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在庫品の評価と在庫管理
く論 説ノ 在庫品の評価と 在庫管理 確定決算主義が株主の利害にあ たえる 大 1 日 方 影響 隆 庫 品評価方法の 選択にかんする 税法の規制を 考 はじめに 察する 企業会計における 年度利益の計算は ,企業活 以下では,在庫品評価方法のうち先人先山 法 (以下,本稿ではFIFO という ) と期 別後人先 動から生じるオペレーティンバ・キャッシュ・ フローを年度間に 配分するものであ る・先入 先 田渋 世法や後人先山法などの 代替的な在庫品評価方 上げ,それぞれのキャッシュ・フロ 一の配分の 法の違いは,そのキャッシュ・フロ 一の配分の あ りかたの違いにあ る.そうした在庫品評価 方 りかたを整理し まず,両者の違 いが 在庫 量 0 管理にどのような 影響をあ たえるかを検討す る .在庫管理を題材として,代替的な在庫品評 仙 方法の意味を 考えてみたい.つぎに,その考 察 結果をふまえて ,上述した税法規定が,在庫 品評価方法の 選択と経営者の 在庫管理行動とを 通じて,株主の利害にどのような 影響をあ たえ るかを分析する. 法の検討にあ たっては,税金支払をも含めたう えで,それぞれの方法がキャッシュ・フローを 年度間にどのように 配分するかを 考えてみる 必 要 があ ろう. なぜなら,確定決算主義をとるわ が 国はもちろん ,米国においても,課税所得を 計算する税務会計上で 後人先山法を 採用する 場 合には公表財務諸表においても とりわけ大規模公開 問題を生じさせる.大規模公開会 社の会計情報には ,多様な経済主体の利害が結 びついており ,それらの利害に神支出がさまざ まな影響をあ たえるからであ る. とすれば, 会 計 情報が実際に 果たしている 役割を所与とした ぅ えで,その税法規定がい かなる経済的影響を もたらすかを 検討することもできるであ ろう・ そこで,本稿では, ) を取り 後人先世法を 採 することが義務づけられているため ,財務会 計上の在庫品評価方法の 違 いが 支払税額の違 い と 密接な関連をもっているからであ る 1, 会社に重要な という あ 用 その ょう な税法規定は , (以下,本稿では LIFO もっぱら株主の 利害に焦点 をあ てて,会計情報の役割という観点から , 在 Ⅱ 在庫品評価方法とキャッシュ・フロー 在庫管理にかんする 従来の議論では ,企業が 定常的に維持すべき「適正在庫水準 (Optimal Inventory Level)」の決めかたが 論じられてき た .そこでは,在庫保管設備の 規模を与件とし たうえで,保有在庫量 の 増ヵ Ⅱにともなって 同様 に 増加する費用とそれと 逆に減少する 費用とを 合計した総保管費用を 最小化させる 在庫量が 「適正在庫水準」とされる 2).在庫数量に上 ヒ倒 する費用には 事務経費などの 保管費用も含まれ るが, もっとも重要なのは ,在庫投資から生じ る 機会費用であ る.その機会費用は,在庫品に 16 (230) 横浜経営研究 第甜巻 第 4 号 (1991) 投下した資金をほかの 投資機会に利用したなら ば得られるであ ろう期待収益であ る・他方,在 庫数量に反比例するのはストック・アウト・コ ストであ る.手持ちの在庫が少なければ急な需 要に応じられず ,そのことによって利益獲得 機 会を逸することになる. この品切れによって 生 じる損失がストック・アウト・コストと 呼ばれ 経営者に経営上の 意思決定権 限を委譲している 場合には, 自己の効用を 最大化するために 行動 する経営者が 株主にとって 最適な在庫管理を 行 うとはかぎらない. これまでの在庫管理の 議論 る 3). では,そうした株主と経営者との 利害の不一致 そうした二種類の 費用によって 決定される 「適正在庫水準」は , 多くの場合,経済的発注 が見逃されてきたといってよ 量 (EOQ:Economic Order Quantity) といっ しょに議論されてきた・「適正在庫水準」を 維 持するために ,発注から納品までのリード・タ イムとその間の 需要量との双方を 予測し,手持 ちの在庫数量がどれくらい 減少したときに 追加 発注すべきかが検討される,そのことからもわ 行動するかどうかは 断定できない. かちん,企 業の所有者が 自分で経営している 場合には,問 題はない・ しかし企業の 所有者であ る株主が い. これまでの 在 庫 管理にかんする 研究成果をより 発展させるた めにも,税金コストを考慮した株主にとっての 最適在庫最や ,経営者をコントロールすること を通じた在庫管理のあ りかたを検討する 必要が あ ろう. むろん, これまでも,在庫品評価方法の選択 が株主の経済的な 利害に影響をあ たえることは , かる よう に,そこでは,在庫品の物的な数量だ 在庫管理とはべっの 角度から研究がなされてき けに関心が向けられてきたといってよい.在庫 た・在庫品評価方法の 変更と株価の 変動との 関 品の購入価格が 変動しても, それは投下資金の 機会費用に影響をあ たえるだけで ,「適正在庫 水準」の決定にあ たって,どのような在庫品評 価方法を選択するかはまったく 考慮されていな 係を分析した 諸研究は,そのひとつの例であ る そこでは,公表財務諸表における会計方法の変 更が, たんに確定したキャッシュ・フロ 一の年 度間配分を変えるだけで ,あらたにキャッシ いのであ る. ュ,フロ一の変化をひき起こさないならば , しかし選択する 在庫品評価方法に 応じて, 「適正在庫水準」は 異なったものになるはずで あ る・なぜなら ,在庫品評価方法の違いは税金 支払額を変化させ ,保有在庫にかかる総費用が の 変更は株価を 変化させないことがあ 異なってくるからであ る・税金というキャッ 、ン ュ ・アウト プ ロ一によって 企業価値は減少する のであ り,その税金の支払いは,株主の立場か らみるかぎり ,企業成果の分配ではなくてコス トであ る・ したがって,株主にとって望ましい 在庫量は,その 税金コストを 在庫費用に含めた うえで決定されなければならない.税金コスト を無視した従来の 在庫管理の議論は , 必ずしも, されている・ そ きらかに その一方で,財務会計上の在庫品 評価方法の変更が税務上の在庫品評価方法の 変 更と結びついている 場合には,その 変更は税金 というキャッシュ・フロ 一に変 ィヒ をもたらし 株価を変えることもあ きらかにされた 4). 株価 研究のこうした 実証結果は,在庫品口の評価 方 Y去 の選択が株主の 富に影響をあ たえることを 示し ているのであ る. そうした在庫品評価方法の 選択の影響は ,そ のほかに,利益情報の事後,情報としての役割を 記述ないし分析する 研究においても 検討されて 株主にとっての 最適在庫 量 をあ きらかにしてこ なかったのではなかろうか. それに加えて ,株主にとっての最適在庫量を 害の不一致があ ることを前提として ,利益情報 の役割が契約などによって 決められた場合,そ 決めることができても ,在庫管理の権 限を有し の契約が経営者による 在庫品評価方法の 選択に ている経営者がその 在庫水準を維持するように どのような影響をあ たえるかが研究課題とされ きた・ そこでは,株主と経営者とのあ いだに 利 在庫品の評価と 在庫管理伏日方 隆) (231) 17 ・米国における 研究で,利益情報を経営者の 業績指標として 利用する事例のなかでとくに 注 すべき対象は ,企業会計の外側で決められるそ 目されているのは ,経営者への報酬であ る.経 利益計算において 配分対象となる 後者のキャッ 営者報酬制度があ るか否かによって 在庫品評価 、ンュ ・フロ一の変化は ,企業の投資政策の変更 万法の選択に 違いが現れるかということに によって生じるものであ る , 検 の分配ルールそのものであ る. それにたいして , この場合, まず, る・ 証 Ⅰ作業の主たる 関心が向けられているわけであ その投資政策への 影響が, そこでの局地的な 成 る㍉・ 果分配ルールに 起因するものか ,あるいは会計 もっとも,そうした研究では,年度利益を計 上の利益計算ルールに 起因するものかを 峻別し 算ないし確定した 後に生じるキャッシュ・ フ なければならない・ ロ 一に目が向けられているにすぎない. 操作によっては 対処できない 問題,すなわち会 そこで そのうえで,分配ルールの 考えられているキャッシュ・フロ 一の変化は, 経営者報酬などの 成果分配 や ,財務制限条項に かかわって変化する 将来の資本調達コストにか んするものであ る・ それらは,年度利益の確定 にともなって 生じるものであ り,在庫品評価方 法の選択ないし 変更が直接変化させているわけ ではない・ たしかに,利益情報の利用のされか たが固定化されているかぎりでは ,在庫品評価 方法の変更がそうしたキャッシュ・フロ 一の変 化を生じさせる. しかし たとえ会計方法に 変 更がなくても ,契約の変更などによって利益情 報の利用のされかたが 変化すれば,年度利益確 計ルールに固有の , ないしは本質的な 問題を検 定後のキャッシュ・フローは 己の効用最大化のために 行動する経営者は , 名 変化するのであ る ひとくちに,在庫品吉平価方法の 選択が企業の キャッシュ・フローを 変化させるといっても , そのキャッシュ・フロ 一には,年度利益の確定 にともなって 生じるものと ,年度利益の計算の ために配分される 計算対象としてのキャッシ ュ・フローとがあ る.在庫品評価方法の意味を 考えるにあ たって,その二つは区別されなけれ ばならない. なぜなら,二つの局面には,理論 討することになるのであ る. たとえば,利益情報の使われかたを 経営者が 知っているならば ,経営者は,在庫品評価方法 の 選択ばかりでなく ,在庫管理でもその使われ かたを考慮するであ ろう. かりに,在庫品評価 方法の変更に 応じて報酬額の 計算式が変更され たり,在庫品評価方法の継続性 (変更の制限 ) などが私的な 契約や制度上のルールによって 決 められているならば ,在庫品評価方法を変更し た場合,経営者はその違反コストを 負担するこ とになる・そのような 制約があ るときには, 自 目的な会計操作ではなく , むしろ,実態上の操 作, たとえば, 自分の裁量で 自由に決定できる 在庫数量のほうを ヰ栗ィモ するであ ろう. このよう な在庫操作のケースでは ,成果分配ルールに か んする問題だけではなく , そもそも会計ルール が在庫操作への 誘因を提供していないかという ことも問題になるわけであ る. その ょう に,選択する在庫品評価方法を 前提 上, それぞれ異なった 問題が存在しているから として,その評価方法が経営者の 在庫管理にど であ る. のような影響をあ たえるかを分析するためには いずれのキャッシュ・フロ 一の変化も株主の 持分価値に影響をあ たえることにかわりはない が,前者のキャッシュ・フローは利益情報を利 崩 している契約ないし 成果分配ルールにおおき く依存しているのであ り,会計ルールはもっぱ まず,在庫数量が増減する状況にそくして 在庫 品評価方法の 計算上の特質があ きらかにされな らその分配ルールを 機能させているにすぎない ように年度間に 配分するのかが 検討課題であ る かりに成果分配にかんして 問題があ れば,検討 期首と期末で 在庫量が等しいときはともかく , ければならない.在庫品の購入というオペレー ティンバ・キャッシュ・フロ 一に税金を含めた キャッシュ・フローを ,在庫品評価方法がどの , 18@ (232) 横浜経営研究 第Ⅲ巻 在庫量が増減した 場合,その配分のあ りかたは 第 4 号 (1991) は,そのキャッシュ・フロ 一の配分のあ りかた .期末の需要が 期首時点の見積りどおりであ 在庫 量も 「適正 ったとすれば ,当然に,期末の 在庫水準」となる・ 本稿では, この状況をべン を見てみよう. チマークとする. この状況で LlFo それほどあ きらかなことではない. つぎの節で る と FIFO とによってそれぞれ 在庫品を評価したならば , Ⅲ 1) その期のキャッシュ・フローや 在庫主増減の 影 審 基準状況 ここでは,在庫の積み増し取り 崩しと 上ヒ駁 されるべンチマー ク (基準状況 ) を設定し そ のべンチマークのもとで ,財務会計上も税務会 計上も同一の 在庫品評価方法をもち い るものと して, FIFO と LIFO のそれぞれのキャッシ 期間利益は第 1 図のようになる. まず, LIFO によって在庫品を 評価した場合 には,期首と期末の在庫量が等しければ,たと えそれが「適正在庫水準」ではなくても ,在庫 品購入に要したキャッシュ・アウトフローがす べてその期の 費用となる. その結果,税金支払 額を除いたネット・キャッシュ・フロー (以下, ュ・フロ一の 年度間配分のあ りかたを整理する これを税引前ネット・キャッシュ・フロー 具体 りな考察にはいるまえに ,議論の焦点を 明 (IIr 二 NC), 税 別後利益と税引 後 ネット・キャッシュ・フロー とは等しくなる (IIT* 二 NCI,*). ここでは, h だけの実現保有利得が 年度利益から 当面は除 かれ,課税されないまま含み益として 将来に繰 り越されることになる. 他方, FIFO の場合には,過去の 期のキャッ 自 確にするため , この節でもちいる 二組の仮定を 示しておきたい. ひとつは,財務会計上の期間費用および期間 収益は, すべてその期の 現金資金 ( キャッシ ュ ) の収入,支出をともなうという 仮定であ る ぶ) と 税引前利益とは と呼 等しく 在庫品の売買はもちろん ,資本設備にかんする 期間費用も, その期にキャッシュ・アウトフ ローとして生じ ,かつ,その 額は毎期一定とす 配分され,当期のキャッシュ ,アウト プ ロ一の ただし期末の 手持ち在庫品にかかる 変 一部は, 翌期以降の費用として 配分される. た る 6), 、ンュ ・アウトフローから 優先古りに当期の 費用に 動的な保管費用は 在庫品の取得原価に 算入され, その期の利益計算からは 除かれるものとする. もうひとつは ,在庫量の増減にかんするもので あ る・ ごく短い期間を 一会計期間とし 在庫品 の購入は期首時点で 期末の需要量を 見積もって 一括的に行うものと 仮定する・他方,在庫品の 売却は期末時点でのみ 行われるものとする. こ のように一期間の 途中では在庫品の 売買がいっ さい行われないと 仮定することによって ,在庫 とえ期首と期末で 同一の在庫量を 保有していて も,在庫品購入価格の上昇の影響を ぅ けて,期 末の在庫品評価額は ,期末在庫に 生じた実現 保 有利得の分だけ 期首のそれよりも 大きくなる. その結果, FIFO の場合の税別前利益は LIFO に比べてその 保有利得の分だけ 大きくなる (n L 二 nF 十 h). 同様に,税別双利益は税引前キ ャッシュ・フローよりも 期末在庫の実現保有利 得 の 分 だけ大きいのであ る (IIF=NCF+h). 量 増減の影響は よ り明確になるはずであ る. な 課税所得の大小にかかわらず 税率 (,) が一定 お,在庫品の購入価格は継続的に 上昇している と仮定すると ,当然,税金支払額はその 実現保 有利得にかかる 分だけ LIFO よりも大きい (TPF 二 TP,+ h) 乃 在庫品口を FIFO で評価した場合, こうした期 間利益とキャッシュ・フローとの 関係は,税金 を支払った後にも 成立する.税別後利益は 税引 ものとする. 以上のことを 前提としたうえで ,前期から繰 り越された期首の 在庫量が「適正在庫水準」で あ ったとしてみよう , この「適正在庫水準」は , 税 負担を考慮しないで 決められているものとす 「 ・ 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 後 ネット・キャッシュ・フローよりも 実現保有 隆) (233) 19 基準状況と同一の 数値になる・つまり , これら 利得の分だけ 大きい (IIF,二 NCF*+h). 税別 の数値は在庫 量 増減の影響をまったくうけない 後利益と税引 後 ネット・キャッシュ・フロ 一に のであ ついて LIFO と FIFO とを比べてみると , い (IIF*=ni*+(1 NCF*=NCi, 一丁 h). 較して FIFO は , h だけの実現保有利得を 期間 一 「 これにたいして , ネット・キャッシ ュ・フローは , 積み増しの場合には 追加的な現 ずれも期末在庫の 実現保有利得に 課税される 分 だけ 違 いが生じる る・ 金支払 額 。 a) だけ減少し取り 崩しの場合に )h, は 現金節約 額 (m) だけ増加することになる. と比 このことは, 税別前であ っても税別後であ って ここでは, LIFO も同様であ る, ここでは, FIFO を用いた場合 利益に算入しそれに 課税される結果,税別後 には,在庫数量の増減は期間利益にまったく 反 利益を (1 映されないことを 確認しておこう. 一 「 )h だけ増加させ , ト・キャッシュ・フローを「 税別後ネッ h だけ減少させる 3) ことを確認しておけばよ い であ ろう. 2) 在庫量が増減した 場合の FIFO ノ ン ユ ・ に よ る在 による在庫品の 評価がキャ まず,在庫積み増しのケースを 見てみよう. 在庫の積み増しが 行われた場合,税別双キャッ フローや期間利益にあ たえる影響を 検 討しよう・その 際,前節の基準状況と ヒ校 する ため,前期から繰り越された 期首の在庫 量憶 「適正在庫水準」であ ったとして議論を 進める. 、ンュ 上 一般に,在庫量が増減するケースとしては なる代わりに ,期首の購入量 のうち過剰 分が, 積み増された 在庫品の評価額 (b) として翌期 (期 以降に繰り越される・その 首 ) の購入量がすべて 売却された後, さらに追 加的に在庫品を 購入したものとする 8,.つぎに, 在庫の取り崩しが 生じるケースについては ,期 首時点の購入量が 不足していたにもかかわらず 期末時点では「適正在庫水準」までの わなかったと 想定する・なお , 握されない ( その期の利益の , 補充を行 この積み増しと 取り崩しのいずれのケースにおいても 失 であ るストック・アウト・コストは しかし LIFO と FlFo とでは大きく 異なる. LIFO の 場合には,追加的に 購入した 分 (a) が費用と , まず,在庫の積み増しが 生じるケースとして ,期末時点で, 当期 の場合とかわりはない・ その積み増しが 期間利益にあ たえる影響は , るが,両者についても,前節の諸仮定と 同様 に 規定しておきた い , ・フローが追加的支出 分 (a) だけ減少す ることは FIFO 在庫の積み増しと 取り崩しとの 二つのケースが あ によ る 在庫品評価 LIFO で在庫品を評価すると ,在庫の積み増 し 取り崩しがあ った場合の諸数値は 第 3, 4 図のようになる. 庫品評価 つぎに,期首の在庫 量と 期末の在庫 量 とが異 なる場合に, FIFO 在庫量が増減した 場合の LIFO 結果,税別前利益は , 積み増された 在庫分の当期中に 生じた実現保有 利得 (a 一 b) だけ減少する・ 支払税額も , そ の 実現保有利得にかかる 分 (, (a 一 b)) だけ 減少することになる・ 以上のことから ,購入価 格が上昇している 局面では,追加的購入による 在庫の積み増しは 節税効果をもっていることが ,機会損 わかる. 会計上把 しかし こうした積み 増しによる節税額は , 同時に生じている 税引前利益の 減少額よりも 小 減少としては 現れ ない ) ことに注意しておこう. さい・ 上述したような 在庫の積み増し 取り崩しが あ った場合に在庫品を FIFO で評価すると ,基 それよりも ( 1 したがって,税別後利益は,基準状況の 一 「 ) (a 一 b) だけ圧縮されるこ とになる 91. これと同様に ,税別後キャッシ 準状況で検討した 諸数値は第 2 図のようになる ュ 積み増しと取り 崩しとのいずれの 場合にも,税 果 よりも追加的な 購入支出のマイナスの 影響の 別前利益,税金支払額 ,税別後利益の三つは, ほうが大きく ,基準状況に上 ヒ べて (l 一 T)a+ ・フロ一についても ,積み増しによる節税 効 20 (234) 横浜経営研究 第 4 号 (1991) 第 Ⅲ巻 rb だけ減少するのであ る.税別後 ネット・キ いう問題に十分に 答えることができない. ャッシュ・フロー と 税引 後 利益との関係を 見て では,企業の所有者が経営者であ る場合と,所 みると,当期に支出されたが 当期の費用となら なかった部分,すなわち,在庫の積み増しとし て次期以降に 繰り越された 額 (b) だけ,両者 の あ い だには差が生じることになる (nl,* Ⅰ ) 有者と経営者とが異なる場合とに 分けて,議論 二 NCi*(+)+b). うに行動する.持分証券の市場での評価を 議論 つぎに,在庫の取り崩しのケースを 検討しょ う・ このケースは ,すでに見た積み増しの ケ一 から除くとすれば ,在庫の保管から生じる正味 スと 対照的であ るので,重要なことだけをごく 簡単に述べておく.在庫品の購入価格が継続的 小 化する在庫量が ,経営者すなわち企業の所有 者にとっての 最適な在庫 量 であ る・ここでは , に上昇している 場合には,期首在庫が 取り崩さ 議論を簡単にするため , 税 負担を含めた 一期間 れると,税別前利益も税別後利益もともに 増加 する・それは ,取り崩された在庫 量 に生じてい た 実現保有利得 (m 一 n) が税別前利益に 算入 の 保管費用を最小化させる 在庫水準を考え ,そ れを「最適在庫 量 」と呼ぶことにする. ここで されるためであ る. その結果,税金支払額は増 加するが,購入不足を 在庫の取り崩しで 補った おけるその「最適在庫 量 」が,税金を考慮しな いで決定される「適正在庫水準」とどのように ため,税別後ネット・キャッシュ・フローは基 異なるのかということになる. 準 状況よりも増加することになる 二 NCT*(-)+(1 一 「 )m+Tn). を整理してみたい , 1) 企業の所有者が 経営者であ る場合 この場合,経営者は企業価値を最大化するよ キャッシュ・アウト プ ロ一の現在割引価値を 最 0 間 題は , (NCT*(-) この取り崩し ここ それぞれの在庫品評価方法のもとに まず, FIFO の場合には,前節の 考察から判 明するように ,「適正在庫水準」を 維持しても, の場合にも,先の積み増しの場合と 同様に,税 あ るいは在庫の 積み増しや取り 崩しを行っても , 別後 ネット・キャッシュ・フロー 後 利益 税金支払額はすべて 同額であ る. 税 負担の有無 とのあ いだには取り 崩された在庫品の 評価額だ は在庫量の決定に 影響をあ たえないのであ る. けの差が生じる (n ,* (-) 二 NC,* と 税引 (-) 一 n). したがって, FIFO を採用しているときの「最 を検討した・ここでの 検討課題は,そのキャッ 在庫を取り崩すのが 合理的な行動であ る. しか Ⅳ ュ ・フローをどのように 年度間に配分するのか 適在庫 量 」は,税金を考慮しない「適正在庫水 準」と等しい・ むろん,在庫に投下した資金の 機会費用を上回るだけの 保有利得が期待できる ことが期末になって 判明した場合には ,期首よ りも在庫を積み 増すであ ろう・ あ るいは,期末 時点で需要量の 減少が予測されるならば ,期首 在庫品評価方法が 在庫管理にあ たえる 影 T 前節では,在庫数量が 増減する状況にそくし ながら, FIFO と LIFO とはそれぞれキャッ 、ン -ンュ ・フロ一の配分のあ りかたの 違 いが在庫 管 し それらはいずれも , 期末時点での 予測の修 理 にどのような 違いをもたらすのかということ 正にもとづく「適正在庫水準」の であ そうした在庫管理活動を 考慮にじれても , る・ 第 2 節でも述べた よう に, これまでの 改訂であ る. 「適 「適正在庫水準」にかんする 議論では,税金が 正在庫水準」が「最適在庫 量 」でもあ ることに 在庫費用から 除かれていること ,および株主と かわりはない. 経営者との利害対立が 考慮されていないために , 他方, LIFO 「適正在庫水準」がはたして 株主にとって 最適 な在庫 量 であ るのか,あ るいは,経営者は「適 正在庫水準」を 維持するために 行動するのかと と「最適在庫 量 の場合には, 「適正在庫水準」 」 との関係はどうなるのであ ろ うか・そのことを 確かめるには , FIFO での「最適在庫 量 」 (二 のもと 「適正在庫水準」 ) と 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 (235)@2] 隆) LIFO を採用していれば ,購入価格が上昇を続 けているかぎり ,手持ち在庫量を増加させるこ とによって税金支払 額 そより減少させることが できる. その節税による 保管費用の減少の 程度 は ,実効税率,および 期末在庫の実現保有利得 を左右する在庫品購入価格の 上昇率と期末の 手 合 には,経営者が企業価値を最大化する 2 3 に 行動するという 保証はな い .経営者は自己の効 用を最大化するために 行動するのであ り,場合 によってはその 行動が企業価値の 減少をひき起 こし株主に損害をあ たえることもあ ろう・ 株 王 にとっての関心は ,経営者の行動をどのよう にして企業価値の 最大化に向かわせるかという 持ち在庫 量 , ことにあ る, 株王は , LIFO) のもとでのそれとを 比較しでみればよい これらの 3 つの要因に依存する 10,.購入価格の 上昇率と実効税率とを 与件と すると, LIFO の採用による 節税額は手持ちの 在庫数量に正上ヒ 倒 することになる , い ま, 税 負担を考慮しない「適正在庫水準」 よりも 1 その場合, 「適正在庫水準」のときょりも 税金 上昇するものの 害とを一致させるために , さまざまなインセン ティヴ・プランを 設定するであ ろう.すでに述 べたように, そのインセンティヴとしてしばし ば注目されているのは ,経営者報酬制度であ る 単位だけ在庫を 多く保有するとしょう を 考慮しない保管費用は 自分の利害と 経営者の利 ,節税 額がその上昇分を 上回るならば , 税 負担を含め た総保管費用は「適正在庫水準」のときよりも 減少するのであ る. LrFo のもとで保管費用を 最小化するという 前提では,税金コストを考慮 した「最適在庫 量 」は , 少なくとも「適正在庫 水準」よりも 小さくなることはない・ 単純化し ていうと,在庫投資額の増大にともなって 累進 的に逓増する 機会費用が節税によって 補われる ならば,「最適在庫 量 」は「適正在庫水準」よ りも大きくなるであ ろう,実際,FIF03 を採用 している企業よりも LlFo を採用している 企 業のほうが手持ち 在庫量が大きい 傾向にあ ると 指摘する研究調査もあ る 111. もちろん, ここで議論しているのは ,期首と 期末とで同一量を 保有する場合の 最適な在庫 量 であ る.前節であ きらかにしたよ う に, たんに 節税だけを目的として ,適正な在庫を超えて 追 本稿では,議論を単純 とするため,年度の 税 イ 引 徳利益に上 ヒ倒 した現金ボーナスが 経営者にあ たえられるという 報酬制度を仮設して ,経営者 の短期的な行動に 焦点をあ てることにするⅨ. そのような現金ボーナス 制度を設定しても , 経 冨 者は,株主にとっての「最適在庫量 」を維持 する積極的なインセンティヴをもっていない , その場合に,採用する在庫品評価方法があ らか じめ定められているならば ,経営者はどのよう な在庫管理を 行うのであ ろうか・ つまり, 最 適 在庫 量 」は維持されるのであ ろうか・ その在 庫管理によって ,株主の経済的な利害はどのよ うな影響をうけるのであ ろうか・ FIFOJ と 「 LIFO について, この 2 仮を検討するのがここ での課題であ る. まず, FIFO を採用している 場合には,利益 を目的として ,経営者が在庫の積み増しや 取り崩しを行うことはないであ ろう・ FIFO) の ヰ栗ィモ もとでは,期末の在庫数量を操作してみても , 期首在庫を積み 増すか取り崩すかということと 税別後利益は 変化しないのであ る・ この点では, 経営者が「最適在庫 量 」を維持することを 株主 は消極的ながらも 期待できる. ただし この場 合には,株主が公表財務諸表から 在庫管理のⅡ・大 は べ つの問題であ る. ともあ れ, ここでは, 選 呪 る モニターするのには 限界があ 択 する在庫品評価方法によって「最適在庫 庫の取り崩しや 積み増しが 生,じても, FIFO) 加 的に在庫投資をすることは , けっして企業価 値を高めない.維持すべき在庫量の大きさと , 量 」 が異なってくることを 確認、しておこう・ 2) 企業の所有者と 経営者とが異なる 場合 企業の所有者 (株主 ) と経営者とが 異なる 場 よ る・ もしも 在 に る在庫品評価額の 増減には在庫品数量の 変化 分 と購入価格の 変化 分 とが混在しているため , 公表財務諸表だけでは 在庫操作の存在を 把握で 22@ (236) 横浜経営研究 きない・株主が「最適在庫 量 」の維持を積極 第 Ⅲ巻 由 り 第 4 号 (1991) 場合とでは,利益を年度配分するための 在庫操 に望むのであ れば,公表財務諸表以外の手段に 作のあ りかたも異なるであ ろう.本稿ではさし よって在庫の 管理状況をモニターする 必要があ あ たり前者しか ろう. たとおりであ る. つぎに, LIFO 扱っていないのは ,すでに述べ の採用があ らかじめ定められ もうひとつは ,経営者報酬制度における報酬 ているならば ,経営者はどのような在庫管理を の 決めかたであ る.株主が報酬額の算定を工夫 行うのであ ろうか・前節でみた よ うに,価格上 昇下で LIFO を採用した場合, 税別後利益は することによって ,経営者の在庫管理行動をコ 在庫の積み増しによって 減少し取り崩しによっ たような在庫品評価方法の 特質は,ただちに, て 増加するのであ った・ その特質を利用して , それぞれの方法の 欠点を意味しているわけでは 経営者は,在庫操作を通じて受取報酬額を 自分 ない・制度上採用できる 評価方法があ らかじめ の期待する額に 近づけることができる. たとえ 定められており , ば,当期の報酬を増やすのであ れば,在庫のす べてを取り崩してしまえばよい. 当期と翌期の 報酬を平準化したいと 考えるのであ れば,在庫 の積み増しと 取り崩しとを ,適宜,使い 分けれ いのであ れば,私的な報酬契約のほうを 工夫す ることが株主にとっては 合理的な行動なのであ ばよい・ LIFO で在庫品を評価していると , そ ントロールすることもできょ る ぅ . これまで述べ それが短期的には 変更されな 13). ここまでは,税別後利益に単純比例してあ た えられる経営者報酬制度を 前提とし主として うした在庫操作によって 利益を年度間に 配分し 直すことができるのであ る. そのような在庫操作によって ,企業のキャッ 経営者の在庫操作へのインセンティヴを 、ンュ ・フローは変化し 報酬額を増減させることができるため 株主の経済的な 利害は 影響をうける.最適な一定在庫が維持されてい る場合に比べて ,在庫の積み増しはネット・ キ マッシュ・フローを 減少させ,企業価値も減少 FIFO た・ と LIFO LIFO とのそれぞれものもとにおける 検討し の場合には,在庫操作によって 受取 ,利益操 作の手段として 在庫量を操作する 可能性があ る ことが判明した・ 株主は,経営者が適切な在庫 管理をするようにコントロールするために ,報 させる・他方,在庫の取り崩しはその 期のネッ ト・キャッシュ・フローを 増加させる・ しかし その増加が株主にとって 持分価値の増加をもた らすかどうかは 疑わしい. 「最適在庫 量 」の取 酬支払という 成果分配のルールそのものを り崩しはストック・アウト・コストを 生じさせ, 将来に期待されるキャッシュ・フローを 減少 さ 選択された在庫品評価方法が 経営者の在庫操作 インセンティヴにあ たえる影響だけが 問題では せるであ ろう・短期的に 税引 後 利益を増大させ なく,そのことが株主の持分価値にどのような るための在庫操作は , 影響をあ たえるのかが 問題なのであ る. かえって企業価値を 下落 , 工夫 するであ ろう. そうしたコントロールにあ たっ て,追加的なコストが生じることなく 在庫操作 を 防止できれば ,株主の持分価値は減少しない させかれない・ 在庫の取り崩しも ,最適な水準 を下回れば,株主の利害を害することになる. もちろん,経営者がどの程度在庫を操作する 額の増減として 現れる・株主にとって , かは, つ ぎの二つぼ依存するであ ろう. ひとっ とはモニタリンバ・コストが は,経営者がどのような受取報酬の流列を 望む も 削減されることを のかという,経営者の報酬にたいする 選好であ 庫品評価額の 増減を報酬額の 算定に利用しても , る・黄肌報酬額の 短期 りな最大化を 目的にする 場合と, 長期的に最大化することを 目的にする 在庫操作によって 株主が負担しなければならな いコストをゼロにできる 保証はない. 残余損失 自 LIFO で在庫品を評価しているならば ,在庫 数量の増減は 必ず公表財務諸表上の 在庫品評価 FIFO このこ の場合 よ り 意味している. しかし在 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 (ResidualLoss)が存在するわけであ る 14,. 他 方,公表財務諸表以外の手段によって 在庫の管 (237)@ 23 隆) さしあ たり,準備作業としての意味をもってい る 理状況をモニターした 場合は, そのモニタリン グ・コストが FIFO と同じになり ,経営者に在 庫操作へのインセンティヴを 生じさせる FIFO のほうが,株主の持分価値を減少させる 可能性 は高 い ここには,局地的な成果分配ルールを ・ V 税法規定と株主の 利害 ( 一一方法の選択 前節までは, 税務会計で LIFO LIFO 操作しても解決されない 問題,すなわち会計 ルールをめぐる 重要な問題が 存在している. 在 場合には財務会計においても 庫 に固定在高が 存在しない場合にも LIFO べたように, わが国でも米国でも , 採用を認めている 会計ルールが , シー ・ の エイジェン コストを生じさせているのであ を選択する を選択す るものとして 議論を進めてきた. はじめにも 述 そうした選 択が税法によって 義務づけられているからであ る, この節とつぎの 節では,その税法規定の影 る 15) 一般に,在庫品の購入価格が上昇している 場 合, LIFO の選択による 節税メリットを 考え れば, FIFO よりも LIFO のほうが株主にとっ ては好ましい. しかし経営者の 在庫操作を防 ぐためのインセンティヴの 提供は,その節税メ 響について考える.在庫品の評価について , い Confor ㎞ ty Rule (以下では, たんに一致原則という ) は株主の わゆる確定決算主義ないし 経済的利害にどのような 影響をあ たえるのか, それが以下での 検討課題であ る. の場合よりも まず, この節では,経営者は在庫量の操作を しないものとして ,在庫品評価方法の選択だけ る, それどころ を考察対象とする.株主と経営者とのあ い だに の採用によって , かえって株主の 持 利害の対立があ る場合に,経営者はどの評価方 LTFO に節税 法を選択するのであ ろうか.議論の単純化のた リットを消失させかれない・ 必ずしも, LIFO の 採用が株主の 持分価値を FIFO 増加させるとはいえないのであ か, LIFO 1 ) 分価値は減少するかもしれない. 効果があ りながら,実際には, LTO ない企業もあ る・ を採用し その評価方法の 選択は,株主 め, ここでも前節と 同様に,税別後利益にリン ク した経営者報酬制度が 設定されているものと にとって不合理であ るとはいいきれないであ ろ しよう.その場合,前節で触れたように ,経営 う・経営者の 在庫操作が制限されないかぎり 者は受取報酬にたいする 株主はその節税メリットを , 十分に享受すること 自分の選時にしたがっ て,年度によって在庫品評価方法を 使い分ける であ ろう. たとえば,在庫品の購入価格が上昇 ができないこともあ るからであ る. 者の在庫管理を 株主がコントロールする 方法は しているならば ,税別後利益を増加させて報酬 を増やしたいときには FIFO) を選択すると 予測 できる.他方,株主にとっては ,税金コストを 異なってくる , 削減するように ,税別前利益をできるだけ小さ このように, どの在庫品評価方法を 採用する かによって,在庫管理のあ りかた, および経営 そうした違いは , それぞれの 評 仙方法のキャッシュ・フロ 一の配分のあ りかた くする FIFO の選択が望ましい. このように, の違いとともに ,株主と経営者との利害の不一 一致原則は,在庫品評価方法の選択にかんして , 致にも起因している.双節ではキャッシュ・フ 株主と経営者との 利害対立をいっそう 複雑なも ロ一の配分にかんする lJIFo のにしている. 式 的な比較を試みたが , と FIFO との形 この節では,前節の分 こうした利害対立は ,経営者報酬制度を工夫 析結果を具体 りな利害状況のなかで 捉え直した することによって , わけであ る. ここでの考察は ,具体りな利害状 できる. たとえば,在庫品の購入価格が上昇し ている局面では ,報酬額を算定する際に税引 後 自 自 況のなかで税法規定を 検討することにとって , あ る程度は緩和することが 24@ (238) 横浜経営研究 第 Ⅲ巻 利益に乗じる 係数を FIFO を選択した場合には 小さく LTFO を選択した場合には 大きくし 選択された評価方法に 応じて報酬額の 算定を変 タ 第 4 号 (1991) レスト・カバレッジ・ ワ シ オ の維持などを 社 経営者に特別ボーナスを 支払ってもよいであ ろ う・前述したように ,制度上は一致原則が 固定 債発行企業と 契約する.社債発行に 一定の制限 を課している 通情基準や債券の 格付けも, ここ では財務制限条項と 同様に考えてよい、 8). その ょう な財務制限条項は ,営業利益,経常 利益,税別後 利益など財務会計上の 多段階の利 化されているならば ,上ヒ較 的に柔軟な報酬契約 益にかんする 財務比率を規制することが 多 い . のほうを操作すればよいのであ る・実際に,在 庫品評価方法の 変更に際してそのように 報酬 契 もしも報告利益の 水準が低下して 契約に定めら れた規制に抵触することになれば,将来,企業 約 が変更されることは ,経営者報酬制度の存在 の 資金調達コストは 上昇したり,資金調達に 障 が在庫品評価方法の 選択にあ たえる影響を 調べ た実証研究でも 報告されている ,6). その ょう に報酬額の決めかたを 工夫すること を 通じて,株主は ,節税メリットがゼロになら ない限度で,節税のための在庫品評価方法を 選 択するようなインセンティヴを 経営者にあ たえ 害が生じて有利な 投資機会を逸する 可能性もあ る・あ るいは,本業における利益水準の低下を 設備資産の売却などによって 補わなければなら ないとすれば ,主観のれんの消失などの追加的 えればよい・ LIFO の選択を動機づけるように , ようとするであ ろう.そのようなインセンティ ヴの提供が必要であ ることは,経営者を株主の 利害に沿って 行動させるためのエイジェン "ノー " コストが生じることを 意味している. 経 営者報酬に影響をあ たえる財務会計上の 在庫品 評価方法と,課税所得計算におけるそれとを 独 正 に選択することができれば ,株主と経営者と の利害対立は 緩和され,株主が負担するコスト も減少するはずであ る・換言すれば ,そうした 在庫品評価方法の 自由な選択を 制限している 一 数原則はエイジェンシー・コストを 増大させ, 株主の持分価値をそれだけ 減少させているので あ る. これまで述べてきたような 経営者報酬制度の なコストが生じることもあ ろう・いずれにせよ , 財務制限条項に 違反しかれない 利益水準の低下 は,企業価値を減少させるのであ る, したがっ て,財務制限条項が設定されている 場合,株主 は ,名目上,報告利益をできるだけ 高めるよう な在庫品評価方法の 選択を望むであ ろう. しかしその一方で ,余分な税金コストを 削 減するためには ,課税所得を小さくする必要が あ る・在庫品の 購入価格が上昇しているときに は,課税所得の計算にあ たって LIFO を採用 すれば よ い・ ところが,その場合,一致原則に よって財務会計上も LIFO の採用が義務づけ られるため,節税目的による LIFO の採用は , 負債契約上 ア 問題となる財務会計上の 報告利益 の水準までも 低める・株主と 経営者との利害対 立をこの場合は 問わないとすれば ,株主は, ほか,利益情報が制度的な利害の 調整に利用さ FIFO を採用して財務制限条項違反を れている場面では ,その制度的な仕組みを通じ それとも LIFO て, どの在庫品評価方法を 選択するかが株主の 受するか, どちらかを選択しなければならない 利害に影響をあ たえることがあ る.報酬制度の 株主は,契約違反のコストと 税金コストとを 駁 して, コストを最小化する 在庫品評価方法を 選択するであ ろう. ほかに, これまでしばしば 取り上げられてきた のは,財務制限条項である 17).たとえば,社 免れるか, を採用して節税メリットを 享 上ヒ 債の発行に際して ,社債権者は,債務の償還リ スクが高まるのを 避けたり債券の 市場価値が下 この点について ,財務制限条項が在庫品評価 方法の選択にあ たえる影響を 調べたりくつかの 落するのを避けるために ,配当制限を課したり 研究のなかには ,興味深い実証結果を 示してい 一定水準の年度利益の 維持 や ,負債上 卒やイン るものがあ ヒ る・ それによると ,財務会計上で 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 LIFO を採用している 企業は , 他の企業に比べ (239)@25 隆) 題 なのであ る・ この問題をつきつめれば ,租税 て相対的に業績がよかったり ,財務体質が健全 であ ると報告されている 19). 財務会計上で LIFO を採用しないかぎり 税務上は LIFU を採 用できないから ,その実証結果は,業績が不振 政策としての 一致原則が,制度創設の建前と実 質とで異なった 意味をもっていることに 行き着 { 代替的な方法 ほんらい,租税政策上,複数の で 財務状況が悪化している 企業は税務会計上で のなかから,課税所得の計算に用いる 方法の選 LIFO を採用しない 傾向にあ ることを指摘して いるのであ る,負債契約に違反したときのコス トが非常に大きく ,財務制限条項を遵守するこ 択を企業に任せるのは ,企業自身の 自由意思を 尊重するということに 趣旨があ るといわれる. とくに, わが国では,確定決算主義の趣旨とし とが企業にとって 緊急の課題であ れば, たとえ て ,株主総会で確定されることを 通じてその自 税金を多く支払っても ,年度利益を 当面増加さ せる評価方法を 選択することは 十分に考えられ る・一致原則があ るために,配当財源や財務比 由意思がはじめて 確認できると 解説される. 申 告納税制度によって ,徴税コストのあ る部分が 当の企業に転嫁される 代償として,会計方法の 選択権 があ たえられているともいわれている 率に余裕がないかぎり , 節税を目的とした LIFO の採用は制限されてしまうのであ る. こうした一致原則による LIFO 採用の制限, は, じつは,非常に重要な問題を 含んでいる. 22', いずれにせよ ,そこでいわれている自由 財務制限条項が存在しそれに 違反した場合の コストが大きいとき ,好業績の企業は節税が可 在庫品評価方法の 選択に制限を 課した一致原則 が ,課税の公平性について疑問を生じさせ ,株 能であ るのにたいして 業績の悪い企業は 節税手 主にコストを 負担させている.全き 刊青軸に多様 段を利用できないことが 問題であ る・そこでは , な利害が結びついている 状況では,一致原則は , 実質的に,逆進的な課税がなされることになる. 自由な, もしくは, コストを生じさせない 選択、 もし税務会計と 負債契約に利用される 財務会 を許しているわけではないのであ は,画一的方法の強制と上 ヒ駁 したものであ る. しかしそうした 建前とは裏 腹 に,実質的には, 討 とで異なった 在庫品評価方法を 選択すること ができれば,企業業績の 良否にかかわらず ,等 しくすべての 企業に節税機会があ たえられるで たとえ実効税率が 課税所得とは 無関係 に 一定に定められていても ,財務制限条項が存 在する場合には ,一致原則が不公平な課税をも たらすわけであ る 20,. あ ろう・ 一般に,課税の公平性として ,水平的公平と る. むしろ,一致原則の実質的な意味は ,節税機 会の制限を通じて 税収を確保することや , 申告 納税制度の最大の 課題であ る課税所得捕捉率を 向上させること ,および財務会計のために整備, 体系化されている 取引記録を保存させて 税務調 査コストを削減することなどにあ るといってよ い. 実際に,米国で 1939 年にこの一致原則が 立 法化された際の 記録を詳細に 調べた研究では , 垂直的公平とが議論される.双者は ,等しい状 立法当事者は 税収確保を目的としていたとされ 況 にあ るひとびとは 等しく取り扱われるべきで る あ るという公平原則であ 財務会計上で 報告利益を増大させてあ Ⅱ大呪にあ り,後者は, 異なった るひとびとは 異なった取り 扱いをされ るべきであ るという公平原則であ る コ . ここ での公平性の 問題は,前者の水平的公平性にか , 3). 極端な言い方をすれば ,一致原則は, る種のメ リットを享受したければ ,税金コストを負担す ることを要求しているのであ る. もちろん, ここでの議論から , ただちに,一 かわる.逆進的課税そのものが 問題というより 致原則を廃止すべきだということにはならない も, むしろ,在庫品評価方法の選択にかんして 税法規定の評価は ,租税政策や産業政策などの 節税機会が不均等になることのほうが 重要な問 政治 りな要素も含めた 自 ぅ えで,総体的になされ 26@ (240) 横浜経営研究 第 4 号 (1991) 第 Ⅲ巻 なければならないからであ る. しかしそうし っては望ましいことになる. たト一 タか な評価は , 個々の問題の 検討結果を 経営者の在庫管理行動が議論から除かれていた・ ケース 2 のように評価方法を 選択しても,在庫 量の操作によって 株主の利害が 害されるのであ 積み重ねて得られるものであ 面でのコストとべネフィットを り, さまざまな側 考えなければな らない.財務会計における在庫品評価方法の 選 択という限定された 局面ではあ っても,具体 り な利害状況, とりわけ複数主体の 利害が絡み合 自 そこでは, しかし れば,それは株主にとって 望ましい選択肢では な い .すでに第4 節で見た よう に, ケース 1 で は経営者が在庫量を 操作する危険があ り,それ っている状況では 一致原則が意覚に 重要な問題 を防止するためのエ を生じさせているのであ る,前述のようなメリ 主の持分価値を 減少させたのであ った. したが ット を一致原則がもつことを 認めるとしても , って, ケース それが株主の 負担するコストと 比較してもなお 尊重されるものであ るのか,あるいは,そうし た租税政策目的の 達成手段として 一致原則は最 適 であ るのか,税法規定の評価はそうした 点ま かが検討されなければならないのであ 税所得の計算には 同じ在庫品評価方法を 用いて でも含めてなされなければならない. いるため,在庫量の増減にかかわらず ,税別後 2 イ ジェンシー・コストが 株 がそうした状況を 改善するか否 る. まず,第 3 節で取り上げた 会計諸数値につい て確かめてみよう. ケース 1 もケース 2 も,課 キャッシュ・フローは 等しい. それは,在庫の 2 の操 生め 株主 と庫 税 Ⅵ 積み増しによって 減少し取り崩しによって 増 加するのであ る.他方,税別前利益と 税引 後利 この節では,財務会計および税務会計で採用 する在庫品評価方法があ らかじめ定められてい 益 にかんしては ,ケース1 とケース 2 とではお おきく異なる. それを示したのが 第 5 図であ 第 3 節でみたように , ケース 1 る では, 税弓 l役利 る場合,その評価方法によって 経営者の在庫管 益は在庫の積み 増しによって 減少し取り崩し 理活動がどのような 影響をうけるか ,その結果, によって増加する. これにたいして , ケース 2 株主の持分価値はどのように 変化するかを 検討 では,積み増しは税引 後 利益を増加させ ,取り する.一致原則は,税務会計上で LIFO を採 崩しはそれを 減少させる,財務会計上は FIFO 用したときに 財務会計においても LIFO の採 用を義務づけるものであ る. この規定の影響を 確かめるためには , を 採用した状況 (以下,ケース 1 という それに違反して 税務会計上は LIFO 財務会計では FIFO LIFO そのとおり両方とも を採用した状況 ) と, を採用し (以下, を使っているため ,税別前利益は在庫増減の影 響をうけない ,積み増しによる税額の減少と 取 崩しによる税額の 増加だけが,税別後利益に 反映されることになる. り このように在庫の 増減に応じて 税引 後 利益が 変化するならば , ケース 2 では,経営者はどの ケース 2 という ) との二つ る上ヒ致 してみれば ょ ように在庫管理を 行 う のであ ろうか.経営者の い ・なお,ケース 2 にかんして,本稿では税 効 短期的な行動を 考えるにあ 果会計の適用は 考えないことにする. 税別後利益に 前節での考察から ,一致原則は在庫品評価方 法の選択にかんして 追加的なエ イ ジェンシー・ 者にあ たえられると コストを生じさせること ,および,節税機会を 企業間で不公平にする 可能性があ ることが判明 した・そのかぎりでは ,上記のケース 2 のよう に在庫品評価方法を 使い分けることが 株主にと たって,ここでも, 単純上 ヒ倒 した現金ボーナスが 想定しよう. 経営 受 敗報酬額を 増やしたいときには ,経営者は,在庫の 積み増 しを行うであ ろう.株主がそれに何も対処しな ければ,積み増しによって 投下資金の機会費用 が増大し しかも株主の 利害に反する 経営者の 在庫管理にたいして 余分なボーナスを 支払うこ 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 隆) (241 27 ナ とになり,株主は二重に損失を 被ることになる 存在しているため ,会計情報にはモニタ 一機能 かちん, 税務会計における LlFU の役割期待がおおきいのであ の採用は, る. 在庫品購入価格の 上昇局面では 節税メリットを もたらす・ ところが, その LIFO の採用が, 在庫操作に よ る税引 後 利益の操作を 可能にし 場合, ほんらい,株主にとって必要な情報は , かえって企業価値を 減少させかれないのであ れを生みだした 経営者の努力水準ないし 行動と る ?Al 株主と経営者とのあ いだに利害の 対立があ る 結果としての 業績指標そのものではなくて , そ 環境状態とにかんする 情報であ る. ケース 1 とはいえ, たんにケース 2 でも利益操作の 危 と ケース・ 2 のうちいずれが 株主にとって 望ましい 険性があ るというだけでは , その在庫品評価 方 のかという問題を , 法の使い分けに 問題があ るとはいえない , が経営者の在庫管理行動を 適切に伝達できるの 当然, どちらの会計情報システム 主が最終的に 負担するコストこそが 問題なので かという問題に 置き換えてみよう. 公表される 財務諸表から 在庫の管理状況を 知ることができ れば,株主が負担しなければならないモニタリ あ ング・ 株主は,在庫操作の 危険が減少する よう に成果 分配ルールを 工夫するであ ろう. そこでは,株 る・ そ う すると, いずれのケースが 株主にと コストは減少する. いずれのケースの 会 って望ましいかを 判断するためには ,在庫 や を抑制するように 経営者をコントロールしても なお株主が負、 担しなければならないコストを 検 討してみなければならない.株主は ,経営者の 計,情報がそのモニタリンバ・コストを 減少させ 行動をモニターするためのモニタリンバ・コス おける在庫品評価額の 増減から在庫数量の 増減 ヰ栗ィ ト, 適切な在庫管理をするように 経営者にあ た える追加 りなインセンティヴのコスト , 白 さらに, そのインセンティヴでは 抑制できずに 在庫操作 が行われた場合の 残余損失を負担しなければな るのか, これが問題になるわけであ 第 4 節で指摘したよ る・ に, 財務会計上で う LIFO) が採用されているならば ,貸借対照表に をあ る程度は知ることができる.米国では, らに. LIFO さ を採用しているときに 期首の在庫 う. このように議論を 限定するのは ,以下のふ 水準を取り崩した 場合,それが損益にあ たえる 影響額を開示することが 義務づけられている ". 他方, FIFO が採用されている 場合には, 貸借対照表における 在庫品評価額の 増減から在 庫数量の増減を 知ることはできない. もちろん, 税金支払額を 年度上 ヒ駁 してみても, その増減 か たつの理由による. ひとつは, インセンティヴ ら 在庫量が増減したか のコストと残余損失とは , もっぱら,株主と経 営者それぞれの 効用関数と, 企業会計の覚側で であ る.現在のところ, 在庫品の数量増減そのものについての 決められる報酬契約の 内容とのふたつに 依存し 務づけられてはいない. そうした開示制度の 現 ており, それらの厳密な 検討は本稿の 範囲を超 状を前提とするかぎり , えているからであ る. もうひとつは ,財務会計 であ れ,税務会計であ れ,利益情報の事後情報 庫の管理状況を 把握するコストがよけ い にかか としての役割の 原点は,年度利益が経営者ない し企業の業績指標とされることにあ るからであ かりに,経営者の在庫管理行動をモニターす る手段として ,株主が公表財務諸表以外の資料 る. や情報をもちいないならば らない. それらのコストのなかで ,本稿では,株主が 経営者の行動をモニターするコストに 着目しよ 本稿では,大規模公開会社にとっての 問題 否かを判断するのは 困難 わが国でも米国でも , 開示は義 ケース 2 のほうが,在 るといってよ い , , ケース 2 では,株 として,一致原則, もしくはわが 国でいう確定 決算主義を検討していることを 再確認、 しておき 主が最終的に 負担するコストはケース たい.株主と経営者とのあ いだには情報格差が なければ,在庫操作にぺ ナルティーを 課すこと 1 よりも 大きい. なぜなら,在庫の管理状況を把握でき 28 (242) 横浜経営研究 第Ⅲ巻 第 4 号 (1991) は 不可能であ り,成果分配ルールの工夫によっ の 規定は株主の 持分価値の減少を 未然に防出で て経営者の在庫操作を 抑制するのは 実行困難だ からであ る.経営者の在庫操作という 局面だけ い ると評価することもできるが ,一致原則が 株 主の利害にあ たえる影響は ,前節で検討したよ を考えると,財務会計と税務会計とで 在庫品評 うなマイナスの 面もあ れせて判断されなければ 価方法を使い 分けるケース ならない.税法の立法段階の設定趣旨が 検討さ 2 は,株主にとって 必ずしも好ましい 選択ではないと い え よう . そ うした評価方法の 選択を認めない 一致原則は, 上述したように ,株主が経営者の在庫管理行動 を モニターするコストの 削減に役立って レ ) ると 評価することができる 26). このことは, じつに興味深い 論点を示唆して いる. もともと,税収の確保ないし課税所得脱 漏の防止を希求する 課税当局と,節税を望む株 主とでは利害が 対立している. 前節での議論の 焦点は,その対立関係に向けられていた. とこ れなければならないのはもちろんのこと ,会計 実践において ,実際に特定のルールがどのよう な機能をはたしているかを 記述 りにあ きらかに することも重要な 作業であ る. そうした検討の 考察対象は,当然,法が 想定していない 場面に もお ょ ぶことになる.税法規定のそうした多角 的な分析にとって ,本稿の考察は第一歩となる 白 わけであ る. W ろが, ここでの分析では ,経営者行動のモニタ リングという 局面で,株主と課税当局との 利害 は一致するのであ る.一致原則が広く社会的に 受容され,株主にも合意されていると 見るので あ れば,その合意点 はこのモニタ 一機能に認め られよ う . だからこそ,前節で述べた よう に, 一致原則の実質的な 意味は課税所得脱漏の 防止 や税務調査コストの 節減にあ ると捉え直さなけ ればならないのであ る・ おわりに 本稿では, まず,在庫品評価方法の違いは税 金までを含めたキャッシュ・フロ 一の配分のあ りかたの違いにあ ると捉えて, FIFO における 「最適在庫 量 」と LIFO におけるそれとは 異な っていることをあ きらかにした.評価方法によ る キャッシュ・フロ 一の配分のあ りかたの相違 は ,株主と経営者とのあい だに利害の対立があ もちろん,そうしたモニタ一機能は一致原則 る場合には,経営者の 在庫管理活動をコント の法 りな目的ではなく ,法律上はあ くまでも, ロールする方法にも 影響をあ たえる. とくに この原則は租税立法政策の 産物でしかない. LIFO 自 と を採用しているときには , そのコント くに, わが国では,課税所得計算の商法決算 へ ロールが重要な 問題となり,経営者の在庫操作 の 依存関係の一環として 一致原則が定められて によって株主の 持分価値が減少する 可能性があ いる.法律学では, この一致原則は 商法の決算 ることを指摘した・ これらの分析は ,いずれも, 一致原則で定められた 評価方法の選択を 前提と 報告と税務申告とで 計算の二度手間を 省くため に設けられていると 解説されることもあ るⅢ. しかし二重の 計算コストを 負担するか否かは , 前節でも触れたように , それから得られるべネ フィットもふまえた 企業の判断に 任せられるべ きあ る・法律上,事前に企業の意思を 画一的に 想定することはおかしなことであ り,必ずしも , 立法段階から 経済的なコストが 十分に考慮され ていたとは思われない. ともあ れ,モニタ一機能の面からみると , こ したものであ った. つぎに,一致原則そのものを考察対象として 取り上げ, この規定が具体的な 利害状況のなか でどのような 役割をはたしているのか , とくに 株主の利害にあ たえる影響に 着目して検討した 財務会計と税務会計とで 異なった評価方法を 選 択することができなくなっているために ,在庫 品評価方法の 選択をめぐって 株主と経営者との あ い だに新たな対立をひき 起こすとともに , 節 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 (243) 29 隆) 報酬制度そのものに 議論の本質があ るわけでは ない.むろん,分析結果は分析でもち いた 仮定 税 機会を企業間で 不平等にすることも 指摘した その一方で,一致原則は財務会計と税務会計と で在庫品評価方法を 使い分けた場合に 生じるエ イジェンシー・コストを 削減することに 役立っ り,本稿とは異なった想定の もとでは,ここであきらかされたのとは 異なる に依存するのであ 結論が得られるかもしれない・ しかしそうした 限界があ っても,具体的な ているのであ った. 以上のように ,本稿の分析は,できるだけ具 体的な利害関係のなかで 在庫品評価方法の 意味 利害状況のなかで 利益情報の意味を 問い直すこ を捉え直そうとするものであ った・その検討に あ たって,利益情報の使われかたは 所与とせざ とは重要な作業であ る,そうした分析は,財務 会計における 利益計算ルールのみならず ,税法 るをえなかった.財務制限条項のようにその契 上の課税所得の 計算ルールを 検討する際にも 役 約内容が定型化されていたり 公開されているも に立つはずであ のはともかく ,それぞれの企業が内部で 自由に 義が存続するかぎり ,財務会計に結びつけられ た利害が課税所得の 計算にもフィードバックし 決めることができる 経営者報酬制度については , 分析上,仮定が必要となる・その 仮定は,あ までも,株主と経営者とのあ いだに利害対立が あ る場合の経営者の 行動を記述するなかで ,経 営者の主体的なインセンティヴを 明示 りに扱う ために利用されたにすぎない・ 本稿で想定した く 自 る.一致原則ないし確定決算主 ていくと考えられるからであ る・現行実務で 採 用 されている在庫品評価方法の 実態的な意味も そうした多様な 利害にあ たえる影響を 分析する ことによって ,はじめてあ きらかになるはずで あ る. 30 (244) 横浜経営研究 第 4 号 (1991) 第 Ⅲ巻 基 1 図C L S 朋党 S 額額 佃人 期当 /c IF I : NO 二 C 一 I 一 売上原価以外の 費用支出 ) 税別前ネット・キャッシュ・フロー (ただし C 二 在庫品の売却収入 税別前利益 : IIi 二 C 一 I=NC 税金支払 額 :TPi 二 , ni 二 , NC 税別後ネット・キャッシュ・フロー 税別後利益 : ILL*=(l 一 T)NC (ただし NQL* , 二 実効税率 二 (1 一 , )NC 「 )NC 一 ) FIFO) 在庫品 a/c 期首評価額 売上原価 S 当期購入額 0 二 I 一h I 期末評価額 税別前ネット・キャッシュ・フロー 税 別 前利益 : nF 二 C 一 I+h 二 NC+h S+h NC=C 一I =ni+h 税金支払 額 :TPF= Ⅰ (NC+h) =Tpi+ rh 税別後ネット・キャッシュ・フロー :NCF, 二 (1 一 二 NCL* 税 別後 利益 : nF* 二 二 1・丁 十h 在庫Ⅰの変動と FIFO による在庫品評価 在庫の積み増し Ⅱ 在庫の取り崩し 在庫品 a/c 期首評価額 S h (l 一 r) (NC 十 h) nL* 十 (I 一 r)h 二 NCF* 図2 「 一て h 在庫品 a/c 売上原価 期首評価額 0 当期購入額 当期購入額 Ⅰ I 一h I+a S 売上原価 0 二I 一h T 一m (aⅠ追加購入 分 ) 期末評価額 (m Ⅰ購入不足 分 ) S+h+a 期末評価額 S+h 一m 上記の各ケースの 諸数値は以下のようになる・なお , 0) 内の十は積み 増しのケースを ,一は 取り崩しのケースを 指し,無印は基準状況の該当数値を 指している (第 3, 4 図も同じ ) 税別前ネット・キャッシュ・フロー :NC(+)=NC 一 a, NC(-)=NC+m 税別前利益 : nF(+) 二 nr(-) 税金支払 額 :,「,pF(i¥=,TpF(-¥ ヰ克司 二 nF 二 TPF l役 ネット・キャッシュ・フロー 税目 @ 利益 : nF*(+) Ⅰ :NCF*(+) IIF*(-)二 nF* 二 NCF* 一 a,NCF*(-) 二 NCF* 十m 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 図3 隆) (245)@31 在庫の積み増しと LIFO による在庫品評価 在庫品 a/c S 期首評価額 期末評価額 S+b 当期購入額 売上原価 O 二a 十(I 一 b) I+a / 二 1 十 (み一 b) (ただし b は積み増された 在庫品の評価額であ り,購入価格の 上昇を仮定しているので a ノ b であ る.) ぬ5l 所ネット・ キ 税別前利益 n,(+)= フロー : NC (+) Nc 一 (a 一 b) =IIi 一 (a 一 b) TPL(+)= T nL( り 二 TPL 一 (a 一 b) 税金支払 額 シ 二 NC 一a 「 不党与 げ麦ネッ ト ・キャッシュ・フロー NQL*(+) (l 一 T) 。 NC 一 a) 一て b NCi* 一 {(l 一 r a+ bl 二 (1 一 ) tNC 一 (a 一 b)t 二 n,* 一 (1 一 )(a 一 b) 二 = 税 ライ菱木 l益 」 n,*(+) Ⅰ 「 「 「 =NCi*(+)+b 図4 在庫の取り崩しと FIFO による在庫品評価 在庫品 a/c 期首評価額 期末評価額 S 一n S 売上原価 当期購入額 0 I 一m 二 I一 m 十n 二 Ⅰ 一(m 一n Ⅰ (ただし n 取り崩された 在庫品の評価額であ り,購入価格の上昇を仮定しているので m ノ n であ る.) 上図からわかるように ,このケースにおける 諸数値は , 先の積み増しのケースの a を @m に, b を ト n) に換えたものに 等しくなる・ 税別前ネット・キャッシュ・フロー : NC(-)=NC+m 税別前利益 : n Ⅱ -) 二 NC+(m 一 n) =IIi+(m 一 n) 税金支払 額 TPL(-) 二 T n,(-) 二 TPi+ T (m 一 n 税別後ネット・キヤ ツーンュ ・フロー NC.*(-) 二 (1 一 )(NC+m)+ Tn 二 NCi, 十 l(1 一丁 )m+rnl 税別後利益 : n,*(-) 二 (1 一 ) {NC+(m 一 n)@ =IIl*+ (1 一 )(m 一 n) = NC,* (-) 一 n Ⅰ り 「 「 「 32@ (246) 図5 横浜経営研究 第Ⅲ巻 (1991) 第4 号 在庁品評価方法の 組み合わせの 相違による 形 Ⅰ ケース 1 : 財務 -LIFO, 2: 財務 -FIFO, 税務 -LIFO ケース 112 二 C I (C 一㏄ N 工む 在庫の積み増し nn 基準状況 税 別 前利益 税別後利益 税務 -LIFO n 一 I+h 、 * 二 (1 一 「 )(C 一 I)+h 二 NC++h ; 税引前利益 税 別後 利益 n,=C n 2(+) 一 一 (a 一 b) Ⅰ r) jC 一 I 一 (a 一 b)t 二 n,* 一 (1 一 )(a一 b) nl*(+) 二 C 一 I+ h 112*( )= (1一て )(C --I)+ h + Ⅰ (l 一 十 「 (a--b) =IIi*+r(a-b) Ⅰ =Nc*(+)+b =NC*(+)+h+a 在庫の取り崩し 税引前利益 税 別後 利益 nl(-) ニC n,*(-) n2(-)=C 一 十 h nz*(+)=(l 一 r)(C 一 I)十 h 一 r(m 一 n) =n2* 一 r(m 一 n) 二 NC*(-) 十 h 一 m 一 I 一 (m 一 n) Ⅰ 二 (l 一 r) @C 一 I 十 (m 一 n)t 二 nl* 十 (1 一丁 )(m 一 n) 二 NC*( ゴー n い 7) もちろん,法人所得に 累進的に課税される 場合に ヌ主 l) Reg. S1.472-2(e). これは,税務会計と財務会計 とで異なった 会計処理を認めている 米国税法にお いては例外的な 規定であ り,一般に,Confo 「㎡tyRule と呼ばれている・ 2) そこに,在庫品の需要にかんする 確率 や ,複数期 間を視野にいれたうえで 割引率などを 加味しても, 「適正在庫水準」を 決定する基本的なメカニズム にはたいした 変更はない. 「適正在庫水準」の 決 定については ,たとえば,Horngren, C.T.,Cost Accounting (5thed.).Prenlice-Hall, 1982 および Ho,n, J.C 。 ハれ㎝ cool, M 伽肱彩挽 ent a 何 Poaicy (7thed り , Prentice.Hall,1986 などをみよ・ Van 3) このストック ,アウト・コストには , 品切れのた めに客離れが 起きたり,企業の評判や名声を 落と すという無形資産の 消失コストなども 含まれる. 4) そうした実証研究については , さしあ たり, Watts R. L. and J. L. Z@merman, Acco ひnt 碗タ T ル oW,Prentice,Hall, を参照せよ. 5) たとえば, Abdel-khalik,R.A., "The LIFO-Switchine and Firm Ownership tive,s Pay," ノ 0 ひ揺 af o/ Acco ひ 竹脇ゅ Vol. 23, No. 2, 1985.:Hunt III,H.G., Determanants of Corporate Inventory ing Decisions,"ノ ouW0 Vol.23,No.2, Positive 1986 の Ch. l2 は, FlFo を採用したときの 税金支払 額と LIFO を採用したときのそれとの 差は よ り大きくなる. 議論を単純にするため ,以下では,税率は 一定と 仮定する. 8) この ょう なケースを想定するのは ,期首の在庫品 の購入価格とは 異なった価格で 在庫品が購入され ると仮定したほうが 議論が明確になるからであ る 経営者の意図的な 在庫操作を考察する 準備として は,本文のような 想定が以後の 検討に役立つはず であ る, 9) 実効税率Ⅰは 1 より 刀 へさいと考えてよい 10)@ Biddle , G C and@ K ・ ・ R ㏄ eorc ん , "Potential Account- f ヴ Accountinq 化 esearr ん , 1985 などをみよ・ 6) 企業は一定規模の 資本設備を賃借でまかない , そ の賃借料を現金で 支払っているものと 考えれば ょ ・ なるかがシミュレートされている・ 11) たとえば, Biddle, G. C., "Accounting Methods and Management Effects of on Execu- Martin , "Inflation, Taxes , and Optjmal Inventory Poljcjes," よ0W 刊 of o/ Acco ひんⅠ㎎ Research, VoI. 23, No. 1, 1985 では, 税率や物価上昇率などの 変化にたいして ,「最適 在庫 量 」が在庫品評価方法によってどのように 異 Decisions: The Case of InvenCosting and Inventory Policy," JOo脚光 oa of Acco ひれち脇 g Research, Vol. 18, Supplement, 1980.; Foss, M. F. Fromm, G., and I. Rottenberg, M ㏄ 勿ク色 比 6 ん が B ひ 切れess Ⅰ れひ ento れ れ es, Economjc Research Report 3, U.S. Department of Commerce, 1980 などをみよ. 12) 周知のように , こうした現金ボーナス 以タトにも, ストック・オプション や ,年度利益の一定割合を ボーナス・プールに 組み入れ, それを運用した 後 tory ち 在庫品の評価と 在庫管理 (大日方 (247)@33 隆) 油 精製元売り企業の 会計行動」『経済学研究』,東 に経営者に支払う 据 置型報酬制度などがあ る. そ れらの報酬制度の 採用にあ たっては,経営者をで 京大学経済学研究会,第 32 号, 1989 年をみ よ . きるだけ長く 企業にとどめながら ,経営者を長期 21) 課税の公平性については , さしあ たり,以下の文 的な企業価値の 最大化に向かわせることが 考えら 献を参照のこと・ 有弘光『財政理論』 有 斐閣, 1984 年,第4 争 金子 安 『租税法 (第二版 ) 』腔文 堂 , 1988 年,第一編第四章などをみ よ . 22) 確定決算主義にかんするそうした 解説については , れている 13) これらの点については ,大日方「報告利益と 業績 指標」田倉 計 第 135 巻,第3 号を参照されたい. 』 ]4) 残余損失の意義については , Jensen, M.C. and W.H. Meckhng, "Theory ofthe F 血Ⅱ Manageria Beha Ⅱ or, Agency Cost and Structure," ノ 0t4% ㎡ 0ダハ自㎝ c ぬ zEco れo 挽 ic$,Vol.3, N0.4, 1976 をみ よ・ 15) 詳しくは,大日方,前掲論文をみよ. 16) Abdel.khalik,A.Rr 前掲論文および Healy, P.M 。 Kang, S. and K. G. Palepu, "The Effect of Accounting P,ocedu,e Changes on CEO,s Cash Sala,y and Bonus Compensatio Ⅲ " JoM 朋㎡ 0ダ Accoz4% 脇タ 0%d fco れ o 笏 ics,Ap 血 , 19 打など・ 17) 詳しくは, Watts,R.L. andJ.L. Zimmerman. 前掲 書 (Ch. g) をみよ. なお, このほかにも ,利益 情報が公的な 料金規制や独占反トラスト 規制に利 用され,在庫品評価方法の 選択が企業の 政治的コ ストに影響をあ たえることも 指摘されているが , 本稿では取り 上げない. 18) わが国の企業が 発行する社債にかんする 制限につ いては。 たとえば,太田昭和監査法人偏『覚債発 行 マニュアル ] ぎょうせい, 1988 年,新日本証券 調査センタ一編『証券ハンドブ ソク /第 3 版Ⅱ 東洋経済新報社, 1989 年などをみよ・ 19) Hunl f 。 H.Gr 前掲論文をみよ・ 20) ここでの一致原則の 問題は,負債契約ばかりでな く, わが国での株式上場基準の 充足,安定配当や たとえば,以下の 文献をみよ,武田隆二『法人税 法情調』森山書店, 1990 年, 第 3 章 井 村利雄 『法人税法要・ 高ぬ』税務研究会出版局, 1990 年, 第 1 章浩牟田勲『新版法人税法詳説』中央経済社, 1990 年, 第 3. 23) この点にかんしては , Morton, P., "Legislat而e ℡ story of lhe 川 lowance of LrFo for TaX Pur, poses, " Acco ぴ n.t れ クガぜ5to ㎡は魅ノ0 Ⅲ別 ㎡, VoI. 16, No. l, June l989 が詳しい. 24j もちろん,一致原則が 在庫操作,すなわち 投資政 策にたいして 非中立的であ るといっているのでは ない. ここで在庫操作へのインセンティヴを 生じ させているのは ,財務会計上の利益にリンクした せ 経営者報酬制度にほかならない. 5)@ SECSto が AccountingBulletin ム 0 , Topic llF. 26) 税務会計上は FlFo を採用し財務会計では LTFO フ を採用するケースについては ,在庫品の購入価格 が 上昇している 局面では,通常,生じないであろ う・価格の下落局面でこのケースが 生じても,財 務会計で LIFO をもちかるかぎり ,一致原則に したがった場合と 同じ在庫変動情報が 得られるこ とになり, とくに本文に 追加すべき問題は 生じな Ⅴ | 27) この点については ,金子,双掲 書 ,および中里美 「企業課税における 課税所得算定の 法的構造 横並び配当の 維持などの場面でも 生じる. たとえ (1) ば,在庫品評価方法の 選択がそうした 企業の会計 巻第 1 号,第100 巻第 3 号,第100 巻第 5 号,第100 巻 第 7 号,第100 巻第 9 号をみ よ . 政策上重要な 役割をもった 例としで,大日方「石 」 一 「同ば・ 完 ) 」『法学協会雑誌』第 100 (おびなたたかし 横浜国立大学経官学部講 胴