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MRI|三菱総研倶楽部(2006年10月号) | 経済トピック:小泉改革の総
トピック 小泉改革の総仕上げ 歳出・歳入一体改革 歳出・歳入一体改革の具体策を盛り込んだ「骨太方針2006」が今年7 月に閣議決定され、財政再建への一定の道筋を示す内容となった。しか し歳出削減による対応が強く打ち出される一方で、増税など歳入改革 についての議論は、まだ明確には触れられていない。社会保障負担など の自然増、あるいは地方交付税の水準など、さまざまな視点から吟味が 必要だ。 政策・経済研究センター 主席研究員 後藤康雄 小泉政権が 5 年以上にわたって進めて 達成するかである。政府の試算では、歳 きた改革の総仕上げともいうべきものが、 出削減の努力を行わずに自然体で臨むと、 「歳出・歳入一体改革」 (以後、一体改革)で 経 済 ト ピ ッ ク ある。一体改革とは、財政再建に向けて、 16.5 兆円の赤字となる。これを黒字化 歳出削減と歳入増(増税)に同時に取り するため、少なくとも 11.4 兆円は歳出 組もうとする改革である。歳出削減につ 削減によって対応するとしている。従っ いては、公共事業の削減などの具体策が て、残りの 2 ∼ 5 兆円が国民負担の増加 議論された。一体改革は、6 月下旬に政 に相当する。これは消費税率で 1 ∼ 2% 府と与党の調整を終え、7 月の「骨太方 の規模になる。 針 2006」において閣議決定がなされた。 財政再建への中期的な道筋 一体改革では、2011 年度のプライマ リーバランス 後藤康雄 専門分野:マクロ経済・金融 28 2011 年度のプライマリーバランスは ※1 の黒字化が目標とされ、 一体改革で打ち出された方針は、複数 年度にわたる財政再建の道筋をつけた点 で、一定の評価ができる。その一方で、 いくつかの論点もある。まず試算の根拠 である。税収見積もりを例に挙げると、 そこに至る道筋に力点が置かれた。一体 政府の試算では税収の GDP 弾性値(= 改革は、こうした中期的なプランとなっ 税収の伸び率÷名目 GDP の伸び率)を ている点が大きな特徴である。小泉政権 1.1 と、やや低めにおいているようにも 下での改革期間(2001 ∼ 2006 年度) みえる。消費税のように国民生活に大き を財政健全化第 1 期、2007 ∼ 2010 く影響する制度変更に際しては、試算の 年代初頭をプライマリーバランス黒字化 慎重な吟味が求められる。 達成のための第 2 期、2010 年代初頭∼ また、歳出削減が必要な額は「国と地 2010 年代半ばを債務残高の対 GDP 比 方合計の SNA ベースの数値」となって 率を安定的に引き下げることを目標とし いる。ここで想定される歳出が、具体的 た第 3 期と位置づけている。 に国・地方予算のどの項目にあたるのか、 ※2 当面の焦点は、第 2 期の目標であるプ 明確になっていない。少なくとも財政関 ライマリーバランス黒字化をどのように 係者以外にはわかりにくい。国と地方の ※1 国債関連の収支を除いた財政収支の中核的な部分。基礎的収支 とも呼ぶ。 ※2 一国の経済状況について、 フローやストックなど総合的・体系的 に記録するための国際的な基準のこと。 Vol. 3 _ No. 10 _ 2006 . 10 うち、従来通り国の予算を中心に削減を 然増で 7,700 億円と見込まれる増加額 図るのか、それとも既にプライマリーバ から、景気回復により抑制可能とする失 ランスが黒字化している地方財政にもメ 業給付や生活保護の見直しなどで 2,200 スを入れるのか、現時点では不明確な要 億円を削減し、5,500 億円の増額で決着 素も多い。また、歳出・ “歳入”一体改革と した。公共事業はこれまで通り前年度比 なっている割には、歳入改革についての ▲ 3%程度の削減となっている。07 年 議論は少ない。このあたりも今後詰めて 度予算編成作業は始まったばかりだが、 いく必要がある。 どうやら一体改革の内容を相当程度、あ るいは想定されていた以上に織り込む形 一体改革を織り込んだ 予算編成がスタート で進んでいきそうである。 ただし、07 年度予算では、少子化対策 一体改革の決定を受け、2007 年度予 費や米軍再編にかかるコストはこれと別 算の「概算要求基準」が決定された。こ 枠で手当てされる。特に後者のボリュー れをもとに来年 3 月の予算成立に向けて ムいかんでは、総額でかなりの増加とな 各省庁と財務省の間で折衝が行われるた る可能性も残されている。さらに、ここ め、概算要求基準は 07 年度予算のキッ では明らかにはなっていない地方交付税 クオフ的な意味を持つ。中身をみると、 の水準によっても予算の仕上がりの姿は 一体改革における第 2 期の初年度に当た 大きく変わってくる。一般歳出が絞り込 ることもあり、過去 5 年と変わらぬペー まれる中で、地方交付税をいかに改革で スでの削減、抑制を行う内容となってい きるかが今後の歳出削減を図る上で重要 る。さらに詳しくみると、社会保障にか 度を増してくる。財政再建に向けてはこ かわるコストの抑制がまず目を引く。自 れからも気を抜けない正念場が続く。 図表 歳出・歳入一体改革における今後5年間の歳出改革の概要(国・地方合算SNAベース) 2011年度 2006年度 自然体 改革した場合 改革による削減額 社会保障 31.1兆円 39.9兆円 38.3兆円 ▲1.6兆円程度 人 件 費 30.1兆円 35.0兆円 32.4兆円 ▲2.6兆円程度 公共投資 18.8兆円 21.7兆円 16.1∼17.8兆円 ▲5.6∼▲3.9兆円程度 その他分野 27.3兆円 31.6兆円 27.1∼28.3兆円 ▲4.5∼▲3.3兆円程度 合 計 107.3兆円 128.2兆円 113.9∼116.8兆円 ▲14.3∼▲11.4兆円程度 国民負担増加による要対応額 16.5兆円 2.2∼5.1兆円 資料:経済財政諮問会議「経済財政運営と構造改革に関する基本指針 2006」 Vol. 3 _ No. 10 _ 2006 . 10 29 経 済 ト ピ ッ ク