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中国人日本語学習者のテキストのオンライン読みにおける語彙と文法

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中国人日本語学習者のテキストのオンライン読みにおける語彙と文法
日本教科教育学会誌 2013.6
第 36 巻
第1号
33-43 頁
中国人日本語学習者のテキストのオンライン読みにおける語彙と文法能力の影響
大阪大学日本語日本文化教育センター
大和 祐子
名古屋大学大学院国際言語文化研究科
玉岡
賀津雄
天津外国語大学・名古屋大学大学院国際言語文化研究科院生 初
相娟
(要約) 本研究では,中国人日本語学習者の日本語のテキストの読みの効率性に日本語の語彙・文
法能力がどのように影響するかを検討した。大学で日本語を学ぶ中国人日本語学習者 127 名に対
して,日本語の語彙テスト,文法テストおよび日本語のテキストの自己制御読み課題を行った。
まず,語彙と文法のテストの得点で日本語学習者を上位群・中位群・下位群の 3 グループに分け
た。次に,各群のテキストのオンラインでの個々の句を中心としたまとまりの読み時間を語彙と
文法の能力で分けた双方の上位・中位・下位のグループで比較した。その結果,第1に,読みの
迅速さには,文法能力よりも語彙能力の影響が多くの箇所で見られた。読みの迅速さに語彙能力
の影響が強く影響していることがわかった。第2に,語彙能力の影響が単独で見られる句と連続
して見られる句があり,後者は文の構造が複雑な箇所であった。このことから,語の意味をつな
ぎ合わせる意味的な連鎖としてテキストの意味を理解していることが示唆された。第3に,文法
能力の影響は限定的で,テキストの読みにおいて述部など文の構造が複雑な箇所や次に繋がる意
味的展開の個所で影響していることが分かった。
キーワード:中国人日本語学習者,オンライン読み,読みの迅速さ,語彙知識,文法知識
中国人日本語学習者が迅速にテキストを読むため
1.研究目的
「読み(reading)」は,文字や単語の符号化からテ
には,語彙・文法能力がどのように影響している
キスト全体の理解に至るまでのさまざまな下位過
かを明らかにする。第2に,日本語の比較的難易
程から構成されている認知的活動である。語彙能
度の高いテキストにおいて,中国人日本語学習者
力および文法能力の読解に対する影響を調べた研
が日本語の語彙・文法能力の影響を受けやすい部
究では,対立した結果が報告されている。語彙能
分・受けにくい部分にはどのような特徴がみられ
力が主要な要因であるという立場では,Yamashita
るかを検討する。
(2002) が,日本人英語学習者を対象に Carr & Levy
1.1 読解能力を構成する背景要因
(1990) のアプローチを用い,読解能力を構成する
日本語教育において,読解の向上は主要な目的
能力を調べたところ,読解に対して語彙能力の影
の一つである。読解に強く影響する諸要因を明ら
響が強いことを示した。その一方で, Shiotsu &
かにすることで,それらを教授・学習のプロセス
Weir (2007) は,読解には語彙能力よりも文法能力
に反映させることができる。
の方が強い因果関係を示していると報告している。
第二言語あるいは外国語の読解能力を構成する
以上のように,語彙能力と文法能力については,
背景要因には,語彙・文法能力のほか,第一言語
一致した見解はみられない。
における読解能力やテキストの内容に関わる背景
そこで,
本研究では,
次の点について検討する。
知識などがある。Carr & Levy (1990) は,読解に影
第1に,中国人日本語学習者の日本語テキストの
響すると予想される要因を説明要因として,読解
オンライン読みにおいて,テキストを迅速に処理
を予測する重回帰分析のアプローチを提案した。
するために語彙および文法能力がどのように影響
この観点から行われてきた研究としては,読解へ
しているのかを明らかにする。その手順として,
の語彙と文法能力の影響を調べた Yamashita
1
(2002)や Shiotsu & Weir (2007) ,第一および第二言
文法能力が上位にならなくてはかき混ぜ文の習得
語による一般的な読解能力と特定のテキストの読
が難いこと(玉岡・邱・宮岡・木山, 2010),
「ケンジ
解との関係を調べた Fitzgerald (1995) ,語彙能力
にギリシャ語が書けるだろうか」などのニ格主語
とテキストに関する背景知識の影響を調べた柴崎
文の理解は,文法能力が高い学習者でも難しいこ
(2005) などがある。
と(玉岡, 2005)が示されている。
まず第二言語の読解において,語彙能力と背景
Barry & Lazarte (1998) は,スペイン語母語話者
知識の影響を調べた柴崎 (2005) は,語彙能力が
に英語 (第二言語) のテキストを読んだ後に内容
テキストベースの理解に強く影響を与えているも
を再生させる課題を行ったところ,テキストへの
のの,さらに背景知識も状況モデルの理解に影響
背景知識があるかどうか関係なく,テキスト内に
を与えていることを見いだし,第二言語の読解に
含まれる統語構造の複雑さがテキスト全体の内容
おける知識と理解の因果関係を表したモデルを提
理解に影響を及ぼしていることを指摘している。
示した。これらの研究は英語を目標言語として扱
したがって,これまで読解の背景要因として語彙
ったものであるが,語彙の影響の強さは日本語の
能力の影響が指摘されることが多かったが,複雑
場合にも言えるようである。実際,第二言語とし
な文構造を含むテキストにおいては文法能力の影
ての日本語のテキスト理解に必要な語彙の閾値を
響も無視できないのではない。
しかし,統語構造の複雑さ(Barry & Lazarte, 1998),
探索した小森・三國・近藤(2004)では,語彙の既知
語率と文章理解課題の間には強い相関があり,視
かき混ぜ語順 (玉岡, 2005; 玉岡・邱・宮岡・木山,
覚提示されるテキストに含まれる語の 95%から
2010) などの研究は個々の文のレベルにおける影
96%を知っていなければ効率的なテキスト処理が
響を検討したものである。個々の文はより大きな
難しいことが報告されている。
ユニットであるテキストに埋め込まれて全体の意
1.2 文の複雑さと読み速度
味の一部を成している。そのため,テキスト全体
高橋 (1996) は,母語の読みについて,①文字や
の理解が進む中で,修飾関係や述部の複雑さなど
単語の処理レベル,②文の単位の処理レベル,③
がテキストの処理にどのように影響するかを調べ
談話の処理レベルの3段階の処理レベルがあると
ることで,背景知識の影響 (柴崎, 2005) の基で,
する「読解過程で働く3つの処理モデル」を示し
語彙と文法の能力の影響を調べてみる必要がある。
ている。このモデルを参考に第二言語における読
読解の背景要因としての語彙・文法能力の影響
みに援用するなら,第二言語の語彙処理能力が①
を調べた研究では,これまで「テキスト全体の読
の処理レベル,統語構造の理解などを含む文法能
みの結果」をどのくらいテキストの内容が理解で
力は②もしくは③の処理レベルで影響することに
きたかを基準に判断されてきた。そこで,本研究
より,
テキストの理解が可能になると考えられる。
ではオンライン法(阿部・桃内・金子・李, 1994)を
1.1 で述べたように,
読解の背景要因として語彙能
用い,句ごとの読みの迅速さを測定することによ
力は重要な要因の1つであることは確かであろう。 って,テキストの読みの過程(即ち,読解)の中での
その一方で,文構造が複雑な文を含むテキスト
難しい語彙,複雑な文や句の構造の処理を明らか
においては,語彙能力のみならず文法能力も駆使
にする。その際,語彙と文法の能力で分けた上位・
して,日本語のテキストが処理されると予想され
中位・下位の3群を比較することで,テキストに
る。実際,文レベルで文構造が複雑な文の処理に
含まれる複雑な文構造を持つ文や句の処理に語
は負荷がかかっていることは,先行研究で明らか
彙・文法能力が,
「どの部分で」
「どの程度」影響
になっている(玉岡, 2005; 玉岡・邱・宮岡・木山,
しているのかを詳細に調べる。
2010; Tokimoto, 2005; 時本, 2008)。日本語母語話者
で正順語順の文の処理の方がかき混ぜ語順の文よ
2.研究方法
りもより負荷がかかるが明らかにされている
2.1 実験参加者
2009 年 9 月に,中国・天津市内の大学で日本語
(Tamaoka, Sakai, Kawahara, Miyaoka, Lim & Koizumi,
を専攻する学習者 127 名(1年終了生 58 名,2年
2005)が,中国語を母語とする日本語学習者でも,
2
終了生 69 名)に対して,ペーパーによる語彙テス
しい」である。また,
「彼女はどんなに大変なとき
トと文法テスト,および「固定窓式の自己制御読
でも,(
み(fixed-window self-paced reading)」を使ってテキ
いる。
」については「□語句 □苦難 □不評 □
スト読み時間を句ごとにオンラインで測定した。
愚痴」から正解を1つ選択する。この問題の正解
本研究における実験参加者の平均年齢は 20 歳5
は,
「愚痴」である。このように,この語彙テスト
か月であった。これらの被験者は,中国語を第一
で問う語彙知識は,動詞・形容詞・名詞・機能語
言語(母語)としており,日本語の学習は大学に入
が含まれる。本研究における被験者 127 名の語彙
学してから開始しており,実験を実施した時点で
テスト(1問1点・48 点満点)の平均点は 32.32 点
は,日本への留学経験はない。
で,このテストの信頼性を表すクロンバックの α
2.2 語彙能力と文法能力の測定
係数は,
0.848 であった(問題数=48, 被験者数=127)。
)ひとつ言わずに病人の世話をして
実験に先立ち,宮岡・玉岡・酒井 (2011) の日本
これに基づいて最も近い整数である 32 点を含む
語の語彙テストと文法テストを行った。宮岡・玉
前後3点の学習者を中位群として,それより高得
岡・酒井 (2011) の語彙テストは全 48 問からなり,
点の学習者を上位群,中位群より低い得点の学習
漢語・和語・外来語・機能語の語彙知識を問う問
者を下位群とした。その結果,語彙能力における
題が各 12 問ある。例えば,
「彼のスピーチは,結
上位群(36 点以上)の学習者は 47 名,中位群(29 か
婚式に(
ら 35 点)の学習者は 37 名,下位群(28 点以下)の学
)内容の,いいスピーチだった。
」と
習者は 43 名となった。
いう質問に対して,
「□おびただしい □ふさわし
一方,宮岡・玉岡・酒井 (2011) の文法テスト
い □おとなしい □まぎらわしい」から1つ適
切な語彙を選択する。この問題の正答は,
「ふさわ
は,全 36 問からなり,形態素変化(morphological
は構造の複雑性の知識を問う問題で,正答は「□
inflection)・局所依存(local dependency)・構造の複雑
当然だと思う」である。また,
「このお金を銀行に
性(complex structure) を問う問題がそれぞれ 12 問
(
ある。例えば,「わたしは彼が腹を立てたのは
預けろう □預けよう □預けう」から正解を1
)。
」という質問に対して,
「□当然だ □当
つ選ぶ。この問題は形態素変化の知識を問う問題
然だと思う □当然です □当然ではないでしょ
で,正解は「預けよう」である。この文法テスト
うか」から1つ適切なものを選択する。この問題
(1問1点・計 36 点満点)の平均点は 27.86 点で,
(
3
)と思う。
」については「□預けるよう □
このテストの信頼性を表すクロンバックの α 係数
測定した(1問1点・計2点)。なお,本研究で用い
は,0.687 であった(問題数=36, 被験者数=127)。こ
た2題のテキストの各能力のグループごとの平均
れに基づき,平均点に最も近い整数である 28 点
は,語彙能力の上位群が 1.149 点(SD=0.659 点),
の前後 1 点ずつ,即ち 27 から 29 点の学習者を中
中位群が 0.676 点(SD=0.580 点),下位群が 0.744 点
位群とし,中位群より高得点(30 点以上)の学習者
(SD=0.539 点)であり,語彙能力の主効果は有意で
を上位群,中位群より得点が低い(26 点以下)学習
あった[F(2, 124)=8.032, p<.001, η2=0.115]。シェフェ
者を下位群とした。その結果,文法能力における
の多重比較の結果,上位群が,中位群と下位群よ
上位群の学習者は46名,
中位群の学習者は39名,
り有意に点数が高いことが分かった。一方,文法
下位群の学習者は 42 名となった。以上の手続き
能力で分けた上位群は 1.022 点(SD=0.682 点),中
を経て,オンラインでの個々の句の読み時間を語
位群は 0.871 点(SD=0.614 点),下位群は 0.714 点
彙能力と文法能力で分けた双方の上位・中位・下
(SD=0.533 点)で,文法能力の主効果は有意ではな
位のグループで比較した。
かった[F(2, 124)=2.686, p=.072, n.s., η2=0.042]。しか
2.3 オンラインのテキスト読みの測定
し,満点が2点であることを考慮すると,語彙・
文法能力で分けたどの群でも平均が高くなく,本
上記の日本語学習者に,外来語を多く含むテキ
スト『レジ袋』1)(310
実験で対象とする学習者にとって,比較的難易度
字)と日本語の漢字語を多く
含むテキスト『震災時の情報伝達』2)(304
の高いテキストであったと考えられる。
字)の2
題について,固定窓の自己制御読み課題を行った
3)。これらのテキストは,日本語能力試験1級の読
3.結果
解問題のうち,比較的短い読解問題において出題
3.1 語彙能力または文法能力に影響を受けた句に
されたもの,また出題を予想して作成されたもの
ついての量的な検討
を基にしたものである。自己制御読み課題では,
テキストの句ごとの読み速度について,2(語彙
パソコンのモニターの中央に,長さの関係で完全
能力・文法能力)×3(上位群・中位群・下位群)の
に句を単位としていない場合もあるが,基本的に
分散分析を行った。まず,分散分析によって語彙
は句を単位としたまとまりごとに表示した。
能力の主効果が有意であったもの,文法能力の主
日本語学習者がスペースキーを押すごとに,前
効果が有意であったもの,および交互作用が有意
の句が消えて,次の句が同じ場所に提示される。
であったものの句の数を調べた。その結果,表1
スペースキーを押して,次にもう一度スペースキ
に示したように,2題のテキストの総句数 123 句
ーを押すまでの時間を,提示された句の読み時間
(『レジ袋』61 句,
『震災時の情報伝達』62 句)のう
と考え,ミリ秒単位で,コンピュータで自動的に
ち,
語彙能力の主効果が有意であったものは 49 句
記録した。1度読んだ句を,元に戻って読み返す
(『レジ袋』28 句,
『震災時の情報伝達』21 句),文
ことはできない。以上の条件で,被験者に,内容
法能力の主効果が有意であったものは8句(『レジ
を理解しながら,できるだけ速く正確に,提示さ
袋』7句,
『震災時の情報伝達』1句),交互作用が
れる句を読むように指示した。
有意であったものは2句(『レジ袋』0句,
『震災
また,テキストを読んだ後,その内容に関して
時の情報伝達』2句)であった。
五者択一の問題を1問ずつ課し,読みの正確さを
表1 2(語彙・文法)×3(上位群・中位群・下位群)の分散分析で有意となった句の数
『震災時の情報伝達』
62
語彙能力
有意
28
『レジ袋』
61
21
1
2
合計
123
49
8
2
100%
39.84%
6.50%
1.63%
テキスト
(総句数に占める割合)
総句数
4
文法能力
有意
7
交互作用
0
語ではあるが,被験者の母語である中国語の表の
このことから以下の3つのことが分かる。第1
に,上位・中位・下位の3群の語彙・文法の能力
「暮らし」などの和語,さらに「61. 余儀なく
は,テキスト全体(すべての句)において影響した
されて」
「62. しまうのであった」の「余儀なくさ
のではなく,特定の句の処理に影響していること
れる」という,イディオムとしての理解が必要で
が分かった。第2に,語彙能力は 49 句 (総句数の
あるものも,日本語の語彙知識が豊富でなければ
39.84%) で主効果を示し,文法能力はわずかに8
迅速な処理が難しいという点では,これらはすべ
句 (総句数の 6.50%) で主効果を示した。
このこと
て共通した特徴をもっていると言える。
から本実験で用いたような難易度の高いテキスト
逆に,日本語としての理解が必要である外来語
の読み処理においては,文法能力より語彙能力の
であっても,テキストの読み速度に,語彙能力お
方がより強く影響していることが分かった。第3
よび文法能力の影響がみられなかった部分もあっ
に,両能力の主効果が共に有意であったのは,わ
た。例えばテキスト『レジ袋』の「29. エコが」
,
ずかに3句であった。また,語彙と文法能力の交
「44. ペットボトルも」などの難易度が高いと思
互作用が見られたのもわずかに2句だけであった。 われる外来語を含む句である。英語由来の外来語
そのため,語彙と文法能力の両者が同時に影響し
を意訳することが多い中国語では,
「エコ」
,
「ペッ
たたり,両能力が別々に独立して処理に影響する
トボトル」などの語もそれぞれ「生态学;环保」
,
ことは稀であると言えよう。つまり,語彙と文法
「塑料瓶」と意訳されるため,中国語の知識の援
能力の影響は,比較的お互いに独立して句の処理
用は難しい。それだけではなく,これらは日本語
に影響していることが分かった。
能力試験出題基準(2002)によると,ともに出題級
以上の点を踏まえ,2種類の各テキストで語彙
に提示されていないものである。また,
「29. エコ
と文法能力の影響を受けた部分,受けなかった部
が」の平均処理時間をみてみると,語彙能力の上
分の特徴について詳細にみていくこととする。
位群(2,145 ミリ秒)でも文法能力の上位群(2,295 ミ
3.2 有意になった句の示す特徴
リ秒)でも長い処理時間がかかっていることが分
分散分析で語彙または文法能力の主効果が有意
かる。つまり,これらの語を含む句は中国人日本
になった句を中心に,
詳細にその特徴を検討する。
語学習者にとって親密度の低い語であることが予
外来語を多く含むテキストの『レジ袋』で,実験
想され,語彙能力・文法能力の上位群であっても
で提示した通りの句のまとまりごとに,分散分析
処理時間が長かったために,グループ間の差はみ
の結果を表2に報告した。同じく表3には,漢字
られなかったと考えられる。漢字語の場合をみて
語を多く含むテキスト『震災時の情報伝達』の分
みると,テキスト『震災時の情報伝達』の「31. 行
散分析の結果を示した。
政等から」
,
「59. 空腹で」などが日本語の語彙能
テキストの読み過程において,語彙能力の主効
力・文法能力の影響がみられなかったものとして
果が有意である部分は,大きく分けて2種類に分
挙げられる。これらの句に含まれる「行政」や「空
類できる。1つは語彙能力の主効果が単独で有意
腹」は,中国語でも同表記される語であることか
であった句である。もう1つは連続していくつか
ら,これらの語自体の難易度とは関係なく,中国
の句で語彙能力の主効果が有意であった句である。 語の語彙知識を援用して迅速に語彙を処理してい
それぞれの句の特徴について,次に例を挙げて検
ると考えられる。
討する。
3.2.2 いくつかの句で連続して語彙能力の主効果
3.2.1 語彙能力の主効果が単独で有意であった句
が有意であった部分
語彙能力の主効果が単独で有意であった句の例
語彙能力の主効果が有意であったものの中には,
として,テキスト『レジ袋』の「28. ビニール袋の
いくつかの連続した句で主効果が有意であったも
ことである」
,
「49. ジュースを」などが挙げられ
のがあった。これは,単に学習者にとって読み時
る。テキスト『震災時の情報伝達』でも「19. 露呈
間がかかる語が多く含まれる句の連続であるから
したのであった」などは語彙能力の主効果が単独
ではなく,これらは提示された1文が長く,さら
で有意であった。
「露呈する」という語彙は,漢字
に句の修飾関係が複雑である部分であった。その
5
6
817
801
6 起こった。
7 周知の
869
620
11 日頃は
12 全く
620
816
17 問題が
18 数多く
1,250
1,308
1,719
1,576
29 暮らしの中で
30 聴覚障害者が
31 行政等から
906
25 まことに
28 避難所での
631
24 困難は
907
831
23 遭遇した
1,533
781
22 障害者が
27 そうしたところ
716
21 高齢者や
26 深刻であった。
660
20 特に
1,520
801
16 様々な
19 露呈したのであった。
906
658
15 社会生活上の
14 現在の
1,643
932
10 折には
13 気づかれない
907
9 あの災害の
2,384
775
8 阪神・淡路大震災である。
1,179
5 大災害が
797
4 予期しない
3 全く
1,152
2 関西には
上位
1,502
1,805
1,671
1,376
1,813
1,110
1,208
758
958
992
810
653
1,870
940
650
997
1,048
832
1,922
666
1,067
1,250
1,151
2,384
1,243
809
835
1,498
1,016
1,385
2,399
中位
下位
1,516
1,807
1,751
1,402
2,085
1,382
1,654
878
1,040
1,092
880
735
2,152
1,027
767
1,001
1,257
873
2,355
772
1,332
1,375
1,209
2,697
1,190
923
1,176
1,807
974
1,346
2,140
語彙能力で分けた群
1,954
提示した句
1 1995年1月
#
1,558
1,749
1,410
1,221
1,583
1,198
1,203
713
916
985
735
661
1,870
947
627
822
1,026
917
1,805
662
1,043
1,072
1,076
2,472
1,156
855
942
1,314
995
1,305
1,604
1,934
1,689
1,603
1,814
1,105
1,243
791
1,043
924
886
746
1,826
964
738
1,000
1,099
679
2,010
740
1,128
1,212
1,121
2,559
1,071
932
934
1,690
923
1,305
中位
1,916
上位
2,219
1,444
1,651
1,615
1,221
2,029
1,071
1,303
758
864
929
787
650
1,808
860
681
970
1,079
727
2,101
659
1,087
1,253
1,046
2,446
949
770
908
1,482
838
1,246
2,281
下位
文法能力で分けた群
表3 漢字語を多く含むテキスト「震災時の情報伝達」に提示された句の平均処理時間の比較
*
***
***
*
*
**
*
*
**
*
*
**
**
*
*
語彙 文法 交互
分散分析の結果
1,825
58 受け取れないまま
929
1,476
1,107
60 過ごすことを
61 余儀なくされて
62 しまったのであった。
811
1,116
57 給食を
59 空腹で
1,313
56 時として
1,220
54 受け取ることが
950
1,076
53 実質的には
55 できず
1,083
767
50 配慮を
1,877
839
49 積極的な
52 その伝達を
606
48 人が
51 加えない限り
780
1,465
47 周囲の
46 伝えられてくると
878
1,407
44 という伝達が
45 口頭で
1,327
43 支給される
811
1,522
42 食事が
1,333
39 しまったことも
40 その一つであった。
930
1,305
38 おかれて
41 たとえば
932
37 立場に
1,219
1,161
36 不都合な
730
34 情報を
35 受け取るのに
699
33 各種の
上位
1,664
1,937
1,257
945
1,920
1,003
1,649
1,088
1,215
1,340
1,471
2,271
1,166
1,136
684
852
1,860
831
1,791
1,357
857
910
1,977
1,777
1,665
879
1,384
1,168
707
1,125
1,290
中位
1,799
2,082
1,490
1,047
2,219
1,341
1,662
1,186
1,466
1,396
1,427
2,240
1,396
1,351
766
1,289
1,945
1,095
2,215
1,634
849
1,126
2,397
1,686
1,660
1,031
1,502
1,324
799
932
1,190
下位
語彙能力で分けた群
880
提示した句
32 出される
#
1,263
1,789
1,067
963
1,715
1,113
1,410
1,002
1,225
1,101
1,226
2,119
1,137
1,032
729
891
1,684
924
1,731
1,372
851
924
1,642
1,521
1,626
1,011
1,366
1,177
751
947
990
上位
1,427
1,813
1,321
894
2,321
1,126
1,663
1,071
1,334
1,463
1,457
2,191
1,047
1,048
674
1,043
1,966
986
1,865
1,516
841
974
2,148
1,652
1,496
1,067
1,504
1,343
786
902
1,141
中位
1,838
1,825
1,281
930
1,963
1,239
1,536
1,144
1,356
1,251
1,276
2,052
1,106
1,224
641
997
1,599
908
1,792
1,443
819
1,079
2,107
1,584
1,456
776
1,163
1,212
705
854
1,191
下位
文法能力で分けた群
*
*
***
***
*
*
***
*
*
***
**
*
**
*
*
**
**
*
**
*
語彙 文法 交互
分散分析の結果
7
2,723
2,145
1,780
28 ビニール袋のことである。
29 エコが
30 注目されている
855
1,530
27 入れてくれる
31 現在
1,270
26 買ったものを
945
2,478
23 コンビニエンスストアで
25 払うとき
1,501
22 スーパーや
817
2,894
21 レジ袋だ。
24 お金を
1,447
20 なっているのが
738
18 その
3,176
767
19 ターゲットに
837
1,898
15 思いこむことが
17 今
2,021
16 ある。
1,906
910
9 ものに
14 解決したかのように
919
8 ひとつの
13 問題すべてが
768
7 原因を
1,314
873
6 その
1,572
832
5 あると
12 それによって
817
4 問題が
11 集中攻撃し
884
1,389
795
3 何か
10 代表させて
1,466
783
1,908
2,535
3,681
1,655
1,487
1,295
1,087
3,160
1,988
3,030
1,884
4,041
880
755
1,173
2,631
3,087
1,804
2,161
1,948
1,746
1,254
1,219
878
980
1,065
918
1,134
958
1,733
1,000
2,056
2,502
4,182
1,874
1,532
1,322
994
2,491
1,989
2,850
2,219
4,019
853
882
1,392
2,972
3,137
2,063
2,108
2,006
1,710
1,324
1,324
1,007
1,063
1,092
1,118
1,056
986
1,904
語彙能力で分けた群
上位
中位
下位
2 よく
提示した句
1 人は
#
857
1,926
2,295
3,301
1,617
1,358
1,125
1,045
2,804
1,585
2,973
1,633
3,394
808
791
983
2,431
2,505
1,935
1,600
1,853
1,718
1,205
1,007
798
932
934
863
911
826
1,384
881
2,024
2,516
3,423
1,755
1,357
1,148
929
2,636
1,797
2,872
1,931
3,997
729
799
1,044
2,615
2,943
1,968
2,070
1,981
1,581
1,118
1,178
931
1,000
1,004
938
1,068
939
1,704
913
1,788
2,345
3,768
1,689
1,552
1,254
882
2,589
2,063
2,902
1,968
3,819
912
818
1,349
2,393
2,717
1,887
1,858
1,660
1,493
1,121
1,261
926
979
1,030
1,052
1,080
966
2,009
**
*
*
*
***
*
***
***
*
*
*
**
**
*
*
文法能力で分けた群
分散分析の結果
上位
中位
下位 語彙 文法 交互
表2 外来語を多く含むテキスト「レジ袋」に提示された句の平均処理時間の比較
1,857
1,000
1,503
2,150
35 なりやすいとして
36 消費量を
37 減らすことが
38 義務付けられた。
1,210
1,516
53 レジ袋を
54 断った人が
2,126
1,104
1,388
1,280
2,162
1,323
56 ペットボトル飲料を
57 買っているのを
58 見るにつけ
59 何のための
60 レジ袋規制なのか
61 分からなくなる。
716
2,203
52 これまで通りである。
55 大量の
2,048
51 ストローも
751
1,495
49 ジュースを
50 飲む
808
1,554
46 包む
48 ラップも
908
45 食品を
47 透明な
3,826
1,146
44 ペットボトルも
1,316
43 言われない。
854
41 プラスチックについては
42 何も
1,037
2,955
40 そのほかの
755
1,119
39 だが
1,238
684
1,647
2,053
1,464
1,456
1,264
2,701
850
1,648
1,397
2,644
2,217
913
1,995
1,881
895
1,003
1,080
4,515
1,478
795
3,883
1,234
992
2,390
1,548
968
2,073
1,086
1,339
658
2,104
2,184
1,598
1,996
1,280
2,871
913
1,728
1,299
3,070
2,450
821
2,119
1,846
920
1,110
1,182
4,702
1,929
892
5,261
1,357
1,052
2,620
1,879
1,171
2,349
1,201
1,319
796
語彙能力で分けた群
上位
中位
下位
34 ごみに
提示した句
33 レジ袋は
32 この
#
1,571
2,020
1,407
1,477
1,161
2,495
855
1,634
1,260
2,553
2,195
866
1,809
1,597
878
977
1,170
4,016
1,529
776
3,103
1,164
953
2,383
1,568
1,076
2,120
1,181
1,247
704
1,699
2,476
1,509
1,602
1,290
2,317
851
1,667
1,196
2,680
2,344
783
1,677
1,784
897
1,016
1,104
4,241
1,527
816
4,175
1,170
844
2,484
1,731
1,078
2,069
1,134
1,292
728
1,787
1,952
1,415
1,773
1,190
2,813
758
1,580
1,421
2,641
2,172
808
2,056
1,874
840
1,022
1,138
4,753
1,657
962
4,839
1,276
967
2,277
1,644
991
2,067
1,092
1,351
714
文法能力で分けた群
中位
下位
上位
***
*
*
*
*
***
*
*
*
分散分析の結果
語彙 文法 交互
えば「41. たとえば」から「62. しまったのであっ
一部を検討する。
た」までの文は長く,文の構造も複雑である。(2)
まず,テキスト『レジ袋』の「8. ひとつの」か
にこれらを含む文の一部を示す。
ら「12. それによって」にかけての,連続して処
理時間に語彙能力の影響がみられた部分に着目す
る。(1)に示すのは,語彙能力の影響が連続してみ
(2) 例えば食事が支給されるという伝達が口頭
られた『レジ袋』の冒頭部分で,下線部は語彙能
で伝えられてくると,周囲の人が積極的な配慮を
力の影響がみられた箇所で,
加えない限り,その伝達を実質的には受けること
の部分は文法
能力の影響のみられた箇所である。
ができず,…。
(1) 人はよく何か問題があると,その原因を
(2)に示した下線部が分散分析の結果,語彙能
ひとつのものに代表させて集中攻撃し,それによ
力の主効果が有意になっていた箇所,すなわち語
って問題すべてが解決したかのように思い込む
彙能力の影響がみられた部分である。そのうち,
ことがある。
「44. という伝達が」から「50. 配慮を」までの句
では連続して処理のスピードが語彙能力の影響を
受けていることが分かる。
(1)に示した文では,多くの部分で連続して語
さらに,
「46. 伝えられてくると」では文法能力
彙能力の影響が出ているが,該当部分のすべての
句で文法能力の影響も併せて見られるのではなく, の影響も合わせて受けている(
部分 ) 。こ
「12.それによって」という句のみで,文法能力の
の理由として,
「46. 伝えられてくると」がこの文
影響も併せて見られた。
「12.それによって」では,
における,
「伝える」の主語は「伝達」であり,
「食
「それ」が照応するものを判断する必要があり,
事が支給される」という複文が「という」でこの
談話としての理解が必要であったため,この部分
主文の主語を修飾していることが挙げられる。さ
では文法能力の影響が見られたと思われる。しか
らに,手段の副詞句の「口頭で」が加わり,その
し(1)に示した文の統語的に複雑な部分はこれだ
後で「伝え」(下一段活用の未然形)に受身の「られ
けではなく,
「問題すべてが解決したかのように思
る」(助動詞の連用形),
「て」(接続助詞),
「くる」
いこむ」動作主は何か(「1.人は」)を理解するた
(カ行変格活用動詞の終止形)が付着され,そして
めには,やはりこの文の冒頭からの理解が必須で
接続助詞「と」が 付くという複雑な構造になって
ある。さらに,
「12.それによって」以降の文の主語
いる。ここまでの内容を理解したうえで,
「48. 人
である「1.人は」が,このテキストでは省略され
が」
に続く文を読み進める必要がある。
そのため,
ている点でも,それ以前の文の構造的な理解が必
文の理解を支える重要な部分となる「46.伝えられ
要となってくる。本来ならば,読み手はこれらの
てくると」で文法能力の影響がでていると予想し
複雑な構造を理解するために負荷がかかり,文法
た。しかし,
「48. 人が」
「49. 積極的な」
「50. 配慮
能力の影響が強く出ることが予想される。しかし
を」においても,
「46. 伝えられてくると」以前の
ながら,本実験の結果では,提示される1つ1つ
文の内容と,その後に提示された句との内容の整
の語の難易度にかかわらず,連続して読み時間に
合性を確認しながら,テキストを処理するために
語彙能力の影響がでていた。これは,テキスト内
文の複雑性が関連していると思われるが,本実験
の語彙に依存した処理を進めていることを意味し
では語彙能力の影響のみがみられた。これは,文
ている。また,この(1)で語彙能力の影響が多数の
構造が複雑であることから来る内容の整合性の判
句でみられた理由として,この文が文章の冒頭で
断を,テキストの中の語彙能力をもって行ってい
あったという点も大きい。テキストの冒頭では,
ることを示唆している。
テキストで取り上げられている話題を把握するた
この2例からもわかるように,これらは統語的
めに,語彙能力が連続して影響したことが考えら
に複雑な文ではあるが,迅速な処理に文法能力の
れる。
影響がみられたのは,その中でも重要な,文の前
テキスト『震災時の情報伝達』においても,例
項と後項の関係を決定付ける部分に限られる。こ
8
のような部分の前後では,文法能力よりもむしろ
な箇所(句の連続)や意味的な転換が行われる箇所
語彙能力の影響を連続して受けている。しかし,
に限定される傾向にある。
この部分にみられる特徴的な傾向は,単独の句で
とりわけ語彙能力の影響が表れていた部分は,
語彙能力の影響がみられた前述の部分とは異なり, 複数の句が連続しており照応関係の理解が必要な
句に含まれる語や表現そのものが処理に負荷がか
部分,名詞修飾節とその後の意味的に関連した部
かるものであったわけではない。連続した句で語
分があった。実際,テキストにおける照応関係の
彙能力が影響を与えた部分では,個々の語の意味
ある語の位置は距離がある場合や省略される場合
を理解しようとしているというより,複雑な文構
(「ゼロ照応」) もある。また,名詞修飾節に関し
造をもつ文で,文に含まれる語を手がかりとして
ても,日本語の場合は修飾節前置型であり,関係
テキストの内容を理解しようとしていると言える。 節を明示する標識もない。このような統語的な複
雑さを補うために,周辺の語彙の情報から内容を
理解する必要があるため,語彙能力の影響が顕著
4.総合考察
本研究では,中国人日本語学習者によるテキス
に見られたのだと考えられる。このように,テキ
トの各句の処理速度をオンラインで測定すること
ストの処理においては,個々の語および複数の語
により,中国人日本語学習者が日本語のテキスト
が織りなす意味を理解 (即ち,語彙能力) しつつ,
の読みのどのような箇所で,語彙・文法能力が影
それに文法知識が複雑な文で特に重要である部分
響しているかを明らかにした。
で関与していることが示唆された。
まず,全体的にみて,迅速な句の処理には,文
最後に,今後,検討すべき課題を2点挙げる。
法能力よりも語彙能力が強く影響している箇所が
まず第1に,本研究では,特定の文構造を統制し
多かった。これは,読解において語彙能力の影響
たテキストを用いたわけではなく,全体的に難度
が強く見られるとする Yamashita (2002),語彙の豊
の高いと思われるテキストを用い,そのなかに照
かさが読解に重要であるとすることを示した小
応関係の理解が必要な部分,および名詞修飾節な
森・三國・近藤 (2004) などの先行研究を支持する
ど文構造の複雑な文を含め,探索的に中国人日本
結果であった。また,本研究と同様に中国語を母
語学習者の読みの過程を考察した。今後の研究で
語とする日本語学習者を対象に,構造方程式モデ
は,語彙と文法の能力の影響が,複数の連続した
リング (SEM) を使って語彙知識が読解・聴解の
句でどのように相互に関係しているかを,文構造
言語理解を有意に予測し,文法知識は言語理解に
と語彙の難易度を統制して,語彙と文法能力の影
ほとんど貢献しないという因果関係を証明した玉
響を同時に観察しなくてはならないであろう。
第2に,本研究では,語彙・文法能力のそれぞ
岡・宮岡・福田・毋 (2007) の研究結果とも一致す
れの上位・中位・下位の3群のどのレベルによっ
る。
本実験の結果で最も注目すべき点は,句が複雑
て,読み時間に違いがみられるのかについて詳細
な修飾関係で成り立つような文においても,語彙
の検討をしなかった。そこで,やはり語彙の難易
能力が連続して影響していた点である。第二言語
度と統語構造を統制した文で,語彙と文法能力の
において,統語構造の複雑さが文理解に影響する
各群のレベル差が読みの迅速さにどのように影響
(Barry & Lazarte, 1998; Koda, 2005; 玉岡, 2005; 玉
するかをさらに詳しく検討する必要がある。
今後,
岡・邱・宮岡・木山, 2010) ことが実証されている
これらの点を明らかにするための研究を進めて行
が,本研究でも,やはり文法能力の影響が見られ
きたい。
た。しかし,テキスト内の統語構造の複雑な部分
において,文法能力がある程度影響するものの,
注
むしろ語彙能力の影響が,連続して強く影響して
1)本実験で用いた『レジ袋』は,平成 20 年度日本語能力
いた。そのため,中国語を母語とする日本語学習
試験1級の読解問題として出題されたものを,一部改
者では,テキストの読みは,あくまで語彙能力が
変したものである。
基本であり,文法能力の影響は,統語構造の複雑
2)本実験で用いた『震災時の情報伝達』は,1級模試(第
9
2回)に掲載されたものを,一部改変したものである。
Language Testing, 24(1), 1-30.
3)本研究の自己制御読み課題は,沢井康孝氏(元・長岡技
玉岡賀津雄 (2005)「中国語を母語とする日本語学習者によ
術科学大学大学院生)によって開発されたソフトを使
る正順・かき混ぜ語順の能動文と可能文の理解」, 『日
用して行われた。
本語文法』5(2), 92-109.
玉岡賀津雄・宮岡弥生・福田倫子・毋育新 (2007)「中国語
引用文献
を母語とする日本語学習者の語彙と文法の知識が聴
阿部純一・桃内佳雄・金子康明・李光五 (1994)『人間の言
解・読解および談話能力に及ぼす影響」
『2007 年度日
語情報処理─言語理解の認知科学─』サイエンス社.
本語教育学会秋季大会予稿集』131-136.
Barry, S., & Lazarte, A. A. (1998). Evidence for mental models:
How do prior knowledge, syntactic complexity, and reading
玉岡賀津雄・邱學瑾・宮岡弥生・木山幸子 (2010)「中国語
topic affect inference generation in recall task for nonnative
を母語とする日本語学習者によるかき混ぜ語順の文
readers of Spanish? The Modern Language Journal, 82, 176-
理解―聴解能力で分けた上位・中位・下位群の比較―」
199.
『日本語文法』10(1), 1-17.
Carr, T. H., & Levy, B.A. (1990). Reading and its development:
Tamaoka, K., Sakai, H., Kawahara, J., Miyaoka, Y., Lim, H., &
Component skills approaches, San Diego, CA: Academic
Koizumi, M. (2005). Priority information used for the
Press.
processing of Japanese sentences: Thematic roles, case
particles
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10
The Bulletin of Japanese Curriculum Research and Development, 2013, Vol. 36, No.1, 33-43.
Effects of lexical and grammatical ability for on-line text processing
by native Chinese speakers learning Japanese
Yuko YAMATO
Center for Japanese Language and Culture, Osaka University, Japan
Katsuo TAMAOKA
Graduate School of Languages and Cultures, Nagoya University
Xiangjuan, CHU
Tianjin Foreign Studies University
Graduate School of Languages and Cultures, Nagoya University
The present study investigated the effects of lexical and grammatical ability on online-self-paced processing
of Japanese texts by native Chinese speakers learning Japanese. In order to observe their reading speeds of
Japanese texts, 127 participants were divided into 3 groups based off of test scores on Japanese vocabulary and
grammar ability test respectively (a 2 x 3 design). The study found the following points. First, lexical ability had
a greater influence on reading speeds of phrasal parts in a text than grammatical ability. Second, lexical ability
had a significant contribution to reading speeds of not only an independent single phrase but also sequences of
continuous phrases. Third, the effect of grammatical ability was limited to some phrases of complex structure or
parts shifting a semantic context. Overall, grammatical ability plays a role to resolve parts of structural difficulty
and semantic transit on the basis of test processing by lexical ability.
Keyword: native Chinese speakers, online-reading, reading speed, lexical ability, grammatical ability
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