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品質マネジメントシステムの 今後に向けて

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品質マネジメントシステムの 今後に向けて
ISO9001! " 54-62 06.1.12 8:30 PM ページ 54
連載
ステップアップ ISO 9001
− ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と審査−
第 11 回
(最終回)
品質マネジメントシステムの
今後に向けて
組織が望む今後の品質マネジメントシステムのあり方
(構築,審査など)
ISO 推進者会議 副代表幹事(富士ゼロックス㈱)
釜谷 佳男
本年 2 月から,「QMS の有効性を高め,パフォーマン
りの動静や社会ニーズにアンテナを張って,組織内で対
スを向上させるためには」というテーマで,主要な規格
応検討を進めている組織も多々見受けられる。これらの
要求事項を中心に討議を進めてきた。これまでの議論お
種々の MS 規格はどれをとっても(認証登録はともか
よび筆者の実務体験から,組織の QMS に磨きをかけ,
く),大なり小なり組織経営上見逃すことはできないも
より効果的に運営していくためのポイントについて述べ
のであり,何らかの形で実施されている。MS 規格のニ
てみたい。
ーズは,経済活動のグローバル化にともない高まってき
たもので,マネジメント対象領域(品質,環境,労働安
マネジメントシステムの目的は何か?
組織は何を目的に存在するか? 営利組織,非営利組
トを目的としているからだと理解できる。品質を例にす
るなら,顧客要求や,法的要求が満たされなければ,顧
織を問わず,組織の目標は組織のアウトプット(製品/
客の不満,法的責任の追及,マーケットシェアの低下,
サービス)の提供を通じて,継続的に顧客満足を得るこ
財務損失といったことになりかねない。これらを回避し,
とにある。“継続的”にお客様満足の得られる製品/サ
顧客満足を継続的に得て,財務指標を改善することによ
ービスが提供できなくなった時点で,その組織は一般的
ってステークホルダーに還元することが QMS のねらい
には社会から自然淘汰される。社会から評価され,継続
であるといえる。
的に顧客要求を満たした製品/サービスを提供しつづけ
これらの MS 規格は,どの領域の規格も骨格は共通と
ていくためにマネジメントシステム(以下 MS と略す)
なっている。すなわち MS の構造はどれをとっても,ト
が構築され,運用されている。製品品質に特化すれば,
ップマネジメント主導の下,短期・中期の(各領域の)
品質マネジメントシステム(QMS)であり,環境に特
目標を立て,施策検討し,計画化し,リソースを確保/
化すれば EMS であり,労働安全に特化すれば OHSAS
配備し,実施し,適宜レビューし,次期計画に反映し,
であり,情報セキュリティに特化すれば ISMS である。
実施し,当初の目標を達成させるというマネジメントの
昨今,各種マネジメントシステムの ISO 規格づくりが
さかんになっており,乗り遅れてはいけないと規格づく
54
全,情報セキュリティ etc.)に対するリスクマネジメン
枠組みになっているからである。
マネジメントシステムとは何か? 本連載第 2 回(3 月
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号)で福田氏からていねいな説明がなされているが,ひ
ています」と答えられることが多い。ISO 9001 でも
と言でいえば,ある領域(品質,環境,労働安全,情報
「あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステ
セキュリティなど)の目標達成のための管理の枠組みと
ムをレビューすること」といっている。当初の目標に対
いえる。
し計画どおりに進展しているならばそれでもよいかもし
組織の責任者(トップ)が当該対象領域について,意
れない。しかし,昨今の社会環境の変化の速い時代に半
識してマネジメントしているか,仕組みとして見える形
年∼ 1 年前の計画を見直さないで組織運営ができるとこ
で構築できているかは別として,何らかの目的/目標を
ろはどれだけあるだろうか? 1 年も前の計画に対してマ
もって組織は運営されている。トップマネジメントは,
ネジメントレビューを行うなら,やる意味がどれだけあ
組織の目標に向かってうまく進んでいるのか,つまづい
るだろうか?
ているのか,必ずどこかでチェック(レビュー)してい
組織をとりまく日々の環境変化,お各様の環境,競合
る。うまくいっていなければ,なぜだろう,どうすれば
他社の状況を見て,半年も 1 年も当初の計画どおりとい
よいか,と次の一手を協議し,指示しているのではない
うことはまずない。各階層のマネジメントレベルで,目
か。つまり ISO でいうマネジメントレビューを行ってい
標達成に向け施策を見直し,実施しているはずだ。その
るのである。MS とは「目標/計画を立て,実行し,チ
中でトップマネジメントが関与しているチェック/リプ
ェック/レビューし,必要な対策をとる」ことの総称と
ランこそがマネジメントレビューと位置づけるべきであ
考えれば,どの組織でも MS は構築されているはずなの
る。MR の目的は目標達成に向けてタイムリーに舵取り
である。
をしていくことだと考えている。船長は,めざす方向に
組織の種々の目標に対しトップマネジメントの思惑通
船が進んでいなければ,操舵手に方向や速度の変更を指
りに進んでいないなら,対象領域ごとの PDCA の場面
示するだろう。規格が要求している定期的な MR の要求
をありのままに振り返ってみるとよい。PDCA のサイ
は思いつきでやったり,やらなかったりすることに釘を
クルの中に誰が,いつ,何をしているか状況を再現して
刺しているわけで,改まったことだけを MR として要求
みると,マネジメントシステムがよく見えてくる。対象
しているわけではない。これだけ世の中の動きが速い時
領域も品質だけでなく,環境,情報セキュリティ,労働
に,1 年後でないとレビューしません,リプランも議論
安全などについて横断的に見ると,その組織の特徴が見
されません,というような組織では,到底このスピード
えてくる。計画づくりはすばらしいが,実行管理がうま
経営の時代についていけない。
くできていない組織,レビューが上手でなく再発を繰り
ISO 審査登録・維持/改善にあたって,組織は規格の
返している組織,さまざまである。自組織のウィークポ
要求していることを自組織に照らして正しく理解し,組
イントを見出し,MS の改善を組織ぐるみで行うことが
織目標達成に向けた 1 年間(あるいは期)の経営のサイ
大切である。それは組織の体質であり,環境については
クル(PDCA)がどうなっているのか整理してみるとよ
うまくいっているが,品質についてはうまくいっていな
い。全社的な PDCA もあれば,製品実現レベルの個別
い,という組織はまずないであろう。
新商品開発/導入における PDCA もある。いずれも節
目節目でトップマネジメントの計画に対する進捗度,今
タイムリーなマネジメントレビュー
後の計画などについてレビューがあるはずである。問題
がある場合には,
「どう軌道修正するか?」「再発防止を
ISO の審査登録をしている組織に,マネジメントレビ
どうするか?」「水平展開(ほかのプロジェクトへ)を
ュー(MR)はどのように実施しているかと聞くと,
どうするか?」必ず議論になる,これが生きた MR だと
「一回/期あるいは年,トップ出席のもとでレビューし
思っている。規格は,いつ MR をやりなさいとはいって
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いない。レビューの対象によって時期や間隔が変わるの
事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」
は必然性のあることである。半期,1 年をまとめて MR
と定義している。
を行うことを否定するものでないが,MR もタイムリー
すなわち,顧客要求事項を満足しているかについて,
に,効果的に行うことが必要である。今一度,自組織の
顧客がどのように受け止めているかについて監視するこ
MR(に相当するチェック機能)を整理し,それらが有
とを求めている。もちろん監視の結果,顧客要求が満た
効に機能しているかレビューしてみるとよい。
されていないとなれば改善努力し,顧客要求を満たそう
ISO 9001 も 1994 年版から 2000 年版に改訂され,要求
と努力する。また,その情報をもとに再発防止(是正処
内容も品質保証の規格から品質マネジメントの規格とな
置),未然防止につとめているはずである。これで,
ったが,まだまだ ISO 認証取得・維持を通じて経営成果
ISO 9001 の要求事項に対しては“適合”ということに
に役立っていると回答している組織は少ないと聞く。そ
なるが,組織から見れば本当にこれでよいのかとなる。
れは,QMS の構築運用が形骸化しているからではない
先に,「QMS 認証維持はしているが,経営成果に結び
かと推察する。内部監査や外部審査の時に,各種標準書
ついていないのではないか?」という声があることを述
が表舞台に登場している組織も少なくないのではないだ
べたが,その理由の 1 つには,このような消極的顧客満
ろうか?
足(Customer Satisfaction)にとどまっているからと解
組織が認証取得・維持するのは誰のためか? 認証取
することができる。組織には,この CS だけでなく,も
得/公開の意義は,第三者や社会が当該組織は品質マネ
っと積極的な顧客満足(Customer Delight)を得て,
ジメントをきちんと行っている組織かどうかを知ること
業績向上に寄与できるよう期待が込められている。ISO
ができることにある。一方では,組織は外部審査をも利
認証組織は,ISO 9001 規格に準拠し QMS を構築してい
用して自組織の QMS を強化して,お客様に,社会に満
るが,その組織の QMS(QMS をどの範囲で捉えるかに
足しつづけられる組織運営を行っていると考えている。
もよるが)で積極的顧客満足を得るための QMS を構築
自組織の QMS の目的をはっきりと認識し,ISO 規格
しているならば,内部監査やマネジメントレビューで実
要求事項を自組織に吸収消化して,自組織に見合った
施状況を監査して,やろうとしていることができている
QMS を構築運用することが大切になってくる。MR の
か,できていないならその阻害要因は何か,解決すべき
目的は,トップマネジメントの出した方針が展開され,
課題は何かを考えていくことが重要である。
実施され,計画された目標に向かって進んでいるかを確
一方,ISO 9001 の規格要求を超える領域だが,外部
認し,必要な処置をとることである。規格の要求は組織
審査の場面で“積極的満足”について客観的な意見を引
目標の達成については言及しておらず,枠組みを規定し
き出すことは可能だと考えている。それは,ISO 9001
ているだけである。すなわち ISO の要求は,決して画一
の規格に準拠し QMS を構築するのだが,組織の決めご
的なものを要求しているわけではないことを再認識し,
ととして新商品開発,マーケティングについて(ISO
自組織の特長を考慮し,タイムリーで効果的な MR の実
9004 ではガイドしている)も自組織の QMS に取り込む
施が望まれる。
ことによって,第三者の目で見てもらうこともできると
思っている。ISO 9001 は認証登録のための規格要求で
顧客価値創造(お客様のお客様への価値
提供)を支援する製品の提供に向けて
QMS 構築の重要な要素の 1 つに“顧客満足”がある。
ISO 9000 では,顧客満足(3.1.4 項)とは「顧客の要求
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あるが,そもそも規格があって当該組織の QMS を構築
するものではない。自組織の QMS を構築,維持,改善
する際に規格要求に準拠するものの,自組織の業種,業
態,規模,従業員のスキルなどを考えて QMS は構築さ
れるからである。決して規格要求の“コピー”ではいけ
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ないと思っている。
進んだ差別化”だと考える。何を差別化するかは組織の
“積極的顧客満足”を得ることは,組織の存亡にもか
方針にもよるが,お客様の価値提供活動にプラスワンの
かっている。とくに民間の組織においては市場競争環境
価値を提供しつづけることが,強いパートナーシップを
も厳しくなっており,ただ単に“消極的顧客満足”を実
維持する上でのポイントとなる。技術的な面もあれば,
践しているだけでは自然淘汰されるだろう。今日,“も
他組織にはない流通システム,製品コストなどもあろう。
の”の時代から“こと”の時代に移り変わりつつある。
自組織のプラスワンの価値提供にあたって,自組織の
顧客が何を求めているかわかっている時は比較的実現は
QMS を構築,改善,改革していく上で,もう 1 つ配慮
容易だが,“こと”の時代になって,顧客要求が鮮明で
することがある。それは,自組織の不得手な領域は,そ
なくなってきた時に,マーケティングは重要な役割を担
れを得意とする組織と手を組み(プロセスのアウトソー
うことになる。お客様が何を欲しているのか,何を提供
シング),徹底して自組織の強みの強化に専念するほう
することでお客様の価値創造力が高まるのか,組織はよ
が得策ではないかということである。その強みこそが自
く考えて商品企画することが求められている。その際に
組織価値なのだから。さらに,自組織の市場環境の将来
考慮しなくてはならないことは「自組織のお客様の創造
を見据えた時に,市場環境,お客様の提供価値の変化を
する価値は何か」で,それはお客様のお客様は誰で,何
評価/理解し,自組織の強みをさらに強化し,あるいは
を求めているかを考えていく必要があるからである。す
強化/取得すべき領域は何かを見つけ出し,戦略的に組
なわち,お客様の価値創造に貢献できる自社組織の“製
織進化させることが重要となる。
品・サービス”づくりが求められているからである。
いずれにせよ,自組織は何を生業に存在しているのか,
今の,そして先々のお客様は誰か,お客様のお客様は何
これからの QMS に求めること
市場環境の変化のスピードは速く,お客様の価値創造
を求めているのか,これらを常に念頭に置き,先々どん
な価値提供をしていくか,そのためにマーケティング,
研究開発まで含めて自組織の QMS をどのように構築,
の対象も進化している。このような時代に,現在のドメ
改善(時には改革)していくかがカギとなる。認証維持
インの中だけで自組織の QMS の改善を考えればよい
だけの QMS 構築は卒業しよう。
か? 答えは“NO”である。
(Yoshio KAMATANI)
これからの QMS を考える時のキーワードは,“半歩
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品質マネジメントシステムの今後に向けて
付加価値審査を考える
(財)日本科学技術連盟 ISO 審査登録センター 所長 館山 保彦
1.はじめに
…」と説明している。
組織の QMS の実施状況は,QMS 導入にともない構築
2000 年版発行にともない,今までの審査に不満をも
し,運用したはじめのころと,何年か運用し,システム
つ組織からパフォーマンス向上を望む声が出はじめた。
の見直しがなされた状況では当然違うといえる(図 1)。
組織のパフォーマンスに目線を合わせた審査で,規格要
同様に,そのように実施状況が違う組織への審査は,初
求事項の枠内で付加価値をともなった“付加価値審査”
回登録審査と定期審査,更新審査と,その実施状況に合
という審査方法が注目を浴びている。各組織の QMS の
わせた審査が望まれる。実施状況に応じた付加価値審査
実施状況に合わせた審査であるといえよう。組織の実態
は,その審査の所見にも差異があり,組織の期待する改
に合わせた審査では,それぞれの状況を考えた付加価値
善の機会の提供度合いも差が生じる。
を考慮しなければならない。
一方,第三者審査での改善の機会を示すには,多くの
ISO 9001 : 2000 は序文で「この規格は,顧客要求事
規制要求事項がある JIS Z 9362-1996(ISO/IEC GUIDE
項,規制要求事項及び組織固有の要求事項を満たす組織
62 : 1996)= JAB R100 とか,IAF Guidance on the
の能力を,組織自身が内部で評価するためにも,審査登
Application of ISO/IEC Guide 62(JAB R300)の枠組
録機関を含む外部機関が評価するためにも使用すること
みを理解した上で,付加価値を付けた審査を行わなけれ
ができる」としており,一般的には第三者審査でminimum
ばならないというむずかしさがある。
requirements への適合性を審査するための規格である。
そのため,その枠組みを超えた審査は基本的には許され
通常の成熟モデル組織
A社
ず,そういう審査を求めるなら,むしろ ISO 9001 で規
更新・3年目
定する要求事項の範囲を超えて,組織のパフォーマンス
C社
の継続的改善をめざそうとする場合の手引きとされてい
る ISO 9004 を利用するほうが適切といえる。
しかしながら,ISO 9001 の審査登録組織がなぜ付加
成
熟
度
N社
B社
価値審査を要求するのか,パフォーマンス向上のため付
加価値を付けた審査ができないものか,あえて ISO
適合性合格ライン
9001 の枠内で考えてみたい。
この“パフォーマンス”という用語は ISO 9001 :
2000 規格作成の段階で翻訳上問題となった用語の中の
解説 o)にあげられ,そこでは“performance”を「実施
状況,成果を含む実施状況,パフォーマンス,出来栄え
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1
2
3
4
5
年
図 1 初回審査からのシステム成熟ライン
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JAB R300 の G. 2. 1. 24 の f)項には,審査での付加価値
について以下のような記述があり,その範囲ならば許さ
れる。
高いバーを
クリアー
したいなー!
低いバーでは
あるが十分
審査及びサーベイランス訪問の際に付加価値を付ける
こと。例えば,審査を通じて明らかになった改善の余
地を,それに関する具体的な解決方法を勧告すること
なしに明確にすること。
なお,現在 ISO/IEC ガイド 62 : 1996 および ISO/IEC
ガイド 66 : 1999 の統合版である ISO/IEC 17021 は,
図 2 組織の手順・要求事項の満たされ度合いはいろいろ
2006 年 6 月に IS として発行の予定であるが,DIS の段階
の本規格には付加価値審査に関係する部分の規定はとく
にない。
以上の背景でどのように付加価値審査を行うことがで
きるか考察してみる。
19011 : 2003(ISO 19011 : 2002)と JIS Q 9000 : 2000
(ISO 9000 : 2000)によれば,適合,不適合を示すが,
「また,改善の機会も示し得る」とされている。
さらに,JIS Q 19011 : 2003(ISO 19011 : 2002)の
6.5.5「監査所見の作成」では同様に,監査の目的で規定
2.規格上での付加価値審査の考え方
されている場合には,監査所見は,「改善の機会を特定
することができる」
。
第三者審査を行う“審査=監査”とは何か。JIS Q
そのほか JIS Q 19011 : 2003(ISO 19011 : 2002)で
19011 : 2003(ISO 19011 : 2002)と JIS Q 9000 : 2000
は,いろいろな箇所に「監査の目的で規定している場合
(ISO 9000 : 2000)では,“監査”(audit)を次のよう
は,改善の提言をすることが望ましい」というように,
に定義している。
改善について踏み込むことが可能であると記載されてい
監査基準が満たされている程度を判定するために,監
る。したがって,監査所見作成の際は,付加価値を付け
査証拠(3.3)を収集し,それを客観的に評価するた
た所見が可能となる。
めの体系的で,独立し,文書化されたプロセス。
一方,IAF Guidance on the Application of ISO/IEC
こ こ で の “ 監 査 基 準 ” と は 何 か で あ る が , JIS Q
Guide 62 : 1996 = JAB R300 という規格がある。これ
19011 : 2003(ISO 19011 : 2002)では“監査基準”を
は,審査登録機関が認定を受ける際の規格(ISO/IEC
「一連の方針,手順または要求事項」であるとしている。
Guide 62 : 1996 = JAB R100)の指針である。この規格
このようなことから,
審査とは組織の品質方針にしたがった手順または要求
事項に満たされているかの程度を判定する行為
とみなすことができる。
には,サーベイランスと更新審査の目的が明確に記述さ
れている。
まず,G. 3. 6. 4 では,「サーベイランスの目的は,承認
された品質マネジメントシステムが,継続して実行され
すなわち,どの程度満たされているかはその組織のパ
ていることを検証すること,組織の事業の変更の結果に
フォーマンスを考慮し,適合についてどうであるか判断
起因するそのシステムへの変更の必要性を検討するこ
することになり,付加価値として判断できる部分である
と,及び登録要求事項に関して継続的に適合しているこ
(図 2)。
次に,この監査で収集された監査証拠を監査基準に対
して評価した結果の“監査所見”については,JIS Q
とを確認することである。…(略)…」とあり,QMS
の継続性に焦点を置いている。さらに G. 3. 6. 5 では,
「サーベイランスごとに,審査登録機関は次の点を調査
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し,管理責任者と面談することが望ましい。
a)組織の目標達成に関して品質マネジメントシステム
が有効であるか。
b)システムの欠陥を管理者に知らせる手順が機能して
いるか。
c)システムの性能の継続的改善を目的として計画した
活動の進捗状況。…(略)…」
9000 : 2000)の 3.2.14 では「計画した活動が実行され,
計画した結果が達成された程度」と定義されているが,
計画した活動の実行は組織のパフォーマンスによって差
異がある。ましてや計画した結果については,組織の期
待する程度でもあり,この点についても付加価値を付け
た審査が介入できる部分である。
とあり,組織の目標を達成するために品質マネジメント
JIS Q 9001 : 2000 の巻末にも記載されているが,ISO
システムが有効性を発揮できたか,責任者と面談して確
ファミリー改正委員会での議論となった ah)項の“継続
認することを要求している。
的改善”の解説では「“継続的”は“continual”の訳で
G. 3. 6. 12 では,
「更新審査の目的は,組織の品質マネジメントシステム
ある。連続していなくても断続的に続いていればよい。
…(略)…」とされており,一般に TQM でいうところ
全体の包括的で継続した有効性を検証することである。
の継続的改善にはほど遠い意味合いをもっている。しか
…(略)…更新審査では少なくとも次のことを確認しな
しながら,その範囲で考えたとしても,この“QMS の
ければならない。
有効性を継続的に改善すること”については,4 章以外
a)システムの全要素間における有効な相互作用
にも多くのところで散見される。たとえば 5 章をあげて
b)運用上の変更からみた当該システム全体の包括的有
みると,5.1 経営者のコミットメントで「QMS の構築及
効性
び実施,並びにその有効性を継続的に改善することに…
c)当該システムの有効性を維持するという意志の表明」
…」,5.3 品質方針の b)項では「QMS の有効性の継続的
としている。
な改善に対する……」,5.5.3 内部コミュニケーションで
したがって,更新審査でも QMS 全体の包括的で継続
した有効性の検証が求められているのである。
別の視点から見てみると,QMS の基本要求事項であ
は「QMS の有効性に関しての情報交換が……」,5.6.1 マ
ネジメントレビューの一般では「QMS が引き続き適切
で,妥当で,
かつ有効である事を確実にするために……」,
る JIS Q 9001 : 2000(ISO 9001 : 2000)では,4.1 で
5.6.3 a)マネジメントレビューからのアウトプットで
「QMS の有効性を継続的に改善すること」,また同 f)項
「QMS 及びそのプロセスの有効性の改善」とある。6 章
で「QMS のためのプロセスについて,計画どおりの結
では,6.1 a)資源の提供で「QMS を実施し,維持する。
果が得られるように,かつ継続的改善を達成するために
またその有効性を継続的に改善する」,6.2.2 c)力量,
必要な処置をとる」とされており,さらには 5 章,6 章,
認識及び教育・訓練では「教育・訓練又は他の処置の有
7 章,8 章の多くの箇所で有効性のための改善とか,有
効性を評価する」,8 章では 8.1 c)の一般で「QMS の有
効性を継続的に改善することが要求されている。これら
効 性 を 継 続 的 に 改 善 す る 」, 8 . 4 デ ー タ の 分 析 で は
を通じて付加価値的審査が可能となる。
60
“有効性”そのものは,JIS Q 9000 : 2000(ISO
「QMS の適切性及び有効性を実証するため,また,
すなわち,QMS の要求事項は QMS の有効性を継続的
QMS の有効性の継続的な改善の……」,8.5.1 継続的改善
に改善することを要求しているわけであるが,その際,
では「QMS の有効性を継続的に改善すること」。このよ
QMS のパフォーマンスの成熟度は組織によってまちま
うに多くの箇所に記述されているが,“QMS の有効性を
ちであることを認識しなければならない。その上で,そ
継続的に改善すること”については,程度の差はあれ付
の組織の QMS の有効性を継続的に改善するには,どの
加価値審査の対象となることは前段で述べたとおりであ
程度が適切かどうかを考慮しなければならない。
る。
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以上,あらゆるところで「QMS の有効性を継続的に
① ISO 9001 : 2000 の 5. 4. 1
品質目標では,
改善」と繰り返されているが,前述したように有効性の
トップマネジメントは,組織内のそれぞれの部門及
定義は JIS Q 9000 : 2000(ISO 9000 : 2000)では「計
び階層で品質目標が設定されていることを確実にする
画した活動が実行され,計画した結果が達成された程度」
こと。その品質目標には,製品要求事項を満たすため
であり,このほかに JIS Q 9000 : 2000 の解説の h)で,
に必要なものがあれば含めること。品質目標は,その
2000 年版を制定するにあたり,有効性および効率につ
達成度が判定可能で,品質方針との整合性がとれてい
いて新たに定義された用語として紹介されている。なぜ
ること。
加わったかについても同 g)項で述べられており,それ
とされている。取り上げる品質目標は,その達成度が判
によると「通常,我々が考える品質改善は,有効性と効
定可能であることが要求されるが,品質目標をどの程度
率との双方を向上させる活動であり,ISO 9001 : 2000
の達成度とするかは組織の判断としている。組織が自ら
で要求している改善はシステムの有効性の改善であり,
のパフォーマンスを考えながら決定するのがよい。実際,
製品の改善は含まれていない」とされている。すなわち,
審査でお目にかかる品質目標はさまざまである。審査で
結果が達成されたかどうかは有効性の問題であり,その
適切な視点から指摘をするのがよい。
過程がどうであったかとは明確に区別しているのであ
る。ISO 9001 : 2000 の解説でも,
“有効性”がよいとは
簡単にいえば不適合を生じないで製品を実現すること
② ISO 9001 : 2000 の 8. 1 では,
組織は,次の事項のために必要となる監視,測定,
で,“効率”がよいとはその製品をより少ない資源の投
分析及び改善のプロセスを計画し,実施すること。
入で実現することとしている。結果を達成するために投
a)製品の適合性を実証する。
入した資源が少なかったかどうか(効率)とは区別して
b)品質マネジメントシステムの適合性を確実にする。
いるのである。
c)品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改
これらの言語は,“effectiveness”の訳語は“有効性”
とし,また,
“efficiency”の訳語を“効率”としている。
規格要求事項でそもそも要求する“shall”は,“しな
善する。
これには,統計的手法を含め,適用可能な方法,及
びその使用の程度を決定することを含めること。
ければならない”ことであるが,その“しなければなら
とされているが,ここでの統計的手法は何を使ってとは
ない”程度は組織が求める有効性で決定する。ましてや,
決められていない。多くの統計的手法の中から,組織の
規格の条文によく出てくる“明確にする =determine”
パフォーマンスに合わせた適切なものを使用することが
“確実にする= ensure , establish”
“確立する =establish”
“実施する =implement”“維持する =maintained”など
の用語は,少なくとも日本語としては曖昧であり,その
可能である。
関連して,ISO 9001 : 2000 の 8. 4 ではデータの分析
に対し,
判断も幅広く解釈でき,組織・企業に委ねられる部分も
…(略)…品質マネジメントシステムの有効性の継続
多いものと思う。これが付加価値審査の介入できる部分
的な改善の可能性を評価するために適切なデータを明
といえる。
確にし,それらのデータを収集し,分析すること。…
(略)…
3.具体的ケース
つづいて,具体例で考えてみたい。
とされているが,どのようなデータで,どのような分析
方法をするかは決められていない。組織のパフォーマン
スに合わせた適切なものを使用することが可能である。
一例をあげれば顧客満足のデータとして顧客からのアン
VOL.56, NO.12
61
ISO9001! " 54-62 06.1.12 8:30 PM ページ 62
連載/ステップアップ ISO 9001
ケートデータを収集し,月ごとの集計をし,平均値を見
て有効性を判断している場合,分析する方法については
ム−自己評価の指針」
などもある。
企業に委ねられているといえる。したがって,その分析
方法は一般に品質管理でいう統計的手法として低レベル
のものもあれば高レベルのものもあり,これらの使い分
5.まとめ
けは組織のパフォーマンス力を判断して決定するのがよ
いろいろと述べたが,実際の審査に立ち会って感じる
い。すなわち,ただ単に集計し平均値から判断するとい
ことは,組織の規模・業態・プロセス・製品などは種々
う低いレベルもあれば,データを整理して傾向を判断す
雑多で,マネジメントのあり方も同様にいろいろである。
る方法,度数表の作成からヒストグラムを作成し,その
ましてや最近の小企業では,ISO 9004 : 2000 の存在す
傾向から判断する方法もある。さらに一歩進んで累積度
ら知らない組織が多い。このような現状を踏まえると,
数図,層別,パレート図,散布図などから判断するとい
その組織のパフォーマンスに目線を合わせ,よかったと
うレベルもある。組織のパフォーマンスを見て指摘をす
思われる審査をしないと,審査登録をするのはいいが長
るのがよい。
続きせず,登録を断念する組織が出るのは時間の問題で
ある。今後は,規格の枠組みの中で可能な付加価値を考
4.他規格ではどうなるか
「JIS Q 9004 : 2000
(ISO 9004 : 2000)
」
ISO 9000 シリーズのエクセレントカンパニーをめざ
す規格である JIS Q 9004 : 2000(ISO 9004 : 2000)を
ベースに付加価値審査を行う方法もあるが,組織として
監査基準を考慮していない以上,「余計な審査」と判断
される。本来なら,まさにパフォーマンス改善の指針と
しての規格であるから,組織のパフォーマンスを改善し
てもらうことを目的とする付加価値審査としては,もっ
ともふさわしい規格であり,要求事項といえる。
さらに一歩進めると,
① JIS Q 9023「マネジメントシステムのパフォーマンス
改善∼方針によるマネジメントの指針」
② JIS Q 9024「マネジメントシステムのパフォーマンス
改善∼継続的改善の手順及び技法の指針」
③ JIS Q 2025「マネジメントシステムのパフォーマンス
改善∼品質機能展開の指針」
などがある。さらに,
① TR Q 0005 : 2003「クォリティマネジメントシステ
ム−持続可能な成長の指針」
② TR Q 0006 : 2003「クォリティマネジメントシステ
62
慮した審査が望まれるのではないだろうか。
(Yasuhiko TATEYAMA)
参考文献
[1]日本工業標準調査会 審議(2000):『品質マネジメントシ
ステム−要求事項 JIS Q 9001 : 2000(ISO 9001 : 2000)』,
日本規格協会。
[2]日本工業標準調査会 審議(2000):『品質マネジメントシ
ステム−パフォーマンス改善の指針 JIS Q 9004 : 2000
(ISO 9001 : 2000)』,日本規格協会。
[3]日本工業標準調査会 審議(2000):『品質マネジメントシ
ステム−基本及び用語 JIS Q 9000 : 2000(ISO 9000 :
2000)』,日本規格協会。
[4]日本工業標準調査会 審議(2003):『品質及び/又は環境
マネジメントシステム監査のための指針 JIS Q 19011 :
2003(ISO 19011 : 2002)
』,日本規格協会。
[5]日本工業標準調査会 審議(2003):『JIS Z 9362-1998
(IAF Guidance on the Application of ISO/IEC Guide 62Issue 3) 品質システム審査登録機関に対する一般要求事
項の適用に関する IAF ガイダンス』,日本規格協会。
(『JAB R300-2004「品質システム審査登録機関に対する認定
の基準」についての指針』,日本適合性認定協会,2004 年)
[6]日本工業標準調査会 審議(2003):『JIS Q 0066-2000
(IAF Guidance on the Application of ISO/IEC Guide 66Issue 3)環境マネジメントシステム(EMS)審査登録機関
に対する一般要求事項」の適用に関する IAF ガイダンス』,
日本規格協会。
(『JAB RE300-2004「EMS 審査登録機関に対する認定の基準」
についての指針』,日本適合性認定協会,2004 年)
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連載を終えて
有効性のある品質マネジメントシステムの運用と審査
東海大学 政治経済学部経営学科 主任教授 綾野 克俊
ルでの議論を確認して,パフォーマンスの改善に生かし
1.はじめに
ていただきたい。
ISO 9001 の 2000 年版の品質マネジメントシステムの
・ 2 段階審査の必要性
認証を取得しても,思ったように効果があがらないとい
・ QMS の有効性と改善の測定
う読者の声に応える形で,「ステップアップ ISO 9001 −
・プロセスの明確化
ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と
・プロセスアプローチの理解
審査−」と題した連載を企画した。2005 年 2 月号からは
・「適切な場合」のプロセスの決定
じまり,ISO 9001 規格の各項番の要求事項について,
・「適切な場合」の要求事項の審査
研修機関の講師による「規格の解説」,学識経験者ある
・規格への適合性の実証
いは先輩実践者からの「実践に向けてのアドバイス」,
・特定のタスク,活動またはプロセスの審査の全体的シ
業種・業態を超えた ISO 推進者会議(IPC)による「研
ステムへのリンク
究成果」,それに対し審査員からの「一口アドバイス」
・継続的改善の審査
という構成だった。この連載が ISO 9001 の組織として
・最小の文書をもつ QMS の審査
のパフォーマンスの向上につながる品質マネジメントシ
・トップマネジメントプロセスの審査の仕方
ステムの運用と審査に役立てば幸いである。
・審査チェックリストの役割と価値
本連載で寄稿・ディスカッションをしていただいた
IPC は,ISO 推進者の方々が中心に集まった研究会であ
・ ISO 9001 : 2000 の適用範囲,品質マネジメントシス
テムの適用範囲および認証の適用範囲の決定
るが,同じようにTC176のメンバーとIAF(International
・審査プロセス中に価値を付加するにはどうするか
Accreditation Forum)から,QMS のエキスパートと審
・力量およびとられた処置の有効性の審査
査員,実践家を集めた非公式なグループが,ISO 9001
・法令・規制要求事項の審査
審査実務グループ(ISO 9001 Auditing Practice Group)
・品質方針と品質目標の審査
として結成され種々のガイダンス文書を発行しているの
・ ISO 9001,7. 6 項 監視・測定機器の管理の審査
に,本連載をはじめてから気づいた。
・ ISO 19011 の効果的活用
次のような話題についてのガイダンス文書が発行され
・顧客からのフィードバックの審査
ており(Introduction 記載順),ガイダンス文書の実物
本稿では,本連載に関連する「QMS の有効性と改善
については,英文ではあるが,ISO の Web サイト で入
の測定」についてのガイダンス文書である,『QMS と組
手可能であるのでぜひアクセスしていただき,国際レベ
織的・ビジネス成功の達成とのリンク』から,QMS を
※
※ http ://www. iso. org/tc176/ISO9001AuditingPracticesGroup
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63
ISO9001# 63-66 06.1.12 8:33 PM ページ 64
連載/ステップアップ ISO 9001
パフォーマンス向上に結びつけるためのガイダンスにつ
目標だけでなく,関連した組織の事業および/または財
いて,その要点を紹介する。
務的な目標を達成するというプロアクティブなアプロー
チである。
2.QMS のパフォーマンス改善とのリンク
組織が選択可能な卓越モデルやツールには,次のよう
ISO 9001 : 2000 には,品質マネジメントシステムの
有効性に関する要求事項があり,さらに品質マネジメン
トシステムに関する継続的改善の必要性を規定してい
る。
なものがある。
有効性については,ISO 9000 : 2000,3. 2. 14 に,「計
・バランスト・スコアカード
・ビジネス卓越モデル
画した活動が実行され,計画した結果が達成された程度」
・シックスシグマ
とあり,ISO 9001 には次の記述がある。
この規格は,品質マネジメントシステムに関する要
・デミングおよびジュランモデル
また,ビジネス卓越モデルの中には,次のようなもの
求事項を規定している。これらの要求事項は組織が内
がある。
部で適用するため,審査登録のため又は契約のために
・デミング賞
用いることができる。この規格は,顧客要求事項を満
・マルコムボルドリッジ賞
たすに当たっての品質マネジメントシステムの有効性
・ EFQM モデルおよび賞
に焦点を合わせている。
(ISO 9001 : 2000, 0. 3)
・国家ビジネス卓越モデルおよび賞
卓越モデルと ISO 9001 : 2000 を比較すると,表 1 の
ようになる。すなわち ISO 9001 では業績については明
トップマネジメントは,品質方針が,要求事項への
適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的
示されていないのである。
ISO 9001 Auditing Practice Group は,2003 年のオー
ストラリア・シドニーでの会合の際に「シドニーモデル」
を開発した。それは概念的には,有効性と改善が,
な改善に対するコミットメントを含むことを確実にす
ること。
(ISO 9001 : 2000, 5. 3)
組織は,品質方針,品質目標,監査結果,データの
QMS の要素を用いてデータを分析し,継続的改善を確
分析,是正処置,予防処置及びマネジメントレビュー
実にするための変革とイニシアティブを方向付けるサイ
を通じて,品質マネジメントシステムの有効性を継続
クルとして表現できること。その結果として,QMS の
的に改善すること。
表 1 卓越モデルと ISO9001:2000 の比較
卓越モデル
方針および戦略
顧客&マーケット焦点
顧客満足
人的管理
ビジネスプロセス
組織の業績
64
有効性の改善については次のように要求している。
ISO 9001:2000
Quality Policy
Quality Objectives
顧客焦点
顧客の関連のプロセス
顧客満足
人的資源
QMS の一般的要求
製品実現
規格の中ではとくには明示さ
れていない
(ISO 9001 : 2000, 8. 5)
また,データの分析について,次のような要求がある。
組織は,品質マネジメントシステムの適切性及び有
効性を実証するため,また,品質マネジメントシステ
ムの有効性の継続的な改善の可能性を評価するために
適切なデータを明確にし,それらのデータを収集し,
分析すること。
(ISO 9001 : 2000, 8. 4)
シドニーモデルは,このデータの分析の目的を拡張し
て,組織の品質および/またはビジネス目標が満たされ
ることを確実にするために用いようというものである。
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組織的な
結果
組織目標
顧客要求事項
顧客満足
法令・規制要求事項
欠陥率および
顧客返品
組織により記録
された結果の例
組織的な
目的
組織的な
結果
法令・規制へ
コンプライアンス
改善計画
品質システム
測定項目
顧客焦点
検査およびテスト
QMS管理
供給者の
パフォーマンス
購買
是正処置
これらの行動によって,
組織はその目標を改正
するかもしれない
調達
ギャップが明確化された
時,どのような行動がとら
れるか?
この例において,その組
織は,改善のための3つ
のキー領域を特定した
図 1 データの分析(ISO 9001)
図 2 QMSにおける改善
図 1 に ISO 9001 におけるデータの分析の概念を示す。
左が組織目標であり,右がそれに対応して記録された組
ビジネスおよび/または財務上の結果に対して影響を与
織的結果である。QMS の有効性は,それらの間のギャ
えたかどうかを決定するために使われる。
ップとして表現することができる。ギャップが少ないほ
それらを統合したモデルを図 3 に示す。このシドニー
ど,QMS の有効性があるということになる。QMS にお
モデルは,ISO 9001 の要求事項を ISO 9004 の指針と組
ける改善は,図 2 のようにギャップを埋めるための改善
み合わせることによって,QMS を組織のビジネス上の
計画を立てることである。
目標達成のための改善活動として活用しようというもの
一方で,一貫したペア規格である ISO 9004 : 2000 は,
次のような指針を与えている。
である。
本連載でも,QMS を TQM の一環として活用してい
トップマネジメントは,計画目標が達成されたか否
る事例や,ISO 9001 のみではパフォーマンス改善には
かを結論付けるために,組織のパフォーマンスを測定
不十分であり追加的な要求事項を入れるべきであるとい
する方法も定めるとよい。
う議論がなされてきた。ISO 9001 : 2000 の品質マネジ
この方法には,次の項目が含まれる。
メントシステムの導入効果をあげるためには,パフォー
− 財務の測定
マンスの改善を目標としたマネジメントシステムにして
− 組織全体にわたるプロセスのパフォーマンスの測
いく必要がある。
定
− 外部測定,例えばベンチマーキングや第三者によ
る評価
100
− 顧客,組織内の人々及びその他の利害関係者の満
100
組織的な
目的
足の評価
組織的な
結果
0
− 提供した製品の出来栄えに対する顧客及びその他
の利害関係者の認識の評価
QMS結果
ビジネス
結果
− 管理者が特定した他の成功要因の測定
(ISO 9004 : 2000, 5. 1. 1)
マネジメント・
レビュー
0
改善計画
シドニーモデルは,周期
的であり,必要に応じて
組織によって使うことが
できる
継続的改善
すなわち,データの分析は,QMS の有効性に関して
結論に達したあと,品質マネジメントシステムが組織の
図 3 データの分析(シドニーモデル)
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連載/ステップアップ ISO 9001
3.TQM の一環としての QMS の構築へ
ISO 9000 : 2000 ファミリーでは削除されてしまった
が,ISO 9000 : 1994 シリーズでは,TQM を表 2 のよう
に定義していた。なお,用語は,ISO 9000 : 2000 ファ
ミリーの訳の仕方に合わせて,「総合的品質マネジメン
ト」という訳にしている。
すなわち,備考の 3 にあるように,TQM では品質の
概念はすべての経営目標の達成に関連して用いられ,す
部門
機能
営業
企画
・設計
製造
検査
事務
品質
ISO 9001
原価
納期
労働安全
機能別管理(部門横断的管理)
Cross Functional Management
OHSAS18001
情報安全
ISMS
環境
ISO 14001
べての業務の質の改善活動を行うことをめざしている。
図 4 TQM と ISO マネジメント規格の関係
図 4 は,本誌では何度も提示してきたものであるが,
品質マネジメントシステムは,TQM の中では機能別管
理(部門横断的管理)の 1 つとして考えることができる
一方,日本の TQM で培われてきた考え方や手法が次
というものである。実際,最近デミング賞を受賞してい
回の ISO 9000 ファミリー規格の改定に採用されるべく,
る企業のほとんどが,ISO 9001,ISO 14001,OHSAS
次のような JIS や TR が発行されている。ISO 9001 の審
18001 などの個別のマネジメントシステムの認証取得済
査登録制度にかかわる方々はぜひ入手され,企業のパフ
みの企業である。TQM の一環として,そのほかのマネ
ォーマンスの向上に役立てられることをお薦めする。
ジメントシステムとならんで,品質マネジメントシステ
・ TR Q 0005 クォリティマネジメント−持続的な成長
ムの構築を行うべきであろう。
昨今の個別的なマネジメントシステムの第三者認証制
度増加は,とくに中小企業にとっては登録維持費用の増
大で負担が大きくなっており,制度維持にともなう社会
的コストの増大を招いているようである。1 つの TQM
モデルによる第三者認証制度を構築する時期にきている
ように思われる。
の指針
・ TR Q 0006 クォリティマネジメント−自己評価の指
針
・ JIS Q 9023 マネジメントシステムのパフォーマンス
改善−方針によるマネジメントの指針
・ JIS Q 9024 マネジメントシステムのパフォーマンス
改善−継続的改善の手順及び技法の手順
・ JIS Q 9025 マネジメントシステムのパフォーマンス
表 2 ISO による TQM の定義(ISO 8402:1994)
3.7 「総合的品質マネジメント:一つの組織の,全ての構成員の参加
に基づく,顧客満足を通じての長期的な(事業の)成功,及び,組
織の構成員及び社会への利益をもたらすことをねらった,品質を中
核とする経営管理のアプローチである。
備 考
1.「すべての構成員」とは,組織構造のすべての部門およびすべての
階層の職員を意味する。
2.このアプローチの成功のためには,トップ・マネジメントの強力
で根気強いリーダーシップと組織の全ての職員の教育訓練が不可欠
である。
3.総合的品質マネジメントにおいては,品質の概念は全ての経営目
標の達成に関連して用いられる。
4.「社会への利益」とは,「社会の要求事項」の達成を意味する。
5.総合的品質マネジメント又はその一部は,場合により,
「総合品質」
「CWQC」(全社的品質管理),TQC(総合的品質管理)などと呼ばれ
る。」
66
改善−品質機能展開の指針
4.最後に
本年の連載にご尽力をいただきました執筆者の方々,
IPC のメンバーの皆様方に,この場を借りて,お礼を申
しあげる。
来年は,ISO 14001 について同様な視点での連載を予
定しているので,ご期待いただきたい。
(Katsutoshi AYANO)
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