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publication - International Energy Agency
World
Energy
Outlook
2016
エグゼクティブ・サマリー
Japanese translation
国際エネルギー機関
その主な使命はこれまでも、そして今日も次の二つである。石油供給の物理的途絶に対して
加盟国が集団的に対処することで、エネルギー安全保障を促進すること。加盟29か国、および
その他の国々に対し、信頼できる、手頃な価格の、かつクリーンなエネルギーを確保するための
方策について、権威ある調査分析を行うこと。IEAは、加盟国間のエネルギー協力に関する包括的
プログラムを実施している。各加盟国は、石油純輸入量90日分に相当する備蓄を義務づけられて
いる。IEAの目的は次の通りである:
n あ
らゆる種類のエネルギーにつき、特に石油供給が途絶された場合に効果的な緊急対応を行う能力を
維持することによって、加盟国に確実かつ十分な供給へのアクセスを確保すること。
n 特に気候変動の要因となる温室効果ガスの削減を通じ、
グローバルな経済成長および環境保護を向
上させる持続可能なエネルギーを促進すること。
n エネルギーデータの収集および分析を通じ国際市場の透明性を向上させること。
n エネルギー効率の改善や低炭素技術の開発及び活用等を通じ、
将来のエネルギー供給
を確保し、環境への影響を軽減するエネルギー技術に関するグローバルな協力を支持
すること。
n 非加盟国、産業界、国際機関、その他の関係者との取り組みや対話を通
じ、
グローバルなエネルギーの課題への解決策を見出すこと。
© OECD/IEA, 2016
International Energy Agency
9 rue de la Fédération
75739 Paris Cedex 15, France
IEA加盟国:
オーストラリア
オーストリア
ベルギー
カナダ
チェコ
デンマーク
エストニア
フィンランド
フランス
ドイツ
Secure
ギリシャ
Sustainable
ハンガリー
Together
アイルランド
イタリア
日本
韓国
ルクセンブルク
オランダ
ニュージーランド
ノルウェー
ポーランド
ポルトガル
スロバキア
スペイン
スウェーデン
スイス
トルコ
英国
米国
本出版物の使用および配布は
制限されている。利用条件はオ
ンライン上に公開されている。
www.iea.org/t&c/
欧州委員会もIEA
の活動に参加している。
エグゼクティブ・サマリー
気候変動に関するパリ協定が、2016 年 11 月に発効した。これはその核心において
エネルギーに関する協定といえる。エネルギー部門は世界の温室効果ガス排出量の
少なくとも 3 分の 2 を排出している部門で、それを抜本的に変革することが、パリ
協定の目的を達成する上で極めて重要である。エネルギー部門の変革はすでに進ん
でおり、低炭素エネルギーの将来性と可能性が実証されつつあり、気候変動に関わ
る有意義な行動に対する信頼が高まっている。エネルギー関連の CO2 排出量の伸び
は 2015 年には完全に止まった。これは、世界経済のエネルギー強度が 1.8%改善し
たことによるところが大きい。この改善傾向は、エネルギー効率の向上と、クリー
ンエネルギー資源、主に再生可能エネルギーの利用が世界的に拡大していることに
支えられている。エネルギー部門に毎年投資される約 1.8 兆米ドルのうち、クリー
ンエネルギーに向けられる割合は増えているのに対して、石油およびガスの上流部
門への投資は急速に減少している。化石燃料消費への補助金額は、前年のほぼ
5,000 億米ドルから、2015 年は 3,250 億米ドルまで減少したが、そこには化石燃料
価格の下落だけでなく、いくつかの国々で機運が高まっている補助金改革のプロセ
スも反映されている。
再生可能エネルギーが牽引する電力部門の変革は、電力市場の設計と電力の安定供
給を巡る新たな議論に焦点を当てているが、従来からあるエネルギー安全保障の懸
念がなくなったわけではない。エネルギーへのアクセス、値頃感、気候変動、エネ
ルギー関連の大気汚染、そして様々なエネルギープロジェクトが社会的に受容され
るかといった問題に加えて、エネルギー部門全体で解決しなければならない多くの
トレードオフ、相乗便益、競合する優先課題などが数多くある。World Energy
Outlook (WEO)は、こうした点を、様々なシナリオと事例、そして 2016 年に生じた
新たな機会とともにとりあげており、パリ協定によって幕開けされた新たな時代を
初めて包括的に検討するものである。約 190 か国にも及ぶパリ協定における気候に
関する全ての誓約は、詳細に検証され、中心シナリオに取り込んでいる。WEO2016
で検討するより厳格な脱炭素化の選択肢には、450 シナリオ(地球温暖化を 2℃未
満に抑える可能性が 50%ある)だけでなく、温暖化をさらに抑制する道筋に関する
初の検討も含まれている。
© OECD/IEA, 2016
世界のエネルギー需要は伸び続けているが、何億もの人々が置き去りにされて
いる
我々の中心シナリオでは、2040 年までに世界のエネルギー需要が 30%上昇し、こ
のことは、あらゆる近代的な燃料の消費が増加することを意味するが、その増加の
陰には、消費傾向の多様性と燃料の大幅な切り替えがある。さらに、何億人もの
人々が 2040 年になっても基本的なエネルギーサービスを受けられないまま取り残
されることになる。世界全体で見ると、再生可能エネルギー-これは WEO2016 が
詳細に焦点をあてているテーマである-の成長が最も迅速である。化石燃料の中で
は天然ガスの消費量が最も増えて 50%の伸びとなっている。原油需要の伸びは本書
の予測期間中は鈍化しているが、それでも 2040 年までに日量 1 億 300 万バレルに
エグゼクティブ・サマリー
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達する。石炭の使用量は近年、急速に拡大していたが、環境への懸念の影響を強く
受け、伸びは基本的に急停止する。原子力発電は主に中国における導入によって増
加する。OECD 諸国の需要は全体的に減少傾向にあるため、世界のエネルギー消費
の地理的分布はインド、東南アジア、中国といった産業化、都市化が進む地域とア
フリカの一部、ラテンアメリカ、中東に引き続き移行している。中国とインドでは
太陽光発電の拡大が最も著しいが、2030 年代半ばまでに、アジアの開発途上国の石
油消費量は、OECD 全体のそれを上回る。しかし、多くの国々で取り組みが強化さ
れているにもかかわらず、近代的なエネルギーを利用できない人々が未だに世界人
口の相当な割合を占めている。特にサハラ以南のアフリカの農村地域に集中しつつ
ある 5 億人以上が、2040 年になっても電力を利用できない状態にある(現在の 12
億人よりは減少する)。また、調理用燃料として固形バイオマスを利用する人口は
約 18 億人である(現在の 27 億人から 3 分の 1 減少する)。これはつまり、屋内に
充満する煙に曝され続けるということを意味し、現在、毎年 350 万人もの早期死亡
者に関連している。
資本の新たな配分
中心シナリオでは、世界のエネルギー供給に対して累積 44 兆米ドルの投資が必要
で、そのうち 60%が石油、ガス、石炭の採掘と供給およびこれらの燃料を使用する
発電所にあてられ、およそ 20%が再生可能エネルギーにあてられる。エネルギー効
率の改善には、さらに約 23 兆米ドルが必要である。供給向け投資全体のほぼ 70%
が化石燃料に向けられていた 2000~2015 年と比較すると、特に主要な再生可能エ
ネルギー技術のコストが引き続き低下することが期待されることを考えれば、これ
は資本の大幅な再配分といえる。石油とガスの上流投資を主に刺激しているのは、
既存の油ガス田からの生産量の減少である。石油については、これは世界全体のエ
ネルギーバランスから一年おきに現在のイラクの生産量が失われることと等しい。
電力部門では、電力供給と発電容量との関係が変化している。将来的な投資の大部
分は、相対的に稼働率の低い傾向のある再生可能エネルギーによる発電設備に向け
られるため、発電量が 1 単位増えるためには、1990~2010 年よりも 40%多くの発電
容量が必要になる。資本集約的な技術への支出の割合が増えるが、多くの場合、例
えば風力発電と太陽光発電にかかる燃料費がゼロであるように、最小限の運転費用
で済むことによって相殺される。
© OECD/IEA, 2016
気候に関する誓約と目標
各国は、パリ協定上の誓約で設定された多くの目標を総じて達成する方向に向かっ
ており、場合によっては目標を上回る成果を上げられる可能性もある。これは、世
界のエネルギー関連の CO2 排出量の予測される伸びを抑えるには十分だが、温暖化
を 2℃未満に抑えるにはまだ不十分である。中国が国内消費の増加とサービス業を
志向した経済モデルに移行することは、世界の傾向を形成する上で重要な役割を果
たす。中国のここ数十年にわたるインフラ整備は、エネルギー集約的な産業部門、
特に鉄鋼とセメントに大きく依存していた。しかし、これらの部門のエネルギー需
要はピークを過ぎており、2040 年まで減少傾向が続くと予測され、その中で中国の
産業用の石炭利用も減少する。中国の発電量の伸びのほぼ全ては、石炭以外をエネ
ルギー源としており、中国の電源構成に占める石炭の割合は、現在の約 4 分の 3 か
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World Energy Outlook 2016
ら 2040 年には 45%未満にまで下がる。中国のエネルギー関連の CO2 排出量は現在
の水準を若干上回るところで横ばいになる。インドでは、2040 年までの間に、電源
構成に占める石炭の割合が 75%から 55%に下落する。これは、電力需要が 3 倍にな
ると見られているインド(それと比べると中国の 85%の上昇は「わずか」である)
としては大きな変化である。主要先進諸国のうち、米国、EU、日本はその気候に関
する誓約を満たせる軌道に概ね乗っているが、エネルギー効率をさらに改善させる
ことが必須である。重点的取り組みを完全かつ適時に実行し続ければ、この誓約は
世界の総 CO2 排出量の増加分を年平均 1 億 6,000 万トンに抑える上で十分である。
これは、2000 年以降毎年平均 6 億 5,000 万トンずつ増加したことに比べれば、大幅
な削減である。しかし、エネルギー関連の CO2 排出量が増え続け、2040 年に 360
億トンになるということは、明らかに、これらの誓約だけでは、なるべく早く排出
量のピークに達するというパリ協定の目標に届かないことを意味する。
効率化は変化の原動力
脱炭素化、効率化のペースを段階的に加速することが、450 シナリオでは求められ
ている。そして、各国がそれぞれの気候に対する誓約の野心を高めるために、パリ
協定に盛り込まれている 5 年ごとに目標を見直すメカニズムが重要であることは明
らかである。排出量の追加削減の最前線にいるのは電力部門で、再生可能エネルギ
ーの普及加速、原子力発電(政治的に受け入れられている場合)、炭素回収貯留や、
全ての最終消費部門における電化と効率化の強力な推進、さらに官民の協調による
クリーンエネルギーに対する研究開発によって実現されると考えられる。効率化に
ついては、WEO2016 は電動モーターシステムの性能をさらに向上させる可能性に
焦点を当てている。この電動モーターは、様々な最終消費用途における今日の電力
消費の半分以上を占めている(例えば、扇風機、圧縮機、ポンプ、自動車、冷蔵庫
など)。産業部門だけでも、450 シナリオにある約 3,000 億米ドルの累積追加投資
を行うことにより、2040 年の世界の電力需要を約 5%削減し、発電のための投資額
を 4,500 億米ドル節減することができる。これらの省エネルギーを実現するには、
モーターとモーター駆動装置への規制を強化するだけでなく、可変速駆動の導入促
進や、予知保全といったシステム全体としての効率性を高める他の方策の実施を含
む、システム全体のアプローチが必要である。
© OECD/IEA, 2016
電気自動車は動き出す
電力が最終エネルギー消費の伸びに占める割合は過去最高となった。過去 25 年間
は消費増加分の 4 分の 1 を若干上回る程度であったが、中心シナリオでは 2040 年
までにほぼ 40%、450 シナリオでは 3 分の 2 を占めることになる。両シナリオにお
いて、OECD 非加盟諸国が電力消費の増加分の 85%以上を占めているが、OECD 諸国
内でも電力は今後拡大する数少ないエネルギー担体の一つである。電力需要全体で
みると小さい要素ではあるが、道路交通おいて電力消費量が増えるという予測は、
電気自動車に対する消費者の関心が高まり、より多くの車種が市場に登場し、汎用
車との費用の差がさらに狭まるといった、より広汎な傾向を象徴することになる。
世界の電気自動車の保有台数は、2015 年は 130 万台と、2014 年のほぼ 2 倍に達し
た。中心シナリオでは、この値は 2025 年には 3,000 万台、2040 年には 1 億 5,000
万台を超え、2040 年には石油需要を日量約 130 万バレル削減することになる。バ
エグゼクティブ・サマリー
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ッテリーの費用は下落し続けるが、消費者が汎用車より電気自動車を選択する意欲
を増やす支援策-今のところ広く採用されているとは言えない-が不可欠である。
450 シナリオに示されているように、より厳格な燃費規制、排出規制、資金的イン
センティブといった政策が強化され、さらに広がれば、2040 年までに約 7 億 1,500
万台の電気自動車が普及し、石油需要を日量 600 万バレル以上削減する効果がある。
再生可能エネルギーが自由になる
電力部門は、パリ協定の多くの誓約の焦点である。中心シナリオでは、2040 年ま
での新規発電容量全体のほぼ 60%が再生可能エネルギーから得られるもので、2040
年までに、これらの再生可能エネルギーからの電力の大半は、あらゆる助成なしで
も競争力を得られる。急速に普及が進めば、費用も下がる。2040 年までに、太陽
光発電は平均費用がさらに 40-70%削減され、陸上風力発電の費用は 10-25%削減さ
れる見込みである。中国の新規の太陽光発電の単位あたりの助成は、2025 年までに
4 分の 3 減少し、インドの太陽光プロジェクトは 2030 年より十分前にあらゆる支
援なしでも競争力を持てるようになる。現在、再生可能エネルギー向けの助成は約
1,500 億米ドルで、その 80%程度が電力部門に、18%が運輸、約 1%が熱部門に向け
られている。コストの下落と最終消費電力価格の予想される上昇によって、2030 年
代には、世界全体の再生可能エネルギー向けの助成は 2,400 億米ドルをピークとし
て減少傾向となる。再生可能エネルギーは、世界のエネルギーサービス需要の最大
の要素となる熱の供給でも確たる地歩を築き、2040 年までの増加分の半分を満たす
ようになる。これは主にアジアの新興諸国における産業部門の熱供給向けのバイオ
エネルギー、そして中国、南アフリカ、イスラエル、トルコなど多くの国々ですで
に確立された選択肢となっている給湯用の太陽熱機器である。
450 シナリオでは、2040 年の発電量のほぼ 60%が再生可能エネルギーから得られる
と予測されており、そのほぼ半分が風力発電と太陽光発電による。このシナリオで
は、電力部門は大幅に脱炭素化が進む。発電による炭素排出強度の平均は、2040 年
に 1 キロワット時(kWh)当たりの CO2 重量で 80 グラムにまで下がる。中心シナリオ
では 335 グラム CO2/kWh、現在は 515 グラム CO2/kWh である。世界 4 大電力市場
(中国、米国、EU、インド)では、変動性の再生可能エネルギーが最大の発電源と
なるが、EU では 2030 年頃、その他 3 か国では 2035 年頃である。中心シナリオと
比較した場合、再生可能エネルギーによる発電量が 40%増加するが、累積助成が
15%増えるだけで、消費者が負担する追加コストもほとんどない。450 シナリオで
は、家庭が支払う電気料金は、エネルギー利用の効率化により、中心シナリオの場
合と実質的に変わりない。
© OECD/IEA, 2016
政策の主眼は統合に移る
再生可能エネルギーのコスト削減、それだけでは、電力供給の効率的な脱炭素化を
確保する上で不十分である。投資への適切なインセンティブを確保し、変動性の風
力発電、太陽光発電を高い割合で電源構成に統合するためには、電力システムの設
計と運用を構造的に変革することが求められている。ほとんどの再生可能エネルギ
ーのように、短期的な運転維持費が安い技術を急速に普及させれば、卸売電力価格
が非常に低くなる期間が長くなる可能性が高まる。発電事業者がそのコストを回収
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World Energy Outlook 2016
し、電力システムを必要な程度の柔軟性を持って運用するには、市場のルールと構
造を入念に吟味する必要がある。送配電網を強化し、システムと親和性のある形で
風力発電と太陽光発電が導入されるインセンティブを高め、迅速に給電できる発電
設備を確保しておくことにより、風力発電と太陽光発電の出力変動に効率的に対処
することが可能となり、風力発電、太陽光発電の電源構成に占めるシェアは 4 分の
1 程度まで高めることができる。そこに達した後は、発電余剰の際に風力発電と太
陽光発電の運用を抑制することがないよう、ディマンドレスポンスとエネルギー貯
蔵が不可欠となる。このような追加措置がないと、WEO2016 の予測期間末までに、
450 シナリオでは、欧州の場合、最大で 3 分の 1、米国とインドでは約 20%の出力
抑制が行われる可能性があり、風力発電、太陽光発電の新設のために行われる投資
の最大 30%に相当する分が利用されない状態になる可能性がある。このシナリオで
は、費用対効果の高いディマンドレスポンスと貯蔵手段を一連のシステム統合ツー
ルの一環として適時に導入することで、風力発電、太陽光発電の年間の出力抑制を
2.5%以下に抑えることになり、電力部門の大幅な脱炭素化の道が開かれる。
2℃目標への道のりは非常に険しく、1.5℃への道は未知の領域
450 シナリオを達成するための課題は膨大で、エネルギー部門に投資される資本を
抜本的に再配分する必要がある。450 シナリオではエネルギー供給への累積投資額
(中心シナリオより約 4 兆米ドル少ない)40 兆米ドルの配分が化石燃料ではなく再
生可能エネルギーと原子力、炭素回収貯留の低炭素投資に向けられる。2040 年まで
に、化石燃料に向けられる投資の割合は、3 分の 1 にまで下がる。さらに、35 兆米
ドルがエネルギー効率の改善に必要である(中心シナリオより 12 兆ドルの追加と
なる)。450 シナリオは、エネルギー部門を今世紀末までに、あらゆる燃料燃焼か
らの残りの排出分を回収貯留するか、または大気から炭素を取り除く技術によって
相殺するという段階に達する軌道に乗せようとしている。地球温暖化を抑えるため
の目標が意欲的であればあるほど、排出量が正味ゼロになる(ゼロ・エミッション)
段階に早く到達しなくてはならない。気温上昇の目標を 1.5℃以内に抑える相応の
可能性を有するためには、厳しい変革が必要となる。2040 年から 2060 年の間にゼ
ロエミッションを達成する必要があり(大規模なネガティブ・エミッション技術が
導入できたとしても)、したがって、あらゆる既存の技術的、社会的、規制的脱炭
素のためのオプションを駆使して、エネルギー部門の CO2 排出を短期間で大幅に削
減する必要がある。
© OECD/IEA, 2016
化石燃料と低炭素への移行のリスク
現在のところ、気候に対する誓約の中で各国政府が送ったシグナル(そして中心シ
ナリオに反映されている)を合わせると、化石燃料、特に天然ガスと石油は今後数
十年にわたって世界のエネルギーシステムの基盤であり続けるが、化石燃料産業は、
より急激な変革から生じうるリスクを無視するわけにはいかない。中心シナリオで
は全ての化石燃料が増え続けるものの、450 シナリオでは、2040 年までに石油の需
要は、日量 7,500 万バレル未満という 1990 年代後半の水準に戻る。石炭の利用量
も年間で 30 億石炭換算トン未満という、1980 年代半ば以来の水準に下がる。ガス
だけは現在の消費水準を上回る。エネルギーシステムの脱炭素化を推進する本格的
な政策は、化石燃料企業と輸出国の今後の収入に重大な結果をもたらすだろうが、
エグゼクティブ・サマリー
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リスクに曝される度合いは燃料によっても、また企業や国がバリューチェーンのど
こに位置するかによっても、様々である。例えば、石炭部門でリスクが高い資本は、
石炭火力発電所に集中している(炭素回収貯留が重要な資産保護戦略になる)。資
本集約度が低い鉱業部門における主なリスクは雇用である。輸出国は化石燃料から
の収入への依存度を下げることで、脆弱性を減らすことができる。これは、サウジ
アラビアが包括的な改革プログラム、「Vision 2030」で行っていることである。石
油の場合、450 シナリオでは、政府がその意図を明確にし、一貫した政策を最後ま
で続ける限り、石油の上流資産が広範囲にわたって座礁してしまう事態は想定しに
くい。新たな上流部門のプロジェクトへの投資は、コストを最小限に抑えつつ移行
する上での重要な要素である。それは、既存の油田からの産油量の減少が、予想さ
れる需要の減少よりもはるかに大きいからである。しかし、政策が急に変更された
り、政策サイクルが一進一退になったり、または具体化することのない需要に企業
が投資したりすることになれば、リスクは急に高まることになる。
石油市場は波乱の展開となりうる
© OECD/IEA, 2016
石油市場の短期的リスクは、2015~2016 年の上流部門における支出削減がさらに
もう 1 年続いた場合、新規プロジェクトの不足という反対の方向から起こりうる。
2015 年には、開発を承認されていた従来型の原油資源の量が、1950 年代以来最低
の水準にまで落ち込み、2016 年について利用可能なデータからは、回復の兆しが見
えない。米国のタイトオイルは、現在の不況期にも忍耐強く生産を続けていること
と、投資サイクルが短いために価格変動に数か月のうちに対応できるというその潜
在的能力に、多くの注目が集まっている。しかし、原油生産の「ベースロード」に
対する脅威も見えている。従来型のプロジェクトは、稼働ペースが異なり、投資決
定から最初の原油生産まで 3~6 年のリードタイムが必要だからである。もし新規
プロジェクト承認が少ない状態が 3 年目として 2017 年にも続くならば、石油産業
が新たな景気循環サイクルに入らない限り、需要(中心シナリオにおける予測)と
供給が 2020 年代初頭に釣り合う可能性はますます低くなる。
より長期的に見ると、中心シナリオにおける石油需要は、陸運、航空、石油化学と
いった、石油に代わるものがほとんどない分野に集中しており、石油供給は、米国
のタイトオイルの見通しが堅調ではあっても、中東にますます集中していく。トラ
ックや飛行機の燃料として、また化学工業の原料として、石油製品に代わるものは
ほとんどない。これら 3 部門だけで、世界の石油消費の伸びのほぼ全てを占めるこ
とになる。OECD 諸国の総需要は、2040 年にはほぼ日量 1,200 万バレル減少するが、
この削減分以上に、その他の国・地域の需要が増える。将来的に需要が最も増大す
るインドでは、石油消費量が日量 600 万バレル増える。供給側では、米国のタイト
オイルの予測生産量は上方修正されており、昨年版の WEO よりも生産量は多く、
長期にわたるとみられているが、それでも非 OPEC 諸国の総生産量は、2020 年初頭
以降減少に転じる。OPEC は積極的市場管理政策を復活させるとみられているが、
それでも、世界の産油量に占める割合は 2040 年には 50%程度に上昇するとみられ
る。世界は市場の均衡を取るために、イラン(2040 年の産油高は、日量 600 万バ
レルに達する)とイラク(同 700 万バレル)への依存を高める。石油取引の中心は、
圧倒的にアジアに移行する。米国は 2040 年には石油の純輸入量がほぼゼロになる。
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World Energy Outlook 2016
真にグローバルなガス市場が視野に入ってきた
天然ガスの需要が 2040 年まで年率 1.5%程度伸びるということは、他の化石燃料と
比べて健全だが、市場、ビジネスモデル、価格設定はどれも変化の途にある。液化
天然ガス(LNG)の貿易高が 2 倍に増えることに伴って世界の市場がより柔軟になる
ことは、世界のエネルギー構成におけるガスの役割の拡大を後押しする。ガス消費
量は、世界中どこでも増加するが、日本は例外で、原子力発電所が再稼働すること
で、ガスの消費量は減少に転じる。中国(消費量が 4,000 億立方メートル以上増え
る)と中東で、消費量が最も増加する。しかし、現在ガスが有り余っている市場が、
とりわけ主に米国とオーストラリアで 1,300 億立方メートルの液化設備が建設中の
中で、いかに早く均衡を取り戻せるか、疑問は多い。WEO2016 では、供給者と特
定の消費者グループとの強い固定的な契約があるという従来の仕組みから、例えば
ガス対ガスの競争によって設定される価格への依存がより高い、より競争的で柔軟
なシステムへと顕著に変化すると想定している。この変化のきっかけとなるのは、
機動力のある米国の LNG 貨物がますます利用可能となること、2020 年代にアフリ
カ東部を中心に新たなガス輸出国が登場すること、そして、非在来型のガス開発が
一律ではないとはいえ、継続的に拡大して世界全体の供給が多様化することなどに
よる。浮遊式貯蔵設備と再ガス化設備によって、LNG の新たな、かつより小規模な
市場が開拓され、それが長距離ガス貿易の伸びに占める割合は、2014 年の 42%から
2040 年には 53%に高まることになる。しかし、この商業上の転換が先行き不透明な
ことにより、上流生産および輸送の新規プロジェクトの決定が遅れることになれば、
一度現在の過剰供給分が吸収された後は、市場にとって難しい局面が訪れるリスク
がある。輸出志向の生産国は、特に電力部門で他の燃料との激しい競争に曝される
中、コスト管理に努めなければならない。アジアのガス輸入国においては、2020 年
代半ばに、石炭の価格が 1 トン当たり 150 米ドル(2025 年の予想価格の 2 倍)に
なった場合に初めて、ベースロード発電として、ガス火力発電所の新設が石炭火力
発電所の新設よりも安価なオプションになる。ガス火力発電の余地は、再生可能エ
ネルギーの普及とコストの下落によっても縮小される。
© OECD/IEA, 2016
石炭:困難な状態が続く
石炭に関しては、需要の世界的な回復が視野に入らない中、市場の均衡が取り戻せ
るかどうかは、主に中国と米国における供給能力の削減次第である。石炭需要の見
通しには顕著な地域差がある。 エネルギー全体のニーズが横ばい、または減少傾向
にある高所得国の中には、石炭から低炭素な代替エネルギーへの転換を大幅に進め
ている国がある。EU 諸国と米国における石炭需要(合計で現在の世界の石炭利用
の約 6 分の 1 を占める)は、2040 年までの間にそれぞれ 60%以上、40%以上、低下
する。それに対して低所得国、中でもインドと東南アジア諸国は、多様なエネルギ
ー源を活用して消費の急速な伸びを満たす必要がある。今のところ、これらの国々
は他のエネルギー源を並行して追及したとしても、安価なエネルギー源を無視でき
る余裕はない。中国は低所得国から高所得国に移行する段階にあり、WEO2016 の
予測期間中に石炭需要がおおよそ 15%減少すると見られる。また、中国は、石炭市
場が 2000 年代の石炭ブームの突然の終焉を経て新たな均衡を見いだす上でも役割
を果たす。中国は採掘能力を削減する多くの措置を講じており、これがすでに 2016
エグゼクティブ・サマリー
7
年の石炭価格上昇を招いている(前年までは 4 年連続下落)。しかし、もしこの移
行に伴う社会的コストがあまりにも高いことが判明すれば、中国は供給削減のペー
スを緩め、余剰生産分を費消するために中国が石炭輸出国に転じる可能性がある。
そうなれば、国際市場の低迷は長引くことになるだろう。石炭火力発電所の効率を
高め、汚染物質の排出を削減する方策と同時に、石炭の長期展望は、炭素回収貯留
技術の商業利用の可能性との結びつきを強めることになる。大幅な脱炭素化と両立
させるには、炭素排出削減対策の施された石炭を利用するしかないからである。
エネルギーと水:切っても切れない関係
エネルギーと水の相互依存は、エネルギー部門での水需要と、水部門でのエネルギ
ー需要がともに高まるため、今後数年でさらに強まる。水は、エネルギー生産のあ
らゆる段階で欠かせないものである。エネルギー部門は世界全体の取水量の 10%を
占めており、主に発電所の運転、化石燃料とバイオ燃料の生産に使われている。こ
れらの需要は 2040 年まで、特に消費される水(取水されるだけで水源に戻されな
い水)が増え続ける。電力部門では、取水量を減らしても消費量が増えるという、
先端的な冷却技術への転換が進んでいる。バイオ燃料の需要が増えると水の使用量
も増え、原子力発電所が増えると取水量も消費量もともに増える。エネルギーと水
の関係のもう一方の側面である消費者に水を供給するために使われるエネルギーの
量について、WEO の分析は初めて体系的に世界規模の推計を行っている。2014 年
には世界全体の電力消費量の約 4%が 5,000 万石油換算トンの熱エネルギー(大半は
灌漑ポンプ用のディーゼルと海水淡水化プラントでのガス利用)とともに上下水の
採取、送配水、処理に使われた。2040 年までに、水部門で使用されるエネルギー利
用量は、2 倍以上増えるとみられている。海水淡水化能力は、中東と北アフリカで
急激に高まり、下水処理と高レベル処理の需要が特に新興諸国で高まる。2040 年に
は、中東の電力消費量の 16%が水供給関連にあてられる。
© OECD/IEA, 2016
エネルギーと水との関係を管理することは、様々な開発目標、気候目標を成功裏に
達成する上で、極めて重要である。新たに設定された国連の持続可能な開発目標
(SDG)の水と衛生に関する目標(SDG6)と安価でクリーンなエネルギーに関する目標
(SDG7)の間にはいくつかのつながりがあり、それをうまく管理できれば、これら 2
つの目標を同時に達成することができる。エネルギーと水の節減には多くの経済合
理的な機会があり、もし総合的に検討すれば、それがエネルギーシステムと水シス
テム双方への負荷を緩和することができる。気候変動への取り組みは、場合によっ
ては水への負荷を高めたり、水の利用可能性によって制限されることもあり得る。
風力発電や太陽光発電などの低炭素技術の中には、ほとんど水を使わないものもあ
る。しかし、脱炭素化の道がバイオ燃料、太陽熱発電、炭素回収、あるいは原子力
発電に依存すればするほど、消費される水の量も多くなる。その結果、エネルギー
需要が下がったとしても、450 シナリオでは、2040 年の水の消費量は中心シナリオ
よりも若干高くなる。
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World Energy Outlook 2016
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Energy
Technology
Perspectives
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Energy
Statistics
series
Energy
Policies
Beyond IEA
Countries
series
World
Energy
Outlook
series
Energy
Policies
of IEA
Countries
series
Oil
Coal
MediumTerm Market Renewable
Reports
Energy
series
Gas
Energy
Efficiency
Market
Report
本文書の原文は英語である。
IEAは本和訳が原文に忠実であるようあらゆる努力をしているが、
多少の相違がある可能性もある。
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World
Energy
Outlook
2016
気候変動に関する画期的なパリ協定は、今後数十年の世界のエネルギー
システムを変革する。
World Energy Outlook 最新号は、2040年までのエネルギー予測を収録
し、エネルギー部門の変革がどのようなものになるかを、最も包括的に分
析している。再生可能エネルギーが抱える主な機会と課題、低炭素エネル
ギーへの移行に向けた要点、そしてエネルギー効率化が果たす重要な役
割などを精査している。
WEO-2016は、パリ協定後の世界がエネルギー安全保障という考え方、特
に気候変動との闘いの最前線に位置する電力部門のそれをどのように定義
し直すかを調べている。本書では、石油、天然ガス、石炭が、今日の市況に
どのように適応しているかを調査し、必要不可欠なエネルギー供給面の投
資の不足から座礁資産に至るまで、将来にわたるリスクを評価している。
WEO-2016は、個々の国々の誓約に着眼し、各国がその目標からどのくら
い近い、または遠いところにいるかを吟味している。世界の気温上昇を
2℃未満に抑えるためのコースの概略を描き、さらに野心的な目標にさえ
到達するために採り得る道程を描いている。
本年のWEO-2016は、さらに、相互に不可欠な水とエネルギーの関係を取
り上げた特別章を設け、これら2部門の結び付きが強まる中で生じる制約
を重点的にとりあげている。
詳細な情報については以下のサイトを参照。
www.worldenergyoutlook.org
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