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参考資料4-2 暫定版 中国における小学校英語教育の
参考資料4-2 暫定版 中国における小学校英語教育の現状と課題 目次 Ⅰ.小学校英語の必修化に関する背景、経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・ 2 (1)教育課程改革、教育課程の変遷、現行の教育課程 (2)小学校における英語の取り扱いの経緯、必修化されるまでの経緯 Ⅱ.教育課程、目標、内容及び指導方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 (1)開始学年 (2)授業形態及び授業時数 (3)指導方法 (4)小学校英語の教育目標 (5)小学校英語の教育内容(語彙数、読み書き、中学校との接続を含む) (6)子どもの能力、態度の評価方法 (7)母国語習得との関係、言語技術向上の視点についての措置 Ⅲ.必修化に伴う条件整備について Ⅲ-1.教科書、教材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 (1)教科書制度 (2)小学校英語教科書の現状 (3)教科書以外の副教材、CD やカセットなどについて (4)教材等についての行政の支援の状況 Ⅲ-2.教員、指導体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (1)小学校の教員養成及び採用の概要(教員になるまでの経緯) (2)小学校英語教員の養成について (3)現職英語教員の研修 (4)ネイティブ・スピーカーの確保、配置、ALT の採用等の現状 (5)地域人材、民間指導者等の活用 Ⅳ.成果と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 (1)英語教育を導入した成果 (2)課題と今後の方向性 その他特記事項(小学校英語に係わる政府の支援事業など) 附①:中国の学校教育制度等 ・・・・・・・ 26 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 附②:「指導意見」(資料 1)及び「基本要求」(資料 2)の翻訳 ・・・・・・ 31 附③:中等英語教育の到達目標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 1 Ⅰ.小学校英語の必修化に関する背景、経緯 (1)教育課程改革、教育課程の変遷 中華人民共和国建国後から 1990 年代初期に至るまでの初等中等教育の教育課程は、文化 大革命による 10 年間の分断があったが、一貫して国家が定める「教学計画」(開設科目・ 時数配分等に関するもの)と「教学大綱」(各教科の目的・内容・方法に関するもの)の2 つによって規定されてきた。80 年代後半からの教育改革1で中国教育史上初めて施行された 九年制義務教育(1986 年より実施)に対応する「九年義務教育全日制小学・初級中学課程方 案」(1992 年公布。従来の「教学計画」に変わる「課程計画」と、「教学大綱」から成る) は、1993 年度より学年進行で実施されている2。92 年版の課程方案が画期的だったのは、従 来教科のみで構成されていた学校教育課程が、教科ならびに課外活動から成るようになり、 実践的な道徳教育の強化と児童・生徒の学習負担の軽減がはかられ、地方裁量の課程を設 けるなどカリキュラムの多様化と弾力化が進められた点であった。 21 世紀の到来を前に、中国ではさらに、国際化・情報化社会に対応する生涯学習思想に もとづく未来志向の教育改革像を「資質教育」 (原文:素質教育)として打ち出すようにな り3、以上に伴うカリキュラム改訂は 2001 年 7 月に行われた。これに先立ち中国政府国務院 は、「基礎教育の改革と発展に関する決定」(2001 年 6 月)を公布し、さらにこれを受けて 政府教育部は、カリキュラム改革指針としての「基礎教育課程改革綱要(施行) 」(2001 年 6 月)を公表した。同綱要は大胆に、カリキュラム全体の「バランス」 、 「総合性」 、 「選択性」 (従来 を打ち出しているのが特色で4、これにもとづく「課程計画」と各教科の「課程標準」 の「教学大綱」が改められる)をあわせた新課程方案(試行案)が定められたのである。 この 21 世紀の新課程への改訂は、1985 年以来の教育改革によって準備されたものである が、教育課程改革史上類をみない最大の改訂とされている。このため、新課程は当初から 試行案の形で出され、まず一部の地域で実験的に試行され(義務教育段階では 2001 年秋か ら全国 38 の県・市で、後期中等教育段階では 2000 年からに国内の 10 省・直轄市で) 、そ の後の評価と調整を経て、当初計画では 2004 年 9 月から、実際には 2005 年 9 月から全国 実施に踏み切る運びとなっている。 1 中国共産党中央委員会「教育改革に関する決定」、1985 年。 なおこの時期の高級中学段階については別途「高級中学教学計画」が 90 年に改訂され、同年 より学年進行で施行されている。 3 中国共産党中央委員会・国務院「教育改革の深化と資質教育の全面的展開に関する決定」、1999 年。 4 文部科学省『諸外国の初等中等教育』 、2002 年、158~163 頁。 2 2 2005 年全国実施予定の新基準案(教育部「義務教育課程設置実験方案」2001 年) 表1 表 義務教育段階の教育課程基準(試行案) 学 1 品 2 徳 品 3 徳 品 4 徳 品 時間配分 年 5 徳 品 6 徳 7 品 8 9 徳 思 想 思 想 思 想 と社会 品 徳 品 徳 品 徳 7~9% と生活 と生活 と社会 と社会 と社会 歴 史 と 社 会 3~4% (又は歴史、地理を選択) 科 科 科 学 科 学 科 学 科 学 7~9% 学 (又は生物/物理、科学を選択) 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 言 語・ 20~22% 文 学 文 学 文 学 文 学 文 学 文 学 文 学 文 学 文 学 数 学 数 学 数 学 数 学 数 学 数 学 数 学 数 学 数 学 目 体 育 体 育 外国語 外国語 外国語 外国語 外国語 外国語 外国語 体 体 体 体 体 体 体 育 育 育 芸 育 育 育 育 13~15% 6~8% 10~11% 術 9~11% (または音楽、美術を選択) 総合実 総合実 総合実 総合実 総合実 総合実 総合実 践活動 践活動 践活動 践活動 践活動 践活動 践活動 7~8% 地 方 お よ び 学 校 が 定 め る 時 10~12% 間 週時間 26 26 30 30 30 34 34 34 34 274 年時間 910 910 1050 1050 1050 1190 1190 1190 1122 9522 注:時間数は単位時間。1 単位時間は第1~6 学年(小学校) :40 分、第 7~9 学年(初級中学):45 分。 出典:文部科学省『諸外国の初等中等教育』、2002 年、162 頁。 (2)小学校における英語の取り扱いの経緯、必修化されるまでの経緯 中国において小学校の教育課程上に外国語教育の一環として英語教育が登場するのは、 文化大革命終結直後の 1978 年から 80 年にかけてである。当時は、10 年間の人材育成の空 白部分を一刻も早く取り戻すために都市部を中心に重点学校制度が施行され高等教育に進 む人材を早期から確保する政策が採られていた。「全日制十年制中小学英語教学大綱」(試 行草案) (1978 年)は、当時の 5-3-2 学制に対応するもので、これによれば、条件の整う 重点学校では小学校 3 年から、そうでない場合には初級中学 1 年から英語教育を開始し、 3 それぞれ 8 年間または 5 年間に「基本的発音と文法をマスターし、2,800 または 2,200 の単 語と慣用句をマスターし、辞書を使って中等レベルの難度の文章を読解でき、一定程度の 聞き・話し・書き・翻訳する能力を備える」という指導目標が設定されていた1。 ところが以上は当時の教育現場の実態からみて難度が高すぎ、打ち出されはしたものの 批判を受け、とくに小学校段階からの英語教育は、全国の大多数の地区で実施には至らな かった。批判の論点は、標準中国語ですら充分にマスターできていない年齢段階で英語を 導入するのは尚早である、英語教育を実践できる教員が中等レベルですら圧倒的に不足し ているのに初等段階での実施は無理であるなどの点であった。 ただし、このような中で条件の整う小学校での英語教育の先行的実験を止めなかった自 治体があった。それは改革開放の気運の中で児童期からの英語教育に対する社会的ニーズ の強かった上海市、北京市、天津市などの大都市(直轄市)と、同じく経済発展地域の広 東省、青島市、無錫市等のほか、発展途上であっても実験に意欲的だった安徽省等であっ た。その後、これらの自治体における初等英語教育の実践の蓄積、中等段階での英語教育 の漸進的定着、21 世紀にむけた資質教育の大方針の採用とこのための基礎的教育研究(英 語に関しては諸外国の英語教育の実施状況調査、国内の初等~高等英語教育実践の総括)、 IT 革命の推進状況などを踏まえて、教育部は最終的に、2001 年の新課程実施期より初等英 語教育をカリキュラムに正式に入れることを決定、新課程(試行案)を一部地域から段階 的に導入し、2004 年までに全国実施することを計画した2。その社会背景としては、中国の WTO 加盟(2001)、2008 年の北京オリンピック開催決定(2001)があり、社会一般とくに 父母からの熱心な初等英語教育の実施要求が、何よりも追い風となったという。 現在中国教育部基礎教育司副司長(日本での文部科学省初等中等教育局審議官に相当) 及び教育部基礎教育課程教材開発センター長を兼任する朱慕菊女史は、導入までの経緯を ふりかえり、以下のように述べている。 「初等英語教育の全国的導入については、もちろん長期の論争が存在した。母国語のマ スターにとって英語の早期導入は妨げになるという意見も根強いものがあったし、農村部 や少数民族地区の住民であれば、一生英語を使わない場合もあり、彼等を対象に初等段階 から英語教育を行うのは資源の浪費であるという意見もあった。しかし、これからの社会 は情報通信技術の発展が地域格差を補うことのできる時代である。また、IT を使いこなし 広く情報を収集し、世界中とコミュニケーションをとるためにも、英語は実際に不可欠と なっている。英語がもし単なるコミュニケーション手段であれば、必要な者だけが学べば .................. こと足りるが、英語はこれからの国民的資質として必要であると判断した。そのためには、 1 教育部基礎教育司・英語課程標準研制組(2002)『全日制義務教育課程標準・英語課程標準解 読』、北京師範大学出版社、2002 年、15 頁。 2 2001 年に作成された新課程(試行案)は当初 2004 年に全国実施の予定であったが,2005 年 9 月に変更された。 4 誰もが平等に学ぶよう、初等義務教育段階から機会を与える必要がある。」(2005 年 8 月、 教育部におけるインタビュー。傍点は引用者) 。 教育部基礎教育司(文部科学省の初等中等教育局に相当)は、小学校での英語教育の教 科としての正式実施に向け、2001 年 1 月、その基本方針と現場への基本的要求を「小学校 で英語教育を積極的に推進することに関する教育部の指導意見」とその附属文書としての 「小学英語教育基本要求」として明文化した(報告末尾の附①の資料 1、資料 2 を参照)に 掲載した。以下それぞれ「指導意見」、「基本要求」と略述する)。これらの文書を受けて、 2001 年 9 月に出された新課程方案(試行案)は小学校に外国語の教科を設けることになっ た。 Ⅱ.教育目標、内容と指導方法 (1)開始学年 前掲の「指導意見」、 「基本要求」によれば、中国における小学校での英語教育の公式開 始学年は第 3 学年である。ただし、国内各地の多様な現状をふまえ、一部の先進地域(北 京市、上海市、天津市など)が小学 1 年から開始することも妨げないし、遠隔地域の農村・ 少数民族地区などで実際には第 4 学年、第 5 学年からの実施になる場合、まだ実施に手の とどかない場合も、それを容認しながら徐々に実施可能となるような措置をとることにな っている。 開始学年に関わって、2005 年 9 月現在の英語教育の全国的な導入状況は教育部によれ ば、 ○ 小学校 1 年生から基本的に 100%導入しているのが北京市、上海市、天津市の各市。 ○ 小学校 3 年生から基本的に 100%導入しているのが、沿海部(発展地域)の諸省。 ○ 全国 31 の省都(省・自治区・直轄市)では、小 3 から 100%実施。 ○ 全国の県の県庁所在地(農村部の中心都市)では、小学校 3 年以上から 80%が実施。 ○ 但し、かなりの農村部の小学校では条件が整わず英語教育の実施に至っていない。農 村部での実施状況を把握するのは困難で、時間割に載せ報告されていてもそのとおり実 施されていない状況も少なくない。 また、中央教育科学研究所の小学校英語教育研究調査の専門家、張志遠教授によれば、 非公式の推計データでは全国の約 50%の小学校で英語教育が導入されているということ であった。 (2)授業形態及び授業時数 「指導意見」ならびに「基本要求」によれば、授業形態は、教員と教科書中心の一斉教 授と試験で知識定着をはかる伝統的な方式を改め、児童に英語学習への興味を湧かせ、英 5 語を用いたコミュニケーションを楽しむ多彩な活動方式(ゲームや歌、ロールプレイなど) を採ることを推奨している。特に豊富な音声映像教材を使って、授業を効果的に進めるこ とが奨励され、遠隔の農村部でもこうした視聴覚教材によって教員の人材不足、力量不足 を補いつつ児童に学習への興味を持たせ、所定の学習を進めることが計画されている(教 育部は、国家発展・改革委員会、財政部とともに 2003 年から「農村の小学校及び初級・高 級中学現代遠隔教育プロジェクト」を進め、条件整備にあたっている1)。 英語の学習時間に関しては、外国語学習の原則をふまえ、 「1 回の時間を短く、 (英語に接 する)頻度を高める」ことが重視され、毎週少なくとも 4 回以上の英語の学習活動を保証 することになっている。このために、1 コマ 40 分の授業時間を分割して、3・4 年生ではシ ョート・タイムを主とし、5・6 年生ではロング・タイムとショート・タイムの組み合わせ ること、および正規の授業時間と課外の時間の双方を組み合わせることが推奨されている。 課外の時間としては、朝の自習時間や放課後を利用した英語の諸活動や補習、学校行事 枠を利用した大型活動(フェスティバル、コンテスト)の展開など各校の裁量で多彩かつ 柔軟に行うことができることになっている。 授業時間の確保については、従来の「言語・文学」(原語:語文。中国語のこと)の時間 を 1 時間削ることが「指導意見」には記されている。さらに一部の先進校では、他の教科 の学習を英語によるイマージョン方式で行うこと(音楽、体育、数学など)も試みられて いる2。 (3)指導方法 小学校の入門段階では、 「見る」「聞く」「話す」のオーラル・コミュニケーションを中心 とした学習活動を展開させることになっている。このために絵やアニメーション・英語教 育番組などの視覚・視聴覚教材が活用され、歌・ゲーム・踊り・会話劇などが行われるこ とになっている。高学年では中学年での学習活動を基礎に初歩的な読み・書きも導入する が、それはあくまでも前期中等段階での学習への基礎固めのためである。 ちなみに英語の入門段階では、標準中国語(原語:普通語)が補助的に用いられるが、 徐々に中国語の使用を減らして、高学年では英語だけによる指導を行うことが理想となっ ている。そのためにも最低限使用されるべき教室英語(Class Room English)が、課程標準 に示されている。反面、農村部などで英語を流暢に話せない教員が、英語を担当すること になったとしても子どもたちが自然なオーラル・コミュニケーションを習得できるように、 利用可能で質のすぐれた視聴覚教材の開発普及に力が入れられている。ここで特徴的なこ とは、視聴覚教材の利用が広大な国土に巨大な人口の存在する中国の状況に適合している 1 教育部「農村中小学現代遠程教育工程状況介紹」、2004 年 12 月 21 日(http://www.moe.edu.cn/ edoas/website18/ info7671.htm)。 2 例えば、天津市和平区逸陽小学(2005 年 9 月訪問)での授業参観より。 6 という考え方で、国費・公費を使って、ネイティブ教員を教室に直接配置することは、政 府の責任として全く想定されていないことである(後述の「Ⅲ-1.教科書、教材」、「Ⅲ -2.教員、指導体制」の項目を参照)。 (4)小学校英語の教育目標 2001 年度からの新課程では、英語教育を初等教育から後期中等教育にいたる(小・中・ 高)12 年間の一貫した指導体系として組み立てている点に大きな特徴がある。 新課程では、 「資質教育」という大きな教育理念の下に英語教育が占める位置と任務が明 確に記されている。「全日制義務教育 普通高級中学英語課程標準(実験稿)」(2001)(以下 「課程標準」と略)によれば、初等中等教育段階の英語教育の任務は以下のとおりである1。 ○ 児童・生徒の英語学習への興味を引き出し、育て、児童・生徒が自己信頼感を確立さ せて、のぞましい学習習慣と有効な学習ストラテジーを身につけるようにし、自主的学習 能力と協力精神を発達させるようにする。 ○ 児童・生徒が英語についての一定の基礎知識と聞き・話し・読み・書く技能をマスタ ーし、一定の総合的な言語運用能力を形成するようにする。 ○ 児童・生徒の観察・記憶・思考・想像力と創造刷新の精神を育てる。 ○ 児童・生徒が世界を理解し、中国文化と西欧文化の差異を理解し、視野を広げ、愛国 主義精神を育て、健康な人生観を形成し、自分たちの生涯学習のための望ましい基礎を固 めるようにする。 同課程標準によれば、英語教育の課程目標は、以下のようにさらに構造化されている2。 全体の目標 総合的な言語運用能力の育成。 以下は、総合的な言語運用能力を構成し、支える 5 つの要素である。 言語技能 聞く・話す・読む・書くの基本4技能。 言語知識 英語という言語についての基礎知識、すなわち発音・語彙・文(語)法・功能・話題。 情感態度 興味・動機・自信・意志・協力精神から祖国意識・国際視野にまで及ぶもの。 学習ストラテジー 文化意識 認知・自制(律)・コミュニケーション・資源利用に関するストラテジー。 異文化に関する知識・理解・異文化間の交流意識と能力。 1 中華人民共和国教育部制訂『全日制義務教育 普通高級中学 英語課程標準(実験稿)』北京師 範大学出版社、2001 年、1 頁。 2 中華人民共和国教育部制訂『全日制義務教育 普通高級中学 英語課程標準(実験稿)』北京師 範大学出版社、2001 年、6~27 頁。 7 なお、以上の 5 つの要素の学習目標や学習の具体的な内容については、入門から高級中 学卒業までの各段階を 1 級から 8 級までの等級に分けて管理している。標準的な学習の目 安としては、小学校の段階が 1 級から 2 級(2 級が小学校 6 年生卒業時のレベル)、初級中 学の段階が 3 級から 5 級(5 級が第 9 学年=初級中学卒業時のレベル)、高級中学の段階が 6 級から 8 級(8 級が高級中学卒業時のレベル)と設定されている。(ちなみに 9 級までが 等級として示され、9 級は高級中学卒業後の、およそ大学での達成レベルに相当する。) 以上のような、小・中・高 12 年間の一貫した枠組みの中で、小学校英語は、入門段階と して「英語に対する好奇心や興味を養い、英語学習を楽しく好ましいものであると感じる ことから入り、簡単な英語による遊び・動作・作業、歌やロールプレイに楽しく積極的に 参加し、初歩的なコミュニケーション技能を身につけるとともに、外国の文化や生活習慣 に対する興味と理解を培うこと」が目標(1・2 級レベルの目標の執筆者による要約)とさ れる。 (5)小学校英語の教育内容(語彙数、読み書き、中学校との接続を含む) 小学校英語における、1 級と 2 級の言語機能に関する学習内容は、報告の末尾に附した附 ①の資料 2 の「基本要求」内の表に示されたとおりである。4 技能は、児童の発達段階に応 じて、1 級で「聞く・行う」、「話す・歌う」「演じる・遊ぶ」「読む・書く」「視聴する」、2 級で「聞く」「話す」「読む」「書く」「遊ぶ・演じる・視聴する」に分けられ、具体的な到 達目標が示されている。2 級レベルの語彙数の総量は、日常の話題(数字、色、時間、天気、 食べ物、服装、玩具、動植物、身体、個人の状況、家庭、友人、文化体育活動、祝祭日) に関する 600 から 700 単語でこれを超えないことになっている。また、2 級レベルではさら に、簡単なチャンツ 30~40 個を唱えることができ、英語の歌 30~40 曲を歌うことができ るようになるなど、リズムやメロディに乗せた無理のない記憶学習が重視されていること がわかる。 また、読み書きについては、初等段階では副次的な位置付けになっているものの、既習 の単語を読むこと(発音すること)ができ、簡単な指示文や依頼文、挨拶文を読解でき、 意味のまとまりのある物語も絵などの助けを借りて理解可能であり、学習した物語や文章 は正しく朗読でき、絵や実物のタイトルを書くか説明文が書け、挨拶文その他の文を正し く表記できることまでが最低限含まれる。 なお、以上の内容は、小学校 3 年次から開始した場合の学習内容であるが、小学校1年 生から学習を開始した場合の扱いについては、小学校卒業時の到達度を 2 級レベルで足踏 みさせる必要はないものとされている。つまり先に進むことができる場合には、目標を繰 8 り上げて達成してよいことになっている1。 ただし、以上のような状況により、初級中学進学時における生徒の英語学習到達度のば らつきがあり、初等英語教育と中等英語教育の接続について問題が生じている。したがっ て、極端な場合には中学入学時に英語を全く学習していない生徒、学習しているが 2 級レ ベルをクリアできていない生徒、4~5 級以上の実力ある生徒までが存在することになる。 このため、対策として補習教材の編集開発にも教育部では力を入れているとの説明であっ た2。なお、初級中学段階では、学習到達度別の指導が必要であることが複数の専門家から 指摘されている。 (6)子どもの能力、態度の評価方法 学習評価については、 「指導意見」 ・「基本要求」では、課程目標に照らして、学習プロセ スや学習への参加意欲・態度・コミュニケーション能力などを見る形成的評価を主とする ことが強調されている。このため、試験の点数だけで評価を行わない、点数で序列をつけ ない、3・4 年生では筆記試験を基本的に行わない。5・6 年生も口頭試験と筆記試験を結合 させた方法を行う。最終的な評価も 100 点法を用いず、段階別評価あるいは目標到達度を 記述する評価を行うことになっている。 以下は、「課程標準」において示された小学校段階の学習評価例である。 評価事例1:小学 3 年~6 年次の英語「遊ぶ・演じる・見る・聞く」の評価表 項目 内容 目的 評価基準 遊ぶ ゲーム 児童の英語 A. 積極的に参加し、よく協力でき、 グループ評価、教 1.ゲームの前に児童にルールとね 応用能力に富んでいる。 らいをはっきりわからせること。 B. 自分から参加し、協力でき、一定 2.ゲームをするとき、教員は一定 の応用能力がある。 の調整・制御能力が必要で、児童の 参加でき、一定の協力意識があ 状況を注意深く観察し、その積極性 る。 を即座に動員したり引きつけたり 学習への興 味を湧かせ る C. 評価方式 員による評価 注意事項 すること。 演じる チャン 児童の言語 ツ A. 発音・イントネーションが正確 児童の自己評価、 適時に、一部の児童には元来の韻律 感覚、リズム で、リズム感・韻律感覚にすぐ グループ評価、教 をもとに語彙を入れ替えてみるよ 感を育てる。 れ、熟練している。 員による評価 うに促す。 B. 比較的発音・イントネーション が正確かつリズム感・韻律感覚 にもすぐれ熟練している。 C. 基本的に発音・イントネーショ ンが正確で、一定のリズム感・ 韻律感覚がある。 1 例えば、天津市全体では小学卒業時に「3 級の B レベル」にまで到達することを目標にしてい る(2005 年 9 月の天津市教育委員会でのインタビューによる)。また北京市内の英語教育の特色 公立校の場合は、全員が 2 級をクリアし、なるべく 4 級から 5 級(初級中学卒業レベル)まで進 むことを目標にしていた(2005 年 8 月の北京市東城区東交民巷小学でのインタビューによる)。 2 例えば、教育部基礎教育課程教材発展中心編著『英語 銜接小学・初中初歩 学生用書(供六、 七年級選用)』、朝華出版社、2005 年 6 月。同書は、小学校での英語教育を受けなかった生徒 のための補習用教材である。 9 歌曲 A. 発音・イントネーションが正 児童の自己評価、 1. および美的 確で、はっきりと発声でき、 グループ評価、教 を強調しない。 感覚を育て 感情豊かに楽しく表現でき 員による評価 2. 児童に過度に発音・イントネー る。 る。 児童の興味 B. 児童に過度に音楽的な正確さ ションの正確さを強調しない。 比較的発音・イントネーショ ンが正確で、感情表情がよい。 C. 基本的に発音・イントネーシ ョンが正確で、一定の感情表 現ができる。 A. 言語材料を活き活きと柔軟に運 児童の自己評価、 1. 運用能力と 用してバーチャルな設定の中で グループ評価、教 評価をすることによって、各児童が 協働能力を 本物の交流ができ、言語は流暢 員による評価 成功できるように援助する。 育てる。 で、一定の創造力と感化力があ 2. る。 ばの間違えを指摘せず、児童の自由 言語材料を適宜に運用しバーチ な表現を大胆に干渉しないで認め ャルな設定の中で本物の交流が ること。 ロール 児童の言語 プレイ B. 教員は相手に応じた客観的な 過度に児童の表現の中のこと でき、言語が流暢である。 C. 言語材料にもとづいて基本的な A. 視聴した内容を言葉で簡単に再 児童の自己評価、 1. 現できる。 評価、教員による 習慣を身につけるような誘導に留 教員の質問に回答することがで 評価、保護者によ 意し、アニメーションを見るときに きる。 る評価 は集中して聞くように注意する。 交流ができる。 視聴す 英語の 児童が特定 る アニメ の環境の中 ・ ーショ で言語の使 話す 映画、 用法をはっ 英語教 きりつかむ 育番組 能力を育て、 を視聴 視野を広げ、 (例えば視聴時間と真剣度につい する 学ぶ楽しさ てのチェックなど) 。 B. C. 教員は生徒がのぞましい視聴 教員の質問について Yes、 No 2. の判断ができる。 テレビを見て、その場で評価をする 保護者は子どもと一緒に家で と達成感を 獲得できる ようにする。 評価事例2:小学 3~6 年の英語 2 級のヒアリング形成的評価 評価活動 評価方法 評価基準 聞いて書く 録音または教員・生徒が音読するのを聞いて、要 ☆☆☆ 1~2 回聞いて、熟練し、すべての内容を正確に完成さ 求にしたがい以下のような練習題を完成させる: 聞いてあて 1. 音を聞いて数字を書く。 2. 音を聞いて○×をつける。 3. 音を聞いて絵を選ぶ。 4. 音を聞いて番号をふったり順番をつける。 1. せる。 ☆☆ 2~3 回聞いて、規定の時間内に比較的正確にすべての ☆ 2~3 回聞いて、 内容の一部を完成させることができる。 内容を完成させることができる。 聞きながらあてる:教員は児童 A を選んで目 ☆☆☆ 1~2 回聞いて正解が出せる。 隠しさせる。児童 B をさらに選んで英語で自 る 分の特徴を自己紹介させる。児童 B は声を変 ☆☆ 2~3 回聞いて正解が出せる。 ☆ 3 回以上聞いてヒントにもとづいて正解が出せる。 ☆☆☆ 聞いてただちに理解し正しい応答ができ、参加意識が ☆☆ 言語材料から自分で正確な応答ができ、参加意識が比 ☆ 3 回以上聞いてヒントにもとづいて答えを出すことが えるなど難度を高めていく。生徒 A は聞き取 った内容から B の姓名をあてる。 2. 描写をきいてなぞなぞをあてる:教員または 児童が英語でなぞなぞを出し、ひとりまたは グループの児童にあてさせる。 聞いて行う 聞き取った言語材料にもとづいて、要求にふさわ しい反応、動作・手ぶり・表情などをする(全ク ラス、グループ内、同じ机の隣同士などのいずれ 強く、積極性が高い。 で行ってもよい)。 較的強い。 できる。 10 聞いて描く 聞き取った言語材料にもとづいて、あてはまる内 ☆☆☆ 聞き取った言語材料を正確に理解し、迅速に要求にも ☆☆ 聞き取った言語材料を正確に理解し、比較的よく課題 ☆ まじめに言語材料を聞き、教員あるいはクラスメイト 容(例えば、人物、動物、植物、生活用品、路線 など)を絵に描く。あるいは指定の位置に正確な とづいて内容を正しい形と色で描くことができる。 色を塗る(個人、グループ内、同じ机の隣同士な どのいずれで行ってもよい)。 を完成させることができる。 の援助のもとで課題を完成させることができる。 注 1:ヒアリングの言語材料は録音教材でも、教員または児童の話し言葉あるいは指令でもよい。 注 2:評価方法は児童の年齢特徴と個性の特徴にあったもので、多様性があり子どもを励ます内容にする。 注 3:評価方式は学生の活動の実際状況にもとづき、教員の評価、児童の自己評価、児童の相互評価などの方式を採用 する。 評価事例3. ポートフォリオ〔訳注:小中共通〕 〔ポートフォリオとは何かについての一般的な説明…省略〕 ポートフォリオでは以下の内容を含むことができる: (1) 新課程の開始期には、児童・生徒に返却される学業に関する基礎的文献あるいは測定結果。 (2) 児童・生徒の学習行動記録(例えば授業中の朗読、朗詠、ロールプレイなどの参加状況)。 (3) 書面作業のサンプル(通常は児童・生徒が最も満足している作品を自分で選んで入れる)。 (4) 教員と保護者の児童・生徒の学習状況についての観察にもとづくコメント。 (5) 平常のテストの、教員による評点・評語あるいは教員の指導のもとでのクラスメイトからの評点・ 評語または自己採点・評語。 (6) 児童・生徒自身による学習態度、方法と効果についての反省と評価。 ポートフォリオを使って形成的評価をするときには、各種のサンプルが一定量に達するように注意し、最終評価が 説得力を持つようにする。通常は学期の開始期に各サンプルの数量を確定しておき、データが児童・生徒の学習が 進歩する過程を反映するようにする。ポートフォリオは児童・生徒が随時閲覧できるところに置く。 評価事例4. 口頭試問の操作形式、採点方法とその基準〔訳注;小中共通〕 学期末、学年末の口頭試問では、児童・生徒の実際の口語表現能力を評価する。児童・生徒は二人一組で、教員の 与える条件(文字または絵で示す)または話題について、その場でディスカションまたはコミュニケーションを行う (児童・生徒数は 3 人あるいは4人一組でもかまわない。ただし少なくとも2人の教員が評価に参加する)。教員は 児童・生徒の口語表現、コミュニケーション能力とその有効性などの面から評価を進める。 (1) 情報を論理的に構成できているか、表現とコミュニケーションが流暢かどうか。児童・生徒は言語 表現上文法や語彙のミスによって表現の正確さをそこねたとしても、基本的な情報を有効に伝達するこ とができるかどうか。 (2)発音、イントネーションとリズムが自然かどうか、相手が聞いて理解できるかどうか。 (3)適切な交際上のテクニックを使用できるかどうか。口語表現のうち、児童・生徒は簡単な交際上のテ クニック(例えば、繰り返し言う、意味をはっきりさせる、表情や手振りを使うなど)を使うことがで き、コミュニケーション活動を円滑に終らせることができるかどうか。 出典:中華人民共和国教育部制訂『全日制義務教育 普通高級中学 英語課程標準(実験稿)』、北京師範大 学出版社、2001 年 7 月初版、41~45 頁。 (7)母国語習得との関係、言語技術向上についての措置 前述のように、早期の外国語学習が母国語の習得を干渉する、という見解が長らく小学 11 校英語教育の積極的推進をはばんできた。中国の場合は、学校では各地で母語として話さ れる方言・少数民族言語と異なる標準中国語(原語:普通話)をまず何よりも習得しなけ ればならない。そのための学習負担のあるところに、更に外国語を学習することは、条件 が完備しない限り困難が大きく、憂慮の声が出るのは当然といえる。 さらに、標準中国語の発音表記法であるピンイン(原語:拼音)はアルファベット文字 を使用するので、ピンインと英語の綴り字と児童が混同しないかどうかも、当初指摘され た問題点であった。 また、中国語やその他の教科学習の授業時間を削減して英語に回すことについても、担 当教員等からの抵抗があったという。 第 1 の問題については、今回の調査では「6 歳までの就学前教育段階で、特に口語の標準 中国語の基礎をしっかり固めておくことが、小学校での英語の導入を可能にする」という 見解が北京と天津の専門家から披瀝された。また、諸外国とくに英語を公用語としている 非英語圏のバイリンガルまたはマルチリンガル教育のあり方と、EUでの英語教育の導入 実施状況を調査し、外国語教育の開始期は児童期に設定することが可能、というよりもむ しろ望ましいという結論を得たことが、各専門家から指摘された(ただしその開始期を何 歳にするのがよいかについての見解・判断基準は一致していなかった)。また北京・上海・ 天津など一部の大都市での 20 年または 30 年近くにわたる初等英語教育のパイロット実験 からも、児童期の英語教育についての肯定的な結論が導かれていたことが、根強い母国語 習得干渉説を乗り越えさせた大きな要因であった。 第 2 のアルファベット文字学習上の問題点については、小学校の 2 年生までに中国語の ピンインをマスターさせるので、実際には混乱することなく英語の文字教育を開始するこ とができるということであった。小1からの英語導入地域でも、1、2 年の段階では英語の 綴り字を書かせることは基本的に要求しないことになっており、ピンイン学習との相互干 渉を避けることができるとのことであった。 第 3 の問題点の中国語教育との兼ね合いについては、教育部においてこのような説明が あった。 「小学校の中国語教育は、英語教育導入のために削減された後も、授業時間全体に占め る比率は圧倒的に多く(外国語が 6~8%なのに対して、中国語は 20%~22%)、大きな 問題はない。とくにカリキュラム全体で標準中国語の使用に留意し、民族文化を重視す る方針をとり、英語学習によるマイナスの影響が出ないようにしている。」 言語技術向上の措置については、学習目標・内容・評価の基準(めやす)としての等級 を、技術向上のための測定評価手段、例えば検定試験として用いるかどうかについて、今 後、教育部・中央教育科学研究所などが共同で、評価尺度、方法その他に関する開発実験 研究プロジェクトを進め、検討していくとのことであった。現段階では、学校英語教育に 対応する検定制度は存在していない。 12 Ⅲ.必修化に伴う条件整備について Ⅲ-1.教科書、教材 (1)教科書制度 ①制度沿革 小学校、初級・高級中学で使用される教科書は、国が制定する基準(「教学計画」また は「課程計画」)及び各教科の教育内容の概要の基準(「教学大綱」または「課程標準」) に基づいて作成される。1980 年代半ばまで、教科書は教育部の直属機関である人民教育出 版社が党・政府の指導の下に作成する全国共通教科書 1 種類しかなかった。一部の地域、 学校では、各地方、学校、研究機関が作成した教科書を個別に使用することもあったが、 原則的にはこの共通教科書を全国一律に使用するという一元的な制度が維持されていた。 しかし、生徒の学力や教員の質、あるいは教育に対する需要など教育状況が大きく異な る全国各地の学校に 1 種類の教科書を画一的に適用するのは無理があるとして、1980 年代 後半から教科書多様化への改革が進められた。 新しい教科書制度は、多様な機関及び個人の編集・執筆による複数種類の教科書を国の 検定を経て発行し、各地方に選択使用させるというものである。以下は、1980 年代後半以 降の教科書制度についての記述である。 ②著作・発行 従来教科書は教育部直属機関である人民教育出版社が党・政府の指導の下に 1 種類の全 国共通教科書を執筆・編集し、政府の審査もこの執筆・編集の過程で行われていた。これ に対し、新しい制度の下では編集・執筆と審査に分離され、審査は国が検定という形で行 い、執筆・編集は、原則上、誰でも自由に行うことができるようになった。教科書作成の ための審査申請は、毎年 3 月と 9 月の 2 回受け入れられ、その申請受理結果は毎年 6 月末 と 12 月末に申請人に通知される1。 ③検定 1986 年、国の教科書検定機関として「全国小中学教材検定委員会」が教育部(当時は国 家教育委員会)により設置された。検定委員会は専門家、教員及び教育行政担当者などか ら構成され、委員の任期は 4 年である2。検定委員会の委員は人材バンクから選ばれ、委員 は教育部が任命する。全国小中学教材検定委員会は、教育部の指導の下に各機関や個人が 編集した教科書を審査し、教科書としての資格を認定する。 1 教育部「中小学教材編写審定管理暫行弁法」 、2001 年。教科書編集のプロセスは、審査→許可 →編集→審査に 3~4 年かかる(2005 年 8 月の中央教育科学研究所のインタビューによる) 。 2 2001 年に教育部から「中小学教材編写審定管理暫行弁法」が出される以前は、検定委員の任 期は 3 年であった(国家教育委員会「全国中小学教材審定委員会工作章程」、1996 年)。 13 教材検定委員会の下には教科ごとに 10~20 名(従来は 5~15 名)の委員から成る審査委 員会が置かれ、各教科の教科書の審査を行い、その結果を教材検定委員会に報告する。 審査の流れとしては、まず第 1 次審査(初審)を通過した教科書は、一部の児童・生徒 (400 クラスあるいは 2 万人の児童・生徒)を対象に試験的に使用される。検定委員会は、 その使用結果に基づいて再度審査を行い、「合格」、「修正後合格」、「不合格」を最終 的に決定する。審査を通過した教科書は、国の定めた課程の場合は国の教科用図書目録に、 地方の定めた課程の場合は地方の教科用図書目録に登録される。なお、副教材は教科用図 書目録には入れられていない1。 ④採択 各教科ごとに複数種類の教科書の中から 1 種類ずつ選択していくのではなく、全教科ま とめて組を作り、数種類の中から 1 種類の組の教科書を選択する。 採択については、小学校については県レベルの教育行政機関が行い、初級中学について は省レベル又は地区(省と県との間の区画)が行う。条件を備えた学校には、独自に教科 書を選択、使用する権限を与えることができることになっている。 2005 年 9 月から学年進行で新課程が全国実施されているが、2004 年 2 月時点では審査を 通過した新課程の試用教科書は、教科ごとに平均して 6~7 種類ある2。 ⑤無償措置 教科書は有償である。しかし、国が指定する「貧困地区」(山間部や少数民族地域など) で貧困家庭の児童・生徒を対象に無償給付が 2001 年より試行されており、2007 年までに貧 困家庭の子どものすべてが教科書代の免除を受けられるようにするという措置をとってい る3 。 (2)小学校英語教科書の現状 ①教科書及び教材について 現在、国内にはすでに相当数の小学校英語教科書がある4。国の研究機関である中央教 育科学研究所が運営している教育科学出版社の王薇女史によれば、教育部の教材審査委員 「教科書管理制度要変了」、 『中国教育報』2001 年 10 月 3 日付け。 教育部基礎教育司「基礎教育課程改革状況介紹」2004 年 2 月 18 日(http://edu.china.com/ zh_cn/notshow/11015567/20040218/11625364_1.html 及び http://www.moe.edu.cn/を参照) 。旧課程 (1993 年施行)においては,1992 年までに検定を通過した小学校及び初級中学の教科書は 8 組 あり、それは、 (1)上海市のような経済が発達した地域用、 (2)浙江省のような経済が発達した 農村用、 (3)広東省のような経済特区用、④経済の発達が遅れた辺境地用、など地域類型に対応 した編集になっていた。これらの教科書は 1993 年の新学年から各地で選択、採用された。 3 国務院「農村教育対策を一層強化することに関する決定」 、2003 年 9 月。 4 先行研究によると、従来人民教育社発行による全国共通教科書を使用していたが、2002 年時 点で 20 社近い出版社が新課程の教材を提供するようになった(河添恵子『アジア英語教育最前 線』、三修社、2005 年、20 頁)。 1 2 14 会を通過した教科書は現在約 30 種類あるとのことである(なお、この約 30 種類の教科書 は試用教科書で、最終審査を通過したものではない)1。 「指導意見」では、「基本要求」に照らして現有の教科書を審査すること、審査に通過 した教科書は小学校及び初級・高級中学の「教科用図書目録」に入れるとしている。また、 2002 年秋の新学期からは「教科用図書目録」に入っていない小学校英語教科書は使用を 停止するとし、新たに編集された小学校英語教科書は、教育部に申請し、審査を受け、許 可を得るようにしなければならないこととしている。 小学校での英語教育は、できるだけ多種類のメディアによる現代的な教育手段(録音機、 VCD 再生機器、ラジオ、テレビ、インターネット等の設備と技術)を十分に活用し、良好 な言語環境と言葉を実際に用いる機会を十分に作り出すようにしなければならないとする 規定も「基本要求」に見られる。 一般に、教育部の審査を通過した小学校英語教科書には、文字教材のほか、カセットテ ープ、CD-ROM(光盤)、ビデオテープなどの音声教材もセットになっている2。 中国の英語教材作成の方法には、外国から直輸入、外国の専門家と作成、外国の教科書 を中国向けに改訂、中国独自に編集の 4 パターンがある。現在、米国英語よりも英国英語 で書かれた教科書の比率のほうが若干多い3。一つの出版社が英語教科書をニーズに合わ せて複数作成している場合もある。例えば、教科書は同一教科書においてカラー版と白黒 版が作成されており、発展途上の農村部などではカラー版よりも安価な白黒版が用いられ る。2005 年 8 月調査でインタビューを行った教育部・教育部基礎教育課程教材発展センタ ーでは、小学校段階で英語教育を受けてこなかった生徒を主な対象とする初級中学入学段 階での補習教材を作成している。 ②教科書の内容 「基本要求」によれば、小学校英語の教科書及び教材は児童の認知レベルに応じたもの で、児童の学習興味や言語に対する感覚を養うのに役立つものでなくてはならず、また、 児童が英語圏の国家の文化、風俗習慣を理解し、異国の文化に対する正しい態度を養うの に役立つものでなくてはならない、とある。さらに、教材は児童に英語でのコミュニケー ション能力や物事を行う能力を養い、児童の思考能力と世界を認識する能力を高めるのに 寄与するものでなければならないとされている。 各教科書出版社は、英語課程標準により、第 3 学年から使用する教科書を作成している 2005 年 8 月の中央教育科学研究所でのインタビューによる。同出版社も小学校英語教科書や カセットテープなどの教材を作成している。中国の教科書制度では、第 1 次審査を通過した教 科書は一部の地域で実験的に試用され、その結果を基に最終審査が行われることになっている。 2 教育部「中小学教材編写審定管理暫行弁法」 、2001 年。 3 2005 年 8 月の中央教育科学研究所でのインタビューによる。 1 15 が、一部の出版社では、都市部の小学生を対象として、第 1 学年から使用する教科書も同 時に作成している。 第 3 学年から使用する教科書を見ると、本文の指示や語彙及び表現は学習開始時から英 語が使われ、一切中国語は使われていない。紙面は、四つの言語技能「聞く」「話す」「読 む」「書く」が万遍なく伸長されるように構成されており、具体的には、「聞く」ことに関 しては、音声テープ・CDを利用して、テープを聴いて動作を行う活動、テープによる正 誤問題、物語の読み聞かせ、リスニングによる内容把握等が行われるように作られている。 「話す」ことに関しては、ペアやグループ活動において会話ができるようにスキットが示 されていたり、ゲームや活動のための定型表現が掲げられている。また、話し合いのテー マが示されていたり、会話が行われている状況等が説明されている。 「読むこと」に関して は、各社若干の違いはあるが、第 4 学年は単語レベルから 10 文程度まで、第 5 学年は 15 文程度、第 6 学年 20 文程度の文章やスキットを読ませるようになっている。「書く」こと に関しては、第 4 学年頃より、単語を書く練習から始まり、第 6 学年では、文章や情報を まとめさせたり、絵を見て状況を説明させる文を書かせるなど、かなり高度な内容まで要 求している。また、教科書には歌やチャンツなどがふんだんに取り入れられ、子どもたち が授業に飽きないような工夫がなされている。 (3)教科書以外の副教材(CD やカセットなど)について 小学校の英語に関わる教材としては、教科書以外に教師用指導書、ペンマンシップ、カ セットテープ、ビデオテープ、CD、VCD、DVD、CD-ROM など多種多様な副教材がある。 主な副教材の内容は,以下のとおりである。 ①ペンマンシップ(文字練習帳) 教科書準拠の文字練習帳があり、第 3 学年でのアルファベット及び基本的な語彙から始 まり、第 6 学年では、慣用句、手紙を書かせたり、会話の空所補充を行わせるようになっ ている。 ②指導書 各教科書には教師用の指導書が用意されており、クラスルーム・イングリッシュから指 導方法等まで、きめ細かに説明されている。 ③音声テープ・CD 教科書本文の語彙の発音、表現が収められている。日本の中学校の準拠テープとほぼ同 じ形式である。 ④DVD 等の視覚教材 教科書に準拠した DVD 等では、教科書のターゲットになっている表現や状況を子どもた ちに分りやすいように、アニメーションや実写を使って短時間で理解させるような工夫が なされている。また、国と放送局が共同で作成している英語教育に関する DVD(「空中課堂」) 16 では、教員が子どもたちに授業を行う形式を取っており(画面では、教員が数人の子ども に向かって授業を行っている)、実際に教室に居ながらにして、DVD を利用して授業ができ るようになっている。これは、農村部等で英語を担当する教員がいない場合等を想定して 作成されている。 ⑤家庭学習用教材 子どもたちが自宅で学習するように、教材がセット化されている。セット内容は、自学 用教科書準拠テープ、絵カード、シール、自己評価カードなどである。 このように中国には様々な副教材があり、各教科書出版社による販売競争が行われてい るが、一部の出版社は学校で注文を取ったり、教科書と抱き合わせで副教材を販売したり するなどの乱販売問題が生じている。こうした状況を受け、教育部などは出版社の乱販売 防止や児童・生徒の親(特に農村の児童・生徒の親)の経済的負担の軽減のために、各レ ベルの教育行政機関や関係部門が学校に副教材の購入を強制したり、学校が児童・生徒に 購入させたり,副教材の価格設定について高額にならないように規制している1。 2005 年 8 月の教育部からのインタビューによれば、北京市、上海市、天津市などの市街 区の小学校のほとんどで英語教育が実施されているが、農村部では実施されていない地域 がかなりあるとのことである2。そのため、農村部での英語の導入は、義務教育普及のため のプロジェクトである遠隔教育プロジェクトと連動して進められている。 この遠隔教育プロジェクトでは、国務院は 2003 年 10 月に「農村教育対策を一層強化す ることに関する決定」を発表し、都市部に比べて教育の普及が遅れている農村部を今後の 教育政策の重点中の重点と位置付け、2010 年までに 9 年制義務教育未実施地域をなくして 全国完全実施を果たすことを目標に掲げている。そのための措置として、5 年前後の時間を かけて農村の中学校にコンピュータ教室、農村の小学校には衛星放送の受信機、教育用 CD-ROM の再生機器及びソフトを配備するとしている3。 こうしたメディア機器が配備されることにより、英語教員の条件が整っていない地域で は英語のテレビ番組、ビデオ、CD、録音テープなどを積極的に活用することで子どもたち に英語を学ばせることができると考えられている。また、これらのメディア機器を利用し た農村の教員研修(英語担当教員も含む)も行われている4。 1 新聞出版総署・教育部「中小学教補材料管理弁法」 、2001 年。教科書の価格設定は、教育部と 新聞出版総署などが「中小学教材価格管理弁法」を制定し、紙、表紙、挿絵の値段を具体的に定 め、高額にならないよう規制をしている。なお、副教材の出版量は規制されており、毎年、出版 会社は新聞出版総署(新聞、雑誌などの刊行物を管理する国務院直属の部署)に出版計画を提出、 許可を得た後に出版することになっている。 2 2005 年 8 月の教育部のインタビューによる。 3 こうしたコンピュータや衛星放送受信機などの設置に対しては、 政府が財政的な支援をしてい る(「(4)教材等についての行政の支援状況」を参照)。 4 遠隔教育については、 「指導意見」においても、2001 年の上半期から中国教育テレビ局は小学 校英語教員研修シリーズを放送して教員の英語教育能力を高めるとともに、小学校英語テレビ教 17 (4)教材等についての行政の支援の状況 上述のようなメディア機器やソフトの配備を行っている「農村小学校及び初級・高級中 学現代遠隔教育プロジェクト」に対し、2003 年には、国は 10 億元(約 150 億円)、地方は 9.1 億元(約 137 億円)を投入した。その結果、約 2 万 1,000 台の教育用 CD-ROM の再生機 器、約 4 万 9,000 台の衛星放送受信機、約 7,100 台のコンピュータ教室が配置されている1。 また、政府は小学校英語を普及させるために教材開発のための資金援助を行っており、 視聴覚教材などの研究開発と制作を奨励している。政府は、教員の英語指導能力を補う見 地から、質の優れた視聴覚教材の開発、普及に力を入れており,例えば、人民教育出版社 や北京師範大学などではソフトウェア開発が行われている2。中国教育テレビ局では、教 育部と協力して、教員の英語力向上のための小学校英語研修シリーズを放送したり、小学 校英語テレビ番組を制作し、放映後それを音声映像メディア(教育番組「空中教室」の DVD)としてインターネット上で無料提供したりしている3。 教科書は有償であることから貧困家庭では教科書代を支払えずに学校を中退することも あるため、政府は貧困家庭の児童・生徒を対象に教科書無償給付を 2001 年より試行してお り、2007 年までに貧困家庭の子どものすべてが教科書代免除を受けられるように財政支援 を継続して行っている。 Ⅲ-2.教員、指導体制 (1)小学校の教員資格、採用、養成について ①教員資格 1980 年代までは明確な資格がなく、中等師範学校や師範大学の卒業者を国や地方が各学 育番組を制作することにとりかかり、2001 年秋の新学期から定時に順次放送すること、小学校 英語教育の放送済み番組は、同時に音声映像(DVD)メディアとしても提供し、小学校英語教 育実施にあたって使用できるようにすることといった内容が見られる。 1 教育部「農村中小学現代遠程教育工程状況介紹」 、2004 年 12 月 21 日(http://www.moe.edu.cn/ edoas/website18/ info7671.htm)。 2 国務院「農村教育対策を一層強化することに関する決定」 、2003 年 9 月。及び 2005 年 8 月の 教育部でのインタビューによる。人民教育出版社は、教科書とセットになった第 1~第 6 学年ま での農村の小学校で利用する教育用 CD-ROM180 枚をすでに作成している。また、北京師範大 学の教授が作成した英語教育ソフトについては、政府が買い取った後インターネットを通じて配 布している。 3 教育部は 2003 年に「国家基礎教育資源網」 (www.cbern.gov.cn)を開設し、同サイト上で児 童・生徒及び教員を対象に英語教育教材を含む各教科の教材を無料で提供している。2003 年に 開通したのは当時 SARS の影響で学校が一時休校になったのを遠隔教育手段で補ったことによ る。ウエッブ上で行われている授業は、テレビ、インターネット、ラジオ、CD-ROM を通じて 行われる。 18 校に配属する養成・採用制度が採られてきた。しかし、実際にはそれ以外の者も多く採用 されていた。こうした無資格教員の多さから教員の資質の向上が課題となり、1990 年前後 から、師範学校・師範大学卒業者を有資格者とし、それ以外の教員に対し相応の学歴水準 に引き上げる研修や資格試験などを実施するようになった。こうした状況の中で教員資格 制度の整備が要請され、1993 年に「教師法」が制定された。同法により、次のような学歴 に基づく教員資格が規定された。 資格の種類 学歴要件 小学校(第 1~6 学年)教員資格 中等師範学校(後期中等教育 3~4 年)卒業以上 初級中学(第 7~9 学年)教員資格 師範又はその他の専科学校(高等教育 2~3 年)卒業以上 高級中学(第 10~12 学年)教員資格 師範又はその他の大学(4~5 年)卒業以上 1995 年には「教師資格条例」、2000 年には「『教師資格条例』実施方法」(原語:「『教 師資格条例』実施弁法」が制定された。実施方法によれば、教員資格の申請者は上記の学 歴要件のほかに、(a)一定の標準語能力(検定試験における一定レベル以上合格)、(b) 身体検査の合格(指定病院での検査)、(c)人物評価(在籍機関の証明)を要件とし、そ れらの証明を添えて申請することになっている。上述の表に示すとおり、小学校の教員に なるには中等師範学校以上の学歴が必要である。 ②教員採用 計画経済の下では、教員養成機関の卒業者は指定された学校に教員として配属される計 画的職場配属制度が維持されてきた。だが近年の市場経済の浸透とともに就職を自由化す る高等教育機関が増え、現在、就職は原則自由となっている。そのため、教員養成機関の 卒業者も基本的には本人と各地域の教育行政機関や学校との交渉によって就職先が決定す る。ただし、地域や学校が教員を公募し、自ら選抜して採用を決定することも一部では行 われている。また、卒業後に地域に戻って教職に就くことを前提として、教員養成機関へ の入学定員の一部を農村や僻地などの特定地域から募集するなどの行政上の措置も採られ ている。採用の際、学校長と教員の間で勤務内容・勤務量、任期などについて契約を交わ す「契約任期制」が多くの地域で採られている。なお、教員は採用後 1 年間の見習い期間 を経て、学校長から正式に任用される。 ③教員養成制度 教員になるには、上述したように、学歴要件を満たすことが必要となる。そのため、教 員養成も資格種類別に異なる専門の養成機関で行われている。これらの養成機関を卒業す れば、教員の資格が認められる。日本のような教員免許状はなく、また、これから職に就 こうとする一般の人々を対象とした教員資格取得のための国家試験や試補制度も設けられ ていない。 小学校教員は後期中等レベルの中等師範学校で養成され、修業年限は地域・学校により 3 19 又は 4 年である。入学者選抜は、一般に他の後期中等教育機関と共通の入学試験を通じて 行う。入学試験は省の統一試験として実施される。初級中学教員の場合、高等教育レベル の師範専科学校で養成され、修業年限は学校・専攻により 2 又は 3 年である。高級中学教 員は師範大学で養成され、修業年限は一般に 4 年である。高等教育機関である師範専科学 校及び師範大学の入学者は、通常、一般の高等教育機関と同様、全国統一入試によって選 抜される。 教員養成は、近年、幅広い人材を確保する必要から、一般の大学にも養成コースが設置 され、教育学部や学科を有する総合大学での教員養成が推進されている。しかし、教員養 成課程以外の一般の課程での教員の養成は行われていない。 (2)小学校英語教員の養成と確保 小学校で英語教員になるには、後期中等教育段階である中等師範学校以上の学歴が必要 である。中等師範学校でも外国語の課程を置いている師範学校卒業生や大学の教育学部の 教員養成課程で英語科教員になるための科目を履修した学生が教員となる場合が多い。近 年は、学歴向上のための研修が行われていることから、中等師範学校卒の学歴を有する教 員が成人教育を受けて大学専科や大学本科(英語専攻)の学歴を取得するようになってい る。 小学校に英語を導入した 2001 年当初、英語課程を開設する小学校が急速に増えたこと により大量の英語教員が必要となった。そのため、(a)学校内で他教科を担当している 教員の中から英語の授業を兼任させたり(例えば、音楽や美術の教員が英語を兼任で教え るなど)、(b)私立学校や優れた英語教員陣が集まっている学校と協力し、2 つ以上の 学校で英語の授業を兼任させたり、(c)師範学校の英語専攻を卒業した学生や他専攻で も英語の得意な卒業生を募集して教員にしたりすることで対応した1。 一般に中国の小学校の教員は教科担任制で、英語も英語専科教員が担当することになっ ている。だが、英語教員が不足している地域では、上述したような他教科と兼任させたり、 他の学校と兼職させたりすることで補っている。小学校英語教員になるための英語運用能 力を測定するような国の統一的な試験はない。ただし、どのようなルートで英語の教員に なったとしても、教員は研修を受けることになっている2。 在職英語教員を対象とした研修には、国の統一的な英語教員の基準となっている資格で はないが、海外の英語教育団体や大学と協力して英語運用能力を証明する英語教員資格取 得を促す研修がある(以下、現職(英語)教員の研修を参照)。また、優秀な小学校及び 1 程暁堂主編(教育部師範教育司組織編)『基礎教育新課程師質培訓指導 小学英語』 、北京師範 大学出版社、2003 年、149~150 頁。 2 程暁堂主編(教育部師範教育司組織編) 『基礎教育新課程師質培訓指導 小学英語』 、北京師範 大学出版社、2003 年、149~150 頁。 20 初級・高級中学の外国語教員を表彰する賞も設けられている1。 (3)現職(英語)教員の研修 中国の教員研修機関としては、省レベルに「教育学院」(原語に同じ)、省の下の地区 (市)レベルに「教育学院」「教師研修学院」(原語:教師進修学院)、県(市)レベル に「教師研修学校」(原語・教師進修学校)がそれぞれ設置されており、これらの機関が 教員研修の中心的役割を担っている。また、師範大学などでも研修が行われている。さら に、国の研究機関である国家基礎教育実験センターの外国語教育研究センターは、外国語 教員の海外研修を 2001 年より行っている。 英語教員の研修は、全教員を対象とした継続教育プロジェクトの中で行われている。継 続教育は 1999 年から全教員を対象に研修(「小学校及び初級・高級中学教員継続教育プロ ジェクト」)が開始され、現在は、2007 年までの全教員を対象とした研修プログラムが実 施されている。同プログラムでは、2007 年までに初任者は 120 時間、在職者は 240 時間以 上の研修を受けることとされ2、英語教員の研修も、これらの時間の中で当てられている。 在職教員の研修には、校内郊外で行われる模範的な授業の見学、教材、教授法に関する ワークショップなどがある。教員は、夏休みや冬休みなどの長期休暇、週末(自由参加)、 インターネットを利用して研修に参加している3。小学校英語教員の在職研修の内容は、教 員の具体的な状況と現地の教育における実際の必要から決定されている。 2005 年 9 月に訪問した、北京市教育委員会直属の成人教育機関で教員研修を行っている 北京教育学院でのインタビューによれば、北京市では、現職教員を対象とした研修として、 一般教員を対象とする研修(英語教員を含む)と中堅教員(原語・骨干教師)を対象とす る研修がある4。教員になったら、まず初任者研修(120 時間)を受け、次に 5 年間の間に 在職研修(360 時間)を受けることになっているとのことであった。教員のレベルによって 研修を受ける機関は異なり、例えば、一般教員研修は区・県の研修機関で、中堅教員研修 は省・市の研修機関で行われている。 小学英語教育が進んでいると言われる北京市の海淀区の現職教員を対象とする研修の内 容を例として見てみると、区の研修機関において小学校及び初級中学の教員や新任教員の 研修が行われている。その内容は、「教員の職業道徳」(2 単位)、「教員及び学生の心理 1 中国幼稚園小学校及び初級・高級中学教師奨励基金会と国家基礎教育実験センター外国語教育 研究センターが 1994 年に外国語教員の最高の栄誉とされる「全国小学校及び初級・高級中学外 国語教師園丁奨」を創設し、2 年に一度表彰式を行っている。 2 2007 年までの研修計画では、無資格教員を無くすために学歴向上研修も行われている。 3 程暁堂主編(教育部師範教育司組織編)『基礎教育新課程師質培訓指導 小学英語』 、北京師範 大学出版社、2003 年、152~153 頁。 4 2005 年 9 月の北京教育学院でのインタビューによる。その他、校長など管理職を対象とした 研修も 1990 年代から実施されている。 21 健康」(3 単位)、「現代情報技術運用」(4 単位)、「基礎教育課程教材改革」(8 単位)、 「口語英語」(4 単位)の 5 つが必修科目としてプログラムの中に入っている。「基礎教育 課程教材改革」の研修は小学校及び初級・高級中学で関係する教員の専門必修科目で、「口 語英語」の研修は在職英語教員と 1965 年 1 月 1 日以後に生まれた英語教員でない教員の専 門必修となっている。同区は研修プログラムの参加について、10 時間(1 時間=45 分)を 1 単位として計算しており、3~5 の必修科目とその他の科目を合わせ 36 単位(360 時間) 履修した者に修了証書が与えられる。同区の研修費用については、区の教育委員会と教員 が共同で負担している。 海淀区の「口語英語」研修の内容は、イギリスのロンドン三一学院(TCL:Trinity College London。ブリティッシュ・カウンシル承認の試験機関)が定めた国際口語英語等級試験 (GESE:Graded Examinations in Spoken English。非英語圏のために作られた口語英語等級試 験体系)対策講座であり、スクーリングと自習の両方の形式で行われる。研修後に試験に 参加させ、2003 年末までに小学校教員は 4 級、初級中学教員は 5 級、高級中学教員は 6 級 取得が目標として設定されており、さらに 2005 年末までには小学校教員には 6 級、初級中 学教員には 7 級、高級中学教員には 8 級取得を目指させている1。試験合格者には、ロンド ン三一学院が発行する GESE 等級証書が与えられる2。 現職英語教員を対象とした研修は地域の実情に応じてその内容が決定されるため、各地 域でその内容は異なっている。以下、現職英語教員を対象とする研修プログラムの例をい くつかを紹介しておく。 ①英語教員資格証書取得研修プログラム 北京市の東城区では、ロンドンの三一学院が発行する「英語を母国語としない人に英語 を教えるための英語教育資格連合証書」(JCertTESOL)を取得させるための中堅教員を対 象とした研修が実施され、2003 年 8 月には、25 名の初級・高級中学で英語を担当している 中堅教員が同証書を取得した。同証書は、北京市教育学院東城分院、イギリスのシェフィ ールド・ハラム(Sheffild Hallam)大学、イギリスのロンドン三一学院が協力して実施して いるもので、TESOL(Teachers of English to Speakers of Other Language。英語教師協会)セン ターが提供する「英語を母国語としない人に英語を教えるための資格証書取得研修プログ ラム」受講者が取得できることになっている3。 同試験は 12 級(1~3 級が準備級、4~6 級が初級、7~9 級が中級、10~12 級が高級)に分か れており、試験は 1 対 1 の面接で行われ、4 段階(優秀、良好、合格、不合格)の評価が下され る。 2 同証書は、 一部の教育研修機関において学生の英語能力を測定するための手段として用いられ たり、海外留学や海外で仕事をする際の英語能力の示す証明書にもなっている。 3 「25 名北京中学英語教師 獲得倫敦三一学院証書」 、『中国教育報』、2003 年 9 月 3 日及び「英 語教師進行資格准入考試」 (http://irc.eol.cn/20030901/3090099.shtml)。 1 22 また、中国国際人材交流協会、アメリカのアリゾナ大学、教育関連の民間企業が提携し て、TESOL の支持を得て、「英語教師資格証書」研修プログラム(TEFL[Teaching English as a foreign language] CERTIFICATE)を 2005 年 7 月にされた。同証書は、国際水準を示 す信用度の高い証書で、80 の国家、5,000 の学校で用いられていると言われており、100 時間、1 か月の研修プログラムを通じて、2005 年 8 月には 40 名が同証書を取得した1。 このように各地、各機関での研修や試験を通じて英語教員に英語運用能力証明資格の取 得が奨励されているが、これらの資格は英語教員になるための国が定めた統一的な資格で はない。 ②農村の英語教員養成支援(北京市を中心に) 農村部では英語を流暢に話せない教員が英語を担当することになったとしても子どもた ちが自然なオーラル・コミュニケーションを習得できるように国として利用可能で質の優 れた視聴覚教材の開発普及に力を入れていることは先に触れたが、そうした視聴覚教材を 活用するためのパソコンなどの教育機器運用研修が農村の教員に対して行われている。 特に農村英語教員養成支援を行う研修としては、北京市政府は、郊外と都市部の教員の 格差是正、農村の英語教員不足解消、英語全国実施への対応のために、農村の英語教員の 学歴取得のために資金を投入し、農村の英語教員に対して無料(交通費、食費等は自己負 担)で研修を行う研修「北京市郊外農村中堅教員研修開発行動計画」 (原語: 「緑色耕耘―― 京郊骨干教師培訓与発展行動計画」 )を 2001 年から実施している。2005 年 9 月に北京教育 学院では、農村の教員の資質向上を目的として、上述の行動計画の中の一つのプロジェク トとして、2004 年より「中英北京市農村地区小学英語中堅教員研修プロジェクト」を実施 している。農村地域の英語教員 2,000 人を対象とするこの研修では、資金は全額北京市政府 が負担している。同プロジェクトの期間は 3~5 年で、イギリス大使館を通じて、ブリティ ッシュ・カウンシルの協力を得て行われている。 2004 年は、夏休みを利用した 20 日間の研修が実施され、1 クラス 25 人で、教育方法な どの研修が行われた。同研修終了後、参加者全員が国際的にも承認されている TEYL(Teach English to Young Learners)証書と北京市小学教師継続教育証書を取得した。なお同研修では 受講者の中から 20 名を選抜して 1 か月の海外研修を実施しており、派遣教員は帰国後に区 の研修センターの教員となって他の教員の指導にあたるとのことであった2。 1 「英語教師資格証書推出」、 『光明日報』、2005 年 5 月 25 日付け、 「国際英語教師資格証書登陸 中国」 (http://www.chinaedunet.com/news/news/20056/types84/22144112.asp)、 「首届 TEFL 英語教師 資格証書培訓成功挙弁」(http://learning.sohu.com/20050805/n226584569.shtmlhttp://www.tefledu. com/)、及び「中国英語教師培育網」(http://www.tefledu.com/)を参照。 2 北京教育学院国際交流中心「第一届中英農村地区小学英語骨干教師培訓項目報告」 、2004 年 11 月(北京教育学院受贈資料)、 及び 2005 年 9 月 1 日に実施した同学院からのインタビューによる。 23 ③外国語教員の海外派遣 外国語教員の資質向上のために、2001 年 9 月、国として初めての外国語担当教員を対象 とする海外研修プログラムが実施されている。2001 年度は 106 人が選抜され、数か国にそ れぞれ 6 か月の研修に派遣された。このプログラムは「小学校及び初級・高級中学優秀外 国語教師海外留学奨学金プログラム」と呼ばれ、教育部の直属機関である国家留学基金管 理委員会と国家基礎教育実験センター外国語教育研究センターが民間出版社の資金をもと に開設したもので、2001 年度から 10 年間の計画(当初は 5 年間の計画であったが、延長さ れた)で、毎年 100 名程度の小中学校の英語教員を派遣している。2001 年の場合、各省か ら推薦された 215 人の教員の中から試験により 106 人を選抜の上、アメリカやイギリス、 カナダ、オーストラリア、ニュージーランドにそれぞれ 6 か月派遣された1。 ④教材使用のための研修 小学校英語教員を含む教員の研修として、教科書をどのように使用するかといった内容 の研修がある。教科書執筆者と出版社が教科書の使用に関して教員に研修を行うもので、 その内容は、(a)教科書編集方針の紹介、(b)当該教科書の教育理念の紹介、(c)当 該教科書の特徴の紹介、(d)当該教科書を使用した授業方法の紹介、(e)当該教科書の 使用において注意すべき問題の指摘、(f)典型的な模範となる授業の提示等である2。2005 年 8 月に訪問した中央教育科学研究所において、同研究所が運営している教育科学出版社 も同社が作成した教科書について教員に向けて使用の仕方等の研修を行っているとのこ とであった。 (4)ネイティブ・スピーカーの確保、配置、ALT の採用等の現状 2005 年 8 月の教育部からのインタビューによると、外国籍教員の雇用については財源 の問題から施策としては行っておらず、義務教育完全実施を目指して実施されている遠隔 教育プロジェクトの下で教員が視聴覚教材を活用して英語教育を行うことが奨励されて いる。ただし、学校が独自資金(校営企業、学校の不動産運用、父母からの賛助金など) を使って外国籍教員を招聘する場合がある。 2005 年 9 月の天津市教育委員会(市の教育行政機関)でのインタビューにおいても、市 として招聘してはいないが、学校が独自に資金を作って招聘しており、現在、30~40 人の 外国籍教員がいるとのことである。なお、外国籍教員はすべて教員の資格を有していると のことである3。 1 「首批中小学優秀外語教師将出国深造」、 「中国教育報」2001 年 9 月 5 日付け。 程暁堂主編(教育部師範教育司組織編)『基礎教育新課程師質培訓指導 小学英語』 、北京師範 大学出版社、2003 年、170 頁。 3 2005 年 9 月の天津市教育科学研究院からのインタビューによる。 2 24 (5)地域人材、民間指導者の活用について 人材資源の豊かな一部の地域の学校では、地域の人材の活用などが考えられるが、稀で ある。2005 年 8 月の教育部からのインタビューによれば、大学生や地域の外国人が夏休 みを利用してボランティアで小学校に教えることがある1。 Ⅳ.成果と課題 (1)英語教育を導入した成果 本調査ですべての専門家が語った小学英語教育の成果としては、 「子どもたちが英語を好 きになり、楽しく学習して積極的に吸収し、臆せず英語で交流できるようになった」点で ある。英語教育の小学校での実施は、親や社会からの評判もよく、親は特に熱心に子ども 達の学習を支持し、課外や家庭でも英語に接し、力を伸ばすための協力を惜しまないとの ことで、塾通いなども含めた親の支持を積極的に受け止めていることがうかがわれた。 また、英語を学習した結果、子どもたちの中国語が乱れたとか国語能力が低下したとい うマイナスの評価は現在のところまだ聞かれないということで、むしろ英語学習が他の学 習にものぞましい影響を与えているという積極的な評価もあるとのことであった。 今後、新課程の英語も含んだ全体の導入状況の成果の分析評価については、教育部基礎 教育課程教材開発センターと中央教育科学研究所等が、 「小中学での学習の質の監督指導に 関するプロジェクト(原文:中小学監督指導学習品質工程)」として、まず 2005 年度から 遼寧省などでのモニタリング調査を、小学 5 年と中学 2 年を対象に実施することになって いる。その結果から、具体的な英語教育の実施の成果が明らかになる筈である。 (2)課題と今後の方向性 中国での初等英語教育における何よりも大きな課題は、広範な教育現場に質の基準を満 たした英語科教員がまだ圧倒的に不足している点である。北京市、上海市、天津市など英 語教育実験を 80 年代から今日まで一貫して継続している先進地域では、英語教員の確保 について、当初の困難を克服し、現職教育と新規養成教育の両面で良性循環のサイクルが すでに形成されているというが、多くの特に農村地区をかかえた省・自治区では、まだ教 員問題の解決には時間を要するとの説明であった。 具体的な農村部の教員不足問題への措置としては、前述のような遠隔教育手段の普及プ ロジェクトと、都市部からの優秀教員の派遣事業と農村部の中堅教員の内地留学研修など が実施されている。特に都市部の教員の等級審査での昇級の要件として、一定期間農村に 1 2005 年 8 月の教育部からのインタビューによる。 25 給与はそのままで赴任させるシステムはインセンティブを伴う有力な措置といえ、今後の 効果が期待される。 このほか、初級中学との接続の問題を生じさせる開始期のばらつきの問題、これに関わ る小学校段階で児童の英語能力が二極化する傾向、就学前教育段階で過熱化する早期英語 教育問題などが現時点での課題として指摘される。 さらに、小学校の英語教科書が現在 30 種類と数が多く、2005 年 8 月に実施した中央教 育科学研究所でのインタビューでは、当初は 100 種類あった教科書を 30 種類に絞ったが, それでも問題もある教科書もあるとのことである。 しかし、中国政府は、国民的資質のひとつとして外国語によるコミュニケーションスキ ルを掲げ、児童期からの英語学習導入がそのために有効であると判断している。このため に 20 年の時間をかけて英語教育の試行実験に取り組んできた実績があり、教育政策文書、 カリキュラム指針に示された基本的枠組は当面ゆるがないものと考えられる。 その他特記事項 (1)英語学習に対する関心の高さについて 1999 年、北京市政府はオリンピック招致委員会とタイアップして「北京市民が英語を話 す」(原語: 「北京市民講英語」)委員会を設立し、実施プランを策定した。これにより、交 通、治安、観光、産業などの重点窓口業務担当の英語学習に対し具体的な要求を出し、市 民が学ぶ英語「100 センテンス」と「300 センテンス」の普及教材も作成した。タクシーの 運転手にも最低限の英会話を習得することが義務づけられるなど、北京市では市民全体を 対象とした英語学習が推進されている1。 さらに、教育部は、1999 年 6 月、国民の英語力を 5 級に分けて検定する英語検定試験(原 語・公共英語等級考試。Public English Test System、PETS)を創設し、1999 年に一部都市で 試行、2000 年から全国実施している。同種の国内試験は、これまでなく、こうしたことか らも英語教育に国として力を入れていることが窺える。 同英語検定試験は、教育部とイギリス海外開発省との国際協力事業として、教育部の所 轄機関である試験センターとケンブリッジ大学とが共同で研究、開発した。検定する英語 力のレベルと対応する学校段階は以下のように説明されている。 初級(PETS1)…初級中学卒業以上の英語水準 中下級(PETS2)…高級中学の優秀な卒業生の英語水準 中間級(PETS3)…大学で 2 年英語を履修した英語水準(一般学生) 中上級(PETS4)…大学で 3~4 年英語を履修した英語水準(一般学生) 1 河添恵子『アジア英語教育最前線』、三修社、2005 年、61 頁。 26 最上級(PETS5)…大学英語専攻 2 年修了時の英語水準(英語専攻学生) 英語検定試験は、コミュニケーション能力を主として測定する試験とされ、ヒアリング、 言語知識、講読、作文、会話などの内容からなる。受験の資格は特になく、誰でも受験で きる。教育部試験センターが問題作成と受験者の試験成績の認定を行い、各省・自治区・ 直轄市の教育試験機構が実際の試験を実施する。 教育部は、今後、各省で行われている、高等教育独学試験1の英語について、PETS2 級及 び PETS3 級の試験をそれぞれ専科レベルと本科レベルの試験に代用したり、PETS5 級の試 験を公費派遣留学生の選考試験に利用するなど、検定試験を徐々に標準試験として普及さ せていくとしている2。 (2)英語学習到達度測定のための試験について 国の基礎教育に関する教育研究機関である「国家基礎教育実験センター」内の外国語教 育研究センターは、同研究センターの実験プロジェクトの一つとして、イギリスのケンブ リッジ試験委員会との共同で「小学校及び初級・高級中学英語学習成績測定試験」 (NEAT) を開発している。同試験は全国 NEAT 試験事務室が実施するもので、教育部が作成した「英 語課程標準(実験稿)」に基づいて級が分けられ、問題が作成されている。 2004 年 1 月には同試験の 2 級、5 級、8 級の試験が実験的に行われ、同年 5 月には 1 級 から 8 級の試験が正式に実施された。同試験は、各地の省、市、県、学校を単位として、 自由に参加することができ、試験参加費用は一人 3 元だが、地域の経済発展のレベルに基 づき、各地方の試験事務室で費用は適切に設定できるようになっている。毎年 2 回、1 月 上旬と 5 月下旬に行われる。同試験は学年ごとの「英語課程標準(実験稿)」に記された 到達目標への到達度テストで、1・2 級の試験では、120 分のうち、スピーキング 20 分、 ヒアリング 30 分、基礎知識及び総合運用能力試験 70 分である)が実施される。試験結果 はA(120~96 点)、B(95~72 点)、C(48~71 点)、D(24~47 点)、E(1~23 点)の 5 段階で評価され、AとBの成績、つまり 72 点以上の者には、全国試験事務室が 発行する「小学校及び初級・高級中学英語学習成績(NEAT)等級証書」が与えられる3。 1 高等教育独学試験は、実際に入学しなくても高等教育機関卒業の学歴を取得することができる ものである。 2 「中国教育報」1999 年 6 月 14 日付け、及び「人民日報」1999 年 6 月 14 日付け。 3 国家基礎教育実験センター外国語教育研究センターホームページ(http://www.tefl-china.net/ index.htm)及び「中小学英語学習成績測試(NEAT)実施細則」(http:// www.neat.net.cn/xz.htm) を参照。 27 附①:中国の学校教育制度等 (1)学校教育制度(初等中等教育段階) 中国では、国(中央政府)が全国統一的な教育制度を定めているが、各地方の経済、社 会、文化的状況が大きく異なることから、その画一的施行を求めることはせず、入学年齢 や修学年限などは地方によってある程度弾力的に設定できるようになっている。 中国の初等中等教育制度は 1922 年の学制改革以来、文化大革命の中で修業年限が短縮さ れたこともあったが、基本的に 6-3-3 制が維持されてきた。だが、農村などの小学校で は財政的な理由で 5 年制をとるところが少なくない。5 年制小学校では、これに続く初級中 学を 4 年としているが、4 年制の初級中学は極めて少なく、5-3 制となっている地域が多 い。このため、5 年制小学校を延長して、6-3 制にする方針が立てられている。 各教育段階の概要については、以下のとおりである。 ①義務教育 1986 年に全国的な義務教育制度の実施を定めた「義務教育制度」が制定、施行されてい る。同法によれば、義務教育は 6 歳から 9 年間とされる。小学校及びこれに続く初級中学 がこの 9 年間にあたる。 なお、義務教育の開始年齢については、現在の小学校の入学年齢を 7 歳とする地域が多 いことから、7 歳まで遅らせることができるとされている。現在は 6 歳への引き下げが進め られている。2003 年現在、全人口の約 92%が住む地域で 9 年間の義務教育を実施している。 ②初等教育 小学校(原語:小学)は 6 年制だが、農村部を中心に 5 年制の小学校も多い。また、入 学年齢は現在 7 歳から 6 歳に移行中でありが、まだ 7 歳入学が多い。 小学校へは現在ほとんどの児童が入学するが、経済的その他の理由による中途退学児が いるため、卒業者は約 9 割とされている。 ③前期中等教育 小学校に続く初級中学(原語に同じ)は、3 年制又は 4 年制である。4 年制の初級中学は 5 年制の小学校に接続する形態で、主として農村に見られる(1999 年現在で全体の 6%)。 後期中等教育機関への入学に際しては、各省・自治区・直轄市で統一入試が実施される。 なお、初級中学への進学率は約 9 割、高級中学段階の中等学校への進学率は 4 割強である。 ④後期中等教育 初級中学卒業後は普通教育を行う高級中学(原語同)と職業技術教育を行う中等専門学 校(原語:中等専業学校)、技術労働者学校(原語:技工学校)、職業中学(原語に同じ) とに分かれる。後期中等教育機関への入学に際しては、各省・自治区・直轄市で統一入試 が実施される。 中国の学校系統図は以下のとおりである。 28 学 年 16 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 21 20 19 18 17 中 学 職 業 16 15 14 学 校 技 術 労 働 者 中 等 専 門 学 校 高 専 科 級 中 本 科 人 教 学 等 育 中 等 育 初 級 中 学 教 育 13 機 12 初 11 10 高 教 ) 12 学職 院業 技 術 ( 13 22 成 大 学 ) 14 年 齢 23 ( 15 大 学 院 専 科 学 校 小 学 関 校 9 等 教 育 8 6/ 7 6 5 幼 稚 就 学 前 教 育 園 4 3 ( 部分は義務教育) (2)教育行政について 中央政府には教育部が置かれ、教育全般を統括している。中央政府の各部・委員会(省 庁にあたる)は所管業務に関する専門教育機関を管理している。地方の省・自治区・直轄 市及び県・市(区)の各レベルには教育委員会(教育庁又は教育局)が設けられている。 教育部は、教育の基本方針・政策、諸基準を制定し、中央各部委員会及び地方を指導す る。初等中等学校の設置、管理指導は、一般に県・区レベル政府を主とする設置、維持、 管理体制をとっている。 現行の教育行政系統図は以下のとおりである。 29 <中央レベル> (専門教育を所管) 国務院 (所管の主たる学校) 教 育 部 [高等教育機関] 国務院各部・委員会 教育司 省・自治区・直轄市 教育委員会 <省レベル> 31 <地区レベル> [高等教育機関,中等 専門学校,技術労働 者学校] 省・自治区・直轄市 各庁・局 [同上] 地区レベル 教育委員会・教育局 322 [高級中学,農業・職業 中学,初級中学,小学 校,幼稚園] 県レベル 教育委員会・教育局 <県レベル> 2,135 <郷・鎮レベル> 44,700 [初級中学,小学校,幼稚園] 郷・鎮レベル ※各レベルの区画数は 1997 年。 出典:文部省編『諸外国の教育行財政制度』,平成 12 年。 (3)教育の普及状況について 2003 年現在、全人口の約 92%が住む地域で 9 年間の義務教育を実施している。初級中学 への進学率は約 9 割、高級中学段階の中等学校への進学率は 4 割強である。また、高等教 育機関への進学率は 1 割強である。 初等中等教育段階の学校数、児童・生徒数・本務教員数(2003 年) 学校数 児童・生徒数(千人) 本務教員数(千人) 小学校 456,903 121,567 5,779 初級中学 64,661 66,041 3,430 高級中学 15,406 16,838 946 中等専門学校 2,953 4,564 208 技術労働者学校 3,075 1,530 127 注 1:初等中等教育機関には、私立学校を含むが、在学者数 5,751 千人、割合 2.7%と極めて少 ない(中等専門学校、技術労働者学校を除く)。 注 2:上記統計には,香港・マカオは含まれていない。 出典:文部科学省『教育指標の国際比較 平成 17 年版』、平成 17 年 1 月、94 頁。 30 附②:「指導意見」及び「基本要求」の翻訳 (資料 1) 小学校で英語教育を積極的に推進することに関する教育部の指導意見 教育部基礎教育司[2001]2 号 (2001 年 1 月 20 日公布) 各省、自治区、直轄市教育庁(教育委員会)、新疆生産建設兵団教育委員会: 中国共産党第 15 期中央委員会第 5 回全体会議[原語:党的 15 届 5 中全会]と第 3 回全国教育 工作会議の精神を貫徹するために、 「教育は現代化に、世界に、未来に向かわなければならない」 という戦略的指導思想をさらに実現していくために、教育部は、小学校における英語教育開設を 21 世紀において初めての基礎教育課程改革の重要な内容とすることを決定した。小学校の英語 開設について、以下のような意見を提示する。 1.小学校英語教育課程開設の積極的推進 小学校における英語教育課程開設推進の基本目標は、以下のとおりである:都市及び県城[訳 註:県政府所在地]の小学校では 2001 年の秋から徐々に英語を開設し、農村部[原語:郷鎮] の小学校では 2002 年の秋から徐々に英語を開設する。小学校の英語課程は、一般に第 3 学年か ら開始する。各省、自治区、直轄市の教育行政機関は実情に合わせて、その地域の小学校におけ る英語課程の目標と段階を決定してもよい。 小学校における英語課程を積極的に推進する中で、日本語やロシア語などその他の外国語教育 を保護し、支持しなければならない。その他の言語を主たる外国語の科目とする学校が、独自の 特色を出すことを奨励する。「二外国語教育」[訳註:原語は「双外語」。英語と日本語やロシア 語などの外国語の教育を行うこと。]などの教育実践活動を積極的に支持する。 2.小学校において英語課程を開設する上での基本要求 小学校の英語教育は「小学校英語教育基本要求(試行)」 [原語: 「小学英語課程教学基本要求 (試行)」 ]に基づき、児童の英語への興味を刺激し、育て、一定の言語感覚と良好な発音・アク セントの基礎を育て、児童が英語を用いて簡単なコミュニケーションを楽しむように指導するこ とを重視する。発音や文法等の言語知識を主とするような教え方を防ぎ、教育の重点を、児童が 英語を用いたコミュニケーション能力や興味関心を育てることにおく。小学校英語の評価は、課 程目標の要求に照らして、形成的評価[訳註:日常の授業で表現される興味、関心、コミュニケ ーション能力などを評価すること]を主とする。児童を試験成績で順位付けしたり、試験成績を 各種の評定や選抜の根拠にしたりしてはいけない。 小学校英語課程の開設にあたっては 1 回の時間を短くし、頻度を高める原則を守らなければな らない。学校はロング・タイムとショート・タイムを組み合わせる。授業時間と課外時間を組み 31 合わせ、豊富で多彩な英語教育活動を展開するなどの方法をとってよい。毎週少なくとも 4 回の 教育活動を保証するために、学校は具体的な条件に基づき、弾力的な計画を立てることができる。 英語教育を開設している学校は、小学校 3 年生から語文[訳註:言語・文学]の授業時間を 1 単位時間減らして英語の時間に当て、地方裁量の時間の利用により、その他の英語活動時間を確 保する。 各地では、実際の状況に基づいて小学校英語の教育方法を確定する。伝統的な授業法の観念を 改め、遠隔教育手段と英語教育の音声映像教材を十分に利用し、学生のために良好な言語学習環 境を作り出すようにする。教員の条件の比較的の良い都市或いは地区は、授業において、積極的 に英語の音声映像メディアを利用しなければならない。英語教員の条件が整っていない地区は、 英語のテレビ番組、ビデオ、CD、録音テープなどの資源を積極的に利用し、教員の指導と準備 の下、教育活動を展開しなければならない。 2001 年の上半期から、中国教育テレビ局は小学校英語教員研修シリーズを放送し、教員の英 語教育能力を高めるとともに、一部で小学校英語テレビ教育番組を制作することにとりかかり、 2001 年秋の新学期から定時に順次放送する。 [訳者註:小学校英語教育の]放送済み番組は、同 時に音声映像(DVD)メディアとしても提供し、小学校英語教育実施にあたって選択使用でき るようにする。 3.小学校英語教科書管理の強化 現在、国内にはすでに相当数の小学校英語教科書が存在しており、解決すべき主要な問題は、 「小学校英語教育基本要求(試行) 」に照らして、現有の教科書を審査し、管理を規範化するこ とである。審査に通過した教科書は、小学校及び初級・高級中学の教科用図書目録に入れるよう にする。2002 年秋の新学期からは、教科用図書目録に入っていない小学校英語教科書は使用を 停止するようにする。新たに編集された小学校英語教科書は、教育部に申請し、審査を受けて許 可を得るようにしなければならない。また、質の高い英語教育ソフトウェアの研究開発と制作を 奨励する。 4.小学校英語教員陣の建設の強化 小学校英語教員陣建設の強化は、小学校英語教育の質を確保するための基本的条件である。現 在、小学校英語科中堅教員と課外の英語学習活動の指導教員の研修に重点を置き、小学校英語課 程開設における差し迫った需要を解決しなければならない。専門変更のための研修を行い[訳 註:中国の小学校は教科担任制であり、担当教科を変更する場合、教員は研修を受ける。] 、一定 の英語の基礎を備えた在職小学校教員に対しては、研修に合格後、担当教員にしたり、或いは課 外の英語学習活動を兼任させたりする。各レベルの師範教育機関、教員研修機関、小学校及び初 級・高級中学の教育研究室は、その地域の教育行政部門の計画と指導の下、在職小学校教員に対 する研修を行うようにしなければならない。 32 各種各段階の師範教育機関において英語教育の専攻設置を強化し、小学校教員の養成規模を拡 大し、養成能力を高めるようにする。中等外国語師範学校を引き続き運営するようにしなければ ならない。条件を備えた中等師範学校が英語専攻クラスを開設することを奨励し支持する。中等 師範学校は必修の英語の授業を開設しなければならない。条件を備えた中等師範学校は中等外国 語師範学校に改組再編すべきである。 当該地域の実際の状況に基づき、小学校英語教員の配置標準、担当授業数、任用、給与待遇等 に対しては、合理的な規定を作成する。優秀な小学校英語教員を集めるために、各地域は実際の 状況に基づき、適切な奨励政策を採用してもよい。非師範系高等教育機関の英語専攻の卒業者が 小学校教員になるように奨励する。 5.小学校において英語教育開設に対する指導者の強化 各レベルの教育行政部門は小学校での英語教育の重要性を十分に認識し、指導を強化し、操作 可能な実施計画を制定し、実際の効果を重んじ、少しずつ推進していくようにしなければならな い。条件の整っている地域では小学校のために英語教育プログラムを受信し、必要な条件を提供 しなければならない。とりわけ、有線テレビによる受信の問題を解決し、テレビ、ビデオ、録音 機器など必要な設備を配置する。その他の地域では「村村通ラジオテレビプロジェクト」 [訳註: 村々を結ぶ通信ネットワークづくりのこと]や「校校通プロジェクト」[訳註:教育部が行って いる、あらゆる学校と学校を結ぶ通信ネットワークづくりのことで、コンピュータの設置や VCD などの再生映像機器の設置などを行っている]を十分に利用しなければならない。 小学校英語の教育課程と教育方法の科学的な研究を強化する。教育部は全国小学校英語教育指 導委員会を設け、全国の小学校英語の教育活動と科学研究に対して指導を行うようにする。各レ ベルの教育研究部門は専門の小学校英語教育研究指導員を置き、小学校英語教員を積極的に組織 して学習指導研究を行わせるようにする。 各地域では若干の「モデル学級」 「モデル校」 「モデル地区」等を計画的に設置し、教育改革の 実験を行い、結果を総括し、先進的な経験を広め、当該地域の小学校英語教育推進のためのモデ ル的役割を担わせる。 附属文書:「小学校英語教育基本要求(試行) 」 2001 年 1 月 18 日 (資料 2) 附属文書: 小学校英語教育基本要求(試行) [原語:小学英語課程教学基本要求(試行)] 今日世界では、情報技術を主たる指標とする科学技術の進歩が日進月歩である。社会生活にお 33 ける情報化と経済活動におけるグローバル化により、外国語、特に英語が日増しに我が国の対外 開放と国際的な交流の重要な道具となっている。外国語を学び、身につけることは、21 世紀の 公民に対する基本要求である。 近年、小学校で英語教育を行っている地域は日増しに増え、規模も迅速に拡大している。教育 実験プロジェクトの展開は、小学校での英語教育を積極的に推進するための経験と基礎を提供し た。資質教育を全面的に推進し、21 世紀に相応しい我が国の国民の総合的な資質向上の必要性 のために、教育部は 2001 年秋の新学年から、小学校で英語教育を行うことを積極的に推進する ことにした。全国の小学校の英語教育を指導するために、特に「小学校英語教育基本要求(試行) 」 を制定し、小学校英語の教育課程、教育評価、教材の審査と選択使用の主要な根拠とする。 1.目標 小学生の生理的、心理的特徴及び発達段階のニーズに合わせ、小学校段階における英語教育の 目標は、英語学習の興味を引き出し、積極的な学習態度を育成し、英語学習に自信を持たせるこ と、児童に一定の言語感覚、自然な発音やイントネーションの基礎を育成すること、英語を用い た簡単なコミュニケーション能力を初歩的に形成し、次の段階における英語学習のために基礎固 めをすることである。 2.開始学年と授業時間配分 小学校の英語教育の開始学年は第 3 学年とする。教育の質と指導の効果を保障するために、小 学校の英語の授業は、ショート・タイムとロング・タイムを組み合わせ、頻度を高める原則を遵 守することで、週 4 回以上の学習活動を保証しなければならない。第 3、4 学年はショート・タ イムを主とするが、第 5、6 学年はショート・タイムとロング・タイムを組み合わせ、そのうち ロング・タイムは週 2 コマ以上とする。 3.学習指導目標と要求 現在、小学校における英語教育では、以下のような二つのレベルごとの学習指導目標があり、 小学校第 3、4 学年の学習指導目標は 1 級、第 5、6 学年の学習指導目標は 2 級とする。地域の状 況に応じ、2 級以上の目標にしても、また、困難な地域では、各省の教育行政機関から許可をえ れば、その学習指導目標を適切に下げてもよい。 34 小学校英語教育目標 級 別 目標 類別 聞く 行う 話す 歌う 一 級 遊ぶ 演じ る 読む 書く 視聴 する 具体的な目標 ・聞き取った単語を識別したり、カードや実物を指したりできる。 ・教員からの指示を聞いて反応ができる。 ・指示に従って、絵やカードを指し、色を塗り、絵を描き、体を動かし、手作業などができる。 ・カードや動作からのヒントを通じて、短い物語を聞いて理解し、反応できる。 ・テープを聴き、復唱することができる。 ・互いに挨拶ができる。 ・簡単な自己紹介、例えば、名前、年齢等を話すことができる。 ・簡単な感情や感覚、例えば、好き嫌い等の表現ができる。 ・表現を通して、意味を推測したり、言葉を発したりできる。 ・簡単な英語の歌 15~20 曲を歌い、詩歌 15~20 首を朗唱することができる。 ・絵や文を見て単語や短い文(センテンス)を話すことができる。 ・英語でゲームができ、その中でコミュニケーションをとることができる。 ・ロールプレイができる。 ・英語で歌を歌ったり、簡単な童謡劇、例えば「赤ずきん」などを演じることができる。 ・絵を見て単語を覚えることができる。 ・実物(絵)を指して読む形で、すでに学習した単語を認知できる。 ・絵の助けを借りながら、短い物語を読むことができる。 ・単語や文(センテンス)を正しく書くことができる。 ・簡単な英語のアニメーションや一級レベルの教育番組を見て理解できる。視聴時間は各学年 10 時間以上(毎週平均 20~25 分)とする。 ・絵や手振りの助けを借りながら、ゆっくりかつ自然な口調で話された言葉や録音教材を聞い て理解できる。 聞く ・簡単な挿絵の入った物語を聞いて理解できる。 ・教室の活動の中での簡単な質問を聞いて理解できる。 ・よく使われる指示や要求を聞いて適切に応じることができる。 ・口頭表現において、正しい発音、イントネーションで話すことができる。 ・よく知っている人や家族の様子について、簡単な会話ができる。 話す ・日常の基本的なやりとり、例えば、出会いと別れの挨拶、お礼、謝りの表現等ができる。 ・教員の助けを借りて、短い物語を話すことができる。 ・習った単語を読むことができる。 ・発音のルールに基づき、簡単な単語を読むことができる。 ・教材の中の簡単な要求或いは指示を読んで理解できる。 二 読む ・グリーティング・カードなどの簡単なメッセージを読んで理解できる。 級 ・絵の助けによって簡単な物語や短文を理解でき、意味のまとまりごとに読む習慣がついてい る。 ・学習した物語や短文を正確に朗読できる。 ・指示に基づき、絵や実物などに対して簡単で短いタイトルや説明を書くことができる。 ・例文にならってセンテンスを書くことができる。 書く ・簡単な挨拶を書くことができる。 ・センテンスを書くとき、大文字、小文字、句読点等を正しく使用できる。 ・指示に基づき、英語でゲームをすることができる。 遊ぶ、 ・教員の助けを借りて、物語や童話劇を演じることができる。 演じ ・簡単な詩歌 30~40 首(一級での要求を含む)を朗唱することができる。 る、 ・英語の歌を 30~40 曲歌うことができる。 視聴 ・英語のアニメーションと二級レベルの英語の教育番組を見て理解することができ、視聴時間 する は毎学期 10 時間以上(週平均して 20~25 分以上)とする。 表注 1:小学校の英語の話題は、数字、色、時間、天気、食べ物、服装、玩具、動植物、身体、個人の状 況、家庭、学校、友人、文化・体育活動、祝祭日などを含む。 表注 2:小学校段階の児童が触れる語彙は(上記の)話題の範囲を主とし、総量は 600~700 単語に抑える。 本教育要求は、語彙については具体的に規定しない。 4.指導形態と方法 小学校の学習の特徴を踏まえて、小学校における英語の授業は活動中心の授業の形態を作り出 さなければならない。指導の重点は、児童の言語コミュニケーション能力の育成とする。小学校 35 での英語教育では、文法の概念を教えることはしない。教育資源を十分に活用し、聞いたり、動 作したり、話したり、歌ったり、遊んだりする方法を採用して、児童の主体的な活動を促し、大 胆に表現させ、児童の言語に対する感受性と初歩的な英語で聞き、話し、歌い、演じる能力の向 上に重点をおく。 小学校第 5、6 学年への英語指導は、聞き、話す能力の向上とともに、初歩的な読み、書き能 力を高め、次の段階における英語学習の基礎固めをする。 5.教材と資源 小学校英語教材は児童の認識レベルに応じたもので、児童の学習興味や言語に対する感覚を養 うのに役立つものでなくてはならない。児童が英語圏の国家の文化、風俗習慣を理解し、異国の 文化に対する正しい態度を養うのに役立つものでなくてはならない。さらに、教材は児童に英語 でのコミュニケーション能力や物事を行う能力を養い、児童の思考能力と世界を認識する能力を 高めるのに役立つものでなければならない。小学校での英語教育はできるだけ多種類のメディア による現代的な教育手段(録音機、VCD 再生機器、ラジオ、テレビ、インターネット等の設備 と技術)を十分に活用して、良好な言語環境と言葉を実際に用いる機会を十分に作り出すように しなければならない。 6.教育評価 小学校での英語教育における評価の主な目的は、児童の学習興味と積極性を促すことである。 評価の方法は、多様かつ選択できるものでなければならない。評価は形成的評価を主とし、児童 が日常の授業で各種の英語教育活動に参加した際に表現された興味、態度、コミュニケーション 能力を主要な根拠とする。 第 3、4学年の学期末あるいは学年ごとの評価は、基本的に筆記試験を行わず、日常の教育活 動とほとんど変わらぬ方法で行い、児童に対する観察と児童とのコミュニケーションなどの方法 で評価する。第 5、6 学年の学期末或いは学年末の試験はオーラルの試験と筆記試験の両方を結 合させた方法で行うべきである。オーラルの試験は児童の実際の英語の運用能力を試験し、試験 内容は児童の日常生活に近いものにしなければならない。筆記試験は主にリスニングと読解の技 能を試験する。 最終的な評価[原語:終結性評価]は等級制を用いるか或いは目標到達程度から成績を記し、 100 点法による評価は行わない。児童の試験成績による順位付けや試験成績に基づくコンテスト や選抜を行ってはならない。 36 附③:中等英語教育の到達目標 第9学年(初級中学)卒業時の要求水準(5級) 級 別 技 能 五 級 聞 く 話 す 読 む 書 く 具 体 的 な 目 標 1.イントネーションとアクセントに基づき話者の意図を理解することができる。 2.熟知している内容の談話を聞いて理解でき、情報・観点を取り出すことができる。 3.文脈の助けを借りて、知らない単語があっても大意を理解することができる。 4.正常に近い速度の物語や叙述文を聞いて、因果関係が理解することができる。 5.聞き取りの課程で、適切な反応を返すことができる。 6.聞いた話の内容について簡潔に情報を記録することができる。 1.簡単な話題についての情報提供、簡単な観点・意見の表明、討論参加ができる。 2.他者と情報交換ができ、協力して任務を完成することができる。 3.口頭での発表中に適宜、自己修正ができる。 4.情報を聞き出したり、助けを求めたりすることが有効にできる。 5.話題と場面に応じた対話ができる。 6.英語で寸劇(スキット)を演じることができる。 7.以上の口語での活動において、発音・イントネーション・語調が自然で適切である。 1.文の前後関係や語の構成法から新出語の意味を推測し、理解することができる。 2.段落中の文と文の論理関係を理解できる。 3.文章の主題を見つけ、物語の筋書き(プロット)を理解し、展開や結末を予測することがで きる。 4.一般的な体裁の読み物を読むことができる。 5.読む目的に応じた初歩的なストラテジーを運用し、情報を得ることができる。 6.辞書などの参考図書を用いて学習を進めることができる。 7.教科書以外の課外読み物の読書量が累計で 15 万語以上に達している。 1.文章を書く目的に応じて題材や資料を集め、準備することができる。 2.自分で短い文章や手紙などを書くことができ、教員の指導のもとでそれを修正することがで きる。 3.常用される接続詞を使って順序や論理関係を表わすことができる。 4.人物や事件についての簡単な描写ができる。 5.与えられたグラフや表にもとづいて簡単な明文を書くことができる。 注 1:中学校の英語教育で扱われる話題:a)生徒個人・家庭・学校生活と密接な話題、b)日常生活、趣味 や興味、風俗習慣、科学文化にかかわる話題。 注 2:中学校段階の語彙数:1500~1600 語の単語と 200~300 の慣用句または常用構文。 普通高校(高級中学)卒業時の要求水準(8級) 級 別 技 能 八 級 聞 く 話 す 具 体 的 な 目 標 1.さまざまな語調が表現するさまざまな態度を識別できる。 2.熟知している話題についての討論や談話を聞いてわかり、その要点を記憶することができる。 3.簡単な発話の中の観点をつかむことができる。 4.ラジオ・テレビ等の英語ニュースの主題と大意を基本的に理解できる。 5.婉曲な表現の提言や忠告を聞いて理解できる。 1.適切な語調やリズムを用いることができる。 2.学習課題に基づく話し合いができ、計画を立てることができる。 3.実験・調査研究の経過と結果に関する報告をすることができる。 4.よくある話題について、準備をして3分間のスピーチができる。 5.日常のコミュニケーションにおいて、有効な言語表現(例えば、意見発表したり、判定した り、責任追及したり、苦情を訴えたり)ができる。 6.生活の中で通訳(例えば、外国人を買い物や遊覧に案内すること)ができる。 37 読 む 書 く 1.閲覧するテキスト中の異なった観点や態度について理解できる。 2.さまざまな文体の特徴を識別できる。 3.難解で長いセンテンスを構造分析しながら読み解くことができる。 4.学習課題に基づいて電子ブックまたはインターネットから情報を獲得し、加工処理すること ができる。 5.教科書以外の課外の読書量が累計 36 万語以上に達している。 1.論旨の一貫した構成の整った短い文章を書くことができ、物事を叙述したり観点や立場を表 現したりすることができる。 2.教科書の文章の要約ができる。 3.文章作成にあたって文章規範に沿ったわかりやすい表現ができる。 4.文字と図表で提供された情報に基づき短い文章またはレポートが書ける。 注 1:普通高校段階で扱う話題は:①個人・家庭・交際などに関する話題、②日常生活、趣味や興味、風 俗習慣、科学文化にかかわるさらに深い内容の話題、③中国の一般社会生活に関する話題(職業・ 祝祭日・風俗・社交礼儀など)。 注 2:普通高校段階の語彙数:3000 語の単語と 400~500 の慣用句と常用構文。 (中華人民共和国教育部『全日制義務教育 普通高級中学 英語課程標準(実験稿)』、北京師範大学出版 社、2001 年 7 月、14、17、20、21 頁より作成) 参考文献 ・教育部「教育部関於積極推進小学開設英語課程的指導意見」 (附:小学英語課程教学基本要求)、 教基 2001 年 2 号、2001 年 1 月。 ・教育部基礎教育課程教材発展中心組織編著『英語 銜接小学・初中初歩 学生用書(供六、七年 級選用)』 、朝華出版社、2005 年 6 月。 ・「教育科学出版社 2005 課程標準実験教材紹介」 ・『通州区教師進修学校工作年報 2004』 ・「通州区中山街小学簡介」 ・「通州区中山街小学課程表」(第 4 学年) ・「東方小学課程表」(第 1~6 学年) ・『東方小学』パンフレット ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学教科書 英語 第 1 冊』 、 北京出版社、2002 年 6 月。 ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学英語 第 1 冊 教学指導書』 、 北京出版社、2002 年 6 月。 ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学教科書 英語 第 2 冊』 、 北京出版社、2003 年 1 月。 ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学英語 第 2 冊 教学指導書』 、 北京出版社、2003 年 1 月。 ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学教科書 英語 第 4 冊』 、 北京出版社、2003 年 1 月。 ・北京教育科学院教材編審部編『九年義務教育小学英語 第 4 冊 教学指導書』、北京出版社、2001 年 1 月。 38 ・北京教育科学院基礎教育課程教材発展研究中心編『九年義務教育小学教科書 英語 第 5 冊 教 学指導書』、北京出版社、2002 年 6 月。 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