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イギリスにおけるFD実践とは
イギリスにおけるFD実践とは 平成19年6月22日(金) 立命館大学第4回教育実践フォーラム 加藤かおり (新潟大学・大学教育開発研究センター) 本日の構成 1.FD,そしてイギリスに注目する理由 2.英国のStaff Development 3.その背景 4.PGCHE(新任教員の資格課程) −プログラムの構造と内容 −プログラム設計の基準 5.日本のFDの現状に対する 英国モデルの意味 なぜ、FDが必要なのか? FD=一般的に、教育集団の開発、 教員の教育力の向上策など。 ほか、大学の教育理念、目標実現の方策。 社会が変化している。 ・学生の多様化 ・社会と大学の関係が変化 (大学に求められる教育機能の変化) 新しい大学教育が必要。教育の重要性が増大。 新たな教育方法、教育体制の開発・普及が必要。 大学は、自ら変化、向上しつづけ(FD活動)、 教育機関としての自律性を示す。 なぜ、今、イギリスに注目するのか? 英国モデルは、 「欧州や国際機関を中心とする 世界的な大学教育の潮流を、 国と高等教育機関が連携して、 体現しつつある。」 ・・・と考察したから。 潮流の根底にある、国や文化を超えて 共通する原理を知りたい、取り入れたい・・。 Q.英国におけるFDは、 SD(Staff Development)と呼ばれている? Q.英国のSDは、FDと同じか? −英国のSDにおけるStaffは、基本的に教員。 Staff Development Staff and Educational Development Professional Development Academic Development Academic Staff Development(ASD) これらは、ほぼ同じ意味で使われている。 ⇒ここでは混乱をさけるためASDとする。 英国におけるASDとは 1.教員にとってのASD 教員としての主として3つの職業活動に ついての継続的な学習(生涯学習) ①learning and teaching(教育活動) ②research(研究活動) ③administration(管理運営) このうち、特に①を中心におきつつ、汎用的 スキル習得のプログラムなども提供されている。 2.ASD担当部局にとってのASD ①学生の学習や教育の状況についての 調査研究 ②調査研究にもとづくプログラム等の開発 ③学習プログラムや、コンサルタンシーの 実施 ASDの中心としてのlearning and Teaching 組織におけるL&Tの構造図 英国の高等教育戦略 大学の教育目標実現の戦略 PGCHE 新任教員資格課程 個別開発のワークショップ・セミナー 学科などのユニットでの課題解決 プロジェクト 学内外における学習コミュニティの形成 新しい大学文化の創造 高等教育アカデミー (HEA:L&T支援機関) 他の高等教育機関 従来は、教員の個別の教育力向上が中心。 ↓ 90年代になって、より組織的に、体系的に。 ・機関レベルでの体系的な実施。 ・機関や部局の課題、ニーズへの対応。 ・組織の一員としての資質向上。 教育のアマチュアから、 プロフェッショナルな教員(集団)へ プロフェッショナル=専門性を追求しつづける職業人 組織化へ、 プロフェッショナル化へ、 その背景としての 1.教育の質の保証 2.学習(者)中心の教育の転換 「教育の質の保証」の波 1.英国の動向 1990年代 学生による大学の教育についての異議申し 立ての多発(背景にあるポリテク統合) 授業料の有料化とさらなる値上げ 1997年 デアリング報告書 基準にもとづく比較可能な「教育の質の保証」 システムの構築を勧告 ⇒目標達成型の教育プログラム化、 それを実現する専門家集団としての教員 QAA(高等教育審査機関)の設立 ⇒学位の基準、スタッフの適性、 改善取り組みの説明責任 2.欧州全体の動向 1995 ソクラテス計画において、開かれた欧州の教育 の質の向上取り組みへ 1998 EU(欧州連合)「高等教育の質の保証について」 1999∼ボローニャプロセス、学生や教員の移動性の 前提としての教育の質の保証 2005 ENQA(欧州高等教育質保証協会) 「質保証のための基準およびガイドライン」 1.4「ティーチングスタッフの質保証について」 (方針) ・・・新任スタッフ採用や選定の手続きにおける 最小限必要な教育能力の確認・・・ 保証すべき教育の質とは・・・ 学習(者)中心の教育 学習(者)中心の教育とは? 学習者自身が、自らの目的・目標に従って、 知識を探求し再構成する活動としての学習を 支援する。 その理論的背景 Constructivism (Piaget, etc.) Phenomenography(Marton,1981) Surface and Deep Approach (Biggs, etc) →いずれも人間中心の哲学が根底にある。 (参考) 「学習中心」への移行の背景 知識社会(Knowledge Societies) 生涯学習社会(Lifelong learning society) (参考)知識社会 • 1969年 P.ドラッガーによって提唱 • 1990年代 ITインフラ整備&情報のデジタル 化の浸透→「知識」の持つ意味の変化 「蓄積される(た)知識」重視から、 「再構成され、創造される知識(新しい意味づくり)」 「いかに知識を適用するか」の重視へ ⇒教育は、 この「知識創造」「知識の適用」を可能にする能力、 即ちコンピテンシーの育成へ (知っているだけでなく、新たな意味を自ら作り出し、 使いこなせる人材の育成へ) (参考)生涯学習 1965年 ユネスコ成人教育会議で提唱。 欧州では、職業教育を中心とする「継続教育」主流 1990年代∼全ての教育を統合する理念へ ○一生涯が、学びのプロセス「学び続けない者は、職を失う」 ○大学教育は、生涯学習のための1プロセス。 ○激動社会を生き抜くための、必要な能力を身につ ける→キー・コンピテンシーを核とする。 特に、「省察(reflection)」=自分の考えや行動を客観的 かつ批判的に考察できること(自律)を重視。 この自律的な個人(市民)が世界市民の基本であるとする。 ・英国のASDのコアプログラムであり、 ・教員のプロフェッショナル化や、 学習中心の教育へ転換を普及する装置 PGCHE (Postgraduate Certificate in HE) PGCHEとは −新任教員対象のパートタイム制、マスターレベ ルの職業資格課程。 −全60クレジットの前半30クレジットを、仮採用 教員の正規採用条件とする大学が多数。 −前半の取得でHEAの準会員登録、全課程取 得で正会員の登録が可能。 −担当部局は、SDセンター、教育開発センター 例)レスター大学のPGCAPHEプログラムの構造 モジュール1:理論と実践 高等教育の文脈、教育実践と学習理論、 コース設計の基礎、支援、職業継続教育、多様性、専門的態度 モジュール2:成績評価、フィードバックと支援 成績評価の目的と原理、学習成果(目標)、教育評価と成績評価 モジュール3:カリキュラム設計、開発と実施 状況に合わせたカリキュラム設計とそのモデル、スキル、 革新的な教育実践(ICT利用など)、教材開発、 リーダーシップと管理運営、質の保証の関連事項 モジュール4:ミニ研究プロジェクト 1つの実践的な課題研究に、同僚のメンターについて、 取り組む。 ポートフォリオによる評価︵全員必須︶ 日間のオリエンテーションイベント 全(員参加︶ 2 PGCHEのプログラム内容の特徴 1.このプログラム自体が、 学習中心のプログラムである。 ①コアワークショップの教授法は、 active learningが中心。 ②学習内容を実践(仕事)に結びつける action learningのプロセス。 プログラム内容の特徴つづき 2.教育実践を、エビデンスに基づく、 研究活動に位置づけている。 =Scholarship in teaching 大学の教育実践研究を独立分野 として確立しようとする動きも。 PGCHEプログラムの設計基準 ①教授および学習支援のための国家専門性基準枠 組み(HEA,2006) (The UK professional standards framework for teaching and supporting learning in HE) ②高等教育学歴証明枠組み(Mレベル)(QAA,2001) ③各大学における教育理念、目標、戦略 →これらを指標に、プログラム詳述書作成ガイドライン を参考にプログラム化し、HEAの認定を受ける。 (ベンチマークは、まだない。) 専門性基準枠組みの内容 1.専門性の内容 ①6つの活動領域 ②6つのコアとなる知識・理解 ③5つの価値観(態度) 2.専門性のレベル ①TAなど教育未経験者 ②実質的学習支援スタッフ(PGCHEのレベル) ③同僚へのT&Lに指導的な経験のあるスタッフ 3つのレベルごとに、必要な能力範囲を規定。 専門性基準枠組みの内容 (1)6つの活動領域: ①学習活動の設計と計画および研究プログラムの設計・計画 ②教授および(もしくは)学生の学習支援 ③成績評価,学習者へのフィードバック ④効果的な学習環境,学生支援,ガイダンスの開発 ⑤教育・学習支援の専門職業活動と、学問,調査研究の統合 ⑥実践評価,継続的な専門職業開発 (2)6つのコア知識および理解: ①専門科目内容の知識理解 ②科目領域や大学教育プログラムレベルでの 適切な教授学習方法 ③学生がいかに学ぶか(一般論とその科目の場合で) ④適切な学習テクノロジーの利用 ⑤教育効果の評価方法 ⑥質保証と専門的な実践力向上のもつ意味 つづき・・・ (3)5つの価値観 ①個々の学習者を尊重する。 ②関連する研究,学問,および専門的実践のプロセスや 成果を組み込むことに意欲的である。 ③学習コミュニティの開発へ参加する。 ④高等教育への参加を奨励し,多様性を認め,機会平等を 促進することに意欲的である。 ⑤継続的な専門職業開発と実践評価に参加する。 ASD支援のためのネットワーク ・HEA(高等教育アカデミー) 機関を超えた横断的教員支援。プログラムの認定、専門性 基準枠組の作成ほか、セミナーの開催も。 →PGCHEを通して数十年後には、ほぼ全ての教員が 少なくとも準会員に・・・ ・SEDA(スタッフ・教育開発協会) 主にSD担当などの教育デベロッパー支援 セミナー合宿なども開催 ・Academic Development Network(Links) 地区ブロック(例)M1/M69)のスタッフおよび 教育ディベロッパーの支援 (セミナーやイベントの共催など) 翻って、 日本のFDの現状をみると、 −全体的には、10年前に比べると、FDが浸透し てきている。方法も多様化している。 「FD疲れ」という意見も。 疑問:大学の教育は、 良くなっているのだろうか? 学生の能力を高めている? FD実践の経験から・・・ −教員は、けっこう学生を大切に思っている。 −教育について、意外に熱く語る。 →心の中では、自分の授業を良くしたい、 良い教員になりたいと思っている(と信じたい)。 一方、 - 教育の効果をあまり信頼していない? - 悪いのは、動機づけの低い学生だという。 →効果を感じられるような「良い教育」を、 受けたことがない?知らない? 先生方は、動機づけの高い「優等生」だった ので、勉強しないやつが悪い、と思いがち。 「動機づけ」とは、前提条件ではなく良いティーチング の産物である(Biggs,2003) 良い授業を受けた経験がない 教員は自分の経験をもとに実践する ここを変える 良い授業ができない 負の連鎖 教育に懐疑的になる 教育の意味を理解できない。 効果が上がらない 学生のモチベーションも低い。 教育に達成感が得られない 教員が、 ①教育についての価値観を変えられる、 ②自分の実践効果に、自信をもてる (理論的な根拠を示せる)ようになる、 FDの機会(内容)が必要。 →PGCHEをモデルとする有効性