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Vol.10 No.1 (2014年1月) - オフィスホームページサービス

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Vol.10 No.1 (2014年1月) - オフィスホームページサービス
会報
1
2014 年 1 月● Vol.10 / No.1
活動報告
「東アジア大気汚染管理及び環境保護
産業の国際協力フォーラム開催
政府関係者、学者、専門家等が、環境問題の解決に向
けた協力のあり方について、ハイレベルな講演と議論
を行うことにより、本フォーラムは非常に意義深いも
日中韓 FTA に関わる交流の一環として、2013 年 12
のとなった。
月 14 日(土)
、15 日(日)
、河北省廊坊市香河県にて
メディアの注目も集まり、テレビや新聞等での報道
中国の大気汚染と環境保護を主眼とする日中韓の政策
が行われ、日本側では NHK がニュースを放映すると
及び技術に関するフォーラムを開催し、メディアも含
共に、日経新聞でも記事が掲載された。とりわけ、会
めて約 300 人が参加した。
議の冒頭部分は第一財経(上海の TV 局)の討論番組
本フォーラムは当機構と中国国際経済交流中心、韓
の収録となり、華やかな進行となった。また、中国の
国貿易協会の三者による共同主催であり、中国の大気
大衆の注目度の高さも窺えた。
汚染を巡って周辺国にも懸念が広がるなか、日中韓の
会議には日中韓の政府関係者も多数参加し、途絶え
目 次
1 活動報告
東アジア大気汚染管理及び環境保護産業の国際協力フォーラム
日中韓FTAの取り組み
2 会議報告 第 14 回総会、第 18 回理事会
第 19 回理事会
3 新疆ウイグル経済視察団
4 中国セミナー(第 81 ~ 87 回)
5 環境・エネルギー部会(研究会)
(第 20 ~ 23 回)
6 アジア研究会 (第 1 ~ 3 回)
7 講演会 (第 9 回)
8 京論壇
1p
4p
5p
7p
8p
12p
22p
27p
32p
34p
1
スケジュール ・ プログラム
中日韓 FTA 民間ハイレベルフォーラム
東アジア大気汚染管理及び環境保護産業の
国際協力フォーラム
主題 開放、協力とグリーンアジア
主催 中国国際経済交流中心、日中産学官交流機構、
韓国貿易協会
日時 2013 年 12 月 14 -15 日
場所 中国・河北省香河・天下第一城
テレビ討論会
がちだった環境省、経産省、その他の省庁の接触の場
ともなった。
また、本フォーラムの開幕式において、木寺在中国
日本国大使ご挨拶の中で「官民を挙げた環境協力を推
進するため、日本政府としても全力を挙げて取り組ん
でいく」との発言をいただいた。
フォーラムに先立ち、12 月 13 日に曽培炎元国務院
副総理にご面談いただき、
「中日韓の FTA 民間ハイレ
ベルフォーラムにおける環境対策のテーマは、時代の
流れに即したものであり、このメカニズムを活かして、
民間レベルで意思疎通を行い、政府の間で更なる議論
を行うよう推進していきたい」とのコメントがあった。
中国の大気汚染問題については、日中韓3か国の政
府による初めての政策対話を、来年3月に北京で開催
することで合意しているが、引き続き民間の立場から、
この問題の解決に向けたサポートを行う。
木寺在中国日本国大使の挨拶
2
2013 年 12 月 14 日 ( 土 )
セッション 1: 持続的発展の夢―美しいアジアと京津冀
「生態都市群」建設
司会 陳永傑 中国国際経済交流中心副秘書長
講演 楊朝飛 環境保護部元総工程師
侯一民 天津市発展改革委員会副巡視員
駱建華 全国工商連環境商会秘書長
清川佑二 日中産学官交流機構理事長
小柳秀明 地球環境戦略研究機関北京事務所長
李錫奐 前韓国機械研究院高級研究員
李仁基 韓国首都圏大気環境庁秘書級 ( 科長 )
テレビ円卓討論会
司会 褚 琳 第一財経司会者
・テレビ討論会前半【アジアの新しい夢 - 美しい東アジア】
討論 鄭新立 中国国際経済交流中心常務副理事長
中央政策研究室元副主任
文一波 全国工商連環境商会会長
福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問
清川佑二 日中産学官交流機構理事長
孫継栄 北京大学企業社会責任研究所主席
国際専門家
裵貴男 韓国科学技術研究院団長
呉昌華 気候組織大中華区総裁
・テレビ討論会後半【持続的発展の夢 - 京津冀
“生態都市群”
建設】
討論 保育均 中国民営企業連合会会長
楊朝飛 環境保護部政策法規司元総工程師
王志国 京東環保産業園投資公司董事長
久留島守広 東洋大学教授
小柳秀明 地球環境戦略研究機関北京事務所長
郭大鐘 韓国産業研究院研究委員
セッション 2: 省エネ環境保護産業の発展と国際協力
司会 清川佑二 日中産学官交流機構理事長
講演 叢 明 国家税務総局政策法規司巡視員
穆玲玲 天津低炭発展緑色供応鍵管理
服務中心総経理
宮本武史 日本鉄鋼連盟常務理事
石原 明 省エネルギーセンター国際協力本部長
郭大鐘 韓国産業研究院研究委員
高光辰 韓国環境産業技術院専業研究員
討論 張建宇 米国環境保護協会中国項目負責人
劉 豊 中国生態責任工作委員会副理事長
田端祥久 日本貿易振興機構北京事務所長
井上直己 在中国日本国大使館一等書記官
朴慶洵 能源管理公団課長
梁明植 韓国環境部事務官
開幕式――開放、協力とグリーンアジア
司会 張大衛 中国国際経済交流中心秘書長
挨拶 王春正 中国国際経済交流中心副理事長
中央財経領導小組弁公室元主任
木寺昌人 在中国日本国大使
鄭永禄 在中国韓国公使
郭世昌 河北省工業経済連合会会長、
河北省政府元副省長
講演 鄭新立 中国国際経済交流中心常務副理事長
中央政策研究室元副主任
朱宏任 中国工業情報化部総工程師
福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問
安玹鎬 韓国貿易協会副会長
尹丞准 韓国環境産業技術院長
メインフォーラム : 東アジア大気汚染管理の国際協力
: メカニズムと政策
司会 駱建華 全国工商連環境商会秘書長
対談 馮 良 国家発展改革委員会環資司副巡視員
汪 健 中国環境保護部汚染防治司副司長
坂本和彦 埼玉県環境科学国際センター総長
( 環境省中央環境審議会大気・騒音振
動部会長 )
小林正明 環境省水・大気環境局長
金 雋 韓国延世大学教授
司会 徐洪才 中国国際経済交流中心信息部部長
対談 楊金田 中国環境保護部環境規画院副総工程師
楼培徳 中国移動通信連合会秘書長、
北京郵電大学教授
董宝財 北京科菜達集団董事長
實國慎一 経済産業省産業技術環境局環境指導
室長
南光熙 韓国環境部局長
2013 年 12 月 15 日 ( 日 )
特定テーマフォーラム : 企業の大気汚染の管理技術と管理創新
議題 1: 自動車及び交通と鉄鋼業界の技術と管理創新
司会 高光辰 韓国環境産業技術院専業研究員
講演 陳 平 重慶長安新能源汽車公司総工程師
大月 誠 ITS Japan 常務理事
周梅生 豊田汽車研発中心高級主査
宮川昌治 地球産業文化研究所研究主幹
李廷民 韓国艾藍腾新材料科技(上海 )有限公司
高新技術総監
金洪石 韓国機械研究院責任研究員
議題 2: エネルギーと電力業界の技術と管理創新
司会 久留島守広 東洋大学教授
講演 韓文科 国家発展改革委員会能源研究所長
朱晨陽 漢能控股集団副総裁
辺 程 広東科達機電股份有限公司董事長
中垣喜彦 電源開発相談役
田井一郎 東芝常任顧問
朴慶洵 韓国能源管理公団課長
閉幕式
司会 陳永傑 中国国際経済交流中心副秘書長
主な参加者
◆日本から参加
福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問
坂本和彦 埼玉県環境科学国際センター総長
( 環境省中央環境審議会大気・騒音振動部会長)
清川佑二 日中産学官交流機構理事長
小林正明 環境省水・大気環境局長
實國慎一 経済産業省産業技術環境局環境指導室長
久留島守広 東洋大学教授
田井一郎 東芝常任顧問 ( 前東芝副社長 )
中垣喜彦 電源開発相談役 ( 前電源開発社長 )
宮本武史 日本鉄鋼連盟常務理事
石原 明 省エネルギーセンター国際協力本部長
大月 誠 ITS Japan 常務理事
宮川昌治 地球産業文化研究所研究主幹
小川眞佐子 環境省水・大気環境局国際協力推進室長
吉田岳朗 経済産業省産業技術環境局環境指導企画
調整係長
雷 海涛 東芝営業企画室中国室長
寺田 強 電源開発国際業務部プロジェクト管理室長
◆現地参加
木寺昌人 在中国日本国大使
高島竜祐 在中国日本国大使館公使
井上直己 在中国日本国大使館一等書記官
金子弘征 在中国日本国大使館二等書記官
田端祥久 日本貿易振興機構北京事務所長
小柳秀明 地球環境戦略研究機関北京事務所長
周 梅生 豊田汽車研発中心 (中国) 有限公司(TMEC)
北京分公司パワートレーン技術部高級主査
◆中国側
曽培炎 中国国際経済交流中心理事長
( 元国務院副総理 )
王春正 中国国際経済交流中心副理事長
( 元中央財経領導小組弁公室主任 )
鄭新立 中国国際経済交流中心副理事長
( 元中央政策研究室副主任 )
楊朝飛 環境保護部元総工程師
汪 健 中国環境保護部汚染防治司副司長
楊金田 中国環境保護部環境規画院副総工程師
朱宏任 中国工業情報化部総工程師
韓文科 国家発展改革委員会能源研究所長
馮 良 国家発展改革委員会環資司副巡視員 文一波 全国工商連環境商会会長
◆韓国側
安玹鎬 韓国貿易協会副会長
鄭永禄 在中国韓国公使
尹丞准 韓国環境産業技術院長
南光熙 韓国環境部局長
金 雋 韓国延世大学教授
3
日中韓 FTA への取り組み
いる。日中関係、日韓関係が迷走しているなかではあ
日中産学官交流機構では、2010 年から 2012 年にか
を成功に導くとともに、日中韓三国の FTA を民間の
けて、日中韓 FTA 推進のための民間交流を中国国際
立場から推進していく考えである。
るが、東アジアの安定のためにも、このプロジェクト
経済交流中心と韓国貿易協会との間で行ってきた。こ
の間二回の日中韓経済通商フォーラムと一回の研究委
なお、本プロジェクトは以下の委員によって、協議、
員会を開催、加えて日本側独自に二回の東アジア経済
運営される。
貿易フォーラムを開催した。2012 年 7 月には日本側研
究委員の共同作業による「日中韓 FTA の早期実現を
●委員長
求めて」と題する提言書を上呈した。
福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問、元通産次官
2013 年 5 月に機構事務局メンバーが訪日した際に、
中国国際経済交流中心より、2010 年~ 2012 年に亘っ
て交流した日中韓 FTA の民間交流につき、再度継続
していきたい旨の要請があった。同様の主旨は副理事
長の鄭新立氏からも直接申し入れがあった。また、併
せて、中国側から北京周辺の大気汚染対策のための環
清川佑二 日中産学官交流機構理事長 元日中経済協会理事長
重家俊範 日中産学官交流機構副理事長 元韓国大使
林 正和 日中産学官交流機構副理事長 元財務次官
高木勇樹 日中産学官交流機構理事
日本プロ農業総合支援機構理事長、元農水次官
境会議の開催を要請された。
阿部一知 東京電機大学教授
日中韓 FTA 交渉は 10 年以上に亘る共同研究を経
深川由起子 早稲田大学教授
て、2013 年 3 月に政府間交渉が開始されたが、中国側
渡邊頼純 慶応大学教授
からはこれまでの活動をフォローアップしながら、引
木村福成 慶応大学教授
き続き民間交流として、日中韓 FTA 成立に向けて推
田中 修 日中産学官交流機構特別研究員
進をしていくことが必要であろうという姿勢が強く示
された。
当機構は中国側の要請を受け、機構内部で検討した
結果、
この中国側からの申し入れを受ける方向で、
進め
ることとなり、2013 年 7 月末から 8 月初にかけて、福
田井一郎 東芝常任顧問 元副社長
藤川淳一 東レ副社長
早川 茂 トヨタ自動車専務役員
田辺靖雄 日立製作所執行役常務
進藤孝生 新日鐵住金副社長
●研究委員
川特別顧問が北京を訪問し、鄭新立氏と会談を持った。
久留島守広 東洋大学教授
併せて韓国貿易協会の同意を得て、
正式に日中韓 FTA
染野憲治 東京財団研究員
を推進するプロジェクト(第二期)が合意された。ま
前田一郎 東レ経営企画室部長
た、東アジア環境会議もこのプロジェクトの枠内で開
●顧問
催することとなった。
佐藤嘉恭 日中産学官交流機構副理事長、元中国大使
帰国後、協賛企業を募集した結果、東芝、東レ、ト
保田 博 日中産学官交流機構副理事長、元大蔵次官
ヨタ自動車、日立製作所、新日鐵住金の五社に協賛企
業として支援して頂くこととなった。
また、本会報で報告しているように、12 月 14 日、15
日には北京郊外の河北省香河県にて東アジア環境会議
は盛大に開催された。
さらに、第 3 回日中韓経済通商フォーラムは 2014 年
4 月 12 日東京の霞山会館で開催される予定になってい
る。
このプロジェクトは日中韓 FTA の交渉が妥結すると
想定されている 2015 年まで、継続される予定となって
4
●委員
●オブザーバー
島田丈裕 外務省中国モンゴル第二課長
源新英明 財務省参事官
岩永正嗣 経済産業省北東アジア課長
●事務局
柳瀬豊昭 日中産学官交流機構事務局長
河野 博 日中産学官交流機構常任幹事
李 軍 日中産学官交流機構研究員
2
会議報告
第 14 回総会、第 18 回理事会
1.第2回日中韓経済通商フォーラム
5 月 29 日(水)九段ビルにて第 14 回総会第 18 回理
1-2 日中韓FTA推進に向けた提言(会報にて
事会を開催した。
既報)
出席者は西室会長、清川理事長、重家副理事長、阿部
2.第7回日中韓ロボット研究者交流WS(延期)
理事、興理事、白井(太)理事、進藤理事、谷口理事、
2012 年 9 月 26 日(水)9:00 ~ 20:00 に中国科学院瀋
澤泉監事、福川特別顧問、保田特別顧問が出席、また
陽自動化研究所会議場で、開催予定であったが、尖閣
張理事は代理出席、他の理事の方々は委任状出席とな
問題による中国側の申し入れで、延期となり、年度内
った。
には開催できなかった。
冒頭西室会長の挨拶に続き、議案説明を事務局より
3.第7回日中人材交流WS(会報にて既報)
行い、理事会審議、総会審議を行った。すべての議案
は全会一致で承認された。
Ⅱ.背景調査
議案内容は以下の通りである。
1.環境・エネルギー部会(研究会)
2 回開催(会
――市場開放と産業協力――(会報にて既報)
報にて既報)
2.講演会 1 回開催(会報にて既報)
●第1号議案 理事異動について
3.中国セミナー 10 回開催(会報にて既報)
1.理事退任 4.その他情報収集
日立製作所相談役 Ⅲ.普及啓発事業
金井努氏(2013 年 3 月 19 日ご逝去)
会報2回発行、パンフレット改訂
東レ名誉会長 Ⅳ.交流活動
前田勝之助氏(2013 年 4 月 7 日ご逝去)
京論壇 2012 への支援(会報にて既報)
なお、2013 年 2 月 27 日、書面による臨時緊急総会
で杉本和行氏の副理事長退任、理事退任が承認された
●第3号議案 2012 年度決算報告(単位 万円)
ことを報告した。
収支決算
2.理事選任 収入 1,853:会費収入 1,466、事業収入 5、準備金操出
東京証券取引所自主規制法人理事長 林正和氏
382(日中韓 FTA)
日立製作所会長 川村隆氏
支出 1,614:事業費 832、管理費 781
林正和氏には副理事長にご就任いただく。 (事業費内訳)日中韓 FTA298、ロボット研究
3.代表者選任 者交流WS 74、人材交流 WS56、環境・エネル
会長 西室泰三氏 東芝相談役
ギー研究会 122、講演会 94、一般事業費 58、調
理事長 清川佑二 日中経済協会前理事長
査費 58、広報費 71、
2012 年 11 月 7 日の臨時総会にて、会長、理事長の
(管理費内訳)旅費交通費 30、会議費 8、交際
総会選任(従来は理事会選任)と会長、理事長二名を
費 0、人件費 329、賃借料 199、通信光熱費 28、
法人代表(従来は会長が代表)とする二点の定款改定
事務機材費 151、租税公課 0、雑費 35
が承認され、2013 年 2 月 13 日正式に東京都の認証を
事業収支差額 240
得られた。そのため、本総会で代表者を選任する。
事業外収支▲ 67
収支差額 173
●第2号議案 2012 年度事業報告
貸借対照表(2013 年 3 月 31 日)
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
資産 64:現預金 33、敷金 32
5
負債 388:未払費用 127、前受金 3、環境エネ準備金
(事業費内訳)日中韓 FTA 800、ロボット研究
249、未払い税・保険料 8
者WS 90、都市創新 260、人材交流WS 50、環
資本 ▲ 324
境・エネルギー研究会 90、講演会 90、アジア研
究会 30、中国情勢視察 30、一般事業費 60、調
●第4号議案 2013 年度事業計画案
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
(管理費内訳)旅費交通費 50、会議費 20、交際
1.第3回日中韓経済通商フォーラム(2014 年 4 月
費 20、人件費 310、賃借料 210、
通信光熱費 40、
12 日開催予定)
事務機材費 160、雑費 40
2.第7回ロボット研究者交流WS
(未だ開催の目途立たず)
3.都市創新プロジェクト
(1)都市交通計画に関するWS
(2014 年 5 月頃に延期予定)
(2)ゴミ問題に関する協力
(事業開始目途立たず)
(3)都市化に関わる財政問題への協力
(2014 年 1-3 月開催予定)
4.第8回日中人材交流WS
(2014 年 3 月開催予定)
Ⅱ.背景調査
1.中国セミナー 年間 10 回開催
(第 81 ~ 87 回は本会報に詳報)
2.環境・エネルギー研究会 年間 3 回程度開催
(第 20 ~ 23 回は本会報に詳報)
3.講演会
年 2 回程度開催(第 9 回は本会報に詳報)
4.アジア研究会 年6回程度開催
(第1 回~第3回は本会報に詳報)
5.中国地域経済情勢視察 新彊ウイグル訪問(本会報に詳報)
6.その他情報収集
Ⅲ.普及啓発事業
1.会報 年2回発行
2.メールによる発信(現在メールマガジン発信)
Ⅳ.交流活動
例年通り種々の交流活動を適宜行う。
Ⅴ.委託事業
必要に応じ、委託事業を受託する用意がある。
●第5号議案 2013 年度予算案 (単位 万円)
収入 2,480:会費収入 1,470、業費収入 1,010
支出 2,470:事業費 1,620、管理費 850
6
査費 60、広報費 60
収支差額 10
第 19 回理事会
操出)その他 0
支出 1,050:一般事業費 38、旅費交通費 410、広報
2013 年 11 月 29 日(金)午後 4 時から午後 5 時、九
費 2、翻訳費 0、調査費 17、会議費 38、交際費
段ビルにて第 19 回理事会を開催した。
6、人件費 292、賃借料 105、通信光熱費 12、事
出席者は西室会長、清川理事長、重家副理事長、林副理
務機材費 107、租税公課 0、雑費 24
事長、白井(太)理事、澤泉監事、福川特別顧問、保
収支差額 483
田特別顧問が出席、他の理事の方々は委任状出席とな
年度決算見込み
った。
収入 2,590:会費収入 1,420、事業費収入 1,170
冒頭西室会長からご挨拶があり、引き続き事務局よ
支出 2,030:一般事業費 70、旅費交通費 570、広報費
り議事の説明を行った。その後、理事会審議が行われ
50、翻訳費 60、調査費 40、会議費 110、交際費
全議題が満場一致で承認された。
20、人件費 590、賃借料 210、通信光熱費 30、事
務機材費 220、租税公課 10、雑費 50
準備金繰入 560
●第1号議案 2013 年度上半期事業報告
収支差額 0
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
2013 年度上半期は、フォーラム共同委員会開催はな
●第 3 号議案 2013 年度下半期事業計画
かったが、日中韓FTAに関する民間交流の準備とし
Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業
て、基本企画立案及び協賛企業募集を行った。
1.東アジア大気汚染管理及び環境保護産業の国際
協力フォーラム(本会報にて詳報)
Ⅱ.背景調査
2.第 8 回人材交流 WS(2014 年 3 月開催予定)
1.環境・エネルギー部会(研究会)
2 回開催
3.都市交通計画に関するWS(2014年 5月頃に延期)
(本会報にて詳報)
4.第 7 回ロボット研究者交流 WS
2.講演会 1 回開催(本会報にて詳報)
(未だ開催目途立たず)
3.中国セミナー 5回開催(本会報にて詳報)
5.第 3 回日中韓経済通商フォーラム 4.アジア研究会 2014 年 4 月 12 日開催予定
2回開催(本会報にて詳報)
Ⅱ.背景調査
5.中国地域経済情勢視察 1.環境エネルギー研究会 下半期 3 回開催予定
新疆ウイグル訪問(本会報にて詳報)
(第 22 回、第 23 回は本会報にて詳報)
6.その他情報収集
2.講演会 下半期 1 回開催予定
Ⅲ.普及啓発事業
3.中国セミナー 例年通り下半期 5 回開催
・当機構のメールマガジンを刊行した。
(第 86 回、第 87 回は本会報にて詳報)
Ⅳ.交流活動
4.アジア研究会 下半期 3 回程度開催
・ 7 月 12 日 泰州市政府及び泰州医薬高新技術産業
(第 3 回は本会報にて詳報)
園区管理委員会訪問受け入れ
5.その他情報収集
Ⅴ.委託事業
6.委託調査 その他委託調査を受ける用意がある。
必要に応じ、委託事業を受託する用意がある。
Ⅲ.普及啓発事業
得られた。そのため、本総会で代表者を指名する。
・会報 1 号(12 月)
、2 号(3 月)を発行する。
Ⅳ.交流活動
●第2号議案 2013 年度中間決算及び年度決算見
1.京論壇 2013 への支援(本会報にて詳報)
込み (単位 万円)
2.国務院発展研究中心マクロ経済研究部訪日団の
中間決算
受け入れ(2014 年 1 月~ 3 月予定)
収入 1,534:会費収入 1,263、事業費収入 271(準備金
7
3
新疆ウイグル経済視察団
当機構では新疆ウイグル自治区(以下、自治区とい
ルバイジャン 2.6%、その他 18.8% である。日本はその
う)の経済活動状況を視察するため、標記視察団を計
他 18.8% の中の 0.5% であり極めて少ない。このこと
画した。機構にとって初めての企画である。
からも分るように日本にとって対自治区に占める輸出
同視察団は清川当機構理事長を団長とする 8 名(経
入総額はごくわずかである。
費は個人負担)
が参加し、
9月8日
(日)
~ 9 月 14 日
(土)
自治区の輸出入相手国は、中央アジア五ヵ国(カザ
の間、別表スケジュールの通り自治区政府及び新疆生
フスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、
産建設兵団(以下、建設兵団という)との会談、ウル
トルクメニスタン)が中心となっており、この五ヶ国
ムチ経済技術開発区(以下、開発区という)視察など
で自治区貿易総額の 45.7% を占めているとはいえ、日
ウルムチ、トルファン、カシュガルを訪問した。
本は他の諸国と比べてその経済・貿易的規模はまだま
中国では 2011 年 9 月から新疆最大の国家級貿易投
だ小さいと言える。
資博覧会である「中国アジア欧州博覧会」を毎年ウル
今回の視察団の目的は、今後経済開発が進展する自
ムチ市で開催するなど西部地区開発に力を入れている
治区の現状をこの目で確かめるために訪中した。訪問
が、日本と自治区との経済関係は日系企業の進出、対
先等の概要については次の通りである。
外直接投資、輸出入総額など最近の貿易動向を見ても
伸び悩んでいる。
因みに 2011 年度の日本と自治区との輸出入総額に
占めるシェアを見てみても、日本からの輸出額は 1 億
3,649 万ドルで自治区輸入総額 59 億 9,339 万ドルの 2.3%
である。自治区からみて輸入額が多い国は、カザフス
タン 65.6%、ウズベキスタン 7.1%、ロシア 6.8 %、ド
市民が夕涼みをする人民広場
イツ 3.75%、アメリカ 3.4%、日本 2.3 %、その他 11.0%
となっており日本は 6 位である。一方、日本への輸出
8
(1)自治区政府との会談
額は総額 8,649 万ドルで自治区輸出総額 168 億 2,886 万
<自治区政府> 王文明氏(招商発展局副局長)
、
ドルの 0.5% しかない。自治区からみて輸出額が多い
侯健新氏(経済技術協作弁公室主任)
、楊莉氏(政策
国は、カザフスタン 39.6%、キルギスタン 22.1%、タ
法規処処長)からの説明。
ジキスタン 10.0%、アメリカ 3.8%、ロシア 3.1%、アゼ
・自治区は、8 ヶ国(モンゴル、ロシア、カザフスタ
王文明氏
ン、キルギス、タジキスタン、アフ
までに増えた。しかし、翌年解散が決定され、建設兵
ガニスタン、パキスタン、インド)
団傘下の企業は自治区に移譲されたが、81 年に鄧小
と接しており、国境は 5,600 km に及
平の指示で再度活動が開始され、都市化、工業化、農
び、石油、天然ガス等の天然資源が
業化の三化建設により、軍から生産活動へのシフトが
豊富でその埋蔵量は中国全体の 30%
行われた。
~ 40%あると言われている。
・昨年度の産業構成比率は、第一次が 32%、第二次が
・自治区は、2012 年中国GDP成長率のトップ 10 に
40%、
第三次が 28%であった。建設兵団の指導方針は、
入っており、カシュガルとイリは特別開発区として重
第一次が“更なる拡大”第二次が“質の高度化”第三
点的に開発が行われている。
次が“活性化”である。
・政策として力を入れているのは、①金融・税制 ②投
・昨年度の建設兵団の総生産額は 1,197 万人民元、成
資 ③土地活用 ④産業 ⑤財政である。
長率は 18%で自治区全体の 16%を占めている。2018
・産業ベルトとしては、①天山北路 ②天山南路 ③南
年度までに小康社会を目標として自治区全体の 20%
疆三地区があり、石炭、電力、ソーラー、風力、農産
を占めたい。
物加工業などの投資を重点的に行っている。
・現在の建設兵団の人員は、約 260 万人である。3,600
・農業については、昔からのオアシスを中心に氷河か
の企業と 14 の上場企業を有し、168 ヶ国と経済交流
らの融水や地下水による大規模な灌漑農業を行ってい
を行っており、26 ヶ国と具体的なプロジェクトを実
る。一人当たりの耕地面積は 0.23ha あり、綿花やビー
地中である。
トが有名である。ホップについては日本と協力してい
・中央政府による建設兵団の支援が行われており、現
る。
在 1,000 人が中央から派遣されている。
・GDPの約 8% を占める観光産業にも力を入れ、戦
・自治区では一部の過激な宗教勢力が存在するが、建
略的支柱として対応している。
設兵団として安全を保障することが出来る。現在建設
兵団は、漢族が 85.5 % を占めている。
・昨年度中国全体で約 5,800 万人の観光客を受け入れ
ているが、自治区も観光に注力している。建設兵団
も旅行社を持っている。又 2015 年には北京~新疆間
の高速鉄道も完成する
予定だ。建設兵団も旅
行社を持っているの
自治区政府との会談
(2)建設兵団との会談
李国成氏
で、今後更に力を入れ
たい。
・投資など日本との経
<建設兵団> 李国成氏(経済技
済交流を積極的に進め
術協作弁公室党書記、主任)
、羅玉
たい。日本とはソフト、
泉氏(旅游局資源規制処処長)
、郭
サービス、自動車等で
中剛氏(総合処副処長)からの説明。
相互に補完的な役割を
・建設兵団は、国内でもその存在が
担えると考えている。
あまり知られておらず神秘的な存在
建設兵団本部前にて
(3)開発区視察(バスによる巡回視察)
となっている。1952 年に約 10 万の人民解放軍(この
当初開発区の責任者と面談の予定であったが、先方
中には非共産党員の国民党軍、イリ国軍も含まれてい
の都合によりバスにて開発区内を巡回視察することに
る)が開墾と辺境防衛任務を与えられたのに始まり、
なった。 開発区訪問時の前週にドイツのVWの第一
その後 1954 年に設立された。
号車が生産発表されたVW自動車工場も見学する予定
・設立以降急速な発展を遂げ、74 年末には約 260 万人
であったが残念であった。 幸い現地の開発区内に事
9
鹿野伸二郎氏(上海辰野貿易有限公司事業開発部長)
地下商店街「辰野名品広場」は、辰野商店(大阪の
繊維商社)
が 1998 年1月に地下ファッション名品街「辰
野名品広場」をウルムチ市内にオープンしたのがス
タートで、李総経理から伺った話では、当初は地下で
はなく百貨店のテナント賃貸を考えていたものが賃貸
できなかったので、地下商店街という新たな発想を思
建設中のウルムチ経済技術開発区
いつき「新疆中辰地下城開発」を設立し、ウルムチ市内
初の地下商店街をオープンンさせたとのことでした。
その後、2007 年 5 月の第 3 期工事が完成し、現在
の建築面積 13,000 平方メートル、営業面積 7,000 平方
メートル余りの売り場に 110 店舗が入居している。
販売商品はアパレル、化粧品、鞄、下着、靴、アクセ
ウルムチ経済技術開発内の新疆天瑞集団にて
サリー等で、20 歳~ 40 歳の女性を対象顧客にしてい
る。一日の来店客数は 3,000 人超にも上る。近々地下
務所を持つ新疆天瑞集団兼ウルムチ福祉園健康衛生管
鉄も開通するという。鹿野部長には地下商店街をご案
理有限公司の王丰董事長のご案内で開発区内をバスか
内いただき、広い地下商店街を見学することができた。
ら視察することができた。
日本企業の進出が少ない中、地下商店街としてウルム
開発区は、現在建設中で第 12 次 5 ヶ年計画にも盛
チ市内で定着している「辰野」という日本語の二文字
り込まれた開発区である。全体面積が 480 平方キロ
を日本から遥か約 5,700 キロ離れたウルムチの地で目
メートル、完成時の総人口は 27.4 万人にもなる大規
にできたことに感慨を覚えた。
模開発区である。主要産業(機械設備、新型素材、自
なお、
「辰野商店」以外の自治区への主な進出日系
動車製造、物流)
、支柱産業(風力発電、冶金、食料
企業は、豊田通商、積水化学工業、サッポロホールディ
品加工)
、新産業(新素材、情報通信、新石炭化学工
ングス、アルプス薬品などがある。
業、生物医薬)にゾーニングされ、開発区の中心には
2015 年完成予定の高速鉄道の駅も建設中だった。中
国の西部開発の意気込みとその勢いを感じた。
(4)地下商店街「辰野名品広場」見学
<辰野商店> 李輝江氏(辰野名品広場総経理)
、
ウルムチ市内で屯する武装警察
(5)風力発電(移動中のバスから遠景)
ウルムチからトルファンに移動中に一旦下車して遠
景を見ることができた。ウルムチ~トルファン間は天
「辰野」地下商店街入口
辰野名品広場内にて
10
達坂城風区風力発電
山山脈の裂け目になっており、この狭隘で回廊のよう
な部分は風の通り道になっている。自治政府は 7 ヶ所
(この地域を含む)を重点地区として開発に力を入れ
月 日
スケジュール
9月
羽田 830 → 1120 北京 (CA158)
8日(日)
北京 1305 → 1720 ウルムチ (CA1297)
ウルムチ泊
ている。2009 年末のデータでは自治区内の総発電量
14 億 k W h である。
9日(月)
午前 オリエンテーション
全体スケジュール説明
「新疆の基本状況について
新疆ウイグル経済視察団は、9 月 14 日(土)夕刻、
全員無事帰国した。
○新疆ウイグル自治区政府訪問
(座談会)
「新疆ウイグル自治区の経済発展と
現状について」
午後 ウルムチ→トルファン(高速道路)
途中車窓から達坂城・風力発電所の
見学
蘇公塔見学
トルファン泊
10 日 ( 火 )
カシュガルのバザールにて
午前 火焔山・ベゼクリク千仏洞・アスタ
ナ古墳・高昌故城見学
午後 カレーズ(歴史的な灌漑施設)
・ブド
以上
ウ溝のオアシス農業・交河故城見学
トルファン→ウルムチ(高速道路)
ウルムチ泊
11 日 ( 水 )
午前 ○新彊生産建設兵団司令部訪問
(座談会)
「兵団の歴史、経済について
○地下商店街 辰野名品広場見学 午後 新疆ウイグル自治区博物館見学
バザール・モスク街見学
ウルムチ泊
12 日 ( 木 )
午前 ○ウルムチ経済技術開発区視察
(バス)
午後 ウルムチ 1445 → 1630 カシュガ
ル(CZ6901)
職人街など見学
カシュガル泊
13 日 ( 金 )
午前 莫爾寺仏塔・香妃墓・シルクロード
博物館見学
午後 旧市街など見学
カシュガル 1900 → 2035 ウルムチ
(CZ6810)
ウルムチ泊
14 日 ( 土 )
午前 ウルムチ 1010 → 1335 北京 (CA1296)
午後 北京 1725 → 2145 羽田 (CA183)
11
4
中国セミナー(第 81 回~第 87 回)
■第81回中国セミナー
られる。
第81回中国セミナーは2013
(貿易・投資・経済協力の統合的アプローチ)
年4月24日、講師に北野尚宏
2009年末までの累計援助総額は約3兆1000億円、対
氏(国際協力機構JICA研究所
象国161か国(アフリカ45%、アジア33%、中南米
副所長)をお招きし、「中国
13%)で、2010年の対外援助支出額は約136億元
の経済協力―アジア・アフリ
(1,699億円)、優遇借款・優遇バイヤーズクレジッ
カ地域を中心にー」について
トを加えると推定で650億元(約7,800億円)供与。対
ご講演いただいた。ご講演要
外援助支出額は2011年159億元、2012年192億元と増え
旨は下記の通りである。
ている。さらに、中国輸銀、国家開発銀行による商業
ベースの途上国向け融資は政府の対外援助の10倍以上
最近、アジア、アフリカ、中南米において、鉄道、
と言われている。
港湾、パイプラインなどのインフラ建設への中国の進
(地域フレームワークの活用)
出は目覚ましい。コロンビアでは、カリブ海と太平洋
中国は、ASEAN首脳会議、中国アフリカ協力
側を鉄道で結ぶプロジェクトに関心を示し、計画策定
フォーラム、中国太平洋島嶼諸国経済発展協力フォー
から関与していくことを表明、また習近平主席の外訪
ラム、中央アジア・上海協力機構(SCO)などの様々な
先のタンザニアでは、バガモヨ港建設にコミットした。
フレームワークを利用した地域経済協力をコミット。
1.中国の対外経済協力
ASEANとは1991年に対話を開始、2009年に150億ドル、
中国商務部対外援助司が対外援助政策及び、無償援
2011年に100億ドルの借款をコミット。2010年には
助、技術協力の実施を傘下の実施部門と共に担い、中
ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)が始動。ま
国輸出入銀行が優遇借款(日本の円借款に相当)を供
た、中国ASEAN投資協力基金を2010年から運用開始、
与。中央政府レベルでは農業部、衛生部など33部門が
中国企業のASEANにおける投資事業を支援。2004 年
関与、国有銀行は多額の資金援助をしている。2011年
にはSCO加盟国に9億ドルの優遇条件の借款、2009年
に部門間調整の副大臣クラスの機構が設けられ、定期
には100億ドルの借款をコミットし、SCO開発銀行構
的に調整会議が開かれている。中国政府の対外援助プ
想をも提案。また、ADB主導により1997年成立の中
ロジェクトを地元企業が受注することに地方政府、各
央アジア地域経済協力(CAREC)を通じて、西・中
省、市は熱心である。
央アジアの開発に関与、2013年南アフリカ・ダーバ
これまで日本がアジアで最大の援助国であったが、
ンで開催のBRICs会議ではBRICs銀行の設立を提唱。
今は中国、韓国が活発に援助しており、日中韓は協力
2007年、中国企業のアフリカ進出支援を目的に中国ア
と競争関係の時代になっている。例えば、国内研修
フリカ開発基金を設立し、2012年の中国アフリカ協力
では、日本が年間約1万人、韓国が約4,000人、中国は
フォーラムでは200億ドルの借款をコミット。さらに、
約16,000人を研修。トレーニングセンターも日本の13、
南寧での中国ASEAN博覧会、吉林省の北東アジア博
韓国1に対し、中国は9まで増やしている
覧会、ウルムチの中国ユーラシア博覧会、銀川の中国
中国で全国対外援助工作会議が2010年に開催、翌年
アラブ諸国博覧会等の見本市を通じ、中国の地域と世
4月、公表された対外援助白書は中国の対外援助政策
界の各地域との経済協力関係を推進。中央アジアでは
を南南援助と位置づけ、被援助国の自主発展能力の向
道路・パイプライン・送電線などの連結性を高める動
上を支援し、いかなる政治条件も付加しない、平等互
きが活発である。メコン地域、モンゴル、北朝鮮など
恵・共同発展でWin Winの実現を柱にしている。
でも越境インフラの整備が盛んである。
2.中国の対外援助の特徴
二国間枠組みにも積極的で、各国と経済技術協力協
貿易・投資・経済協力の統合的アプローチ、地域フ
定を結び、大臣レベルの経済協力委員会で様々な話し
レームワークの活用、中国国内の経済発展・経済構造
合いをし、経済協力を実施している。
転換との連動、社会環境配慮やCSRの重視などが挙げ
12
(中国国内の経済発展・経済構造転換との連動)
な経済協力の動きが期待される。
中国社会科学院西アジア・アフリカ研究所張宏明副
所長主編「アフリカ発展報告」によれば、アフリカは
(1)資源と原材料の供給地、(2)中国産業構造の調
■第82回中国セミナー
第82回中国セミナーを2013
整、産業の高度化にとっての重要な協力先、(3)商品・
年5月21日実施した。講師には
サービス貿易や海外工事請負の潜在的市場、(4)国際開
岡田勝氏(外務省大臣官房報
発の協力を通じて大国としての責任を果たす舞台と中
道課首席事務官、外務省中国
国の開発計画のなかに位置付けられている。
専門官)をお招きし、「中国
(社会環境、CSRへの配慮)
の政治体制改革」についてご
2012年5月、中国対外コントラクター協会がCSRガ
講演いただいた。ご講演要旨
イドラインを作成・公表、2013年2月には「中国企業
は下記の通りである。
対外投資協力環境保護ガイドライン」を発表し、海外
で投資事業に携わる中国企業が環境面で対処すべきこ
(中国は中国共産党が指導する国)
とを規範化。具体的には、(1)中国企業が環境保護の理
中国は国の上に中国共産党がある。国の憲法の上に
念を掲げ、(2)ホスト国の環境法規を順守、(3)国際機関
党規約がある。そして、党規約の冒頭に中国共産党は
等の環境原則を研究・参照することを奨励した。
(一)中国の先進的生産力の発展の要求に応える代表、
(国際機関との協力)
(二)先進的文化の前進する方向を代表、(三)最も
開発協力で中国の存在が大きくなるにつれ、様々な
広範な人民の根本利益を代表すると書かれている。人
国際機関や二国間援助機関がシンポジウム、人事交流、
事の上でも明らかで、8000万人を超える党員を抱える
協調融資、共同プロジェクト等、中国との協力関係を
中国共産党の最高指導者、習近平総書記は国家主席と
強めている。世銀は中国商務部とのシンポジウム開催、
中央軍事委員会主席を兼ね、残る党中央政治局常務委
アフリカの越境インフラへの並行融資を中国輸銀と模
員6人も、李克強・国務院総理、張徳江・全人代常務
索中。ADBは知財協力のフォーラムを開催。IMFは
委員会委員長、兪正声・全国政協主席、劉雲山・党中
社会科学院とアフリカ経済と投資についてのシンポジ
央書記処筆頭書記、王岐山・党中央規律検査委員会書
ウムを開催。UNDPはカンボジア、タジキスタンで三
記、張高麗・国務院筆頭副総理と、党と国のトップを
角協力研修を実施。FAOの南南協力基金に中国政府
占め、その下に18名の党中央政治局委員がそれぞれ党、
が3,000万ドルを拠出し、中国人専門家3,000名を主に
政府、軍の指導者となる。北京、天津、上海、重慶の
アフリカに派遣。OECDは2009年にDAC-China Study
4直轄市書記および広東省・書記は党中央政治局委員
Groupを立ち上げ、中国人研究者との交流を深め、イ
で、さらに、党中央委員205名、中央候補委員171名が
ギリスは中国と多国間協力についてのMOUを締結。
中央および全国の要所を押さえている。北京大学学長
アメリカも米中戦略経済対話の枠組みの中で、東ティ
の上に党書記、瀋陽市市長の上に党書記がいるように、
モールでの農業開発に合意。WWF、TNC、ゲーツ財
中央・地方政府、軍、国有企業など中国全土を中国共
団等国際NGOも中国政府との協力関係を強化してい
産党が支配しているのが中国である。
る。
中国憲法には国家主席や総理は二期10年までという
そして、日本も2009年に緒方前JICA理事長が李克
規定があるが、党規約は全国代表大会を5年に一回行
強副総理と面談の際、李副総理が「最も貧しい国々に
うとする一方、総書記の任期は規定していない。例
対する支援はグローバル化時代の日中の新しい関係に
えば、江沢民は1989年から2002年まで13年間総書記を
おける重要なテーマである」という見解が示し、その
務めた。現在、総書記と6名の常務委員を含む25名の
後、商務部や中国輸銀の対外援助部門との交流を深め、
政治局委員が月1回、政治局会議が行う。その下に中
商務部傘下の対外貿易経済合作研究院とMOUを結び、
央委員205人が原則年に一回集まる中央委員会がある。
意見交換が行っている。
全国人民代表大会、中央委員会が行われていないとき
香川県の企業・(株)クロダの中国での提携企業が
は常務委員会7人と中央政治局25人が代表して権限を
中国アフリカ開発基金による出資でエチオピア進出を
行使することになっている。総書記の特権は中央政治
果たし、皮革製造工場を建設した例もあり、今後様々
局常務委員会の開催権で、決定事項は常務委員の多数
13
決できまるというのが中国共産党の制度。
になる。中国国内での期待は大きい。習近平と面談し
(中国共産党が執政党である根拠)
た日本の政治家の印象によれば、恰幅がよく、人に安
(1)1921年に結党した中国共産党が、その後の革命、
心感を与える大人の風格があるという。
抗日戦争を勝ち抜き、1949年に中華人民共和国を成立
(習近平時代に政治体制改革は進むのか)
させた。ところが、建国60年を経過し、この説明は通
今年の全人代では、検察院報告や環境行政に対する
用しなくなり、(2)中国共産党が経済を成長せし
反対の意見が多数あった。これは党内民主化の動きと
めたということが次の根拠となった。10年にわたる文
いえる。習近平は中国の官僚、指導者に「質素にすべ
化大革命が76年に終わり、78年12月の11期三中全会で、
き、会議場の花飾りも無駄だ」と命令。その結果、高
今までの階級闘争から経済建設へと改革開放が宣言さ
級レストランの客が減り、花屋が潰れている。若いこ
れた。2008年に30周年記念式典で、改革開放は貧富の
ろ腐敗摘発の実績もあり、今は、「人民のため」を強
格差、公害など問題をもたらしたが、年10%前後の経
調している。李克強も法律・経済に明るい指導者とし
済成長を達成した。経済成長と社会秩序の安定は中国
て期待されている。
共産党のお蔭だと評価。リーマンショック以降もその
しかしながら、中国は党が指導する国であり、政治
根拠を守るため、経済を支えている。
体制はなかなか進まないと考えられる。端的な例は劉
(3)習近平体制では「中国の夢、私の夢」というス
暁波である。彼は天安門事件以来、民主化運動を指導
ローガンを掲げ、「共産党は人民のために人民の声を
し、08憲章の起草者203名の一人だった。2008年12月の
聴く」という姿勢を打ち出している。
08憲章発表前に身柄を拘束され、裁判で11年の実刑判
中国共産党規約は社会主義民主の発展のために、
決を受けた。その後ノーベル平和賞授賞式にも出席出
(一)共産党による指導の堅持、(二)人民が主人公、
来ず、遼寧省の監獄に収監されたままである。08憲章
(三)法治の三要素の有機的な融合・統一を謳ってい
は三権分立、司法の独立、人権の保障、言論・集会の
る。ところが、選挙を経た民主政治、議会制が論議さ
自由など中国憲法に書かれていることを謳っているに
れる法治と共産党による指導の堅持をどう統一させる
過ぎないが、中国共産党の指導に触れていなかったた
か中国の憲法・法学者の悩みとなっている。
め、判決文は「被告人、劉暁波は情報伝達が速く伝播
中国憲法には、中国は共産党の指導の下にあり、共産
範囲が広く社会的影響力が大きいインターネットを利
党が執政党として国を治めると謳っている。同憲法に
用し、我が国の国家政権と社会主義制度を転覆するよ
は中華人民共和国のすべての権力は人民に属すると国
う人民を煽動した。懲役11年を科す」と糾弾した。当
民主権が書かれ、法治、人権・公民権・言論・集会・
局が譲れない根幹「中国共産党の指導」に反する政治
出版・結社・デモの自由が明記されているが、法律や
体制改革は今後も大きく動くとは考えにくい。しかし
政令、党の規約は制限している。例えば、中華人民共
ながら、党内民主化が進められ、全人代のプロセスに
和国の公民の身体の自由は侵してはならないと書いて
言論の自由が取り入れられ、メディア、TVも社会問
あるが、政令や党規約をもって身柄を拘束しての取り
題を暴露できる環境に変わってきており、状況は少し
調べは現実問題として行われているのである。
ずつ動いているというのが実情ではないだろうか。
(歴代の指導者)
毛沢東時代は毛沢東の言葉が党の規則、法律になっ
たが、今は党規約や憲法をもって権力を制約している。
■第83回中国セミナー
2013年6月26日、高井潔司氏
それでも最高指導者の影響力は大きい。日本では江沢
(桜美林大学リベラルアーツ
民は反日と報道される傾向があった。同氏はよく日中
学群 教授)を講師にお招き
友好を語っていたことから、日本のメディアが言うほ
し、「日中関係とメディアの
ど反日ではなかったと考えられる。胡錦濤は共青団か
役割-両国の情報の非対象を
ら出世した非常に優秀な人だが、2002年に総書記就任
考えるー」についてご講演い
のとき、軍の信頼を得ることができるのかと言われた、
ただいた。ご講演要旨は下記
徐々に人事を掌握、組織化し、名実ともに軍事委員会
の通りである。
主席となった。習近平の評価はまだ定まらないが、党、
国家、軍の三権を掌握し、今後権力を固めていくこと
14
昨年夏から秋にかけての反日運動の背景に中国世論
が大きく関与している。中国では新聞、TV・ラジオ、
府放送が10局前後、あとは他省の衛星放送の有線によ
出版という伝統的な大衆メディアにインターネット、
る配信である。新聞も地方における都市報は全て地域
SNS、Twitterなどの新興メディアとそれを管理する
の党の機関紙会社が発行し、政府に管理され、大きな
政府当局という三つ巴のなかで世論が形成されている。
社会的問題が発生した場合でも政府が許可した情報し
今年1月、南方週末の社説が当局によって書き換えら
か発信できない。むしろ、地方官僚の不正、腐敗問題
れたことが話題になった。同誌の記者や支援する読者
の告発等、様々な社会問題は新興メディアを通じて一
の発信した情報がきっかけとなり、デモが同社を取
般大衆が情報を発信するようになった。このため、共
り囲む事態に発展。この事件はインターネット、SNS、
産党は政治の安定のため新興メディアも管理しよう
Twitterを通じて海外に流れた。5月に発生した雲南省
としている。中国政府の許可を受けたプロバイダー
の化学工場での反対デモの記事には一般人提供の写真
が中国国内だけに通用するインターネット、Twitter、
が掲載。一般大衆が情報発信のツールを持つように
Facebook等のサービスを提供しているが、それは国
なったのである。内政においては、インターネットな
外には繋がっていない。中国のWebsiteで取れる情報
どを通して当局の圧政、メディア管理に抵抗の声をあ
はすべて国営メディアにより管理された、非常に制限
げるようになり、従来、政府に一元化されていた外交
された情報となっている。
も最近は世論を意識せざるを得ない状況である。
中国のインターネットも民営で始まった当初、自由
(情報の非対称性)
な動きをしていたが、21世紀に入ってから、プロバイ
中国国内では当局と世論は情報を共有していない。
ダーを政府あるいは政府系新聞が買い取り自身で運営
対外関係でも国内の世論と国際社会の世論の食い違い
するようになっている。最近ではインターネットにも
が目立つ。当局にとり都合の悪い情報は報じられない
監視を強める方向にある。情報を100%管理すること
ため、中国人の日本に対するイメージは「歴史を直視
はできないが、時間をかけて当局の望ましい方向に管
しない」「戦争を謝罪しない」「道徳心を欠いた」と
理しようという状況にある。当局に有利な情報をネッ
偏る一方、日本の中国に対するイメージは「膨張」
ト上に氾濫させるネット水軍という組織も出来ている
「脅威」で、この非対称性は両国のメディアの報道に
ようである。
よるところが大きい。 ところが、メディアに全く力がないわけではない。
中国メディアは高度成長のなかで発展し、2011年の
問題発生の初期段階は、当局からの管理が行き届かず、
総生産高は6378億元(約5兆円)と日本に近い規模に
あるいは当局の方針が明確でない場合が多く、その間
なった。特に、90年代はGDPの伸び率よりメディアの
はメディアも自由で、管理を受けない情報がどんどん
伸び率が高かったが、最近5年ほど、新聞・TVなど伝
広がっていくという傾向がある。日中関係のような外
統メディアの停滞が目立ち、新興メディアの発展が
交問題は中国外務省だけでは最終方針を出せず、反日
著しい。メディア産業の勢力図は、TVが18%、イン
デモが拡大したのはその例である。内政でも薄熙来事
ターネット14%、新聞12%で、2012年のインターネッ
件は当局の方針が定まらない状況下で、薄熙来支持者
トの利用者は5億6400万人、なかでも携帯電話からの
がネットを利用しデモを扇動したと言われる。
インターネット利用者は4億2000万人にもなる。
中国では海外情報の殆どは新華社に一元管理され、
市場経済が発展し、国民が富裕になるにつれ、TV、
各新聞社は新華社情報をそのまま、あるいは一部書き
大衆新聞、PC、携帯電話などのツールを通じ、人民
直して流す。大衆がネット、Website、携帯電話で発
日報が伝えない、多様化する経済・消費情報を入手
信する情報もその元は新華社が一元管理の上発信した
するようになった。結果、800万部売り上げた人民日
ものを編集し直したものである。したがって、ネット
報が、8000万人の共産党員がいるにも拘らず、今で
上で溢れる情報もきわめて偏っており、国際社会の情
は100万部前後しか売れていない。ところが、伝統メ
報との間に非対称性が目立つ。それでも、国内問題は
ディアも新興メディアも実は政府に管理されており、
大衆も情報の真偽を検証できるが、国際社会について
影響力の大きいTVには民間放送がない。外国人が宿
の情報は限定された特権階級しかアクセスできず、検
泊するホテルではNHK、CNN、BBCが視聴できるが、
証も出来ない。世論は政府管理の情報に大きく影響を
一般家庭には遮断されている。一般家庭で視聴可能な
受ける。非対称性が強い中国国内外での情報の是正は
40数局は、中央電子台からの放送が10局前後、地方政
中国当局が握っていることになる。
15
(日本における中国報道の転換)
文の辛亥革命後1949年までは中華民国政府が、1949年
天安門事件までは日本のメディアは日中友好フレー
以降は共産党が中国を支配するようになったが、中華
ムのなかで動いていたが、今は自由主義、民主主義、
民国政府および共産党の歴史観は清朝を倒し、日本と
人権、市場経済などの普遍的価値観のフレームで報道
戦い中国を独立国家に導く歴史を強調。これは、中国
している。是々非々の立場で言うべきことは言うべし。
が侵略を受けるという被害の歴史でもあった。満州事
記者も中国専門家ではなく、グローバルな視点をもつ
変(1931年)前後、中国ではナショナリズムが非常に強
記者を育成すべしと、日本のメディアの報道姿勢は転
くなった。毛沢東時代には「文化大革命」が発生し、
換し、中国関係の記事を政治部の記者が書くような時
革命は継続。改革開放以降の80年代後半には日米英を
代になっている。普遍的価値観、日本的価値観の報道
対象とするナショナリズムが再び台頭。それは、現在
が増え、中国を変えていかなければという意識が強く
のナショナリズムに多元化し、一般大衆への広がりと
感じられる。例えば、去年の中央共産党大会の初日の
ともに管理統制が難しくなっている。中国の「侵略を
記事の見出しは「海洋強国を宣言して尖閣問題で日本
受けた被害者としての対日認識」は「歴史化」される
を牽制」と日本の各紙とも横並びであった。党大会は、
ことなく、現在の日本認識に影響を及ぼしている。
新指導部の選出と今後10年間の中国社会の安定成長が
②二つ目は傲慢な心である。日本を抜いて世界第二位
焦点だが、どの新聞も海洋強国一色の画一的な報道と
の経済大国になり、軍事力も強くなった結果、日本と
なっていた。
は尖閣諸島(釣魚島)、さらに、フィリピン、ベトナ
最近、安倍首相は中国包囲網を作る外交を展開して
ムなどの間でも領有問題で対立が先鋭化している。領
いるように見える。日本のメディアはそうした外交の
土問題で生じた対立は武力で解決すべきだという強硬
展開を批判するどころか、政府のブリーフィングのま
論も出ている。また、中米二国による世界支配という
ま伝えている。一方、中国政府は態度を硬化させ、政
G2発想も囁かされる。このような事態に一部の知識
府が管理する中国メディアも反日姿勢に終始し出口が
人は、「心態」は国の運命を決定するとし、国民に健
見えない。日中関係は、政治が変わらなければ動かず、
全な心の持ち方を呼び掛けている。
メディアが動かせる状況ではない。
(習近平時代の中国)
習近平は政権取得後、中国の安定化に力を入れてき
■第84回中国セミナー
た。習近平時代の中国の大きな特徴は、5~60歳台の
2013年7月22日、劉傑氏(早
紅衛兵時代の人たちが政治、社会のなかで中心的存在
稲田大学社会科学総合学術院教
になっていることである。文革の影が今でも大きく
授)を講師にお招きし「中国の
残り、毛沢東時代を懐かしむ声も大きい。紅衛兵世
強国構想」についてご講演頂い
代に続くのが80年代生まれ(80後)の一人っ子世代で、
た。ご講演要旨は下記の通りで
今2~30歳台である。習近平の「中国の夢」というス
ある。
ローガンについて、政治改革、社会制度、社会システ
ム、官僚腐敗への対応等、様々な議論が展開されてい
16
中国は21世紀に入り、経済、軍事等あらゆる分野で、
るが、習近平カラーが見えるまでには少し時間がかか
世界的存在感を持つ強国になった。今後、中国がどの
るだろう。
ような強国を目指していくのか世界は関心を持ち注目
(日中友好)
している。
1950-60年代から民間で日中友好が始まり、1972年に
(二つの心態)
日中国交正常化を達成。相互の経済的依存関係や人的
習近平政権になり、心の持ち方「心態」が新聞など
交流を深めてきた「日中友好」とは、双方の過去の歴
で中国の知識人の一部により指摘されている。①被害
史を踏まえ、争いになりそうな問題については決着を
者意識から抜け出していないこと。中国では、1840年
つけず曖昧にし、大きな目標の追求を優先し友好関係
のアヘン戦争以前を古代史、それ以降を近代史とし、
を維持するというアジア的な考え方であった。
1949年の中華人民共和国建国以降を現代史と分けてい
一方では、主張すべきことを避けてきたことは両国
る。中国の近代史は列強の侵略と抵抗の革命史であり、
の健全な関係にはつながらなかったという批判が出て、
その歴史に結び付けられ強国構想が作られてきた。孫
第一次安倍内閣は「戦略的互恵関係」を標榜し、「日
中友好」の影が薄くなった。結果的には、歴史認識だ
観を探ろうとしている。日本の歴史観の形成には日本
けでなく東シナ海ガス田、尖閣諸島など国益に関わる
史研究者が、中国では中国史研究者が重要な役割を果
問題で対立するようになった。対立はメディアの姿勢
たしてきたが、歴史観が共有できれば相互理解は一層
にも問題がある。相手を非難するだけの報道が両国で
進むであろう。21世紀に始まった「知の共同体運動」
なされたため、相手に親しみを感じる人は、数パーセ
は専門分野の異なる日中研究者が集い意見交換をし、
ント程度までに下がった。中国研究者でさえ中国を
相互理解を深めていくという試みだが、中国人研究者
「自らの常識では理解不能な相手」と定義するにい
が「日本の近代化で育まれた日本の政治思想は中国の
たった。一般世論も、中国人の反日デモ、暴動に愕然
近代化、中国人の意識にとり有益であり、中国にも影
とし、中国人は野蛮人という認識を抱くようになった。
響を広げていくべき」という認識を持つようになった。
理解不能とか野蛮という言葉が中国に対する認識に使
このような地道な交流を通して、「共同体」を作るこ
われるようになったが、この40年間日中双方が重ねて
とが日中関係の安定化に貢献するだろう。
きた努力を考えなければならない。主張すべきは主張
尖閣諸島を巡る対立で営々と培われてきた日中相互
する「戦略的互恵関係」をより確実なものにするため
の依存関係が壊れるのは残念なことである。
に、「日中友好」の原点に立ち戻る必要がある。
お互い冷静になり尖閣諸島の価値を再考し、同島の争
日中両国は歴史をめぐってもっと対話を深めなけれ
いを若い人たちが平和や未来を考える場にするべきで
ばならない。中国の歴史家の近代中国に対する見方は
ある。平和な環境を作り出すことが大事であろう。
変わりつつある。義和団事件は反帝国主義の革命運動
と認識されてきた。ところが、中国が国際法に準じて
解決していたら、それほど大きな犠牲を払わなくても
■第85回中国セミナー
2013年9月30日、李 妍焱氏
済んだのではないか。あるいは、清朝末期の排外的ナ
(駒澤大学文学部社会学科教
ショナリズムが諸外国との関係を壊したと主張する研
授)をお招きし、「国家関係
究者が増えている。辛亥革命は、2000年に及ぶ王朝支
から市民関係へ:中国の市民
配を倒し共和国を作ったブルジュワ民主革命であった
社会への注目」についてご講
が、一部の歴史家は清朝末期に始まった近代的改革を
演いただいた。ご講演要旨は
中断させたことも指摘している。さらに、辛亥革命の
下記の通りである。 あとの袁世凱は軍閥政治と批判されてきたが、今年、
出版された『北洋大時代』は、この時代の政治改革、
まず日中関係の現状認識について説明し、中国の市
教育改革および近代産業を高く評価した。つまり、現
民社会の状況及び日本と中国の市民社会の特徴を紹介
在の中国の対外政策あるいは国民の考え方に影響を与
した上で、市民社会をコアにした関係により、日中関
えている歴史認識が近年変化しており、日中間に対話
係を構築することについて提言させていただきたい。
の土壌もあると言える。しかし、終戦当時の時代感覚
(日中関係に関する現状認識)
はまだ「歴史化」されておらず、戦後日本の実態を知
現在、日中友好は非常に危うい状態にあると思う。
る中国人が未だに少数派であろう。中国国民に健全な
日中関係は国交回復時に政治的な思惑から、日中友好
心理「心態」を持たせることは、中国の国内政治・国
を前面に出したが、2006年頃から日本において中国脅
際社会の安定にとって重要である。
威論が急速に高まり、ドライでお互いに実利をとろう
日本だけでなく、フィリピン、ベトナムなど東南ア
とする戦略的互恵関係に転換していった。
ジア諸国との関係を考えると、中国も外交姿勢を考え
日中関係の現状について、言論NPOが8月中旬に公
るべきだと指摘する知識人もいる。反日暴動がある一
表したデータを見ると、相手に良い印象をもっていな
方で、インターネットで批判する市民社会の力が90年
い割合が双方とも90%を超えた。あれだけ反日教育を
代以降生まれてきていることに注目すべきである。
行っている中国であるが、日本に良い印象をもってい
同じ認識をもつ民間が国境を越えてつくる色々なレ
ない割合は昨年まで6割台であった。それが尖閣諸島
ベルの共同体が国を動かす力になる。例えば、歴史観
問題で一気に9割を超えた。日本は逆に2007年あたり
を共有することが難しい歴史学界で、2001年から日中
から70%を突破し、その後は80%台であった。日本の
若手歴史研究者会議が定期的に開催、共有できる歴史
嫌中意識が顕著であった。日本人が中国に関し思いつ
17
くことについて、今年は反日感情、反日デモ、尖閣諸島
れる。中国にはこれまで「参加の文化」と「参加の
問題、大気汚染が突出して増えた。中国人が日本に関し
権利」はあまりなかったが、「参加の仕組み」は93年、
思いつくことについても、今年は一気に釣魚島(尖閣諸
94年頃から変わってきた。また、中国の市民社会はし
島)が出てきた。ところが、日本で非公表の予想外の調
たたかで、タフである。生存環境が厳しく、動きは戦
査がある。中国の一般大衆と社会的エリートへの調査で、 略的である。特に「草の根」は束ねて大きく見せ、行
日本に対して良い印象を持つ一般大衆は数%であるのに
政のアキレス腱を捉える。専門性を売り、成功モデル
対し、社会的エリートは52.8%だった。社会的エリートは
を見せる、情報を大衆にわかるように伝え、インパク
日本について情報が入り、理解が進んでいるため、一般
トを与える。少しずつ社会を変え、政府の厳しい取り
大衆と全く異なる回答になったものと判断できる。中国
締まりの中でイノベーションを引き起こしている。中
では9割以上の人は日本との直接的な接触がなく、日本に
国の市民社会は社会問題を理解する窓であり、「民間
対して好感を持っていない。
公共人」を見つける窓でもある。
中国と日本はよく一衣帯水とか、同じ漢字文化圏とい
(中国における市民社会の展開の経緯)
われるが、意識、習慣、思考回路や行動様式は大きく
中国における市民社会の展開は、「第1世代」、
異なる。例えば、中国の生存条件、自然環境は非常に厳
「第2世代」と「新世代」に分けられる。「第1世代」
しいが、日本は相対的に穏やか。また、中国は対外的に
は経済成長の陰で顕著となった「環境汚染と流動人口
常に己の文明を主張し守ることに拘るが、日本は外来の
問題」を取り上げるべく、カリスマ性を持ち人格的に
ものを自分たちの文化に融合させる。美意識については、 魅力のある知識人たちがリーダーとなってNGOを設
中国は豪華絢爛、壮観、スケール観が好き。日本は上品
立した。彼らによって「参加の仕組み」がつくりあげ
さ、味わいが好きで、質感を求めて情緒と感受性を重視
られた。「第2世代」は2002年、2003年頃からで、一
する。生活態度は、中国はプライバシーにそれほどこだ
気に多分野にわたって社会問題が噴出し、多くの分野
わらず、遊び上手。日本はまじめ、素朴で控えめ。自然
でNGOが生まれた。第1世代で活動経験のある人たち
観についても、中国は自然をコントロールして人間のた
が独立しリーダーとなった。カリスマ性に頼らず、専
めに利用するという思想が基本にある。日本は、自然に
門性を前面に出し弱者の権利を擁護する。この時期
対して畏怖の念を抱き、その自然の恵みに感謝する。国、 にネットワーキング戦略により直接政府に提言して
民族としての一体感については、中国は民族が多く、常
いく動きが出てきた。「新世代」は2009年あたりから
に意識的に中華文明を築き上げてきたのに対し、日本人
80年代生まれの若者たち(80後)が、ネットを活用し
は無意識に血統、日本人かどうかで、統一感、一体感を
パフォーマンス型の参加を行い、関心を集めるように
保ってきた。最後に行動原則であるが、中国は自分を中
なった。このように中国の市民社会は社会問題に対処
心に同心円モデルで、距離により自分の態度や行動を変
するために生まれ、NGOと称していた。これに対し、
え、メンツで動く。日本の場合は、目立たず、突出せず、 政府側は民間組織、社会組織と称していたが、最近は
周りを観察して溶け込むようにする。これらの特徴はど
双方とも公益組織という。また、企業のCSRや基金会
ちらも一種の保身であり、その社会で一番適切な行動原
の動きも活発化している。
則をとっているものであるが、中国と日本は全く異質の
日本と中国の市民社会は単純に比べられるものでは
社会である。
ないが、双方とも参加の伝統がないという共通点があ
また、中国の社会秩序は人治でも法治でもなく、権威
り、また、NPO、NGOの幕開けや社会に認められる
による統治で形成される。中国は日本と全く異なる社会
ようになった時期に同時代性がある。しかし、今は双
構築の原理があり、中国は相反する異質の思考回路と行
方とも存在意義が問われる反省の時期に入っている。
動パターンを持った人たちが、13億もいる国と考えてい
(日中の草の根の効果的な交流に向けて)
ただければよいと思う。
日中の市民社会の現状のなかで、双方の草の根交流
(なぜ中国の市民社会か)
をつなげることは効果が期待できる。つまり、新たな
市民社会は3つの歯車から構成される。「参加の権利」、 知識と情報が入手できる交流こそが重要。国家同士の
18
「参加の仕組み」と「参加の文化」である。3つの歯車が
交流ではなく、地域、分野、個人間の交流を通じて、
うまく回り出すと、市民社会は活況を呈する。中国は法
自己を主張し相手に理解してもらうと同時に、相手に
治国家ではないので、市民社会はありえないとよく言わ
ついても理解していく、そのための知識と情報を直接
得ていく「共有」と「浸透」をもたらす交流が重要で
中国の銀行業務は、大型商業銀行による国有企業へ
ある。同時に、この人たちが日本の企業と一緒にCSR
の大口融資と都市商業銀行などを中心とした中小企業
をやっていくとより効果的である。
への融資の二つが主流。中国における非金融部門の資
私たちの日中市民社会ネットワークは、こういう考
金調達の8割は銀行経由である。中国の銀行の融資構
え方で環境、災害、高齢社会という3分野を選び、下
造は、四大商業銀行に交通銀行が6〜10%の金利で大
から社会をつくりあげるキーパーソンの人たちや団体
口融資をカバー。投資商業銀行、都市銀行組合、農村
を吸い上げ、連携を促進する活動を行っている。
商業銀行、農村合作銀行、農村信用銀行などが地場
の資金ニーズに10〜15%の金利で応える。シャドーバ
■第86回中国セミナー
ンキングは銀行が融資しない中小企業向け等の融資
2013年10月31日、藤田 哲
を引き受ける。そのなかで、信託会社は10〜15%の金
雄氏(㈱日本総合研究所調査
利、民間担保会社、少額ローン会社、質屋が20〜25%
部上席主任研究員)をお招き
で、民間銭庄が50〜100%という高利の貸付をしてい
し、「中国シャドーバンキン
る。
グの動向と金融システム改革
(シャドーバンキングの実態)
の展望」についてご講演いた
シャドーバンキングは、①(金融システム内)金融
だいた。ご講演要旨は下記の
資産管理会社、信託会社、金融リース会社、ローン会
通りである。
社、ファイナンス会社、マネーブローカーなど金融監
督下にあるノンバンクと、②(金融システム外)地下
近年、中国において、銀行以外のインフォーマルな
金融、高利貸しなどの民間銭庄、民間担保会社、少額
金融仲介(影子銀行=シャドーバンキング)が急速に
ローン会社、質屋、ファンド、投資公司、投資組合な
発展しており、今では中国における実体経済の資金調
ど、金融監督下にないもので形成される。
達の半分以上を占めると言われる。その実態と役割、
2000年代世界経済が好景気だったため、銀行貸し出し
さらにリーマンショックを起こした欧米のシャドーバ
が増え、シャドーバンキングも規模を拡大。リーマン
ンキングとの違いを考察してみたい。
ショック後、4兆元の財政資金投入により景気は過熱
(中国の金融システムの全体像)
気味となる。これを抑えるために銀行貸し出しの総量
中国の金融システムは、共産党の下に国務院、その
規制が実施され、シャドーバンキングがその穴を埋め
下に中国人民銀行(金融政策)、中国銀監会(銀行と
規模を拡大。
ノンバンク)、中国証監会(証券)中国保監会(保
中国の金融システムは大型商業銀行が長い間寡占し
険)で構成されている。銀監会は銀行およびノンバ
てきたため、中堅銀行は業績を伸ばすため、政府の監
ンク(預金受け入れ業務ができない)を監督、銀行
視が緩い、シャドーバンキングへの融資を増やしてき
セクターには政策銀行(3)、大型商業銀行(5)、
た。一方、銀行には様々な規制がある上に、個々の企
株式制商業銀行(12)、都市商業銀行(147)、農村
業の信用力を審査する機能も高くないため、中小企業
商業銀行(85)、農村合作銀行(224)、農村信用
は銀行融資が得られず資金難で苦しんでいる。中小企
銀行(2646)、村鎮銀行(349)また、外資法人銀行
業の経済規模は実体経済の(対GDP)65%、雇用の8
(130)がある。ノンバンクセクターは商品ごとに分
割、国家税収の65%を占めるが、中小企業向け貸し出
かれ、自動車金融会社(13)、ローン会社(9)、財務
しは銀行全体でみても19%に過ぎない。経済の規模拡
公司(107)等がある。
大を支えるため、シャドーバンキングは経済発展の経
中国の銀行は、1949年の建国から78年の鄧小平の改
過で起こる必然的な現象といえる。
革開放までは人民銀行一つであった。93年までに建設
シャドーバンキングの規模は、2011年時点で15兆元
銀行、農業銀行、中国銀行、工商銀行という四大銀行
(人民銀行試算)、25兆元(UBS統計)、上海証券研
が分離独立、2000年ころ不良債権処理のために政策金
究所では30兆元(上海証券研究所)とされ、銀行資産
融が分離された。2001年中国のWTO加盟後、金融改
の15〜30%と言われる。シャドーバンキングの資金源
革・近代化が本格化。株式制商業銀行が誕生し、外資
は預金ではなく、様々な投資・資産運用ツール(理財
銀行も受け入れるようになった。
商品)で集められた資金、企業の余剰資金、用途を変
19
えた貸出資金で厳格な規制・監督を受けない。投資先
は不動産ローン、信託商品、あるいは中国独特の地方
■第87回中国セミナー
2013年11月25日、杜進氏
政府融資プラットフォームなど。リスクの一つは借入
(拓殖大学国際学部教授)を
から貸出までの金融仲介ルートが長く、金利が高いこ
講師にお招きし、「中国の格
とで、連鎖訴訟案件の発生率が高い。また、地方政府
差問題と所得分配制度の改
が地場の不動産を開発し販売することで財政収入を図
革」についてご講演いただい
るプラットフォームには開発案件の販売不振が発生し
た。ご講演要旨は下記の通り
ており、危惧する声もでている。信託会社の貸出先は、
である。
商工業、不動産、一次産業、証券と色々だが、不動産
20
の割合が増えている。
中国の格差問題は研究者、マスコミ等で色々議論され
シャドーバンキングは1年以内の償還のファンド形
ているが、先日、中国の三中全会が全面的改革案を打
式の理財商品を売って調達した資金を高利の長期貸付
ち出した。その背景、現状、政策対応について私の見
で利ざやを稼ぐというもので、常に期間のミスマッチ
解を述べたい。
を抱えている。 (マクロ経済問題としての国民所得分配)
(欧米のシャドーバンキングとの比較) マクロ経済問題として国民所得分配をみると、労働、
リーマンショックを引起こした欧米のシャドーバンキ
資本、土地などの生産要素間の分配と家計、企業、政
ングと比較すると、欧米ではシャドーバンキング関連
府という制度的部門間の分配という二つの側面がある。
取引がGDPの44%まで膨れ上がり、証券化を重ねるこ
制度的部門が生産要素の所有から得た所得を第一次所
とにより色々なリスクを混ぜ、デリバティブで全体が
得とよび、租税や社会保障費等の再分配を通じて受け
見えなくなっていた。そして、金融商品の資産価値が
取る所得を第二次所得(再分配)と呼ぶ。
市場で変動し、銀行の自己資本の20〜40倍まで膨張し
2007年、「第一次所得分配に占める勤労所得の比
ていた。いわゆる金融システム全体が汚染されていた
率」、「国民所得に占める家計部門の比率」と「財政
といえる。一方、中国の場合、GDPの10%を割ってい
支出における社会保障関連支出の比率」を高める所得
て、銀行と証券、保険が完全に分離していて資金が循
再分配政策が胡錦濤元主席により提起された。
環しない、さらに実需向けの健全な金融も多い。仲介
精華大学の白恩重教授が発表した国民所得分配の推
構造も割と単純で、リスクも限定的である。ただ、情
移(対GDP比)をみると、1996年までは勤労所得も家
報開示が不十分で規制監督が及んでいないものが多い
計所得も上昇傾向であったが、1997年から下落に転じ
ため、貸付先が返済不能になるリスクはある。
た。その原因は、①産業構造の変化で、付加価値に占
(今後の展望)
める勤労報酬比率が最も高い農業から報酬比率の低い
今後、モニタリングを強化し、規制のしり抜けのない
工業やサービス業に雇用がシフトしたこと、②国有企
ように監督していかねばならない。一方で金融の自由
業改革で3000万人の失業や一時帰休で勤労所得が減少
化もすすめていかなければいけない。
したこと、③国有銀行が提供した低コスト資金により、
国際金融には三つのトリレンマがある。独立的な金融
国有企業が労働節約的な技術を採用したため、勤労
政策、為替相場の安定と資本移動の自由化である、三
所得のシェアが低下したことなどが挙げられる。1996
つは同時に実現できず、一つは放棄しなければならな
~2007年の期間における政府、企業、家計の制度間部
いという公理である。中国は為替相場については変動
門の所得変化をみると、家計部門の可処分所得は-
幅を極めて狭く限定して安定性を確保し、金融政策は
14.63%と減少、一方政府部門の可処分所得は10.66%増、
人民銀行が独立的に決めている。資本取引の自由化は
企業は3.97%増となっている。家計部門の可処分所得
まだ認めていないが、拒み続けることはできなくなる。
の減少を補う再分配は機能していない。1990~2009年
金融政策の独立性は放棄できないので、最終的には変
における都市住民と農民の可処分所得に占める所得構
動為替相場制を認めるということに行きつく。日本が
成とその変化をみると、都市住民の勤労所得は10%低
金利の自由化を完了したのは94年で、資本移動の完全
下、その分を移転所得(再分配)増と自営所得増がカ
自由化は98年であった。中国の金融自由化はあと10年
バーしている。一方、農民所得は、自営所得25%減の
程度かかるのではないだろうか。
殆どを出稼ぎ労働による勤労所得増(+20%)でカバーし
ているが、移転所得(再分配)は期間を通じて10%を
ずは富裕層の灰色所得に税の網をかけるべきだと怒っ
越えず、再分配の恩恵は農民に届いていない。
ている。
(所得格差問題)
10年かけて準備され、今年2月に公表された「所得分
西南財経大学経済学院長・甘犁氏のグループが調
配制度改革を進化させるための通知書」の内容は多岐
査した「中国家計金融調査報告」によれば、2010年
にわたっている。主な目標は①所得倍増:2010~2020
の都市部の家計総資産の平均値は247万元、10%の最
年間に国民実質所得を倍増、低所得者の伸び率を倍以
高所得の家計の総資産は家計部門総資産の84.6%を占
上にする、②格差縮小:多くの低所得層の所得向上で
め、米国の59%を上回っている。富の偏在が顕著であ
中所得層を増やす、③法制度の強化:合法的所得の保
る。また、国民経済研究所副所長・王小魯氏グルー
護、隠れ所得の整理、非合法所得の取り締まりが明
プの推計によると、統計に補足されない2005年の都市
記され、④マクロ分配比率の改善(三つの比率の上
部の隠れ所得は4.8兆元、それが2009年の第二次調査で
昇):勤労所得比率、家計所得比率、財政所得に占め
9.3兆元(GDPの30%)に達したという。隠れ所得の8
る社会保障支出の比率の上昇が掲げられた。
割以上は20%の最高所得層が得ており、官吏や国有企
そして、11月15日、三中全会で決定の総合的改革案
業の管理層が多数を占めている。政府部門は資本、土
は、経済体制、政治体制、文化面の制度、社会管理面
地、天然資源などの使用権限を有し、賄賂や国有資産
の制度、生態環境面の制度、共産党・政府の統治能力
の浸食など、市場独占を背景にしたレント・シーキン
を強化するための制度等を全面的に改革することを目
グ活動(独占による権益確保)がその源泉になってい
的とした。所得分配との関連で注目すべき点は、①国
ると指摘している。都市部の最高所得の10%の家計と
有企業の改革:国有資産の一部や利潤の30%を政府に
最低所得10%の格差は31倍になるという。
上納し、社会保障関連基金にする、②金融の自由化:
ところが、都市部と農村部の生活満足度をハーバー
利潤率が高い銀行部門に民間参入を許し、民間銀行の
ド大学の社会学者、マーテイン・ホワイト氏の調査か
設立を許可、③財政改革:社会保障関連、公共サービ
らみると、農民の平均所得は都市部の三分の一と言わ
ス関連部門で中央政府の役割を強化し、中央政府が直
れているが、満足度は逆に高い。その理由として不平
接地方に一律的な公共サービスを提供できるシステム
等は競争の結果であり、自分たちに能力が不足してい
を作る、④土地の徴用と運営からの利潤に頼る地方政
るからというもので、最も強く不満を抱いているのは
府財政を根本的に解決する税収制度を整備、⑤土地使
所得が上がっている都市部の中間層であった。 用についての農民の権利の確保、土地と農村の一体化
(所得分配制度の改革)
した土地市場の整備、⑥労働市場の改革である。
所得格差の是正には、①不透明な税制や土地取引の
この総合的改革案で注目されることは、2020年まで
改革、②許認可権などの政府の管理制度の改革、③政
に共産党自ら指導グループを設置して実行していくこ
府と国有企業の関係の整理、④政府の再分配機能の強
とを謳っている点であり、その実施については既得権
化が必要不可欠である。所得分配の不平等が社会的不
益との絡みなど色々問題があるもののその実現に期待
公正感と結びつき、民衆の不平不満が権力者に向かっ
したい。
ており、所得分配制度の改革は経済・社会・政治の根
幹に関わる問題である。
所得分配制度改革は、「調高、拡中、提低」方針を
出した。それは、①富裕層所得の調整、つまり富裕層
から税金を多く徴収し、②中所得層を拡大し、③低所
得層の所得向上である。最低所得補償、社会保障整備、
財政交付の実施は国民的合意があるが、問題はやり方
と財源確保である。不動産税徴収は10年前から全人代
で何度議論しても結論は出ていない。園田茂人教授の
言葉を借りれば、楽観的な低所得層、怒れる中間層、
逃げる富裕層で、高所得層は海外に資産を移し、中産
階級は手に入れた不動産に対する税徴収に反対し、ま
21
5
環境・エネルギー部会(研究会)
(第 20 ~ 23 回)
■第20回環境・エネルギー部会(研究会)
熱関係 17%、工場 16%、工事 16%、わらの野焼き 4.5%
2013 年 4 月 26 日、
染野 憲治
(北京副市長言)
、自動車 22%、石炭 20%、越境 20%、
氏 (東京財団研究員)を講師
レストラン 13%(中国科学院発表)と言われる。中国
にお招きし、
「中国の大気汚染
で排出される SO2 量は 2000 万トン / 年(日本は 70 万
の状況 - 黄砂・PM2.5 など」に
トン前後)で、8省で 100 万トンを超える。発生源で
ついてご講演いただいた。ご
みると、工業系 85%、生活系 15% で、電力が 900 万ト
講演要旨は下記の通りである。
ン、鉄鋼 176 万トン、非鉄金属 168 万トンとなってい
る。SO2 排出量はエネルギー消費増に伴い増え続ける。
中国で PM2.5 騒動が起きたが、中国の大気汚染は今
NOx については、2011 年の排出量は 2400 万トン、対
に始まった話ではない。2006 年 12 月 11 日、北京市内
前年比 5% 増で、自動車のエンジンや工場のボイラー
は視界が 5 m以下になり、高速道路の閉鎖や走行スピ
の燃焼で発生する。中国はガソリンの質を良くし、排
ード制限が行われたが 350 件もの事故が発生。また航
出量を規制する時期に来ている。
空機の発着規制で空港が大混乱に陥った。ただその後、
(中国の環境対策)
北京の大気状況は 10 年以上連続してよくなっている
日本の環境対策は四大公害(水俣病、新潟水俣病、
と言われていた。環境保護部は 2000 年から米国で使わ
四日市病、イタイイタイ病)の反省と尾瀬沼の環境保
れている API 指数(Air Polluted Index)で観測した北
存、自然環境行政が起点になったが、中国は 1972 年に
京の汚染度をホームページで発表してきた。
ストックホルムで開催された国連人間環境会議に周恩
PM2.5 問題は、NGO が大気汚染を独自で測定して
来首相が代表団を派遣したのが起点で、その後憲法に
いることや米国大使館が 2008 年から PM2.5 を測定し
も環境が記載され、基本法となる環境保護法や行政法
ていることを改革派雑誌(南方週末)が 2011 年 10 月、
規、地方政府基準も整備された。環境保護部は、新環
紹介し、注目を浴びるようになった。そして、北京環
境基準を 2012 年 2 月 29 日に公表。同基準は 2012 年に
境保護局と米国大使館の PM2.5 の観測データの比較が
北京、長江デルタ、珠江デルタの重点地域および直轄
発表されたが、軽度汚染とした北京環境保護局は非常
および省市で先行実施、2013 年には 113 の環境保護重
に不健康、危険とする米国大使館との違いをうまく説
点都市、2015 年に地級レベル、中核都市、そして 2016
明できず、市民がインターネットで騒ぎだした。環境
年から全国に段階実施される。それまでの PM10 のみ
保護部が今年 1-3 月の 74 都市における PM2.5 観測デー
考慮した API(Air Polluted Index) から PM2.5 も反映し
タを 4 月に発表したが、環境基準超えが 56% であった。
た AQI(Air Quality Index) に数値も変更した。制度面か
大気汚染がデータでも裏付けられる結果になった。
らみると中国は打つべき対策は打っている。
(PM2.5 とは?)
ところが、
環境政策の実施体制をみると、
環境保護部
粒径 2.5 マイクロメートル以下の非常に微細な物質
の人員は約330 名で、日本の環境庁 1500 名、米国 EPA
で particulate matter の略。火山灰や森林火災時に発
の 18,000 名と比較しても少なく、廃棄物担当は 3 名に
生する自然由来に加え、石炭発電、自動車の排気ガス、
過ぎない状況。予算も 2004 年推計で対 GDP、初期 7%、
工場の廃塵、煤塵などに含まれる。主体は石炭やガソ
継続 2% の投資が必要とされたが、当時の中国の環境
リンを燃やすと発生する SO2 や NOx(窒素化合物)
、
保全投資は GDP の 1% に満たなかった。日本が 70 年
VOC(揮発性有機化合物)で、ほかに亜鉛、銅、スズ
代にGDP の 8.5% を環境に投資したことを考えると少
などの重金属も含まれる。こうした物質は微小で、気
ない。法制度の実施に必要な人員、
予算が不足している。
管支を通過し肺の奥まで入り付着し、喘息、気管支炎、
22
肺癌など、呼吸系・循環器系の疾患をもたらす。
中国での環境汚染の発生には三段構造の原因が指摘
北京における PM2.5 の発生源は自動車排ガス 22%、
される。第一に、2012 年は 1988 年以来最も寒い冬で
あったことから暖房が必要となり、多くの石炭、石油
中国の環境問題は大気(PM2.5)や水汚染など、
毎年
が焚かれたこと。第二に、粗放的な経済成長で汚染物
悪化している。中国の環境対策技術は既に高い水準に
質の放出が増えたにも拘らず、環境対策が不十分であ
あり、問題は解決できるはずだが、簡単ではない。そ
ったこと。第三に、選挙、三権分立、報道の自由とい
こで、その原因を探ってみる。
う社会システムがないことである。中央から派遣され
1. 地理的要因
る首長は環境保護に対する地方住民の要望を無視して
(a)大規模な国土と、特殊な地理的状況がある。例え
も、経済が成長していれば評価される。そして、三権
ば、長江や黄河など大規模河川が上流域で汚染される
分立が確立されていれば、行政への不満を訴訟に訴え
と、下流域が広く被害を受ける。大きな流域全体でコ
ることができるが、全てが党の支配下にある中国では
ントロールしなければならない。
適切な判決がなされない、あるいは執行されないとい
(b)酸性雨などの大気汚染も同様。中国では人口が密
うケースがある。さらに、報道の自由がない。このよ
集する大都市が多数存在している。発生源も被害を受
うな社会システムでは環境問題は解決しない。
ける地域も広範囲に及ぶ。
2. 中国経済の構造的要因
最近は大気汚染だけでなく廃棄物でも紛争が目立ち、
中国は 13 億人を超える人口を抱え、雇用創出のため
投書件数は一気に増え、今年の全人代のテーマは幹部
には第二次産業の発展が不可欠。急速な経済成長を牽
人事と環境問題であった。大気汚染に対する環境保護
引しているのは製造業で、大量のエネルギーを消費す
部の対応のまずさで、環境保護部の大臣の信任、また
る。中国では石炭がエネルギー全体の7割以上を占め、
全人代の環境保護委員会のメンバー構成について多く
年間消費量は 40 億トンに近い。脱硫装置は多くの発
の反対票があったが、これは前代未聞のことで、それ
電所で設置されているが、効率の問題から稼働されず、
ほど政府の環境政策に対する国民の声は厳しい。
硫黄酸化物など大気汚染の原因となっている。CO2 排
今後、環境汚染に対する批判を報道統制で抑えきれ
出量は既に米国を追い抜き、世界全体の 4 分の 1 を占
なくなり、環境投資をしないで経済運営を続けること
める。地方政府は農民の土地を強制収用し不動産の乱
はできなくなることも考えられる。小康社会となり国
開発を進め、企業誘致に熱心だが、それが地方役人の
民が裕福になると、次は環境重視に向かい、紛争・デ
汚職腐敗の温床となり、誘致された企業が大気・水・
モが多発し、政府も国民の不満を和らげるためには環
土地汚染を起こす。経済成長を優先させる方針を続け
境政策を積極的に推し進めざるを得なくなる。
るかぎり、中国は膨大な資源を喰い、汚染を撒き散ら
しかしながら、
「上に政策あれば下に対策がある
し続ける。
中国では、脱法行為で環境汚染を続けながらでも金儲
中国政府や党中央の環境対策は、2011 年に国務院発
けをするというのが一般的で、環境対策が国民に受け
表の第 12 次5カ年計画でも、
「環境保護の取り組み強
入れられるには環境に対する理解、教育が求められる。
化」
「生態系の保護・修復の促進」などが記されている。
教育は今から始めても 10 年、20 年後でなければ効果
国の環境政策を扱う環境部には 300 人ほどの職員で人
は期待できないことから、悲観的にみれば当分の間は
員不足である。現状では上からは掛け声だけ。地方の
中国の環境汚染は改善しないことも考えられる。
現場まで浸透していない。
3. 行政システムの不備
■第 21 回環境エネルギー研究会
(a)法の施行
2013 年 9 月 27 日、井村秀文
中国では行政システムの不備により、党や政府の指
氏(横浜市立大学 特任教授)
示が環境問題に関しては地方で実施されない。国から
を講師にお招きし、
「技術だけ
地方の省政府や市政府に環境政策が出されても、その
では解決しない中国の環境問
執行は地方政府の役人の裁量に任されがち(法治より
題」についてご講演いただい
人治)で、企業との癒着で正しく執行されず、住民か
た。ご講演要旨は下記の通り
らの訴えに適切な対応をしないことが多い。工場監視
である。
モニタリングなど科学的調査で対策をとるという意識
23
も能力も低い。
めに貢献したい、という日本側の気持ちがどこまで通
北京五輪(2008 年)を前に、北京の大気汚染はかな
じたか疑問である。
り改善されたが、北京市長は市内の鉄鋼工場を天津近
6. 中国は、地球環境問題について、
「先進国のこれま
くに移転させただけだった。また、最近、上海で環境
での活動が原因だ。途上国である我々には発展の権利
規制が強化されると、企業は挙って隣の蘇州市や無錫
がある」と言い続けている。GDP 世界第2位となった
市へ移転した。現在、これらの市での厳しい取り締ま
大国の自覚はない。
りで、さらに西の安徴省へ移り始めているという。広
環境問題の改善に立ちはだかっているのは、中国の
大な国土で、モグラ叩き状態である。
政治体制だ。言論の自由や人権の尊重などが遵守され
(b)情報非公開
政府は汚染に係る正確な情報やデータを開示しない。
る民主主義が実現されないかぎり、真の環境対策が実
施される日は来ない。
当然、
企業に対する適切な指導もできない。PM2.5 が大
24
きく報じられた発端は、米国大使館が独自の測定結果
■第 22 回環境・エネルギー研究会
を発表したことによる。それがインターネットで広ま
2013 年 10 月 21 日 、岩坂泰
って大騒動になった。北京もデータを公表したが、大
信氏(滋賀県立大学)を講師
きな食い違いがあった。
にお招きし、
「黄砂と越境汚
中国企業の多くは環境意識が低く、当局がうるさい
染、北東アジアの大気管理を
から最低限の対処をする、という程度で、国営企業に
どのように考えるか」につい
は環境対策をして社会的貢献を果たすというモチベー
てご講演いただいた。ご講演
ションが働かない。日本の公害問題では、地元住民の
要旨は下記の通りである。
運動が解決に不可欠だった。 中国では、仮に地元病
黄砂は、明治に入ってから次第に中国大陸からやっ
院の医師が調査に取り組み地方政府に訴えても口封じ
てくるらしいと考えられ始めた。戦時に養われた技術
される。SARS や鳥インフルが全国各地に飛び火した
が第二次大戦後海外から流れ込み、日本国内で蓄えら
原因である。マスコミや専門家による真相究明は難し
れた技術と相まって気象学や超高層物理学は目覚まし
く、外国人ジャーナリストが現地を訪れると、公安警
く発展した。電波技術、気球技術、ロケット・航空機 (
察が妨害する。
残念ながら日本では航空機産業に大きな制限が掛けら
工場排水による水質汚染の結果、癌患者が大量に発
れたが ) などが研究に積極的に使われ始めた。
生する「癌症村」などの公害問題が起きている。経済
1950 年代に入ると「黄砂は中国大陸の低気圧活動に
発展の恩恵に与ることができず、汚染問題に苦しむ地
伴って発生し偏西風によって砂塵が日本にも運ばれて
方の農民の不満が、暴動を生んでいる。開発のための
くる」と考えられるようになった。
土地収用をめぐる農民と地方当局/警官隊との衝突は、
1970 年代、アメリカでは海洋研究がきっかけで黄砂
年に 10 万件以上と言われ、その多くに環境問題がから
の存在が広く知られるようになり、アメリカの科学者
んでいる。
研究者が多数黄砂の研究に携わり始めた。
4. 低い衛生意識
その後黄砂研究は、大気汚染物質と黄砂粒子の関係が
政府のみならず一般国民の低い衛生意識も、環境問
注目されるようになり、黄砂には 「空飛ぶ化学工場」
題が解決しない原因である。日本では、昭和初期から
としての機能があることが明らかになった。砂塵は大
各地に保健所が作られ、予防注射や伝染病の予防シス
気中の組成と様々な反応を起こして浮遊する。例えば、
テムを作り上げてきた。公害対策も公衆衛生が出発点
黄砂粒子を構成する炭酸カルシウムが水に溶けるとア
だった。
ルカリ性を示し、酸性物質である亜硫酸ガス(二酸化
5. 1990 年代、日本は 100 億円以上の資金を投じて、北
硫黄)が沈着して中和される。
京の日中友好環境保全センターを創設するなど、環境
我々が生活している北東アジア圏は、それこそ何の
対策で援助した。北京市最大の下水処理場や西安の水
因果かと言いたくなるような国や地域の地理的配置な
道の一部も日本の援助で作られた。しかし、中国のた
のである。西から東に偏西風は次のような地域の上空
を流れてゆく。
た」を視野において考える必要性を暗示している。
今や我々は、空気は誰のものかを問わねばならない
ところまで来ているのかもしれないのである。
■第 23 回環境・エネルギー研究会
2013 年 12 月 15 日(金)の
第 23 回環境・エネルギー研究
会では、笹原勉氏(日揮株式
会社 営業本部中国・環境事
業開発部部長代行)をお招き
し、
「中国事業に取り組んで」
「黄砂発生源」→「大気汚染物質発生源」→ 「日本海、
と題してご講演頂いた。ご講
東シナ海」 → 「日本列島」 →「太平洋、アメリカ大陸」
演要旨は下記の通りである。
大気汚染物質と反応し、その生産物を太平洋側に運び
去る役目をしていたのである。この事件は、大気中に
日本語の「違う」には different と wrong の意味があ
浮遊している微小粒子(今では PM と呼んだほうが通
る。日本人は”different”なことは”wrong”であると
りが良い)が生まれた時の姿のままで飛び回っている
考える傾向があるのではないだろうか。私も、中国人
のでなく反応基地として飛び回っているのではないか
の言動が”wrong”であると感じることがよくあるが、
と思われるようになった。
ただ”different”なだけかもしれないと考え直すよう
今日では、微生物が黄砂粒子の表面にくっ付いてい
にしている。
る可能性すら指摘されており、改めて「ホコリと微生
(PM2.5)
物との関係」について考えるきっかけを提供している
PM2.5(Particulate Matter= 粒子状物質 ) とは粒子径
のである。そしてそれらのほこりを運ぶ大気とは我々
が 2.5 μ m 以下の物質を指し、微細なため、肺に侵入
にとってどんな存在なのかを改めて問うているように
し傷つけ炎症を起こすことがある。肺がんや心臓疾患
思えるのである。
の原因になるとの報告もある。
黄砂、
自動車の排ガス、
石炭燃焼による煤など元々の
固体だけでなく、酸性雨の原因となる SOx、光化学ス
モッグの NOx、
VOC( 揮発性有機化合物 ) などの気体が
太陽光に反応して固体化したものも含まれる。PM2.5
を防ぐには、大気に排出される全てが対象となる。
(PM2.5 に関する中国での環境事業)
1. コークス炉排ガスの燃料化:コークス炉排ガスに
はタールなどの不純物の他に、メタン、一酸化炭素、水
黄砂やその他の粒子状物質が常に浮遊し、我々の生
素などガスが含まれる。日揮には 30 年前開発の、コー
活や行動に陰に陽に影響を与えていることがはっきり
クス炉排ガスから不純物を除去し天然ガスを合成する
してきた今、このとらえどころのない空気を我がもの
技術があり、最近この技術を中国で初成約。コークス
と出来るのかが大きな問題である。工場排ガス(四日
炉は中国各地にあり、今後に期待している。
市公害)
、船上で発生したゴミの海洋投棄、難破船の
2.SOx(硫黄化合物)
:PM2.5 の原因の一つである硫
処理、クジラの所有権などは、行方定めぬ空気や海水
黄分を原油の精製段階で触媒を使って除去する技術を
の流れが持っている「何物かを運ぶ」力がもたらした
中国に売り込んでいる。ただ、中国の大手石油会社に
様々な問題を通して、空気の流れやその流れによって
は既にそれなりの品質の技術があり、売り込みには一
運ばれるものについて、もう少し真剣に「環境ありか
層の努力と工夫が必要となる。③ NOx(窒素化合物)
:
25
石炭火力発電所の排煙ダクトにつける NOx 除去機器
染を止めることが出来ない理由の一つに社会体制の違
に使われる触媒を日揮が世界で初めて発明、中国でも
いがある。日本では、環境汚染が酷かったとき、まず
知財権問題と戦い乍らライセンス販売している。
民衆が騒いだ。そして、メディアが取り上げ、さらに
3.VOC(揮発性有機化合物)
:ペンキの匂いなど、工
政治家が取り上げた。住民訴訟が起こり、司法が環境
場や家電製品から排出される VOC の処理に日本では
汚染対策を執行させた。ところが、中国ではメディア
触媒を使う。最近中国では PM2.5 の原因の一つである
の管理体制、政治家の選出方法、司法制度が日本と異
VOC を大都市で規制する動きがあり、日揮も売り込中
なっている。中国にあった環境汚染の解決メカニズム
を行っている。格安の模倣品対策は課題の一つである。
が必要である。また、企業は環境汚染源を除去しても
(下水の汚泥処理)
一銭のもうけにもならず、誰も投資したがらない。そ
中国の下水処理場は日本の援助もあり急速に整備さ
の上、日本の技術は中国企業が導入するには高すぎる。
れているが、下水処理から発生する汚泥処理設備が不
さらに、知財権の問題もある。このように環境事業を
足している。埋立地不足や埋め立てた重金属による土
巡る問題は多い。
壌汚染問題など、下水汚泥処理は大きい問題である。
日本企業が中国で環境事業を行うには以上の通り困
安徽省が困っていた汚泥と稲わらの処理を、日本のバ
難が多いが、うまくいった例もある。京都議定書に基
イオマスと汚泥混焼技術で解決するべく、NEDO と中
づく CDM( クリーン開発メカニズム )、いわゆる排出
国政府資金による日中モデル事業として実施中。
権取引である。京都議定書により、先進国は温室効果
これとは別に、大阪市に下水汚泥を乾燥・溶融し、
ガスの削減義務を負った。ところが、途上国では先進
建設資材を作るプラントを日揮技術で建設、運営して
国より大幅に低いコストで温暖化ガスの削減が可能で
いる。また、同技術を用いた汚泥乾燥設備をセメント
ある。そこで先進国が途上国に資金と技術を提供して、
工場に設置し、セメントをつくる際に発生する排熱を
排出量を削減すると、削減義務を満たしていると認め
利用して汚泥を乾燥させている。乾燥汚泥の有機分は
るのが CDM である。日揮は 2005 年の京都議定書直後
石炭の代替燃料、無機分はセメントの原料として利用。
に日中間で最初のプロジェクトを実現し、中国での温
中国での普及を目指しているが、コストダウンがキー。
暖化ガス削減で得た排出権を日本の発電企業等に供給
(アルファルファの緑化事業)
した。排出削減によって対価を得た中国企業、低コス
中国はアルファルファを米国から大量輸入している。
トで排出権を獲得した日本の発電企業、事業を構築し
栄養価が高く牛の飼料になり、砂漠の緑化にも寄与す
た日揮がそれぞれ利益を得ることができ、地球環境保
るアルファルファを内モンゴルで作っている企業があ
全に貢献する事業となった。日揮は、このプロジェク
り、提携を検討したことがある。
トを含めて、年間 640 万トン相当の温暖化ガス排出削
(アオコ対策)
減事業を行った。クールビズ運動がひと夏、日本全体
2005 年、太湖でアオコが大量に発生し水道水が飲め
で精々 200 万トンの削減だったことを考えても、大き
なくなった。日本のオゾン技術を使ってアオコを処理
い規模であった。
すると、湖面からはアオコが除去され、含有酸素が豊
富な水を湖底に循環させると、湖沼の自然浄化作用が
中国で環境事業を進めていくには、中国が欲しい技
回復する。太湖での実証実験は一か月で劣五類水を飲
術を中国市場の特殊な環境に見合った価格と販売方法
用レベルの 3 類に浄化。昆明の填池では NEDO の支援
で売るという新しい知恵と試みが求められる。
を受けて実証実験を行った。二つの実験で、中国で使
える技術であることは実証できたが、水質浄化をどの
ように金銭的対価として評価し、誰がその対価を支払
うかという、ビジネス化の仕組みを模索中である。
(環境事業の課題)
中国では環境汚染を解決するための技術はある。な
い技術は世界のどこからでも買える。それでも環境汚
26
6
アジア研究会(第 1 ~ 3 回)
■第 1 回アジア研究会
り、組閣完了は 2 月 25 日から 52 日後であった。この
第 1 回アジア研究会を 2013
ため、支持率は最初 44% と韓国的には低い数字からス
年 6 月 26 日 ( 水 ) 九段ビル会議
タートし、1 ヶ月後に更に 39% まで減った。しかしな
室にて実施した。講師には箱
がら、3 ヶ月後の世論調査では、60% 前後という結果
田哲也氏(朝日新聞論説委員)
が出た。
をお招きし、
「朴 槿惠(パク・
クネ)新政権の外交・統一政
策について」というテーマで
ご講演いただいた。ご講演の要旨は以下の通りである。
(外交政策-対日本)
去年 8 月の李 明博大統領による独島(竹島)上陸強
行、その後の天皇陛下に対する言動等で、日韓はこれ
まで経験したことがない次元の関係に突入してしまい、
(韓国大統領選-確定得票)
日韓は関係修復の姿勢は見せたが、8 月のショックが
私は韓国の大統領選を過去3回見てきた。最初は
大きすぎて、うまく改善できなかった。
2002 年で、その5年前に金 大中(キム・デジュン)氏
今の外交部長官の尹 炳世(ユン・ビョンセ)氏に、
が韓国初の政権交代を成し遂げた次の選挙だった。大
当時、朴 槿惠政権の対日政策を聞くと、
“心配ご無用”
激戦の末、同じ革新、進歩側の盧 武鉉(ノ・ムヒョン)
と繰り返していたが、昨年 10 月初め頃から状況が変わ
氏が大統領になった。そして、10 年続いた革新、進歩
った。安倍氏が自民党の新総裁になり、歴史認識につ
政権のあと、2007 年に保守の李 明博(イ・ミョンバ
いての発言も出たため、これは大変なことになるので
ク)氏が政権奪取に成功した。
はないか、という空気が強まってきていた。
今回の選挙は 75% 超の高い投票率で、保守で女性の
12 月 19 日に朴 槿惠氏が大統領に当選後、不幸なこ
朴 槿惠氏が勝利した。朴 槿惠氏は韓国初の女性大統
とが色々起きた。まず、安倍氏がすぐ特使を送ろうと
領であり、父の朴 正煕(パク・チョンヒ)氏と共に、
したが、朴 槿惠氏は既に警戒感を強く持っており、最
韓国初の親子二代の最高指導者。高い投票率による保
初これを断った。次は 2 月 25 日の就任式で、日本の
守の勝利が、今回の大きな特徴。多くの国民からの支
総理大臣の韓国入りを巡り、水面下での神経戦があり、
持が、今後、色々な意味で良い影響が出てくると見て
結果的に副総理である麻生氏が名代で来た。面談に同
いる。
席した関係者によると、麻生氏が“とにかく前を向い
て行きましょう”と終始持論をぶったため、朴 槿惠氏
(韓国大統領選-勝利のキーワード)
は非常に不快そうだった。一方、中国はこれまでより
勝利のキーワードは 3 つある。1 つ目は保守、自分
1 つ上のクラスで、女性の国務委員を韓国に送り出し、
は保守を支持しているということを改めて認識させた。
面談では“あなたはアジアの女性リーダーだ。
”と持ち
2 つ目はジェンダー、もう 1 つは SNS。女性というこ
上げ、朴 槿惠氏は終始ニコニコしていたという。
とと、SNS をうまく使った。
また、今年 4 月、外交部長官である尹氏の日本訪問
計画中に、韓国側は靖国神社の例大祭に日本の総理大
(韓国大統領選-苦難の船出)
臣、官房長官など、主要関係者が参拝しないことを求
政権は 2 月 25 日から始まったが、順風満帆とはい
めたが、初日に麻生氏が参拝した。それで、韓国側は
かなかった。朴 槿惠氏の父は非常に剛腕で鳴らした絶
カンカンになった。その後、安倍総理が侵略の定義は
対権力者で、朴 槿惠氏もこれを引き継いでおり、自分
定まっていないという発言をした。私が5月に韓国政
の信念に基づき決断する。また、警戒感が強いと言わ
府の関係省庁をまわった感じでは、韓国はこの言葉に
れており、これは国政運営上プラスには働いていない
対し一番怒っていた。こういう状況で、韓国はもう日
ように見える。朴 槿惠氏の頑固ぶりは人事にも出てお
本との問題はこのまま放置しておこう、というような
27
感じになり、今現在もそれが続いているとみていい。
いても、アメリカや中国は韓国の主張に配慮して政策
を進めているというより、それぞれの国益に照らして
(外交政策-対中国)
進路を決めている。日本に対しても、ハードルの高さ
大統領選挙の前まで、朴 槿惠氏はアメリカとの同
を柔軟に変えない限り、うまくいかない。日本と冷た
盟関係を一番に考え、北朝鮮問題では日米韓の緊密な
い関係が続けば、日本との国交正常化自体がお父さん
関係を維持、強化し、経済のパートナーとして中国と
の誤った判断であり、娘のあなたが責任を負いなさい、
の関係をより改善するという言い方をしていた。韓国
ということになりかねない。朴 槿惠氏は重々これをわ
の今の主流は、朴 槿惠政権に近い人も、相対する進歩、
かっているので、中国訪問後、恐らくベクトルは日本
革新の人も、二言目には、いよいよ G2 の時代、アメ
に向くと思うが、
「新しい関係」のハードルをある程度
リカと中国が各分野で仕切る時代がやってきたという。
自由にしないと、かなり状況は厳しいのではないか。
今の韓国でそれなりの立場の人たちは、中国とアメリ
カの狭間でうまくやっていかないと、韓国は生きる道
■第 2 回アジア研究会
がない、非常に危険かつ難しいが、これが生きていく
第 2 回アジア研究会を 2013
唯一の道であると思っている。先月、韓国に行ったら、
年 8 月 27 日 ( 火 ) 九段ビル会
日米と共に進めると話していた北朝鮮政策も、今後は
議室にて実施した。講師には
韓、中、米という枠組みのほうがうまくいくのではな
小島眞氏(拓殖大学 国際学部
いか、という人がかなりいた。今では韓国政府の外交
教授)をお招きし、
「インド経
当局者でさえ、こう考える人が少なくないと思われる。
済の最新動向と対日、対中策」
というテーマでご講演いただ
(外交政策-南北関係)
いた。ご講演の要旨は以下の通りである。
大きく分けて、韓国における北朝鮮政策は 2 つある。
1 つは金 大中氏が始めた太陽政策。もう 1 つは李 明
(第 2 次 UPA 政権下のインド経済)
博氏が行った北朝鮮がまず核を放棄する意思を示せば、
インドでは 2004 年の総選挙で国民会議派が政権に
良いことが開けるという政策。ただ、この 5 年間はま
カムバックし、マンモハン・シン首相を中心とした
ともな南北協議はできず、2 度の大きな軍事挑発が発
UPA 政権が樹立され、09 年より第 2 次 UPA 政権下に
生するなど、北朝鮮政策はうまくいかなかった。
ある。UPA 政権下では年平均約 8.2% のかなり高い経
朴 槿惠氏が提唱する朝鮮半島信頼プロセスは、第
済成長を遂げてきたが、2011 年あたりから成長がスロ
3 の道で、まず対話し、信頼構築の上で懸案を包括的
ーダウン、
昨年は 5% と期待を裏切る数字となった。現
に解決していく政策。だが、対話を始めようとしたが、
在の第 12 次 5 カ年計画(2012-17 年)の目標成長率も
北朝鮮の挑発的な行為の中で、意地の突っ張りあいに
引き下げられ、現在、8% の成長を目指しているが、状
なり、唯一の南北朝鮮の交流の窓口であった開城(ケ
況は厳しい。特に工業成長率低下が不安要素である。
ソン)の工業団地まで撤退することになり、今はとっ
経済成長減速の背景には、政治的滞りがあげられる。
かかりさえなくなってしまった。
ここ 1-2 年、汚職スキャンダル等の政治問題が噴出し、
これに連動して政府許認可差し止め、政策決定見送り
朴 槿惠政権は原則を重視し、わかりやすい。国民の
が行われた。もう一つはマクロ経済の不均衡があり、
消
広い支持は強みであるが、恐らく今後支障になるのは、
費者物価が 10% 前後に上昇、このためレポ金利が引き
彼女の一本調子な性格ではないか。
上げられ、経済活動に水を差した。財政赤字や国際収
朴 槿惠氏がこの 1 ヶ月ぐらい強調するのは、
「新し
支の問題もあり、貿易収支の赤字が GDP 比 10%、経
い関係」
。
「新しい関係」とは、北朝鮮に対し高いハー
常収支の赤字も 4.8% と高レベルにある。また、インフ
ドルを設定し、日本に対しても日韓関係円滑化のため、
レヘッジのための金輸入が GDP 比 2-3% ある。更にル
「正しい歴史認識」を持つよう求めている。ただ、現
実的には、これではなかなか前に進まない。対北につ
28
ピー安があり、インフレに悪影響を及ぼしている。
インド政府は汚名返上を目指し、昨年 9 月に新たな
経済改革の措置を発表した。その中の一つの目玉が複
の面から、インドとの関係を重視し始めた。
数ブランドの小売業の外資への自由化。これは外国か
国境問題は二つあり、カシミールとアルチャナル・
ら期待されていた措置であり、起死回生の動きである。
プラデーシュ州。インドからすると中国はパキスタン
ただ、今年の経済展望については、株価の低迷とルピ
を凌駕する仮想敵国であり、印中共に相手に対する猜
ー安があり、インフレ緩和によるレポ金利引き下げを
疑心が強い。領土問題以外にブラマプトラ川を巡る水
行ったものの、最近のインド中央銀行による経済成長
資源問題があり、不協和音が出ている。
予測は 5.5% となっている。
また、
中国はインド洋進出を図っており、
インドを取
インドは来年総選挙があり、今年は思い切った経済
り囲む形で真珠の首飾り作戦と呼ばれるが、パキスタ
改革はできないという見方が強い。複雑な税制を見直
ン、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュに道路
すための GST(商品・サービス税)導入も不透明な状
や港湾をつくり、インドをけん制している。ただ、印
況。インドの問題にポピュリスト的政治があるが、最
中は対立だけではなく、地球環境問題や資源開発にお
近新しい動きもある。州議会選挙で投票率が上昇して
いて共同歩調をとる動きも出ている。
おり、とりわけ若者やカーストの低い人の間でそうし
中国はインドに対してしたたかな外交を行っている。
た傾向が顕著である。彼らは今の政治に限界を感じて
両国間で国益をめぐる対立は避けられないが、両国と
おり、ガバナンス重視の考え方が出てきた。
も実利主義外交を展開しており、インドにとって中国
は最大の貿易相手国。直接投資については、インドか
(インド経済成長への課題)
らは IT 企業、自動車部品などの企業が、中国からは
インドが 7-8% の経済成長を達成するための課題は、
重機械・インフラ建設機械、家電、通信等の企業が進
やはり経済改革。今後、
更に踏み込んだ改革が必要。流
出している。人的交流も意外に深まっている。
通、労働市場、土地収用の面で、規制の是正、撤廃や
柔軟に対応できる仕組みが重要。二番目は工業部門の
(重要性を増す日印関係)
育成。明確な産業育成策を打ち出し、工業部門での雇
日本からみると、インドは広大な国内市場、生産・
用創出が必要。現在、国家製造業政策が謳われ、GDP
輸出拠点、IT 人材の活用等の点で重要。インドからみ
に占める製造業のシェアを、現在の 15-16% から 22 年
ると、日本の優れたモノづくりの技術、日本からのイ
までに 25% に拡大し、1 億人の雇用創出が打ち出され
ンフラ投資、IT サービスの輸出市場等の点で重要。
ている。三番目はインフラ開発。これはインドの弱み
日印貿易はこれまで停滞していたが、2003 年頃から
であり、第 12 次 5 カ年計画では、1 兆ドルのインフラ
ようやく拡大に入った。2011 年に日印間の EPA が発
投資が予定されている。その代表例は電力で、インド
効し、特にインドからの後発医薬品の輸入、日本から
では未だに電化率が 7 割に達していない。石炭の供給
の鉄鋼製品、自動車部品の輸出が今後期待できる。
不足やポピュリスト的な政策の改善が今後の課題。
日本はシンガポール、
イギリスに次ぐ対印投資国。こ
れまで自動車関連に集中していたが、最近は進出企業
(印中関係 : 戦略的パートナーシップの方向性)
の増加、
進出分野の拡大、
深化がみられる。インフラ投
インドはアジアよりもヨーロッパ、アメリカ、ソ連
資については、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)
との関係が深かったが、ルックイースト政策を取り、
プロジェクトは今年秋より工事が開始され、バンガロ
2003 年以降、中国との貿易は顕著な拡大を遂げた。
ール・チェンナイ間プロジェクトも具体化に向けた動
当初、中国とインドは平和五原則に合意し、良い関
きが進行中。また、デリーのメトロが日本の協力によ
係にあったが、ダライ・ラマのインド亡命後、関係が
り大きな成功をおさめ、これが各大都市に拡張予定。
不穏になり、62 年には国境紛争が起き、冷たい関係と
日印の人材交流は課題を残しており、この改善が今
なった。その後、関係改善の動きがあり、05 年に戦略
後長期的な日印関係を進めていく上で重要。
的協力パートナーシップの共同宣言が採択された。こ
2006 年には日印戦略的グローバル・パートナーシッ
の頃から中国はインドの経済成長と核保有、印中貿易
プが締結され、経済のみならず、政治、防衛、安全保
の協力関係深化、インド洋におけるシーレーン確保等
障の面で協力が謳われた。DMIC プロジェクトの実現
29
に示される通り、毎年行われている首相の相互訪問が、
GDP は 2030 ~ 40 年あたりで、日本と同規模になると
お互いに約束を守るという点で効果を発揮している。
いう予測が多い。つまり、2030 年代に、世界第 3 位の
日印の関係については、日本は中国との間で難しい
経済規模の日本と同規模で、7 億人のエリアができる。
問題を抱えており、インドは非同盟、全方位外交を基
貿易については、ASEAN は中国と同様に材料を輸
調としている。インドは中国との関係拡大に期待をか
入し、加工した上で輸出している。ASEAN の貿易額
けているが、同時に戦略的に警戒すべき相手。日本が
は過去 30 年間 14、15 倍増えた。日本との貿易は、30
対中包囲網という形でインドにアクセスすると、イン
年前は全体の 1/4 だったが、今は 1 割。貿易額が増え
ドは同盟関係には入りたくないため慎重になる。民主
たのは、ASEAN 域内と中国。ASEAN からみて、30
主義国としてお互いに交流を深め、進展させ、共産党
年間で日本との貿易額は 7 倍に、中国とは 60 倍にな
一党支配下の中国を国際社会ルール順守の行動に誘導
った。これは、日本との貿易が伸びていないのではな
する、という形での連携を図ることが重要である。
く、30 年間で日本の工場がすごい勢いで ASEAN に出
たため、部品等を日本からの輸入ではなく、ASEAN
■第 3 回アジア研究会
域内で調達できるため。一方、中国の製造業はこの 30
第 3 回アジア研究会を 2013
年で ASEAN にほとんど進出しておらず、中国との取
年 10 月 25 日 ( 金 ) 九段ビル会
引が増えると、貿易額も増える。世界貿易総額は 30 兆
議室にて実施した。講師には
ドルであるが、東アジア内で出入りする域内貿易が 2
中西宏太氏(日本アセアンセ
兆ドルくらいあり、ここで 7 ~ 8% の貿易を行ってい
ンター貿易投資部投資担当部
る。日本、中国、ASEAN という海で隔たれた地域の
長代理)をお招きし、
「ASEAN
中で、物を相当回している。今、ASEAN には AFTA
の最新動向と中国、日本との
(ASEAN Free Trade Area)があり、ASEAN 先行 6
関係」というテーマでご講演いただいた。ご講演の要
カ国はほぼ関税ゼロで、他国も含めた域内で、2015 年
旨は以下の通りである。
には関税がゼロになる。ASEAN は日本と FTA、EPA
を結んでおり、韓国、中国、インド、ニュージーラン
(ASEAN の概況)
ド、オーストラリアとも協定を行っている。
ASEAN は 1967 年に地域協力機構として設立され
投資について ASEAN と中国を比較すると、
ASEAN
た。今年は日本と ASEAN の友好協力 40 周年となる。
も頑張っており、
1980 ~ 90 年代は中国より ASEAN の
安倍政権は ASEAN を非常に重視しており、首相就任
ほうが多い。日本から ASEAN への投資累積額も、中
1 年以内に ASEAN10 カ国全てを回ることになる。更
国より ASEAN のほうが若干多い。去年、今年は、日
に 12 月には東京で日本・ASEAN 特別首脳会議が開催
本と中国との関係もあり、ASEAN がかなり伸びてい
される。
る。日本から ASEAN への投資先は、累積額でタイが
ASEAN は 2015 年に ASEAN 共同体を設立予定で、
一番多い。
今、一体感がある。東南アジアという言葉は第二次世
界大戦前に初めてできた。それまでは中国とインドに
30
(生産拠点としての ASEAN)
挟まれたエリアという認識しかなく、中国とインドと
日本は 1970 年頃から人件費が上がり、ワーカーの
いう大きな 2 つの文化が交差し、西のインド・アラブ
賃金が安いところへ工場を展開してきたが、ミャンマ
からのベクトルと北の中国からのベクトルによる影響
ーより西への進出は難しいため、今後は中国と東南ア
を受けてきた。ASEAN10 カ国はこれまでヨーロッパ
ジアの中で、サプライチェーンを練ることになる。こ
のような通史がなく、一つになった歴史がないエリア。
れまで日本がやってきた安いところへ移り、少しずつ
ASEAN の現在の人口は約 6 億人。GDP は 230 兆円
値段を下げる、というやり方が構造的にできなくなる。
ぐらいで、
日本の 1/3。また、
1 人当たりの GDP は 4 千
ASEAN は国によりインフラの状況が異なり、企業に
ドルで日本の 1/10。これが大体のスケール観。ASEAN
よってどこで折り合いをつけるか考えることになる。
の人口構成は、今はピラミッド状で、20 年後も釣鐘状。
東南アジアの物流の中心はやはりシンガポール。シ
ンガポールが圧倒的に大きい。ODA については、
イン
ドネシアやベトナムが多い。一方、タイは既に ODA
(ASEAN にとっての中国とは?)
を卒業しており、今返し始めている。今後はミャンマ
ASEAN は中国と共に発展したいが、干渉はされた
ーが多くなる。農水産物、資源については、いろいろ
くない。また、半島部の国と諸島部の国では中国との
なものが取れる豊かな地域。観光については、東南ア
距離感に差がある。半島部は過去何千年と中国と良く
ジアには 30 以上の世界遺産があり、プチ贅沢なリゾ
も悪くも隣同士でやってきた。半島部は中国とケンカ
ートは東南アジアが一番よい。また、東南アジアは日
すると負けるとので仲よくする。ただし、ほったらか
本へのあこがれがすごく強い。日本はアジアの超発展
しておくと中国になってしまうので、中国と違うとい
した国、秩序があり、安全できれいな国ということで、
うことを強調する。一方、諸島部はこれまで中国が攻
日本への観光客が増えていくものと思われる。
めてきたことがないので、
領土的な脅威感はなく、
文明
も遠いので、中国という大国があるねという感じ。華
(市場としての ASEAN)
人ネットワークについては、タイやフィリピンは華人
消費市場としての ASEAN は、中間層の厚みが増し
とタイ人の区別がもうつかない。この様に政治の中枢
てきた。去年の自動車生産台数は、中国は約 2000 万台
に入れる国もあれば、インドネシアやマレーシアのよ
で、ASEAN は 420 万台。ただし、中国は地場メーカ
うに華人を政治から分離させているところもある。た
ーが強く、日本車のシェアは約 15% で、250 万台くら
だ、華人ネットワークはやはり商売が強い。
いしか売れていない。一方、ASEAN では日本車のシ
ェアが高く、販売台数 336 万台の内、270 ~ 280 万台
が日本車。利益率と販売台数は中国より ASEAN の方
が良い。耐久消費財普及率は平均すると日本の 1970 年
代のような状況。
(2015 年からの ASEAN 経済共同体)
ASEAN は 3 つの柱である、経済共同体、政治共同
体、社会・文化共同体がある。この地域は一度も統一
されたことがなく、社会は絶対に統一されないだろう。
今の ASEAN は国民国家を形成するベクトルと、共同
体により国家を解体するベクトルの 2 つが同時に起こ
っている。ASEAN はそもそも政治的要因により設立
された。中国の共産主義が東南アジアに飛び火すると
いう懸念から、インドネシア、フィリピン、マレーシ
ア、シンガポール、タイが一つになり、その後、冷戦
が終結し、ベトナム、ラオス、カンボジアがこれに加
わり、1999 年に ASEAN テンになった。
ASEAN は 1970、80 年代はほとんど活動していなか
ったが、1990 年代に中国が急激に経済改革を進め、日
本の投資も中国に入っていったことから、ASEAN 域
内の関税をなくし、一つの生産拠点とするため、1992
年に AFTA をつくった。更に一つの市場としてのダイ
ナミズムを生み出すために、ASEAN 経済共同体をつ
くろうとしている。ASEAN 共同体にはあまり期待し
てはいけないが、経済的には確実に統合されていく。
31
7
日中産学官交流講演会(第 9 回)
第 8 回日中産学官交流講演
中日韓 FTA の交渉について、重点の 1 つは関税の
会を 2013 年 4 月 23 日(火)九
軽減。中日韓 3 ヶ国の経済、産業、貿易の各方面から
段ビル会議室にて実施した。
見ると、それぞれの比較優位をもっており、3 ヶ国間
講師には金柏松氏(中国商務
の貿易は相互補完的な関係となっている。特にサプラ
部国際貿易経済合作研究院対
イチェーンの分業体制という貿易モデルが確立されて
外貿易部副主任研究員)をお
いる。2010 年の中日韓の簡易平均関税率は、それぞれ
招きし、
「グローバル化の新段
9.6%、4.4%、12.1%。2009 年の加重平均関税率は、それ
階における中日韓 FTA の意義」というテーマでご講
ぞれ 4.1%、2.7%、7.9%。ただし、農産品と非農産品で
演いただいた。ご講演の内容は以下の通りである。
分けると関税率のデータも異なってくるので、今後の
(これからの世界経済グローバル化の発展趨勢)
これからの世界経済グローバル化がどのような発展
よって関税軽減に対する期待の第一として、それぞ
趨勢を持つかについて、5 つの特徴がある。
れの国にとってセンシティブな商品で、その関税が大
1 番目は 2008 年の複合型の経済危機、金融危機が発生
幅に軽減できないリストを提示し、そのほかの商品は
してから、モデルの大調整の時期に入った。2 番目は
原則全て関税ゼロにすべき。期待の第二として、日本
環境への配慮があり、低炭素経済の発展段階に入る。3
と韓国の工業競争力が非常に強いので、積極的に関税
番目はもう一度科学技術革命が起こるのではないかと
を減らすことにより、RCEP の協力体制に範を示すこ
思う。4 番目は新興経済国の実態がどんどん発展して
と。期待の第三として、日本と韓国が自国の農産物の
いき、世界経済のパラダイムが画期的に変化してくる。
関税軽減要求に対して、国内の圧力を考慮しなければ
5 番目は地球全体において、超主権的な発展趨勢を見
ならないことについて、中国は理解を示すべき。同時
せることである。国家主権を超えるような協力体制が
に、中国も自動車部品の関税軽減について中国国内に
現れてくるのではないか。5 つの特徴の中で、私が一
非常に圧力があることを理解いただきたい。
番重視しているのは超国家主権的な発展趨勢。予測で
中日韓 FTA の重点の第二は、
投資領域の自由化。投
きる未来において、超国家主権的な発展趨勢が最も重
資領域の自由化に対しては、国連の研究報告によると、
要な特徴を持つ発展の形態になるのではないかと考え
2011 年の外資吸収の国別世界ランキングにおいて、日
ている。
本は第 132 位である。日本における外資の割合は、日
(自由貿易体系に対する中国の立場と優先順位)
本の GDP の 3.8% しかない。アメリカはこれが 20% を
このような新しい発展趨勢を見せている経済のグロ
占めている。スイスの調査によると、対外開放度は 59
ーバル化の中で、中国は地域的な自由貿易体系にして
ヶ国の中で日本は第 47 位。最近のウォールストリー
も、グローバルな自由貿易体系にしても、積極的に参
トによると、外資が日本で日本の企業と合併するには、
加すべきである。ただし、中国は自由貿易体系を支持
40% の税金を払う必要があると報道されている。中日
すべき立場ではあるが、同時に全ての経済体と自由貿
韓 3 ヶ国の相互投資額をみると、対外投資に占める比
易体系を結ぶことはできない。中国はやはり順番を選
率のわずか 1% にすぎない。これは、
3 ヶ国の緊密な貿
んでやっていくべき。一番重要視すべきなのは新興国
易関係と比例していない。よって投資領域の期待の第
で、世界の新興経済体と交流を深めていくべき。2 番
一として、外資の受け入れにおいて、日本は市場をも
目は ASEAN が主導する RCEP との協力を進めるべき
っと開放してほしい。日本と韓国は外資に対する投資
である。又、上海協力機構、APEC も発展の重要な枠
規制を緩和し、手続きも簡素化してほしい。期待の第
組みであると認識すべきで、中日韓 FTA も重点の 1
二は日本の業界、各経済団体は自分の領域をしっかり
つである。
守っており、外資を受け入れようとしないという姿勢
(中日韓 FTA の重点とこれに対する期待)
32
交渉において関税を軽減する余地があると考える。
を貫いている。例えば日本企業の中には系列化の関係
があり、資本提携の恒久化という問題がある。又部品
影響を与えることになる。新エネルギー仕様車の市場
供給も非常に固定化している。これは日本では商取引
はまだ規模が非常に小さいが、新エネルギー仕様車は
の慣行の中で、自然な現象として受け止めているかも
中国においてもニーズが大きく、市場も大きいと思う。
しれないが、外の企業から見ると、保守的で非常に参
中国政府は新エネルギー仕様車の発展計画を発表した。
入しにくい世界と映る。アベノミクスの内容をみると、
2015 年は 50 万台、2020 年は 100 万台の販売を目指し
安部首相は規制緩和を訴えている。その点について私
ている。
も同意している。私は日本経済の実質的な成長のため
もうひとつここで強調したいのは、知的所有権の保
には、内部構造の改革は不可欠と考えている。歴史上
護について協力の余地が大きいこと。中国政府は知的
では日本は外圧を利用して国内の改革を促すというこ
所有権の保護について重視する姿勢を強めている。た
とがあったが、今回、FTA 等の自由貿易関係において
だし中国は広く地域性も多様で、まだ重視していない
も、外圧を利用して国内の改革を促してほしい。
地方政府もたくさんある。私は中日韓 FTA の交渉に
中日韓 FTA の重点の第三としては、公平な競争と
おいて、知的所有権の保護特区を中国で立ち上げるこ
国民的待遇。中国にはなく、世界的に見てもあまりな
とを提案したい。これにより、知的所有権の保護につ
い現象として、日本における外資系企業は、少なくと
いて、飛躍的な進歩を遂げる可能性がある。中国は改
も数名の日本国籍の幹部が入ることを要求される。中
革開放政策をとる前に、特区を設置し改革開放政策を
国も開放度においては非常に保守的な面があり、不足
進めた。鄧小平は事実をもって反対する側の人々を説
しているとこも多い。
得した。私は知的所有権の保護についても、地方政府
重点の第四は中国も WTO における政府の購買協
の抵抗が非常に大きい中で、知的所有権の保護特区を
議、知的所有権の保護、金融の開放、国有企業の改革
設置し、実績が出れば知的所有保護に消極的な地方政
ついては、中国政府も積極的な姿勢を示すべきである。
府、人々を説得できると思う。
こういった行動をとることにより、中国経済の実質的
中日韓 FTA は、アジアのモデルをまとめ、それに
な成長につながる。
より国際貢献することも可能と思う。中国もそうであ
重点の第五については、韓国と日本の輸出に関する
るが、日本、韓国においても消費よりも生産を、虚偽
安全管理がある。中国にはこれがまだなく、中国も輸
経済より実態経済を重視する傾向にある。収入は常に
出安全管理を強化する可能性がある。
支出を上回り、それぞれの消費者は節制的な消費感を
先ず経済協力の可能性がある領域は、省エネと環境
もっている。又勤労意識においても労働の中に楽しみ
保護、再生エネルギー。日本で住宅用の小型ソーラー
を見出し、更に需要よりも投資を、輸入よりも輸出を
発電設備が技術的に優れていると聞いている。ただし、
重視する共通の特徴を持っている。このモデルはアジ
コストが非常に高く、これが新技術の普及を阻止する
アのモデルとしてまとめることができる。
要因となっている。このようなソーラー発電設備を中
国で生産すれば、大規模、低コストの製造が可能とな
以上
り、中国で普及する可能性がある。中国で普及し、日
本、韓国、アジア、全世界と普及していけば、これは
産業革命にもつながる話。2 番目の協力領域として、
ア
ジアのおける輸送通路の協力がある。マラッカ海峡を
通る国際輸送はアジア全体の 60% を占めている。これ
以外の輸送通路を開発することができれば、アジアの
経済繁栄にもっと貢献できる。中国はミャンマーで国
際輸送通路を開通しようとしている。又新エネルギー
の自動車の開発についても協力することができる。中
日韓 3 ヶ国は自動車の生産大国であり、この 3 ヶ国が
協力すれば、世界の自動車産業に対して計り知れない
33
寄稿
京論壇
【京論壇とは】
より深く理解することが狙いである。
京論壇は、東京大学と北京大学の学生が、日中両国に
おける重要なテーマについて二週間の議論を英語で徹底
【最後に】
的に行う団体である。今年度は 9 月中旬に北京で一週間、
大きな困難に見舞われながら今年も素晴らしいセッ
9 月下旬から 10 月上旬にかけて日本で一週間のセッショ
ションを実現できたのは、ひとえに日中産学官交流機構
ンが行われ、分科会、すなわち議論テーマごとに 10 人ず
の皆様をはじめとする支援者の方々のおかげである。皆
つがそれぞれ「教育」
「社会保障」
「労働」について話し
様の変わらぬ温かいご支援には大変勇気づけられ、また
合った。
多くのご助言、機会の提供をしてくださったことに、こ
日本でのセッションの最終日には最終報告会を開催し、
の場を借りて謹んで心よりお礼申し上げたい。皆様への
分科会ごとに成果発表が行われたほか、北京大生を含む
感謝の気持ちを忘れず、今後の活動に尽力して参りたい。
京論壇の現役メンバーと来場者の方々で自由な交流がで
きる懇親会も開かれ、来場者は 100 名を超える大盛況の
【分科会】
中幕を閉じた。これからも私達は京論壇の活動を社会に
教育分科会は議論を「義務教育、高校教育、大学教育、
対して広く発信していく予定であり、2014 年初旬には最
大学の大衆化 ( 大学教育の需要よりも供給が過大になっ
終報告書を出版する。
ている、特に日本における現象 )、愛国教育」の五つに分
け、前半三つを北京で、後半二つを東京で議論した。教育、
【2013 年度の活動】
34
特に義務教育は個人の価値観形成に大きく寄与し、社会
今年度は「人と向き合う議論をする」ということを方
全体をも方向付けるという意味で現代における最重要問
針として掲げた。ここには二つの意味が込められている。
題の一つである。愛国教育の議論においては、北京大生
一つ目は、
「日中両国間における相互不信を解消し、相互
が一定程度でこれを容認できると言う一方、東大生側に
理解を促進する」という京論壇の最も重要な目的を達成
は抵抗感があり、その背景には各個人が持つ「国」に対
するために、長時間膝を突き合わせて議論することによ
する認識や、教育という手段そのものの捉え方に違いが
り、相手の意見や考え方について最も深いところまで理
あることが明らかになった。社会保障分科会はまずセッ
解しよう、というものである。二週間に亘り同じ相手と
ションの初めに社会保障制度が果たすべき機能 ( 例えば
議論し続けることは私達にとって極めて非日常的な経験
「生存権の保障」や「リスク分散」等 ) を考え、その上で
であるが、だからこそ、議論テーマを介して相手の意見
少子高齢化や中国の年金制度、あるいはシンガポールの
の背景にある文化や風習、価値観を炙り出すことが狙い
社会保障制度等、具体的なケースについて議論を重ねた。
である。
労働は、就職を数年後に控えたメンバーにとって当事者
二つ目は、
「人と向き合う議論」の「人」を「私自身」
意識のある身近なテーマである。この分科会は議論を
「大
と解し、日本人の間だけでは当然だと思われている価値
学と労働、就職活動と労働、企業と労働、人生と労働」の
観に議論を通じて敢えて疑問を投げ掛け、改めて自分と
四つに分け、例えば「大学と労働」の議論において、中
向き合い直そうというものである。私達が普段当たり前
国では大学の専攻が将来の仕事と密接に関わっている一
だと思っていることは必ずしも普遍的ではなく、それが
方、日本では ( 特に文系において ) 両者の繋がりが薄いと
異なる環境で育った人と話して初めて発見されることは
いうことが話題となった。その一因として、北京大生は
よくある。つまり、相手との議論を通して自らの考えを
大学を学びや研究の場だと捉えているのに対し東大生は
相対化し、自らがどのような行動原理に従っているかを
勉強だけでなく課外活動等にも力を入れたい、というよ
うに両者には大学に対する考え方の違いがあるというこ
に重要であったということである。日中産学官交流
とがわかった。
機構の方をはじめ、京論壇は様々な方からご支援を
各分科会ではフィールドワークも充実しており、教育
頂いており、その一つ一つが無ければ京論壇は成り
分科会は東大生の出身高校、社会保障分科会は北京郊外
立っていなかった。筆者の京論壇代表としての一年
の NGO 法人、
労働分科会はスポンサー企業様等に訪問さ
は、皆様から頂く期待以上の成果を出すべく緊張感
せて頂き、社会の実情を窺い知る機会となった。
を持ったものとなった。改めてここに感謝の意を表
し、寄稿の結びとしたい。
【総括】
以下では今年度の総括について二点に分けて述べる。
文責:京論壇 2013 東大側代表 清水勇佑
一点目は、議論を行うにあたって、メンバー間の信頼関
係が非常に重要な役割を果たしたということである。京
論壇の議論は価値観の深堀りということをその中心に据
えているが、今まで見ず知らずだった他人に対して深く
意見を聞き、そして意見を発信することは必ずしも簡単
なことではない。しかし京論壇においては、遠慮や偏見
の無い、まさに互いが信頼関係で結ばれている場があっ
た。これが京論壇の最大の財産であり、二国間交流にお
いて最も重要な要素であると感じた。二点目は、スポン
サーの方々からのサポートが京論壇の成功において非常
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2014 年 1 月発行
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