...

見本ダウンロード(2016年4月発行 No.58)

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

見本ダウンロード(2016年4月発行 No.58)
グローバルマリン通信
No.58 2016.4
・海外保険事情 オーストラリア
・船舶の温室効果ガス排出量規制
・船舶の避難水域問題に関するEUの動向について
(BEC)
詐欺にご注意を
・巧妙なビジネスメール偽装
Contents
海外保険事情 オーストラリア………………………………………… 01
船舶の温室効果ガス排出量規制………………………………………… 06
船舶の避難水域問題に関する EU の動向について …………………… 10
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)詐欺にご注意を ……………… 13
各国保険事情 オーストラリア
1. オーストラリア概況
オーストラリア連邦はニューサウスウエールズ、
政権の座に就きました。2015 年 9 月、アボット
ヴィクトリア、クイーンズランド、タスマニア、
首相の支持率低迷を受け、自由党党首選挙が実施
南オーストラリア、西オーストラリアの 6 つの州
され、ターンブル氏(前通信大臣)が首相に就任
都と北部準州、首都特別地域から成り立っていま
しました。アボット前首相は、親日派として知ら
2
す。国 土 面 積 は 769 万 2,024km で日本 の 約 20
れていた一方、ターンブル現首相が就任した際に
倍を有する一方、人口は 2,395 万人(2015 年 12
は、最大の貿易国である中国を最重視する親中派
月)と多くありません。しかしながら、オースト
と見られていました。しかしながらターンブル首
ラリアの人口は毎年約 1.5%増のペースで持続的
相は、2015 年 12 月に中国より先に日本訪問を行
に増加しており、2050 年には人口約 3,100 万人
うなど、前政権に引き続き対日重視の姿勢を見せ
超になる見込みです。人口構成は、アングロサク
ており、日豪交流促進が期待されています。政治
ソンなど欧州系が依然として多数を占めますが、
体制はイギリスの影響を色濃く受けており、最大
移民を積極的に受け入れていることから中国、韓
野党は影の内閣を組織します。影の内閣は現政権
国、ベトナム等のアジア系も数多く住んでいます。
の各閣僚ポストに対応して置かれ、総選挙で最大
在留邦人についても、増加傾向にあり、その数は
野党が政権を奪取した際は、影の内閣のメンバー
85,083 人(2015 年 10 月)であり、毎年約 4%
が新政権の閣僚に就任することが一般的です。
のペースで増加しています。
なお、連邦政府の権限は憲法によって外交、国防、
オーストラリアでは自由党及び国民党からなる
保守連合と労働党が二大勢力として拮抗してお
通商、租税、移民等特定の事項に限られており、
その他については州政府が権限を有しています。
り、2013 年の総選挙でアボット氏率いる自由党
経済は、中国などの世界的な資源需要の増加と
を含む保守連合が勝利し、2007 年 12 月以来の
その価格高騰に支えられ、資源産業を中心に成長
をしていましたが、近年になって資源産業に翳り
が見えてきています。一方で土地・住宅価格の高
騰はシドニーやメルボルン、ブリスベンといった
都市部を中心に続いています。2013 年に全国平
均で 9.3%の上昇を記録したあと、2014 年 6.8%、
2015 年 8.7%と推移しています。実質 GDP 成長
率 は 2013 年 度 2.07 %、2014 年 度 2.73 % と 推
移しており、IMF の予測では 2015 年度は 2.8%、
2016 年度は 3.2%の成長率となると見込まれてい
ます。中国経済の減速をはじめとする外部要因に
写真1:ハーバーブリッジ
よる影響を受けながらも、消費は安定的に増加し
各国保険事情 オーストラリア
GMT No.58 April 2016
01
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
ており、実質 GDP 成長率は 23 年連続で上昇し、
今後も持続的な成長が見込まれています。また、
日豪関係では、日豪 EPA が発効し、豪州からの輸
出額が確実に増加の方向にあります。ワインや牛
肉、チーズなどが増加しており、今後もこの流れ
が続くと期待されています。また、日本からの完
成自動車ならび自動車部品の輸入が増える見込み
であり、日豪 EPA により、日豪関係の更なる強化
が期待されます。
写真 2:ボンダイビーチ
2. オーストラリアの保険事情
(1)保険市場概要
市場です。人口増加に伴い対前年比1.24%増と持
オーストラリアでは115 社の損害保険会社が営
続的な成長を続けています。保険種目構成及び損
業しています(2014 年12月)
。そのうち103 社が
害率については下表のとおりで、保険料は全保険
元受保険会社、12 社が再保険会社です。市場規模
種目自由料率となっています。また、2008 年 7月
は 約 AUD428 億( 約 3 兆 6,380 万 円:1AUD=85
1日に施行された保険業法改正により、原則として
円で換算, 2015 年レート)で、これは日本の約
オーストラリア国内に所在するリスクを国外で付保
40%の規模であり、世界で10 番目に大きな保険
することは認められなくなりました。
保険種目
表 1:オーストラリアにおける保険種目別構成(保険料ベース)
損害率
個人向自動車保険
72%
企業向自動車保険
67%
自賠責保険
95%
住宅火災保険
44%
企業向火災保険
54%
貨物、船舶、航空保険
63%
一般賠償責任保険
68%
その他
39%
全体
62%
表 2:オーストラリアにおける保険種目別 損害率
(出典:APRA「Quarity General Insurance Performance Statistics」
(2014 年 12 月末過去 1年データ)
)
オーストラリアで最も警戒すべきリスクは自然災
害リスクであり、過去にはサイクロンや雹災、山火
当社はこのうちQBEと提携しており、様々な分野
事などで深刻な被害が発生しています。保険市場
で協力関係にあります。
は、国内大手 5 社による寡占化が進んでおり、大手
各国保険事情 オーストラリア
02
5 社の合計収保は、市場の7 割強を占めています。
GMT No.58 April 2016
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
順位
自然災害
発生年
発生場所
損害額
(※1)
1
雹災
1999
シドニー
AUD43 億
(※2)
2
サイクロン
トレーシー
1974
ダーウィン
AUD41 億
3
地震
1989
ニューカッスル
AUD32 億
4
洪水
1974
ブリスベン
AUD26 億
5
洪水
2010/11
クイーンランド
AUD23 億
(※1)損害額は2011年CPIでの調整後数字
(※2)1AUD=85円で換算
表 3:オーストラリアにおける過去の大口自然災害(出典:Insurance council of Australia ホームページ)
オーストラリア主要
保険会社グループ
収入保険料
(AUD 百万)
マーケットシェア
10,442
26.1%
Suncorp Group グループ
7,659
19.2%
QBE グループ
(※1)
5,133
12.8%
アリアンツ グループ
3,920
9.8%
チューリッヒ グループ
1,265
3.1%
IAG グループ
(※1)QBE は海外事業及びロイズを中心とする再保険事業を含めると、AUD18,423 百万の収保規模を有し
ており、オーストラリア最大の保険グループです。
)
表 4:オーストラリアにおける主要保険グループ一覧(出典:APRA「General Insurance Institution-level Statistics」
(2)募集制度
財務状況をモニタリングすることで保険会社の健
オーストラリアでは保険手配に際し、お客さま
全性を監督しています。後者は消費者保護の観点
と保険会社の間に立って保険契約の仲介にあたる
から保険会社の業務運営を監視し、ブローカーや
ブローカーを起用することが企業契約では主流で
損害保険代理店の認可も与えています。2001年に
あり、約 9 割を占めています。個人契約において
当時オーストラリアで第 2 位であった保険グルー
は、インターネット、コールセンター等で保険会
プ HIHの破綻を契機として、保険会社への規制は
社に直接申し込みする方法が普及しています。ま
強化されました。さらに 2007 年の世界金融恐慌
た本邦ほど主流ではありませんが、保険会社の代
や、オーストラリア国内の大規模自然災害を踏ま
理人としての代理店も存在しています。
えて、2013 年1月からAPRAはオーストラリア
で営業を行う保険会社に対して、LAGICと呼ばれ
(3)保険監督行政
るキャピタル・スタンダードを新たに設けました。
オーストラリアではAustralian Prudential Regulation
LAGICでは、自然災害をはじめとするさまざまな
Authority(以下、APRA)とAustralian Securities
リスクについて所定の計測基準を設定し、保険会
and Investment Commission(以下、ASIC)が保険
社はそれらのリスク量に対して十分な資本金を確
監督行政を司っています。前者は、リスク管理や
保することが求められています。
各国保険事情 オーストラリア
GMT No.58 April 2016
03
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
(4)保険手配上の留意点
オーストラリア国内で保険手配を行う際は、保
連邦政府税)
① GOODS & SERVICES TAX(消費税、
険料に伴う税金等の諸費用に注意が必要です。特
② STAMP DUTY(印紙税、州税)
に州税は複雑で州ごとに税率が異なり頻繁に改定
③ FIRE SERVICE LEVY(消防税、州税)
されています。保険料に伴う諸税金は次のものが
挙げられます(2015 年 4 月現在)
。
<ニューサウスウェールズ州の例(抜粋)>
保険種目
具体的な計算方法は次のとおりとなります。
印紙税
消防税
ニューサウスウエールズ州にある工場の火災保険
企業向火災保険
9%
33.5%
料を100とした場合:
住宅火災保険
9%
18.5%
消防税
一般賠償責任保険
9%
−
自動車保険
5%
1%
傷害保険
5%
−
総支払額 100+33.5+13.35+13.22=160.07
貨物保険
−
−
支払総額は保険料の約 60% 増加します。
100×33.5%=33.5
GST
(100+33.5)
×10%=13.35
印紙税
(100+33.5+13.35)
×9%=13.22
Fire Service Levyはニューサウスウェールズ州及びタスマニア州のみで課せられます
(2013 年 6月までヴィ
クトリア州でも課税)
。その他の州ではEmergency Service Levyとしてその他の州税と共に納税者が直接
各州税務当局へ納税するため、保険料に課税されません。
3. 当社営業体制
当社は 1966 年に元受営業を開始し、以来お客
さまからのご支援をいただき、お客さまの基点に
社を通じて日系企業のお客さまをサポートしてい
ます。
立った「安心」と「安全」をご提供しています。
2014 年 4 月より業務拡大に伴い支店体制となり、
シドニーに 3 名、メルボルンに 1名の駐在員を配
置し、現地職員を含めると約 30 名で、運営してい
ます。
また、オーストラリアと密接な経済圏にある隣
国、ニュージーランドでも1970 年より元受営業
を行っています。提携先であるQBE 社内、オーク
ランドに事務所を置き、
保険業務を行っております。
加えて、パプアニューギニアにおいては QBE
各国保険事情 オーストラリア
04
GMT No.58 April 2016
写真 3:オペラハウス
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
【オーストラリア】
<参考文献>
○シドニー
外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/
Mitsui Sumitomo Insurance Co., Ltd
シドニー日本商工会議所発行「オーストラリア概
Sydney Office
要 2014/15」
(2014 年 6月)Australian Prudential
Level 18, 1 Bligh Street,
Regulation Authority(金融当局)発行「Quarterly
Sydney, NSW, 2000, AUSTRALIA
General Insurance Performance Statistics」
(2015
TEL:61-2-9222-7600
年 9月)
FAX:61-2-9232-7006
AXCOホームページ https://www.axco.co.uk/portal
○メルボルン
Mitsui Sumitomo Insurance Co., Ltd
Melbourne Office
Level 14, North Tower,
459 Collins Street,
Melbourne, VIC, 3000, AUSTRALIA
TEL:61-3-9245-8188
FAX:61-3-9614-2248
写真 4:エアーズロック
【ニュージーランド】
Mitsui Sumitomo Insurance Co., Ltd
New Zealand Office
Level 6, AMP Centre,
29 Customs Street West,
Auckland, NEW ZEALAND
TEL:64-9-980-3325
FAX:64-9-980-3327
各国保険事情 オーストラリア
GMT No.58 April 2016
05
船舶の温室効果ガス排出量規制
について
1. はじめに
近年、地球環境についての問題意識が高まりを
り込まれるか議論の動向が注視されていたことか
見せるなか、地球温暖化、大気汚染や生態系の破
ら、本稿では船舶の温室効果ガス規制の現状につ
壊などさまざまな環境問題の改善に向けた取組が
いてご紹介します。
国際的に進められています。2015 年 12 月、パリ
(※1)窒素酸化物の総称で、主なものとして NO(一酸化窒
において第 21回国連気候変動枠組み条約締約国
素)
、NO2(二酸化窒素)
、N2O(亜酸化窒素)などが
会議(以下、COP21)が開催され、約 2 週間に
あります。物質の燃焼時に発生し、光化学スモッグや
亘る議論の結果、新たな温暖化対策の枠組である
酸性雨の原因物質となるほか、地球温暖化やオゾン層
「パリ協定」が採択されました。これは 1997 年の
破壊の要因になります。
COP3 で採択された京都議定書以来 18 年振りの
(※2)硫黄酸化物の総称で、SO(一酸化硫黄)
、SO2(二酸
国際的な合意であり、地球の気温の上昇を産業革
化硫黄)
、SO3(三酸化硫黄)などが代表的なものに
命前と比較して 2℃以内に抑える、今世紀後半に
なります。石油や石炭の燃焼時に発生し、酸性雨等の
は温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにする等
環境問題の要因になります。
の内容となっています。
(※3)粒子状物質(Particulate Matter)の略で、近年中国か
国際海運分野においても環境問題解決に向けた
らの飛来が問題視されている PM2.5 等が該当します。
取組が進められており、CO2 等の温室効果ガスや
PM は、主に煤や硫黄化合物等で構成されていますが、
NOx
(※1)
、SOx
(※2)
、PM
(※3)
等の大気汚染物
船舶の燃料として一般的に使用される C 重油からも、
質の排出量削減に向けた課題の解決に向けて規制
燃焼時に硫黄化合物が多く排出されます。そのため、
が広がりつつあります。今回、COP21において
北米沿岸やバルト海等の一部海域では SOx 及び PM
も、国際海運への新たな規制強化が合意事項に盛
規制として燃料油中の硫黄濃度が制限されています。
2. 船舶からの温室効果ガス排出量
船舶はエネルギー消費効率において、他の輸送
手段と比べ突出した優位性を有しています(図1)
。
しかし、国際海運全体として排出する温室効果ガ
スや大気汚染物質が地球環境に与える影響は無視
できず、また近年の新興国の経済成長等に伴う海
上貿易量の増加により(図 2)
、国際海運を排出源
とするCO2 の量は増加しています。
船舶の温室効果ガス排出量規制について
06
GMT No.58 April 2016
図1:1トンの貨物を1km運ぶ際に排出されるCO2 の量(出典:Maersk社ホームページ)
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
図 2:海上輸送量と船腹量の推移(出典:日本海事センター「SHIPPING NOW」
)
国際海事機関(以下、
IMO)によると2014 年には世界全体で一年間に排出されるCO2 の 2.2%(約 8 億トン)
が船舶から排出されていました。これは、ドイツ一国分の年間排出量を上回る量に相当します。このまま何
も対策が施されなければ、船舶からのCO2 排出量は1990 年と比較して2030 年時点で約 3.2 倍、2050 年
時点で約 6.3 倍にまで上昇するとされ、これをどのように抑えていくかについて注目が集まっています。
3. 規制の推移
1997 年のCOP3において採択された京都議定書
IMO 第 62回海洋環境保護委員会(MEPC62)にお
では、第 2 条第 2 項で「附属書Iの締約国は、国際
いて、日本が主導的な立場で作成した国際海運に
民間航空機関及び国際海事機関を通じて作業を行
おける世界初のCO2 排出規制の導入が、MARPOL
い、航空機燃料及びバンカー油から排出される温
条約(海洋汚染防止条約)付属書 VIを一部改正す
室効果ガスの抑制又は削減を追求する」として国
る形で採択されました。これによりCO2 対策の第1
際海運の規制についてはIMOの場で検討するべく
段階として、後記の技術的手法と運航的手法を併
合意されました。本決定の背景として、国境を越え
用したCO2 の排出規制を導入することが合意され
て世界を広く移動する船舶固有の稼働実態や便宜
ました。この排出規制導入により、何も対策が講じ
置籍船(※4)が数多く存在することから、国ごと
られない場合の将来予測と比較して、2030 年時点
の排出量削減目標への割当が難しいことが挙げら
で約 21%、2050 年時点で約 34%のCO2 排出量の
れます。
削減が見込まれるようになりました(図3)
。 その後、国際海運から排出される温室効果ガ
スの問題は認識され続けながらも有効な対策が取
(※4)事実上の船主が存在する国とは別の国に船籍を
置く船。
られない状態が続いていましたが、2011年 7月、
船舶の温室効果ガス排出量規制について
GMT No.58 April 2016
07
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
図 3:IMO の CO2 排出量規制により見込まれる効果(出典:国土交通省ホームページ)
技術的手法として導入されたEEDI(エネルギー
効率設計指標)規制では、2013 年以降に建造契約
SEEMPの達成状況について、船舶ごとに「計画」
を締結する新造船が対象となっています。これに
「実施」
「モニタリング」
「自己評価及び改善」の
より、総トン数 400トン以上の国際航海を行う船
PDCAサイクルを繰り返してCO2 排出量の改善を
舶は、その1トンマイル(※5)あたりの CO2 排出
図っていくことが求められます。
量の計算が義務付けられます。その際、建造契約
また、上記の技術的手法及び運航的手法による
年と船種ごとに定められ、かつ段階的に強化され
アプローチに加えて、CO2 規制の 第 2 段階として
る排出基準を満たすことが要求されるようになり
経済的手法の導入が IMOで審議される予定になっ
ました。
ています。これはCO2 排出量において優良な船舶
一方、運航的手法は2013 年以前に建造された
に対し、市場メカニズムを利用した経済的なインセ
既存船を含む全ての船舶を対象に導入されまし
ンティブを与えることにより、排出量削減の目的達
た。船主または船舶管理会社は、IMO 発行のガイ
成を図るものとして検討されています。船舶燃料1
ドラインの下、各船の運航実態に合わせて省エネ
トンごとに一定額の課金を徴収する一方でEEDIの
運航の計画(船舶エネルギー効率管理計画、以下、
優れた船舶に対し、課金の減免を実施する燃料油
SEEMP)策定とその計画書の船上所持が義務付け
課金制度や、国際海運業界全体のCO2 排出量に制
られました。この計画書に記載する内容としては、
限を設けた上で、その制限内で排出権を取得する
減速運航や、海象・潮流を考慮した航海ルートの
排出量取引制度等が候補に挙げられています。
選定、船体やプロペラの適切なメンテナンス等が
船舶の温室効果ガス排出量規制について
08
挙げられます。また、船主や船舶管理会社はこの
GMT No.58 April 2016
しかし、途上国の立場としてはこれらの規制が自
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
国の海上貿易と経済成長に大きな影響を与えると
して、排出量削減の技術的支援を先進国から得ら
れる具体的な見通しが立たない限り、経済的手法
に関する議論に応じないとしています。
(※5)1トンの貨物を1マイル(1.852km)運ぶことを示す
単位。
(積載貨物の量×輸送距離)を式として算出。
4. COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)での議論
一方、2009 年に開催された COP15 のコペン
国際海運分野に対して課す試算となっています。
ハーゲン合意において、世界全体の温暖化対策
COP において国際海運に対する過大な資金負
の長期資金として、先進国が 2020 年までに年間
担が決定された場合には、世界の海上輸送量の約
1,000 億米ドルを拠出することが決定されました。
10% を担う日本の海事産業に大きな影響が及ぶこ
そして、コペンハーゲン合意以降の会議では、国
とから懸念が示されており、COP21の議論の動
際海運や航空などの国際交通分野から当該資金
向が注目を集めてきました。
を拠出する案の検討が始まり、COP16 に提出さ
最終的に COP21開幕後当初の草案にあった、
れた国連事務総長諮問機関レポートや、COP18
船舶への排出量規制の記述は交渉過程で削除さ
での長期資金ワークシップレポート等で、潜在的
れ、国際海運を長期資金の資金源とする案は議論
な有力資金源として言及されてきました。この長
の末に不採用となりました。しかし、今後も IMO
期資金ワークシップレポートでは、世界全体で拠
での議論が進まない場合、専門機関であるIMO の
出する長期資金の 1,000 億米ドルのうち、10 ∼
外で再び議論が行われる可能性が残っています。
15% にあたる100 ∼ 150 億米ドルの資金負担を
5. おわりに
新興国の発展等により今後も世界的に海上輸送
量が増加していくことは確実視されており、船舶か
舶への排出量規制をめぐる議論については主導的な
役割を担っていくことが求められます。
らの温室効果ガス排出量について有効な対策を講じ
ることが急務となっています。
先進国と発展途上国の双方に納得感のある枠組
<参考文献>
国土交通省ホームページ http://www.mlit.go.jp/
を作る難しさはあるものの、多国間の合意のもとで
日本海事協会ホームページ http://www.classnk.or.jp/hp/ja/
実効性のある制度を作り上げることが重要となりま
日本船主協会ホームページ http://www.jsanet.or.jp/
す。日本は世界有数の海事国家であり、また輸出入
日本海事センターホームページ http://www.jpmac.or.jp/
の大部分を国際海運に依存していることからも、船
Maersk 社ホームページ http://www.maersk.com/en
船舶の温室効果ガス排出量規制について
GMT No.58 April 2016
09
船舶の避難水域問題に関する
EU の動向について
1. はじめに
船舶海難事故対応において環境損害を防止・軽
環境損害を伴う大規模な海上災害事案の防止に
減するためには、船体の修繕を行うことと、積荷と
は、要支援船舶が迅速に避難水域の提供を受けら
燃料油を瀬取りすることが最善策とされています。
れる国際的な枠組みの構築が重要といえますが、
これらの作業を外洋で行うには危険を伴うため、港
避難水域の提供に関し、自国の裁量を確保したい
や自然条件が安定した水域に避難のうえ作業を行
各国の思惑があり、拘束力ある枠組みの構築は容
うことが安全性、効率性の観点から望ましいといえ
易ではありません。本稿では、要支援船舶に対す
ます。一方、要支援船舶から避難港・避難水域の
る避難水域提供に関する国際海事機関(IMO)と
受入れ要請を受けた沿岸国は、自国の海域が環境
欧州における取組をご紹介します。
汚染リスクに晒されることから受入れ要請を拒絶す
る場合があります。
2. IMO「避難水域」ガイドライン
2001年1月に発生したタンカー Castor 号事件で
イドライン)が採択されました。
は、船体に亀裂が生じ積荷の積替えを要する状況
IMOガイドラインは、法的拘束力があるものでは
において、沿岸国が避難水域の提供を拒否したた
なく、
「支援を必要とする船舶からの避難水域要請
め、外洋での作業を余儀なくされ、多額の費用を
について決定・対応する際に、本ガイドラインを考
要する結果となりました。また、2002 年11月に発
慮に入れることを諸政府に請う」との位置づけで発
生したタンカー Prestige 号事件では、船体に亀裂
行されています。
が生じ沿岸国に避難入域を申請したものの拒否さ
IMOガイドラインで特筆すべき点は、避難水域
れ、本船はスペイン沖約 270kmの海域で沈没しま
提供の要請を受けた沿岸国に要請を受けるか否か
した。沈没に伴い、推定約4万トンの油が流出し、
を必ず考慮することを求め、その際に考慮すべき要
スペイン、フランス、ポルトガルの沿岸に甚大な被
素を列挙している点です。また、沿岸国に可能な限
害をもたらしました。
り、リスクをより正確に評価するために調査チーム
この 2 件の海難事故により、避難港提供の問題
を乗船させて調査することを推奨しています。従っ
が焦点を浴びることとなり、2003 年12月にIMO
て、IMOガイドラインが適切に履行されれば、専
にて「援助を必要とする船舶の避難水域に関する
門家による検討を経ることなしに避難水域の提供
ガイドライン(Guidelines on Places of Refuge
が拒否されるという事態は避けられることになりま
for Ships in Need of Assistance)
」
(以下、IMOガ
す。IMOガイドラインには法的拘束力はなく、その
船舶の避難水域問題に関する EU の動向について
10
GMT No.58 April 2016
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
適切な履行は沿岸国の善意に委ねられていますが、
もとづく合理的な根拠を要するとの認識を世界各
こうしたガイドラインが整備されたことにより、避
国に醸成する効果があったものと考えられます。
難水域提供の是非を判断する上ではリスク評価に
3. 英国 SOSREP 制度
過去に幾度となく大規模な海上災害事案を経
験を有する1名の代行者を任命し、その代行者が政
験した英国では、閣僚権限代行者(Secretary of
治的影響力から独立した立場で事故対応に関わる
State’
s Representative for Maritime Salvage and
様々な事柄の意思決定を全て行う体制「単一の指
Intervention:SOSREP)を任命し、権限移譲を受
示(a single voice)
」が提唱されています。この報
けたSOSREPが迅速かつ合理的な決定を下せる体
告書で提唱された「単一の指示」による事故対応
制を採用しています。SOSREP 制度は、後記する
のコンセプトにもとづき創設されたのが SOSREP
避難水域の提供に関するEUでの取組にも影響を与
制度です。
SOSREP 制度の特徴は、海難事故対応に関わる
えているため、その概要をご説明します。
1996 年 2月に英国沿岸で発生した大型タンカー
国家の介入権限を政治的影響力から独立した専門
Sea Empress 座礁事故では、7 万トン以上の原油
的知識と経験を有する1名のSOSREPに移譲し、
が流出し、甚大な環境損害が発生しました。本件
SOSREPが法的権限を有する閣僚に代わり介入権
の事故対応に関して、関係政府機関がそれぞれの観
限を行使する点です。1999 年10月の制度創設以
点から関与したことにより関係者間のコミュニケー
来、SOSREPは1000 件近い事案に関与しており、
ションの混乱と意思決定の遅れが生じ、その結果が
とりわけ2007 年1月に英仏海峡で発生したMSC
損害拡大につながった可能性が指摘されました。
Napoli号事件において、英国沿岸Lyme Bayで本
英国政府は本件事故対応の検証を行い、改善す
船の任意座礁を実行し、環境損害を最小限に抑え
べき点を纏めた報告書が作成されました。その中
た対応はSOSREP 制度の成功事例として高い評価
で、海上災害事案対応において、専門的知識と経
を得ています。
4. EU 「船舶通航監視指令」
欧州では、1999 年12月にフランス沖で発生し
の提供に関し、以下 4 点を加盟国に求めた点です。
たタンカー Erika 号重油流出事故(沿岸国が港へ
① 海 難 事 故 の 状 況を評 価して、船 舶 の 避 難
の避難許可を拒否した結果、船体折損に至った事
水域への収容の可否について独立した決定
例)を契機に、2002 年 6月に避難水域に関する規
を行うために、権限ある当局(competent
定が設けられました。その後、前記 Prestige 号の
authorities)を指定すること。
事故対応での教訓を踏まえ、2009 年 4月に避難
水域に関する規定を盛り込んだ「船舶通航監視指
② 自国沿岸地域に関する詳細な情報収集を行う
こと。
令(Directive 2009/17/EC)
」
(以下、EU指令)が
③事故状況の評価手続きの整備として、定めら
採択されています。EU指令のポイントは、避難水域
れた手順に従って避難水域の提供是非を判断
船舶の避難水域問題に関する EU の動向について
GMT No.58 April 2016
11
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
EU 指令改訂案では、英国 SOSREP 制度に倣
すること。
④ 財政的補償および責任の手続きを整備すること。
い、
「独立した権限ある当局の導入」が盛り込まれ
ていましたが、審議の結果、導入が見送られていま
EU指令はIMOガイドラインと整合し、EU指令
す。この経緯は定かではありませんが、各加盟国の
を通じてIMOガイドラインで定められた内容が各
政治や行政体制に対する介入にあたる恐れがある
加盟国の国内法において実現される途を開いた点
との見地から、
「独立した権限ある当局の指定」と
は評価できると考えます。
の表現に留められたものと推察します。
5. EU 避難水域に関するガイドライン
現在EUで避難水域の提供に関するガイドライン:
Places of Refuge EU Operational Guidelines(以
に加盟国間の連携強化を図ることをその目的として
います。
下、EUガ イドライン )の 制 定 に 向けた 取 組 が
EUガイドライン(ドラフト)は全 9 章で構成さ
2013 年から行われていましたが、そのドラフトが
れており、関係者の役割分担の明確化や避難水域
2016 年1月27日にEU議会に提出される予定と
の提供を要請する際の手順、リスク分析・調査方
なっています。
法に関する指針が示されています。また、EUガイ
EUガイドラインは、上記 4で述べたEU指令を
補足する実務指針であり、法的拘束力はありませ
ドラインの中に、避難水域の提供に関する基本原
則として次の内容が盛り込まれています。
ん。EU指令にもとづき、EU 加盟各国は外国船舶
「避難水域の提供要請については、商業的・経済
に対して避難水域を提供するかの是非を判断する
的の理由によって拒絶されてはならない。また、支
権限ある当局(competent authorities)の設置を
援要請に対する判断や提供する避難水域を決定す
義務付けられていますが、EUガイドラインで外国
るうえで、商業的な利益が決定要素となってはなら
船舶から支援要請を受けた際の意思決定までのプ
ない。危険と判断された場合を除き、調査実施なし
ロセスが具体的に示されています。EUガイドライ
に支援要請を拒絶してはならない」
。
ンは、当局の合理的かつ迅速な決定を促すととも
6. おわりに
要支援船舶の避難水域の提供に関する拘束力
イドラインが今後発生する海難事故対応において
ある国際的な枠組みの構築は、各国の主権との関
どのような効果を発揮するかは注目に値するもの
連で実現が困難な課題です。そのような状況下、
と考えます。
IMOガイドラインの内容を具現化した指令があり、
今般そのガイドラインを策定したEUでの取組は一
<参考文献>
歩進んでいるといえます。EUガイドラインがいつ、
海洋政策研究所 「避難船舶の避難港への受入れに
どのような内容で採択されるかは不明ですが、ガ
関する総合的研究」
船舶の避難水域問題に関する EU の動向について
12
GMT No.58 April 2016
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)
詐欺にご注意を
1. はじめに
2015 年、標的型攻撃メールによるサイバー攻撃
を受けた日本年金機構から100 万件を超える年金
加入者の個人情報が漏えいしたという事件をご記
起と情報セキュリティ対策の実施を呼びかけてい
ます。
米国連邦捜査局(FBI)は 2015 年、貿易取引
などで日常的に海外送金を行っている企業をター
憶でしょうか。
標的型攻撃メールは、不特定多数に大量の迷
ゲットとして、標的型メールを使用した巧妙なビ
惑メールを送りつける手口と異なり、特定の企業
ジネスメール偽装(BEC※1)詐欺による被害が急
や組織から重要な情報を盗むことなどを目的とし
増していると警告を発しています。FBIの発表によ
たものです。あたかも正当な業務上の用件である
ると、BEC 詐欺は米国内だけでなく海外でも大き
かのように見せかける内容のメールを社員や職員
な被害をもたらしているとのことです。
に送りつけるため、受信者がだまされやすく、添
本稿では、BEC 詐欺の典型的な手口と、被害を
付ファイルやリンク先をクリックしてしまいコン
受けないための防護策についてご紹介します。貿
ピューターウィルス感染の被害を受けやすくなっ
易取引を行っているお客さまを中心に、詐欺被害
ています。
防止にお役立ていただければ幸いです。
近年このような標的型攻撃メールによる被害が
(※1)Business E-mail Compromise の略
増加しており、経済産業省や総務省などは注意喚
2. BEC 詐欺の手口
BEC 詐欺は、貿易取引等により日常的に海外送
金を行っている企業をターゲットとして、正規の
(※2)不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意
のあるソフトウェアやプログラムコード等の総称
メールアドレスからの送信メールであることを偽装
して、経理責任者等に不正な銀行口座への送金を
依頼することによって行われます。
詐欺師は、CEOやCFO 等からの指示、または、
仕入先等の取引先からの依頼であるかのように見
BEC 詐欺は、まずマルウェア(※2)や欺瞞(ぎ
せかけて、漏えいしたメールアドレスから発信され
まん)した電話・メール等により、CEO や CFO 等
たように偽装したメールを送金手続きの決裁ができ
のメールアドレスが漏えいすることから始まりま
る経理責任者等に送りつけます。
す。漏えいする情報は、ターゲット企業の取引先
メールの発信元を偽装する方法には、CEOや
のメールアドレスや銀行口座情報である場合もあ
CFO 等のメールアドレスになりすます手口の他、
ります。
本物のメールアドレス(例:○○○○ @ms-ins.
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)詐欺にご注意を
GMT No.58 April 2016
13
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
com)との見分けが困難な微細な相違点しかない
で、CEOが出張するタイミングを見計らって送信
ニセのメールアドレス(例:○○○○ @ms_ins.
するなど、詐欺の発覚を難しくするための欺瞞(ぎ
com)を発信元とする手口等があります。
まん)工作が行われることも多くあります。
ターゲット先企業に対する事前調査を行ったうえ
ご参考までに、典型的なBEC 詐欺の手口を2つご紹介します。
<ケース1>
継続取引のある仕入先から発信されたかのように偽装したメールを送りつけ、詐欺師が管理する不
正な口座への送金口座変更を依頼する。ハッキング等により従業員のメール記録やアドレス帳から
不正に情報入手した不特定多数の取引先企業に対して、一斉にメール送信したケースもある。
本物の口座と明細が酷似した不正口座を用意する等、詐欺の発覚が困難となるような巧妙な手口が
利用される。
<ケース2>
CEOやCFO 等の役員になりすましたメールを経理責任者に送りつけ、緊急の送金手続きが必要と
なったことを告げ、不正な口座への送金を指示する。買収実現のための資金である等、もっともらし
い送金理由を説明するケースもある。
COB:Close of Business
CEOに偽装したメールのイメージ(出典:米国連邦捜査局(FBI)ホームページ)
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)詐欺にご注意を
14
GMT No.58 April 2016
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
3. BEC 詐欺の被害状況
FBIによると、2013 年10月から2015 年8月の
広げる一方、要求する金銭は比較的少額であるこ
期間におけるBEC 詐欺の被害状況は下表のとおり
とが一般的でした。しかし、特定の企業をターゲッ
となっています。
トとして、企業間取引における海外送金を狙った
BEC 詐欺では、高額な送金を要求するケースが多
被害者数
被害額
1.米国所在企業
7,066 社
約 748 百万ドル
2.米国外の企業
1,113 社
約 51 百万ドル
3.総計
8,179 社
約 799 百万ドル
く、1件で70 万ドルを超える被害も確認されてい
ます。
1回の要求額が大きいため、詐欺師は成功回数
が少なくても多額の利益を得ることができます。非
FBIの推定では、海外の他の捜査当局からもたら
された情報も含めた同期間における全世界の被害
総額は約12 億ドルにのぼるとのことです。
常に大きな見返りがあるため、BEC 詐欺が収まる
見込みはまずないといえるでしょう。
(※3)海外の政府関係者等を名乗り「秘密資金の送金の
FBIはまた、2015 年のBEC 詐欺被害件数は前年
ために銀行口座を貸してくれれば資金の一部を謝
の 2.7 倍と急増しており、被害は世界 80カ国にま
礼として渡す」などと持ちかけ、手数料等と称し
で拡がっていると警告しています。
て言葉巧みに金品を騙し取ろうとする手口の詐欺。
このように近年急拡大しているBEC 詐欺被害の
1980 年代の発生当初、アフリカのナイジェリアを
もう一つの特徴として、被害額が高額となる傾向
発信源として世界的に拡大したため、
「ナイジェリ
が挙げられます。
「419 詐欺(※3)
」に代表される
ア刑法 419 条に抵触する犯罪」との意味合いから
古典的な国際詐欺では、不特定多数の相手に網を
通称「419 詐欺」と呼ばれている。
4. BEC 詐欺被害に遭わないための防護策
FBIが推奨する、BEC 詐欺による被害を未然に
(2)確認手順の複層化や社員の意識強化等、
情報システム外のセキュリティ対策
防ぐために有効な対策は、次のとおりです。
・取引先から送金先変更の依頼を受けた際は、
(1)情報システムのセキュリティ対策
・自社のメールアドレスと類似したドメインから
個人の署名による確認等の二重の認証により、
発信されたメールを特定して警告を発するセ
取引先を偽装したニセの依頼でないことを確
キュリティシステムを導入する(例:本物の
認する。
ドメインが「@ms-ins.com」である場合に「@
・二重認証の本人確認を電話により行う場合は、
ms-ins.co. jp」等から発信されたメールを特定
送金先変更を依頼するメールに記載された電
する)
。
話番号ではなく、過去から知っている電話番
・自社のメールアドレスと類似した全てのドメ
インを、他者が使用できないよう自社分とし
て登録する。
号に掛ける。
・普段から取引先の特性、特に送金理由や背景、
送金額の範囲等についてよく知っておく。通
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)詐欺にご注意を
GMT No.58 April 2016
15
・
・
・・
・・
・・
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
Global Marine Tsushin
常の取引と異なる指示・依頼があったときは、 (3)その他日常的なインターネット利用における
セキュリティ対策
不正な発信元からの偽装メールでないかどう
か、綿密に精査する。
・フリーメール等、無料のウェブアカウントを
自社のウェブサイトやメールアドレスとして
・依頼があったことを秘密としたり、至急対応
利用することは避ける。
することを要求する内容のメールは、特に疑
わしいので注意する。
・ソーシャルメディアやウェブサイトに企業情
報(特に社員の担当業務や役職等に関する情
報)を掲載するときは、不正なサイトではな
いか特に用心する。
5. おわりに
いつの時代でも詐欺による金銭の略取は行われ
< 参考文献 >
ていましたが、昨今のグローバル化による貿易取引
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ホームページ の拡大、電信送金による国際間資金移動の簡便化、
https://www.ipa.go.jp/
インターネットの普及やマルウェアの高度化を背景
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)ホームページ として、非常に巧妙化した手口の詐欺が拡大して
https://www.jetro.go.jp/
います。
米国沿岸警備隊(USCG)Maritime Cyber Bulletin 002-16
BEC 詐欺は標的型攻撃メールによるマルウェア
米国連邦捜査局(FBI)ホームページ https://www.fbi.gov/
感染から始まることが多いですが、標的型攻撃メー
ルはウィルス対策ソフト等による発見が困難といわ
れており、感染に気づかないまま長期間放置されて
しまうケースが多いことが情報セキュリティ機関に
より指摘されています。
ウィルス対策ソフト等に頼るだけでなく、疑わし
い偽装メールを見抜き、不正な資金移動の要求に
応じないための確認手順の複層化や社員の意識強
化等のシステム外の対策を強化することが、BEC
詐欺のような国際詐欺被害に遭わないためには有
効です。特に日常的に海外送金を行っているお客
さまにおかれましては、本稿でご紹介したBEC 詐
欺の手口と防護策を、自社のセキュリティ対策の一
助としてご参考にしていただければ幸いです。
巧妙なビジネスメール偽装(BEC)詐欺にご注意を
16
GMT No.58 April 2016
GMT
グローバルマリン通信
発行日
2016 年 4 月 1 日
発 行
三井住友海上火災保険株式会社 海上保険部
No.58
TEL 03-3259-3274 FAX 03-3291-5470
http://www.ms-ins.com
(無断転載はお断りいたします)
海外拠点・グループ会社
平成27年9月7日現在(42カ国・地域、海外子会社・関連会社傘下の支店・事務所を含む)
【欧州・中東】
【アジア・オセアニア】
【北米・中南米】
ロンドン
上海
ダービー
北京
ニューヨーク
マンチェスター
広州
シンシナティ
グラスゴー
大連
ロサンゼルス
ベルファスト
蘇州
アトランタ
バーミンガム
無錫
デトロイト
ダブリン
成都
シカゴ
ウォーレン
パリ
青島
オーバーランドパーク
ケルン
深
ダラス
トロント
アムステルダム
香港
ブリュッセル
台北
ハミルトン
(バミューダ)
ミラノ
ソウル
メキシコ
マドリード
シドニー
パナマ
ブラティスラバ
メルボルン
ボゴタ
リマ
チューリッヒ
オークランド
オスロ
ニューデリー
サンパウロ
モスクワ
チェンナイ
ブエノスアイレス
サンクトペテルブルク
シンガポール
ドバイ
クアラルンプール
アブダビ
ペタリンジャヤ
ヨハネスブルグ
ラブアン
ジャカルタ
マニラ
バンコク
ハノイ
ホーチミン
ヤンゴン
プノンペン
ビエンチャン
バンガロール
M0028-6 3,800 2016.2 (改)
65
Fly UP