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第4節 総合的な食料安全保障の確立(PDF:2032KB)

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第4節 総合的な食料安全保障の確立(PDF:2032KB)
第4節 総合的な食料安全保障の確立
第4節 総合的な食料安全保障の確立
(1)2011/12 年度の食料需給
(穀物の生産量は史上最高の水準)
2011/12 年度 1 における世界の穀物全体の生産量は、収穫面積の増加等により、小麦、
とうもろこし、 米でそれぞれ増加したことから、 前年度を上回り、 史上最高の 23 億 t と
なる見込みです(図2− 34)。一方、需要量は、食用、エタノール原料用の堅調な需要に
加え、飼料用需要も増加し、生産量に近い 23 億 t となる見込みとなっています。
期末在庫率 2 は 20.3%と、 国際連合食糧農業機関(FAO) の安全在庫水準 3 (穀物全体
で 17 ∼ 18%)を上回るものの、前年度の水準(20.8%)を下回る見込みとなっています。
図2−34 世界の穀物全体の生産量、需要量、期末在庫率の推移
億t
24
22
20
安全在庫水準
(全穀物 17 ∼ 18%、右目盛)
生産量
23.0
%
100
23.0
80
18
16
14
60
需要量
期末在庫率(右目盛)
12
20.3
40
20
10
0
1970/71 年度
80/81
90/91
2000/01
資料:米国農務省「Production, Supply and Distribution Database」
(PS&D)を基に農林水産省で作成
注:穀物全体は、小麦、粗粒穀物(とうもろこし、大麦、ソルガム等)
、米(精米)の計
0
11/12
(期末在庫率の低下により、穀物等の需給はひっ迫基調)
品目別に需給の状況をみると、小麦については、旧ソ連諸国で前年度の干ばつによる減
産からの回復、インド、豪州等で豊作となること等から、世界全体の生産量は史上最高と
なる見込みです。一方、需要量は、とうもろこし価格の高騰により飼料用としての代替需
要の増加や堅調な食用需要により増加するものの、生産量を下回ると見込まれています。
この結果、期末在庫量は増加し、期末在庫率も上昇する見通しです。
とうもろこしについては、米国、アルゼンチンでの夏期の高温・乾燥等による減産はあ
るものの、中国、ウクライナ等で天候に恵まれ豊作となること等から、世界全体の生産量
は史上最高となる見込みです。一方、需要量は、中国の堅調な飼料用需要等から増加し、
生産量を上回ると見込まれています。この結果、期末在庫量は減少し、期末在庫率も低下
する見通しです。
1 おおむね各国で作物が収穫される時期を期首として国ごとに設定されている市場年度を指す。国、作物によって年
度の開始・終了月は異なる。例えば、米国の小麦では 2011/12 年度は平成 23(2011)年6月∼平成 24(2012)
年5月を指す。
2 総需要量に対する期末在庫量の割合
3 FAO が昭和 49(1974)年に定めた基準で、世界の食料安全保障について、
安全な状態を確保するのに必要な最低水準。
作物別では、小麦 25 ∼ 26%、粗粒穀物(とうもろこし等)15%、米 14 ∼ 15%
156
世界全体の生産量は増加し、史上最高となる見込みです。一方、需要量はインド、中国等
第1部
米については、インド、中国等のアジア諸国で単収や収穫面積が増加すること等から、
で増加すること等から史上最高となるものの、生産量を下回ると見込まれています。この
結果、期末在庫量は増加するものの、期末在庫率は前年度並みとなる見通しです。
大豆については、米国や南米の高温・乾燥による減産等から、世界全体の生産量は減少
する見込みです。一方、需要量は中国等で搾油用需要が増加すること等から、世界全体で
は増加が見込まれています。この結果、期末在庫量は減少し、期末在庫率も低下する見通
しです。
(再び高騰局面にある穀物等の国際価格)
穀 物、 大 豆 の 国 際 価 格 は、 輸 出 国 の 輸 出 規 制 等 に よ り 過 去 最 高 水 準 と な っ た 平 成 20
(2008)年夏以降、高水準ながら落ち着いた動きをみせていました(図2− 35)。しかし
ながら、平成 22(2010)年夏以降、ロシアでの干ばつによる小麦の減産等により穀物等
の価格は再び上昇し、とうもろこしについては、平成 23(2011)年6月に史上最高値を
更新しました。その後、米国での高温乾燥による穀物等の単収減の懸念等により価格は高
値で推移しましたが、9月以降、世界経済の減速懸念や他産地との競合により低下しまし
た。米については、6月以降、タイで担保融資制度(実質的な国の買上げ制度)が再導入
されたこと等により価格は上昇したものの、その後、安価なインド産米等へ需要がシフト
したことから低下しました。
ドル /t
1,000
941 16.6
16
米(右目盛)
14
12
10.9
小麦
10
8
13.3
574
大豆
5.4
6.7
7.5
6
4
2
600
400
6.6
290
200
3.1
2.1
0
平成 17 年
(2005)
800
とうもろこし
18
(2006)
19
(2007)
20
(2008)
21
(2009)
22
(2010)
23
(2011)
0
24
(2012)
資料:シカゴ商品取引所、タイ国貿易取引委員会資料を基に農林水産省で作成
注:1)小麦、とうもろこし、大豆は、シカゴ商品取引所(CBOT)の各月第1金曜日の期近価格
米は、タイ国貿易取引委員会公表による各月第1水曜日のタイうるち精米 100%2等の FOB 価格
2)1bu(ブッシェル)は、大豆、小麦は 27.2155kg、とうもろこしは 25.4012kg
157
第2章
図2−35 穀物等の国際価格の推移
ドル /bu
18
第4節 総合的な食料安全保障の確立
FAO が 算 出 し て い る 食 料 価 格 指 数 1 (平 成
図2−36 FAO食料価格指数の推移
(平成14(2002)∼16(2004)年=100)
14(2002) ∼ 16(2004) 年 = 100) は、
指数
平成 23(2011) 年2月に過去最高値を更新 250
し、237.9 と な り ま し た(図 2 − 36)。 そ の
237.9
224.4
後は低下傾向で推移していますが、価格が大 200
きく上昇した平成 20(2008) 年を上回って
推移しています。この結果、平成 23(2011) 150
年 の 年 間 指 数 は 平 成 2(1990) 年 の 集 計 開
100
始以来過去最高値(227.6)となりました。
87.8
50
平成 12 年
(2000)
17
(2005)
22
23
(2010)(2011)
資料:FAO「Food Price Index」
(2)国際的な食料需給をめぐる動向
(バイオ燃料生産の拡大による食料需要との競合)
近年の原油価格の高騰、国際的な地球温暖化対策、エネルギー安全保障への意識の高ま
り等を背景に、世界各国でバイオ燃料の生産が拡大しています。
平 成 22(2010) ∼ 32(2020) 年 の 10 年 間 に お い て、 バ イ オ エ タ ノ ー ル の 生 産 量 は
ブラジル、バイオディーゼルは EU(27) 2 で大きく増加し、それぞれ 1.6 倍、2.1 倍とな
る見通しとなっています(図2− 37)。農産物のバイオ燃料向けの需要は平成 32(2020)
年には、 世界の穀物生産の 13%、 植物油生産の 15%、 さとうきび生産の 30%を占める
と見込まれ 3 、国際食料需給への影響が懸念されます。
図2−37 バイオ燃料生産量の推移と見通し
(バイオエタノール)
インド
中国
百万 kL
160
(バイオディーゼル)
155
その他
百万 kL
45
ブラジル
アルゼンチン
131
その他
EU(27)
120
31
30
99
米国
80
48
インド
米国
20
15
40
ブラジル
0
平成 17 年
(2005)
22
(2010)
27
(2015)
32
(2020)
EU(27)
5
0
平成 17 年
(2005)
22
(2010)
27
(2015)
資料:OECD-FAO「Agricultural Outlook 2011-2020」を基に農林水産省で作成
1 穀物、食肉、砂糖、乳製品、油脂類(植物及び動物由来)の国際取引価格を基に算出した指数
2 平成 24(2012)年3月現在、EU に加盟している 27 か国
3 OECD-FAO「Agricultural Outlook 2011-2020」
158
42
32
(2020)
食料需給のひっ迫や食料価格高騰の際には、輸出規制により、自国内の食料安定供給を
第1部
(各国における輸出入規制等の動き)
優先させる傾向がみられます(図2− 38)。平成 22(2010)年にはロシアが干ばつによ
る穀物の減産から8月以降の小麦、大麦、とうもろこし等の輸出禁止措置を実施し、その
後、ウクライナやカザフスタンといった国においても穀物や油糧種子について輸出枠の設
定や輸出禁止といった措置が実施されました。その後、平成 23(2011)年に入り、穀物
の生産が回復してきたことにより、当該規制措置を緩和する動きがみられます。
図2−38 農産物の輸出規制の状況
【ベラルーシ】
なたね等:輸出禁止
(2010 年9月∼)
【ヨルダン】
砂糖、米(2008 年∼)、
小麦等:ライセンス制導入
(2010 年∼)
【ネパール】
米、小麦:輸出禁止(2008 年4月∼)
豆類:輸出禁止(2009 年7月∼)
【レバノン】
小麦 : 輸出禁止
(2010 年8月∼)
【バングラデシュ】
米等:輸出禁止
(2008 年5月∼)
【モロッコ】
小麦、米等:輸出
ライセンス制導入
(2008 年7月∼)
【ミャンマー】
米:輸出許可制
(2008 年∼)
【台湾】
米:輸出許可制
(2008 年4月∼)
【ラオス】
米:輸出許可制
(2010 年∼ )
【ナイジェリア】
とうもろこし:
輸出禁止
(2008 年∼)
とうもろこし:
輸出禁止
(2008 年9月∼)
【フィリピン】
米、とうもろこし:
輸出許可制(2005 年∼)
【インド】
食用油:輸出禁止
(2008 年3月∼)
米、小麦:輸出枠設定
(2011 年9月∼)
資料:農林水産省作成
注:平成 24(2012)年3月 15 日現在
【インドネシア】
米:輸出禁止
(2008 年4月∼
09 年3月、
2009 年 7 月∼)
第2章
【タンザニア】
砂糖:輸出禁止
(2011 年9月∼) 【ケニア】
【エジプト】
砂糖:輸出禁止
(2010 年 11 月∼)
米:輸出許可制と
輸出税賦課を実施
(2009 年2月∼)
【ボリビア】
小麦等:輸出禁止等
(2008 年2月∼)
【アルゼンチン】
小麦、とうもろこし、
大豆、牛肉等:輸出枠
設定、輸出税賦課等
は輸出禁止、 は輸出税の賦課、輸出枠設定等
穀物の価格高騰への対応策として、穀物等の輸入関税の引下げ等の動きもみられます。
EU では、 ロシアの穀物輸出禁止以降、飼料用穀物の価格高騰を防ぐため、とうもろこし
の輸入関税の賦課の一時停止(平成 22(2010)年8月)や小麦・大麦の輸入割当枠内の
関税賦課の一時停止(平成 23(2011)年2月)を実施しています。また、インドネシア、
モロッコ、韓国、ロシア等においては、平成 23(2011)年に穀物等の輸入関税の一時的
な引下げや輸入関税賦課の一時停止等の措置がとられました。
一方、アフリカやアジア等の途上国を中心に、食料価格の高騰も一因となった抗議行動
や暴動等が相次いで発生しました(図2− 39)。平成 22(2010)年末から北アフリカや
中東で発生した大規模反政府デモや抗議活動(アラブの春)についても、食料価格の高騰
が発生の一因となったとみられています。
159
第4節 総合的な食料安全保障の確立
図2−39 食料品価格高騰を一因とする各国の抗議運動や暴動
チュニジア
2010 年 12 月
ヨルダン
2011 年2月
イラク
2011 年2月
インド
2010 年 12 月
ボリビア
2011 年3月
アルジェリア
2011 年 1 月
エジプト
2011 年 1 月
資料:農林水産省作成
(国際的な食料価格高騰への対応)
平成 23(2011) 年 6 月 22 ∼ 23 日、 フ ラ ン スのパリで開催された G20 農業大臣会合
において、食料安全保障の確保を目的とした食料・農産物価格の乱高下への対処について
議論され、G20 による具体的な取組を盛り込んだ「食料価格乱高下及び農業に関する行動
計画」が合意されました。この行動計画では、各国が食料の生産、消費、在庫情報を共有
する「農業市場情報システム(AMIS 1 )」や過度な食料価格変動の際の対応を策定する「迅
速対応フォーラム」等を立ち上げるとともに、地域における緊急人道備蓄の可能性の検討
等に取り組むこととされました。
これを受けて平成 23(2011)年 11 月3∼4日に開催された G20 カンヌ首脳会議では、
この行動計画の実現に向け各国が協力することが合意されました。
(中長期的にみた食料需給見通し)
農林水産省(農林水産政策研究所) が予測分析した、「2021 年における世界の食料需
給見通し」では、「総人口の継続的な増加、所得水準の向上等に伴う新興国・途上国を中
心とした食用・飼料用需要拡大に加え、緩やかに増加するバイオ燃料原料用需要も要因と
なり、農産物需要は増加が見込まれ」、「世界の食料需給は、今後も穀物等の需要が供給を
やや上回る状態が継続し、食料価格は高値圏で、かつ伸びは逓 減 するものの上昇傾向で推
移する」としています。
主要品目別の価格の動向をみると、 平成 21(2009) ∼ 33(2021) 年までの間の実質
価格の増加率は、米(2%)や小麦(5%)に比べて、肉類(6∼ 12%)、脱脂粉乳(24
%)、植物油(34%)、バター(39%)等が高くなると見込んでいます(表2− 10)。
穀物の需給見通しを地域別にみると、各地域とも生産量は増加する見通しとなっていま
1 AMIS は、Agricultural Market Information System の略
160
この結果、これらの地域では、純輸入量が拡大し、食料の偏在化傾向は引き続き拡大する
第1部
すが、アジア、アフリカ、中東地域においては、生産量は消費量の伸びを下回っています。
としています(図2− 40)。
表2− 10 主要品目別の価格見通し
平成 21(2009)年
(基準年)の価格
品目
小麦
とうもろこし
米
その他穀物
大豆
植物油
牛肉
豚肉
鶏肉
バター
脱脂粉乳
チーズ
(単位:ドル / t(耕種作物)、ドル /100㎏(畜産物)
)
平成 33(2021)年(目標年)
実質価格
233
173
598
162
404
950
289
143
188
329
291
388
244
190
610
173
439
1,270
306
159
212
457
362
413
名目価格
増加率(%)
5
10
2
7
9
34
6
11
12
39
24
6
増加率(%)
24
31
54
36
29
64
52
31
33
87
67
43
290
226
922
221
521
1,557
439
188
251
615
487
555
資料:農林水産政策研究所「2021 年における世界の食料需給見通し」
(平成 24(2012)年2月公表)
注:1)平成 21(2009)(基準年)は平成 20(2008)∼ 22(2010)年の3か年平均
2)目標年における名目価格については、小麦、とうもろこし、大豆、植物油のうち大豆油、豚肉、鶏肉は米国、
その他穀物、その他植物油はカナダ、米はタイ、牛肉は豪州、乳製品はニュージーランドの消費者物価指数(い
ずれも IMF による)を用いて算出
第2章
図2−40 穀物の地域別需給の見通し
(生産量及び消費量)
(生産量)
(消費量)
389
434
556
265
358
437
北米
127
172
233
33
37
51
中南米
オセアニア
765
899
1,071
139
184
239
11
平成
16
20
797
アジア
54
56
69
172
422
492
107
150
197
(貿易量(純輸出入量))
(純輸入量)
(純輸出量)
12
9
6
9(1997)年
81
100
129
173
368
433
欧州
アフリカ
138
205
281
120
中南米
22
20
32
オセアニア
平成 21(2009)年
934
1,135
中東
96
98
北米
53
56
62
平成 33(2021)年
アジア
45
28
59
中東
欧州
58
83
0
51
59
34
アフリカ
80
40
0
1,000 1,500 120
0
40
百万 t
資料:農林水産政策研究所「2021 年における世界の食料需給見通し」
(平成 24(2012)年2月公表)
注:純輸出入量には、地域内の貿易量は含まない。
1,500 1,000
500
0
0
500
80
120
百万 t
また、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界食糧計画(WFP)の
共同報告書によると、世界の食料価格が今後も高止まりし不安定な状況が続くとしていま
す 1 。 また、 新興国での消費拡大や世界の人口増加等により、「食料のさらなる需要増が
見込まれる」としており、特に食料を輸入に依存するアフリカ等の貧困層が大きな影響を
受けるとしています。
1 FAO、IFAD、WFP「The State of Food Insecurity in the World 2011」
161
第4節 総合的な食料安全保障の確立
コラム 国際機関等による食料需給見通し
穀物をはじめとする農産物の需給見通しについては、各国際機関が世界の食料需給見通
しを公表しています。これらの見通しのモデルについては、すべての農作物で平年作が続
くことが前提となっています。
また、見通しには、輸出国の立場、各国の農業政策、途上国の食料問題への関心等がそ
れぞれ反映されています。我が国では農林水産省(農林水産政策研究所)が食料輸入国の
立場から、同様に食料輸入国であるアジア各国の需給分析を強化して、我が国独自に将来
の食料需給を見通し、世界の食料事情の変化に対応した新たな食料戦略の検討に活用して
います。
機関名
公表資料名(公表年月)
見通しの目的
見通しの概要
米国の農業政策に要する
コストを予測するととも
USDA Agricultural
に、米国の中期的農産物
Projections to 2021
貿易動向を予測するため
(平成 24(2012)年2月)に、米国農産物市場を中
心に中期的な食料需給見
通しを実施
2021 年 に お い て も、 米
国のとうもろこし、大豆
等の輸出量は増加するも
の の、 南 米、 旧 ソ 連 諸
国、EU 等の増加により、
世界全体の輸出量に占め
るシェアは低下する見込
み。国際農畜産物価格に
ついては公表せず。
各国の農業政策が世界の
経済協力開発機構
OECD-FAO
農産物需給に与える影響
(OECD)及び
Agricultural Outlook について分析することを
国連食糧農業機関
(平成 22(2010)年6月)目的として中期的な世界
(FAO)
食料需給見通しを実施
2019 年 に お け る 小 麦 と
粗粒穀物の平均価格は、
1997 ∼ 2006 年に比べ実
質ベースで 15 ∼ 40%上
昇、 植 物 油 は 40 % 以 上
の上昇となる見込み
Global agriculture
世界の食料、栄養不足等
towards 2050
の諸問題を検討するため
国連食糧農業機関
(How to Feed the World に、世界の食料供給、栄
(FAO)
in 2050)
養、農業等について長期
(平成 21(2009)年 10 月)的な見通しを実施
2050 年に 90 億人以上とな
る世界人口を養うために
は、2005 ∼ 2007 年 に 比
べ世界全体で食料生産を
70%、開発途上国では倍増
する必要があり、年間生産
は穀物で約 30 億 t、食肉
で4億7千万 t とする必要
米国農務省
(USDA)
資料:農林水産省作成
今後の長期的な食料需給を需要面からみた場合、昭
和 25(1950) 年 に 25 億 人 で あ っ た 世 界 の 人 口 は、
昭和 62(1987)年に 50 億人、平成 11(1999)年に
図2−41 世界人口の推移
億人
80
60 億人と途上国 を 中 心 に 増 加 を 続 け、 国連人口基金
(UNFPA) の推計によると、 平成 23(2011) 年 10 月
に 70 億人を超えたとしています(図2− 41)。 今後
も人口の増加傾向は続き、平成 62(2050)年に 93 億人、
平 成 112(2100) 年 ま で に 100 億 人 を 上 回 る と し て
60
40
20
1
います 。
世界の人口の増加が続く中、栄養不足人口 2 は平成
22(2010)年には全人口の 13%を占める9億3千万
人となっています。前年より改善されましたが、世界
0
1800年
1850
1900
1950
2011
資料:国連人口基金「State of World
Population 2011」
食料サミット(平成8(1996) 年) において平成 27
1 国連人口基金「State of World Population 2011」
2 FAO において「食物から摂取する熱量が、軽労働に従事した際の一定の体格の維持を前提として、国や民族ごとに
算出される基準値よりも低い状態にある人々の数」と定義
162
と呼ばれる地域では、平成 22(2010)
す(図2− 42)。アフリカ東部の「アフリカの角 1 」
第1部
(2015)年までに4億2千万人に削減するとした目標に対し、依然として高水準にありま
年後半からの干ばつによって重大な食料危機が発生しました。特にソマリアでは飢 饉 とい
う深刻な事態に陥り、多くの人々が飢 餓 に苦しみ、難民・避難民が増大しました。この地
域を含め、 対外的な支援を必要としている国は、平成 23(2011)年 12 月現在で 33 か国
となっています 2 。
図2−42 世界の栄養不足人口の推移
億人
12
世界人口に占める
栄養不足人口割合(右目盛)
14
14
13
15
%
13
10.2
10
8
9.3
7.9
8.4
8.5
15
世界食料サミット
(1996 年)における
削減目標
10
6
栄養不足人口
4.2
5
4
2
0 平成7∼9年
12∼14
18∼20
(1995∼97) (2000∼02) (2006∼08)
21
(2009)
22
(2010)
27
(2015)
0
また、世界的な金融危機による世界経済の低迷後、先進国を中心に経済成長にぜい弱性
がみられる一方、長期的にみれば新興国・途上国においては、経済成長が続き所得も上昇
するとみられ、畜産物、油脂類、水産物に対する需要は、食文化や気候・風土等で違いは
あるものの増加する傾向にあると考えられています。
一方、供給面からみた場合、品種改良や化学肥料の投入、かんがい施設の整備、遺伝子
組換え作物の導入による密植栽培等により単収の向上が見込まれるものの、途上国の工業
化に伴う優良農地の減少や、新たな農地の開拓による森林伐採等の自然環境への負荷に対
する配慮といった農用地の面的拡大への制約、農産物が収穫後に相当失われているといっ
た課題もあります。
これまで、単収の向上により生産量の増加が支えられてきましたが、近年、単収は伸び
悩んでいます(図2− 43)。さらに、地球温暖化、資源の枯渇、土壌劣化、水資源の制約
等不安要素も多く存在しています。
このように、世界の農産物需給は不安定性を有しており、場合によってはひっ迫する可
能性もあります。このため、これらの需給変動要因の影響についても注視していく必要が
あります。
1 エチオピア、エリトリア、ジプチ、ソマリア、ケニアが含まれる地域
2 FAO「Crop Prospects and Food Situation」
163
第2章
資料:FAO「The State of Food Insecurity in the World 2010,2011」
、
「Hunger Statistics」
、国連「World Population
Prospects:The 2010 Revision」を基に農林水産省で作成
第4節 総合的な食料安全保障の確立
図2−43 穀物の収穫面積、単収等の推移
指数
a /人
300
25
279.0
1 人当たりの収穫面積(右目盛)
生産量
21.0
250
255.0
20
200
単収
15
150
10.0
10
100
100
109.2
収穫面積
50
昭和 35 年度
(1960)
45
(1970)
平均単収(t/ha)1.42
55
(1980)
1.82
平均単収伸び率(年率)
平成2
(1990)
2.21
2.52%
2.01%
0
23
(2011)
12
(2000)
2.60
1.64%
2.97
1.33%
資料:米国農務省「PS&D」、国連「World Population Prospects:The 2010 Revision」を基に農林水産省で作成
注:生産量、単収、収穫面積は、昭和 35(1960)年度=100 とした指数。平均単収は 10 か年における単収の平均
(3)農産物貿易の動向
ア 世界の農産物貿易の動向
(世界の農産物貿易は拡大傾向)
世界の農産物の輸出額は、南米における大豆、牛肉、コーヒー等の輸出増加等、農産物
の輸入額はアジア、アフリカにおける大豆やとうもろこしの輸入増加等により拡大傾向に
あります(図2− 44)。また、北米、南米、オセアニアの輸出地域と日本をはじめとする
アジアやアフリカ等の輸入依存地域の二極化が鮮明になってきています。
図2−44 世界の農産物貿易額の推移
︵輸入額︶
億ドル
5,000
4,213
4,000
2,786
3,000
2,000
平成 12 年
(2000)
1,693
343
463
︵輸出額︶
2,000
226
544
1,642
257
53
0
1,000
平成2年
(1990)
1,028
852
1,000
32
127
170
360
1,070
1,322
156
119
869
532
387
342
184
平成 7 年
(1995)
1,549
3,000
4,000
平成 21 年
(2009)
588
平成 17 年
(2005)
4,114
5,000
EU(27)
アジア
北米
南米
資料:FAO「FAOSTAT」
注:1)EU(27)は域内貿易を含む。
2)折れ線グラフは純輸入額または純輸出額を示す。
164
オセアニア
アフリカ
その他
においては、平成 10(1998)年以降、輸出超過額は一貫して増加を続けており、世界最
大の輸出地域となっています。
表2− 11 主要農産物と鉱工業製品の
貿易率
一方、アジアやアフリカにおいては、人口
増加や経済成長に伴う消費ニーズの高度化・
生産量
多様化等を背景に需要が増加しているもの
の、国内生産が需要増に追いつかないことか
ら、北米、南米、オセアニアからの輸入依存
(単位:百万t、%)
輸出量
貿易率
米
451.1
34.1
7.6
小麦
651.6
131.8
20.2
大豆
264.2
92.0
34.8
を強めています。アジアやアフリカ等の開発
とうもろこし
827.5
90.5
10.9
途上国では、今後も所得水準の上昇に伴って
牛肉
57.0
7.8
13.6
農産物の需要が増大すると見込まれます。
豚肉
102.7
6.0
5.9
原油
39.9
21.5
53.7
4,768 万台
1,637 万台
34.3
また、農産物は、米国、豪州、ブラジル等
の輸出国を除いて、基本的にはそれぞれの生
産国の国内消費に仕向けられ、その余剰が貿
易にまわされる傾向にあり、農産物は工業製
品と比較して劣化しやすいことから、生産量
に占める貿易量の割合は低い傾向にあります
第1部
南米、北米、オセアニアでは農産物輸出額が輸入額を上回って推移していますが、南米
乗用車
資料:米国農務省「PS&D」
、IEA「Key World Energy Statistics 2011」
、
(社)日本自動車工業会調べを 基に農林水産省で作成
注:1)農産物は 2010/11 年度の数値
2)原油、乗用車は平成 21(2009)年の数値
3)貿易率=輸出量/生産量× 100
4)乗用車の輸出量は主要国の輸出量
(台数)の計
(表2− 11)。
(海外依存を強める我が国の農産物輸入)
平成 23(2011)年の我が国の農林水産物輸出額は、前年より8%減少して 4,511 億円、
農林水産物輸入額は、前年より 13%増加し8兆 652 億円となっています。この結果、農
林水産物の貿易収支は、7兆 6,141 億円の輸入超過(前年より 15%増加)となりました。
農産物の輸入額は5兆 5,842 億円となっています。
国民が求める多様な食生活を実現する中で、需要が拡大した畜産物や油脂類の生産に必
要な飼料穀物や大豆等の油糧種子のほとんどを輸入に依存している状況にあります。
(世界の農産物輸入における我が国の位置付け)
世界の農産物貿易額が増大する中で、世界の農産物輸入額に占める我が国の割合も高ま
っています。世界の人口に占める我が国の割合は、平成 21(2009)年で2%ですが、世
界の農産物輸入に占める割合(金額ベース)は 5%を占め、世界第5位となっています 1 。
代表的な品目でみると、とうもろこし、豚肉、家きん肉がそれぞれ 17%、15%、11%と
いずれも世界第1位となっており、 大豆は中国に次いで第2位となっています(図2−
45)。
1 FAO「FAOSTAT」
165
第2章
イ 我が国の農産物貿易の動向
第4節 総合的な食料安全保障の確立
図2−45 主要農産物の輸入国別割合(平成21(2009)年)
(とうもろこし)
(大豆)
スペイン
3.6%
その他
28.6%
日本
16.5%
その他
65.5%
輸入額
225
億ドル
(豚肉)
日本
10.5%
日本
15.0%
輸入額
360
億ドル
韓国 7.3%
メキシコ
6.4%
(家きん肉)
その他
53.2%
中国
55.1%
メキシコ
中国 3.9%
4.3%
日本 4.8%
ドイツ 4.0%
輸入額
334
億ドル
ドイツ
9.4%
英国
9.1%
その他
61.2%
輸入額
244
億ドル
英国
9.4%
ドイツ
7.9%
オランダ
5.8%
イタリア
7.2%
ロシア 6.0%
香港 5.1%
資料:FAO「FAOSTAT」
主要国の農産物貿易の状況をみると、 米国、EU 加盟国等では輸出入額ともに多くなっ
ています。 我が国は平成 21(2009) 年には、 農産物輸出額は 30 億ドル、 輸入額は 505
億ドルであることから、 輸入額から輸出額を差し引いた農産物純輸入額は 474 億ドルと
なり、昭和 59(1984)年以降引き続き世界最大の農産物純輸入国となっています(図 2
− 46)。
図2−46 我が国と主要国の農産物輸出入額及び純輸出入額(平成21(2009)年)
億ドル
800
︵輸入額︶
600
505
509
577
480
394
400
267
200
0
784
738
272
151
30
︵輸出額︶
200
75
220
400
97
31
46
296
99
69
600
243
128
157
325
334
451
93
83
60
212
219
205
266
311
530
575
636
743
800
1,000
1,011
ブラジル
オランダ
アルゼンチン
米国
タイ
豪州
インドネシア
フランス
カナダ
スペイン
インド
スイス
スウェーデン
イタリア
ドイツ
韓国
ロシア
中国
英国
日本
1,200
66
16
資料:FAO「FAOSTAT」を基に農林水産省で作成
注:1)EU 加盟国の輸入額、輸出額は EU 域内の貿易額を含む。
2)折れ線グラフは純輸入額または純輸出額を示す。
(米国等特定国への依存度が高い我が国の農産物輸入)
我 が 国 の 農 産 物 輸 入 額 を 輸 入 相 手 国・ 地 域 別 に み る と、 米 国 が 26% を 占 め、 次 い で
ASEAN 1 17%、EU 15%、中国 11%、豪州7%、カナダ6%となっており、この上位6か
国・地域で農産物輸入額の8割を占めています。
品目別にみると、とうもろこしや大豆等輸入金額の多い農産物は特定国への依存傾向が
顕著となっており、上位2か国で8∼9割を占めています。特に、米国の割合はいずれも
高く、中でもとうもろこし、大豆は、それぞれ 90%、66%を占めています(図2− 47)。
1 〔用語の解説〕を参照
166
(農産物全体)
(とうもろこし)
その他
18.4%
カナダ
6.5%
豪州
7.1%
米国
25.8%
アルゼンチン
ブラジル 2.9%
5.5%
輸入額
5兆
5,842 億円
6か国・地域計
ASEAN(10)
中国
82.0%
81.6%
16.9%
10.5%
EU
(27)
14.7%
その他
2.6%
カナダ
15.5%
輸入額
4,264
億円
(豚肉)
(大豆)
その他
1.5%
ブラジル
16.3%
米国
90.1%
輸入額
1,443
億円
メキシコ
5.2%
カナダ
22.0%
米国
65.6%
輸入額
4,161
億円
第1部
図2−47 我が国の主要農産物の国別輸入額割合(金額ベース、平成23(2011)年)
その他
3.7%
米国
40.7%
EU
(27)
28.4%
資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成
このように、我が国の農産物の輸入構造は、米国をはじめとした少数の特定の国・地域
への依存度が高いという特徴があり、特に、多くの国・地域で消費され、世界的に需要の
増加が見込まれる飼料穀物や油糧種子ではその傾向が強くなっています。
このため、輸入に多くを依存している我が国の食料供給は、国際需給の変動や輸入先国
の輸出政策の影響を受けやすい状況となっているため、できるだけ輸入先の多角化等を図
り、リスク分散に努めることが重要となっています。
(4)総合的な食料安全保障の確立に向けた取組
とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせることにより確保することが必要です。
また、東日本大震災の発生により、サプライチェーンが断絶した場合の食料の安定供給
確保の必要性が再認識され、食料の安定供給確保における不安要因の検討が必要となって
います。
このような不安要因に的確に対応するため、基本計画においては、「不測時のみならず、
平素から食料の供給面、需要面、食料の物理的な入手可能性を考慮するアクセス面等を総
合的に考慮し、関係府省との連携も検討しつつ、総合的な食料安全保障を確立していくこ
とが必要である 」としています。
(生産資材の確保等に向けた取組)
肥料は、農業生産に不可欠な生産資材であり、肥料の安定供給に向けた総合的な対策が
必要です。 基本計画においては、「土壌診断 1に基づく施肥設計の見直し等により適正施
肥の徹底を図るとともに、耕畜連携によるたい肥の有効活用を図ること等により、総合的
な対策を推進する。加えて、大部分を海外から輸入する化学肥料の原料について、新たな
輸入相手国を多角的に探索し、その安定確保に向けた取組を推進する 」としています。
この具体化のため、土壌診断やその結果に基づく施肥設計の見直し、地域における施肥
指導体制の強化、国内に存在する未利用・低利用資源の肥料としての有効利用、科学的デ
ータの収集による減肥基準 2 の策定、新たな肥料原料産出国の探索等の取組を推進してい
ます。平成 24(2012)年3月現在では、土壌診断基準 3 について 39 道府県、減肥基準に
ついて 32 道府県でそれぞれ策定されています。
1 〔用語の解説〕を参照
2 土壌中に蓄積された肥料成分を踏まえ、品質・収量に影響を与えない肥料削減可能量の基準を示したもの
3 作物の良好な生育や収量を確保するために望ましい土壌状態の物理的、化学的基準を示したもの
167
第2章
国民に対する食料の安定的な供給については、国内の農業生産の増大を図ることを基本
第4節 総合的な食料安全保障の確立
また、農作物等の品種改良に不可欠な遺伝
資源 1 の確保について、基本計画においては、
「遺伝資源の効果的な収集・保存・提供機能
表2− 12 農業生物資源ジーンバンク
事業における保存・配布実績
(平成 23(2011)年度)
を強化し、地球温暖化への対応など食料の安
保存点数
配布点数
定供給に資する 」としています。このため、
農業生物資源ジーンバンク事業により、遺伝
植物
218,189
5,570
資源の国内外からの収集、分類、同定、特性
動物
1,102
95
28,333
1,536
492,250
10
評価、増殖、保存、配布、情報の管理・提供
を実施しています。 平成 23(2011) 年度ま
での遺伝資源の保存点数は、植物(種子・栄
養 体 )22 万 点、 動 物( 生 体・ 受 精 卵・ 生 殖
細 胞 ) 1 千 点、 微 生 物 2 万 8 千 点、DNA49
微生物
DNA
資料:(独)農業生物資源研究所「農業生物資源ジーン
バンク事業実績報告書」
万点となっており、配布可能な遺伝資源については、研究、品種改良等の目的での配布が
随時行われています(表2− 12)。
(東日本大震災を踏まえた食料安全保障マニュアルの見直し)
国民に対する食料の供給が不安定な要素を有していることを踏まえ、不測の要因により
食料の供給に支障が生じるおそれのある事態に的確に対処するため、農林水産省では、平
成 14(2002)年3月に「不測時の食料安全保障マニュアル」を策定しています。このマ
ニュアルにおいては、不測時における政府として講ずべき対策の内容、根拠法令、実施手
順等が示されていますが、東日本大震災直後の状況を受けて、サプライチェーンが断絶し
た場合の食料の安定供給確保の必要性が再認識されました。このため、再生取組方針では、
「震災・原発事故の教訓を将来に生かす観点から、これらを含む食料の安定供給に関する
様々な不安要因(リスク)についての検証結果を年度内に取りまとめ、この結果に基づき
平成 24(2012)年夏頃を目途に食料安全保障マニュアルを見直す」としています。
(適切な備蓄の実施)
東日本大震災直後の状況からサプライチェーンが断絶した場合の食料の安定供給確保の
必要性が再認識されました。主要食料の供給が不足する事態に備えるための措置として、
備蓄が位置付けられていることを十分に踏まえ、備蓄の在り方を検討し、その適切かつ効
率的な運営を行うことが重要です。
東日本大震災においては、東北地方の配合飼料工場が壊滅的な被害を受け、飼料の供給
が極めてひっ迫したことから、他地域の飼料工場での配合飼料の増産と被災地への円滑な
供給を支援するため、飼料用の備蓄穀物 75 万t(国 35 万 t、民間 40 万 t)を放出しました。
今後、災害発生等の不測の事態において、畜産農家に飼料を安定的に供給できるように、
地域間・地域内での連携を推進するとともに、飼料用穀物の適正な備蓄水準を確保するこ
とが必要です。
米については、これまで、備蓄米を主食用に販売し、その同等量を政府買入れする回転
備蓄方式により運営してきました。しかしながら、「豊作等の需給緩和時に販売数量を超
える政府買入れを求められる」、「市場関係者にとって透明性がなく予見可能性がない」、
1 〔用語の解説〕を参照
168
米穀の供給が不足する事態に備え、国民への安定供給を確保するという備蓄制度本来の役
第1部
「備蓄米の滞留により年産更新が困難になる」といった課題が生じていました。このため、
割を明確にする観点から、平成 23(2011)年度から、棚上備蓄方式に移行しました。棚
上備蓄方式では、出来秋の市場価格に影響を与えないよう事前契約による買入れを基本と
し、 放出を要する不足時以外は、 一定数量(20 万t程度) の政府買入れ、 一定期間(5
年間程度)備蓄後における飼料用等の非主食用への買入数量と同量の販売を基本としてい
ます。
(国際協力を通じた世界の食料安全保障への貢献)
今後、世界の人口増加等の影響により、中長期的には食料の需給がひっ迫する可能性が
ある中、平成 23(2011)年6月にフランスで開催された G20 農業大臣会合では、世界の
食料安全保障の確保のためには、持続可能な農業生産拡大と生産性の向上が必要であると
合意されました。また、基本計画においては、世界の食料安全保障に貢献する観点から、
「アフリカ諸国等開発途上国の農業・農村の振興、食の安全に関する技術協力・資金協力、
さらにはこれらの地域に対する食料援助を引き続き実施 」することとしています。
これらを踏まえ、我が国は、アフリカにおけるコメ生産量の倍増やマメの増産支援に加
え、平成 23(2011)年度からはイモの増産の支援を開始しました(図2− 48)。また、
アジアやアフリカにおいて持続可能な農業農村開発を支援するため、農業用水の確保や効
率的な水利用のためのかんがい技術の開発・普及にかかる支援を行っています。
800
600
400
西アフリカにおける
人口(右目盛)
億人
4
生産量
(10 万 t)
3
増加する人口及びヤムイモ需要
収穫面積の拡大の限界
依然として低い収量レベル
2
生産性の向上が急務
収穫面積(万 ha)
200
第2章
図2−48 アフリカにおけるイモ類増産支援
単収(t/10a) 1
○生産性及び持続性向上のための
土壌肥培管理技術の改善
○遺伝資源の特性評価及び選抜技
術の改良
0
0
平成 2 年
7
12
17
22
27
(1990) (1995) (2000) (2005) (2010) (2015)
資料:FAO「FAOSTAT」、国連「World Population Prospects :The 2010 Revision」を基に農林水産省で作成
注:生産量、収穫面積、単収は、ヤムイモの数値
我が国は、ブラジルとともにモザンビークにおいて熱帯サバンナ農業開発の三角協力を
行っています。本協力は、ブラジルのセラード地域と類似した自然条件のアフリカ熱帯サ
バンナ地域において農業開発を行うことにより、モザンビークの小規模農家の貧困削減、
国内食料問題の軽減を通じ、食料安全保障への貢献を目的としています。
なお、食料安全保障に資する情報整備強化にも取り組んでおり、アジア地域における正
確な食料・農業統計情報と生産予測情報を整備し、地域全体の食料安全保障状況を監視す
るための「アセアン食料安全保障情報システム(AFSIS)」の構築支援や、平成 22(2010)
年 10 月に新潟県で開催された APEC 1 食料安全保障担当大臣会合に基づく取組として、
「アジア太平洋食料安全保障情報プラットフォーム(データベース)(APIP)」の構築を行
っています。また、平成 23(2011)年6月の G20 農業大臣会合で合意された、穀物等市
1 APEC は、Asia-Pacific Economic Cooperation(アジア太平洋経済協力)の略
169
第4節 総合的な食料安全保障の確立
場に関する情報の質や信頼性の向上を図る「農業市場情報システム(AMIS)」の整備に向
けて支援することとしています。
(APTERR 協定の締結等を通じた東アジアにおける食料安全保障強化に向けた取組)
基本計画においては、「東アジア地域における大規模災害等の緊急時に備えるため、ア
セアン+3(アセアン諸国+日中韓)の緊急米備蓄体制の実現等に努力する 」としています。
このことを踏まえ、 我が国は、 平成 23(2011) 年 10 月にインドネシアのジャカルタ
で開催された ASEAN+3 農林大臣会合において、「東南アジア諸国連合及び協力3か国にお
ける緊急事態のための米の備蓄制度に関する協定(APTERR 1 協定)」に署名しました。こ
れ は ASEAN と 日 本、 中 国、 韓 国 の 13 か 国 が、 東 ア ジ ア 地 域 に お け る 食 料 安 全 保 障 の 強
化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急時に備えた米の共同備蓄を行う制度であ
り、各国は保有する在庫米のうち、緊急時に放出可能な数量を申告し、域内国で大地震や
津波、火山噴火等が起きた際、申告量を上限に被災地に支援することとしました(図2-
49)。
この APTERR 協定発効前の準備段階の事業として Tier3 2(現金備蓄)の枠組みを活用し、
10 月に発生したタイの集中豪雨による洪水被害を受けた被災者に対し、我が国が拠出し
た5万ドルの現金備蓄事業資金により、米穀等の現地調達による緊急支援を実施しました。
本制度は、東アジア諸国が国を越えた地域的な協力によって、食料安全保障の強化と貧
困の撲滅を目指した先駆的な取組といえ、FAO 等の共同報告書においても、「食料備蓄は
国境を越えて協調すべきであり、ASEAN+3 緊急米備蓄は有望な進展」としています 3 。
図2−49 ASEAN+3 緊急米備蓄(APTERR)の概要
APTERR 備蓄
食糧支援
申告(イヤマーク)備蓄
各国が保有する在庫のうち、緊急時に放出可能な数量が申告(イヤマー
ク)された備蓄を放出
A国
○備蓄放出プログラム
①Tier1
商業ベースの先物取引契約による支援
②Tier2
Tier1以外のイヤマーク備蓄支援
(無償、長期貸付け含む)
○各国のイヤマーク数量
日本 25 万トン
中国 30 万トン
韓国 15 万トン
ASEAN 諸国 8.7 万トン
現物備蓄(現金備蓄)
現物備蓄し、緊急時の初期対応として放出。備蓄期間経過後は貧困緩和
事業に活用。また、より迅速に対応するため現金備蓄による放出も活用
○備蓄放出プログラム
③Tier3
現物備蓄(または現金備蓄)による支援
(現金備蓄とは、APTERR 事務局にある予
算を活用して現地での米購入等迅速に対
応させるもの)
○日本の実績
(1)現物備蓄 計 約 1,860 トン
フィリピン約 950 トン
カンボジア約 380 トン
インドネシア約 180 トン
ラオス約 350 トン
(2)現金備蓄 約 480 トン
(ミャンマー、インドネシア等)
大規模な
災害等の発生
B国
資料:農林水産省作成
1 APTERR は、ASEAN Plus Three Emergency Rice Reserve の略
2 災害発生前にあらかじめ現物または現金の形で備蓄しておき、緊急時に迅速に備蓄放出ができるようにする APTERR
備蓄の支援方法
3 FAO、IFAD、WFP「The State of Food Insecurity in the World 2011」
170
日本、中国、韓国の3か国間において、農林水産分野での協力の促進を目的とした日中
第1部
(日中韓農業大臣会合の立ち上げ)
韓農業大臣会合の枠組みが平成 23(2011) 年 10 月に合意されました。 本会合は原則と
して年1回開催し、食料安全保障をめぐる課題、農産物の国際価格の乱高下、経済協力及
び経済連携に関すること等幅広い事項について協議することとしており、第1回会合が平
成 24(2012)年の春頃に開催される予定となっています。
(海外農業投資の支援)
基本計画においては、「世界の食料安全保障への貢献、 我が国の農産物輸入の安定化・
多角化を図る観点から、海外の農地での農業生産を含む海外農業投資について、重点化す
べき農産物や地域を明確化しつつ支援する 」とともに、「国際的な行動原則の策定を推進
し、これに沿った責任ある国際農業投資を促進する 」としています。
このため、我が国は、海外農業投資を支援するため、民間企業に対し、東欧及び南米諸
国等の現地調査で収集した農業投資にかかる情報提供を実施しています。平成 23(2011)
年度はブラジルの現地調査を実施し情報収集を行いました。
また、FAO への拠出により、世界的な農業投資情報の一元化や農業投資促進のための政
策ガイダンスづくり等の作業を進めました。
我が国が提案し関係国際機関が進めている「責任ある農業投資」の行動原則策定に向け
た取組は、平成 23(2011)年6月に開催された G20 農業大臣会合において、作業の促進
は、各国がこの行動計画を進展させることとした最終宣言が採択されました。このような
現状を踏まえ、我が国は、世界銀行の開発政策・人材育成基金を通じて行動原則の実用化
に向けた実証プロジェクトへの支援を行っています。
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第2章
の働きかけ等を含む行動計画が合意され、同年 11 月に開催された G20 カンヌ首脳会議で
第4節 総合的な食料安全保障の確立
コラム 国際協同組合年を通じた協同組合活動の推進
平成 24(2012)年は、国連総会の決議に基づく初めての「国際協同組合年(International
Year of Co-operatives:IYC)」 で す。 各 国 政 府 や 協 同 組 合 関 係 者 等 は、 こ の 国 際 年 を 契 機 と
して、協同組合の活動を一層推進し、社会・経済の発展に対する貢献への認知度を高める
取組を進めることが求められています。
協同組合は地域社会に根ざし、人々による助け合いを促進することによって、生活を安
定化させ、 地域社会を活性化させる役割を果たしています。JA グループは、 本来の役割
で あ る 農 産 物 の 販 売 や 資 材 の 供 給 等 に 加 え、 買 い 物 困 難 者 に 対 す る 移 動 販 売 車 に よ る 支
援、農業体験ツアーや親子料理教室等の食農教育活動をはじめとした社会貢献活動を通じ
て農村地域の活性化や協同組合活動の認知度の向上にも取り組んでいます。
また、JA グループは、 東日本大震災に際して、 被災直後の食料等の提供・輸送(被災
直後1か月間で精米 350 t超等)、JA グループ復興支援募金(組合員・役職員による個人
募金約 15 億円)活動、JA グループ復興・再建義援金(JA・連合会等による義援金約 100
億円) による支援、JA グループ支援隊(役職員を中心としたボランティアが農地のがれ
き撤去等に従事。 約1万人・日) の派遣、 並びに JA 共済の共済金支払い(建物更生共済
の共済金支払額 8,389 億円(2月末現在))等に取り組んでいます。加えて、JA グループ
は、全国機関を中心に、それぞれに事業機能を活かして、被災地農畜産物の販売推進、被
災 JA の利用者に対する弾力的な貯金払出し対応、 災害派遣医療チーム、 医療救護班の無
償派遣(それぞれ 18 病院、49 病院から派遣)等、被災地支援に尽力しています。このよ
うな復興支援は、協同組合の共助の精神が発揮され、協同組合の価値が国民に再認識され
た取組であるといえます。
国際協同組合年に当たり、 我が国では、JA をはじめとする国内の各種協同組合の関係
者や大学教授等から構成される「2012 国際協同組合年全国実行委員会」 により、 記念イ
ベントの開催や広報活動が行われています。
特に、国連の定める国際協同組合デー(毎年7月の第1土曜日)の前後には関連イベン
ト、 また、11 月には、 多様な活動を行う協同組合が一堂に会し、 私たちの生活と協同組
合のかかわりを社会にアピールするイベントの実施や、アジア太平洋地域の協同組合の代
表が一堂に集う ICA(国際協同組合連盟)アジア太平洋地域総会に併せて協同組合フォー
ラムを開催するなど、積極的に協同組合に関する情報を発信していくこととされています。
なお、ICA に対しては、 アジアの開発途上国における協同
組合等の農民組織を活性化する観点から、農民組織の中核リ
ーダー育成研修や農村女性による地域活性化研修等への支援
を実施しています。
国際協同組合年のロゴは、7人が協力して立方体を持ち上
げ支えている様子を描いています。この立方体は、協同組合
の事業が目指す様々なゴールや志、その成果を表現していま
す。 7人は、 協同組合運動の7原則(「自主的で開かれた組
合 員 制 」、「 組 合 員 に よ る 民 主 的 な 管 理 」、「 組 合 財 政 へ の 参
加」、
「自主・自立」、
「教育・研修、広報」、
「協同組合間の協同」、
国際協同組合年のロゴ
「地域社会へのかかわり」)を表現しています。
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