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加速器の現状と将来

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加速器の現状と将来
第17回原子力委員会
資 料 第 3 −3 号
加速器の現状と将来
平成16年4月
原 子 力 委 員 会
研究開発専門部会
加 速 器 検 討 会
目
この冊子をお読みになる前に
第1章
はじめに
次 (ⅰ)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ⅰ
1-1
第2章 科学技術と加速器 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.1 加速器はなぜ必要か ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.2 加速器の種類と役割 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.2.1 加速器の種類 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.2.2 加速器の役割 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.3 日本や世界の加速器 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
2.3.1 日本における加速器の発展 ‥‥‥‥‥‥‥‥
2.3.2 我が国における加速器の現状 ‥‥‥‥‥‥‥
2.3.3 世界的に見た我が国の加速器 ‥‥‥‥‥‥‥
2-1
2-1
2-6
2-6
2-9
2-15
2-15
2-16
2-19
第3章
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
我が国における加速器利用研究 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥
未知への挑戦 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
広い科学技術分野における先端的基盤研究 ‥‥‥‥
原子力への先導的基盤研究‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
医療への展開 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
産業基盤技術開発と工業利用 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
極端パルス・超高強度レーザー技術の開発と応用 ‥
3-1
3-1
3-4
3-8
3-13
3-16
3-18
第4章
4.1
4.2
4.3
4.4
4.5
4.6
大型加速器計画のフォローアップ ‥‥‥‥‥‥‥‥
フォローアップの必要性 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
大強度陽子加速器 J-PARC
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
RI ビーム加速器 RIBF ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
大型放射光施設 SPring-8
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
重粒子線がん治療装置 HIMAC ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
まとめと今後の課題 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
4-1
4-1
4-2
4-6
4-10
4-15
4-19
第5章 加速器利用研究の推進 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5.1 加速器利用研究の理解を得るための方策 ‥‥‥‥‥
5.2 加速器を用いた研究開発の進め方 ‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.1 長期的展望に立つ計画策定 ‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.2 国際競争と国際分担 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.3 加速器建設の新しい仕組みや新しい方式 ‥‥
5.2.4 大学における加速器 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.5 研究連携の推進 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.6 産業界における加速器 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5.2.7 人材育成と技術継承 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
5-1
5-1
5-4
5-4
5-5
5-7
5-8
5-10
5-12
5-14
目
次 (ⅱ)
第6章 まとめ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
6.1 社会への情報発信の強化 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
6.2 加速器の人材育成 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
6.3 加速器建設や加速器を用いた研究開発の進め方 ‥
6.4 J-PARC、RIBF、SPring-8、HIMAC の
4加速器フォローアップ ‥‥‥‥‥‥
6.5 レーザー研究 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
用語集
参考
6-1
6-1
6-2
6-3
6-5
6-6
この冊子をお読みになる前に
基礎科学と人々の暮らし
人類はたえず未知のものに向かって探究し発展してきました。このような未知
への挑戦は今も続いていますし、これからも続くでしょう。研究活動を支える原
動力は、この未知への探究心です。
研究者は、未知の現象の発見に興奮したり、こうあるべきだという現象の確認
に安堵したり、あるいは、実験する試料作りに専念したり、実験を行なう装置の
建設を行なったり、といった日常生活を送っています。このような研究者の生活
は人々の暮らしと無縁なものに見えます。
しかし、これらの研究は、人々の暮らしと繋がっているのです。一つの例を挙
げてみましょう。19世紀は製鉄技術が人々の暮らしを大きく変えました。そこ
で、鉄を作る溶鉱炉の温度を光の色から測定する温度計が必要となり、温度と色
の関係に対する研究が始まりました。その研究の中で量子力学という学問が誕生
したのです。量子力学そのものの発展は地味な研究によって進展を遂げましたが、
その研究の中からレーザーや半導体という概念が生まれました。これらが再び
人々の暮らしを変えたことはよく知られていることです。このように長い時間の
尺度で眺めれば、基礎科学と人々の暮らしの間は深く結びついていることに気付
きます。
人々の暮らしに役立っている原子力エネルギーも、元をただせば、原子核反応
の地味な研究の中で核分裂現象が発見されたことに始まりました。そして、この
原子力が、再び未知なものに向かう研究を生み出す源にも繋がっているのです。
基礎科学と加速器
未知への探究心の方向はさまざまです。物理学においては、より小さい素なも
のや、より大きな宇宙への探究心がその一つです。物質は原子から構成され、そ
の内部は原子核と電子から成り立っています。原子核を詳しく眺めると、陽子や
中性子から成り、その陽子や中性子もクォークという素粒子から成り立っていま
す。さらに、謎の粒子と呼ばれるニュートリノという素粒子も存在します。最近
i
のことですが、このニュートリノは宇宙空間に満ちていて宇宙全体ではクォーク
の何億倍ものニュートリノが存在することも分ってきました。一方、広大な宇宙
は150億年前に小さな火の玉が爆発(ビックバン)して出来たといわれていま
すが、最近では、この150億年前の宇宙の描像も次々と解明されつつあります。
このような研究に対して加速器は必要不可欠な役割を果たしてきました。より
小さな素粒子を研究するためにより大きな加速器が必要になるのは皮肉なこと
ですが、大型加速器が素粒子物理学の基礎を作り出したことはよく知られている
ことです。
加速器とは?
では、加速器とはどんな装置でしょうか? 原子番号の一番小さい原子は水素
原子ですが、その中を覗くと中心部に正電荷(プラス)の陽子があり、まわりを
負電荷(マイナス)の電子がまわっています。この二つを引き剥がし、外部電極
に正の電圧をかけると、負電荷の電子が電極に引き寄せられ、電子は運動エネル
ギーを持ちます。
ー
ー+ ー +
ー
+
ー
+
ー
ー ー +
+ +
E = 100 KeV
+ イオン
電子ボルト
ヒーター
- 100 Kボルト
電子 (-e)
陽子 (+e) や
原子核 (+Ze)
原子
K キロ = 1,000
M メガ = 1,000,000
G ギガ = 1,000,000,000
図1:最も単純な加速器の原理
ii
このような装置を一般に加速器と呼び、電圧が1ボルトの時、電子が持つ運動エ
ネルギーを1電子ボルトと決めておきます。この例は電子を加速する電子加速器
ですが、もし外部電極に負の電圧をかけると、正電荷の陽子が引き寄せられ陽子
加速器となります。さらに、水素原子よりも大きい炭素・カルシウム・金といっ
た原子の中心部に存在する原子核を加速すると重イオン加速器となります。
加速器からの粒子エネルギー
加速器の技術は20世紀に飛躍的に発展しました。多くの種類の加速器があり、
詳しくは本文で述べますが、ここでは、よく使われている二つの典型的な加速器
を紹介しましょう。一つは、沢山の電極を直線上に並べ、荷電粒子を高エネルギ
ーまで加速する線形加速器と呼ばれる装置で、リニアックとも呼ばれます。もう
一つは、電極は一つしか用意しないのですが、磁石の中で荷電粒子をぐるぐると
何回もまわし、元の電極に戻ってくるたびに同じ電極で何度も加速する円形加速
器で、サイクロトロンやシンクロトロンがこれに相当します。
このような装置を用いることにより、粒子を数百万電子ボルトにまで加速する
ことは、比較的たやすくできるようになりました。このエネルギーでは、装置の
大きさは数メートル以内に収まり、コンパクトであることから工業用や医療用に
広く使われ、日本では1千台ほどあるといわれています。
一方、エネルギーが1億電子ボルト以上の加速器は、主として大学や研究所に
おいて基礎科学の研究用に使われています。大きなエネルギーを得るためには、
線形加速器ではその長さを長くし、円形加速器では半径を大きくする必要があり
ます。長さや半径が百メートル以上の大型加速器になると、その数は世界的にも
限られてきます。
加速器が拓く新たな研究分野
20世紀の加速器の進展を眺めますと、主流は加速する粒子のエネルギーを上
げることに置かれ、そのため、より大型化へと進んできました。その流れは今も
続いています。一方、加速器の進展の中で、このような高エネルギー化とは別の、
まったく新たな分野も出てきました。その例として、のちに第4章で取り上げる
iii
4つの加速器の利用方法や原理を図2に示しました。
たとえば、電子加速器では、磁石の中で電子が円形軌道を描く時に微弱な光を
放射することが知られています。そのため電子はエネルギーを失い、円形加速器
では電子を超高エネルギーにまで加速することができません。しかし、これを逆
の立場から眺め、この光を物質科学や生命科学に積極的に使う動きや工夫が生ま
れました。その例が放射光施設です。さらに電子のエネルギーを上げることでX
線まで発生できる大型放射光施設もできました。
また、加速された重イオンビームを物質に照射すると、重イオンはある一定の
距離を走って止まり、止まった地点でエネルギーを放出するという特性を持って
います。人体に照射し、がん細胞の存在する場所で重イオンが止まれば、がん細
胞だけを焼き切って正常細胞には損傷を与えずに済むでしょう。このような観点
から、医療用重イオン加速器ができました。重粒子線がん治療装置とも呼ばれま
す。
今後切望される新たな研究領域もあります。その一つは、中性子ビームやニュ
ートリノビーム・K中間子ビームといった、まったく新しいビームによって科学
を作っていく領域です。陽子加速器からの陽子ビームを原子核に照射すると、原
子核の構成要素の中性子は原子核の外にはじき出されます。さらに中間子と呼ば
れる新たな粒子も生成されます。これらの粒子を「ビーム」として取り出し、そ
れを用いた研究を展開するのです。K中間子ビームやニュートリノビームは原子
核や素粒子物理学の重要な発見をもたらします。また、中性子ビームは、物質科
学や生命科学に大きな役割を果たすといわれています。さらに、これを放射性原
子核に照射すると、その放射性を消してしまう性質も持っています。そのため、
原子炉からの放射性廃棄物の処理という観点からも、中性子ビームは注目されて
います。
眼を転じて、重イオン加速器を考えましょう。重イオンビームを標的である原
子核に照射しますと、ちょうど的を少し外して投げたリンゴの実が飛び散るよう
に、照射した重イオン原子核ビームの破片が飛散します。このような破片は元々
の原子核の一部分で、一般的には不安定な原子核となります。すなわち、短寿命
原子核ビーム(RI ビーム)ができるのです。RI とは Radioactive Isotope の
略語です。これまでの加速器研究では、加速される原子核が安定な原子核に限ら
iv
電子ビームから発生する
夢の光・放射光
(Spring-8、稼働中)
がん治療や診断に
使われる重イオン
ビーム
(HIMAC、稼働中)
図2:加速器技術を駆使した4つの大型加速器プロジェクト
陽子ビームにより原子
核標的が破砕され、中
性子やニュートリノな
どの二次粒子ビームが
発生。二次ビームの多
彩な利用。
(J-PARC、建設中)
重イオンビームを
破砕して作る RI
ビーム。元素誕生
の謎に迫る。
(RI ビームファク
トリー、建設中)
v
れていたのですが、このような手法により、世の中に存在しない短寿命原子核の
ビームも得られるようになりました。
このように、加速器は、エネルギーを上げることにより素粒子物理学の究極を
極めるだけでなく、放射光・重粒子線・K中間子ビーム・ニュートリノビーム・
中性子ビーム・RI ビームといった新たなビームを用いることにより、科学や医
療の領域に大きな役割を果たしつつあるのです。
なぜ日本が加速器を?
加速器を用いる研究の主流は、やはり基礎科学にあります。しかし、加速器も
近年大型化し、また多様化し、アメリカのような大国ですら、すべての種類の加
速器を整備することができなくなってきました。そこで、世界的なレベルで加速
器を整備していくための会議が国際機関を通じて始まりました。まず、長さが数
十キロメートルにも及ぶ電子ビーム線形加速器などの超々大型の加速器は、世界
に一ケ所あればいいでしょう。また、超高エネルギーの重イオン加速器は米国に
置き、超高エネルギーの陽子加速器は欧州に置く、K中間子ファクトリーは日本
に置く、といった国際的な分担を決める議論も進んでいます。さらに、利用者の
多い放射光施設や中性子ビーム施設に関しては、米・欧・日を主軸に世界で三極
構造を作りながら整備していく、といった考え方が世界中で浸透しつつあります。
従来、日本では欧米で行われた基礎的な研究や原理の発見に基づく応用研究が
主に進められているといわれていましたが、今や世界の中で日本は大きな位置を
占める国となり、その国力に見合った投資が科学の分野でも求められています。
そのため、大型加速器の建設には、国際情勢をよく眺め、日本もそれ相当に国際
的に分担するという姿勢が必要になっています。基礎科学進展のための国際分担
といってよいでしょう。
一方、放射光施設・医療用加速器・中性子ビーム施設といった加速器は、国内
の産業や日本の人々の暮らしに密着しています。したがって、これらは世界の情
勢を眺めつつも、国内的な要望や必要性を俯瞰し、順次整備することが必要です。
このように、基礎科学を深めていくのみならず、人々の暮らしを向上していく
上で、日本における加速器の整備は必要なのです。
vi
本報告書の内容
本報告書では、日本や世界の加速器を用いていかなる研究や応用がなされ、ま
た、どのような種類の加速器が存在するのかを、まず概観します。そして、これ
らの加速器はいったい何に使われるのかを考えることにします。さらに、今後、
加速器を用いた科学やその応用においてどこを強化し、また、その研究をいかに
進めていくべきかについて考えることにします。これらの諸点が加速器検討会で
の主たる議論でもあったので、本報告書の大きな流れとしては、今後の加速器利
用研究の進め方の記述に重点が置かれています。
一方、原子力委員会は、放射光・重粒子線・中性子ビーム・RI ビームといっ
た、加速器が拓く新たな分野の育成に重点を置いて加速器分野を育ててきました。
その例が、第4章で述べる4つの加速器(大強度陽子加速器(J-PARC)、RIビ
ーム加速器(RIBF)、大型放射光施設(SPring-8)、重粒子線がん治療装置(HIMAC))
です。これらの加速器は、大学共同利用機関の大型加速器と共に、現在の日本の
加速器の中で大きな位置を占めています。本報告書ではこの4つの加速器もレビ
ューも行い、今後の方向を探ります。
vii
第1章 はじめに
20世紀の自然科学の発展を俯瞰すると、加速器はその中で大きな役割を果た
していることに気づく。19世紀の終わりに J. J. Thomson により、陰極線を構
成するのがマイナスの電荷を持つ微粒子(電子)であることが明らかにされたが、
この陰極線管の原理は振り返って見ると、簡単な加速器ともいえる。1930年代に
なって、英国ではコッククロフト・ワルトン型静電加速器が発明され、米国でも
E. O. Lawrence と M. S Livingston によりサイクロトロンが創案され、これら
の加速器により人工放射能の生成が可能となった。これらは加速器としては初期
の段階にあったが、当時の科学のフロンティアを築いた。
加速器が本格的な稼働を始めたのは第2次世界大戦終結後のことである。加速
器を用いることによって、反陽子の発見、原子核や陽子の形状の決定、多種類の
素粒子の発見、クォークの発見、相互作用の解明、等々、物質のミクロな描像が
次々と解明されていった。加速器を用いた基礎科学研究に与えられたノーベル賞
の数も、戦後だけで10件以上に上る(第1−1表参照)。そして、よりミクロな世
界を研究するために、「加速器の高エネルギー化」が志向され、加速器の大型化
へと進展してきた。
一方、20世紀の後半4半世紀になると、加速器は、単にミクロな自然現象の解
明にとどまらず、科学そのものの拡がりや応用性を志向する方向へと進展を始め
た。典型的な例は、電子ビームが円形軌道を描く際に放射される「放射光」を利
用した研究である。また、陽子加速器から得られる中性子ビームやミュオンビー
ム、電子加速器やイオン加速器から得られる陽電子ビームによる物質・生命科学
研究も始まり、これらのビームも放射光ビームと並んで有用な手段となりつつあ
る。このような新しい研究領域は「加速器の大強度化」によって創り出された領
域であり、「加速器の高エネルギー化」の方向とは異なる。さらにこのような大
強度化は、応用分野だけでなく、K中間子ビーム、反陽子ビーム、不安定原子核
ビーム、ニュートリノビームといった新たなビームを用いた原子核や素粒子の新
しい分野も拓きつつある。最近注目を浴びている電子・陽電子衝突型加速器であ
るBファクトリー(高エネルギー加速器研究機構(KEK))も電子ビームや陽電子ビ
ームの大強度化によってめざましい発展を遂げた分野である。さらに、表1-1に
示すように、最近のノーベル賞の研究は放射光施設によって行われたものである。
1−1
第1−1表:加速器から生まれたノーベル賞
受賞年
受賞者
1939
E. O. Lawrence
受賞理由
加速器の所在地
サイクロトロンの発明と
人工放射性元素の研究
1951
J. D. Cokcroft
加速荷電粒子による原子核変換
E. T. S. Walton
1951
G. T Seaborg
E. Segre
超ウラン元素の発見
R. Hofstadter
キャベンディッシュ研(英)
カリフォルニア大学(米)
陽子加速器
反陽子の発見
カリフォルニア大学(米)
O. Chamberlain
1961
加速器開発
加速器開発
E. M. McMillan
1959
カリフォルニア大学(米)
陽子加速器
電子散乱による核子の形状
スタンフォード大(米)
電子加速器
1968
L. W. Alvarez
水素泡箱による多数の素粒子発見
カリフォルニア大学(米)
陽子加速器
1976
S. C. C. Ting
J/ψ粒子の発見
ブルックヘブン国立研(米)
陽子加速器
B. Richter
スタンフォード大(米)
電子・陽電子衝突器
1980
J. W. Cronin
V. L. Fitch
1984
C. Rubbia
S. van der Meer
1988
L. Lederman
M. Schwartz
K 中間子崩壊における
CP 対称性の破れの発見
弱い相互作用を担う粒子
W と Z の発見
ブルックヘブン国立研(米)
陽電子加速器
CERN(スイス)
陽子・反陽子衝突器
ミューニュートリノの発見と
レプトンの二重構造
ブルックヘブン国立研(米)
陽子加速器
J. Steinberger
J. Deisenhofer
R. Huber
光合成反応中心の
3次元構造の解明
H. Michel
1990
DESY 放射光施設(独)
(一部、KEK-PF(日本))
放射光施設
J. I. Friedman
電子深部散乱による
H. W. Kendall
クォークの発見
スタンフォード大(米)
電子加速器
R. E. Taylor
1995
M. L. Perl
タウレプトンの発見
スタンフォード大(米)
電子加速器
1997
P. D. Boyer
J. E. Walker
2003
R. MacKinnon
ATPを分解・合成する
酵素の研究
ダレスブリー研(英)
放射光施設
イオンチャンネルの構造と
機構の研究
コーネル大(米) および
ブルックヘブン国立研(米)
放射光施設
1−2
20世紀の後半4半世紀におけるもう一つの特徴は、がん治療用加速器といっ
た社会のニーズに直接に答える「社会還元型」加速器の登場である。医療用加速
器として重イオン加速器が活躍し、また陽子加速器を用いた陽子線がん治療装置
も各地で稼動している。さらにサイクロトロンを用いたイオン利用や陽電子断層
撮影(PET)などの医療装置、植物産業に直接応用されている加速器などの特
殊目的用加速器が続々と登場した。日本には大小合わせて千台を越す加速器が存
在するといわれているが、その内の大半はこの「特種目的に特化」された加速器
であり、特に医療用と産業用のものが多い。
さらに、大学や研究機関に加速器が設置されるにつれ、加速器は教育面でも大
いなる威力を発揮している。特に、大学や大学共同利用研究機関においては、学
部学生や大学院生の教育に、加速器は重要な役割を果たしてきた。未来の人材育
成への多大な貢献も、加速器の中で見のがしてはならない側面である。
このように、加速器は科学研究を大きく進歩させるために欠くことのできない
装置となっている。上述したように、加速器はその応用性の高さから、物質科学・
材料科学・生命科学などの分野への拡がりを見せている。また、医療用加速器の
ように、直接人々の暮らしに還元される加速器や、大学等に付置された教育に寄
与する加速器もあり、加速器の応用分野は多様化している。
一方、原子力を中心とする我が国の戦後の科学技術の進展を辿ると、原子力と
いうと原子炉を中心とする実用的なエネルギー開発の側面が強調されがちであ
った。そのため、加速器が原子力先端的研究として重要視され始めたのは、ごく
最近のことである。重視された理由は、原子力のもつ潜在的可能性を考慮すれば、
原子力を単なる実用的エネルギー生産技術としてだけでなく、現代社会を支える
総合的科学技術として推進することが肝要であり、加速器を用いた科学の推進も、
その中の重要分野として位置付けるべきであるという視点が生まれたためであ
る。加速器で得られる高エネルギー放射線やさまざまな粒子線及び高出力レーザ
ー光による原子核から物質科学、生命科学にわたる広い科学技術分野の基礎的・
応用的研究開発は、原子力先端的研究として重視され、注目される分野となった。
平成 12 年 11 月策定の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(原子
力長計)」では、加速器や高出力レーザーを利用する先端的研究開発を「未踏領
域への挑戦」として位置づけ、原子力開発研究の中での加速器を用いた科学技術
研究開発の推進が提言されている。
1−3
しかし、原子力予算の推移を眺めると、原子力関係の一般会計は減少を続けて
いる状況にある。その内、加速器関連の予算は、わずかながら上昇しているが、
原子力関係の一般会計が減少している状況では、今後は加速器関連の予算も厳し
い状況になるものと考えられる。(第 1−1 図参照)
(億円)
250
HI
MAC
SPr
i
ng−8
RI
ビームファクトリー
大強度陽子加速器
一般会計総額
2000
1,817
206
200
(億円)
1,732
231
221
181
1600
1,455
1,385
150
1200
100
800
50
400
0
0
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
第 1−1 図:原子力関係一般会計の推移と加速器への予算配分の推移
原子力委員会は、このような国内外の情勢や、加速器は科学技術の発展の一翼
を担うものであるとの社会の期待を踏まえ、加速器分野における研究開発の着実
な推進を図るため、研究専門部会の下に加速器検討会を設置し、調査審議を行う
こととした。
原子力科学技術は直接的に人類に豊かさを与えるだけでなく、知ること(自然
認識)のもたらす精神的な豊かさを人類社会に与えてきた「総合科学技術」である。
我が国は現代社会を支える数々の先端科学技術を生み出す基盤を構築する総合
科学技術として、この原子力科学技術を今後とも推進していくことが必要である。
本報告書は、「この冊子をお読みになる前に」にも述べたように、加速器はな
ぜ必要かという素朴な疑問に始まり、加速器の種類や我が国における加速器の現
状を述べ、その方向性を探ると共に、今後の加速器の研究開発のあり方について
述べる。また、原子力と加速器のつながりにも触れ、原子力予算によって推進さ
れている 4 つの大型加速器のフォローアップ(原子力長期計画以後の進展のレビ
ュー)も行なう。
1−4
第2章 科学技術と加速器
本章では加速器がなぜ必要か、加速器にはどのような種類のものがあり、夫々
にどんな特徴があってどのように使われているかを概観する。
2.1
加速器はなぜ必要か
現在世界で最も大きい加速器は欧州合同原子核研究機関(CERN)に建設中の、
周長が 27 キロメートルもある陽子・陽子衝突型加速器で、ヨーロッパを中心に世
界各国が参加している巨大プロジェクトである。大型加速器の建設には巨額の費
用がかかるが、加速器をつくることにはどんな意義があるのだろうか。このよう
な誰もが抱く素朴な疑問に対して、なぜ加速器が必要なのかを、いくつかの例を
示しながら説明する。
(1)宇宙研究からみた「自然界の生い立ち」と加速器を使ってわかった「自然
界の生い立ち」
古事記は我が国の最も古い歴史書であるが、その最初に国作りの神話があって、
我が国がどのようにして創られたかが書かれている。このような神話は世界各地
にあり、人類が共通して自分達がどのようにして「この世」に存在するようにな
ったかを常に考えていたことを物語っている。今日でも「この世」すなわち「私
たちの住む自然界」がどのようにして生まれ、どのように進化して来たかは、人
類に共通した最も興味あるテーマであろう。
現在では、自然界すなわち宇宙はビッグバンを起こして膨張を始め、膨張に伴
って温度が下がっていくと、クォークが創生され、やがて 3 つのクォークが集ま
って核子になり、さらに軽い元素である水素、ヘリウムなどができた。これらの
元素が集まって星ができ、星のエネルギーを生み出す原子核反応が進む中で酸素
など比較的軽い元素が作られたことが明らかになった。また、宇宙に無数にある
星には誕生から死に至るまでの進化があり、その段階でもっと重い元素が誕生し
たことも明らかになった。
自然界の誕生から行く末までを明らかにする学問は、天文学を中心にする宇宙
物理学と高エネルギー物理学である。前者は現在の人類が見ている宇宙の姿から、
2−1
図2-1 宇宙の歴史と加速器科学
種々の加速器による研究が、宇宙の歴史の違った時刻を探っている
重元素生成
星の爆発
恒 星の進化
生命誕生
原子生成
軽い元素生成
粒 子の素生成
クォーク・グルーオン
ビッグバン
陽 子・中性子生成
恒 星の誕生
高エネルギー加速器
イオン源
RIビーム
低エネルギー加速器
0秒
10万分の1秒
3分
10万年
ビッグバンからの経過時間
1億年
150億年
宇宙の誕生から今日までの進化を解明し、今後の行き先を予測している。新聞や
雑誌によく掲載される星の誕生や死の有様を映す天体望遠鏡(ハッブル宇宙望遠
鏡やハワイにあるスバル望遠鏡など)の写真には、多くの人々が惹きつけられ、
また、ロマンを感じる人も多い。
それに対し、高エネルギー物理学は加速器のエネルギーを上げることでビッグ
バンに迫る方法で、自然界の根源を探る学問である (第 2−1 図)。現在、高エネ
ルギー物理学はクォークやレプトン等の素粒子の発見にまで到達している。たと
えば、先に挙げた CERN はこの研究目的のために作られた加速器施設である。加
速器がなければ人類は元素がどのようにして創られ、原子核はどのように生成さ
れたかを知る由もない。ましてクォークの存在や、それがビッグバンのすぐ後に
生じたことを知ることは不可能であろう。
加速器は第一義的には知的フロンティアを開拓する装置である。自然科学の大
発見が、日本人によって日本の装置で成し遂げられたら、ほとんどの日本人が大
きな喜びと誇りを抱くことは確かである。
今日ではビッグバンやブラックホールなどは社会の中で広く知られるように
なっている。これまでにも、相対性理論の発見や量子力学の誕生が新しい思想を
もたらし社会変革に大きい影響を与えたと指摘されている。「純粋基礎科学」の
研究がもつ重要な意義はこの点にある。
(2)加速器で探る生命の仕組み
目を生体に転じると、生体内ではイオンがきわめて重要な働きをしている。ナ
トリウム、カリウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛など多くの元素イオンが存在し、
夫々が神経の信号伝達、筋肉などを働かせる刺激、エネルギー代謝の触媒など固
有の役目を果たしている。細胞膜にはイオンの通り道である多数のチャネル蛋白
質があり、イオンはそこを通って細胞の内外を行き来する。チャネルが開くとイ
オンは濃度の高いところから低いところへ移動するが、逆の場合はチャネル蛋白
質がポンプになって、イオンを濃度の高い方へ送り込む。例えば神経細胞では、
刺激があるとナトリウムとカリウムイオンが細胞膜の内外に濃度差を作り、それ
が電位差を生じて電気信号になり伝わっていく。このようなメカニズムは放射光
を利用してチャネル蛋白質の構造(原子配列)が解析されて明らかになったもの
である。なお、2003 年のノーベル化学賞はイオンチャネルの研究に対して与えら
2−3
れた。
筋肉の場合、カルシウム濃度が高くなると収縮し低くなると弛緩することは、
日本人研究者によって明らかにされていた。最近、高輝度光科学研究センター(播
磨)の大型放射光施設 SPring-8 を使用して、筋小胞体(カルシウム貯蔵庫)の
膜にあるカルシウムチャネル蛋白質の構造が解析され、その結果からチャネル蛋
白質は極微スケールの手押しポンプのような動きをしてカルシウムを運ぶこと
が明らかになった。
このように中性子ビームを用いたタンパク質の構造解析や、今後は機能の研究
も大きな注目を浴びている
(3)加速器を使った物質研究
放射光、中性子ビーム、ミュオンビーム及び陽電子ビームを用いた研究の主力
は、物質の構造や機能の研究であり、これらは物質科学の中で大きな位置を占め
ている。これらの研究は今後も主流となるが、最近は社会への直接的な貢献も目
立つようになってきた。次にそれらの例を示す。
最近、国内の自動車メーカーは、インテリジェント触媒を開発して高い評価を
得ている。これは希少金属であるパラジウムをペロブスカイト型結晶に取り込み、
触媒機能の劣化を運転中に回復する作用をもたせたものである。SPring-8 による
構造解析によってインテリジェント触媒のメカニズムが明らかになり、更なる改
良へのヒントを得ることができた。このように物質の構造や電子状態或いは化学
状態などを、微小試料や高温高圧など特殊条件下の試料でも解析できるのが、加
速器をベースにした放射光や中性子の優れた点である。
このようにして構造や機能が明らかにされた蛋白質や新物質は、創薬や機能性
材料開発の立場から極めて重要であることが多く、学術的価値の高い研究成果が
同時に実用的価値の高い成果になる。このような研究は激しい国際競争の中で進
められており、試料ができたら一刻も早く解析したいという研究者が多いので、
加速器はその要求をみたすことが重要となる。
(4)医療専用加速器の開発
昭和 40 年代に、陽電子崩壊をする炭素、酸素やフッ素の短寿命放射性核種(RI)
を含む薬剤を体内に注射して腫瘍部分に集め、反対方向に出る 2 つのガンマ線を
2−4
計測してその位置を決める陽電子放出トモグラフィ(PET)が開発された。わが
国でも RI 製造、化学処理、検出器開発とがん研究の専門家がグループを作り、
理科学研究所(理研)のサイクロトロンを利用して PET の技術開発と臨床試験を
行なった。その成果を基に加速器メーカーが RI 処理装置を含めた PET 専用サイ
クロトロンを開発し、主に大学付属病院で PET の実用化研究が進められた。今日
では全国に 60 台以上の PET 装置が設置され、脳などの腫瘍診断や脳機能検査に
用いられている。現在重粒子線治療施設(HIMAC)で行われている粒子線による
がん治療も、高エネルギー物理学研究用加速器からビームをもらって、試験的に
開始された治験から始まっている。このように、まず汎用中型(大型)加速器で
開発が行なわれ、その有用性が認識された後に専用加速器が開発され普及した例
が多い。
全国の主要な病院では電子線型加速器(リニアック)が放射線照射治療装置と
して使われている。最近普及した使い捨て注射器は電子リニアックによる放射線
滅菌で安全性が確保されている。電子リニアックは排煙処理にも使われるように
なってきたが、最近、大型コンテナーを丸ごと透視する税関検査装置にも使用さ
れている。
(5)大型加速器は革新的技術の先端的試験場
これまで大型加速器の果たした役割として、大型加速器が革新的技術の実用化
へと導く先端的試験場になっていることも指摘しておく。大容量真空、超高真空
では常に最先端の要求を実現してきた。大型超伝導磁石を大量に設置し、長時間
にわたる安定運転を実現したのも高エネルギー加速器であり、計算機制御、大容
量高速計算機を初めて使いこなしたのも大型加速器施設である。アメリカで軍を
中心に開発されたネットワークが、高エネルギー物理学研究者の手によって
www(world-wide web)と e-mail としてグローバルな展開が行なわれ、今日の IT
革命につながった。
加速器を用いた研究の多くは学術的な基礎研究であり、基本的に国際協力で進
められている。東西冷戦の激しかった時代にも CERN やアメリカの研究所がロシ
アの研究者を迎え入れ、また多くのヨーロッパ、アメリカの研究者がロシアの研
究所を訪問している。このような国際協調の精神は大型加速器利用研究を支える
柱である。
2−5
2.2
加速器の種類と役割
2.2.1
加速器の種類
加速器は、学術研究、科学技術の基礎的・応用的研究や産業利用に供されてお
り、エネルギーに関係なく最先端の研究開発や工業的利用で重要な役割を果たし
ている。ここでは低エネルギーも含めて、「良質のビーム装置」として用いられ
ている広い意味での加速器を取り上げる。
(1)直流加速器と交流加速器
加速器は荷電粒子(イオンや電子)を電界で加速する装置である。加速電界に
は時間的に一定な静電界と周期的に変化する高周波電界があり、前者が静電加速
器、後者が高周波加速器である。イオンを例に取ると、静電加速器の場合は正の
直流高電圧の電極上で作られたイオンがアースに向けて加速されるので、加速粒
子は連続ビームになる。これに対して高周波加速器では電極に正負に変化する交
流電圧がかかるので、電界の向きが粒子の進行方向に向く位相(加速位相)と逆
向きの位相(減速位相)になる時間があり、加速粒子は高周波と同期したパルス
ビームになる。
(2)直線型加速器と円形加速器
加速器はまた、加速粒子が直進する直線型加速器と円軌道を描く円形加速器に
分けられる。静電加速器は全て直線形加速器であるが、高周波加速器では高周波
電極を直線状に並べて連続的に加速する線型加速器と、円軌道を描いて戻ってき
た荷電粒子を同じ高周波電界を用いて加速する円形加速器とがある。さらに円形
加速器には、加速されるにつれて軌道半径が大きくなるサイクロトロンと、加速
エネルギーにあわせて磁界を変化させ、加速粒子が常に一定の軌道を周回するよ
うにしたシンクロトロンがある。なお、変圧器と同じ原理で加速するベータトロ
ンがあるが、現在はほとんど用いられていない。
(3)静電加速器
静電加速器は加速粒子が直進する線型加速器のみであり、直流高電圧発生装置
の型によってベルト起電器型(バンデグラフ加速器)と多段倍電圧整流器型(コ
ッククロフト・ワルトン加速器)に分けられる。バンデグラフ加速器は電圧が1
2−6
MV 以上で 20MV を超える機種もあり、高電圧電極は絶縁性の高いガスの入った高
圧タンク内に納められている。これにはイオン源が高電圧電極上に設置され、イ
オンがアース側に向かって加速されるシングルエンド型と、イオン源が外部(ア
ース電位)に設置されたタンデム型がある。後者では、アース側にあるイオン源
で負イオンを生成して高電圧電極に入射・加速し、電極上のストリッパーで電子
を剥ぎ取って正イオンにしたあと、アース側に向けて再び加速する。多様な元素
のイオンを加速でき、電圧安定度が優れた加速器である。一方、コッククロフト
ウォルトン加速器(CW)は比較的低い電圧(1MV 程度まで)で大電流のビームを得
るのに使われる。イオン注入装置や 14MeV 中性子源、高エネルギーイオン加速器
の前段加速器などに用いられる。現在、10MV ぐらいまでのイオン加速器は静電加
速器が用いられているが、それより高いエネルギーのイオン加速器と数 MeV 以上
の電子加速器は殆ど高周波加速器である。
(4)線型加速器
粒子が加速されると速度だけでなく質量が増加(相対論的効果)する。実際に
は低エネルギーでは主に速度が増加し、エネルギーが高くなるにつれて質量変化
が大きくなる。電子の場合、エネルギーが 1MeV を超すと速度は光速とほぼ同じ
になり、それより上では質量が増加する。一方、陽子ではエネルギーが 1GeV 近
くになるまでは速度と質量がともに変化する。このため、イオンと電子とでは線
型加速器の構造が異なってくる。イオン線形加速器では周波数を低く、直線状に
並べている中空円筒電極(ドリフトチューブ)の長さをイオンの速度に比例して
長くしている。その上で隣り合うドリフトチューブを高周波の両極に接続したウ
ィドレー型と、ドリフトチューブ付の空洞共振器に定在波を生じさせたアルバレ
型がある。前者は荷電粒子の速度が遅い場合に使われるが、陽子などを高エネル
ギーまで加速するには後者が用いられている。一方、電子線形加速器には穴の開
いた円板を等間隔につけた進行波加速管が用いられていることが多く、基本的に
高エネルギーまで同じ構造の加速管が用いられる。このほか時間的に変化する磁
界を用いて加速する誘導型線型加速器や、断面が 4 重極電界になるような進行方
向に長い四つの電極を持つ RFQ 型線型加速器がある。後者の場合、電極先端部に
イオンの速度に同期した波形をつけて加速電界を形成している。
2−7
(5)サイクロトロン
サイクロトロンは円運動の等時性に基づき静磁界を利用した円形加速器で、軽
イオンを核子当たり数 10MeV に加速するのに適している。加速に伴って円軌道の
半径が大きくなるので円形の磁極を用いている。加速で生じる質量増加の効果を
補償するため、半径が大きくなるにつれて磁界を強くするとともに、ビーム集束
のために周回軌道に沿って磁界に強弱をつけたセクター集束型(SF)サイクロト
ロンが開発されて、100MeV を越すエネルギーまで陽子を加速できるようになっ
た。今日では総てのサイクロトロンはセクター集束型である。なおその変形とし
て、4 ないし 8 個のセクター磁石からなるリングサイクロトロンも建設され、陽
子や重イオンを核子当たり数 100MeV まで加速している。サイクロトロンの大き
な特徴は、加速周波数に同期したパルスビームが連続して得られることである。
最近原理実証器が作られた固定磁界強集束(FFAG)加速器や電子加速器マイク
ロトロンもサイクロトロンの一種と考えてよい。
(6)シンクロトロン
シンクロトロンは粒子のエネルギーに応じて変化する磁界を用いた円形加速
器であり、加速の全期間にわたって軌道を一定に保つことができる。円形軌道を
作る磁石はサイクロトロンと異なり、電子シンクロトロンでは高周波電界の周波
数は一定であるが、イオンの場合は周回周期がエネルギーとともに短くなるので、
磁界だけでなく周波数を高くしなければならない。シンクロトロンの場合、軌道
半径を大きくし磁界を強くすればエネルギーをあげることができる。現在ヨーロ
ッパでは超伝導磁石を用いて直径 8 キロメートルを越す大型シンクロトロンが建
設されている。
シンクロトロンは粒子のエネルギーに合わせて磁界を強くする装置であるが、
装置が大きくなるにつれて磁界を変える周期が長くなる。ところが加速粒子は最
終エネルギーに達した後で取り出すので、この周期に同期したパルスになってい
る。したがってひとつのパルスに含まれる加速粒子数をできるだけ多くしなけれ
ばならない。
(7)衝突型加速器と蓄積リング
高エネルギー物理学の実験では、粒子を衝突させて新しい粒子を作り出し、素
2−8
粒子間に働く相互作用を解明する。エネルギー的に最も効率的な衝突(重心系エ
ネルギーが高い)は同じエネルギーで互いに反対方向に進む粒子の正面衝突であ
る。このようなビーム・ビーム衝突器が開発されている。そのためにはシンクロ
トロンで加速された後、磁界を一定に保ってビームを周回させ続けるビーム貯蔵
を行う。このようなシンクロトロンを蓄積リングと呼んでいる。
以上に述べた加速器の種類とその特徴を第 2−1 表にまとめた。
1M eV
新粒子の発見
2000
!010
100
1G eV
10
静電加速器
CW
サイクロトロン
100
1970
W,Z
1940
1930
'60
'50
'40
核分裂
中間子
中性子 陽電子
'30
1M eV
!010
100
1G eV
1020
1910
'70
エネルギーフロンティア
1
'90
'80
衝突器
2
反陽子
新粒子(Λ,Σ,,Ξ, Κ)
中間子の人工創成
年代
'00
シンクロサイ
クロトロン
1960
1950
100
陽子シンクロトロン
電子シンク
ロトロン
J/ψ
10
電子リニアック
1990
1980
1TeV
10
100
1TeV
10
100
エネルギー
原子核
1900
第 2−2 図 エネルギーフロンティアで見た加速器の発展
2.2.2
加速器の役割
これまで述べたように加速器は自然界を構成する要素を探求する目的で発明
され改良されてきた。ここでは現在科学技術の研究や産業技術において、加速器
がどのように使われているかを概観する。
(1)加速器のフロンティア
これまで加速器はより高いエネルギーに粒子を加速するエネルギーフロンテ
ィアと、より大強度の加速粒子を得る強度フロンティアの開拓を目指して発展し
てきた。それにつれて多様な二次粒子が作られるようになり、質の高い二次粒子
2−9
ビームを用いた実験が始まるとともに、エキゾティックな粒子の加速・減速が行
われるようになり、二次粒子は新しいフロンティアになっている。
今日では、加速器が広い科学技術分野において先端的・基盤的研究装置として
用いられていて、エミッタンス、エネルギー分解能、時間的特性や偏極特性など
に優れた良質のビームを得る「クオリティフロンティア」が重視されるようにな
った。この場合、測定精度に直接かかわる装置全体の安定性や低バックグランド
性あるいはマイクロビーム性能も重要な条件である。一方、特定目的に使用する
専用加速器の開発も進められている。その場合、それぞれの用途に特化した条件、
例えば医学応用や工業利用専用加速器には、信頼性、制御性、操作性に優れたコ
ストパフォーマンスの良い装置の実現が求められている。
(2)加速器が果たしている役割
加速器は未知への挑戦、新しい技術の創出、豊かで安心な社会の実現に大きな
役割を果たす装置として発展してきた。その歴史からもわかるように、加速器は
まず基礎研究の重要な道具である。より根源的な自然界の構成要素を究める装置
として中心的な役割を果たしてきており、そこで発見される現象は人々の知的好
奇心をかきたてるとともに、人類の新しい知的財産になっている。
放射線利用を含む原子力エネルギー開発或いはエネルギー科学の研究におけ
て加速器は先導的研究開発の装置として重要な役割を果たしている。とくにわが
国では、大学におけるエネルギー科学研究において、今日でも中型/小型加速器
が重要な役割を果たしている。かつて大学におけるエネルギー科学の研究は原子
力(核)工学科において活発に進められ、多くの人材を輩出してきた。今日ではそ
の殆どが「量子エネルギー」の研究を取り上げ、より広い立場からエネルギー科
学の研究を進めるようになっており、高出力レーザーと量子ビームが重要な研究
テーマになっている。
(3)先端的基盤研究装置としての重要性
自然科学研究の目的は、研究対象を取り出し、様々な実験手法を用いて対象物
の性質や機能を、場合によっては温度、圧力、磁界や電界などの環境条件を変え
て計測し、ときには対象にエネルギーや刺激を与えてその変化を追跡して、そこ
に働く原理や法則を明らかにすることである。その成果を用いて新しい材料が作
2−10
り出され、様々な装置が発明されて人類社会を支える技術が進歩してきた。この
ような科学技術の発展において、主要な実験手法の基礎となる研究装置が基盤的
研究装置である。
20 世紀後半になると物質科学、生命科学の研究が急速に発展してきたが、その
重要なプローブとして光が広く用いられている。なかでも放射光の進歩が今日の
生命科学や材料科学の発展に大きく寄与していることは、万人の認めるところで
ある。さらに自由電子レーザー或いはパラメトリック X 線の開発が更に新しい測
定手段を提供することは明らかである。同様に中性子が物質科学や生命科学、環
境科学の研究に重要なプローブであり、加速器はその強力な線源になっている。
このように加速器は広い科学技術分野における先端的基盤研究装置として用い
られ、その役割はますます広がっている。
(4)社会に直接役立つ加速器
あまり注目を浴びていないが、企業の生産活動や医学機関の診断・治療に多数
の専用加速器が使われている。現在国内で稼動している加速器を所有している機
関のうちおおよそ 80%は医療機関で、その加速器の大半は照射治療に使われてい
る。一方、がんの発見や血流の検査に短寿命の放射性同位元素(RI)が用いられ、
また、直接粒子線を照射するがんの治療方法が行なわれるようになった。このよ
うに加速器を利用するクウォリティ・オブ・ライフ(QOL)の高い先端医療が開
発されている。一方、加速器を所有する機関の 10%弱が民間企業であるが、その
所有する加速器のうち過半数が生産用に使われているほか、排煙処理など公害対
策として重要な加速器応用も開発されてきている。このように、豊かさと安心の
得られる社会の実現に果たす加速器の役割はますます高まっている。
先端的な加速器の建設には新しく開発される要素技術と各パーツの製造技術
が必要である。超高真空や超伝導技術、高周波技術などは常にこれまでの水準を
越える性能が要求される。また加工/組み立て方法やその精度、品質管理などで
も製作側に開発する要素が多い。このように工業技術に与えるインパクトは加速
器の重要な役割である。
このように広い分野で進められている加速器利用の具体的な内容を第 2−2 表
にまとめた。
2−11
第2−1表 加速器の種類
加速
タイプ
名称
電界
最高
加速
エネルギー
粒子
線
型
加
速
器
コッククロフト・
ワルトン(CW)
∼1MV
電子/
イオン
大電流
イオン源・
電子銃/前段加速器、中性子源、
イオン注入
高周波多段
ダイナミトロン
∼5MV
電子/
高電圧大電流
大強度X線源
イオン
同(
タンデム タンデトロン
∼2 x 数MV 重イオン 固体イオン
型)
ベルト型高
バンデグラフ
∼20MV
高品質ビーム
ブ型
リニアック
空洞共振器
アルバレ型
定在波型
リニアック
進行波加
電子リニアック
高品質ビーム
数MeV/u
大電流
数100MeV
数10GeV
陽子、
高エネルギー、
誘導型
数MeV
2次粒子(パイオン、ミュオン、中性子)
電子
高エネルギー物理、陽電子源、FEL、
高エネルギー
電子/
高エネルギー、
イオン
大電流
RFQ型
数100keV/u 陽子/
大電流
前段加速器、
汎用、専用
原子核、医学利用(PET、照射)、照射、陽電子源
高エネルギー、
原子核、RI、照射
リニアック
サイクロトロン SFサイクロ
同(
分離セク リングサイ
静
磁
界 FFAG
数10MeV/u
陽子/
重イオン
数100MeV/u 陽子/
クロトロン
FFAG
大強度X線源、中性子源
重イオン
トロン
ター型)
入射器/前段加速器、原子核、
軽イオン 大電流
医学利用(低エネルギー)
リニアック
RFQ型
質量分析
重イオン 低速イオン加速、 入射器/前段加速器
速管型
電磁誘導型
物質材料分析、表面、微量元素分析
∼2 x 20MV 重イオン 多様な多価イオン 原子核、物質材料分析、表面、微量元素分析、
バンデグラフ
ドリフトチュー ウィドレー型
高
周
波
電
界
電子/
軽イオン
同(
タンデム タンデム型
型)
物質材料分析、表面、微量元素分析、質量分析
多価イオン
電圧発生器
線
型
加
速
器
主な用途
多段倍電圧
整流器
高電圧装置
静
電
界
特徴
重イオン 大強度
数100MeV
陽子/
小型
開発中、医学利用
小型
前段加速器/入射器
軽イオン
円
形
加
速
器
マイクロトロン マイクロトロン
数10MeV
電子
シンクロトロン 強集束型
数10GeV
電子/
高エネルギー物理、前段加速器/入射器
イオン
機能分離型
1TeV
高エネルギー、
高エネルギー物理、前段加速器/入射器
大強度
変
動 蓄積リング
磁
界
蓄積リング
シンクロトロン
30GeV
電子
高エネルギー
衝突器、放射光
10TeV
陽子/
高エネルギー、
高エネルギー物理
/貯蔵リング
シンクロトロン
/貯蔵リング
蓄積リング
冷却器
重イオン 大強度
1TeV
陽子
高エネルギー
2−12
高エネルギー・2次粒子衝突器
第2−2表 加速器利用のまとめ
役割
研究課題
加速
加速器の種類
エネルギー
主な実験手法
研究内容
粒子
新粒子の発見
e/e+ 電子・
陽電子衝突器
p/p 陽子衝突器・
冷却
自素 対称性の破れ
然を
界究 ニュートリノ振動
のめ クォーク状態
e/e+ 電子・
陽電子衝突器
p
p
陽子シンクロトロン
陽子シンクロトロン
根る クォーク・
グルォン HI/HI 重イオン衝突器
元装 プラズマ
>TeV
リニアコライダー
>GeV
50GeV
50GeV
2 x 200
高エネルギー陽子反
応生成粒子の崩壊過程
地下ニュートリノ計測
ニュートリノの質量
原子核によるK中間子散乱 クォーク物質
重イオン衝突におけるた粒
GeV
子放出の空間分布
的置 宇宙における元素 HI/HI 重イオンサイクロトロン
> 100
不安定原子核による核
構の 創製
MeV/u
反応
26GeV+
3.5GeV
+5NeV
反陽子を生成し減速して
陽電子のトラップ
電子リニアック
10GeV
電子散乱
電子蓄積リング
8GeV
成役 反原子、反物質
要割
新粒子発見/クォ−
p 、e+ シンクロトロン反陽子
生成と蓄積・
冷却減速
と加速、陽電子捕獲
e
ク状態
高速中性子の発生 パルス p、CW ,バンデグラフ 、
エ度 と利用
d
ダイナミトロン
ネ利
e
電子リニアック
パルス d
|先 高エネルギーγ線
科導 の発生
学的 イオンビームの
e
CW
D2,T,Li,Be等ターゲット
中性子標準場、中性子核反応
5MeV
による(p,n)、(d,n) 反応
中性子検出器の開発
< 45MeV 放射化分析、中性子飛行 中性子散乱、中性子の生物効果
0.3MV
バンデグラフ、
電子リニアック
p,α 直流高圧電源/
レーザー電子光
0.15−
ル用
ギの
ヒッグス粒子の発見、
∼10TeV
時間法,中性子スペクトル
原子炉材/遮蔽体の核データ、
大強度パルス中性子
加速器駆動未臨界実験炉入射器
pγ反応
高エネルギー単色ガンマ線の
数MeV - α粒子重照射、二重
発生と計測法の開発
核融合炉材ヘリウム脆化、
と 研 利用
サイクロトロン
放究 放射性同位元素の p、d、α,サイクロトロン
射装 利用
3He
20MeV
数10MeV
トレーサー、PET
線置
高 100MeV 照射,化学分離なし
/u HI
リングサイクロトロン
ミュオン核融合慣性 p
シンクロトロン
核融合
HI(
Pb) 誘導ライナック
放射光の利用
e
電子蓄積リング
照射(損傷と分析)
照射,化学分離
マルチトレーサー
∼1GeV パイ中間子の崩壊、
ミュオン触媒DT反応
20MeV/u 大強度パルスビーム照射
0.5 - 8GeV 偏向磁石、挿入光源、
生命科学、材料科学、環境科学、医学利用、
ビームライン
産業利用
X線回折、X線散乱、XAFS、 結晶構造解析、
電子状態/機能解析、内部
分光、時分割計測 歪/応力測定、極微量元素分析、極端条件下
イメージング、マイクロ(ナ の物質構造、微細加工(LIGA)、リソグラフィ
ノ)ビーム
X線顕微鏡、光電子顕微鏡
広お 自由電子レーザー
いけ
e
電子リニアック、
電子蓄積リング
40keV 1GeV
コヒーレンス、ピコ/フェ
ムト秒
分光、イメージング(顕微鏡)
科る パラメトリックX線
学先
e
電子銃+直流高電圧
/リニアック
40MeV
パラメトリックX線
分光
技端 電子線の利用
e
電子リニアック
電子線、X(ガンマ)線
パルスラジオリシス
p
(
パルス)
大強度シンクロトロン
∼1GeV
パイ中間子の崩壊、
生命科学、材料科学、環境科学、医学利用
p
大強度シンクロトロン
∼1GeV
ミューエスアール(
° SR)、
核破砕中性子、冷中性子、生命科学、材料科学、環境科学、医学利用、
パルス
産業利用
術的
分基 ミュオンの利用
野盤
の研 中性子の利用
研究
究装
に置 軽イオンの利用
p,α
バンデグラフ、
<10MV
タンデムバンデグラフ
重イオンの利用
陽電子の利用
加速器質量分析
p∼HI CW、タンデムバンデグ <数MeV
ラフ
e
電子リニアック
10MeV∼
1GeV
HI タンデムバンデグラフ 2∼10MV
中性子散乱、中性子回折、中性子ラジオグラフィ
チャネリング、ラザフォード 微量元素分析(PIXE )、表面解析、イオン・物質
後方散乱、反跳原子分析、相互作用、核物性、表面・バルクの結晶
蛍光X線測定、核反応
構造解析、不純物/格子欠陥位置の同定
イオン注入、重イオン照射 半導体、表面改質、格子欠陥生成、イオンビーム
誘起界面反応、結晶表面構造解析
低速陽電子ビームによる 表面・薄膜材料極微構造評価、格子欠陥の同定
陽電子消滅法
12,13,14C、9,10Beの加速 考古学、環境科学
と14C、10Beの定量分析
2−13
第2−2表 加速器利用のまとめ(続き)
役割
利用課題
加速
加速器の種類
エネルギー
主な利用手法
利用内容
粒子
放射光の利用
e
高療
シンクロトロン、蓄積
数GeV
リング
X線イメージング、蛍光X線 血管造影、微小ガン検診、極微量元素分析/
分析、
分布
度用 電子線の利用
e
電子リニアック
<20MeV X線照射
ガン治療
先加 陽子ビーム利用
p
サイクロトロン
<20MeV
放射性同位元素の製造
PET(ガン検診、脳機能検査)
進速
サイクロトロン/
200MeV
1次ビーム照射
粒子線ガン治療
医器
シンクロトロン
1次ビーム照射
重粒子線ガン治療
2次ビーム利用
放射性核ビーム
重粒子線照射
HI
シンクロトロン
産発 放射光の利用
e
電子蓄積リング
<1GeV
放射光加工
微細加工(LIGA)、リソグラフィ
業と 電子線の利用
e
電子リニアック
<10MeV
X線透視画像
非破壊検査
基工 同上
e
CW、電子リニアック
<10MeV
X線照射、放射線硬化、放 電線、タイヤ、発泡体、熱収縮、排煙・排水処理
技利 同上
e
CW、電子リニアック
術用 イオン注入
HI
CW
<1MeV
e,p
レーザープラズマ加速
→ MeV
盤業
射線分解
生物効果
滅菌
半導体加工、表面改質
開
新しい加速法
新利
し用 新電子銃
e
RFGun、DCGun
い技 パラメトリックX線
加術 自由電子レーザー
e
e
L.S,C,Xバンドリニアック → GeV
速の ERL
e
→ GeV
加速器の小型化
加速器の小型化
ビーム航跡場加速
器開 既存加速器の改善
及発
び
レーザー航跡場加速
パラメトリックX線
コンパクトX線源、コヒーレントX線
SASE
X線領域のコヒーレント、フェムト秒パルス
低エミッタンス化
短バンチ化、大ピーク電流
e、p
医学利用、産業利用
2−14
2.3
日本や世界の加速器
2.3.1
日本における加速器の発展
(1)日本の加速器
加速器が発明された 1930 年代には我が国は加速器の先進国であった。1935 年
から 36 年にかけて理化学研究所(理研)で静電加速器を用いた実験が始まり、
1937 年には理研と大阪大学でサイクロトロンが建設されて実験が始まり、1943
年には理研で当時世界最大級のサイクロトロンが完成している。
第二次大戦後しばらく途絶えていた加速器の建設は 1950 年代になって再開さ
れるようになった。理研、大阪大学、京都大学では戦前に建設されたサイクロト
ロンとほぼ同規模のものが再建されたが、本格的な加速器建設は 1950 年代後半
に完成した東京大学原子核研究所(当時、以降:核研)のサイクロトロンが最初
である。次いで核研に電子シンクロトロンが完成し、理研にもサイクロトロンが
建設されたが、世界最先端の加速器には遠く及ばないものであった。この様子を
第 2−2 図に示しておく。
(2)世界トップレベルの加速器の実現
欧米諸国に対して大きく遅れていた我が国における加速器環境は 1970 年代か
ら急速に改善され、世界のトップレベルの加速器が建設されるようになった。高
度成長に伴う経済発展と鉄鋼など基幹材料の生産技術及び加工/製造技術の目
覚しい発展に支えられて、我が国で高性能加速器計画が次々に実現していった。
1980 年代半ばまでの 15 年間に、わが国では高エネルギー物理学研究所(KEK)の
陽子加速器、大阪大学核物理研究センター(RCNP)及び核研のサイクロトロン、
東北大学の電子リニアックや放射線医学総合研究所(放医研)の中性子治療用サ
イクロトロンが建設され、また、放射光施設では東京大学物性研究所の SOR リン
グに続いて、電子技術総合研究所の TERAS、KEK のフォトンファクトリー(PF) な
ど、さらに多目的加速器として日本原子力研究所(原研)高崎研究所の加速器施
設(TIARA)、東北大学サイクロトロン RI センター(CYRIC)のサイクロトロンが
建設されている。なお、当時世界最先端の施設として計画された KEK のトリスタ
ン、理研のリングサイクロトロンは 1986 年に完成している。
1990 年代になると、さらに大型の加速器計画が進められてきた。そして現在で
は、大型放射光施設 SPring-8 (理研/原研)、重粒子線治療施設 HIMAC(放医研)
、
2−15
KEK の B-ファクトリーは既に完成して目覚しい成果を挙げており、世界のトップ
を狙う大強度陽子加速器 J-PARC (原研・KEK) とRIビームファクトリー RIBF (理
研) が建設中である。
(3)加速器利用の拡大
加速器の発展とならんで、加速器を利用した研究開発も目覚しく発展した。新
放射性同位元素(RI)の利用やイオン注入、高エネルギー放射線を利用した放射
線科学の研究あるいは放射光 X 線と中性子の利用などが世界的に行なわれ、加速
器の産業利用や医学利用が急速に進められた。今日では、放射線による高分子の
架橋など放射線化学的技術開発で、電線被覆材やタイヤの改質、滅菌や排煙/廃
水処理などへの電子加速器の利用が実用化し、また、イオン注入、非破壊検査な
どに使うために多くの加速器が生産現場で使われている。また、X 線(ガンマ線)
照射治療用電子リニアックが約 700 台稼動しており、陽電子放射トモグラフィ
(PET)のための小型サイクロトロンが約 60 の医療機関に設置されている。
加速器が大型化するにつれて、大学の1学部あるいは 1 学科が最先端の加速器
を建設・維持するのは困難になる。そこで多くの大学では比較的小型の加速器を
研究教育に用いるようになり、特徴的な加速器技術の開発や加速器利用の研究が
行なわれるようになった。現在では大学における研究開発がこのような加速器利
用のフロンティアを広げている。
2.3.2
我が国における加速器の現状
今日、わが国には一千台を超える加速器が稼動している。そこでわが国の加速
器環境が世界との比較においてどのような位置にあるかは、今後の加速器計画を
考える上で重要な指針になる。そこで、先端的研究施設として広く利用されてい
る中・大型加速器を対象として比較することにした。
(1)我が国の加速器の実態調査
我が国には 2000 年 3 月現在で、1,136 基の加速器が放射線発生装置として登録
されている。その実態を第 2−3 表にまとめた。ところが実際には、エネルギー
が低くて放射線発生装置の登録の必要がない加速器も多く使われており、とくに
産業界にはこの傾向が強い。大阪大学産業技術研究所の田川教授の文献に引用さ
2−16
れたデータでは、1970 年から 1998 年の間に設置された電子加速器(総数 308 台)
のうち、0.3MeV 程度の加速器が 178 台、エネルギーが 0.3-3MeV の加速器は 119
台である。これに対して 2000 年3月現在放射線発生装置として登録されている
民間企業の加速器総数は 141 台である。後者にはイオン加速器も含まれているの
で、このデータから民間企業に設置されている加速器の多くが、放射線発生装置
に登録する必要のない 1MeV 以下のものであることが推定される。
今回実態調査を再び行ったが、我が国研究機関の加速器施設には、実際に放射
線発生装置としての認可が不必要なものも含まれていることが判明し、また、こ
れらがエネルギー科学研究や基礎的・基盤的研究に使われて成果を挙げているこ
とも判った。そこで、本報告書では、研究・教育の現場で使われている加速器を
できる限り拾い上げて、その果たしている役割を記すことにした。第 2−4 表は
公的研究機関に設置され実際に使われている加速器を、イオン加速器と電子加速
器を分けてまとめたものである。複合加速器の場合、入射器と後段加速器が独立
に使用できないときは一つの加速器として数えている。なお、大学付属病院ある
いは公的医療機関で診療や治療に使われている照射装置と PET 専用加速器は含ま
れていない。
(2)大学における加速器
第 2−4 表のデータをもとに、大学、全国共同利用機関及び国公立研究機関別
に稼動年数を比較した結果を第 2
3 図に示した。大学では 30 年以上前に建設さ
れた加速器が 19 台使われているが、過去 10 年間に建設された加速器は 31 台あ
り、施設の更新が進んだことを示している。これは工学部原子力関係学科が量子
エネルギー関連学科に衣替えしたときの効果と見ることができる。
調査の結果、いくつかの特徴が明らかになった。第一は、部分的な改造のため
の財政措置が得られれば、建設後 20 年近く経つ加速器でも最先端の加速器施設
とし十分に利用できることである。例えば、東大原子力総合センターや阪大産業
科学研究所では 1970 年代後半に建設された電子線型加速器をパルス幅フェムト
(10-15)秒の電子線を加速できるように改造し、最先端パルスラジオリシスの研
究を行なっている。第二は、物質・材料研究に複数の加速器を用い、照射/注入
と特性評価を同時に行なう研究やマイクロビームの開発など研究が高度化して
いることで、核融合材料の開発など今後の原子力研究の重要課題が研究されてい
2−17
る。最後に、加速器質量分析による考古学的年代測定のような新しい加速器利用
が広がり、小型加速器が新しい学問領域を開拓していることである。同様に東工
大原子炉研究所で開発しているフラーレン C60 加速器や KEK で完成した低エネル
ギー静電型蓄積リングは、高分子の精密質量分析でナノテクノロジーや生命科学
の研究開発に新しい研究手法を提供する可能性がある。なお、後者は競争的資金
を用いて建設された小型加速器である。
第 2-3 図
加
速
器
稼
90
80
加
速
器台
数
70
建 設中
10年 以
10-20年
20ー 30 年
30年 以
60
50
40
30
20
10
0
大
学
共
第 2−3 図
同
利用
研
国
公
立研
加速器稼働年数分布
中型及び大型の加速器施設は全て共同利用施設であり、殆ど大学共同利用機関、
国公立研究所と大学付置の全国共同利用研究所に設置されている。例外は東北大
学と広島大学で、東北大学にはサイクロトロンラジオアイソトープセンター
(CYRIC)に全学共同利用施設のサイクロトロンが、また、理学研究科付属の原
子核理学研究施設に電子線型加速器施設が設置されている。一方、広島大学では
放射光研究センターに HISOR が設置され全学共同利用に供されているほか、地域
センター的役割も果たしている。
これらの施設については、次節で世界的な比較からその特徴を述べることにす
る。
2−18
2.3.3
世界的に見た我が国の加速器
我が国の中型・大型加速器施設は、放射光施設と医療用加速器を除いて、全て
原子核/素粒子研究を主目的にして建設されてきた。高エネルギー物理学の分野
では全てが大型加速器であり、大学共同利用機関の高エネルギー加速器研究機構
(KEK)に設置されてきたが、原子核研究の分野では複数の研究機関に中型ある
いは大型加速器が建設されてきている。このように原子核/素粒子研究の分野で
は、幾つかの研究機関が特徴ある大型加速器施設を建設してそれぞれ独自の研究
を展開し、世界の COE として認められている。その様子を分野別に第 2−5 表に
示した。
(1)高エネルギー物理学分野の加速器
高エネルギー物理学の分野(第 2−5−1 表)で KEK は世界センターの一つであ
る。エネルギーフロンティアでは欧米の研究機関に及ばないものの、CP 対称性の
破れを検証する B ファクトリーの実験では、世界のトップに立っている。また、
建設後 30 年を経た陽子シンクロトロン (KEK-PS) は数度に及ぶ改造・高度化に
よって、現在でもニュートリノ振動の実験や K 中間子の実験で新しい発見を次々
に生み出している。なお、大強度陽子加速器施設 J−PARC の完成で、この分野の
研究は今後ますます発展することが期待されている。
(2)放射光の応用や中性子
一方、最近 SPring-8 で新粒子(ペンタクォーク粒子)が発見され世界を驚か
せたが、これは阪大 RCNP が放射光施設に原子核/素粒子研究の専用ビームライン
を建設して挙げた成果であり、独創的発想があれば僅かな経費の追加で新しい研
究が可能なことを実証した例である。
核破砕中性子源の開発は激しい国際競争のなかで進められている。我が国は
KEK の中性子施設 (KENS) で世界最初の核破砕中性子源を実現したが、その後世
界各地で完成された同種の中性子源に大きく遅れをとってきた。現在建設中の
J-PARC が完成すれば、再び世界の一大センターとなる。
(3)放射光専用加速器施設
第 2−5−2 表に示したように、放射光分野では SPring-8が世界のトップに位
2−19
置している。とくに放射光 X 線の波長範囲と分解能、輝度、コヒーレンスや偏光
特性では他の施設の追従を許していない。1975 年、我が国は世界に先駆けて放射
光専用リング SOR リング(既に運転中止)を東京大学物性研究所に建設したが、
それに続いて建設された KEK-PF は長年にわたって我が国の放射光利用研究を世
界第一線級に持ちあげる原動力になってきており、最近、高度化も計画されてい
る。この他幾つかの小型リングが建設されているが、世界的な傾向である中型(2
∼3GeV)高輝度放射光源の建設では大きく遅れをとっている。
放射光施設の発展として自由電子レーザーの研究が世界的に進められている。
赤外線から可視光領域にかけての自由電子レーザーは、既に 1980 年代からヨー
ロッパ、アメリカ、日本で建設され実験に供されてきた。現在は X 線自由電子レ
ーザー開発で世界的な競争が広げられており、アメリカとドイツで本格的な X 線
レーザーの建設が進められている。なお、わが国では理研で 5 ナノメートル近辺
の波長領域を目標とした軟 X 線領域の自由電子レーザーが建設されている。
(4)原子核研究分野の主な加速器施設
原子核研究分野における世界の主要原子核研究施設の加速器を第 2−5−3 表に
示した。原子核研究では多様性が重視されていて、加速器も電子、陽子/軽イオ
ン、重イオンごとの利用研究に分かれて建設されており、エネルギーにも大きな
幅がある。第 2−5−3 表は地域別に主要な加速器施設をまとめたものである。我
が国では、陽子/軽イオンの分野で阪大 RCNP のリングサイクロトロンが、また、
重イオンの分野では理研のリングサイクロトロンがそれぞれ実験研究の世界の
センターになっている。また KEK-PS は GeV 領域の原子核研究で優れた成果を挙
げているほか、原研の複合加速器(タンデムバンデグラフ+超伝導リニアック)
が重イオンによる原子核研究の精密実験で成果を得ている。一方、高エネルギー
電子を用いた原子核研究は欧米の方が進んでいる。
(5)多目的加速器施設
加速器の応用では、原研高崎研究所の TIARA が高速イオンの材料科学、生命科
学への応用で他に類例を見ない総合的研究施設である。また、重粒子線の医学利
用では HIMAC が世界のトップランナーの地位を占めている。また、理研加速器研
究施設と東北大学 CYRIC は原子核研究が主な使途であるが、RI 利用や生物照射な
2−20
ど限定的な範囲で多目的に利用されている。しかしこれらの分野の国際比較は資
料整備が遅れているため行なっていない。
2−21
第2−3表 国内における加速器保有実態(発生装置種類別・機関別)
放射線利用統計(2000年3月31日現在、日本アイソトープ協会)
総数
医療機関 教育機関 研究機関 民間企業
その他
総数
1136
767
58
163
141
7
コッククロフト・ワルトン加速装置
91
0
25
33
31
2
バンデグラフ加速装置
41
0
16
23
1
1
変圧器方加速装置
25
0
1
19
5
0
直線加速装置
836
709
11
47
66
3
ベータトロン
14
6
0
1
7
0
マイクロトロン
34
26
2
2
4
0
サイクロトロン
63
25
0
16
21
1
シンクロサイクロトロン
0
0
0
0
0
0
シンクロトロン
31
1
3
21
6
0
プラズマ発生装置
1
0
0
1
0
0
2−22
第2−4−1表 我が国のイオン加速器
研 究 機 関
イオン加速器
北 工学研究科量子エネ バンデグラフ
大
同上
中性子源
工学研究科量子エネ ダイナミトロン
東 同上
北 金材研
大
CYRIC
電通研
筑 陽子線医学利用研
波 加速器センター
大
同上
R&D
PS
K
PS
E
K PS
R&D
エネルギー
建設年
2.5MeV
用 途
放射線物性
1960
中性子源、放射化分析、水素分析
4.5MV
1974
PIXE、中性子工学
CW
0.6MV
1965
教育
タンデムバンデグラフ
2MV
1990
表面元素分析、表面改質
サイクロトロン
K=130MeV
1999
核、多目的
バンデグラフ
2.5MV
1981
半導体研究(RBSなど)
シンクロトロン
Ep=250MeV
2001
治療
12MV
1976
原子核、多目的
タンデトロン
1MV
1996
物質材料、微量分析
RFQ+リニアック
4MeV
2000
加速器開発
CW+陽子リニアック
40MeV
1974
入射器
タンデムバンデグラフ
陽子シンクロトロン
0.5GeV
1974
入射器、中性子源
陽子シンクロトロン
12GeV
1975
原子核、中性子ミュオン
静電型蓄積リング
30keV
2000
高分子質量分析
POPFFAG
0.5MeV
2000
加速器開発
タンデムバンデグラフ
1996
1996
年代測定、微量分析
つくばセンター中央
ペレトロン
4MV
1982
多目的、中性子標準
同上
コッククロフト・
ワルトン
0.3MeV
1980
中性子標準
産 同上
総 つくばセンター東
研
中部センター
コッククロフト・
ワルトン
0.4MeV
1980
イオン注入
タンデムバンデグラフ
1MV
1988
物質材料、表面改質
タンデムバンデグラフ
1.7MV
1988
物質材料、表面分析
関西センター
タンデムバンデグラフ
1.5MV
1988
物質材料、表面分析、表面改質
同上
バンデグラフ
2MV
1969
物質材料、表面分析
材料研究所
サイクロトロン
Ep=17MeV
1986
原子力材料
ナノテクのロジー研
バンデグラフ
2MV
1993
化学系物質材料のイオン照射、表面
同上
タンデムバンデグラフ
2MV
1998
物質材料のその場計測
長岡科技大
CW
3MV
1981
イオン蒸着、abrasion,放化、技術
同上
タンデトロン
1.7MV
1996
物質材料、放化、表面、微量
同上
CW(
パルス)
0.4MV
2000
表面改質
東海研
タンデムバンデグラフ
20MV
1982
核、原子、物質材料、技術開発
同上
ブースターリニアック(超伝導)
30MV
1994
核、原子、物質材料、技術開発
同上
バンデグラフ
2MV
1957
原子分子、物質材料
同上
RFQ+IH
1MV/u
2003
核、物質材料、技術開発
同上
ペレトロン
4MV
2000
中性子校正場
同上
CW
0.45MV
1981
中性子発生
陽子リニアック
5MeV 1994
技術開発
陽子リニアック
200MeV
2005
環境研究所
物
質
材
料
研
長
岡
科
技
大
原 同上
研
同上
同上
陽子シンクロトロン
3GeV
2006
同上
陽子シンクロトロン
50GeV
2007
高崎研
サイクロトロン
K=130MeV
1991
多目的
同上
タンデムバンデグラフ
3MV
1991
同上
同上
バンデグラフ
3MV
1993
同上
同上
イオン注入装置
400kV
1993
同上
2−23
第2−4−1表 我が国のイオン加速器(続き)
研 究 機 関
イオン加速器
那珂研
エネルギー
中性子源CW
建設年
用 途
1981
材料試験
同上
NBI加熱正イオン
1987
プラズマ加熱
同上
NBI加熱負イオン
1996
プラズマ加熱
むつ事業所
タンデムバンデグラフ
1997
質量分析
和光研
重イオンリニアック
6MeV/u
2000
多目的
同上
リングサイクロトロン
K=540MeV
1986
多目的
同上
サイクロトロン
K=75MeV
1989
多目的
2MV
理 同上
研
同上
1990
物質材料
RIBF/fRCリングサイクロトロン
2006
ブースター
同上
RIBF/IRCリングサイクロトロン
2006
核物理、多目的
同上
RIBF/SRCリングサイクロトロン 300MeV/u
2006
核物理、多目的
同上
ECRイオン源
eV-keV
理工学研究科
バンデグラフ
4.75MeV
1968
原子、物質材料、生命、表面、微量
原子炉研
シングルエンドペレトロン
3.2MV
1976
原子核、中性子発生
同上
東
同上
工
大 同上
タンデムバンデグラフ
タンデムペレトロン
原子物理
1.7MV
1984
プラズマ、微量元素(PIXE)
220keV/u
1993
加速器開発、プラズマ
C60加速装置
0.3MeV
2001
加速器開発、プラズマ
同上
誘導型高電圧発生装置
200kV
1998
総合理工学研究科
タンデムペレトロン
1MV
1985
デバイス分析
同上
コッククロフト
200kV
2001
イオン注入
RFQ重イオンリナック
原子力総合センター タンデムペレトロン
5MV
1995
AMS、PIXE、NRA
1.7MV
1995
分析(RBS、PIXE)、イオン注入
1MV
1984
重照射実験
バンデグラフ
3.75MV
1984
イオン注入+重照射実験
東 同上
タンデトロン
大
原子力工学研究施設 タンデトロン
同上
立教大理
法
イオンビーム研
政
大 同上
都立産業研
CW
0.3MV
1985
核、原子、技術開発
バンデグラフ
2.5MV
1980
物質材料、表面、微量
タンデムバンデグラフ
1.5MV
1992
物質材料
1.77MV
1994
PIXE
K=130MeV
1973
放射線科学
1994
入射器
バンデグラフ
サイクロトロンAVF930
RFQ + IHリニアック
放
医
研
国立遺伝研
国立ガンセンター
原子核工学
名 同上
古
屋 同上
大
年代測定研
同上
静岡県立ガンセンター
シンクロトロン
100-800/u
1994
ガン治療、放射線科学
シンクロトロン
100-800/u
1994
ガン治療、放射線科学
タンデトロン
Ep=3.4MeV
1999
元素分析
1968
生命科学/照射
CW
Ep=235MeV
1998
ガン治療
バンデグラフ(
イオン+電子)
サイクロトロン
3.75MV
1967
放射化断面積、イオンビーム分析
バンデグラフ
2.5MV
1981
イオンビーム表面解析
CW
0.2MV
1980
不純物注入、表面解析、
タンデトロン
1.8MeV
1983
8Be年代測定
タンデトロン
2.5MeV
1996
14C年代測定
サイクロトロン
Ep=235MeV
2−24
2003? ガン治療
第2−4−1表 我が国のイオン加速器(続き)
研 究 機 関
イオン加速器
金沢大アイソトープ
CW
若狭湾エネルギー研
シンクロトロン
タンデムバンデグラフ
エネルギー
建設年
用 途
180MeV
2001
ガン治療、照射
5MV
2001
表面界面、AMS、PIXE
1963
重イオン源+CW
0.2MV
2001
イオン注入
化学研究所
陽子RFQ/Alvarez
2/7MeV
1992
イオン物質相互作用
理学部
タンデムバンデグラフ
8MV
1990
AMS、PIXE、核物理
工、量子理工学研
タンデトロン
1.7MV
1988
多目的(原子、物質材料、表面、分析)
バンデグラフ
2.5MV
1968
多目的
CW
0.25MV
1978
イオン注入
タンデトロン
1.7MV
0.3MV
1976
中性子源、エネルギー
150MeV
2005
京 同上
都 同上
大
量子エネルギー研
同上
タンデトロン(シングルエンド)
原子炉実験所
ダイナミトロン
同上
FFAG
奈良女子大
核物理研
ペレトロン
サイクロトロン
同上
リングサイクロトロン
大
理学部
バンデグラフ
阪
大 工学部RI
等使用施設 CW
同上
ダイナミトロン
同上
CW(OKTAVIAN)
1MV
2MV
1993
原子、物質材料、微量分析
陽子90MeV
1974
核物理
陽子400MeV
1991
核物理
2MV
1966
核物理、物質科学
200kV
1968
核、原子、エネルギー
1968
核、原子、エネルギー
1981
中性子源、原子、エネルギー
300kV
大阪府大先端科学研
バンデグラフ
1965
イオン分析装置
近畿大理工学
CW
0.15MV
1962
中性子源、放化、微量
神戸大海事科学部
タンデムペレトロン
1.7MV
1996
分析(RBS、PIXE)、照射効果
0.4MV
1980
大強度パルスビーム、
1.5MV
1988
核、原子、微量分析、
3MV
1993
中性子源、生命、微量分析
バンデグラフ
2.5MV
1983
元素分析、表面解析、イオン注入
タンデムバンデグラフ
10MV
1972
核物理、多目的
CW
0.5MV
1962
多目的
1MV
1991
分析(
RBS,PIXE,ERD)
同上
甲南大理工
広
原爆放射能研
島
大 工学部
九 理学部
州 総合理工学研
大
応用力 学研
バンデグラフ
CW
タンデム加速器
2−25
第2−4−2表 我が国の電子加速器
機 関
北 工、量子エネルギー工学
大
同上
東
核理研
北
大 同上
機 種
電子エネルギー 建設年
用 途
電子リニアック
45MeV
1974
ガンマ線/中性子利用、多目的
電子リニアック
4MeV
1961
電子、X線、中性子、放射線化学・生物
電子リニアック
300MeV
1967
原子核、多目的
S/B ring
1,2GeVS/Bring
1999
原子核、多目的
KEK
KEK-B1コライダー
8GeV/3.5GeV
1998
素粒子
KEK
e-e+入射器
8GeV
1985
入射器
テストリニアック
46MeV
1997
低速陽電子源
ATF
1.5GeV
1996
加速器開発
KEK
K
KEK
E
K KEK
ATF入射器
1.5GeV
1993
加速器開発
KEK
PF 蓄積リング
3GeV
1981
放射光、多目的
KEK
ARリング
6.5GeV
1983
放射光、多目的
KEK
CW
1984
校正場
つくばセンター
産
同上
総
研 同上
同上
長岡科技大
東海研
原
研 高崎研
同上
電子リニアック(TELL)
400MeV
1980
技術開発、入射器、陽電子源
電子蓄積リング(TERAS)
800MeV
1981
放射光利用技術開発、新量子放射源開発
電子蓄積リング(NIJI-II)
600MeV
1989
SRプロセス、偏光変調分光、測光標準
電子蓄積リング(NIJI-IV)
310MeV
1991
FEL技術開発
CW(パルス)
8MV
1996
FEL、電磁波発生、排ガス処理
SClinac/FEL/ERL
20MeV
2001
FEL
電子直流加速器
2MV
1981
材料照射
電子直流加速器
3MV
1978
材料照射
理研播磨研
電子線型加速器FEL
1GeV
2006
FEL
日大量子科学研
電子リニアック/FEL
125MeV
1996
FEL、量子ビーム技術開発
東京理科大
電子リニアック/FEL
40MeV
1999
FEL
東工大総合理工学研究科
誘導型線形加速器
東 工学部原子力工学研究施設 電子リニアック
大
同上
電子リニアック
800kV
2002移設 大強度X線源
35MeV
1977
技術開発、放射線化学
18MeV
1987
技術開発、放射線化学
2001
非破壊検査
消防研究所
リニアック
分子科学研UVSOR
UVSOR蓄積リング
1983
放射光/ FEL
同上
リニアック+シンクロトロン 20/600MeV
1983
入射器
SR蓄積リング
575 MeV
1996
微細加工、多目的
マイクロトロン
150MeV
1996
入射器
SRシンクロトロン
50MeV
1998
放射光技術
同上
マイクロトロン
21MeV
1999
入射器
化学研
電子リニアック
100MeV
1995
加速器技術、原子物理
電子蓄積リング
300MeV
2001
加速器技術、核物理
電子リニアック
45MeV
2003
FEL
工,量子理工学研
バンデグラフ
2MeV
1968
X線照射
原子炉実験所
電子リニアック
46MeV
1965
中性子源、材料照射
Lバンドリニアック
38MeV
1978
放射線化学、リソ、FEL
Sバンドリニアック
150MeV
1989
放射線化学、陽電子、FEL
電子リニアック/FEL
165MeV
1994
FEL
電子リニアック/FEL
20MeV
1994
FEL
放射光
立
命 同上
館
大 同上
同上
京
大 エネルギー理工学研
産業科学研
大
同上
阪
大 工学部FEL研
同上
750MeV
2−26
第2−4−2表 我が国の電子加速器(続き)
機 関
機 種
電子エネルギー 建設年
用 途
大阪 先端科学研
電子リニアック
16MeV
1961
材料照射
府大 同上
CW
0.6keV
1969
材料照射
姫路工大産業科学研
SR蓄積リング
1.5GeV
2000
放射光多目的利用
同上
電子リニアック
15MeV
1995
FEL
広 放射光
島 同上
大
同上
SR蓄積リング
700MeV
1997
放射光、多目的利用
マイクロトロン
150MeV
1997
入射器
ストレッチャー
150MeV
1997
佐賀県放射光
電子リニアック
250MeV
2004
入射器、FEL
同上
SR蓄積リング
1.4GeV
2004
放射光
高輝度光科学研究センター
電子リニアック
1GeV
1996
入射器
同上
シンクロトロン
8GeV
1997
入射器
同上
SR蓄積リング
8GeV
1997
放射光
2−27
全国大学、共同利用機関(加速器関係共同利用研を含む)、
国公立研究機関の加速器施設(粒子線治療施設以外の医療用加速器を除く)
大学: 学部、付属研究所、付置研究所
共同利用機関: 全国共同利用研究機構、大学付置共同利用研究所 (KEK、IMS、RCNP、KURRI、JASRI)
国公立研究所: 国立研究所、公立研究所、公益法人研究所
第2−4−3表 イオン加速器統計
30年以上 20ー30年
10-20年 10年以内
建設中
合計
7
113
全加速器施設数
18
21
32
35
大学(含付置研)施設数
14
13
17
12
56
直流加速器
14
13
15
10
52
イオンリニアック
2
2
サイクロトロン
1
1
シンクロトロン
1
1
共同利用機関施設数
0
5
直流加速器
1
イオンリニアック
1
サイクロトロン
1
シンクロトロン
2
1
3
1
1
1
3
1
3
14
20
直流加速器
3
3
10
10
4
シンクロトロン
3
1
4
イオンリニアック
2
1
国公立研究所施設数
1
10
1
静電蓄積リング
サイクロトロン
1
6
47
26
5
1
6
2
3
10
3
2
5
建設中
合計
3
54
第2−4−4表 電子加速器統計
30年以上 20ー30年
10-20年 10年以内
全加速器施設数
6
11
7
27
大学(含付置研)施設数
5
3
2
19
29
直流加速器
2
2
4
電子リニアック
3
7
15
シンクロトロン
4
6
蓄積リング
6
4
6
14
共同利用機関施設数
1
3
4
直流加速器
電子リニアック
2
3
1
1
2
1
2
5
シンクロトロン
1
1
2
蓄積リング
3
3
6
国公立研究所施設数
4
直流加速器
2
電子リニアック
1
2
2
3
11
2
2
2
5
1
4
シンクロトロン
蓄積リング
1
2−28
2
第2−4−5表 全加速器統計
建設中
合計
全加速器施設数
30年以上 20ー30年
24
32
39
62
10
167
大学(含付置研)施設数
19
16
19
31
0
85
共同利用機関施設数
国公立研究所施設数
1
4
9
7
5
16
9
22
1
9
24
58
2−29
10-20年 10年以内
第2−5−1表 世界の主要加速器施設(高エネルギー物理学)
機種
施設名
国名
加速器
エネルギー(GeV) ビーム強度
研究課題,コメント
(ルミノシティ)
SLAC
アメリカ リニアック
SLAC/ PEPII
アメリカ e/e+非対称衝突器
e= 9.0 /e+=3.1 4.50E+33
CP対象性の破れ
KEKB
日本
e= 8.0 /e+=3.5 7.35E+33
CP対象性の破れ、
電
子 LEP(CERN)
加 HERA(DESY)
速 CEBAF(JLab)
器
e/e+非対称衝突器
35/56
50mA/20mA
素粒子物理、J/ 発見
世界最高のルミノシティ
e/e+衝突器
ドイツ
シンクロトロン・e/p 衝突器
アメリカ 超伝導リニアック
LEPS(SPring-8/RCNP)
日本
蓄積リング
5.60E+31
Z、W 粒子発見、2000運転停止
e=27.5/p=820 1.60E+31
104.5 x 2
素粒子物理、クオーク内部構造
5.5
8
220μA (CW)
高エネルギー核物理
1E+7光子/秒
高エネルギー核物理、
ペンタクォーク粒子発見
陽
子
・
重
イ
オ
ン
加
速
器
核
破
砕
中
性
子
・
中
間
子
源
VEPP-4M(BINP)
ロシア e/e+衝突器
BEPC(IHEP)
中国
LHC(CERN)
スイス シンクロトロン・p/p 衝突器
SPS(CERN)
スイス シンクロトロン
AD(CERN)
スイス シンクロトロン(減速器)
Tevatron(FNAL)
アメリカ シンクロトロン・p/p 衝突器
U-70(IHEP)
ロシア シンクロトロン
J-PARC(KEK/JAERI) 日本
e/e+衝突器
シンクロトロン(建設中)
6
2.8 x 2
Y 中間子物理
4.00E+30
−質量測定
7,000x2
450
建設中、ヒッグス粒子探査
3.4 E+12
粒子/秒
2.76→0.00531
LEP入射器、重イオン衝突
反陽子利用実験、反物質
1,000 x 2
2.00E+32
76
1.5E+12
素粒子物理、J/ 発見
粒子/秒
50
20μA
U-10(ITEP)
ロシア シンクロトロン
10
7E11 粒子/秒
KEK-PS
日本
12
RHIC(BNL)
アメリカ シンクロトロン・HI/HI衝突器 100MeV/u x 2 2.00E+31
クォーク・グルオンプラズマ、スピン物理
SIS(GSI)
ドイツ
高エネルギー重イオン反応
HIMAC(NIRS)
日本
重イオンシンクロトロン
RIBF(Riken)
日本
超伝導サイクロトロン(建設中) < 0.35GeV/u 1pμA (CW)
SINQ (PSI)
スイス リングサイクロトロン
ISIS(RAL)
イギリス シンクロトロン
シンクロトロン
高エネルギー核物理、
ハイパー核、ダブルハイパー核の発見
K2K(カミオカンデ入射) 実験
シンクロトロン
サイクロトロン
陽子リニアック
J-PARC(KEK/JAERI) 日本
シンクロトロン(建設中)
<1GeV/u
0.8GeV
0.59
1.5mA CW
パイオン工場/ 中性子源
0.072
1.85mA CW
同入射器
0.2mA
ミュオン/ 中性子源
0.8
0.07
3
リニアック
0.4
シンクロトロン
1.2
KENS
日本
SNS (ORNL)
アメリカ シンクロトロン(建設中)
高エネルギー重イオン反応
不安定核構造/反応
1
同入射器
0.33mA
中性子源、ミュオン源
0.33
同入射器
中性子源(世界最初)、ミュオン源
1.4mA
リニアック
中性子源
同入射器
TNF (TRIUMF)
カナダ リングサイクロトロン
0.52
0.14mA CW
中間子工場/ 中性子源
LAMPF (LANL)
アメリカ 陽子リニアック
0.8
1mA
中間子工場/ 中性子源
2−30
第2−5−2表 世界の主要放射光施設 (E > 1GeV)
施設名
第
三
世
代
放
射
光
源
運転開始
エネルギー
年度
(GeV)
周長(m)
エミッタンス
放射光BM臨界エネルギー
(nm rad)
(keV)
SPring-8
日本
1997
8
1436
5.9
28.9
APS
アメリカ
1995
7
1104
8.2
19.5
ESRF
フランス
1993
6
844
3.9
19.2
KEK-PF
日本
2001
2.5∼3
186.6
27
4
SLS
スイス
2001
2.4
288
4.8
5.4
PLS
韓国
1994
2.0∼2.5
280.6
12@ 2.0 GeV
2.8 @ 2.0 GeV
BESSY Ⅱ
ドイツ
1998
1.7
240
6.1@1.7 GeV
2.5 @ 1.7 GeV
ELETTRA
イタリア
1993
1.5∼2.8
259.2
[email protected] GeV
3.2 @ 2.0 GeV
MAX Ⅱ
スウェーデン
1997
1.5
88.2
8
SRRC
台湾
1993
1.3∼1.5
120
19.2 @1.3 GeV
1.4 @ 1.3 GeV
ALS
アメリカ
1993
1.0∼1.9
196.8
3.5@ 1.5 GeV
1.9 @ 1.5 GeV
SuperACO
フランス
1987
0.8
72
35
0.62
SPEAR3
アメリカ
改造中
3
234
18
7.6
Boomerang
オーストラリア
建設中
3
179.4
11.6
CLS
カナダ
建設中
2.9
171
18.2
SOLEIL
フランス
建設中
2.75
354
3.7
DIAMOND
イギリス
建設中
3
565.6
5.4
260
1ー2
MAX IV
スウェーデン
建設中
Barcelona
スペイン
建設中
3
Candle
アルメニア
建設中
3
ShanghaiSRF
中国
建設中
3
KEK-AR 第
二
世
代
放
射
光
源
国
日本
1988
6.5
375
250
CHESS
アメリカ
1979
5.4
769
65
DORIS II
ドイツ
1981
4.5∼5.6
289.2
270
27.2 @ 5.3 GeV
NSLS Ⅱ
アメリカ
1982
2.5∼2.8
170
45
5 7.1@ 2.8 GeV
ANKAR
ドイツ
2000
2.5
110
80
SRS
イギリス
1982
2
96
110
VEP-3
ロシア
1986
2
75
BEPC
中国
1992
1.5∼2.8
240
390
3.8
LNLS-1
ブラジル
1997
1.37
93.2
100
2.08
CAMD
アメリカ
NSRL
中国
1993
0.8
66
27
0.52
TERAS
日本
1981
0.8
31.45
[email protected]
[email protected]
NSLS I
アメリカ
1981
0.75
54
150
0.49
UVSOR
日本
1983
0.75
53.2
115
0.425
1.5
20.7
3.2
4.3
166/256
SSLS
シンガポール
2001
0.7
10.8
1370
1.47
HISOR
日本
1998
0.7
22
400
0.885
Rits SR
日本
1996
0.575
3.14
注)アジアの放射光施設は低エネルギーリングも含む
2−31
0.844
第2−5−3表 世界の主な原子核研究施設
研究所名
JINR
Uppsala U
ー
ッ
ロ
装置名
粒子
U-400
HI
サイクロトロン
25MeV/u
U-400H
LHI
サイクロトロン
50MeV/u(Arまで)
LI
サイクロトロン
K=200
p、LHI 超伝導サイクロトロン
K=600
スウェーデン G-W Cyclotron
機種
エネルギー
KVI
オランダ
AGOR
CRC
ベルギー
Cyclone 110
p
Cyclone 30
H-
サイクロトロン
K=30
Cyclone 44
RI
サイクロトロン
K=44
GSI
ヨ
国
ロシア
Bonn Univ.
ドイツ
ドイツ
サイクロトロン
K=110
UNILAC
HI
重イオンリニアック
2-20MeV/u
SIS
HI
シンクロトロン
1-2GeV/u
ESR
HI
蓄積リング
0.5-1GeV/u
ELSA
e
電子ストレッチャー
3.5GeV
FZ-Juelich
ドイツ
COSY
p
シンクロトロン/冷却蓄積リング
1.75-2.88GeV
Mainz
ドイツ
MAMI A1,A2、
e
マイクロトロン
180MeV
NAMI B
e
マイクロトロン
850MeV
GANIL
フランス
CSS1、CSS2
HI
リングサイクロトロン
<96MeV/u、24MeV/u(U)
IReS(ULP)
フランス
VIVITRON
スイス
PSB+ISOLDE
p
陽子シンクロトロン/セパレーター
1-1.4GeV、核破砕、核分裂
REX-ISOLDE
RI
セパレーター+後段加速
3.1MeV/u、A<140
パ
SPIRAL
CERN
PSI
スイス
INFN/LNL
イタリア
INFN/LNS
イタリア
TRIUMF
カナダ
MIT
アメリカ
SUNY SB
アメリカ
Jefferson Lab
PSI
Cyclotron
RI
p、LHI タンデムバンデグラフ
35MV
p
リングサイクロトロン
590MeV
HI
タンデムバンデグラフ
15MV
HI
タンデムバンデグラフ
20MV
HI
タンデムバンデグラフ
13MV
HI
超伝導サイクロトロン
後段加速、100MeV/u(LI)
p(H-) リングサイクロトロン
< 520MeV
ISAC
RI
Target+ISOL+RFQ+DTL
60keV+150keV/u+1.5MeV/u
Bates
e
電子リニアック+
540MeV
リサーキュレーター+
1,060MeV
蓄積リング
300-1100MeV
HI
タンデムバンデグラフ+超伝導リニアック 9MV + 20MV(相当)
アメリカ
CEBAF
e
超伝導電子リニアック
< 5.5GeV
ア TUNL、Duke U
メ
リ
カ
アメリカ
TandemVdG
LI
タンデムバンデグラフ
12MV
HIGS
e
電子リニアック+シンクロトロン
270MeV+1.2GeV、コンプトン
蓄積リング
後方散乱、2-50MeV、225MeV
Indiana U.
アメリカ
MSU
ANL
IUCF
アメリカ
アメリカ
ATLAS
p
サイクロトロン、
205MeV
p
シンクロトロン・冷却リング
250MeV
HI
超伝導サイクロトロン(+)
K=500
HI
超伝導サイクロトロン
K=1200
HI
タンデムバンデグラフ+
9MV
ECR+入射リニアック+
12MV
2 x 超伝導リニアック
20MV+20MV
2−32
第2−5−3表 世界の主な原子核研究施設(続き)
ORNL
ア
メ
リ Texas A&M
カ
LBL
U.Washington
アメリカ
HRIBF
HI,RI サイクロトロン+IMS+
K=100
タンデムバンデグラフ
12MV
ORELA
e、n
電子リニアック
250MeV、中性子源
アメリカ
TAMU
LI
超伝導サイクロトロン
K=500
アメリカ
88'Cyclotron
HI
サイクロトロン
K=130
アメリカ
CENPA
東北大
日本
CYRIC
東北大核理研
原研
KEK
日本
ア 理研
ジ
ア
阪大核物理研
LI、HI タンデムバンデグラフ+超伝導リニアック 9MV + 8MV(相当)
LI
サイクロトロン
K=90
日本
e
電子リニアック+ストレッチャー
300MeV + 1GeV
日本
HI
タンデムバンデグラフ+超伝導リニアック
KEK-PS
p、LHI シンクロトロン
日本
HI
日本
LI
近代物理研
中国
原子能研究院
中国
ANU
Weizmann Inst
12GeV
リニアック/サイクロトロン+
リングサイクロトロン
K=540
サイクロトロン+リングサイクロトロン
k=400
LHI
リングサイクロトロン
K=400
LHI
タンデムバンデグラフ
オーストラリア
HI
タンデムバンデグラフ+超伝導リニアック 14UD+5MV/u
イスラエル
HI
タンデムバンデグラフ
2−33
第3章 我が国における加速器利用研究
本章では、我が国における加速器を利用した研究について概観する。なお、最
近のレーザー技術の発展は目覚しく、新しいイオン加速原理の開発や高エネルギ
ー光子の利用において、加速器と重なり合う部分が増えてきた。このような観点
から、加速器利用研究にあわせて、短パルス・高強度レーザーの利用を取り上げ
る。
3.1
未知への挑戦
(1)知的フロンティアの拡大
19 世紀から 20 世紀初頭にかけての多くの実験結果を基に、原子は原子核の周
りを電子が取り巻いている構造であることが明らかになった。その構造は、のち
に量子力学によって見事に説明されることになったが、これを契機に、より基本
的な自然界の構造を探る研究が急速に進んだ。人類の知的好奇心は原子核の構造
に向かい、原子核が陽子/中性子(核子)から構成されることが明らかになると、
原子核の性質や原子核同士の反応を究める数々の実験が行なわれるようになっ
た。1938 年に発見されたウランの核分裂が、1942 年にはその連鎖反応を利用し
た世界最初の原子炉に発展し、すぐにエネルギー源として実用化されたのが今日
の原子力発電である。また、原子核研究の重要な「道具」として発明された加速
器は、多くの技術開発を経て今日に至っている。
原子核研究はやがて核子の構造とその間に働く力の性質の研究へと発展した。
今日では基本的な粒子として、光子などのゲージボソン、電子とニュートリノを
総称したレプトン(軽粒子)、メソン(中間子)、核子などのハドロン(重粒子)
が知られている。また、メソンとハドロンはクォークと呼ばれる素粒子の複合体
であることが明らかになってきて、より根源的な粒子とその間に働く力の性質と
基本法則の探求が続けられている。これらの粒子間に働く力の性質のうち、電
荷・空間・時間に対する対称性は最も基本的な性質で、対称性の破れの度合いの
測定は現代の最も重要な研究課題である。
3−1
(2)宇宙の誕生・進化と高エネルギー物理学
私達の宇宙は 150 億年前に起ったビッグバンで誕生し、膨張してきたことが明
らかになっている。膨張の過程で宇宙は冷えていき、それに伴って物質が作り出
されてきた。これまでの研究から宇宙誕生のごく初期の超高温状態からクォーク
が生じ、やがてクォークが集まって核子になり、更に冷えて核子が結合し元素が
生まれたとされている。ところがウランにいたる多様な重元素は、このときでは
なく、軽い元素でできた星の寿命が尽きた最後の爆発によって生み出されてきた
と考えられている。
このような立場で見ると、先に述べた自然界の根源的な構成要素と基本原理の
探求は、宇宙進化の過程を逆に辿ることに相当している。言い換えると、高エネ
ルギー加速器でより高いエネルギーが集中した状態を作りだすことが、宇宙進化
の逆過程を進むことであり、人類が存在する現在の宇宙のルーツを探ることであ
る。そのためにはエネルギーフロンティアを開拓する加速器が必要になる。
現在我が国の高エネルギー加速器で行なわれている実験で、CP と呼ばれる対称
性の破れが確認された。これはビッグバンでできた宇宙には陽子や中性子が多く、
なぜ反陽子や反中性子が存在しないかを明らかにする鍵の発見である。また、ニ
ュートリノ振動実験からはニュートリノが質量をもつかどうかが明らかになっ
た。その大きさの精密決定によっては宇宙全体の質量が変わってきて、この宇宙
がどのように進化していくかが明らかになる。なお、ペンタクォークの発見など
クォークに関わる研究は、なぜ核子のような小さい領域に深く閉じ込められるの
かという「閉じこめの機構」や、閉じこめられた瞬間に大きな質量を生み出すの
かという「質量起源の機構」といった疑問を明らかにする新しい研究の始まりと
いうことができる。
(3)元素の生成と原子核物理学
原子核は高々300 個の陽子と中性子から構成されているのに、その構造や性質
はきわめて多様である。なかでも未だそれほど多くは創製・発見されていない極
端に中性子が多い原子核あるいは少ない原子核には、殆どその発見の度に未知の
性質が見つかっている。これまで我が国の研究者は、この領域の研究で既存の常
識を覆す多くの発見をしており、また、星の内部で行なわれる元素合成過程を加
速器の実験で確かめている。このように未知の原子核を作り出してその性質を明
3−2
らかにし、この宇宙における元素創成のシナリオを地上で確かめる実験場が RIBF
であり、原子核研究用加速器である。これまで我が国では、重イオン加速器を用
いて安定領域から遠く離れた原子核のエキゾチックな性質を明らかにしてきた。
一方、陽子/軽イオン加速器は原子核が高いエネルギー状態へ励起された時の形
や性質を明らかにしている。
このような未知への探求は、自分の存在する自然界をより深く理解したいとい
う人類の飽くなき知的好奇心の現れであり、その成果は人々の好奇心を更に刺激
し、自然界に対する夢と畏敬の念を与えるものである。
(4)原子内電子の状態を探る
原子はこの世のなかの物質、例えば金、銀といったものの性質を保持した一番
小さな構成単位であり、中心にある重い原子核とそれを取り巻く電子から構成さ
れている。放電管(現在日常的に使われるネオンサイン管や蛍光灯はその一種で
ある)中で熱せられた高温気体から発する光を分析すると、一連の決まった波長
からなる線として現れ、その波長は元素によって皆違うことが分かり、遠い天体
を構成する物質もその光を分析すれば分かる、ということは 19 世紀に既に分か
っていた。元素であるヘリウムは、まず太陽を構成する物質として発見され、つ
いで地上での存在が確かめられた。原子が出す光の分析の結果は、原子の構造の
説明や量子力学の誕生への大きな足がかりとなった。
ヘリウムより重い原子では原子核を取り巻く電子の数が変わるとその原子の
示す性質は変わる。特に原子核に近いところにある電子が失われた場合の効果は
大きく、その数によって、励起した原子から放出される光や X 線のエネルギーも
本来の値から変わってしまう。このことは重イオン加速器を使って初めて詳細に
調べられるようになった。十分に大きいエネルギーを加えなければ、沢山の内側
の電子まではぎ取るこは出来ない。加速器の建設に伴って、様々なエネルギー、
様々な構造を持つ原子の状態や、その間での衝突で起きる現象が、新しく工夫さ
れた測定器を使って行われ、その成果を上げてきた。重い高エネルギーのイオン
は、相手の原子に対してハンマーでたたいたような大きな衝撃を与え、放射光は
鋭いメスのように特定の電子をねらって衝撃を与える。2種類の装置を使っての
研究結果を組み合わせることで、更に詳細な研究も可能である。
このようにして得られた結果は、遠い天体からの光や X 線の波長を調べた場合
3−3
に、どのような元素がどのような状態(原子核の回りに電子が幾つ残っているか
=その発光体の温度)にあるかまで的確に推定できる基礎データとしても役立て
ている。
3.2
広い科学技術分野における先端的基盤研究
(1)物質研究がなぜ必要か
この地球上に存在する安定元素は水素からウランまで 84 種しかなく、長寿命
の放射性核種として存在する元素を含めても 92 種に満たない。ところがこの少
数の元素からつくられた物質の種類は無数にあり、新しい原子構造(原子配列)
や性質、機能を持つ物質の発見が続いてきた。とくに、20 世紀後半になって物質
の熱的、電気的、磁気的特性と物質の原子配列あるいは電子状態との関係を解明
する実験技術、解析手法や理論が進歩すると、新しい特性をもつ物質の探索/ 研
究が急速に進み、また、人工的に原子配列を変えて新しい性質や機能をもつ物質
の開発も行なわれるようになった。このような物質・材料科学の進歩が情報・通
信技術・ナノテクノロジーの進歩を加速し、社会生活を一変させる大きな影響を
現代社会にもたらしている。また、遺伝子の発見を端緒とする生命科学の発展も
目覚しく、生体内で作り出される多様な物質の研究が行なわれて、生命現象の解
明や病気の原因究明、治療法の開発に貢献している。なかでも生体機能をもつ蛋
白質が次々に発見されており、その 3 次元原子配列(立体構造)を解析して新し
い医薬品を創製する動きが活発になっている。
(2)物質研究の手法
新しい機能をもつ物質の開発においては、物質中の原子配列と電子状態、微量
成分元素の量と化学状態を精度よく決め、場合によってはその温度/圧力/磁場
依存性や時間の経過に伴う変化を測定する必要がある。一般に、物質の特性や機
能は表面、界面(二つの物質の接合面)、バルク(物質内部)で異なっているの
で、測定は表面/界面でも行うことになる。なお、表面に吸着している不純物原
子(分子)の量や表面の平面度/平滑度、界面における原子配列変化などは、ナ
ノデバイス材料の良さを決める最も重要な指標である。
今日では、物質の研究には電子顕微鏡やトンネル顕微鏡によるイメージング法
3−4
とともに、光(テラヘルツ波から X 線までの電磁波)や中性子の吸収(発光)分
光、回折、散乱、偏光計測などが最もよく使われている。なお、高温高圧など極
端条件下の計測や時系列計測など光や中性子のみで可能な計測も多い。
X 線や中性子を得るのに加速器を用いると、実験室 X 線源や原子炉に比べて3
桁以上の輝度が得られるので、際立って高い精度の測定が可能になる。加速器が
現代科学技術の研究開発において、最も重要な先端的基盤研究施設と言われる所
以である。
(a)放射光の利用
光は電子と強く相互作用するので、物質内の電子分布や電子状態を調べる最も
優れたプローブである。放射光は真空紫外から X 線に至る幅広い波長領域で、平
行で明るく(高輝度)波長の揃った特性をもっている。ごく微小な試料の計測が
可能で、放射光を用いた物質研究の先端的研究手法が次々に開発されている。
生体高分子とくに酵素など蛋白質の立体構造を決めるのに、X 線回折と核磁気
共鳴(NMR)が主に使われている。これまで立体構造が決められた蛋白質の総数
(蛋白質データバンク登録数)は、2003 年 10 月現在で約 22000 であり、そのう
ちほぼ 19000 が放射光 X 線回折で決められている。
我が国の放射光施設では、X 線領域で SPring-8 と KEK の放射光実験施設 KEK-PF
が優れた成果を挙げている。SPring-8 の特長は X 線波長範囲が広く輝度が世界で
最も高いことである。一方、KEK-PF はビームラインの使い易さなど実験環境に優
れている。なお、KEK にはこの他に 6GeV の AR リング放射光源があり、波長の短
い X 線を半ば占有的に使って、蛋白質構造解析や医学利用で優れた成果を得てい
る。この他、姫路工業大学、分子科学研究所、広島大学、立命館大学の小型放射
光施設では、主に真空紫外・軟 X 線領域の放射光を用いた分光学や微細加工の研
究が進められている。また、産総研の小型放射光施設ではレーザーコンプトン散
乱γ線の利用研究や高速偏光可変アンジュレータによる研究が行われている。
放射光の特長は同時に多数のユーザーが実験できることで、スモールサイエン
スのための最先端研究施設である。SPring-8 に例をとると、2002 年 2 月∼翌年 2
月までの1年間に、利用者は延べ 8843 人、実験課題数は 1334 件である。発表論
文数は査読つき学術雑誌に発表されたもの 342 編で、そのうち 26%弱の論文がイ
ンパクトファクター(IF)の高いハイクォリティジャーナル(IF>3)に掲載されて
3−5
おり、なかでも 44 編がとくに評価の高い学術誌(IF>6)に発表されている。な
お、共同利用ビームラインの産業界による利用が増えていて、産業界の実験責任
者が提案した課題が全体の 12%を超えている。
(b)中性子の利用
中性子は電子と同じく物質波としての性格をもっており、X 線と同様に物質研
究の優れたプローブである。その波長は中性子のエネルギーが低いほど長くなる
ので、実際に物質研究に使われるのは低速の熱中性子である。光が重い元素ほど
強く散乱されるのに対して熱中性子は水素などの軽元素に強く相互作用するの
で、物質中の軽元素の情報を得ることができる。例えば中性子回折で蛋白質の立
体構造を調べると、X 線では困難な水素の位置情報が得られ、蛋白質の機能解明
に必要な水素の配位や周囲の水の情報が得られる。
電子や陽子、中性子はスピンとそれに伴った磁気的性質(磁気能率)をもって
いる。中性子は電荷を持たないので、中性子は物質中の電子と磁気的な相互作用
により散乱される。物質の磁気的性質はスピンの向きが異なる(例えば上向きと
下向きの)電子の分布の違いで生じるので、中性子を用いると物質の磁気的特性
を解明することができる。現在情報機器で広く用いられている記録媒体などの磁
気デバイスは、優れた磁気特性を持つ物質の発見で急速に進歩してきた。
中性子は光とともに生命科学や物質・材料科学の研究に不可欠のプローブで
あり、核破砕中性子源は最も重要な先端的基盤研究施設である。現在建設中の
J-PARC は、1 秒間に 50 回繰り返すパルス中性子源として、世界で最も輝度の高
い中性子を利用に供する予定である。
(c)イオンビームの利用
数 MeV に加速されたイオンによる分析も良く使われている。物質中の微量元素
に衝突して出す X 線を測定して行なう定量や化学状態分析は PIXE 法と呼ばれて
いて、ppm(100 万分の 1)から ppb(10 億分の 1)の定量分析が可能である。この
ほか、入射イオンの後方散乱など原子核核反応やチャネリングを用いた欠陥の研
究も行なわれているが、これらは主に大学、国公立研究所の小型加速器を用いて
行われている研究である。
1950 年代から多様な化学物質が大気或いは河川に流出して環境が悪化する問
3−6
題が表面化してきた。とくに化学物質には極微量でも生体に悪影響を与えるもの
がある。このような化学物質の分析には PIXE と放射光による分光が重要な役割
を果たしている。
(d)陽電子ビームの利用
陽電子は物質中では電子と対消滅を起こし、主に二つのガンマ線(511keV)を反
対方向に放出する。この消滅ガンマ線の放出時刻、エネルギー、角度分布などを
高精度で計測して、電子の運動量分布や物質のミクロな構造を知ることが出来る。
この陽電子消滅法によって金属フェルミ面や格子欠陥、金属や半導体の不純物析
出のメカニズムの解明などが可能になった。
当初、陽電子線源として放射性同位元素を用いていたが、低速用電子ビームが
実現してその短パルス化、収束、エネルギー等の制御が可能になるとともに加速
器や原子炉を用いた陽電子ビーム発生技術の進歩により、陽電子の利用範囲は飛
躍的に広がった。我が国は、とくに加速器による高強度低速陽電子ビームの発
生・制御・計測技術や物質評価への利用で世界をリードしている。1999 年の国際
半導体テクノロジーロードマップには、次世代半導体 LSI 用の新しい膜材料開発
でブレークスルーをもたらす可能性がある評価技術として取り上げられ、産業界
も注目するようになり、産官学連携研究が活発になっている。
(e)ミュオンビームの利用
ミュオン(μ)は電子の仲間(レプトン)で、正の電荷を持つミュオン(μ+)と
負の電荷を持つミュオン(μ−)とがある。ともにスピンと磁気能率を持っていて、
μ+(μ−)は 2.2 マイクロ秒の寿命でそれぞれ陽電子(電子)と 2 つのニュートリ
ノに崩壊する。その際、陽電子(電子)はμ+(μ−)のスピン方向に強く出るので、
スピンの向きを検出するのに陽電子(電子)を測定する。
高エネルギー陽子を原子核(実際にはベリリウムや炭素の原子核を用いる)に
衝突させると、パイ中間子π+ (π−)が放出され、それが崩壊してμ+(μ−)にな
る。このミュオンは 100%偏極しているので、ミュオンビームを物質中に注入し
て磁気共鳴(Resonance)やスピン方向の回転(Rotation)あるいは編極の減少(緩
和、Relaxation)を測定すると、他の方法では知り得ない物質の性質あるいは内
部状態を調べることができる。この3つの方法をまとめてμSR と呼んでいる。
3−7
μSR は 1970 年代の初期に開発された研究手法であるが、わが国の研究グルー
プがアメリカの加速器を用いてパイオニア的働きをしている。今日ではミュオン
利用の研究は、カナダの Triumf、イギリスの ISIS、スイスの PSI、日本の KEK-PS
などで行われているが、ISIS のミュオン実験施設は日英協力で建設された。
3.3
原子力への先導的基盤研究
(1)原子力の研究開発と加速器
原子核変換の過程で生み出される原子エネルギーの大部分は、様々な放射線と
して放出される。核分裂によって放出されるエネルギーは、運動エネルギーを有
する核分裂片、中性子、γ線などの放射線として放出され、物質の中で吸収され
て熱エネルギーに変わる。
従って原子力利用の研究開発では、放射線と物質の相互作用を理解することが
もっとも基本的な知見である。そのエネルギー、方向性等を制御して、研究目的
に合った様々な放射線を発生させることができる加速器は、放射線と物質の相互
作用の基礎的な研究の手段として、原子力研究開発の当初から極めて重要な役割
を果たしてきている。
我が国が1955年に原子力基本法を定めた翌年に設立された日本原子力研究所は、
1957年に2MVバンデグラーフによる中性子の核反応の測定などを開始している。
以来、加速器が原子力研究開発の最も重要な手段として利用されてきたが、この
成果を踏まえ、2000年に策定された「原子力の研究、開発及び利用に関する長期
計画(原子力長計)」でも、歴史的に加速器の開発及びそれを用いた研究は、原
子力開発に新しい展開をもたらしてきたと加速器を位置づけている。
今日、我が国の軽水炉発電は既に広く定着しているものの、燃料サイクル全般
を確立するまでには今後、幾多の困難な課題を克服することが必要である。即ち、
原子力エネルギー利用が将来的なエネルギー需要に的確に応えてゆくためには、
原子炉から燃料サイクル全般にわたる経済性、安全性、信頼性の更なる向上に加
えて、廃棄物管理を適切に行うための革新的な技術開発が求められており、加速
器はこうした課題を解決するための重要な手段の一つとして大きな役割を果た
すものと期待されている。
3−8
(2)我が国で原子力研究開発に用いられる加速器
表 3-1 は、我が国で原子力研究開発等に使われてきた加速器の一覧である。原
子力予算で建設された加速器及び大学や公的研究機関の原子力関係学科・部門
で原子力関連の研究開発に使われてきた加速器の範囲で整理したものである。如
何に多くの加速器が原子力研究開発において大きな役割を担ってきたかを示し
ている。
原研では 1957 年の2 MV バンデグラーフ以来、これまでに数多くの加速器を設
置し、広範な原子力の研究開発に利用してきている。当初は、原子力エネルギー
に関連した中性子核反応等の核物理、放射線測定器の開発、原子炉材料等の研究
開発が中心であったが、放射線化学、食品照射といった分野での電子線加速器の
利用を契機に原子力利用の一分野としての放射線利用が進展し、TIARA の建設へ
とつながってきている。
1966 年にわが国最初の多目的利用加速器である 160cm サイクロトロンが理研に
完成し、約三分の一のビームタイムを用いて、放射線化学、放射線生物学や金属
材料のイオン照射効果の研究が行われ、数年後には原子・分子の研究が加わった。
また、1970 年代後半から電総研(当時)で、小型加速器を用いた低速陽電子ビー
ムやレーザーコンプトン散乱γ線の技術開発が行われ、材料評価や光核反応断面
積等の計測手段として利用されている。
さらに、1960 年代に次々と設置された大学の原子力関係学科にも、例外なく複
数の加速器が設置され、原子力の教育と研究に広く利用されて来ている。その中
で、パルス中性子源としてのリニアックと原子炉を組み合わせた東大の炉物理の
研究、単色エネルギー中性子場としての東北大のダイナミトロン、TOF による中
性子の断面積測定等の研究に特色を出した北大や京大原子炉実験所の電子リニ
アック、核融合中性子物理等の研究のために設置された阪大の OKTAVIAN、多目的
利用のための京大のタンデトロンなどは、国際的にも特筆される先導的な研究成
果を生み出してきている。
以下は、原子力の各分野の研究開発における加速器利用の実績と将来展望であ
る。
(3)原子力分野における核物理研究
新たな原子力開発や原子力利用の高度化の基礎となるのが、原子核物理であり、
3−9
原子核物理の研究の最も重要な手段が加速器である。核分裂反応をはじめ、中性
子と物質(原子核)との核反応、核反応によって生じる中性子や核分裂生成物の
収率、励起核から放出されるガンマ線やベータ線の特性を表す核構造等の研究が、
様々な加速器を利用して行われている。原子力分野における核物理研究の成果は
核データとして、世界的な組織でデータベース化されている。わが国では、1960
年代より原研が中心となり、大学、研究機関、民間と一体となって中性子断面積
等の核データの測定と評価活動が続けられている。その成果はJENDL核データフ
ァイルとして集約され、国内外において原子力研究開発及び利用のための基礎デ
ータとして広く利用されている。
今後、原子核物理分野でもっとも重要となる研究は超ウラン元素を対象とした
研究である。超ウラン元素は核分裂物質としてばかりでなく、長寿命の放射性廃
棄物にもなる核種であり、原子力エネルギー利用を円滑に推進する上で、適切に
利用し、処理しなければならない核種である。理研のRIビームファクトリーや原
研のタンデム・ブースターに付置される不安定核加速装置、TIARAの数10MeVの単
色中性子等を使った中・高エネルギー中性子物理や重イオン核物理の研究は、核
変換システム等の次世代原子力技術を支える基礎研究として重要な役割を担う
ことになる。
(4)放射線測定器の開発と校正
放射線はエネルギー利用とともに原子力の利用において重要な役割を占めてお
り、様々な用途に応じた信頼性のある、精度の高い放射線測定器や線量計の重要
性は改めて云うまでもない。原子炉を始めとする原子力施設で必要な放射線測定
器、あるいは個人や環境測定用の線量計等の開発や校正には、加速器から発生す
る制御された放射線の利用が必須であり、これまでも、こうした目的のために多
くの加速器が利用されている。
我が国では、国家標準機関である産総研の加速器が放射線に関する標準開発・
供給の役割を担っているのに加えて、1982年にKEKに校正場としてコッククロフ
ト型電子加速器が設置され、また、2002 年には我が国で初めての中性子測定器
の開発と校正のための専用加速器として4MV バンデグラーフ加速器が原研に設
置されている。
3−10
(5)生体影響研究
X線の発見以来、放射線照射は医学には欠かせない手法となるとともに、その人
体への影響は放射線医学の重要な研究課題であった。その後、電磁放射線の生物
効果の研究は、放射性同位元素と電子リニアックからのガンマ線照射によるジャ
ガイモなどの発芽抑制、不妊処理による害虫駆除、殺菌などの技術へ発展して行
き、一部は広く用いられている。
放射線による人体影響を特徴づけるLET 効果や線量率効果も精力的に研究され
てきた。なかでも高速イオンは局所的に大きな放射線照射効果を与えるものの、
他の部位には影響が少ないという特徴があり、インビボでの実験から重イオンが
がん治療に効果があることが明らかになった。こうした効果を調べるためには、
放射線の種類、強度、エネルギーを制御しつつ個体レベル、細胞レベルでの研究
が必要で、各種加速器が利用されてきた。
低線量放射線による人体影響を明らかにすることは、原子力利用を推進するた
めに最も必要とされている研究課題の一つである。近年、低線量放射線の人体影
響についての研究は、疫学的な研究から細胞レベル、DNAレベルへと移行してお
り、こうした研究を行うためには、様々な放射線のエネルギーを制御して発生さ
せることのできる高性能加速器と高度な加速器利用技術、放射線利用技術とが必
要になっている。
(6)材料開発
原子炉材料等の照射損傷の研究には、従来からイオン加速器や電子線加速器が
広く利用されてきた。中性子による損傷研究の場は材料試験炉等による重照射研
究が中心であるが、こうした研究と合わせて損傷の素過程や機構解明のための手
段としてイオン加速器が利用されている。
初期の段階では単一加速器による照射試験が行なわれていたが、やがて損傷を
与える照射とイオンビームを用いた解析を同時に行なう2重照射がおこなわれる
ようになった。近年、TIARAに設置された3種類のイオンを同時に照射できるトリ
プルイオン照射施設は、こうした用途を目的にした世界的にもユニークな加速器
施設である。
各種ケーブル等の絶縁材などの寿命を予測するために、電子線加速器を使った
有機材料等に対する照射損傷試験が行なわれた。その後、高分子架橋など放射線
3−11
化学的研究も行なわれ、現在では耐熱性電線被覆材やラジアルタイヤの生産技術
として実用化されている。
強い中性子場や高温、高圧水等の極限環境に晒される原子炉構造材料の照射応
力腐食割れ(IASCC)は、原子力研究開発の大きな課題である。また、原子炉制御
用ケーブル等の照射劣化の評価は、原子力施設の安全性や信頼性を担保する上で
極めて重要であり、原子炉の長期利用が想定されることを踏まえると、照射劣化
に伴う材料特性変化の研究や新たな材料の開発が必要である。この分野の最近の
動向として注目されるのは、これまでの中性子重照射と照射後試験といった研究
と合わせて、よりミクロな材料の変化や損傷を研究するといった手法が盛んにな
っており、イオン注入、放射光、陽電子など加速器からの制御された放射線が積
極的に使われるようになってきていることである。
(7)加速器を利用した新たな原子力システム開発
従来からの加速器利用に加えて、近年、先導的な加速器利用として、加速器と
原子炉等を組み合わせたハイブリッド技術が研究されている。代表的なハイブリ
ッド技術は、超ウラン元素(TRU) などの長寿命核種の核変換を行うために、未
臨界炉システムと大電流陽子加速器を組み合わせた加速器駆動システム(ADS)
である。大強度陽子加速器(J-PARC) プロジェクトでも計画されているが、高レ
ベル廃棄物処理技術として、ハイブリッドシステムの研究開発が欧州を中心に盛
んに行われていて、原子力利用にブレークスルーを生み出すことが期待されてい
る。
核変換システム技術の開発には、高エネルギー陽子、中性子による核破砕反応
及び反応生成物に関する物理データ測定などの基礎研究をはじめ、中性子工学、
耐放射線材料の開発など、付随的に加速器を利用した新たな研究が必要となり、
このための加速器利用が今後、益々重要となるものと考えられる。
トカマク型核融合炉の加熱装置である中性粒子入射装置も一種のハイブリッド
装置と見なすことができるが、原子力技術としての加速器は、大出力、大電流と
いった要請に対応できることが最大の課題である。
(8)原子力技術としての加速器開発
前節で述べたように、加速器技術が原子力利用のブレークスルーを生み出すこ
3−12
とが期待されており、このための加速器技術の開発が行われている。
例えば、核変換のためには10mA 級の大電流連続高周波陽子加速器が必要とされ、
超伝導加速空洞や大電流イオン源の開発、大出力高周波源の開発が必然となる。
また、トカマク型核融合炉の加熱装置としての大電流重陽子加速器やエネルギー
回収型超伝導電子リニアックの開発など加速器の開発も着実に進んでいる。
こうした先端的な加速器技術は、原子力への利用という範囲にとどまらず、他
の広範な加速器技術に対しても先導的な役割も担うものである。
3.4
医療への展開
(1)加速器の医学利用
サイクロトロンを発明したローレンス (E.O.Lawrence) は、放射性同位元素
(RI) の製造と医学への応用が、加速器の普及に重要であると考えていた。わが
国でも初めてサイクロトロンを建設した理研仁科研究室には戦後我が国の放射
線医学の中心となる人々が集っていて、トレーサーの製造と利用や中性子の生物
照射が行なわれていた。
1950 年代に加速器技術が急速に進歩すると、がん治療に使われていたコバルト
のガンマ線照射に代わって電子線形加速器が用いられるようになった。また、サ
イクロトロンで作られた短寿命 RI がトレーサーとして使われ始め、1952 年に完
成した理研の第 3 号サイクロトロンは、ナトリウム-24 など短寿命 RI を製造して
利用者に提供していた。
現在、医療における加速器の利用は多岐に亘っている。日本人死亡率の第 1 位
を占めている悪性新生物による病気、いわゆるがんの死亡率は全体の約 3 分の 1
を占め、これに対する療法としての一つである放射線療法においては、そのほと
んどが加速器を利用している。
X 線やガンマ線など電磁放射線においては、外照射装置のコバルトや小線源治
療としてのイリジュウムなどを除いて、殆どの放射線治療は X 線を用いており、
その発生装置は電子リニアックである。現在日本では、公共病院、個人病院を合
わせて 700 台以上の電子加速器がX線治療に使用されている。エネルギー範囲は
6∼20MeV に亘るが、近年はより高いエネルギーの加速器が増えてきている。
診断においては、SPECT(Single Photon Emission Computer Tomography)用
3−13
あるいは PET(Positron Emission Tomography)用の放射性同位元素を作る為に、
医療専用の小型サイクロトロン(主に 10∼20MeV の陽子及び重陽子加速)が製作
され商用化されて久しく、その数は既に 70 台近くになっている。特に PET 施設
の数は急速に増加している。
(2)粒子線治療
これらにも増して、近年の医療に対する加速器の使用で特筆すべきことは、粒
子線治療法の開発とその普及への動きである。これには、陽子線及び重粒子線(今
のところ炭素線)の2種類が用いられている。 両者とも、治療法の研究開発に
おいて日本の果した歴史的役割は非常に大きく、また現状における進展状況も、
世界的に断然他をリードしている。これらの加速器は粒子ががん腫瘍部分に到達
する為に、陽子の場合約 200MeV、炭素の場合核子あたり 300∼400MeV という医療
用としては相当高いビームエネルギーが要求され、大型の装置になっている。
1973 年に放射線医学総合研究所(放医研)に大型サイクロトロンが設置され、
短寿命 RI の利用とともに高速中性子線を用いたガン治療の研究が始まり、やが
て次に述べる重粒子線治療法の研究へと発展していった。陽子線治療は、筑波大
学が高エネルギー研究所のブースターシンクロトロンに医療照射装置を付置し、
1983 年から国内で初の本格的陽子線治療を開始した。以来、世界初の試みとして
肝臓、食道などを中心とした深部がんを対象にして、2000 年までに計 700 人を治
療した。また、患者の呼吸と同期して照射する治療法を開発している。これらの
実績をもとに、専用の陽子線治療施設を新たに建設し、この施設の運用が 2002
年の秋から始まっている。一方、千葉県柏市にある国立がんセンター東病院は、
厚生労働省の国立病院としては最初の陽子線治療施設で、ベルギーと日本が共同
で開発した 250MeV の陽子サイクロトロンを用いて、回転ガントリー2台で 1998
年より治療を開始している。一方、福井県は若狭湾エネルギー研究センターを設
立して地域の産業振興を目的とした静電加速器を建設していたが、それを入射器
にして新たにシンクロトロンを建設して、2003 年より陽子線による患者治療研究
を開始した。また、静岡県は県立静岡がんセンターの開設に伴い、陽子線治療施
設を建設し、2003 年秋から患者治療を開始した。
3−14
(3)重粒子線治療
重粒子線治療は、放医研が世界初の医学専用重粒子加速器施設(HIMAC)を建
設して始まった。1994 年から炭素線による本格的臨床試験治療を開始して、現在
まで 9 年間に身体の各部位に亘って約 1500 人の治療を実施している。なお、HIMAC
については、のちの 4.5 節でも詳しく述べている。
放医研の治療開始後、兵庫県が県立粒子線医療センターを建設した。これは重
粒子線と陽子線が利用可能で、両者の比較検討を目的としている。加速器の構成
は重イオン線形加速器を入射器とし、シンクロトロン一台で加速する HIMAC とほ
とんど同じであるが、炭素の最高エネルギーが 320 MeV/核子で全体の規模は
HIMAC の約 2/3 である。陽子線用に回転ガントリーが 2 台用意され、2001 年陽子
線、2002 年炭素線による治療を開始した。
以上のように、現在、日本では医療専用として建設された本格的粒子線治療施
設(陽子線および炭素線)は 5 カ所にのぼり、併用施設 1 カ所を含めると計 6 カ
所が稼動していて、世界的にみて他国より数段進んだ体制となっている。
(4)海外の粒子線治療
外国の陽子線治療施設には既存の原子核物理研究用陽子加速器を使った施設
が多いが、大部分は陽子エネルギーが低いので、大半は欧米人に多い眼球メラノ
ーマ専用の施設である。一方、治療専用施設としてはロマ・リンダ大学(カリフ
ォルニア)と北東陽子線治療施設(ボストン)の 2 施設がある。前者は 1990 年
より稼働しているが、患者の半数が前立腺患者である。後者は建設・調整が大幅
に遅れ、2002 年より稼働した。このほか、放医研の実績を参考にして、1997 年
からドイツ重イオン研究所 (GSI) が既存の加速器施設の一部で照射治療を開始
した。その後、炭素線治療の実績(頭頸部症例、年間 20∼30 人)を基礎として、
本年よりハイデルベルグに欧米初の炭素線治療施設の建設が認められた。 また、
アメリカでは最近、テキサス州のアンダーソン病院で陽子線治療施設の建設が決
まった。
(5)粒子線治療の普及に向けて
以上から分かるように、重粒子線治療の分野では日本は少なくとも 10 年以上
に亘って世界を大きくリードしている。陽子線を含めた治療実績は世界でも突出
3−15
していて粒子線治療が治癒効果に極めて優れた、また患者の「生活の質」(クオ
リティオブライフ:QOL)の高い治療法であることが明らかになっている。がん患
者の発生数や死亡率の高さを考えると、この治療法をできるだけ広く普及させ、
がんの恐怖から逃れたいと言う国民の望みに応えていくことが必要である。国立
がんセンターの陽子線治療が国より「高度先進医療」の認定を受けて、新しいシ
ステムでの治療体制で進められている。放医研の重粒子線治療施設も 2003 年 11
月に国から高度先進医療の適用施設と認定された。
今後、粒子線治療法が全国に普及されていくことが望ましい。しかし、そのた
めの最大の難点は、施設が大規模になり必然的に高コストになることである。
HIMAC は重粒子線治療の基礎的研究開発を目的として建設されたので、アルゴン
までのイオン種を広いエネルギー範囲に亘って加速できるように設計されて大
型になっている。粒子線治療を普及させる為にはハードウェアとソフトウェアの
両面での更なる技術開発が必要である。
3.5
産業基盤技術開発と工業利用
(1)産業界の加速器利用
既に述べたように、加速器は科学技術の先端的基盤研究施設として、産業界で
も広く使われている。しかし現在我が国では、科学技術の振興による産業力の強
化が求められていて、加速器利用においても、より強力なインパクトを産業技術
に与えることができるかどうかが厳しく問われている。そこで従来の方式を延長
した産学協力や技術移転を超えて、産学共同研究開発や産業界による研究開発成
果の利用促進に新しい仕組みを創りだすことが必要である。例えば、加速器科学
の応用では、民間、とくに、広く産業・地域の活性化につながるような、地域産
業や中小企業による新しい利用法の開発やその普及を図ることが必要である。ま
た、研究成果の具体的な技術移転に関しては、既存の枠にとらわれない技術移転
システムを効果的に構築するとともに、知的所有権やさまざまなノウハウを含む
成果活用方法にも革新的整備が不可欠である。
(2)加速器の工業利用
産業界による加速器の工業利用は 1960 年代後半から 1970 年にかけて始まった。
3−16
わが国でも既にイオン注入の基礎研究が始まっており、その動きが産業界にまで
広がったのがこの時期である。現在産業界で最もよく使われているイオン加速器
は、エネルギーが数 10keV から数 MeV までの直流型加速器(コッククロフトウォ
ルトン加速器など)であるが、1970−80 年代になると、半導体への不純物導入を
図るイオン注入技術が急速に普及した。現在では金属表面の改質などへも用途が
広がっているほか、後方散乱法 (RBS) や PIXE 法などの分析技術が進歩していて、
企業による分析サービスに用いられている。なお、半導体産業では電子ビーム露
光装置も使われている。
一方、電子リニアックを用いた放射線化学の研究が実用化されている。高分子
の架橋やキュアリングを行なって、電線被覆材やタイヤを高質化するのに電子リ
ニアックが利用されているほか、最近では滅菌や排煙処理にも使われ始めている。
また、大規模非破壊検査に用いる移動型電子リニアックも実用化され、広く使わ
れている。
工業利用とは異なるが、最近短寿命 RI の利用が増加していて、市販する短寿命
RI の生産専用のサイクロトロンが専門企業に設置されている。
(3)産業技術開発と加速器
企業における研究開発にも加速器が利用されている。実用化されている加速器
利用では、同時に開発研究が進められている場合が多いので、イオン注入や電子
は、ここでは除外する。
産業界の利用が最も多いのは放射光で、1980 年代に高エネルギー物理学研究所
(当時 KEK) に放射光実験施設フォトンファクトリー (PF) が建設されると、我
が国の主要な半導体企業と製鉄企業がそれぞれ占有的に使用するビームライン
を建設した。また、電総研(当時)の小型蓄積リングを始めとして、小型放射光
施設の開発も進み、4 企業が社内に専用の小型放射光施設を設置した。さらに電
総研(当時)の技術を基に、半導体企業のコンソーシアムが、放射光リソグラフ
ィーを主目的とした放射光施設 SORTEC を建設した。当時放射光リソグラフィー
は次世代集積回路の主要技術と看做され、我が国でも活発に研究が行われたが、
短波長レーザーなど有望な代替技術の登場により実用には至らなかった。
最近、生命科学分野の企業による放射光利用が急速に増えている。国のプロジ
ェクト「タンパク 3000」では主要な解析手段に指定されて、ゲノム解析で明らか
3−17
になった有用蛋白質の構造を解析して創薬への応用を図るための不可欠の手法
になっているためである。また、環境保全と結びついた触媒、電池材料等の開発
研究やマイクロ/ナノデバイスの開発でも重要な解析手法になっていて、関連企
業の利用が増えてきている。そのほか、放射光リソグラフィーを発展させ、十分
深いところまで加工できる微細加工技術 LIGA プロセスが開発され、利用範囲が
広がっている。
(4)産業界による放射光の利用の促進
放射光利用技術としては小型放射光施設を現場で建設・利用する場合と、大型
共同利用施設を利用する場合がある。小型放射光施設開発は 1980-90 年代に我が
国で特に活発化し、日本は世界で中小放射光開発・利用の最も盛んな国になった
が、この分野の技術開発では電総研(当時)の果たした役割は大きい。現在、大
学・公的研究機関・産業界には技術が蓄積されており、今後もこれらの技術を有
効に活用すべきである。また大型先端研究施設 SPring-8 は、高輝度放射光の産
官学の共同利用施設であり、最近では産業利用が活発化しており、自社での研究
開発の課題解決へ利用したいという要望が強い。今後の施策としては、産業応用
優先のビームラインの増加、利用機会の増大、技術相談・技術支援・指導の充実
などが課題である。
今後、J-PARC を中心に中性子ビームの産業利用も急速に進展することが予想さ
れる。中性子ビーム利用においても、放射光施設の抱える諸課題と同種の問題が
予測されるので、放射光施設と共に解決していく姿勢が必要であろう。
3.6
極短パルス・超高強度レーザー技術の開発と応用
1960 年に発明されたレーザーは、最初の数年間で飛躍的に進歩してビーム 1cm2
当りギガワットの出力密度に至るまでになった。しかしその後はレーザー媒質中
での非線形効果による技術的困難を克服することが出来ず、出力密度の向上は頭
打ちになっていた。しかし、90 年代に入るとレーザーの技術革新が急速に進んだ
ことと合わせて産業、医療、原子力、加速器等の広い分野での様々な応用が拡が
り、特に、近年はペタワットを超える高出力化の可能性も視野に入ってきたこと
もあり、レーザー利用技術の新たな展開が期待されるようになってきた。高強度
3−18
レーザーは21世紀の科学技術を支える重要な先端的基盤研究装置の一つであ
るばかりでなく、加速器技術や原子力技術に革新をもたらす技術としての期待も
大きい。ここでは、高強度レーザー光源の技術開発及び応用の現状と今後を展望
する。
(1)
レーザー光源の開発
(a)
短パルス高強度レーザー技術
従来、固体レーザーの出力を上げるためには装置が大きくなってしまうという
困難があったが、1985 年 G.A.Mourou(ミシガン大学)らのチャープパルス増幅
(chirped pulse amplification; CPA) の発明が、その後の高出力固体レーザー
の開発に大きな転換をもたらした。CPA 技術と高出力固体レーザー素子の開発に
よって、1990 年代に卓上型レーザーの出力は 103∼105 倍に飛躍的に増大した。現
在も、固体レーザーの高出力化は進展しており、これまでのレーザーの限界を越
えつつある。すなわち、本固体レーザーは、小型のレーザー素子を使うことで小
型化と低価格化を図ることができ、加えて、冷却が容易であることから高繰返し
化が可能であるという特徴を有している。たとえば、チタンサファイヤといった
広帯域レーザー結晶の開発が進んだこともあり、フェムト秒のパルス幅を有する
極短パルスも可能になり、ピーク出力がペタワットという著しい高出力化も実現
されつつある。
ビ ー ム
cm2
1
当 た り のパ
ワ
hν
Pth =
∆ν g
σ
“Mourou limit”( 突
破 可
能
:
Tajima/Mourou, 2002)
第 二
革 命 期
の
最 中
第 3−1 図: レーザーの出力の展開
(CPA技術の発明により、現在は第 2 次革命期の只中にある)
3−19
さらに、最近では半導体励起レーザーの開発が急速の進歩をみせている。半導
体レーザーは、電気−光の量子変換効率が高く(理論値では90%以上のもあり、
実際でも数十%程度)、小型で高フルエンス(単位面積当たりのエネルギー)の
レーザー光が得られ、発振の繰返し数も高いという特徴がある。今後は、半導体
レーザーを励起レーザーとして固体レーザーに入力する方式が短パルス高出力
レーザー開発の主流となることが予想され、これにより、現在の固体レーザーの
低いエネルギー変換効率が格段に上がるものと予測される。
レーザー光源の開発と合わせて、最近、補正光学(アダプティウ゛光学)技術
などによる光波面のミクロン以下の精密な補正や単一レーザーモードでの集光
などの光学技術も急速に進歩し、kHz の高繰返しでミクロン以下の空間、フェム
ト秒以下の時間精度で制御できるレーザー制御技術が台頭して来ている。これら
の技術はこれまで不可能とされてきた材料の極微細加工等の応用の可能性を拓
くものである。同時に、高出力レーザーを有効に利用するためには、極めてクリ
ーンな単一パルスを生成する必要があり、プレパルス制御と一般に言われている
高速の光スイッチ技術の展開により 6 桁とか 8 桁落ちのプレパルスパワーが更に
何桁も落とせる技術が望まれている。
(b) 自由電子レーザー
極短パルス・超高強度レーザーのもう一つは自由電子レーザー (FEL) である。
これはレーザー媒質として固体や気体/プラズマの代わりに、真空中の電子制御
用周期磁界(アンジュレータ)を用いている。当初は、ミラーと周期磁界で作る
光共振器を用いたおり、1980 年代に最初のレーザー発振に成功した。これは放射
光蓄積リングにアンジュレータと光の上流/下流に設置したミラーを組み合わ
せた光共振器を用いていて、可視光から紫外線領域の分光実験に用いられた。わ
が国では分子研、電総研(当時)で成功している。最近、原研が超伝導伝電子リ
ニアックを使って光共振器型の赤外領域 FEL を開発し、世界最高輝度を達成した。
FEL では、エネルギーは電子ビームに貯えられるためエネルギー流量(フルエン
ス)は極めて高い。(一方固体レーザーのエネルギーは固体に貯えられているの
で、エネルギー密度が極めて高くコンパクトに出来る)。
FEL は、RF 加速器による高いエネルギー変換効率に支えられているが、Tigner
が提唱したように電子エネルギーの RF 場への回収を行うことにより、一層の高
3−20
効率化が可能である。すでに、原研やジェファソン研では高いエネルギー回収に
成功している。
短波長化のためには、電子の高エネルギー化やエミッタンス低下が必要になる。
最近、電子リニアックから極短パルス・高ピーク強度の電子ビームを取り出して
アンジュレータに入射し、レーザー発振・増幅を行う方法が開発されている。こ
れは極短パルス・高ピーク強度の電子ビームがアンジュレータを通過する際に、
上流で発生した光が下流側の電子で増幅されてレーザー発振をおこすもので、自
己増幅・自発放射(SASE)レーザーと呼ばれている。アメリカ及びドイツでは 100
∼80 ナノメートルの波長領域で発振に成功しており、わが国では理研が 10 ナノ
メートル近辺の波長領域で SASE FEL を建設している。
今後の自由電子レーザーの課題としては以下のようなものが挙げられる。現在
の自由電子レーザーは加速器を基にしていることから、その規模はどうしても大
型になる。自由電子レーザーの発振は、電子ビームのエミッタンスによって決ま
るので、波長が短くなればなるほど、エミッタンスを小さくせねばならない。さ
らに、高強度場に耐えるアンジュレータの開発などが課題である。一方、FEL は
固体レーザーに比較してコヒーレンス性が低いという弱点があり、コヒーレンス
を良くするためには、低エミッタンスの電子ビーム生成の技術開発が重要である。
(2)レーザーの応用
(a)加速器技術への応用
レーザーカソードやビームのレーザー診断のような比較的小出力レーザーの
加速器への応用はかなり前から行われて来ているが、超高強度レーザー光は、物
質との相互作用において相対論的な力をもたらす。そのひとつの例として航跡場
粒子加速がある。高強度レーザーをプラズマ中に照射することによって生成する
航跡場による加速勾配は極めて大きく、理論的には、これまでの高周波加速方式
で放電による限界となっていた 100MeV/m を大きく超える 60GeV/m 程度の加速性
能も予測されている。
同時に、レーザーの波長が短く生成面積が小さいのでエミッタンスの極めて良
いビームを作り出すことが出来る。高強度レーザーによる相対論的な効果として、
イオン、電子、X 線などの高エネルギーの粒子や光子を発生させることもできる。
これらは、高輝度、高エネルギー、高コヒーレンス、極短パルス、低エミッタン
3−21
スといった、従来の加速器からの放射線にない特徴を持っており、原子力を始め
とするさまざまな分野で新しい応用を生み出すものとして期待される。
また、加速器技術と高強度レーザーのハイブリッド技術により、それぞれの技
術では到達出来なかった研究領域を開拓することが出来る。たとえば、SLAC の電
子線と高強度レーザーの結合でシュインガー場に肉薄したり、SPring-8 の 8 Gev
の蓄積リング電子線と紫外レーザーによって発生したコンプトンγ線(約 2 GeV)
を用いて最近、阪大、原研、JASRI の共同チームが 5 個のクオークからなる新粒
子を発見したのは、その典型である。
(b)
原子力技術への応用
これまで、レーザーによる同位体の分離、原子炉等の解体技術、レーザー核融
合など、多くのレーザーが原子力技術として利用されてきている。前述したよう
な高出力、極端パルス、高品質のレーザーは、原子力技術に革新をもたらすこと
が期待されるが、具体的な利用はこれからである。
第 3−1 表に示すように、これまでに原子力分野に応用された代表例の一つは、
慣性核融合の駆動源としての大出力レーザー(ナノ秒)の利用であり、我が国で
は阪大レーザー研を中心に電通大、産総研などで研究開発が進められている。最
近爆縮用のレーザーから切り離し、加熱用のエネルギー源としてより短パルス
(ピコ秒)のレーザーを爆縮時に照射し核融合燃料の点火に使う方式が発展し、
特に阪大の開発したターゲット(ペレットと呼ばれる)の方式は注目されている。
こうしたレーザーは爆縮用レーザーのエネルギーのごく一部とはいえ、大きなエ
ネルギー(10kJ 以上)をピコ秒の短時間に照射することが必要であり、効率の向
上が課題である。現在、大出力の炭酸ガスレーザーや YAG レーザーが、原子炉な
どの解体に開発されているが、今後、より効率の高い半導体レーザーや FEL がよ
り広く原子力技術に利用されるものと考えられる。
また、原子力の燃料、材料や廃棄物の物質分離のためのレーザー利用も想定さ
れる。レーザーによるウラン分離は効率や経済性の点を克服できず不成功に終わ
ったが、原研、分子研、東大、東北大などでより短パルス(フェムト秒)のレー
ザーを用いた「量子制御」という方法で、よりエネルギー効率の高い、より選択
率の高い方法も研究されており、従来の問題を克服することが嘱望される。さら
に、短パルス(フェムト秒)レーザーによって、熱を与えずに材料を加工するこ
3−22
と(非熱加工)が可能であり、切断面は鋭利でしかも多量の切れ屑を出さないな
どの優れた特性を持つ。こうした特性を利用して、原子炉のシュラウド等の応力
腐食割れの原因になる表面応力層の除去など、画期的な応用も検討されている。
原子力へのレーザー利用のもう一つの重要な柱は、放射線利用への応用である。
表 3-1 で示されているように様々の研究所で研究がなされており、コンパクトな
高輝度の電子、陽子、X 線、ガンマ線、陽電子などの放射線源として、様々な利
用への挑戦が始まっている。小型の PET 源もその一つである。また、レーザー駆
動のコンパクト X 線レーザー技術も、最近は完全空間コヒーレントで高縮重のピ
コ秒 X 線フォトンの発生に成功している。レーザー加速を受けたフェムト秒で高
輝度の電子線を使い、フェムト秒の高輝度 X 線も開発されつつある。こうした電
子や陽子は事実上点光源で極短パルスであるという特性を持つので、ラジオグラ
フィーにも応用される。たとえば、核融合爆縮ターゲットの瞬間像を陽子線ラジ
オグラフィーが電場の構造も含め捉えている。電子線とレーザーの掛け合せによ
るガンマ線を使った光核反応の断面積の測定も行われ、希少核の中性子反応の逆
過程として中性子断面積の観測にも寄与している(産総研、原研、阪大、甲南大
など)。
高強度・短パルスレーザーの出現は、広汎な科学技術に新しい可能性を開き新
領域や従来の領域の新たな展開に大きな刺激となっている。レーザー技術の加速
器技術への導入として小型加速器開発へと発展しつつあるのが一例である。加え
て、物質科学や生物科学への利用など広い基盤研究のツールとしても利用されつ
つある。今後、レーザー技術はペタワットからエクサワットといった高パワー化
を辿るものと考えられるが、一方、レーザーのエネルギー効率や繰返し数の向上
と言った課題が横たわっており、これらの改良のための開発が急務である。
このためには、半導体レーザーや FEL 技術の開発が重要である。半導体レーザ
ー技術は、レーザー技術と半導体技術の組合わさった極めて重要な将来技術であ
る。またレーザー利用を進展させるためには、レーザーの品質の制御が重要であ
り、その研究開発も光源の開発と同様に極めて重要である。
3−23
第3−1表
レーザー小型加速器
役割
研究課題
粒子加速
線種/波長
電子
原子力への応用
量子制御
非熱加工
性能
100TW, 20fs
主な実験手法
プラズマカソード
12TW, 50fs
プラズマカソード
100TW, 20fs
航跡場加速
2.5J, 25fs,
100TW, 10Hz
0.5J, 45fs,
1.5x1019W/cm2
100TW, 12fs
航跡場加速
イオン加速
航跡場加速
航跡場加速
研究内容
シングルパルス
方式 E>200MeV
最大加速エネル
ギー40MeV
電子を 300MeV
まで加速
超高速の生物、分
子反応
PET
レーザー加速器
レーザー電子源
研究機関
日本原子力研究所
日本原子力研究所
状態
電子発生
実験
電子発生
実験
加速実験
LOA(仏)
加速実験
LBNL(米)
加速実験
University of
Michigan(米)
大阪大学
電子発生
実験
加速実験
電力中央研究所
加速実験
宇都宮大学
計画中
イオン発
生実験
イオン発
生実験
東京大学
電子、陽子
Nd:glass レ
ーザー
40TW
航跡場加速
陽子
Ti:Sapphire
レーザー
20TW, 1J,
50fs
1TW, 100fs
航跡場加速
航跡場加速
電子 48MeV、プ
ロトン 7MeV へ
加速
10MeV 陽子の生
成
陽子加速器
1TW, 50mJ,
50fs
10TW, 50fs
レーザーイオン源
極薄膜照射
広島大学
イオン加速
癌治療
2kJ, 12beam,
0.1~10ns,
1.053µm
30J,
2beam,
1.053µm
~PW,
800J,
0.8ps, 0.53µm
1.8MJ,
1.053µm
>1PW, 30kJ,
~100fs,
1.053µm
100TW,
2.8kJ,
1.053µm
100TW, 20fs
レーザー爆縮
高密度プラズマ
物理研究
日本原子力研究所
/放射線医学研究
所
大阪大学
239nm
選択励起
165MeV,
2.5kW,
0.23~100µm
100TW, 20fs,
800nm
選択励起
~10kW 連続,
20µm
超電導ライナッ
ク・エネルギー回
収法
イオン
エネルギ
ー利用
装置の種類
Ti:Sapphire
レーザー
レーザーの応用
高強度レ
ーザー
Ti:Sapphire
レーザー
Nd:glass レ
ーザー
γ線
Ti:Sapphire
レーザー
紫外光
紫外∼遠
赤外
自由電子レ
ーザー
自由電子レ
ーザー
極短パル
ス
Ti:Sapphire
レーザー
遠赤外光
ERL-FEL
近赤外お
よび紫外
爆縮実験
爆縮実験
高速点火
レーザー核融合
爆縮実験
LLNL(米)
建設中
Rutherford
Appleton
Laboratory(英)
日本原子力研究所
所
増力中
高速点火
逆コンプトン散乱
非熱加工
10kW
0.3--10µm
3−24
量子制御による
物質分離
γ線による原子
核の研究
物質分離
物質分離
汚染物質解体
創薬
原子炉解体
耐放射線材料の
開発
原子炉解体
物質分離
汚染物質解体
光核反応
物質制御
非熱加工
分子科学研究所
大阪大学
基礎研究
実験計画
中
利用実験
日本原子力研究所
加工実証
実験
日本原子力研究所
建設中
Jefferson
Laboratory(米)
建設中
役割
研究課題
放射線利
用
線種/波長
装置の種類
X 線、γ線、 Ti:Sapphire
レーザー
高エネル
ギーイオ
ン
コヒーレ
ントX線、
極短パル
スX線
性能
300mJ, 140fs,
10Hz
高エネル
ギー粒子、
X線
極短パル
ス
陽子
850TW, 20fs
高エネル
ギー粒子、
高エネル
ギーX線
GeV
photon
beam
コヒーレ
ント軟 X 線
10TW, 10Hz
クーロン爆発
アルゴンレ
ーザー
350nm
逆コンプトン散乱
X 線レーザー
~µJ, ~ps,
8.8nm
~µJ, ~ps,
12nm
~µJ, ~ps,
14nm
1GeV,
0.1~3.6nm
230MeV,
80nm
1GeV, 6nm
(目標 0.1nm)
217MeV,
530nm(目標
51nm)
7GeV, 100mA,
100fs, 1.3GHz
100fs,
106~108photon
s/pulse
過渡衝突励起
極短パル
スX線
紫外光
γ線
200mJ, 35fs,
800nm
22TW, 10Hz
10TW, 100fs
~PW
X 線 FEL
極短パル
スX線
主な実験手法
超高強度場と物質
の相互作用
ERL-LS
自由電子レ
ーザー
真空アンジュレー
ター
研究機関
大阪大学
状態
発生実験
コヒーレント軟
X 線源開発・ア
ト秒パルス発生
アト秒パルス光
発生、高次高調波
発生
高エネルギー粒
子、極短パルス X
線発生
高強度場物理
医療応用
医療応用
PET
医療応用
プロトン加速
理化学研究所
発生実験
東京大学
実験中
日本原子力研究所
実験計画
中
University of
Michigan(米)
LOA(仏)
利用実験
京都大学
超電導ライナック
大阪大学、甲南大
基礎研究
学、原研、JASRI、
他
日本原子力研究所
利用実験
LLNL(米)
利用実験
干渉計測
Paris-Sud
University
SCSS/Spring-8
利用実験
生体観察
高輝度・光時間
分解放射光源の
提供
X 線研究
超高速プロセス
計測、構造生物学
低損失誘電体多層
膜ミラー
逆コンプトン散乱
赤外自由電子レー
ザーの高度化
3−25
装置開発
中
粒子発生
実験・利
用実験
クォーク核分光、
核物理、5 クォー
ク重粒子の発見
短波長での極微
細観察
干渉計測
DESSY(独)
逆コンプトン散乱
500MeV,
595~198nm
500MeV,
1~40MeV
1GeV,
193~400nm
~W, 4~16µm,
300~1000µm
研究内容
核励起、原子核振
動観察
同位体分離
遠赤外レーザー
と電子衝突によ
るγ線発生
表面科学
原子核物理、光核
反応、γ線 CT
光核反応
固体物理
物性研究
装置開発
中
増力中
建設中
Argonne National
Laboratory
増力中
Cornell
University(米)
BNL(米)
装置開発
計画中
装置開発
計画中
高輝度光科学財団
基礎研究
産業技術総合研究
所
実験中
実験中
Duke University
(米)
東京理科大学
実験中
装置開発
中
第4章 大型加速器計画のフォローアップ
4.1
フォローアップの必要性
平成 12 年に策定された『原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画』(以
下、「原子力長計」という)では、大強度陽子加速器(J-PARC)は原子力委員会、
学術審議会共催で行った評価を踏まえ適切に推進すること、RI ビーム加速器
(RIBF)は着実に建設を進めること、ならびに、一般に大型加速器計画は提案・評
価後、遅滞なく評価結果を反映させることが重要であると述べられている。
また、原子力長計の策定に当たって長期計画策定会議第四分科会が作成した報
告書『未来を拓く先端的研究開発』第3章「未踏領域への挑戦と持続可能な発展」
のなかで、加速器分野の研究開発は未踏領域への挑戦として位置付け、最先端科
学の一つとして、我が国の知的フロンティアの開拓に貢献すると期待されている。
現在わが国で建設が進められている大型加速器施設「大強度陽子加速器施設
(J-PARC)」、
「RI ビーム加速器施設(RIBF)」および建設後順調に稼動して成果を
挙げている「大型放射光施設(SPring-8)」、「重粒子線治療施設(HIMAC)」の 4
施設は原子力長期計画に基づいて建設された先端的な研究施設である。J-PARC と
RIBF については建設開始後それぞれ 3 年および 6 年以上を過ぎており、SPring-8
は供用開始後既に 6 年、HIMAC は供用開始後既に 9 年を経過している。
そこでこれら 4 計画について現状を調べ、当初計画との対比において計画の進
行状況あるいは達成度、成果を検証することは、原子力長期計画に対して貴重な
資料を提供することになる。
フォローアップにおいては以下の点に留意する。
①4計画は 400 億円から1、000 億円以上の巨費を投じるあるいは投じた計画であ
り、完成後は世界最先端の研究施設として機能することが期待されている。し
たがって最も高いインパクトが得られるように計画が最適化されていること。
②巨額の資金を投入して建設する施設は、最先端加速器として長期間第一線で活
躍できるように、将来の発展性を考えて設計し運用していること。また、運営
段階に入った後は、世界トップの性能を実現する努力が行われていること。
③加速器の「生産性」をあげることを重視すべきであり、このため運用の効率化
に努めるとともにトップクラスの成果を挙げるように、インハウススタッフの
4−1
強化や課題選定方式の改革に取り組んでいること。
4.2
大強度陽子加速器(J-PARC)
(1)計画の概要
大強度陽子加速器(J-PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)
は世界最大級の強度を有する陽子加速器であり、平成13年度から7年計画で現在
建設中である。計画は国(原子力委員会と学術審議会加速器科学部会(当時)の共
催)の事前評価をうけてスタートした大型加速器計画である。高エネルギー加速
器研究機構(KEK)と日本原子力研究所(原研)の共同事業計画で、原研東海研
究所に建設されている。
物質・生命科学実験施設
原子核素粒子実験施設
核変換実験施設
ニュートリノ実験施設
リニアック
(330m)
3GeV シンクロトロン
(周長 350m )
50GeV シンクロトロン
(周長 1600m)
第 4−1 図 加速器施設
加速器システムは、入射器として0.4 GeVリニアック、出力1 MWの3 GeVシンク
ロトロン(中性子及びミュオン利用施設、物質・生命科学研究)と出力が0.75 MW
の50 GeVシンクロトロン(原子核・素粒子物理学研究施設及びニュートリノ実験)
で構成されている。大強度陽子ビームを原子核に照射し、そこから生成される二
次粒子(中性子、ミュオン、K中間子、ニュートリノなど)をビームとして用い、
4−2
物質科学、生命科学、原子核・素粒子物理学、核変換の基礎実験など広範な分野
の基礎的・応用的研究を行なう。現代科学技術にとって最も重要な基盤的研究施
設の一つである。
ISIS
FNAL
GSI
大強度陽子
加速器
CERN
SNS
ニュートリノにおけるセンター
中性子におけるセンター
•
•
•
反陽子
(+ K 中間子? )
物質・生命科学では、中性子等を用いる世界三大計画の一つ
原子核・素粒子物理では、K中間子計画で世界唯一。ニュートリ
ノ計画は世界三大計画の一つ
加速器駆動核変換の計画は世界のトップランナー
第 4−2 図 3分野のトップをめざす国際研究センター
(2)日本に建設する必要性
世界的に見ると、中性子科学では、近年、陽子加速器を用いたパルス中性子に
よる研究が台頭してきており競争も激しい。中性子のユーザーは大学の研究者の
みならず産業界にも多く、すでに1千人規模に達していることから J-PARC が完
成すると数千人の研究者が利用すると見込まれている。このような状況下、世界
的には、OECD Mega Science Forum において北米圏・欧州圏・アジア圏に最低一
つずつの施設が必要であると結論している。現在、世界的に最も強力なパルス中
性子源は英国のラザフォード研に存在する ISIS と呼ばれる加速器であるが、米
国では、その10倍の強度を持つ SNS (Spallation Neutron Source) と呼ばれる
陽子加速器を建設中である (2006年完成予定)。日本のJ-PARC計画はこの SNS 計
4−3
画と競合関係にある。
J-PARC における原子核素粒子の科学では、世界的に「国際競争」と「国際分
担」の二つのメカニズムが共存する。J-PARC において、国際分担の役目を担っ
ているのは、K中間子ビームを用いる科学であり、世界的には「Kaon Factory」
と呼ばれている。一方、原子核素粒子の領域において世界的な「国際競争」に直
面しているのはニュートリノ実験研究である。これまでは、スーパーカミオカン
デによる宇宙や大気圏からのニュートリノの観測実験により、日本はニュートリ
ノ研究における世界のリーダーシップを確立してきた。J-PARCにおける実験は、
日本のこの分野における先導的な役割を引き続き果たしていく上でも、重要な位
置を占めており、平成15年12月の科学技術・学術審議会のもとで実施された中間
評価においても、一刻も早くニュートリノ実験施設の建設に着手することが重要
であるとされている。
・ 3 GeV による物質生命科学
・ 50 GeV による原子核素粒子科学
・ 0.6 GeV による核変換開発研究
第 4−3 図 プロジェクトの3本柱
4−4
(3)施設建設の現状と今後の課題
J-PARCの建設は平成13年度に始まり、今年で建設3年目を迎える。加速器機器
や実験室関連の機器の建設や建屋工事も着々と進み、建設は概ね順調に進んでい
る。建設中に 3 GeV シンクロトロンの強化とそれに伴うリニアックエネルギ
ーの低減化という加速器の仕様変更が施され、
それにより結果的には 3 GeV シンクロトロンか
らの陽子出力の低下を余儀無くされたが、長期
的には中性子利用研究に影響が生じることを考
慮し、運用開始後に速やかにエネルギー回復に
ついての対策が図られることが望ましい。
また、前半3年間に交付された資金は全体の
1/3強であるが、本計画は基礎研究から応用研究
に至る幅広い分野を可能とする極めて意義が高
い計画であることから、計画通り施設の建設が
行えるよう着実に準備を進めていくことが望ま
しい。
さらに、施設完成後の実験開始に向けて、既に
中性子科学や原子核・素粒子科学の分野において、
第 4−4 図 建設状況
実験企画書が提案されており、それに基づくビーム
ライン配置等の検討も開始されているが、これらの準備を着実に進めていくことや、完成
後の運営体制についても十分な検討が望まれる。
(4)まとめ
J-PARC は大強度陽子で生成される二次粒子(中性子、ミュオン、K中間子、ニ
ュートリノなど)を用いて、生命科学、物質科学、原子核・素粒子物理学など広
範な分野の基礎的・応用的研究を行なう現代科学技術にとって最も重要な基盤的
研究施設である。平成 13 年度からスタートし平成 19 年度に完成する予定である。
国際的にも J-PARC は世界のセンターとして、国際分担と国際競争の両面から注
目されており、J-PARC 計画を着実に推進させることが望ましい。
また、施設完成後の実験に向けての準備や運営体制については、今後引き続き
検討されることが望まれる。
4−5
建設スケジュール
平13
平14
平15
平16
平17
平18
建屋建設
リニアック
リニアック
建屋建設
建屋建設
機器建設
ビーム
テスト
建屋建設
物質・生命科
物質生命実験室
学実験施設
ビーム
テスト
機器建設
建屋建設
原子核・素粒
原子核素粒子
子実験施設
実験室
平21
ビーム
テスト
機器建設
50 GeV
GeV
50
平20
ビーム
テスト
機器建設
GeV
33 GeV
平19
ビーム
テスト
機器建設
建屋建設
ニュートリノ
ニュートリノ
(申請中)
ビーム
テスト
機器建設
建設
基幹施設
基幹施設
遺跡調査
塩田遺跡
塩田遺跡
建設開始
現時点
ビーム
第 4−5 図 建設スケジュールとコミッショニング
4.3
RIビーム加速器(RIBF)
(1)計画の概要
理化学研究所(理研)が推進しているRIビームファクトリー(RIBF)は、水素
からウランまでの全元素の不安定原子核(RI)を世界最大の強度のビームとして
発生させ、それを利用して基礎から応用にわたる幅広い研究を行うものである。
第1期計画はRIビーム発生装置の整備を主体とし、平成7年度からの要素技
術開発にはじまり、平成9年度には全体の建屋基本設計、調査を始め、平成18
年度には第1期計画の施設の整備が終了する予定である。第2期計画は、ビーム
を使って研究をする施設の整備を行う予定であるが、第2期計画は、第1期計画
の進捗状況を踏まえ、その開始の是非を決定することにしている。
4−6
第 4−6 図 RI ビームファクトリー計画(第1期)
概念図
第1期計画では核子あたり
350MeVまで加速したウランにより
LINAC
RIビームを発生するほか、未知のRI
RRC
を創成する実験等を中心に、研究を
開始する予定で、実際にRIビームを
使った装置のポテンシャルを十分
Experiment
Building
Accelerator
Building
に発揮できる反応などの利用・応用
研究は、第2期計画の整備後に進め
る予定である。
第 4−7 図 RIBF 建設現場
4−7
第2期計画:第1期計画
の進捗状況を踏まえ、
計画始動の是非を決定
することとしている。
第 4−8 図 RI ビームファクトリー年次計画
理研の現サイクロトロン施設をはじめとして、世界のRIビーム施設においての
パイオニアによる研究は原子核物理学に大きな変化をもたらした。この変化は大
きく、原子核物理学のルネッサンスと言われている。RIビームファクトリーは、
完成すれば全元素のRIビームを最大の強度で得られることを利用して、原子核物
理学の新世代を世界的にリードする。これまでに知られていなかった多くの原子
核を作り出し、原子核の新しい様相を発見し、不安定核の研究により数多く見い
だされた核理論のほころびを修正し、新しい理論の構築をすることになろう。ま
た、不安定核の反応の研究は、これまで実験室での研究が不可能であった、宇宙
における元素合成の理解を大きく進めると期待される。20世紀の科学を開いた
放射線の発見へと人類を導いたウランが宇宙の発展の中でいつどのように作ら
れたかの問いに対してはじめて答えを導くことになる。
放射線の源であるRIの諸性質を解明することにより新しい原子力技術の開発
への貢献も期待される。例えば高速炉や加速器駆動型の原子炉では、比較的短寿
命な不安定核の崩壊熱や核反応が重要な役割を果たすと考えられるが、崩壊常数
4−8
や崩壊エネルギー、反応の確率などの研究も重要な課題である。
第1期計画では、現施設からのビームを、あらたに建設を進めている fRC, IRC,
SRC の3台のリングサイクロトロンに導き、その後、BigRIPS (RIビーム発生装
置)でRIビームを発生させる。加速器は平成18年度までにすべて完成する予定で、
RIビームの分離器であるBigRIPS もそれまでに1基完成する予定である。これら
の完成により、RIをつくってビームを発生することが可能となるので、この段階
で重要な研究は開始できる。
第2期計画では、そのRIビームの特徴を活かし、高度に利用する実験施設を建
設する予定であるが、更なる研究の開始には、これらの全体的な実験施設の完成
が重要である。
(2)世界の中での位置付け
RIビーム利用の研究は日本人が開拓し、理研で発展させてきた研究である。
また、RIBF計画は世界のトップを切って建設が進んでおり優位にある。このま
ま実験装置まで建設が進めば、世界で初めての研究が数多く可能である。
また、この計画は 1999 年の OECD Megascience Forum の原子核物理ワーキン
ググループのレポートで、世界の 3 地域のうちアジアを受け持つ役割を持って
重要な施設計画との位置づけを得ている。RIBF 計画の発足後、ドイツの重イオ
ン研究所(GSI)の高エネルギーRI ビーム計画、アメリカの大強度 RI ビーム計
画(RIA)が提案され、いずれも RIBF に 2∼3 年遅れて完成する予定である。こ
のように RI ビーム利用の研究は世界で開始されることになる。
(3)今後の展開と課題
本計画は、平成6年に実施した国際諮問委員会を経て、平成9年度から建屋の
基本設計、また、平成10年度からは超伝導リングサイクロトロン系等の建設に
入っているが、2つの課題がある。
第一点は、第1期計画終了時の実験装置の整備や運転経費などの資金計画の
策定が必要である。
第二点は、第2期計画は第1期計画の進行状況を見て判断することになってお
り、早急に国際諮問委員会、国の審議会などの外部評価を実施して、具体的な
実験計画を明らかにし、建設に移行できるよう準備を進めることが望ましい。
4−9
第 4−1 表 世界の主要 RI ビーム加速器計画
事 項主
加
速
器加
速
器
構
成 概
イオン源
実 験 施
設
念 図
R Iヒ ゙ ー
ム
(生 成 手 法 1 次 ビ ー
ム
RIビーム
発 生 装置
リングサイクロトロン
RRC
fRC
IRC
RIビーム発 生 装
イオン源 実 験 施
設
線 型 加速
器
G S I シンクロトロン
連
SRC
シンクロ
トロン
主 な
研
究
領
域
予
算
続
核 図 表大
拡
元 素 の 存 在 限第 1
重 い 元 証素 合 成 3 9
エ キ ゾ チ ッ ク
億 円
物 質 材 料 科 学
RIビーム
発 生 装置
ー
[ 高 エ ネ ルギ ーヒ ゙ ーム
] エ ネ ルギ
( 光 速の
[ 大
ル ス波
ほ ぼ
等 し い
強度 ビー
実 験 施
設
R I A線
型
加
速
器
イオン源
線 型 加速
器
ウ ラ ン
400M e V / 核
( 光 速の 7 %
2
13
1 0個 / 秒
連
現
状
設
続
施
第 1
設 整 備
費
の
8 0 % ま
で
予 算 化
波
核 図 表大
拡
重 イ オン
60% )
ウ ラ ン
元 素 の 存 在 限
ビーム
と
23000M e V / 核子
重 い 元 証素 合 成 9 0
度
に よ る ( 光 速 の9 9. 9 ビーム強
%)
エ キ ゾ究チ ッ ク
億 円
は
核 破 砕
反 1 11
物 質 材 料 科 学
0個 / 秒 全 施 設 も
と
応
反 粒 子 科 学 研
パ
規
模
強度 ビー
ウ ラ ン
350M e V /
( 光 速の 6 %
9
13
1 0個 / 秒
線 型 加速
器
超 伝
RI B
F
リングサイクロトロン
[ 大
R I ビ ーム
予 算 計画
は
認 め ら れ
た
が
予 算 化 時
期
は
未 定
設
計
実
施
中
NSACの 「2002Lon
Range Plan」 に おい
波
R & D
実施 中
注 )RI ヒ ゙ ー ム を 発 生 する た め の1 次 ヒ ゙ ー ム エネル キ ゙ ー は 、 光 速 の お よそ7 0 % が 必 要 で
(4)まとめ
本施設の主たる目的は、原子核物理学の研究であり、なかでも宇宙における元
素合成メカニズムの解明などを含む天体核物理学が主眼である。このような研究
開発の目的設定は適切である。本分野は、日本人研究者がパイオニア的な貢献を
した分野であるが世界における競争も激しい。特に、独国や米国において同種の
加速器の建設が提案されつつあり、先日発表された米国DOEの“20 year outlook”
ではRIA計画が今後の施設建設の中で非常に高い優先度で認定されている。RIビ
ームファクトリー計画が着実に推進され、平成18年度までにウラン加速によるRI
ビームが得られ、諸外国に対して優位性が保てるようにすることが望ましい。
4.4
大型放射光施設(SPring-8)
(1)施設の概要
SPring-8(= Super Photon ring 8GeV)計画は、原研と理研が協力して建設し
た国内外に開かれた共同利用施設で、当初予算で計上した建設費で当初計画より
1 年以上早く完成した。1997 年 3 月にビーム加速に成功し、同年 10 月から 10 本
のビームラインで放射光利用実験を開始した。
4−10
g
核 図 表大
拡
最 重 要プロジ ェ ク ト に指
元 素 の 存 在 限
9 5 OECDメガサイエンスフォーラム
重 い 元 素 合 成
エ キ ゾ チ ッ ク 億 円? に お い て 重 要 度 の 高
プロジェクトに 指 定
物 質 材 料 科 学
)
第 4−9 図 SPring−8 全景
過去6年間に 47 本のビームラインを建設し、年間 5400 時間の運転を実現して
いる。なお、ビームライン (BL) の内訳は、SPring-8 建設費で建設した共用 BL25
本、外部資金により建設した専用 BL9 本、理研及び原研専用 BL が各々7 本と 4 本、
加速器診断用 BL2 本である。
60
共
用 B
専
用 B
原
研, 理 研
加
H13
H14
速
器
L
50
40
30
20
10
0
H9
H10
H11
第 4−10 図
H12
H15
稼働ビームライン数
SPring-8 の蓄積リングは垂直方向のエミッタンスとビームサイズが設計値よ
りはるかに小さく、ビーム電流、ビームの寿命や安定度などで設計値を大幅に超
4−11
える性能を持っている。また世界一長いアンジュレータ、1km 長のビームライン
など独自の装置があり、得られる放射光は波長領域の広さ、波長分解能やパルス
幅、輝度、指向性、干渉性、偏光特性など多くの点で世界最高の特性を有してい
る。
SPring-8 では 1997 年 10 月の供用開始後すぐに実験が始まった。利用課題数は
増加の一途をたどり、2002 年 2 月から翌年 2 月までの 1 年間に 1334 課題の実験
を行い、延べ 8843 名が実験に参加した。2002 年に学術雑誌に発表された論文は
342 編である。産業界による利用も着実に増加しており、2002 年には共同利用で
150 課題を越す実験が行なわれた。また、成果占有課題(有料)も増加していて
57 件であった。
共用ビームライン
専用ビームライン
1,400
利用課題数
1,200
1,000
800
600
400
200
0
H11
H12
H13
H14
H15前期
利用期
第 4−11 図
利用課題数
実験開始後、現在(2003 年 7 月)までに行なわれた実験課題の総数は 5197 件、
総利用者数は 34000 人を超えている。とくに生命科学や物質科学の分野ではハイ
クオリティ学術雑誌の表紙を飾る世界的に注目される成果が数多く得られてい
る。このように SPring-8 は広範な学術・科学技術の分野の基礎的、応用的研究
で世界的な業績を上げている。
4−12
第 4−2 表 SPring-8 における成果
クォーク5個から出来ている新しい粒子(新バリオン)発見
(Physical Review Letters)
新粒子は、クォーク5個からできているバリオンで、LEPS グループが SPring-8 のビームラ
イン(BL33LEP)で得られる世界最高エネルギーのレーザー電子光を中性子に照射し反応
を分析した結果、中性子の 1.7 倍の質量(質量エネルギーにして 15.4 億電子ボルト)の新
バリオンが生成されていることを発見
貴金属複合ペロブスカイト型酸化物触媒の自己再生機能を解明 (Nature)
新しく開発したペロブスカイト型酸化物触媒が自動車の排ガス中で自己再生機能を有する
ことを、大型放射光施設 SPring-8 の放射光X線を利用して原子レベルで解析
酸素分子を1列にならべる (Science)
ゼオライトや炭素系物質と同じように、ナノスケールの細孔を規則正しく並べた物質をブロ
ックに組むようにデザインし、化学的に合成することに世界で初めて成功
筋収縮を調節する分子メカニズムの一端を解明 (Nature)
筋収縮の調節に重要な役割を果たしているタンパク質の立体構造を決定し、その分子メカ
ニズムを解明することに世界で初めて成功
干渉性放射光散乱パターンを元にした実空間像の再現(Physical Review Letters)
2層のニッケルパターンから干渉放射光による散乱パターンから位相回復法により、3次
元実空間像をナノメータースケールで世界で初めて再生する事に成功した。 この方法は
ナノテクノロジー、ライフサイエンスなど広範な応用が期待される。
(2)今後の展開と課題
(a)研究利用の推進
我が国の重要施策である「タンパク 3000」計画(RR2002)は、5 年間で 3000
種の蛋白質の立体構造を決める計画であるが、SPring-8 は理研ゲノム科学総合研
究センターとともに拠点施設になっている。また重点研究課題に指定された研究
に対する重点的なビームタイム配分をするなど、他の重要施策研究にも貢献して
おり、我が国の研究基盤施設として研究遂行に欠かせない役割を果たしている。
平成 14 年度から運転経費の約 30%を上記「タンパク 3000」計画(RR2002)予
算から受けている。
4−13
6000
タンパク3000
運転時間実績
5000
SPring-8運営委託費
4000
3000
2000
1000
0
H9後期
H10
H11
H12
H13
H14
H15前期
利用期
第 4−12 図
SPring-8 の利用時間
(b)施設の保守
SPring-8 では、大強度高エネルギー放射線による加速器、ビームラインの損傷
が進んでいる。特に冷却水の活性化でおこる金属腐食による冷却水配管の断裂や
漏水、非常用蓄電池の寿命など経年劣化が進んでおり、その対策を重点的に実施
する必要が生じてきている。
定常的な保守管理に加え、
6年間の供用による設備・施設への損傷・劣化
経年劣化対策を重点的に実施
高エネルギー放射線による影響
・放射線遮蔽の強化、脆弱設備の移設
・加速器、ビームライン等への損傷
・損傷部品等の交換
・冷却水の活性化による金属腐食
対応
・配管の断裂、漏水
・電磁石等の性能低下 等
・冷却水増強
・水質対策
・蓄電池の更新
・防水工事、空調強化
施設の劣化
等を計画的に実施
・冷却水の供給能力の超過による熱
負荷の増大
・カルシウム・炭酸分の増加による配
管のつまり・腐食
重大事故の予防保全
SPring-8 の長期間の停止を回避
・非常電力用蓄電池等の寿命
・雨漏り対策 等
第 4−13 図
経年劣化とその対策
4−14
(c)施設の高度化
SPring-8 には他の放射光施設では実現できない特性をもつ放射光を発生する
潜在能力がある。これまで高度化研究費を用いて SPring-8 の高度化が進められ
てきた。これまでに蓄積リングの安定化/低エミッタンス化で干渉性 X 線の実験
を可能にし、現在はトップアップ運転で測定精度の大幅な向上を図っている。次
は 30m 長直線部を利用したフェムト秒のパルス放射光の発生を計画しているが、
これが成功すると SPring-8 は世界で唯一のパルス幅フェムト秒の X 線光源にな
り、新しい研究領域の開拓が可能になる。
第 4−3 表
SPring-8 加速器の高度化
低エミッタンス
蓄積リングにおける水平エミッタンスを6nmrad から3nmrad に低減
TopUp運転
蓄積リングへの連続入射を行う TopUp 運転の実施により、積分電流
値の増加、光学素子の熱負荷変動の軽減、強度測定精度の向上が
可能
フェムト秒パルス
30m長直線部挿入光源、低エミッタンス、及び軌道の安定性の特徴
を活かして、30m超直線部に Crab 空洞を設置し、フェムト秒の短パ
ルス放射光を発生が可能
(3)まとめ
SPring-8 は順調に利用実績を重ねている。今後は、加速器及びビームラインの
保守/高度化をどのように進めるかが課題である。
4.5
重粒子線がん治療装置 (HIMAC)
(1)施設の概要
独立行政法人放射線医学総合研究所のHIMAC (= Heavy Ion Medical Accelerator
in Chiba、重粒子線がん治療装置) は、臨床試験開始後、9年を経過し炭素ビー
ムを使用して約1500人の患者を治療した。
4−15
第 4−14 図
平
成1 5年
重粒子線がん治療装置 HIMAC
3 月 現
在
、 総治療病 巣 数 1, 511
350
300
250
(
35
病 巣
ポート数 / 病
照 射 回 数
30
25
200
20
150
15
100
10
50
5
0
0
H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14
第 4−15 図
HIMAC での総治療病巣数
対象とした固形腫瘍部位は、頭頚部,肺、肝臓、子宮、前立腺など、ほぼ全身
にわたる。治療成績は非常に良好で、最新鋭の放射線治療法としての実績を確立
して、世界的にも非常に高く評価されている。肺や肝臓の短期間治療、骨軟部腫
瘍のように他の適切な治療法がないような症例に対する優秀な成績などは、重粒
子治療の他に抜きんでた実績と言える。平成15年10月に高度先進医療の認定がな
4−16
され、今後さらに実績を積み普及が進めば、治療プロトコールが確立した対象は、
一般保険適用に向かうことになる。
放医研は、設立の趣旨から、今後とも医療活動のかなりの部分を、臨床研究に置くこ
とになるので、今までは炭素線治療に絞ってきたが、今後は、腫瘍対象部位の拡大、分
割照射回数の減少による治療期間の短縮、さらには、浅在性の腫瘍に対する炭素以外
の粒子、NeやSiビームによる治療等を実施することになろう。
0
100
200
300
頭 頚
400
276
脳
64
涙 腺6
食 道
31
肺
329
肝 臓
膵 臓
骨
164
25
軟部
175
前 立 腺
222
子 宮
85
直 腸
25
眼
24
そ の 他 22
第 4−16 図
HIMAC での治療部位
照射技術の面では、現在行われているワブラー法を改良した積層原体照射法、
三次元のスポット・スキャニング、また
11
C のRIビームの利用、照射治療計画
における粒子線特有の最適化プログラムを開発している。
HIMAC 施設自体は、個々の装置の経年変化に対する更新、維持、改良を重ねつ
つ、順調に運転されている。医療用加速器の信頼性、安定性を重視した設計、関
係者の非常な努力により、過去に治療スケジュールに影響のあった事象は、9年
間でわずか4件にとどまっており、世界の加速器群の中で最高の安定性を維持し
ている。
特に、この間、施設建設、装置の保守維持、改良、前臨床試験、臨床試験、を
4−17
通じて、物理学、工学、生物学および医学という異分野の研究者、技術者、が相
互に協力して、上記のような優れた成果を得てきたという点が、高く評価される
べきであろう。
また、その実績と平行して、まだ少ないながらも医学物理関係の人材を育て他
の施設へ送り込んでその建設、運営に寄与して来たという点でも、その貢献は著
しい。
さらに HIMAC は核子あたり 800 MeV の重イオンビームを加速できるという日
本では他にない特徴を活用するため、当初より分野を問わずその研究への利用を
所内外に開放してきた。平日の昼間は2台のシンクロトロンからの炭素のビーム
で患者の治療用専用に使われているが、平日の夜間と週末は、これらの医学、生
物、物理工学の基礎研究の実験に使用されている。
これらの種々の実験のためには目的に応じて多様なイオン種を加速すること
が要求されてきたことから、現在HIMACでは、3台のイオン源を駆使して陽子から
Xeに至るまでのイオンが供給されている。時間分割方式で2台のシンクロトロン
は同時に異なるイオン種を異なるエネルギーで加速できるため、利用効率が非常
に高く、供給されている実験時間数はのべ年間5000時間に達している。研究課題
数は年間で約130であり、利用者は所内が約150人、所外が約600人(そのうち海
外からの利用者が約10%)で、発表される原著論文数も年間約80編を数え、基本
的に24時間運転でHIMACは非常に有効に使用されてきたといえる。
(2)今後の展開と課題
重粒子線治療では日本は世界に対して少なくとも10年以上リードしており、陽
子線を含めた実績は突出している。治療効果が極めて優秀であるということと、
がん患者の発生数、死亡数を考えると、この治療法を今後できるだけ広く普及す
べきである。
その普及に向けては、HIMACは研究用の色彩が強く、大きな装置で、コストも
高いが、粒子線治療を普及させるためには、ハード的には装置の小型化、コスト
ダウン、普及に際してのソフト体制の整備が課題である。
(a)小型化への技術開発
経験を積んだ現在、実践的な最適化設計を目指している。例えば、①加速粒子
として炭素線に特化することにより、最大加速エネルギーをHIMACの1/2あるいは
それ以下にする。②イオン源に永久磁石を採用する。③照射装置、治療室を合理
化、簡素化する、等。
4−18
(b)人材の養成
粒子線治療施設はまだ少なく、今後そのような施設を全国に展開していくため
には、粒子線施設に必要な人材を養成していかなければならない。具体的には、
①粒子線の特殊性を十分理解している医師、放射線技師を養成する。②加速器装
置を運転、保守するエンジニア、テクニシャンを養成して増員する。③大学教育
及び既存施設の中で、医学物理士を養成する。
(c)体制の確立
粒子線治療装置を全国各地に設置してその施設を有効に活用するためには
種々の課題を解決しなければならない。例えば、①設備を運転、維持、管理する
体制の確立。②故障の際に迅速な対応のできる組織をつくる。③治療の質の保持、
改善をはかる。④装置製作会社と発展、共存できる体制をつくる。
(3)まとめ
HIMAC は、重イオンによる治療用加速器として特に安定性を重視した設計がな
され、故障が殆どなく、評価の高い加速器であり、すでに 1500 人を越える患者
を治療し、高い利用効率を堅持している。このことは国際的にも評価されており、
HIMAC の第一の波及効果として高く評価されるべき点である。
また、今後、重粒子線治療を医療技術として確立し全国に普及するには、医療
用に特化した加速器の開発(小型化)、人材の育成、加速器の運転や運営に関す
る体制の確立等が課題となる。
4.6
まとめと今後の課題
対象とした4件の大型加速器計画は概ね順調に進行している。
また、これらの大型加速器は世界的に見ても最先端の施設であるとともに、そ
こで行われる研究開発は国際的な評価も高い。科学技術・学術的な意義も十分あ
り、今後の我が国の発展に大きく寄与するものである。
J-PARC、RIBF、SPring-8 による創造的な研究によって生み出される新発見は、
新産業・新技術の創出を促し、そこから得られる優れた研究成果は社会に還元さ
れるものと期待される。
また、医療用加速器である HIMAC による優れた成果は、従来にない画期的な治
療法として、高度先進医療の承認を経て、国民医療の中に重粒子線によるがん治
4−19
療を定着させることへの貢献が期待される。
さらに、これらの大型加速器による成果は、国民の知的好奇心をかき立て、科
学技術に対する関心を呼び起こすとともに、若者に夢を与え先端的科学技術分野
に進もうとする意欲を持たせるきっかけを作ることにもつながると期待される。
以上を総合して、科学技術の発展において、これら4件の大型加速器計画は、
今後も適切に推進されることが望ましいと考える。
しかし、これら4件の大型加速器計画は大型プロジェクトであり、その建設、
運営にあたっての予算規模は極めて大きい。我が国の現下の財政状況等を踏まえ
れば、国際社会の中の分担や競争も十分に考慮する必要があるものの、緊急性・
重要性の高い研究開発については優先的に実現する必要がある。
こうした状況の中、施設建設、実験装置の準備、維持運営費、研究費、高度化
のための資金等が確保できない場合には、研究計画の遅れや研究レベルの低下が
懸念されており、各研究機関が世界レベルあるいは、それを凌駕する研究成果を
出し続けることが困難になるとの危機感も出ている。このような状況は大型研究
施設の有効利用に支障を来すとともに、将来の基礎科学の発展に影響を及ぼすも
のである。
そのため、実験経費の不足で大型の研究施設を十分に活用できないことがない
よう、原子力分野の資金配分(集中と選択)の検討と他の資金をどのように取り
込んで研究開発を継続するかを検討し、加速器分野の研究開発の先細りを避ける
ことが重要である。
現在の計画のまま進行すれば、これらの大型加速器計画は、世界のトップラン
ナーを維持できることから国際的にも高い期待が寄せられており、世界各国の研
究機関や産業界との共同研究も期待できる。
建設が完了し運用が開始されている SPring-8 の例に見られるように、世界的
規模の施設が完成するとそれを利用した研究を求めて利用者は飛躍的に増大し、
それにともなって産業界からの施設利用も増大すると考えられる。
そこで、HIMAC や現在建設中の J-PARC、RIBF についても、建設資金は原子力予
算から配分するとしても、建設が終わった後の施設の運用に関しては工夫が必要
である。たとえば共同利用を積極的に活用し、外部研究資金、施設使用料、特許
実施料等の自己収入の増加に努めることを検討する一方で無償を原則とする基
礎研究とのバランスに十分配慮する必要がある。
4−20
最先端の研究のための加速器は、各種基礎研究の基盤となる装置として建設さ
れるが、研究を行うためには、粒子(中性子、放射光等)を取り出すビームライ
ンや計測装置を併せて建設する必要がある。加速器を建設する研究機関等は、加
速器建設資金と併せてこのビームライン等の資金を手当てしているが、それ以外
の研究機関等がビームライン等を建設する場合、自ら予算を手当てすることが必
要である。
また、ビームラインを建設するためのビーム取り出し口は有限であることから、
研究内容に応じ、ビームライン建設にプライオリティをつけることが必要である。
しかしながら、ビームラインを各研究機関等が様々な予算制度を活用して建設す
るとなると、このプライオリティ付けが難しくなるという問題が生じる。
多額の予算を投じて建設した、最先端の加速器はその能力を 120%使いこなさ
なければ宝の持ち腐れとなることから、ビームライン等の建設を研究の独創性、
重要性等に応じ、一貫した選定方針の下に、スムーズに行えるような仕組みを検
討することが重要である。
さらに、研究資金には国民の税金も使われていることを認識し、研究の推進に
当たって、アカウンタビリティ(説明責任)を明確に果たす必要があることを忘
れてはならない。つまり、研究者としての意欲だけでなく、成果がどのように還
元されるのかを説得力ある形で国民に示すことが重要となっている。
また、研究開発の推進には加速器に関わる人材の確保(育成)も重要な課題と
なっている。将来の先端的な加速器科学研究を担う人材の養成について、大学等
と研究開発機関との連携・協力に配慮していくことが重要である。
4−21
第5章 加速器利用研究の推進
本章では、加速器を用いた研究開発を進めていくに際して、長期的展望にたっ
た計画の策定や、国際競争、国際分担での加速器研究の進め方、産学官連携や役
割分担のあり方についてまとめる。
5.1
加速器利用研究の理解を得るための方策
多額の国費によって推進される研究開発は、広く国民の理解を得て進めること
が必要である。とくに巨額の国費を投入して進められる加速器計画には、計画検
討、建設、運用/実験研究の各段階において、常に社会の理解を得る努力が求め
られている。
(何を社会に伝えるか)
よりよい社会の理解を得る為には、社会が求める情報は何かを的確に捉え、分
かりやすく伝えることが肝要である。広報のあり方を探るため、フォローアップ
を実施した4計画(HIMAC、SPring-8、J-PARC、RIBF)について、社会的理解を得
るための方法を検討し、今後の広報の参考にすることも必要であろう。
大型加速器計画に対する社会の関心事は、計画が何を目指しているか、安全性
は確保されているか、環境問題は大丈夫かなどである。一方、計画の社会的な認
知は、社会が計画に対して抱く期待感の強さと、計画が社会に与えるインパクト
あるいは話題性によることが多い。「わが国だからこれができるのだ」というこ
とを社会に示すことも重要である。広報はこの両面で社会に情報を伝えることが
肝要である。
(計画の評価と社会への開示)
今後、大型加速器計画には必ず第三者評価と安全性評価が行なわれることにな
っている。そのシステムを利用して、社会の理解を深めることも可能である。例
えば、第三者評価を強化して、学術的、科学技術的意義だけでなく、社会的、文
化的な意義や環境に対する影響などを広く検討評価するようにし、その報告を国
民に分かり易い表現で公表することが考えられる。同様に安全性の検討結果も専
5−1
門的な報告書に加えて、地方自治体への報告書を市民に分かり易い表現でつくる
ことも必要である。このように既存の公的評価システムを活用して行なう情報発
信は、社会的信頼を得る上でとくに有効であろう。
(広報活動の強化)
多額の国費を使って建設された大型加速器施設では、その研究活動や施設の内
容を広く一般の人々に伝えることは施設の管理者に課せられた義務であり、その
ための広報活動はこれまでも行われてきた。例えば、研究所やそこにある研究施
設を紹介した各種のパンフレット、ホームページ、ビデオ等が作られて公開され
ている。しかし、一般の人々に対しては、このような広報活動では限界があるこ
とも事実である。
科学や技術の成果を広く国民に知ってもらうためには、先端的研究の内容を、
科学的な正確さを大きく失うことなく、視覚化も取り入れてわかり易く表現する
手法の開発が必要である。わが国では現在そのための「科学の語り部」や「科学
のイラストレーター」の養成が望まれているが、この目的から大型加速器施設の
広報部においては、科学者がサイエンスを説明するのではなく、従来の視点を変
え、語りや視覚表現の能力に重点を置いて人材の発掘や養成を行なうことが必要
であろう。できれば拠点研究所や大学の広報部を指定して、このような観点から
の広報する体制を強化し、長期的視野に立って人材養成を行なうことが望ましい。
このようにして社会に対する働きかけを積極的に進め、社会における科学・技
術のへの関心をより高めれば、研究施設の存在意義をより明確にすることが出来
ると思われる。また、それと同時に、科学技術に対する関心を若い世代の中に芽
生えさせ、将来における研究者、技術者の裾野を広げることが期待される。
上の視点に立った社会との関わりと可能な貢献を考えてみる。
(1)施設の公開
大型加速器の様な研究施設は、それを「見る」だけで強い印象を与える。科学
への関心が、感動、感銘から生まれる場合も多い。加速器の原理とか、研究の内
容はまだ理解出来ない年齢であっても、見て感激し、それが潜在した推進力とな
って将来科学への道に進むことも十分考えられる。多少とも関心を持って見る大
人の場合にはまさに「百聞は一見に如かず」という効果がある。
5−2
研究所の一般公開は、年一回、およその時期を定めて行われる場合が多い。一般
の人々が見学出来る日がより多くあることが望まれる。
(2)社会人講座
最近では、学会で大きな話題になった研究成果を新聞などが報道することがし
ばしばある。が、限られた紙面では十分な説明も出来ないので、その記事を理解
することは難しく、一般読者にとっては、難しい研究の印象で終わってしまう。
このため市民講座開催等に経験豊かな研究者・技術者を派遣したり、施設として
市民講座を開き、そこに装置そのものの見学を組み込むなどの工夫が考えられる。
(3)青少年を対象とした理科教室の開催や教育用ビデオの制作
青少年の科学への理解を深め、興味・関心を涵養するため、加速器に関連した
様々な現象、磁石と電気、放射線、物質のミクロの構成や分析、更には宇宙の創
生に関する事柄などを、身をもって知ることのできる場の提供が有効である。ま
た、ファラデーが始めた「少年・少女のためのクリスマス講演」のような講演も
望まれる。
視覚を通しての教育は、例えば実験を行う事が難しい現象について理解を促す
ことになるばかりでなく、学んだことについて理解を深めることにも有効である。
原子、原子核、素粒子、それを研究するための加速器や様々な測定装置等に関す
るビデオ等の視聴覚教材は非常に少ない。そのため青少年を対象としたものから、
大学の理工系以外の学部の学生が学ぶ自然科学系科目を対象としたものまで、
様々なレベルのものが望まれる。このような教育用ビデオを、大型研究施設の広
報部が独自で、または、協力して系統的に制作することができれば、社会に対す
る大きな貢献となる。
(4)小学校、中学校、高等学校の教員のための講座
理科の科目の範囲は広く、また学問的発展のめざましい分野である。希望する
教員に新しい研究分野に関しての知識を伝えるシステムが、この加速器分野でも
望まれる。研究者たちの情熱や新しい科学技術の知識が、小、中、高校の教員に
伝われば、生徒に対する影響は大きい。そのため研究施設の現場での講習はより
効果的であろう。
5−3
(5)大型研究施設についての広報
各研究施設で既にいろいろなビデオが作られているが、そのリストはその研究
施設に訊いたりホームページで探さなければ分からない。これを纏め、似たもの
を分類したリストと、簡単な内容の紹介があれば、これまで以上にそのビデオが
活用できるであろう。
また、最近はインターネットによる検索が容易に出来、多くの人々が様々な場
面でこれによって知識を得ている。大型研究施設間で連携し、必要な情報を得や
すいようなネットワークの構築が望まれる。
5.2
加速器を用いた研究開発の進め方
5.2.1
長期的展望に立つ計画策定
わが国では総合科学技術会議が 5 年ごとに策定する「科学技術基本計画」に従
って具体的な科学技術政策が進められている。しかし大型加速器のように巨額の
国費を 20 年、30 年の長期にわたって投入するプロジェクトについては、学術/
科学技術の長期展望に基づく計画を検討し、専門家による学術的、科学技術的意
義を検討・評価する仕組みが必要である。
(1)これまでの我が国の加速器計画
わが国の学術研究を主目的にした加速器としては、全国共同利用加速器が高エ
ネルギー加速器研究機構と大阪大学付置の核物理研究センターに、また、学内共
同利用加速器施設は東北大学、広島大学、立命館大学に設置されている。一方、
原子力研究の一環として建設された大型加速器が理化学研究所と日本原子力研
究所にあり、学術研究から応用研究にいたる広い分野で、全国の研究者に開放さ
れている。このように複数の研究機関がそれぞれ加速器計画を推進してきた結果、
我が国の加速器は多様で充実したものになっている。
(2)アメリカにおける大型計画推進の仕組み
アメリカでの科学技術の推進を行う行政庁としてエネルギー省(Department of
Energy(DOE))がある。DOE は科学技術を Advanced Scientific Computing、 Basic
Energy Sciences、 Biological and Environmental Research、 Fusion Energy
5−4
Sciences、 High Energy Physics、 Nuclear Science の 6 プログラムに分け、そ
れぞれの分野に常設の「分野別諮問委員会」を置いている。「分野別諮問委員会」
は必要に応じて担当する分野の科学技術の現状と動向を分析し、国が研究施設の
設置等について勧告するとともに、専門的立場から大型プロジェクトの評価、順
位付けを行っている。
(3)エキスパートによる加速器研究開発の評価の必要性
大型加速器は、未知への挑戦において最も重要な研究手段であるとともに、物
質科学、生命科学、情報科学/ナノテクノロジー、エネルギー/環境科学など現
代科学技術の重要分野の研究にとって不可欠の基盤的研究施設である。これらの
研究施設でどのような成果が得られているか、どのようにして世界トップの水準
に保つかを検討するため、エキスパートで構成された評価組織(リサーチカウン
シル)によって加速器研究開発の状況を評価することが望ましい。なお、リサー
チカウンシルでは、ある程度広い学術科学技術の分野を俯瞰して検討するように
しておくのが望ましい。
これまで我が国では、欧米諸国で進められている計画を後追いするような計画
が多かった。そこで、リサーチカウンシルは諸外国の動向を探るのではなく、科
学技術・学術の動向を独自に判断できることが望ましい。
5.2.2
国際競争と国際分担
(1)国際戦略の必要性
大型加速器の将来の方向性として、高エネルギー化をめざす方向や大強度化を
めざす方向があることは、本報告書の冒頭に述べた。いずれの場合においても、
加速器一台当たりのコストは近年上昇しつつある。したがって、国内のみならず
国際的観点から、大型加速器設置の必要性の吟味と、特にこれから設置する加速
器に関しては、日本になぜ配置しなければならないのかについて、十分な討論が
必要となる。すなわち、今後の加速器計画を考える際には、国際競争と国際分担
の両面を十分に検討した上で、設置計画を国際的観点から進めるという「国際戦
略」が必要となる。
このような視点をいち早く取り入れたのは、高エネルギー物理学の分野である。
高エネルギー物理学者は、科学者の集まりである IUPAP(国際純粋応用物理学連
5−5
合)の下に、世界の大型加速器の配置を議論するICFA (International Committee
for Future Accelerators = 加速器将来計画委員会) を作り、世界の主要研究所
長が率先してそのメンバーとなり、将来の加速器の立案作業を行っている。高強
度短パルスレーザーの領域では、最近 IUPAP の下に ICUIL (International
Committee for Ultra Intense Lasers) が作られ、世界のレーザー研究の連携や
将来研究の方向の検討などを国際協力で行う体制ができた。注目すべきことにこ
の結成には日本が決定的な指導性を発揮した。さらに、高エネルギー物理学以外
の分野でも、世界的な検討を行うべく、その試みが始まっている。一例は、OECD
における Mega Science Forum であり、中性子ビームや原子核研究の加速器配置
に関する議論が展開され、報告書がとりまとめられている。
(2)世界の三極構造と世界的すみわけ
目下、世界の共通認識は、21世紀の科学研究は、米国・欧州・アジア圏の3
極構造を機軸に進展するであろうという予測である。そして、その中で日本はア
ジア圏のリーダーであり、3極の一翼を担う責任ある立場にあるということであ
る。すなわち、日本の今後の加速器の建設や活用を考える場合に避けて通れない
点は、日本は米国・欧州と肩を並べて進む必要性があることと、一方では、アジ
ア諸国との緊密な連携を樹立する必要性がある点である。日本がこの点を十分に
認識することこそが、日本の国際貢献でもあり国際責務でもある。
さらに、資金の巨大化する加速器に関しては、世界的な棲み分け作業、すなわ
ち国際分担に関する議論が必要である。たとえば、第2-2表に掲載されているク
ォークグルーオンプラズマ探究のための米国の RHIC (重イオン衝突型加速器)
や新粒子発見のための欧州の LHC (大型の陽子衝突型加速器 )等のタイプの加速
器は日本で作る予定はなく、むしろ、日本から研究者をこれらの施設に送り込ん
で研究を進めるべき加速器施設である。一方、世界の中では日本でのみ作られ世
界の研究者を集める加速器施設としては、J-PARCのK中間子施設 (Kaon Factory)
等がある。
(3)日本の加速器の役割
世界に類似のものが存在するにも関わらず、世界の三極の一つを形成する日本
に設置されるべき加速器に関しては、それが世界的には「世界COE」を形成して
5−6
世界のリーダーシップを取ることができるかを十分に評価する必要がある。少な
くとも SPring-8、大強度陽子加速器 (J-PARC) の中の中性子施設やニュートリ
ノ実験施設、RIビームファクトリーについては、世界のリーダーシップを取り、
世界センターとしての任務を十分に果しうる加速器計画であるとの認識を得た。
これらの加速器施設においては、世界の3極の一翼を担う認識と自覚を持ちつつ、
アジア圏に開かれた加速器センターとするなお一層の努力を講じるべきであろ
う。
日本にアジア圏のセンター的な加速器を配置する際、アジア圏の学生教育も可
能とするように、アジア圏の大学との連携大学院の普及は重要なステップとなる。
すでに、この制度は理化学研究所に導入されているが、日本の他の研究機関にお
いても積極的にその導入を諮るべきであろう。
5.2.3
加速器建設の新しい仕組みや新しい方式
(1)我が国における加速器建設の問題点
我が国の加速器研究者は少数の研究機関に集中している。例えば KEK の加速器
研究施設の職員と加速器関係技術職員の数は 232 名(加速器研究施設 192 名、PF
40 名 )であり、理研の加速器関係研究者・技術者の総数は契約制職員を含めて
46 名、SPring-8 は 43 名(高輝度光科学研究センター加速器部門)である。また、
原研は J-PARC 加速器の専任研究者・技術者が 35 名、TIARA 関係で名、FEL が名
であり、放医研は 21 名である。大学付置の加速器施設ではかなり少なくて、阪
大核物理研究センターが9名、東北大原子核理学研究施設が 9 名、同大学サイク
ロトロンラジオアイソトープセンターが 4 名である。
このような状況のもとでは、大型加速器計画の場合であっても、今後は十分な
数の建設要員を確保することは困難である。一方、大学あるいは他の研究機関に
属している加速器研究者は、先端加速器の建設に参加する機会は殆どない。そこ
で大型加速器計画は、全国的な規模で建設分担方式あるいは建設請負方式を導入
して、マンパワーの実質的な適正配置を実現することが望ましい。なお、建設請
負方式は入射器など独立した加速器を他機関の加速器チームが建設するもので
あり、建設分担方式は、加速器のパーツあるいは独立に開発できる部分を、他機
関の研究者や研究グループが開発するものである。なお、予算は建設チームの属
5−7
する機関に移管されることが望ましい。
中小加速器を建設する場合も建設要員の確保が更に困難である。この場合は、
他の機関の加速器チームが加速器全体の設計・建設に協力するか、場合によって
は全面的に請け負うことが望ましい。
(2)建設費と R&D 経費、予備費
先端的加速器を建設する場合、従来技術の壁にブレークスルーをつくる新しい
技術開発が必要である。そのためには事前に十分な研究開発(R&D)を行なわなけ
ればならないが、建設開始後も平行して R&D を行なうことも多い。ところがこ
れまでの加速器計画では、建設と並行して行なう R&D の経費を建設費に含める
ことは稀であった。既に述べたように、SPring-8 の場合は R&D 経費が建設費に
含まれており、SPring-8 の建設が予定より早く、しかも当初予算内で完成できた
のは、R&D を十分行なえたからであろう。
そのため、先端的加速器の建設では、その建設に関わる R&D 経費、予備費を
含めた総額をプロジェクトの総経費と考えることが重要である。
5.2.4
大学における加速器
大学は教育、人材養成、人材開発のもっとも重要な場であるとともに、基礎研
究を進める場であり、他にはない重要な役割を担っている。最先端の加速器を持
つことは研究にとってのみならず、教育の上からも必要なことである。しかしな
がら最近では、先端加速器は大型化しており、一大学で建設・維持するのは困難
になってきた。
このような現在においては、教育や、放射線関連事業のための人材養成のため
の加速器と、世界の先端研究をする加速器施設を区別してバランスよく全国に配
置することが望ましい。そのために、大学などの加速器の位置付けを再定義する
ことが必要である。加速器施設は、
①
複数の大学に設置する小型加速器(教育、人材養成が主な目的で、特長を
生かした研究も可能とする)。現存の大学の小型加速器をこの目的に再定義
5−8
し利用することは望ましい。
②
少数の大学に置く共同利用の加速器施設(研究が主、教育も含む)。現状の
加速器を、このカテゴリーとして役割を明らかにする。
③
大学以外の研究所に置く共用の加速器施設(研究)。
に分類することができる。
これらのうち、②と③は施設として世界的観点から価値のあるものでなければ
ならない。①においては、大学のカリキュラム等に組み込むことが重要であり、
②と③においても、教育、研修のために活用されるのが望ましい。
最近、加速器はがん治療、医薬品開拓、植物改良、加速器駆動型原子炉など、
基礎研究以外の利用が拡がっており、これからますますそれらに従事する人材が
必要となる。
必要とされる系統的な人材教育は、大学において効率的に行われることが望ま
しく、加速器や放射線関連のカリキュラムを充実させる必要がある。そのために
は、加速器を所有する大学が、地域や全国からの学生を常時受け入れること、大
型施設を持った大学や研究所との連携を進め教育に役立てる等の工夫も考えら
れる。
また、大学における研究については、大学教員や大学院生の研究には大学の施
設、大学の共同利用施設、国内の共用施設、国外の共用施設などのうちから、そ
の研究に最適なものを選んで行われている。これは今後も大きな変化はないと考
えられ、研究者は各大学の施設を主として、特殊性を用いた研究に利用すると共
に、世界的レベルにある大学の共同利用施設や研究所の共用施設を利用すること
となる。共同利用の場合、実験費や旅費なども共同利用施設から支給されること
が多い。最近ではこれに加えて、連携研究としてある程度の期間にわたる研究を
進める制度や積極的に装置を持ち込むパワーユーザーも現れている。
今後は、既存の施設を使った研究を進めるだけでなく、独自の予算で実験施設
や実験装置を共同利用施設や共用施設に設置して研究を行うことが、容易にでき
るようにするのが効果的である。また、実験のための旅費を持ち実験準備や実験
に独自の判断で参加できることも重要である。
5−9
5.2.5
研究連携の推進
(1)応用研究と基礎研究の連携協力強化
加速器研究開発の目的は、人類の科学的知見の拡大に貢献することが第一であ
り、このような基礎研究の成果は、それ自体が我が国や世界の貴重な財産である。
従って着実な継続が必要であり、宇宙や素粒子を含め我々を取り巻く物理的世界
の理解のためには、今後も加速器の研究開発は一定の割合で必要である。しかし、
生命科学や脳科学と同様に、人類の科学フロンティアを、いつどの方向にどの程
度まで広げるかは、今後も常に議論が必要である。
一方、純粋な科学の知見を切り拓くことを目的とした加速器も、今までに多く
の応用範囲を広げてきている。工業における半導体イオン注入技術、分析・加工
技術、医療における放射線診断・治療技術などはその例である。小型電子・イオ
ン加速器、放射光施設などは、現在までも大きな社会的貢献を果たしてきている。
また直接的な効果のみではなく、超高真空、高周波、データ処理、ネットワーク
などの技術として、波及効果の大きい間接的な効果も生み出している。
(2)
研究活動のネットワーク化
21世紀に入り、我が国に限らず世界各国においても、研究活動に対する期待と
ともに要求が厳しくなっている。限られた予算と人員の中で、研究を支える種々
の環境や運用のシステムには常に効率性が必要とされているものの、研究自体の
効率性は必ずしも他とは同様には行かないことも銘記すべきである。その一方で、
大型で高額な装置をより効率的に使用し、研究を着実に推進するとともに、それ
による研究成果の有効な活用が求められる。インターネットが進歩した現在、よ
り有効なネットワーク化が重要である。また各地に分散している多数の中・小型
の加速器をネットワークで繋ぎ、より有効に利用することも必要であろう。
このため、①加速器サイドのネットワークの強化(より効率的な加速器研究の
アイデアの採決)、②ユーザーサイドのネットワーク化、③加速器サイドとユー
ザーサイドの交流とネットワーク化、④国内外の協力、などの進展が必要である。
今日では、コンピュータ間のネットワーク化技術、各種センサーによる取得デ
ータを瞬時に転送・共有する技術などが開発されており、効率的な研究が進めら
れるようになった。特につくば地区においては、地域的なネットワークを用いた
研究も進められている。
5−10
(3)
産学官連携や役割分担のあり方。
従来の産学官連携における様式は学・官における先導的な研究開発があり、加
速器開発とそれを利用した応用研究が技術開発の主要課題であった。その意味で
は、「光源駆動型開発研究」(Source-Driven R&D) ということができる。これに
より世界に先駆けた研究開発を実現できたと考えられるし、必ずしも高収益な技
術とは限らないものの、分析・計測・加工や診断・医療面での加速器の利用が促
進されたと言えよう。今後の連携課題としては、先駆的な独創的加速器技術と実
際の現場で使える技術の融合である。その際、①応用のニーズにどう対応するか
という考え方と、②応用のニーズをどのように開拓して行くかということが大切
であり、そこに至るシナリオをきちんと用意しておくことが必要である。これは、
すでに述べた「プログラム駆動型研究開発」(Program-Driven R&D) ということ
ができるであろう。実用化における取り組みにおいて、ニーズを調査するだけで
なく、ニーズを積極的に開拓すること等が極めて重要であり、そのためにも着実
な研究開発への投資・環境整備、継続的な人材育成が求められる。
(4)
地方自治体と国公立立大学との連携の促進
産業振興または医療への寄与に向けて、加速器の開発利用を積極的に推進して
いる地方自治体がある。一例として兵庫県は、SPring-8 の開発利用(播磨科学
公園都市/西播磨)、ニュースバルの建設や新たな医療用加速器施設(最先端が
ん治療施設「県立粒子線医療センター」)の開発・利用を進めている。また佐賀
県は新たな放射光施設の建設を推進している。このように地域の取り組みについ
て、既に加速器を持つ大学が協力を行ったり、地元企業の利用に積極的に大学な
どの施設を開放する等の連携が進められるのが望ましい。また、地域と大学が連
携して共同の施設を整備することも考えられる。
佐賀大学・九州大学との連携を進めている佐賀県の新たな放射光利用施設(佐
賀県シンクロトロン光応用研究施設)の今後は注目すべき例の一つであろう。こ
れはネットワーク型学術研究拠点の構築を目指す「九州北部学術研究都市整備構
想(アジアス九州)」の一環として整備されるもので、九州地域はもとより広く
アジアワイドな研究開発交流を促進することを目指している。今後も、このよう
な地域研究開発拠点の整備が望まれる。
5−11
5.2.6
産業界における加速器
(1)加速器開発と加速器利用産業
産業界における加速器開発を考えた場合、まずは国により大型加速器の計画が
立てられ、その実現に向けて産業界はR&D等を実施し、そこで設計・製作等の加速
器技術力を延ばし蓄えていく。これにより新技術の創出や実証が行われ、それが
中・小の産業用加速器の実現に向けて利用されることになる。例えば、医療用の
加速器や半導体用の加速器が開発されて広く産業利用されていることは良く知
られている。文部科学省が行った「我が国における放射線利用の経済規模」の調
査によると放射線の工業利用は7.3兆円にのぼり、相当な割合で半導体加工に加
速器が使用されている。
これらの中・小の加速器がビジネスとして成り立つことで加速器技術が産業界
に保持される。これが新たな国の大型加速器計画実現の技術基盤となり、更なる
R&D を行うことで違った加速器利用産業の発展を促すことになる。
このようにメーカーの加速器技術の保持・進展には、加速器や加速器技術の産業
利用が進むことが重要である。
(2)産官学連携の現状と問題点
(a)大型加速器プロジェクトの建設システム
大型加速器プロジェクトの推進は二段階の構造を持っている。まずは『R&D
フェーズ』で、ここで「官学」は基本概念を示し「産」は設計・製造ノウハウを
出す。つぎに『実機建設フェーズ』に入ると「官学」は建設に向けた指導を行い、
「産」は製造能力を発揮しプロジェクトを実現していく。
「産」と「官学」は技術やその応用を共同で開発する連携先であるが、R&Dと実
機でメーカーが異なる場合「産」の立場からすると、R&D段階での技術ノウハ
ウが他メーカーに使われることになる。
そこで、連携による共同研究開発の場合はもちろんのこと、試作等発注が伴う契約の
場合でも、知的財産の帰属を明確にし、開示できる情報とそうでない情報を区別するこ
となどにより、メーカーがR&Dフェーズに参入しやすい状況を作ることも望まれる。
5−12
(b)教育制度の充実
加速器の産業利用の普及の障害として、利用に関する基礎知識の不足の問題が
挙げられる。この解決には、教育機関・公的研究機関における産業界への利用の
開放を行うことや、教育制度の充実が効果的と思われる。
(3)産学連携への期待
∼加速器利用産業の活性化のために∼
(a)ニーズとシーズの結合
加速器関連の産官学連携は、加速器メーカーと加速器関連研究機関(大型加速
器納入機関)との連携が主であった。一方、加速器が広く利用されるためには産
業界で利用されることが必要である。しかし、加速器メーカーは、保有するシー
ズ技術に対する潜在ユーザーのニーズの情報については余り持ち合わせていな
い。このため、ニーズに合わせた装置の開発が困難になっており、加速器を利用
した産業が結実しないことになっている。
これを改善するためには、「学」の加速器研究機関と「産」の研究機関の連携
強化を行うこと、「官」の援助の下、連携研究機関が中心となり加速器メーカー
と利用ユーザーの情報共有を促進すること、新規産業の創出や既成産業の活性化
を図ることが望ましい。そうすることによって幅の広い産学連携が構築できるの
ではないかと思われる。
(b)異分野に対する働きかけ
加速器は、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所、大学、放射線医学総
合研究所等文部科学省関連の研究機関において開発されてきたため、他の府省関
連の分野に普及させるためにはその分野に合った方法が要求される。
例えば、放射線治療装置の普及に関しては、「第 3 次対がん 10 ヵ年総合戦略」
に、「がんの手術療法、化学療法、放射線療法等に通じた各分野の専門医が協力
して診療に当たることができるよう」と述べられている。日本では米国等と比べ
てがん治療における放射線治療の占める割合が低く放射線治療装置を普及させ
るためには、仕組みの変革、人材の育成が不可欠である。例えば日本では医学物
理士がほとんど採用されていないし、放射線治療医師の人数が日本の場合 400 人
に対して、米国では 2300 人という状況もある。これは、加速器関連研究機関が
働きかけて変わる問題ではなく、国民的議論が必要であろう。また、加速器技術
5−13
は、これまでも真空、高周波、超伝導、ビーム制御等先端技術を組み合せてでき
てきたが、今後はさらにフェムト秒加速器におけるレーザー技術と加速器技術、
先端粒子線治療システムにおけるロボット技術と加速器技術等、異分野の先端技
術と加速器技術を融合させる必要が出てきている。そのための技術開発や技術の
掛け合せを押し進めることが必要である。
(4)産官学連携システムの提案
今まで述べてきたように、これからの産業用加速器の進展のためには府省の壁
を越えた連携が必要となる。その中には、国が主導で進めるプロジェクトもあれ
ば、異分野の専門家同士が連携して実現させていくべきものもある。
この実現には関連研究機関や企業の連携のみならず、文部科学省や厚生労働省、
経済産業省等の府省間の連携のもと法的規制の見直しも含めた異業種間の協力
体制の検討が行われるのが望ましい。
5.2.7
人材育成と技術継承
加速器を用いた研究の今後の発展を期するためには、現実の研究を活発に推進
することが最も重要であるが、一方それを継続・遂行するために当該分野の人材
を確保し、また加速器科学に強い興味を感じ、この分野に身を投じようという若
き人材を育成することが強く望まれる。
(1)人材育成
(a)大学
加速器およびそれを用いた研究者の養成は主として大学院の専門課程を通じ
て行われる。この場合、大学に有用な加速器が存在していれば、専門家の育成は
比較的スムースに行われるが、近年は分野の進展と国際的競争環境の中で、新規
性のある実験的研究を行いうる加速器は、必然的に大型かつ高価な施設であるこ
とが一般的である。そのため、博士の学位取得のためには、大学内というより、
大学とは別の大型の共同利用施設を利用する必要性があることが多い。この点で、
KEK、RIKEN、JAERI、RCNP、SPring-8、HIMAC などの大型施設が、これらの要求に
応えられるような、受け入れ体制を持つことが大変重要で、従来からかなりな程
5−14
度、条件を満たしているが、今後ともよりよい開かれた体制を継続することが必
要である。
しかし、これらのマシーンタイムの限られた実験期間では、日常的技術の習得
などには、不十分であり、大学での小型加速器による実習的研究、測定器の開発
などが可能なことが望ましいのであるが、運転維持のための予算や人手が枯渇ぎ
み(近年、原子力、加速器・放射線、アイソトープ関係学科や講座の減少、若手
研究者の不足が起こっているという指摘もある)のところが多く、加速器施設の
維持管理に多くの困難を抱えている。適切な取捨選択と重点化が必要である。
(b)研究所
以上の観点からも、加速器のような大型設備を利用した研究は、大学よりも今
後、法人化が進む共同研究所等の重みが一層増していくと思われるし、人材の育
成においても、実際に専門家を作っていく装置は、これらの研究所が重要な役割
を果たしていくことになる。先進諸外国においても同様の傾向が見られている。
一方、加速器そのものの研究および技術開発は、大学での関連講座が僅少であ
るため、従来から、他の専門分野からの転向者が多い。それで需要はなんとかカ
バーしているが、本格的な新しい加速器開発研究者を若くから養成しないと、技
術の後追いに過ぎなくなる恐れがある。加速器学会の設立が近いと聞くのを、ひ
とつのきっかけとしたい。
(2)応用分野および関連分野における人材
加速器利用研究は今や非常に広い応用分野を擁している。物理、化学、工学、
生物、農学、医学など、加速器を使用した研究はとどまるところを知らない。こ
の内、特に医学応用は専門研究者のみならず、一般国民の健康福祉に広くかかわ
りあった問題であり、加速器を使用した治療、診断は、多くの国民が直接身近に
体験し、利用するという意味で、社会に対する影響が特に大きい。
放医研が推進してきた重粒子線治療、筑波大学、ガンセンターなどの陽子線治
療は、今後、多数全国に普及させるべき施設である。この場合、そこで働くべき
適切な人材は、装置の運転、保守を担当する人員と共に、医学施設特有の人員が
必要である。粒子線治療を良く理解しうる放射線医師、放射線技師、医学物理士
等の専門家を、需要に応じてかなりの人数養成していかねばならない。これらは
5−15
施設のある現場で、教育ないし訓練が必要なので既存の粒子線治療施設が、これ
らの人達を一定期間受け入れられるようなシステムを作る必要がある。また、折
角人材を養成しても、特に従来の医療厚生機関では、医療職、行政職しか存在せ
ず、放射線治療に必須な医学物理士のような研究職を受け入れるシステムが必要
である。
(3)産業界における人材
加速器関連のメーカーは、高精度機械加工、重電機器、高電圧電源、高電流電
源、エレクトロニクス、計測機器、真空機器、など多分野に亘るが、特に加速器
本体の製造技術部門は、加速器建設の或程度の需要がないと、他分野に配属が変
わって行かざるを得ない。最近、産業界でのこれらに対する技術が一部において
空洞化が起こりつつある、とも言われている。
大型加速器施設は、いまのところ一般に国立あるいは半公的機関でのみ建設さ
れているが、この建設計画が適当な間隔で実行されていくのが、産業界での加速
器技術者の技術継承に必要となる。このためにも加速器を利用した科学研究が、
基礎、応用を問わず常に活発に活動が行われることが、産業界の人材養成にとっ
ても必要不可欠である。
加速器の利用研究も、施設建設、技術の発展は産業界の協力なしにはあり得ず、
加速器の利用研究と当該分野の産業界の発展は車の両輪といえる。今後、産業界、
大学、公的研究機関の人事交流、流動化促進を積極的に行うこと、また、専門家
のための講習会等を開くことにより、研究者が常に新しい情報にふれられるよう
にすることが有効であろう。
5−16
第6章 まとめ
本報告書の第1章や第2章では、「加速器とは何か」という問いに始まり、加
速器はなぜ必要か、加速器にはどんな種類のものが存在し、いかなる役割を果た
しているのかといった諸点について述べた。そして、日本や世界の加速器の現状
にも触れた。その後、第3章ではこれらの加速器がいかなる方面で活躍している
のかを記述した。これら第1∼3章の記述は、加速器という現代科学で主要な装
置とその科学に対する概観であり、本報告書の導入部ともなっている。
第4章と第5章は、本検討委員会の議論の集約である。第4章では原子力長期
計画において述べられている4つの加速器プロジェクトのフォローアップを中
心に述べ、第5章では、これからの加速器利用研究の進め方について、本検討会
で議論された主要点を記述した。
この章では、特に第5章における議論を中心に、第4章や第3章で議論したこ
とも加味し、それらの内容に関するまとめと提言を述べる。
6.1
社会への情報発信の強化
加速器は、人類の未知への探究心、特に、より小さな「素」なるものへの探求
にその威力を発揮し、現代物理学の基礎となる素粒子像や広大な宇宙の誕生の謎
の解明に大きく貢献し、現在も重要な役割を果たしつつある。さらに近年は、放
射光・重粒子線・中性子ビーム・RI ビームといった、加速器技術が生み出す新た
な基礎研究分野および応用分野が誕生し、加速器の活躍する場が一層広がりを持
つようになった。加速器技術も進展を続け、レーザー加速といった新たな技術も
生まれ、未来へ絶えることのない躍進を続けている。原子力の世界では、初期に
は放射線と物質の相互作用を理解するために加速器が導入されたが、生体・食
品・植物・材料・等への放射線効果の応用に始まり高レベル放射性廃棄物中の長
寿命放射性同位元素の核変換等、加速器の応用性の高さが認識され、最近では、
原子力先端研究にとって加速器は欠かすことのできない基幹設備として認知さ
れるようになってきた。
一方、このように有力な装置であるにもかかわらず、加速器は社会の中ではあ
6−1
まり馴染みのない施設でもある。本検討会は、世界の加速器の現状を踏まえなが
ら日本の加速器の現状を俯瞰し、加速器の必要性・今後の発展の必要性・世界の
中での日本の加速器の位置づけ、等々に関して議論をし、これらの必要性を本文
で述べた。しかしながら一方では、この報告書はごく限られた読者への発信でし
かあり得ない。したがって、今後あらゆる機会をとらえて、加速器を用いた研究
開発を社会へ情報発信することが何よりも肝要な作業であろう。
また、多額の国費によって推進される研究開発は、広く国民の理解を得て進め
ることが必要である。とくに巨額の国費を投入して進められる加速器計画には、
計画検討、建設、運用/実験研究の各段階において、常に社会の理解を得る努力
が求められる。
(提 言)
加速器の建設や利用には多額の国費が使われるため、その研究開発は広く国民
の理解を得て進めることが必要である。そのためには、それらの評価を一般の
人々にも分かるような形で公表することが重要である。
また、加速器は時代の先端的研究が行われる場であると共に、その時代の最新の技
術を集約して作られた施設である。社会の科学的好奇心を呼び起こすために、また若
い人たちの心に未知なるものを知る感動や科学に対する可能性の夢を育むために、こ
の場から今後一層の情報発信を行うことが望まれる。広報室等、これに関わる部署では
その構成を見直し、その成果を分かりやすく語り、視覚化することの出来る人材に重点
を置くことが望まれる。
6.2
加速器の人材育成
加速器そのものは最先端技術の結晶のような機器であり、たやすく生産可能な
ものではない。さらに、でき上がった加速器を研究開発に用いるには、加速器利
用に関する知識が必要である。そのために、これから伸びゆく加速器科学を支え
るには、そのための人材の育成が肝要である。
(提 言)
加速器科学における人材育成において最も肝要な点は製作および利用にたず
6−2
さわる人材の育成である。そのため、人材育成において最も重要な役割を果たす
のは大学であり、大学における加速器や放射線関連のカリキュラムの強化、加速
器を所有する研究所と大学の連携強化が必要である。さらに、小型加速器を所有
する大学においては、それを用いた加速器学や放射線関連のカリキュラムを充実
させることが必要である。
一方、産業界においては、加速器製作のための技術の継承や加速器利用のため
の研究者の養成に向けて、研究所や大学との連携強化に向けたメカニズムを考案
すべきであろう。
その他、社会人講座、小中学生のための理科教室、小中高校教員のための講座
は、広い意味での人材育成に欠かせない。
6.3
加速器建設や加速器を用いた研究開発の進め方
本報告書の第5章では、加速器利用研究の推進に向けて、今後いかなる点に留
意し、いかなる措置を講じるべきかという方策の議論を展開した。日本では、こ
れからも加速器の建設は進むであろうし、また、加速器を用いた研究も進む。し
かしながら、我が国の厳しい財政状況を考慮すると、将来の加速器の建設や利用
研究は、国全体としてどのような施設が必要であり研究を行うべきかということ
を十分に検討・調整した上で、真に必要とされるもののみ行うことが求められる。
今後の留意点を、以下に箇条書き風にまとめる。
(提 言)
(1)エキスパートによる加速器研究開発の評価
加速器建設や利用の財源が異なっても、日本全体として加速器科学を広く検討
し、分野ごとの将来も見据え、建設計画や利用の方針を検討するために、エキス
パートで構成された評価組織(リサーチカウンシル)によって、加速器研究開発
の状況を定期的に評価することが望ましい。
リサーチカウンシルの設置形態や設置先については特にこだわらないが、任務
として、定期的に(たとえば毎年1回)加速器の利用状況や建設状況をレビュー
し、さらに必要に応じて新設計画の調整も行なうようにする。また、このリサー
チカウンシルには人文社会などの加速器分野以外の有識者も含める。
6−3
これまで我が国では、欧米諸国で進められている計画を後追いするような計画
が多かった。そこで、リサーチカウンシルは諸外国の動向を探るのではなく、科
学技術・学術の動向を独自に判断できることが望ましい。
(2)国際分担の明確化
大型加速器については、国際状況を把握し、日本としての国際的な分担を明確
にするべきである。さらに、建設や施設の運営にあたっては、その加速器が世界
のセンター的加速器ならば、世界的な分担に関して権威ある委員会等の議を経て
世界の中での役割を明確にすることが必要である。世界の三極の一つを形成する
日本に設置されるべき加速器に関しては、それが世界的には「世界の COE」を形
成して世界のリーダーシップを取ることができうるかを十分に評価する必要が
ある。
また、加速器建設に当たっては、特定の組織の考え方のみを尊重するようなこ
とを避け、また、加速器の運営では施設の独自性を重んじる。
(3)新しい加速器建設方式
加速器建設の進め方として、ある建設チームが必要に応じて異なった機関の加
速器建設に携わるという新たな建設請負方式や、建設分担方式を取り入れること
ができるよう検討することが必要である。また、建設費にR&D経費と予備費を
考慮したものをプロジェクトの総経費と考えることも必要である。
(4)組織間の連携強化
大型加速器の場合、加速器施設を持つ大学や研究所と、その加速器を利用する
大学や研究所が存在するが、両機関の連携を強化し、双方が自由に乗り入れる形
での連携研究を強く推進することが重要である。この際、両機関にまたがった研
究が進められるような仕組みを検討することが必要がある。
(5)産官学連携の必要性や規制緩和
従来の産学官連携の様式は学官先導型が主であった。今後は、応用のニーズに
対応し、応用のニーズを開拓する姿勢が大切であり、産先導型の研究開発も重要
となる。このような産官学連携の実現のための、投資・環境整備、継続的な人材
6−4
育成が必要である。
また、産学官連携に当たっては、種々の規制が連携の弊害となることがあり、
これらの規制緩和を有効的に議論できる場が必要である。
6.4
J-PARC, RIBF, SPring-8, HIMAC の4加速器フォローアップ
本報告書の冒頭にも述べたが、本検討会は原子力委員会の下に設けられた検討
会である。原子力委員会は、放射光・重粒子線・中性子ビーム・RI ビーム等の
加速器が拓く新たな分野の育成に重点を置いて加速器分野を育ててきた。その例
が、第4章で述べられた4つの加速器である。これらは、それぞれに巨額の資金
が投じられて建設され、あるいは、運営されている。
これら原子力長期計画に基づいて進行中の大型加速器4プロジェクトのうち、
J-PARC と RIBF は目下建設中であり、SPring-8 と HIMAC はすでに稼働中であり、
4プロジェクト共に世界最先端の研究施設として機能することが期待されてい
る。今回、4プロジェクトをフオローアップしたところ、建設中の2計画は、概
ね順調に建設は進行している。一方、稼働中の SPring-8 における創造的な研究
によって生み出された新発見は,新産業・新技術の創出を促し,そこから得られ
る研究成果は社会に還元されるものと期待できる。今後、J-PARC や RIBF が完成
すれば、同様な効果が期待できる。また、医療用加速器 HIMAC を用いての従来に
ない画期的な治療法は、高度先進医療の承認を終えて、国民医療の中に重粒子線
による癌治療を定着させることへの貢献が期待できる。
これら大型加速器による成果は、国民の知的好奇心をかきたて,科学技術に対
する関心を呼び起こすと共に,若者に夢を与えて先端的科学技術分野に進もうと
する意欲を持たせるきっかけを作ることにも繋がると期待できる。
(提 言)
以上を総合して、科学技術の発展において,これら4件の大型加速器プロジェ
クトは,今後も適切に推進されることが望ましい。
一方、これら大型加速器4プロジェクトは大型であり、その建設、運営に当た
っての予算規模は極めて大きいことを考慮すれば、国際社会の中での分担や競争
を、投入している国費の生産性・投資効率の観点から評価し、それぞれの計画の
6−5
中で緊急性・重要性の高いものから優先的に投資することにより、国費を有効に
活用していくことが重要である。
6.5
レーザー研究
最後に、本検討会では、レーザーに関する議論を何回か行った。広汎なレーザ
ーの役割のごく一部について議論を始めたに過ぎないが、原子力先端研究におけ
るレーザーの役割は重要であり、その応用性の高さや将来性に関しては、非常に
重要なものであるとの確信を得た。
(提 言)
最近急速に長足の進歩を遂げている高強度・短パルスレーザーは、加速器への
応用(小型加速器や加速器要素など)を含む原子力の新しい展開に重要な新しい
ツールとして登場しつつある。これを原子力研究に有効に生かし取り入れていく
ことは21世紀の原子力やより広い科学技術の発展に極めて大切である。
6−6
【用語集】
ア
アンジュレータ
電子ビームを周期的磁場の中を通すことにより、電
子から単色(に近い)光を出す装置
アルバレ型リニアック
リニアックでイオンを高エネルギーまで加速するた
めに開発されたのがアルバレ型リニアックで、より周
波数の高い高周波を用いている。タンクと呼ばれる円
筒空洞の中心軸上にステムと呼ばれる導体で支持され
たドリフトチューブが並んでおり、全体としてドリフ
トチューブとタンクからなる二重の円筒状導体で形成
される空洞共振器になっている。この空洞内に高周波
電力を供給すると定在波が励起され、各ドリフトチュ
ーブの間隙に励起される電界の向きは(高周波の周期
で変化するが)すべて同じである。1946 年に Luis W.
Alvarez によって初めて建設されたので、アルバレ型と
呼ばれている。
ウ
ウィドレー型リニアック
直線状に並べた中空円筒電極(ドリフトチューブ)
を交互に高周波電源の両極に接続すると、高周波によ
って電極間隙には加速電界が生じるが、電極内には電
界がなくイオンは加速されない。そこでイオンの速度
に比例してドリフトチューブを長くし、イオンがそれ
ぞれのドリフトチューブを通過する時間を高周波の半
周期と同じにすると、イオンは電極間隙を通過するた
びに加速されるようになる。この原理の加速器は 1928
年に R.Wideroe によって初めて建設されたので、ヴィ
ドレー型リニアックと呼ばれている。
なお、イオンのエネルギーが高くなるとドリフトチ
ューブが長くなり、実用的でなくなるので、この加速
器は比較的低エネルギーのイオンを加速するのに用い
られる。
エ
SLAC
スタンフォード線型加速器センターの英略。スタン
フォード大付属で世界の代表的線型加速器研究所
用語 - 1
カ
核融合爆縮ターゲット
レーザー核融合研究で用いられる小さな球状燃料
(重水素を含むプラスティック)
。この燃料球に強いレ
ーザーを照射して爆縮(内向きに爆発)させることに
より点火する。
完全空間コヒーレントで高縮重
レーザー光の特質として、光がコヒーレント(位相
のピコ秒X線フォトン
が揃っている)で同じ波長の中に多量の光子が詰まっ
ている状態を持つ。ピコ秒の長さの X 線レーザーもこ
うした性質を持つ。
キ
希少核の中性子反応の逆過程
核(A)に中性子が当るとその核からより重い核に変
換し、場合によってはガンマ線発生等を伴い更に違う
核(B)に変換することがある。こうした反応の断面積
を知ることは核変換の研究に重要であるが、稀な核(不
安定核など)の場合、サンプルが用意できず実験が困
難。A→B の核反応断面積と B→A の断面積は等しいの
で、
(より多くある)B 核にガンマ線を当てることで A
→B 反応断面積を測定できる。
コ
コッククロフトウォルトン装置
多段倍電圧整流装置により直流高電圧を発生させ、
(加速器)
イオンや電子を加速する装置で、1929 年に John D.
Cockcroft と Ernest T. S. Walton によって開発された。
二人はこの装置を用いて核反応の実験を世界で始めて
行った。通常1MV 以下の高電圧の発生に用いられてい
る。
直列につないだダイオード(整流器)を一つおきに
コンデンサーで結んだ三角形を連ねた形の回路を作
り、その一端を変圧器の二次側の両極に繋ぐと、交流
の倍電圧の直流電圧を発生させることができる。これ
が多段倍電圧整流装置で、その高電圧側に設置したイ
オン源(イオン発生装置)あるいは電子銃(電子発生
装置)から出るイオンあるいは電子を加速管で加速す
る装置がコッククロフトウォルトン装置である。
シ
シュインガー場
極強度の電磁場で、この強度以上では、真空が電子
と陽電子に分極し崩壊するとされている場。シュイン
ガーが最初に提起した。
用語 - 2
ス
スーパーカミオカンデ
岐阜県神岡町の旧神岡鉱山に設置されたニュートリ
ノ検出装置。ニュートリノが 50,000 トンの純水との反
応する際に発生する微弱なチェレンコフ光と呼ばれる
光を、一万本以上の光電子増倍管によって測定。太陽
ニュートリノや大気からのニュートリノの観測に成
功。ニュートリノ振動と呼ばれる新現象を発見。
タ
ダイナミトロン
多段倍電圧清流回路を発展させ、入力の周波数を高
くしてコンデンサーを電極の浮遊容量で置き換え、高
圧ガスタンクに封入した装置が「ダイナミトロン」の
商品名で市販されている。比較的小型で高電圧(5MV
程度まで)
・大電流が得られる。
タンデトロン
小型化されたダイナミトロンをタンデム方式で使用
する加速装置で「タンデトロン」の商品名で市販され
ている。正の高電圧電極にチャージストリッパー(電
荷剥ぎ取り器)を設置し、アース側から負イオンを正
電極に向けて加速する。負イオンは電極上のチャージ
ストリッパーを通過して電子を失い陽イオンになり、
アース側に向かって加速される。これがタンデム方式
で、二つの加速管を縦につないでいるので tandem と呼
ばれている。
タンデムバンデグラフ
バンデグラフをタンデム方式で用いた加速器をタン
デムバンデグラフと呼んでいる。高圧電極の電圧が高
いほど、チャージストリッパーを通過したイオンは多
価のイオンになるので、エネルギーをより高くできる。
一般にバンデグラフはビーム性能が高く、精密実験
に用いられている。
チ
テ
チャープパルス増幅
レーザーパルスを時間的に拡張することにより、レ
(Chirped Pulse Amplification;
ーザー媒質の破壊限界を大幅に下げることで超高強度
CPA)
に増幅する方法。
電子リニアック
電子は質量がイオンの 1800 分の一であり、エネルギ
ーが1MeV 以上になるとほぼ光速に達する。
したがって
電子の場合には、加速されるとその質量が増すことに
なる。そのため、電子リニアックは円筒導体に一定の
用語 - 3
間隔で銅製の穴あき円板をはめ込んだ構造になってい
て、この中を高周波が電子と同じ速度で伝播するよう
にする。その場合、電子は進行する高周波電界に乗っ
て加速される。
電子リニアックは、電子銃、プレバンチャー、バ
ンチャー、収束コイルと加速管のほか、クライストロ
ンや導波管などから構成されている。
ハ
爆縮用レーザー
レーザー核融合研究では、小さな球状燃料(重水素
を含むプラスティック)に強いレーザーを外から球状
に照射する。これにより燃料が爆縮(内向きに爆発)
する。このために使われる大出力のレーザー。
バンデグラフ
ベルト起電機を用いて発生させた正(負)の高電圧電
極上にイオン源(電子銃)を設置し、加速管を通して
加速する装置がバンデグラフである。1931 年に Robert
J. Van de Graaff がはじめて建設したのでこの名がつ
いている。
ベルト起電機は、絶縁ベルトに電荷をのせ、滑車で
ベルトを動かして高電圧電極まで運ぶ方式の高電圧発
生装置である。なお起電機や加速管、チャージストリ
ッパーは絶縁性のガスを封入した高圧タンクに収めら
れている。
現在では、絶縁ベルトの代わりに金属ペレットを絶
縁ワイヤーで繋いだペレットチェーンで電荷を運ぶ方
式を用いた装置が主流になっており、20MV 以上の高電
圧を発生する加速器も作られている。なお、中型の装
置が「ペレトロン」の商品名で市販されている
ホ
補正光学(アダプティヴ光学)
レーザーの波面の乱れなどを測定し、その情報のフ
ィードバックをオンラインで行うことにより、その波
面の乱れなどを矯正し、高品質のレーザーにする技術
体系。
用語 - 4
【参考】
Ⅰ.研究開発専門部会加速器検討会の設置について
Ⅱ.加速器検討会構成員
(平成15年12月26日現在)
Ⅲ.研究開発専門部会加速器検討会の審議経過
(平成15年12月26日現在)
参−1
研究開発専門部会加速器検討会の設置について
平成 13 年 10 月 9 日
原子力委員会
研究開発専門部会
1.目的
「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」に基づき、加速器分
野における研究開発の着実な推進を行うため、研究開発専門部会の下に、
加速器検討会(以下、「検討会」という。)を設置し、調査審議を行う。
2.調査審議事項
(1)大型既存プロジェクトのフォローアップに関する事項
(2)加速器開発利用の進め方に関する事項
(3)その他
3.検討会の構成
別紙のとおりとする。
4.検討の進め方
検討会における議事は、原則として公開とする。ただし、検討会が議事
を公開しないことが適当であると判断したときは、この限りでない。
5.その他
(1)検討会の座長は、必要があると認めるときは、部会長と協議の上、調
査審議の結果について、原子力委員会に直接報告することができるも
のとする。
(2)その他検討会の運営に必要な事項については、検討会で定める。
参−2
加速器検討会構成員
(平成15年12月26日現在)
○参与
(座長)永宮
正治
高エネルギー加速器研究機構教授
粟屋
容子
武蔵野美術大学造形学部教授
上坪
宏道
理化学研究所和光研究所所長、中央研究所所長(兼務)
小林
直人
独立行政法人産業技術総合研究所理事
曽我
文宣
放射線医学総合研究所加速器物理工学部客員研究員
高橋
直樹
住友重機械工業(株)取締役専務執行役員技術本部長
田島
俊樹
日本原子力研究所関西研究所所長
田中
俊一
日本原子力研究所理事・東海研究所所長
谷畑
勇夫
理化学研究所理事
土井
彰
○専門委員
(株)日立製作所名誉嘱託
参−3
研究開発専門部会加速器検討会の審議経過
(平成15年12月26日現在)
第1回
平成 13 年 12 月 12 日(水)
議題
(1)大型加速器計画の現状について
(2)大学の加速器の現状について
(3)加速器検討会の当面の進め方について
第2回
平成 14 年 10 月 21 日(月)
議題
(1)国内外加速器の利用実態に関する報告書について
(2)大型加速器計画のフォローアップについて
第3回
平成 15 年 4 月 21 日(月)
議題
(1)大型加速器施設のフォローアップについて
(2)加速器研究開発利用についての意見聴取
(大阪大学 産業科学研究所
(3)加速器検討会
第4回
田川教授)
今後の検討内容について
平成 15 年 7 月 9 日(水)
議題
(1)加速器研究開発利用についての意見聴取
・日本原子力研究所 関西研究所
田島所長
・高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
神谷施設長
(2)加速器検討会
第5回
今後の検討内容について
平成 15 年 8 月 1 日(金)
議題 (1)加速器研究開発利用についての意見聴取
(京都大学大学院
今井教授)
(2)今後の検討項目について
(3)大型加速器計画の現状と将来展望
参−4
第6回
平成 15 年 9 月 2 日(火)
議題
(1)原子力予算について
(2)加速器研究開発利用に係る論点整理
第7回
平成 15 年 12 月 1 日(月)
議題
第8回
平成 15 年 12 月 15 日(月)
議題
第9回
(1)加速器検討会報告書とりまとめについて
(1)加速器検討会報告書とりまとめについて
平成 15 年 12 月 26 日(金)
議題
(1)加速器検討会報告書とりまとめについて
参−5
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