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新聞の特性を生かした思考力・判断力・表現力の育成 越前市南越中学校
新聞の特性を生かした思考力・判断力・表現力の育成 越前市南越中学校 Ⅰ はじめに NIEの実践校として3年目を迎えた本年度は,NIEに全校体制で取り組んでいくために 中心活動を総合的な学習の時間におけるテーマ学習とした。学年毎に大きなテーマを決め,新 聞の特性を生かし,思考力・判断力・表現力の育成をはかるために実践を積み重ねた。朝の読 書タイムで行った年間35回の新聞読書では,全校生徒に読ませたい記事を全職員が順に選ん だ。また,各教科の授業においては,どの場面でどのように新聞を活用するとより効果的かを 探りながら,実践例を尐しでも増やそうと努力するなど,全教職員で取り組んだ。研究を進め るにあたっては,NIE推進委員会が中心となって計画を練り,全職員の理解を深めるために 校内研修会で実践内容の説明やワークショップを行ったり,成果と課題について話し合いを行 ったりした。 Ⅱ 研究テーマと研究仮説および実践計画 1 研究テーマ (1)本校の研究テーマ 『習得した学びを意欲的に深め、広める生徒の育成』 (2)本校のNIE研究テーマ 「新聞の特性を生かし、思考力・判断力(批判力)・表現力の育成をはかる」 2 研究仮説 新聞の特性を生かした活動を取り入れることによって、思考力、判断力、表現力 を高め、習得した学びを意欲的に深め、広めることができる。 (1)各教科の授業では、学習内容に関連した最新の記事を活用することにより、学習に対する 興味・関心を高め、意欲を引き出したり、学んだことを実社会や実生活と結びつけて、よ り現実的にとらえたり、理解を深化・発展させたりすることができる。 速報性 解説性・詳報性 最新のデータ、情報がある。 いつ、どこで、何が、どうしてなど、詳しくわかりやすく解説されている。 ↓ 学 習のリア リティー化 生徒が直接経験できない社会のさまざまな出来事にふれることにより, 学習内容を現実と結びつけることができる。 (2)各教科や総合的な学習の時間において、新聞記事の中から課題を探したり、課題に関連す る記事を継続して収集し、分析や考察をしたりすることにより、習得した知識・理解の確 実な定着や深まり、とらえ直しがはかられるとともに、情報活用能力や表現力を高め、見 方や考え方を広げることができる。 一覧性・俯瞰性 記録性・連続性 政治・科学・スポーツ等、さまざまな分野の記事が目に入る。 一つの出来事を時系列で追いかけたり、多方面から見たりすることができる。 ↓ 学習の深まり・広がり 関連する記事の収集・分析により,いろいろなものの見方・考え方, 将来の予測などができる。 (3)道徳や朝の活動等において、生徒に伝えたい社会の出来事や話題を資料として読ませ、考 えさせることにより、PISA 型読解力を高め、いろいろな立場から物事を見たり考えたりす る態度を養い、思考力、判断力、批判力、表現力を育成することができる。 信頼性 事実を伝えている,文章としての手本であるという安心感がある。 人間性 日常性、季節感、郷土感、親近感がある話題がある。 3 実践計画 (1)校内研修 NIE推進委員会を中心に企画し,年3回実施する。 (2)総合的な学習の時間におけるテーマ学習での新聞活用 各学年のテーマを決め,新聞を活用した探究学習に取り組む。 (3)朝の活動や昼の放送での新聞活用 朝の活動時に,週1回,新聞読書を行う。また,昼の放送時に新聞の朗読を行う。 (4)各教科での新聞活用 各教科,道徳などにおいて新聞を活用する。 Ⅲ 実践の内容および成果と課題 1 校内研修 (1) 研修内容 ①第1回(6月27日) 総合的な学習の時間における,新聞を活用したテーマ学習の全体計画を推進委員会から 提案し,ワークショップを通して活動内容を共通理解した。全体計画について全体で話し 合ったあと,各学年ごとに具体的な活動内容について検討し,年間計画を作成した。その 中で,新聞を活用する意義やNIEで育てたい力について,より明確にする必要があると の意見が出された。 ②第2回(10月31日) 新聞の持つどの特性を,どの力を育てるために活用するのかについて話し合い,本校の NIE研究テーマおよび研究仮説について検討した。その後,各学年毎に11月から3月 までの実践計画を見直し,どんな力をのばすためにどんな取り組みを行うかについて話し 合い,学年毎に報告し合った。 ③第3回(1月16日) 来年度の実践に生かすために,各学年で取り組んだ総合的な学習の時間でのテーマ学習 について,実践報告会を行った。月毎にどんな活動を行ってきたか,生徒にどんな変容が 見られたか,取り組んでいて感じた苦労や疑問点,成果などを発表し合い,意見交換を行 った。その中で,1年,2年,3年と段階的に実践を積み上げながら,生徒の生きる力を 伸ばしていくことが望ましいという共通理解を得た。 (2)成果と課題 全校体制でNIEに取り組むには,全職員がNIEに対する理解を深めなければならな い。総合的な学習の時間における新聞の活用についてワークショップを行ったことで,こ れからの活動内容について共通理解を図ることができた。また,年間計画を検討し具体的 な活動内容を考える中で,新聞活用の意義やNIEで育てたい力について明確化する必要 性が指摘され,NIEの研究テーマと研究仮説が定まったことは,それまで漠然としてい た取り組みに,よりはっきりとした方向性が示された。 実践報告会では,各学年での取り組みを紹介し合ったことにより,次年度の実践へのつ ながりができた。また学年に応じた 段階的な積み上げの必要性が指摘され, NIEにおけ る学年,教科間の縦と横のつながりについて,今後研究を進めていくことが重要である。 2 総合的な学習の時間におけるテーマ学習での新聞活用 (1)NIEを通して育てたい力 ・様々な記事から,自分の興味・関心をもとに適切な課題を見い出せる力 (課題設定能力) ・課題を解決するために,情報や資料を主体的に収集・選択し、活用できる力 (情報収集・活用能力) ・物事を、多方面から見たり,考えたり,批判的にとらえる力 (思考力・判断力・批判力) ・調べたことや自分の考えを,相手にわかりやすく論理的に説明する力 (表現力) ・自分の将来の生き方や生活を考え,前向きに自己の将来を設計する力 (将来設計能力) (2)学年別テーマと活動目標(つけたい力) ①第1学年 「郷土について知ろう」 新聞から郷土に関する記事を集め,それらを分類・取捨選択する中で課題を見つけ,そ の解決のためにさらに情報を集め,調べたことや自分の考えをわかりやすく発表すること ができる。 (課題設定能力 情報収集能力 思考力 判断力 表現力) ②第2学年「職業・生き方について考えよう」 新聞にある様々な分野の職業や人間の生き方に関する記事の中から興味・関心のある記 事を選択し,その職業や生き方について課題を見つけ,その解決のために必要な情報を集 めたり調査活動を行ったりして,その内容をもとに自分の将来や生き方について考え,工 夫してまとめ発表することができる。 (課題設定能力 情報収集・活用能力 思考力 判断力 表現力 将来設計能力) ③第3学年「社会に目を向けよう」 新聞を通して社会で起きている様々な出来事について知り,その中から興味・関心のあ る事柄について課題を見つけ,その解決のために必要な情報を集めたり調査活動を行った りして自分の考えをまとめ,意見発表や討論等を行うなかで他人の意見を参考にしながら 自分の考えを深めることができる。 (課題設定能力 情報収集・活用能力 思考力 判断力 批判力 表現力) (3)各学年の取り組み ①第 1 学年 5~6月 新聞記事集め まずは新聞記事に親しむことを目標に,新聞記事を切り抜く所からスタートをした。学 年のテーマが“郷土”なので,福井県内のニュースや出来事に関する記事を1週間に3点 以上集めた。 6~8月 ニューススクラップ 集めた記事の中から特に興味・関心の高いものを選び,記事の内容を400字程度にま とめ,写真や自分のコメントとともに1枚のシートにまとめる「ニューススクラップ」を 作成した。授業時間に1枚と夏休みの宿題で1枚の計2枚を作成した。 10~11月 県内マップづくり 集めた記事をもとに,各クラスで郷土に関する記事をいくつかのカテゴリーに分類する 作業を行った。「自然・伝統行事・名所旧跡・産業・スポーツ・教育」などのカテゴリー に分類され,その中から班ごとにどのカテゴリーの記事を集めるかを決めた。できるだけ 県内すべての各市町村における記事を協力して収集し,福井県の地図にそれらの記事を貼 り付け,カテゴリー毎の「県内マップ」を作成した。 ニューススクラップ 冬休み 県内マップ 地域の行事調べ 「県内マップ」で紹介された各市町村でのさまざまな情報をもとに,自分たちが住む 地域ではどのような活動やイベントが行われているか,地元に目を向けてみることにし た。冬休みの課題として,インターネットで調べたり家族や地域の人に聞いたりするな どして地元の伝統行事や祭・イベントなどについて調べた。 1~2月 地域の行事 PR 表現力の育成として,人に自分の考えをしっかりと伝える力を身につけさせるために 「地域の行事 PR」を行った。「地域の行事調べ」をもとにして「地域の行事 PR」の原 稿を作成し,班ごとで練習し合ったあと,クラス内で発表会を行った。 ②第2学年 5月 新聞記事を集めよう(個人) テーマを「職業」とした切り抜き新聞を作ることを課題とし,それに関する記事をで きるだけたくさん集めた。集める際の条件は「職業に関連するもの」であれば,「仕事 の内容に関わるもの」「人」「商品」など,何でもよいこととした。 6~7月 職業新聞(切り抜き新聞)を作ろう(個人) 集めた記事を整理するために,自分なりにカテゴリーを決め記事を分類した。その中 の興味あるカテゴリーから2~3の記事を選んで切り抜き新聞を作成した。作成した新 聞は全員分を掲示し,保護者会のときに保護者にも見ていただいた。 7月 クラス別テーマを決めよう(クラス) 2学期は,「よりよい未来のために」という学年テーマで話し合い,クラスとしての 意見をまとめる。そのためのクラス毎のテーマについて話し合った。その結果,1組「環 境」,2組「エネルギー」,3組「医療」,4組「新商品」,5組「資源」に決定した。 夏休み中に,資料となる記事を集めることを課題とした。 9~12月 グループ別にクラステーマを追究しよう(グループ) 個人で集めた記事を参考にしながら,クラステーマを中心においたウェビングをし, まずは個人でクラステーマにせまるキーワードをたくさん出した。それを,グループで 話し合い,代表キーワードを4~5つ選んだ。グループ毎に発表した後,全員で意見を 出し合い,全体でキーワードを5~6つ選んだ。最終的に選ばれたキーワードをグルー プテーマとし,各自が興味あるテーマを選択してグループ編成を行った。 調べていく過程で,新聞記事だけでは限界があったので,インターネットも活 用 し た 。発表の形態は,「ポスター」「実物投影機」「パワーポイント」とし,それら を組み合わせて発表するグループもあった。 発 表 風 景 1月~ 高校生ニュースを集めよう(個人) 上級学校について興味関心を持たせるために,冬休みの課題として高校に関する記事を 一つ選び,自分の感想だけでなく,保護者の感想も入れるフ ァミリーフォーカスを行った。 新学期に入ってからも同じことをもう一度行い,さらに受験倍率や願書提出に関する記事 などの受験に関する記事を教師側から提示することで,来年の進路決定に向けての意欲付 けを行った。 ③第3学年 4~5月 HAPPY ニュースを集めよう 読んでいて嬉しい,楽しい,わくわくする,感動するなど,心が明るくなるような記事 をスクラップすることで,新聞への興味・関心を高めた。 6月 HAPPY ニュース壁新聞作り 自分なりにテーマを決め,スクラップした記事から,テーマにそった記事を選びだし, HAPPYニュース壁新聞を作成した。テーマ設定力や情報の取捨選択力を身につけるこ とをねらいとした。 HAPPY ニュース壁新聞 7月 HAPPY ニュース壁新聞の発表・グループテーマ決め 発表の力を高めることをねらいとして,各自が作成したHAPPYニュース壁新聞を, 5~6名の小グループ内で発表し合った。また,クラスメイトとのコミュニケーション能 力も高めたいと考え,発表後に小グループ内でどの発表者のテーマが最も HAPPY だと感 じたかについて話し合い,今後集めていく記事のテーマを1つ決めた。各クラス5つの小 グループをつくったので,クラスで5つのテーマができた。 テーマの例:福井の HAPPY,スポーツの HAPPY, 食の HAPPY,HAPPY な ECO,安全とくらし 夏休み 壁新聞作り 小グループで決めたテーマにそって,各自が記事を集めた。またその一部で壁新聞を作 成した。 9月 HAPPY ニュース壁新聞の発表・クラスでテーマ決め 夏休みに作成した壁新聞を使って,クラス内で発表会を行った。今回の発表は小グルー プ(5~6名)で協力して行い,事前に発表練習の時間を1時間設けた。発表会の後クラ スで話し合い,クラスとしてのテーマを1つ設定した。 クラステーマ: 1組「携帯電話でHAPPYライフ」 2組「福井の自慢だ メガネ」 3組「福井のHAPPY」 4組「ECOでうれしい私たちのくらし」 5組「安心安全なくらし」 10月 記事の収集 家庭での新聞や,学校の1階廊下に置かれている7社の新聞から,各自がクラスのテー マにそった記事を収集した。 11月 ディベートのテーマ設定 各クラスのテーマにそってディベートのテーマを設定した。テーマ設定については生徒 と協議し,討論しやすいものになるように教師が配慮した。その結果,各クラス以下のよ うなテーマに決まった。 クラステーマ: 1組「持つならスマートフォンかガラパゴス携帯か」 2組「メガネが便利か,コンタクトレンズが便利か」 3組「福井に住む方がHAPPYか,都会に住むほうがHAPPYか」 4組「進んでいるのは日本のECOか海外のECOか」 5組「原発は必要か,不必要か」 11月~12月 ディベートに必要な記事の収集 各自が討論会に必要となる記事を収集した。この段階 では,自分がどちら側の立場で討論会に参加するかは決 まっていない。そのためクラスの討論テーマの両方の立 場側の記事を集めた。 12月 ディベートの準備 クラスを機械的に2グループに分け,討論テーマのど ちら側で主張するか決めた。立論,相手側の立論の予測, 自分たちの立論に対する反論の予測とその応答など,そ れぞれの討論チームで話し合い作戦を考えた。 1月 ディベート 右のような流れで討論会を行った。 3 年 3 組の 進行例 発表風景 資料となる記事を探すようす 生徒の感想 (4)成果と課題 新聞を読む機会がふえたことで,新聞に興味を持ち,自分から新聞に目を通す生徒がふ えた。朝の会や帰りの会で,教師が時事問題に触れると,「知ってる!」「新聞に書いて あった!」という声が聞かれた。 本校の生徒は話すことが苦手な生徒が多く,話す力を鍛えたいというねらいから各学年 でスピーチや話し合い活動,ディベートなどの活動を行った。これらの活動には新聞は大 変有効であり,自分たちが求める資料が分かりやすい文章で,かつ写真やグラフなどとと もに見つけられ,テーマによっては資料となる記事がたくさん見つかった。また,インタ ーネットとは違い,生徒が能動的に資料を探すことができる。インターネットではキーワ ードを打つだけで,あとは勝手にパソコンが資料を探してくれるが,新聞では見出しなど から求める資料を探さなくてはいけない。まずは関連しそうな記事を集めることから始め, 取捨選択,整理し,テーマを絞り込んでさらに集める。スクラップが大事であり,その中 から使える記事を選ぶ。これらの活動こそが新聞を活用するねらいの1つであり,新聞の 特性を生かした活動と言える。3年のディベートでは「自分の記事を使ってもらえたこと がうれしい」という感想が聞かれた。 また,記事が資料として活用できるかどうか判断するために多くの記事を読むことによ り,文章読解力も向上した。新聞の文章は専門家によって何度も校正されたものであり, 書かれた内容自体も信頼性・信憑性がある。生徒が扱うものとしては安心な資料である。 発表には書画カメラ(実物投影機)を使用して資料となる記事を提示したが,細かい文章 を読まなくても大きな見出しや写真を見るだけでだいたいの内容が想像でき,聞いている 側にわかりやすいことも新聞の良いところである。 1年生の活動では「県内マップ」から課題を見つけさらに発展させることが不十分のう ちに終わった。教師側にも迷いがあり,しっかりした方向性を示せなかったことが原因で ある。新聞から得た情報をもとに地元に目を向けるというねらいで地域の行事調べを行っ たが,「県内マップ」との連続性が弱かった。 2年生の活動では,2学期の終盤には進路学習が入ってくるため,十分な時間が確保で きず,発表力の質としてはあまり高くはなかった。また,クラスとしてのまとまった意見 を出すというところまでいかず,グループでの調査発表で終わってしまった。 3年のディベートでは,フロアがメモを取るのに集中し,提示された資料を十分に見る ことができない生徒が目立った。要点(キーワード)を書いたテロップを貼るなどして黒 板に残し,あとでメモを取らすなどの工夫が必要である。また,フロアは感想や意見を発 表するだけでなく,反論や応答などに記事を提供するなど,応援団的な要素があればディ ベートに参加でき,集めた記事も有効に活用できる。 新聞には中学生には難解な言葉が使われていることが多く,記事を理解できないことも 多々ある。辞書やインターネット等で調べる様子も見られたが,十分な時間を確保するの はむずかしく,個別指導するにも教師の手が足りないのが現状である。結局いい資料があ っても十分に活用されていないこともある。 今後の課題としては,総合的な学習の時間の年間カリキュラムで,新聞の活用をどの場 面で,どのように,何を目的に取り入れるかを明確にすることである。新学習指導要領で は総合的な学習の時間の授業時数が減尐しており,限られた時間の中で読解力や発表する 力,討論し合える力をつけさせなければいけない。生徒たちの現状をしっかり把握し,N IEをどのように,どこまで取り入れ,どのような力をつけさせるのかという見通しを立 てながら取り組んでいかなくてはならない。 3 朝の活動・昼の放送での新聞活用 (1)活動内容 朝の活動の時間を使い,週1回,年間35回の新聞読書を行った。毎週金曜日に教師が 選んだ記事を印刷したワークシートを作成し,全校生徒に読ませた。はじめは感想の欄だ けを作ったが,「すごいなあ」といった単純な感想が圧倒的に多かったため,記事をより 深く読み取り,より深く考えさせるために,いくつかの設問に答える欄を付け加えるよう にした。ワークシートは各自にNIEファイルに保管させたが,毎回,各クラスの中から 1点を選び,1階廊下のNIE掲示板に貼りだした。 放送委員会によるお昼の放送では,毎日,各社の新聞のコラム欄や占いコーナーなどの 朗読を行った。 (2)成果と課題 日頃新聞を読む習慣がない生徒にとって,新聞記事に触れる機会が増えたことは,尐し ながら社会情勢やタイムリーなトピックスに感想を持つきっかけとなり,考えに広がりを 持たせることにつながった。生徒からは,回数を重ねるうちに抵抗なく新聞を読めるよう になり,考えをまとめる力がついてきたという感想が聞かれた。また,自分で文章を読み 取ろうとする意欲の向上が見られ,難解な語句が多い記事や興味のない記事には読む気力 を失っていた生徒が,友だちや教師に意味を聞いたり,辞書で調べたりして何とか読もう とする姿が見られるようになった。 朝の活動で読んだ記事が,他教科につながった例もあった。「15 歳未満脳死提供」の記 事は,3年の道徳「ドナーカード~命を考える~」につながり,担任からは普段よりもス ムーズに資料に入ることができたと感じ,生徒がドナーやその親族,患者等さまざまな立 場で心情を考えるのにとても参考になったという意見があった。「今年の漢字は”絆”」 の記事は,学活で「今年の抱負」につながった。生徒が自分にとっての「今年の漢字」を 書き,学級掲示をするクラスが多く見られた。国語の 授業では全クラスで「子どもコラム」 の作品づくりに取り組んだが,新聞の文体を参考にした書き方が多く見られ,文章がうま く書けるようになった生徒が増えたという教員の感想もあった。 一方で,全校生徒に読ませる記事を選ぶのは大変むずかしいと感じた。内容の把握がむ ずかしい生徒には簡単な説明が必要だが,朝の活動では十分な時間がない。感想を書く力 にも差があるので,作文指導を行う必要があり,そのためには国語科との連携が必要であ る。NIEと他教科との連携を深めることが求められる。 感想を書かせたあとの生徒へのフィードバックも弱かった。担任として感想を読んでコ メントを加える時間がなかなかとれないし,感想を掲示板に貼るだけではあまり効果がな かった。昼の放送では,コラムを読んで終わりというのではなく,朝の新聞読書の記事に 触れ,いろいろな感想を紹介するなど,全校で話題にする時間を持つことを工夫したい。 朝の活動で読んだ記事 道徳の授業で使用したワークシート 4 各教科での新聞活用 (1)理科での実践例1 ①学年・単元名 3年1分野 「力の合成と分解」 ②新聞活用のねらい 力の合成・分解を作図によって求め るという学習であり,ともすると解き 方の理解にのみ重点をおいてしまいが ちになる。実生活の中にある,力の合 成や分解に関する事象に目を向かせる ため,東日本大震災で屋根に乗り上げ た船をクレーン車2機で撤去するとい う新聞記事を示し,もし2機のクレー ンの引っ張る方向が異なった場合,各クレーンにかかる力はどうなるかを考えさせ,本時 の課題を現実に起こりうる問題として捉え,活用力につなげたいと考えた。 ③学習過程の展開 過 学 習 活 動 主な発問・指示と予想される生徒の反応 支援(○)と評価(◇) 程 重さ120tの船を2台のクレーン車でつり上げる 導 課題を把握する。 には、それぞれのクレーン車には、どれだけの力 入 ○新聞記事を書画カメラで うつす。 が必要か。 引っ張る方向が異な ○生徒に、書画カメラで る場合の,力の求め 作図の仕方をうつして 方について説明を聞 説明させる。 展 く。 ○斜面上の台車には、どんな力がはたらいて ○力の方向が異なる例題 開 斜面上の台車にはた いるだろう。 をいくつか準備する。 らく力について考え ・重力 る。 ・垂直抗力 ◇(ワークシート、発表) ・重力の分力 終 本時のまとめと次時 ○斜面上の台車にはたらく力と、台車の運動 末 の予告を聞く。 について振り返ってみよう。 (2)理科での実践例2 ①学年・単元名 3年1分野「科学技術と人間」および2分野「自然と人間」 ②新聞活用のねらい これらの単元はこれまで学習してきた内容をもとに,科学技術と人間との関わりについ て学習するまとめの単元である。ここでは以下の4分野に観点を絞って毎月1点以上(12 月~2月)の記事を探し,ワークシートにまとめて地球の未来について考察させ,作成し たワークシートをもとに,「私の未来予想図」として絵や言葉でまとめ発表する活動を行 う。記事から得た情報をもとに地球の未来を想像させるが,よいことばかりでなく起こり うる問題点なども推測させることにより,思考力,判断力,批判力をつけさせたいと考え た。 A 環境・エネルギー (例)CO 2削減 コウノトリ 地球温暖化 太陽光発電など B 宇宙開発 (例)人工衛星 惑星探査 宇宙ステーション 宇宙資源など C 医療技術 (例) がんの治療法の開発 iPS細胞を使った治療など D 新機器・新素材など (例)介護ロボット 超伝導物質 レアメタルなど ③学習指導計画(全4時間) 時 期 学習活動 時数 支援(○)と評価(◇) 11月下旬 ワークシートを作成する 1時間 12月下旬 ワークシートを作成する 1時間 1月下旬 ワークシートを作成する 1時間 ○未来予想はマイナス面の予想もさせる。 2月上旬 ワークシートをもとに「未 来 予 想 図」を作成し発表する 1時間 ◇(ワークシート、発表) ワークシート ○新聞の見出し、小見出しを参考に自分な りの見出しをつけてまとめさせる。 活用した記事(ワークシートの裏に貼付) 未来予想図 (3)数学での実践例 ①学年・単元名 「関数y=ax 2 3年 」 ②新聞活用のねらい 「数学は社会で何の役に立つのか」,「四則計算さえ出来れば普段の生活に困らない」 という声が生徒から聞かれる。普段の授業では,定義や公式を暗記したり練習問題を繰り 返し解いたりするなど基礎基本の定着が中心で,実社会や実生活において数学がどのよう に活用されているのかを知る機会は尐ない。本時では,身近なゲームを題材として扱い, プログラミングの段階で関数が利用されていることを紹介し,ゲームの1場面を作るため にはどの関数のどの式をプログラムすればよいか考えさせる。さらに,関数がアートの分 野でも利用されている新聞記事を紹介し,実生活の中にある数学の面白さ・美しさに気づ かせ,身の回りの事象にある数学を楽しむ生徒を育てたいと考えた。 ③学習過程の展開 学習活動 主な発問・指示と予想される生徒の反応 プログラミン ○どのような過程を踏んで,1つのゲームができ グには関数が るのだろう。 導 利用されてい ・ストーリー・音楽・プログラム ることを知る ○キャラクターはどのような動きをしているだろ 。 う。 入 ・斜め上に上がっていく ・直線 ・y=2x 支援(○)と評価(◇) ○ゲームソフトの1場面とゲームプ ログラマーのインタビュー映像を見 せ興味を持たせる。 ○Flash教材を見せて,キャラク ターの動きを関数と結び付 けさせる。 ・ジャンプしている・放物線 本時の課題を 把握する。 展 開 発表する。 今までに習った関数を利用して,岩にぶつから ○比例,反比例,一次関数, ないで,2個以上のバナナを手に入れる式を作 関数y=ax 2 の一般式 ろう。 と特徴を黒板に掲示し, ・y=2 ・y=-1 ・y=-4 参考にしやすくする。 ・y=2x ・y=-x+3 ・y=-2x 2 ○Flash教材に式を入力し, ・y= 2 x ・y=- ・y=- 1 2 x 2 4 x ・y= 1 x+3 2 ま 本時の学習内 ○関数はゲーム以外にどういうところで利用 と 容をまとめる。 されているだろうか め 実際に通るかを確かめさ せる ○アートの分野でも利用され ている記事を読み,数学が 身の回りで活かされている ことに気づかせる。 使用した記事(朝日新聞 2010 年 9 月 28 日) (4)社会での実践例 ①学年・題材名 3年 公民「人権について考えよう 」 ②新聞活用のねらい 今までは教科書や資料集にある例をもとに人権について学習をしてきたが,生徒にとっ ては実社会や実生活に結びつきにくく,ただ知識として覚えることが中心であった。そこ で,この単元では新聞から,「自由権」「平等権」「社会権」「新しい人権」のどれかに 関係していると考えられる記事を探し,深く読み取り,他人に自分の考えを伝える活動を 通して,人権が私たちの生活に深く関わっていることを感じ取らせたいと考えた。 ③学習指導計画(全2時間) 時 配 第1時 学習活動 新聞記事から人権に関わる記事を探す。 支援(○)と評価(◇) ○人権が侵害されていることと,人権が守られて いることの両面で考え,できるだけ多くスクラ ップさせる。 第2時 新聞記事を深く読み取り考えをまとめ,班員 ○記事の中から1つを選び,人権が侵害された原 どうしで発表し合う。 因と改善策についてまとめて発表させる。 ◇ワークシート、発表 記事と教科書を読む生徒 発表風景 (5)成果と課題 授業の導入時に新聞を掲示することによって,生徒はいきいきした表情になり,本時の 学習課題への興味・関心を高める効果があった。新聞記事は印刷して配布するという方法 もあるが,書画カメラを使ってプロジェクタで映すだけで,写真や見出しで内容はある程 度を把握することができ,細かい記事の内容が見えなくても説明するには十分であった。 さらに,新聞の写真や見出しはインパクトが強く,生徒の記憶に残りやすいという効果 を感じた。理科の「力の合成・分解」の学習では,2,3日前に見た「はまゆり」をクレ ーンで吊り上げる記事の写真を思い出して,解き方に気づく生徒がいた。 また,新聞を活用することにより,学習したことと実社会や実生活がつながるという効 果が認められた。数学の「関数」の学習では,関数が建築のデザインに生かされているこ とを知り,実際に役に立っているという実感を持たせることができた。社会の「人権」の 学習では,教科書や授業のノートを読み返してはスクラップした記事と何度も見比べなが ら読み込み,ワークシートにまとめる生徒の姿が様子が見られた。理科の「科学技術と人 間」の学習では,未来予想図を描くために生徒が集めた記事に,教科書で紹介されている ものと同じものや,教科書では研究開発中と説明されているが,すでに実用化されている 内容のものなどがたくさんあり,授業中に何度となく記事を紹介することがあった。これ らの活動を通し,生徒は実社会の中に学習したことを見出すことができた。 教科の指導に新聞を活用するには,教師が日頃から目的意識を持って新聞を読み込む必 要がある。導入で興味・関心を高めることに使えそうな記事と,学習したことが実際に活用 されている例として使える記事、生徒に深く考えさせるのに使える記事といった視点で, 使えそうな記事を分類してスクラップしておくと便利である。