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CPのペーパーレス化に関する研究会報告書(2000年3月

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CPのペーパーレス化に関する研究会報告書(2000年3月
 CPのペーパーレス化に関する研究会報告書
平成12年3月
CPのペーパーレス化に関する研究会
コマーシャル・ペーパーのペーパーレス化
のための法制度の整備について
1
法制度の整備の必要性
現行のコマーシャル・ペーパーは,法人が事業に必要な資金を調達するため
に発行する約束手形であって,その法人の依頼によりその支払を行う銀行等の
金融機関が交付した「CP」の文字が印刷された用紙を使用して発行するもの
であると定義されている(証券取引法第2条 1 項8号,証券取引法第2条に規
定する定義に関する省令第 1 条)。
このように,現行のコマーシャル・ペーパーが約束手形とされていることか
ら,権利の内容が券面の記載により決定され,また,券面の所持者が権利者と
推定されるため,権利の流通性や取引の安全性が確保されているという利点が
ある。
他方,権利の発生,移転及び行使に券面の作成,移転及び呈示が必要である
ことから,発行段階における券面作成事務の負担が大きいこと,また,発行,
償還時における即日の資金の受入れ,弁済が困難であること,流通段階におい
ても資金の即日決済(T+0)が困難であるほか,券面の交付と支払の同時履
行(DVP)の実現が困難であることや券面の交付に伴う紛失等の事故の発生
の危険性(デリバリー・リスク)があること等の問題がある。
本研究会では,現行のコマーシャル・ペーパーの利点を生かしながらその問
題点を解消するため,権利の発生,移転及び行使のすべての段階において券面
の作成等を要しないコマーシャル・ペーパーの実現を図ることとし,その方式
について,現行の約束手形という性格にとらわれることなく,幅広い角度から,
検討を重ねてきた。
その結果,基本的な方向としては,以下に示すとおり,券面に代わる電子的
な記録を基礎として,権利の発生,移転,消滅等が決定されるものとすること
が適当であり,このような電子的な処理に権利の発生,移転,消滅等の効果を
付与する法制度の整備が必要であるとの見解に達した。
(注)本研究会の検討結果に基づく新たなコマーシャル・ペーパーは,権利の発生,
移転,消滅等が電子登録によって行われる特殊な債権として構成され,民法上
の指名債権とは異なるものとなるが,債権の流通性を高める方法としては,民
1
法上の指名債権について,譲渡契約等の意思表示を電子的に行った上で,債権
譲渡の対抗要件については,電子的な確定日付の取得によって備えるという方
法も考えられる。
この点については,今通常国会に,指定公証人は,嘱託により,電磁的方式に
より電磁的記録に確定日付を付与することができること,及び指定公証人は,
確定日付を付与した電磁的記録を保存し,その内容に関する証明をすることが
できること等を内容とする民法施行法の一部改正案を盛り込んだ商業登記法等
の一部を改正する法律案が提出されている。
また,コマーシャル・ペーパーのペーパーレス化のための法制度の整備及び
システムの構築に際しては,DVPの実現を図るなど,現在,金融審議会等に
おいて検討されている証券決済システムの改革の動向にも配慮することが必要
である。
2
コマーシャル・ペーパーの商品性と法制度の枠組み
本研究会では,コマーシャル・ペーパーのペーパーレス化の方法を検討する
際の基本的な視点として,現行のコマーシャル・ペーパーの商品性を念頭に置
き,法人の短期的な資金調達の手段として,より活用されるために必要な機能
をこれに付与するという観点からの検討を加えた。
その結果,新たなコマーシャル・ペーパーの商品性については,基本的に現
行の商品性を踏襲すべきであり,また,新たなコマーシャル・ペーパーが転々
と流通する可能性のあるものと考えられることから,証券取引法上の有価証券
として取り扱うことが適当であるとの意見が大勢を占めた。
他方,新たなコマーシャル・ペーパーについて,電子的な記録を基礎として,
権利の発生,移転,消滅等が決定されるものとすることが必要であるとの,本
研究会の検討結果は,従来コマーシャル・ペーパーと定義されているものに限
らず,法人がその資金調達のために負担する金銭債務一般に応用しうる性格の
ものであることも考慮にいれておく必要がある。
そこで,新たな法制度の適用範囲が問題となるが,これについては,法人の
資金調達のための諸制度(特に社債制度)との整合性,その利用可能性等を勘
案して,現実の法制化の際に十分検討されるべきである。
なお,現行のコマーシャル・ペーパーについては,ペーパーレス化が図られ
た後もなお存在意義があるものと考えられ,法人はそのいずれによっても資金
調達を可能とすることが望ましい。
(注)現行のコマーシャル・ペーパーの商品性は,次のとおりである。
2
①
発行者
法人(CPの定義‐証券取引法2条1項8号)
②
投資家
特に規定なし
③
償還期間
1 年未満(印紙税の特例対象‐租税特別措置法施行令第52
条,金融機関の証券業務対象‐証券取引法第65条第2項第
2号)
④
額面
1 億円以上(印紙税の特例対象‐租税特別措置法施行令第9
1条の2)
⑤
3
発行方法
ディーラー発行,直接発行
法整備の基本的な枠組み
(1)
権利発生等の基礎
コマーシャル・ペーパーのペーパーレス化を図るため,電子的な記録を
基礎として,権利の発生,移転,消滅等が決定されるものとする法律を制
定するという基本的な方向について,本研究会の意見は一致したが,何を
もって権利の発生,移転,消滅等の基礎となる電子的な記録とするかにつ
いては,次の2つの意見があった。
一つは,権利の発生,移転,消滅等が個々の電子的な記録を基礎として
生じるとするもの(電子証券方式)であり,もう一つの考え方は,一定の
者への電子的な記録を基礎とするもの(電子登録方式)である。それぞれ
の意見の概要は,以下のとおりである。
ア
電子証券方式
個々の電子的な記録を権利関係の基礎とする考え方である。現行のコ
マーシャル・ペーパーにおいて,権利の発生,移転,行使等が証券の作
成,移転,呈示等によって行われるのと同じように,電子的な記録の作
成,送信等によって行われるものとするものである。
電子証券方式によるときは,権利の発生,移転,行使等に関しては,
次のように考えることができる。
(ア) 権利の発生
電子証券の発行者となろうとする法人が,ペーパーレス化したコマ
ーシャル・ペーパーである旨,債権額,債権者,支払条件等を記録し
た電子的な記録に電子署名を付して債権者に送信することにより,権
利が発生する。
(イ) 権利の移転
譲渡人が,電子証券に譲渡する旨,譲受人の氏名等を記録し,電子
3
署名を付して譲受人に送信することより,権利が移転する。
電子証券が複写されて二重譲渡がされる場合の優劣関係を決定する
ために,別途,債務者又は第三者が管理する電子債権ファイルに譲渡
の記録をすることとし,これを対抗要件とする。
(ウ) 権利の行使
債権者は,電子証券に支払のために呈示する旨の文言を記録し,こ
れに電子署名を付して債務者に送信する。支払がされたときは,支払
を受けた旨の文言を記録し,これに電子署名を付して債務者に送信す
る。
イ
電子登録方式
登録機関における電子登録を権利関係の基礎とする考え方である。電
子登録方式によるときは,権利の発生,移転,行使等に関しては,次の
ように考えることができる。
(ア) 権利の発生
法人は,その申出により,電子債権登録機関が電子債権ファイルに,
債権者,債務者,債権の額,弁済期等を記録したときは,その記録に
従い支払をする義務を負うものとする。この場合において,電子債権
登録機関への申出は,電子債権ファイルに記録すべき事項等を記録し,
電子署名を付して行う。
(イ) 権利の移転
権利の譲渡は,電子債権登録機関が,譲渡人の申出により,電子債
権ファイルに振替の記録をすることにより,その効力を生ずるものと
し,民法の指名債権譲渡の方法により譲渡することはできないものと
する。
(ウ) 権利の行使
債務者は,弁済期に電子債権ファイルに債権者として記録されてい
る者に支払をすれば,悪意又は重大な過失がない限り,その責を免れ
ることとする。
債務者は,支払をするに当たり,電子債権登録機関に対し,電子債
権ファイルに権利の抹消の記録をすべきことを請求することができる
ものとする。
債務の消滅の時点は,電子債権ファイルに記録したときとする。
(2)
基本的な方向性
権利の発生,移転,消滅等について,個々の電子的な記録自体を基礎と
4
する電子証券方式と一定の者への電子的な記録の登録を基礎とする電子登
録方式のいずれを立法の基礎とするかについては,意見が分かれた。
本研究会は,いずれの方式についても,その可能性を否定するものでは
ないが,券面の発行又は不発行にかかわらず,効率的な十分に整備された
証券集中保管機構による振替により権利の移転が生じるブックエントリ
ー・システムとするのが,現時点における世界標準であり,G30勧告及
びISSA修正勧告の趣旨にも沿うものであることから,現時点において
は,電子登録方式を基本として立法措置を講ずることとし,電子証券方式
については,なお今後の検討課題とするのが適当であるとの結論を得た。
4
法案に盛り込むべき事項
以上の検討を踏まえて,今後,関係省庁において,ペーパーレス化したコマ
ーシャル・ペーパーに係る権利の発生,移転,消滅等に関する基本的な事項を
規定した法案の制定に向けての作業が進められることが適当である。
以下は,この法案に盛り込むべき事項についての本研究会での基本的な考え方
を示したものである。
(1)
電子債権登録機関等
ア 電子債権登録機関
(ア) 電子債権登録機関の指定
主務大臣は,申請者が一定の欠格事由に該当しない場合において,その
者が(イ)のaの各号に掲げる業務(以下「電子債権登録業務」と仮称する。)
を適正かつ確実に行うことができると認められるときは,電子債権登録機
関(仮称)として指定することができるものとする。
(イ) 電子債権登録機関の業務
a 電子債権登録機関は,法律の定めるところにより,次の各号に掲げる
業務を行うものとする。
(a)
(b)
(c)
参加者口座ファイルの保管に関すること。
参加者口座ファイルの記録に関すること。
その他法律により電子債権登録機関が行うこととされている業務
b 電子債権登録機関は,その業務の一部を,主務大臣の承認を受けて,
他の者に委託することができる。
(ウ) 監督規定
電子債権登録機関に対する監督について,所要の規定を設ける。
5
(注)電子債権登録機関の組織及び監督の在り方並びに兼業業務を認めるかどうか
については,電子債権登録業務の公正性,中立性,安全性等を確保する観点か
ら,法制化の際に十分検討されることが必要である。
イ
参加者口座ファイル等
(ア) 参加者口座ファイル
a 電子債権登録機関は,債権の振替等を行うための参加者口座ファイル
を磁気ディスク等をもって調製しなければならない。
b 参加者口座ファイルには,参加者及び債務者の商号,本店の所在地等,
債権の額,弁済期等を記録する。
(イ) 顧客口座ファイル
a 参加者は,顧客のために自己の名をもって債権を有するときは,債権
の振替等を行うための顧客口座ファイルを磁気ディスク等をもって調
製しなければならない。
b 顧客口座ファイルには,顧客の商号,本店の所在地等,債権の額,弁
済期等を記録する。
(注) 電子債権ファイルにつき,米国のDTCと同様の階層構造を採ることができるこ
ととするものである。
現在のコマーシャル・ペーパーのみを考えるときは,単層構造でも十分に対応で
きるが,今後制度が広く利用されるようになると,同一のディーラーの顧客間で譲
渡がされた場合に電子債権登録機関の決済システムに掛かる負荷を軽減できるこ
ととしておく利点がある。また,国際的な証券集中保管機構の口座開設を認めるこ
とにより,非居住者である投資家の利用を促進できる等の利点もある。
なお,参加者の下に間接参加者を設けるかどうか,国際的な証券集中保管機構が
参加者となる場合の取扱等の問題については,法制化の際に十分検討されることが
必要である。
(2) 法人に対する金銭債権の発生、譲渡、行使等に関する民法の特例
ア 債権の発生
(ア) 法人は,その申出により,電子債権登録機関が参加者口座ファイルに,
(1)のイの(ア)のbに掲げる事項を記録したときは,その記録に従い支払を
する義務を負うものとする。
(イ) 法人は,参加者が顧客のために自己の名をもって債権を有する場合に
おいて,参加者が顧客口座ファイルに(1)のイの(イ)のbに掲げる事項を記
録したときは,その記録に従い支払をする義務を負うものとする。
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イ
債権の譲渡
(ア) 参加者口座ファイル又は顧客口座ファイルに(1)のイの(ア)のb又は
(1)のイの(イ)のbの記録がされた債権(以下「電子債権」と仮称する。)
の譲渡は,電子債権登録機関又は参加者が,譲渡人の申出により,これ
らのファイルに(1)のイの(ア)のb又は(1)のイの(イ)のbに掲げる事項に
つき振替の記録をすることにより,その効力を生ずるものとする。
(イ) (ア)の規定は,電子債権を質権の目的とする場合の振替について準用す
るものとする。
(ア)の規定(前段の規定において準用する場合を含む。)は,電子債権
につき振替を受けた質権者が他の口座への振替を請求する場合について
準用するものとする。
(ウ) 参加者口座ファイル又は顧客口座ファイルに参加者又は顧客として記
録された者は,これらのファイルに記録された電子債権に係る権利を適
法に有するものと推定するものとする。
(エ) 参加者口座ファイルに参加者として記録されている者から,その参加
者自己分に係る電子債権につき振替を受けた者は,即時にその電子債権
を取得するものとする。ただし,この者が悪意又は重大な過失により振
替を受けたときは,この限りでないものとする。
顧客口座ファイルに顧客として記録されている者から,その顧客に係
る電子債権につき振替を受けた者についても,同様とする。
(オ) 債務者は,参加者口座ファイルの参加者自己分に係る電子債権につき,
当該参加者の前者に対する人的関係に基づく抗弁をもって,その参加者
に対抗することができないものとする。ただし,その参加者が債務者を
害することを知って電子債権につき振替を受けたときは,この限りでな
いものとする。
債務者は,顧客の前者に対する人的関係に基づく抗弁をもって,当該
顧客に対抗することができないものとする。ただし,その顧客が債務者
を害することを知って電子債権につき振替を受けたときは,この限りで
ないものとする。
(カ) 債務者は,参加者口座ファイルの顧客委託分に係る電子債権につき,
顧客に対する人的関係に基づく抗弁をもって,参加者に対抗することが
できるものとする。
ウ
債務の支払
(ア)
弁済期において,参加者口座ファイル又は顧客口座ファイルに参加者
又は顧客として記録された者に支払をする債務者は,悪意又は重大な過
7
失がない限り,その責任を免れるものとする。
(イ)
債務者は,支払をするに当たり,電子債権登録機関に対し,電子債権
ファイルに電子債権の抹消の記録をすべきことを請求することができる
ものとする。
債務の消滅の時点は,電子債権ファイルに記録をしたときとする。
(注)個々の電子債権を記番号等で特定し,権利移転の履歴を明らかにして記録する
登録型とするのか,個々の電子登録債権を特定せず,最終的な口座間における金
額の振替を記録する振替型とするかについては,法制化の際に十分検討されるこ
とが必要である。
(3) 電子債権登録機関等の賠償義務等
ア 電子債権登録機関は,参加者口座ファイルに,債務者の申出によらず,又
は申出の範囲を超えて電子債権の記録をしたときは,参加者及び顧客に対し
て,これによって生じた損害を賠償する責に任ずるものとする。ただし,参
加者又は顧客に悪意又は重大な過失があるときは,この限りでないものとす
る。
前段本文の場合において,参加者又は顧客は,参加者口座ファイルの参加
者自己分及び顧客口座ファイルに記録された電子債権の額に応じて,債務者
の申出の範囲に係る電子債権について権利を有するものとみなすものとす
る。
イ 参加者は,参加者口座ファイルの顧客委託分に係る債権の額を超えて顧客
口座ファイルに顧客の電子債権の記録をしたときは,顧客に対して損害を賠
償する責に任ずるものとする。ただし,顧客が悪意又は重大な過失により電
子債権を取得したときは,この限りでないものとする。
前段本文の場合において,顧客は,顧客口座ファイルに記録された電子債
権の額に応じて,顧客委託分に係る電子債権について権利を有するものとみ
なすものとする。
(4) 時効
電子債権は,3年間これを行わないときは,時効により消滅するものとする。
(5) 証明書の交付
参加者,顧客若しくはそれらの電子債権の質権者又は債務者は,電子債権登
録機関又は参加者に対し,利害関係を有する部分に限り,参加者口座ファイル
及び顧客口座ファイルの記録事項証明書の交付を請求することができるもの
8
とする。
(6) その他
ア 記録の更正
参加者,顧客若しくはそれらの電子債権の質権者又は債務者は,電子債権
登録機関又は参加者に対し,利害関係を有する部分に限り,電子債権登録
機関又は参加者に対し,電子債権ファイルの記録の更正を請求することが
できるものとする。
イ
強制執行等
電子債権に対する強制執行,仮差押え及び仮処分の執行,競売並びに没収
保全に関し必要な事項は,最高裁判所規則で定めるものとする。
9
CPのペーパーレス化に関する研究会委員等名簿
(メンバー)
座 長 神 田 秀 樹 東京大学法学部教授
委 員 縣 信太郎 オリックス財務部長
揚 村 康 男 野村證券金融市場部長
池 田 真 朗 慶応大学法学部教授
岩 村 充 早稲田大学アジア太平洋研究センター教授
大 村 多 聞 三菱商事法務部長
川 北 英 隆 日本生命保険資金証券部部長
神 作 裕 之 学習院大学法学部教授
黒 川 薫 日本興業銀行金融市場営業部長
杉 村 健次郎 東洋信託銀行執行役員証券業務部長
藤 田 友 敬 東京大学法学部助教授
(オブザーバー)
角 田 博 経済団体連合会経済本部本部長
斎 藤 浩 前通商産業省産業政策局産業資金課長
(平成11年7月8日まで)
田 中 洋 樹 日本銀行企画室企画第二課長
松 井 哲 夫 通商産業省産業政策局産業資金課長
(平成11年7月8日から)
(五十音順 敬称略)
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