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電力自由化と再エネと節電所 - 総合政策学部・総合政策研究科

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電力自由化と再エネと節電所 - 総合政策学部・総合政策研究科
「電力自由化と再エネと節電所」レジュメ
朴勝俊(関西学院大学総合政策学部) 2016/12
問題
(1) 再生エネ固定価格買取制度のせいで電力市場価格は上がるか? yes / no
(2) 電力自由化によって原発はなくなるか? yes / no / どちらとも言えない
(3) 発電会社への CO2 排出枠初期配分を、有償配分(オークション)ではなく
無償配分(グランドファザリング)にすると、電力市場価格は上がらないのか? yes / no
(4) 電力自由化で電気料金は下がるか?
yes / no / どちらとも言えない
■ 日本でも電力小売全面自由化! (小売とは? 全面とは?)
・2000 年から部分自由化。2011/3/11 を契機に、原発だけでなく、電気事業を巡る議論が活発化。
・2016 年春から電力小売全面自由化。誰もが電力小売会社を選べるように(ガス自由化は 2017 年)
・2020 年頃、発送電分離を目指している。
■ 発送電分離とは何か?
・発送電分離: 垂直統合された電力会社の、発電部門と送配電部門を切り離すこと。送電会社の差別を防ぐ。
会計分離、法的分離、運用分離、所有権分離の順に厳格になってゆく。
※法的分離は送電部門が子会社でもよい。運用分離は別会社に送電部門の運営を任せる。
所有権分離は送電会社を子会社にすること(株を持つこと)も許されない。
・小売市場: 電力消費者(家庭など)が小売会社を選び、電気を買い、お金を支払う。
・卸売市場:多種多様な発電所を持つ多数の発電会社が、電力を小売会社に販売する。
主に、電力取引所で価格と取引量が決定されるが、相対(あいたい)取引もある
・消費者は小売事業者を選ぶことで、電源を選ぶことができる。
・2016/8/31 までに電力会社を切り替えた件数は、全国で約 168 万件(約 2.68%)
■ 電力自由化で原発はなくなるのか?
・原発は燃料費が安いので「限界費用」が安い。「原発1基を1日止めると数億円の損」。
・原発は新しく建設して、万全な危険防止策をとればコスト高。事故リスクを含めればさらに高い。
・建設費も確実に回収できる地域独占と総括原価方式はなくなってゆく。
→こたえ: 原発への新規投資(新規建設、大幅な改修工事)は阻まれるが、既存の原発は運転を続ける。
・イギリス: 新規建設を進めるため、新規原発の電気に対して固定価格買取制度
(正しくは差額決済制度 FIT-CFD: Contract for Difference)を導入(富士通総研・高橋洋氏 2014 年 10 月)。
新規原発: 15.7 円/kWh、35 年間保証、陸上風力: 15.3 円/kWh、15 年間保証
大規模太陽光発電: 17 円/kWh、15 年間保証 (2013 年 10 月合意時点、1ポンド=170 円換算)
※参考: ドイツの脱原発と電力自由化
1998 年に成立したシュレーダー政権(社民党・緑の党政権)は 2000 年に電力業界と合意し、2020 年ごろの脱原発を目指す法整
備を完了した。しかし、2005 年に首相となったメルケル首相(保守党・社民党政権)は、2009 年の選挙勝利後(保守党・自民党政
権)、既存の原発を維持したい電力業界の意向を受けて、脱原発を 2030 年以降に延期する(原発寿命を 12 年程度延長させる)法
律を 2010 年秋に成立させた。 福島事故でメルケル首相が政策転換を強いられるのは、わずか半年後のことであった。
1
■ 再生可能エネルギー
・太陽から地球に毎年降り注ぐエネルギーは、人類が毎年消費しているエネルギーの______倍!
太陽定数(地球大気表面に届く太陽エネルギーの密度)は約 1.37kW/㎡、これに地球の断面積約 1.27×1014 ㎡を乗じれば全体で約 1.74×
1014kW となる。年間 8760 時間(24×360)を乗じると 1.52×1018 kWh である(A)。2012 年に人類が消費した一次エネルギー総量は、IEA によれ
ば約 13371[石油換算百万トン]であり、キロワット時に換算すると約 1.56×1014 kWh となる(B)。A÷B はおよそ****である。これらは国立天文
台編(2010)および EDMC(2015)に記された数値を用いて計算した。
・日本にも膨大なポテンシャル。 風力=洋上 19 億 kW、陸上 3 億kW (環境省資料、2011.3)
単位:万kW(原子力 3900[福島第 1・第 2 を除く]、地熱 1400、中小水力 1400、太陽光 15000)。
・2011 年 8 月、日本でも「再生可能エネルギー特別措置法」が成立。2012 年 7 月施行。
固定価格買取制度(Feed-in Tariff、FIT): 太陽光・風力・バイオマスなどで発電された電気を、
電力会社に対して、政府が定めた価格で無制限に買い取ることを義務づける制度。
買い取りのためにかかったコストは電力消費者が薄く広く負担する(賦課金)。
★これまで太陽光発電の普及には大きな効果が見られる(経産省 HP) ※太陽光以外の普及には課題も。
住宅用 325 万 kW、非住宅用 1684 万 kW (H.27、5 月時点)
・再生エネルギーは不安定? スペインなど欧州では再生可能エネルギーは「ベースロード電源」になっている。
電力の需要と供給は電力市場と国際電力取引、揚水発電所で調整している。
・固定価格買取制度の本家はドイツ。2000 年に再生可能エネルギー法の導入。
2015 年の発電量の 30%が再生エネで、すでに原発より多い。雇用は 38 万人(原子力は約3万人)
※既存電気権力の抵抗はいまも強い。映画「エネルギーシフトを生きる」を YouTube で見よう!
■ 再生可能エネルギーと電力自由化の関係は?
(1) 再生エネ固定価格買取制度のせいで電力市場価格は上がるか? yes / no
・電力卸売市場(電力取引所)では、電力価格と取引量が「メリットオーダー方式」で決定される。
merit order とは、もともと「価値の順」、「値段の安い順」ぐらいの意味。供給曲線が導出される。
・直物市場(スポット市場、前日市場)で、24 時間について、1 時間毎のせりが行われる。
「明日の 3 時~4 時の 1 時間についてせりを行います。発電会社・小売会社の皆さん、集まって!」
・小売会社の買い入札
・希望価格(最大限支払ってもよい価格)と、
希望購入電力量を入札する。
2
・発電会社の売り入札
・希望価格(最低限受け取りたい価格=限界費用)と希望
販売電力量を入札する。
※固定費用(発電所建設費等)に関わる部分については、発電会社は入札価格に含めない。
その理由は、(1)固定費用を含めて高値で入札すると、他の発電会社にせり負けてしまう、(2)限界費用よりほん
の少しでも高い価格で落札できれば利益(生産者余剰)が得られ、それを固定費の回収にあて、赤字を減らすこ
とが可能である、(3)そもそも、過去の建設費等のサンクコストは経営判断に影響しない。
参考:電力の固定費用と可変費用について
金額レベルの費用(単位: 億円)
単価レベルの費用(単位: 円/kWh)
総費用:建設費、人件費、燃料費等全て含む
平均総費用:総費用を発電量で割ったもの
固定費用:発電量と関係なく決まる費用。
平均固定費用:1kWh あたりの固定費用。
建設費(原価償却費)、人件費、金利支払い等
可変費用:発電量に応じて決まる費用≒燃料費
平均可変費用:1kWh あたりの可変費用(燃料費)
限界費用:発電量を 1kWh 追加するための費用(燃料費)
外部費用:電力会社(および電力消費者)が
平均外部費用:1kWh あたりの外部費用
直接負担しない費用、社会的なリスクや補助金等
・需要曲線と供給曲線が交わるところで、その時間帯の
価格と発電量が決定される。
・価格は、需要を満たす最後の 1 単位の電力の限界費用
によって決まる(系統限界価格、SMP)
・全ての発電会社と小売会社は、契約を守らなければ
ならない。発電と引き取りは義務となる。
・3 時から 4 時のせりが終わったら、次の時間帯のせりを
おこなう(イメージ。実際は 24 時間分一斉に入力)。
3
・メリットオーダー効果(Merit Order Effect)
・ドイツの電力市場価格が低下したのは、再生可能エネルギー供給量が増えたおかげである
(3) 発電会社への CO2 排出枠初期配分を、有償配分(オークション)ではなく
無償配分(グランドファザリング)にすると、電力市場価格は上がらないのか? yes / no
・火力発電に対する排出枠取引は、無償配分でも有償配分でも同じように電力取引所価格を引き上げる。
従って EU では、オークション方式に変えている。
4
■ ネガワットと節電所
(ヘニッケ 1996/2001)
・英語の Negawatt(エイモリー・ロビンズ氏)から、ドイツ語の Das Einsparkraftwerke(ペーター・ヘニッケ氏)
・例えば、消費電力 200W の冷蔵庫を、同じ性能で 100W の冷蔵庫に買い替えると、100W の「節電所」を建設し
たことになる。この 100W の節電所を 1000 万世帯が導入すると 100 万 kW の巨大節電所となる。
・冷蔵庫だけではない: テレビ、エアコン、洗濯機等も。環境省「しんきゅうさん HP」を参照
・省エネのポテンシャルを「なめたらあかん」。それは、「我慢の省エネだけではない!」
・IEA(国際エネルギー機関)にとっても「省エネ」が温暖化対策の本命。IEA World Energy Outlook 2009 では原
子力+再生エネより規模が大きいと予測されている。
・ドイツのエネルギー政策目標(Energiekonzept 2010)
■ ハードエネルギー・パスからソフトエネルギー・パスへ (エイモリー・ロビンズ 1977)
・ハードエネルギー・パス: 今後も経済成長に伴って増加するエネルギー需要を、化石燃料と原子力で満たす
・ソフトエネルギー・パス: 転換・最終消費段階で浪費されているエネルギーは多い。効率化と「ソフト技術」を。
中温・低温熱需要を石油や原子力で満たすのは 「バターを切るのに電気鋸を利用するようなものである」。
・はずれ続けた日本の「総合エネルギー調査会見通し」、ドイツ国内でも「予測」は外れ続けた。
今後もエネルギー需要が増えるという「予測」を当ててはならない。
5
Cullen & Allwood (2010)
・ケンブリッジ大学の Cullen と Alwood によれば、
現在の人類のエネルギー有効利用率はわずか 11%。
現在も技術的な効率改善の余地はたくさんある
(右表。大阪府市 2013、p.140)。技術分野により半分、
3 分の 2、4 分の 3、9 割以上の消費効率改善が可能。
・ファクター4:効率 4 倍で「豊かさを 2 倍に、資源消費
を半分に」 (ワイツゼッカー/ロビンズ 1995)
事例:標高 3000 メートルなのに暖かい RMI 研究所
(室内に熱帯植物があり、イグアナがいる)
・「電球」は節電所の象徴。 白熱電球→電球型蛍光灯
→LED 電球
・日本エネルギー経済研究所:日本中の白熱灯や蛍光灯を LED に換えると年間電力消費量の約 9%
(原発 13 基分)の節約となる(毎日新聞 2011/6/27)。
・エコプランふくいの市民共同節電所ファンド: 商店街の照明を LED に替えた!!
市民共同発電所(太陽光発電)よりも安く「発電量」も多い(1 号機は年間 6 万 kWh、2 号機は 1.9 万 kWh)。
同じ発電量のためには、太陽光発電なら約 60kW、130kW(設置費 3000 万円、6500 万円)が必要となるはず。
ボランティアや寄付ではなく、出資者には元本と利益が戻ってくる!
■ 節電所のいろいろ
・節電所とは: (1)家庭・企業の省エネ、(2)ESCO 事業、(3)需要管理(DSM、サクラメント市電力公社 SMUD)、
(4)需要応答、(5)電力市場、(6)スマートグリッド(韓国・済州島の例)
・SMUD の DSM: 原発閉鎖が契機、1992~2000 年。省エネ家電普及、エアコン遠隔操作、断熱、緑のエアコン、
太陽熱・太陽光 (長谷川 2011)
・難解なカタカナ語・ヨコモジ語は避けよう: ネガワット、スマートグリッド、デマンドレスポンス、ESCO、DSM・・・??
■ 節電所の本命!需要応答(デマンドレスポンス)とは何か
・需要応答(Demand Response):
元々の意味は「需要量」が「価格」によって変化すること。
・二つの意味: (1)大口むけ。(2)小口・家庭むけ。
・大口の需要応答: 需給調整契約→需要応答資源→電力卸売市場のリアルタイム化を
........
・需給逼迫時に大口の工場やビルが対価を受け取って機器の停止・休業を行う
・需要家が相対取引(先渡し取引)で前もって購入していた電力を、リアルタイム市場で売り戻す
6
※米国には、原発 50 基分(約 50GW)の節電所が存在。
※電力市場こそが最善の節電所: 卸売市場と小売市場。
価格調整される場合
価格[円/kWh]
価格調整でピーク時も停電が防止される(→右図)
Smax
需要曲線
・小口・家庭の需要応答: 時間帯別料金やピーク料金。スマートメータ
P3
ーが必要。米国で社会実験多数(依田ほか 2012)。国内では、NTT ファ
P2
シリティーズの EnneVision など
P1
供給曲線
停電
しない
需要量
[万kWh]
P0
※スマートメーターの電磁波問題?
・小売市場の完全自由化の意味: 様々な小売会社(供給会社)の競争。
0
D0
D 1 D2 D3
フラットプラン、時間帯別プラン、リアルタイムプラン
100%再生可能エネルギープランなどを顧客が選べる(スウェーデン)
小売会社が「省エネサービス」を売ることも可能(英国は義務)
・需要応答を IT で自由化=スマートグリッド:
韓国・済州島。IT 技術を駆使して、安い時間帯に自動で電気を使用。
■ 電力を選ぼう
・映画「シェーナウの想い」: ドイツ南部シェーナウ村(人口 2500 人)。チェルノブイリ事故を契機に立ち上がった
パパ・ママが、地域独占電力会社から送電線を買い取り、エコ電力 100%の電力会社を作った(田口 2012)。
電力自由化の波にのり、現在はドイツ全土に顧客があり、ノルウェーの水力発電所から電気を輸入している。
7
<参考文献>
網代太郎(2016)『スマートメーターの何が問題か』緑風出版
エネルギー・環境会議(2011)『コスト等検証委員会報告書』2011 年 12 月 19 日
エネルギー・環境会議(2012)『エネルギー・環境に関する選択肢(3 つの選択肢)』2012 年 6 月 29 日
大阪府市(2013)『大阪府市エネルギー戦略の提言』大阪府市エネルギー戦略会議、冨山房インターナショナル
海外電力調査会編(2016)『世界の電気料金を比べてみたら』日本電気協会新聞部
関電システムソリューションズ編(2016)『うちの会社電気売るんだってよ』日本電気協会新聞部
環境省(2011)「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」2011 年 3 月
高橋洋(2011)『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』日本経済新聞出版社
田口理穂(2012)『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』大月書店
新澤秀則・森俊介編著(2015)『エネルギー転換をどう進めるか』岩波書店
朴勝俊(2015)『脱原発のための節電所[改定版]』 e-みらいブックレット
長谷川公一(2011)『脱原子力社会へ』、岩波新書
フラウンホーファー太陽エネルギー研究所(2015)『Q&A ドイツにおける太陽光発電の真実 2015』(翻訳、朴勝俊、加志村拓、津田
啓生、山崎一郎)NGO e-みらい構想[web より検索・入手可]
ヘニッケ/ザイフリート(1996/2001)『ネガワット 発想の転換から生まれる次世代エネルギー』省エネルギーセンター
諸富徹編著(2015)『電力システム改革と再生可能エネルギー』日本評論社
依田高典ほか(2012)「4 地域社会実証の現状と課題」経済産業省次世代エネルギー・社会システム協議会
エイモリー・ロビンズ(1977)『ソフト・エネルギー・パス』時事通信社
ワイツゼッカー/ロビンズ/ロビンズ(1995/1998)『ファクター4 豊かさを 2 倍に資源消費を半分に』省エネルギーセンター
<参考 HP>
コンシューマーネットジャパン HP 「教えて!電力改革」シリーズ。
都のアジェンダ21フォーラム(http://ma21f.sblo.jp/)
映画『エネルギーシフトを生きる(Leben mit der Energiewende)』もごらんください。Youtube で見られます。
前半 http://www.youtube.com/watch?v=YukMcIbNXnM 後半 http://www.youtube.com/watch?v=Wdp32O7YuSQ
映画『シェーナウの思い』もネットで。
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