かにミックス混ぜるのに5分とかかってなかっ
たなぁ﹂
疲れるの早すぎだろ。
俺﹁⋮⋮お前の家のパンケーキはそれでいいかもしれないけど、文
化祭に出す訳にはいかない、一回だけ俺が作ってみていいか?﹂
カンヘル﹁⋮⋮ご教授願います﹂
とりあえず粉の量と水の量、卵はフワフワにするために3つ使お
う。
520
卵は泡が経つくらいに泡立てたものを粉に投入、そしてダマが残
らないように潰しながら混ぜる。
火力はもちろん中火、バターから煙が上がり、じんわり溶けるぐ
らいになったところでおたま1掬い分のタネをフライパンに乗せる。
そして、表面にプツプツと気泡が出てきたところでひっくり返す。
あとは爪楊枝を刺しながら確認して完成⋮⋮。
俺﹁⋮⋮この粉めっちゃいいやつだろ。ふわふわで分厚いんだけど﹂
カンヘル﹁ま、まあいいものを頼みましたから﹂
まさにモーニングメニューのパンケーキ。10センチくらいはあ
りそうである。
俺﹁⋮⋮じゃ、じゃあ食べてみて﹂
実食
カンヘル﹁⋮⋮な、情けないです。お菓子作りが趣味だといいなが
ら上手いとは言ってない私とは対局的に、料理が得意で趣味の俺く
んには勝らないです⋮⋮﹂
鬼﹁あっ、おいしい﹂
スライム﹁⋮⋮キュウスイサレル﹂
俺﹁カ、カンヘル。そんな気に病むことはないだろ﹂
あとスライムさんの言葉の意味が分からない⋮⋮吸水?
フワフワということか。わかりにくいな。
521
俺﹁⋮⋮とりあえず丁寧に作ってみればいいさ。そうしたらなん
とかなる﹂
その日、カンヘルは2人に手伝われながらも一日中パンケーキを
作り続けたそうな。
522
生徒会室
48話 ﹁九尾は狐の長です﹂
門星学園
俺﹁疲れたぁ⋮⋮すいません。今日はまだ仕事あるので、ここで寝
ます⋮⋮﹂
九尾﹁そうか⋮⋮まあ、好きにするがいい﹂
会長からの許可が下りたので、礼を告げ、首をぐるりと回す。
雪女﹁肩ほぐしてやろうか?﹂
俺﹁いや、大丈夫﹂
そして床に敷かれている暮露暮露団⋮⋮のとなりにあるソファに
倒れこんだ。
暮露﹁⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮﹂
暮露﹁⋮⋮使ってもいいのよ?﹂
俺﹁やだ﹂
しかし、学園祭が始まってからも仕事はまだまだある。
523
例をあげればアイドルのライブの裏方、劇、生徒会相談受付など
だ。特に生徒会の方は他の世界軸のお客さんも来るわけだから既に
緊張している。
雪女﹁⋮⋮もうだいぶ暑くなったな﹂
俺﹁⋮⋮そうだな。やっぱ雪女だと苦境なのか?﹂
雪女﹁いやそんなことはないのだが⋮⋮もうすぐ長期休暇だからな﹂
俺﹁あー、そうか﹂
長期休暇⋮⋮俗に夏休みと言われるおよそ一ヶ月に渡る長い連休。
多分故郷に帰ることはあるだろうが、大体は学園寮で過ごすこと
になるだろう。
そういやタウロさんと買い物に行ったとき、海に行こうとか話し
たな。また誘わないと。
あとはそうだな⋮⋮せっかくの異世界なのに何も異世界らしいこ
としていないの哀しいものがあるし、観光に行くのもいいかもしれ
ない。
浮遊大陸とかウユニ塩湖みたいなところとか探せばあるだろう。
九尾﹁俺くんよ。休暇に思いふけるのもええが、今大事なことを忘
れてはならんぞ﹂
俺﹁はい﹂
心読まれてた。
仕方ないか⋮⋮初日学園祭の整理でもしてみよう。
524
まず最初にオープニングセレモニーとしてETOのデビューライ
ブが行われる。そして、ライブ終了後校舎の解放が行われるため混
雑を避けるために来客の誘導をする。その後、時間があれば遊びた
いけど無理なら露天で適当に買い生徒会室へ。食後は仕事の整理を
して平行世界の雰囲気に近いか調査⋮⋮学園広い分移動とかも含め
ると、これで一日潰れそうなんだが。
まあ7日もあるから、どれかは楽しめるだろう⋮⋮。
俺は今はほとんど使うことのなくなった携帯のリマインダーにス
ケジュールを打ち込むとそのままドッと眠りについた。
個室
******
夜
ホテル
ヤマ﹁結構美味しかったな!晩飯﹂
エリ﹁ですね。見た目に惑わされるのはあまり良くないです﹂
フカザワ﹁⋮⋮お腹すいた﹂
ビュッフェスタイルの食事から帰った3人はそれぞれ感想を述べ
ながらベッドに座った。
ヤマ﹁フカザワ。もしものためにカップ麺持って来たからそれやる
よ﹂
525
フカザワ﹁⋮⋮ヤマに祝福あれ﹂
フカザワはヤマからカップ麺を受け取るとお湯を沸かすため、備
え付けのキッチンに向かった。
エリ﹁おお。まだ学園の中継してますよ﹂
ヤマ﹁おーすげぇ。もう並んでる人とかいるんだな﹂
エリ﹁私たちも早めに行った方がいいのでしょうか﹂
ヤマ﹁いや。ミヅキ⋮⋮じゃなくて俺くん曰く学園広いから満員に
はそうならないらしい﹂
あれ、
ヤマは欠伸をすると、首を傾けながら携帯をいじる。電波が届く
が彼がしてるのはリマインダーの設定である。
早いですね﹂
ヤマ﹁とりあえず明日は7時起きな﹂
エリ﹁えっ?
ヤマ﹁まあな。スクールアイドルのETOっていただろ?
あいつがプロデュースしたアイドルらしくてな。8時からオープニ
ングライブするんだって﹂
フカザワ﹁単純に他種族の女の子を拝めたいだけじゃないの?﹂
そう言いながらカップ麺を片手にしたフカザワが戻ってきた。
ヤマ﹁まあそれもあるぞ﹂
526
エリ﹁⋮⋮否定はしないんですね﹂
ヤマ﹁むしろそれの方が理由としては優勢だ﹂
フカザワ﹁⋮⋮﹂
私はカエデちゃんのクラスも
ヤマの答えにより暫しの沈黙が訪れる。
静寂を破ったのはエリだった。
エリ﹁そ、そのあとはどうします?
見たいです﹂
フカザワ﹁うん、そうだよヤマ。エリちゃんの意見も聞かないと﹂
ヤマ﹁そうだな。じゃあ妹ちゃんのところにも行くか﹂
ヤマが追加でリマインダーを書いた様子を見てエリは内心ホッと
した。
******
外部
翌日、朝5:30
門星学園
俺﹁寒っ⋮⋮夏とはいえこの時間は冷えてるな⋮⋮﹂
早朝、俺は学園祭の最終準備に当たっていた。これは生徒全員の
仕事らしく殆どの生徒が眠たそうに目をこすっている。
527
タウロ﹁俺くんおはよう﹂
俺﹁うんおはよ⋮⋮タウロさんは眠たくないの?﹂
タウロ﹁武人たるもの朝夜関係ないからな。いつでも戦に行けるよ
うにはしているぞ﹂
えっへんと大きな胸を張るタウロさん。最近また一回り大きくな
ったように見える。
ラミアさんは⋮⋮と聞こうとしてやめる。変温動物の彼女はまだ
布団の中だろう。
タウロ﹁しかし、学園祭一つでここまで大袈裟に変わるとはな﹂
俺はタウロさんの後ろに見えるメインステージを見て納得する。
俺﹁あんなのは俺も初めて見た﹂
タウロ﹁だろうな﹂
俺﹁平行世界がテーマなんだけどな﹂
俺がボヤくとタウロさんも苦笑した。
タウロ﹁でもあの立派な舞台を最初に使うのはETOだろ。さて頑
張れ、俺くん﹂
俺﹁頑張るのは俺じゃなくて﹃皆﹄だよ﹂
528
それはETOというわけでなく、生徒全員という意味を込めて言
ったが、どうやらタウロさんには伝わってくれたようだ。
タウロ﹁そうだな⋮⋮﹃皆﹄だ﹂
異世界張りの不思議な朝焼けも既になくなり、青空が広がろうと
している。
門星学園の象徴でもある校門の前には多くの人が立ち並んでいる。
スタート
さて、開演だ。
529
メインステージ︵客席︶
49話﹁デュラハンは妖精です﹂
門星学園
俺﹁もうすぐだなぁ⋮⋮﹂
ラミア﹁そーだね。ワクワクするよ﹂
俺﹁その割には元気ないけど?﹂
ラミア﹁朝だからね⋮⋮昨日は疲れて⋮⋮ふわぁぁあ﹂
ラミアは俺にバレないように顔を隠しながら欠伸をすると、たは
はと笑いをこぼした。
俺くんが私を心配してくれてるーーーっ!!﹂
俺﹁あんま無茶するなよ﹂
ラミア﹁うおっ!?
俺﹁⋮⋮まあいいか今日ぐらいは﹂
その時、スパァンというクラッカーの音と同時に舞台から13人
鉄鼠﹃みなさーん!!
私はETOリーダーを務めさせていただい
門星学園学園祭にお集まりいただきありが
のアイドル、ETOが出てきた。
とうございまーす!!
てる鉄鼠です!!﹄
530
俺︵この挨拶変だな⋮⋮。俺の場合は人間です!!という挨拶にな
俺くん?﹂
るわけだ。今後はニックネームやらをつけた方がいいかも⋮⋮︶
ラミア﹁俺くん?
俺は突然のラミアの声に我に変えると、大きな音楽の中でラミア
と話をした。
俺﹁あ、ごめんね﹂
ラミア﹁ううん。思ったんだけどさ。俺くんは行かなくてもいいの
?﹂
俺﹁え?﹂
ラミア﹁いや、だってプロデューサーなんでしょ?﹂
考えてみれば分かるものだが、何故か俺はラミアの言葉の意味を
理解するのに時間を要した。
俺﹁つっても俺はスカウトしただけで何もしてないからなぁ。それ
に俺は袖よりも客席で見たかったし﹂
俺はステージ上で手を振ってきたアルミラージにバレないように
振り返しながら話した。
ラミア﹁そういうものかな﹂
俺﹁そういうもんだよ﹂
531
話に一区切りつけると、そのタイミングでアルミラージの声が響
いた。
私たちの最初の曲﹃GAT
ちなみに、声はマイクとかではなく魔法にて拡声しているらしい。
アルミラージ﹃では聞いてください!
ESTAR﹄!!﹄
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
公演が終わると客席では大喝采が起こっていた。
今頃舞台袖ではお互いの健闘を讃えあっているところだろう。
俺はアイドルのメンバーにお疲れと言うべく菓子折りを持って舞
台裏に向かった。
俺﹁やぁ、おつかれさまー⋮⋮ってええっ!?﹂
鉄鼠﹁ひっくひっく⋮⋮﹂
アルミラージ﹁ぐす⋮⋮せんぱぁい⋮⋮﹂
まさかETOの2トップが泣いているとは思わなかった俺は、と
りあえず周りのメンバーに訳を聞いた。
俺﹁えっとどうしたの?﹂
メリュジーヌ﹁普通に達成したことに喜んでるだけネ﹂
532
人虎﹁別にこれで解散するわけではないんだけど。2人とも感極ま
りすぎだよ﹂
俺﹁⋮⋮なるほど﹂
俺は事情を理解すると、アルミラージと鉄鼠を励ました。
俺﹁おつかれさま。とりあえず今日は楽しもうよ。だから涙は無し
!﹂
アルミラージ﹁⋮⋮ぐす﹂
鉄鼠﹁⋮⋮ふあい﹂
俺﹁そんなことよりもこれ持ってきたんだ。俺の世界のお菓子なん
だけどさ、結構評判良いんだよ﹂
俺は銘菓店で買った少々値の張る菓子箱を出すと、2人に差し出
した。
俺﹁⋮⋮学園祭はこれからなんだからさ!﹂
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁お菓子喜んでもらえてよかったな﹂
俺は独り言を呟くと急いで誘導の立ち位置へ向かう。
タウロ﹁俺くんこっちだ﹂
533
俺﹁あ、うん。ごめんねタウロさん﹂
タウロ﹁いや、それよりもオープニングセレモニー良かったぞ﹂
俺﹁いや、あれは僕じゃなくてアイドルのみんなだから⋮⋮﹂
俺は偶然にも立ち位置が隣り合わせになったタウロさんと話しな
がら開放を待つ。
俺﹁それにしても⋮⋮﹂
俺は呟きながら周りを見渡す。
俺﹁⋮⋮体の大きな種族は目立つなぁ。グリフォンとかケルベロス
はもちろんドラゴン系がこれだけ並ぶと圧倒だよ﹂
安全面の部分では﹂
タウロ﹁そうだな⋮⋮。まあ多少圧迫感があった方がいいんじゃな
いか?
確かに言う通りだと思う。もし凶悪な種族が入っていたらそうし
た方がいいかもしれない。
俺︵でも、フカザワ⋮⋮大丈夫かな︶
ふとそう思うが、瞬間的に開幕の鐘がなり校舎が開放された。
*****
オオカミ﹁押さないでくださーい﹂
534
ヴァンプ﹁急いでいても走ったりすることは止めて、前の参加者の
歩行のペースに合わせてくださーい⋮⋮それにしても毎年こんなな
のか⋮⋮?﹂
オオカミ﹁⋮⋮確かにな⋮⋮でもホテルが足りないという話は無か
ったし予想通りであるのは間違いないだろ﹂
人間だろ⋮⋮?﹂
ヴァンプは半端適当半端真面目に誘導を行うと、途中でヤマたち
の姿を見つけた。
ヴァンプ﹁あ、あいつらだ﹂
オオカミ﹁⋮⋮あ、本当だな。大丈夫か?
ヴァンプ﹁⋮⋮人間の可能性は分からないからな。とりあえず今は
こっちを頑張ろうぜ﹂
オオカミ﹁お前に言われるのは腹が立つが、正論だな﹂
*****
ヤマ﹁大丈夫か二人とも﹂
エリ﹁私は大丈夫ですけど⋮⋮﹂
二人ははぐれないようにと腕に結んだ紐の先にいるフカザワを見
た。
フカザワ﹁般若波羅蜜多時⋮⋮﹂
535
ヤマ﹁それ宗教違うぞ。ジーザスだろお前んとこは。あと普通に悪
魔系統の生徒いるんだから経唱えるのは禁止な。賛美歌も除霊も同
じ﹂
フカザワ﹁⋮⋮うう、塩撒いとこうかな﹂
ヤマ﹁マジでやめろよ﹂
そんなこんなで3人は数十分で校舎に入った。
*****
俺﹁⋮⋮疲れた﹂
タウロ﹁あ、あぁ⋮⋮。あとはもう他の学年だから大丈夫だよな⋮.
﹂
二人がゼーゼー言っていると、突然後ろから声をかけられた。
どうしたんですか?﹂
?﹁すいません、あの聞いていいですか?﹂
俺﹁うん?
振り返るとそこにいたのは若い顔をした同じ人間だった。
?﹁あの、ハッシャクって⋮⋮﹂
俺﹁あぁ八尺様なら、自分のクラスにいると思いますよ。えっと確
かクラスは⋮⋮﹂
536
*****
数分後、少年を案内した俺は適当に食べ物を買うと生徒会室へ向か
う。
俺﹁失礼しまーす﹂
といいつつも生徒会室には俺しかいなかった。
俺︵まあ皆仕事だって言ってたなぁ︶
俺はいつもの椅子に腰をかけると、一人でポーッとすることにし
た。
あとの仕事は、いわゆるインフォメーションセンターである。
忙しいと思ってたけど、意外にもみんな理解してから来てくれてい
るようで、むしろ退屈である。
俺は遠くからスピーカーから聞こえてくる遠い残響を聞きながら、
うたた寝する。
⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
突然体がゆっさゆっさと横に揺らされる。
俺﹁⋮⋮うん?﹂
そこにいたのは⋮⋮首から上がない女性だった。もうこのくらい
537
じゃ驚かない。
抜け首ですか?﹂
制服を着ているところをみると、ここの生徒らしい。
俺﹁⋮⋮。えっと⋮⋮デュラハンですか?
尋ねると首のない彼女は一旦頷き、首を横に振った。
なるほど、デュラハンか。
文献などではシューターという馬を引き連れているというが⋮⋮
まあ外で放し飼いにでもしてるのだろう。
俺﹁⋮⋮えー⋮⋮それで相談とは﹂
尋ねると、デュラハンは手刀で首を切り落とす仕草を見せた。
なるほど、どうやら、その様子。
首を落としたらしい。
首なんて普通落とさないだろうと思うが、この人混みだと無理も
ないのかもしれない。
とりあえず、まず顔を知るために生徒手帳でデュラハンを検索す
ることにした。
俺﹁⋮⋮なるほど﹂
美人だった。確かに目の前にいるスレンダーな身体に繋げるとぴ
ったりかもしれない。
538
⋮⋮というか、この人。顔のない状態でよくここまで来れたな。
⋮⋮まあデュラハンだし、そのくらいはできるのだろうな。
俺﹁はい。では、放送で連絡してもらいますので、もうしばらくお
待ちください﹂
*****
放送部に連絡して1分ほどあと連絡が入った。もちろん生徒会室
にも聞こえる。
木霊﹃放送部から皆さんへ探し物の連絡です。たった今デュラハン
さんが首を落とされたとの連絡が入りました。心当たりのある方は
生徒会室までお願いします﹄
⋮⋮小中と学校はいたけど、こんな異質な放送は今まで聞いたこ
となかったな。
デュラハンは放送が流れるとこちらに向かってペコペコと頭を下
げた。
いや、まだ見つかってないんだけども。
まあ、ともかくこれで俺のやれるのはここまでだ。あとは生徒の
協力次第である。
しかし、退屈だ。
遠くからズンチャンズンチャンと校庭で流れているのだと思われ
るBGMの残響が聞こえる。
539
俺は、欠伸をすると棚から自分の世界から持参したクッキーと紅
茶を取り出す。
⋮⋮と思ったが辞める。ここには今他の生徒がいるし、分けて食
べるにしてもきっと彼女には食べられない。
いや、食べられるにしても喉から食事を行う病院の患者さんみた
いだし、味わえないだろう。
仕方ない。暫くぼーっとして過ごすか。
俺﹁⋮⋮﹂
デュラハン﹁⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮﹂
沈黙がしんどい。
540
49話﹁デュラハンは妖精です﹂︵後書き︶
デュラハン:
アイルランドに伝わる首なしの妖精。
文献によっては騎士だの運び屋だの死神だの言われているが、詳細
は不明。食べたら漏れそう。
541
50話﹁定番の妖精はピクシーです﹂
俺がデュラハンと同じ部屋にて気まずい空気を一緒に吸っているな
か、ようやく沈黙が破られた。
九尾﹁あー、騒がしくてたまらん。年寄りの居場所がないであろう
が﹂
なんじゃ俺くんと⋮⋮ああ放送の﹂
俺﹁あ、会長﹂
九尾﹁ん?
まさかお主、学園祭の間ずっとここにいるつもり
結滞な放送だったと笑う会長にデュラハンは律儀に礼をした。
九尾﹁⋮⋮ん?
か?﹂
俺﹁あ、いや。今日1日だけです﹂
九尾﹁とはいえ休憩くらいとっとるか?﹂
休憩か⋮⋮今は別に仕事があるわけでもないし、休憩みたいなも
のだと思っているけど。
九尾﹁少しぶらついてくるがよい、妾はここで代番する。というよ
りも学園祭自体が騒がしくて疲れる。妾はここでじっとしていた方
が向いておる﹂
542
俺﹁そ、そうですか。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます﹂
会長、一体何歳で学生してるんだよ。
とはいえ、初日は働くつもり満々だったから特に予定ないんだよ
なぁ。
校舎外
ともかくせっかく貰った時間だし、そこらへんフラフラしよう。
*****
門星学園
とりあえず小腹が空いたので屋台を目指して校庭へ。
部門投票は生徒投票だから、一応ストールも見ておかないと。
しかし、意外なことにまともな屋台しかない。いや、なんだか失
礼な言い方かもしれないが、どうせまた得体の知れないものの串焼
きやら土手煮やらあると思っていた。
俺﹁⋮⋮甘いもの食べたいな﹂
たこ焼きやら焼きそばやら考えたが、そこまで胃が膨れるものじ
ゃなくてもいい。
ETOあったんだから、休んでいれ
アイスやクレープとかそこらへんはないものか。
パーン﹁あ、俺くん先輩∼﹂
俺﹁パーンか。働いてるの?
ばいいのに﹂
543
パーン﹁そうは言っても気がひけるからね∼。ほら私神だし!
のヒトに気を遣わせたくないんだよ﹂
俺﹁⋮⋮ふぅん﹂
他
パーンは学園祭Tシャツに身を包み、惜しげもなく煽情的な体の
でも確かにくびれには自信あるよ﹂
ラインを見せていた。
俺﹁⋮⋮意外だな﹂
パーン﹁そうかな?
コレね。毛﹂
俺﹁いやそれもだけど、意外にあるんだなって﹂
パーン﹁⋮⋮セクハラ?﹂
違います。
パーン﹁いや、私そんなにないよ?
俺﹁毛っ!?﹂
パーン﹁うん、毛の分だけシャツが盛り上がってるだけ。⋮⋮でも
抵抗なしにそんなこというのは良くないよ?﹂
いや、他種族だし⋮⋮と思ったが、ここは門星学園だ。そんな言
い訳は通用しない。
俺﹁⋮⋮悪かったよ﹂
544
パーン﹁まあ、いいけどね﹂
許されるなら謝ったほうがいい。
ウチの家訓だ。
パーン﹁よかったら食べる?﹂
俺﹁うん、そうだね。じゃあ貰おうかな。ところで何作ってるの?﹂
パーンは山の神だし、やはり山菜を使った料理だろうか。
パーン﹁綿アメ﹂
まさかの近代機を使う山の神。
俺﹁⋮⋮やっぱいいわ﹂
俺はそのモコモコとした砂糖菓子を思い浮かべた後、パーンのモ
コモコとした姿を目視して、丁重に断った。
微妙に剃りあがってるんだもん。気になってしまう。
校舎内
結局俺は自分のクラスの屋台でベビーカステラを袋詰めにしても
らった。
*****
門星学園
545
妹﹁あ、お兄ちゃん!﹂
俺﹁おう。客寄せか?﹂
妹は白いフリフリのカチューシャにエプロンドレスを着ていた。
もう何をしているかは察することができる。
無論文句はない、日本の学園祭らしい催しだと思うし、なにより
お兄ちゃん店に来てよ!﹂
妹らしい店構えだといえよう。
妹﹁そうだ!
俺﹁でもなぁ⋮⋮こういうの一人だと入りにくいんだよな﹂
妹﹁⋮⋮へたれ﹂
俺﹁⋮⋮わかったよ﹂
くそぅ挑発に乗ってしまった。
俺﹁⋮⋮えっと、確かお前のクラスってβだっけ?﹂
妹﹁うん、初等部β﹂
まあ喉乾いたし、休憩するにはいいだろう。
初等部βクラス
*****
門星学園
546
﹁﹁﹁おかえりなさいませご主人様っ!!﹂﹂﹂
俺﹁あ⋮⋮うん⋮⋮ただいま﹂
日本ちゃんのお兄さんじゃないですか。残念
なるほど、ヤマが泣いて喜びそうなメイド喫茶だな。
ウロス﹁ってあれ?
ですけど日本ちゃんは客寄せでいませんよ?﹂
日本ちゃん働いてるじゃん!
あ、お兄さん此方に
俺﹁知ってるよ。俺がその寄せられた客だから﹂
妖精﹁おー!
どうぞ∼﹂
ご主人様呼びはどうした。
というか、妹ってクラスでは日本ちゃんって呼ばれてるんだな。
昨日の夜仕事が終わっ
俺の友達はホテルでエルフさん見た
エルフ﹁お兄さんお久しぶりですー﹂
俺﹁久しぶりって⋮⋮あれ?
って言ってたけど﹂
エルフ﹁やだー呼び捨てでいいですよ!!
たらすぐに学園に戻ったんですよ﹂
ダーエル﹁まあ十分に人は足りていたがな﹂
⋮⋮っ!?
547
⋮⋮俺はその時思い出した。
他種族は空想上の生物だ。
しかし、こうして存在している。
これが何を指すか?
俺﹁⋮⋮あのさ、二人とも頼みがあるんだけど﹂
エルフ﹁はい?﹂
ダーエル﹁なんだ?﹂
俺﹁⋮⋮写真撮っていい?﹂
ーー俺は他種族が大好きだ
*****
満足した。
というか、あれだ。メイド喫茶として成り立ち過ぎている。
ケチャップで絵を描くにしても歌うにしてもレベルが高すぎる。
本当に妹プロデュースか?
⋮⋮まあいいや、思ったよりはゆっくり出来たからな。
そんなことをしてる間にもう昼間だ。
548
初日は情報もないし、外でぶらぶらすることにしよう。
屋台ならチラ見でも充分観察できるだろう。
せっかくだしさっきは見れてなかった校門側を見に行くことにし
よう。
校門
*****
門星学園
俺﹁ひゃあ、場所も場所だし混んでるなぁ﹂
これだけ人がいたら、迷子になってる子がいても気づきそうに無
さそうかも⋮⋮ん?
俺﹁あっ、もしかして﹂
俺は、少し舗装されている部分から離れて、庭園の茂みの方に向
かった。
庭園
*****
門星学園
見えない見えない!﹂
?﹁参ったなぁ⋮⋮。こんなところ誰も助けに来るわけもないし⋮
⋮﹂
だれ!?
俺﹁あ、いたいた﹂
?﹁えっ!?
549
俺﹁助けにきただけです。これじゃ不便でしょう﹂
・・
俺はその野晒しにされていた頭部を拾い上げるとこちらを向かせ
なんで俺のこと知ってる
俺くん、わざわざ助けに来てくれたの!
た。手帳通りの超美人だ。
デュラハン﹁あーっ!!
?﹂
俺﹁まあ大変でしょうし⋮⋮ってあれ?
んですか?﹂
デュラハン﹁いや、私俺くんにあったじゃんさっき﹂
俺﹁いや、会ったのは首から下ですし⋮⋮﹂
するとデュラハンはため息をついた。
見えるの!?﹂
デュラハン﹁目がなくても見えないとは限らないよ?﹂
俺﹁え!?
デュラハン﹁見えるし、聞くことだってできるよ。ただ色が分から
なかったり、ぼやけたりするけどね。デュラハンも進化の過程でそ
れくらいは身につけるさ﹂
なるほど、体の器官が老いるような感じなのかな。
デュラハン﹁それにしてもありがとうね。孤独な中で助けられた瞬
間、少しカッコいいと思ったよ。正直惚れかけた﹂
550
俺﹁⋮⋮恥ずかしいこと言わないでください。とりあえず身体のと
ころに行きますよ﹂
デュラハン﹁本気なのにねー﹂
俺﹁そのくらいで惚れると、俺の世界じゃチョロインと言われちゃ
いますよ﹂
本気なのは分かる。
デュラハン⋮⋮彼女の頭部は血が通うはずがないのに熱くなって
いた。
生徒会室
*****
門星学園
九尾﹁おー来たか。俺くんよ﹂
俺﹁気づいてたんですか。千里眼か何か?﹂
九尾﹁まあそんなとこじゃな﹂
俺は、そんなことができるなら先に頭部を見つけ出して欲しかっ
たが⋮⋮まあいい。
俺﹁デュラハンさん。どうすればいいです?﹂
デュラハン﹁ドッキングでいいよ。あと、断面は覗かないほうがい
551
いよ﹂
正直もう遅い。身体と一緒だった時に気になって覗いてしまった。
⋮⋮なんというか、グロかった。
首の断面など見るものじゃないな。
552
51話 ﹁ろくろ首は元は首なしです﹂
俺はとりあえずハマりそうだったので、デュラハンの首を身体に嵌
め込んだ。
お礼どうしようか⋮⋮﹂
デュラハン﹁⋮⋮んー、やっぱり世界が変わるなぁ。水の中から外
に出た感じ!﹂
俺﹁なによりです⋮⋮﹂
デュラハン﹁ありがとうねーっ!
俺﹁いや、お礼なんて別に⋮⋮﹂
そう言って断ろうとすると、デュラハンが突然俺の腰に手を回し
てきた。
俺﹁デュ、デュラハンさんっ!?﹂
デュラハン﹁俺くんってこう見ると意外と可愛い顔してるだね。抱
ちょ、ちょっと困ります!
お主なら首外
会長もなんか言って
かれてる間は逞しく見えてたけど⋮⋮ねえ付き合おっか?﹂
俺﹁ええっ!?
ください!﹂
デュラハンよ、口に舌突っ込め!
チャンスじゃ!﹂
九尾﹁任せろ!
れるじゃろ!
553
俺﹁加勢するなよ!!﹂
れ
て
た
うう⋮⋮こんなところ、あの人に見られたら⋮⋮
ラミア﹁⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮あ﹂
ら
ラミア﹁⋮⋮﹂
見
なんでこんなタイミングで廊下から覗いてるの!?
逆に怖いんだけど!!
俺くんの彼女?﹂
というか、なんで黙ってるの!?
デュラハン﹁なに?
俺﹁ちょ、ちょっと!﹂
ラミア﹁⋮⋮︵とぼとぼ︶﹂
俺﹁待てェェエエエェェェ!!?﹂
*****
数分後、うるさいということで会長は強制的に俺たちを追い出し
た。
ラミア﹁ひどぉい俺くん、最近絡みないからって他の女の子のとこ
554
ろに行っちゃうなんて⋮⋮﹂
デュラハン﹁んー遊んでただけなんだけどね。ゴメンねっ!
アちゃんっ!﹂
ラミ
ラミア﹁いえ、センパイとはいえ俺くんの魅力に惹かれるのは仕方
ないことです。でも俺くん、ちょっと最近ダメだよ!﹂
俺﹁ダメってなに⋮⋮んがっ!?﹂
ラミアの手にあったのは、先ほどメイドエルフに心を惑わされて
写真を撮りまくっていた現場写真だった。
いや、明日は他に仕事が⋮⋮﹂
ラミア﹁⋮⋮明日は私と一緒に付き合ってよね﹂
俺﹁えっ!?
ラミア﹁⋮⋮妹ちゃんに見せるよ?﹂
俺﹁⋮⋮うう﹂
こういう時は、俺の世界ではなんていうんだっけ⋮⋮
ああ、そうだ思い出した。
⋮⋮くっ⋮⋮殺せっ
学園祭終了まで残り6日
その日は、明日のことの取り消し作業で半日が潰れてしまった。
門星学園
555
自室
*****
夜
門星学園
気に入ったよ!
俺﹁もしもしヤマか。どうだった?﹂
ヤマ﹃優しい世界だな!
もしれねぇ!﹄
もうRPG出来ないか
まあ別にヴァンプとか普通に一緒にモンスター倒すゲームしてる
けどな。
俺﹁そういやフカザワは?﹂
ヤマ﹃ああ、終始吊り橋渡ってるみたいだった﹄
俺﹁しまいには付き合うかもな﹂
ヤマ﹃勘弁してくれ、あいつとは釣り合わねえよ﹄
いや、なんだかんだでいいコンビだと思うぞ。
ヴァンプ﹁俺くん、そろそろ行くぞー﹂
ドア越しにヴァンプの声が聞こえる。
俺﹁悪いヤマ、ちょっと明日のことで話し合いがあるから切るわ﹂
556
ヤマ﹃おう、俺たちは3日間しかこっちにいねえからな。早いとこ
会おうぜ。じゃあな﹄
高等部βクラス
*****
門星学園
ヴァンプ﹁ステージ部門は本番3日だから、まだ余裕持って2時間
ほど練習してたぜ﹂
袋詰めに出来る手軽さと種類の豊富さが功をなし
カンヘル﹁ストール部門は、朝方と昼時にピークでしたが、基本的
に人気でした。
たようです﹂
しかし、口コミや生徒掲示板で話
タウロ﹁イベント部門は残念ながら立地の場所もあるだろうが目標
人数までは達せられなかった。
が広がればグンと増えるだろう﹂
なるほど。ちなみに稼いだお金はそのまま生徒の手持ちとなる。
まあどうせ、打ち上げのお金になるのだろうけどそれはそれでい
いだろう。
タウロ﹁俺くんよ。そっちからはないのか?﹂
俺﹁うーん⋮⋮特にはないかな。これから様子を見ていく感じだろ
うし⋮⋮うん、じゃあ報告会終わり﹂
まあたいした話はしなかったんだけどね。
557
さてと、明日はどう過ごそうか。
558
AM07:12
52話 ﹁ケルピーは海の精霊です﹂
二日目
自室の扉を開けると満面の笑みのラミアがいた。
変温動物の癖に朝が早いやつだ。
俺﹁⋮⋮はぁ。ちょっと待って、制服に着替えるから﹂
ラミア﹁やったぁ!!﹂
こうして、俺とラミアの初デートが始まった。
*****
二日目からは別のクラスが整備をしてくれるため、俺たちは朝は
自由に行動できる。
俺とラミアはまず朝食をカフェテリアで済ませた。
ラミアは朝も屋台で買おうと言っていたが、眠気まなこで人混み
ねぇねぇ!﹂
に押しつぶされたくないので、安全策を選んだ。
ラミア﹁最初どこ行く!?
俺﹁そうだなぁ⋮⋮いきなり定番行くか﹂
559
中等部αクラス
*****
門星学園
展示内容:お化け屋敷
ラミア﹁⋮⋮別に中等部だし、怖くないし⋮⋮﹂
締まってるって!!﹂
俺﹁女の子は普通そこで怖がるものだろう﹂
ラミア﹁キャアこわぁいっ!!﹂
俺﹁いや、まだだし⋮⋮ちょ、締まるっ!
気がつけばラミアの蛇部分が俺の身体を締め付けており、あやう
く死にかけるところだった。
ラミア﹁ぶー。それじゃあ抱きしめられないじゃん﹂
俺﹁⋮⋮なんとか我慢してくれないか?﹂
そんなこんなで、俺たちもお化け屋敷に足を踏み入れることにな
った。
*****
お化け屋敷は和風ベースにしており、破れた障子や明らかに怪し
い井戸などが目に見えた。
ラミア﹁なんか不気味だね⋮⋮﹂
560
俺﹁ああ⋮⋮なかなかレベルが高そうだ⋮⋮﹂
さて、そろそろ障子の前を通る。
目が目がぁ
定番では、破れた隙間から手が伸びてくるんだろうけど⋮⋮よし。
なになに?﹂
目っ!
俺﹁⋮⋮そうだ。ラミアさん、先前に行ってよ﹂
ラミア﹁え?
そして、障子の前を通ると⋮⋮
俺くんっ!!?
目目連﹁貴様見ているなっ!?﹂
そうきたかー。
ラミア﹁ピギャーッ!!!
!?﹂
ラミアは障子の一マス一マスに出来た目を見て悲鳴をあげる。
よく見ると、破れた障子の間に破れてない障子⋮⋮すなわち目目
連を潜ませていたらしい。
こっち見るなぁっ!?﹂
そして、そのセリフは選択を誤ってると思う。
ラミア﹁ピギャーッ!!!
目目連﹁あ、ちょっと目潰しはヤバ⋮⋮ぎゃああああああっ!!!
!﹂
561
⋮⋮体張るなぁ。
とにかくこの隙にラミアを連れて、奥に進もう。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
俺﹁ラミアさん、大丈夫⋮⋮?﹂
ただのコンニャクだよ!﹂
ラミア﹁だ、大丈⋮⋮ヒィヤアアアアアア!!!﹂
俺﹁落ち着いて!
ラミア﹁こ、こんにゃく⋮⋮﹂
何あの石のヤツ!﹂
これは思ったよりも⋮⋮疲れそうだぞ?
ラミア﹁ひぃっ!
俺﹁井戸だよ。なかなか変なところで怖がるね﹂
しかし、井戸ときたら中から皿とか這い出てテレビからとか日本
ホラーではよく演出に使われる。
今回はどう仕掛けてくるやら⋮⋮
中は誰もいないっぽいね。飾りかな?﹂
ラミア﹁なにかいる⋮⋮?﹂
俺﹁あれ?
562
気が抜けて、そのまま通り過ぎようとした瞬間カコーーーンッ!
油断した﹂
!と桶の落ちる音が響いた。
俺﹁うおっ!?
ラミア﹁あぅあぅぅああああっ!!!﹂
俺﹁それは叫んでるのか?﹂
しかし、釣瓶落としだろうか。音で驚かすとは考えが及ばなかっ
た。
⋮⋮それにしても桶を落として、このあと巻き上げるのだろうか?
というか教室なのに、なんで井戸があんなに深いのか。
いろいろ気になるが、とりあえず考えを逸らそう。ここは門星学
園、あり得ないことが当たり前なのだ。
*****
その後、ゾンビが這ってきたり、ナタが飛んできたり、八角げん
のうが飛んできたりしたが、なんだかんだで脱出した。
ラミア﹁もう絶対来ない﹂
俺﹁死ぬかと思った﹂
あとでチェックしておくか。流石に刃物や鈍器は禁止だろ。
ラミア﹁それにしても疲れたね。何処かで休憩しようよ﹂
563
俺﹁あー、そうだな。どこか良いところは⋮⋮﹂
とはいえ、みんな考えることは同じらしくテーマは違うにしても
半分以上が喫茶店である。多すぎて逆に悩んでしまう。
ラミア﹁あ、じゃあここ気になるなぁ﹂
ラミアがパンフレットに指差した場所は本校舎とは別の棟だった。
*****
突然だが、門星学園には︽科︾が存在する。
それは、専攻で何を受けたいかではなく。様々な理由で一般生徒
⋮⋮所謂︽普通科︾にて授業を受けられない生徒のために作られた
特別クラスである。
例えば、︽水棲科︾︽巨大科︾︽危険科︾︽ミクロ科︾etc⋮⋮
そして、俺はラミアに連れられて︽水棲科︾の棟にやって来た。
そこはなんと、建物が丸ごとダムのような水溜めの中に沈んでい
るなんとも不思議な棟だった。
俺﹁学園祭だから一般開放してるけど⋮⋮息とか大丈夫なの?﹂
ラミア﹁うん、なんか良くわかんないけどここって水の中でも濡れ
たり溺れたりはしないってさ﹂
そんな御都合主義よくできたな。
564
しかし、周りを見ると確かに学園の本校舎の生徒もちらほら見か
ける。
念のために顔だけを突っ込んでみる。
透明度は良好、息もできるが潜ってる感じはあるし水が顔に触れて
いる感じもある。
しかし、顔を戻すと一切顔は濡れていない。まさに珍妙な感覚で
ある。
ラミア﹁どうだった?﹂
俺﹁うん、大丈夫だった﹂
俺はラミアと水に入ると、昇降口から棟内に入った。移動は泳ぎ
のため、多少のスキルが必要になるが潜ったり泳いだりするくらい
なら俺でもできたため助かった。ヘビであるラミアも同様に上手に
泳いでいた。
ただ体操してなかったせいで途中で足を釣ってしまったのは失敗
だった。息ができなかったら死んでいたところだった。
⋮⋮
高等部
⋮⋮⋮⋮
水棲科
水底に着いてからは歩いてのろのろと移動をして、目的のクラス
に到着する。
565
棟内は視界が少し青っぽい以外は殆ど本校舎と変わらない作りだ
った。
ラミア﹁これなら別に本校舎の生徒も通えそうだね﹂
俺﹁まあ全員が泳げたらな﹂
声が通りにくいため多少張らないといけないのもちょっとした欠
点かもしれない。
クラスは案の定喫茶店。テーマは﹃童話﹄。
出迎えてきたのは馬の人魚のような生き物だった。童話アレンジ
のためか頭にツノを付けている。
?﹁いらっしゃいませー。2名様ごあんなーい﹂
ラミア﹁あ、私知ってる⋮⋮えっとオカピー?﹂
俺﹁ケルピーな﹂
なんで草食動物が出てきた。
席に着くと、メニューが置かれていたので開く。
俺﹁へえ、水中だからどんな感じかと思ったけどナタデココとかフ
ルーツなんだ。なるほどね﹂
これなら湿ったり溶けたりしない訳である。
566
ラミア﹁じゃあ飲み物は⋮⋮へえ、特殊なストローね。吸ったとき
だけ液体が出てくるんだ﹂
現世界にもそう言った類のものはあった気がする。なるほど、こ
ういう使い方もあるのか。
俺は注文を決めると、近くの店員を呼び止めた。
俺﹁えっと、ホットカフェラテ2つお願いします﹂
ホットにしたのは夏場でも涼しいココに合わせてである。
?﹁はい、ホットカフェラテ2つですね畏まりました﹂
すると突然恐ろしいほどに綺麗な声が耳に入ってきた。
に、人間っ!?﹂
俺くんそういえば人魚好きって言ってたぁ
驚いて顔を上げる。そこで俺は初めて店員が何者なのかに気がつ
いた。
俺﹁⋮⋮に、人魚﹂
ラミア﹁⋮⋮ああっ!
っ!!﹂
人魚﹁えっ俺くん⋮⋮?
すると人魚は怯えた目でこちらを見ると、ちょっとずつ下がり、
最終的に逃げ出すように厨房へ向かった。
567
俺﹁⋮⋮え﹂
ラミア﹁あれ?
俺﹁⋮⋮あっ﹂
どうしちゃったんだろ﹂
思い出した。なるほど人魚の言い伝えを考えれば納得だ。
なに?﹂
俺﹁⋮⋮そっか⋮⋮なるほどな﹂
ラミア﹁え?
俺﹁いや、人魚はさ。人間に恋をして泡になったり、寿命を求めて
捕まりそうになったりしてたんだよ﹂
つまり何を言いたいか。
俺﹁⋮⋮人魚は人間が嫌いなんだ﹂
*****
人魚﹁お、お待たせしました。カフェラテになります﹂
ラミア﹁おー早いねー﹂
人魚﹁そしてこちらがサービスの⋮⋮深海のナニカ焼きです﹂
そういって置かれたのは、皿に盛り付けられた紫とも灰色とも言
い難い暗色をした触手を切って焼いたようなものだった。
568
いや明らかこれクトゥルフ⋮⋮
俺﹁⋮⋮﹂
人魚﹁⋮⋮お、俺くんにサービスします。あ、お金は入りませんの
で⋮⋮﹂
そう言って、人魚は去ってしまった。
と思ったら影からこちらを見ていた。
ラミア﹁お、俺くん﹂
ラミアが引くほどに不気味なオーラと悲鳴を出しているクトゥル
フ焼き。
いや、こんなもの普段から学食で見ているじゃないか
俺﹁⋮⋮よし﹂
結論から言うと。
触手とカフェラテは実に合わない組み合わせだった。
*****
休憩を済ませ手がふやけ始めたので、俺とラミアは店を後にする
ことにした。
しかし。
569
ラミア﹁⋮⋮ねえ、後ろからつけてきてるよ﹂
俺﹁さすがに気づいてるよ﹂
後ろから他人のふりをして人魚がついてくる。シフトを誰かに任
せたのだろう。
監視なのかデートを妨害したいのかは分からないが、なかなかの
めぢから
視線を持っている。
俺﹁ともかく外に出れば、ついてこないって﹂
ラミア﹁そ、そうだよね﹂
そう言い、俺とラミアは陸に出た。
そして人魚も外に出ると
⋮⋮足を生やした。
俺﹁あぁ。人化の魔法か﹂
ラミア﹁なんで人間嫌いなのに覚えてんのよ!﹂
もしかしたら声を失ってるかもしれないが、まあ大丈夫なのだろ
う。
少し眠たそうだが、プール上がりの微睡みのようなものなのかも
しれない。
俺﹁⋮⋮次どこ行こうか﹂
570
本来なら彼氏が引っ張って行くべきなのだろうが、まあ突然も突
然なわけで決められていない。
ラミア﹁う、うん。そうだね⋮⋮これとか面白そうじゃない?﹂
571
魔法結界室
53話 ﹁セイレーンは竜頭に付いてます﹂
門星学園
相変わらず重たい扉を開けると椅子が並んでおり、既に何人かの
生徒が腰をかけていた。
俺﹁始まりそうだな。そこ座らせてもらおう﹂
ラミア﹁そうだね﹂
ストッストッストッ
俺﹁⋮⋮?﹂
座った音が三つ聞こえたのでラミアとは反対側を見る。
人魚﹁⋮⋮どうも﹂
俺﹁⋮⋮う、うん﹂
暫くすると、目の前に並べられた本が一斉に開きだした。
そして、本から様々な光が漏れ出し、隣同士の光の色と混ざり合
いオーロラのような美しさを作っていた。
俺﹁なるほど。これが魔法結界室の展示ってわけか﹂
572
そして、さらに光は激しくなり、最後にはポンと本から丸い球が
浮かんできた。
そして、その球が弾けると、金平糖のような光の飛沫が部屋を染
める。
ラミア﹁よしそろそろくる⋮⋮﹂
俺﹁え?﹂
ラミア﹁ううん、何でもないよ。︵この次が運命の引力。相手を思
う気持ちの強い者同士が磁石のように引っ付くという恋人にとって
嬉し恥ずかしな運命のターン⋮⋮!︶﹂
俺﹁⋮⋮?﹂
俺がラミアの呟きと、周りが手を胸に当てて何かを祈ってるので
頭にハテナマークが大量に生まれる。
そして、本から光の帯が飛び出すと、突然怪力に引っ張られたよ
うな感じで体が隣に引きつけられた。
突然のことに目の前が真っ暗に⋮⋮いや、何かに視界が塞がれて
いる。
人魚﹁あっうっううん⋮⋮﹂
俺﹁!!﹂
目を開けると、少し上に人魚の緊張して固まった顔があった。
573
つまり⋮⋮
ラミア﹁ちょっと俺くん!!!!
引きつけられたのが私じゃない
上に、なんで人魚の胸に顔を押し付けてるのっ!?﹂
ご、ごめ⋮⋮﹂
人魚﹁は、離れてください⋮⋮﹂
俺﹁う、うん!
すると再び本から光の帯が出て
引っ張り剥がそうとしていた人魚の腕が却って俺の頭を胸に押し
付けるかたちになった。
俺﹁ぬぉっ!?﹂
ちょっと私より豊満だからって誘惑
人魚﹁あっやっ⋮⋮ちょっと⋮⋮﹂
ラミア﹁おのれぇ⋮⋮っ!!
顔の皮が剥がれるから!!﹂
するな、この魚介類がぁぁぁぁあああっ!!﹂
俺﹁ちょ、ちょっと剥がれるっ!
俺はその後数分間、人魚の引力とラミアの腕力によって引き裂か
れそうになった。
*****
ラミア﹁⋮⋮﹃思い﹄って、﹃想い﹄って意味じゃないのぉ⋮⋮
?﹂
574
俺はその後ラミアから話を聞いてようやく理由を知った。
確かに人魚は俺を嫌悪の対象として思っていただろうし、俺も人
魚をプレッシャーに思っていた。
ちなみに人魚は覇気のない顔で皺くちゃになった制服の胸元を摩
り、未だについて歩いてくる。
やだよ!
せめてあと一つ!﹂
俺﹁⋮⋮あのさ疲れたんだけど⋮⋮もうお開きにしない?﹂
ラミア﹁ええっ!?
美味しいね!
たこ焼き!
イカ焼き!
俺﹁⋮⋮じゃあ早いけど休憩ついでにちょっとスツール行こうか﹂
*****
ラミア﹁ウハウハだね!
お好み焼き!﹂
俺﹁楽しそうでなによりです﹂
ストーカー
ラミアが尻尾と手を使って幾つかの品を持ってもらっている中、
例の人魚も焼きそばを啜っていた。
俺くんハッケン!﹂
俺﹁⋮⋮︵俺たちが帰ったら戻ってくれるかな︶﹂
デュラハン﹁おーっ!
俺﹁おわぁっ!?﹂
575
今っ!
デートっ!
分かります
油断していると突如後ろから抱きつかれ、手に持っていたポップ
コーンをいくつか溢してしまう。
先輩っ!
俺﹁な、なんですかデュラハンさん?﹂
ラミア﹁キィーッ!
っ!?﹂
デュラハン﹁いやぁごめんごめん、目に見えたからつい⋮⋮ね?﹂
僕のことが好
ついで抱きしめるか普通。とんだビッチ⋮⋮なんでもない。
俺﹁そもそもデュラハンさんはどうしたいんです?
可愛い後輩としても愛の対象とし
きってわけじゃないんですよね﹂
デュラハン﹁いやぁ好きだよ?
ても⋮⋮ね﹂
嫉妬の神が怒りを露わにしているっ!﹂
ラミア﹁ウガァァァァアア!!﹂
デュラハン﹁あぁ嫉妬!
デュラハンは面白半分にそう言うと急に畏まって告げる。
デュラハン﹁でもね⋮⋮私はいわゆる死神みたいなものじゃない?
だからね、実はネクロフィリアなの﹂
思った以上にロクでもないことだった。
576
デュラハン﹁あっ!!
ちょっと引いたっ!?﹂
俺﹁だってネクロフィリア⋮⋮﹂
すると、脇でよく分かってない顔をしているラミアの顔が見えた。
ラミア﹁⋮⋮なにそれ?﹂
ネクロフィリア
俺くんだって﹃人外フェチキモい﹄とか
俺﹁屍体愛好家⋮⋮すなわち屍体が好きな人だよ﹂
ラミア﹁うぇえ⋮⋮﹂
デュラハン﹁何よ何よ!
﹃シスコンHENTAI﹄って言われたら嫌でしょ!﹂
実際人外フェチでもシスコンでもないけれど⋮⋮
俺﹁殺意を覚えるくらいには﹂
ラミア﹁マジか﹂
デュラハン﹁⋮⋮まあいいよ。私しか俺くんを愛せなくすればいい
んだから⋮⋮﹂
突然、デュラハンの雰囲気が変わる。
デスサイズ
凶器の持ち込みは規律
それと同時に彼女はいつの間にやら手に大鎌を抱えていた。
俺﹁ちょ、ちょっとデュラハンさん⋮⋮?
違反なのですが⋮⋮﹂
577
デュラハン﹁ああ大丈夫。刃物部分は両峰の上にゴム製だから﹂
ラミア﹁だ、だよね。びっくりした⋮⋮﹂
デュラハン﹁もしでも、私を理解してくれなかったら本当に殺っち
ゃうかも⋮⋮よっ!?﹂
突然デュラハンは目の前が変なことになり戸惑う。
振
三半規管がぁぁあああ!!﹂
やめて!!
ラミア﹁頭取っちゃえば、流石に動けないでしょ!﹂
三半規管がっ!
デュラハン﹁ああぁぁあぁあぁあああぁ!!!!
り回さないで!!
デュラハンは堪らず、胴体が持っているデスサイズを振り回す。
ーードスッ
デュラハン﹁え﹂
何かの手応えにデュラハンと、それに反応したラミアが動きを止
める。
俺﹁⋮⋮﹂
どうやら枝の部分が胸元に深く刺さったらしく呼吸が出来ない。
俺は耐えられず、その場に倒れこんだ。
578
ラミア﹁俺くうううううん!!!!﹂
ちょっと死んだらシャレにならないって!!
﹂
デュラハン﹁わああああそんなつもりじゃなかったのにいいい!!
!
2人があたふたと混乱していると、突然後ろから声が上がった。
ちょっとなにする気!?﹂
人魚﹁⋮⋮ちょっと退いてください﹂
ラミア﹁えっ!
人魚は慌てるラミアに構わず、倒れている俺の側で腰を下ろすと
ーー口をモゴモゴした後、俺と唇を重ねた。
俺﹁えっちょ、ちょっと!?﹂
ラミア﹁ああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁああ
ぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁ
あああぁああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁああ
ぁぁあぁあぁああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁ
ああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁ
あぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁああぁぁあぁあぁあああぁ
っ!!!!!!!!!﹂
デュラハン﹁っていうか、もう大丈夫なの!?﹂
雄叫びに近い悲鳴をあげ、頭を抱えるラミアとデスサイズを仕舞
ったデュラハンに俺は向き直すと、胸元をさする。
579
俺﹁確実に肋骨が折れた気がしたんだけど⋮⋮っていうかなんでキ
スなんか⋮⋮﹂
人魚﹁⋮⋮血﹂
俺﹁えっ?﹂
確かに鉄のような錆のような味はした。
人魚﹁⋮⋮内頬を噛んでワザと出血した。⋮⋮あとは分かるはず﹂
⋮⋮血?
⋮⋮あ。
俺﹁人魚の肉伝説?﹂
俺不老不死になったの!?﹂
そういえば、食べると不老不死になると言われているのは有名な
話だが⋮⋮
俺﹁えっ!?
人魚﹁大丈夫、それを避けるために唾液で薄めた血を飲ませた。で
もあくまで痛みを止めただけだからとりあえず保健室に行く方がい
い﹂
俺﹁⋮⋮ってかそんなことして、抵抗はなかったの?﹂
人魚﹁大丈夫﹂
学園で死者を出す方が嫌だから。
580
そう言うと思っていた俺だったが、答えは違った。
人魚﹁だって私は⋮⋮人間の大ファンだから⋮⋮﹂
人間の⋮⋮大ファン?
いやいやいやいやそんなラミアさんみたいなこと言われ
ラミア﹁はぁっ!?﹂
俺﹁え?
ても⋮⋮って逃げたり観察したりして、嫌いなんじゃないの?﹂
人魚﹁え?﹂
俺﹁え?﹂
疑問符を浮かべる人魚に俺はわけわからなくなっていた。
終わった後
人魚﹁私は突然クラスに人間の俺くんがきて、恥ずかしくなったか
ら⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮あの︵気持ち悪い︶サービスは?﹂
人魚﹁⋮⋮喜んでもらえると思って﹂
俺﹁⋮⋮付いてきたのは?﹂
人魚﹁⋮⋮謝って、もっとお話がしたかったから﹂
ラミア﹁魔法結界室で明らかに固まってたじゃない!
だって心そこに無しって感じだったし!﹂
581
人魚﹁⋮⋮まさか私と俺くんが引っ付くと思わなかったから、恥ず
かしくて⋮⋮嬉しくて⋮⋮﹂
ラミアが呆然とする間に、デュラハンが首を奪い返す。
ラミア﹁あっ!﹂
デュラハン﹁まあ何はともあれ無事なら何よりだよ。でもタダじゃ
済まないんだろうね⋮⋮﹂
俺﹁あ、いえ⋮⋮もし本当に斬りかかれたら言いつけますけど、今
回はさすがに事故なので﹂
デュラハン﹁許してくれるのっ!?﹂
人魚﹁⋮⋮いいから俺くんを保健室に。私は足を使うのは苦手だし、
気持ち伝えられたし、エラが乾いてきたから水に戻る﹂
ラミア﹁うん、早く帰って﹂
すると人魚は再び俺の口にキスをして
人魚﹁⋮⋮そうする。それじゃあ⋮⋮ね。センパイ方﹂
俺﹁⋮⋮﹂
ラミア﹁⋮⋮ちょ、ちょっとおっ!?﹂
デュラハン﹁さて、ラミアちゃんが荒れてる間に私が代わりに俺く
582
んを保健室へ⋮⋮﹂
ラミア﹁えっ!?﹂
デュラハン﹁コシュちゃんかもぉ∼ん﹂
ちょっとズレて上を鷲掴
そう言うとデュラハンの下に首無しの騎馬が駆けつけてきた。
ちょっと﹂
捕まってね!
デュラハン﹁はい、乗って乗って﹂
俺﹁え?
デュラハン﹁行くよー!
みしちゃってもいいよ!!﹂
すると、デュラハンの愛馬⋮⋮コシュタ・バワーはスツールの間
を駆け抜けていった。
ラミア﹁わ、わたしの⋮⋮デートは?﹂
保健室
一人残されたラミアは結果、その場で数分間立ち尽くしていた。
*****
門星学園
コロポックル﹁また君かぁ。最初はケルベロス、次はケンタウロス
ときて、今度は首無し馬で来るとはね﹂
俺﹁⋮⋮すいません何度もお世話になりまして﹂
583
コロポックル﹁謝れると保健医の意味なくなっちゃうんだけど⋮⋮。
⋮⋮それで俺、なんで大丈夫だったんですか?﹂
それにしても、危なかったね。肋骨が折れてた上に肺と肝臓が陥没
してたよ﹂
俺﹁ええっ!?
流石に麻酔でも息苦しくなるはずである。
コロポックル﹁人魚の血肉には時を止める力があるの。だから、そ
れを飲んだ君の細胞の一つ一つの働き、また生命の時が止まったん
だよ。つまり、君はデスサイズに突っ込まれた瞬間がずっと続いて
いたわけだよ﹂
なるほど。確かにそれなら、人魚の肉を食べたら不老不死になる
という意味も分かるし、浦島太郎が竜宮城から戻ってきたときに時
間がずれていたことにも関係がありそうだ。
もしかすると玉手箱は不老不死の呪いを解くためのアイテムだっ
たたのかもしれない。
デュラハン﹁センセー、私も治して欲しいです﹂
コロポックル﹁なに?﹂
デュラハン﹁頭が外れました﹂
コロポックル﹁個性をなくすのは良くないよ﹂
茶目るデュラハンを適当に一蹴し、改めて俺の胸に聴診器をあて
584
るコロポックル。
コロポックル﹁うん、呼吸も安定してきた。でも治癒魔法が無かっ
たら凄く危なかったよ?﹂
俺﹁⋮⋮はぁ気をつけます﹂
コロポックル﹁謝るのは君じゃないよ﹂
デュラハン﹁うぐっ⋮⋮ご、ごめんちゃい﹂
とにかく今日はその後安静にするようにと言われてしまい、部屋
にいることにした。
ちなみに、ラミアには手作りのエッグサンドと屋台で見つけたア
クセサリーをプレゼントしたら許してくれた。
まぁ⋮⋮まだ怒ってはいたけど、あとは時間が解決してくれるは
ずだろう。
585
54話 ﹁トレントは木です﹂
学園祭3日目
今日は、昨日とは異なり全校生徒及び来客が講堂に集まる。
入りきるかと思うが流石門星学園、一般の球場をいくつも凝縮さ
せたような講堂は全員が座っても余裕があった。
タウロさんは?﹂
俺﹁しかし、まさかアリーナに陣取れるとは思わなかったな﹂
ラミア﹁そうだねー。⋮⋮あれ?
俺﹁身長的に後ろの人の邪魔になるから後ろの方だと思う﹂
ラミア﹁⋮⋮私ももう少し腰落とそうっと﹂
俺たちが講堂に集まった理由は一つ。本日がステージの発表の日
だからである。
ちなみに、ステージ部門は午後は準備に使われるため、二日に分
けられて行われる。
つまり半日の間は生徒たちは休日、あるいは教室展示となるわけ
である。やはり長い期間学園祭を行うとなると休日が必要となって
くるのだろう。
俺﹁ヴァンプは裏準備、タウロさんは後ろ。オオカミは⋮⋮またど
586
っか行ったんだろ﹂
ラミア﹁これだけの人⋮⋮王女陛下はどうしてるのかな﹂
俺﹁⋮⋮そこで高みの見物をしてるよ﹂
俺が上を指すと、特別室みたいな空間があった。
そこにいる王女と目が合い、手を振ってきたので振り返す。
俺﹁ってか講堂かよ。大劇場×5みたいなんだけど﹂
ラミア﹁入学式のときとは別の場所だからね。⋮⋮講堂いくつある
んだろ﹂
こうなってくると学園としての昨日が薄れてる気がする。
ラミア﹁そ、そういえばまた俺くんと二人っきりだね⋮⋮﹂
天使﹁おー、お二人さんも一緒かぁ﹂
ラミア﹁あるぇ﹂
俺﹁珍しいところが来たな。悪魔はどうしたんだ?﹂
すると天使は、いやぁと頭を掻いて答えた。
天使﹁虐めてたら逃げられちゃった﹂
俺﹁虐めてるという自覚があるなら止めてあげなよ﹂
587
そんなことを言いながらもステージが始まった。
最初はオープニング代わりである幼稚部のお遊戯から始まる。
ちなみに幼稚部は流石に日帰りが認められているらしい。
ラミア﹁アッハァかわえええ⋮⋮﹂
天使﹁⋮⋮虐めたくなるね!﹂
俺﹁おいコラ﹂
とはいえ、確かに人間基準から見ても可愛いとは思う。
⋮⋮ただ
俺﹁︵なんか一人浮いてるんだけど︶﹂
?﹁︵うわ、あのお兄さんめっちゃ見てくる⋮⋮︶﹂
俺﹁⋮⋮背高いな。巨人族か何かなのか?﹂
ちなみに後から知ったことだが、彼はイヌイットに伝わる心優し
い巨人ことツヌートらしい。
成体すれば何メートルにもなるのだろうな。今で成人男性並みだ
し。
俺﹁⋮⋮はぁ﹂
588
ラミア﹁どうしたの?﹂
俺﹁いや、幼稚部に身長さ負けてんだなと思って⋮⋮﹂
天使﹁気にしない気にしない、私こそ色んな人に身長負けてるんだ
から﹂
そう言って、若干幼い姿で腕を組む天使さん。
俺﹁っていうか彼も災難だな。あんな中だと目立つだろうし、はた
から見たら引率の先生か事案だからね﹂
俺は子供用に作られたであろうお遊戯ダンスを童謡を歌いながら
必死に踊る彼を見てなんだか可哀想になってきた。いや、出来てな
いわけじゃないけど。
俺﹁⋮⋮身長は無意味にあっても困るだけだな﹂
俺は代わりになんだか救われたような気がした。別に彼は何もし
てないが。
*****
目の保養を浴びたあとは小学部の番になる。
ここら辺からなかなか種族を生かした内容の劇となって見応えが
ある。
ラミア﹁そういえば妹ちゃんも小学部なんだよね。出番はいつくら
589
いかな﹂
俺は手元の生徒手帳に内蔵されているタイムスケジュール表を開
き答えた。
俺﹁もうちょいあとになるな﹂
天使﹁俺くんの妹ちゃんってそういや私会ってないなぁ。どんな子
?﹂
俺﹁うーん⋮⋮俺よりも適応力がある感じかな﹂
天使﹁⋮⋮よくわかんないね﹂
そんなことを言いつつ、早速次のクラスの番になる。
俺﹁︵題目は︽かぐや姫︾⋮⋮小学生らしい選択だな。あとの方も
昔話が続いているようだし︶﹂
そして、幕が上がると⋮⋮天狗がいた。
天狗﹁わぁこの竹光ってるし切ってみよう﹂
棒読みだ。
そして、竹を模様した木製の小道具を本当に切ると、中から赤子
を模様した人形が現れた⋮⋮ん?
?﹁おぎゃーおぎゃー!﹂
590
ラミア﹁ひぃっ!
あの人形本当に泣いてるよっ!?﹂
ひんながみ
俺﹁⋮⋮落ち着いてラミアさん、あれは人形神だって⋮⋮。首絞ま
ってるから⋮⋮﹂
そんなこんなでいつの間にか、翁がかぐやを連れて家に帰ってい
た。
天狗﹁みて、赤ちゃんいた﹂
軽いな。
やまんば
うぇーいマジ可愛いベイビーじゃーん﹂
っていうか、婆役⋮⋮まだ幼いとはいえすでに雰囲気が出ている
⋮⋮山姥の。
山姥﹁デジマ?
山姥と天狗に育てられるかぐや姫⋮⋮強くなりそうだな。
そして、シーンは進み、月に帰るシーンになった。
お爺さん!
私は月に帰ります!﹂
ちなみに、かぐや姫役はアルミラージと交代していた。そういえ
ば小学部だったな。
アルミラージ﹁お婆さん!
天狗﹁やめて﹂
山姥﹁萎えるわ﹂
591
だから軽いんだって。
俺﹁⋮⋮ラミアさん、また今度分かりやすく説明⋮⋮﹂
ラミア﹁すごいよぉ⋮⋮感動巨編だよぉ⋮⋮﹂
俺﹁えぇ⋮⋮﹂
もしや他の生徒も泣いてたりするのかと思いキョロキョロする。
天使﹁うわっ月の天使軍こんなことしてたのか⋮⋮。エゲツナイこ
とするなぁ﹂
多分世界が違うから貴方の思ってるようなものとは違うと思い
ます。
そんなことを思ってる間にかぐや姫は無事に終わっていた。
*****
続いては︽一寸法師︾である。
プチールエルフ
主人公はそのまま小人。姫役はドワーフ♀らしい。
俺﹁そういえば、昔はドワーフの女といえば悪口のことだったんだ
けど。最近では短躯で力持ちな女の子程度になってきたよな⋮⋮男
は変わらんけど﹂
ラミア﹁へえ⋮⋮そういえばラミアには男の子いないのなんでなの
?﹂
592
俺﹁元々女の人に呪いをかけて出来上がったのがラミアなのだから
では?﹂
ラミア﹁じゃあ私って元々人間だったんだ。すげー﹂
なにが凄いのかは分からんが話が進み、鬼に連れ去られるシーン
が来た。
助けてー!!﹂
姫は頂いたぞ!﹂
さて、鬼役は誰かな⋮⋮?
?﹁ウハハハハッ!
ドワーフ﹁キャー!!
小人﹁姫さまーっ!﹂
⋮⋮いや、キャスト不足だったのだろうか。
俺﹁⋮⋮ドラゴンですか﹂
ドラゴン。鬼の欠片もないドラゴン。
舞台の高さギリギリの大きさで、ドワーフを捕まえるとそのまま
ノッシノッシと舞台袖にはけていった。
俺﹁⋮⋮これじゃ日本昔話というよりも何処かの国の神話だよ⋮⋮﹂
その後、俺は一寸法師がどうやって助けたかは全く覚えていない。
593
*****
さて、ついに妹のクラスである。
ラミア﹁妹ちゃんが出るのはえっと⋮⋮︽ももたろう︾?
話なの?﹂
俺﹁そうだね。僕の国では一番有名な話だと思うよ﹂
ラミア﹁へえー楽しみだなぁ﹂
俺はむしろ、何かしでかさないか心配だ。
そんなこんなで早速始まった。
有名な
最初に出てきたのは洗濯物を洗うお婆さん⋮⋮ダークエルフであ
る。
ダーエル﹁なんで私が婆さん役なんだっ!﹂
⋮⋮なにやら言っているが台詞ではないらしい。
すると、舞台袖からローラーをつけた桃がどんぶらこどんぶらこ
と言いながら転がってきた。
⋮⋮間違いなく妹の声である。
ダーエル﹁っとと、デカイ桃だな。家に持って帰って薄皮剥いでや
る﹂
594
⋮⋮そんな程度じゃ太郎出られないぞ。
そして、暗転。場所はお爺さんとお婆さんが住んでいるというこ
とでお馴染みの﹃昔々あるところ﹄のようだ。
俺﹁ってお爺さん役エルフかよ﹂
まさかの百合展開。
エルフ﹁これまた大きな桃じゃのお。婆さんや、さっそく食べるこ
とにしようかの﹂
しかも熱演。
そして、案の定生まれてきたのは妹だった。
妹﹁桃から生まれたので桃太郎です。あと鬼退治行ってきます﹂
展開早過ぎ。しかも名前既に決まってるのかよ。
ダーエル﹁じゃあこの小学部βクラスの屋台のきびだんごを⋮⋮﹂
しかも宣伝を挟むスタイル⋮⋮まあそれはいいか。
ってかステージ、スツールと桃太郎で固めてんのに、イベントは
メイド喫茶ってどういうことだ。
そんなことを思ってる間に、鬼ヶ島に着いていた。仲間の下りは
カットらしい。
595
妹﹁よっしゃー行くよ家畜共!﹂
コボルド﹁いや、その呼び方は酷いよ⋮⋮﹂
カク猿﹁ぶひいいいいいいい!﹂
セイレーン﹁キモい、離れて﹂
カク猿﹁あひいいいいいい!﹂
⋮⋮カク猿。
キマシ?
本来は人間の女性を攫って犯すという変態極まりないエロ猿なの
だが⋮⋮。
⋮⋮あのカク猿、女の子だよな?
ってか妹のクラス女子率高くないか?
?﹁ふははははははは﹂
どうやら鬼役が現れたらしい。
まあ妹のクラスで鬼役となると、微妙に予想はできてるのだが。
ウロス﹁残念ここまでだよ!﹂
鬼役ちゃう、それただのウロスちゃんや。
しかし、体躯が大きくツノがあるという繋がりで鬼役というのは
なんともあってるような気がする。
そんなことを思ってる間にも展開は進み、あっという間にフィナ
596
ーレに差し掛かった。
なんか劇がカオス過ぎて倒し方とかもうよく覚えていない。
*****
⋮⋮人員不足だったんじゃないかな?﹂
俺﹁っていうかさ、あの人らイベントもしてなかったか?﹂
ラミア﹁そうなの?
⋮⋮後で聞いておくか。
さて、休憩を挟んだ次は中等部の発表となる。
中等部の発表で終わりでは?﹂
ラミア﹁そういえばこの後の予定ってどうなってるのかな﹂
俺﹁え?
ラミア﹁そうじゃなくって日程だよ。あと4日くらいあるでしょ?﹂
俺﹁あぁそうか﹂
俺は生徒手帳を開き、予定を確認した。
3日目
2日目
1日目
ステージ
ステージ
イベント
開会式&イベント
∼∼∼∼∼∼
4日目
597
7日目
6日目
5日目
???
生徒大会
生徒大会
閉会式&後夜祭
∼∼∼∼∼∼
何故か7日目だけ字がエラーを起こして読めなくなっている。
俺﹁これってただの文字化けだと思う?﹂
ラミア﹁違うんじゃないかな。学園の考えることだし、何かを隠し
ているとか﹂
見てたのか﹂
天使﹁あ、その日は学園中を使って何かゲームするらしいよ﹂
俺﹁ぬわっ!?
突然横から現れた第三者に困惑しながらも、何か知ってるらしい
ので情報を聞くことにする。
俺﹁ゲームって?﹂
天使﹁なんか平行世界軸で流行ってるゲームをするとかなんとか⋮
⋮多分俺くんの方が思い当たるんじゃないかな﹂
そうは言ってもなぁ⋮⋮。
学校中を使う大規模なゲームというと⋮⋮肝試しとかサバイバル
ゲーム、脱出ゲームなどだろうか。
598
鬼ごっこや隠れん坊くらいなら他の異世界でもありそうな気がす
る。
天使﹁まあそれは当日の楽しみにするとして、次の中学部始まりそ
うだよ﹂
ラミア﹁そうだね。ワクワクするよ﹂
中学部は意外に知り合いが多いから、多少自分もワクワクしてい
る。
妹がいない分、今度は不安を感じずに純粋に楽しめそうだ。
599
55話 ﹁ヘカトンケイルは多肢です﹂
中学部の発表も見終え、今日のプログラムがすべて終了した後、
俺は一旦自室に戻ることにした。
俺﹁中学部のも良かったなぁ。︽人魚姫︾で来るとは思わなかった
けど﹂
ラミア﹁あと人魚役に人魚が出るとは思わなかったけど﹂
確かにあの人も一応中学部なんだよなぁ。あれほどの適任者は他
にいないような気もする。
どれ
他のクラスも、︽シンドバッド︾やら︽オズの魔法使い︾など平
行世界で有名な作品をしていた。
皆、よく調べたものだと思う。
ラミア﹁それにしても全部俺くんの世界の物語なんだよね?
もこれも面白かったよ!﹂
俺﹁そっか。⋮⋮やっぱ異世界の話って興味深かったりするの?﹂
ラミア﹁私は⋮⋮そう思ったけど∼。俺くんはそう思わない?﹂
俺﹁うーん、経験ないから分からないや﹂
でも多少たりとも興味はある。
600
やはり異世界の物語となると、文字通り﹃違う世界﹄を見せてく
れそうだ。
なんでって?﹂
俺﹁っていうかラミアさん、なんでついてきてるの?﹂
ラミア﹁え?
俺﹁⋮⋮。なんで当たり前のことみたいな顔してるんだよ﹂
大げさに目を丸くするラミアに少々呆れながらも、俺は撒こうと
歩みを早める。
しかし、もちろん早歩き程度では体躯の差もあり苦もなく合わせ
られてしまう。
この調子だと、きっと走っても合わせられてしまいそうだ⋮⋮笑
顔で。
そして遂に部屋の前に⋮⋮
陛下!?﹂
王女﹁あの⋮⋮俺さん﹂
ラミア﹁えっ!?
俺﹁っていうか、さっきまで上で楽観してませんでしたか?﹂
王女﹁ええ。終わったのでそそくさと逃げてまいりました﹂
自由な王女ですな。
601
実は私、本当はこれから学園祭のお手伝いに教室へ
俺﹁それで、用事とはなんですか?﹂
王女﹁はい!
行かなければならないのですが、急に国家予算の会議が行われるこ
それでも学園祭の方も大事な用事です!
⋮⋮です
こんなところで立ち話してる場合じゃないのではっ
とになりまして⋮⋮私、城へ戻らないとならないのです。急遽今す
ぐに﹂
俺﹁ええ!?
!?﹂
王女﹁いえ!
が、そのことをタウロ様に申し上げたところ﹃国のためならば城へ
向かったほうが良い﹄と言われまして﹂
まあ普通そうなるよな。
私の代役として教室の手伝いをしては
というか国の会議と学園祭を天秤に掛けられても困る⋮⋮。
王女﹁そこでお願いです!
いただけないでしょうか?﹂
そんなつもりは!
俺﹁そんな王女陛下から頼まれると流石に断りづらいです⋮⋮﹂
王女﹁え⋮⋮あっいえ!
城に帰っても練習してましたから﹂
⋮⋮でも、私も昨日
一昨日と頑張りました。
⋮⋮アレを城で練習してたのか、王女陛下。
俺さんお願いします!﹂
⋮⋮城の人どう思ったんだろ。
王女﹁とにかく!
602
ラミア﹁分かった!﹂
王女﹁ありがとうございます!
⋮⋮
⋮⋮⋮
俺﹁⋮⋮ラミアサン﹂
では行ってまいります!﹂
ラミア﹁⋮⋮ごめん。で、でも俺くんだって受け入れるつもりだっ
たでしょ!?﹂
⋮⋮反論できない。
俺﹁⋮⋮まああんな目で見られたらなぁ﹂
ラミア﹁⋮⋮私もあんな感じで見つめたら効果あるのかな﹂
俺﹁⋮⋮効果はあるな。蛇睨みだし、動けなくはなるだろう﹂
ラミア﹁私はメドゥーサじゃないよ!﹂
高等部βクラス
*****
門星学園
王女陛下を送るとのことでラミアとも別れ、教室に入るとタウロ
さんがバンダナにTシャツ、ズボンという佇まいでいた。⋮⋮馬用
のズボンってあったんだな。
603
タウロ﹁む?
俺くん、今日は休むのではなかったのか?﹂
俺﹁いやぁ、王女陛下に頼まれてしまって﹂
タウロ﹁ふむ⋮⋮そうか。じゃあ料理の方をしてくれないか?
俺
くんがいれば料理に不安はない。代わりに誰かをフロアに出すこと
になるが、まあ嫌がらないだろう﹂
俺﹁⋮⋮タウロさん、本当にチーフみたいだな﹂
そう言うとタウロさんは、暖簾をかけてからふふんと大きな胸を
張った。
タウロ﹁指揮官と呼んでくれても構わないぞ﹂
俺﹁考えときますよ﹂
俺くんどうした?﹂
俺はTシャツに着替え、頭に白いタオルとズボンになると厨房に
入った。
悪魔﹁ん?
俺﹁王女陛下の代理。フロアじゃなくて料理してくれって﹂
悪魔﹁なるほどな。んー、ヘカントケイル﹂
すると、悪魔に名前を呼ばれた多手の生徒は忌々しげに悪魔を見
た。
604
ヘカトンケイル﹁ヘカトンケイル﹂
悪魔﹁そ、そうか済まない。それでフロアの方に行ってくれないか
?﹂
こっちは人手足りてるし、俺くんが来てくれる
ヘカトンケイル﹁私が料理下手っていうなら⋮⋮﹂
悪魔﹁違う違う!
ならヘカトンケイルがフロアに居てくれた方が回転も良くなるんだ
よ。ほら、お前手多いだろ﹂
そう言われた彼女は、俺を一瞥すると6本のうちの一本の手で後
頭部を掻いた。
ヘカトンケイル﹁⋮⋮そういうことなら⋮⋮﹂
悪魔﹁悪いな﹂
俺﹁︵悪魔の仕業じゃないな、ほんと︶﹂
すると、衝立を隔てた向こう側からタウロさんの声が聞こえてき
た。
タウロ﹁じゃあそろそろ開店する⋮⋮﹂
そういや私も教室だったー!﹂
⋮⋮とにかくさっさと着替えろ。フロアだろ﹂
ラミア﹁間に合ったー!!
タウロ﹁遅いっ!!
ラミア﹁ふぇいふぇーい﹂
605
タウロ﹁では改めて、開店するぞ﹂
*****
教室の店はモノの数分で大繁盛となった。
悪魔﹁ところでどうして﹃居酒屋喫茶﹄なんて考えたんだ?
に酒屋ぐらいはどこの世界も知ってるだろ?﹂
流石
俺﹁俺の世界を知るためには、まずは居酒屋を知ることだからな。
例えば料理の種類が豊富だったり、接客の仕方が独特だったり﹂
まあ流石に学生だから酒は用意できないけど。
悪魔﹁⋮⋮よく分からないな﹂
俺﹁まあ普通は分からないだろうな﹂
衝立の向こうから、フロア担当のクラスメートたちが﹁らっしゃ
サラダ1!﹂
ーせー!!﹂という威勢の良い声を脇に聞きながら、俺はテーブル
に上がったタコの唐揚げを置いた。
続けざまにタウロさんの﹁4番テーブル唐揚げ3!
という声が上がり、俺たちも応えるように﹁はい喜んでー!!﹂と
叫ぶ。
?﹁あ、あの俺くん、運んでいい⋮⋮かな?﹂
鶏肉に下味をつけた衣をつけている途中、突如後ろから声をかけ
606
られた。
そこには、クラスメートである大人しめの女子が立っていた。見
た目はほぼ人間と変わらないが、全体的に地味目である。
大丈夫⋮⋮﹂
俺﹁いいよ、席番号分かる?﹂
?﹁う、うん!
俺﹁じゃあそこのチャーハンセット4番席にお願い﹂
?﹁わ、分かった!﹂
何やら緊張している様子。とはいえ、フロア担当である分頑張っ
てくれるのはありがたい。
⋮⋮それにしても地味な見た目の割に近くにいるだけでドキドキ
する。
俺﹁⋮⋮ふぅ、落ち着け落ち着け﹂
ふと、脇を見ると箸とフライパンが勝手に出し巻き卵を作ってい
る。
チャット
クラスメートであるポルターガイストは姿が見えない上に声が出
せないため、普段は会話する用に生徒手帳を使っている。まあ今回
は余裕がないためシンクの隅に置かれている。
⋮⋮ちなみに入学から一ヶ月、彼がクラスメートだと気付けなか
ったのは秘密だ。
607
55話 ﹁ヘカトンケイルは多肢です﹂︵後書き︶
ヘカトンケイル:
本来であれば頭50胴体3手100という訳分からん巨人なのだが、
今作においてはただ手がやや多いだけの人と思っていただければ。
608
56話﹁ポルターガイストは現象の一つです﹂
昼時のピークを過ぎ、俺たちもようやく賄いにありつけることがで
きた。
今回は俺がオムレツを数個ご馳走することにした。
タウロ﹁しかし、俺くんの料理は本当に美味いな﹂
俺﹁違うよ。偶然料理が口にあってくれただけだよ﹂
ラミア﹁俺くん、謙遜するの下手だなぁ﹂
別に謙遜のつもりとかはないんだけどな。レシピさえ分かれば皆
同じように作れるだろうし。
そもそも料理自体この学園に妹が来てから始めたから、まだまだ
素人同然だ
悪魔﹁それにしても本当に料理うまかったんだな﹂
俺﹁まあ普段、部屋でしか料理なんてしないし、そもそも自分のた
めに覚えた感じだからな﹂
料理的なカルチャーショックはこんなことも起こしてしまうので
ある。
悪魔﹁なるほど、勿体ねぇな。民宿でもすりゃあいいのに﹂
609
俺﹁︵俺たちの本分なんだよ︶﹂
流石に門星学園の生徒として生きるのが厳しくなるので勘弁して
もらう。
悪魔﹁ところで、俺くんというか皆に伝えたいことがある﹂
俺﹁?﹂
タウロ﹁なんだ?﹂
悪魔﹁食材の在庫がねぇ﹂
すると悪魔の言葉に補足するように、ポルターガイストが
そんなに売れてたの?﹂
﹃卵と調味料はともかく野菜と肉は切れ端ぐらいしかない﹄
と文字を打っていた。
ラミア﹁ええええっ!?
タウロ﹁ふむ、これは閉店が早くなりそうだな﹂
みんなが躍起になる中、俺は少し考え込んだ。
俺﹁⋮⋮﹂
タウロ﹁どうした?﹂
610
俺﹁いや、卵だけ残ってるのが気になって。つまり出汁巻きとか茹
で卵、卵かけ御飯を頼む客があまりいないんだよな?﹂
卵かけ御飯が異世界で人気ないのは理解できる。
卵は焼くものだという文化が根付いているところがほとんどのは
茹で卵ならば
ずである、生卵を食事として使うのは日本ぐらいだろう。
とはいえ、出汁巻きや茹で卵はなぜ人気がない?
他の世界でも知られていそうだ。
ラミア﹁⋮⋮だよねー。卵美味しいのに﹂
すると、ヘカトンケイルが意見を述べた。
ヘカトンケイル﹁⋮⋮地味だからじゃないか?﹂
俺﹁うん?﹂
ヘカトンケイル﹁いや、なんというか。見た目は確かに整っている
が⋮⋮使ってるものが卵だけとなるとなぁ。俺くんの世界では定番
なに俺くんの意見と卵にケチ入れちゃっ
なのかもしれないが、私から見ても唐揚げやネギトロを絶対選ぶと
思うな﹂
ラミア﹁キイイイッ!!
て!!﹂
いや、確かにそれは一理ある思う。
他の世界にも確かに卵はあるだろう。しかし、作られる料理とい
えばきっとオムレツのようなプレーンなものがほとんどだろう。
611
そして、それは多分まさしく味気ない副菜や箸休めといったもの
だと思う。
⋮⋮味気ないという印象を持つ卵をわざわざ注文するかと言われ
れば、確かに頼まないかもしれない。
一応卵をメイ
それなら、実際に味の少ない豆腐の方が売れるだろう。
お、俺くん!
俺﹁⋮⋮そうだな。少しメニューを変えよう﹂
ラミア﹁そんなっ!!
騙されちゃダメだよ!!﹂
ヘカトンケイル﹁騙すとは何だ﹂
俺﹁まあ卵を無駄にするわけにはいかないからね。
ンの料理にするよ﹂
なにこれ﹂
俺は、テーブルを立つとキッチンで野菜を乱切りにした。
⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
ラミア﹁⋮⋮?
悪魔﹁⋮⋮ケーキみたいだな、なんて言うんだ?﹂
俺﹁居酒屋の割にはオシャレかもしれないけど⋮⋮キッシュってい
う料理だよ﹂
まあ自室で作った時は妹に不評だったけどな。
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なんかナスとかカボチャが気に食わなかったらしい。
好き嫌いするな、瓜食え、瓜。
*****
結果は結構好評だった。
野菜がある分、料理を口にしてもらえやすくなったらしい。
ラミア﹁これを通じて、卵の素晴らしさに気づいてほしいな﹂
タウロ﹁悟るよりも働け﹂
それにしても、突然の新料理に対応できるクラスメートは凄いと
思う。
︵とはいっても、野菜を切ったり焼いてもらったりするくらいなの
だが︶
俺﹁しかし、なかなか疲れた﹂
料理は基本的に自発的にするものなので、長時間こうして作り続
けるのは大変だ。
まあ、フロアも大変なのだろうが。
俺﹁王女様、こんななか体力持ったの?﹂
悪魔﹁ああ、というか最後まで一番張り切ってたな。シャツ着て声
を上げて接客する王女さん、結構珍しい光景だったかもしれねぇな﹂
俺﹁まじで﹂
613
あの王女様が⋮⋮
﹁らっしゃーせぇっ!!﹂
﹁はい喜んでぇ!!!!﹂
⋮⋮想像出来ん。
とはいえ、考えてみると確かに本人の希望だった。
最初王女の意見を聞いた時は﹁王女様の白髪にカビが生えて緑っ
ぽくなるので止めてください﹂と止めた。
しかし、すると王女は﹁ならば、今週髪一本でも抜けたら今回の
件のストレスが理由と見てもよいですね﹂
と言われた。なんちゅう王女様だ。
もし、自発的に十円ハゲを超えてスキンヘッドにでもされたら責
任取れないので渋々承ったのだった。
まじか!﹂
悪魔﹁卵終わったぞ!﹂
俺﹁え?
どんだけ野菜に飢えてるんだよ、ここの生徒。
俺﹁あれ?⋮⋮っていうことは﹂
タウロ﹁ああ、終わりだ。まだ外で待ってる客にはサービスのオヤ
ツでも振舞っておこう﹂
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俺﹁そっか﹂
普通オヤツ如きで食い下がってもらえるとは思わないが、この世
界だとそんな心配はないのだろう。
まあいいが、私は送れ
そういえば、賄い用のキッシュがまだ残っていたな。
俺﹁なあ、これ包んでもいいか?﹂
タウロ﹁どうするんだ?﹂
俺﹁いや、王女様に御献上を﹂
タウロ﹁⋮⋮素直に土産とはいえないか?
ないぞ。このあと片付けがあるからな﹂
気をつけて
俺くんはただの助っ人のわけだし﹂
そういや片付けなきゃならなかったんだった。
悪魔﹁別にいいんじゃね?
タウロ﹁私は別に俺くんを止めるとは言っていない。
いけよ﹂
⋮⋮その格好で言うと、なんかお母さんみたいだな。
王宮前
*****
城下町
615
久しぶりに来たな。王女は、まだ会議だろうか。
門番﹁用件と名前、それから身分証明をしてもらいたい﹂
俺﹁用件は王女陛下に。名前は校則で言えませんが門星学園で人間
代表として生活しています。身分証明は⋮⋮生徒手帳でいいかな⋮
⋮﹂
手帳も本物の
俺は生徒手帳で身分証を見せると、快く門を開けてもらえた。
門番﹁クラスメートの方ならば問題ないでしょう。
ようですしね﹂
⋮⋮まあそうかもしれないな。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮
王宮に入り、メイドさんに連れられて王女の部屋の前に来る。
やはり本物の本物のメイドさんは気遣いが上手で、妹のクラスの
がお遊びだったと思う。
メイド﹁では私はこれで﹂
俺﹁あ、はい⋮⋮﹂
さてと、俺もさっさと物を渡すとするか。
しかし、俺はそこでやらかしてしまう。
俺はノックをせずに、ドアを開けてしまったのだ。
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王女﹁あぁもう会議疲れたー⋮⋮。もうやだおっさんの話疲れるし、
変な目で見られるし学園の方が数倍居心地がいいっての。毛でも抜
いてやろうかしら⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮﹂
王女﹁⋮⋮あ﹂
俺﹁⋮⋮﹂
ガチャ
⋮⋮なんか王女が⋮⋮愚痴ってた。
シャツとハーフパンツでベッドの上をダラダラと転がりながら。
⋮⋮改めて入ってみようか。今度はノックして。
俺﹁王女さま居ますか?﹂
王女﹁はい。どうぞ﹂
トイレノックにならないように気をつけながら、面接会場のよう
に部屋に入ると王女はドレスを着て紅茶を飲んでいた。茶菓子は俺
のあげた少し高めの銘菓である。
俺﹁⋮⋮あの、仕事終えました?﹂
王女﹁⋮⋮はい、おかげさまで﹂
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俺﹁⋮⋮あのこれ、お土産です﹂
王女﹁⋮⋮わざわざありがとうございます﹂
⋮⋮互いに気まずいな。
見られてたああああああ
ラチがあかないので、切り出すことにする。
俺﹁あの、さっきのって⋮⋮﹂
王女﹁うあああああああああっ!!!!
!!!﹂
突然王女は頭を抱えて、ベッドに倒れこんだ。頭のティアラがズ
レ落ちる。
私が猫被ってたこと黙っててって言ってるの!
王女﹁⋮⋮俺さん⋮⋮いや、俺くん⋮⋮このこと秘密にしてて⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮え?﹂
王女﹁だからぁ!
!﹂
俺﹁⋮⋮う、うん。分かった、分かりました﹂
そういえば、初めて王女に会った時もこんなんだったな。料理屋
でおっさんと口論になってて⋮⋮。
まあ、あの時はまず王女だとは気づいてなかったけど、度胸のあ
る女の子だとは思ってたなぁ。
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俺﹁⋮⋮王女って大変なんですね﹂
王女﹁⋮⋮まあね。だから、たまにはこうして発散してるわけだけ
ど⋮⋮﹂
俺﹁⋮⋮じゃあ邪魔しちゃ悪いので俺、帰ります﹂
王女﹁待ちなさい﹂
王女に引き止められ、少し歩を止めた。
王女﹁さもないと、あらぬことされたって言い回すわよ﹂
訂正、完全に歩を止めた。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n0121bx/
私立門星学園 ∼モンスターたちとの学園生活∼
2016年7月14日17時02分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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