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Y-007 大腿骨顆上骨折による骨接合術後,可動域制限に対し遠心性

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Y-007 大腿骨顆上骨折による骨接合術後,可動域制限に対し遠心性
Y-007
大腿骨顆上骨折による骨接合術後,可動域制限に対し遠心性収縮を促し改善した一症例
*谷口 綾 1), 亀田 美智江 1), 奥出 千絵 1), 菊池 豊 1)
1)山中温泉医療センター
キーワード:大腿骨顆上骨折, 可動域制限, 遠心性収縮
【はじめに】
大腿骨顆上骨折は,早期の解剖学的整復と強固な内固定を行
い,術後早期より可動域(以下 ROM とする)運動などを開始
することで,ROM 制限,筋力低下や疼痛といった二次的合併
症を予防することが重要とされている.今回,他院にてギプス
固定中は理学療法を実施されず,骨接合術後より理学療法開始
となった症例を経験する機会を得た.以下に若干の考察を加え
報告する.
【症例紹介】
80 歳代女性,診断名:右大腿骨顆上骨折.現病歴:平成 22
年 11 月 8 日転倒し受傷,他院にてギプス固定で経過観察中,
12 月 8 日 X 線にて転位拡大が認められ,手術目的で当院転院.
12 月 16 日に骨接合術施行(術式はプレート固定.術中の右膝
ROM は屈曲 130°,伸展-10°)
.12 月 20 日より理学療法開
始.合併症:糖尿病,両変形性膝関節症.入院前情報:夫と 2
人暮らし,独歩にて家事全般実施.
【初期評価および経過】
右膝関節 ROM 屈曲 50°.右下肢全体(大腿~足背)に腫
脹・熱感,右大腿外側・術創にかけて硬結あり.筋力は MMT
で下肢 2 レベル.術後より ROM 運動,筋力強化,超音波,マ
ッサージを実施した.術後 1 週で車椅子乗車,ニーブレイス装
着し平行棒内歩行練習開始.術後 9 日より病棟での持続的他動
運動(CPM)を屈曲 45°~開始した.術後 2 週での右膝
ROM は屈曲 75°,伸展-20°であり,大腿周径は腫脹により
約 3.0~4.0cm の左右差(右>左)が認められた.
【中間評価(術後 4 週)
】 右下肢全体の腫脹・熱感,右膝周
辺の軟部組織・靭帯(腸脛靭帯)の硬結,筋(大腿筋膜張筋)
の短縮を認めた.術創遠位部の癒着,右膝蓋骨はとくに遠位の
可動性低下あり.ROM は膝屈曲右 90°,左 155°,伸展は右
-15°,左-10°であり,大腿周径は約 3.0cm の左右差(右
>左)がみられた.粗大筋力は MMT で上肢 4,両下肢 4(右
膝 3)
,体幹 3 レベル.疼痛は VAS にて右大腿前面・外側に荷
重痛 3,右膝屈曲最終域に四頭筋の伸張痛 3 であり,歩行は歩
行器歩行見守りレベル.
以上の評価より,問題点は筋の短縮や軟部組織の硬結による右
膝関節の ROM 制限とし,目標は右膝 ROM の改善(屈曲
120°)と T 字杖歩行自立とした.
【治療内容】
右膝周囲の軟部組織の硬結や短縮,大腿筋膜張筋の短縮が
ROM 制限をきたしている原因と考えた.まず軟部組織を伸張
し関節裂隙を広げることを目的に,膝関節のトラクションとグ
ライディングを行なった.大腿筋膜腸筋の短縮に対しては,踵
に支持点をおき踵の方向に筋の遠心性収縮を促すように筋力強
化を加えた.
【結果】 術後約 8 週では,右膝関節 ROM 屈曲 95°,伸展
-15°,筋力は MMT で右膝 4 レベル,大腿周径の左右差は約
2.0cm と減少し,T 字杖歩行・階段昇降が可能となった.術後
約 12 週で右膝関節 ROM は屈曲 115°,伸展-15°と改善し,
T 字杖歩行自立にて自宅退院となった.
【考察】
一般に,疼痛,固定など種々の要因で関節の不動や低運動が
続くと,皮膚,皮下組織,腱,神経などの非収縮組織,関節包
や靭帯などの関節組織に拘縮を起こすと言われている.
本症例の場合,ギプス固定による保存療法中の一ヶ月間は,理
学療法を実施されていなかった.そのため,膝周囲軟部組織や
筋の硬結・短縮が見られ,また生理的な筋の収縮・弛緩が行わ
れず,筋が萎縮し筋力低下が見られた.膝蓋骨のとくに遠位へ
の可動性低下は,内側膝蓋支帯や内側広筋の癒着によるものだ
と考えられる.内側広筋の収縮不全により,その代償として大
腿筋膜腸筋の筋緊張が亢進し,術創の硬結も加わって,膝関節
の ROM 制限に大きく関与したと考えた.
理学療法開始時は,ROM 制限に対して ROM 運動,マッサ
ージを中心に行ったが,術後 4 週よりモビライゼーションなど
治療内容を追加し,退院まで(約 2 ヵ月)継続した.その結果,
術後 4 週から 8 週では ROM にあまり変化はなかったが,術後
8 週から 12 週での右膝屈曲 ROM は 95°から 115°と改善が
見られた.この理由として,下肢の腫脹・熱感の軽減,筋力強
化にて筋の求心性と遠心性収縮が可能となった事で,筋の収
縮・弛緩により静脈環流が促通され,血液の循環が改善したと
考える.よって,膝周囲の軟部組織や大腿外側・術創の柔軟性
が改善し,ROM 拡大,T 字杖歩行自立に繋がったのではない
かと考える.
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