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【ASEAN】小売業は“もてなし”の現地化を
世界のビジネス潮流を読む AREA REPORTS エリアリポート ASEAN ASEAN 小売業は “もてなし” の現地化を ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長 若松 勇 日本の小売業者はこれまで国内志向が強かったが、 5 位以内に入り、圧倒的な強さを示している。 ここに来て ASEAN 市場へ参入を試みる動きが顕著 になってきた。とりわけ目立つのが、日本で発展を遂 高島屋、イオンはアジアシフトを鮮明に げたコンビニエンスストア(以下、コンビニ)だ。と 地場系や欧州系小売企業が目立つ中で、一部の国で はいえ地場系、欧州系企業との競合は激しく、生活密 は日系小売企業も上位グループの一角を占める。まず、 着型ビジネス故に現地生活習慣への適応も不可欠だ。 「アジアのショッピング街」ともいわれるシンガポー 現地化とともに、ノウハウやサービスでの差別化が求 ルでは、地元のスーパーマーケット 2 社に続き、高島 められそうだ。 屋が 3 位につけている。高島屋は 20 年前の 1993 年、 欧州・地場系小売企業が上位に 目抜きのオーチャード通りに店舗を開設。地元の買い 物客に加え、観光客をもターゲットとして、同国を代 ASEAN 各国では所得水準の上昇に伴い、購買力を 表するデパートの地位を築いた。12 年度の営業利益 持った中間層、富裕層が着実に増加している。拡大す は 50 億円。同社全体の連結利益の約 2 割をシンガポ る消費市場をターゲットとして、地場系、外資系小売 ールで稼ぎ出していることになる。同社はシンガポー 業者の新規参入、店舗拡大が相次ぐ。表は ASEAN ルに続く ASEAN での 2 店舗目を、15 年にベトナム・ 主要 6 カ国における小売企業の売り上げ上位 5 ブラン ホーチミンに出店する準備を進めている。高島屋の名 ドである。自動車や家電の分野では日系ブランドの存 前はシンガポール国内にとどまらず周辺国にも届いて 在感が大きいが、小売りの分野では外資規制もあり、 おり、ベトナムからも多くの買い物客が訪れるという。 地場系ブランドが存在感を放つ。 ベトナムには本格的なデパートがまだないということ また、欧州系ハイパーマーケット(大規模スーパー マーケット)も店舗の圧倒的な規模と低価格攻勢によ で、商機を見いだしたようだ。 アジアでは、日本で 1 店舗開設するのと同じ投資額 り消費者を引きつけ、多くの国で存在感を示している。 で 5~10 店舗も開設できるという。しかも市場は伸び 例えば、マレーシアとタイそれぞれの 2 位には英系の 盛りで、投資効率の違いは明白だ。 テスコが名を連ねる。フランス(以下、仏)系カジノ 他方、マレーシアではイオン傘下のジャスコが香港 グループによるビッグ C もタイで 3 位、ベトナムで 5 系のジャイアント、英系テスコの二つのハイパーマー 位にランクインされている。仏系カルフールもインド ケットに続いて、第 3 位に入っている。イオンがマレ ネシアでは 3 位に、マレーシアでは 5 位に入る。この ーシアに第 1 号店を開設したのは 84 年だ。この 30 年 うちカルフールは本国の業績悪化を受け、2010 年以 の間に地元ではすっかりなじみのブランドとなってい 降、ASEAN での事業は売却を進め、12 年中に売却 るが、近年、攻勢を一段と強めている。12 年 11 月に を完了。インドネシア事業については、直接経営から はカルフールの現地法人を買収し、ハイパーマーケッ フランチャイズ形式に移行した。フィリピンでは地場 トを中心に 27 店が加わった。店舗数は合計 57 店に倍 系財閥グループの SM リテールがデパート、ハイパー 増している。 マーケット、スーパーマーケットの三つの店舗業態で 60 2013年7月号 同社は 84 年にタイにも進出。現在、主に食品を取 AREA REPORTS 表 ASEAN 主要国における小売企業売り上げ上位5ブランド(2012年) インドネシア 順位 1 (単位:100万ドル) マレーシア 小売ブランド名 アルファマート 企業名 シグマンタラ・アルフィンド(地場) 売上高 2,329.4 順位 1 2 3 インドマレット カルフール サリムグループ(地場) カルフール(仏) 1,927.5 1,322.6 4 5 マタハリデパート ハイパーマート マタハリ・プトラ・プリマ(地場) マタハリ・プトラ・プリマ(地場) 1,159.2 1,055.5 フィリピン 小売ブランド名 ジャイアント 企業名 デイリーファームインターナショナル(香港) 売上高 1,993.7 2 3 テスコ ジャスコ テスコ(英) イオングループ(日) 1,377.8 921.4 4 5 パークソン カルフール パークソン(地場) カルフール(仏) 574.2 567.5 シンガポール 1 2 SM デパート マーキュリーセルフサーブ SM リテール(地場) マーキュリードラッグ(地場) 1,649.8 1,449.6 1 2 フェアプライス シェン・ション NTUC フェアプライス(地場) シェン・ショングループ(地場) 3 4 SM スーパーマーケット ピュアゴールド SM リテール(地場) ピュアゴールドプライスクラブ(地場) 1,079.1 1,077.6 3 4 高島屋 コーツ 高島屋(日) コーツ・アジア(地場) 417.2 404.2 5 SM ハイパーマーケット SM リテール(地場) 5 セブン-イレブン セブン&アイ・ホールディングス(日) 377.9 668.3 タイ 1,442.2 500.7 ベトナム 1 2 セブン-イレブン テスコ セブン&アイ・ホールディングス(日) テスコ(英) 6,905.0 5,307.1 1 2 SJC コープマート サイゴンジュエリー(地場) サイゴンユニオンオブトレーディング(地場) 1,099.1 955.7 3 ビッグ C カジノグループ(仏) 3,681.7 3 グエンキム グエンキムトレーディング(地場) 933.0 4 5 ホームプロ トップス ホームプロダクトセンター(米) セントラルリテール(地場) 1,122.5 1,116.1 4 5 PNJ ビッグ C プーヌアンジュエリー(地場) カジノグループ(仏) 851.8 403.0 資料:ユーロモニター・インターナショナル資料を基にジェトロ作成 り扱う小型スーパーを中心に 58 店にまで店舗網を拡 ループのネットワークを生かして、セブン-イレブン 大 さ せ て い る。 同 社 は 12 年 11 月、 マ レ ー シ ア に を追撃しようとしている。 ASEAN 本社を設立した。東南アジア地域への展開を ミニストップはフィリピン市場に先行して参入。既 一層図るためだ。同本社の下、ASEAN 域内に持つ小 に 327 店のネットワークを築いている。ベトナムにも 売り、デベロッパー、総合金融などの各事業範囲を超 11 年にフランチャイズ形式で参入している。ローソ え た 相 乗 効 果 を 追 求 し、 グ ル ー プ 一 丸 と な っ て ンはこれまで中国を中心に展開してきたが、11 年に ASEAN 地域での事業拡大を推進していくという。同 はインドネシアに進出し、1 年半で 85 店舗まで拡大 社は既に 14 年にベトナム、カンボジア、インドネシ させた。さらに 13 年 3 月に消費財財閥大手のサハグ アそれぞれにショッピングセンターを開設すべく準備 ループと提携し、タイへの出店を果たしている。 を進めている。 日系コンビニが出店攻勢 今後、中間層、富裕層の増加が見込まれる ASEAN 諸国では、消費者のニーズも多様化し、価格だけでな く、ワンランク上の品質・サービスを求める傾向が一 コンビニの ASEAN 展開にも拍車がかかる。ここ 層強まることが予想される。この点で長きにわたるデ 数年の間に進出が一気に進んだ。先行しているのは業 フレ時代を生き残ってきた日本の小売企業は、きめ細 界の巨人、セブン-イレブンだ。既に ASEAN 主要国 かな品ぞろえ、優れた接客マナー、新商品・サービス に進出しており、とりわけ、タイでの店舗数は 7,000 の提案など消費者を満足させるさまざまなノウハウを 店近くに達する。タイの小売業界の中では、欧州系ハ 持つ。特に日本で発展を遂げてきたコンビニは、24 イパーマーケットなどを抑え、首位を独走している。 時間いつでも、安全・清潔な店舗で、良質の食事や商 ただ、タイのセブン-イレブンは同国有数の財閥、CP 品を提供することで消費者の支持を広げている。 グループへのライセンス供与によるものだ。CP オー 他方、欧米系、地場系小売企業との競合も激しさを ル社のピヤワット社長は、13 年は新規で 550 店舗を 増していることは前述の通りである。また、消費者密 開店し、18 年までには 1 万店の大台を目指すとして 着型のビジネスのため、生活習慣や生活感を重視する いる。 必要があり、日本式をそのまま持って行っても受け入 ファミリーマートも ASEAN での出店攻勢を強め れらないケースも多い。いかに日本の小売企業各社の ている。13 年 3 月末現在で、タイ 806 店、ベトナム 持つ優れた商品やサービスを生かしつつ、差別化して 39 店、インドネシア 5 店を展開しており、13 年 4 月 いくか、日本流の現地化が求められている。 にはフィリピンにも 1 号店を出店した。タイでは地場 系最大手のセントラルグループと提携しており、同グ 61 2013年7月号