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米国景気後退の特徴から投資環境を整理する

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米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
(要約)
米国発の金融危機は、景気後退とそれが再び金融市場の悪化をもたらす新たな局
面に入った。景気回復まで予想し得る経済・金融指標の動きを整理してみたい。
1)今般の後退は消費主導と資産価格下落を伴う点で長引かざるを得ない。08 年 7
∼9 月期より米国は 3 四半期連続でマイナス成長となり、09 年の成長率は 0∼
1%に止まる。直近過去2回の景気後退期間はいずれも8ヶ月であったが、今
回はこれより長引く前提で、各種金融指標の推移を考察するのが適当だろう。
2)かかる前提では、株価反騰は早くて半年から 1 年後。大恐慌や 87 年は暴落前
水準に戻ったのは半年から 1 年後であり、今回も似たような経路を辿っている。
3)景気後退の長期化で予想しうる企業収益減少と貸出厳格化によって、投機的等
級企業のデフォルト率は現在の 3%台から 8∼11%に上昇する可能性が高い。
4)流動性リスクが改善すれば、適格債のクレジットスプレッドはピークアウトす
るが、投機的等級のスプレッドはデフォルト率上昇により高止まろう。
5)他方、インフレ懸念の低下と実体経済の悪化を踏まえ、10 月の追加利下げで
FF レートは 1%に低下、景気後退長期化で今後 1 年間据え置かれるとみる。
6)名目 GDP 比 1.7%の公的資本投入に加え、実体経済悪化で 1∼2%規模の財政政
策が実施される可能性が高まっている。財政支出による潜在的な金利上昇圧力
は 40∼50bp であるが、急速に進むインフレリスクの低下が財政赤字拡大リス
クを凌駕し、長期金利は景気回復が展望できるまで 4%以下を推移しよう。
1.過去暴落後の予想し得る株価推移-大恐慌と 87 年のケースから
株価の下落が止まらない。9 末以降わずか4週間足らずで、株価はダウ平均で
19.9%、日経平均で 32.6%も下落してしまった。このような大規模な株価下落と比
較しうるのは、1929 年の世界大恐慌と 1987 年のブラックマンデーしかないが、今
回の株下落の日次推移は、当時の株価推移と驚くほど良く似ている(次頁図1)
。
過去2つの大暴落(大恐慌と 87 年)後の株価推移の特徴を整理すれば、暴落後
3 ヶ月間は暴落時の水準から殆ど回復しない、半年後に半分ほど回復、一旦もとに
1
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
図1 大恐慌と 87 年と比較した今回の日米株価推移
図2 FRB による金融機関向け信用供与
(%) FRB による直接の信用供与は大恐慌時を超える
暴落後の株価推移は概ね似通った推移
(%)
0
TOPIX
SP500
今回推移
-5
2.5
大恐慌
(実線:SP500、点線:TOPIX)
2.0
87 年ブラックマンデー後
-10
景気後退期
FRB金融機関向け信用供与/名目GDP比
1.5
-15
-20
1.0
-25
0.5
大恐慌暴落後の推移
-30
(横軸:暴落後営業日数)
-35
5
10
15
20
25
30
35
40
45
0.0
1925年
1950年
2000年 08年
1975年
(注)図 1 は株価暴落直前の水準を基準に、その後の株価推移を暴落前比%でみた営業日ベース推移比較
(資料) 図1・2とも FRB、Bloomberg より住友信託銀行調査部作成
戻るのは半年から 1 年後、というものとなる。加えて大恐慌では、更なる実体経済
の悪化により 1 年目以降に2番底に向かっていった(表 1)
。
今回の株価下落は、1)短期金融市場での流動性枯渇、2)金融機関の自己資本不足
と信用創造機能(貸出やクレジット投資)の低下、3)実体経済のリセッション、が
複合しているのが大きな特徴となっている。このうち、銀行間のドル短期資金の流
動性不足に対しては、連邦準備制度理事会(FRB)による金融機関向けの信用供与
や公的資本注入の決定により改善の兆しが出てきた(後掲図 10 参照)
。FRB によ
る金融機関向け信用供与の GDP 比率は、今回の株価暴落前の 9 末時点でも 2,900
億ドルと名目 GDP 比の 2%を超え、大恐慌も含めて最大規模である。金融機関の
自己資本不足についても、11 月 14 日までに主要 9 行に総額 2,500 億ドル(名目
GDP 比 1.7%)の資本が優先株の形で公的資金により注入される予定である(表 2)
。
表1 大恐慌と87年ブラックマンデー暴落後の株価推移(SP500指数ベース、暴落前水準比%)
暴落日
大恐慌
1929年10/28
ブラックマンデー 1987年10/19
前週末比
3ヶ月間最大
-12.9
-32.4
-20.5
-20.8
3ヶ月後
-14.0
-14.0
半年後
-4.7
-7.1
1年後
-35.1
-2.0
表2 金融機関のバランスシート強化のための方策と規模
流動性供給
資産価値下落防止
自己資本強化
合計
銀行間取引債務保証、ドル供給、
ターム物入札ファシリティー他
Troubled Asset Recovery
Plan(TARP)による資産買取
TARP用いた優先株による主
要9行への資本注入
GDP比 32.8%
40,000億㌦
4,500億㌦
(資料)Bloomberg,FRB他より住友信託銀行調査部作成
2
当初1,250億㌦(2,500億㌦) 約47,000億㌦
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
こうして、複合要因のうちの2つに対しては、政策対応が概ね出揃い、徐々に効
果が期待できるところまで改善してきた。しかしながら、金融危機が一旦回避され
てもなお株価の下落が止まらないのは、この間の実体経済の悪化が予想以上のピッ
チであり、それが再び金融市場の悪化をもたらす新たな局面に入ってしまったため
である。そこで、今回の景気後退の予想される経路について考察してみたい。
2.消費主導による景気後退の推移
今般の米国経済悪化の特徴を一言で言えば、消費主導の景気後退に入ってしまっ
たことにある。既に金融機関の貸出態度は厳格化しているが、こうしたクレジット
クランチの影響が、企業部門よりも家計部門に厳しく波及していくことが予想され
ている。企業部門は、2001 年の IT バブルの後、設備投資を手控えてきたこともあ
って、財務内容は家計に比べ相対的に健全であった。対して家計部門は、住宅価格
の下落と株価下落が一度に生じたために、純資産(=資産−負債)所得倍率は今般
の株価下落前の 6 末時点でも 5.1 倍とピークの 5.8 倍から大幅に低下、家計バラン
スシートの健全性は、7 年前の景気後退直後の水準にまで落ち込んでいる(図4)
。
加えて、歴史的には高水準のガソリン価格、雇用悪化、住宅価格下落、株価下落
と挙げられる限り全てのマイナス要因が一度に生じてしまっている。この結果、9
月前月比マイナス1.2%まで下落した小売売上高など月次指標から概算すると7∼9
月期の GDP ベースの家計消費は前期比年率 2%超のマイナスになった模様である。
米国経済に占める消費の割合は 7 割に上るために消費主導の景気後退は、深く長
引かざるを得ない。大恐慌除く 12 回の景気後退の期間と消費伸び率を比較すると、
表3 大恐慌以降の景気後退期間と消費成長率
図3 家計のバランスシートの推移
前回後退直後まで悪化
純資産/可処分所得
.6
(倍)
景気後退開始年
6.4
1929
1937
1945
1948
1953
1957
1960
1969
1973
1980
1981
1990
2001
43
13
8
11
10
8
10
11
16
6
16
8
8
-7.33
-3.45
-1.12
-0.52
-0.68
-0.95
2.33
0.17
-0.50
-0.23
-1.94
-0.17
0.75
-4.86
-1.61
6.18
2.76
2.03
0.79
2.06
2.32
-0.76
-0.27
1.41
0.17
2.54
平均(除く大恐慌)
消費2%未満ケース
10
11
-0.53
-1.21
1.47
-0.05
6.0
倍率(右軸)
5.6
.4
5.2
.2
.0
4.8
4.4
純資産/可処分所得倍率変化
(左軸)
-.2
88
景気後退
GDP成長率 消費成長率
月数
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08
(資料) 図3、表3とも FRB、NBER、Bloomberg より住友信託銀行調査部作成
3
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
図4 消費大幅減速後の米国消費と GDP 成長経路の推計結果
0.5
(消費前期比年率推移)
(%)
0.4
0.0
(GDP 前期比年率推移)
(%)
0.0
-0.5
-0.4
-1.0
初期(1四半期目)の消費 2%
-1.5
超マイナス後の消費経路
-0.8
初期(1四半期目)の消費 2%超
マイナス後の GDP 成長経路
-1.2
-2.0
-1.6
-2.5
-2.0
-3.0
1
2
3
4
5
6
1
8
7
5
4
3
2
6
7
8
(横軸:四半期後)
(横軸:四半期後)
(資料) 1980 年以降の四半期消費、GDP データを用いた 2 変量自己回帰モデルによるシミュレーション
シャドウ部分は1標準誤差の範囲を示す。 住友信託銀行調査部作成
消費伸び率が 2%を割り込み、あるいはマイナスとなった景気後退期の平均値は
11 ヶ月と全体平均 10 ヶ月よりも長引く傾向にある(前頁表2)
。そして予想しう
る 7∼9 月期の 2%超のマイナス消費成長は、過去の米国の四半期成長パターンで
もまれにしか生じない規模の大きなショックとなっている。
ところで、時系列手法を用いると、こうした大規模なショックが生じたあとの米
国経済成長経路は、かなりの確度で予測することができる。上の2枚の図は、2%
超のマイナス消費が生じた後の消費成長率と GDP 成長率の推移を四半期ベースで
シミュレーションした結果を示している(図 4)
。右側の GDP 成長率の推移に注目
すると、マイナス成長が最大となるのは、消費マイナスショックが生じて2四半期
後であり、その後数四半期にわたってマイナス成長が続くことが読み取れる。
この結果を今回の景気後退局面に当てはめれば、7∼9 月期に生じた消費のマイ
ナスは翌期 10∼12 月期の成長率を最大に落ち込ませ、その後 09 年に入ってから
もマイナス成長から直ちには抜け出せないことを示している。株価下落が止まらな
いひとつの要因は、こうした予想し得る大規模な成長率の低下を織り込んでいるか
らに他ならない。
表4 7∼9月期に急速に悪化した所得・消費関連指標
08年1∼3月
失業率(%)
非農雇用増減(月平均万人)
可処分所得(前期比%)
実質個人消費(前期比年率%)
小売売上高(前期比%)
同自動車除き
4∼6月
4.9
-8.2
1.5
0.9
0.2
0.9
5.3
-7.1
3.9
1.2
0.9
2.5
(資料)米国商務省「Survey of Current Business」他
4
7月
8月
5.7
-6.7
-0.8
-5.8
-0.6
0.1
9月
6.1
-7.3
-0.9
0.0
-0.4
-0.9
6.1
-15.9
n.a
n.a
-1.2
-0.6
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
3.企業デフォルト率とクレジットスプレッドの推移
企業部門はこれまで、家計と比べて財務内容が健全であった。端的に示している
のが、企業収益/GDP 比率の推移である。米国企業セクター全体の名目 GDP に占
める収益規模は、08 年 4∼6 月期で 10.7%(非金融企業では 5.0%)と過去2回後
退期のほぼ倍の水準にある(図5)
。
これが、2007 年秋以降の金融危機にもかかわらず、米国企業のうち投機的等級
デフォルト率(破綻企業数/投機的等級社債発行企業数)を低く押さえてきた大き
な要因となっていた。既に銀行の貸出態度は、過去の景気後退期と同等に厳格化し
てきており、本来であれば、貸出し厳格化に伴いデフォルト率は 10%を超えても
おかしくない環境であるのにもかかわらず、実際のデフォルト率は 9 月時点でも
3%台に止まっている(図6)
。
しかしながら、消費の大幅マイナスに伴う景気後退の長期化は、今後企業収益を
さらに圧迫していくことが予想される。過去の投機的等級デフォルト率の推移を、
貸出厳格化の程度と企業収益/名目 GDP 比の2つの要因で最も良く説明する回帰
式によれば、現在の金融環境(貸出厳格化)と収益環境から計算されるモデル値は
7%と計算される(次頁図7)
。貸出厳格化が現状のまま推移するなかで、景気後退
によって企業収益の減益が続くと名目 GDP 比でみた財務環境は現状より 3%ポイ
ント(11%→過去景気後退時 7∼8%)まで悪化する可能性が高い。この場合、デ
フォルトモデル値は現行の7%より上に 3∼4%上昇していくことになる。
なお、デフォルト率水準はこうしたモデル値推移より遅れて生じる傾向にあった
が、今回は信用危機と流動性危機を伴っているため、通常よりも早いピッチで到達
するリスクが高いとみておくべきだろう。
図5 米国企業セクターの収益規模
図6 商工業向け貸出厳格化とデフォルト率
名目 GDP 比では高水準
60
12
企業収益/GDP 比率
10
過去は貸出厳格化に伴いデフォルト上昇 (%)
12
(%)
11
(%、右軸)
実線:投機的等級
点線
デフォルト率(%右軸)
貸出厳格化
40
10
(左軸)
8
10
8
9
6
20
6
8
4
2
4
0
7
2
同非金融企業(%、左軸)
-20
0
0
88
90
92
94
96
98
00
02
04
06
88
08
90
92
94
(資料) 図5・6とも FRB、米国商務省、Moody s 他より住友信託銀行調査部作成
5
96
98
00
02
04
06
08
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
図7 投機的等級デフォルト率のモデル値と実績
図8 クレジットスプレッドとデフォルト率
(%) 12
太線:デフォルト率実績値
(縦軸:BB 格スプレッド bp)
800
(予想経路)
10
700
8
細線:モデル値
6
2008 年
600
4
4
2
500
0
2
400
-2
0
300
-2
200
実績値-モデル値
(横軸:デフォルト率%)
-4
100
90
92
94
96
98
00
02
04
06
08
0
2
4
6
8
10
12
14
(資料) 図7・8とも FRB、米国商務省、Moody s 他より住友信託銀行調査部作成
なお、こうした景気後退の長期化に伴う 8∼10%前後のデフォルト率を前提にす
ると、企業の信用度を測る指標でもあるクレジットスプレッド(社債レート−10
年債レート)の今後の推移も大まかに予想し得る。
投機的等級に相当する BB 格企業のクレジットスプレッドは 733bp(10/22 時点)
と過去最大水準にまで拡大しているが、これは、過去のデフォルト率とクレジット
スプレッドの明確な相関からは説明し得ない水準にある。しかしながら、今回の金
融危機は、ドルの短期金融市場での流動性の枯渇を伴っているために、資金が企業
に回らないための突然死のリスクも織り込まれていると考えるべきだろう。流動性
リスクを示す TED スプレッド(3 ヶ月 Libor レート−3 ヶ月財務省証券レート)
は過去の景気後退期よりも 200∼300bp 高く、こうした流動性リスクプレミアムが
デフォルトリスクに上乗せされている。
従って、クレジットスプレッドは、金融危機の沈静化に伴う TED スプレッドの
縮小と、景気後退長期化によるデフォルト率の上昇が組み合わさって、図 8 点線矢
印が示す経路を辿っていくと予想できよう。
4.米国長期金利の推移
最後に、景気後退の長期化を踏まえた 10 年債レートの推移を考察してみたい。
株価暴落後2週間の 10 年債レートは、質への逃避から国債が買われ金利が低下す
るこれまでの株価下落時に観察されるパターンではなく、むしろ金利は上昇、暴落
直後の 3.4%から一時 4%を上回るという通常とは全く異なる動きを示した。
6
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
こうした株価暴落後の金利上昇については、1)流動性危機で債券市場からも資
金が一時的に引揚げられた、2)政策対応に伴う財政赤字拡大が嫌気された、との
複数の解釈成り立つが、今回は短期的な動きなので前者の可能性が高いだろう。
但し、今回一時的に生じた金利上昇幅約 50∼60bp は今後の金利推移の変動幅を
考察する上でも参考になる。今後の金利推移に影響を及ぼす要因を整理すると次の
ようにまとめられる。
(金融政策の予想と 10 年債レート)
10 年債レートは将来の FF レートとの相関が極めて高いために、1 年先までの
FF レート水準は長期金利の水準判断に決定的に重要となる。例えば、1年先の FF
レートが 2.0%に戻る前提では、10 年債レートは 3.5∼4.0%となる(図9)
。
足許の実体経済の悪化スピードと予想し得る景気後退の長さを踏まえると、FF
レート誘導目標は、10 月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、現行の 1.5%から
1.0%引き下げられ、09 年中は据え置かれ、利上げに転じるのは早くて 2009 年末
という予想に引き下げた。かかる前提では、この先半年は 4%を下回って推移する
可能性が高い。
(インフレ・財政赤字拡大リスクと 10 年債レート)
世界的な景気鈍化と原油価格の下落によって、足許のインフレリスクは急速に沈
静化している。例えば、一時前月比 3%台(年率 30%以上)であった米国輸入物価
指数は、
7 月前月比 1.4%→8 月同▲2.6%→9 月同▲3.0%と下落幅が拡大している。
これに伴い、市場の 10 年期待インフレ率は 7 月の 2.6%台から、10 月は 1%まで
急落した。財政赤字拡大による金利上昇リスクはどう判断すべきだろうか。
図9 FF1 年先物レートと 10 年債レート
図 10 TED スプレッドと長短スプレッド
(bp)
500
500
5.5
(縦軸:10 年債レート%)
TED スプレッド
(LIBOR-TB3 ヶ月物)
400
5.0
300
直近の
4.5
金利上昇
400
300
棒グラフ:10 年債-2年債レート
200
200
100
100
4.0
3.5
3.0
1
2
3
4
0
0
(横軸:FF1 年先物レート%)
2007M01
5
(資料) 図 9・10 とも FRB、Bloomberg 他より住友信託銀行調査部作成
7
2007M07
2008M01
2008M07
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
これまで、資本注入が概ね決まっている公的資金 2,500 億ドルは名目 GDP 比で
は 1.7%の規模である。これに、年末から年明けにかけて実施が予想される GDP
比 1∼2%規模の追加財政支出(一時的減税など)を加えると、短期的な追加財政
支出の名目 GDP 比は 4∼5%前後となろう。過去の財政赤字拡大と金利水準の研究
によれば、名目 GDP1%の赤字拡大の金利押し上げ効果は平均して 10bp と試算さ
れているため、単純な計算では、40∼50bp の上昇要因が働くことになる。この 40
∼50bp という数字は、先の債券市場での大幅なショック(ヘッジファンド等の債
券売りによる流動性確保)で生じた金利上昇幅とも概ね一致する。
但し、100bp 規模のインフレ率やインフレリスクの低下と比較すれば、その規模
においては、インフレリスクの低下が財政赤字拡大上昇による金利上昇リスクを凌
駕していると言えるだろう。従って、景気回復が展望できるまでは、長期金利の上
昇リスクは低いと考えてよいのではないだろうか。ちょうど一時的なショックでの
変動幅 50bp を加えた図 9 の点線を上限として、将来の FF レート水準との関係で
予測していくのが適当であると考えられる。
5.米国経済金融市場の予測総括
以上の分析を総括して、最新の米国経済金融指標の予測を作成した。そのポイン
トは概略以下のようにまとめられよう。
○ 米国経済は、消費の大幅減速を背景に 7∼9 月期以降3四半期連続でマイナス成
長となる。この結果、暦年成長率は 08 年ゼロ成長(前年比−0.1%)
、09 年も 1%
未満の低成長(0.6%)に止まる。
○ 景気後退の長期化により、
失業率は2009 年半ばには7%を超える可能性が高い。
賃金鈍化・インフレ懸念低下もあり、1%までの利下げが予想される FF レート
はこの先 1 年据え置かれ、利上げは早くて 09 年末と予想する。
○ 流動性リスクは、各種政策発動、資本注入の効果もあり改善しつつある(TED
スプレッドは 10 月上旬の 450bp より 250bp まで改善、前頁図 10)
。但し、期
越えとなる年末までは 250bp 前後を推移する。ショック前の 100∼150bp にま
で改善するにはさらに半年程度かかるとみる。
○ かかる環境のもと、低金利政策の長期化で長短スプレッド(10 年債−2 年債レ
ート)は 200bp 前後の水準が続き、金融機関の償却原資に寄与しよう。
8
住友信託銀行 調査月報 2008 年 11 月号
経済の動き∼米国景気後退の特徴から投資環境を整理する
○ こうした、低金利政策に加え、早ければ年末から年明けにかけた追加財政政策
の発動により、底なしの景気後退は何とか回避され、09 年後半よりゆっくりと
回復に向かう。この時期の回復要因は、それまでの低金利政策に短期流動性危
機によるリスクプレミアムの改善により、金利低下の影響が徐々に現れてくる
ためである。
○ 但し、消費主導の景気後退は長引く傾向にあり、こうした循環的な要因に頼っ
た回復シナリオのリスクはダウンサイドにある。自律的回復力が最も脆弱なこ
の先半年間、企業破綻の増加による負の連鎖を回避できるか正念場が続こう。
表5 米国経済金融予測総括表
年次 2006
実質GDP(前期比年率%)
2.9
G
D
P
2007
10∼
7∼9
12
2008
1∼3
4∼6
2010
2009
7∼9
10∼
12
1∼3
4∼6
7∼9
10∼
12
1∼3
4.8
-0.2
0.9
2.8
-0.5
-2.0
-0.8
0.8
1.2
1.5
2.1
個人消費
3.1
2.0
1.0
0.9
1.2
-2.3
-2.7
0.5
1.2
1.5
2.2
2.7
非住宅投資
6.6
8.7
3.4
2.4
2.5
-7.5 -10.3
-3.0
2.5
3.5
5.0
5.0
-4.6 -20.6 -27.0 -25.0 -13.3 -16.7 -15.0
住宅投資
-12.0
-5.5
-2.3
0.5
5.0
輸出
8.4
23.0
4.4
5.1
12.3
5.0
2.8
2.5
3.5
4.0
4.5
5.0
輸入
5.9
3.0
-2.3
-0.8
-7.3
-3.0
-8.0
-4.5
2.5
5.1
5.5
6.0
6.1
6.3
2.3
3.5
4.1
2.5
0.5
1.3
2.8
3.4
3.8
5.5
2.5
2.2
2.3
2.4
2.4
2.5
2.3
2.2
2.1
2.0
2.0
2.1
2.2
1.9
2.1
2.2
2.3
2.5
2.1
2.0
1.9
2.0
2.0
2.0
4.6
4.7
5.0
5.1
5.5
6.1
6.5
6.7
7.0
7.3
7.4
6.7
5.25
5.00
4.25
2.25
2.00
2.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.25
1.75
4.82
3.97
3.05
1.62
2.77
2.00
1.50
1.65
1.75
2.00
2.25
2.50
4.70
4.59
4.02
3.41
3.85
3.82
3.50
3.70
3.90
4.10
4.30
4.50
7.08
8.02
8.30
9.08
8.57 10.11 10.98
6.35
6.59
6.56
6.90
6.91
8.75
9.28
8.95
8.75
8.50
8.00
7.50
-12
62
97
179
108
182
200
205
215
210
205
200
BB格スプレッド(bp) (c-b)
238
343
428
567
472
629
748
680
660
640
570
550
Baaスプレッド(bp) (d-b)
165
200
254
349
306
493
578
525
485
440
370
300
名目GDP(前期比年率%)
CPIコア(前年比)
物
価 PCEコア(前年比)
等
失業率 (%)
FFレート
2年債レート (a)
金 10年債レート (b)
利
BB格社債(c)
末 Moody's Baa社債(d)
値
% 長短スプレッド(bp) (b-a)
10.50 10.50 10.50 10.00 10.00
予測
(資料)住友信託銀行調査部予測(10/24時点)
(木村:[email protected] )
※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を
目的としたものではありません。
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