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地域経済の根底を支える中小商業・サービス業事業者の再生に向けて

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地域経済の根底を支える中小商業・サービス業事業者の再生に向けて
NRI Public Management Review
地域経済の根底を支える中小商業・サービス業事業者の再生に向けて
社会基盤コンサルティング部
主任コンサルタント
三木
則緒
が十分であるとは言えない状況である。
1.はじめに
一方、比較的規模の小さな個々の事業者向
長引く経済不況や企業の業績不振を受けて、
けの施策としては、近年、各地で整備されて
事業再生や企業再生といった言葉が注目され
いる起業インフラも、IT やバイオ等の先端分
ている。また、実際にも事業再生に向けた取
野・成長分野に特化しているケースが多く、
り組みの萌芽が出始めているが、今のところ、
これらは将来の強力な産業の核となる可能性
それらは比較的規模の大きい企業に限られて
がある一方で、地域経済を支える前に、成長
いる。
プロセスに応じて移転していくことも十分に
しかしながら、企業数全体の 99%以上が中
考えられることから、将来の地域経済を本当
小事業者で構成されていることから、本来必
に支えることができるかどうかは不明である。
要な再生はこれらの中小事業者であると言え
そのため、地域に根ざした中小商業・サー
ビス業事業者に対する有効な施策が求められ
る。
そこで、本稿では、地域経済の根底を支え
ている。
ている中小商業・サービス業事業者に焦点を
あてて、これらの規模が小さい企業の根本的
な再生に向けて、必要と考えられる方策の提
3.地域の中小商業・サービス業事業者が抱
える課題は、個々の強化とそれを実現す
案を試みる。
る人材の確保
2.個々の事業者の再生・活性化を十分に支
援できていない既往の地域経済振興施策
①個々の事業者の強化
実際、地域の中小商業・サービス業事業者
の抱える主要な問題は、個々の事業者の強化
既往の商業・サービス業に関する地域経済
振興策は、団体活動支援、面的ハード整備支
に関するものであるということが、明らかに
されている。
援が中心であり、団体活動や地域共有施設等
中小企業庁「商店街実態調査報告書」
(2000
の高度化は各地で進展したものの、本来の目
年)によると、地域の中小店舗の集積した商
標である地域経済の活性化には必ずしも十分
店街の抱える最大の課題は、
「個店の改善・活
には効果を発揮できているとは言えない。現
性化」であり、その認識は突出して高いこと
状の中小商業・サービス業事業者やその創業
がうかがえる。
予備群にとって、自らの事業を保有し、改善
するための資本や経営能力を獲得するには、
依然そのハードルは高く、事業の改善や起業
が円滑に行なわれるための社会的なインフラ
NRI パブリックマネジメントレビュー August 2003 vol.1
−1−
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2003 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
図表1
0%
上記の「個店の改善・活性化」の裏返しで
今後必要とされる事業
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
もあるが、現在の各地の商店街にとって、大
きな問題であるのが、空き店舗の発生である。
個店の改善・活性化
62.8%
共同ソフト事業
同調査によると、商店街の 4 割以上が 5 年前
よりも空き店舗が増えていると回答している。
29.7%
さらに全店舗の 1 割近くが空き店舗となって
施設整備事業
28.0%
いることが指摘されている。
特になし
15.3%
図表3
空き店舗の5年前との変化
出所)中小企業庁「商店街実態調査報告書」
(2000 年)
増えている
減って
いる
変化なし
しかしながら、先に述べたように、既往の
1
43.7%
施策ではこの「個店の改善・活性化」には十
8.1% 9.4%
38.8%
無回答
分に機能を果たすことができず、根本的な問
題が十分には改善されないと考えられる。
0%
また、一般的にも個々の事業者の問題は、
20%
40%
60%
80%
100%
出所)中小企業庁「商店街実態調査報告書」(2000 年)
個々の事業者の努力によるべきとの認識から、
公的な支援が個々の事業者の改善・活性化へ
は、必ずしも十分に向けられてきたとは言え
ない。
②人材の確保
また、東京商工会議所「中小企業の経営課
題に関するアンケート調査結果」(2003 年)
実際、同調査によると、事業者自身の個店
によると、中小事業者の経営課題の上位 5 つ
の改善・活性化策の取り組み状況としては、
のうち 2 つまで、経営者等の人材に関するこ
商店街単位で「ほとんどの個店が行っている」
とである。
「かなりの個店が行っている」との回答は極
めて低く、大半の事業者に取り組まれていな
図表4
中小事業者の重視する経営課題
い状況であることがわかる。それは、個々の
事業者の資金、人材、ノウハウ等の不足によ
0%
10%
20%
人材の確保・育成
30%
40%
50%
60%
48.9%
るものであり、個々の事業者まかせでは解決
できない問題として取り残されてきたと考え
られる。
マーケティングや販路・市場開拓
36.6%
新技術・新商品開発
36.0%
後継者の育成
図表2
25.9%
個店の改善・活性化策の取り組み状況
経営組織の見直し
ほとんどの個店
が行っている
かなりの個店が
一部の個店が
行っている
行っている
ほとんどの個店
が行っていない
24.0%
無回答
出所)東京商工会議所「中小企業の経営課題に関す
るアンケート調査結果」(2003 年)
コンピュータの活用
業態の開発・変更
営業時間の延長
サービスの改善
このように、規模の小さい企業にとっての
販売促進の強化
問題は「人材」に帰結するということが、改
品揃えの変更
業種転換
めて言える。そのため、規模の小さい企業の
店舗改装
0%
20%
40%
60%
80%
100%
出所)中小企業庁「商店街実態調査報告書」(2000 年)
NRI パブリックマネジメントレビュー August 2003 vol.1
再生には、この人材に焦点をあてた施策が必
要となると考えられる。
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大な債務により身動きがとれない事業
4.依然、残されている地域の中小商業・サ
者を対象に、産業再編も視野に入れた
ービス業事業者への対策
事業再生策を樹立し、金融機関等から
上 場 企 業 等 の 大 手 企 業 に つ い て は 、 2003
の債権の買取り等を通じてこれを強力
年 5 月に産業再生機構法に基づき、株式会社
産業再生機構が設立され、企業再生に取り掛
に実行すること
また、地方の中堅企業、中規模企業につい
ては、地域性が強いという特性を踏まえて、
かることとなった。
この機構は、有用な経営資源を有しながら
各都道府県において、商工会議所等の認定機
過大な債務を負っている事業者に対し、当該
関の下に、中小企業再生支援協議会を設立し、
事業者の事業分野の実態等を踏まえ、事業再
企業再生に取り掛かることとなった。
生の支援を業務とする。具体的には以下の業
企業再建型に限定することなく、基本的な対
務を行うこととされている。
1.
2.
再生支援の対象事業者に対して金融機
応方向について、適切な判断を行うとともに、
関等が有する債権の買取り又は貸付債
対応策を提示することとなっている。また、
権の信託の引受け
相談案件のうち、事業再生は可能であるが、
1.の買取り又は信託の引受けを行った
抜本的な財務体質や経営改善が必要な企業に
債権に係る債務者に対する以下の業務
ついては、再生計画の作成支援等を実施する
(a) 資金の貸付け
こととなっている。
(b) 金融機関等からの資金の借入れ
実際、詳細は公表されていないものの、第
1 号案件として福井県で地域多店舗展開して
に係る債務の保証
(c) 出資
3.
具体的には、各協議会に相談窓口を設置し、
いた小売業の営業譲渡型での事業再生が既に
上記業務に関連して必要な交渉及び調
実現した(下表のA社)ほか、全国で 6 件の
査、再生支援の対象事業者に対する助
再生計画策定が完了している。
言等有用な経営資源を有しながらも過
図表5
業
各県の中小企業再生支援協議会による再生計画策定完了案件
種
概
要
小売業A社
・採算が見込める店舗を他社に営業譲渡し、不採算店は整理
・譲渡代金を債務返済に充当し、A社は最終的に整理
・譲受企業への買取資金をメインバンク及び中小企業金融公庫で協調
融資
食料品製造業B社
・大型量販店との不採算取引からの撤退、県内販売へ重点移行、旧工
場を第三者賃貸、直販の強化、人件費削減 など
小売業C社
・仕入単価の削減、一般管理費、販売管理費の削減
・債務のリスケジュールと保証協会の保証による新規融資
食料品製造業D社
・製造工程の見直しによるコスト削減、新商品開発、新規販路開拓に
よる売上増
・遊休資産の処分、役員借入の株式化等による長期借入金の圧縮
金属製品製造業E社 ・売上重視型経営から、製品別コストの把握及び仕掛品評価の徹底な
どコスト管理に基づく収益重視型経営への転換
・県創設の債務保証制度を活用したメインバンク及び商工組合中央金
庫からの協調融資
金属製品製造業F社 ・製品別利益管理等の管理会計システムの構築による高付加価値製品
への特化、在庫管理の厳格化等による経営の効率化
・資産の売却による債務圧縮
出所)経済産業省・中小企業庁の公表資料より作成(2003 年 7 月 28 日時点)
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産業再生機構、中小企業再生支援協議会の
いずれも、主に財務的な原因により業績不振
5
中小商業・サービス業事業者の再生に向
けて取り組むべき方策
であり、かつ比較的短期に再生可能と判断さ
れる中規模以上の企業を対象として十分に機
以上を踏まえ、中小商業・サービス業事業
者の再生方策として、以下のことに取り組む
能を発揮できる機関であると言える。
一方、地域に根ざしたさらに規模の小さい
ことを提案する。
中小事業者については、同様のスキームの施
策では再生が難しいと考えられる。それは、
これらの規模の小さい事業者は、その事業規
1)経営人材の育成
①後継・再生人材育成の仕組みづくり
模が小さい、本来事業そのものが不振である
これまでの中小商業・サービス業事業
ことから、財務的改善が業績改善へ大きく貢
者は、いわゆる職人の技能育成と同じよ
献することがあまり期待できないため、事業
うに、世襲的に育てることで後継人材が
再生の可能性が必ずしも高くないケースが多
育成されることが多かった。
しかしながら、世襲での事業を継ぐこ
いためである。
しかしながら、地域経済のほとんどがこの
とを望む人材の不足、職人的な専従によ
ような規模の小さい企業によって構成されて
る育成方法の限界、修行の場の減少など
おり、それらの事業者の業績が不振であるこ
から、従来の育成方法では、後継人材の
とから、中堅以上の企業の再生に注力しても
確保・育成が困難になってきている。そ
地域経済が活性化するには十分とは言えない。
のため、後継人材は、親子や師弟だけで
本来、地域に根ざした中小事業者の再生は、
なく、広く第三者からも育成することが
社会的には必要性が高いはずであるが、十分
ますます必要となってくるであろう。
これからの経営者には、様々な業務の
な対応が実現できていない。
その原因としては、これら地域に根ざした
経験、広く異なった視点でみる能力が、
中小事業者がもつ特有の問題があると考えら
さらに必要とされてきている。つまり、
れる。それは、小さい資本・資産で事業が営
個店をはじめとする個々の事業者に、全
まれ、事業資産と生活資産が一体となってい
面的に後継・再生人材の育成を求めるこ
るケースが多く(家業的事業)、世襲的・徒弟
とが困難な状況となっており、社会的な
的な人材育成の中での後継者育成を通して、
仕組みが必要となっていると考えられる。
事業の維持・成長・拡大を実現していたため
例えば、同業種や類似業務を有する事
に、中堅以上の企業のようには、第三者の介
業所、店舗で実践的な育成を行い、その
入による事業再生が困難であるという点であ
育成成果を試験的に発揮する場として、
る。
後継者のいない店舗、空き店舗など遊休
事業不振時の選択肢として事業売却や譲渡
店舗をテスト的に運営し、さらに能力を
を可能とするために、事業価値を客観的に評
高めるなどの取り組みをを行うことも有
価し、またそれを維持向上することがあまり
効な育成の場となり得ると考えられる。
必要とされなかったということから、再生に
この よ うな 後継・再 生 人材 育 成の 仕組
向けた取り組みが進みにくいという現実があ
みは、地域や業界などを巻き込んで、あ
る。
る程度の大きな枠組みの中で作り上げて
いく必要があると考えられる。
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めたくても、譲渡したくても、実現できない
原因の 1 つとなっている。これを分離するこ
②既存事業者の経営能力強化
また、既存の事業者の改善・活性化に
と、つまり、事業資産と生活資産を明確に分
向けては、現在の経営人材の強化も必要
離することが、事業再生には不可欠であると
である。例えば、意欲ある経営者が参加
考えられる。
している各地の「商い塾」などがその取
そのためには、事業資産の流動可能な資産
り組みとしてまずあげられるであろう。
へ変化させることが必要となる。現状では、
これは個人任せ、個々の事業者任せにす
中小事業者の大半の事業資産は、市場価値が
るだけではなく、地域として、社会とし
評価できない状況にある。
て、経営のできる人材を育成する取り組
それを可能とするためには、例えば、財務
みというものが、真に必要に迫られてい
諸表をきちんと整備し、時価評価での資産価
るということであると言える
値の把握等により適切な資産価値の管理を行
昨年 3 月に中小企業庁主催により実施
い、資産売却、事業売却などによる事業譲渡
された「実践!大繁盛シンポジウム」に
を少しでも円滑に行える可能性を高めること
おいて、既存店舗強化に必要な視点とし
が必要となる。
て、以下のような点が指摘されている。
さらに、資産価値を適正に評価した上で、
・果たして自分なら買うのかな、と真
事業資産の流動性を促すために、事業資産の
リサイクル・再生マーケットを充実させるこ
剣に考えた方がいい
・お客さんが欲しいものが置いてある
とが必要である。
これらを実現できれば、譲渡、譲受、創業
かをまず見ること
・徹底してやっているかどうか
のいずれの希望者にとっても、経営の選択肢
・過去の経験則は何かに役に立つけど
を広げることが可能となり、事業再生に向け
それだけである。お客さんが変わる
て大きなメリットとなると考えられる。
このような共通ルール的な取り組みによっ
のは仕方がない
・日本の多くの旅館料理はほとんどが
て、円滑な経営の移転が可能となると、中小
京会席の亜流である。どこ産か分か
事業者の再生は促進されるであろうと考えら
らない刺身、天婦羅等、宿泊客が本
れる。
当に食べたいの?といったものばか
り。地元にある独自の料理を食べた
6
いのとは違うのか
おわりに
上記のような視点で、日々の業務を常
に見直すことが習慣化できれば、自らの
中小事業者の再生に向けて、能力強化・人
事業の改善・活性化が図られるという事
材育成から適時・適材・適所までを、すべて
業者も多数存在するであろう。
個々の事業者や個人が負ってきたことから、
機能不全が顕著になってきた。
2)経営人材の転換を容易にする基盤づくり
その解決に向けて、中小事業者の新陳代謝
中小商業・サービス業事業者は、多くの場
を促すことこそが地域の中小商業・サービス
合、事業資産と、経営者の生活資産が不可分
業事業者の再生を促進するとの考えに立ち、
の状況にあることが多い。これが、事業を辞
経営人材の育成と人材との最適マッチングを
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可能とする事業の流動性を高める基盤づくり
を社会で取り組む必要性を提案した。
本稿は中長期的な提案であるが、真の中小
事業者の再生に向けた、さらなる議論と行動
の契機となることを期待する。
筆 者
三木
則緒(みき
のりお)
社会基盤コンサルティング部
主任コンサルタント
専門は、産業振興戦略、事業戦略、組織改
革など
E-mail: [email protected]
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