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2013 年 5 月 29 日(水)連載「クルマイノベーション~変わる自動車素材
2013 年 5 月 29 日(水)連載「クルマイノベーション~変わる自動車素材~」 (1)ハイテン材の採用拡大 日産は17年以降に発売するモデルにハイテン材を 25%使用 「やっと1部品、1グラムの軽量化を実現することができてきた。今後も軽量化には 特に力を入れていく」(スズキ・鈴木修会長兼社長)―スズキが今春開発した軽乗用 車「スペーシア」(NA・2WD)は、29キロメートル/リットルを達成した。クラストップと なる低燃費に貢献したのが、軽量化技術だ。高張力鋼板(ハイテン材)を多用するな どして従来モデルと比べて車両重量を約90キログラム軽くした。 スペーシアにはボディーをはじめ、ドアパネルやシートフレームにまでハイテン材を 使用した。最高1180メガパスカルのハイテン材を、重量ベースでボディー全体の約 42%に使用することでボディー剛性の確保と軽量化を両立した。 ◆軽量化に注力する日系自動車メーカー 自動車の低燃費化のために軽量化に注力する日系自動車メーカーが、自動車への ハイテン材の採用を拡大させている。ハイテン材は強度が高いため、従来鋼板と比べ て薄くすることが可能で、同じ強度を確保するなら軽くすることができる。ただ、加工技 術が困難なことや通常の鋼板と比べてコストが高いことがネックだった。 スズキの本田治副社長は「価格に敏感なユーザーが多い軽自動車にハイテン材を 増やすことに(コストアップの)不安があったが、車体構造を工夫することによって、コ ストも抑えながら重量を大幅に減らすことができた」と語る。低燃費モデルのラインア ップ拡充を掲げるスズキは、ハイテン材の採用を今後も拡大していく方針だ。 鉄鋼メーカーの試算によると車両重量を100キログラム軽くすると、単純計算で燃 費は約1・0キロメートル/リットル改善する。「ハイテン材が低燃費化に寄与する余 地はまだまだ広い」と新日鉄住金の担当者は話す。 ◆燃費規制への対応や安全対策の強化へ 自動車メーカーが低燃費化に注力するのは、世界的な燃費規制の強化が背景にあ る。米国では、販売する乗用車と小型トラックの平均燃費が2017年から段階的に引 き上げられる予定。現在の燃費規制は35・5マイル/ガロン(約15・1キロメートル/ リットル)だが、25年には平均54・5マイル/ガロン(約23・2キロメートル/リットル) と平均燃費を約2倍に引き上げる必要がある。欧州では、15年に新車のCO2排出 量120グラム/キロメートルを達成した後、20年までに95グラム/キロメートルに引 き上げる計画。日本も09年度の車両質量平均1200キログラムの実績値16・3キロ メートル/リットルを、20年までに20・3キロメートル/リットルと、燃費を約25%アッ プが求められる。 加えて、自動車は安全対策の強化を求められており、今後も安全装備の充実によ る車両重量の増加は避けられない。市場では、燃費を重視する消費者が増え、燃費 性能が販売を大きく左右する中で、自動車メーカー各社は、低燃費車の開発に力を 入れている。 エンジンの改良やハイブリッド車(HV)、アイドリングストップシステムなどによる低 燃費化技術と同様、軽量化も車両を低燃費化するための重要な技術となっており、 軽量化するため、材料から見直す動きが加速している。 日産自動車は、新日鉄住金、神戸製鋼所それぞれと1・2ギガパスカルの超ハイテ ン材を共同開発し、年内に北米で発売する「インフィニティQ50」に初めて採用する。 さらに日産は17年以降に発売する新型車には、重量ベースで25%にまで拡大する 計画を公表した。 ハイテン材は高強度になればなるほど、材料の延びが抑えられ、破断やシワがでる などの弊害が出てくる。「スプリングバック」と呼ばれる元の形状に戻る力が強いため、 強度の高い超ハイテン材は加工が難しい。日産が採用する1・2メガパスカル級超ハ イテン材は、材料配合を見直すことで、高い延性を確保、スプリングバックを抑え、従 来の超ハイテン材では難しかった複雑な形状の部品の加工も可能になった。日産が 素材メーカーである新日鉄住金、神戸製鋼それぞれと共同開発に力を入れてきた成 果だ。 ◆難しい高強度のハイテン材の採用拡大 自動車へのハイテン材の採用は1985年ごろから本格化してきた。最近では、より 高強度な部材を採用しており、これに伴って採用できる部位も拡大している。加工が 難しい高強度のハイテン材の採用が拡大しているのは、シミュレーション技術の進展 していることも背景にある。加工した場合の変形、応力やひずみを正確に予測できる ようになってきたためだ。これらは自動車メーカーと素材メーカーが従来以上に強力 にタッグを組んでいることが大きい。 千葉・市原市にあるJFEスチールの研究所。全国に5カ所ある同社の研究所のうち、 千葉は自動車向け材料を中心とした研究所で、日系自動車メーカーに対してハイテ ン材など、様々な提案活動を行っている。年間1千人を超える自動車メーカーのエン ジニアがこの研究所を訪れるが「ここ数年、強くて軽い素材を求める自動車メーカー の意気込みは相当なもの」。 最近でも、ここを拠点に開発した780メガパスカル級の高張力合金化溶融亜鉛めっ き(ハイテンGA)鋼板が乗用車の骨格部品に採用された。研究所には素材を分析し たり、解析する設備も数多く揃えており、自動車メーカーの開発担当者とひざを突き 合わせてハイテン材を採用するための知恵を出し合う。「以前の自動車メーカーなら、 こういう素材がほしいと一方的だった。最近は軽量化するための素材を採用するため、 自動車の設計を変更するほどだ」。素材メーカーも、自動車メーカーの軽量化に向け た取り組みの本気度を肌で感じている。