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実験結果

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実験結果
DNA マイクロアレイを用いた遺伝子発現の解析
講習者 11 名を 3 グループに分けて実習を行った.以下にその結果をまとめる.
§1.全 RNA の抽出結果
シロイヌナズナ(17 日)の個体 100mg から抽出した全 RNA 量とスペクトル
(実験書ステップ 23)
を表1と図1に示す.精製した全 RNA 量は班ごとに異なるが,どのグループもタンパク質や
多糖類の混入による純度の低下は認められなかった.
表 1.精製した全 RNA の情報
全 RNA 抽出量と純度
濃度 ng/ul
Group 1
Group 2
Group 3
総 RNA 量 µg
260/280
260/230
Control
519.18
18.17
2.00
2.33
Stress
509.34
17.83
2.03
2.33
Control
338.71
11.85
2.06
2.36
Stress
475.53
16.64
2.06
2.32
Control
632.09
22.12
2.03
2.47
1067.62
37.37
2.07
2.44
Stress
図1.精製した全 RNA のスペクトル
§2.cDNA ラベル反応の結果
精製した全RNAの一部(使用RNA量)を用いてラベリング反応を行った結果(実験書ステ
ップ42)を表2と図2に示す.Cyanine 3(Cy3)とCyanine 5(Cy5)のラベル量は,測定値
にノイズが大きく正確な値ではない.本実験に使用するマイクロアレイでは,Cy3とCy5ラベ
ル量の数値が5∼15 pmolあれば解析できる.Group 3のCy5量はこの基準値よりやや低い.
表2.ハイブリダイゼーションに使用するラベル cDNA の情報
ハイブリダイゼーション用のcDNA ラベル量
Group 1
Group 2
Group 3
使用 RNA 量 µg
Cy3 (pmol)
Cy5 (pmol)
Control
12
10.8
ー
Stress
12
ー
7.7
Control
10
10.3
ー
Stress
10
ー
5.7
Control
15
6.0
ー
Stress
15
ー
4.3
Absorbance
0.06
group 1
group 2
group 3
0.04
0.02
0
450
500
550
600
Wavelength
650
700
図2.ハイブリダイゼーションに使用するラベル cDNA のスペクトル
§3.マイクロアレイのシグナル測定結果
マイクロアレイスライドのハイブリダイゼーションは,約15時間行った.タイフーンで測定した画像と
蛍光強度をもとにしたプロットをPlate 1と2に示す.
1.アレイ画像の比較(Plate 1)
Cyanine 3と 5 の蛍光ラベルでは,Cyanine 3 の測定波長(532nm)がCyanine 5(633nm)に比べてノ
イズをひろいやすい.Group 1と3はともにCyanine 3ラベルのコントロール画像においてバックグラウン
ドのシグナルが多少高くなっている.Group 2ではハイブリダイゼーション時にラベル液が部分的に蒸発
して色素の吸着が起こり,スライドグラス端側のバックグラウンドが高い.また,ストレスサンプルで
はCyanine 5の吸着により全体のバックグラウンドが高くなっている.Group 3 はコントロールとストレ
スともにシグナルが低い.このグループではラベルに用いた全RNA量に対して色素の取り込みが悪く
(表2),抽出時にmRNAが劣化してラベル効率の低下が起こったと推定される.
2.蛍光強度の比較(Plate 2)
データの蛍光強度はLog10値に変換して解析を行った.各スポットの蛍光強度は図3に示す2 箇所での
測定値を平均したものである.Plate2は蛍光強度の平均値をもとにしたScatter PlotとMA Plotの図を示す.
コントロールあるいはストレス条件のみで発現する遺伝子を探索するため,蛍光強度が検出されない“0”
はLog値を5として処理している.これらは,Scatter Plot 図ではXとY軸上の点,MA Plot 図では上下の
斜め線上に並んだ点である.Cy3とCy5のラベル効率が等しい場合,コントロールとストレス条件の両方
で常時発現する遺伝子は対角線上に並ぶ.図の破線は蛍光強度比(生データ)が2倍あるいは1/2倍にな
るラインを示し,両者の外側に位置する点では発現量が変化したと見なす.また,プローブを入れてい
ないコントロールスポット(プローブBufferのみとBufferなし)の蛍光強度より,Log値が6.5以下の点は
シグナルの有無は判定できない.また,Log値は8.5以上で蛍光強度は飽和している.
図3.マイクロアレイのプローブスポット位置と種類
蛍光強度の測定値をもとにしたScatter Plot(Plate2 左図)における,●で示す基準タンパク質の蛍
光強度をもとにラベル量の偏りを調べた.なお,基準タンパク質は温度(加温)ストレスによる発現量
の変化がなく,恒常的に発現していることを予備実験により確認した以下の6種類である:12 catalase 2,
14 CAB(光合成関連タンパク質),42 RbcS (Rubisco Small subunit),58 ROC1(サイクロフィリン),
59 UBQ10(ユビキチン),67 LHCa-3(光化学系Iのクロロフィルa/bアンテナタンパク質),68 Lhcb1.3
(光化学系IIのクロロフィルa/bアンテナタンパク質).MA plot(Plate2 左図)はこの基準タンパク質の
シグナルをもとに補正したものである.
Group 1では基準タンパク質におけるCy5/Cy3比は1.03で,コントロールとストレスサンプルにおける
ラベル効率の偏りやバックグラウンドの影響はほとんどない.MA plot 図より,ストレス条件において
多く熱ショックタンパク質(●)の発現量の増加が顕著である.Group 2ではCy5/Cy3の比は0.76である.
Cy5のバックグラウンドが大きいため,スポット間の発現量の差異が区別しにくい.Group 3ではCy5/
Cy3比は0.87であった.ラベル効率の低下により,全体にシ
グナルが低いため,ストレスによる発現量の変化が明確では
ない.
3.温度ストレス
Group 1 のアレイのシグナルをもとに,アレイスポット濃
度依存性(図 4)とストレスにより発現が変化した主な遺伝
子のリストを表 3 に示す.
アレイにスポットしたルビスコ大サブユニット(RbcL),小
サブユニット(RbcS),葉緑体局在性の低分子熱ショックタ
ンパク質(Chloroplast small hsp 1 2)のプローブ量と蛍光
強度はほぼ比例関係であった.
表3に示す発現が変化した主な遺伝子の大半はストレス
条件で発現量が増加するものであった.コントロールでは全
図4.プローブ濃度とシグナル量
く発現していないが,ストレス条件では強く発現する遺伝子
が8種類あった.この中には,シロイヌナズナ由来のプローブに加えて2つは動物由来のプローブであ
る.FASTA検索より2種類のプローブ配列はイネcDNAライブラリー “leucine rich repeat receptor-like
kinase”と“receptor-like kinase extracellular domain”と相同性(類似度82%)があった.
表3.シロイヌナズナ温度ストレス(37℃,2時間)により,発現量が変化したプローブリスト
*:コントロールでは発現が認められないが,ストレスで発現量が多い
蛍光強度比
Stress/control
Control
Log10(Cy3
intensity)
Stress
Log10(Cy5
intensity)
*
-
8.74
32 細胞質局在性 sHSPーC2
Arabidopsis
*
-
8.72
38 ミトコンドリア局在性 sHSP-mt
Arabidopsis
*
-
8.58
33 細胞質局在性 sHSPーC3
Arabidopsis
*
-
8.01
208 estrogen receptor 2
pig,mouse
*
-
7.51
16 UBI (ユビキチン)
soybean
*
-
7.48
34 葉緑体局在性 sHSPーcp1,2
Arabidopsis
*
-
7.47
190 AMH (anti-Mullerian hormone)
mouse
*
-
7.26
106 Galactinol synthase 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
26
6.38
8.89
31 細胞質局在性 sHSPーC1
Arabidopsis
26
6.17
8.67
40 小胞体局在性 sHSP-er
Arabidopsis
21
6.71
8.80
25 細胞質/核局在性 HSP 90
Arabidopsis
20
6.51
8.43
39 ミトコンドリア局在性 sHSP-mt
Arabidopsis
19
6.68
8.55
24 葉緑体局在性 HSP 70B
Arabidopsis
18
6.95
8.74
20 細胞質局在性 HSP 70
Arabidopsis
18
7.25
8.97
17 細胞質局在性 HSP 100
Arabidopsis
16
6.78
8.37
22 ミトコンドリア局在性 HSP 70
Arabidopsis
16
6.11
7.67
98 DREB2A-specific (転写因子)浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
16
6.27
7.77
29 myb family transcription factor 転写因子
Arabidopsis
14
6.32
7.60
154 Col1(Coronatine insensitive 1)
Arabidopsis
12
6.61
7.72
250 Chk2 (Cell cycle checkpoint kinase)
human
12
6.02
7.09
2
peroxidase, putative Cell rescue
Arabidopsis
11
7.47
8.55
35 葉緑体局在性 sHSPーcp1,2
Arabidopsis
11
6.67
7.70
90 OPR3 (12-oxo-phytodienoate reductase) ジャスモン酸合成
Arabidopsis
11
6.99
8.01
134 Unknown protein(At5g17460)浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
10
6.88
7.86
30 葉緑体局在性 Cpn 60ーβ
Arabidopsis
10
7.26
8.23
156 Glutathione transferase (ATGSTF8 )
Arabidopsis
9
6.99
7.89
21 小胞体局在性 HSP 70
Arabidopsis
9
6.35
7.27
4
Arabidopsis
8
7.64
8.50
61 18s rRNA
Arabidopsis
8
6.80
7.66
97 DREB2-conserved(転写因子)浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
8
6.76
7.61
27 葉緑体/ミトコンドリア局在性 Hsp 90
Arabidopsis
8
6.76
7.60
142 Src2 (Src family, Tyrosine kinases)
Xenopus
8
6.57
7.42
89 DAD1(phospholipase A1) ジャスモン酸合成
Arabidopsis
スポッ
ト
番号
遺 伝 子 名
P450 (AT3G26830.1)
生物種
蛍光強度比
Stress/control
Control
Log10(Cy3
intensity)
Stress
Log10(Cy5
intensity)
7
7.42
8.25
114 Dehydrin (LEA protein) 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
7
7.15
7.96
23 葉緑体局在性 HSP 70A
Arabidopsis
7
6.68
7.50
93 DREB1-conserved 転写因子 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
7
6.41
7.20
9
soybean
6
6.62
7.38
63 At-TUB4 (Tubulin)
Arabidopsis
5
7.63
8.35
115 Dehydrin (LEA protein) 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
5
7.61
8.30
138 peroxiredoxin 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
5
7.53
8.22
79 GDCH (グリシン脱炭酸酵素) 光呼吸
Arabidopsis
5
6.57
7.23
78 ATPA1(ATPase α subunit 1)
Arabidopsis
4
7.48
8.06
60 ABI(ABA induced protein phosphatase 2C) ABA応答性転写因子
Arabidopsis
4
7.33
7.96
49 PIP 1,2(Plasma membrane intrinsic protein) 乾燥・塩ストレス
Arabidopsis
4
7.25
7.82
256 SPHK1 (sphingosine kinase)
human
4
6.97
7.60
95 DREB1B-specific 転写因子 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
4
6.93
7.54
29 葉緑体局在性 Cpn 60ーα
Arabidopsis
4
6.91
7.53
133 Farnesylated protein 浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
4
6.78
7.36
85 SUS1(Sucrose synthase) 低温耐性
Arabidopsis
4
6.71
7.28
126 JNK1(MAPK )
human
4
6.60
7.20
218 GAPDH (Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
cattle
4
6.63
7.17
81 VPE (vacuolar processing enzyme)
Arabidopsis
1/2
7.91
7.57
52 SAMDC(S-adenosylmethionine decarboxylase)ポリアミン合成
Arabidopsis
1/2
7.92
7.53
139 enolase (2-phospho-D-glycerate hydroylase) 浸透ストレス全般で発現 Arabidopsis
1/2
7.84
7.45
76 GDH(glutamate dehydrogenase)
Arabidopsis
1/2
7.63
7.24
129 Unknown protein (At2g33830)浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
1/2
7.26
6.88
153 P450(73A5)
Arabidopsis
1/2
7.13
6.66
1/2
7.13
6.65
166 arginine decarboxylase 2(ADC2)
Arabidopsis
1/4
7.80
7.15
126 Unknown protein (At1g54410)浸透ストレス全般で発現
Arabidopsis
1/4
7.18
6.53
155 ATTI1(trypsin inbitor protein)
Arabidopsis
1/5
7.69
6.94
81 AtiNOS(NO合成酵素)
Arabidopsis
1/10
7.65
6.56
24 nitrilase 2 環境応答
Arabidopsis
スポッ
ト
番号
6
遺 伝 子 名
F3H (Flavanone 3-hydroxylase) フラボノイド合成系
P450(AT3G26290.1)
生物種
Arabidopsis
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