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学位論文題名 様相論理および可能性理論に基づく 知識
博士(工学)工藤康生 学 位 論 文 題 名 様相論理および可能性理論に基づく 知識ベース管理の定式化に関する研究 学位論文内容の要旨 情報 処理 技術 の高 速化 に伴 って ,大 量の 情 報を 蓄積 ,処 理す る技 術の 必要 性が 高 ま って いる 。蓄 積さ れた 情報 を知 識ベ ース と して 扱う ため には ,知 識ベ ース を管 理 す る機 能が 必要 とな るが ,知 識ベ ース およ び その 管理 シス テム に関 する 研究 は理 論 的 定式 化と 実用 的応 用の 両面 から 行わ れて い る。 知識 ベー ス管 理に 関す る問 題の ー っ とし て, 知識 ベー スに 対し て情 報の 追加 , 削除 など の操 作を 施し た場 合に ,い か に して 知識 ベー スの 整合 性を 保っ かが 挙げ ら れる 。所 有す る情 報の 整合 性に 関す る 議 論は 論理 学や 哲学 ,人 工知 能な どの 分野 で 行わ れて いる が, この 問題 を論 理や 確 率 ,フ んジ ィ測 度な どの 枠組 で定 式化 し, そ の理 論的 性質 を扱 う研 究は 信念 変更 の理論と 呼ばれている。 論 理 的 枠 組 に お け る 信 念 変 更 は , 信 念 修 正 と 信 念 更 新 と に大 別さ れる 。信 念修 正 は ,得 られ た新 情報 が所 有す る情 報と 論理 的 に矛 盾す る場 合に ,所 有す る情 報に 間 違 いが ある とみ なし て, その 誤り を新 情報 に 基い て訂 正し ,論 理的 整合 性を 保と う と する 操作 であ る。 これ に対 して 信念 更新 は ,現 実世 界が 動的 に変 化し たこ とに よ っ て, 現実 世界 の状 況と 所有 する 情報 とが 食 い違 うよ うに なっ たと みな して ,そ の よ うな 世界 の変 化を 所有 する 情報 に反 映さ せ る操 作で ある 。し かし ,こ れら の方 法 は 本質 的に 異な る操 作と みな され てお り, 信 念修 正と 信念 更新 を統 一的 に扱 った 研 究 は行 われ てお らず ,こ れら の操 作に つい て の関 連性 は明 らか にさ れて いな い。 数値 的な 枠組 での 信念 変更 の定 式化 とし て は, フん ジィ 測度 の一 種で ある 可能 性 理 論の 枠組 での 定式 化が 試み られ てい る。 可 能性 理論 の枠 組で は, 所有 する 情報 を可能な 状況の集合から閉区間[0 ,1 ]への可能性分布と呼ばれ る関数で数値的に表現 す る 。従 来の 研究 では ,信 念修 正の 操作 と, 信 念更 新の 操作 の一 部が 定式 化さ れて い る 。し かし ,信 念更 新の 従来 の定 式化 には 不 十分 な点 が多 く, また ,信 念更 新の 他の操作 についてはまだ定式化されていない。 本論 文で は, これ らの 問題 に基 いて ,信 念 修正 と信 念変 更の 操作 を統 一的 な枠 組 で 扱い ,こ れら の操 作の 関連 性を 明ら かに す る。 また ,信 念変 更を それ ぞれ 様相 論 理 と 可 能 性 理 論 に 基 い て 定 式 化 し , そ の 性 質 に つ い て考 察 す る 。 第 1章 で は , 序 論 と し て 研 究の 背景 と本 研 究の 位置 づけ およ び目 的に つい て述 べている 。 第 2章 で は , 本 論 文 の 数 学 的準 備と して , 様相 論理 とフ んジ ィ測 度の 一種 であ る 可 能性 理論 につ いて 概要 をま とめ てい る。 ま ず, 様相 論理 の証 明論 と可 能世 界に 基づく意 味論, 特にクリプキ・モデルについて説明する。次に,フんジィ測度に二二冫 い て 述 ベ , そ の 特 別な 場 合で ある 可 能性 理 論に つ いて 説 明す る。 第3章 で は, Alch orro nら が 提案 し た 信念 修 正 とKats uno a nd M en de lz on が 提案 した 信 念 更新 に つ いて , そ の 関連 性 を 明らか にする。 まず, 信念修正 と信念 更新に つい て 概 略を 述 べ ,Katsu no a nd M ende lzon に よ る 更新 と 消 去 の操 作に ついて, こ れら の 操 作を 特 徴 づけ る メ 夕 論理 的 な 公準に 不十分な 点があ ることを 指摘し ,その 不備 を 補 う。 次 に ,更 新 か ら 消去 を 定 義する 同ー性と 消去か ら更新を 定義す る同一 性を そ れ ぞれ 提 案 し, 不 備 を 補っ た 公 準に基 づ<更新 と消去 について ,相互 に定義 可能 な 性 質が 成 り 立つ こ と を 示す 。 更 に,修 正および 縮小か ら消去を 定義す る同一 性を 提 案 し, こ れ らの 同 一 性 に基 づ く 相互定 義につい て,可 換な性質 が成り 立つこ とを 示 す 。相 互 定 義に 関 す る 可換 性 は ,信念 変更を行 う種々 の操作間 の関連 を明ら かにする 6 第 4章で は , 信念 変 更 の 操作 の 中 で特 に 更 新と 消 去 に着 目 し ,こ れら の操作 を様 相論 理 , 具体 的 に はVakar elov が 提 案 した 矢 印 の様 相 論 理を , 矢 印の 間の順 序関係 につ い て 扱え る よ うに 拡 張 し た順 序 を 持つ矢 印の様相 論理に 基いて定 式化す る。ま ず, 有 向 グラ フ の 構造 的 な 性 質と 矢 印 の間の 順序関係 を表現 する,順 序を持 つ矢印 の様 相 論 理の フ レ ーム と モ デ ル( 以 下 ,OA モデ ル)を 提案する 。また, 順序を 持つ 矢 印 の 様 相 論 理 体 系 OAL( ordered arrow lo gic)を 提 案 し, OAL は す べ ての OAモ デルのク ラスに 対して健 全かつ 完全であ ること を示す。 次に,更 新と消去の操作を, 所有 す る 情報 を 表 す論 理 文 の 集合 の そ れぞ れ の モデ ル wに対 し て .り におい て最も 「起 こ り やす い」 状態遷 移を選択 する操 作に基づ ぃて定 義すると ,それぞ れKa ts un o a nd M ende lzonの更 新 の 性質 お よ び消 去 の 性質 を 満 たす こ と を示 す 。更 に,更新 と 消去 の 操 作お よ び それ ぞ れ の 操作 が 満 たす べ き 性質 は , O ALの 論理 文と して明 示的 に表 現 で きる こ と を示 す 。 こ のこ と は ,更 新 と 消去 の 操 作は OAL に おけ る論理 演算 として表 現でき ることを 意味す る。 第 5章で は , 可能 性 理 論 の枠 組 に おけ る 信 念更 新 の 厳密 な 定 式化 を行 う。ま ず, D uboi s an d Pra deに よる 可 能 性理 論 に おける 更新の 定式化で は,更 新の結果 が常に 構成 で き ると は 限 らな い こ と を指 摘 し ,可能 性理論に おける 更新の操 作を正 確に再 定式 化 す るこ と で この 問 題 を 解決 す る 。また ,論理的 枠組に おける消 去の操 作およ び対 称 的 消去 の 操 作を 可 能 性 理論 の 枠 組で新 たに定式 化し, その性質 につい て考察 する。更 に,不 確実な情 報に基 づく信念 更新を 提案し, その性質 について考察する。 特に , 不 確実 な 情 報に 基 づ く 信念 更 新 は,特 殊な場合 として 確実な情 報に基 づく信 念修 正 と 信念 更 新 ,お よ び 不 確実 な 情 報に基 づ<信念 修正を 含んでお り,よ り一般 的な信念 変更の 枠組であ ること を示す。 第6章 で は, 結 論 と して , 本 論文 で 得 られ た 結 果に つ い て考 察 し, 今後の研 究 の方 向 性 と課 題 を 示す 。 ま た ,本 論 文 での主 な定理お よび補 題,命題 につい て,証 明を付録 として 添付して いる。 学位論文審査の要旨 主査 副査 副査 副査 教 授 伊 教 授 新 教 授 宮 助教授 村 達 惇 保 勝 腰政明 井哲也 学 位 論 文 題 名 様相論理および可能性理論に基づく 知識ベース管理の定式化に関する研究 知 識 ベ ー ス に 含 ま れ る 情 報 を 変 更 し た 場 合 に 知 識 ベ ー ス の 整 合 性を 保っ とい う 問 題 は , 人 工知 能の 分野 で基 礎的 理論 と 工学 的応 用の 両面 から 研究 され てい る。 こ の 問 題 を 論 理, 確率 およ びフ んジ ィ測 度 に基 づぃ て定 式化 し, その 性質 を扱 う研 究 は 信 念 変 更 の理 論と して 扱わ れて おり , これ は新 たに 得た 情報 に基 いて 知識 ベー ス に 論 理 矛 盾 が生 じた 場合 に訂 正を 行う 信 念修 正と いう 課題 と, 現実 世界 の動 的な 変 化 を 知 識 ベ ー スに 反 映 さ せ る 信 念 更 新 と いう 課 題 の ニ つ に 分 かれる 。 論 理 的 枠 組に 基づ く従 来の 研究 では , これ らニ つの 課題 は本 質的 に異 なる 操作 と み なさ れて おり ,両 者の 関連 性は 追究 されていな かった。これは確率およびファシィ 測 度 に 基 づ く研 究に おい ても 同様 であ り ,可 能性 理論 を用 いた 信念 修正 と信 念更 新 の 操 作 の 一 部が 構築 され てい るが ,こ れ らニ つの 課題 を包 括的 に扱 うに は至 って お ら ず , こ れ らの 操作 は知 識ベ ース 管理 に 関す る応 用研 究に おい て活 用さ れる 段階 に 至 って いな い。 本 論 文 は ,知 識ベ ース の整 合性 を保 つ 様々 な操 作の 統一 的な 取り 扱い と情 報工 学 に お け る 応 用を 目的 とし て, 知識 ベー ス 管理 にお ける 信念 変更 を記 述す る公 準を 定 式 化 し , そ れぞ れの 操作 の関 連性 を明 ら かに して いる 。第 一段 階と して ,古 典命 題 論 理 に 基 づ ぃて ,知 識ベ ース の整 合性 を 保つ 様々 な操 作の 関連 性を 明ら かに し, 第 二 段 階 と し て, 従来 の研 究で 一部 が構 築 され てい る可 能性 理論 に基 づく 信念 変更 の 厳 密 な 定 式 化を 行い ,統 一的 な枠 組の 構 築を 行っ てい る。 第三 段階 とし て, 様相 論 理に 基づ く知 識ベ ース 管理 の定 式化 およ び統一的な枠組の構築を行っている。 第 1章 で は , 本 論 文 の 背 景 , 目 的 お よ び 構 成 に つ い て 述 ぺ て い る 。 第 2章 で は , 様 相 論 理 お よ び 可 能 性 理論 につ いて ,本 研究 に用 いる 成果 を抽 出 し て 整 理 す る と と も に, 信念 変更 に関 する 従来 の研 究の 概要 を述ぺ てい る。 -6 98― 第3章 で は ,古 典 命 題論 理 に 基づ ぃ て ,知 識 ベ ース の 整 合性 を 保 つニつ の課題 であ る 信 念修 正 お よ び信 念 更 新の 関 連 性を 明らか にして いる。ま ず,信 念更新の 操 作の 一 部 であ る 更 新 操作 お よ び消 去 操 作に ついて ,消去 操作を記 述する 既存の公 準 の不 備 を 解消 し , そ れら ニ つ の操 作 を 相互 に定義 するこ とが可能 である ことを証 明 した 。 更 に, 信 念 修 正の 操 作 であ る 修 正操 作およ び縮小 操作を用 いて, 更新操作 お よび 消 去 操作 を 構 成 する こ と が可 能 で ある ことを 証明し ,知識ベ ースの 整合性を 保 つ様々 な操作の 関連性を 明らか にしてい る。 第 4章で は , 様 相論 理 に 基づ く 知 識ベ ー ス 管理 の 定 式化 お よ び統 一 的な 枠組の構 築を 行 っ てい る 。 ま ず, 状 態 遷移 図 の 構造 を表現 する矢 印の様相 論理に ついて, 状 態遷 移 の 発生 に 関 す る選 択 の 順序 を 与 えて 論理を 拡張し ,この論 理に意 味論を与 え るモ デ ル を考 案 し て ,そ れ を 詳述 し て いる 。この 拡張し た論理が 全ての モデルの ク ラス に 対 して 健 全 か つ完 全 で ある こ と を証 明する ととも に,知識 ベース の整合性 を 保つ操 作を統一 的に扱う 枠組を 構築して いる。 第 5章 で は , 従 来 の 研 究 で 一 部 が 構 築 さ れ て いた 可 能 性理 論 に 基づ く 信 念変 更 の厳 密 な 定式 化 を 行 い, そ れ らを 統 一 的に 扱う枠 組を構 築してい る。ま ず,可能 性 理論 に お ける 更 新 操 作に つ い て, 従 来 の定 式化の 不備を 解消し, 消去操 作と対称 的 消去 操 作 を新 た に 考 案し て い る。 更 に ,不 確実な 情報に 基づく信 念更新 という概 念 を創 出 し ,可 能 性 理 論に 基 づ く信 念 変 更の それぞ れの操 作はその 新しい 概念に基 づ いて取 り扱うこ とができ ること を論じて いる。 第6章 で は ,本 論 文 のま と め およ び 今 後の 課 題 につ い て 述べ て い る。ま た,本 論 文 で 示 さ れ て い る 定理 お よ び補 題 に つい て , 証 明を 付 録 とし て 添 付し て い る。 これ を 要 す るに , 著 者は , 知 識ベ ー スの 整合性 を保つ様 々な操作 の関連 性を明 らか に し ,様 相 論 理 およ び 可 能性 理 論 に基 づぃて それら の操作を 統一的 に扱う枠 組 を構 築 し ,知 識 ベ ー ス管 理 へ の応 用 に 関す る新知 見を得 たもので あり, 情報工学 の 発展に 貢献する ところ大 なるも のがある 。 よって 著者は, 北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。 ― 699―