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提言「外国人児童生徒の急増に対応する日本語指導のシステム構築

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提言「外国人児童生徒の急増に対応する日本語指導のシステム構築
文部科学省全国市町村教育委員会研究協議会
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口頭発表資料
提言「外国人児童生徒の急増に対応する日本語指導のシステム構築
による受入体制の整備」
三重県鈴鹿市教育委員会教育長 水井 健次
___________________________________
1 はじめに
鈴鹿市は,県下で外国人登録者数が最も多い自治体である。平成20年6月末におけ
る外国人登録者数は10,347人で,総人口204,564人に対して5%の割合を
占めている。同時に,市内の小中学校に在籍する外国人児童生徒も急増しており,外国
人児童生徒への日本語指導と適応指導の推進が大きな課題となっている。
このような直面する課題を外国人児童生徒の在籍する学校の問題にとどめることな
く,市全体の重要課題として本市総合計画の戦略事業として位置づけ,できる限り先の
見通しを持ちながら取組を進めていきたいと考えている。
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現状
資料1
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口頭発表資料
外国人児童生徒在籍数は573人(平成20年5月)
,国籍は,ブラジルが48%で
最も多い。外国籍児童生徒の数は,ここ5年間で2.5倍の伸びを示している。また,
外国人児童生徒の在籍状況については,公立小中学校40校の内,29校に在籍して
おり,その内,外国人児童生徒が30名以上在籍する学校が10校と広がっている。
今後は少し鈍化するものの平成25年まで伸び続け,1000名を超えると予測して
いる。資料1
人的配置については,県費教職員(常勤11名,非常勤12名)に加え,市費バイ
リンガル指導助手(常勤10名)を学校に配置するとともに,さらに教育委員会事務
局にポルトガル語とスペイン語のバイリンガルの外国人児童生徒支援員を2名配置し
ている。
これらの人的配置を活用し,外国人児童生徒の在籍する小中学校29校の内,14
校に日本語指導と適応指導を行う国際教室を開設している。国際教室が未開設の学校
には,教育委員会事務局より外国人児童生徒支援員を派遣し,巡回により日本語指導
と適応指導に当たらせている。
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外国人児童生徒の日本語指導の経緯
本市では,外国人児童生徒の日本語指導について,従来,担当者の経験等に基づく
それぞれ独自の方法により,手探り状態の中で取り出しという形で個別指導を中心に
対応してきた。
しかし,外国人児童生徒の急増期を迎え,担当者の絶対数の不足から,ここ数年間,
すべての外国人児童生徒に十分な対応ができない状況になっていること,さらに,こ
ういった状況は今後ますます拡大することが予測される。
また,外国人児童生徒の日本語能力の把握についても,担当者の経験と勘に頼るこ
とが大きく,
「話す,聞く」などの日常会話ができ,ある程度の生活上の言語能力があ
れば,在籍学級に返してきたが,現実的には「読む,書く」などの学習言語の能力は
不十分なため,学習活動について行けない状況も生まれてきている。
このような個別指導からの脱却を図ることと,あわせて個々の外国人児童生徒の日
本語能力の的確な把握と,より効率的な指導方法の確立を目指して,平成20年度か
ら3年間で日本語教育支援システム構築を早稲田大学大学院日本語教育研究科の協力
を得ながら,教育委員会が中心となり学校現場とともにつくり上げる取組を進めるこ
ととした。
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鈴鹿市日本語教育支援システム構築 資料2
(1)日本語教育支援システム構築のプロジェクト会議の設置
教育委員会事務局内に教育長を代表とし,次長,参事,教育委員会事務局各課
長,在籍学校長代表,大学関係者を委員としてプロジェクト会議を設置し,市全
体の日本語指導のシステム構築に向け,基本的な方針と方策等について定める。
なお,方針等の策定に当たっては,早稲田大学大学院日本語教育研究科の指導
と支援を受けている。
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口頭発表資料
資料2
(2)日本語教育担当者ネットワーク会議の開催
プロジェクト会議の決定をふまえて,各学校の日本語教育の具体的な実践の在
り方について協議するとともに,担当者の指導力の向上と情報交換を目的とし,
月1回ネットワーク会議を開催している。
このネットワーク会議の内容は,
「教材作成」に係るものと「学校文書翻訳」に係る
ものの二つに分かれている。
「教材作成」においては,参加者が協働で JSL バンドスケールに基づく日本語能力
に応じた教材を作成し,その作成過程で,教材の活用など指導方法や指導計画につい
ての情報交換も行っている。成果物としての教材は,関係各校において共有し活用で
きるようデータベース化を進めている。
「学校文書の翻訳」については,各担当者がそれぞれ行っている翻訳文書や通訳内
容などを持ち寄り,それらを基に市内で共通に活用できる翻訳文書を作成し,共有す
ることを目指している。成果物は,データベース化を図り市内の学校で共有可能とな
るシステムづくりを進めている。
(3)日本語教育コーディネーター
小中学校児童生徒の日本語教育について,専門知識や経験のある日本語教育コ
ーディネーターを教育委員会事務局に配置し,各学校における日本語指導の校内
研修会の講師,日本語指導担当者への指導・助言,日本語教育担当者ネットワー
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口頭発表資料
ク会議の運営などを行っている。
なお,この日本語教育コーディネーターについては,早稲田大学大学院日本語
教育研究科より推薦を受け本年4月に採用している。
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日本語指導の概要について
(1)JSL バンドスケールによる日本語能力把握
JSL バンドスケールは,言語習得の発達の様子を測るために早稲田大学日本語教育
研究科が開発したものさしである。本市では,このバンドスケール(資料 1)を活用
し,市内小中学校に在籍する外国人児童生徒一人一人の日本語能力(聞く・話す・読
む・書く)を把握し,その能力に応じた指導に努めている。
事例(市内小学校の1年4月測定)
資料3
資料3の通り,これまでの生活場面の観察による「聞く・話す」中心の能力把握
から学習場面での「読む・書く」の能力を含めた日本語能力の4技能(聞く・話す・
読む・書く)を総合的に把握できるようになった。
(2)JSL バンドスケール測定結果と課題
平成20年6月に実施した本市小学校に在籍する外国人児童336名の JSL バン
ドスケール測定の結果資料4から次のような課題が見える。
・外国人児童生徒の内,
「書く」のレベル4以下の児童が約70%おり,取り出しによ
る日本語指導が必要である。
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(レベル4以下:取り出しによる日本語指導が必要なレベル)
・
「聞く・話す」に比べ,
「読む・書く」の技能が低く,
「読む・書く」の指導を十分
行う必要がある。
・レベル2,レベル3の児童生徒が多く在籍しており,レベル2・3からレベル4・
5に引き上げる日本語指導について研修会を重点的に開催する必要がある。
市内小学生バンドスケール測定結果(平成20年6月)
資料4
100%
90%
レベル7
レベル6
レベル5
レベル4
レベル3
レベル2
レベル1
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
聞く
話す
読む
書く
(3)指導の改善
①指導形態の改善
外国人児童生徒の急増により1対1の個別指導では人手不足となり,十分対応
できない状況であることや,児童生徒同士の学び合いが生きた日本語習得の機会
となることから,JSL バンドスケールによる日本語能力の把握に基づき,同程度
のレベルの小集団を組み,集団学習による指導形態を導入し,効率化を図ってい
る。
②指導教材の工夫
従来市内小中学校において蓄積してきた日本語指導に使用する単語学習カード
やひらがな練習プリントに加え,教科書のリライト(日本語能力に応じてやさし
く書き換える)を行い,教科の内容を学習することや在籍学級での学習と結びつ
く日本語指導を行っている。
また,学習を補助するプリントを用いて,日本語能力に応じた「読む・書く」
の学習を行っている。
これらの教材は,バンドスケールのレベルに応じて作成されるため,教科書の
リライトや補助プリントは,市内のどの学校でも利用できるとともに,作成につ
いても担当者の共同作業で行い効率化を図っている。
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口頭発表資料
③指導計画の作成
把握した日本語能力に応じた具体的な指導計画の作成に当たっては,教育委員
会から日本語教育コーディネーターや指導主事を派遣し,指導・助言に当たらせ
ている。
④指導法改善に向けた日本語指導研修会の実施
市内すべての小中学校に多文化共生教育担当者を位置づけ,日本語教育につい
ての研修会を年4回実施している。
(3)JSL バンドスケールを活用した日本語指導の流れ
学校において,JSL バンドスケールを活用した PDCA サイクルによる日本語指導の
流れを確立する。資料5
資料5
3月
JSL バンドスケールで測定
(1回目)
Plan(計画)
4月 指導計画
Do(実行)
JSL バンドスケールで測定
7月
(2回目)
8月 評価と指導計画の見直し
Check(評価)
9月 見直した指導計画の実践
Action(改善)
JSL バンドスケールで測定
(3回目)
3月 次年度への引継ぎ
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・3月,JSL バンドスケール測定(1回目)により児童生徒の日本語能力を把握する。
・4月,JSL バンドスケール測定(1回目)結果に基づき,小集団のグループ分け,
取り出しの時間数を決め指導の計画を立てる。
・7月,JSL バンドスケール測定(2回目)により,児童生徒の日本語能力の伸びを
調べる。
・8月,JSL バンドスケール測定(2回目)結果に基づき,日本語指導の自己評価を
行い,取り出しの日本語指導の時間や小集団のグループ分けを見直し,2学期以降
の指導の計画を立てる。
・9月,見直した指導計画に基づいて日本語指導を行う。
・3月,JSL バンドスケール測定(3回目)により児童生徒の日本語能力の1年間の
伸びを調べ,測定結果を次年度へ引き継ぐ。
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システム構築における成果と課題
(1)外国人児童生徒の急増への対応
個別指導から,小集団での指導形態に変わったことで,日本語指導を受けること
のできる児童生徒数が増加し,外国人児童生徒の日本語習得の学習機会が拡大しつ
つある。具体的には,本市小中学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒数のう
ち,取り出して日本語指導を受けている児童生徒数の割合が昨年度は55%であっ
たが,今年度の10月1日現在では,78%と増加している。
小集団での指導をさらに進めることにより,今後予測される外国人児童生徒数の
急増に対応する人的配置の抑制が期待される。
(2)循環による成果の積み上げ
資料6
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教育委員会においては日本語教育コーディネーターや外国人児童生徒支援員を
外国人児童生徒の在籍校に派遣し,指導を行うとともに,指導教材や翻訳された
学校文書のデータベース化を行い,学校を支援している。
学校においては,これらの支援に基づき JSL バンドスケールによる日本語能力
の把握とそれに応じた指導法の工夫やや教材開発を行っている。
その成果は学校から担当者ネットワーク会議を通して,市全体に拡げる循環型
のシステムが出来上がりつつある。
(3)持続性のあるシステム構築・運営のための人的配置と職員研修
日本語指導については,持続性のあるシステム構築・運営が必要である。その
ためには,継続的な人的配置と日本語指導の研修の充実が必要である。また,日
本語指導の専門的な知識や経験のある日本語教育コーディネーターの継続的確保
が今後の課題である。
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おわりに
本市における外国人児童生徒教育は,平成3年,バイリンガルの市費日本語指導助
手を市内中学校に配置したことから始まり,その後,国や県,他の市町,大学等から
多くのご協力,ご支援を賜りながら手探り状態で進めてきたが,平成13年からは,
外国人集住都市会議にも参加し,全国各地の市町とも連携を取り合うことができるよ
うになった。
平成19年度からは,文部科学省より「帰国・外国人児童生徒受入促進事業」の委
嘱を受けるとともに,三重県教育委員会からは,
「外国人児童生徒教育支援センター事
業」の委託も受けて,外国人児童生徒教育の推進に係る体制の整備を行ってきた。
さらに平成20年2月には,早稲田大学大学院日本語教育研究科と協定を結び,日
本語教育の支援システムに向けた取組を進めているところである。
この6月には,文部科学省から外国人児童生徒教育の充実方策について,報告書が
出され,外国人児童生徒に関する教育の充実を図るための,国・地方公共団体として
取り組むべき施策の方向性が示された。このことにより,私たち教育現場における環
境が徐々に整いつつある。
今後,これまでの積み上げを基に,国・県・関係機関をはじめ,全国の集住都市会
議のみなさんとも手を携え,より多方面からの協力を得ながら,外国人児童生徒教育
を推進して参る所存である。
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