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凶悪重大事件の量刑についての一考察
凶悪重大事件の量刑についての一考察 「犯時少年による光市母子殺害事件に対する広島高等裁判所の 死刑判決 (平成年4月日破棄差戻審判決)」 等 平成年6月日 中京大学法科大学院客員教授 弁護士 第一 一 刑法犯の動向 刑法犯の認知、 検挙 平成年 1 統計 犯罪白書から 認知件数 件 ( 件減) うち一般刑法犯 件 ( 件減) 刑法犯 うち窃盗を除く一般刑法犯 2 件 ( 件減) 件 ( 件減) 件 ( 件減) 検挙件数 刑法犯 うち一般刑法犯 うち窃盗を除く一般刑法犯 件 3 ( 件増) 検挙人員 刑法犯 うち一般刑法犯 人 ( 人減) 人 ( 人減) うち窃盗を除く一般刑法犯 人 二 ( 人増) 凶悪・重大犯罪の認知、 検挙 認知件数 検挙件数 検挙人員 検挙率 殺人 % 強盗 % 強姦 % 放火 % 土 肥 孝 治 三 裁判員制度対象事件 1 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 () 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮 (こ) に当たる罪に係る事件 殺人 (刑条)、 強盗致死傷 (刑条)、 強盗強姦及び同致死 (刑条)、 強制わいせつ等致死傷 例 (刑条)、 現住建造物等放火 (刑条)、 通貨偽造及び行使等 (刑条)、 身の代金目的略取等 (刑 条の2)、 覚せい剤取締法違反 (覚条)、 銃砲刀剣類所持等取締法違反 (銃条の2)、 麻薬特例法 (麻5条)、 麻薬及び向精神薬取締法違反 (麻向条) () 裁判所法第条第2項第2号に掲げる事件であって、 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に 係るもの (前号に該当するものを除く。) (死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪 (刑法第条、 第条又は第 条の罪及びその未遂罪、 暴力行為等処罰に関する法律 (大正年法律第号) 第1条ノ2第1項 若しくは第2項又は第1条ノ3の罪並びに盗犯等の防止及び処分に関する法律 (昭和5年法律第9号) 第2条又は第3条の罪を除く。) に係る事件 例 2 傷害致死 (刑条) 危険運転致死 (刑条の2)、 保護責任者遺棄致死 (刑条) 裁判員制度の対象となる事件の数 平成年 裁判員制度対象事件数 件 平成年 裁判員制度対象事件数 件 (全国の地方裁判所における刑事通常事件 (第1審) の事件数の %) 平成年 裁判員制度対象事件数 件 (全国の地方裁判所における刑事通常事件 (第1審) の事件数の %) 平成年 平成年 平成年 平成年 総数 強盗致傷 殺人 現住建造物等放火 強姦致死傷 傷害致死 強制わいせつ致死傷 強盗強姦 覚せい剤取締法違反 強盗致死 (強盗殺人) 危険運転致死 偽造通貨行使 銃砲刀剣類所持等取締法違反 通貨偽造 罪 名 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反 集団強姦致死傷 保護責任者遺棄致死 麻薬特例法 (略称) 違反 麻薬及び向精神薬取締法違反 逮捕監禁致死 その他 第二 一 刑罰論 刑罰の目的 最近の実務家による研究の中では、 「判例タイムズ№」 に登載された 「量刑に関する諸問題 実務研究会 第1 量刑に関する総論的検討 事、 京都大学法科大学院特別教授 1 量刑判断過程の総論的検討 第1回 大阪刑事 大阪地方裁判所判 遠藤邦彦」 が、 良く纏まっており、 理解しやすい文献である。 その中で、 幾つかの注目すべき指摘がある。 1 量刑実務が直面する問題点 この論文では、 「従来の専門的な量刑判断は、 大局的な安定した、 公平感のある量刑判断として受け入れら れてきた。」 としつつ、 近年そのような評価を覆しかねない 「外在的要因が存在するに至った。」 と言い、 一つ に、 「犯罪による被害者又はその遺族の保護・救済が広く求められるようになり、 また、 悪質犯罪が増加した ことにより従来よりも厳しい処罰を求める声が強まってきたこと」 を挙げ、 二つ目に 「裁判員制度の導入」 を 挙げる。 後者では、 裁判官と市民から選ばれた裁判員が量刑判断に加わることとなれば、 これまで裁判官同士 で分かり切ったことや分かり合えたことでも、 きちんと裁判員に説明すべき責任が生じるというべきであると いう問題と、 「従来、 量刑判断において必ずしも踏み込んだ理論的な面での検討がなされずにきた諸問題につ いてもきちんとした考え方を裁判員に示して説明する必要がある」 という問題を挙げている。 2 実務経験者の論考 この論文では、 量刑問題を刑罰の目的等から種々洞察しているが、 とりわけ、 実務経験者の意見を取り纏め ているのが、 私共実務家の参考になる。 その部分をここに引用させていただく。 「このような実務経験者の論考からは、 実務においても、 基本的には、 応報原理に基づく責任相応刑の範囲 の中で、 一般予防や特別予防の観点から刑量を調整し具体的量刑に至っており、 量刑実務も相対的応報刑論の 考え方で行われていると一応いえそうである。 ただ、 この点については、 実務は、 責任か予防かという量刑事 情の法的性格ではなく、 事件類型に応じて類型的に重要となる量刑因子を考え、 それらの量刑因子を中心に判 断しており、 現に、 同種前科や被害弁償といった必ずしも責任刑とは直結しにくい量刑事情が重要な役割を果 たす犯罪類型もあるのだから、 量刑実務が相対的応報刑論の考え方に沿って行われているとはいえないのでは ないかとの反論も考えられよう。 確かに、 量刑実務が、 責任刑的事情や予防的事情といった量刑事情の法的性 格をどの程度意識して量刑しているのかについては不透明なところがあるし、 同種前科や被害弁償といった量 刑事情が大きく量刑に影響することがあることも事実である。 しかしながら、 量刑実務の感覚としては、 犯罪 を犯したことに対して責任をとってもらうということが刑罰の基本にあり、 人間の長い歴史のなかで育まれ てきた罪と罰の観念は平均的な国民の道徳的確認確信となっており、 過去の犯罪行為に対する応報としての犯 人に苦痛 (刑罰) を加えるという悪行に対する悪反動という考え方は、 現在の文明化された社会においても歴 然として存在しており、 これがなければ社会秩序の維持は不可能であるといっても過言ではない との指摘 (大谷実) は、 極めて正当な指摘であると思える。 また、 量刑判断の思考パターンとして、 犯罪事実を中心と した狭義の犯情事実を中心にまず考え、 次いで予防的考慮に関する事情が多い一般情状を検討して最終的量刑 判断に至るという思考パターンが安定的な量刑判断をもたらすという意味で、 量刑実務においても、 原則的な 量刑判断の思考パターンとして受け止められているのではないだろうか。」 この問題は、 死刑を選択するような重大犯罪に対する量刑判断で顕著に表れる。 二 1 刑の量定 一般論 刑の量定について何等規定のない現行法の下では、 それに代わるものとして、 刑事訴訟法第条 (起訴便 宜主義) が考慮の対象となっている。 一般予防及び特別予防のいずれか一方に偏したものではなく、 刑事裁判において刑の適用にあたり考慮せら れるべき事情 (最判昭和,5,4刑集4,5,, 改正刑法草案条参照) と同様に、 犯人の責任を基礎とし つつ、 犯罪の抑制及び犯人の改善更生の両者を念頭に置いて総合的に評価しなければならないものと考える。 それは、 犯人 (被疑者) 自身に関する事項、 犯罪自体に関する事項及び犯罪後の情況に関する事項の三者に大 別される (注釈 刑事訴訟法 第2巻・著者代表 青柳文雄ほか)。 (注) 最高裁昭和,5,4①判決 「刑の量定については、 事実審裁判所において、 犯人の性格、 年令及び境 遇並びに犯罪の情状及び犯罪後の情況を考察し、 特に犯人の経歴、 習慣その他の事項をも参酌して適当に決 定するところに委かされている。」 2 死刑選択で示された最高裁の判断 () 永山判決及びこの判決が与えた影響 ア 永山判決 最高裁昭和,7,8第2小法廷判決、 刑集,6, 犯行の罪質、 動機、 態様、 殊に殺害の手段方法の執拗性、 残虐性、 結果の重大性、 殊に殺害された被害者の 数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢前科、 犯行後の情状等各般の情状を併せ考慮したとき、 その罪 責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも、 一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場 合には死刑の選択も許されるところである。 この事件は、 犯行当時 歳余の少年永山が窃取したけん銃を使用して、 東京、 京都、 函館、 名古屋の各地で 警備員、 タクシー運転手ら4人を連続して殺害し、 最後に東京で殺人未遂を犯した強盗殺人等被告事件である。 「連続射殺魔」 として世間を震駭させた。 1審東京地裁昭和年7月日判決は、 被告人を死刑に処したが、 控訴審東京高裁昭和年8月日は、 死刑の選択は慎重に行われなければならないとして限定的な運用基準を 示したうえ、 被告人の年齢と不遇な生育歴、 1審判決後の獄中結婚、 被害の一部弁償等の被告人に有利な情状 を指摘して量刑不当を理由に1審判決を破棄し、 被告人を無期懲役に処した。 そこで、 検察官が上告した。 最 高裁は、 「先の犯行の発覚を恐れ、 あるいは金品を強取するため、 残虐、 執拗あるいは冷酷な方法で、 次々に 4人を射殺し、 遺族の被害感情も深刻であるなどの不利な情状のある場合においては、 犯行時の年齢 ( 歳余)、 不遇な生育歴、 犯行後の獄中結婚、 被害の一部弁償等の有利な情状を考慮しても、 第1審の死刑判決を破棄し て被告人を無期懲役に処した原判決は、 甚しく刑の量定を誤ったものとして破棄を免れない。」 として、 控訴 審を破棄して差し戻した。 この事件は、 差戻控訴審 東京高裁昭和年3月日判決、 控訴棄却 (被告人上告) 差戻上告審 最高裁平成2年4月日第3小法廷判決 上告棄却 により死刑を言い渡した1審判決が確定した。 イ 永山判決の影響 いわゆる永山判決 「最高裁昭和,7,8第2小法廷判決」 は、 死刑の量刑基準を示したものとして、 後々ま で高く評価された。 ところが、 ここに一つの問題があった。 判決の中で、 「殊に殺害された被害者の数」 と摘示されたことから、 後々の裁判で、 強盗殺人 ・ 殺人等事件 (以下、 殺人等事件と言う。) において、 被害者の数が死刑適用の大きな 基準として取り上げられるようになり、 被害者の数が1人の殺人等事件では、 死刑の選択が回避されるように なったことである。 高・地裁の判決文の中でも、 犯行の態様等は残虐極まりないが、 被害者が1人であるので、 死刑選択を避けると明示するものまで現れた。 統計数字が示すように、 第1審における死刑言い渡し人員は、 平成8年 1名 平成9年 3名 と激減した。 従来我が国で行われてきた量刑の基準からみて、 当然死刑を選択すべき事件であるのに、 被害者が1人とい う視点からのみ見て、 死刑を回避していたのでは、 被害者家族の被害感情は癒されず、 強烈な怒り、 恨みとし て残るし、 国民の司法への信頼は失しなわれていくという意見が、 検察内部で大勢を占めるようになった。 ウ 永山判決に示された死刑基準の分析 (ア) 犯行の罪質 社会的影響 本件犯行は、 わずか1か月足らずの期間のうちに、 東京、 京都、 函館、 名古屋の各地で何ら落度のない 社会人を4人までもけん銃で射殺し、 かけがえのない生命を次々に奪って、 その遺族らを悲嘆の淵におと しいれたうえ、 その約半年後に更に東京で警備員を狙撃し、 殺人は未遂に終わったという全国的にも 「連 続射殺魔」 事件として大きな社会不安を招いた事件であって、 犯行の罪質、 結果、 社会的影響は極めて重 大である。 (イ) 動機 犯行の発覚を恐れ、 あるいは金品強取を企てたもので、 極めて安易に犯行に出ている。 特に京都事件 の犯行後は自首を勧める実兄の言葉に耳をかさず、 函館に渡って更に重大な犯行を実行するに至ったも ので、 同情すべき点がない。 (ウ) 態様 殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性 殺害の手段方法についていえば、 兇器として米軍基地から窃取して来たけん銃を使用し、 被害者の頭 部、 顔面等を至近距離から数回にわたって狙撃しており、 極めて残虐というほかなく、 特に名古屋事件 の被害者伊藤正昭に対しては、 「待って、 待って」 と命乞いするのをきき入れず殺害したもので執拗か つ冷酷極まりない。 (エ) 結果の重大性 殊に殺害された被害者の数 (オ) 遺族の被害感情 遺族らの被害感情の深刻さもとりわけ深いものがあり、 右伊藤正昭の両親は、 被告人からの被害弁償 を受け取らないのが息子に対するせめてもの供養であると述べてその悲痛な心情を吐露し、 また、 東京 事件の被害者中村公紀の母も被告人からの被害弁償を固く拒み、 どのような理由があってもなお被告人 を許す気持はないとまで述べており、 遺族らの心情は痛ましいの一語に尽きる。 (カ) 犯人の年齢、 前科 (キ) 犯行後の情状 被告人にとって有利な情状としては、 被告人が犯行時少年であったこと、 その家庭環境が極めて不遇 で生育歴に同情すべき点が多々あること、 被告人が第1審判決後結婚して伴侶を得たこと、 遺族の一部 に被害弁償をしたことなどの事情が考慮されるべきであろう。 ★ 犯行時少年の問題は、 第三 死刑判決を巡る諸問題のところで述べる。 各般の情状を併せ考慮したとき、 その罪責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも、 一般予防の見地 からも極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑の選択も許される。 () 永山判決後の凶悪・重大事件判決―刑の量定を不当とする上訴 ★ 刑事訴訟法第条、 第条の条文 上告 上告理由 第条 高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、 左の事由があることを理由として上告の申 立をすることができる。 一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。 二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。 三 最高裁判所の判例がない場合に、 大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行 後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。 上告理由がある場合の原判決破棄の判決 第条 上告裁判所は、 第条各号に規定する事由があるときは、 判決で原判決を破棄しなければならな い。 但し、 判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合は、 この限りでない。 ② 第条第2号又は第3号に規定する事由のみがある場合において、 上告裁判所がその判例を変更して原 判決を維持するのを相当とするときは、 前項の規定は、 これを適用しない。 上告理由のない場合の原判決破棄の判決 第条 上告裁判所は、 第条各号に規定する事由がない場合であっても、 左の事由があって原判決を破 棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、 判決で原判決を破棄することができる。 一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。 二 刑の量定が甚しく不当であること。 三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。 四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。 五 判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと。 ア 死刑判決を求めて、 検察官が上告した事例 検察官が、 平成9年から年にかけ、 2審の無期懲役の判断を不服として上告した事件が5件ある。 残念な がら、 結果は、 2審の判断を破棄して高裁へ差し戻したのが1件 (高裁は死刑判決) で、 他の4件は上告棄却 となった (注1)。 しかし、 この5件で最高裁が示した判断は、 死刑の基準について、 最高裁昭和年7月8 日判決のいわゆる永山判決に沿うものではあったが、 犯行の態様、 残虐性等客観的評価要素を重視するのか、 被告人の謝罪・反省等主観的評価要素を重視するのかという問題、 また被害者の数が1人では死刑が認められ ないのかという問題等について、 示唆に富む判断が示された。 (注1) 上告の5件の訴訟経過は、 次の通りである。 1 広島県福山市独居老婦人殺害事件 (有印私文書偽造、 同行使、 詐欺、 強盗殺人被告事件) 広島地裁平成6,9,判決 1審 A 判例タイムズ№ 無期懲役 (求刑死刑・検察官控訴) B 2審 広島高裁平成9,2,4判決 上告審 控訴棄却 (Aにつき、 検察官上告) 最高裁平成,,①判決 差戻控訴審 判例タイムズ№ 破棄差戻 広島高裁平成,4,判決 最高裁平成,4,③判決 上告審 無期懲役 (求刑無期懲役) 破棄自判 (死刑) 高等裁判所刑事裁判速報集 (平) 号頁 上告棄却 4,判決訂正申立棄却・確定 2 国立市主婦殺害事件 (強盗強姦、 強盗殺人、 窃盗被告事件) 下記本文に記す。 3 同棲中の女性の両親を殺害した事件 (強盗殺人、 死体遺棄、 有印私文書偽造、 同行使、 詐欺被告事件) 札幌地裁平成7,3,判決 1審 A男 無期懲役 (求刑死刑・検察官控訴、 被告人控訴) B女 無期懲役 (求刑無期懲役・被告人控訴・控訴取下・確定) 札幌高裁平成9,3,判決 2審 最高裁平成,,①決定 上告審 4 控訴棄却 判例タイムズ№ 上告棄却 銀行員殺害事件 (強盗殺人、 死体遺棄、 恐喝未遂被告事件) 1審 大阪地裁堺支部 平成8,,9判決 無期懲役 (求刑死刑・検察官&被告人控訴) 大阪高裁平成,1,判決 2審 最高裁平成,,①決定 上告審 5 いずれも控訴棄却 (検察官&被告人上告) 判例タイムズ№ 各上告棄却 両親殺害事件 (強盗殺人、 死体遺棄、 有印私文書偽造、 同行使、 詐欺被告事件) 岡山地方裁判所平成8,4,判決 1審 判例時報№ 無期懲役 (求刑死刑・検察官控訴) 広島高裁岡山支部平成9,,判決 2審 上告審 イ 最高裁平成,,③決定 控訴棄却 (検察官上告) 判例時報№ 上告棄却 判例タイムズ№ このうち、 2件を取り上げ詳論する。 (ア) 広島県福山市独居老婦人殺害事件 (有印私文書偽造、 同行使、 詐欺、 強盗殺人被告事件) 広島地裁平成6,9,判決 1審 A 判例タイムズ№ 無期懲役 (求刑死刑・検察官控訴) B 2審 広島高裁平成9,2,4判決 控訴棄却 (Aにつき、 検察官上告) 最高裁平成,,①判決 上告審 差戻控訴審 破棄差戻 広島高裁平成,4,判決 最高裁平成,4,③判決 上告審 無期懲役 (求刑無期懲役) 判例タイムズ№ 破棄自判 (死刑) 高等裁判所刑事裁判速報集 (平) 号頁 上告棄却 4,判決訂正申立棄却・確定 a. 広島地裁平成6,9,判決 (A無期懲役、 B無期懲役) (a) 事案の概要 被告人AはB名と共謀、 平成4,3,, 当時歳の女性を山中で絞殺、 預金通帳等を強奪 (強盗殺人)、 単 独又は他の1名と共謀、 銀行等から合計万円余を騙取 (私文書偽造、 同行使、 詐欺)。 本件の特異点 かつて強盗殺人を犯し無期懲役に処せられた者が仮釈放期間中に類似の強盗殺人を犯した事件について、 再 度無期懲役が言い渡された事例。 (b) 1審判決の量刑理由の要旨 Aを対象 犯行の罪質、 態様ともいずれも凶悪で、 その動機に酌量の余地はなく、 結果も悲惨、 被告人両名の刑責が非 常に重大。 犯行の動機 被告人Aのサラ金に対する多額の債務の原因は、 同被告人身勝手な理由による雇傭先の解雇あるいは退職、 その後の無計画な生活態度及びパチンコに熱中したことにある。 そのようなサラ金への返済金等を得るために 本件のような凶悪な犯罪を敢行。 動機については全く酌量の余地はない。 犯行の計画性 絞殺に用いるためのビニール紐等を用意した上で被害者方に赴き、 被害者に対して金員の貸与を申し出て、 現金所持の有無を確認した上、 被害者を誘い出して殺害するなど、 犯行に至る経緯も計画的かつ悪質。 犯行態様 足が悪く、 高齢の女性・被害者の後頭部をいきなり石塊で強打、 失神させ、 ビニール紐を頸部に巻き付け2 人でこれを引き合って殺害し、 被害者の遺体を隠匿するため、 被告人Aにおいて崖下に引きずり下ろす。 更に 当初の予定どおり被害者宅に押し入って金品を物色するという、 冷酷なもの。 被害者の遺体は、 人知れぬ山中 でその後1年余、 野ざらしとなっていた。 その結果 被害者 悲惨というほかない。 何の落ち度もない。 被害者遺族の感情 犯行後の情状 次男は死刑を望み、 実弟は死刑か無期懲役をのぞむ。 被害者方から強取した預貯金通帳を用い、 第三者をも利用して、 これを引き下ろしている。 本件強盗殺人を犯したことにおののいて自首しようとする被告人Bを押し止めている。 前科 被告人Aは、 かつて本件類似の強盗殺人を犯し、 無期懲役に処せられた者であり、 その仮出獄期間中 に、 本件強盗殺人を犯した。 被告人Aについて斟酌すべき情状 本件強盗殺人は計画的というべきではあるが、 被害者の状況を窺いつつ逐次犯行を決断し、 犯行場所も場当 たり的に探すなど、 その計画性は低い。 また、 同被告人の犯行後の情状は悪質ではあるが、 同被告人は、 預貯金の引き下ろしを端緒として私文書偽 造等の容疑で逮捕されるや、 速やかに本件強盗殺人についても罪責を認めて犯行を自供し、 自ら犯行現場に捜 査官を案内し、 これによって、 被害者の遺体が発見されており、 被害者の遺体が発見された際には、 悔悟して 涙を流し、 その後は一貫して自己の罪責の重大さを真剣に自覚し、 極刑に処せられることを覚悟し、 本件弁論 終結時にも、 死をもって罪をあがなうとの態度を示している。 同被告人に改善更生の余地がないとまではいい切れず、 かつ同被告人にはなお一片の人間性が残っているこ とを看取できる。 被告人Aの量刑を考える上で、 大きな意味を持つのは、 同被告人が前刑無期懲役の仮出獄中に再度本件を敢 行したことにある。 当裁判所も無期懲役に処せられた者でその仮出獄期間中に強盗殺人を犯した事例を検討し たところ、 過去年内に確定した事例で、 被告人A同様無期懲役刑の仮出獄期間中に強盗殺人を犯した者はす べて死刑に処せられている。 だが、 それらの事例を検討してみると、 いずれも犯情において極めて悪質であり、 それらの事例に比べれば、 被告人Aの情状は、 殺害の手段方法の執拗性、 残虐性、 あるいは前歴等の点におい て、 悪質さが低いといえる。 当裁判所は、 同被告人に対し、 極刑をもって臨むことに一抹の躊躇を覚える。 当裁判所は、 同被告人に対し、 再度無期懲役刑を科した場合、 どの程度現実に服役しなければならないかに ついて検討した。 本件犯行によって仮出獄が取り消され、 前刑たる無期懲役刑が再び執行されている状態にあるが、 再度の服 役期間は最低年以上を要するもの。 そして、 前刑の無期懲役刑の仮出獄の要件が整った後、 更に本件無期懲 役刑の執行が始まるわけで、 同被告人が本件無期懲役刑についても仮出獄の要件を充たすためには、 最低年 程度の服役を要するものというべきである。 そうすると、 同被告人に再度無期懲役刑を科した場合、 同被告人は、 最低でも年程度服役することが必定 である。 当裁判所は、 同被告人に対して再度無期懲役刑を科することによって、 最低限でもそれだけの長期間の服役 を余儀なくさせることが可能であれば、 これは、 同被告人の刑責を明らかにし、 十分な贖罪をさせるという刑 政の本旨にかんがみても、 過不足ないと思料するに至った。 仮出獄をいつ許すかの判断は、 更生保護委員会の権限に属する事柄ではあるけれども、 この判決で示した考 え方は、 十分尊重されると考えられるので、 当裁判所は、 そのことを前提として、 以上の量刑判断をした。 b 広島高等裁判所平成9,2,4判決 控訴棄却 以下の最高裁判所平成,,②判決に 「原判決の内容」 として記す。 最高裁判所平成,,②判決 c 破棄差戻 検察官の上告趣意は、 判例違反をいう点を含め、 実質は量刑不当の主張であって、 刑訴法条の上告理由 に当たらない。 しかしながら、 所論にかんがみ職権をもって調査すると、 原判決中被告人に関する部分は、 以下に述べる理 由により破棄を免れない。 一 本件は、 強盗殺人罪により無期懲役に処せられ、 その仮出獄中の被告人が犯した強盗殺人、 有印私文書 偽造、 同行使、 詐欺の事案である。 すなわち、 被告人は、 元職場の同僚であった原審相被告人Bと共謀の上、 顔見知りの内藤ヤスノ (当時歳) を殺害して金品を強取することを企て、 言葉巧みに同女を山中に連れ出し た上、 同女の後頭部を石で強打して失神させ、 用意していたビニールひもをその頸部に巻き付け緊縛して同女 を絞殺し、 預金通帳等を強取するとともに、 同女方に立ち戻って金品を物色し (第1審判決判示第1の強盗殺 人)、 さらに、 単独で又は知り合いの女性1名と共謀の上、 前後3回にわたり、 右預金通帳等を利用して銀行 等から現金合計万円余りを騙取するなどした (同判示第2の1ないし3の有印私文書偽造、 同行使、 詐欺) ものである。 二及び三が 「原判決の内容」 原判決は、 被告人に対する量刑について、 次のように判示している。 本件強盗殺人については、 その動機に 酌量の余地がなく、 殺害に至る経緯は計画的で悪質なものであり、 殺害の態様は残虐かつ冷酷非情であって、 その結果も悲惨というほかなく、 遺族である被害者の次男は被告人に対する極刑を求めており、 その社会的影 響も大きい。 被告人は、 強盗殺人罪により無期懲役に処せられ、 その仮出獄中に本件各犯行に及んだものであ り、 また、 本件強盗殺人の犯行において主導的役割を果たしており、 その犯行後に本件詐欺等の犯行にも及び、 その後も堕落した生活を続けていたことに照らすと、 その反社会性、 犯罪性は顕著である。 以上の諸点に徴す ると、 犯情はこの上なく悪質で、 被告人の刑事責任は誠に重大であり、 極刑をもって臨むべきであるとする検 察官の意見はそれ相応の理由があるが、 第1審判決が死刑を選択しない事由として説示するところは理由がな いものではないから、 被告人を無期懲役に処した同判決の量刑を是認することができる。 第1審判決が死刑を選択しない理由として説示する事由のうち、 原判決が検討し、 是認したものは、 次の3 点である。 第1に、 本件強盗殺人は、 計画的ではあるが、 被害者の状況をうかがいつつ逐次犯行を決断し、 犯 行場所も場当たり的に探すなど、 その計画性は低い。 第2に、 被告人は、 逮捕後速やかに犯行を自供し、 その 後も一貫して自己の罪責の重大さを自覚し、 極刑に処せられることを覚悟しており、 前刑の服役態度がまじめ で比較的早期の仮出獄が許されたことなども併せると、 改善更生の余地がないとはいい切れない。 第3に、 過 去年内に確定した事例で、 無期懲役に処せられ仮出獄中に強盗殺人を犯した者はすべて死刑に処せられてい るけれども、 それらの事例に比べると、 被告人の情状は、 殺害の手段方法の執よう性・残虐性、 前歴等の点に おいて悪質さの程度が低い。 四 死刑は、 究極のしゅん厳な刑であり、 慎重に適用すべきものであることは疑いがない。 しかし、 当審判 例 (最高裁昭和年 (あ) 第号同年7月8日第2小法廷判決・刑集巻6号頁) が示すように、 死 刑制度を存置する現行法制の下では、 犯行の罪質、 動機、 態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性、 結果 の重大性殊に殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢、 前科、 犯行後の情状等各般 の情状を併せ考察したとき、 その罪責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極 刑がやむを得ないと認められる場合には、 死刑の選択をするほかないものといわなければならない。 これを本 件についてみると、 前記のとおり、 本件強盗殺人は、 1人暮らしの老女を連れ出して山中で絞殺し、 その所有 する金品を強取した事案である。 犯行の罪質、 結果は極めて重大であり、 遺族の被害感情は厳しく、 社会に与 えた影響も無視することができない。 被告人が犯行に及んだ動機は、 パチンコに熱中し、 金融業者から借金を 重ね、 その返済に窮したためであって、 極めて安易に犯行の実行に至っており、 同情すべき点がない。 殺害の 手段方法は、 被害者の頭部を石で強打して失神させ、 その頸部にビニールひもを巻き付け、 両端を大の男が2 人掛かりで力一杯引っ張り合って緊縛したというものであり、 犯跡を隠ぺいするため遺体をがけ下に放り投げ るなどして放置した点も併せると、 冷酷かつ残虐であるといわざるを得ない。 共犯者Bとの関係では、 被告人 は、 本件強盗殺人の計画と実行の全般にわたり、 終始主導的役割を果たしており、 その後、 強取した預金通帳 等を利用して、 独自に本件詐欺等の犯行にも及んでいる。 また、 本件強盗殺人の犯行後、 Bが自首しようとす るのを思いとどまらせたり、 まじめに仕事もしないでパチンコに熱中する生活を続けたりするなど、 事後の情 状も芳しくない。 さらに、 被告人は、 強盗殺人罪により無期懲役に処せられて服役しながら、 その仮出獄中に 再び本件強盗殺人の犯行に及んだものであり、 この点は、 非常に悪質であるというほかない。 特に、 前件の強 盗殺人は、 被告人が、 オートレース等による借金の返済に窮した挙げ句、 親しく近所付き合いをしていた主婦 を包丁で脅して現金を奪った上、 顔見知りである同女を殺害して自己の犯行を隠ぺいし逃走しようと決意し、 犯行を敢行したものであり、 本件強盗殺人とは、 遊興による借金の返済のために顔見知りの女性の好意に付け 込み、 計画的に犯行を実行したという点において、 顕著な類似性が認められる。 それだけに、 前件の仮出獄中 に本件強盗殺人に及んだ被告人の反社会性、 犯罪性には、 到底軽視することができないものがあるというべき である。 以上の諸点を総合すると、 本件で殺害された被害者は1名であるが、 被告人の罪責は誠に重大であって、 特 に酌量すべき事情がない限り、 死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない。 五 これに対し、 原判決及びその是認する第1審判決は、 前記のような3つの酌量すべき事情があるという のである。 第1の計画性が低いという点については、 確かに、 被告人らは、 事前の相談の際に、 被害者を殺害する時期 や場所等について事細かく打合せるまでのことはしておらず、 また、 被害者方を訪れた後、 奪うべき金員があ るかどうかを確認してから殺害の実行に移ることを決めており、 さらに、 被害者を連れ出した後も、 殺害の実 行場所を探し回っていることが認められる。 しかしながら、 被告人らは、 事前の相談で被害者をひもで絞殺し て金品を奪うという基本的な事項を決定した上、 犯行に使用するビニールひもや軍手を購入し、 右ひもの強度 を増すため束ねて結び目を作るなどして、 準備を整えていたものである。 被害者方を訪れた後は、 被害者が現 金を持っているか否かを確認するために、 仮病を使って別室に入り預金通帳をのぞき見たり、 被害者に借金を 申し込んだりして探りを入れるなど、 臨機応変の巧妙な対応をしている。 さらに、 被害者を連れ出した後も、 長時間にわたり殺害の意思を翻すことなく適当な実行場所を探し続け、 犯行を完遂するに至ったものである。 このような事情に照らすと、 本件強盗殺人の計画性が低いと評価することは、 相当でない。 第2の被告人に改善更生の余地があるという点については、 確かに、 被告人は、 逮捕後の比較的早い段階か ら本件各犯行を全面的に自白し、 これを第1審及び原審の各公判廷でも維持するとともに、 極刑を覚悟してい る旨の供述もしている。 また、 前刑の服役態度はまじめであり、 仮出獄後も当初は健全な社会生活を営もうと 努力した形跡がうかがわれる。 しかしながら、 他方、 被告人は、 近親者の援助を受けるなどかなり恵まれた環 境で仮出獄後の生活を始めながら、 間もなくパチンコに熱中して借金を重ね、 その挙げ句本件強盗殺人に至っ たのである。 また、 被害者の遺族に対する慰謝の措置も何ら講じていない。 そうすると、 被告人が自白し反省 の情を示していることなどを大きく評価することは、 当を得ない。 第3の点、 すなわち、 無期懲役に処せられ仮出獄中に強盗殺人を犯した者につき死刑が選択された従前の事 例と対比して、 被告人の情状は悪質さの程度が低いという点については、 右のような事案で、 前記最高裁昭和 年7月8日判決以後に裁判が確定した事例においては、 いずれも死刑が選択されているところ、 これらの事 例、 殊に殺害された被害者が1名である事例と対比しても、 前記のとおりの被告人の情状は、 全体として、 死 刑の選択を避け得るほどに悪質さの程度が低いと評価することは到底できない。 以上によれば、 原判決及びその是認する第1審判決が酌量すべき事情として述べるところは、 いまだ被告人 につき死刑を選択しない事由として十分な理由があると認めることはできない。 六 そうすると、 原判決は、 量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果、 被告人を無期懲役に処し た第1審判決の量刑を是認したものであって、 その刑の量定は甚だしく不当であり、 これを破棄しなければ著 しく正義に反するものと認められる。 よって、 刑訴法条2号により原判決中被告人に関する部分を破棄し、 本件事案の重大性にかんがみ、 更 に酌量すべき事情の有無につき慎重な審理を尽くさせるため、 同法条本文により本件を原裁判所に差し戻 すこととし、 裁判官全員一致の意見で、 主文のとおり判決する。 広島高等裁判所平成,4,判決 d 破棄自判 死刑を存置する現行法制において、 犯行の罪質、 動機、 態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、 結果 の重大性ことに殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢、 前科、 犯行後の情状等各 般の情状を併せ考察したとき、 その罪責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも 極刑がやむを得ないと認められる場合には、 死刑の選択をするほかないものといわなければならない。 被告人の量刑について 本件強盗殺人の犯行の罪質、 結果は極めて重大であり、 遺族の被害感情は厳しく、 社会的影響も大きい。 被告人は、 パチンコに熱中し、 サラ金業者から借金を重ねて、 その返済に窮し、 返済資金を得るために極め て安易に犯行に及んでおり、 その動機に酌量すべき事情はない。 犯行の態様は、 計画的であり、 その程度が低 いとはいえないし、 殺害の手段方法は、 高齢の女性の背後からその頭部を石塊で強打して失神させ、 頸部にビ ニール紐を巻き付けて共犯者と2人がかりで力一杯引っ張り合って緊縛したというものであり、 その直後、 犯 跡を隠蔽するため遺体を崖下に転落させて1年余りの間放置した点を併せると、 冷酷で残虐である。 被告人は、 本件強盗殺人の計画と実行の全般にわたり、 終始主導的な役割を果たしており、 その後、 強取した預貯金通帳 等を利用して、 単独であるいは別の共犯者を巻き込んで本件詐欺等の犯行に及んでいる。 また、 本件強盗殺人 の犯行後も、 共犯者が自首しようとするのを思いとどまらせたり、 まじめに働かないで、 母や姉に金を無心し て、 パチンコに熱中する生活を続けていたのであって、 犯行後の情状も甚だ芳しくない。 そして、 被告人は、 強盗殺人罪により無期懲役の刑に処せられて服役したのに、 その仮出獄中に、 前件と顕著な類似性の認められ る本件強盗殺人の犯行に再び及んだものであり、 非常に悪質である。 その意味で、 被告人の反社会性、 犯罪性 については、 到底軽視することができず、 改善更生の可能性についても、 著しく困難であると考えられる。 他方、 被告人は、 前刑の服役態度はまじめであったこと、 仮出獄後、 当初は、 健全な生活を営もうと努力を していたこと、 逮捕後の比較的早い時点から本件強盗殺人を含む各犯行を自供し、 極刑に処せられることを覚 悟した上、 公判廷においても一貫して本件各犯行を認める供述をし、 反省の態度を示していることなど原審の 時点で被告人にとって有利であり、 酌むべき事情も認められる。 しかしながら、 このような被告人の主観的事情を過大に評価するのは相当でない。 そうすると、 弁護人がいろいろと主張している点を全て考慮してみても、 本件においては、 殺害された被害 者の数は1名であるが、 被告人の罪責は誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極 刑を選択するほかないものといわなければならず、 量刑の前提となる事実の評価を誤り、 被告人を無期懲役に 処した原判決の量刑は、 軽きに失し不当であるといわざるを得ない。 そして、 原判決後、 被告人が、 被害者の 遺族に対し、 謝罪の手紙や線香代を送付したこと、 長女との手紙による交流を通じて、 命の大切さを再認識し ていること、 臓器移植のドナーカードに臓器提供の意思を記入し、 自らの身体で償う意思を持つに至ったこと、 その他、 弁護人が指摘し、 記録上うかがわれる全ての事情を被告人のために最大限考慮してみても、 被告人の 罪責を大きく軽減するような事情があるとはいえないから、 上記判断が左右されるものではない。 検察官の論旨は理由がある。 よって、 刑訴法条1項、 条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、 同法条ただし書に従い、 当裁判所において、 更に判決する。 最高裁判所平成,4,③判決 死刑 上告棄却 平成,4, 読売新聞 強盗殺人罪で無期懲役が確定し、 仮釈放中だった年、 広島県福山市内で知人女性を殺害して金品を奪っ たとして、 再び強盗殺人などの罪に問われた山口県出身、 元ワックス販売業西山省三被告 () の第2次上告 審判決が日、 最高裁第3小法廷であった。 堀籠幸男裁判長は、 「確定的な殺意に基づく計画的な犯行。 仮釈 放後、 2年余りで今回の犯行に及んでおり、 悪質性は極めて高く、 反社会性、 犯罪性も顕著だ」 と述べ、 西山 被告の上告を棄却した。 西山被告の死刑が確定する。 西山被告は、 1、 2審で無期懲役を受けたが、 最高裁は年月に2審判決を破棄。 差し戻し後の広島高裁 が死刑を言い渡していた。 2審の無期懲役判決が最高裁で破棄された後、 死刑が確定するのは、 連続4人射殺 事件の永山則夫・元死刑囚 (年に死刑執行) に次いで戦後2件目。 判決などによると、 西山被告は年に山口県内で起こした強盗殺人事件で無期懲役が確定し、 約年9か月 服役。 仮釈放中の年3月、 仕事仲間の男 () (無期懲役が確定) と共謀し、 広島県三原市の無職内藤ヤス ノさん (当時歳) を福山市の林道で絞殺し、 現金と預金通帳を奪うなどした。 1、 2審判決は、 「計画性は低く、 更生の可能性もある」 などとして無期懲役を言い渡したが、 第1次上告 審判決は、 「殺害された被害者は1人だが、 被告の責任は重大。 特に酌量すべき事情がない限り、 死刑を選択 するほかない」 として、 量刑不当を理由に2審判決を破棄、 審理を広島高裁に差し戻した。 同高裁は年4 月、 西山被告に死刑を言い渡した。 国立市主婦殺害事件 (強盗強姦・強盗殺人等被告事件) (イ) a 裁判の経過 東京地裁八王子支部平成7,1, 判決 1審 死刑 (求刑死刑、 被告人控訴) 東京高裁平成9,5,判決 2審 判例タイムズ№、 判例時報№ 原判決破棄・無期懲役 (検察官上告) 上告審 b 最高裁平成,,②判決 上告棄却 裁判所時報 号頁、 判例タイムズ№ 事案の概要 本件において、 量刑上中心となった強盗強姦・強盗殺人の事案は、 次のとおりである。 被告人は、 塗装工として顔見知りとなった主婦 (当時歳) を強姦して金員を強取しようと企て、 軍手やタ オル等を携行し、 同女が泣き寝入りすることなく被害を警察に届け出そうな場合には殺害することもやむを得 ないと考えて、 同女方に赴いた。 被告人は、 湯茶等で接待してくれる同女と数時間雑談等をしながら犯行の機 会をうかがった後、 手で同女の口をふさぎ、 「静かにしろ。 騒ぐと殺すぞ。」 などと脅迫したところ、 同女が 「人殺し」 と叫ぶなどしたことから、 金員を強取して同女を姦淫した上、 犯行の発覚を防ぐため同女を殺害す るほかないと決意を固め、 所携のタオル等で猿ぐつわをし、 ネクタイ等で両手首を縛り上げるなどし、 所携の 千枚通しを突き付けて現金約2万円を強取し、 次いで肉体関係を迫り、 これを拒否する同女の腹部を手拳 で殴打するなどして強姦した。 その後、 被告人は、 前記千校通しで、 うつ伏せになった同女の心臓をねらって、 左背部等を4回くらい突き刺し、 さらに、 止めを刺す意思で、 牛刀で頸部を2回突き刺し、 同女を失血死させ て殺害し、 現金約円を更に強取した。 この他に、 1人暮らしでアパートで寝ていた女性を襲って現金約1 万円を強取するとともに、 同女を強姦した強盗強姦及び窃盗3件がある。 (判例タイムズ№解説引用) c 控訴審の判断 判決の要旨 「被告人に対して極刑をもって臨むことも十分に考えられる事案である。 しかしながら、 被告人は、 被害者 を殺害した直後、 その良心に責め苛まれていた情況にあったもので、 なお規範的な人間性が僅かに残されてい たものとみる余地があること、 被告人は、 極貧の家庭で育ち、 幼児期から父母の愛情を受けることが少ないま ま成長し、 小学校でも、 同級生等から疎外され、 中学卒業のころまでの生活環境は劣悪であったことが窺われ、 これが被告人の人格形成、 とりわけ情操面での人格形成に深刻な影響を及ぼしたということを否定し難く、 被 告人が上京後は、 2度結婚し、 職も得て、 地道に働けば、 社会的にも人並みの生活をすることができる生活環 境に恵まれた時期もあったことを思うと、 前記のような被告人の性格的歪み、 強固に固着した反社会的な犯罪 性癖の形成が被告人が自らの手で招いたものであり、 その責任を他に転嫁する余地がないものであるとしても、 被告人の劣悪な成育状況は、 やはり量刑上考慮せざるを得ないものであること、 そして、 被告人は、 原審段階 において、 一時期、 被害者を辱め、 その名誉を傷つける虚偽の供述をして、 公判審理に少なからぬ影響を与え たり、 原判決後、 雇主の乙山春男を逆恨みしたりして、 真摯な反省の面で疑いを生じたが、 次第に、 強盗強姦・ 強盗殺人の犯行をはじめ、 本件各犯行の重大性、 自己の前科を含む過去の生き方や考え方に問題があったこと を自覚するようになり、 当審公判廷で態度を改るなど規範意識に目覚めるきっかけを得つつあるものとみられ ること、 そして、 被告人が、 中学在学時の担任教師で、 被告人との接触を続けたDに対しては、 心を開いてお り、 同人も、 被告人を見捨てることなく見守りたい旨証言し、 今後も、 同人と被告人との間には心の繋がりが 期待できるものと思われること、 その他、 被告人は、 塗装工の技術を身につけ、 服役した期間以外は、 それな りに稼働していたこと、 などが認められる。 以上、 検討してきたところを総合すると、 何の落ち度もない家庭の主婦を強姦し、 金員を強奪し、 残虐な手 口で殺害したという凶悪重大事犯であること、 被告人には同種前科が存在すること、 被告人の犯罪性向が顕著 であって、 矯正が困難であるとみられること、 などに徴して、 被告人の刑事責任は余りにも重大であり、 殊に、 右被害者とその遺族の心情に思いを致せば、 被告人に対して死刑を宣告した原判決の量刑も首肯できないわけ ではないけれども、 死刑は何といっても究極の峻厳な刑罰であること、 被告人のために斟酌すべき諸事情があ ること、 そして、 最高裁判所が所論指摘のような死刑の適用基準を判示していることなどを併せ考えるとき、 被告人に対して、 死刑をもって処断することについては、 熟慮してもなお躊躇せざるを得ず、 この際、 被告人 を無期懲役に処し、 終生、 右被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当であるとの結論に達した。」 d 上告理由 検察官は、 本件について、 判例違反 (刑事訴訟法条2号) と量刑不当・正義に著しく反する (刑事訴訟 法条2号) ことを理由として上告した。 その上告理由は、 要約すると、 次の通りである。 この中で、 犯罪行為自体の客観的悪質性に主眼を置くべきであり、 主観的・個別的な事情はさほど重視すべ きでないと主張していることに注目されたい。 (a) 判例違反 (刑訴法条2号) 永山判決、 すなわち最高裁昭和年7月8日第2小法廷判決は、 「 犯行の罪質、 動機、 態様、 殊に殺害の手 段方法の執拗性、 残虐性、 結果の重大性、 殊に殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の 年齢、 前科、 犯行後の情状等各般の情状を併せ考慮したとき、 その罪責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見 地からも、 一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑の選択も許されるところであ る。」 としている。 この永山判決以後、 最高裁判所が、 第1審の死刑判決を維持し又は無期懲役の判決を破棄して死刑を言い渡 した控訴審判決につき、 死刑の科刑を是認した事例は、 今日まで、 件 (名) を数える。 各判決が共通して、 右の一般的基準の当該具体的事件への適用を通じて、 右基準の内容の敷えん・明確化を 行っており、 今や、 永山判決及びこれに続く一連の判決によって、 前記死刑適用に関する客観的な一般的基準 が判例上定着していることを看取できる。 一連の判決の判示するところによれば、 その罪質が凶悪重大であることに加え、 動機において酌量の余地が ないこと、 計画的な犯行であること、 犯行態様が冷酷、 執拗、 残忍などといった悪虐非道なものであること、 結果が重大であること、 遺族の被害感情が深刻であり、 社会的影響も無視ないし軽視できないことなど、 いわ ば犯罪行為とその結果又はそれと直接関連する量刑要素が極めて悪質な場合には、 反省悔悟や改善可能性といっ た犯行後の被告人の主観的事情において被告人のために酌むべき要素があっても、 他にその刑を減軽すべき特 段の事由が認められない以上、 死刑を適用している点で共通している。 このことは、 永山判決以後の幾多の判例の積み重ねを通じて、 今や永山判決の右一般基準がその内容におい て、 罪刑の均衡、 一般予防の両見地から死刑を選択するに当たり、 犯罪のもたらした結果や影響を含め犯罪行 為自体の客観的な悪質性に主眼をおくべきであり、 被告人が反省していること、 規範的な人間性が残されてい ること、 生活環境が劣悪であったことなどといった主観的・個別的な事情はさほど重視すべきでないという形 で敷えん・明確化され、 裁判上の指針として定着していることを示しているのである。 被告人が反省していることや不遇な生い立ちなど、 罪責の重大性を判断する上でまた、 罪刑均衡及び一般予 防の見地からさほど重視すべきでない事情を、 死刑回避のため殊更に取り上げて過大評価し、 情状の衡量に当 たり、 罪刑均衡や一般予防の見地よりも被告人の主観的・個別的事情を重視すべきであるという、 いわば新し い基準を策定し、 これに基づいて判断したと同様の結論に至っているのである。 原審東京高裁の判決は、 ………永山判決及びその後の一連の判決によって形成された判例に実質的に相反す る判断をしたもの。 (b) 量刑不当・著しく正義に反する (刑訴法条2号) e 最高裁平成,,②判決 上告棄却 裁判所時報号、 判例タイムズ№ 以下、 判決の要旨を記す。 「上告趣意は、 判例違反をいう点を含め、 実質は量刑不当の主張であって上告理由に当たらない。 職権で調 査する。 第1審判決は、 被告人を死刑に処したが、 原判決は、 第1審判決を破棄し、 被告人を無期懲役に処した。 死刑制度を存置する現行法制の下では、 犯行の罪質、 動機、 態様殊に殺害手段方法の執よう性・残虐性、 結 果の重大性殊に殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢、 前科、 犯行後の情状等各 般の情状を併せ考察したとき、 その罪質が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも 極刑がやむを得ないと認められる場合には、 死刑の選択も許されるところである (最高裁昭和年 (あ) 第 号同年7月8日第2小法廷判決・刑集巻6号頁参照)。 殺害された被害者が1名の事案においても、 前記のような諸般の情状を考慮して、 極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない。 そこで、 本件についてみると、 強盗強姦・強盗殺人の犯行は、 何ら落ち度のない貞淑な主婦が白昼自宅内で 突然襲われて、 強盗強姦の被害を受けた挙げ句、 惨殺されたという重大な事案であり、 非業の死を遂げた被害 者の無念はもとより、 その2児を含む遺族に与えた衝撃は筆舌に尽くし難いものがあり、 遺族の被害感情は厳 しく、 社会的影響も大きい。 右犯行の動機は、 異常な性的欲求に遊興費欲しさが加わり、 自己の犯行の発覚を 防ぐためには同女を殺害するほかないと安易に決意するなど、 極めて卑劣かつ自己中心的であり、 殺害の手段、 方法も、 非常に執ようかつ残虐である。 このような点に照らすと、 被告人の刑事責任は誠に重いといわざるを得ない。 また、 被告人の強姦致傷等の 前科や本件強盗強姦の犯行からうかがえる犯罪性、 特に性犯罪への親近性には顕著なものがある。 そうすると、 第1審判決が、 以上の事情などを指摘し、 被告人が強盗強姦・強盗殺人の犯行前にその実行をためらった形跡 があることなど被告人に有利な事情を考慮しても、 死刑が相当であるとしたのは、 首肯し得ないではない。 これに対し、 原判決は、 第1審判決の量刑判断に理解を示しながらも、 事件後の行動からうかがえる被告人 の人間性、 被告人の劣悪な成育状況、 被告人が被害者に謝罪の意思を表明していること、 中学在学時の担任教 師との心のつながりが今後も期待できることなどの主観的事情を被告人に有利な事情としてしんしゃくした上、 第1審判決を破棄して、 無期懲役刑を言い渡した。 原判決が指摘する右のような主観的事情は、 被告人のために酌むべき情状であるとしても、 それらを過度に 重視することは適当ではない。 しかしながら、 本件強盗強姦・強盗殺人の犯行において、 強盗強姦の点につい ては、 計画的犯行であり、 犯行遂行意思が強固であったとはいえ、 殺人の点については、 被害者が被害を警察 に届け出そうな場合には殺害しようという殺意を徐々に形成し、 強盗強姦の実行に着手した後、 同女から叫ば れるなどしたことから、 右殺意を確定的に固めたものであり、 それが事前に周到に計画されたものとまではい い難いものがある。 また、 被告人の前科や余罪をみても、 性欲や金銭欲に基づく犯罪への親近性が顕著である ものの、 他人の殺害又は重大な傷害を目的とした犯行はこれまでになく、 この種の犯罪への傾向が顕著である とはいえない。 その他、 死刑を選択するか否かを判断する際に考慮すべき前記諸事情を全般的に検討すると、 被告人を無期懲役刑に処した原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。」 最高裁判決の影響 殺害された被害者が1名の事案でも、 諸般の情状を考慮して、 極刑がやむを得ないと認められる場合がある こと、 主観的事情は被告人のために酌むべき事情があるとしても、 それを過度に重視することは適当でないと 明確に判示したことは、 後に刑事裁判の量刑判断に影響を与えたと認められる。 その一つが次のお礼参り殺人 事件でもある。 ウ 一連の検察官上告後の裁判の動向 (ア) a お礼参り殺人事件 事案の概要 被告人は被害者の女性の訴えで、 平成2年3月に強姦致傷、 窃盗、 恐喝未遂罪で懲役7年の実刑判決を受け た。 これを逆恨みし、 平成9年2月日服役して出所するや、 同年4月日午後9時過ぎ、 女性の住む公団住 宅の4階エレベーターホールで女性の腹などを包丁で刺し失血死させ、 現金などの入ったハンドバックを盗んだ。 b 各審の裁判内容 東京地裁平成,5,判決・無期懲役 判例時報№ ………と述べるなどして、 謝罪の気持ちを口にしているところ、 真摯な反省を表しているとはいい難いが、 被告人質問の最中に時折目を潤ませている様子からすると、 表面を取り繕った口先だけのものと断定すること はできず、 被告人の中に人間性の一端がなお残っている。 一方、 検察官は、 犯罪の被害者保護の点を強調する が、 被害者保護の問題は立法や行政上の措置に委ねるのが最も適切であって、 本件の量刑判断においてこの点 を考慮するにも自ずと限界がある。 検察官は、 また、 被告人に殺人罪の前科があることを挙げるが、 年以上 前に起こした衝動的な単純殺人の事案であって、 この点に重きを置くにも限度がある。 そうすると、 極刑がや むを得ない事案であるとまでいうことはできず、 被告人に対しては無期懲役刑が相当。 この判決に対し、 検察官控訴。 東京高裁平成,2,③判決、 破棄自判・死刑、 上告判例時報№ 以上のような本件の罪質、 理不尽な犯行動機、 犯行の計画性、 執拗で残忍な犯行態様、 結果の重大性、 遺族 の峻烈な被害感情、 前科等から窺われる被告人の犯罪性行、 殺害後の情状、 社会的影響の大きさ、 反省悔悟の 念の乏しさなどを総合すると、 その刑責は誠に重大であって、 原判決も、 右に挙げたのとほぼ同様の諸点を指 摘した上で、 被告人を死刑に処すべきとする検察官の主張は傾聴に値すると述べているところである。 しかし、 原判決は、 他方において、 ( ) 本件はあくまでも被害者1名に対する殺人と窃盗の事案であること、 () 本件殺人は、 その動機が個人的な恨みであって、 保険金目的や身代金目的の殺人のように利欲的動機によ るものではないこと、 () 本件殺人には、 計画性が認められるものの、 緻密で周到な計画に基づく犯行とはい い難いことを挙げ、 更に、 () 被告人が、 大筋では事実関係を認めつつ、 原審公判廷において被害者や遺族へ の謝罪の気持を口にしている点を、 表面を取り繕った口先だけのものと断定することはできず、 被告人の中に 人間性の一端がなお残っていると評価することができるなどして、 これらの事情も合わせ考慮すると、 結論と して無期懲役刑をもって臨むのが相当であるとしたのである。 そこで、 原判決が死刑選択につき消極方向に働 く事情として特に重視すべきであるとした右の諸点について更に検討する。 前記最高裁判所昭和年判決は、 死刑選択の基準の一つとして 「結果の重大性」 を挙げ、 それに関連して被 害者の数を基準要素としているので、 それは結果の重大性を判断する上での重要な一要素であるが、 同時にそ れは必ずしも絶対的な基準ではないから、 殺害された被害者が1名の事案であっても、 当該事案における諸般 の犯情、 情状を考慮して極刑の選択がやむを得ないと考えられる場合があることはもちろんであり、 この趣旨 は、 最高裁判所第2小法廷平成年月 日判決 (最高裁判所平成9年 (あ) 第号) も確認するところで ある。 そして、 本件殺人の動機が被害者に対する個人的な恨みであって、 保険金目的や身代金目的の殺人のよ うに利欲的動機に基づくものでないことは原判決の述べるとおりであるにしても、 本件における被告人の被害 者に対する恨みなるものは、 通常みられる人間関係の軋轢やもつれなどに端を発する、 その意味で被告人側に もなにがしか同情すべき点や酌むべき点の伴う事実とは全く異なり、 前件の際、 被告人が被害者に対し、 「警 察に言えばどんな目に遭うかもしれないぞ。」 などと言って口止めしたが、 そのような脅迫による一方的な口 止めを被害者との約束と思い込んだ上、 被害者を恐喝しようとした経緯の中で、 警察へ届け出た同女の対応を 裏切り行為であると決め付けて深く恨み、 そのような筋違いの恨みを殺意に転化させた挙げ句、 殺害行為に及 んだものであって、 極めて理不尽かつ身勝手なものと評するほかない、 特異ともいうべき動機なのである。 し かも、 そのように恨まれるについて被害者には一点の落ち度もなく、 このことに報復の意思の強固さや犯行の 計画性の諸点を合わせ考慮すれば、 その動機は殺害そのものを自己目的とするもので、 動機の悪質さの点にお いて、 保険金目的や身代金目的の殺人の場合と比べても何ら選ぶところがないというべきである。 次に、 () の点については、 被告人が被害者に対する殺意を抱き、 これを実行するまでの経緯、 準備等犯行 の計画性に係る事情は、 前記に認定したとおり、 被告人は、 札幌刑務所を出所して2日目には被害者の住居探 索に着手して、 遂にこれを見つけだしたこと、 予め被害者を殺害するための包丁等を購入して準備し、 右包丁 に滑り止めのビニールテープを巻き付けていること、 被害者の出勤又は帰宅の際を狙って殺害することとし、 更に、 被害者に対して前件につき被害申告したことの恨みを晴らしにきたことを宣告した上で殺害するという 段取りまで考えていてそのとおり実行したこと、 犯行後は居住先を引き払うつもりで衣類の一部をコインロッ カーに預けるなどしていることなどの諸点を指摘することができるが、 とりわけ本件犯行当日の朝、 被害者の 出勤時に殺害を実行しようとしたところ、 足音が聞こえたことにより第三者から犯行を目撃される危険を察知 するなどしていったん犯行を思いとどまり、 改めて同日夜に被害者を待ち受けて犯行に及んだことは、 殺害目 的の実現に向けた周到さを示すものとして見落とすことができない。 すなわち、 本件は、 強固な殺害意思のも とに、 この種犯行としても高度の計画性に基づいて敢行されたものと評価すべきである。 また、 () の点についても、 被告人に一定の限度で反省の情が窺われることは否定できないとしても、 その 反省の内容は必ずしも十分なものとは言い難い上、 そもそもこのような被告人の主観的事情は、 被告人のため に酌むべき情状であるにしても、 この点を過度に重視することは適当でない。 以上を要するに、 原判決が本件において死刑選択につき消極方向に働く事情として特に重視すべきであると した諸点は、 いずれも死刑の選択を避けるべき事情としては十分なものではないといわざるを得ない。 そして、 前述した本件犯行に至る経緯、 本件犯行の罪質、 理不尽な動機、 犯行の計画性、 執拗で残忍な犯行態様及び結 果の重大性、 並びに遺族の峻烈な被害感情、 前科等から窺われる被告人の犯罪性行、 殺害後の情状、 社会的影 響の大きさ、 被告人の反省の念の乏しさなど本件記録に現れた一切の事情を総合考慮すると、 他面において、 被告人が本件犯行自体は捜査段階から自白していること、 現時点において写経をするなどして被告人が被害者 の冥福を祈っていることなど被告人のために酌量できる事情を最大限考慮しても、 被告人に対する刑事処分は 峻厳たらざるを得ない。 もとより、 死刑は、 真にやむを得ない場合における究極の刑罰であり、 その適用が慎 重に行われなければならないことは当然であり、 当裁判所もそのような観点から熟慮を重ねたが、 前述したす べての情状に照らすと、 その罪責は誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも、 被告 人に対しては死刑をもって臨むのもやむを得ないとの判断に至ったものであって、 これと結論を異にする原判 決は、 前記 () ないし () の諸点のほか、 被告人の反省の情などを被告人に有利な情状として過度に斟酌し たためその量刑を誤ったものといわざるを得ない。 そうすると、 論旨は理由があり、 原判決は破棄を免れない。 被告人の前科 殺人罪の前科 同棲中の少女を殺害 昭和,3窃盗、 道路交通法違反 役7年 昭和,1 懲役1年2月 平成9,2, 出所後2ヶ月 懲役年 岡山刑務所で服役 昭和,仮釈放 出所後月後の平成元年月強姦致傷等 殺人 →平成2,3懲 最高裁平成,,②判決 上告棄却 弁護人久保貢の上告趣意のうち、 死刑に関して憲法条、 条、 条違反をいう点は、 死刑が憲法のこれら の規定に違反しないことは当裁判所の判例 (最高裁昭和年 (れ) 第号同年3月日大法廷判決・刑集 2巻3号頁) とするところであるから、 理由がなく、 その余は、 判例違反をいう点を含め、 実質は事実誤 認、 量刑不当の主張であって、 適法な上告理由に当たらない。 所論にかんがみ記録を調査しても、 刑訴法条を適用すべきものとは認められない。 付言すると、 本件は、 強姦致傷罪等を犯して服役した被告人が、 その被害者に報復するため、 出所後程なくして、 その住居を探し出 し、 待ち伏せした上、 包丁で胸部や腹部を数回突き刺して殺害し、 そのハンドバッグを窃取したという殺人、 窃盗の事案である。 被告人は、 平成元年月、 通り掛かりの同女に声を掛けて共に飲酒した後、 路上でその頸 部を強く締め付けるなどの暴行を加えて強姦し、 傷害を負わせるとともに、 そのショルダーバッグを窃取し、 後日同女から金員を喝取しようとした強姦致傷、 窃盗、 恐喝未遂を犯し、 平成2年3月、 懲役7年に処せられ たが、 上記犯行による逮捕時から、 同女が警察に通報したため検挙されたことを深く恨み、 同女を殺害して報 復しようと決意し、 服役中もその意思を変えることはなかった。 そして、 平成9年2月に出所後、 同女宅を探 し出すとともに、 その殺害に使うために、 刃体の長さ約 ㎝の柳刃包丁を購入するなどの準備をし、 同年4 月に本件犯行に及んだものである。 本件殺人は、 このような特異な動機に基づく誠に理不尽かつ身勝手な犯行 であり、 犯行に至る経緯に酌量の余地はない。 その犯行は、 計画性が高く、 強固な殺意に基づくものであって、 殺傷能力の高い刃物を用いた犯行の態様も冷酷かつ残虐である。 被害者の生命を奪った結果は重大であって、 遺族の被害感情は極めて厳しく、 社会に与えた影響も大きい。 その上、 被告人は、 昭和年1月に、 知り合っ た少女を殺害した殺人事件により懲役年に処せられた前科を有している。 以上の諸事情に照らすと、 被告人 が反省の態度を示していることなど、 被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、 被告人の罪責は誠に重 大であり、 無期懲役の第1審判決を破棄して被告人を死刑に処した原判断は、 やむを得ないものとして当裁判 所もこれを是認せざるを得ない。 よって、 刑訴法 条、 条、 条1項ただし書により、 裁判官全員一致の意見で、 主文のとおり判決する。 光市母子殺害事件 (イ) a 事案 被告人は少年 平成,4, 午後2時分ころ、 山口県光市室積沖田K方で、 同人の妻Yを強姦しようと企て、 1 背後から抱きつき仰向けに押し倒し馬乗りになるなどの暴行を加えたが、 抵抗されて殺害の上姦淫の 目的を遂げようと企て、 同女の頚部を両手で締め付け、 同女を窒息死させて殺害した上、 強姦し 2 KYの長女生後 ヶ月の幼児が泣き続けたため、 殺害を決意し、 同児を床に叩きつけるなどした上、 同児の首に紐を巻き、 両端を強く引っ張って締め付け、 窒息死させて殺害 3 b その場で、 現金約円及び地域振興券約6枚 (額面約円) 在中の財布1個を窃取した。 各審の裁判内容 山口地裁 平成,3,判決 無期懲役 (求刑死刑) 殺人、 強姦致死、 窃盗被告事件 量刑の理由 強姦についての計画性は認められる (公判廷の否定の供述は採用できない。)。 殺害までの計画性は認め難 い。 身勝手かつ自己中心的な班行動機に酌量の余地はない。 犯行態様 極めて冷酷かつ残忍 非人間的犯行 結果の重大性 犯行後の情状極めて悪い して投棄 発覚を遅らせるため、 死体の隠匿 罪証隠滅のため、 指紋の付いたものを持ち出 窃取した地域振興券を友人に見せたり、 それで、 カードゲームのカード購入 被害者に落ち度なし 無念さは筆舌に尽くし難い。 遺族の悲嘆、 怒り、 絶望感は察するに余りあり 夫、 実母 峻烈な被害感情を示す 死刑を望む 慰藉の措置なし 本件が近隣住民に与えた恐怖感、 一般社会に与えた不安感、 衝撃は計り知れない。 年長少年であり、 死刑選択可能な被告人に対し、 死刑選択も十分検討されるべきである。 最高裁昭和,7,8②判決を引用 死刑制度を存置する現行法制の下 本件についてみると、 強姦 計画性 前科・前歴 肯定 殺害 事前の計画性はない 窃盗の前歴のみ 家裁の保護処分がない、 前科がない殺害、 重大な傷害を目的とした犯行ない。 犯罪的傾向が顕著とはいえない。 矯正可能性 あり 実母の自殺 家庭環境不遇 謝罪の意思表明 同情すべきものがある。 一応の反省の情が芽生えている。 人間性の一端が残っているものと評価 矯正教育による 改善更生の可能性がないとは言い難い。 近時の裁判例について検討 殺害された被害者2名で、 年長少年に対する死刑の適否が問題となった裁判例 市川の一家4人殺害事件 (犯行当時歳の少年 被害者3名の強盗殺人 ヶ月間に、 傷害、 強姦、 強姦致傷、 強盗強姦、 恐喝及び窃盗 東京高裁平成8,7,2判決 被害者1名の殺人、 そのほか約5 合わせて件) 死刑 結果の重大性及び被告人の犯罪的傾向の顕著さにおいて本件と著しい差異がある。 アベック殺人事件 (犯行当時歳の少年が、 被害者2名の殺人のほか強盗未遂、 強盗致傷、 強盗強姦、 死体 遺棄を犯した事案) 名古屋高裁平成8,,判決 無期懲役 犯行の計画性、 悪質かつ残虐な犯行態様、 重大な被害結果、 遺族の被害感情の厳しさ、 地域社会に及ぼした 衝撃的な不安。 影響の強さを認めながら、 精神的未熟な少年らが、 集団を形成し、 相互に影響し合い、 刺激し 合い、 同調し合って敢行。 粗暴犯の前科前歴なし、 犯罪性根強いものと見るには疑問、 矯正可能性あり、 犯行 後反省の態度の芽生えがある。 集団的心理が働いた事件ではあるが、 結果の重大性及び被告人の犯罪的傾向の点において、 本件よりも深刻。 死刑の適否が問題となった近時の裁判例を概観 殺害された被害者2名で、 被告人犯行当時成人の事案 ①最高裁平成,,①決定 強盗殺人、 死体遺棄、 有印私文書偽造、 同行使、 詐欺被告事件 共犯者同様 無期懲役維持 ②最高裁平成,,③決定 強盗殺人、 死体遺棄、 有印私文書偽造、 同行使、 詐欺 1審の無期懲役を維持 以下 略 そして、 量刑判断に当たっては、 被害者及びその遺族の被害感情に十分意を用いなければならず、 近時の犯 罪被害者保護に関する議論の動向も考慮すべきことはもとより当然であるが、 そもそも国家の刑罰権行使の目 的は犯罪に対する応報であると共に、 特別予防の見地も考慮すべきであるから、 おのずから被告人の矯正教育 による更生可能性を考慮すべきものであり、 過去の裁判例もかかる考慮をなしているところである。 ことに、 本件のごとく少年に対する少年法の態度は、 少年は一般に心身の発育が未成熟の段階にあり、 そのため応報的 な責任非難の度合が成人に比して軽いことが多い反面 (本件被告人については、 その犯行の短絡さ等に照らせ ば応報を相当とする人格形成等が刑事法が予定する成人程度になされているとまでは認め難いところである。) その更生可能性が高いことに着目して保護の理念を一般の刑法の理念より優先させ、 これを修正する思想に基 づいているのであり、 かかる少年法が存在する以上その立法趣旨を全く捨象しさることは法体系全体の解釈と しては採り難いところであって (もとより、 当裁判所は少年法条の精神を年長少年にも及ぼす立場に立つも のではない。)、 その矯正教育による更生可能性についてはより慎重に判断すべきものである。 また、 被害感情ないし被害者保護の問題は誠に重大なものであるものの、 法が、 究極の法益たる生命をその 保護対象とする一方で、 死刑制度は法による生命の剥奪を予定しており、 その点において相反するものが存在 するのであって、 単に行為や結果とのバランスのみを考慮すれば足るとは当然にはいい得ず (さらに死刑自体 が普遍的な刑罰ではない。)、 死刑の選択が許されるのは、 罪責が誠に重大で、 罪刑の均衡の見地からも一般予 防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合に限定されるものというべく、 右を超えることの当否等 の判断等は、 立法等の問題として国民のコンセンサスに基づいてなされるのが相当であり、 右被害感情ないし 被害者保護を考慮するにもおのずから限界があるといわざるを得ない。 以上の諸事情を総合考慮すると、 本件は誠に重大悪質な事案ではあるが、 罪刑の均衡の見地からも一般予防 の見地からも極刑がやむを得ないとまではいえず、 被告人に対しては無期懲役をもって、 矯正による罪の償い をさせるのが相当である。 広島高裁平成,3,判決 控訴棄却 以下の最高裁判所平成,6,③判決に 「原判決の要旨」 として記す。 最高裁判所平成,6,③判決 破棄差戻 検察官の上告趣意は、 判例違反をいう点を含め、 実質は量刑不当の主張であって、 刑訴法条の上告理由 に当たらない。 しかしながら、 所論にかんがみ職権をもって調査すると、 原判決は、 下記1以下に述べる理由 により破棄を免れない。 1 本件事案の概要及び原判決の要旨 () 本件は、 当時歳の少年であった被告人が、 白昼、 配水管の検査を装って上がり込んだアパートの1 室において、 当時歳の主婦 (以下 「被害者」 という。) を強姦しようとしたが、 激しく抵抗されたため、 被 害者を殺害した上で姦淫し、 その後、 同所において、 激しく泣き続ける当時生後か月の被害者の長女 (以下 「被害児」 という。) をも殺害し、 さらに、 その後、 同所において、 被害者管理の現金等在中の財布1個を窃 取した、 という殺人、 強姦致死、 窃盗の事案である。 () 「原判決の要旨」 原判決は、 被告人に対する量刑について、 次のように判示して第1審判決の無期懲役の科刑を維持した。 本件強姦致死及び殺人の各犯行は、 その結果が誠に重大であるところ、 犯行の動機に酌量の余地は全くない。 また、 犯行の態様は、 冷酷で残虐なものであり、 犯行後の情状も良くない。 遺族らが被告人に対して極刑を望 む心情は、 十分理解することができ、 本件が社会に与えた影響も大きい。 したがって、 被告人の刑事責任には 極めて重大なものがあり、 本件は、 被告人を極刑に処することの当否を慎重に検討すべき事案である。 しかしながら、 第1審判決が死刑を選択しない事由として説示する以下の点は、 検察官が控訴趣意書におい て論難するが、 誤りであるとはいえない。 すなわち、 本件は、 強姦の点についてこそ計画的ではあるが、 各被 害者の殺害行為は計画的なものではない。 また、 被告人には、 不十分ながらも、 被告人なりの反省の情が芽生 えるに至っていると評価でき、 これに加え、 被告人は、 犯行当時歳と日の少年であり、 内面の未熟さが顕 著であること、 これまで窃盗の前歴のみで、 家庭裁判所から保護処分を受けたことがないなど犯罪的傾向が顕 著であるとはいえないこと、 被告人の実母が中学時代に自殺するなどその家庭環境が不遇で生育環境において 同情すべきものがあり、 それが本件各犯行を犯すような性格、 行動傾向を形成するについて影響した面が否定 できないこと、 少年審判手続における社会的調査の結果においても、 矯正教育による可塑性は否定されていな いことなどの被告人自身に関する情状に照らすと、 被告人について、 矯正教育による改善更生の可能性がない とはいい難い。 そして、 本件各犯行の罪質、 動機、 態様、 結果の重大性、 遺族の被害感情、 社会的影響、 被告人の年齢、 前 科、 犯行後の情状等を総合し、 近時の死刑求刑事案に関する量刑の動向等を併せて考察すると、 本件について、 極刑がやむを得ないとまではいえず、 被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認することができる。 2 当裁判所の判断 () 死刑は、 究極のしゅん厳な刑であり、 慎重に適用すべきものであることは疑いがない。 しかし、 当審 判例 (最高裁昭和年 (あ) 第号同年7月8日第2小法廷判決・刑集巻6号頁) が示すように、 死刑制度を存置する現行法制の下では、 犯行の罪質、 動機、 態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性、 結 果の重大性殊に殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢、 前科、 犯行後の情状等各 般の情状を併せ考察したとき、 その罪責が誠に重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも 極刑がやむを得ないと認められる場合には、 死刑の選択をするほかないものといわなければならない。 これを本件についてみると、 被告人は、 強姦によってでも性行為をしたいと考え、 布テープやひもなどを用 意した上、 日中若い主婦が留守を守るアパートの居室を物色して被害者方に至り、 排水検査の作業員を装って 室内に上がり込み、 被害者のすきを見て背後から抱き付き、 被害者が驚いて悲鳴を上げ、 手足をばたつかせる など激しく抵抗するのに対して、 被害者を姦淫するため殺害しようと決意し、 その頸部を両手で強く絞め付け て殺害し、 万一のそ生に備えて両手首を布テープで緊縛したり、 同テープで鼻口部をふさぐなどした上、 臆す ることなく姦淫を遂げた。 さらに、 被告人は、 この間、 被害児が被害者にすがりつくようにして激しく泣き続 けていたことを意にも介しなかったばかりか、 上記犯行後、 泣き声から犯行が発覚することを恐れ、 殺意をもっ て、 被害児を持ち上げて床にたたき付けるなどした上、 なおも泣きながら母親の遺体にはい寄ろうとする被害 児の首に所携のひもを巻いて絞め付け、 被害児をも殺害したものである。 強姦を遂げるため被害者を殺害して 姦淫し、 更にいたいけな幼児までも殺害した各犯行の罪質は甚だ悪質であり、 2名の尊い命を奪った結果も極 めて重大である。 各犯行の動機及び経緯に酌むべき点はみじんもなく、 強姦及び殺人の強固な犯意の下に、 何 ら落ち度のない被害者らの生命と尊厳を相次いで踏みにじった犯行は、 冷酷、 残虐にして非人間的な所業であ るといわざるを得ない。 さらに、 被告人は、 被害者らを殺害した後、 被害児の死体を押し入れの天袋に投げ入 れ、 被害者の死体を押し入れに隠すなどして犯行の発覚を遅らせようとし、 被害者の財布を窃取しているなど、 犯行後の情状も良くない。 遺族の被害感情はしゅん烈を極め、 これに対し、 慰謝の措置は全く講じられていない。 白昼、 ごく普通の家庭の母子が自らには何の責められるべき点もないのに自宅で惨殺された事件として社会 に大きな衝撃を与えた点も軽視できない。 以上の諸点を総合すると、 被告人の罪責は誠に重大であって、 特に酌量すべき事情がない限り、 死刑の選択 をするほかないものといわざるを得ない。 () そこで、 特に酌量すべき事情の有無について検討するに、 原判決及びその是認する第1審判決が酌量 すべき事情として掲げる事情のうち、 被害者らの殺害について計画性がないという点については、 確かに、 被 告人は、 強姦については相応の計画を巡らせていたものの、 事前に被害者らを殺害することまでは予定してお らず、 被害者から激しい抵抗に遭い、 また、 被害児が激しく泣き叫ぶという事態に対応して殺意を形成したも のにとどまることを否定できず、 当初から被害者らを殺害することをも計画していた場合と対比すれば、 その 非難の程度には差異がある。 しかしながら、 被告人は、 強姦という凶悪事犯を計画し、 その実行に際し、 反抗 抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して次々と実行し、 それぞれ所期の目的も達し ているのであり、 各殺害が偶発的なものといえないことはもとより、 冷徹にこれを利用したものであることが 明らかである。 してみると、 本件において殺害についての計画性がないことは、 死刑回避を相当とするような 特に有利に酌むべき事情と評価するには足りないものというべきである。 また、 原判決及び第1審判決は、 被告人が、 それなりに反省の情を芽生えさせていると見られることに加え、 犯行当時歳と日の少年であったこと、 犯罪的傾向も顕著であるとはいえないこと、 その生育環境において 同情すべきものがあり、 被告人の性格、 行動傾向を形成するについて影響した面が否定できないこと、 少年審 判手続における社会的調査の結果においても、 矯正教育による可塑性が否定されていないこと、 そして、 これ らによれば矯正教育による改善更生の可能性があることなどを指摘し、 死刑を回避すべき事情としている。 し かしながら、 記録によれば、 被告人は、 捜査のごく初期を除き、 基本的に犯罪事実を認めているものの、 少年 審判段階を含む原判決までの言動、 態度等を見る限り、 本件の罪の深刻さと向き合って内省を深め得ていると 認めることは困難であり、 被告人の反省の程度は、 原判決も不十分であると評しているところである。 被告人 の生育環境についても、 実母が被告人の中学時代に自殺したり、 その後実父が年若い外国人女性と再婚して本 件の約3か月前には異母弟が生まれるなど、 不遇ないし不安定な面があったことは否定することができないが、 高校教育も受けることができ、 特に劣悪であったとまでは認めることができない。 さらに、 被告人には、 本件 以前に前科や見るべき非行歴は認められないが、 いともたやすく見ず知らずの主婦をねらった強姦を計画した 上、 その実行の過程において、 格別ちゅうちょした様子もなく被害者らを相次いで殺害し、 そのような凶悪な 犯行を遂げながら、 被害者の財布を窃取した上、 各死体を押し入れに隠すなどの犯跡隠ぺい工作をした上で逃 走し、 さらには、 窃取した財布内にあった地域振興券を友人に見せびらかしたり、 これでカードゲーム用のカー ドを購入するなどしていることに徴すれば、 その犯罪的傾向には軽視することができないものがあるといわな ければならない。 そうすると、 結局のところ、 本件において、 しん酌するに値する事情といえるのは、 被告人が犯行当時歳 になって間もない少年であり、 その可塑性から、 改善更生の可能性が否定されていないということに帰着する ものと思われる。 そして、 少年法条 (平成年法律第号による改正前のもの) は、 犯行時歳未満の少 年の行為については死刑を科さないものとしており、 その趣旨に徴すれば、 被告人が犯行時歳になって間も ない少年であったことは、 死刑を選択するかどうかの判断に当たって相応の考慮を払うべき事情ではあるが、 死刑を回避すべき決定的な事情であるとまではいえず、 本件犯行の罪質、 動機、 態様、 結果の重大性及び遺族 の被害感情等と対比・総合して判断する上で考慮すべき1事情にとどまるというべきである。 以上によれば、 原判決及びその是認する第1審判決が酌量すべき事情として述べるところは、 これを個々的 にみても、 また、 これらを総合してみても、 いまだ被告人につき死刑を選択しない事由として十分な理由に当 たると認めることはできないのであり、 原判決が判示する理由だけでは、 その量刑判断を維持することは困難 であるといわざるを得ない。 () そうすると、 原判決は、 量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果、 死刑の選択を回避する に足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく、 被告人を無期懲役に処した第1審判決の 量刑を是認したものであって、 その刑の量定は甚だしく不当であり、 これを破棄しなければ著しく正義に反す るものと認められる。 3 結論 よって、 刑訴法条2号により原判決を破棄し、 本件において死刑の選択を回避するに足りる特に酌量す べき事情があるかどうかにつき更に慎重な審理を尽くさせるため、 同法条本文により本件を原裁判所に差 し戻すこととし、 裁判官全員一致の意見で、 主文のとおり判決する。 広島高裁平成,4,判決 1 1審判決破棄・死刑 審理経過 () 平成,4, 捜査開始 4,、 被告人の任意同行、 逮捕、 勾留・取調、 5,9、 家庭裁判所送致家 庭裁判所観護措置、 6,4少年法条 () 山口地裁 検察官送致 6,山口地裁に公訴提起 公訴事実と同旨の事実認定 罪質、 身勝手かつ短絡的な動機、 残忍かつ冷酷な犯行態様、 結果の重大性、 遺族の峻烈な被害感情、 社会的 影響の大きさ等を併せ考慮すると、 被告人の刑事責任は極めて重大、 死刑選択も十分検討されるべきであると しながら、 ①各殺害行為は、 事前に周到に計画されたものとはいえない、 ②被告人は、 犯罪的傾向が顕著であ るとはいえない、 ③犯行当時歳と日の少年で、 内面の未熟さが顕著である、 ④家庭環境が不遇で生育環境 において同情すべきものがある、 ⑤被告人なりに一応反省の情が芽生えるに至ったものと評価できる、 ⑥矯正 教育による改善更生の可能性がないとは言い難いなど酌量すべき事情を摘示し、 過去の裁判例とも比較検討し て、 極刑がやむを得ないとまではいえない、 無期懲役に処した。 () 検察官 量刑不当を理由に控訴 差戻前控訴裁判所は、 第1審判決の量刑を是認 () 検察官 検察官の控訴を棄却した。 上告申立て 最高裁判所は、 差戻前控訴審判決は、 刑の量定が甚だしく不当、 これを破棄しなければ著しく正義に反する として、 差戻前控訴審判決を破棄し、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるかどうかにつ き更に慎重な審理を尽くさせるため、 当裁判所に差し戻した。 最高裁判所の説示の概要 ア 死刑制度を存置する現行法制の下では、 犯行の罪質、 動機、 態様殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性、 結果の重大性殊に殺害された被害者の数、 遺族の被害感情、 社会的影響、 犯人の年齢、 前科、 犯行後の情状等 各般の情状を併せ考察したとき、 その罪責がまことに重大であって、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地 からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、 死刑の選択をするほかないものといわなければならない。 被告人の罪責はまことに重大であって、 特に酌量すべき事情がない限り、 死刑の選択をするほかないものとい わざるを得ない。 イ 差戻前控訴審およびその是認する第1審判決が酌量すべき事情として掲げる事情のうち、 上記1 () ①②④⑤については、 死刑回避を相当とするような特に酌むべき事情と評価することはできない。 結局のところ、 斟酌するに値する事情といえるのは、 被告人が犯行当時歳になって間もない少年であり、 その可塑性から、 改善更生の可能性が否定されていないということに帰着すると思われるところ、 少年法 (平 成年法律第号による改正前のもの。 以下同じ) 条の趣旨に徴すれば、 この点は、 死刑を選択すべきか どうかの判断に当たって相応の考慮を払うべき事情ではあるが、 死刑を回避すべき決定的な事情であるとまで はいえず、 総合的に判断する上で考慮すべき事情にとどまる。 差戻前控訴審判決およびその是認する第1審判 決が酌量すべき事情として述べるところは、 これを個々的にみても、 また、 これらを総合してみても、 いまだ 被告人につき死刑を選択しない事由として十分な理由に当たると認めることはできず、 差戻前控訴審判決が判 示する理由だけでは、 その量刑判断を維持することは困難である。 ウ 以上によれば、 差戻前控訴審判決は、 量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果、 死刑の選択 を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく、 被告人を無期懲役に処した第 1審判決の量刑を是認したものであって、 その量刑は甚だしく不当であり、 これを破棄しなければ著しく正義 に反するものと認められる。 2 そこで、 当裁判所は、 上告審判決を受け、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無に ついて慎重な審理を尽くすべく、 回の公判を開いて事実の取調べ等をした。 ところで、 被告人は捜査段階の 当初を除いて、 第1審公判終了まで、 強姦および殺人の計画性を争ったほかは、 一貫して、 本件公訴事実を全 面的に認めていた。 そして、 差戻前控訴審においては、 6期日に被告人質問が行われたにもかかわらず、 犯行 自体については全く質問がされなかった。 また、 上告審においても、 公判期日が指定される以前は、 裁判所や弁護人に対し、 本件公訴事実を争うよう な主張や供述をしていなかったと窺われる (以下、 被告人の捜査段階、 第1審公判および差戻前控訴審公判に おける各供述を総称して 「被告人の旧供述」 ともいう)。 ところが、 被告人は、 当審公判で、 本件各犯行に至る経緯、 被害者および被害児に対する各殺害行為の態様、 殺意、 強姦および窃盗の犯意等について、 旧供述を一変させ、 以下のとおり、 本件公訴事実を全面的に争う内 容の供述をした (以下 「被告人の新供述」 ともいう)。 すなわち、 被告人が、 被害者方を訪れる前に、 沖田アパートの棟から7棟にかけて戸別訪問をしたのは、 人との会話を通じて寂しさを紛らわせるなどのためであり、 強姦を目的とした物色行為ではなかった、 被害者 を見て、 同女を通して亡くなった実母を見ており、 母親に甘えたいなどという気持ちから被害者に背後から抱 きついた、 同女の頚部を両手で絞めつけたことはなく、 仰向けの状態の同女の上になり、 その右胸に自分の右 頬をつけた状態で、 同女の右腕を自分の左手で押さえ、 自分の頭より上に伸ばした右手で同女の身体を押さえ ていたところ、 同女が動かなくなり、 見ると、 右手が逆手の状態で同女の首を押さえている状態であった、 混 乱した状態の中、 被害児の母親である被害者を殺めてしまったなどという自責の念から、 右ポケット内に入れ ていたこての紐を自分の左の手首と指に絡めるようにし、 右手で引っ張って締め、 自傷行為をしていたところ、 被害児が動かない状態になっているのに気が付いた、 被害児の首を絞めたという認織はない、 被害者に生き返っ て欲しいという思いから姦淫行為に及んだ、 被害者方に持っていった布テープ (本件記録中には 「ガムテープ」 という表示と 「布テープ」 という表示が混在しているが、 以下すべて 「布テープ」 と表示する) と間違えて被 害者の財布を被害者方から持ち出した、 被害者および被害児に対する殺意も強姦および窃盗の犯意もなかった というのである。 以上のとおり、 被告人の新供述は、 旧供述とは全く異なる内容であるところ、 死刑の選択を回避するに足り る特に酌量すべき事情の有無を検討するに当たり、 被告人が、 本件各犯行をどのように受け止め、 本件各犯行 とどのように向きあい、 自己のした行為についてどのように考えているのかということが、 極めて重要である ことは多言を要しない。 そこで、 当裁判所は、 被告人の新供述の信用性を判断するための証人尋問や、 被告人 の精神状態および心理状態に関する証人尋問等も行った。 本判決においても、 まず被告人の供述を概観した上で、 その信用性について検討する。 3 被告人の新供述に至るまでの供述経過は、 概略以下のとおりである。 () 被告人が本件で逮捕された当日である平成年4月日付けの被告人の警察官調書には、 被告人が、 被害者方で、 被害児を抱かせてもらっていて、 同児を床に落としたところ、 被害者が、 わざと落としたのだろ う、 警察に通報すると言って、 電話の方に行こうとしたので、 これを阻止しようと同女を倒して上に乗り、 左 手で首を絞め続けた。 その際、 作業服に入れていたカッターナイフが床に落ち、 それを同女が取ったので、 「やられるかも分からん」 と思って、 同女の首を力一杯絞め続けたところ、 同女が息をしなくなった、 その時、 被害児は死んでいたようだったので、 大人がやったように見せようと思い、 ベランダ近くにあった紐で同児の 首を絞め、 被害者の服を切ったり服を脱がせて自分の陰茎を同女の陰部に当てたら射精したなどと記載がある。 ところが、 その翌日に作成された被告人の同月日付け検察官調書には、 被害者をレイプしようとしたとこ ろ、 激しく抵抗されたことから、 黙らせるために同女の首を手で絞めて殺し、 その後、 レイプして射精した、 被害児が激しく泣き続けたので、 このままでは近所の人が来ると思い、 黙らせるために同児の首を紐で絞めて 殺した、 昨日刑事の前で話したときは、 レイプ目的という卑劣な理由で殺したということは、 人間としてどう しても言えず、 また、 レイプ目的ということを言うと、 罪がとても重くなるという気持ちがあり、 殺した本当 の理由が言えなかった、 本当のことを早く話して罪の償いをしたいという気持ちがあり、 検事からも、 正直に 話すことが本当の償いであると言われたこともあって、 本当のことを話そうと決心したなどと記載され、 被告 人の同月日付け警察官調書には、 警察官調書 (/) に記載された供述は嘘であり、 美人の奥さんと話し たい、 顔を見たい、 レイプしたいというのが本当だった、 昨日の朝から、 本当のことを話そうと思っていたが、 昼から山口に行くことになり、 初めて検事の前に座って、 検事から 「亡くなった2人のためには本当のことを 話すことが2人への償いになるよ」 と言われ、 レイプ目的でアパートヘ行き、 殺してしまったことを話した、 刑事にも本当のことを話しておかなければいけないので、 今からあの時のことを話すと前置きした上で、 本件 公訴事実を認める内容の供述が記載されている。 そして、 それ以降作成された供述調書には、 本件公訴事実に ついて一貫して認める供述が記載されている。 強姦が計画的なものであったか否かについて、 家庭裁判所から検察官に事件送致された後の6月日付け検 察官調書には、 本件当日昼過ぎころ自宅を出た後、 沖田アパートの3棟に向かう途中セックスしたい、 近所の アパートを回って美人の奥さんでもいれば話をしてみたい、 セックスができるかもしれない、 作業着を着てい るので、 工事か何かを装えば、 知らない家を訪ねても怪しまれないだろう、 押さえつければ無理矢理セックス ができるかもしれない、 布テープを使って縛れば抵抗されずにセックスができる、 カッターナイフを見せれば 怖がるだろうと考え始めたが、 まだ、 本当にそんなにうまくセックスなんてできるだろうかという半信半疑の ような状態であった、 その後、 排水検査を装って回っているうち誰も怪しまなかったため、 段々と、 これはい ける、 本当に強姦できるかもしれないと思うようになった、 被害者を強姦しようという思いが抑えきれないほ どに強くなったのは、 同女に部屋の中に入れてもらってからであるなどという供述が記載されている。 () 被告人は、 山口家庭裁判所での審判期日において、 本件殺人強姦致死、 窃盗の各事実は間違いない旨 述べた。 () 被告人は、 第1審において、 本件公訴事実を全面的に認める供述をした。 すなわち、 罪状認否において、 本件公訴事実について 「いずれも間違いありません。 ご家族の方と遺族の方 に大変申し訳ないことをしたと思っています」 と陳述し、 被告人質問において、 殺害および強姦の計画性は否 認したものの、 本件公訴事実自体は認める供述をした。 検察官による死刑求刑後の最終陳述も認める供述をし、 遺族への謝罪の言葉も述べた。 () 差戻前控訴審 本件犯行について供述していない。 弁護人作成の答弁書、 弁論要旨をみる限り、 強姦 の計画性の点を争うものの、 第1審判決が認定した罪となるべき事実自体について争っていない。 () 上告審においても、 平成年1月5日に提出された弁護人定者吉人同山口格之および同井上明彦連名 作成の答弁書をみる限り、 第1審判決が認定した罪となるべき事実について争っていなかった。 しかし、 平成 年月6日、 公判期日が平成年3月日午後1時分に指定された後、 同年2月日、 弁護士安田好弘を 弁護人に選任した旨の届出が、 同年3月3日、 弁護士足立修一を弁護人に選任した旨の届出がそれぞれなされ、 同月6日、 弁護人定者および同井上から、 弁護人を辞任する旨の届出がなされた (弁護人山口については、 既 に弁護人でなくなっていたことが窺われる) ところ、 弁護人安田および同足立連名作成の同月7日付け弁論期 日延期申請書には、 被告人から、 強姦の意思が生じたのは被害者を殺害した後であり、 捜査段階および第1審 の各供述は真実と異なるという申立てがあった旨記載され、 また、 同弁護人らは、 その作成に係る弁論要旨、 弁論要旨補充書、 「弁論要旨補充書その2」 および 「弁論要旨補充書その3」 と題する各書面において、 被害 者および被害児に対する各殺害行為の態様は、 第1審判決および差戻前控訴審判決が認定した事実と異なり、 被告人には殺意も強姦の故意もないなどとして、 差戻前控訴審判決には著しく正義に反する事実誤認がある旨 主張した。 そして、 上告審に提出された被告人作成の同年6月日付け上申書 (以下 「本件上申書」 という) にも、 披害者および被害児に対する各殺害行為の態様等について、 これら弁護人の主張と同趣旨の記載がある。 4 そこで、 被告人の新供述の信用性について、 以下検討する。 () 上記3で概観したとおり、 被告人は、 逮捕の2日後に本件公訴事実を認める内容の供述をしてから、 実に7年近くが経過して初めて、 旧供述が真実ではないという供述をするに至ったのであり、 特に第1審にお いては、 殺人および強姦の計画性を争いつつも、 本件公訴事実を全面的に認め、 本件を自白した経緯や心境等 についても、 上記検察官調書および警察官調書と同趣旨の内容を公判廷で任意に供述していたものである。 そして、 被告人は、 差戻前控訴審においても、 強姦の計画性の点を除き、 第1審判決が認定した罪となるべ き事実を争わなかったところ、 旧供述を翻し、 弁護人に対し新供述と同旨の供述を始めたのは、 上告審が公判 期日を指定した後のことである。 () 被告人は、 当審公判において、 旧供述が記載された供述調書の作成に応じた理由、 第1審公判で真実 を供述できなかった理由、 旧供述を翻して新供述をするに至った理由等について、 詳細に供述している。 核心 部分は、 以下のとおり要約する。 ア 平成年4月 日の検察官による取調べにおいて、 自分にはそのつもりはないけれども、 上と協議した 結果、 死刑という公算が高まってしまう、 生きて償いなさいと言われて涙を流し、 同検察官が作成した供述調 書に署名した。 検察官から、 本当のことを話すことが被害者らへの報いになると言われ、 本当のことを話すと いうのは、 検察官の言い分を認めることだと認識していた。 細かい事実関係の持つ意味も分からないままに取 調べが行われた。 以下 略 そして、 捜査官に押しつけられたり誘導されたりして、 捜査段階の供述調書が作成されたことを種々供述し ている。 イ 第1審で真実を話すことができなかった。 結果的に人を殺めてしまっている事実や、 姦淫している事実は、 自分自身がしたことであり揺るぎがないの で、 公訴事実を認めているところもあり、 殺人や強姦の態様等が裁判の結果に影響するという認識は全くなく、 それらの事実の重要性にまで考えが及ばなかった。 また、 初めて裁判所というものに臨むに当たって、 緊張状 態が大変高まっており、 すごく不安な状態であったし、 弁護人との事前の打合せが十分になされていなかった。 弁護人に対し強姦するつもりはなかったと話したが、 結果的にセックスしているわけだから、 争うと逆に不 利になるなどと言われ、 しっかりとは争ってもらえなかった。 弁護人から、 通常この事件は無期懲役だから、 死刑になるようなリスクがある争い方はしない方がいいと言われた。 罪状認否については、 その意味合いを全 く聞いていなかったし、 説明が不十分であった。 結果的に2人を殺めてしまっていることに変わりがないとい う認識を持っていたので、 言い逃れのような気がして、 弁護人に対し、 殺すつもりがなかったという言葉を用 いることができなかった。 法律的な知識がなく、 殺すつもりがあったかどうかが大切なことだということは、 全く分かっていなかった。 姦淫した理由が性欲を満たすためと述べたのは、 生き返らせようと思って姦淫した と言うと、 ばかにされると思ったからである。 ウ 差戻前控訴審の弁護人に対し、 事実関係特に犯行態様や計画性等が、 第1審判決で書かれている事実と は違うことを伝えた。 その中身全体ではなく、 強姦するつもりはなかったというところを、 どうにかしてもら えないかということを伝えた。 同弁護人に対し、 被害者方に入った後や被害者を殺害した後の時点でも、 当初 から一貫して強姦するつもりはなかったことを伝えた。 平成年2月から教誨を受けるようになり、 教誨師に対し事件の真相を話した。 そして、 平成年2月 エ に安田弁護士および足立弁護士と初めて接見した際、 安田弁護士から、 事件のことをもう一度自分の口から教 えて欲しいと言われ、 被害者に甘えたいという衝動が出て抱きついてしまったこと、 殺すつもりも強姦するつ もりもなかったこと、 右片手で押さえたこと、 被害者にスリーバーホールドをしたことなどを話し、 被害児に 紐を巻いたことは覚えていないことなどを話した。 安田弁護士から自分の供述調書を差し入れてもらい、 事件 記録を初めて読んで、 余りにも自分を見てもらえていないことに憤りを覚えた。 そして、 同年3月ころから、 事実と向き合い、 細かい経過を思い出して紙に書き表し、 勘違いや見落としをその都度修正するという作業を し、 同年6月から、 本件上申書の作成を始めた。 しかし、 旧供述を翻して新供述をするに至った理由等に関す る被告人の当審公判供述は、 以下に説示するとおり、 不自然不合理である。 (3) ア 以下 新供述と旧供述とは全く異なっている。 略 しかるに、 本件公訴が提起されてから安田弁護士らが上告審弁護人に選任されるまでの6年半以上もの間、 第1審弁護人、 差戻前控訴審弁護人および上告審弁護人に対し、 強姦するつもりがなかったということを除い て、 新供述のような内容の話を1回もしたことがないというのは、 余りにも不自然である。 被告人は、 第1審 弁護人と接見した際、 供述調書を見せられ、 ここが違う、 ここが正しいという確認をされた旨供述しており、 しかも、 検察官から、 供述調書の不服な部分等について、 後で供述調書を作成すると約束されたというのであ るから、 上記のように供述調書の内容を確認された機会に、 旧供述が記載された供述調書の誤りを指摘し、 新 供述で述べているような内容の話をしなかったということは考えられない。 以下 略 被告人は、 第1審判決および差戻前控訴審判決の言渡しを受けた際、 朗読される判決書の内容を聞いている ほか、 これらの判決書ならびに検察官作成の控訴趣意書および上告趣意書を読んで、 犯行態様や動機について 全く、 違うことが書かれているのは分かった旨供述していることに照らすと、 弁護人に対し、 上記各判決で認 定された事実が真実とは異なるなどとして、 その心情を伝えたり、 新供述で述べるような内容を話したりする こともなく、 死刑を免れたとはいえ、 無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。 以下 略 定者弁護士が差戻前控訴審の国選弁護人に選任された後の平成年6月日から平成年月6日に上告審 で公判期日が指定されてその旨弁護人に通知された翌7日までの間、 弁護人であった定者弁護士、 山口弁護士 または井上弁護士は、 被告人と回もの接見をしていることが認められる。 以下 略 多数回の接見を重ねた定者弁護士に対し、 強姦するつもりはなかったという点を除いて、 新供述で述べるよ うな内容の話をしなかったというのは、 まことに不自然である。 また、 被告人は、 差戻前控訴審の弁護人に対 し、 被害者を殺害した後の時点も含めて、 当初から一貫して強姦するつもりがなかったことを伝えたというの であるが、 そのような説明を受けた弁護人が、 死刑の可否が争われている重大事件において、 強姦の犯意を争 わないということは、 通常考えにくいことである。 同弁護人作成の答弁書および弁論要旨をみても、 強姦の計 画性を争うのみであり、 むしろ、 強姦の犯意を生じたのは犯行現場においてであるという趣旨の主張が記載さ れているところ、 そのような記載がされた理由について、 被告人は、 分からないと述べるにとどまっている。 なお、 被告人は、 差戻前控訴審において、 定者弁護人に対し、 強姦するつもりはなかったと言ってはいない とも供述しているところ、 このように供述が変遷すること自体不自然である。 さらに、 被告人が、 公訴提起後6年半以上もの間多数回にわたる接見にもかかわらず、 弁護人に対し、 新供 述で述べるような内容の話をしたことがなかったのに、 初めて接見した安田弁護士らから、 事件のことを話す ように言われるや、 新供述を話し始めたというのも不自然である。 以下 略 このような被告人の供述経過および弁護人との接見状況等にかんがみると、 被告人が、 上告審の公判期日が 指定されるまで維持していた旧供述を翻したのは、 まことに不自然である。 イ 被告人は、 生きて償いなさいと言ってくれた検察官がいたのに、 第1審で検察官が死刑を求刑するのを 聞いて、 大変裏切られた感が否めず、 ショックを受けた旨当審公判で供述している。 被告人が、 検察官から、 生きて償うように言われて、 事実とは異なる内容の供述調書の作成に応じたという のが真実であれば、 死刑求刑は検察官の重大な裏切り行為であり、 被告人が、 事実とは異なる内容の旧供述を 維持する必要は全くない上、 弁護人に対し、 検察官に裏切られたとして、 事案の真相を告げ、 その後の対応策 等について相談するはずである。 しかるに、 弁護人は、 弁論において、 本件公訴事実を争わなかったし、 被告 人も、 最終陳述において、 本件公訴事実を認めて、 遺族に対する謝罪の気持ちを述べたのであり、 検察官に対 する不満も何ら述べていない。 以下 ウ 略 被告人が、 安田弁護人から事件記録の差し入れを受けて、 ……憤りを覚え、 事実と向き合うようになっ た旨供述する。 以下 略 検察官の主張、 第1審判決及び差戻前控訴審判決の各認定事実が、 自分が真実と思っている事実と異なって いることは、 容易に分かるはずであるから、 事件記録を精査して初めて分かるという性質のものではない。 (4) 被告人の供述が変遷した理由は納得し難いが、 本件事案の内容にかんがみ、 さらに、 新供述の内容に ついて各犯行ごとに検討する。 ア 被害者に対する殺害行為について 第1審判決は、 被告人が、 仰向けに倒れた被害者に馬乗りになった状態で同女の頚部を両手で強く絞めつけ て殺害した旨認定した。 しかし、 この点に関する被告人の当審公判供述は、 以下に説示するとおり、 被害者の死体所見と整合せず、 不自然な点がある上、 旧供述を翻して以降の被告人の供述に変遷がみられるなど、 到底借用できない。 (ア) 略 (イ) 鑑定書について略 (ウ) 第1審判決は、 被告人の旧供述と関係証拠とを総合して事実を認定しているところ、 弁護人は、 大野 意見および上野意見等に依拠して、 第1審判決が認定した被害者の殺害行為の態様について、 被害者の死体所 見と矛盾があるなどとして、 第1審判決は、 殺害行為の態様を誤認しており、 ひいては殺意を認定したのも事 実の誤認である旨主張している。 しかし、 被告人の旧供述と被害者の死体所見との間に矛盾があるとはいえないのであって、 以下に説示する とおり、 被告人の旧供述は信用でき、 したがって、 被害者の殺害行為の態様および殺意の認定に当たり、 第1 審判決は事実を誤認していない。 以下 イ 略 被害者に対する強姦行為について 第1審判決は、 被告人が、 被害者を強姦しようと企て、 同女の背後から抱きつくなどしたところ、 同女が激 しく抵抗したため、 同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し、 同女を殺害して強いて姦淫した旨認 定したほか、 強姦について計画性があった旨認定している。 これに対し、 被告人は、 当審公判で、 性欲を満たすために被害者を姦淫したことや、 強姦の犯意および計画 性を否認する供述をした。 以下 略 被害者を通して亡くなった実母を見ており、 お母さんに甘えたい、 頭を撫でてもらいたいという気持ちから、 被害者の背後から抱きついた、 被害者が死亡していることに気付いた後、 山田風太郎の 「魔界転生」 という小 説にあるように、 姦淫行為をして精子を女性の中に入れることによって復活の儀式ができると思っており、 死 体に精子を入れることで亡くなった人が生き返るという考えを持っていたから、 被害者に生き返って欲しいと いう思いで同女を姦淫したなどと供述しているので、 この供述の信用性について検討する。 (ア) 被告人は、 当審公判で、 被害者を姦淫したのは、 性欲を満たすためではなく、 同女を生き返らせるた めであった旨供述する。 しかし、 被告人は、 被害者の死亡を確認した後、 同女の乳房を露出させて弄び、 さらに、 同女の陰部に自己 の陰茎を挿入して姦淫行為に及び射精しているところ、 これら一連の行為をみる限り、 被告人が、 性的欲求を 満たすため姦淫行為に及んだものと推認するのが合理的である。 しかも、 被告人は、 捜査段階のごく初期を除 いて、 姦淫を遂げるために被害者を殺害し、 姦淫した旨一貫して供述していた上、 第1審公判においても、 性 欲を満たすために姦淫行為に及んだ旨明確に供述した。 屍姦にまで及んだ理由を問われて 「怖いというより、 そのときには、 欲望の方が上だったと思います」 と供 述している。 また、 被告人の新供述によれば、 被告人は、 被害者を姦淫した後すぐに同女の死体を押入の中に 入れており、 同女の脈や呼吸を確認するなど、 同女が生き返ったかどうか確認する行為を一切していないとい うのであって、 当審公判で、 そのような確認行為をしなかった理由を問われて 「分かりません」 と供述するに とどまっている。 なお、 被告人は、 被害者が死亡した直後、 布テープで同女の両手首を緊縛し、 同女の鼻口部 を布テープを貼ってふさぐなどしており、 これは、 被告人に同女の生き返りを願う気持ちがあったということ にそぐわない行為であるとの感を免れない。 このような被告人の一連の行動をみる限り、 被害者を姦淫した目的が、 同女を生き返らせることにあったと みることはできない。 以下 略 さらに、 死亡した女が姦淫されることによって生き返るということ自体、 荒唐無稽な発想であって、 被告人 が、 被害者の死体を前にして実際にこのようなことを思いついたのか、 甚だ疑わしいというべきである。 また、 そのようなことを思った根拠として被告人が挙げた 「魔界転生」 の内容は……死亡した女性を姦淫して、 その 女性を生き返らせるというものとは相当異なっている。 その小説を読んだ記憶から、 死んだ女性を生き返らせ るために、 その女性を姦淫するという発想が浮かぶこともあり得ない。 被害者を姦淫したのは、 性欲を満たすためではなく、 同女を生き返らせるためだったという被告人の当審公 判廷の供述は、 到底信用できない。 (イ) 被告人は、 当審公判で、 被害者を通して亡くなった実母を見ており、 お母さんに甘えたい、 頭を撫で てもらいたいという気持ちから、 被害者に背後から抱きついた旨供述している。 しかし、 被害者に甘えるために抱きついたというのは、 同女の頚部を締めつけて殺害し、 性的欲求を満たす ため同女を姦淫したという一連の行為とは、 余りにもかけ離れている。 以下 略 (ウ) 以上説示したとおり、 被害者を通して亡くなった実母を見ており、 お母さんに甘えたいなどという気 持ちから被害者に抱きついたという被告人の当審公判供述は、 到底信用できない。 以下 略 弁護人は、 女性との性交渉の経験のない歳の少年である被告人が、 突如、 女性を強姦しようなどと思い立 つというのは、 疑問である旨主張する。 たしかに、 被告人の捜査段階の供述によれば、 被告人は、 自宅から自転車を止めていた沖田アパートの3棟 に向かう途中、 強姦によってでもセックスがしたいという気持ちになったという。 セックスがしたいという気持ちになったというのが唐突であることは否めない。 しかし、 第1審判決も説示 するとおり、 被告人は、 中学3年生のころから性行為に強い関心を抱くようになり、 ビデオや雑誌を見て自慰 行為にふけったり、 友人とセックスの話をしたりしていたところ、 次第に性衝動を募らせ、 早く性行為を経験 したいとの気持ちを強めていた。 そして、 被告人の捜査段階の供述によれば、 被告人は、 本件の約2週間前に就職して以降、 ほとんど自慰行 為をしておらず、 性的な欲求不満を募らせて悶々としていたことが認められることに照らすと、 被告人が、 性 交歩の経験のない少年であることを考慮しても、 突然、 強姦によってでもセックスがしたいという気持ちにな ることが、 あり得ないとはいえない。 (エ) そのほか弁護人、 被告人には、 強姦の犯意も計画性もない、 強姦行為が存在しないなどとして、 種々 主張するところを逐一検討しても、 これまで示した判断は左右されない。 ウ 被害児に対する殺害行為について (ア) 第1審判決は、 被告人が、 被害児を 「床に叩きつけるなどした上、 同児の首に所携の紐を巻き、 その 両端を強く引っ張って絞めつけた」 と認定した。 これに対し、 被告人は、 当審公判で、 被害児を床に叩きつけたことはない、 混乱した状態の中、 同児の母親 を殺めてしまったなどという自責の念から、 着ていた作業服右ポケット内にあったこて紐を自分の左の手首と 指に絡めるようにし、 右手で引っ張って締め、 自傷行為をしていたところ、 被害児が動かない状態になってい るのに気が付いた、 被害児の首を絞めたという認織はなく、 同児に紐を巻いたことすら分からない旨供述する ので、 この供述の信用性について検討する。 (イ) 床に叩きつけた行為について 以下に説示するとおり、 被告人が被害児を床に叩きつけたこと自体は動かしがたい事実。 以下 略 被告人が、 同児を天袋から出した後、 立ったままの状態で同児を床に叩きつけたとは考えにくく、 被告人が、 身を屈めたり、 上記犯行再現のように床に膝をついて中腰の格好になった状態で、 同児を床に叩きつけたと推 移するのが合理的である。 (ウ) ところで、 第1審判決は、 その 「量刑の理由」 の項において、 被害児を 「被告人の頭上の高さから居 間の床に叩きつけ」 と説示しているところ、 弁護人は、 この説示を論難する。 たしかに、 叩きつけ行為の態様は、 上記のとおり、 床に膝をついて中腰の格好になるなどして、 被害児を床 に叩きつけたのであるから、 第1審判決の上記説示は、 やや正確さに欠けるきらいがある。 しかし、 第1審判 決の上記説示は、 被告人が、 被害児を天袋から出した後、 その時点では、 被告人の頭上の高さにいた同児を床 に叩きつけたという一連の動作について説示したものと解することができるから、 この説示に誤りがあるとま ではいえない。 エ 以下 紐による絞頚について 略 (ア) しかし、 被告人が、 被害児の頸部にこて紐を二重に巻いた上、 右耳介の下で蝶結びにしたことは、 証拠 上明らかであり、 そのような動作をしたことの記憶が完全に欠落しているという被告人の当審公判供述は、 そ の内容自体が不自然不合理である。 しかも、 被告人の当審公判供述は、 被告人の旧供述に依拠した第1審判決 および差戻前控訴審判決の認定事実と全く異なる内容であるばかりか、 被害児を抱いている被害者の幽霊を見 たことなどは、 極めて特異な体験であり印象的な出来事であるにもかかわらず、 被告人は、 事件から8年以上 経過した当審公判に至って初めて、 そのような供述をしたのである。 差戻前控訴審の審理が終結するまでの間 に、 被告人が、 当審公判で供述するような内容の話を1回でも弁護人に話したことがあれば、 弁護人が、 被害 児に対する殺人の成否を争わなかったとは考えられない。 このような供述経過は、 極めて不自然不合理である。 そして、 被害者を殺害し強姦したことに関する被告人の当審公判供述が全く信用できないことも併せ考える と、 被害児に関する被告人の当審公判供述は到底信用できない。 オ 以下 窃盗について 略 被告人の当審公判供述は信用できないのであって、 弁護人の主張は前提を欠いている。 以下 カ 略 以上説示したとおり、 被告人の新供述は、 供述内容が旧供述から変遷した理由、 被害者および被害児の 各殺害行為の態様、 各犯行における故意 (犯意)、 他の証拠との整合性のいずれからみても信用できない。 他方、 被告人の旧供述は信用できるから、 これに依拠した第1審判決が認定した罪となるべき事実に事実の 誤認はない。 5 そこで、 量刑不当の主張について判断する。 検察官の論旨は、 被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑は、 死刑を選択しなかった点において、 著し く軽きに失して甚だしく不当であるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し、 当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 () 本件は、 当時歳の少年であった被告人が、 白昼、 排水管の検査を装ってアパートの1室に上がり込 み、 同室に住む当時歳の主婦 (被害者) を強姦しようとしたところ、 激しく抵抗されたため、 同女を殺害し た上で姦淫し (原判示第1)、 その後激しく泣き続ける当時生後か月の被害者の長女 (被害児) をも殺害し (同第2)、 さらに、 被害者管理の地域振興券等在中の財布1個を窃取した (同第3) という事案である。 () 原判示第1および第2の各犯行に至る経緯等は、 以下のとおりである。 以下 略 被告人は、 姦淫の目的を遂げるため、 必死に抵抗する被害者を殺害してまで姦淫した上、 身勝手で理不尽な 理由から、 いたいけな乳児をも殺害したものである。 いずれも極めて短絡的かつ自己中心的な犯行である。 し かも、 原判示第1の犯行は、 自己の性欲を満たすため、 被害者の人格を無視した卑劣な犯行である。 本件の動 機や経緯に酌量すべき点は微塵もない。 その各犯行態様は、 仰向けに倒されて必死に抵抗する被害者の頚部を 両手で強く絞め続けて同女を殺害した上、 万一の蘇生に備えて、 布テープを用いて同女の両手首を緊縛したり 鼻口部をふさいだりし、 カッターナイフで下着を切り裂くなどして、 乳房を弄んだ上、 姦淫を遂げ、 この後被 害児が、 被害者にすがりつくようにして激しく泣き続けていたことを意にも介さなかったばかりか、 原判示第 1の犯行後、 殺意をもって、 同児を仰向けに床に叩きつけるなどした上、 なおも泣きながら母親の死体にはい 寄ろうとする同児の首に紐を巻いて絞めつけ、 同児をも殺害したものである。 被告人は、 強姦および殺人の強固な犯意の下に、 何ら落ち度のない被害者ら2名の生命と尊厳を相次いで踏 みにじったものであり、 冷酷、 残虐にして非人間的な所業であるというほかない。 被害者および被害児は死亡しており、 結果が極めて重大であることはいうまでもない。 被害者は、 その夫と 深い愛情で結ばれ、 被害児の成長を何よりも楽しみにしながら、 一家3人で、 つつましいながらも平穏で幸せ な生活を送っていたにもかかわらず、 最も安全であるはずの自宅において、 被告人の凶行により、 歳の若さ で突如として絶命させられたものであり、 その苦痛や恐怖、 無念さは察するに余りある。 被告人を排水検査の 作業員と信じて室内に入らせたばかりに、 理不尽な暴力を受け、 かたわらで被害児が泣いているにもかかわら ず、 同児を守るどころか何もしてやれないまま、 同児を残して事切れようとするときの被害者の心情を思うと 言葉もない。 被害児は、 夏の大きな美しい夕陽のように人を温かく包み込む優しさを持った人物になるように という願いを込めて 「夕夏」 と名づけられ、 両親の豊かな愛情に育まれて健やかに成長しており、 あと少しで 1人歩きができるまでになっていた。 何が起こったのかさえも理解できず、 わずか生後か月で、 余りにも短 い生涯を終えたものであり、 まことに不憫である。 一度に妻と子を失った被害者の夫や、 娘と孫を亡くした被 害者の母親をはじめ、 遺族の悲嘆の情や喪失感、 絶望感は甚だしく、 憤りも激しい。 しかるに、 被告人は、 慰 謝の措置といえるようなことを一切していない。 当然のことながら遺族の処罰感情は峻烈を極めている。 被害者の夫 (被害児の父) および母親 (被害児の祖 母) は、 当審での意見陳述において、 事件後8年以上経過した現在でも癒えることのない悲嘆の情等を切々と 語り、 被告人が旧供述を翻して新供述をするに至ったことに対する失望感等を述べ、 峻烈な処罰感情を表明し ている。 また、 原判示第3の窃盗は、 原判示第1、 第2の各犯行後、 被害者方から逃走する際、 地域復興券や小銭の 入った財布を持ち去ったものである。 被告人は、 地域振興券等を小遣いとして使おうなどと考えて、 室内にあった財布を盗んだものであり、 その 利欲的な動機に酌むべき点はない。 被告人は、 被害者らを殺害した後犯行の発覚を遅らせるため、 被害児の死体を押入の天袋に投げ入れ、 被害 者の死体を押入の下段に隠すなどしたほか、 被害者方から、 自分の指紋のついた洗浄剤スプレーやペンチを持 ち出し隠匿するなど、 罪証隠滅工作をした。 また、 窃取した財布の中にあった地域振興券でカードゲーム用の カードや菓子類を購入するなどしており、 犯行後の情状も芳しくない。 そして本件は、 住宅地域内の社宅アパートの団地内で、 白昼、 ごく普通の家庭の母子が、 自らには何の責め られるべき点もないのに、 自宅で惨殺された事件として、 地域住民や社会に大きな衝撃と不安を与えたもので あり、 この点も軽視できない。 以上によれば、 被告人の刑事責任は極めて重大であるというほかない。 () そこで、 酌量すべき事情について検討する。 ア 被告人は、 布テープやこて紐を用意して携帯するなど、 強姦について相応の計画を巡らせてはいたもの の、 その計画の程度は戸別訪問を始めたときはいまだ漠然としたものであり、 被告人自身も、 そのようなこと が可能であるかどうか半信半疑の状態であって、 なりゆきによっては強姦に及ぼうという程度の気持ちであっ たと認められ、 戸別訪問開始当初から絶対に強姦をしようという強固な意思を有していたとまでは認められな い。 また、 事前に被害者らを殺害することまでは予定しておらず、 被害者に激しく抵抗され、 あるいは、 被害 児が激しく泣き続けるという事態に直面して殺意を形成したにとどまることは否定できないから、 各殺害につ いては事前に計画されたものとはいえない。 もっとも、 これらの点は、 戸別訪問開始のときから強姦実行を確定的に決意し、 あるいは当初から被害者ら を殺害することをも計画していた場合と対比すれば、 その非難の程度に差異があるものの、 被告人は、 強姦と いう凶悪事犯を計画し、 被害者方に入ってからは強姦の意思を強固にし、 その実行に当たり、 反抗抑圧の手段 ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して次々と実行し、 それぞれ所期の目的も達しているので あって、 各殺害が偶発的なものといえないことはもとより、 冷徹にこれを利用したものであることが明らかで あることにかんがみると、 上告審判決が指摘するとおり、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌最すべき事情 といえるものではない。 イ 被告人には、 前科はもとより、 見るべき非行歴も認められず、 本件以前に家庭裁判所に事件が係属した こともない。 幼少期に、 実母が実父から暴力を振るわれるのを見て、 かばおうとしたり、 祖母が寝たきりにな り介護が必要な状態になると、 その排泄の始末を手伝うなど、 心優しい面もある。 ウ 被告人の生育環境をみると、 幼少期より実父から暴力を受けたり、 実父の実母に対する暴力を目の当た りにしてきたほか、 中学時代に実母が自殺するなど、 同情すべきものがある。 また、 実母の死後、 実父が年若 い外国人女性と再婚し、 本件の約3か月前には異母弟が生まれるなど、 これら幼少期からの環境が、 被告人の 人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できない。 もっとも、 被告人は、 経済的に何 ら問題ない家庭に育ち、 高校教育も受けることができたのであるから、 生育環境が特に劣悪であったとはいえ ない。 エ 被告人は、 犯行当時歳と日の少年であった。 そして、 少年法条は、 犯行時歳未満の少年の行為 については死刑を科さないものとしており、 その趣旨に照らし、 被告人が犯行時歳になって間もない少年で あったことは、 量刑上十分に考慮すべきである。 また、 被告人は、 本件の約1か月前に高校を卒業しており、 知能水準も中程度であって、 知的能力には問題がないものの精神的成熟度は低い。 オ 弁護人は、 刑法条、 少年法条等を根拠として、 少年の責任能力とは、 犯行時にどの程度精神的に成 熟していたかを問い、 その成熟度 (未熟さ) についての可塑性を問うものであり、 少年の刑事責任を判断する 際は、 一般の責任能力とは別途、 少年の責任能力すなわち精神的成熟度および可塑性に基づく刑事責任判断が 必要となる旨主張し、 歳以上の年長少年についても、 限定責任能力 (精神的未成熟・可塑性の存在) の推定 の下、 少年独自の責任能力について実質的な判断が要請され、 その結果、 精神的成熟度がいまだ十分ではなく、 可塑性が認められることが証拠上明らかになった場合には、 少年法 条を準用して、 死刑の選択を回避するか、 限定責任能力を量刑上考慮すべきである旨主張する。 しかし、 「少年の責任能力」 という一般の責任能力とは別の概念を前提とし、 年長少年について限定責任能 力を推定する弁護人の主張は、 独自の見解に基づくものであって採用し難い。 また、 少年の刑事責任を判断す る際に、 その精神的成熟度および可塑性について十分考慮すべきではあるものの、 少年法条は、 死刑適用の 可否につき歳未満か以上かという形式的基準を設けるほか、 精神的成熟度および可塑性といった要件を求め ていないことに徴すれば、 年長少年について、 精神的成熟度が不十分で可塑性が認められる場合に、 少年法 条を準用して、 死刑の選択を回避すべきであるなどという弁護人の主張には賛同し難い、 たしかに、 少年調査 記録でも指摘されているように、 独り善がりな自己中心性が強いことや、 衝動の統制力が低いことなど、 被告 人の人格や精神の未熟が、 本件各犯行の背景にあることは否定し難い。 しかしながら、 既に説示した本件各犯 行の罪質、 動機、 態様、 結果にかんがみると、 これらの点は、 量刑上十分考慮すべき事情ではあるものの、 被 告人が犯行時歳になって間もない少年であったことと合わせて十分斟酌しても、 死刑の選択を回避するに足 りる特に酌量すべき事情であるとまではいえない。 弁護人は、 少年である被告人が、 児童期の父親による虐待や、 母子一体関係、 共生関係にあった実母の自殺 等によって、 精神的成長が阻害されて停留しており、 その精神の未熟さ等によって対処能力を欠いていたため、 事件を拡大させて、 被害者らを死亡させた旨主張する。 たしかに、 上記のとおり、 被告人の人格や精神の未熟が本件各犯行の背景にあることは否定し難いものの、 弁護人の上記主張は、 被害者に実母を投影して甘えたくなり抱きついたところ、 抵抗にあってパニック状態に 陥って、 被害者を死に至らしめ、 更に、 心因性の幻覚に襲われ、 被害児をも死に至らしめた後被害者を生き返 らせるために同女を屍姦したなどという被告人の新供述を前提とするものであり、 被告人の新供述が信用でき ない以上、 その前提を欠いている。 なお、 少年調査記録には、 (絵画統覚検査) の結果として 「いわゆる罪悪感は浅薄で未熟であり、 発 達レベルは4、 5歳と評価できる」 と記載されているところ、 の結果のみから精神的成熟度を判断する のは相当でない上前後の文脈に照らすと、 この記載は、 主として被告人の罪悪感に関する発達レベルを評価し たものと解される。 カ 当審における事実取調べの結果によれば、 被告人が、 上告審の公判期日指定後、 遺族に対し謝罪文を送 付したほか、 弁護人を通じ原判示第3の窃盗の被害弁償金円を送付したこと、 当審においても、 請願作業 をして得た作業報奨金円を弁護人を通じ遺族に対し被害弁償金として送付したこと、 上告審係属中の平成 年2月以降、 自ら希望して、 おおむね月1回の頻度で教誨師による教誨を受けていることが認められる。 ま た、 被告人は、 当審公判において、 これまでの反省が不十分であったことを認める供述をし、 遺族の意見陳述 を聞いた後、 大変申し訳ない気持ちで一杯であり、 生きて生涯をかけ償いたい旨涙ながらに述べているほか、 強盗強姦殺人罪等を犯した無期懲役受刑者との文通を通じて深い感銘を受け、 遺族に対する謝罪、 償い、 反省 等について考えを深めるきっかけを得たなどと述べている。 キ ところで、 第1審判決は、 酌量すべき事情として、 ①被告人の犯罪的傾向が顕著であるとはいえないこ と、 ②被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価でさることを摘示しているので、 この点に ついて検討する。 (ア) ①の点については、 被告人には本件以前に前科や見るべき非行歴は認められないものの、 被告人は、 いとも安易に見ず知らずの主婦をねらった強姦を計画した上その実行の過程において、 格別ためらう様子もな く被害者らを相次いで殺害している。 そして、 そのような凶悪な犯行を遂げたにもかかわらず、 被害者の財布 を窃取したほか、 被害者らの死体を押入や天袋に隠すなどの犯跡隠蔽工作をした上で逃走し、 さらには、 窃取 した財布内にあった地域振興券でカードゲーム用カード等を購入するなどしていることに照らすと、 その犯罪 的傾向には軽視できないものがあるといわなければならない。 (イ) また、 ②の点については、 被告人は、 捜査のごく初期を除き、 基本的には犯罪事実を認めて反省の弁 を述べ、 遺族に対する謝罪の意思を表明していたのであり、 第1審の公判審理を経るに従って被告人なりの反 省の情が芽生え始めていたものである。 もっとも、 少年審判段階を含む差戻前控訴審までの被告人の言動、 態 度等をみる限り、 被告人が、 遺族らの心情に思いを致し、 本件の罪の深刻さと向き合って内省を深め得ていた と認めることは困難であり、 被告人は、 反省の情が芽生え始めてはいたものの、 その程度は不十分なものであっ たといわざるを得ない。 そして、 被告人は、 上告審において公判期日が指定された後、 旧供述を一変させて本件公訴事実を全面的に 争うに至り、 当審公判でも、 その旨の供述をしたところ、 既に説示したとおり、 被告人の新供述が到底信用で きないことに徴すると、 被告人は、 死刑に処せられる可能性が高くなったことから、 死刑を免れることを企図 して、 旧供述を翻した上、 虚偽の弁解を弄しているというほかない。 被告人の新供述は、 原判示第1の犯行が、 殺人および強姦致死ではなく傷害致死のみである旨主張して、 その限度で被害者の死亡について自己に刑事責 任があることを認めるものではあるものの、 原判示第2の殺人および第3の窃盗については、 いずれも無罪を 主張するものであって、 もはや、 被告人は、 自分の犯した罪の深さと向き合うことを放棄し、 死刑を免れよう と懸命になっているだけであると評するほかない。 被告人は、 遺族に対し謝罪文等を送付したり、 当審公判に おいて、 遺族に対する謝罪や反省の弁を述べたりしてはいるものの、 それは表面的なものであり、 自己の刑事 責任の軽減を図るための偽りの言動であるとみざるを得ない。 本件について自己の刑事責任を軽減すべく虚偽 の供述を弄しながら、 他方では、 遺族に対する謝罪や反省を口にすること自体、 遺族を愚弄するものであり、 その神経を逆撫でするものであって、 反省謝罪の態度とは程遠いというべきである。 なお、 第1審判決は、 公 判審理を経るにしたがって、 被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価できるなどとし、 家 庭裁判所の調査においても、 その可塑性から、 改善更正の可能性が否定されていないことをも併せ考慮して、 矯正教育による改善更生の可能性がないとはいえないなどと判断し、 無期懲役刑を選択したものであり、 差戻 前控訴審判決は、 被告人が、 知人に対し、 本件を茶化したり、 被害者らの遺族を中傷するかのごとき表現を含 む手紙を何通も書き送っていることを踏まえながらも、 第1審判決の判断を是認したものである。 両判決は、 犯行時少年であった被告人の可塑性に期待し、 その改善更生を願ったものであるとみることができる。 ところ が、 被告人は、 その期待を裏切り、 差戻前控訴審判決の言渡しから上告審での公判期日指定までの約3年9か 月間反省を深めることなく年月を送り、 その後は、 本件公訴事実について取調べずみの証拠と整合するように 虚偽の供述を構築し、 それを法廷で述べることに精力を費やしたものである。 被告人が、 そのような態度に出 たのは、 名を超える弁護士が弁護人となり、 被告人の新供述について証拠との整合性を検討し、 熱心な弁護 活動をしてくれることから、 次第に、 虚偽の供述をすることによって自己の刑事責任が軽減されるかもしれな いという思いが生じ、 折角芽生えた反省の気持ちが薄れていったのではないかとも考えられないではない。 し かし、 これらの虚偽の弁解は、 被告人において考え出したものとみるほかないところ、 当審公判で述べたよう な虚偽の供述を考え出すこと自体、 被告人の反社会性が増進したことを物語っているといわざるを得ない。 現時点では、 被告人が、 反省していると評価することはできず、 反省心を欠いているというほかない。 そし て、 自分の犯した罪の深刻さに向き合って内省を深めることが、 改善更生するための出発点となるのであるか ら、 被告人が当審公判で虚偽の弁解を弄したことは、 改善更正の可能性を皆無にするものではないとしても、 これを大きく減殺する事情といわなければならない。 () 以上を踏まえ、 死刑選択の可否で検討するに、 姦淫の目的を遂げるため、 被害者を殺害して姦淫した 上いたいけな乳児をも殺害した各犯行の罪質は、 極めて悪質であり、 2名を死亡させた結果も極めて重大であ ること、 極めて短絡的かつ自己中心的な犯行の動機や経緯に酌むべき点は微塵もないこと、 各犯行の態様は、 強固な犯意に基づく冷酷、 残虐にして非人間的なものであること、 両名を殺害した後、 窃盗をしたほか、 罪証 隠滅工作をするなど、 犯行後の情状も芳しくないこと、 遺族の被害感情は峻烈を極めていること、 社会的影響 も大きいことなどの諸般の事情を総合考慮すれば、 被告人の罪責はまことに重大であって、 各殺害の計画性が 認められないこと、 被告人の前科・非行歴、 生育環境・犯行当時歳になって間もない少年であること、 精神 的成熟度、 改善更生の可能性、 その他第1審判決後の事情等、 被告人のために酌量すべき諸事情を最大限考慮 しても、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも、 極刑はやむを得ないというほかない。 当裁判所は、 上告審判決を受け、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の有無について慎重に 審理し、 弁護人請求の証人4名、 検察官請求の証人1名を取り調べ、 被告人質問を6期日にわたって実施した ほか、 多くの証拠を取り調べたものの、 第1審判決が認定した罪となるべき事実はもとより、 基本的な事実関 係については、 上告審判決の時点と異なるものはなかったといわざるを得ない。 むしろ、 被告人が、 当審公判 で、 虚偽の弁解を弄し、 偽りとみざるを得ない反省の弁を口にしたことにより、 死刑の選択を回避するに足り る特に酌量すべき事情を見出す術もなくなったというべきである。 今にして思えば上告審判決が、 「弁護人ら が言及する資料等を踏まえて検討しても、 上記各犯罪事実は、 各犯行の動機、 犯意の生じた時期、 態様等も含 め、 第1、 2審判決の認定、 説示するとおり揺るぎなく認めることができるのであって、 指摘のような事実誤 認等の違法は認められない」 と説示し、 「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるかどうか につき更に慎重な審理を尽くさせる」 と判示したのは、 被告人に対し、 本件各犯行について虚偽の弁解を弄す ることなく、 その罪の深刻さに真摯に向き合い、 反省を深めるとともに、 真の意味での謝罪と贖罪のためには 何をすべきかを考えるようにということをも示唆したものと解されるところ、 結局、 上告審判決のいう 「死刑 の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」 は認められなかった。 以上の次第であるから、 被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑は、 死刑を選択しなかった点において、 軽過ぎるといわざるを得ない。 論旨は理由がある。 そこで、 刑事訴訟法条1項、 条により第1審判決を破棄することとし、 同法条ただし書に従い当 裁判所において更に判決する。 第1審判決が認定した罪となるべき事実に以下のとおり法令を適用する。 参考 山口の母子殺害、 弁護士欠席で口頭弁論開けず…最高裁 (3月日 ) 山口県光市の本村洋さん () 宅で年、 妻 (当時歳) と長女 (同か月) が殺害された事件で殺人罪 などに問われ、 1、 2審で無期懲役の判決を受けた同市内の元会社員 () (犯行時歳) について、 最高裁 第3小法廷は日、 死刑を求める検察側の上告を受けた口頭弁論を開こうとした。 だが弁護士が2人とも出廷 せず、 弁論を開くことができなかった。 改めて4月日に弁論期日を指定したが、 死刑求刑の事件で弁護士の出廷拒否は異例。 訴訟遅延行為に当た る可能性もあり、 浜田邦夫裁判長は法廷で 「極めて遺憾」 と、 弁護士を強く非難する見解を読み上げた。 この事件では、 書面審理中心の最高裁が、 弁論を開くことを昨年月に決めたことで、 死刑を相当とする判 決になる可能性が出ている。 死刑廃止運動を進める安田好弘、 足立修一両弁護士が、 今月6日に辞任した弁護 士に代わって就任。 「日本弁護士連合会が開催する裁判員制度の模擬裁判のリハーサルで、 丸1日拘束される」 との理由で、 この日の法廷を欠席した。 これに対し、 検察官は法廷で、 「審理を空転させ、 判決を遅らせる意図なのは明白」 と述べ、 弁論を開いて 結審するよう要請。 浜田裁判長は 「正当な理由のない不出頭」 と述べたが、 結審は見送った。 安田弁護士らは今月7日付で、 弁論を3か月延期するよう求める申請書も最高裁に提出しているが、 翌日却 下されていた。 安田弁護士はこの日、 「被告の言い分に最近変化があり、 接見や記録の検討を重ねる時間が必 要。 裁判を長引かせる意図はない」 とする声明を出した。 ( 年3月日時4分 第三 読売新聞) 死刑判決を巡る諸問題 一 死刑選択の基準 最高裁昭和,7,8②判決 (判決要旨は、 Pの ア永山判決に記載した。) この判決に死刑選択の基準が示され、 爾来、 裁判所は死刑選択の判断をこの基準に依っていた。 二 この基準に対する判断の多様化 しかし、 基準として引用される判決は同一であっても、 それを引く裁判官によって、 理解が様々であり、 基準でありながら、 幅広い適用がなされ、 必ずしも画一的な基準とは言い難い様相を呈してきた。 例えば 1 「結果の重大性 被害者の数」 が基準の一つとして挙げられている。 「被害者の数」 と示されたことから、 殺害された被害者が1人 の場合、 死刑基準から外れるような解釈が行われるようになった。 2 「罪刑の均衡の見地からも、 一般予防の見地からも」 という指摘があるが、 犯罪行為と刑罰の均衡を勘案するのに、 犯罪のもたらした結果や影響を含め犯 罪行為自体の客観的な悪質性に主眼を置くか、 被告人の反省があるか、 規範的な人間性が残されている か、 生育過程で生活環境が劣悪であったかなどの主観的・個別的事情を重く見るかによって、 死刑選択 の判断が異なった。 三 方向を示した最高裁の判断 1 検察官5件の上告 検察官は、 平成9年から年にかけ上告した5件の上告趣意書の中で、 最高裁昭和,7,8②判決で示され た基準は、 本来明確なものであり、 その後もこれを踏襲して確立したものとなっていたが、 問題となった裁判 所の判断は、 徒に判断を曲げ、 基準を曖昧化し、 死刑回避を導いたと、 主張した (P ア 死刑判決を求め て、 検察官が上告した事例を参照)。 その結果、 最高裁は、 1件のみ原判決を破棄し控訴審へ差し戻したが、 他の4件は、 上告を棄却した。 しかし、 これらの判決は、 前記最高裁昭和,7,8②判決で示された死刑基準 を改めて引き、 多様化された解釈で示された基準ではなく、 本来の画一的な基準を示した。 それを明確に判示したのが次の最高裁判決である。 このことは、 既に同判決を引き、 縷々述べた (P参照) 最高裁平成, , ②判決 いわゆる国立市主婦殺害事件 「殺害された被害者が1名の事案においても、 ……諸般の情状を考慮して、 極刑がやむを得ないと認められ る場合があることはいうまでもない。」 「原判決が指摘する右のような主観的事情は、 被告人のために酌むべき情状であるとしても、 それらを過度 に重視することは適当ではない。」 この最高裁判決を受けて、 その後のいわゆる 「お礼参り殺人事件」 において、 無期懲役とした東京地裁判決 を、 東京高裁判決は破棄して死刑を言い渡した。 ↓ 東京地裁平成,5,判決 無期懲役 東京高裁平成,2,判決 破棄自判・死刑 お礼参り殺人事件 最高裁平成,,②判決上告棄却 このことも、 既に詳述した通りである。 (P ウ 2 一連の検察官上告後の裁判の動向 参照)。 光市母子殺害事件 山口地裁平成,3,判決 無期懲役 広島高裁平成 ,3, 判決 控訴棄却・上告 最高裁平成,6,③判決 破棄差戻 広島高裁平成,4,判決 一審判決破棄・死刑 各裁判所の判断は、 P(イ) 光市母子殺害事件に詳述。 四 光市母子殺害事件差戻控訴審判決を中心とした考察 広島高裁平成,4,判決 一審判決破棄・死刑 この差戻控訴審判決は、 犯行の状況等を子細に検討し、 「姦淫の目的を遂げるため、 被害者を殺害して姦淫 した上いたいけな乳児をも殺害した各犯行の罪質は、 極めて悪質であり、 2名を死亡させた結果も極めて重大 であること、 極めて短絡的かつ自己中心的な犯行の動機や経緯に酌むペき点は微塵もないこと、 各犯行の態様 は、 強固な犯意に基づく冷酷、 残虐にして非人間的なものであること、 両名を殺害した後、 窃盗をしたほか、 罪証隠滅工作をするなど、 犯行後の情状も芳しくないこと、 遺族の被害感情は峻烈を極めていること、 社会的 影響も大きいことなどの緒般の事情を総合考慮すれば、 被告人の罪責はまことに重大であること」 を先ず認め ている。 その上で、 最高裁が原判決を破棄差戻しするに当たり、 「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事 情」 の有無について慎重な審理を尽くさせるとしているので、 この酌量すべき事情の有無について検討してい る。 これを、 論点毎に捉えて検討する。 1 殺意の形成 事前の計画性の判断 差戻控訴審は、 「被告人は、 強姦について相応の計画を巡らせてはいたものの、 ……なりゆきによっては強 姦に及ぼうという経度の気持ちであったと認められ、 戸別訪問開始当初から絶対に強姦をしようという強固な 意思を有していたとまでは認められない。 また、 事前に被害者らを殺害することまでは予定しておらず、 被害 者に激しく抵抗され、 あるいは、 被害児が激しく泣き続けるという事態に直面して殺意を形成したにとどまる ことは否定できないから、 各殺害については事前に計画されたものとはいえない。」 と認定している。 これは、 強姦殺人、 強盗殺人の犯罪類型でよく認められる例である。 当初は、 強姦、 強盗の意図は持っていたが、 殺意 まではなかったのに、 被害者の激しい抵抗にあい、 強姦、 強盗の犯行を遂げるために、 殺意を持つに至ったと いう例は多い。 例えば、 先に引用した国立市主婦殺害事件の最高裁判決 (最高裁平成,,②判決) でも、 「本件強盗強姦・強盗殺人の犯行において、 強盗強姦の点については、 計画的犯行であり、 犯行遂行意思が強 固であったとはいえ、 殺人の点については、 被害者が被害を警察に届け出そうな場合には殺害しようという殺 意を徐々に形成し、 強盗強姦の実行に着手した後、 同女から叫ばれるなどしたことから、 右殺意を確定的に固 めたものであり、 それが事前に周到に計画されたものとまではいい難いものがある。」 としている。 このよう に殺意の形成経過を認定した上、 これを犯情として評価した場合、 次のような見方になる。 一つは、 当面検討 している光市母子殺害事件の最高裁判決差戻控訴審判決の見方である。 最高裁判決は、 「被告人は、 強姦とい う凶悪事犯を計画し、 その実行に際し、 反抗抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意し て次々と実行し、 それぞれ所期の目的も達しているのであり、 各殺害が偶発的なものといえないことはもとよ り、 冷徹にこれを利用したものであることが明らかである。 してみると、 本件において殺害についての計画性 がないことは、 死刑回避を相当とするような特に有利に酌むべき事情と評価するには足りないものというべき である。」 と言い、 差戻控訴審も、 これを受け、 同様な判断を示している。 即ち、 「戸別訪問開始のときから強 姦実行を確定的に決意し、 あるいは当初から被害者らを殺害することをも計画していた場合と対比すれば、 そ の非難の程度に差異があるものの、 被告人は、 強姦という凶悪事犯を計画し、 被害者方に入ってからは強姦の 意思を強固にし、 その実行に当たり、 反抗抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して 次々と実行し、 それぞれ所期の目的も達しているのであって、 各殺害が偶発的なものといえないことはもとよ り、 冷徹にこれを利用したものであることが明らかであることにかんがみると、 上告審判決が指摘するとおり、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情といえるものではない。」 としている。 ところで、 もう一 つの国立市主婦殺害事件の最高裁判決は、 強盗強姦、 強盗殺人事件の見方を二分し、 「強盗強姦の点は計画的 犯行であり、 犯行遂行意思が強固であった」 と認めつつ、 殺人の点については、 前示したように、 「殺意が事 前に周到に計画されたものとまで言い難い」 としている。 そして、 「被告人の前科や余罪をみても、 性欲や金 銭欲に基づく犯罪への親近性が顕著であるものの、 他人の殺害又は重大な傷害を目的とした犯行はこれまでに なく、 この種の犯罪への傾向が顕著であるとはいえない。」 として、 「その他、 死刑を選択するか否かを判断す る際に考慮すべき前記諸事情を全般的に検討すると、 被告人を無期懲役に処した原判決を破棄しなければ著し く正義に反するとまでは認められない。」 とした。 光市母子殺害事件の最高裁判決と差戻控訴審判決が、 殺意が事前に計画されたものでないことを認めつつも、 現場で殺意を形成し次々と実行して所期の目的を達したことを、 偶発的な殺害行為でないと評価しているのと 差があるように思われる上、 犯罪性向も強盗、 強姦と殺人とに分けて考察しているのも特徴がある。 しかしな がら、 これらの事例が示すように、 強盗罪、 強姦罪の犯人は、 被害者の激しい抵抗にあったり、 犯行が発覚す る恐れがあったりすると、 殺害にまで及ぶ例が多い。 犯行の流れとして見ると、 強盗罪、 強姦罪と殺人罪を二 分して計画性、 犯意の強固さについて評価することが必ずしも犯罪事実の核心を的確に評価し、 量刑判断して いるとは言えない場合があるように思われる。 光市主婦殺害事件の最高裁判決、 差戻控訴審判決は、 この点で も正鵠を得ている。 もう一つ、 国立市主婦殺害事件の最高裁判決で指摘したい点は、 「被告人の前科や余罪をみても、 性欲や金 銭欲に基づく犯罪への親近性が顕著であるものの、 他人の殺害又は重大な傷害を目的とした犯行はこれまでに なく、 この種の犯罪への傾向が顕著であるとはいえない。」 としている点である。 しかし、 被告人の前科、 前 歴は、 「中学2年時には、 女子小学生に対する強制わいせつ等の非行により、 北海初等少年院に送致されて約 2年間収容され、 中学卒業の兄を頼って上京し、 塗装工として働いたが、 空巣窃盗や強盗の非行により家庭裁 判所に送致され、 成人後の昭和年月日、 東京地方裁判所において、 窃盗 (空巣件) 等、 暴行 (深夜エ レベーター内において女性の首を締めるなどした) 等の罪により、 懲役2年6月・4年間執行猶予の判決を受 け、 故郷に戻ったが、 右判決の1週間後には、 白昼、 留守番中の 歳の女性に対し、 包丁を突きつけて脅迫し、 両手を縛り、 猿ぐつわをするなどした上、 姦淫し、 処女膜裂創の傷害を負わせる強姦致傷の犯行に及び、 同年 月日、 旭川地方裁判所において懲役3年6月に処せられ、 前記執行猶予が取消された刑期をも併せて函館 少年刑務所に服役した。 被告人は、 昭和年5月4日、 右刑務所を仮出獄後、 再度上京したが、 その翌日、 喫 茶店で女性の後頸部等に咬みつき、 頸部を締めるなどして傷害を負わせる事件を起こして、 罰金八万円に処せ られた。」 と言うものである。 しかも、 国立市主婦殺害事件の起訴時には、 余罪として1人暮らしの女性に対 する強盗強姦事件や窃盗事件が併せて起訴されている。 この前科、 前歴を見ると、 最高裁判決が言うように、 「他人の殺害又は重大な傷害を目的とした犯行はこれまでになく、 この種の犯罪への傾向が顕著であるとはい えない。」 と安易に言い得るのか疑問である。 殺害はともかく重大な傷害を目的とした犯行はなかったと言え るであろうか。 前科の強姦致傷事件の包丁を示し緊縛した上強姦し傷を負わせた事実は、 かなり生命に危険を 与え、 重大な傷害を負わせているものである。 犯行の類型から見ても、 殺害行為と紙一重の危険にまで至って いるのである。 処女膜裂創を伴う強姦の被害は、 重大な傷害の被害ではないのか。 これらを考えると、 最高裁 判決のように、 「他人の殺害又は重大な傷害を目的とし犯行はこれまでになく、 この種の犯罪への傾向が顕著 であるとはいえない」 とは、 とても思えないのである。 2 反省の情 (1) 差戻控訴審では、 被告人の反省の情が子細に検討されている。 (2) 捜査段階の当初を除いて、 第1審公判終了まで、 強姦及び殺人の計画性を争ったほかは、 一貫して、 公 訴事実を全面的に認めていた。 差戻前控訴審においては、 6期日に被告人質問が行われたにもかかわらず、 犯行自体については全く質問が されなかった。 また、 上告審においても、 公判期日が指定される以前は、 裁判所や弁護人に対し、 本件公訴事実を争うよう な主張や供述をしていなかったと窺われる (以下、 被告人の捜査段階、 第一審公判および差戻前控訴審公判に おける各供述を総称して 「被告人の旧供述」 ともいう)。 ところが、 被告人は、 当審公判で, 本件各犯行に至る経緯、 被害者および被害児に対する各殺害行為の態様、 殺意、 強姦および窃盗の犯意等について、 旧供述を一変させ、 本件公訴事実を全面的に争う内容の供述をした (以下 「被告人の新供述」 という)。 (3) 差戻控訴審は、 被告人の供述を概観し、 その信用性を検討している。 ア まず、 新供述に至るまでの供述経過 警察官調書 検察官調書 家庭裁判所審判期日の供述―殺人強姦致死、 窃盗各事実間違いない。 第一審、 公訴事実を全面的に認める。 差戻前控訴審 犯行についての供述はない。 弁護人作成の書類では強姦の計画性を争うものの、 第一審判 決が認定した罪となるべき事実について争いがない。 上告審、 平成,1,5提出の弁護人定者吉人、 同山口格之及び同井上明彦連名の答弁書 第一審判決認定 事実を争っていない。 公判期日指定後、 弁護士安田好弘、 弁護士足立修一を弁護人に選任。 弁護人定者、 弁護人井上から辞任の届 出 (弁護人山口は既に弁護人でない。)。 弁護人安田及び同足立連名の弁論期日延期申請書には被告人から、 強姦の意思が生じたのは被害者を殺害し た後であり、 捜査段階および第一審の各供述は真実と異なるという申立てがあった旨記載され、 その後の同弁 護人らの弁論要旨等には、 被害者および被害児に対する各殺害行為の態様は、 第一審判決および差戻前控訴審 判決が認定した事実と異なり、 被告人には殺意も強姦の故意もないなどとして、 差戻前控訴審判決には著しく 正義に反する事実誤認がある旨主張した。 そして、 上告審に提出された被告人の上申書にも、 被害者および被 害児に対する各殺害行為の態様等について、 これら弁護人の主張と同趣旨の記載がある。 イ 被告人の新供述の信用性 被告人が旧供述を翻し、 弁護人に対し新供述と同旨の供述を始めたのは、 上告審が公判期日を指定した後の ことである。 当審公判において、 旧供述が記載された供述調書の作成に応じた理由、 第一審公判で真実は供述できなかっ た理由、 旧供述を翻して新供述するに至った理由等について、 詳細に供述している、 として核心部分を要約し て検討している。 この部分は、 先に判決文の内容を掲げたので、 その部分を見ていただきたいが、 要は、 「本件公訴が提起さ れてから安田弁護士らが上告審弁護人に選任されるまでの6年半以上もの間、 第一審弁護人、 差戻前控訴審弁 護人および上告審弁護人に対し、 強姦するつもりがなかつたということを除いて、 新供述のような内容の話を 1回もしたことがないというのは、 余りにも不自然であること、 また、 被告人が、 第一審弁護人と接見の際、 供述調書作成の状況について尋ねられていることなどからすると、 検察官から供述調書の内容を確認された機 会に、 旧供述が記載された供述調書の誤りを指摘し、 新供述で述べているような内容の話をすることは可能で あって、 それををしなかったということは考えられない。」 としている。 また、 「被告人は、 第一審判決および 差戻前控訴審判決の言渡しを受けた際、 朗読される判決書の内容を聞いているほか、 これらの判決書ならびに 検察官作成の控訴趣意書および上告趣意書を読んで、 犯行態様や動機について全く、 違うことが書かれている のは分かった旨供述していることに照らすと、 弁護人に対し、 上記各判決で認定された事実が真実とは異なる などとして、 その心情を伝えたり、 新供述で述べるような内容を話したりすることもなく、 死刑を免れたとは いえ無期懲役という極めて重い刑罰を甘受するということは到底考え難い。」 と言うことも指摘している。 そ の他定者弁護人、 山口弁護人、 井上弁護人の多数回に亘る接見の際に、 被告人が新供述で述べるような内容の 話をしていなかったと言うのも不自然だとし、 被告人の供述が変遷した理由は納得し難いと判断した。 その上 で、 本件の内容にかんがみ、 その新供述の内容を証拠によって検討している。 (ア) 被害者に対する殺害行為 被告人の旧供述と被害者の死体所見との間に矛盾があるとはいえないのであって、 以下に説示するとおり、 被告人の旧供述は信用でき、 したがって、 被害者の殺害行為の態様および殺意の認定に当たり、 第一審判決は 事実を誤認していない。 (イ) 被害者に対する強姦行為 第一審判決は、 ……同女を殺害して強いて姦淫した旨認定したほか、 強姦について計画性があった旨認定し ている。 これに対し、 被告人は、 当審公判で、 性欲を満たすために被害者を姦淫したことや、 強姦の犯意および計画 性を否認する供述をした。 被害者を通して亡くなった実母を見ており、 お母さんに甘えたい、 頭を撫でてもらいたいという気持ちから、 被害者の背後から抱きついた、 被害者が死亡していることに気付いた後、 山田風太郎の 「魔界転生」 という小 説にあるように、 姦淫行為をして精子を女性の中に入れることによって復活の儀式ができると思っており、 死 体に精子を入れることで亡くなった人が生き返るという考えを持っていたから、 被害者に生き返って欲しいと いう思いで同女を姦淫したなどと供述している。 ……被告人の一連の行動をみる限り、 被害者を姦淫した目的が、 女性を生き返らせることにあったとみるこ とはできない。 そのようなことを思った根拠として被告人が挙げた 「魔界転生」 の内容は・・・・・死亡した女性を姦淫して、 その女性を生き返らせるというものとは相当異なっている。 その小説を読んだ記憶から、 死んだ女性を生き返 らせるために、 その女性を姦淫するという発想が浮かぶこともあり得ない。 被害者を姦淫したのは、 性欲を満たすためではなく、 同女を生き返らせるためだったという被告人の当審公 判廷の供述は、 到底信用できない。 被告人は、 当審公判で、 被害者を通して亡くなった実母を見ており、 お母さんに甘えたい、 頭を撫でてもら いたいという気持ちから、 被害者に背後から抱きついた旨供述している。 しかし、 被害者に甘えるために抱きついたというのは、 同女の頚部を締めつけて殺害し、 性的欲求を満たす ため同女を姦淫したという一連の行為とは、 余りにもかけ離れている。 以上説示したとおり、 お母さんに甘えたいなどという気持ちから被害者に抱きついたという被告人の当審公 判供述は、 到底信用できない。 弁護人の主張 弁護人は、 女性との性交渉の経験のない歳の少年である被告人が、 突如、 女性を強姦しようなどと 思い立つというのは、 疑問である旨主張する。 あり得ないとはいえない。 (ウ) a 被害児に対する殺害行為 床に投げつけた行為 被告人が被害児を床に投げつけたこと自体は動かし難い事実。 b 紐による絞頚について 被告人が、 被害児の頸部にこて紐を二重に巻いた上、 右耳介の下で蝶結びにしたことは、 証拠上明らかであ り、 そのような動作をしたことの記憶が完全に欠落しているという被告人の当審公判供述は、 その内容自体が 不自然不合理である。 しかも、 被告人の当審公判供述は、 被告人の旧供述に依拠した第一審判決および差戻前控訴審判決の認定事 実と全く異なる内容である……被告人は、 事件から8年以上経過した当審公判に至って初めて、 そのような供 述をしたのである。 差戻前控訴審の審理が終結するまでの間に、 被告人が、 当審公判で供述するような内容の 話を1回でも弁護人に話したことがあれば、 弁護人が、 被害に対する殺人の成否を争わなかったとは考えられ ない。 このような供述経過は、 極めて不自然不合理である。 ……被害児に関する被告人の当審公判供述は到底信用できない。 (エ) 窃盗について 布テープと勘違いして財布を持ち出したことに気づいた旨供述しているので、 この供述の信用性について 検討。 その内容はかなり不自然。 弁護人の主張 被告人が、 被害者と被害児を思いがけないことから死に至らしめたことによる極度のパニック状態に 陥っていたことから、 財布を布テープと間違って被害者方から持ち帰ったに過ぎず、 被告人には錯誤が あり、 窃盗の故意はない旨主張する。 被告人の当審公判供述は信用できないのであって、 弁護人の主張は前提を欠いている。 以上説示したとおり、 被告人の新供述は、 供述内容が旧供述から変遷した理由、 被害者および被害児の各殺 害行為の態様、 各犯行における故意 (犯意)、 他の証拠との整合性のいずれからみても信用できない。 他方 被告人の旧供述は信用できるから、 これに依拠した第一審判決が認定した罪となるペき事実に事実の 誤認はない。 (4) 反省の情についての評価 第一審判決は、 被告人なりの一応の反省の情が芽生えるに至ったものと評価できることを摘示している。 し かし、 その程度は不十分とも認めている。 それを前提として、 当審の差戻控訴審は、 次のように説示している。 「被告人は、 上告審において公判期日 が指定された後、 旧供述を一変させて本件公訴事実を全面的に争うに至り、 当審公判でも、 その旨の供述をし たところ、 被告人の新供述が到底信用できないことに徴すると、 被告人は、 死刑に処せられる可能性が高くなっ たことから、 死刑を免れることを企図して、 旧供述を翻した上、 虚偽の弁解を弄しているというほかない。 …… 殺人および窃盗については、 いずれも無罪を主張するものであって、 もはや、 被告人は、 自分の犯した罪の深 さと向き合うことを放棄し、 死刑を免れようと懸命になっているだけであると評するほかない。 ……本件につ いて自己の刑事責任を軽減すべく虚偽の供述を弄しながら、 他方では、 遺族に対する謝罪や反省を口にするこ と自体、 遺族を愚弄するものであり、 その神経を逆撫でするものであって、 反省謝罪の態度とは程遠いという ペきである。 両判決は、 犯行時少年であった被告人の可塑性に期待し、 その改善更生を願ったものであるとみることがで きる。 ところが、 被告人は、 その期待を裏切り、 差戻前控訴審判決の言渡しから上告審での公判期日指定まで の約3年9か月間反省を深めることなく年月を送り、 その後は、 本件公訴事実について取調べずみの証拠と整 合するように虚偽の供述を構築し、 それを法廷で述べることに精力を費やしたものである。 被告人が, そのよ うな態度に出たのは、 名を超える弁護士が弁護人となり、 被告人の新供述について証拠との整合性を検討し、 熱心な弁獲活動をしてくれることから、 次第に、 虚偽の供述をすることによって自己の刑事責任が軽減される かもしれないという思いが生じ、 折角芽生えた反省の気持ちが薄れていったのではないかとも考えられないで はない。 しかし、 これらの虚偽の弁解は、 被告人において考え出したものとみるほかないところ、 当審公判で 述べたような虚偽の供述を考え出すこと自体、 被告人の反社会性が増進したことを物語っているといわざるを 得ない。」 説示で明らかのように、 被告人の旧供述から新供述への変更は、 真実から虚偽の供述への変更と認定され、 自己の刑事責任軽減を意図したものであって反省の気持ちを深めるどころか、 反社会性を増進したと評価され ている。 深くは触れられていないが、 名を超える弁護士が弁護人となって被告人の新供述に沿って弁護活動 したことも、 被告人の虚偽供述を一層に深化させ、 反省という面から遠く隔たった方向に進んだということも 窺われる。 3 歳日の少年の犯行 (1) 差戻控訴審の判断 被告人は、 犯行当時歳と日の少年であった。 そして、 少年法条は、 犯行時歳未満の少年の行為につ いては死刑を科さないものとしている。 被告人は、 僅かに歳を超えていた。 この点に着目し、 歳未満の少 年に死刑を避けるならば、 その趣旨に照らし、 犯行時歳になって間もない被告人にも、 その精神を広げて死 刑を避けるべきだという考えが出てくる。 弁護人の主張 刑法条、 少年法条等を根拠として、 少年の責任能力とは、 犯行時にどの軽度精神的に成熟してい たかを問い、 その成熟度 (未熟さ) についての可塑性を問うものであり, 少年の刑事責任を判断する際 は、 一般の責任能力とは別途、 少年の責任能力すなわち精神的成熟度および可塑性に基づく刑事責任判 断が必要となる旨主張。 歳以上の年長少年についても、 限定責任能力 (精神的未成熟・可塑性の存在) の推定の下、 少年独自の責任能力について実質的な判断が要請され、 その結果、 精神的成熟度がいまだ 十分ではなく、 可塑性がが認められることが証拠上明らかになった場合には、 少年法条を準用して、 死刑の選択を回避するか、 限定責任能力を量刑上考慮すべきである旨主張する。 弁護人に対する差戻控訴審の説示 しかし 「少年の責任能力」 という一般の責任能力とは別の概念を前提とし、 年長少年について限定責 任能力を推定する弁護人の主張は、 独自の見解に基づくものであって採用し難い。 また、 少年の刑事責 任を判断する際に、 その精神的成熟度および可塑性について十分考慮すべきではあるものの、 少年法 条は、 死刑適用の可否につき歳未満か以上かという形式的基準を設けるほか、 精神的成熟度および可 塑性といった要件を求めていないことに徴すれば、 年長少年について、 精神的成熟度が不十分で可塑怯 が認められる場合に、 少年法条を準用して、 死刑の選択を回避すべきであるなどという弁護人の主張 には賛同し難い。 結局、 差戻控訴審は、 量刑判断全体の中で、 「……しかしながら、 既に説示した本件各犯行の罪質、 動機、 態様、 結果にかんがみると、 これらの点は、 量刑上十分考慮すべき事情ではあるものの、 被告人が犯行時歳になって間もない少年であったことと合わせ て十分斟酌しても、 死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すペき事情であるとまではいえない。 (2) 他の裁判所の判断 ア いわゆる永山判決では、 歳の少年について、 精神的に未熟な実質的には歳未満相当の少年の犯罪 として少年法条の精神を及ぼすべきであるとした原判決の判断を否定した。 最高裁判所昭和,7,8②判決 原判決が本件犯行を精神的に未熟な実質的には歳未満相当の少年の犯した一過性の犯行とみて少年法条 の精神を及ぼすべきであると判示しているのは、 右の環境的負因による影響を重視したためであろう。 しかし ながら、 被告人同様の環境的負因を負う他の兄弟らが必ずしも被告人のような軌跡をたどることなく立派に成 人していることを考え併せると、 環境的負因を特に重視することには疑問があるし、 そもそも、 被告人は犯行 時少年であつたとはいえ、 歳3か月ないし歳九か月の年長少年であり、 前記の犯行の動機、 態様から窺わ れる犯罪性の根深さに照らしても、 被告人を歳未満の少年と同視することは特段の事情のない限り困難であ るように思われる。 そうすると、 本件犯行が一過性のものであること、 被告人の精神的成熟度が歳未満の少 年と同視しうることなどの証拠上明らかではない事実を前提として本件に少年法条の精神を及ぼすべきであ るとする原判決は首肯し難いものであると言わなければならないし、 国家、 社会の福祉政策を直接本件犯行に 関連づけることも妥当とは思われない。 イ 本件の光市母子殺害事件において、 本件を控訴審に差し戻した最高裁判所は、 この問題について、 次の ように説示している。 最高裁判所平成,6,判決 本件において、 しん酌するに値する事情といえるのは、 被告人が犯行当時 歳になって間もない少年であり、 その可塑性から、 改善更生の可能性が否定されていないということに帰着するものと思われる。 そして、 少年法条 (平成年法律第号による改正前のもの) は、 犯行時歳未満の少年の行為につい ては死刑を科さないものとしており、 その趣旨に徴すれば、 被告人が犯行時歳になって間もない少年であっ たことは、 死刑を選択するかどうかの判断に当たって相応の考慮を払うべき事情ではあるが、 死刑を回避すべ き決定的な事情であるとまではいえず、 本件犯行の罪質、 動機、 態様、 結果の重大性及び遺族の被害感情等と 対比・総合して判断する上で考慮すべき一事情にとどまるというべきである。 量刑に当たり、 考慮すべき一事情にとどまるということを言ったものであって、 妥当な判断と思われる。 先 に、 掲示した差戻控訴審の判断もこの考えに依っている。 4 被害者の処罰感情 被害者の立場の重視、 法的評価の変遷 今回は、 参考となる資料のみ掲げる。 ■犯罪被害者をめぐる法整備の主な動き 年 三菱重工ビル爆破事件 年 犯罪被害者等給付金支給法 (犯給法) が成立 年 地下鉄サリン事件。 人が死亡 年 警察庁が犯罪被害者対策に乗り出す 年 神戸連続児童殺傷事件 年 被害者支援組織が全国ネットを結成 年 検察の被害者等通知制度実施 (処分結果や公判期日を通知) 年 「あすの会」 (全国犯罪被害者の会) が5人で発足 犯罪被害者保護法など施行。 意見陳述や裁判記録閲覧可能に 年 出所情報通知制度スタート 犯給法の対象の障害の範囲などを拡大 年 犯罪被害者等基本法が成立 年 法制審議会で直接参加などの法改正の審議が始まる 初の 「犯罪被害者白書」 がまとまる 朝日新聞社 年5月に犯罪被害者保護法などが成立。 (注) 被害者らが刑事裁判の記録を閲覧したり、 法廷で意見陳述したりすることが可能になった。 加害者の刑務所 からの出所予定時期や出所後の居住地を被害者側に知らせる 「出所情報通知制度」 も、 年月に導入され た。 通知制度の利用件数は昨年、 件に上り、 前年より倍増した。 (注) 犯罪被害者の保護 犯罪被害者保護法の制定 平成,5成立 平成,6施行 ① 犯罪被害者保護法の制定、 刑事訴訟法の改正 a 被害者や家族、 遺族の優先傍聴への配慮を明文化 (保護法2条) ★社会的に耳目を集めている事件などで被害者や家族すら法廷傍聴できない問題を解消するため、 優先的 に公判を傍聴できるよう配慮することを明文化。 b 裁判中の被害者や家族の公判記録の閲覧。 コピーの許可 (保護法3条) ★公判記録の閲覧やコピーを認めたこと。 これまでは、 刑事裁判が行われている間は、 公判記録の閲覧や コピーはできなかった。 今回の法施行により、 被害者が損害賠償請求等のために利用するケースなど、 正当な理由がある場合には認められることになった。 c 被害者等の意見陳述権の創設 (刑事訴訟法条の2) ★被害者等による意見の陳述 被害者が事件に関する意見を法廷で述べたいと希望する場合に、 これができることになった。 これに よって、 被害者が一定の範囲で刑事裁判に関与できるようになったわけである。 また、 被告人に被害感 情や被害の実態などを十分認識させることになれば、 その反省や立ち直りに役立つと考えられる。 ② 再被害の防止 被害者は、 被害の拡大や同じ加害者からの被害がないよう強く望んでいる。 暴力団の被害者の場合これは特 に切実である。 被害者の安全を確保することは、 被害者の最も基本的な要求であって、 被害者の協力を確保す る上で必要不可欠である。 警察では、 暴力団犯罪の被害者を中心に、 保護措置や緊急通報システムの整備に努 めている。 再被害の防止については、 被害者の相談に的確に対応することが求められる。 犯罪被害者が刑務所を出所した加害者に事件を訴えられた恨みなどから、 再び狙われる再被害事件について、 警察庁は平成9,9,, 被害者への防犯指導や身辺への警戒活動などを全国の警察に通達した。 被害者が望む 場合などは、 加害者の出所情報も伝える方針。 同庁は初の実態調査で、 過去年で少なくとも件の再被害事件が起き、 人が被害を受けたことを確認。 うち2件は、 2度の服役後にいずれも被害を受けた再々被害の事例だった。 罪種別では殺人関連は2件、 ほか に恐喝件▽脅迫件▽傷害5件など。 動機別では、 「検挙への報復 (逆恨み)」 が件と半数以上を占め、 次 いで、 「犯罪の対象として容易」 が件。 長年の恨み、 性的執着などから繰り返された例が4件あった。 また、 7割近くが暴力団関係者が加害者だった。 こうした結果に、 同庁では組織的な対応が必要と判断。 殺人、 性犯罪などの凶悪事件を検挙した場合、 加害 者の言動や事件のいきさつなどから再被害の恐れを検討、 程度に応じ被害者と緊密な連絡を取り、 身辺の警戒 を行うよう指示した。 また、 出所時期も被害者が希望し、 警察が必要と判断する場合は教える可能性があると している。 平成,4 法務省 被害者等通知制度を検察庁に導入 希望する被害者に対し、 事件の処理結果、 判決結果等を通知 特に希望があれば、 公訴事実、 公判経過を通知 被害者支援員 平成年 法務省 出所情報通知制度を創設 犯罪者の釈放に関する情報を通知 平成,6 法務省 性犯罪者の出所情報を警察に通知 歳未満の被害者に限る。 更に、 被害者支援する次の法律が成立していることに注目されたい 犯罪被害者の裁判参加、 年中にも付帯私訴も導入関連法成立 ,, 朝日新聞 犯罪被害者が刑事裁判で被告に自ら質問したり求刑の意見を述べたりできる 「被害者参加制度」 を創設する ための関連法が日の参院本会議で自民、 公明、 民主各党などの賛成多数で可決、 成立した。 年に裁判員制 度が始まる前の年中にも実施される予定。 併せて、 被害者が刑事裁判の中で被告に損害賠償を求められる 「付帯私訴制度」 の導入も決まった。 参院法務委員会の審議で、 一般の市民である裁判員に予断を与えかねないといった懸念から、 民主党が 「導 入後3年間は裁判員裁判では適用しない」 とする修正案を出したが否決された。 参加の対象は、 殺人や強姦、 誘拐、 業務上過失致死傷事件などの被害者や被害者の遺族ら。 裁判所の許可を得たうえで 「被害者参加人」 として被告に事実関係を質問したり、 証人に被告の情状に関す る事柄を尋ねたりできる。 検察官の論告求刑の後、 法律に定められた範囲内ならば、 検察官と異なる求刑を意 見として述べられる。 「付帯私訴」 の導入は、 被害者が加害者側を相手に損害賠償請求の民事訴訟を起こす負担を軽くするのが目 的。 判決で被告が有罪になった場合には、 同じ裁判長が4回以内の審理で賠償額を決定する。 当事者に不服が ある場合は、 通常の民事訴訟に移す。 ,, 「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律の公布」 被害者の弁護士、 選任は 「国選」 で参加制度で法務省方針 ,, 朝日新聞 犯罪被害者が刑事裁判で被告に質問したり、 求刑について意見を述べたりできる 「被害者参加制度」 の導入 に伴い、 法務省は日、 被害者を支援する弁護士の費用を公費で負担するとともに、 選任については被害者自 身ではなく、 裁判所が行う 「国選」 とする制度を創設する方針を固めた。 被害者参加制度は6月の通常国会で関連法が成立。 年末までに始まる予定。 法の付則で 「資力が乏しい被 害者参加人も弁護士の援助を受けられるよう必要な施策を講ずるよう努める」 とされたため、 公費で負担する 方向で検討を進めていた。 選任方法については被害者自身に任せるか、 容疑者や被告の国選弁護人制度に準じる形で裁判所が選任する かで関係者の意見が分かれていた。 支援弁護士、 国費で被害者の裁判参加で改正案 ,, 朝日新聞 犯罪被害者が刑事裁判で被告に質問したり、 求刑について意見を述べたりできる 「被害者参加制度」 が導入 されるのに伴い、 政府は4日、 被害者を支援する弁護士を裁判所が選び、 国費で負担する制度を盛り込んだ被 害者保護法などの改正案を決めた。 改正案は5日の閣議で正式決定し、 今国会に提出される。 「国選弁護」 関連法成立 ,, 朝日新聞 犯罪被害者や遺族が法廷で被告に質問したり、 求刑について意見を述べたりできる 「被害者参加制度」 が年 内に始まるのに伴い、 裁判に参加する被害者に国選弁護士を付ける制度をつくる改正総合法律支援法など関連 法が日の参院本会議で全会一致で可決され、 成立した。