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Tsunami Project
プロジェクト報告書(最終)Project Final Report 提出日 (Date) 2012/01/18 Tsunami Project b1009184 山本悠貴 Yuki Yamamoto 1 背景 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では様々な 3 課題解決のプロセスとその結果 3.1 前期のプロセス 材質で造られた建物が津波によって破壊され, 津波の破 前期では, シミュレーターを作成することは早めに意 壊力の凄まじさと悲惨さをまざまざと見せつけられた. 識が統一されたが, どのようなシミュレーターを作成す 人々の津波に対する意識の低さが, 被害の拡大に繋がっ るかということには慎重になった. そこで, 過去に作成 ている事実がある. これは実際の津波の恐ろしさを伝え されている地震・津波シミュレーターの調査を行う班, きれず津波に対する意識がなかったために起こったこと 防災や民話の調査を行う班, 先行研究の調査を行う班に だと考えた. そこで私たちは, 津波の動き, 破壊力を予測 分かれ, 調査結果を持ち寄り, ブレインストーミングを し, さらに津波の疑似体験ができるシステムがあれば被 行った. その結果, 津波に対する意識の低い人々のため 害を小さくできるのではないかと考えた. に津波の恐ろしさを伝えるのが重要なのではないかと考 2 課題の設定と到達目標 え, 疑似体験できる, ということを目標として決定した. 目標を達成するためにどのようなことが必要かとい このような背景を受け, 本プロジェクトは, ユーザー うことをディスカッションし, 意識の統一を行った. 津 が津波を疑似体験できるシステムの作成を目標とした. 波の発生などの仕組みを調査し, 最終的なシステムのイ その目標を達成するための課題を, ユーザーが地震につ メージを掴むためにプロトタイプを作成することを決定 いて設定ができること, 地震・津波の計算モデルを作成 した. そこでプロトタイプの実行プログラムの作成は入 すること, 作成したシミュレーションの正確性を検証す 出力班, 街に到達する前の海洋上での津波の動きを表現 ること, 疑似体験させるためのシステムを設計すること, する計算モデルを作ることについては計算モデル班, シ とした. ミュレーションする地形を 3D モデルで作成する 3D モ 前期では最終システムのイメージを掴むためにプロト デル班に分かれ活動を開始した. タイプを作成する事を目標にした. プロトタイプの作成 前期後半では, 班ごとに作成したものを結合し, デバッ を行うために3班に分かれ, プロトタイプの実行プログ グする作業を行った. そしてプロトタイプを完成させ, 発 ラムの作成を行うこと, 街の中の津波の計算を行う前段 表を行った. 階として, 街に到達する前の海洋上での津波の動きを表 3.2 前期の結果 現する計算モデルを作ること, シミュレーションの結果 入出力班は実行プログラムを作成し, プログラムに を画面に表示するために必要な地形などの 3D モデルを は計算モデルと 3D モデルが問題なく組み込まれた. シ 作ることという課題を設定した. ミュレーションの開始と一時停止, シミュレーションし 後期では, 前期のプロトタイプからの発展形である最 ている波の最大波高の表示など, パラメータ表示の機能 終システムの作成を目標とした. プロトタイプで使用し を実装した. 計算モデルも深海部と浅瀬の二種類を実装 た計算モデルは1次元のものだったが, 2次元の計算モ し, 目標を達成した.3D モデルはプロトタイプで使用し デルを採用し, また海洋上だけでなく街中の波もシミュ ているのは海底地形だけだが, 他にも車などのオブジェ レーションすることにした. そこで後期の課題を疑似体 クトを作成し, 目標を達成した. 験に用いるキャラクターの配置や操作, 海洋上の津波の 後期に向けて入出力班は疑似体験に用いるキャラク 計算モデルを作ること, 街中の津波の計算モデルを作る ターの配置や操作についての調査, 計算モデル班は1次 こと, 街並みを表現する 3D モデルを作ること, として順 元の波から2次元の波に拡張したものと, 街中での波に に入出力班, 計算モデル班, 粒子法班,3D モデル班の4班 ついての計算モデルの調査,3D モデル班はオブジェクト に分けて課題を担当した. の種類を増やす事,3D アニメーションの使用を試してみ る事を行った. 3.3 後期のプロセス 波としては成立していた. 前期を終えて見えた問題や前期の制作物の発展形につ 粒子法班の課題達成率は, シミュレーションを動かし いてディスカッションを行った. 前期の終わり頃に発見 て体験したがシミュレーション時間内では特に致命的な したが時間の都合上見送った計算モデルである粒子法 程の粗は目立たず街中に流れる波として臨場感があり, を採用することにした. 最終的なシステムを作成するた 完全な疑似体験とは言えないが許容できる範囲内だろう めの課題を疑似体験に用いるキャラクターの配置, 操作, ということと, 実際に実装が出来たため, 目標はそれな ユーザーが地震のパラメータを出来るシステムの実装を りに達成できたものだと考えられる. 入出力班, 海洋上の津波を表現する二次元の式の実装を 3D モデル班の課題達成率は,3D オブジェクトの作成 計算モデル班, 仮想の街を表現するオブジェクトの作成 数が少なかったとはいえ街並みを表現できる種類が揃 を 3D モデル, 街中での津波を表現する式の実装を粒子 い, 地形について, 街の形が碁盤の目状になってしまっ 法班に割り振り, そして各メンバはそれぞれ4つの班に ているが作成できたため, 目標はある程度達成できたも 所属し, 課題達成の為に活動を開始した. のだと考えられる. 海洋上での津波の二次元の式は岩手大学の浅水波理論 4 今後の課題 [1] を採用した. 街中での津波を表現する式は粒子法の SPH 法を採用した. 後期後半では, 班ごとに作成したものを結合, デバッ グをしていき発表を行った. 3.4 後期の結果 最終システムではキャラクターの配置や操作を行うこ とができ, また多少難しいが設定ファイルを変更するこ とで表現方法が少し違うシミュレーションを体験でき る. ユーザーがキャラクターを一人称視点で操作するこ ともでき, 街中を歩くことも可能である. 最終システムでの波の表現は浅水波モデルと粒子法モ デルを事前に計算したものを複数のテキストファイルに 保存しておいて, シミュレーションが開始された瞬間か ら次々とテキストファイルを読込んで描画していくとい う形式になっている. 入出力班の課題達成率は, ユーザーが地震などのパラ メーターを入力し設定し, シミュレータに適用するとい う課題は達成出来なかったが, キャラクターの配置や操 作の課題は達成出来たため, 疑似体験という目標はそれ なりに達成できたと考えられる. 計算モデル班の担当である浅水波モデルはデータにノ イズが多少出ることがあったものの, 今回のシミュレー ションの実行時間内では大きな誤差になるほどノイズは 出現しなかった. 計算モデル班の課題達成率は, 浅水波モデルは深海部 のモデルだけ実装し, 時間の都合上前期で実装した浅瀬 部分の実装行わなかった, また長い時間動かすとデータ ノイズが出るが2次元の波の式を実装できたので目標は ある程度達成できたものだと考えられる. 粒子法班の担当である粒子法モデルは処理時間の問題 で大量の小さな粒子ではシミュレート出来なかったもの の, 大量のそれなりの大きさの粒子でシミュレートでき, 4.1 全体 全体として, 後半に予定が詰まってしまうようなスケ ジュール計画管理になってしまい, 時間が足りなってい くのが問題だった. またグループ間の連携が上手く取れ なかった. 入出力班では設計の骨子をしっかりと練っていなかっ たため, 現在のシステムには無駄が少なからず含まれ てしまっている. また, ハードウェアの差違を理解しシ ステム側で合わせることが出来なかったので, あるジョ イパッドで操作出来ても, 違うジョイパッドでは操作感 が変わってしまうことになった. 粒子データをテキスト ファイルから読み取る際にアルゴリズム上仕方ないとは いえ時間が掛かってしまう問題もあった. 計算モデル班では2次元の式に拡張してからはユー ザーの入力する地震のパラメーターに対応する津波を発 生させるための設計や開発をする時間がなく, ユーザー の入力する地震のパラメーターに応じた津波の伝播を表 現することができなかった. また深海部と浅瀬で物理モ デルを別に開発する予定だったが浅瀬での物理モデルを 実装できなかった. 他には物理モデルを長い時間動かし ているとデータにノイズが発生し計算結果が大きく狂う 事がある. 今回の計算領域は地震津波のシミュレーター としては狭いが, それでも長い計算時間が掛かってしま うので今回はこれが限界だった. 現実的な計算領域と計 算時間を両立出来るような設計や物理モデルをシミュ レートできるように改善する必要がある. 3D モデル班のオブジェクトでは, 作成した 3D オブ ジェクトの数が少なく生活感のある街を表現するには難 しい数だったため種類を増やす必要がある. テクスチャ についても種類が少なかったため街全体の色合いが似 通ってしまうという問題も発生した. 人の 3D アニメー ションも時間の都合で実装しなかった. これは一人称視 点と三人称視点を切り替えることが可能なように作成す るのであれば必要不可欠なものだった. 建物やガラスな どの崩壊についても作成できなかった. これを作成でき たら水の恐ろしさが伝わり, よりよい疑似体験ができる のではないかと考えた. 3D モデル班の地形では, 街の形が碁盤の目状で, さら 装には時間が足りなかった. 4.3 計算モデル班 計算モデル班の今後の課題を二つに分けて述べる. 本 年度のプロジェクトで解決できなかった課題と, 新たに 出てきた解決を要する問題である. 4.3.1 解決できなかった課題 • ユーザーの入力する地震のパラメータに応じた津波 に坂などが無い単調な作りの街になってしまったことに 伝播を表現できなかった 物足りない部分がある. また, 街と街の外の地形との関 前期ではマグニチュードの大きさに応じた1次 係がとても不自然なのが目立つので自然な印象を与える 元の式で表現した津波を発生させることができた ように調整を行えるようにしたかった. が, 後期は2次元の式に拡張するのに手いっぱいで 粒子法班では 5 つの大きな要件について課題が残っ あった. そのためユーザーの入力する地震のパラ た. 一つ目は計算モデル班が計算している格子法のデー メータに応じた津波を発生させるための設計, 開発 タを粒子法のデータへ変換することが出来なかった. こ を新たに行う時間がなかった. 初期の津波の水位を れは最低限必要な機能であるが, 最重要な課題として Mansinha and Smylie(1971) [2] の方法で計算する 残ってしまった. 二つ目は粒子が増えれば増えるほどに 予定であったが実装する時間がなかったために断念 爆発的に増える計算量を精度を変えずに減らす事が出 した. 来る, つまり高速化する計算アルゴリズムを実装出来な 今後はユーザーの入力する地震のパラメーターに かったことである. 構想はあったが, 実装する時間が不 応じた津波の伝播を表現できるように設計, 開発を 足していた. 三つ目は今回作成したシミュレーションの する必要がある. スケールの大きさと粒子法の計算スケールの大きさが一 • 浅瀬での物理モデルを実装できなかった 致していないことである. ミニチュアで計算したものを 深海部と浅瀬で物理モデルを分ける予定だった 拡大したようなもので, シミュレーション結果は目的の が, 両方を開発する時間がなかったので数式が簡単 ものとは離れてしまったと考えられる. 四つ目は障害物 な深海部の物理モデルだけを開発した. の判定処理である. 粒子の速度が速すぎる場合障害物内 今後は浅瀬の物理モデルも実装する必要がある. に粒子が侵入することがあった. 五つ目はデータのサイ ズである. データ量が膨大で効率化の構想はあったが実 装には至らなかった. 次の節からは班毎の課題の代表の一部を示していく. 4.2 入出力班 • 出力 最終発表にあった意見で「粒子が水らしくない」 との意見があったが, まさにそのとおりだと思う. 開 発中, 粒子を描画することを考えた時, 処理速度を重 視して画像を使用することで決定したが, 実際描画 処理はそれほど処理速度に影響はなかった. 速度が 最も関係していたのはテキストファイルからのデー タ読み取りだった. システム上, メインループで毎 度テキストファイルを開き, 読み取りを行なってい るがそこに処理時間がかかっていることがわかっ た. しかしその方法を修正することは時間的制約か ら出来なかった. 修正するなら全てのデータをメモ リ上に置いて, シミュレートする方法が考えられる. また, 水の表現として「マーチングキューブ法」と いう技法を用いればそれらしく見えるらしいが, 実 4.3.2 新たに出てきた課題 • 津波の伝播の物理モデルの計算結果にノイズが発生 する. 作成した津波の物理モデルを時間毎に計算してい ると,150 秒あたりの津波の変化を計算するところ でノイズが発生する. そのノイズは最終的には発散 してしまう. 境界条件が間違っている, または計算間隔が大き すぎるという可能性があるが, 原因はわかっていな い. 今後, 物理モデルを見直してノイズの原因を調 査し修正する必要がある. • 計算領域が狭い. 今回の成果物の計算領域は x 方向に 1.5 キロメー トル,y 方向に 50 キロメートル である. 津波が発生 する地震による海底破壊の大きさは長さが 100 キ ロメートル 以上の場合があるが, 今回の成果物では 計算領域が狭いのでこのスケールの地震津波を再現 することができない. しかし, 計算領域を広げると計 算が終わるまで時間が掛かる. 今回の計算領域でも 10 時間もの時間が掛かかるので, 計算領域を広げる ことができなかった. 改善案として 該当分野の文献 集めで eikonal equation での津波の物理モデルが 街 街に関しては, 街の形が全て碁盤の目状になってし まった. そのため,Y 字路などといった複雑な分岐路や袋 計算量が少なく計算時間の短縮ができると期待され ていた. 今後は eikonal equation での津波の物理モデル と浅水波理論を用いた場合とで計算時間を比較し, 計算領域と計算時間を両立できる設計方法を考える 必要がある. そのことにより, 様々な地震津波をシ ミュレートできるような改善が望まれる. 小路などの地形が作成できず全体的に単調なつくりの街 になってしまった. また, 街に坂道などがなく全て平らな街になってしま いの高低差の表現などを行うことができなかった. テクスチャに関しては, 使用したもののほとんどがイ ンターネットから見つけて来たものであった. ある程度綺麗な見た目にはなったが作成したオブジェ 4.4 3D モデル班 4.4.1 3D アニメーション 目標にしていた, 人の 3D アニメーションを時間の都 合上, 作成することが出来なかった. 成果物では人の目線 から見た画面で作成したため問題なかったが, 背後から 見た画面と切り替えられるように作成するのであれば, 人の 3D アニメーションは必要不可欠である(実際切り クトの大きさに合うものではなかったのでやや見栄えが 悪い部分があった. 今後があれば自分で道路を撮影するなどしてそれを加 工することで, よりリアルな表現を行うことができれば 良いと思われる. 4.5 粒子法班 5 つの大きな要件を満たすことが出来なかったため, 替えられるようにする案も出ていた). 最終成果物では, 当初の目標を果たすことが出来なかっ 解決策として, フリーソフトである RokDeBone2 を た. ここではその要件の 1 つについて説明する. 使用する方法があげられる.RokDeBone2 はメタセコイ アで作成した 3D オブジェクトにさらに骨組みを追加 し,mqo ファイルで出力することで使用することが出来 今回のプロジェクトでは, 震源地から海岸までの 津波のデータは計算モデル班が格子法を用いて計算 る. RokDeBone2 で作成する 3D アニメーションの仕組 みは, パラパラ漫画のようなもので, 作成したいアニメー ションに合わせてオブジェクトを数秒間隔で動かしてい き, それを連続的に描写することで, 動いているように見 せるものである. 作成した 3D アニメーションは X ファ イルで出力することができる. 4.4.2 1. 格子法のデータから粒子法のデータへの変換 地形 後期から使用し始めた,Bryce,Terragen2, に関しては, 一通り使えたものの, 研究不足な感が否めなかった. 特に Terragen2 は非常に多彩な機能を持っており, 使 いこなせれば非常に便利なものであったと思われる. しかし, 使用法を調べるのに手間取ってしまいメタセ している. 海洋上の津波については詳細な表現は必 要ないため, 格子法が適しているためである. 詳細 な状況を表現する必要のある街中の水流について 粒子法で計算を行うのだが, この二つの計算モデル は大きく異なるために, データの受け渡しの際に変 換を挟む必要があった. しかし, シミュレーション 領域上での粒子の計算に重点を置いて活動を行っ た結果, 変換処理については完成させることが出来 なかった. 地震の規模, 震源地と海岸の距離などの データから街における波の動きのデータを得ること はシミュレーターとして最低限の機能であり, 最重 要点の一つが課題として残ってしまった. コイアに読み込ませる方法を調べるだけでも多くの時間 がかかってしまい, そこから自分の望む形に調整するこ 参考文献 いわてけん とまではできなかった. 背景や地形を Terragen2 で作成することができれば よりクオリティの高いものができるので Terragen2 自 いわてだいがく [1] 岩手県, 岩手大学. 宮古湾における津波防災対策検 討調査業務委託報告書. 2005.3 [2] Mansinha, L. and Smylye, D. E. The dis- 体でオブジェクトを作成装飾する方法を見つけるかメタ placement fields of inclined faults, セコイアで調整を行えるようにしたい. letin of the Seismological Society of America, また, 一つ一つのモデルの作成に時間がかかりすぎて いたので より効率の良い作成法を行えるようにしたい. Vol.78,No.6,pp.2062-2076,1988,12. Bul-