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JCCI-overseas-NNA-interview
2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
【タイ-経済】
JCC古澤会頭に聞く
投資恩典変更・地域統合の動き注視
タイ国内では1月1日付で法定最低賃金が全国一律
化され、タイ投資委員会(BOI)は近く新たな投資恩
典制度を発表する。東南アジア諸国連合(ASEAN)
の域内統合を見据えた官民の動きも加速しており、在タ
イ日系企業を取り巻く経営環境も変化している。政情や
洪水などのリスクも残るが、日本企業にとってタイの重
要性はますます高まっている。盤谷日本人商工会議所
(JCC)の古澤実会頭(泰国三菱商事社長)に今年の
見通し、JCCの取り組みについて聞いた。(聞き手・
八木悠佑)
内需好調
­­­­2012年のタイは内需が好調で、前年に大きな洪水
被害があったにも関わらず、日本企業の投資も大きく伸
びました。
「日本企業の間では、震災から続いた円高、内需その
ものが減ってきていることもあり、アジア進出熱が高ま
っている。中でもタイは日系社会のインフラが整備され
た有力な候補地の一つ。JCC会員は 12年 12月末時点
で 1,440社に達している」
「在タイ日系企業が洪水被害を受けて撤退することは
ほとんどなかった。昨年は洪水被害が再発せず何よりだ
ったが、タイ政府が安心しきってしまうといけないの
で、JCCとしては政府に対し、短期的な洪水対策だけ
でなく、中長期的な対策のロードマップ(行程表)を示
してほしいと要望している。洪水問題は投資のネックに
なりかねず、『喉元すぎれば熱さを忘れる』では困るの
で、長期的な計画に基づいた対策を求めている」
「日系企業の進出が増え、市場競争も激化している。
JCCのアンケートでも『労働力不足』と『競争激化』
を指摘する声が多い。労働力の問題は深刻なので、労働
省に対して抜本的な解決を要望している。内需拡大政
策、農民の生活レベルが向上したことで、工場に出稼ぎ
に来ていた労働者が農村に帰って戻って来なくなると
いう状況も起こっている」
「自動車業界では、裾野産業で必要とされる労働者 60
万人のうち、40万人しか確保できていないとも言われ
る。産業は好調なので土日も休みなく働くといった状況
だ。労働省には引き続き、タイ人の不足をカバーする外
国人の雇用規制緩和を含めて訴えていく」
­­­­12年4月に最低賃金が大幅に引き上げられ、1月
1日から再度の引き上げで全国一律 300バーツ(約 860
円)になりました。
「最低賃金については、JCCは賛成も反対もしない
立場だ。タイ国内で議論して決めた法律に対して、日系
企業で組織するJCCとしてコメントもしない。とはい
え、現実にインパクトはある。JCCが 12年4月に実
「タイ経済は洪水被害からの復興需要、ファーストカ 施したアンケートでは 65%がマイナスの影響があると
ー減税など内需拡大政策も奏功し、内需を中心に相当回 回答。製造業に限ると 79%に達した」
復した。景況感は非常に良い。JCCのDI(景況感) 「日系企業は、最低賃金への対応で一番下の層だけで
調査でも、
(洪水が直撃した)11年下期にプラス 32から なく、スライド式に全体の給与水準を上げるので、コス
マイナス 41に落ち込んだが、12年上期は 55へとV字回 トが大きく上昇した。オートメーション化や生産性の向
上で対応ができる部分とできない部分があり、苦労して
復した」
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
いる企業も多いが、日系企業としてはタイの法律に従う
のが基本原則。最低賃金の引き上げをやめてくれという
ことではない」
「ただ、最低賃金の定義、最低賃金にどこまで含める
のか解釈がばらばらで混乱が起こっているので、JCC
と日本貿易振興機構(ジェトロ)が共同で労働大臣宛
に、定義を明確にしてほしいと要望する文書を送った。
実際に裁判所の判決と、県当局などの言うことに齟齬
(そご)がある」
っています。ミャンマー展開への起点とする動きもあり
ます。
「FJCCIA(ASEAN日本人商工会議所連合
会)とASEAN事務局の対話を昨年7月、バンコクで
退任を控えたスリンASEAN事務局長と実施した。今
回で5年目となったが、継続することに意義があるの
で、今後も続けていく」
「AECに向けてどこでどうモノを作ったら一番効果
的かという観点から、ASEAN側に税関の問題、人の
流れを含めた要望事項を継続して訴えてきた。日系企業
はJCCの 1,440 社を筆頭に、FJCCIA全体で約
まだ伸びるタイ
5,000社。その声をASEANに出している。8月には
­­­­日本企業にとって今後、中長期的にタイに投資す カンボジア・シエムレアプでの経済大臣会合で、FJC
るメリットは何でしょうか。
CIA代表として取り組みについて説明。今後も引き続
「大手メーカーは大半が進出済みだが、新規進出しよ きASEAN事務局との対話を続けたい旨を伝えた」
うという企業はなお増えている。内需取り込み型企業の 「ASEAN側もしっかり対応してくれており、成果
進出意欲も旺盛で、それに合わせてサポートする法律事 も出ている。加盟国がそれぞれのエゴで保護主義的な考
務所、地銀といったサービス業も増えており、製造・サ え方を出せば綱引きになりかねないが、これまでのとこ
ービスともに進出が活発になっている」
ろ少なくとも表面上は、うまくいっているように映る」
「現在の内需拡大政策を続ける限り、所得が向上する 「コネクティビティー(接続性)の面で東西経済回
余地は大きい。11年は自動車の内需が当初予測 90万台 廊、南北経済回廊といったインフラがうまく機能するよ
を洪水で下回り、80万台弱になった。(140万台突破が うになれば、生産拠点であるタイに地域統括事務所(R
確実な)12年は減税で膨らんだ面もあるが、前年の取り OH)を置く企業が増える可能性もある。AECを見据
こぼしもあった。大きな流れとして需要が急激に落ちる えて拠点を設ける動きはすでに活発化している。ミャン
ことはないだろう」
マーへの進出形態はさまざまだが、タイ拠点からカバー
「タイは洗濯機の普及率が 65%、エアコンは 15%程 する日系企業も少なくない」
度。ここ数年で中間所得層が相当増えて生活レベルが向 「タイ政府もROH設置を歓迎している。接続性が向
上しており、家電はさらに売れるだろう。まだまだ国内 上すれば、生産拠点を軸にそういう発想をする企業も増
で売れるものは多い。衣料、高級スーパーなども同様だ」 えるだろう。現段階ではシンガポールほど明確な戦略は
「内需が拡大すれば、電力や交通といったインフラも 持っていないようだが、JCCとしては、タイにおける
必要になる。タイ政府は物流インフラに2兆バーツ(約 ROHの設立を促進するような施策の実現を目指し、政
5兆 7,000億円)を投資すると言っている。JCCは具 府と議論していく」
体的に、タイ東部のレムチャバン港のキャパシティー問 題、および周辺道路の渋滞問題などを運輸相と協議して
投資恩典の変更
いる」
「タイの運輸需要全体のうち、陸運が 83%を占める ­­­­タイ政府は、労働集約型産業が賃金の安い周辺国
が、鉄道は2%以下。交通インフラもまだまだ改善の余 に流出しても、高度な産業が残ればいいと考えているよ
地がある。それに伴う投資でも、日系企業の参入機会が うに見受けられます。
「そういう意思は感じる。その意味でも、BOIが1
ある」
「電力についても、現在はガスに発電燃料の 69%を頼 月に発表する予定の新たな投資インセンティブ(恩典)
っているが、持続可能なエネルギーの需要も出て来る。 制度がどういう形になるのか注目している。12月半ばに
経済成長に伴って生まれるこうした事業機会を求め、企 BOI長官と協議した段階では詳細な内容は明かされ
業が進出してきているという状況。まだまだ発展の余地 なかったが、基本的な考え方として、恩典を与える先を
(従来の地域別から)技術集約型の産業に移行する方針
がある、魅力ある国と言える」
を示している」
「ただ、労働集約型の産業を周辺国に移すとしても、
コネクティビティー
実際はインフラ面など課題も多い。『世界の台所』と呼
­­­­東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体 ばれるタイはエビ加工、ツナ缶といった労働集約型産業
(AEC)に向け、タイは域内拠点としての機能が高ま
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が集積しているが、周辺国で冷凍輸送ができるのか。そ
の他の産業でも同様。物流面を考えると簡単ではない」
­­­­自動車関連では、ミネベア、矢崎総業などタイ工
場を補完する形でカンボジアに生産拠点を設ける動き
も出てきています。
「接続性が高まり、モノの動きが自由になったら、そ
うした動きも広がるだろう。企業各社はそれぞれの戦略
の中で、どこが最適かを考えていくことになる」
「特に東西の接続性を見るとき、ミャンマーのダウェ
ーは(インド洋への)ゲートウエーとして、ミャンマー
よりもむしろタイにとって重要だ。タイの官民が積極的
に深海港・工業団地などの開発に関与しようとするのは
納得できる。(南部東西回路の西の端である)ダウェー
までつながれば、物流にかかる時間が相当カットされ、
インド、中東へのアクセスが確保される。在タイ日系企
業にとっても利便性が高まる」
「日本はティラワとダウェーの双方に関心を持ってい
るが、物流面などでタイにメリットの大きいダウェーに
対し、ティラワは大きな雇用創出につながることから、
ミャンマーに恩恵が大きいと言える」
­­­­2013年のタイ経済・社会で何に注目しますか。
「全国一律の最低賃金が適用され、地域ごとの投資恩
典制度をやめる背景には、地域間格差をなくしてクラス
ター(産業集積)を促したいという意図が見え隠れする
が、実際には地域間の格差は完全にはなくならないだろ
う」
「最低賃金の全国一律化で地方部の賃金が上がれば、
物価の高い都市部もスライド式に上げざるを得なくな
る。ただ 300バーツの賃金水準は、国際的にはなお競争
力がある。そもそも競争力は人件費の安さだけで決まる
ものではない」
「タイ経済の勢いが止まることはないだろうが、政情
と自然災害の問題は、カントリーリスクとして見る必要
がある。12年は何も起こらなかったが、特に洪水対策に
ついては、中長期的にロードマップを作ってしっかりや
ってくれないと日本の投資家の信頼を得られないとい
うことを、JCCは今後もタイ政府に訴え続けていく」
増えている。中国製品との競争で大変だという日系企業
の声も、一部ですでに聞かれており、ますます増える傾
向にある。家電ではすでに韓国製品が優勢になってお
り、日本企業の牙城とされてきた自動車も、安泰とは言
えない」
­­­­JCCとして今年取り組んでいくこと、会員への
メッセージを。
「BOIが発表する投資恩典制度に対し、日系企業と
しての声を出していくことが重要なテーマになる。投資
恩典の見直しは企業への影響が大きい」
「BOIは新たなコンセプトを1月に出し、公聴会を
開いた上で3月に確定するとしている。JCCは1月の
発表内容を見て、各業界にどんな影響があるのかを慎重
に精査・研究した上で、意見を出していく。JCCは会
員が多く、業種も様々なので、業種ごとの恩典となれ
ば、利害が一致しないことも想定される。労働集約型の
企業も当然あり、難しい対応になりそうだ。ただ、これ
はタイの産業界も同様で、さまざまな声が出てくるだろ
う。また、閣議決定などの手続きを考えると、相当時間
がかかることも予測される」
「JCCがこれまでタイ政府に訴えてきたことを継続
的に言い続けていくことも大切だ」
­­­­JCC内部では、どんな取り組みをしますか。
「JCCは 12年5月に組織強化委員会を新設し、会
員増強・組織強化に取り組んでいる。日系企業の代表と
してタイ経済界では政府に対する発言力もある。洪水な
ども経験した中、組織強化を通じて対外的な発言力をも
っと強くしていく」
「会員各社には、抱えている問題をどんどん挙げてほ
しい。会員同士のコミュニケーションも深めたい。懇親
会も設け、賀詞交換会も再開する。各社の声、業界の声
を吸い上げ、1,440社から成る組織として存在感のある
意見を出していきたい」
­­­­12年は日中関係の悪化で、日本企業の間でASE
ANに対する注目が高まりました。上海汽車がタイでの
現地生産計画を発表するといった動きもあります。
「日中関係については、すぐには難しいかもしれない
が、早期に解決してほしい」
「中国南部の雲南省はタイと近く、中国製品の流入は
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<プロフィル>
古澤実(ふるさわ・みのる)
泰国三菱商事社長。慶応大学法学部卒業後、1981年
に三菱商事入社。シンガポール駐在、ドイツ駐在、無
機原料ユニットマネジャー兼燃料用エタノールプロ
ジェクト室長などを経て、2011年4月から現職。J
CCの活動では、11年4月からJCC副会頭、12年
4月から会頭。
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
【シンガポール-経済】
成長地域の潜在性引き出す
日ASEAN、交流40年に
欧州危機と日中関係の緊張が続く中で、日本企業がさ
らに力を入れる東南アジア諸国連合(ASEAN)の統
括拠点が集まるのがシンガポールだ。日本と域内の交流
40周年となる新年が、
「エポックメーキングな年になる」
可能性を秘めると語るシンガポール日本商工会議所(J
CCI)日下清文会頭(NECアジア・パシフィック最
高経営責任者)に展望を聞いた。
していただろうが、中国から一部の機能を移すとか、
「中
国の工場は中国国内向けに特化していき、国際マーケッ
トへの製品供給は別のアジアから」という傾向があり、
そのために工場を新設する企業もいくつか出てきてい
る。最近注目されているのはベトナムであり、さらにフ
ィリピン、インドネシアだ。
­­­フィリピンへの注目は新たな傾向と見えます。
­­­2012年のシンガポール、域内経済を振り返ってい フィリピンは 10年前以上に一時期日が当たったが、
ただけますか。
それから陰っていた。国内マーケットを見ると、人口が
APAC(中国を除くアジア太平洋)全体で言うと、 1億人弱いるとは言え、まだ所得全体は高いほうでな
経済成長率は下ぶれ傾向が顕著に出た。シンガポールで い。輸出の拠点、生産基地と位置づけようという動きだ。
も年初から下方修正が続き、コンスタントに下ぶれが続 JCCIで昨年 10月にフィリピンに行ってあらため
いた。周辺地域で上方修正はなく、全体的な成長はやや て認識した部分だが、人口が増え若者が多く賃金が抑制
トーンダウンしたものの、世界的に落ちている中では、 されている。潤沢に若年労働者が供給されており、工場
絶対値としては決して悪い数字ではなかったし地域的 の労働者で英語を話して問題がないというのは、この辺
にはこれからも十分成長していけると見ている。 りでいえば恐らくフィリピンだけではないかと思う。
日本から見ると、 ベトナムで典型的にみられ、最近インドネシアでもみ
中国の反日スイッ られるようになった労働争議もフィリピンでは見られ
チが入った影響は ない。ここ1年くらい注目も浴びてきているが、さらに
これからいろいろ 注目が高まると思う。
なところに出てく るのではないか。シ
産業界の懸念伝える
ンガポールの一部 日系企業でも、中国 ­­­翻ってシンガポールですが、外国人の雇用規制を
での入札や共同開 強化しています。
発事業を辞退して シンガポール政府として、外国人労働者の総量を抑え
くれということが るという方針を明確に打ち出している。労働集約型から
起きていると聞い 知識集約型に移していこうという動きで、頭では理解で
ている。日本企業を きるが、例えばレストラン、ホテルであるとかのホスピ
外そうという動きが中国でかなり顕著にみられるよう タリティー産業で人のサービスを提供しなければなら
になっており、短期的なデモが終わったからすぐに平常 ないところが直接的に大きな影響を受ける。工場でも、
みんながみんなエンジニアでは動かない。早朝や夜間の
に復するということではどうもないようだ。
日本企業としても中国マーケットが大きなダメージ 残業の勤務も場合によってはあるが、シンガポール人は
を受けると想定しなければならない。それをカバーする それをやらなくなってしまっており現実的には海外か
地域として、真っ先にあがってくるのがAPACとな らの労働者に頼らなければ維持できなくなってきてい
る。日本の企業からすると、まだ成長余地があるAPA るという事実がある。
Cにさらに力を入れるという傾向が 2013年には顕著に 今のように単純にシーリングを課すというやり方で
はいろいろな所に無理で出てきてしまう。一番懸念され
なるのではないか。
るのは、シンガポールを訪問する外国人が感じている高
い生産性への悪影響だ。例えば、現在は空港であっとい
­­­日系企業の進出を見た場合の 12年の状況は。
タイの洪水の影響が 12年半ばくらいに完全に払拭 う間に荷物が出てきて、安全に市内に行くことができ
(ふっしょく)された。中国リスクの顕在化前から決定 て、ホテルではそんなに待つこともなく部屋に入れてサ
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
ービスが受けられる。しかし外国人労働者が入れなくな
った時にはそういうサービスが維持できなくなるので
はないか。
政府に一つの団体が言っても、なかなか正面から取り
上げていただけないので、各国の商工会議所など、みん
なで一緒になって言わなければいけないという話がい
ま挙がっている。影響の範囲が大きく、すべての産業界
が非常に懸念していると政府に正しく伝えなければい
けない。
­­­本来は徐々に進めるべきところを一気にやろうと
しているように感じます。
一気にやれば、当然経済的にも支障が出てくる。特に
中小企業で人が集められないというのは致命的。人を採
るために賃金を上げなければならないということはコ
ストアップになる。同時にシンガポールドルも高くなっ
ているから、輸出している企業は事業が困難になる。そ
ういう意味ではシンガポールも曲がり角を迎えている
と言えるかもしれない。
経済規模の拡大を図っていくためには、いまの規制を
もう少し緩くして、もっと弾力的な運営をしていかない
と、国の成長そのものに支障が及ぶことになる。
社会の構造を変えるためには数十年単位の時間が必
要で、1~2年で労働集約型から知識集約型に移ろうと
思ってもそうはいかないのと同じように、急にやろうと
するといろいろな所にあつれきが出てきてしまう。
不景気感ない
­­­2013年のシンガポール経済を予測して下さい。
成長率でいうと、低めにならざるを得ない。中国や欧
州の影響を受けるだろう。ただ、米国経済が今後立ち直
ってくれば、徐々に後半ぐらいから良くなってくる可能
性はある。シンガポールだけ見ると絶対値で悲観的な数
字が出ているが、街中を見てもわかるように決してそん
なに不景気という感じは受けない。そんなに悲観する状
況ではないと思っている。新たな成長というのは、世界
経済に依存する部分が大きいが、まだまだ周りの国が成
長できている地域なので、いろいろなポテンシャルがあ
り、周りの国との成長をエンジョイできると思う。
­­­周辺諸国を見るといかがでしょう。
大きく成長していくということではインドネシアが
注目できる。タイもフィリピンも巡航スピードの成長は
期待できる。
インドネシアは、2億人を超える人口を抱えている上
に、過去何年間か成長してきて、1人当たり国内総生産
(GDP)もそれなりのレベルに達してきている。いよ
いよ消費が膨らんでくるレベルに達してきた。その萌芽
が二輪車や四輪車の販売に裏付けられている。これから
個人消費が大きく盛り上がってくるというタイミング
にさしかかっているという意味で注目したい。
­­­シンガポールの位置づけに違いは出ますか。
シンガポールは国の大きさからしてマーケットとし
て注目されてきたわけではない。JCCI加盟企業でも
4割近い会社が統括機能を持っているように、地域全体
をマネージしていく金融・物流・人材のハブとして注目
されていく。周辺の国が大きくなればなるほど注目度は
高まる。インドネシアが大きくなったからといって、シ
ンガポールはビジネスが伸びないからいいや、というこ
とではない。
投資はASEANへ
­­­13年のJCCIの目玉の活動は。
日本とASEAN(東南アジア諸国連合)の交流 40
周年というのは大きな核になっていくとは思う。過去 40
年を振り返ると経済関係は拡大し続けてきたし、これか
ら加速するということはまぎれもない事実だろう。中国
に向いていた投資がAPACに向いてくると思うので、
本当の意味でASEANとの関係が大事なものになる
エポックメーキングな年になるかもしれない。韓国も、
昨年ぐらいからAPACへの投資を大幅に増やしてき
ている。日本からもAPACへの投資が伸びると予想す
る。
ここは多くの国が親日。これは福田ドクトリンによる
ところが大きいと思うが、辛酸をなめたフィリピンをは
じめ、日本に対して露骨な反日を見せることはない。極
めて親日で、日本の企業にとって最も活動しやすい地域
といえる。
­­­ミャンマー人気は持続しそうですか。
ミャンマー人気はこれから数年続くと思うが、ただ、
今は「ブーム」といったところがあって、実際にはイン
フラが整っているわけでもないし、資金があるわけでも
ない。本当の意味でマーケットして立ち上がるにはもう
少し時間がかかると思う。人口が 7,000万人規模の国が
国際市場に入ってくるということはこの近辺ではもう
ないだろうから、最後の巨大なマーケットとしての注目
度は高い。
­­­会頭個人の新年の抱負をお聞かせ下さい。
私も赴任して4年半を過ぎ、ここでビジネスをやると
いうことに慣れてきましたし、いろいろな方のご支援を
いただきながら、この1年はJCCIの会頭の仕事もや
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らせていただいて、皆様に非常に感謝しているというこ
とを最初に申し上げたい。
最近もJCCIの視察団長としてフィリピンに行く
機会がありましたが、自分が誤って思い込んでしまって
いたところや認識が足りなかった部分もまだあった。ま
だこの地域には日本の企業としてやっていけそうなこ
とがいろいろ残っていると再認識した。これまで実績の
ある所、事務所のある所を中心に考えがちだったが、ア
ジア全体を見てみると、まだポテンシャルのある国・地
域がある。その幅を広げて行くということが重要だし、
そういうところを勉強していきたいと思う。
­­­仕事を離れた抱負は何でしょうか。
もう少し自分個人の時間を作りたい。12年は出張が多
くてあちこちで不義理をした。いろいろなイベントにお
招きをいただきながらも出席できなかったことは個人
的には残念であったので、今年は時間を有効に使いた
い。だが、かけ声だけで終わってしまう可能性も大かな
と思っている。(シンガポール編集部・今野至)
【インドネシア-経済】
成長市場での事業活動活性化
日系企業、新たな交流考える年に
インドネシアで日本企業が事業活動を活性化させて
いる。保護主義的な規制の施行や労働問題の顕在化とい
った懸念はあるものの、若年労働者が豊富なことや消費
市場が拡大を続けているためだ。現地の日系企業や個人
から成る日本人コミュニティー、ジャカルタ・ジャパ
ン・クラブ(JJC)の水野正幸理事長(三菱商事・ア
ジア・大洋州統括兼ジャカルタ駐在事務所長)に、新た
な年を迎えたインドネシアの経済情勢や展望などを聞
いた。
――昨年のインドネシア経済を振り返って。
国内総生産(GDP)成長率が通年で6%台を維持す
る見通しなど堅調に推移した。アジア全体で欧米向けの
輸出が落ち込んでいる影響や、主要な輸出先である中国
の経済がやや減速したこともあり、貿易収支は悪化した
ものの、内需に支えられたことが大きい。
ムに入ってきた」といえる。
――JJCとして投資環境の整備に向けた取り
組みに対する成果は。
昨年は、海外からの物品を輸入する事業者に取得が義
務付けられている輸入ライセンス(API)に関する政
府の規定変更で事業環境の悪化懸念が高まり、改善に向
けて時間を割いた。1社が輸入できる製品が1分野に制
限されたため多数の分野にわたる製品を取り扱う企業
は複数社に分割しなければいけないなど実態に即さな
いためだ。
政府は違法な取引を排除することが狙いだと説明し
たが、本来は取り締まりを強化するべきだといったこと
を訴えた。JJCを含む多くの経済団体が陳情したこと
もあり、新しい大臣令で規制が緩和され、当初考えられ
た大きな弊害がなくなったことは大きな成果だった。 三菱商事ではアジア大洋州の統括として域内各国を
回っているが、日系企業のアジア戦略が「チャイナ・プ
ラス・ワン(1カ国)」から「チャイナ・プラス・マル
チ(複数カ国)」に移行しつつあるといわれる中、イン
ドネシアの注目度がますます高まっていると肌身で感
じている。
日本企業の進出も続いており、JJCの法人会員数は
昨年末時点で 496社となり過去最高を更新した。自動車
部品メーカーも1次、2次が一巡し、3次以降の進出が
相次いでいることに加え、保険や人材サービスといった
非製造業の参入も活発になってきた。日本にとってイン
ドネシアが必要不可欠な存在となり、「新しいパラダイ
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
――2年前から多くの日系企業を悩ませている
移転価格税制問題の進捗(しんちょく)は。
同制度の解釈により不合理な税金を徴収される企業
が出ていることが問題となっているが、税務当局に地道
に働きかけてきたこともあり、以前より改善されたとの
報告を会員企業から受けている。税務署が経済協力開発
機構(OECD)のガイドラインに沿って対応してくれ
るようになり、従来に比べると解釈が国際基準に近づい
ていることを実感している。
――製造業を中心に最低賃金や派遣労働をめぐ
る労働組合の動きが活発になりました。
政治的に微妙な問題で、かつ個別企業の利害関係も入
ってくるので外国の企業団体であるJJCとして労使
紛争に対して公式な見解を出すことは控えたい、しか
し、一部の悪質な労組による違法なデモやストライキの
決行、従業員を監禁して誓約書に署名させるといった行
為は明らかに法律違反となるため、国家警察などの関係
機関には、毅然(きぜん)とした態度で取り締まっても
らうよう要請した。
最低賃金は、法律に沿って各自治体の政労使からなる
賃金委員会が決定すべき事項だが、使用者の合意が取れ
ていない状態で決まったところも多い。正式な手続きを
経ていないため、企業側としては受け入れることに抵抗
があるのは当然だ。
派遣労働に関しては解釈があいまいなこともあり、中
核業務に従事させるなど法律に触れる行為をしている
ケースもあったため、会員企業には現地で仕事をしてい
る以上はまず法律をきちんと守るよう呼び掛けた。結果
として法律に触れる可能性がある派遣労働を取りやめ
た企業もあり、問題の解決に向けて一歩前進した。
――家電や携帯電話などの最終製品を中心に、日
系企業の存在感が弱まっているのではないかと
いわれています。
確かに中国や韓国企業の攻勢に対し、日本勢が押され
ているという声は聞かれる。ただ日々の事業活動を通
じ、納期を守る、品質を保証するといった日本メーカー
の強みのほか、事業の進め方の良さなどが相対的に見直
されていると感じている。
日本とインドネシアの官民が一体となって取り組ん
でいるインフラ整備計画「ジャカルタ首都圏投資促進特
別地域(MPA)」は典型的な例だ。昨年は優先的に進
める 18事業が採択されており、インドネシアの政府、
民間企業ともに日本が首都圏のインフラを改善する取
り組みに期待を寄せている。
――今年のJJCの活動を教えて下さい。
投資環境の整備に向けた取り組みを継続することが
中心となる。インドネシア政府に提言する際のキーワー
ドは、フェアネス(公平)とトランスペアレンシー(透
明性)。これらで納得いかない事項については積極的に
声を上げるのが基本的な姿勢だ。昨年も一定の結果が出
ているし、これからも会員企業の意見を取りまとめて適
切に対応する。
日本とインドネシアの国交樹立 55周年という節目の
年に当たることもあり、大相撲の巡業開催など、さまざ
まな活動が実施される。JJCとしても毎年開催してい
るジャカルタ日本祭りに力を入れるなどの活動を通じ
て貢献したい。企業にとっては日々の事業活動の中で両
国の新たな段階での交流のあり方を思索する年にもな
るだろう。
――事業環境に対する展望は。
既に 2014年の総選挙、大統領選挙をにらんで大衆迎
合的な動きが出ており、さまざまな政策が決まらなくな
ってきている。今後はその傾向が強まることが予想され
るが、この国で事業をさせてもらっている以上、期待通
りに進まないことに対し、われわれの物差しで口を出し
ても仕方ない。
保護主義的になってきているともいわれているが、そ
れほどでもないと思う。外国企業が魅力に感じる市場で
ある以上、政策の遅れも含めて投資を阻害する要因には
ならないだろう。大統領が交代してからの政策転換を懸
念する声も聞かれるが、2億 4,000万人の民が選んだ人
物が、今向かっている方向と大きく異なるかじ取りをす
ることはないと楽観視している。
――理事長個人の今年の豊富を。
インドネシアに着任してから3年近く経つが、平均す
ると毎月1回以上は、日本や統括するアジアのどこかの
国を訪れるなど忙しい日々を送っている。時間は限られ
るが、今年は山歩きなどインドネシアの自然に触れる機
会を持ちたい。昨年 11月に初孫が生まれたので、もっ
と日本にいる家族と過ごす時間も増やしたい。
(聞き手・
久保英樹)
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
【フィリピン-経済】
政治主導で迅速な政策実現を
日本人商工会議所・石神高会頭
世界経済の不透明な状況が続いているにもかかわら
ず、好調を維持した昨年のフィリピン経済。背景のひと
つとして「政治的安定」が挙げられるが、そのアキノ政
権は今年、2016年までの任期の折り返しを迎える。フィ
リピン日本人商工会議所の石神高会頭(丸紅フィリピン
社長兼最高経営責任者)に新年のフィリピン経済の展望
や今後のアキノ政権への期待などを聞いた。【須賀毅】
­­­フィリピン経済の現状認識をお聞かせください。
信用危機に揺れる欧州、景気回復が遅れる米国、景気
が減速してきた中国、円高に苦しむ日本など世界経済の
先行きが不透明な状況の中で、東南アジア諸国連合(A
SEAN)は比較的好調な経済を維持している。その中
でもフィリピンは、昨年7~9月期の国内総生産(GD
P)が 7.1%成長でASEANで最高に達するなど特に
勢いを見せている。
好調な経済の背景にあるのは、コールセンターなどの
ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業
とフィリピン人海外出稼ぎ労働者(OFW)を含む在外
フィリピン人からの海外送金に支えられる個人消費。I
T・BPO産業は年 20%の高い成長を見せる一方、昨年
の海外送金は 210億~220億米ドル(約1兆 7,670億~
1兆 8,510億円)に達すると見られ、銀行を経由しない
非正規ルートの送金を含めれば、フィリピンのGDP約
17兆円のうち、4分の1は海外送金が占めていると考え
られる。
今年も引き続き好調な経済
­­­今年のフィリピン経済をどのように予測します
か。
徴税の強化などによる財政の健全化、近隣諸国の停滞
による相対的なフィリピンの競争力の向上などによっ
て、日系企業をはじめとする投資拡大がますます進むと
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期待されることに加え、政府のさらなる財政出動なども
考えられ、好調な経済成長を持続できるのではないかと
思う。
­­­経済成長の課題は何だと思いますか。
一言で言えば、物事の進行が遅いこと。例えば、投資
誘致にはまだまだ輸送手段や電力といったインフラ整
備が遅れている状況だが、アキノ政権の看板政策である
はずの官民パートナーシップ(PPP)事業にしても、
昨年までに入札が成立したのは「ダーンハリ~南部ルソ
ン高速道路(SLEX)接続道路建設事業」と「学校建
設事業(PSIP)第1期」のみ。この2つの事業につ
いても実際に着工したという話はいまだに聞かない。
フィリピンは以前、ASEANの中で最も先進的な地
位にあったが、いつの間にかシンガポールやタイにはは
るか及ばず、ベトナムにも抜かれようとしている。英語
を公用語としていることや労働人口の若さ、労働争議が
少ないことなど海外からの投資を呼び込む好条件がそ
ろっているにもかかわらず、それらの長所を十分に生か
しきれていない。政治主導による迅速な政策の実現が必
要だと思う。
先ほど、フィリピン経済の現在の原動力として、OF
Wなどによる送金を挙げた。アキノ大統領は毎年、クリ
スマスシーズンに海外から一時帰国するOFWを出迎
えることを恒例行事にしている。多額の海外送金で国の
経済を支えるOFWは「国の英雄」という訳だが、裏を
返せば、国内には十分な雇用がないということ。中長期
的かつ持続的な経済成長を考えた場合、国内雇用の創出
は避けて通れない課題だと思う。その点で、日系企業を
はじめとする外国資本の一層の誘致は不可欠だと思う。
日本の政権交代は日比関係にプラス
­­­日本の政権交代は日比関係に影響があると思いま
すか。
民主党政権では、日本国内の問題に集中するあまり、
外交がおろそかになっていた感がある。例えば、10年の
アキノ大統領就任の式典には、各国の首脳や外務大臣が
出席する中で、日本は外務副大臣が参加するにとどまっ
た。もう少し重要視しても良かったのではないか。
自民党政権が復活して、世界の中の日本という視点か
ら、フィリピンのような友好国に対する関係強化を図っ
てもらえることを期待している。少子高齢化が進行する
日本では、労働集約型の産業は海外からの労働力に依存
せざるを得なくなってきている。その意味で親日的なフ
ィリピンは重要な存在であり、今後も両国の相互補完関
係を強化していくことが大切だと思う。
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
【オーストラリア-経済】
豪州経済、強含み推移を期待
櫻田武也・シドニー商工会会頭に聞く
す。 ――2012 年のオーストラリア経済を振り返っ
て、どんな印象を持ちましたか?
2012年初頭ごろ
まで、資源会社は資
源価格上昇の追い
風を最大限に受け
るために生産拡大
にかじを切りまし
た。コスト増加に多
少の犠牲を払って
も、生産量の拡大を
目指したともいえ
ます。しかし、中国
市場をはじめとし
て需要が減少し、価
格が下落傾向に陥
ったこと、ならび
に、足元の開発コス
トが上昇していたこと等を理由に、資源会社は事業計画
の見直しを行い、同年後半に入ると開発計画が当面延期
される事例が頻繁に報道されるようになりました。ま
た、短期的には収益が悪化することから、間接部門の縮
小等のコストを削減し始めました。欧米系の資源会社
は、こういう決断が本当に早いと思います。
資源産業がオーストラリアの強みではありますが、そ
れ以上に、金融やリーガルなどのサービス産業の存在感
が大きいという印象を受けました。これらサービス産業
が経済システムの基盤を作り、また同時にシステムを動
かしているという気がします。
資源産業においてもメジャーの存在はオーストラリ
アの強みですが、中小の鉱山会社や探査会社、周辺機器
メーカーなど専門性のある会社の存在が大きな力であ
るとも思います。彼らは、メジャーに負けずに南米やア
フリカ等において積極的な展開を見せています。資源投
資ファンド等も、産業を支える上で重要な役割を果たし
ています。
また、政治をめぐる状況が経済に大きく影響を与えて
いるとも感じました。政治と経営活動、あるいは、政治
と組合活動の距離が近く、交流も活発であると思いま
す。
――資源ブームの終えんについて議論が高まっ
ています
資源ブームは続くのか終わったのか、という二者択一
的な議論もされていますが、資源のサイクルというのは
もう少し段階的なものだと理解しています。例えば次の
ようなモデルです。
<1>需要が高まり、価格が上昇<2>生産者が生産
拡大や新規開発を推進<3>投資活動が活発になり、現
場でのエンジニアなどの雇用増大、コストが増加<4>
生産量が増加し、輸出量が増加<5>供給増や需要減少
により需給がバランスし、価格が下落<6>生産者は生
産調整、コスト低減を目指す――。
このモデルでどこを資源ブームというのかは、意見が
分かれるかもしれません。資源価格だけに注目するの
か、雇用にも注目するのか、あるいは輸出総額に注目す
るのか、など異なる考えがあるでしょう。鉱物資源では
新規投資が下火になったとしても、エネルギー資源では
まだ大型案件が進んでいるように、資源といえどもすべ
てがサイクルの同じ段階にあるというわけではありま
せん。
これは上記のモデルの<6>に当たります。この段階
では、資産を高値で取得した後発組は厳しい戦いを強い
られます。資金繰りが厳しくなり、買い手が付きやすい
優良資産の売却に追い込まれるところも出てきます。場
合によっては、会社単位での買収の動きも出てくるでし
ょう。
逆に、資金に余裕のある者にとっては、貴重な仕込み
の時になります。このタイミングに安値で獲得した資産
が、次の価格上昇局面で大きな収益源となる可能性が高
いのですから。
――オーストラリアの製造業は人件コストが高
く、豪ドル高や低生産性などもあり危機に瀕して
いると言われますがどう思われますか
製造業の意味を広げることにより、新しい風景が見え
てくると思います。単に原材料に物理的な加工を加えて
物を生産するハードウエア産業だけではなく、新しい仕
組みとかプログラムなどを含めて、新たな価値を生み出
すソフトウエア産業も含めて理解することにより、電気
代が高いとか、為替が高いとか、というしばりから開放
資源事業に取り組む場合、長期的な視野が重要です。 されます。高い教育を受け、創造力を発揮する人財が豊
大きな流れの中で事業計画を策定し、10年単位の開発パ 富なオーストラリアですから、製造業は成り立っていく
イプラインにプロジェクトを乗せていかなければなり という発想ができます。
ません。これは資源メジャーも日本の総合商社も同じで
ではバラ色かというと、そこまでは言い切れません。
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2013 年(平成 25 年)1 月 8 日(火)
今は国を代表するアイコンやシンボルとなる製造業が
見当たらないからです。GE、アップル、グーグル、デ
ィズニーに肩を並べるグローバルなアイコンが欲しい
ですね。オーストラリア発の製造業が世界的に認知され
ることが必要だと感じます。
――来年のオーストラリア経済はどんな方向に
進むと思われますか
突発的な事件等がなければ、全体としては 2012年末
ごろの景況感がしばらく続くと見ています。見通しの良
い直線道路で快調にアクセルを踏み込んでいたのが、見
通しが悪く事故が起きやすいカーブに差し掛かり減速
しながら慎重に運転している、という感じでしょうか。
米国経済の回復基調が鮮明になり、中国が安定した成長
を示すことができれば、資源輸出を中心にオーストラリ
ア経済も強含みで推移すると期待しています。
一方で国内を見ると、選挙を巡る状況にも左右される
でしょう。選挙の年はさまざまな政策が打ち出され、景
気刺激策も期待されます。どちらかと言うと短期的な政
策が多くなるかもしれません。
鉱物資源プロジェクトは調整局面にありますが、液化
天然ガス(LNG)等のエネルギー資源プロジェクトは
まだ建設が続いています。これらが完成して雇用が減少
するタイミングで、その受け皿となる産業が存在してい
るかどうかが、今後の重要課題になると思います。その
ひとつがインフラです。インフラ整備は基本的に州政府
が主管するので、現在、各州政府が日本を含めた海外の
事業者や投資家へのプロモーションを積極的に展開し
始めています。PPP(官民パートナーシップ)形態で
進められるこれら事業に、日本の参加が増えることでオ
ーストラリアの発展にも寄与できると期待しています。
――2012 年は日豪経済合同委員会の設立 50
周年でした。両国関係をどう見ますか
非常に良好と言えるでしょう。しかし余りに平穏であ
ることがマイナスに働くこともあります。両国民の関心
が向かないからです。オーストラリアも、日本は常に安
定した事業パートナーであり市場であると見ているか
もしれません。その分、新興の中国に興味が傾いていま
す。
日本はオーストラリアとの間で、外務・防衛の閣僚級
協議、いわゆる「2+2」を開催しています。日本が2
+2を開催するのはオーストラリアと米国とのみであ
ることから、日本にとりオーストラリアがいかに重要な
パートナーであるか分かると思います。経済のみなら
ず、アジアの安全保障という観点からも、日豪米3カ国
の連携が基盤にあると考えています。
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こういう背景に立ち、日豪経済合同委員会は、両国に
対して日豪関係の重要性を再認識しようというメッセ
ージを出しています。昨年 10月8日の公式夕食会では
ギラード首相も日本との関係の重要性を確認する素晴
らしいスピーチをされました。
――日豪は両首相が自由貿易協定(FTA)、環
太平洋連携協定(TPP)に意欲を示しています
がなかなか進みません
両国がFTAを結ぶのは合理的だと考えます。TPP
に参加するのが望ましいと考えています。
今の時点(2012年 12月)では安倍政権の全容がまだ
見えませんが、歴史的な視点から大いに期待していま
す。日豪通商条約は 1957年7月6日、箱根富士屋ホテ
ルで署名されました。このときの日本側の調印者が、安
倍首相の母方の祖父に当たる岸信介首相(兼外相)でし
た。また、2006年 12月に両国間のFTAの交渉開始に
合意したのは、当時の安倍首相とハワード首相です。
ただし、特にTPPについては異なる意見をお持ちの
方もいらっしゃると思いますし、交渉の本当の核心部分
については、交渉当事者しか理解できないことは認識し
ておく必要があります。
TPP加盟の是非についてはさまざまな議論があり
ます。日本の農業については、TPPがあろうと無かろ
うと、このままでは立ち行かなくなるという懸念を持っ
ています。農業再生の問題についてはTPPの議論では
なく、行政改革に焦点が当てられるべきではないでしょ
うか。どうも今の議論は、現状を容認する前提でのTP
P是非論になっている感じがします。
農業に従事したい人が夢を持て、事業として成立でき
るような素地を作ってあげたいと思います。商工会のメ
ンバー間でも話題にでるのですが、オーストラリアで日
系企業が資源開発を行う様に、日本の若者がオーストラ
リアで農業を事業として展開し、農作物を日本に輸出す
るというモデルは、考えるだけで楽しいものです。
農作物を開放すると、食糧安全保障が心配になります
が、オーストラリアと米国との2+2のパートナーシッ
プにより、この問題も解決するめどが立つと期待しま
す。エネルギー保障を担保するのと同様に、その枠組み
を広げることで食糧安保も担保できる可能性は十分考
えられます。
問題はそれだけの信頼関係があるかないか、というこ
とだと思います。FTAが結べなければ、そもそも信頼
関係はないと言っているようなものです。(了)
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