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地域経済統合をめぐる動き

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地域経済統合をめぐる動き
社会のながれをつかむ!
地域経済統合をめぐる動き
現代社会へのとびら 2015 年度3学期号 付録
■ 自由貿易の推進と地域経済統合の進行
自由貿易…貿易に何も制限をかけないで取り引きを行う貿易
各国が得意な分野の生産を拡大し,生産効率を高めて貿易を行うことで,おたがい
の利益を確保することができる。
■ 世界のおもな地域経済統合
NAFTA
人口
GDP
4.4億人
16.5兆ドル
貿易額
世界貿易機関(WTO:1995 ~)
由貿易と保護貿易
の狭間で,自国の
経済的な利益を確
保するための方法
を主張しながら貿
易にのぞんでいる。
関税と貿易に関する一般協定(GATT:1948 ~ 1995)
●自由貿易の実現
●無差別貿易の実現
●ラウンド(多国間)交渉
-GAT Tは協定-
•ケネディ・ラウンド
WTO発足時に,国際機
•東京ラウンド
関として引きつがれた。
•ウルグアイ・ラウンド
●関税率(鉱工業製品)の引き下げ
●非関税障壁(輸入数量制限)の解消
●交渉テーマ(農産物自由化,サービス貿易,知的財産権など)の拡大
●GATTの貿易における紛争処理能力を強化
●ドーハ・ラウンド(2001~)以降 発展途上国VS先進国
…多国間交渉の難航
自由貿易の推進がはかられるなかで…
地域経済統合
自由貿易協定(FTA)
特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁などを
削減・撤廃することを目的とする協定
経済連携協定(EPA)
貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政
策におけるルールづくり,さまざまな分野での協力の要素などを含
む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定
保護貿易…国内産業を保護するため,関税をかけたり輸入制限を行う貿易
国家間での対抗措置を招き,貿易上の摩擦を引き起こすことがある。
人口
5.0億人
GDP
アメリカ
3.8兆ドル
ロシア
EU
カナダ
自由貿易を支持するなか
自由貿易の実現 VS
での自国の利益の確保
世界の国々は,自
■学習のねらい 地域経済統合の形成が生じさせる,国際社会のわく組みの変化にはどのようなものがある
のか確認してみよう。日本の取り組みについても確認し,国益や地域経済統合の利益を確保する立場からとら
え,経済的な側面からの動向を中心に,生じる変化と対応することが求められる課題について考えてみよう 。
『高等学校 新現代社会』
(現社-307)p.152-155
『アクセス現代社会 2015』p.246-253
16.4兆ドル
貿易額
9.2兆ドル
メキシコ
中国
日本
インド
サウジアラビア
MERCOSUR
人口
2.7億人
GDP
2.3兆ドル
貿易額
0.4兆ドル
GCC
ブラジル
人口
0.4億人
GDP
0.9兆ドル
貿易額
0.8兆ドル
ASEAN
人口
アルゼンチン
TPP交渉参加国
(2014年12月現在)
世界のおもな地域経済統合と自由貿易圏など
EU
(欧州連合)
(28か国)
ア セ ア ン
ASEAN
(東南アジア諸国連合)
(10か国)
5.8億人
GDP
1.5兆ドル
貿易額
1.5兆ドル
オーストラリア
※加盟国数は2014年,GDPと貿易額は2009年,
人口は2008年
タ
エ イ ペ ック
(北米自由貿易協定)
NAFTA
(3か国)
APEC
(アジア太平洋経済協力)
(21か国・地域)
ナ
メ
フ
ル
コ
ス
ー
ル
MERCOSUR
(南米南部共同市場)
(5か国)
GCC
(湾岸協力会議)
(6か国)
■ 日本のFTA・EPA交渉の進捗状況
EPAの発効状況
2006年以前 2006
2002年発効
シンガポール
2005年開始
メキシコ
2004年開始
マレーシア
チリ
2004年開始
タイ
インドネシア 2005年開始
ブルネイ
2005年開始
ASEAN
2004年開始
フィリピン
スイス
ベトナム
インド
ペルー
オーストラリア
EPA・FTA交渉状況
AJCEP
モンゴル
カナダ
コロンビア
日中韓
EU
RCEP
TPP
トルコ
2007
2008
9月発効
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015年7月現在
2015
4月発効
4月発効
7月発効
2006年以前 2006
2005年開始
9月発効
11月発効
7月発効
7月発効
12月発効
12月発効
9月発効
日本のFTAやEPAの取り組みの変化
→メガFTA成立に向けた交渉の拡大
10月発効
8月発効
3月発効
1月発効
2007
2008
発効
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
AJCEP……… 日・ASEAN包括的経済連携協定
(ASEAN:東南アジア諸国連合=タイ・インドネシア・シンガポール・フィリピン・
マレーシア・ブルネイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジア)
RCEP………… 東アジア地域包括的経済連携
(ASEANと日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドが参加)
TPP…………… 環太平洋戦略的経済連携協定
(アメリカ・オーストラリア・日本・ペルー・ベトナム・マレーシア・メキシコ・
カナダ・シンガポール・ ニュージーランド・チリ・ブルネイが参加)
(外務省ホームページ)
社会のながれをつかむ!
地域経済統合をめぐる動き
現代社会へのとびら 2015 年度3学期号 付録
■ 自由貿易の推進と地域経済統合の進行
■ 世界のおもな地域経済統合
自由貿易…貿易に何も制限をかけないで取り引きを行う貿易
各国が得意な分野の生産を拡大し,生産効率を高めて貿易を行うことで,おたがい
の利益を確保することができる。
NAFTA
人口
GDP
16.5兆ドル
貿易額
の狭間で,自国の
経済的な利益を確
保するための方法
を主張しながら貿
易にのぞんでいる。
●GATTの貿易における紛争処理能力を強化
●ドーハ・ラウンド(2001~)以降 発展途上国VS先進国
…多国間交渉の難航
自由貿易の推進がはかられるなかで…
地域経済統合
自由貿易協定(FTA)
特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁などを
削減・撤廃することを目的とする協定
経済連携協定(EPA)
貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政
策におけるルールづくり,さまざまな分野での協力の要素などを含
む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定
保護貿易…国内産業を保護するため,関税をかけたり輸入制限を行う貿易
国家間での対抗措置を招き,貿易上の摩擦を引き起こすことがある。
1 地域経済統合を世界貿易機関(WTO)の活
動と関連させて考えてみよう
⑴ 貿易について理解しているだろうか
GDP
16.4兆ドル
貿易額
9.2兆ドル
メキシコ
人口
関税と貿易に関する一般協定(GATT:1948 ~ 1995)
●自由貿易の実現
●無差別貿易の実現
●ラウンド(多国間)交渉
-GAT Tは協定-
•ケネディ・ラウンド
WTO発足時に,国際機
•東京ラウンド
関として引きつがれた。
•ウルグアイ・ラウンド
●関税率(鉱工業製品)の引き下げ
●非関税障壁(輸入数量制限)の解消
●交渉テーマ(農産物自由化,サービス貿易,知的財産権など)の拡大
地域経済統合にかかわるトピックス
5.0億人
中国
日本
インド
サウジアラビア
MERCOSUR
世界貿易機関(WTO:1995 ~)
由貿易と保護貿易
人口
アメリカ
3.8兆ドル
ロシア
EU
カナダ
4.4億人
自由貿易を支持するなか
自由貿易の実現 VS
での自国の利益の確保
世界の国々は,自
■学習のねらい 地域経済統合の形成が生じさせる,国際社会のわく組みの変化にはどのようなものがある
のか確認してみよう。日本の取り組みについても確認し,国益や地域経済統合の利益を確保する立場からとら
え,経済的な側面からの動向を中心に,生じる変化と対応することが求められる課題について考えてみよう 。
『高等学校 新現代社会』
(現社-307)p.152-155
『アクセス現代社会 2015』p.246-253
2.7億人
GDP
2.3兆ドル
貿易額
0.4兆ドル
GCC
ブラジル
人口
0.4億人
GDP
0.9兆ドル
貿易額
0.8兆ドル
ASEAN
人口
アルゼンチン
TPP交渉参加国
(2014年12月現在)
世界のおもな地域経済統合と自由貿易圏など
5.8億人
GDP
1.5兆ドル
貿易額
1.5兆ドル
オーストラリア
※加盟国数は2014年,GDPと貿易額は2009年,
人口は2008年
タ
エ イ ペ ック
(北米自由貿易協定)
NAFTA
(3か国)
APEC
(アジア太平洋経済協力)
(21か国・地域)
ナ
EU
(欧州連合)
(28か国)
ア セ ア ン
メ
ASEAN
(東南アジア諸国連合)
(10か国)
フ
ル
コ
ス
ー
ル
MERCOSUR
(南米南部共同市場)
(5か国)
GCC
(湾岸協力会議)
(6か国)
■ 日本のFTA・EPA交渉の進捗状況
EPAの発効状況
2006年以前 2006
シンガポール 2002年発効
2005年開始
メキシコ
2004年開始
マレーシア
チリ
2004年開始
タイ
インドネシア 2005年開始
ブルネイ
2005年開始
ASEAN
2004年開始
フィリピン
スイス
ベトナム
インド
ペルー
オーストラリア
EPA・FTA交渉状況
AJCEP
モンゴル
カナダ
コロンビア
日中韓
EU
RCEP
TPP
トルコ
2007
2008
9月発効
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015年7月現在
2015
4月発効
4月発効
7月発効
2006年以前 2006
2005年開始
9月発効
11月発効
7月発効
7月発効
12月発効
12月発効
9月発効
日本のFTAやEPAの取り組みの変化
→メガFTA成立に向けた交渉の拡大
10月発効
8月発効
3月発効
1月発効
2007
2008
発効
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
AJCEP……… 日・ASEAN包括的経済連携協定
(ASEAN:東南アジア諸国連合=タイ・インドネシア・シンガポール・フィリピン・
マレーシア・ブルネイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジア)
RCEP………… 東アジア地域包括的経済連携
(ASEANと日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドが参加)
TPP…………… 環太平洋戦略的経済連携協定
(アメリカ・オーストラリア・日本・ペルー・ベトナム・マレーシア・メキシコ・
カナダ・シンガポール・ ニュージーランド・チリ・ブルネイが参加)
(外務省ホームページ)
することができる国家間で,WTOよりも先行し
体であるといえる。そのつながりとしてFTAや
て,当該国間で自由貿易の実現をはかる動きがあ
EPAが存在している。メリットは,締約国どうし
る。これが自由貿易協定(FTA)であったり,
では自由貿易が実現するため,相互に貿易が拡大
経済連携協定(EPA)であったりする。FTA
することである。貿易の拡大が国家の経済力の増
やEPAは締約国間でのみ自由貿易や取り決めが
大に反映されていけば,国外からの投資の増大へ
いずれの国家も自国で必要とするモノのすべて
運用される。国際社会において,どちらの取り組
とつながりさらなる経済発展を期待することがで
を自前で確保することは容易なことではない。資
みが公平であり,公正であるのか考えてみよう。
きる。EPAにより,国内外からの投資の拡大や
源のかたよりや技術力の違いがあり,経済的な生
⑶ FTAとEPAの関係について
労働市場の開放による労働力不足の解消は,経済
産効果をあわせて考えると,それぞれの国が得意
国家間における経済上の相互依存関係を貿易に
の規模の拡大や発展へと展開していくことが考え
とする分野の生産を拡大し,必要とするモノは相
よる取り引きの分野において自由貿易を成立させ
られる。デメリットとしては,取り引き相手国によ
互に貿易によって手に入れ,おたがいの利益を確
るわく組みが自由貿易協定(FTA)である。他方,
り貿易にかかわるルールが異なったり,投資が行
保することが効率的である。貿易を行う際,関税
経済上の相互依存関係は,投資のルールや保険の
われてもすべての国家に均等に行われるわけでは
をかけたり数量に制限を設けたりしない取り引き
しくみなど金融関係全般のしくみや,各国の労働
ないため経済格差が生じたりすることが考えられ
が自由貿易である。ただ,自由貿易は,国内の産
市場を締約国間で開放する取り組みなど,貿易以
る。民族,言語,宗教,経済水準,生活習慣,国
業と競合したり,安価で同質以上の外国製品があ
外にもその分野は多岐にわたっている。それらの
民性の違いなど,地域性にもよるが,人的交流や
ると,貿易により自国の産業が衰退したりしてし
分野においても,障壁を撤廃して経済的な連携を
労働市場の開放にも課題が生じる。どうしたらよ
まうこともある。そのような場合,国家としては
構築する取り組みが経済連携協定(EPA)であ
いのだろうか。
国内産業を保護するため,関税をかけたり数量制
る。EPAはいわばFTAの分野を拡大した状態
3 日本の取り組みについて
限を設けたりする保護貿易を選択することもでき
ととらえることができる。国家が他国と経済にお
国際社会における地域経済統合の動向に日本は
る。貿易はどのような形態で行われることが望ま
ける相互依存関係を構築しようとするとき,FT
どのようにかかわっているのだろうか。かつては
しいことであるのか考えてみよう。
AとEPAをどのような形で成立させていくこと
関税と貿易に関する一般協定(GATT)によっ
⑵ 世界貿易機関(WTO)との関係
が効果的であるのか考えてみよう。ある国が他の
て形成された貿易のルールに,WTOのもとでも
地域経済統合が実現しようとする状態は,自由
国々と個別にFTAやEPAを成立させていった
日本はその方針を維持し続けた。今,FTAやE
貿易を世界的な規模で実現することを目的として
とき,その内容に違いが生じていたらどのような
PAを軸とした二国間関係や既存の地域経済統合
いるWTOとどのような関係になっているのか理
問題が発生するだろうか。問題が発生した場合の
との関係を構築しようとしている。従来の貿易ス
解しているだろうか。WTOではラウンドとよば
対応策にはどのような方法があるのだろうか。
「最
タイルとは異なる,新たなわく組みを形成しよう
れる会議を重ねている。先進国と発展途上国の間
恵国待遇」をキーワードとして考えてみよう。
としている。地域経済統合との相互依存関係を形
における貿易において自由貿易の形態では発展途
2 地域経済統合におけるメリットとデメリット
成したり,日本が地域経済統合に参加したりする
を経済的側面から考えたことがあるだろうか
状況のなかで形成されていくであろう新たなルー
自由貿易を確立する結論にいたらない状況が続い
地域経済統合は国際社会における諸問題におい
ルをどのような視点から考え判断したらよいのか
ている。その状況のなかで相互依存の関係を構築
て共通の認識を形成しようとしている国家の集合
話し合ってみよう。
上国の利益を確保することが困難であることから,
帝国書院
●現代社会へのとびら 2015年度3学期号 付録(社会のながれをつかむ!)
地域経済統合をめぐる動き
*この面は指導用,裏面は生徒用,ポ
スターは,掲示用にお使いください。
解説・授業での活用例
1 はじめに
どのような位置づけとなっているのかを考察させたい。自由貿易か保護貿易かの二者
主権国家において国益を確保することは,国民の生活を成り立たせるために必要な
択一ではなく,自由貿易と保護貿易の間で日本はどのような主張と交渉を行っている
行為である。その方法は多岐にわたり,争いの原因となったこともあれば,他国との
のかを確認させたい。
協力関係を構築したこともある。グローバル化が進展するなかで,共通のルールのも
⑵ 世界貿易機関(WTO)の現状について
と,人類益の確保がかなうことが理想であるが,理想を理解しつつ,利益の共有をリ
WTOは,自由貿易の実現をめざして取り組みを行ってきた関税と貿易に関する一
ージョナルな活動のなかで確保しようとする取り組みがある。この取り組みを多角的
般協定(GATT)の権限を強化するため,協定から機関へと組織化されて活動を開
な視点からとらえることができるよう,生徒にはたらきかけてみたい。
始した。活動期間はすでに20年に達している。GATTでは関税率の引き下げや非関
2 学習指導要領上の取り扱いについて
税障壁の撤廃,自由貿易の対象分野の拡大など,ラウンド(会議)の回数を重ねなが
現代社会における地域経済統合(学習指導要領では地域的経済統合)の取り扱いは,
ら結果を残してきた。WTOにおいては残念ながらこの状況にいたってはいない。自
大項目「⑵ 現代社会と人間としての在り方生き方」の,「オ 国際社会の動向と日本
由貿易を主張する先進国と,保護貿易を主張する発展途上国の間で話し合いがまとま
の果たすべき役割」で示されている。グローバル化をキーワードとして地域経済統合
らないことが原因である。生徒には自由貿易の実現をはかることで自国の利益をはか
に向き合うと,その背景や影響を考察するにあたり,経済分野だけでなく,政治面で
ろうと主張する先進国と,自由貿易に理解を示しつつも保護貿易によって自国の利益
の動向,歴史的なつながりや文化的な要因にいたるまで,幅広い知識のうえにたって
を優先的に確保しようとする発展途上国のそれぞれの立場に立って意見の交換を行わ
考察することなしに,正確な理解にいたることができないことが考えられる。その分
せることができる。生徒には,貿易において相互依存関係が成立し,水平貿易の形態
だけ,多角的な視点から学習内容を生徒に理解させたり,考察させたりするアプロー
による利益の確保が比較的可能な先進国と,相互依存関係が成立せず,自由貿易によ
チの方法が存在しているといえる。生徒には,国際社会のなかで,日本人の立場から,
り自国の産業が先進国の経済にたちうちできず,垂直貿易の形態となり利益の確保が
主体的な主張を行うことができる力を身につけることの大切さを自覚させたい。
困難となる発展途上国の状況について理解していることを求めたい。
3 地域経済統合の背景
4 地域経済統合の動向
⑴ 自由貿易と保護貿易
⑴ 組織形成の目的
世界経済の動向のなかで,貿易の形態と国家のかかわりについて生徒に確認させて
国際社会に形成されている地域経済統合は,それぞれの組織が独自の組織形成の目
おきたい。貿易の形態には自由貿易と保護貿易がある。自由貿易は貿易に何も制限を
的をもっている。主たる目的は経済面における貿易による利益の確保である。組織に
かけないで取り引きを行う貿易で,各国が得意な分野の生産を拡大し,生産効率を高
よっては安全保障の面での連携を構築しているものもあれば,政治的な統合を最終的
めて貿易を行うことで,おたがいの利益を確保することができる。保護貿易は国内産
な目的としているものもある。地域経済統合は経済関係のみのつながりではないこと
業を保護するため,関税をかけたり輸入制限を行う貿易である。世界経済は自由貿易
を生徒に確認させたうえで,共通の目的があっても,異なる国家同士がそのわく組み
の実現を理想としている。生徒にはこれらの定義から日本の国際経済とのかかわりが
をこえて統合の体制を推進するときに生じるであろう問題について考察させることが
できる。この考察の視点は,そのまま地域経済統合の内容をどのような分野からとら
方向に進展するため,相互に貿易が拡大する。貿易が拡大し,国家の経済力が増大して
えるのかという視点ともなる。生徒には,それぞれの視点,それぞれの立場が存在す
いけば,FTAの内外を問わず,国外からの投資が増大することも期待できる。EPA
ることを理解させたうえで,自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)につ
へと経済関係を拡大することにより,国内外からの投資の対象が拡大することや,労働
いて考察させたい。
市場の開放により,不足している労働力の確保が期待できる。また,人口動態における
⑵ WTOと地域経済統合における貿易の形態について
問題が生じている国家は,解消に向けた取り組みとして人口移動にかかわる事がらを政
グローバルな規模による自由貿易のさらなる拡大を実現しようとしているWTOの
策として立ち上げることができる可能性もある。
取り組みと地域経済統合によって確立されている貿易の形態は,対立している構造で
デメリットとしては,FTAの成立により締約国と非締約国間における関税や非関
はないことを,生徒に確認させたい。地域経済統合は特定の国家間において締結され
税障壁の違いが生じるケースが非常に多くなり,取り引き相手国により貿易にかかわ
ている組織形態である。その点においてはかつてのブロック経済体制にも通じるとこ
るルールが複雑になったり繁雑になったりしてしまうことがある。FTAの取り決め
ろがある。地域経済統合が,域外の国家に対して閉鎖的となることも起こりうる。た
の域外共通関税がある場合などは,締約国外の安い関税の商品の取り引きを優先的に
だ,地域経済統合の内部においては自由貿易のルールが整備,拡大され,相互依存関
行うことができないケースが生じることもある。投資もすべての国家に均等に行われ
係のなかで利益を追求することが可能となっている。自由貿易の実現という点におい
るわけではなく,締約国間の経済的な格差を拡大する要因となることも考えられる。
ては共通性があり,その実現において異なる方法が採用されている。どの国において
労働市場の開放では,民族,言語,宗教,経済水準,生活習慣,国民性の違いなど,
も貿易上の恩恵にあずかるためには今後世界経済はどのような方向に歩みを進めれば
地域性にもよるが,日常生活レベルで共通理解を形成しなければならない問題が存在
よいのか,生徒に考察させたい。
する。地域経済統合の課題である。
⑶ 自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)
⑷ 国際社会の動向と日本の動向
地域経済統合を構成するにあたり,経済的なわく組みの核となっているつながりが
地域経済統合への動きは第二次世界大戦の終了まもない時期にヨーロッパで現れて
FTAやEPAである。FTAは締約国間の貿易において関税の撤廃や輸入数量制限
きた。1950年代以降,現在の欧州連合(EU)につながる組織の変遷があり,政治・
などの非関税障壁の撤廃を行うことで,締約国間における貿易の自由化を実現しよう
経済・安全保障など多岐にわたった統合がめざされている。多くの地域経済統合はF
とする取り組みである。FTAでは,締約国以外の国々に対する関税を統一して対応
TAやEPAなどの経済面での連携が締約の中核となっている。欧州自由貿易連合
する関税同盟を成立させ,そのつながりをより強固にする対応を行うこともできる。
(EFTA),北米自由貿易協定(NAFTA)
,ASEAN自由貿易圏(AFTA)
FTAのわく組みに貿易以外の要因を加え,より多くの分野で経済的な連携の強化を
などがGATTのラウンド交渉と並行して形成された。
はかる取り組みがEPAである。EPAでは,投資にかかわるルールの共通化や労働
日本はWTOにおける動向を注視しながら,地域経済統合への関係を形成してきた
市場の開放など,それまでの国内経済のわく組み自体を大きく変動させる状況にまで
経緯がある。東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本・中国・韓)やアジア太
対象を拡大させていくことが構想されたり,実行されたりしている。このようなFT
平洋経済協力(APEC)への参加などにその取り組みをみることができる。経済連
AやEPAの取り組みを推進することのメリットと,推進することで生じてくるデメ
携を積極的に進め,既存の地域経済統合と連携交渉などを始めたのは21世紀になって
リットについて考察させることができる。
からである。二国間交渉や地域経済統合との交渉,日本が加わることによる新たな地
FTAは経済における諸問題において共通の認識を形成しようとしている国家の集合
域経済統合の形成などさまざまな分野でのはたらきかけが行われている。
体であるといえる。GATTやWTOでの交渉が難航してきたように,世界規模での自
5 おわりに
由貿易体制の構築は,同意が得られないため実現が難しい。WTO発足後のドーハ・ラ
地域経済統合は,政治的・経済的・文化的要因とその背景にある歴史的な経緯を理
ウンドでは,投資ルールや電子商取引などの問題も加わる一方,農産物輸入国と農産物
解することなく考察することはできない。主権国家をこえたわく組みと向き合うなか
輸出国,先進国と発展途上国の対立も顕著になってきた。貿易の国・地域や分野・品目
で,生徒には,国益と地域経済統合の利益と人類益のあり方について,相互依存が求
が拡大するにつれて,多国間交渉が困難になっている。しかし,地理的に近く,同じよ
められるグローバルな視点を意識させながら考えさせたい。
うな国が集まる特定地域ではそれが成立しやすい。締約国同士では自由貿易が実現する
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