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Title 第15回岐阜神経精神医学集談会 Author(s) Citation [岐阜大学医学部紀要 = Acta scholae medicinalis universitatis in Gifu] vol.[54] no.[2] p.[31]-[32] Issue Date 2006-06-30 Rights Version URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/20965 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 岐阜大医紀 封;31-32(2006) 31 第15回岐阜神経精神医学集談会 日 時:平成17年6月11日(土)15:00∼17:00 場 所:岐阜大学病院1階 1.身体拘束,長期臥床時の深部静脈血栓症合 併について 岐阜市民病院 精神神経科 田中希和 多目的ホール 3.岐阜大学保健管理センターの業務と学生の 評価:2004年定期健診時のアンケートによる 評価 岐阜大・保健管理センター 精神科領域で,鎮静による臥床や身体拘束後に深部静 脈血栓症(DVT)や肺塞栓(PTE)が生じたという報告 が散見される。DVTからPTEに至った場合の致命率は 田中生雅,御田村相模,本多恭子,市原美佐, 武田 純,山本眞由美 2004年4∼6月に実施された学生定期健康診断時に, 高く,精神科病棟における突然死の原因の1つとも言わ 岐阜大学学部学生,院生(7615名)を対象に保健管理セ れ注目されている。H16年1月∼3月の間に岐阜市民病 ンター利用に関するアンケート調査を行い,回答のあっ 院精神神経科病棟において2症例のDVTを経験した。 た3735名について結果を検討した。回収率は49.0%で 1例は身体拘束後3日日よりDVTの症状を呈したも あった。アンケート調査の結果から,多くの参考となる の,もう1例は大量服薬後,臥床傾向で入院9日目より 情報を得られた。まず定期健康診断や個別面接では,学 症状を呈したものであった。いずれも循環器内科へコン 生に並んで待ってもらう事に大学側は無頓着になってい サル卜し,約1ケ月の抗凝固療法にて血栓消失を確認し たが,26.3%の学生が「受けにくい」と考えていた。不 た。患者を突然死の危険にさらさない為にはDVTの時 満の原因は時間設定と会場混雑にあり,学生の利便性を 点で発見・治療することが肝要で,そこで最も重要にな 図るために早急な改善の必要がある。また,新入生個別 るのは医療者が不動化をDVTと常に関連づけて認識す 面接の実施について,「悪い」「非常に悪い」などの低い ることである。当院では不動化が48時間以上継続する場 評価は少なく,心身の健康状態をある程度教員に伝える 合,血栓の有無のスクリーニングとして体動前にDダ ことは可能であった。さらに,「スポーツテスト」「美容 イマーを測定し,無症候性のDVTの発見にも努めてい 情報」「避妊や性生活に関する情報」などセンターに期 る。 待される多彩な要望が学生にあることが判明した。多様 2.総合病院精神科外来における不登校症例 土岐市立総合病院 関 精神科 正樹 不登校の概念は,学校恐怖症に始まり,分離不安を中 核病理とする神経症という理解を経て,どの子にも起こ りうることから,その名称を登校拒否,不登校へと変え てきた。しかし,状態像から不登校と診断することには な情報提供の場を作る必要があると考えられた。 4.他科の協力を得て回復への道が開けたうつ 病の1例 須田病院 栗下和也 うつ病性の昏迷が遷延化し複数の身体疾患を併発した が,他科の協力を得て身体管理を行い修正型電気けいれ いくつかの問題点もある。1つは不登校の中にうつ病や ん療法(mECT)により回復への道が開けた66歳の男性 発達障害が少なからず認められること,もう1つはそも 例を経験した。患者は前医にて種々の薬物療法がなされ そも不登校は病気なのかという問いが潜んでいることで たが,治療抵抗性であり,全身状態も悪化したためmECT ある。以上を考察すべく,土岐市立総合病院精神科外来 目的にて当院へ転院となった。転院後早期より誤喋性肺 を受診した不登校患者17例を検討した(平均年齢:13.8 炎,低Na血症,直腸潰瘍を発症し,栄養管理も困難と 歳,男:女=5:12)。この中には,発達障害が3例, なった。これらの身体疾患に対し,呼吸器内科,消化器 うつ痛が2例含まれ,これらを看過しない臨床的視点の 内科,NST(NutritionalSupport 重要性が確認された。また,9名は不登校を示す以外は Team)と連携して治療 を行うことで全身状態が回復した。その上でmECTが 健康であった。彼らの不登校は,社会の価値の多様化と 開始され,患者はうつ痛から回復し退院となった。関節 それに伴う青年期の拡散(モラトリアム)を背景として の拘縮が懸念されたが,整形外科でのリハビリテーショ おり,この期間をどう生きるのかという葛藤の表現とし ンにより病前同様の歩行も可能となった。この症例より, 身体合併症を持った治療抵抗性のうつ病に村して他科と て,肯定的に捉える必要があると考えられた。 連携しつつmECTを行うことは効果的であり,積極的 に考慮すべきであることが示唆された。 2006年1月30日受理 岐阜大医紀 32 5.高機能自閉症の男性にみられた性同一性の 混乱 岐阜大・医 精神神経科 後藤まどか 54;31-32(2006) 7.初乳にこだわり続けた産後精神病の1例 岐阜赤十字病院 神経精神科 藤本祐子 症例は,30歳の女性で,活発で明るい性格,友人も多 性同一性の混乱を呈した高機能自閉症の初診時21歳の かった。Ⅹ年8月,第1子を普通分娩で出産し,産後3 男性例について報告した。症例は,幼少時より相互的対 日目より,何度も時間や物事を確認したり,子供を抱き 人関係の問題,コミュニケーションの遅れ,興味の限局 しめて茫然としているなどの行動がみられた。急に泣き があったことから高機能自閉症と診断されていた。高校 出したり,易怒的になるなど感情面でも不安定となり, 生の時,TV番組から得た情報をきっかけに「自分は性 希死念慮も認められたため,4日後入院した。アメンテ 同一性障害である」と言い,女性歌手を真似したり,女 性のような口ぶり・態度で話し,また女性になりたいと アを伴った急性精神病状態であり,非定型精神病(産後 精神病)と診断した。入院後,本人の了解を得て断乳の 述べるようになった。当科には,「性的な事柄について 処置をした。3週後,精神病状態は改善し退院となった。 も話しをしたい」と訴え,受診してきた。しかし,性同 一性障害に特徴的な反対の性に対する強い持続的同一 その後,患者は初乳をあげられなかった事にこだわり, 母親としての不全感を訴え,自責的,抑うつ的になって 感,及び自分の性に対する持続的な不適切感を有してい いった。治療者が患者に対して,初めての挫折体験とし るとは考えられず,また服装倒錯,性転換願望は認めな かった。以上より,本症例における性同一性の混乱は, て,その辛さを受容,共感していったところ,現実を前 向きに捉えるようになり感情が安定していった。この症 性同一性障害に起因するものではなく,むしろ高機能自 例により,産後精神病は急性期の治療のみならず,その 閉症に基づく体験・思考行動様式,視覚情報からの影響 後の精神状態に村する精神療法の重要性が示唆された。 を受けやすいという特徴に由来するものと考えられた。 6.ヒステリー性昏迷が疑われる1例 岐阜市民病院 若林 精神神経科 友 Pauleikhoffは,3大精神病の何れにも属さないものを 8.抗精神病薬の減薬と減量を試みた症例:病 識のない患者との関わりを通して 須田病院 金 鳳虎 統合失調症で長期入院中の42歳男性患者の薬物治療に 非定型精神病と捉え,それらを起始,病像,経過,治療 ついて,多剤併用から非定型抗精神病薬単剤療法に切り 等の違いにより,9つのサブタイプに分類した。症例 替えた経過を検討した。患者は19歳時に発病し,現在ま は,47歳の女性で,病前性格は明るく勤勉,頑固なとこ で19年間入院している。その間,抗精神病薬を3∼4剤, ろがある。初回エピソードは17歳で,これまでに3度同 クロルプロマジン換算で1000mgを超える量を服用して 様のエピソードがあった。今回も約1週間の神経過敏, いた。しかし,治療を受けているという病識はなく,妄 不眠の後に,突然,錯乱状態となり,その後,昏迷,興 想など陽性症状も強いため,減薬が行われることはな 奮状態となった。その間に妄想状態,鍼黙,拒絶症,常 かった。41歳時,過鎮静という二次性陰性症状が顕著に 同症が出現した。入院前,経過中の記憶は殆どなく,あっ なり,その改善をはかるため薬剤をペロスピロン48mg ても断片的であり,約3ケ月の後に人格の変化,欠陥を に切り替えた。その結果,活動性は増していったものの, 残さず完全寛解した。症例の特徴は,①初発が17歳であ 「入院したのは治療のためではない,身の危険を感じる り3回の病相を有す,②不眠などの前駆症状を持つ,③ から保護してもらうためだ」,「宗教に通っているから薬 病像は興奮と昏迷が支配する,④妄想の内容が宗教的, は要らない」という妄想的言動は相変わらず活発であっ ⑤各病相は数週から数ヶ月続き,症状は完全に消失する た。症例のような難治例に関しては,自ら治療を受け入 が,病相期の記憶は断片的である。以上よりPauleikhoff れるといった意味での病識をいかに持ってもらうかが, の挿話性緊張病と診断することができた。 薬物療法を行う上でも重要である。